強誘電体単結晶製造のための原料組成決定方法、及び強誘電体単結晶の化学組成比校正方法、及び弾性表面波デバイスの設計パラメータ決定方法
【課題】育成結晶の正しい化学組成比を求め、高精度なSAWデバイス設計パラメータを与える。
【解決手段】コングルエント組成近傍の組成の結晶に対し、化学組成比変動に対して敏感なLSAWの伝搬方向を決定し、その伝搬方向において各結晶の育成軸方向のLSAW速度分布測定を通して、育成軸方向分布が0になる組成を決定し、その組成でのLSAW速度との絶対的関係を得る。これにより、極めて組成分布の小さい結晶量産を実現し、結晶化学組成評価の信頼性のある絶対的指標を与える。また、化学組成比に関する音響関連物理定数の正しい関係を求め、育成結晶の化学組成比に対応した音響関連物理定数を用いてSAWデバイス設計パラメータを高精度に決定する。
【解決手段】コングルエント組成近傍の組成の結晶に対し、化学組成比変動に対して敏感なLSAWの伝搬方向を決定し、その伝搬方向において各結晶の育成軸方向のLSAW速度分布測定を通して、育成軸方向分布が0になる組成を決定し、その組成でのLSAW速度との絶対的関係を得る。これにより、極めて組成分布の小さい結晶量産を実現し、結晶化学組成評価の信頼性のある絶対的指標を与える。また、化学組成比に関する音響関連物理定数の正しい関係を求め、育成結晶の化学組成比に対応した音響関連物理定数を用いてSAWデバイス設計パラメータを高精度に決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LiNbO3やLiTaO3のような強誘電体単結晶を製造するための原料組成を決定する方法、及びその強誘電体単結晶の測定化学組成比を校正する方法、及び弾性表面波デバイスの高精度な設計パラメータの決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強誘電体LiNbO3、LiTaO3単結晶は、圧電効果だけでなく、電気光学効果や非線形光学効果など光学特性に関する優れた特性を有することから、弾性表面波(SAW)デバイスだけでなく光エレクトロニクスデバイスへの応用が盛んである。デバイスの性能は、究極的には単結晶基板の品質に依存する。そのため、デバイスの高性能化には、単結晶基板の均質性の向上(主に化学組成比の均一化)は欠かせない要素である。しかし、化学組成評価のために従来から広く利用されているキュリー温度TCの測定値は、各結晶製造業者の測定条件や測定装置に依存して異なり、また、その測定再現性も十分ではないため、信頼性のある結晶評価が行えなかった([非特許文献1]、[非特許文献2])。
【0003】
それに対し、信頼性の高い評価技術として、直線集束ビーム(LFB) 超音波材料特性解析装置([非特許文献3]、[非特許文献4])が提案されている。本装置は、水と試料基板の境界を伝搬する音波である漏洩弾性表面波(LSAW)の位相速度VLSAWを高精度に測定することができる。結晶の均一性を左右する主要因である化学組成比の変化をVLSAWの変化として捉えることにより評価が行われる。[特許文献1]において、量産される結晶内、結晶間の化学組成分布を許容範囲に抑えるために、LiTaO3単結晶に対する真のコングルエント組成(原料融液と育成結晶の組成が一致する組成)および原料融液組成ずれの許容幅を与えている。
【0004】
しかし、LiNbO3単結晶に対するそれらの値は求められていない。また、前述のように信頼性の低いTCの測定値から化学組成比を推定していたため、従来求められているLiNbO3、LiTaO3単結晶に対する化学組成比と音響関連物理定数(弾性定数、圧電定数、誘電率、密度)の間の関係も信頼性が低い[非特許文献5]。さらに、信頼性の低い各パラメータ(化学組成比、音響関連物理定数)を元にSAWデバイス等の設計を行えば、デバイス性能の低下、歩留まりの低下を招く。
【特許文献1】特願2004-103891号
【非特許文献1】J. Kushibiki, Y. Ohashi, and N. Mishima,"Calibration of Curie temperatures for LiTaO3 single crystalsby the LFB ultrasonic material characterization system," IEEE Trans. Ultrason., Ferroelect., Freq.Contr., vol. 50, pp. 544-552, May 2003.
【非特許文献2】J. Kushibiki, Y. Ohashi, and M. Mochizuki, "Evaluation of mass-producedcommercial LiTaO3 single crystals using the LFB ultrasonic materialcharacterization system," IEEE Trans. Ultrason.,Ferroelect., Freq. Contr., vol. 51, pp. 748-755, June2004.
【非特許文献3】J. Kushibiki and N. Chubachi, "Material characterization byline-focus-beam acoustic microscope," IEEE Trans. Sonics Ultrason., vol. SU-32, pp.189-212, Mar. 1985.
【非特許文献4】J. Kushibiki, Y.Ono, Y. Ohashi, and M. Arakawa, "Development ofthe line-focus-beam ultrasonic material characterization system," IEEETrans. Ultrason., Ferroelect.,Freq. Contr., vol. 49, pp. 99-113, Jan. 2002.
【非特許文献5】J. Kushibiki, I. Takanaga, S. Komatsuzaki, and T. Ujiie, "Chemical composition dependences of theacoustical physical constants of LiNbO3 and LiTaO3 singlecrystals," J. Appl. Phys., vol.91, pp.6341-6349,May 2002.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
強誘電体単結晶の評価のために従来から用いられているキュリー温度TCの測定値は、測定条件や装置間でばらついており、また、その測定再現性も十分ではないため、均質な結晶育成が行える真のコングルエント組成を求めることが困難であった。
【0006】
また、信頼性の低いTC測定値から推定された化学組成比を関数として求められた音響関連物理定数を用いてSAWデバイス等の設計を行う場合、高性能なデバイス設計に支障を来す。
【0007】
そこで、本発明は、均一な強誘電体単結晶を育成するため、LFB超音波材料特性解析装置を用いて、結晶内の化学組成が均一になる真のコングルエント組成を決定する方法を提供する。
【0008】
また、従来、キュリー温度から見積もられていた化学組成比を、より信頼性の高いVLSAWにより校正する方法を提供する。さらに、高精度なSAWデバイス設計のための方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明による強誘電体単結晶製造のための原料組成決定方法は、
(a) コングルエント組成の近傍で異なる化学組成のn個の単結晶を作製する工程と、nは2以上の整数であり、
(b) 各単結晶において、互いに異なるカット面の基板を複数切り出し、その各基板面内において漏洩弾性表面波の伝搬方向を変えながら漏洩弾性表面波速度を測定する工程と、
(c) 工程(b)で得られた結果をもとに、化学組成比変化に対して漏洩弾性表面波速度の変化率が大きいカット面の漏洩弾性表面波伝搬方向を少なくとも1つ選択する工程と、
(d) 工程(c)で選択したカット面の伝搬方向において、各単結晶の上部及び下部の漏洩弾性表面波速度を測定する工程と、単結晶の上部及び下部とは、結晶育成時の種結晶側が上部、その反対側が下部であり、
(e) 工程(d) で得られた上記上部及び下部の漏洩弾性表面波速度と仕込み時の原料組成との間の関係から、結晶の上部と下部で漏洩弾性表面波速度が一致する原料組成を真のコングルエント組成CCとする工程と、
(f) 上記漏洩弾性表面波速度、漏洩弾性表面波速度勾配、原料組成、結晶組成、密度の関係から、上記コングルエント組成からのずれの許容幅±ΔCCを求め、強誘電体単結晶製造のための原料組成を決める工程、
とを含む。
【0010】
第2の発明による組成決定方法は、上記第1の発明による原料組成決定方法において、上記許容幅±ΔCCは±0.017 Li2O-mol%であることを特徴とする原料組成決定方法。
【0011】
第3の発明による組成決定方法は、上記第1又は第2の発明による組成決定方法において、上記強誘電体単結晶はLiNbO3であり、上記コングルエント組成は48.481-Li2Omol%である。
【0012】
第4の発明は、強誘電体単結晶の化学組成比の校正方法であり、
(a) 化学組成比の異なる複数の試料に対し漏洩弾性表面波速度VLSAWを測定する工程と、 (b) 上記試料に対しするキュリー温度等の測定値から、既知のキュリー温度と化学組成比の関係を用いて化学組成比を求める工程と、
(c) 上記工程(a) で得られた測定速度VLSAWと、上記工程(b)で得られた化学組成比の関係(近似直線)を、上記第1の発明の(c)および(d)の工程で得られたコングルエントにおける化学組成比およびVLSAWの値に合致するように化学組成比を校正して、両者の関係(校正された近似直線)を得る工程、
(d) 第1の発明の工程(a)のn個の結晶に対するそれぞれの音響関連物理定数(弾性定数、圧電定数、誘電率、密度)を用いて計算される漏洩弾性表面波速度と、上記工程(c)で得られた関係とを用いて、上記n個の各結晶の化学組成比を求め、化学組成比に関する音響関連物理定数を求める工程、
とを含むことを特徴とする化学組成比の校正方法。
【0013】
第5の発明は、弾性表面波デバイスの設計パラメータ決定方法であり、
