説明

弾性ホイール及びその製造方法

【課題】操縦安定性を向上する弾性ホイール及びその製造方法を提供する。
【解決手段】タイヤ2を取付けるリム3、車軸に固定されるディスク4及び前記リム3と前記ディスク4の連結手段5を含む。連結手段5は、リム3の内周面3iから半径方向内方に突出して円周方向にのびかつ車軸方向に距離を隔てて設けられた一対の環状のリング片6、6と、一対のリング片6、6の間で円周方向にのび各リング片6と車軸方向の間隙を有するディスク4の半径方向外側に設けられた結合部7と、前記各間隙を継ぐようにリング片6と結合部7との間に配されたゴム弾性材からなるダンパー部材8とを含む。各リング片6の内側面には、第1の係合溝9が、結合部7の車軸方向の両側面には、第2の係合溝10がそれぞれ形成される。ダンパー部材8は、車軸方向の両端部が前記対となる第1の係合溝9と第2の係合溝10とで支持されこれらの間で車軸方向に圧縮状態で配されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操縦安定性を向上しうる弾性ホイール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図11には、従来の弾性ホイールrの断面図が示される。該弾性ホイールrは、タイヤを支承できかつ円周方向にのびるリムaと、車軸に固定されるディスクbと、これらを連結する弾性ゴムからなるダンパー部材cとを含む(例えば、下記特許文献1参照)。このような弾性ホイールrは、リムaの振動をダンパー部材cが吸収することにより、ディスクb、ひいては図示しない車軸への振動伝達が低減される。従って、車室内での乗り心地や騒音性能が向上する。
【0003】
【特許文献1】特開2003−104001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、従来の弾性ホイールrの製造方法の一例について簡単に述べる。図12に示されるように、先ず、ダンパー部材cが、ディスクbと断面略L字状をなす両側のリング片e、eとに加硫接着される。この加硫接着工程では、例えば、ディスクbと断面L字状をなすリング片eとの間に未加硫のゴムを配置したアッセンブリfが準備される。このアッセンブリfは、図示しない金型又は加硫釜等に投入され、所望の熱エネルギーを受ける。これにより、前記ゴム(ダンパー部材c)が加硫されて硬化するとともに、ディスクb及びリング片eと一体に接着される。次に、このアッセンブリfのリング片eが、前記リムaの内周面に溶接固着される。
【0005】
ところで、一般にホイールを製造する製造ラインは、ゴムを加硫する設備を有していない。このため、従来の弾性ホイールの製造方法では、前記アッセンブリfを別工場に搬送して加硫する工程を必要とし、大きな部品の移動が必要となるなど、製造工程が複雑化し、生産効率が悪いという欠点があった。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、ダンパー部材を、車軸方向に圧縮した状態でリム側及びディスク側にそれぞれ設けられた係合溝で支持させることを基本として、従来のように面倒な加硫接着工程を不要にし生産性を向上しうる弾性ホイール及びその製造方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のうち請求項1記載の発明は、タイヤを支承しうる円周方向にのびるリム、車軸に固定されるディスク及び前記リムと前記ディスクとを連結する連結手段を含み、前記連結手段は、前記リムの内周面から半径方向内方に突出して円周方向にのびかつ車軸方向に距離を隔てて設けられた一対の環状のリング片と、前記一対のリング片の間で円周方向にのびかつ各リング片と車軸方向の間隙を有する前記ディスクの半径方向外側に設けられた結合部と、前記各間隙を継ぐように前記リング片と前記結合部との間に配されたゴム弾性材からなるダンパー部材とを含み、前記各リング片の互いに向き合う内側面には、円周方向にのびる第1の係合溝がそれぞれ形成されるととともに、前記結合部の車軸方向の両側面には、前記第1の係合溝とそれぞれ対向して対となりかつ円周方向にのびる第2の係合溝が形成され、かつ、前記ダンパー部材は、車軸方向の両端部が前記対となる第1の係合溝と第2の係合溝とで支持されかつこれらの間で車軸方向に圧縮状態で配されたことを特徴とする弾性ホイールである。
【0008】
