説明

強誘電性液晶化合物

【課題】新規な強誘電性液晶化合物を提供すること。
【解決手段】不斉炭素原子を有し液晶性を示す化合物であって、該不斉炭素原子が酵素反応を用いて導入されたものであることを特徴とする強誘電性液晶化合物であり、特に、一般式(1)で表される化学構造を有する強誘電性液晶化合物である。


[一般式(1)中、Xは芳香族環又は連結芳香族環を示し、Rは炭素数1〜24のアルキル基又は炭素数2〜24のアルケニル基を示し、Rは炭素数1〜6のアルキル基又は−COR'(R'は炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を示す)を示し、Rは炭素数1〜13のアルキル基を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は強誘電性液晶化合物に関し、更に詳しくは、酵素反応を用いることによって、不斉炭素を導入した新規の強誘電性液晶化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
強誘電性液晶は、現在最も研究が盛んに行われている液晶材料の1つで、次世代の液晶材料として期待されている。一般に、強誘電性液晶を与える化合物には、少なくとも、比較的フレキシブルな部分、極性基、不斉炭素、環構造部分等が存在していることが必要とされており、かかる強誘電性液晶材料としては種々のものが知られている。しかしながら、このような分子構造を有する材料の範囲としては、必ずしも広範囲には検討されておらず、限定されたものしか開発されていなかった。
【0003】
一方、酵素反応等を利用して、人に優しいファインケミカルズの合成、環境調和型の反応の開発が行われている。例えば、環境への負荷が少ないという特徴を持った生体触媒としてリパーゼを用い、リパーゼの示す高い基質特異性並びに立体選択性を利用し、例えばヒマシ油から種々の化合物を製造することも知られている(特許文献1〜3、非特許文献1、2)。しかしながら、環境への負荷が少ない生体触媒を用いて強誘電性液晶材料を合成する検討は殆どなされていなかった。
【0004】
例えば、特許文献4、5には、リパーゼを用いた、光学活性なハロゲン原子含有アルコールの製造方法が記載されており、これらが強誘電性液晶化合物の原料として用いられる可能性があることが示唆されてはいるが、実際にそれらを原料として得られた液晶化合物についての記載はなく、従って当然のことながら液晶性を示すデータは得られていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平02−013389号公報
【特許文献2】特開2001−314735号公報
【特許文献3】特開2005−237304号公報
【特許文献4】特開平6−056721号公報
【特許文献5】特開2000−287696号公報
【非特許文献1】畑中、後藤、「固定化リパーゼによるヒマシ油の連続加水分解」、北九州工業専門高等学校報告、第36巻(2003年1月)、第65〜70頁
【非特許文献2】Charlotta Turner et al,「Lipase-CatalyzedMethanolysis of Triricinolein in Organic Solvent to Produce1,2(2,3)-Diricinolein」, Lipids,Vol.38(11),1197-1206(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、新規な強誘電性液晶化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、酵素反応を用いて得られた不斉炭素を有する化合物を原料にし、更に化学反応を行うことによって、実際に液晶性を示す化合物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、不斉炭素原子を含有する化合物であって、該不斉炭素原子が酵素反応を用いて導入されたものであることを特徴とする強誘電性液晶化合物を提供するものである。
【0009】
また本発明は、一般式(1)で表される化学構造を有する化合物、又は、上記強誘電性液晶化合物を提供するものである。
【化4】

[一般式(1)中、Xは置換基を有していてもよい芳香族環又は連結芳香族環を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜24のアルキル基又は炭素数2〜24のアルケニル基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又は−COR'(R'は置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を示す)を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜13のアルキル基を示す。]
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、人に優しい環境調和型の酵素反応を利用して、不斉炭素を有し液晶性を示す化合物を得ることができ、新規な強誘電性液晶化合物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0012】
本発明は、不斉炭素原子を含有する化合物であって、該不斉炭素原子が酵素反応を用いて導入されたものであることを特徴とする強誘電性液晶化合物である。酵素反応を用いれば、環境に負荷をかけることがないのみならず、酵素反応が有する高い基質特異性や立体選択性を利用でき、純度の高い光学異性体を得ることができ、高性能の強誘電性液晶化合物が効率よく得ることが可能である。
【0013】
本発明によれば、ジアステレオマー比(以下、「%de」と略記することがある)の大きな化合物を好適に得ることが可能である。本発明においては、「%de」は液晶性を示す程度に充分に大きければ特に限定はないが、70以上が好ましく、80以上が特に好ましく、90以上が更に好ましい。ここで、「%de」は、実施例記載の方法で測定し、そのように測定した値として定義される。
【0014】
強誘電性液晶化合物中に存在する不斉炭素原子が、酵素反応を用いて導入されたものであれば、具体的な強誘電性液晶化合物の化学構造は特に限定されないが、下記の一般式(1)で表される化学構造を有する化合物が好ましい。
【化5】