(a) 育成結晶に対する漏洩弾性表面波速度を測定し、第4の発明の工程(c)において得られた関係を用いて、育成結晶の化学組成比を求める工程と、
(b) 上記工程(a)で得られた化学組成比と、第4の発明の工程(d)で得られた化学組成比に関する音響関連物理定数を使って、上記工程(a)の育成結晶に対する音響関連物理定数を求める工程と、
(c) 上記工程(b)で求めた音響関連物理定数を用いて、弾性表面波デバイスとして用いるカット面の伝搬方向に対する弾性表面波速度を計算する工程と、
(d) 上記工程(c)で得られた弾性表面波速度を用いて、弾性表面波デバイス設計のための設計パラメータ(電極周期、電極幅、電極厚さ)を決定する工程、
とを含むことを特徴とする弾性表面波デバイスの設計パラメータ決定方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、均一な結晶育成を行うための真のコングルエント組成を決定することができる。従って、このような組成の強誘電体結晶を使用すれば、特性のばらつきの少ないデバイスを製造することができる。また、量産される単結晶に対し、VLSAW測定を用いた信頼性の高い化学組成評価が可能になる。さらに、これまで不明確であった育成結晶の化学組成比の絶対値が明らかになるため、化学組成比と音響関連物理定数やその他の化学的・物理的諸特性(VLSAW、VSAW、TC、格子定数など)の間の正しい関係を得ることができ、様々な化学的・物理的特性による絶対的な結晶評価および、高精度なデバイス設計が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
コングルエント組成の決定方法および化学組成比の校正方法について図1のフロー図を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
ステップS1:コングルエント組成近傍で異なる化学組成の結晶インゴットをn個(nは2以上の整数)準備する。
ステップS2:化学組成比の変化に対する感度の高いLSAWの伝搬方向を調べるために、ステップS1の各結晶インゴットから、数種類のカット面の基板試料を切り出す(図2参照)。ただし、結晶の育成軸方向の分布も調べられるように、育成軸に平行な基板面を準備するか、育成軸に垂直な基板面の場合は育成軸方向から2個以上の基板を準備する([参考文献1]参照)。
ステップS3:各結晶インゴットに対するキュリー温度を測定し、化学組成比とキュリー温度の既知の関係を用いて、各結晶インゴットの化学組成比を求める。
ステップS4:ステップS2で切り出した各結晶インゴットの各基板試料に対し、図3の×で示された位置でLSAW速度の伝搬方向依存性を測定する。
ステップS5:ステップS3とステップS4で得られた結果から、各基板面における各伝搬方向のLSAW速度の化学組成比依存性を求め、化学組成比変化に対する感度が高いLSAW伝搬方向を決定する。
ステップS6:ステップS5で決定した伝搬方向で、各結晶インゴットの育成軸方向のLSAW速度分布を測定する。
ステップS7:各結晶インゴットの仕込み原料組成と育成軸方向のLSAW速度分布の関係から、育成軸方向のLSAW速度分布が0になる組成を真のコングルエント組成と定め、そのときのLSAW速度を求める。
ステップS8:ステップS5で得られた化学組成比とLSAW速度の関係を、ステップS7で得られた真のコングルエント組成における化学組成比とLSAW速度の関係に合致するよう化学組成比を校正し、化学組成比とLSAW速度の間の正しい関係を得る。
ステップS9-1:[特許文献1]の手順に従って、コングルエント組成とみなせる原料融液組成の許容幅(真のコングルエント組成からのずれ)±ΔCCを求める。
ステップS9-2:ステップS8で得られた化学組成比とLSAW速度の関係から、化学組成比と音響関連物理定数の間の正しい関係を求める。
ステップS10-2:育成結晶に対して測定されたLSAW速度あるいはキュリー温度からステップS8で得られた関係を用いて化学組成比を求め、この化学組成比に対応する音響関連物理定数をステップS9-2で得られた関係から求め、この音響関連物理定数を用いて、この育成結晶に最適なSAWデバイスの設計パラメータ(電極幅、電極厚さ、電極間隔等)を求め、SAWデバイスを作製する。
【実施例2】
【0017】
原料仕込み時における化学組成比を48.0、48.5、49.0 Li2O-mol%として育成したLiNbO3単結晶を用意した。各結晶の育成条件およびサイズを図4に示す。いずれも、チョクラルスキー法によりZ軸方向に育成されている。各結晶の育成軸方向および直径方向の均質性を評価するために、図2に示すように、X-、Y-cut基板各1枚およびZ-cut基板3枚を切り出し、両面光学研磨して試料とした。各基板の形状およびLSAW速度の測定位置は図3の×および破線で示す。
【0018】
各結晶の化学組成を調べるために、図2に示したZ2基板と隣り合う別のZ-cut基板に対し、示差熱分析(DTA)法によりキュリー温度を測定した。結果を図5に示す。さらに、[参考文献2]に示されるキュリー温度と化学組成比の関係を用いて、各結晶の実際のLi2O濃度を求めた結果も図5に“分析Li2O濃度”として示す。
【0019】
密度は、Z2基板に対してアルキメデスの原理に基づいて測定した。また、格子定数aおよびcは、それぞれX-cutおよびZ2試料に対し、図3の×に示す位置でBond法を用いたX線回折法により測定した。それぞれの結果を図5に示す。Li2O濃度が増大するにつれ、キュリー温度は単調に増大し、密度および格子定数は減少する。図5の結果に対する直線近似から、その変化率は、43.9℃/mol%、-5.93
(kg/m3)/mol%、-1.3×10-4nm/mol%(a軸)、-5.7×10-4nm/mol%(c軸)である。
【0020】
音響特性の化学組成比依存性を調べるために、225 MHzにおいて結晶1、2、3のX、Y、Z2基板(図3の×の位置)に対して、LSAW速度の伝搬方向依存性を測定した。結果を図6に示す。各結晶面において、LSAW速度は結晶の対称性を反映して変化している。Z-cut基板では、全伝搬方向においてLi2Oの増加とともにLSAW速度が上昇しているが、X-cutの70°〜160°の間や、Y-cutの40°〜140°の間の伝搬方向では逆転している。
【0021】
図7に各基板面上で化学組成比に対する速度変化が最大となる伝搬方向および基本軸の伝搬方向に対するLSAW速度と分析Li2O濃度の関係を示す。最小二乗法による直線近似により求めた速度変化率は伝搬方向に依存して異なっているが、コングルエント組成近傍で化学組成比と各LSAW速度との間にはほぼ線形な関係があることがわかる。各基板面における速度変化率の最大値は、X-cut面に対しては123.4°Y軸方向で-24.9 (m/s)/Li2O-mol%、Y-cut面に対してはX軸方向で+21.5(m/s)/Li2O-mol%、Z-cut面に対してはY軸方向で+39.4
(m/s)/Li2O-mol%である。
【0022】
結晶評価において、LSAWの伝搬方向は基本軸あるいはパワーフローアングルが0となる方向を選ぶべきである。また、選択した伝搬方向において化学組成比に対する感度が高くなければならない。これらの観点から、Z-cut面のY軸方向伝搬が最適であると考えられる。しかし、化学組成比の分布が大きく現れると考えられる育成軸方向(Z軸)の詳細な分布を調べるには、図2からわかるようにZ-cut基板よりもY-cut基板の方が有利である。そこで、ここではZ-cut面のY軸方向伝搬とともに、Y-cut基板のX軸方向伝搬のLSAWをとりあげて結晶内のLSAW速度分布測定を行う。
【0023】
図8に、化学的・物理的諸特性に対する本評価法(ZY-LiNbO3およびYX-LiNbO3のLSAW速度)の感度および測定分解能を示す。測定分解能は、LSAW速度の測定再現性±0.0013%(3800 m/s近傍で±0.05 m/sに相当)として計算している。本超音波法は、キュリー温度の分解能(約±1℃)に比べ非常に分解能が高く、また局所的な組成の分布を評価する上で非常に有利である。また、Z-cut Y軸伝搬のLSAW速度を用いる場合の方が、Y-cut X軸伝搬のLSAW速度を用いる場合よりも、およそ2倍分解能が高い。
【0024】
次に、各結晶インゴット内のLSAW速度分布を測定した結果を示す。まず、結晶1、2、3から切り出したZ-cut基板(上部Z1、中部Z2、下部Z3)の径方向(図3の点線)において、Y軸伝搬のLSAW速度を1 mm毎に測定した結果を図9に示す。結晶上部の径方向で、周辺部において0.5〜0.8 m/s程度の速度低下が見られる。
【0025】
仕込み原料組成の変化に対しては、径方向に比べ育成軸方向の分布の変化が大きい。各Z-cut基板の中心(図3の×で示した位置)のLSAW速度測定値と結晶上部からの距離との関係から、育成軸方向の分布を求めた結果を図10に示す。各結晶において、結晶上部から下部にかけてほぼ線形にLSAW速度が変化している。
【0026】
図10の実線は最小二乗法による近似直線である。その勾配は、結晶1に対しては-0.037 (m/s)/mm、結晶2に対しては-0.001 (m/s)/mm、結晶3に対しては+0.042 (m/s)/mmである。これらは、図7の関係を用いてLi2O濃度の変化率に換算すると、結晶1に対しては-0.00093
mol%/mm、結晶2に対しては-0.00002 mol%/mm、結晶3に対しては+0.00107 mol%/mmである。
【0027】
同様にして、結晶1、2、3から切り出したY-cut基板の径方向(図3の点線T, M, B)において、X軸伝搬のLSAW速度を1 mm毎に測定した結果を図11に示す。図9の場合と同様に、結晶上部の径方向(Tのライン)で、周辺部が0.3〜0.6 m/s程度、速度低下する傾向が見られるが、いずれの結晶においても、育成軸方向に比べ径方向の分布は小さい。
【0028】
次に、Y-cut基板の育成軸方向(図3の点線P)において、X軸伝搬のLSAW速度を1 mm毎に測定した結果を図12に実線で示す。各結晶において、結晶上部から下部にかけてほぼ線形にLSAW速度が変化しているが、結晶3の上部近傍では、その線形的な変化から逸脱した特異な変化が見られる。
【0029】
結晶3の結晶上部では気泡が観察されたことから、育成条件と関連した問題を検出しているものと考えられる。これは、Z-cut基板では捉えにくい変化であり、Y-cut基板を用いた場合の利点であると言える。図12の点線は最小二乗法による近似直線である。その勾配は、結晶1に対しては-0.022 (m/s)/mm、結晶2に対しては+0.001 (m/s)/mm、結晶3に対しては+0.024 (m/s)/mmである。