また請求項2記載の発明は、前記リング片は、予めリムに一体形成された第1のリング片と、前記リムに溶接によって固着された第2のリング片とを含む請求項1記載の弾性ホイールである。
【0009】
また請求項3記載の発明は、前記ゴム弾性材は、繊維により補強される請求項1又は2に記載の弾性ホイールである。
【0010】
また請求項4記載の発明は、請求項1に記載された弾性ホイールを製造する弾性ホイールの製造方法であって、前記一対のリング片のうち一方のリング片が予め前記内周面に一体形成され、かつ他方のリング片が前記リム3とは別体の状態で前記リムを準備する工程と、予め加硫されたゴム弾性材からなるダンパー部材を準備する工程と、前記ディスクを準備する工程と、前記ダンパー部材の車軸方向の両端部を前記第1の係合溝とそれと対をなす前記第2の係合溝との間で支持させることにより、前記リム、前記ダンパー部材、前記ディスク及び前記他方のリング片を仮組みする工程と、前記他方のリング片を前記一方のリング片に向けて押し付けることにより前記ダンパー部材を車軸方向に圧縮する工程と、前記ダンパー部材の圧縮状態において前記他方リング片を前記リムに溶接固着する工程とを含むことを特徴としている。
【0011】
また請求項5記載の発明は、前記圧縮する行程は、前記他方のリング片を、前記一方のリング片に向けて15〜25kNの力で車軸方向に押し付ける請求項4記載の弾性ホイールの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の弾性ホイールは、ゴム弾性材からなるダンパー部材の両端部が、リム側に設けられた第1の係合溝及びディスク側に設けられた第2の係合溝で車軸方向に圧縮されて支持される。従って、ダンパー部材は前記第1及び第2の係合溝の表面と高い摩擦力で接触し、両者の相対位置が実質的に固定されるため、予めこれらと加硫接着しなくても強固な結合が得られる。従って、本発明の弾性ホイールは、加硫接着が不要となるため生産性が向上する。
【0013】
また、請求項4記載の弾性ホイールの製造方法では、予め加硫されたゴム弾性材からなるダンパー部材が、第1及び第2の係合溝の中に配されかつ車軸方向に圧縮して支持される。このため、ダンパー部材は、摩擦力によってリム及びディスクとに強固に固着され、別途加硫接着をする必要がない。従って、本発明の製造方法では、加硫接着を必要としない能率の良い弾性ホイールの製造方法を提供しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の一形態を図面に基づき説明する。
図1は空気入りタイヤを装着した弾性ホイールの断面図、図2はその弾性ホイールの要部拡大図、図3は図2のA−A端面図をそれぞれ示す。弾性ホイール1は、空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」という場合がある。)2を支えるリム3と、図示しない車軸に固定されるディスク4と、前記リム3と前記ディスク4とを弾性的に連結する連結手段5とを含んで構成される。
【0015】
前記タイヤ2は、例えばリム3に着座する一対のビード部2a、2aを有したトロイド状の乗用車用のラジアルタイヤが例示される。
【0016】
前記リム3は、タイヤ2の前記ビード部2aが着座する一対のリムシート部3a、3aと、各リムシート部3aのリムの回転軸方向(以下、単に「軸方向」という。)の外端部に連なりかつリムの半径方向(以下、単に「半径方向」という。)の外方にのびるフランジ部3b、3bとを含む。また、リム3は、前記リムシート部3a、3aの間に、最も外径が小さく形成された凹溝状のウエル部3cと、外径がウエル部3cよりも大かつリムシート部よりも小の胴部3dとが車軸方向に並んで設けられる。前記ウエル部3cは、例えば一方のリムシート3a側に寄せて設けられているが、中央部でも良く、その形状及び/又は配置等については特に限定されるものではない。また、胴部3dは、ウエル部3cに比して車軸方向に大きな幅で形成されている。
【0017】
そして、リム3は、前記各部が前記回転軸を中心として実質的に円周方向に連続してのびる環状体で構成される。このようなリム3は、例えば鉄、アルミ合金又はマグネシウム合金のような実質的に非伸張性の金属材料で形成される。
【0018】
また、前記ディスク4は、略円盤状をなし、図示しない車軸(又は車軸ハブ)に固着される。また、ディスク4は、剛性を高めるために、図のように適宜湾曲させることができ、さらには軽量化、放熱性及び/又は意匠性等の観点より、適宜、空洞部4a等が設けられる。さらに、ディスク3は、リム2と同様、鉄、アルミ合金又はマグネシウム合金のような実質的に非伸張性の金属材料で形成される。
