説明

強誘電性液晶組成物及び表示素子

【課題】融点が低く高速応答して、かつ相転移温度が低い強誘電性液晶組成物を提供する。
【解決手段】一般式(I)〜(IV)で表される化合物を含有する強液晶組成物。








R11からR42は、アルキル基等を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、強誘電性液晶ディスプレイの構成部材として有用な強誘電性液晶組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クラークとラガーウォールらによって提案された表面安定化強誘電性液晶表示素子は、(1)高速応答であること、(2)メモリー性を有すること、(3)視野角が広いこと、(4)パッシブ駆動が可能であること、などの特性を示すことから、次世代の表示素子として注目されている。
【0003】
強誘電性液晶になり得る液晶相は、チルト系のキラルスメクティック液晶相であるが、実用的には粘性の点で有利なキラルスメクティックC相(以下、SmCと略す。)が最も広く用いられている。強誘電性液晶表示素子の動作温度、保存温度はSmC相の温度範囲によって制限される。幅広い温度範囲でSmC相を発現させるために、スメクチックC相を発現する非キラル化合物からなるベース液晶に、光学活性物質を添加する方法が、一般的な方法として知られている。
【0004】
ベース液晶として用いられる非キラル化合物としては、フェニルピリミジン系の化合物が有用である。特に、下記構造を有する化合物、
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、R及びRは直鎖状アルキル基を表す。)
は、フェニルピリミジン系の化合物としては比較的粘性が低く高速応答に適することから、当該化合物を数種混合した組成物(以下、PYベースと略す。)はベース液晶として汎用されている。フェニルピリミジン系化合物を用いたPYベース液晶は、比較的低粘度である反面、融点が通常0℃以上と高い問題を有している。
【0007】
PYベース液晶の低融点化を達成する技術として、PYベース液晶に下記分岐メチル基を側鎖に有するピリミジン系化合物、
【0008】
【化2】

【0009】
を添加する方法が開示されている(特許文献1及び2参照。)。
しかし、当該引用文献記載の組成物においては、ピリミジン系化合物における分岐側鎖において、メチル基の置換位置が最適化されていない問題があった。そのため、当該引用文献記載の液晶組成物は融点が5℃程度と高く、強誘電性液晶ディスプレイの実用化には不十分なものであった。一方、低融点化に効果のある方法としてアルキル鎖の末端にシクロプロパン環構造を持つ化合物とアルキル鎖中にジメチル分岐を持つ化合物を混合する方法が報告されている(特許文献3参照)。しかしながら、報告されている融点は11℃あるいは13℃と高く実用的に不十分なもので、かつ、応答に関する効果は記載されていない。
【0010】
一方、強誘電性液晶組成物は液晶表示素子を作製する際、強誘電性を示すのが固体に近い液晶相であるスメクチック相であるので、このスメクチック相で液晶を表示セルの中に注入することが難しく、液体相あるいはネマチック相まで温度を上昇させる必要がある。従って、液晶相と液体相との間の相転移温度が高いと熱による液晶材料、あるいは、液晶表示素子に使用する部材、シール剤等が変質する可能性があり、また、加熱及び冷却にエネルギーと時間を要し、製造プロセスとして好ましくなかった。
【0011】
そのため、融点が低く高速応答して、かつ液晶相と液体相との間の相転移温度が低い強誘電性液晶組成物の開発が望まれていた。
【0012】
【特許文献1】特開昭64−79160号公報
【特許文献2】特開平2−204484号公報
【特許文献3】特開平5−255277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、融点が低く高速応答して、かつ液晶相と液体相との間の相転移温度が低い強誘電性液晶組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本願発明者らは種々のフェニルピリミジン誘導体、分子構造の末端に環構造を有する化合物、不斉炭素にフッ素が導入された化合物を用いて液晶組成物の検討を行い、特定の2環のフェニルピリミジン誘導体、特定の3環のフェニルピリミジン誘導体、特定の末端環構造を有する化合物、及び特定の不斉炭素にフッ素が導入された化合物の混合により、融点が低く高速応答して、かつ液晶相と液体相との間の相転移温度が低い強誘電性液晶組成物が得られることを見出し、本願発明の完成に至った。
本願発明は、一般式(I)
【0015】
【化3】

