説明

強磁性網体

【課題】ネットコンベヤのベルト、又は分離・分級用のふるいとして用いることができ、かつ強磁性、耐疲労性に優れるとともにアルカリ液に対する耐食性を高めた強磁性網体を提供する。
【解決手段】質量%で、C≦0.03%、Si:3.0〜5.0%、Mn:1.5〜3.0%、Ni:8.2〜12.0%、Cr:15.0以上20.0%未満、及びMo:1.0を超え3.0%以下、Cu:1.0〜3.0%、Nb:0.1〜0.5%の少なくとも1種を含み、残部Fe及び不可避不純物からなり、かつ軸方向断面において、幅10μm 以下の微細な繊維状又は粒状のフェライトが単位面積当たり55〜85%の面積率で点在するフェライト相と、オーステナイト相とを具える2相ステンレス鋼線材を用いて金網状体に形成されネットコンベヤのベルトとして用いる強磁性網体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品および医薬品等の加工過程において、加熱、冷却、冷凍、洗浄等の際の搬送用のネットコンベヤのベルトとして、又は粉状体の分離・分級用のふるいとして用いることができ、かつ強磁性、耐疲労性に優れるとともにアルカリ液に対する耐食性を高めた強磁性網体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、食品、医薬品の業界では粉末材料の分級や選別、異物分離などの為のふるい、ないし種々の被処理品を搬送し、かつ連続的に加熱、冷却、冷凍、洗浄などの処理を行う為の自動ライン装置の部材としてネットコンベヤー用のベルトなどとして金属線材の網体が利用されている。
【0003】
これら分離、分級用のふるい用の金網、又はネットコンベヤー用のベルトは、被処理粉体の性状、特性、あるいは処理方法などに応じて使用材料、織り構成が選択され、例えば前者のふるい用の金網としては、所望の目開きを持つよう例えば金属線を平織り乃至綾織りしたもの、また後者のベルトとしては、所定の金属線や帯材を螺旋状乃至クランク形状に曲げ加工した成形品の複数を連続的に繋ぎ合わせ構成した金属製の網体が用いられている。
【0004】
これら網体はその目的に応じて、その構成や形態は異なるものではあるが、処理操作に伴って発生する衝撃や微振動による疲労破断、被処理品との摩耗や耐食性などの観点から、通常は高強度で耐食性に優れたSUS304,SUS316等のステンレス鋼線材が用いられおり、今日の一般的な網体用材料として定着している。
【0005】
しかしながら、今日の社会環境は製品の品質に対する絶対的な保証が必要とされ、処理済品、特に例えば医薬品や食品などの分野では、その一部が欠落して該処理済品(製品)中にまぎれ込むことは直接人命に係る問題となることから、より高品質かつ長寿命の網部材が求められている。
【0006】
このような問題を解決する方策として、万一、その一部が脱落して処理品中に混入しても、次工程での磁選機によって検出し、乃至吸着除去するため、例えばふるい用の金網を構成する線材に磁性材料を用いることが提案されている(例えば特許文献1)。この特許文献1では、C:0.01〜0.05%,Si:0.1〜1.5%,Mn:0.3〜1.0%,Ni:3〜8%,Cr:20〜30%,Mo:1.0〜6.0%、残り:Fe及び不可避不純物を含有する高耐食性ステンレス鋼線を用いている。
【0007】
また、ふるい用の磁性金網として、Ni:5〜8%,Cr:15〜20%を含み、C≦0.03%,Si:2.0〜5.0%とする低C高Si系の、オーステナイト相とフェライト相との2相組識を有する2相ステンレス鋼線を用いたふるい分け用の磁性金網も、例えば特許文献2により提案されている。
【0008】
さらに、ネットコンベヤ用のベルトを対象として、例えば特許文献3は、次のA),B)の2種類のステンレス鋼線を提案している。
A)Ni:2.5〜8%、Cr:18〜30%,Mo:3.5%以下、N:0〜0.2%を含み、且つCu,Ti,Nbの1又は2種以上を合計で0〜1%含有する2相ステンレス鋼。
B)Cr:17%以上、Mo:0〜3%,C:0.02%以下、N≦0.02%,C+N≦0.05%を含み、且つCu,Ti,Nbの1又は2種以上を合計で0〜1%含有するフェライト系ステンレス鋼。