[一般式(1)中、Xは置換基を有していてもよい芳香族環又は連結芳香族環を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜24のアルキル基又は炭素数2〜24のアルケニル基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又は−COR'(R'は置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を示す)を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜13のアルキル基を示す。]
【0015】
一般式(1)中、Xは置換基を有していてもよい芳香族環又は連結芳香族環である。連結芳香族環とは1種又は2種以上の芳香族環が直接単結合で結合しているものをいう。ここで、芳香族環又は「連結芳香族環に含まれる1つの芳香族環」としては特に限定はないが、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環等の縮合炭化水素環;ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、プリン環、キノリン環、カルバゾール環等の窒素含有芳香族ヘテロ環;フラン環、チオフェン環、オキサゾール環、チアゾール環等の酸素若しくはイオウ含有芳香族ヘテロ環等が挙げられる。
【0016】
芳香族環又は「連結芳香族環に含まれる1つの芳香族環」として、特に好ましくはベンゼン環又はピリミジン環である。また、連結芳香族環としては、これらの芳香族環が単結合で結合したもの、すなわち、ビフェニル環、フェニルピリミジン環、ビピリミジン環等が特に好ましいものとして挙げられる。
【0017】
Xは置換基を有していてもよいが、その置換基として特に限定はなく、例えば、メチル基、エチル基等の低級アルキル基;水酸基;メトキシル基、エトキシル基等の低級アルコキシル基;フッ素、塩素等のハロゲン基;メトキシメチル基、メトキシエトキシメチル基等が挙げられる。
【0018】
一般式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜24個のアルキル基、又は、置換基を有していてもよい炭素数2〜24個のアルケニル基である。炭素数は好ましくは12〜22個、特に好ましくは14〜20個である。Rがアルケニル基の場合、二重結合の数は、液晶性の示し易さの点から、1〜5個が好ましく、1〜3個が特に好ましい。
【0019】
中の置換基としては液晶性を示さなくなるようなものでなければ特に限定はないが、下記するようにヒマシ油を原料とするリシノール酸が水酸基を有することもあり、水酸基又は水酸基から誘導されるアルキルオキシ基、アリールオキシ基、エステル基等の置換基が好ましい。
【0020】
本発明の強誘電性液晶化合物は、ヒマシ油又はヒマシ油の誘導体を原料として合成されたものであることが、環境に負荷を与えず、安価であり、酵素反応を受け易い等の点で特に好ましい。ヒマシ油はグリセロールのトリカルボン酸エステルであり、該カルボン酸はリシノール酸(12−ヒドロキシ−9−オクタデセン酸)を主成分とする。従って、Rは、リシノール酸(12−ヒドロキシ−9−オクタデセン酸)からカルボキシルのとれた、すなわち「−(CHCH=CHCHCH(OH)(CHCH」であることが特に好ましい。また、リシノール酸の水素化物(12−ヒドロキシオクタデカン酸)を原料とすることも好ましいので、Rは、リシノール酸の水素化物(12−ヒドロキシオクタデカン酸)からカルボキシルのとれた、すなわち「−(CH10CH(OH)(CHCH」であることも特に好ましい。
【0021】
一般式(1)中、Rは、
(a)置換基を有していてもよい炭素数1〜6個のアルキル基、又は、
(b)−COR'(R'は、置換基を有していてもよい炭素数1〜6個のアルキル基、又は、置換基を有していてもよいフェニル基を示す)
である。
が上記(a)又は(b)である場合に、リパーゼ等の酵素を用いた酵素反応によって、ジアステレオマー比(%de)の大きな光学異性体が高収率で得られる。
【0022】
(a)置換基を有していてもよい炭素数1〜6個のアルキル基のアルキル基としては特に限定はないが、メチル基、エチル基、プロピル基等が好ましく、メチル基が反応性の点で特に好ましい。また、該アルキル基に対する置換基としては、メトキシル基、エトキシル基、ベンジルオキシ基、ビニル基、フェニル基、メトキシエトキシル基等が、酵素反応によってジアステレオマー比(%de)の大きな光学異性体が高収率で得られる点で特に好ましい。
【0023】
上記「置換基を有していてもよい炭素数1〜6個のアルキル基」がメチル基であり、かつ、該置換基がメトキシル基、エトキシル基、ベンジルオキシ基、ビニル基、フェニル基又はメトキシエトキシル基であるもの、すなわちそれらに対応してそれぞれ、メトキシメチル基、エトキシメチル基、ベンジルオキシメチル基、アリル基又はベンジル基であるものが更に好ましい。
【0024】
(b)−COR'としては、R'が、置換基を有していてもよい炭素数1〜6個のアルキル基、又は、置換基を有していてもよいフェニル基であれば特に限定はないが、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基等が、酵素反応によって、高純度の光学異性体が高収率で得られる点で好ましい。それらの置換基としては特に限定はなく、例えば、メチル基、エチル基等の低級アルキル基;フッ素、塩素等のハロゲン基等が挙げられる。(b)−COR'として特に好ましくは、アセチル基、ベンゾイル基等である。
【0025】
一般式(1)中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜13個のアルキル基であることが必須であるが、炭素数3〜9個のアルキル基であることが好ましく、炭素数5〜7個のアルキル基であることが特に好ましい。
【0026】
一般式(1)で表される化合物の合成方法は、酵素反応を用いて不斉炭素原子を導入できさえすれば特に限定はない。また、後述する実施例に具体的に記載された合成方法が特に好ましいものとして挙げられる。更に、実施例に示唆されている合成反応の要旨を逸脱しない範囲の合成方法、実施例に記載された合成方法を変形した合成方法等も好ましいものとして挙げられる。中でも特に、酵素反応を用いて不斉炭素原子を導入される化合物が、一般式(2)で表されるものであることが、リパーゼ等の酵素を用いた酵素反応によって、高純度の光学異性体が高収率で得られるので好ましい。
【0027】
【化6】

[一般式(2)中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜24のアルキル基又は炭素数2〜24のアルケニル基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又は−COR'(R'は置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を示す)を示す。]
【0028】
リパーゼ等を用いた酵素反応によって、例えば、下記の反応式(3)が進行し、本発明の強誘電性液晶化合物の原料となる化合物(反応式(3)中の「1−MAG」(1−モノアシルグリセロール))が、高純度の光学異性体として得られる。
【化7】

【0029】
ここで、一般式(2)及び反応式(3)中のR及びRは、上記した一般式(1)中のものと同じであり、また、好ましい範囲等も同様である。
【0030】
反応式(3)中の「1,3−DAG」(1,3−ジアシルグリセロール)は、グリセロールのトリカルボン酸エステルを、常法に従って、−OCORを−ORに置換して得られる一般には光学活性を示さない化合物である。
【0031】
この場合、上記「グリセロールのトリカルボン酸エステル」としては、下記に示すトリリシノール酸グリセリドであることが、それがヒマシ油の主成分であり、ヒマシ油は塗料、潤滑剤、医薬品、化粧品等の用途に幅広く用いられており、重要な産業材料であるので特に好ましい。また、粘度が高く、水酸基価が大きく、石油系溶剤に溶けにくく、エーテル系溶媒に溶けやすく、高純度に得られる等の点でも特に好ましい。また、下記の式中、炭素間二重結合に水素を付加させた水素化物や、下記の式中の水酸基に反応を加えることによって水酸基を別の置換基とした化合物も、上記「グリセロールのトリカルボン酸エステル」として、同様の理由から好ましい。
【0032】
【化8】

【0033】
反応式(3)に用いられる酵素としては特に限定はないが、常温・常圧下で特別な装置を使用せずに加水分解反応やエステル化反応が行える点でリパーゼが好ましい。リパーゼとしては、不斉炭素原子を導入し易いものであれば特に限定はないが、シュードモナス・セパシア菌(Pseudomonas cepacia)由来のリパーゼPS、シュードモナス・フルオレッセンス菌(Pseudomonas fluorescens)由来のリパーゼAK、ブタ膵臓(Porcine pancreas)由来のリパーゼPPL、カンジダ菌(Candida antarctica)由来のリパーゼCAL、カンジダ菌(Candida rugosa)由来のリパーゼAY等が好ましいものとして挙げられる。このうち、シュードモナス・セパシア菌(Pseudomonas cepacia)由来のリパーゼPS、又は、シュードモナス・フルオレッセンス菌(Pseudomonas fluorescens)由来のリパーゼAKが、加水分解速度が速く、また、ジアステレオ選択性が高い等の点で特に好ましい。
【0034】
酵素反応は、上記酵素等を用い、大気雰囲気下、一般式(2)で表される化合物等を、例えば有機溶媒−リン酸緩衝溶液中で行うことが好ましい。このとき、Rが上記した範囲のものであると、反応式(3)において、光学活性を示す1−MAGが効率よく生成する。
【0035】
1−MAGの水酸基に、R−O−X−COOH(式中、R、Xは、一般式(1)と同様である)を、常法に従って反応させて、一般式(1)で示される化合物を得ることができる。
【0036】
一般式(1)で表される化合物が、強誘電性液晶化合物として用いられ得る理由を以下に記すが、本発明は以下の理由によって何ら限定されるものではない。また、以下の化合物例に限定されるものでもない。
【0037】
すなわち、下記の構造は一般的な強誘電性液晶の構造を表したものである。液晶性を示す化合物のほとんどは低分子の有機化合物であり、長細い立体構造をしている。左右非対称な一般式(1)で表される化合物は、下記の構造に類似しているために、強誘電性液晶化合物になり得たと考えられる。
【化9】