(式中、R11及びR12は各々独立に炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表す。)で表される化合物を少なくとも1種含有し、一般式(II)
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、R21及びR22は各々独立に炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表す。)で表される化合物を少なくとも1種含有し、一般式(III−a)
【0018】
【化5】

(式中、R31は炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基あるいはアルコキシ基を表し、R32は単結合、又は炭素数1〜12のアルキレン基を表し、aは0又は1を表す。)及び一般式(III−b)
【0019】
【化6】

(R33は炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基あるいはアルコキシ基を表し、R34は単結合、又は炭素数1〜12のアルキレン基を表し、bは0又は1を表す。)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、一般式(IV)
【0020】
【化7】

【0021】
(式中、R41は炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基あるいはアルコキシ基を表し、R42は炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、X41及びX42は各々独立に水素原子又はフッ素原子を表し、cは0又は1を表す。)で表される化合物を少なくとも1種含有することを特徴とする強誘電性液晶組成物を提供し、該液晶組成物及び光学活性化合物を含有する強誘電性液晶組成物を提供し、併せて該強誘電性液晶組成物を用いた強誘電性液晶表示素子を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の液晶組成物及び強誘電性液晶組成物は融点が低い特徴を有することから、低温保存時に結晶の析出を効果的に防ぐことが可能である。本願発明の強誘電性液晶組成物は、強誘電性液晶ディスプレイの構成部材として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本願発明の強誘電性液晶組成物は、一般式(I)で表される化合物を含有するが、一般式(I)で表される化合物としては、一般式(I-a)
【0024】
【化8】

(式中、R13及びR14は各々独立に炭素数1〜18の直鎖状アルキル基を表す。)で表される化合物を少なくとも1種と、一般式(I-b)、
【0025】
【化9】

(式中、R15は炭素数1〜18の直鎖状アルキル基、R16は炭素数1〜18の分岐状アルキル基を表す。)で表される化合物を少なくとも1種とからなることが好ましい。
【0026】
化合物(I-a)としては、R11及びR12が各々独立に炭素原子数2〜16のものがさらに好ましく、炭素原子数3〜14のものが特に好ましい。化合物(I-b)としては、分岐状アルキル鎖の分岐がメチル基であるものが好ましく、分岐の数は1及び2のものがさらに好ましい。化合物(I-b)として好ましい構造の具体例を以下に挙げる。
【0027】
【化10】

【0028】
(式中、pは4〜14の整数を表し、q及びrは各々独立に1〜11の整数を表すが、q+rは8以下であり、s、t及びuは各々独立に1〜8の整数を表すが、s+t+uは10以下である。ただし、分岐側鎖において分子両末端のアルキル基部分は直鎖である。)
一般式(II)
【0029】
【化11】

【0030】
(式中、R21及びR22は各々独立に炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表す。)
で表される化合物としては、R21が炭素原子数1〜18の直鎖状アルキル基であり、かつ、R22が炭素原子数1〜18の分岐状アルキル基である化合物が好ましい。この中でも、R21及びR22の炭素原子数としては、各々独立に2〜16のものがさらに好ましく、3〜14のものが特に好ましい。分岐状アルキル鎖の分岐はメチル基であるものが好ましく、分岐の数は1及び2のものがさらに好ましい。化合物(II)として特に好ましい構造の具体例を以下に挙げる。
【0031】
【化12】

【0032】
(式中、eは4〜14の整数を表し、f及びgは各々独立に1〜11の整数を表すがf+gは8以下であり、h、i及びkは各々独立に1〜8の整数を表すが、h+i+kは10以下である。ただし、分岐側鎖において分子両末端のアルキル基部分は直鎖である。)
一般式(III−a)又は一般式(III−b)の化合物として好ましい具体例を下記に挙げる。
【0033】
【化13】

【0034】
(式中、R331は炭素数4〜14のアルキル基あるいはアルコキシ基を表す。)
一般式(IV)
の化合物としては、結晶化を抑制し融点を低下する目的ではcが0の化合物が好ましい。特に好ましい化合物の具体例を以下に挙げる。
【0035】
【化14】