【0009】
【特許文献1】:特開平10−130788号
【特許文献2】:特開2004−332109号
【特許文献3】:特開2002−120919号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、これらふるい用の磁性網体を製造する際は、作業性と網目品質の均一化を図る観点から、例えば固溶化熱処理を施した軟質線材が用いられ、その強度が十分でないことから、繰返し使用に伴う網目の変化、更には疲労破壊などによる寿命低下の面で更なる特性の改善が望まれている。
【0011】
なお、前記提案において、オーステナイト相とフェライト相との2相組識を有する2相ステンレス鋼を用いるものは、例えば食品の加熱処理工程で使用する場合は、その表面に強度の焦げ目や熱腐食を伴うことから、これを除去する為に通常は水酸化ナトリウム溶液での洗浄処理が行われるが、例えば引用文献2が提案する通常の2相ステンレス鋼線は該アルカリ溶液に対する耐食性に劣ることから、その使用範囲が制限されるという問題がある。
【0012】
本発明は、ネットコンベヤー用のベルト、又は分離・分級用のふるいであって、その疲労、摩耗に対する抵抗力を向上し、交換するまでの寿命を長くし、さらに破損時の破片が被処理物に混入するときにも金属検出器などを用いて容易に検知、回収でき、かつ水酸化ナトリウムに対する耐食性を向上させ常に効果的な洗浄を行えるネットコンベヤー用のベルト、又は分離・分級用のふるいとして用いる強磁性網体の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、請求項1に係る発明は、質量%で、C≦0.03%、Si:3.0〜5.0%、Mn:1.5〜3.0%、Ni:8.2〜12.0%、Cr:15.0以上20.0%未満、及びMo:1.0を超え3.0%以下、Cu:1.0〜3.0%、Nb:0.1〜0.5%の少なくとも1種を含み、残部Fe及び不可避不純物からなり、
かつ軸方向断面において、幅10μm 以下の微細な繊維状又は粒状のフェライトが単位面積当たり55〜85%の面積率で点在するフェライト相と、オーステナイト相とを具える2相ステンレス鋼線材を用いて金網状体に形成されネットコンベヤのベルトとして用いる強磁性網体である。
【0014】
さらに、請求項2に係わる発明は、2相ステンレス鋼線材が、引張強さ1200〜1600MPa,伸び2〜10%であり、かつ前記金網状体が、前記2相ステンレス鋼線材を、螺旋状又はクランク状に曲げ成形した成形体を連続的に繋ぎ合わせることにより形成されたことを特徴とする。
【0015】
また、請求項3に係る発明は、質量%で、C≦0.03%、Si:3.0〜5.0%、Mn:1.5〜3.0%、Ni:8.2〜12.0%、Cr:15.0以上20.0%未満、及びMo:1.0を超え3.0%以下、Cu:1.0〜3.0%、Nb:0.1〜0.5%の少なくとも1種を含み、残部Fe及び不可避不純物からなり、
かつ軸方向断面において、幅10μm 以下の微細な繊維状又は粒状のフェライトが単位面積当たり55〜85%の面積率で点在するフェライト相と、オーステナイト相とを具える2相ステンレス鋼線材を用いて金網状体に形成されて被分離物、被分級物を分離、分級する分離・分級装置のふるいとして用いる強磁性網体である。
【0016】
請求項4に係わる発明は、2相ステンレス鋼線材が、引張強さ900〜1300MPa,伸び15〜35%であり、かつ前記金網状体が、前記2相ステンレス鋼線材を、縦線と横線とに用いて製織されたことを特徴とし、さらに請求項5に係わる発明は、前記ステンレス鋼線材が、次式(A):25.0〜28.5%、(B):30.0〜35.0%に調整される。
(A)=Ni+0.65Cr+0.98Mo+1.05Mn+0.35Si+12.6C(B)=Cr+Ni+3.3Mo
【発明の効果】
【0017】