【0030】
これらは、図7の関係を用いてLi2O濃度の変化率に換算すると、結晶1に対しては-0.00102 mol%/mm、結晶2に対しては+0.00006 mol%/mm、結晶3に対しては+0.00112 mol%/mmである。いずれの結晶においても、育成軸方向のLi2O濃度勾配は、ZY-LiNbO3に対する測定結果から求めたものとほぼ一致している。
【0031】
より均質な結晶を育成するために、得られた結果からコングルエント組成を求めてみる。図13は、図10および図12の近似直線から求めた各結晶の上部(0 mm)と下部(80 mm)の位置でのLSAW速度と、各結晶の仕込み時のLi2O濃度との関係を求めた結果を示している。
【0032】
図中の実線は、最小二乗法による近似直線である。図13において、2つの実線の交点が、育成軸方向のLSAW速度分布が0になるコングルエント組成と考える。交点を求めると、コングルエント組成はZY-LiNbO3の結果から求めた場合48.481 Li2O-mol%、YX-LiNbO3の結果から求めた場合48.477 Li2O-mol%であり、そのときのLSAW速度はそれぞれ、3875.0 m/s(ZY-LiNbO3)、3711.6 m/s(YX-LiNbO3)と見積もられた。分解能が最も高いZY-LiNbO3の結果から求めた組成が、コングルエント組成として最も信頼性が高いと考えられる。しかし、YX-LiNbO3の結果から求めた場合でも、測定分解能と同程度のわずかな差(0.004 Li2O-mol%)しか生じていない。
【0033】
図5および図7の分析Li2O濃度はキュリー温度の測定値から換算された値である。我々のこれまでの検討([非特許文献1]、[非特許文献2])からキュリー温度の測定値は測定条件や装置により異なる値が得られるため、図5および図7に示した分析Li2O濃度の絶対値の信頼性は低い。
【0034】
そこで、図7においてLSAW速度を基準にして、図13で求めた真のコングルエント組成におけるLi2O濃度とLSAW速度に合致するよう分析Li2O濃度を校正する。ZY-LiNbO3とYX-LiNbO3の結果を図14に示す。図14A、図14Bの結果において、分析Li2O濃度の校正量は、それぞれ0.057 Li2O-mol%、0.056 Li2O-molであり、ほぼ等しい校正量である。これはキュリー温度に換算すると約2.5℃の校正量に相当する。図14Aの校正後の結果は次式のように表される。
C(Li2O) = 0.0254×(VLSAW - 3875.0)
+ 48.481 (1)
ここで、C(Li2O)は分析Li2O濃度、VLSAWはZY-LiNbO3に対するLSAW速度を表す。式(1)から、結晶1、2、3に対する分析Li2O濃度を求めると、順に、48.324、48.489、48.641
Li2O-mol%となる。したがって、結晶2はコングルエント組成に非常に近い組成(±0.01 Li2O-mol%以内)であったことがわかる。
【0035】
式(1)の関係を用いることで、[非特許文献5]で報告されていた音響関連物理定数(弾性定数、圧電定数、誘電率、密度)と化学組成比の正しい関係が得られる。[非特許文献5]では、図4に示した結晶1、2、3に対してそれぞれ音響関連物理定数が決定されている。各定数を用いてZY-LiNbO3に対するLSAW速度を計算し[参考文献3]、それを
式(1)にそれぞれ代入することにより各定数に対応した化学組成比が与えられる。結果を図15に示す。
【0036】
また、各定数の化学組成比に対する勾配と、図13Aで見積もったコングルエント組成48.481 Li2O-mol%に対応する定数も図15に示した。式(1)に示されたLSAW速度は、ZY-LiNbO3に対するものであるが、図15の定数を用いた計算により、所望のカット面、伝搬方向に対するLSAW速度に換算することができる。LiTaO3単結晶に対しても、[特許文献1]で得られた結果を元に同様な手順で図16のように音響関連物理定数と化学組成比の正しい関係が得られる。
【0037】
図15に示した化学組成比と音響関連物理定数の関係を用いることによって、高精度なSAWデバイス設計パラメータを得ることができる。まず、育成結晶の上部および下部からZ-cut基板を切出しY軸方向伝搬のLSAW速度をそれぞれ測定する。
【0038】
(1)式の関係を用いて、測定したLSAW速度から育成結晶上部および下部の化学組成比を求める。得られた化学組成比を用いて、直線近似により結晶上部からの距離の関数として化学組成比を求める。育成結晶から切り出す基板がZ-cut以外の場合は、 [特許文献1]に示された方法にしたがって、図15の音響関連物理定数を用いた計算により、ZY-LiNbO3に対するLSAW速度に換算してから(1)式に代入する。得られた化学組成比に対応する音響関連物理定数を、図15のデータより求める。得られた音響関連物理定数を用いて、SAWデバイスとして使用する所望の基板面の伝搬方向に対するSAW速度を数値計算する。
【0039】
得られたSAW速度から、直線近似により結晶上部からの距離の関数としてSAW速度を求める。SAWデバイス用基板の切出し位置に対応したSAW速度を用いて、SAWデバイスの設計パラメータ(電極幅、電極厚さ、電極周期等)を決定する。結晶上部と下部の化学組成比の差が許容範囲内の場合は、結晶上部と下部の化学組成比の中間値を育成結晶の化学組成比として上記計算を行えばより簡便である。
【0040】
上記の育成結晶の化学組成比を求める工程において、[特許文献1]に示される手法で、LiNbO3に対するTCとLSAW速度の正しい関係を予め求めておくことで、上記の結晶の化学組成比をLSAW速度から求める代わりにTCから求めることも可能である。また、音響関連物理定数の代わりに、光学的諸特性(屈折率、非線形光学定数等)と化学組成比の正しい関係を予め求めておけば、光エレクトロニクスデバイス設計における高精度化を同様に実現できる。上記の例は、LiTaO3に対しても同様に適用できる。
【0041】
図13で決定した真のコングルエント組成からどれだけの組成変化までを許容できるかを見積もるために、[特許文献1]の手順にしたがってチャージ回数100回の繰返し結晶育成を行なった場合をシミュレーションし、SAWデバイス用基板に対するSAW速度(VSAW)分布の許容幅と融液組成変動の許容幅の関係を求めた。
【0042】
シミュレーションでは、チャージ原料(融液)の総重量を5000 g、結晶固化率50%(2500 g)、直径77 mmの円柱状結晶を育成する場合を仮定し、チャージ用の原料組成のずれを真のコングルエント組成48.481 Li2O-mol%に対し、0〜±1 Li2O-mol%としている。
【0043】
また、SAWデバイス用基板として127.86°Y-cutX軸伝搬LiNbO3を仮定し、VSAWの許容幅が±0.1%、±0.05%、±0.02%、±0.01%、±0.005%、±0.002%に対応する、VLSAW、結晶組成、チャージ原料組成、TCの各変動を求めている。結果を図17に示す。
【0044】
要求されるVSAW分布の許容幅を±0.02%[参考文献4]とすれば、量産用コングルエント組成として見なせる原料組成の範囲は、48.481±0.017 Li2O-mol%と考えることができる。この場合、現状におけるSAWデバイス用ウェハの規格として定められているTCの許容幅±3℃[参考文献5]に対し、±1.0℃のわずかな分布しか生じない結晶量産が行なえる。
【0045】
以上のように、本発明によれば、真のコングルエント組成を与えることにより、量産される結晶内、結晶間の分布を極めて小さくできる。また、化学組成評価法の観点では、従来の結晶評価の指標であるTCよりも、絶対精度を保証できるVLSAWによる評価が可能になる。さらに、コングルエント組成結晶においては、これまで不明確であった育成結晶の化学組成比の絶対値が明らかになるため、化学組成比と音響関連物理定数やその他の化学的・物理的諸特性(VLSAW、VSAW、TC、格子定数など)の間の絶対的な関係を得ることができ、様々な化学的・物理的特性による絶対的な結晶評価が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
この発明は、例えば移動通信機などにフィルタとして使用されるSAWデバイスあるいは光変調器や周波数逓倍器などの光エレクトロニクスデバイスを製造するための強誘電体単結晶を量産する場合の原料組成の決定、単結晶の評価、及び高精度なデバイス設計に利用できる。
[参考文献]
[参考文献1] 特願2001-069181号
[参考文献2] K. Yamada, H. Takemura,
Y. Inoue, T. Omi, and, S. Matsumura, “Effect of Li/Nb ratio on the SAW velocity of 128°Y-X LiNbO3 wafers,” Jpn. J. Appl.
Phys., vol. 26, Suppl. 26-2, pp. 219-222, 1987.
[参考文献3] J. J. Campbell and W. R. Jones,
"Propagation of surface waves at the boundary between a piezoelectric
crystal and a fluid medium," IEEE Trans. Sonics Ultrason.,
vol. SU-17, pp. 71-76, Apr. 1970.
[参考文献4] M. Sato, A. Iwama, J.
Yamada, M. Hikita, and Y. Furukawa, "SAW
velocity variation LiTaO3 substrates," Jpn.
J. Appl. Phys., vol. 28, Suppl.
28-1, pp. 111-113, 1989.
[参考文献5] IEC-PAS, "Single crystal wafers applied
for surface acoustic wave device
- Specification and Measuring Method -," IEICE/Std-0002, April 17, 2001.