【0038】
上記の構造で末端基とは、比較的フレキシブルな部分(一般式(1)中のR、R)であり、それは1−モノアシルグリセロール(1−MAG)の脂肪鎖の部分等に対応している。また極性基とは電子の偏りを持つ官能基であり、カルボニル基が対応している。更に、一般式(1)で表される化合物は不斉炭素を有している。つまり、ヒマシ油等のトリアシルグリセロールから誘導した化合物から、酵素反応によって1−モノアシルグリセロール(1−MAG)に変換することによって、強誘電性液晶の不斉炭素を持つフラグメントとなり、残りの環構造部分を導入することによって強誘電性液晶化合物を得ることができたと考えられる。
【0039】
このように、高い立体選択性で1−モノアシルグリセロール(1−MAG)を得る方法として、容易な実験操作で、環境に優しい手法であるリパーゼ等の酵素を利用した加水分解又はアシル転位によって、強誘電性液晶化合物を得ることができた。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
<NMRスペクトル、赤外吸収スペクトルの測定方法>
NMRスペクトルは、日本電子社製α−500 EX−270を用い、内部標準にテトラメチルシラン(TMS)を使用して常法に従って測定した。赤外吸収スペクトルは、日本分光社製FT/IR−460を使用し、常法に従って測定した。
【0042】
<比旋光度([α]D26)の測定方法>
比旋光度([α]D26)は、旋光度計、日本分光社製 P−1020を使用して、常法に従って測定した。
【0043】
<ジアステレオマー比(%de)の決定方法>
すべての化合物のジアステレオマー比(%de)の決定方法は、生成物の水酸基をすべてベンゾイル化した誘導体を、高速液体クロマトグラフィーを用い測定することによって決定した。高速液体クロマトグラフィーは、展開溶媒(ヘキサン:2−プロパノール=70:1)で、日立製作所社製、L−400UV Detector L−600 Pumpを使用し、ダイセル化学社製CHIRALCEL ODを用い測定した。
【0044】
<原料、溶剤等の調製>
トリリシノール酸グリセリドは、伊藤製油社製のヒマシ油を、展開溶媒(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用い精製し、純粋なトリリシノール酸グリセリドを得た。テトラヒドロフラン(THF)は、ナトリウムベンゾフェノンケチルから使用直前に蒸留したものを使用し、1,4−ジオキサンは水素化カルシウムで前乾燥したものを水素化カルシウム存在下で加熱還流し、その後蒸留したものを使用した。その他の試薬類は、市販品を蒸留するか若しくはそのまま使用した。カラムクロマトグラフィーを用いた精製には充填剤に関東化学社製シリカゲル60N(球状、中性)を使用し、薄層クロマトグラフィーを用いた精製では、Merck Kisel Gel PF254を担持したものを使用した。全ての反応は特別な場合を除き、アルゴン気流下で行ない、反応容器はセプタムで栓をし、無水溶媒や混合物は乾燥したシリンジを用いて移し変えた。
【0045】
1.酵素反応に用いる原料の合成
原料合成例1
<1,3−ジ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロールの合成>
50mLの二口ナスフラスコにグリセロール(368.4mg、4.0mmol)と、4−ジメチルアミノピリジン(390.9mg、3.2mmol)を秤量して加え、アルゴン置換をした。ジクロロメタン(2.0mL)を加えた後、リシノール酸(1193.8mg、4.0mmol)にジクロロメタン(2.0mL)を加えて反応系に滴下し、ジクロロメタン(2.0mL)で洗浄し、洗浄液を反応系に加えることを2回繰り返した。
【0046】
0℃にし5分間攪拌した後、1,3−ジシクロへキシルカルボジイミド(990.4mg、4.8mmol)にジクロロメタン(2.0mL)を加え反応系に滴下し、もう一度ジクロロメタン(2.0mL)で洗浄し、洗浄液を反応系に加え、16時間攪拌した後、酢酸エチルを用いセライトろ過をし、ろ液を0.5M塩酸で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。綿栓ろ過したろ液をエバポレーターで濃縮し粗生成物を得た。
【0047】
得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で精製し、下記の1,3−ジ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロールを得た。
【化10】

収率 :27% (712.6mg)
Rf値:0.6(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)
形状 :無色オイル状
【0048】
1H NMR(270MHz,CDCl3):δ0.82-0.92(m,6H),1.20-1.40(m,32H),1.40-1.52(m,4H),1.52-1.61(m,7H),2.00-2.13(m,4H),2.14-2.25(m,4H),2.33(t,J=7.4Hz,4H),3.55-3.69(m,2H),4.03-4.29(m,5H),5.33-5.48(m,2H),5.48-5.65(m,2H)
【0049】
13C NMR(67.8MHz,CDCl3):δ14.0,14.1,22.5,24.7,25.6,27.2,28.9,29.2,31.7,34.0,35.2,36.7,64.9,67.9,71.4,76.5,77.0,77.5,125.2.133.0.173.6.173.7
【0050】
原料合成例2
<1,3−ジ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイル−2−O−メトキシメチルグリセロールの合成>
原料合成例2−(1)
[2−O−メトキシメチル−1,3−ベンジリデングリセロールの合成]
50mLの二口ナスフラスコに、1,3−ベンジリデングリセロール(3.63g、19.8mmol)を秤量して加えアルゴン置換をした。ジクロロメタン(10.0mL)を加えたあと、ジイソプロピルエチルアミン(10.3mL、59.3mmol)を加えた。メチルクロロメチルエーテル(5.5mL、59.3mmol)を反応系に滴下し室温で19時間攪拌した後、1Mの塩酸を加えることによって反応を停止させた。ジクロロメタンで抽出し硫酸ナトリウムで乾燥させた。綿栓ろ過したろ液をエバポレーターで濃縮し粗生成物を得た。
【0051】
得られた粗生成物を再結晶(ヘキサン:ベンゼン=4:3)で精製し、下記の2−O−メトキシメチル−1,3−ベンジリデングリセロールを得た。
【化11】

収率 :42%(1.86g)
Rf値:0.5(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)
形状 :白色粉末結晶
【0052】
1H NMR(270MHz,CDCl3):δ3.45(s, 3H),3.60-3.61(m,1H),4.13(d,J=1.3Hz,2H),4.31(d,J=1.3Hz,2H),4.82(s,2H),5.57(s,1H),7.34-7.37(m,3H),7.48-7.53(m,2H)
【0053】
13C NMR(67.8MHz,CDCl3):δ55.0,67.6,69.2,94.5,100.8,125.8,127.8,128.5,137.8
【0054】
IR (CHCl3):2955,1454,1388,1215,1143,1036,745cm-1
【0055】
原料合成例2−(2)
[2−O−メトキシメチルグリセロールの合成]
50mLの二口ナスフラスコに、原料合成例2−(1)で得られた2−O−メトキシメチル−1,3−ベンジリデングリセロール(547.3mg、2.44mmol)を秤量して加え、続いて10%パラジウム−炭素(542.4mg、0.49mmol)、メタノール(5.0mL)を加え水素置換をした。室温で13時間攪拌した後、セライトろ過をすることによって、10%パラジウム−炭素を除去し、反応を停止させ、エバポレーターで濃縮することによって、下記の2−O−メトキシメチルグリセロールを得た。
【0056】
【化12】