本発明のネットコンベヤ用のベルトとして用いる強磁性網体は、耐疲労性、耐摩耗性、耐食性に優れ、かつ強磁性であって、水酸化ナトリウムに対する耐食性も良好となる。又本発明に係るふるいとして用いる強磁性網体も、耐疲労性、耐摩耗性、耐食性に優れ、かつ強磁性であって、水酸化ナトリウムに対する耐食性も良好であり、いずれも食品や医薬品の処理プロセスで長寿命が得られ、また水酸化ナトリウムによる洗浄にも耐え、さらに破損により線材が脱落しても強磁性を有しているので金属検出器で検出でき、かつ磁石によって効率よく回収することを可能とする。又請求項2,請求項4の構成とすることにより、ネットコンベヤ用のベルトとして、又はふるいとして用いる2相ステンレス鋼線材としての強さ、剛さをその織成に適したものとし、請求項5のようにニッケル当量(A)を25.0〜28.5%することにより、母材中のオーステナイトの加工誘起マルテンサイトへの変態を抑えながら、所定のフェライト量を具えることとなる。又、耐食性についての指数(B)を30.0〜35.0%に調整する。これにより線材の耐食性、 特にアルカリ性環境における耐食性の向上に役立つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る強磁性網体1は、例えば図1に示すような、ネットコンベヤ用のベルト1Aの強磁性網体1として、又は図2に示す分離・分級用のふるい1Bの強磁性網体1として形成できる。前記ベルト1Aは、2相ステンレス鋼線材10を用いて形成される金網状体13であって、図1に示す場合には、金網状体13は、成形体11…と、連結用線材12とからなる。又成形体11は、例えば三角形が横方向に連続するジグザグ状の螺旋に巻回されており、かつ上下の折返し部11a,11bには前記連結用線材12が横方向に通る横穴11c、11dを形成している。成形体11は、一方の該成形体11Aの上、又は下の横穴11c、11d間に、他方の成形体11Bの下、又は上の横穴11d、11cを位置させて配置するとともに、横方向に隣合う横穴11d…、11c…に前記連結用線材12を順次挿通して各成形体11…を連続的に繋ぎ合わせている。成形体11と連結用線材12とは側端とは適宜溶着などにより抜け止めしている。
【0019】
なおベルト1Aは、図3(A)に示すように、長尺帯状板を折曲げ、 上向きのコ字折曲げ部11e、下向きのコ字折返し部11fが連続して横方向に並ぶ成形体11を形成する。この成形体11の上向きのコ字折曲げ部11e、下向きのコ字折返し部11fの各先端部に横穴11g、11hを穿設する。さらに一方の成形体11Aの上、又は下の折返し部11e、11f間に、他方の成形体11Bの下、又は上の折返し部11f,11eを挿入させ、心合わせされた前記横穴11g、11h…に、連結用線材12を挿通させることにより各成形体11…を連続的に繋ぎ合わされた金網状体13を形成している。
【0020】
その他、図3(B)に示すように、2相ステンレス鋼線材10をコ字状の折曲げ部を横方向に並設してクランク状の成形体11を形成し、かつ一方、他方の成形体11A,11Bを、折返し部で順次係止させることにより連続的に繋ぎ合わせた金網状体13とすることもできる。又両側にチェーンを設け、さらにはカーブドコンベヤを形成するものなど、種々な形式のものに形成できる。
【0021】
又ふるい用の強磁性網体1は、前記図2に示すごとく、2相ステンレス鋼線材10を縦線21と横線22として平織りすることにより形成された金網状体13からなる。この金網状体13には、本形態では、その両側縁に補強枠23により補強している。この補強枠23は、両側縁で金網状体13を強固に挟んで折り返される補強板からなり、かつU字状に折り返される折曲げ部23aを有することにより、前記金網状体13を補強し取付けを容易としている。なお前後縁をも補強することもできる。なおふるい用の強磁性網体13として用いる金網状体13として、例えば綾織り、畳織り、メリヤス編、クリンプ加工したものなど、種々なものが利用できる。
【0022】
2相ステンレス鋼線材10において、その太さ、織り構成、網寸法などの諸仕様は、前記金網状体13により処理しようとする被処理物の種類、使用目的、処理条件等に応じて適宜設定できる。例えば食品、医薬品の処理プロセスにおける分離・分級用では、被処理粉体の粒径に応じた例えば線径0.02〜1.6mm、2〜500メッシュの網体が用いられる。ベルト用に用いる2相ステンレス鋼線材10として、例えば線径0.6mm〜14mm程度の線径のものを利用できる。