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】真のコングルエント組成を求める方法と化学組成を校正する方法を示すフロー図。
【図2】結晶インゴットから、育成軸方向のLSAW速度分布測定が行えるよう各種カット面の試料基板を抽出する位置を示す図。
【図3】各カット面の試料基板の形状とLSAW速度測定位置を示す図。
【図4】用いた結晶インゴットの育成条件とサイズを示す図。
【図5】各結晶インゴットに対するキュリー温度、密度、格子定数の測定値と、化学組成比とキュリー温度の既知の関係から求めた分析Li2O濃度の結果を示す図。
【図6】異なる組成のLiNbO3に対するLSAW速度の伝搬方向依存性を示す図であり、AがX-cut基板に対する結果、BがY-cut基板に対する結果、CがZ-cut基板に対する結果を示す。
【図7】LiNbO3に対する各伝搬方向のLSAW速度のLi2O濃度に対する変化率を示す図。
【図8】LSAW速度測定によるLi2O濃度、キュリー温度、密度、格子定数に対する感度と分解能を示す図。
【図9】異なる組成のLiNbO3単結晶インゴットから切り出したZ-cut基板試料に対してY軸方向伝搬のLSAW速度の径方向分布を測定した結果を示す図。
【図10】図9の結果から得られた各LiNbO3単結晶インゴットの育成軸方向分布を示す図。
【図11】異なる組成のLiNbO3単結晶インゴットから切り出したY-cut基板試料に対してX軸方向伝搬のLSAW速度の径方向分布を測定した結果を示す図。
【図12】異なる組成のLiNbO3単結晶インゴットから切り出したY-cut基板試料に対してX軸方向伝搬のLSAW速度の育成軸方向分布を測定した結果を示す図。
【図13】各LiNbO3単結晶インゴットの上部と下部のLSAW速度と仕込み時のLi2O濃度の関係からコングルエント組成を求める方法を示す図であり、AはZY-LiNbO3に対する結果、BはYX-LiNbO3に対する結果を示す。
【図14】校正前および校正後のLi2O濃度とLSAW速度との間の関係を示す図であり、AはZY-LiNbO3に対する結果、BはYX-LiNbO3に対する結果を示す。
【図15】LiNbO3に対する校正後のLi2O濃度と音響関連物理定数の関係を示す図。
【図16】LiTaO3に対する校正後のLi2O濃度と音響関連物理定数の関係を示す図。
【図17】127.86°YX-LiNbO3に対するSAW速度の各許容幅に相当するLSAW速度、キュリー温度、結晶組成、およびチャージ原料組成の許容幅を示す図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、LiNbO3やLiTaO3のような強誘電体単結晶を製造するための原料組成を決定する方法、及びその強誘電体単結晶の測定化学組成比を校正する方法、及び弾性表面波デバイスの高精度な設計パラメータの決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強誘電体LiNbO3、LiTaO3単結晶は、圧電効果だけでなく、電気光学効果や非線形光学効果など光学特性に関する優れた特性を有することから、弾性表面波(SAW)デバイスだけでなく光エレクトロニクスデバイスへの応用が盛んである。デバイスの性能は、究極的には単結晶基板の品質に依存する。そのため、デバイスの高性能化には、単結晶基板の均質性の向上(主に化学組成比の均一化)は欠かせない要素である。しかし、化学組成評価のために従来から広く利用されているキュリー温度TCの測定値は、各結晶製造業者の測定条件や測定装置に依存して異なり、また、その測定再現性も十分ではないため、信頼性のある結晶評価が行えなかった([非特許文献1]、[非特許文献2])。
【0003】
それに対し、信頼性の高い評価技術として、直線集束ビーム(LFB) 超音波材料特性解析装置([非特許文献3]、[非特許文献4])が提案されている。本装置は、水と試料基板の境界を伝搬する音波である漏洩弾性表面波(LSAW)の位相速度VLSAWを高精度に測定することができる。結晶の均一性を左右する主要因である化学組成比の変化をVLSAWの変化として捉えることにより評価が行われる。[特許文献1]において、量産される結晶内、結晶間の化学組成分布を許容範囲に抑えるために、LiTaO3単結晶に対する真のコングルエント組成(原料融液と育成結晶の組成が一致する組成)および原料融液組成ずれの許容幅を与えている。
【0004】
しかし、LiNbO3単結晶に対するそれらの値は求められていない。また、前述のように信頼性の低いTCの測定値から化学組成比を推定していたため、従来求められているLiNbO3、LiTaO3単結晶に対する化学組成比と音響関連物理定数(弾性定数、圧電定数、誘電率、密度)の間の関係も信頼性が低い[非特許文献5]。さらに、信頼性の低い各パラメータ(化学組成比、音響関連物理定数)を元にSAWデバイス等の設計を行えば、デバイス性能の低下、歩留まりの低下を招く。
【特許文献1】特願2004-103891号
【非特許文献1】J. Kushibiki, Y. Ohashi, and N. Mishima,"Calibration of Curie temperatures for LiTaO3 single crystalsby the LFB ultrasonic material characterization system," IEEE Trans. Ultrason., Ferroelect., Freq.Contr., vol. 50, pp. 544-552, May 2003.
【非特許文献2】J. Kushibiki, Y. Ohashi, and M. Mochizuki, "Evaluation of mass-producedcommercial LiTaO3 single crystals using the LFB ultrasonic materialcharacterization system," IEEE Trans. Ultrason.,Ferroelect., Freq. Contr., vol. 51, pp. 748-755, June2004.
【非特許文献3】J. Kushibiki and N. Chubachi, "Material characterization byline-focus-beam acoustic microscope," IEEE Trans. Sonics Ultrason., vol. SU-32, pp.189-212, Mar. 1985.
【非特許文献4】J. Kushibiki, Y.Ono, Y. Ohashi, and M. Arakawa, "Development ofthe line-focus-beam ultrasonic material characterization system," IEEETrans. Ultrason., Ferroelect.,Freq. Contr., vol. 49, pp. 99-113, Jan. 2002.
【非特許文献5】J. Kushibiki, I. Takanaga, S. Komatsuzaki, and T. Ujiie, "Chemical composition dependences of theacoustical physical constants of LiNbO3 and LiTaO3 singlecrystals," J. Appl. Phys., vol.91, pp.6341-6349,May 2002.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
強誘電体単結晶の評価のために従来から用いられているキュリー温度TCの測定値は、測定条件や装置間でばらついており、また、その測定再現性も十分ではないため、均質な結晶育成が行える真のコングルエント組成を求めることが困難であった。
【0006】
また、信頼性の低いTC測定値から推定された化学組成比を関数として求められた音響関連物理定数を用いてSAWデバイス等の設計を行う場合、高性能なデバイス設計に支障を来す。
【0007】
そこで、本発明は、均一な強誘電体単結晶を育成するため、LFB超音波材料特性解析装置を用いて、結晶内の化学組成が均一になる真のコングルエント組成を決定する方法を提供する。
【0008】
また、従来、キュリー温度から見積もられていた化学組成比を、より信頼性の高いVLSAWにより校正する方法を提供する。さらに、高精度なSAWデバイス設計のための方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明による強誘電体単結晶製造のための原料組成決定方法は、
(a) コングルエント組成の近傍で異なる化学組成のn個の単結晶を作製する工程と、nは2以上の整数であり、
(b) 各単結晶において、互いに異なるカット面の基板を複数切り出し、その各基板面内において漏洩弾性表面波の伝搬方向を変えながら漏洩弾性表面波速度を測定する工程と、
(c) 工程(b)で得られた結果をもとに、化学組成比変化に対して漏洩弾性表面波速度の変化率が大きいカット面の漏洩弾性表面波伝搬方向を少なくとも1つ選択する工程と、
(d) 工程(c)で選択したカット面の伝搬方向において、各単結晶の上部及び下部の漏洩弾性表面波速度を測定する工程と、単結晶の上部及び下部とは、結晶育成時の種結晶側が上部、その反対側が下部であり、
(e) 工程(d) で得られた上記上部及び下部の漏洩弾性表面波速度と仕込み時の原料組成との間の関係から、結晶の上部と下部で漏洩弾性表面波速度が一致する原料組成を真のコングルエント組成CCとする工程と、
(f) 上記漏洩弾性表面波速度、漏洩弾性表面波速度勾配、原料組成、結晶組成、密度の関係から、上記コングルエント組成からのずれの許容幅±ΔCCを求め、強誘電体単結晶製造のための原料組成を決める工程、
とを含む。
【0010】
第2の発明による組成決定方法は、上記第1の発明による原料組成決定方法において、上記許容幅±ΔCCは±0.017 Li2O-mol%であることを特徴とする原料組成決定方法。
【0011】
第3の発明による組成決定方法は、上記第1又は第2の発明による組成決定方法において、上記強誘電体単結晶はLiNbO3であり、上記コングルエント組成は48.481-Li2Omol%である。
【0012】
第4の発明は、強誘電体単結晶の化学組成比の校正方法であり、
(a) 化学組成比の異なる複数の試料に対し漏洩弾性表面波速度VLSAWを測定する工程と、 (b) 上記試料に対しするキュリー温度等の測定値から、既知のキュリー温度と化学組成比の関係を用いて化学組成比を求める工程と、