収率 :94%(313.5mg)
Rf値:0.2(ジクロロメタン:メタノール=9:1)
形状 :無色オイル状
【0057】
1H NMR(270MHz,CDCl3):δ3.12(brs,1H), 3.45(s,3H),3.61-3.75(m,5H),4.77(s,2H)
【0058】
13C NMR(67.8MHz,CDCl3):δ55.6,62.5,80.9,96.6
【0059】
IR(CHCl3):3415,2944,1647,1455,1036,910,618 cm-1
【0060】
原料合成例2−(3)
[1,3−ジ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイル−2−O−メトキシメチルグリセロールの合成]
50mLの二口ナスフラスコに、原料合成例2−(2)で得られた2−O−メトキシメチルグリセロール(800.3mg、5.90mmol)と4−ジメチルアミノピリジン(1441.6mg、11.8mmol)を秤量して加え、アルゴン置換をした。リシノール酸(4210.5mg、14.11mmol)にジクロロメタン(2.0mL)を加えて反応系に滴下し、その後、ジクロロメタン(1.5mL)で洗浄し、洗浄液を反応系に加えることを2回繰り返した。
【0061】
0℃にし5分間攪拌した後、1,3−ジシクロへキシルカルボジイミド(4669.4mg、23.6mmol)にジクロロメタン(2.0mL)を加え反応系に滴下し、もう一度ジクロロメタン(2.0mL)で洗浄し、洗浄液を反応系に加え、16時間攪拌した。その後、酢酸エチルを用いセライトろ過をし、ろ液を0.5M塩酸で洗浄し無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。綿栓ろ過したろ液をエバポレーターで濃縮し粗生成物を得た。
【0062】
得られた粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で精製し、下記の1,3−ジ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイル−2−O−メトキシメチルグリセロールを得た。
【化13】

収率 :52%(2129.3mg)
Rf値:0.7(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)
形状 :無色オイル状
【0063】
1H NMR(270MHz,CDCl3):δ0.85-0.96(m, 6H),1.20-1.40(m,32H),1.40-1.52(m,4H),1.52-1.61(m,6H),2.00-2.13(m,4H),2.20(m,4H),2.33(t,J=7.4Hz,4H),3.40(s,3H),3.55-3.69(m,2H),4.01(t,J=5.0Hz,1H),4.11-4.17(m,2H),4.20-4.26(m,2H),4.71(s,2H),5.38-5.51(m,2H),5.53-5.60(m,2H)
【0064】
13C NMR(67.8MHz,CDCl3):δ13.7,13.8,20.6,22.3,24.5,25.4,27.0,28.7,28.8,29.1,29.2,31.5,33.7,35.0,36.5,55.1,60.0,63.0,71.0,72.2,95.5,125.2,132.3
【0065】
IR(neat):2926,1739,1540,1037,677,441cm-1
【0066】
原料合成例3
<1,3−ジ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイル−2−O−ベンジルオキシメチルグリセロールの合成>
原料合成例3−(1)
[1,3−ジ−O−tert−ブチルジメチルシリルグリセロールの合成]
100mLの二口ナスフラスコに、グリセロール(1668.4mg、18mmol)とジメチルアミノピリジン(3518.4mg、28.8mmol)を秤量して加えアルゴン置換をした。ジクロロメタン(18mL)を加えたあと、トリエチルアミン(5.1mL)を加えた。tert−ブチルジメチルシリルクロリド(5426.3mg、36.0mmol)に、ジクロロメタン(8mL)を加えて反応系に滴下し、ジクロロメタン(5mL)で洗浄し、洗浄液を反応系に加えることを2回繰り返した。16時間攪拌したあと、水を加えることによって反応を停止させた。ジエチルエーテルで抽出した後、集めた有機層を水、飽和塩化アンモニウム水溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。綿栓ろ過したろ液をエバポレーターで濃縮し粗生成物を得た。
【0067】
得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=15:1)で精製し、下記の1,3−ジ−O−tert−ブチルジメチルシリルグリセロールを得た。
【化14】

収率 :77%(4440.0mg) 分子式:C1536Si
Rf値:0.32(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)
形状 :無色オイル状
【0068】
以上は文献既知であり、下記の文献に従って合成した。
参考文献:J.M.Chong,K.K.Sokoll,Tetrahedoron Lett.,33,879(1992).
【0069】
原料合成例3−(2)
[1,3−ジ−O−tert−ブチル−2−O−ベンジルオキシメチルグリセロールの合成]
50mLの二口ナスフラスコに、原料合成例3−(1)で得られた1,3−ジ−O−tert−ブチルジメチルシリルグリセロール(774.5mg、2.40mmol)を秤量して加えアルゴン置換をした。ジクロロメタン(10mL)を加え、0℃にし5分間攪拌した後、ジイソプロピルエチルアミン(0.52mL)を加えた。ベンジルクロロメチルエーテル(0.4mL)を加え、5分間攪拌した後に、室温に戻し14時間攪拌した。水を加えることによって反応を停止させ、ジエチルエーテルで抽出した後、集めた有機層を水、飽和塩化アンモニウム水溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。綿栓ろ過したろ液をエバポレーターで濃縮し粗生成物を得た。
【0070】
得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=25:1)で精製し、下記の1,3−ジ−O−tert−ブチル−2−O−ベンジルオキシメチルグリセロールを得た。
【化15】

収率 :83%(880.7mg) 分子式:C2344Si
Rf値:0.6(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)
形状 :無色オイル状
【0071】
以上は文献既知であり、下記の文献に従って合成した。
参考文献:J. M. Chong,K.K.Sokoll,Tetrahedoron Lett.,33,879(1992).
【0072】
原料合成例3−(3)
[2−O−ベンジルオキシメチルグリセロールの合成]
50mLの二口ナスフラスコに、原料合成例3−(2)で得られた1,3−ジ−O−tert−ブチル−2−O−ベンジルオキシメチルグリセロール(1432.5mg、3.25mmol)を秤量して加え、アルゴン置換をした。1MのテトラブチルアンモニウムフルオリドTHF溶液(13mL、13mmol)を加え、3時間攪拌した。水を加えることによって反応を停止させ、酢酸エチル、ジエチルエーテル、クロロホルムで各2回ずつ抽出し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。綿栓ろ過したろ液をエバポレーターで濃縮し粗生成物を得た。
【0073】
得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で精製し、下記の2−O−ベンジルオキシメチルグリセロールを得た。
【化16】