【0019】
前記連結手段5は、図2に示されるように、前記リム3の内周面3iから半径方向内方に突出しかつ車軸方向に距離を隔てて設けられた一対の環状のリング片6、6と、前記ディスク4に設けられかつ前記リング片6、6とそれぞれ車軸方向の間隙を有して円周方向にのびる結合部7と、前記リング片6と結合部7との前記間隙を跨るように配されたゴム弾性材からなるダンパー部材8とを含んで構成される。
【0020】
前記リム3の内周面3iとは、リム3のタイヤ2が装着される側とは反対側の面を意味し、この内周面3iにリング片6が設けられる。各リング片6は、例えば、円周方向に連続してのびるフランジ状で形成されている。これにより、リム3には、向き合う2つのリング片6、6及びそれらの間のリム3の内周面3iが囲む円周方向にのびる溝状の空所Oが形成される。
【0021】
また、各々のリング片6の互いに向き合う内側面には、円周方向にのびる第1の係合溝9がそれぞれ形成される。本実施形態において、前記第1の係合溝9、9は、いずれもリムの回転軸を中心としかつ互いに同じ径、同じ溝幅GW及び溝深さGDを有している。なお本実施形態において、第1の係合溝9は、円周方向に連続してのびている。
【0022】
また本実施形態において、前記リング片6は、予めリム3に一体形成された第1のリング片6Aと、リム3に溶接によって固着された第2のリング片6Bとから構成される。
【0023】
前記第1のリング片6Aは、車軸方向において、ほぼウエル部3の位置に設けられたものが示される。第1のリング片6Aの形成方法は、特に限定されないが、例えばリム3とともに鋳造又は鍛造等によって一体に形成されるのが望ましい。このように、予めリム3の内周面に一つの第1のリング片6Aを一体形成しておくことにより、ホイール1の生産性を向上するのに役立つ。
【0024】
また、前記第2のリング片6Bは、本実施形態では、その外周面6oが前記リム3の胴部3dの内径D1よりも僅かに小さい外径を有したリング状で形成される。従って、第2のリング片6Bは、リム3に溶接される前の状態において、該リム胴部3dに沿って車軸方向に移動できる。また、リム3は、この第2のリング片6Bを、ウエル部3cから遠い方のフランジ3b側から前記胴部3dの内周面へと嵌め込みし得るように、前記リムシート部3a等の内径が前記内径D1よりも大に設定される。
【0025】
また、前記結合部7は、ディスク4の半径方向の外端部に一体に形成されたものが例示される。前記結合部7は、リム3の前記溝状の空所Oの中に進入して配されるとともに、リム3の内周面(この例では胴部3dの内周面)の内径D1よりも小さい外径D2を有している。また、結合部7は、前記空所Oの車軸方向の幅よりも小さく形成される。これにより、結合部7の車軸方向の両側には、リング片6との間に空隙が形成される。
【0026】
また、結合部7の車軸方向の両側面には、前記第1の係合溝9とそれぞれ対向して対となる第2の係合溝10が設けられる。該第2の係合溝10は、リムの回転軸を中心として円周方向にのびており、本実施形態では前記第1の係合溝9と、同じ溝幅GW及び溝深さGDを有する。また、「対向して対となる」とは、第2の係合溝10が、第1の係合溝9と実質的に向き合う位置に設けられることにより、第1の係合溝9及び第2の係合溝10の一組によって、一つのダンパー部材8が支持されることを意味している。また、本実施形態では、第2の係合溝10も、タイヤ周方向に連続した環状に形成されている。
【0027】
また、前記ダンパー部材8は、ゴム弾性材からなり、結合部7の両側にそれぞれ配される。
【0028】
前記ゴム弾性材としては、ゴム弾性を有するものであれば特に限定されないが、例えばニトリルゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)等のジエン系ゴム、又はブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)等の非ジエン系ゴムの1種又は2種以上が挙げられる。
【0029】