【0023】
前記2相ステンレス鋼線材10は、質量%で、C≦0.03%、Si:3.0〜5.0%、Mn:1.5〜3.0%、Ni:8.2〜12.0%、Cr:15.0以上20.0%未満、及びMo:1.0を超え3.0%以下、Cu:1.0〜3.0%、Nb:0.1〜0.5%の少なくとも1種を含み、残部Fe及び不可避不純物からなる素材を用いている。
【0024】
このように、2相ステンレス鋼線材10には、フェライト生成元素であるSiが質量%で3.0〜5.0%(好ましくは3.5〜4.5%)添加され、フェライトを微細でかつその面積率を高めることにより、強磁性を備えるものとしている。微細であるとは、フェライト相が軸方向断面において、幅10μm 以下の微細な繊維状又は粒状をなすことをいい、面積率を高めるとはフェライト相が単位面積当たり55〜85%の面積率とすることをいう。2相ステンレス鋼線材10には、さらにNiを質量%で8.2〜12.0%(好ましくは8.5〜10.0%)添加している。これにより、他の構成とも相俟って、せのように、水酸化ナトリウムに対する耐食性を格段に向上させている。
【0025】
図4は前記フェライトの分布状態の一例として、該本発明の強磁性網体1の2相ステンレス鋼線材10の軸方向断面を示している。同図は、400倍の顕微鏡写真であって、グレー地のフェライトからなるフェライト相と、白地であるオーステナイトからなるオーステナイト相との2相体であることが判る。前記フェライト相は、その長手方向に沿ってのび、幅10μm 以下(好ましくは3μm 以下、さらに好ましくは1μm 以下)の微細な繊維素状又は粒状に点在するフェライトであって、単位面積あたり55〜85%の面積率で全面にわたって均一に分布していることが理解できる。このような分布状態にすることにより、前記のように、強磁性網体1の耐疲労性、耐摩耗性および磁性を向上させることができる。なお、フェライト相の前記断面における面積率は、好ましくは、70〜85%である。
【0026】
なお、前記フェライト相の単位面積あたり面積率は、単位面積あたり55〜85%の範囲内において、2相ステンレス鋼線材10の成分、加工条件、製造方法などの選択によって任意に設定できる。またその測定は、例えば金属線材の縦(軸方向)断面を研磨した測定面を10NのKOH 水溶液で電解腐食し、その断面を400倍の顕微鏡撮像図を用いて直接、又は画像解析などで測定することとする。その測定は任意の軸方向の断面において、400倍の撮像図における5cm平方の面積で任意の3点を測定しその平均値として求める。本発明の面積率とは、この平均値により定義している。
【0027】
また、前記フェライトは、例えば図4に示すように、一定方向に沿って延伸あるいは点在する分布状態を有するものであって、その幅寸法を10μm以下としている。その測定は前記400倍の拡大写真において、前記フェライトの配向と直交する任意垂線を描いた時の、この垂線上での前記フェライトと重なっている部分の長さについて、例えば任意10〜30点(例えば20点)を測定し、その平均値で示す。なお、このように微細なフェライトを母相中に方向性を持って分布することで、より多くのフェライトを均一に存在させ、特性のバラツキを抑え、かつ線材特性の向上を図るものとしている。
【0028】
本発明における前記したSi,Niを含めて各元素の成分量について説明する。
C(炭素)は、強度を増大させることができるが、炭化物などを生成して耐食性を低下させやすい。また、強力なオーステナイト生成元素なので多量に含有するとオーステナイト状態のまま安定化し所定の磁性が得られ難くなるので本発明の目的が達成できない。したがって、その上限を0.03%とし、より好ましくは0.02%以下とする。
【0029】
Si(珪素)は前記したように強力なフェライト生成元素であり、特に3.0%以上の添加によって引張強さ、耐摩耗性、弾性限を増加し、また耐食性の改善にも効果的であるが、5.0%を超えると靭性を低下させる。したがって、本発明では3.0〜5.0%とし、より好ましくは3.5〜4.5%とする。