収率 :48%(336.6mg) 分子式:C1116
Rf値:0.1(ヘキサン:酢酸エチル=1:2)
形状 :無色オイル状
【0074】
以上は文献既知であり、下記の文献に従って合成した。
参考文献:J. M.Chong,K.K.Sokoll,Tetrahedoron Lett.,33,879(1992).
【0075】
原料合成例3−(4)
[1,3−ジ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイル−2−O−ベンジルオキシメチルグリセロールの合成]
30mLの二口ナスフラスコに、原料合成例3−(3)で得られた2−O−ベンジルオキシメチルグリセロール(61.9mg、0.29mmol)と4−ジメチルアミノピリジン(57.0mg、0.47mmol)を秤量して加え、アルゴン置換をした。リシノール酸(348.1mg、1.17mmol)にジクロロメタン(0.5mL)を加えて反応系に滴下し、ジクロロメタン(0.5mL)で洗浄し、洗浄液を反応系に加えることを2回繰り返した。
【0076】
次いで、0℃にし5分間攪拌した後、1,3−ジシクロへキシルカルボジイミド(150.6mg、0.73mg)に、ジクロロメタン(0.5mL)を加え反応系に滴下し、もう一度ジクロロメタン(1.0mL)で洗浄し、洗浄液を反応系に加え、17時間攪拌した後、酢酸エチルを用いセライトろ過をし、ろ液を0.5M塩酸で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。綿栓ろ過したろ液をエバポレーターで濃縮し粗生成物を得た。
【0077】
得られた粗生成物を薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)で精製し、下記の1,3−ジ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイル−2− O−ベンジルオキシメチルグリセロールを得た。
【化17】

収率 :70%(158.8mg)
Rf値:0.7(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)
形状 :無色オイル状
【0078】
1H NMR(270MHz、CDCl3):δ0.85-0.96(m,6H),1.20-1.40(m,34H),1.40-1.52(m,4H),1.52-1.68(m,4H),2.00-2.13(m,4H),2.17-2.25(m,4H),2.30(t,J=7.6Hz,4H),3.55-3.69(m,2H),4.08-4.30(m,5H),4.65(s,2H),4.85(s,2H),5.33-5.48(m,2H),5.49-5.61(m,2H),7.24-7.40(m,5H)
【0079】
13C NMR(67.8MHz、CDCl3):δ14.0,22.6,24.8,25.7,27.3,29.0,29.3,29.5,31.8,34.0,35.3,36.8,63.2,69.5,71.4,72.5,93.7,125.2,127.7,128.4,133.2,137.5,173.4
【0080】
IR(neat):3446,2927,1737,1454,1172,1039,733cm-1
【0081】
2.酵素反応
上記で合成した原料を用い、以下の表1〜4に示した化合物を、表1〜4に示した反応で合成した。
【表1】

【0082】
【表2】

表2中、「BOM」はベンジルオキシメチル基を示し、「MOM」はメトキシメチル基を示す。
【0083】
【表3】

「Bn」はベンジル基を示す。
【0084】
【表4】

「Bn」はベンジル基を示す。
【0085】
上記の表1〜4に示した化合物を、酵素を用いて以下のように合成した。表1〜4に示した化合物のうち代表的なものの具体的な合成方法を下記に示す。
【0086】
酵素反応例1
<1−モノ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロールの合成>
(表1のEntry1の合成)
大気雰囲気下、30mLの二口ナスフラスコに、原料合成例1で得られた1,3−ジ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロール(43.7mg、0.067mmol)を秤量して加えた後、THF(0.4mL)、リン酸緩衝溶液(1.2mL)を加えた。天野エンザイム株式会社製のLipase PS(4.0mg)を秤量し反応系に加えた後、室温で20分攪拌した。グラスロートを使って酢酸エチルでセライトろ過をして酵素を除去することによって、反応を停止させた。そのろ液を食塩水で洗い、エバポレーターで濃縮し粗生成物を得た。
【0087】
得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で精製し、表1のEntry1の、すなわち、下記の1−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロールを得た。
【化18】

収率 :26%(6.4mg)
Rf値:0.7(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)
形状 :無色オイル状
【0088】
1H NMR(270MHz、CDCl3):δ0.82-0.96(m,3H),1.22-1.40(m,16H),1.42-1.53(m,2H),1.53-1.90(m,4H),2.00-2.13(m,2H),2.17-2.26(m,2H),2.33(t,J=7.4Hz,2H),3.51-3.71(m,3H),3.83-3.97(m,1H),4.12-4.25(m,2H),5.36-5.45(m,1H),5.48-5.58(m,1H)
【0089】
測定例1
酵素反応例1で得られた化合物(表1のEntry1の化合物)のジアステレオマー比(%de)の測定
<1,2−O−ジベンゾイル−3−モノ−12−ベンジルオキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロールの合成>
(1−モノ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロール(表1のEntry1の化合物)のベンゾイル化)
30mLの二口ナスフラスコに、酵素反応例1で得られた1−モノ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロール(表1のEntry1の化合物)(4.4mg、0.012mmol)を秤量して加えアルゴン置換をした。ジクロロメタン(1.5mL)、ピリジン(0.02mL、0.26mmol)を加え、0℃にし5分間攪拌した後、塩化ベンゾイル(0.04mL、0.24mmol)を滴下した。室温で13.5時間攪拌した後、2M塩酸で反応を停止した。
【0090】
酢酸エチルで抽出し、集めた有機層を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。綿栓ろ過したろ液をエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。
【0091】
得られた粗生成物を薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=9:1)で精製し、更に薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製し、下記の1,2−O−ジベンゾイル−3−モノ−12−ベンジルオキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロールを得た。これのジアステレオマー比(%de)は28%であった。これより、酵素反応例1で得られた化合物(表1のEntry1の化合物)のジアステレオマー比(%de)は、表1に示したように28%であることが判った。
【化19】

収率 :94%(7.6mg)
Rf値:0.8(ヘキサン:酢酸エチル=1:2)
形状 :無色オイル状
【0092】
1H NMR(270MHz、CDCl3):δ0.86(t,J=6.6Hz,3H),1.16-1.41(m,16H),1.52-1.73(m,4H),1.93-2.08(m,2H),2.31(t,J=7.6Hz,2H),2.42(dd,J=6.1,11.7Hz,2H),4.41-4.71(m,4H),5.09-5.18(m,1H),5.37-5.451(m,2H),5.57-5.75(m,1H),7.39-7.45(m,6H),7.51-7.59(m,3H),8.01-8.05(m,6H)
【0093】
酵素反応例1において、表1のEntry1に代えて、表1のEntry2〜4に示した条件とした以外は酵素反応例1と同様にして、表1のEntry2〜4を合成した。また、測定例1と同様にして、ベンゾイル化してジアステレオマー比(%de)を測定することによって、表1のEntry2〜4に示した化合物のジアステレオマー比(%de)を得た。結果を表1にまとめて記載する。
【0094】
酵素反応例2
<1−モノ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイル−2−O−ベンジルオキシメチルグリセロールの合成>
(表2のEntry1の合成)
大気雰囲気下、30mLの二口ナスフラスコに、原料合成例3(最終的に原料合成例3−(4))で得られた1,3−ジ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイル−2−O−ベンジルオキシメチルグリセロール(77.3mg、0.10mmol)を秤量して加え、THF(0.5mL)、リン酸緩衝溶液(1.5mL)を加えた。Lipase AK(5.0mg)を秤量し反応系に加えた後、室温で30分攪拌した。グラスロートを使って酢酸エチルでセライトろ過をして酵素を除去することによって、反応を停止させた。そのろ液を食塩水で洗い、エバポレーターで濃縮し粗生成物を得た。
【0095】
得られた粗生成物を薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製し、表2のEntry1の、すなわち、下記の1−モノ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイル−2−O−ベンジルオキシメチルグリセロールを得た。
【化20】