【0036】
(式中、R441及びR442は各々独立的に炭素数4〜14のアルキル基を表す。)
本願発明の強誘電性液晶組成物は、焼付きあるいは反転異常等の表示不良を防止する目的で、一般式(V)
【0037】
【化15】

【0038】
(式中、Zは酸素原子又はイオウ原子を表し、a及びbは各々独立に1から5の整数を表すが、a+bは2〜6であり、X51及びX52は各々独立に酸素原子、イオウ原子、下記構造
【0039】
【化16】

【0040】
(式中、Rは隣り合わない−CH−基が、−COO−、−CO―、―O―、―S―、又は―CH=CH−によって置換されていても良い炭素数1〜15のアルキル基又はハロゲン化アルキル基、水素原子、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、又はベンゾイル基である。)のいずれかの基であるか、又は、X51、X52が一緒になった下記構造、
【0041】
【化17】

【0042】
(式中、Z51、及びZ52は各々独立に酸素原子又はイオウ原子を表し、c51及びd51は各々独立に1又は2を表す。)のいずれかを表す。)で表される化合物を含むことも好ましい。
一般式(V)で表される化合物としては、下記分子構造、
【0043】
【化18】

【0044】
(式中、R551及びR552は各々独立に、隣り合わない−CH−基が、−COO−、−CO―、―O―、―S―、又は―CH=CH−によって置換されていても良い炭素数1〜15のアルキル基又はハロゲン化アルキル基、水素原子、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、又はベンゾイル基を表す。)のいずれかで表される化合物がより好ましい。
一般式(V)の化合物の構造の具体例を以下に挙げる。
【0045】
【化19】