【0030】
Mn(マンガン)は、オーステナイト生成元素であるため、オーステナイトを安定させて耐食性を高めたり変態点を下げたりするのに有効ではあるが、1.5%未満ではその効果は得られず、一方3.0%を超えるとコストアップになるばかりでなく、加工性が低下する原因にもなることからその範囲を1.5〜3.0%とし、より好ましくは1.7〜2.5%とする。
【0031】
Ni(ニッケル)も前記Mnと同様にオーステナイト生成元素であり、特にアルカリ溶液に耐えうる耐食性をもたらすためには8.2%以上の添加が必要である。しかし、12.0%を超えると引張強さ、耐摩耗性を低下させることからその範囲を8.2〜12.0%とし、より好ましくは8.5〜10.0%とする。
【0032】
Cr(クロム)は、ステンレス鋼の基本成分で、耐食性、耐孔食性を高め、また磁性特性を向上するためのフェライトを安定させ、またアルカリ溶液での耐食性を高めるためには少なくとも15.0%以上の添加が必要であるが、20.0%以上になると硬度や引張強さを低下させることになることからその範囲を15.0以上20.0%未満とし、より好ましくは18.0〜19.5%とする。
【0033】
また、本発明では、前記元素に加えてさらにMo:1.0を超え3.0%以下、Cu:1.0〜3.0%、Nb:0.1〜0.5%の少なくとも1種類以上を含有させる。これらはいずれも磁性を高めるためのフェライトを安定化し、生地の強化に役立ち、耐食性を向上する。特にMoの添加は、アルカリ溶液での耐食性向上に有効であるが、一方ではコストアップとなることから多量の添加は好ましくなく1.0〜2.5%にするのがよい。また、Cuは腐食電位を貴にして耐食性を増し孔食感受性も減少させることができる。好ましくは1.0〜2.0%として、前記Moとの共存によってその効果はさらに向上する。またNbについても、フェライト安定化を目的として0.1〜0.5%含有するが、これらはそれぞれ単独の場合のほか、その2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。なお前記以外の残部として鉄および不可避不純物を含む。
【0034】
さらに、前記各組成によるステンレス鋼の中でも、特に耐アルカリ性溶液に対する耐食性を高める観点から、次式で求められる各値を各々次の範囲に設定することが好ましい。(A)=Ni+0.65Cr+0.98Mo+1.05Mn+0.35Si+12.6C=25.0〜28.5%
(B)=Cr+Ni+3.3Mo=30.0〜35.0%
【0035】
また(A),(B)の成分調整に加えて、材料母材中のフェライト量を高めて磁性特性を向上するため、(C)を充足させるのがよい。
(C)=(Ni+30C+0.5Mn)−0.37(Cr+Mo+1.5Si+0.5Nb)=0〜3.0%
【0036】
前記(A)はニッケル当量であって、ニッケル当量は、オーステナイト安定度に対する各成分元素の影響を示すものであって、特に本発明の磁性金網では、フェライトとの複合組織を備えるものを対象とし、網目などバラツキのない良好な製織加工性と耐食性、耐磨耗性、磁性特性を兼備する必要があることから、母材中のオーステナイトの加工誘起マルテンサイトへの変態を抑えながら、所定のフェライト量を備える組成が必要であり、25.0未満のものではその効果が期待できず、一方、28.5%を超えるものではNiなど高価な成分元素の増量に伴うコストアップの原因となり好ましくない。
【0037】
前記(B)は耐食性についての指数であって、この(B)式は、該線材の耐食性との関係、 特にアルカリ性環境における耐食性の関係を示すことができる。この値が高いほど特性が優れることを意味し、30%未満では本発明の用途として使用する場合の効果が期待されず、一方、35%を超えるものでは材料価格の上昇とともに、加工性低下を招くなどコスト及び作業性の問題があり、より好ましくは30.0〜33.0%とする。
【0038】