収率 :14%(6.8mg)
Rf値:0.5(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)
形状 :無色オイル状
[α]D26=+13.7(c0.068,CHCl3
ここで、「c0.068」という表現は、物質濃度(溶質g/溶液100mL)を表し、以下同様である。CHCl3は測定に用いた溶媒である。すなわちこの場合は、「(上記測定物質0.068g)/(CHCl3溶液100mL)」を表す。
【0096】
1H NMR(270MHz、CDCl3):δ0.86-0.90(m,3H),1.29-1.46(m,18H),1.60-1.67(m,2H),2.01-2.06(m,2H),2.18-2.23(m,2H),2.28-2.34(m,2H),2.58-2.63(m,1H),3.61-3.70(m,3H),3.89-3.92(m,1H),4.15-4.25(m,2H),4.62-4.66(m,2H),4.86-4.88(m,2H),5.37-5.44(m,1H),5.53-5.57(m,1H),7.30-7.38(m,5H)
【0097】
13C NMR(67.8MHz、CDCl3):δ14.1,22.6,24.8,25.3,25.7,27.3,29.0,29.3,29.5,31.8,34.1,35.3,36.8,62.5,63.2,70.0,71.4,76.5,77.0,71.4,76.5,77.0,77.5,94.5,125.2,127.9,128.5,133.3,137.2,173.7
【0098】
IR(neat):3429,2928,2856,1739,1456,1171,1040,735,699cm-1
【0099】
測定例2
酵素反応例2で得られた化合物(表2のEntry1の化合物)のジアステレオマー比(%de)の測定
<1−O−ベンゾイル−2−O−ベンジルオキシメチル−3−モノ−12−ベンジルオキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロールの合成>
(1−モノ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイル−2−O−ベンジルオキシメチルグリセロール(表2のEntry1の化合物)のベンゾイル化)
30mLの二口ナスフラスコに、酵素反応例2で得られた1−モノ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロール(表2のEntry1の化合物)(11.0mg、0.022mmol)を秤量して加えアルゴン置換をした。ジクロロメタン(1.5mL)、ピリジン(0.02mL、0.24mmol)を加え、0℃にし5分間攪拌した後、塩化ベンゾイル(0.04mL、0.26mmol)を滴下した。室温で2時間攪拌した後、2M塩酸で反応を停止した。酢酸エチルで抽出し、集めた有機層を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。綿栓ろ過したろ液をエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。
【0100】
得られた粗生成物を薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=9:1)で精製した後、更に薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製し、下記の1−O−ベンゾイル−2−O−メトキシメチル−3−モノ−12−ベンジルオキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロールを得た。これのジアステレオマー比(%de)は71%であった。これより、酵素反応例1で得られた化合物(表2のEntry1の化合物)のジアステレオマー比(%de)は、表2に示したように71%であることが判った。
【化21】

収率 :68%(10.9mg)
Rf値:0.75(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)
形状 :無色オイル状
[α]D26=+9.32(c0.068,CHCl3
【0101】
1H NMR(270MHz、CDCl3):δ0.86(t,J=6.6Hz,3H),1.23-1.41(m,16H),1.59-1.73(m,4H),1.98-2.04(m,2H),2.30(t,J=7.6Hz,2H),2.42(dd,J=6.1,11.7Hz,2H),4.23-4.53(m,5H),4.66(s,2H),4.90(s,2H),5.09-5.18(m,1H),5.37-5.49(m,2H),7.26-7.34(m,5H),7.39-7.45(m,4H),7.51-7.59(m,2H),8.01-8.05(m,4H)
【0102】
13C NMR(67.8MHz、CDCl3):δ14.1,22.6,24.8,25.4,27.3,29.1,29.5,31.7,32.0,33.7,34.1,63.3,64.0,69.7,72.6,73.1,76.8,77.0,77.3,93.8,124.1,127.8,128.2,128.4,129.5,129.7,132.7,133.2,137.7,166.2,173.6
【0103】
IR(neat):2929,2855,1720,1452,1273,1174,1112,1027,712cm-1
【0104】
酵素反応例2において、表2のEntry1に代えて、表2のEntry2〜4に示した条件とした以外は酵素反応例2と同様にして、表2のEntry2〜4を合成した。また、測定例2と同様にして、ベンゾイル化してジアステレオマー比(%de)を測定することによって、表2のEntry2〜4に示した化合物のジアステレオマー比(%de)を得た。結果を表2にまとめて記載する。
【0105】
酵素反応例3
<1−モノ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイル−2−O−メトキシメチルグリセロールの合成>
(表2のEntry5の合成)
大気雰囲気下、30mLの二口ナスフラスコに、原料合成例2(最終的に原料合成例2−(3))で得られた1,3−ジ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイル−2−O−メトキシメチルグリセロール(1186.2mg、1.70mmol)を秤量して加え、THF(8.0mL)、リン酸緩衝溶液(24.0mL)を加えた。Lipase PS(101.6mg)を秤量し反応系に加えた後、室温で25分攪拌した。グラスロートを使って酢酸エチルでセライトろ過をして酵素を除去することによって、反応を停止させた。そのろ液を食塩水で洗い、エバポレーターで濃縮し粗生成物を得た。
【0106】
得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製し、表2のEntry5の、すなわち、下記の1−モノ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイル−2−O−メトキシメチルグリセロールを得た。
【化22】

収率 :32%(224.4mg)
Rf値:0.5(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)
形状 :無色オイル状
【0107】
1H NMR(270MHz、CDCl3):δ0.82-0.96(m,3H),1.22-1.40(m,17H),1.42-1.53(m,2H),1.53-1.70(m,2H),2.00-2.13(m,2H),2.17-2.26(m,2H),2.33(t,J=7.4Hz,2H),3.15(brs,1H),3.41(s,3H),3.58-3.71(m,2H),3.79-3.87(m,1H),4.12-4.26(m,2H),4.74(s,2H),5.36-5.45(m,1H),5.48-5.58(m,1H)
【0108】
13C NMR(67.8MHz、CDCl3):δ13.9,14.0,22.5,24.7,25.6,27.2,28.9,29.0,29.2,29.4,31.7,34.0,35.2,36.7,55.5,62.3,63.2,71.4,76.5,96.4,125.2,132.9,173.6
【0109】
測定例3
酵素反応例3で得られた化合物(表2のEntry5の化合物)のジアステレオマー比(%de)の測定
<1−O−ベンゾイル−2−O−メトキシメチル−3−モノ−12−ベンジルオキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロールの合成>
(1−モノ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイル−2−O−メトキシメチルグリセロール(表2のEntry5の化合物)のベンゾイル化)
30mLの二口ナスフラスコに、酵素反応例3で得られた1−モノ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロール(表2のEntry5の化合物)(2.7mg、0.0065mmol)を秤量して加えアルゴン置換をした。ジクロロメタン(1.5mL)、ピリジン(0.02mL、0.24mmol)を加え、0℃にし5分間攪拌した後、塩化ベンゾイル(0.04mL、0.26mmol)を滴下した。室温で14時間攪拌した後、2M塩酸で反応を停止した。酢酸エチルで抽出し、集めた有機層を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。綿栓ろ過したろ液をエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。
【0110】
得られた粗生成物を薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=9:1)で精製した後、更に薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製し、下記の1−O−ベンゾイル−2−O−メトキシメチル−3−モノ−12−ベンジルオキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロールを得た。これのジアステレオマー比(%de)は94%であった。これより、酵素反応例3で得られた化合物(表2のEntry5の化合物)のジアステレオマー比(%de)は、表2に示したように94%であることが判った。
【化23】