【0046】
(式中、R553は炭素数1〜15のアルキル基を表し、eは1から10の整数を表す。)
本願発明の強誘電性液晶組成物としては一般式(I)、一般式(II)、一般式(III−a)あるいは一般式(III−b)、及び、一般式(IV)で表される化合物を使用するが、液晶の温度範囲を広くしたり、転移温度を好ましい温度範囲に保ったり、好ましい液晶相系列を発現させたり、チルト角を好ましい範囲に保ったり、高速応答を行うことができるよう粘性を低くしたり、あるいは、高速応答ができるよう自発分極を好ましい範囲に保つために、強誘電性液晶組成物全体に対しての好ましい含有量がある。一般式(I)で表される化合物の含有量は、5〜50%が好ましく、10〜45%がより好ましく、20〜40%が特に好ましい。このなかでも一般式(I)で表される化合物を2種以上含有することがなお好ましい。一般式(II)で表される化合物の含有量は、10〜55%が好ましく、20〜45%がより好ましく、25〜45%が特に好ましい。この中でも一般式(II)で表される化合物を2種以上含有することが好ましい。一般式(III−a)あるいは一般式(III−b)、で表される化合物の含有量は、2〜40%が好ましく、3〜30%がより好ましく、4〜20%が特に好ましい。一般式(IV)の含有量が少なすぎると自発分極の値が小さくなり応答が遅くなり、一方、含有量が多すぎるとキラルな効果に基づく好ましくない分子配列のねじれが発生するので、一般式(IV)の含有量としては、1%〜40%が好ましく、3〜30%がより好ましく、5〜25%が特に好ましい。また、一般式(IV)で表される化合物の一化合物あたりの含有量が1%〜10%であると、単一成分が多すぎることによる好ましくない結晶化や相系列の乱れを抑制することができるのでなお良い。
【0047】
強誘電性液晶組成物を実際の表示素子として使用する場合には強誘電性相となる(キラル)スメクチックC相の温度範囲は室温を含む範囲となるよう一般式(I)、一般式(II)、一般式(III−a)あるいは一般式(III−b)、及び、一般式(IV)で表される化合物を混合する必要がある。−20℃で結晶化しないことが好ましく、強誘電性液晶組成物のTAC点(スメクチックC−スメクチックA相転移温度)は室温より十分高い温度である50℃〜85℃であることが好ましく、特には55℃〜80℃であることが好ましい。ただし、TAC点は次に述べる透明点の好ましい温度範囲に応じて決定されるものである。一方、強誘電性液晶組成物は液晶表示素子を作製する際、強誘電性を示すのが固体に近い液晶相であるスメクチック相であるので、このスメクチック相で液晶を表示セルの中に注入することが難しく、液体相あるいはネマチック相まで温度を上昇させる必要がある。従って、透明点(液晶−液体相転移温度)が高いと熱による液晶材料、あるいは、液晶表示素子に使用する部材、シール剤等が変質する可能性があり、また、加熱及び冷却にエネルギーと時間を要し、プロセスとして好ましくないため、透明点は75〜100℃であることが好ましく、特には75〜95℃であることが好ましい。良配向を得るためには、ネマチック相、及びスメクチックA相の温度範囲が十分広いことが好ましく、具体的には、各々独立に、ネマチック相あるいはスメクチックA相を他の相と共存せずに単独で示す温度範囲が1℃以上であることが好ましく、3℃以上であることがより好ましい。
【0048】
これらの液晶組成物は不純物等を除去する目的で、シリカ、アルミナ等による精製処理を施しても良い。更に、目的に応じて液晶組成物中に、キラル化合物、染料等のドーパントを添加することもできる。その他、必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、非反応性のオリゴマーや無機充填剤、有機充填剤、重合禁止剤、消泡剤、レベリング剤、可塑剤、シランカップリング剤等を適宜添加しても良い。
【0049】
更に、強誘電性液晶組成物の成分として、必要に応じて一般式(I)及び一般式(II)で示される液晶性化合物以外の液晶性化合物を併用することができる。併用しうる化合物に特に限定はないが、強誘電性液晶相を安定化するためには、スメクチックC相、あるいはキラルスメクチックC相を示す液晶性化合物を用いることが好ましい。(本明細書中では、液晶相の名称を記載したときには特に断わりのない限り対応するキラルな液晶相も含むものとする。)また、強誘電性液晶相の相系列、あるいは各液晶相の温度範囲を調節するためには適宜液晶性化合物を選ぶのが良い。具体的には、ネマチック相を発現させたり、ネマチック相の温度範囲を広げたい場合には、ネマチック相を示す化合物を併用することが好ましく、また、スメクチックA相を発現させたり、スメクチックA相の温度範囲を広げたい場合には、スメクチックA相を示す化合物を併用することが好ましく、あるいは、Half-V用材料のように、スメクチックA相が不要な場合には、スメクチックA相を示さない化合物を併用することが好ましい。良好な配向を得るためにはネマチック相を安定化することが必要で、その場合は、スメクチック液晶と相溶性が良く温度範囲の広いネマチック相を示す化合物を添加することが好ましい。そのような化合物はネマチック相を示す温度領域の幅が20℃〜120℃であるものが好ましく、透明点(液晶−液体相転移温度)が70℃〜220℃であるものがより好ましい。その中でも、下記一般式(VI)
【0050】
【化20】