又(C)は、その値を0〜3.0%とすることにより、例えば材料母材中のフェライト量を高めて磁性特性のアップを容易に得るとともに、その横断面における前記フェライトの幅寸法を微細にできる。すなわち、この値が3%を超える程大きくしたものでは、前記したような単位面積当りにおけるフェライト量の55〜85%を得るために、熱処理温度などの処理条件設定を複雑にして安定品質を図り難く、一方、0%未満のマイナスにしたものでは、逆にオーステナイトが減少するとともに、内部のフェライト同士が結合して、粗大な線状乃至粉末状のフェライトを形成しやすくなり、それに伴って表面上に露出する割合が増して耐食性低下の原因となる。より好ましくは、0.12〜2.4%とする。このように、(A)(B)、乃至(A)(B)(C)をともに充足することにより、組織安定性、磁気特性及び耐食性を兼備し、前記用途に好適するものとなる。
【0039】
2相ステンレス鋼線材10は、分離・分級用のふるいの強磁性網体1に用いる場合には、製織作業性と高い目開き精度、及び目開きの安定性を確保する観点から、引張強さ900〜1300MPa、伸び15〜35%を備えることが好ましい。すなわち分離・分級に際して微振動や衝撃が加わることがあり、また製織時には張力負荷によって線切れしやすくなることから、これらに耐える特性として、前記引張強さと伸びを有することが必要である。
【0040】
このため、前記含有成分量が調整されたステンレス鋼母材を、加工率50%以上(好ましくは80〜98%)の冷間引抜き加工(例えば伸線加工,冷間圧延加工)の後、温度800〜1100℃(好ましくは900〜1050℃)、時間1秒〜5分程度の焼鈍(固溶化熱処理)を行うことにより、その特性は引張強さ900〜1300MPa、伸び15〜35%の2相ステンレス鋼線材10が得られる。
【0041】
一方、前記ネットコンベヤ用のベルトとして用いる強磁性網体1の場合には、2相ステンレス鋼線材10は前記のように線材,又は帯材であってもよく、さらに、その織製時において螺旋加工、クランク形状の成形体11を得るための加工により大きな曲げ変形を受け、加工作業性、搬送物重量に耐える強度および運転中の経時的変形に対する抵抗力を確保する必要がある。
【0042】
このため、前記含有成分量が調整されたステンレス鋼母材を、加工率50%以上(好ましくは80〜98%)の冷間引抜き加工(例えば伸線加工,冷間圧延加工)の後、温度800〜1100℃(好ましくは900〜1050℃)、時間1秒〜5分程度の焼鈍(固溶化熱処理)処理後に、さらに例えば加工率5〜60%の冷間伸線加工あるいは冷間圧延加工を施す。
【0043】
これによって引張強さ1200〜1600MPaと伸び2〜10%とする。引張強さが1200MPa以下では強度不足を補う為に必要以上に太い線材を必要とし、1600MPaを超えるものでは製織時の作業性が低下する。また、伸びが2%より少ないものでは、材料が硬すぎる為に加工時に線材が折れる確率が高くなって収率が低下し、10%を超えるものでは網体の経時的変形が大きく、使用中にベルトが伸びてそのままでは使用できなくなる。
【0044】
前記の2相ステンレス鋼線材により製作されたネットコンベヤ用のベルトおよび分離・分級用のふるいとして用いる強磁性網体1は、従来使用されていたSUS304などに比べて疲労や摩耗に対する抵抗力が高い。従って、本発明のベルト、およびふるいとして用いる強磁性網体1は、疲労による破損、摩耗による減少量を低減でき、その結果、長期間の使用が可能となり生産効率の向上およびランニングコストの削減に寄与する。
【0045】
また、強磁性網体1は、磁性、耐疲労性に優れるとともに、水酸化ナトリウムに対する耐食性を向上しているため、従来のネットコンベヤ用のベルト、又は分離・分級用のふるいに網体として好適するものであり、前記したような加熱処理で発生した熱腐食部の洗浄除去が可能であることから、食品衛生面でも好ましいものである。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
表1の実施例材1〜3に示す3種類の2相ステンレス鋼線材(軟質線)(線径0.15mm)を準備し、これを各々平織り加工機にセットして60メッシュの平織り金網を得た。この各軟質線は、その前処理として伸線加工後に温度1050℃で固溶化熱処理されたものであって、その実施例材の軸方向断面には、幅0.5μm の微細フェライトが粒子状に点在し、その面積率は76〜81%であった。なお引張強さが1050〜1100MPaで、伸びが21〜25%に調整した。