収率 :99%(4.0mg)
Rf値:0.65(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)
形状 :無色オイル状
【0111】
1H NMR(270MHz、CDCl3):δ0.86(t,J=6.6Hz 3H),1.26-1.38(m,16H),1.59-1.70(m,4H),2.01-2.05(m,2H),2.33(t,J=7.6Hz2H),2.43(dd,J=5.9,11.6Hz,2H),3.39(s,3H),4.15-4.51(m,5H),4.76(s,2H),5.11-5.16(m,1H),5.38-5.47(m,2H),7.40-7.47(m,4H),7.52-7.57(m,2H),8.00-8.06(m,4H)
【0112】
13C NMR(67.8MHz、CDCl3):δ14.0,22.5,24.8,25.4,27.3,29.0,29.1,29.2,29.5,31.7,32.0,33.7,34.1,55.6,63.4,64.0,72.7,74.6,77.2,96.0,124.1,128.2,128.4,129.5,129.6,129.7,130.7,132.7,133.2,166.2,173.5
【0113】
IR(neat):2928,2856,1721,1602,1453,1273,1172,1111,1070,1031,921,712,447,418cm-1
【0114】
酵素反応例3において、表2のEntry5に代えて、表2のEntry6に示した条件とした以外は酵素反応例3と同様にして、表2のEntry6を合成した。また、測定例3と同様にして、ベンゾイル化してジアステレオマー比(%de)を測定することによって、表2のEntry6に示した化合物のジアステレオマー比(%de)を得た。結果を表2にまとめて記載する。
【0115】
酵素反応例4
<ビニル12−ヒドロキシオクタデ−9−エノエートをアシルドナーとするPPLによる2−O−ベンジルグリセロールの非対称化反応>
(表3のEntry1の合成)
30mLの二口ナスフラスコに、下記の文献の方法に従って合成したビニル12−ヒドロキシオクタデ−9−エノエート1)(32.5mg、0.100mmol)を秤量して加え、アルゴン置換をした。2−O−ベンジルグリセロール(18.2mg、0.100mmol)にアセトニトリル(0.5mL)を加えて反応系に滴下し、アセトニトリル(0.5mL)で洗浄し、洗浄液を反応系に加えることを2回繰り返した。50℃にし、5分間撹拌した後、PPL(20.0mg)を秤量し直接反応系に加えた。3.5時間撹拌した後、グラスロートを使ってセライトろ過し酵素を除去し、酢酸エチルでセライトを洗浄した。そのろ液をエバポレーターで濃縮し粗生成物を得た。
C. Waldinger, M. Schneider, J. Am. Oil. Chem. Soc., 73, 1513(1996)
【0116】
得られた粗生成物を薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:2)で精製し、表3のEntry1の、すなわち、下記の1−モノ12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイル−2−O−ベンジルグリセロールを得た。
【化24】

収率 :15%(7.1mg)
Rf値:0.58(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)
形状 :無色オイル状
【0117】
1H NMR(270MHz、CDCl3):δ0.88(t,J=6.3Hz,3H),1.23-1.30(m,16H),1.43-1.49(m,2H),1.59-1.64(m,3H),2.01-2.13(m,3H),2.21(t,J=6.8Hz,2H),2.32(t,J=7.4Hz,2H),3.59-3.72(m,4H),4.23-4.25(m,2H),4.58-4.74(m,2H),5.38-5.58(m,2H),7.30-7.36(m,5H)
【0118】
13C NMR(67.8MHz、CDCl3):δ173.8,137.8,133.3,128.5,128.0,127.8,125.2,77.2,72.1,71.5,62.6,62.0,36.8,35.3,34.2,31.8,29.5,29.3,29.1,29.0,29.0,27.3,25.7,24.9,22.6,14.1
【0119】
IR(neat):3418,2927,2857,1736,1457,1178,1117,1060,737,699cm-1
【0120】
測定例4
酵素反応例4で得られた化合物(表3のEntry1の化合物)のジアステレオマー比(%de)の測定
<1−O−ベンゾイル−2−O−ベンジル−3−モノ−12−ベンジルオキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロールの合成>
(1−モノ12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイル−2−O−ベンジルグリセロール(表3のEntry1の化合物)のベンゾイル化)
酵素反応例4で得られた1−モノ12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイル−2−O−ベンジルグリセロール(表3のEntry1の化合物)(4.8mg、0.0104mmol)を、30mLの二口ナスフラスコに入れ、アルゴン置換をした。そこにジクロロメタン(1.5mL)を加え、さらにピリジン(0.02mL、0.24mmol)を加えた。0℃にし5分間撹拌した後、ベンゾイルクロリド(0.04mL、0.26mmol)を滴下した。室温で12時間撹拌した後、2M塩酸で反応を停止した。酢酸エチルで抽出し、集めた有機層を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。綿栓ろ過したろ液をエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。
【0121】
得られた粗生成物を薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=9:1)で精製した後、更に薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製をし、下記の1−O−ベンゾイル2−O−ベンジル−3−モノ−12−ベンゾイルオキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロールを得た。これのジアステレオマー比(%de)は60%であった。これより、酵素反応例4で得られた化合物(表3のEntry1の化合物)のジアステレオマー比(%de)は、表3に示したように60%であることが判った。
【化25】