【0051】
(式中、R661及びR662は各々独立に炭素原子数1〜8の直鎖状アルキル基あるいはアルコキシ基を表し、A、B及びCは1,4−フェニレン基、又は、1,4−シクロヘキシレン基を表し、aは0、1、又は2表し、b,及びcは0又は1の整数を表し、a、b及びcの合計は1又は2を表し、ただし、Aが1,4−シクロヘキシレン基の場合はR661は炭素原子数1〜8の直鎖状アルキル基、Cが1,4−シクロヘキシレン基の場合はR662は炭素原子数1〜8の直鎖状アルキル基を表す。)
に示す構造を有する化合物は分子構造の直線性が高く高速応答性を得るために添加する化合物としては特に好ましい。このなかでも、R661及びR662は各々独立に炭素原子数1〜5の直鎖状アルキル基あるいはアルコキシ基である場合が特に好ましい。
【0052】
コントラストの良い表示素子を得るためには、表示方式にあわせて傾き角を調整する必要がある。傾き角を大きくするためには、スメクチックC相の上限温度を高くしたり、スメクチックA相の温度幅を狭くするように、化合物を選ぶことが好ましく、傾き角を小さくするためには、スメクチックC相の上限温度を低くしたり、スメクチックA相の温度範囲を広くするような化合物を使用することが好ましい。
【0053】
キラル化合物は一般式(IV)で示される構造の化合物を1種用いても、あるいは、構造が異なるものを複数用いても良い。キラルな効果に基づき発生する液晶相での螺旋構造を抑制し、良好な配向状態を得るためには、発生させるねじれの向きが異なる複数のキラル化合物を組合わせて用いることが好ましい。このとき、自発分極の向きは揃うようにキラル化合物の組み合わせを選ぶか、あるいは、十分大きな自発分極を発生させる化合物とねじれ構造は誘起するが自発分極値の小さな化合物の組み合わせを選ぶと自発分極の値はキャンセルされないので好ましい。キラルな効果に基づき液晶相でおこる螺旋構造の発生を抑制するために発生させるねじれの向きが異なる複数のキラル構造を同一の化合物の中に導入することも好ましく行われる。このとき、自発分極の向きは揃うようにキラル構造の組み合わせを選ぶか、あるいは、十分大きな自発分極を発生させる構造とねじれ構造は誘起するが自発分極値の小さな構造の組み合わせを選ぶと自発分極の値はキャンセルされないので好ましい。
【0054】
本発明の強誘電性液晶組成物に、焼付けあるいは反転異常等のスイッチング不良を抑制する目的で、一般式(V)で表される化合物を添加することも好ましく行われる。この場合、一般式(V)で表される化合物の含有量が0.0001質量%〜10質量%であることが好ましく、さらに、0.001質量%〜5質量%であることがより好ましい。特に、一般式(V)で表される化合物の添加により添加前の強誘電性液晶組成物のTAC点(スメクチックC−スメクチックA相転移温度)が10℃以上変化しないように添加量を調整することが好ましい。
【0055】
本発明の組成物を液晶セルの中に入れることにより、液晶表示素子を作製することが可能である。液晶セルの2枚の基板はガラス、プラスチックの如き柔軟性をもつ透明な材料を用いることができ、一方はシリコン等の不透明な材料でも良い。透明電極層を有する透明基板は、例えば、ガラス板等の透明基板上にインジウムスズオキシド(ITO)をスパッタリングすることにより得ることができる。
【0056】
強誘電性液晶組成物を用いた液晶表示素子は、フィールドシーケンシャル駆動方法を利用することにより、カラーフィルターを使用しなくてもカラー表示が可能となるが、カラーフィルターを使用した表示方法を利用してもよい。カラーフィルターは、例えば、顔料分散法、印刷法、電着法、又は、染色法等によって作成することができる。顔料分散法によるカラーフィルターの作成方法を一例に説明すると、カラーフィルター用の硬化性着色組成物を、該透明基板上に塗布し、パターニング処理を施し、そして加熱又は光照射により硬化させる。この工程を、赤、緑、青の3色についてそれぞれ行うことで、カラーフィルター用の画素部を作成することができる。その他、該基板上に、TFT、薄膜ダイオード、金属絶縁体金属比抵抗素子等の能動素子を設けた画素電極を設置してもよい。