(c) 上記工程(a) で得られた測定速度VLSAWと、上記工程(b)で得られた化学組成比の関係(近似直線)を、上記第1の発明の(c)および(d)の工程で得られたコングルエントにおける化学組成比およびVLSAWの値に合致するように化学組成比を校正して、両者の関係(校正された近似直線)を得る工程、
(d) 第1の発明の工程(a)のn個の結晶に対するそれぞれの音響関連物理定数(弾性定数、圧電定数、誘電率、密度)を用いて計算される漏洩弾性表面波速度と、上記工程(c)で得られた関係とを用いて、上記n個の各結晶の化学組成比を求め、化学組成比に関する音響関連物理定数を求める工程、
とを含むことを特徴とする化学組成比の校正方法。
【0013】
第5の発明は、弾性表面波デバイスの設計パラメータ決定方法であり、
(a) 育成結晶に対する漏洩弾性表面波速度を測定し、第4の発明の工程(c)において得られた関係を用いて、育成結晶の化学組成比を求める工程と、
(b) 上記工程(a)で得られた化学組成比と、第4の発明の工程(d)で得られた化学組成比に関する音響関連物理定数を使って、上記工程(a)の育成結晶に対する音響関連物理定数を求める工程と、
(c) 上記工程(b)で求めた音響関連物理定数を用いて、弾性表面波デバイスとして用いるカット面の伝搬方向に対する弾性表面波速度を計算する工程と、
(d) 上記工程(c)で得られた弾性表面波速度を用いて、弾性表面波デバイス設計のための設計パラメータ(電極周期、電極幅、電極厚さ)を決定する工程、
とを含むことを特徴とする弾性表面波デバイスの設計パラメータ決定方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、均一な結晶育成を行うための真のコングルエント組成を決定することができる。従って、このような組成の強誘電体結晶を使用すれば、特性のばらつきの少ないデバイスを製造することができる。また、量産される単結晶に対し、VLSAW測定を用いた信頼性の高い化学組成評価が可能になる。さらに、これまで不明確であった育成結晶の化学組成比の絶対値が明らかになるため、化学組成比と音響関連物理定数やその他の化学的・物理的諸特性(VLSAW、VSAW、TC、格子定数など)の間の正しい関係を得ることができ、様々な化学的・物理的特性による絶対的な結晶評価および、高精度なデバイス設計が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
コングルエント組成の決定方法および化学組成比の校正方法について図1のフロー図を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
ステップS1:コングルエント組成近傍で異なる化学組成の結晶インゴットをn個(nは2以上の整数)準備する。
ステップS2:化学組成比の変化に対する感度の高いLSAWの伝搬方向を調べるために、ステップS1の各結晶インゴットから、数種類のカット面の基板試料を切り出す(図2参照)。ただし、結晶の育成軸方向の分布も調べられるように、育成軸に平行な基板面を準備するか、育成軸に垂直な基板面の場合は育成軸方向から2個以上の基板を準備する([参考文献1]参照)。
ステップS3:各結晶インゴットに対するキュリー温度を測定し、化学組成比とキュリー温度の既知の関係を用いて、各結晶インゴットの化学組成比を求める。
ステップS4:ステップS2で切り出した各結晶インゴットの各基板試料に対し、図3の×で示された位置でLSAW速度の伝搬方向依存性を測定する。
ステップS5:ステップS3とステップS4で得られた結果から、各基板面における各伝搬方向のLSAW速度の化学組成比依存性を求め、化学組成比変化に対する感度が高いLSAW伝搬方向を決定する。
ステップS6:ステップS5で決定した伝搬方向で、各結晶インゴットの育成軸方向のLSAW速度分布を測定する。
ステップS7:各結晶インゴットの仕込み原料組成と育成軸方向のLSAW速度分布の関係から、育成軸方向のLSAW速度分布が0になる組成を真のコングルエント組成と定め、そのときのLSAW速度を求める。
ステップS8:ステップS5で得られた化学組成比とLSAW速度の関係を、ステップS7で得られた真のコングルエント組成における化学組成比とLSAW速度の関係に合致するよう化学組成比を校正し、化学組成比とLSAW速度の間の正しい関係を得る。
ステップS9-1:[特許文献1]の手順に従って、コングルエント組成とみなせる原料融液組成の許容幅(真のコングルエント組成からのずれ)±ΔCCを求める。
ステップS9-2:ステップS8で得られた化学組成比とLSAW速度の関係から、化学組成比と音響関連物理定数の間の正しい関係を求める。
ステップS10-2:育成結晶に対して測定されたLSAW速度あるいはキュリー温度からステップS8で得られた関係を用いて化学組成比を求め、この化学組成比に対応する音響関連物理定数をステップS9-2で得られた関係から求め、この音響関連物理定数を用いて、この育成結晶に最適なSAWデバイスの設計パラメータ(電極幅、電極厚さ、電極間隔等)を求め、SAWデバイスを作製する。
【実施例2】
【0017】
原料仕込み時における化学組成比を48.0、48.5、49.0 Li2O-mol%として育成したLiNbO3単結晶を用意した。各結晶の育成条件およびサイズを図4に示す。いずれも、チョクラルスキー法によりZ軸方向に育成されている。各結晶の育成軸方向および直径方向の均質性を評価するために、図2に示すように、X-、Y-cut基板各1枚およびZ-cut基板3枚を切り出し、両面光学研磨して試料とした。各基板の形状およびLSAW速度の測定位置は図3の×および破線で示す。
【0018】
各結晶の化学組成を調べるために、図2に示したZ2基板と隣り合う別のZ-cut基板に対し、示差熱分析(DTA)法によりキュリー温度を測定した。結果を図5に示す。さらに、[参考文献2]に示されるキュリー温度と化学組成比の関係を用いて、各結晶の実際のLi2O濃度を求めた結果も図5に“分析Li2O濃度”として示す。
【0019】
密度は、Z2基板に対してアルキメデスの原理に基づいて測定した。また、格子定数aおよびcは、それぞれX-cutおよびZ2試料に対し、図3の×に示す位置でBond法を用いたX線回折法により測定した。それぞれの結果を図5に示す。Li2O濃度が増大するにつれ、キュリー温度は単調に増大し、密度および格子定数は減少する。図5の結果に対する直線近似から、その変化率は、43.9℃/mol%、-5.93
(kg/m3)/mol%、-1.3×10-4nm/mol%(a軸)、-5.7×10-4nm/mol%(c軸)である。
【0020】
音響特性の化学組成比依存性を調べるために、225 MHzにおいて結晶1、2、3のX、Y、Z2基板(図3の×の位置)に対して、LSAW速度の伝搬方向依存性を測定した。結果を図6に示す。各結晶面において、LSAW速度は結晶の対称性を反映して変化している。Z-cut基板では、全伝搬方向においてLi2Oの増加とともにLSAW速度が上昇しているが、X-cutの70°〜160°の間や、Y-cutの40°〜140°の間の伝搬方向では逆転している。
【0021】
図7に各基板面上で化学組成比に対する速度変化が最大となる伝搬方向および基本軸の伝搬方向に対するLSAW速度と分析Li2O濃度の関係を示す。最小二乗法による直線近似により求めた速度変化率は伝搬方向に依存して異なっているが、コングルエント組成近傍で化学組成比と各LSAW速度との間にはほぼ線形な関係があることがわかる。各基板面における速度変化率の最大値は、X-cut面に対しては123.4°Y軸方向で-24.9 (m/s)/Li2O-mol%、Y-cut面に対してはX軸方向で+21.5(m/s)/Li2O-mol%、Z-cut面に対してはY軸方向で+39.4
(m/s)/Li2O-mol%である。
【0022】
結晶評価において、LSAWの伝搬方向は基本軸あるいはパワーフローアングルが0となる方向を選ぶべきである。また、選択した伝搬方向において化学組成比に対する感度が高くなければならない。これらの観点から、Z-cut面のY軸方向伝搬が最適であると考えられる。しかし、化学組成比の分布が大きく現れると考えられる育成軸方向(Z軸)の詳細な分布を調べるには、図2からわかるようにZ-cut基板よりもY-cut基板の方が有利である。そこで、ここではZ-cut面のY軸方向伝搬とともに、Y-cut基板のX軸方向伝搬のLSAWをとりあげて結晶内のLSAW速度分布測定を行う。
【0023】
図8に、化学的・物理的諸特性に対する本評価法(ZY-LiNbO3およびYX-LiNbO3のLSAW速度)の感度および測定分解能を示す。測定分解能は、LSAW速度の測定再現性±0.0013%(3800 m/s近傍で±0.05 m/sに相当)として計算している。本超音波法は、キュリー温度の分解能(約±1℃)に比べ非常に分解能が高く、また局所的な組成の分布を評価する上で非常に有利である。また、Z-cut Y軸伝搬のLSAW速度を用いる場合の方が、Y-cut X軸伝搬のLSAW速度を用いる場合よりも、およそ2倍分解能が高い。
【0024】
次に、各結晶インゴット内のLSAW速度分布を測定した結果を示す。まず、結晶1、2、3から切り出したZ-cut基板(上部Z1、中部Z2、下部Z3)の径方向(図3の点線)において、Y軸伝搬のLSAW速度を1 mm毎に測定した結果を図9に示す。結晶上部の径方向で、周辺部において0.5〜0.8 m/s程度の速度低下が見られる。
【0025】
仕込み原料組成の変化に対しては、径方向に比べ育成軸方向の分布の変化が大きい。各Z-cut基板の中心(図3の×で示した位置)のLSAW速度測定値と結晶上部からの距離との関係から、育成軸方向の分布を求めた結果を図10に示す。各結晶において、結晶上部から下部にかけてほぼ線形にLSAW速度が変化している。
【0026】
図10の実線は最小二乗法による近似直線である。その勾配は、結晶1に対しては-0.037 (m/s)/mm、結晶2に対しては-0.001 (m/s)/mm、結晶3に対しては+0.042 (m/s)/mmである。これらは、図7の関係を用いてLi2O濃度の変化率に換算すると、結晶1に対しては-0.00093
mol%/mm、結晶2に対しては-0.00002 mol%/mm、結晶3に対しては+0.00107 mol%/mmである。
【0027】
同様にして、結晶1、2、3から切り出したY-cut基板の径方向(図3の点線T, M, B)において、X軸伝搬のLSAW速度を1 mm毎に測定した結果を図11に示す。図9の場合と同様に、結晶上部の径方向(Tのライン)で、周辺部が0.3〜0.6 m/s程度、速度低下する傾向が見られるが、いずれの結晶においても、育成軸方向に比べ径方向の分布は小さい。
【0028】
次に、Y-cut基板の育成軸方向(図3の点線P)において、X軸伝搬のLSAW速度を1 mm毎に測定した結果を図12に実線で示す。各結晶において、結晶上部から下部にかけてほぼ線形にLSAW速度が変化しているが、結晶3の上部近傍では、その線形的な変化から逸脱した特異な変化が見られる。