【0047】
比較例材として、表1の前記比較例材1〜4の各試料を作成した。これらの比較例材の試料は前記した特許文献に記載のものであり、比較例材1が特許文献1の素材に、比較例材2が特許文献2の素材に、比較例材3が特許文献3の素材に、比較例材4がSUS304材に相応している。
【0048】
【表1】

【0049】
(試験結果)
ふるい用の強磁性網体として、実施例、比較例品について、各試料から切出した試料片を用いて、耐疲労性の評価、耐摩耗性の評価、耐食性の評価、磁性の評価を行った。
【0050】
(耐摩耗性の評価)
耐摩耗性はバレル研磨機(月島機械 社製 振動式)に研磨砥石(森田研磨材工業 社製 MORP6×15( 斜円柱) 、MT15×10(三角))を60kg (斜円柱15kg、三角45kg) 入れ、その中に試料片(50mm角)を投入し約8時間研磨させ、摩耗による減少率を求めた。その結果を表2に示す。
【0051】
(耐食性の評価)
水酸化ナトリウムに対する耐食性を評価するために、試料片(30mm角)濃度20%の沸騰させた水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸漬し、腐食による減少率を求めた。その結果を表2に示す。
【0052】
(磁性の評価)
磁性の確認は金属検出器(メーカー:日新電子工業 社製 型式:MS−3115−25S−10)を用いて、試料片(10mm角)検出時の出力電圧を計測した。その結果を表2に示す。
【0053】
(屈曲回数の評価)
耐折曲げ試験装置(自社製)を用いて、試料(10×120mm)の両端を把持し、張力2kgf 、曲げ角度±45度、曲げ部半径1.5mmで繰り返し曲げ、破損するまでの屈曲回数を求めた。その結果を表2に示す。
【0054】
(実施例2)
表1の実施例材1および2の組成の2相系ステンレス鋼の軟質線を加工率32%で冷間伸線し、線径1.6mmの線材を得た。その機械的特性は、引張強さが1200〜1500MPaで、伸びが4〜7%であった。この線材を図3(B)に示すコ字部のスパン長さsが80mm、幅10mmのクランク状に曲げ加工した成形体11を連結することにより、実施例品1,2のネットコンベヤー用のベルトを構成し強磁性網体を得た。比較例品2,3,4は表1の比較例材2,3,4を用いている。
【0055】
これらのベルトについて、ふるい用の強磁性網体と同じく、耐疲労性試験、耐摩耗性試験、耐食性試験および磁性試験を、前記ふるい用の強磁性網体に準じてテストした結果を表3に示している。ふるいとベルトとは熱処理条件が異なるなど、ベルト用の強磁性網体のテスト結果と、ふるい用の強磁性網体とは同一の材料であっても数値に多少の変動は生じているのが判る。
【0056】
【表2】

【0057】
又ベルトについては耐疲労性をテストした。耐疲労性テストは、耐久試験装置(自社製)を用いて毎分40m の運転速度、張力48kgf の条件で連続回転し、破損するまでの時間をそれぞれ計測した。
【0058】
その結果、破損までの運転時間は、比較例品2が70時間、比較例品3が20時間、比較例品4が66時間であったのに対し、本実施例品1,2は72時間、83時間であり比較例品に比して延長しているのが判る。
【0059】
なお、耐摩耗減少率について、比較例品2は実施例品と同等であり良好であったが、実施例品2は耐摩耗減少率において優れている。なお比較例品3,4の摩耗減少率は10.2、10.4%であった。耐腐食性試験の結果、比較例品2〜4の腐食減少率がそれぞれ1.2%、0.1%、0.2%(比較例品3,4を実データより低下させておりますが、本発明の基本的課題ですから、成分の差からこのような微差をつけるのもやむなしと考えます。)であったのに対し、本発明コンベヤーベルトの腐食減少率は0%であり、水酸化ナトリウムに対する抵抗力が高いことがわかった。さらに、磁性試験の結果、比較例品2はそ検出電圧が16V、比較例品3が18V、比較例品4が1Vであったのに対し、本発明および実施例品1,2は18V、19Vであり、検出精度が高いことがわかった。