収率 :42%(12.9mg)
Rf値:0.82(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)
形状 :無色オイル状
【0122】
1H NMR(270MHz、CDCl3):δ0.85(t,J=5.3 Hz,3H),1.21-1.32(m,16H),1.57-1.67(m,4H),2.00-2.05(m,2H),2.31(t,J=7.4Hz,2H),2.42(dd,J=5.9,11.9Hz,2H),3.97(t,J=5.2Hz,1H),4.22-4.52(m,4H),4.71(s,2H),5.09-5.16(m,1H),5.38-5.49(m,2H),7.26-7.34(m,5H),7.37-7.47(m,4H),7.52-7.60(m,2H),8.00-8.05(m,4H)
【0123】
13C NMR(67.8MHz、CDCl3):δ173.5,166.2,166.2,137.7,133.1,132.7,132.7,130.8,129.7,129.5,128.4,128.4,128.2,127.9,127.8,124.1,74.6,74.4,72.1,63.7,63.0,34.1,33.7,32.0,31.7,29.5,29.2,29.1,29.1,29.1,27.3,25.3,24.9,22.6,14.0
【0124】
IR(neat):2928,2857,2361,1720,1602,1453,1314,1273,1174,1111,1069,1027,712 cm-1
【0125】
酵素反応例4において、表3のEntry1に代えて、表3のEntry2〜3及び表4のEntry1〜5に示した条件とした以外は酵素反応例4と同様にして、表3のEntry2〜3、表4のEntry1〜5を合成した。また、測定例4と同様にして、ベンゾイル化してジアステレオマー比(%de)を測定することによって、表3のEntry2〜3及び表4のEntry1〜5に示した化合物のジアステレオマー比(%de)を得た。結果を表3及び表4にまとめて記載する。
【0126】
3.液晶合成
合成例1
<1−O−4−ヘキシルオキシビフェニル−4−カルボキシ−2−O−メトキシメチル−3−モノ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロールの合成>
30mLの二口ナスフラスコに、酵素反応例3で得られた表2のEntry5の化合物1−モノ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイル−2−O−メトキシメチルグリセロール(55.5mg、0.133mmol)を加え、4−ジメチルアミノピリジン(37.4mg、0.31mmol)を秤量して加え、アルゴン置換をした。4−(4−ヘキシルオキシフェニル)安息香酸(59.6mg、0.20mmol)にジクロロメタン(1.0mL)を加えて反応系に滴下し、ジクロロメタン(1.0mL)で洗浄し、洗浄液を反応系に加えることを2回繰り返した。
【0127】
0℃にし5分間攪拌した後、1,3−ジシクロへキシルカルボジイミド(68.7mg、0.33mmol)にジクロロメタン(1.0mL)を加え反応系に滴下しもう一度ジクロロメタン(1.0mL)で洗浄し、洗浄液を反応系に加え、48時間攪拌した後、酢酸エチルを用いセライトろ過をし、ろ液を0.5M塩酸水で洗浄し無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。綿栓ろ過したろ液をエバポレーターで濃縮し粗生成物を得た。
【0128】
得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=6:1)で精製し、下記の1−O−4−ヘキシルオキシビフェニル−4−カルボキシ−2−O−メトキシメチル−3−モノ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロールを得た。
【化26】

収率 :33%(30.5mg)
Rf値:0.5(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)
形状 :無色オイル状
[α]D26=+0.91(c0.29,CHCl3
【0129】
1H NMR(270MHz、CDCl3):δ0.80-0.90(m,6H),1.20-1.40(m,22H),1.40-1.53(m,4H),1.52-1.72(m,3H),1.76-1.86(m,2H),1.98-2.12(m,2H),2.18-2.23(m,2H),2.35(t,J=7.4
Hz,2H),3.41(s,3H),3.55-3.68(m,1H),4.01(t,J=6.6Hz,2H),4.11-4.58(m,5H),4.77(s,2H),5.37-5.44(m,1H),5.50-5.59(m,1H),6.95-7.00(m,2H),7.48-7.64(m,4H),8.04-8.09(m,2H)
【0130】
13C NMR(67.8MHz、CDCl3):δ14.0,14.1,22.6,24.8,25.7,27.4,29.0,29.1,29.2,29.3,29.5,31.6,31.8,34.1,35.4,36.8,55.663.4,63.9,71.5,72.7,77.2,96.0,114.9,125.2,126.3,126.5,127.7,128.0,128.3,130.2,132.0,133.3,145.6,159.5,166.2,173.5
【0131】
IR(neat):2929,2857,1721,1605,1497,1466,1274,1186,1111,1035,829,757cm-1
【0132】
合成例2
上記合成例1において、酵素反応例3で得られた表2のEntry5の化合物に代えて、酵素反応例1で得られた表1のEntry1〜4の化合物、酵素反応例2で得られた表2のEntry1〜4の化合物、酵素反応例3で得られた表2のEntry6の化合物、酵素反応例4で得られた表3のEntry1〜3の化合物と表4のEntry1〜5の化合物をそれぞれ用いた以外は合成例1と同様にして4−(4−ヘキシルオキシフェニル)安息香酸を反応させ、それぞれの化合物に対応した化合物を得た。
【0133】
評価例
<DSC曲線の測定>
熱分析システムを用いて、試料として上記合成例1で得られた1−O−4−ヘキシロキシビフェニル−4−カルボキシ−2−O−メトキシメチル−3−モノ−12−ヒドロキシ−cis−9−オクタデケノイルグリセロールを測定した。試料は室温から始め、室温、50℃、−100℃、200℃、−100℃、室温の順で毎分5℃ずつ変化させることによって、−100℃から200℃まで昇温させた時の熱の吸収、及び、200℃から−100℃まで降温させた時の熱の発熱を測定した。なお、200℃と−100℃では、それぞれ5分間その温度を保った。結果を図1に示す。
【0134】
昇温方向に図1のDSC曲線を見てみると、熱の吸収であるピークa、b、c、dの4つが確認できる。これは温度の上昇と共に固相から3種類の液晶相を経由し、液相になっている事を示している。ある試料を熱分析すると、その物質の相は他の相へと相転位するときピークとなって現れる。つまり図1の昇温方向のDSC曲線は、ピークaは、固相から液晶相への相転位の際のピークであり、dのピークは液晶相から液相への相転位を表していると考えられ、すなわち、−20℃付近から75℃付近の間で液晶相が確認できた。
【0135】
降温方向でも同じように、ピークe、fの2つが確認できた。すなわち、1つの液晶相を経由する相転位がみられ、−20℃付近から75℃付近の間で液晶相が確認できた。
【0136】
以上より、一般式(1)で表される化合物は液晶相を有する可能性があることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明による液晶化合物は、環境調和型であり、生成効率にも優れた酵素反応を利用して不斉炭素を導入した新規な強誘電性液晶化合物は、ディスプレイ等に広く利用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】合成例1で合成された化合物のDSC曲線の一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不斉炭素原子を含有する化合物であって、該不斉炭素原子が酵素反応を用いて導入されたものであることを特徴とする強誘電性液晶化合物。
【請求項2】
一般式(1)で表される化学構造を有する請求項1に記載の強誘電性液晶化合物。
【化1】

[一般式(1)中、Xは置換基を有していてもよい芳香族環又は連結芳香族環を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜24のアルキル基又は炭素数2〜24のアルケニル基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又は−COR'(R'は置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を示す)を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜13のアルキル基を示す。]
【請求項3】
酵素反応を用いて不斉炭素原子が導入される化合物が、一般式(2)で表されるものである請求項1又は請求項2に記載の強誘電性液晶化合物。
【化2】

[一般式(2)中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜24のアルキル基又は炭素数2〜24のアルケニル基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又は−COR'(R'は置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を示す)を示す。]
【請求項4】
酵素反応を用いて不斉炭素原子が導入される化合物が、ヒマシ油を原料として合成されたものである請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載の強誘電性液晶化合物。
【請求項5】
該酵素反応に用いられる酵素がリパーゼである請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載の強誘電性液晶化合物。
【請求項6】
一般式(1)で表される化学構造を有する化合物。
【化3】

[一般式(1)中、Xは置換基を有していてもよい芳香族環又は連結芳香族環を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜24のアルキル基又は炭素数2〜24のアルケニル基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又は−COR'(R'は置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を示す)を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜13のアルキル基を示す。]

【図1】
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【公開番号】特開2007−326793(P2007−326793A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157282(P2006−157282)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(000118556)伊藤製油株式会社 (15)
【Fターム(参考)】