【0029】
結晶3の結晶上部では気泡が観察されたことから、育成条件と関連した問題を検出しているものと考えられる。これは、Z-cut基板では捉えにくい変化であり、Y-cut基板を用いた場合の利点であると言える。図12の点線は最小二乗法による近似直線である。その勾配は、結晶1に対しては-0.022 (m/s)/mm、結晶2に対しては+0.001 (m/s)/mm、結晶3に対しては+0.024 (m/s)/mmである。
【0030】
これらは、図7の関係を用いてLi2O濃度の変化率に換算すると、結晶1に対しては-0.00102 mol%/mm、結晶2に対しては+0.00006 mol%/mm、結晶3に対しては+0.00112 mol%/mmである。いずれの結晶においても、育成軸方向のLi2O濃度勾配は、ZY-LiNbO3に対する測定結果から求めたものとほぼ一致している。
【0031】
より均質な結晶を育成するために、得られた結果からコングルエント組成を求めてみる。図13は、図10および図12の近似直線から求めた各結晶の上部(0 mm)と下部(80 mm)の位置でのLSAW速度と、各結晶の仕込み時のLi2O濃度との関係を求めた結果を示している。
【0032】
図中の実線は、最小二乗法による近似直線である。図13において、2つの実線の交点が、育成軸方向のLSAW速度分布が0になるコングルエント組成と考える。交点を求めると、コングルエント組成はZY-LiNbO3の結果から求めた場合48.481 Li2O-mol%、YX-LiNbO3の結果から求めた場合48.477 Li2O-mol%であり、そのときのLSAW速度はそれぞれ、3875.0 m/s(ZY-LiNbO3)、3711.6 m/s(YX-LiNbO3)と見積もられた。分解能が最も高いZY-LiNbO3の結果から求めた組成が、コングルエント組成として最も信頼性が高いと考えられる。しかし、YX-LiNbO3の結果から求めた場合でも、測定分解能と同程度のわずかな差(0.004 Li2O-mol%)しか生じていない。
【0033】
図5および図7の分析Li2O濃度はキュリー温度の測定値から換算された値である。我々のこれまでの検討([非特許文献1]、[非特許文献2])からキュリー温度の測定値は測定条件や装置により異なる値が得られるため、図5および図7に示した分析Li2O濃度の絶対値の信頼性は低い。
【0034】
そこで、図7においてLSAW速度を基準にして、図13で求めた真のコングルエント組成におけるLi2O濃度とLSAW速度に合致するよう分析Li2O濃度を校正する。ZY-LiNbO3とYX-LiNbO3の結果を図14に示す。図14A、図14Bの結果において、分析Li2O濃度の校正量は、それぞれ0.057 Li2O-mol%、0.056 Li2O-molであり、ほぼ等しい校正量である。これはキュリー温度に換算すると約2.5℃の校正量に相当する。図14Aの校正後の結果は次式のように表される。
C(Li2O) = 0.0254×(VLSAW - 3875.0)
+ 48.481 (1)
ここで、C(Li2O)は分析Li2O濃度、VLSAWはZY-LiNbO3に対するLSAW速度を表す。式(1)から、結晶1、2、3に対する分析Li2O濃度を求めると、順に、48.324、48.489、48.641
Li2O-mol%となる。したがって、結晶2はコングルエント組成に非常に近い組成(±0.01 Li2O-mol%以内)であったことがわかる。
【0035】
式(1)の関係を用いることで、[非特許文献5]で報告されていた音響関連物理定数(弾性定数、圧電定数、誘電率、密度)と化学組成比の正しい関係が得られる。[非特許文献5]では、図4に示した結晶1、2、3に対してそれぞれ音響関連物理定数が決定されている。各定数を用いてZY-LiNbO3に対するLSAW速度を計算し[参考文献3]、それを
式(1)にそれぞれ代入することにより各定数に対応した化学組成比が与えられる。結果を図15に示す。
【0036】
また、各定数の化学組成比に対する勾配と、図13Aで見積もったコングルエント組成48.481 Li2O-mol%に対応する定数も図15に示した。式(1)に示されたLSAW速度は、ZY-LiNbO3に対するものであるが、図15の定数を用いた計算により、所望のカット面、伝搬方向に対するLSAW速度に換算することができる。LiTaO3単結晶に対しても、[特許文献1]で得られた結果を元に同様な手順で図16のように音響関連物理定数と化学組成比の正しい関係が得られる。
【0037】
図15に示した化学組成比と音響関連物理定数の関係を用いることによって、高精度なSAWデバイス設計パラメータを得ることができる。まず、育成結晶の上部および下部からZ-cut基板を切出しY軸方向伝搬のLSAW速度をそれぞれ測定する。
【0038】
(1)式の関係を用いて、測定したLSAW速度から育成結晶上部および下部の化学組成比を求める。得られた化学組成比を用いて、直線近似により結晶上部からの距離の関数として化学組成比を求める。育成結晶から切り出す基板がZ-cut以外の場合は、 [特許文献1]に示された方法にしたがって、図15の音響関連物理定数を用いた計算により、ZY-LiNbO3に対するLSAW速度に換算してから(1)式に代入する。得られた化学組成比に対応する音響関連物理定数を、図15のデータより求める。得られた音響関連物理定数を用いて、SAWデバイスとして使用する所望の基板面の伝搬方向に対するSAW速度を数値計算する。
【0039】
得られたSAW速度から、直線近似により結晶上部からの距離の関数としてSAW速度を求める。SAWデバイス用基板の切出し位置に対応したSAW速度を用いて、SAWデバイスの設計パラメータ(電極幅、電極厚さ、電極周期等)を決定する。結晶上部と下部の化学組成比の差が許容範囲内の場合は、結晶上部と下部の化学組成比の中間値を育成結晶の化学組成比として上記計算を行えばより簡便である。
【0040】
上記の育成結晶の化学組成比を求める工程において、[特許文献1]に示される手法で、LiNbO3に対するTCとLSAW速度の正しい関係を予め求めておくことで、上記の結晶の化学組成比をLSAW速度から求める代わりにTCから求めることも可能である。また、音響関連物理定数の代わりに、光学的諸特性(屈折率、非線形光学定数等)と化学組成比の正しい関係を予め求めておけば、光エレクトロニクスデバイス設計における高精度化を同様に実現できる。上記の例は、LiTaO3に対しても同様に適用できる。
【0041】
図13で決定した真のコングルエント組成からどれだけの組成変化までを許容できるかを見積もるために、[特許文献1]の手順にしたがってチャージ回数100回の繰返し結晶育成を行なった場合をシミュレーションし、SAWデバイス用基板に対するSAW速度(VSAW)分布の許容幅と融液組成変動の許容幅の関係を求めた。
【0042】
シミュレーションでは、チャージ原料(融液)の総重量を5000 g、結晶固化率50%(2500 g)、直径77 mmの円柱状結晶を育成する場合を仮定し、チャージ用の原料組成のずれを真のコングルエント組成48.481 Li2O-mol%に対し、0〜±1 Li2O-mol%としている。
【0043】
また、SAWデバイス用基板として127.86°Y-cutX軸伝搬LiNbO3を仮定し、VSAWの許容幅が±0.1%、±0.05%、±0.02%、±0.01%、±0.005%、±0.002%に対応する、VLSAW、結晶組成、チャージ原料組成、TCの各変動を求めている。結果を図17に示す。
【0044】
要求されるVSAW分布の許容幅を±0.02%[参考文献4]とすれば、量産用コングルエント組成として見なせる原料組成の範囲は、48.481±0.017 Li2O-mol%と考えることができる。この場合、現状におけるSAWデバイス用ウェハの規格として定められているTCの許容幅±3℃[参考文献5]に対し、±1.0℃のわずかな分布しか生じない結晶量産が行なえる。
【0045】
以上のように、本発明によれば、真のコングルエント組成を与えることにより、量産される結晶内、結晶間の分布を極めて小さくできる。また、化学組成評価法の観点では、従来の結晶評価の指標であるTCよりも、絶対精度を保証できるVLSAWによる評価が可能になる。さらに、コングルエント組成結晶においては、これまで不明確であった育成結晶の化学組成比の絶対値が明らかになるため、化学組成比と音響関連物理定数やその他の化学的・物理的諸特性(VLSAW、VSAW、TC、格子定数など)の間の絶対的な関係を得ることができ、様々な化学的・物理的特性による絶対的な結晶評価が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
この発明は、例えば移動通信機などにフィルタとして使用されるSAWデバイスあるいは光変調器や周波数逓倍器などの光エレクトロニクスデバイスを製造するための強誘電体単結晶を量産する場合の原料組成の決定、単結晶の評価、及び高精度なデバイス設計に利用できる。
[参考文献]
[参考文献1] 特願2001-069181号
[参考文献2] K. Yamada, H. Takemura,
Y. Inoue, T. Omi, and, S. Matsumura, “Effect of Li/Nb ratio on the SAW velocity of 128°Y-X LiNbO3 wafers,” Jpn. J. Appl.
Phys., vol. 26, Suppl. 26-2, pp. 219-222, 1987.
[参考文献3] J. J. Campbell and W. R. Jones,
"Propagation of surface waves at the boundary between a piezoelectric
crystal and a fluid medium," IEEE Trans. Sonics Ultrason.,
vol. SU-17, pp. 71-76, Apr. 1970.
[参考文献4] M. Sato, A. Iwama, J.
Yamada, M. Hikita, and Y. Furukawa, "SAW
velocity variation LiTaO3 substrates," Jpn.
J. Appl. Phys., vol. 28, Suppl.
28-1, pp. 111-113, 1989.
[参考文献5] IEC-PAS, "Single crystal wafers applied
for surface acoustic wave device
- Specification and Measuring Method -," IEICE/Std-0002, April 17, 2001.