【0057】
前記基板を、透明電極層が内側となるように対向させる。その際、スペーサーを介して、基板の間隔を調整してもよい。このときは、得られるセルの厚さが1〜100μmとなるように調整するのが好ましい。セル厚は、1から10μmが更に好ましく、1から4μmがなお好ましい。偏光板を使用する場合は、コントラストが最大になるように液晶の屈折率異方性Δnとセル厚dとの積を調整することが好ましい。表示素子の製造の点ではセル厚が厚い方が好ましいが、その場合にはΔnが小さい液晶を使用する必要がある。その場合には、シクロヘキシル、あるいは、1,3,4−チアジアゾール−2,5−ジイル構造を有する化合物を併用することが望ましい。シクロヘキシル構造は、一つの分子中に一つ、あるいは2つ存在することが好ましく、1,3,4−チアジアゾール−2,5−ジイルは一つの分子中に一つ存在することが好ましい。又、二枚の偏光板がある場合は、各偏光板の偏光軸を調整して視野角やコントラトが良好になるように調整することもできる。更に、視野角を広げるための位相差フィルムも使用することもできる。スペーサーとしては、例えば、ガラス粒子、プラスチック粒子、アルミナ粒子、フォトレジスト材料等が挙げられる。その後、エポキシ系熱硬化性組成物等のシール剤を、液晶注入口を設けた形で該基板にスクリーン印刷し、該基板同士を貼り合わせ、加熱しシール剤を熱硬化させる。
【0058】
2枚の基板間に高分子安定化強誘電性液晶組成物を狭持させるに方法は、通常の真空注入法、又はODF法などを用いることができる。この時、液晶組成物は、均一なアイソトロピック状態か、又は(キラル)ネマチック相であることが好ましい。スメクチック相では、素子作製時の取り扱い方が難しくなる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明の液晶組成物について更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。本実施例において相転移温度の測定は、温度調節ステージを備えた偏光顕微鏡および示差走査熱量計(DSC)を併用して行った。応答時間は、液晶セル(配向膜:ポリイミド, ラビング方向:アンチパラレル, セルギャップ:2μm)をひとつの分子配列の安定状態において分子長軸がアナライザーと並行になるようにクロスニコルの偏光顕微鏡にセットし、室温で60Hz、20V0−pの矩形波を印加して透過光量が10から90%に変化するまでの時間を応答時間とした。焼付きの評価は、暗状態で1週間放置した液晶セルの暗状態から明状態に変化させるのに必要なパルス幅(時間)と、初期の暗状態から明状態に変化させるのに必要なパルス幅(時間)を比較することで評価した。すなわち、両者が近い値である場合には焼付きがなく、両者の値の差が大きいほど、強い焼付き現象がおきていると評価した。また、組成物中における「部」はすべて「質量部」を表すものとする。
(実施例1)
一般式(I)の化合物として下記に示す(I−1)〜(I−5)、一般式(II)の化合物として、下記に示す(II−1)及び(II−2)、一般式(III−a)あるいは一般式(III−b)で表される化合物として(III−1)、一般式(IV)で表される化合物として(IV−1)を下記に示す割合で混合して強誘電性液晶組成物(FLC-1)を作製した。FLC-1の融点は−5℃と低く好ましいものであり、また、応答時間も250μ秒と高速であり、TAC点は60℃と室温より十分高く好適で、透明点は80℃とセルに注入する際に熱による液晶組成物の劣化を防ぐために十分低く好ましいものであった。
【0060】
【化21】