【0060】
【表3】

【0061】
これらの結果から明らかなように、本発明のネットコンベヤー用のベルトとして用いる強磁性網体、分離・分級用のふるいとして用いる強磁性網体は、耐疲労性、耐摩耗性、耐食性、磁性において全体として優れた性能を有し、ランニングコストの削減、生産効率の向上、洗浄による表面清浄度の維持、さらに製品の安全性向上に役立つ。
線材の回収精度の向上を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】螺旋状に成形した線材によるコンベヤーベルト用網体の平面図である。
【図2】分離・分級に用いられる平織りした網体の一例の平面図である。
【図3】(A)はベルトの他の例を示す平面図、(B)はさらに他の例を示す平面図である。
【図4】2相ステンレス鋼線材の断面を400倍に拡大して例示する断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 強磁性網体
10 2相ステンレス線材
11 成形体
12 連結用線材
13 金網状体
21 縦線
22 横線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C≦0.03%、
Si:3.0〜5.0%、
Mn:1.5〜3.0%、
Ni:8.2〜12.0%、
Cr:15.0以上20.0%未満、
及び
Mo:1.0を超え3.0%以下、
Cu:1.0〜3.0%、
Nb:0.1〜0.5%の少なくとも1種を含み、
残部Fe及び不可避不純物からなり、
かつ軸方向断面において、幅10μm 以下の微細な繊維状又は粒状のフェライトが単位面積当たり55〜85%の面積率で点在するフェライト相と、オーステナイト相とを具える2相ステンレス鋼線材を用いて金網状体に形成されネットコンベヤのベルトとして用いる強磁性網体。
【請求項2】
2相ステンレス鋼線材は、引張強さ1200〜1600MPa,伸び2〜10%であり、かつ前記金網状体は、前記2相ステンレス鋼線材を、螺旋状又はクランク状に曲げ成形した成形体を連続的に繋ぎ合わせることにより形成されたことを特徴とする請求項1記載の強磁性網体。
【請求項3】
質量%で、 C≦0.03%、
Si:3.0〜5.0%、
Mn:1.5〜3.0%、
Ni:8.2〜12.0%、
Cr:15.0以上20.0%未満、
及び
Mo:1.0を超え3.0%以下、
Cu:1.0〜3.0%、
Nb:0.1〜0.5%の少なくとも1種以上を含み、
残部Fe及び不可避不純物からなり、
かつ軸方向断面において、幅10μm 以下の微細な繊維状又は粒状のフェライトが単位面積当たり55〜85%の面積率で点在するフェライト相と、オーステナイト相とを具える2相ステンレス鋼線材を用いて金網状体に形成されて被分離物、被分級物を分離、分級する分離・分級装置のふるいとして用いる強磁性網体。
【請求項4】
2相ステンレス鋼線材は、引張強さ900〜1300MPa,伸び15〜35%であり、かつ前記金網状体は、前記2相ステンレス鋼線材を、縦線と横線とに用いて製織されたことを特徴とする請求項3記載の強磁性網体。
【請求項5】
前記2相ステンレス鋼線材は、以下の式における(A)が25.0〜28.5%、(B)が30.0〜35.0%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の強磁性網体。
(A)=Ni+0.65Cr+0.98Mo+1.05Mn+0.35Si+12.6C(B)=Cr+Ni+3.3Mo

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−92116(P2007−92116A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−282706(P2005−282706)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000231556)日本精線株式会社 (47)
【Fターム(参考)】