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】真のコングルエント組成を求める方法と化学組成を校正する方法を示すフロー図。
【図2】結晶インゴットから、育成軸方向のLSAW速度分布測定が行えるよう各種カット面の試料基板を抽出する位置を示す図。
【図3】各カット面の試料基板の形状とLSAW速度測定位置を示す図。
【図4】用いた結晶インゴットの育成条件とサイズを示す図。
【図5】各結晶インゴットに対するキュリー温度、密度、格子定数の測定値と、化学組成比とキュリー温度の既知の関係から求めた分析Li2O濃度の結果を示す図。
【図6】異なる組成のLiNbO3に対するLSAW速度の伝搬方向依存性を示す図であり、AがX-cut基板に対する結果、BがY-cut基板に対する結果、CがZ-cut基板に対する結果を示す。
【図7】LiNbO3に対する各伝搬方向のLSAW速度のLi2O濃度に対する変化率を示す図。
【図8】LSAW速度測定によるLi2O濃度、キュリー温度、密度、格子定数に対する感度と分解能を示す図。
【図9】異なる組成のLiNbO3単結晶インゴットから切り出したZ-cut基板試料に対してY軸方向伝搬のLSAW速度の径方向分布を測定した結果を示す図。
【図10】図9の結果から得られた各LiNbO3単結晶インゴットの育成軸方向分布を示す図。
【図11】異なる組成のLiNbO3単結晶インゴットから切り出したY-cut基板試料に対してX軸方向伝搬のLSAW速度の径方向分布を測定した結果を示す図。
【図12】異なる組成のLiNbO3単結晶インゴットから切り出したY-cut基板試料に対してX軸方向伝搬のLSAW速度の育成軸方向分布を測定した結果を示す図。
【図13】各LiNbO3単結晶インゴットの上部と下部のLSAW速度と仕込み時のLi2O濃度の関係からコングルエント組成を求める方法を示す図であり、AはZY-LiNbO3に対する結果、BはYX-LiNbO3に対する結果を示す。
【図14】校正前および校正後のLi2O濃度とLSAW速度との間の関係を示す図であり、AはZY-LiNbO3に対する結果、BはYX-LiNbO3に対する結果を示す。
【図15】LiNbO3に対する校正後のLi2O濃度と音響関連物理定数の関係を示す図。
【図16】LiTaO3に対する校正後のLi2O濃度と音響関連物理定数の関係を示す図。
【図17】127.86°YX-LiNbO3に対するSAW速度の各許容幅に相当するLSAW速度、キュリー温度、結晶組成、およびチャージ原料組成の許容幅を示す図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電体単結晶製造のための原料組成決定方法において、強誘電体単結晶より切り出した第1の基板の漏洩弾性表面波速度の差分比のうち最大値を取る1乃至複数の漏洩弾性表面波伝搬方向を最大値伝搬方向と定め、上記強誘電体単結晶の上部および下部より切り出した第2の基板の漏洩弾性表面波速度測定において前記最大値伝搬方向を用いて測定し、該測定値より真のコングルエント組成Ccを求め、前記強誘電体単結晶の諸特性より上記真のコングルエント組成Ccからのずれの許容値幅±△Ccを求め、強誘電体単結晶製造のための原料組成を決める事を特徴とする原料組成決定方法。
【請求項2】
上記第1の基板を切り出す強誘電体単結晶は、コングルエント組成の近傍で互いに異なる組成を持つn個(nは2つ以上の整数)の強誘電体単結晶であることを特徴とする請求項1記載の原料組成決定方法。
【請求項3】
上記強誘電体単結晶より切り出す第1の基板は、カット面を異ならせた複数の基板であることを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載の原料組成決定方法。
【請求項4】
上記漏洩弾性表面波速度の測定は、前記第1の基板の面内の複数の伝搬方向で行い、上記漏洩弾性表面波速度の差分比を得る為の漏洩弾性表面波速度の差分は、前記n個の強誘電体単結晶より同一のカット面で得られた1対の第1の基板において、同一の漏洩弾性表面波伝搬方向にて測定した漏洩弾性表面波速度を比較し、その差分である伝搬速度差分として求める事を特徴とする請求項1乃至3の内の一あるいは複数に記載の原料組成決定方法。
【請求項5】
上記漏洩弾性表面波速度の差分比は、前記伝搬速度差分と、前記1対の第1の基板同士の化学組成比の差分との比であり、該比を前記n個の強誘電体単結晶より得られる第1の各基板の各対の組み合せにおいて求め、この中の最大値を1乃至複数得る事を特徴とする請求項1及至4の内の一あるいは複数に記載の原料組成決定方法。
【請求項6】
前記真のコングルエント組成Ccは、前記n個の強誘電体単結晶の各原料組成値と、前記n個の強誘電体単結晶の各上部/下部より切り出された前記第2の基板における前記最大値伝搬方向の漏洩弾性表面波速度とから求める事を特徴とする請求項1及至5の内の一あるいは複数に記載の原料組成決定方法。
【請求項7】
前記強誘電体単結晶の諸特性は、漏洩弾性表面波速度、漏洩弾性表面波速度勾配、原料組成、結晶組成、密度の各値である事を特徴とする請求項1及至6の内の一あるいは複数に記載の原料組成決定方法。
【請求項8】
前記カット面は、強誘電体単結晶の育成方向をZ軸とし、X、Y、Zの3方向であり、また、その面の切り出し面はZ方向中心軸を通り強誘電体単結晶の直径に渡るY面、該Y面に垂直でZ方向中心軸を通り強誘電体単結晶の半径に渡るX面、前記Y面に対し前記X面と反対面に位置する複数のZ面であることを特徴とする請求項1及至7の内の一あるいは複数に記載の原料組成決定方法。
【請求項9】
強誘電体単結晶製造のための原料組成決定方法であり、
(a)強誘電体単結晶において、コングルエント組成の近傍で互いに異なる化学組成をもつn個(nは2以上の整数)の強誘電体単結晶を作製する工程と、
(b)各前記強誘電体単結晶より、カット面を異ならせた基板を複数切り出す工程と、
(c)前記基板の各々において、基板面内の漏洩弾性表面波の速度を、伝搬方向を変えながら測定する工程と、
(d)各前記基板のキュリー温度より、化学組成比とキュリー温度の既知の関係を用いて、各前記強誘電体単結晶の化学組成比を求める工程と、
(e)上記強誘電体単結晶より同一のカット面で切り出された前記基板を1対選び出す工程と、
(f)前記1対の基板において、前記請求項9工程(d)で求めた各化学組成比の差分を、化学組成比変化として求める工程と、
(g)前記請求項9工程(f)で定めた1対の基板において前記請求項9工程(c)で求めた漏洩弾性表面波の速度の内、同一伝搬方向の速度の差分である漏洩弾性表面波変化を求める工程と、
(h)前記請求項9工程(g)で求めた漏洩弾性表面波変化の前記請求項9工程(f)で求めた化学組成変化に対する変化率である漏洩弾性表面波変化/化学組成比変化の値を求める工程と、
(i)上記強誘電体単結晶より切り出された前記基板の各組み合わせに対して、前記請求項9工程(f)、(g)、(h)を実施する工程と、
(j)前記請求項9工程(i)で求めた漏洩弾性表面波変化/化学組成比変化の値の大きい方から少なくとも1つ選び、該値を示すカット面と漏洩弾性表面波伝搬方向を特定する工程と、
(k)前記強誘電体単結晶の上部及び下部を、結晶育成時の種結晶側を上部、その反対側を下部とし、前記請求項9工程(e)〜(j)の測定を行った強誘電体単結晶より前記上部及び下部からの基板を得る工程と、
(l)前記請求項9工程(k)で求めた上部基板及び下部基板において前記請求項9工程(j)で特定した漏洩弾性表面波伝搬方向にて、漏洩弾性表面波の速度を測定する工程と、
(m)前記請求項9工程(e)〜(l)を、前記請求項9工程(a)で作製したn個の強誘電体単結晶に実施する工程と、
(n)前記請求項9工程(m)の測定を行った強誘電体単結晶の各原料組成値と、前記請求項9工程(m)で得られた前記請求項9工程(l)による各強誘電体単結晶上部基板及び下部基板の漏洩弾性表面波速度とから真のコングルエント組成Cc及び、対応する漏洩弾性表面波速度VLSAW(Cc)を求める工程と、
(p)前記請求項9工程(a)で作製したn個の強誘電体単結晶の、漏洩弾性表面波速度、漏洩弾性表面波速度勾配、原料組成、結晶組成、密度の各値を用いて、前記真のコングルエント組成Ccのずれの許容値幅±△Ccを求める工程と、
(q)前記真のコングルエント組成Ccと、前記許容値幅±△Ccとから、強誘電体単結晶製造のための強誘電体単結晶原料組成を決める工程、
とを含む事を特徴とする原料組成決定方法。
【請求項10】
前記請求項9工程(m)の測定を行った強誘電体単結晶の各原料組成値と、前記請求項9工程(m)で得られた前記請求項9工程(l)による各強誘電体単結晶上部基板及び下部基板の漏洩弾性表面波速度、とから真のコングルエント組成Cc及び、対応する漏洩弾性表面波速度VLSAW(Cc)を求める工程は、原料組成値を横軸とし、漏洩弾性表面波速度を縦軸としてグラフを構成し、前記上部基板における漏洩弾性表面波速度曲線と、前記下部基板における漏洩弾性表面波速度曲線とを描き両曲線が交錯する原料組成値及び漏洩弾性表面波速度を求め、該原料組成値を真のコングルエント組成Ccとし、該漏洩弾性表面波速度を真のコングルエント組成に対応する漏洩弾性表面波速度VLSAW(Cc)とする事を特徴とする請求項1乃至9の内一あるいは複数に記載の原料組成決定方法。
【請求項11】
強誘電体単結晶製造のための原料組成決定方法において、上記許容値±△Ccは±0.017LiO2−mol%であることを特徴とする請求項1乃至10の内一あるいは複数に記載の原料組成決定方法。
【請求項12】
強誘電体単結晶製造のための原料組成決定方法において、上記強誘電体単結晶はLiNbO3であり、上記コングルエント組成は48.481LiO2−mol%であることを特徴とする請求項1乃至11の内一あるいは複数に記載の原料組成決定方法。
【請求項13】
強誘電体単結晶の化学組成比の校正方法であり、
(a)化学組成比の異なる複数の試料に対し、第3の漏洩弾性表面波速度VLSAWを測定する工程と、
(b)前記試料に対するキュリー温度の測定値から、既知のキュリー温度と化学組成比の関係を用いて第4の化学組成比を求める工程と、
(c)前記請求項13工程(a)で得られた第3の漏洩弾性表面波速度VLSAWと前記請求項13工程(b)で得られた第4の化学組成比の関係を近似直線であらわし、該近似直線を、前記請求項9工程(n)で得られた化学組成比Ccおよび漏洩弾性表面波速度VLSAW(Cc)の値に合致するように第4の化学組成比を校正して、両者の関係を表す校正された近似直線を得る工程と、
(d)請求項9工程の(a)のn個の強誘電体単結晶に対するそれぞれの音響関連物理定数(弾性定数、圧電定数、誘電率、密度)を用いて計算される第5の漏洩弾性表面波速度と、上記請求項13工程(c)で得られた校正された近似直線とを用いて、上記n個の強誘電体単結晶の校正された化学組成比を求め、該校正された化学組成比における音響関連物理定数を求める工程、
とを含むことを特徴とする化学組成比の校正方法。
【請求項14】
弾性表面波デバイスの設計パラメータ決定方法であり、
(a)育成結晶に対する漏洩弾性表面波速度を測定し、請求項13工程(c)において得られた校正された近似直線を用いて、前記育成結晶の第6の化学組成比を求める工程と、