【0061】
(比較例1)
一般式(III−a)あるいは一般式(III−b)で表される化合物群を含まないことを除いて、実施例1と同様にして強誘電性液晶組成物(FLC−C1)を下記割合、
(I−1) 22部
(I−2) 12部
(I−3) 10部
(I−4) 4部
(I−5) 14部
(II−1) 7部
(II−2) 23部
(IV−1) 10部
で作製した。(FLC−C1)の融点は10℃と実施例と比べて高いものとなり好ましくなかった。また応答時間も420μ秒と実施例と比較して遅くなり、好ましくなかった。
(実施例2)
一般式(I)の化合物として下記に示す(I−1)〜(I−7),一般式(II)の化合物として、下記に示す(II−1)、及び(II−3)〜(II−5)、一般式(III−a)あるいは一般式(III−b)で表される化合物として(III−1)及び(III−2)、一般式(IV)で表される化合物として(IV−1)及び(IV−2)、一般式(V)で表される化合物として(V−1)、及び一般式(VI)で表される直線性の良いネマチック液晶性化合物として(VI-1)を下記に示す割合で混合して強誘電性液晶組成物(FLC−2)を作製した。
【0062】
【化22】

【0063】
FLC−2の融点は−23℃と低く好ましいものであり、また、応答時間も180μ秒と高速であり、TAC点は62℃と室温より十分高く好適で、透明点は87℃とセルに注入する際に熱による液晶組成物の劣化を防ぐために十分低く、焼付き現象も見られなかった。
【0064】
(比較例2)
一般式(II)で表される化合物群を含まず、一般式(I)、一般式(III−a)あるいは一般式(III−b)、一般式(IV)、一般式(V)、及び一般式(VI)で表される化合物群については実施例2で使用したものから選んだ化合物を下記に示す割合で混合して比較用強誘電性液晶組成物(FLC−C2)を作製した。
(I−1) 17部
(I−2) 10部
(I−3) 8部
(I−4) 3部
(I−5) 11部
(III−1) 14部
(III−2) 4部
(IV−1) 7部
(IV−2) 7部
(V−1) 0.4部
(VI−1) 18部
(FLC−C2)の融点は12℃と実施例2と比べて高いものとなり好ましくなかった。またTAC点は48℃と室温に近い温度に低くなり、好ましくなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、R11及びR12は各々独立に炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表す。)で表される化合物を少なくとも1種含有し、一般式(II)
【化2】

(式中、R21及びR22は各々独立に炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表す。)で表される化合物を少なくとも1種含有し、一般式(III−a)
【化3】

(式中、R31は炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基あるいはアルコキシ基を表し、R32は単結合、又は炭素数1〜12のアルキレン基を表し、aは0又は1を表す。)及び一般式(III−b)
【化4】

(R33は炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基あるいはアルコキシ基を表し、R34は単結合、又は炭素数1〜12のアルキレン基を表し、bは0又は1を表す。)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、一般式(IV)
【化5】

(式中、R41は炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基あるいはアルコキシ基を表し、R42は炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、X41及びX42は各々独立に水素原子又はフッ素原子を表し、cは0又は1を表す。)で表される化合物を少なくとも1種含有することを特徴とする強誘電性液晶組成物。
【請求項2】
一般式(V)
【化6】

(式中、Zは酸素原子又はイオウ原子を表し、a及びbは各々独立に1から5の整数を表すが、a+bは2〜6であり、X51及びX52は各々独立に酸素原子、イオウ原子、下記構造
【化7】

(式中、Rは隣り合わない−CH−基が、−COO−、−CO―、―O―、―S―、又は―CH=CH−によって置換されていても良い炭素数1〜15のアルキル基又はハロゲン化アルキル基、水素原子、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、又はベンゾイル基である。)のいずれかの基であるか、又は、X51、X52が一緒になった下記構造、
【化8】

(式中、Z51、及びZ52は各々独立に酸素原子又はイオウ原子を表し、c51及びd51は各々独立に1又は2を表す。)のいずれかを表す。)で表される化合物を含有する請求項1記載の強誘電性液晶組成物。
【請求項3】
一般式(I)で表される化合物が、一般式(I-a)
【化9】

(式中、R13及びR14は各々独立に炭素数1〜18の直鎖状アルキル基を表す。)で表される化合物を少なくとも1種と、一般式(I-b)、
【化10】

(式中、R15及びR16は各々独立に炭素数1〜18の直鎖状あるいは分岐状アルキル基を表す。ただし、該アルキル基のうち、どちらか一方は直鎖状アルキル基で、もう一方は分岐状アルキル基である。)で表される化合物を少なくとも1種とからなる請求項1又は2記載の強誘電性液晶組成物
【請求項4】
一般式(II)で表される化合物が、一般式(II)中のR22が炭素数1〜18の分岐上アルキル基である化合物(II-a)である、請求項1から3の何れかに記載の強誘電性液晶組成物。
【請求項5】
一般式(IV)で表される化合物が、一般式(IV)中のcが0である化合物(IV-a)であることを特徴とする、請求項1から4の何れかに記載の強誘電性液晶組成物。
【請求項6】
一般式(IV)で表される化合物の含有量が1.0質量%〜40質量%であることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の強誘電性液晶組成物。
【請求項7】
一般式(IV)で表される化合物の含有量が、一化合物あたり1.0質量%〜10質量%であることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の強誘電性液晶組成物。
【請求項8】
請求項2に記載の一般式(V)で表される化合物の含有量が0.0001質量%〜10質量%であることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載の強誘電性液晶組成物。
【請求項9】
液晶相と液体相との間の相転移温度が75℃〜100℃であることを特徴とする請求項1から8の何れかに記載の強誘電性液晶組成物。
【請求項10】
請求項1から9の何れかに記載の強誘電性液晶組成物を用いた強誘電性液晶表示素子。

【公開番号】特開2009−249618(P2009−249618A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103478(P2008−103478)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】