(b)前記請求項14工程(a)で得られた第6の化学組成比と、前記請求項13工程(d)で得られた校正された化学組成比における音響関連物理定数とを使って、前記請求項14工程(a)の育成結晶の第7の音響関連物理定数を求める工程と、
(c)前記請求項14工程(b)で求めた第7の音響関連物理定数を用いて、弾性表面波デバイスとして切り出すためのカット面における伝搬方向での第8の弾性表面波速度を計算する工程と、
(d)前記請求項14工程(c)で得られた第8の弾性表面波速度を用いて、弾性表面波デバイス設計のための設計パラメータ(電極周期、電極幅、電極厚さ)を決定する工程、
とを含むことを特徴とする弾性表面波デバイスの設計パラメータ決定方法。
【請求項1】
強誘電体単結晶製造のための原料組成決定方法において、強誘電体単結晶より切り出した第1の基板の漏洩弾性表面波速度の差分比のうち最大値を取る1乃至複数の漏洩弾性表面波伝搬方向を最大値伝搬方向と定め、上記強誘電体単結晶の上部および下部より切り出した第2の基板の漏洩弾性表面波速度測定において前記最大値伝搬方向を用いて測定し、該測定値より真のコングルエント組成Ccを求め、前記強誘電体単結晶の諸特性より上記真のコングルエント組成Ccからのずれの許容値幅±△Ccを求め、強誘電体単結晶製造のための原料組成を決める事を特徴とする原料組成決定方法。
【請求項2】
上記第1の基板を切り出す強誘電体単結晶は、コングルエント組成の近傍で互いに異なる組成を持つn個(nは2つ以上の整数)の強誘電体単結晶であることを特徴とする請求項1記載の原料組成決定方法。
【請求項3】
上記強誘電体単結晶より切り出す第1の基板は、カット面を異ならせた複数の基板であることを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載の原料組成決定方法。
【請求項4】
上記漏洩弾性表面波速度の測定は、前記第1の基板の面内の複数の伝搬方向で行い、上記漏洩弾性表面波速度の差分比を得る為の漏洩弾性表面波速度の差分は、前記n個の強誘電体単結晶より同一のカット面で得られた1対の第1の基板において、同一の漏洩弾性表面波伝搬方向にて測定した漏洩弾性表面波速度を比較し、その差分である伝搬速度差分として求める事を特徴とする請求項1乃至3の内の一あるいは複数に記載の原料組成決定方法。
【請求項5】
上記漏洩弾性表面波速度の差分比は、前記伝搬速度差分と、前記1対の第1の基板同士の化学組成比の差分との比であり、該比を前記n個の強誘電体単結晶より得られる第1の各基板の各対の組み合せにおいて求め、この中の最大値を1乃至複数得る事を特徴とする請求項1及至4の内の一あるいは複数に記載の原料組成決定方法。
【請求項6】
前記真のコングルエント組成Ccは、前記n個の強誘電体単結晶の各原料組成値と、前記n個の強誘電体単結晶の各上部/下部より切り出された前記第2の基板における前記最大値伝搬方向の漏洩弾性表面波速度とから求める事を特徴とする請求項1及至5の内の一あるいは複数に記載の原料組成決定方法。
【請求項7】
前記強誘電体単結晶の諸特性は、漏洩弾性表面波速度、漏洩弾性表面波速度勾配、原料組成、結晶組成、密度の各値である事を特徴とする請求項1及至6の内の一あるいは複数に記載の原料組成決定方法。
【請求項8】
前記カット面は、強誘電体単結晶の育成方向をZ軸とし、X、Y、Zの3方向であり、また、その面の切り出し面はZ方向中心軸を通り強誘電体単結晶の直径に渡るY面、該Y面に垂直でZ方向中心軸を通り強誘電体単結晶の半径に渡るX面、前記Y面に対し前記X面と反対面に位置する複数のZ面であることを特徴とする請求項1及至7の内の一あるいは複数に記載の原料組成決定方法。
【請求項9】
強誘電体単結晶製造のための原料組成決定方法であり、
(a)強誘電体単結晶において、コングルエント組成の近傍で互いに異なる化学組成をもつn個(nは2以上の整数)の強誘電体単結晶を作製する工程と、
(b)各前記強誘電体単結晶より、カット面を異ならせた基板を複数切り出す工程と、
(c)前記基板の各々において、基板面内の漏洩弾性表面波の速度を、伝搬方向を変えながら測定する工程と、
(d)各前記基板のキュリー温度より、化学組成比とキュリー温度の既知の関係を用いて、各前記強誘電体単結晶の化学組成比を求める工程と、
(e)上記強誘電体単結晶より同一のカット面で切り出された前記基板を1対選び出す工程と、
(f)前記1対の基板において、前記請求項9工程(d)で求めた各化学組成比の差分を、化学組成比変化として求める工程と、
(g)前記請求項9工程(f)で定めた1対の基板において前記請求項9工程(c)で求めた漏洩弾性表面波の速度の内、同一伝搬方向の速度の差分である漏洩弾性表面波変化を求める工程と、
(h)前記請求項9工程(g)で求めた漏洩弾性表面波変化の前記請求項9工程(f)で求めた化学組成変化に対する変化率である漏洩弾性表面波変化/化学組成比変化の値を求める工程と、
(i)上記強誘電体単結晶より切り出された前記基板の各組み合わせに対して、前記請求項9工程(f)、(g)、(h)を実施する工程と、
(j)前記請求項9工程(i)で求めた漏洩弾性表面波変化/化学組成比変化の値の大きい方から少なくとも1つ選び、該値を示すカット面と漏洩弾性表面波伝搬方向を特定する工程と、
(k)前記強誘電体単結晶の上部及び下部を、結晶育成時の種結晶側を上部、その反対側を下部とし、前記請求項9工程(e)〜(j)の測定を行った強誘電体単結晶より前記上部及び下部からの基板を得る工程と、
(l)前記請求項9工程(k)で求めた上部基板及び下部基板において前記請求項9工程(j)で特定した漏洩弾性表面波伝搬方向にて、漏洩弾性表面波の速度を測定する工程と、
(m)前記請求項9工程(e)〜(l)を、前記請求項9工程(a)で作製したn個の強誘電体単結晶に実施する工程と、
(n)前記請求項9工程(m)の測定を行った強誘電体単結晶の各原料組成値と、前記請求項9工程(m)で得られた前記請求項9工程(l)による各強誘電体単結晶上部基板及び下部基板の漏洩弾性表面波速度とから真のコングルエント組成Cc及び、対応する漏洩弾性表面波速度VLSAW(Cc)を求める工程と、
(p)前記請求項9工程(a)で作製したn個の強誘電体単結晶の、漏洩弾性表面波速度、漏洩弾性表面波速度勾配、原料組成、結晶組成、密度の各値を用いて、前記真のコングルエント組成Ccのずれの許容値幅±△Ccを求める工程と、
(q)前記真のコングルエント組成Ccと、前記許容値幅±△Ccとから、強誘電体単結晶製造のための強誘電体単結晶原料組成を決める工程、
とを含む事を特徴とする原料組成決定方法。
【請求項10】
前記請求項9工程(m)の測定を行った強誘電体単結晶の各原料組成値と、前記請求項9工程(m)で得られた前記請求項9工程(l)による各強誘電体単結晶上部基板及び下部基板の漏洩弾性表面波速度、とから真のコングルエント組成Cc及び、対応する漏洩弾性表面波速度VLSAW(Cc)を求める工程は、原料組成値を横軸とし、漏洩弾性表面波速度を縦軸としてグラフを構成し、前記上部基板における漏洩弾性表面波速度曲線と、前記下部基板における漏洩弾性表面波速度曲線とを描き両曲線が交錯する原料組成値及び漏洩弾性表面波速度を求め、該原料組成値を真のコングルエント組成Ccとし、該漏洩弾性表面波速度を真のコングルエント組成に対応する漏洩弾性表面波速度VLSAW(Cc)とする事を特徴とする請求項1乃至9の内一あるいは複数に記載の原料組成決定方法。
【請求項11】
強誘電体単結晶製造のための原料組成決定方法において、上記許容値±△Ccは±0.017LiO2−mol%であることを特徴とする請求項1乃至10の内一あるいは複数に記載の原料組成決定方法。
【請求項12】
強誘電体単結晶製造のための原料組成決定方法において、上記強誘電体単結晶はLiNbO3であり、上記コングルエント組成は48.481LiO2−mol%であることを特徴とする請求項1乃至11の内一あるいは複数に記載の原料組成決定方法。
【請求項13】
強誘電体単結晶の化学組成比の校正方法であり、
(a)化学組成比の異なる複数の試料に対し、第3の漏洩弾性表面波速度VLSAWを測定する工程と、
(b)前記試料に対するキュリー温度の測定値から、既知のキュリー温度と化学組成比の関係を用いて第4の化学組成比を求める工程と、
(c)前記請求項13工程(a)で得られた第3の漏洩弾性表面波速度VLSAWと前記請求項13工程(b)で得られた第4の化学組成比の関係を近似直線であらわし、該近似直線を、前記請求項9工程(n)で得られた化学組成比Ccおよび漏洩弾性表面波速度VLSAW(Cc)の値に合致するように第4の化学組成比を校正して、両者の関係を表す校正された近似直線を得る工程と、
(d)請求項9工程の(a)のn個の強誘電体単結晶に対するそれぞれの音響関連物理定数(弾性定数、圧電定数、誘電率、密度)を用いて計算される第5の漏洩弾性表面波速度と、上記請求項13工程(c)で得られた校正された近似直線とを用いて、上記n個の強誘電体単結晶の校正された化学組成比を求め、該校正された化学組成比における音響関連物理定数を求める工程、
とを含むことを特徴とする化学組成比の校正方法。
【請求項14】
弾性表面波デバイスの設計パラメータ決定方法であり、
(a)育成結晶に対する漏洩弾性表面波速度を測定し、請求項13工程(c)において得られた校正された近似直線を用いて、前記育成結晶の第6の化学組成比を求める工程と、
(b)前記請求項14工程(a)で得られた第6の化学組成比と、前記請求項13工程(d)で得られた校正された化学組成比における音響関連物理定数とを使って、前記請求項14工程(a)の育成結晶の第7の音響関連物理定数を求める工程と、
(c)前記請求項14工程(b)で求めた第7の音響関連物理定数を用いて、弾性表面波デバイスとして切り出すためのカット面における伝搬方向での第8の弾性表面波速度を計算する工程と、
(d)前記請求項14工程(c)で得られた第8の弾性表面波速度を用いて、弾性表面波デバイス設計のための設計パラメータ(電極周期、電極幅、電極厚さ)を決定する工程、
とを含むことを特徴とする弾性表面波デバイスの設計パラメータ決定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
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【図4】
【図5】
【図6】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−108940(P2006−108940A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−290711(P2004−290711)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年9月9日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報Vol.104 No.298」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年9月9日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報Vol.104 No.298」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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