とりわけ、振動の吸収効果の観点より、複素弾性率E*が0.5〜5.0MPa、より好ましくは1.0〜2.0MPaのゴム組成物が好ましい。また前記ゴム組成物は耐久性の観点より、その損失正接tan δが好ましくは0.05〜0.2、より好ましくは0.05〜0.1であるのが望ましい。なお複素弾性率E及び損失正接tan δは、粘弾性スペクトロメータにて温度70℃、初期伸張10%、動歪み±1.0%、周波数10Hzの条件下で測定した値とする。
【0030】
また、ダンパー部材8、8は、それぞれリング片6と結合部7との間の間隙を継ぐようにのびている。具体的には、各ダンパー部材8の車軸方向の両端部8e、8eは、前記対となる第1の係合溝9及び第2の係合溝10にそれぞれ嵌め込まれて支持される。ダンパー部材8の中間部8cは、前記空所Oの中を車軸方向にのび、リム3及びディスク4にいずれも接触していない。
【0031】
また、本実施形態の弾性ホイール1は、前記ダンパー部材8が、第1の係合溝9と第2の係合溝10との間で車軸方向に圧縮された状態で保持される。圧縮状態で保持されたダンパー部材8は、各係合溝9、10の溝表面と高い圧力で密着する。これにより、リング片6とダンパー部材8との接触面、及びダンパー部材8と結合部7との接触面には、円周方向の相対的な位置ずれが実質的に零となるような非常に大きい摩擦力が得られる。このような摩擦力は、ディスク4とリム3との間でトルクを円滑に伝達させ得る。
【0032】
また、前記弾性ホイール1は、ダンパー部材8を圧縮しその摩擦力を利用してリム3とディスク4とを弾性的に連結するため、従来のように、ダンパー部材8を加硫接着する必要がない。従って、本実施形態の弾性ホイール1は、一般的なホイール製造ラインで製造することが可能になり、生産性が大幅に向上する。
【0033】
また、前記弾性ホイール1において、前記リム3とディスク4との間の半径方向の変位は、ダンパー部材8の剪断変形によって吸収される。これは、小さい振動(例えば、結合部7の外周面とリム3の内周面3iとの間に設けられた半径方向の隙間の範囲内の振動)の入力に対して優れた緩衝効果を発揮し、乗り心地や車室内での騒音性能を大巾に向上させ得る。他方、弾性ホイール1は、半径方向の大きな振動の入力に対しては、共に金属材料からなる前記結合部7の外周面とリム3の内周面3iとが直接接触することにより、車輪の大きな上下振動を制限し、安全な走行が確保される。
【0034】
また、本実施形態の弾性ホイール1は、タイヤ2が路面から車軸方向の荷重を受けた場合、タイヤ2の接地面の近傍では、一方のダンパー部材8が車軸の幅方向に圧縮変形する一方、他方のダンパー部材8が車軸方向に引張変形することで、ディスク4に対してリム3の車軸方向の変位が許容され得る。
【0035】
また、第1の係合溝9(又は第2係合溝10)の溝深さGDや溝幅GWは、特に限定されるものではないが、ダンパー部材と第1ないし第2の係合溝9ないし10との十分な接触面積を確保するために、前記溝深さGDについては、好ましくは3mm以上、より好ましくは5mm以上、さらに好ましくは8mm以上が好ましい。他方、溝深さGDが大きすぎても、ダンパー部材8の材料を無駄に使用することになるため、好ましくは15mm以下で作られることが望ましい。また、第1の係合溝9(又は第2係合溝10)の半径方向の溝幅GWは、好ましくは前記溝深さGDに対して100%以上、より好ましくは150%以上が望ましく、また上限については、好ましくは400%以下、より好ましくは300%以下が望ましい。
【0036】
また、ダンパー部材8を構成するゴム弾性材は、ゴム単体でも良いが、本実施形態ではゴムに繊維を複合させた繊維補強ゴム(FRR)が用いられる。このような繊維補強ゴムは、繊維が有する高い引張弾性率によって、ダンパー部材8の振動吸収性能を低下させることなく大きな剛性を発揮しうる。従って、本実施形態の弾性ホイール1は、、例えば従来の弾性ホイールに生じがちであったハンドルを切った際の車輪の操舵応答の遅れ、舵角中立時におけるふらつき感及び低速時の車輪のダンピング(小刻みな振動)等の不具合が効果的に抑制される。
【0037】
前記繊維としては、特に限定はされないが、短繊維、長繊維及び/又はコードなど各種のものが採用できる。また繊維の材料としては、特に限定されないが、例えばナイロン、ポリエステル、レーヨン、ビニロン、芳香族ポリアミド、コットン、セルロース樹脂又は結晶性ポリブタジエンなどの有機繊維や、ボロン、グラスファイバー、カーボン等の無機材料が採用できる。特に好ましくは、軽量かつゴムとの接着性の観点より、有機繊維が望ましい。
【0038】
図4には、繊維としてコード(撚り線)が用いられたダンパー部材8の実施形態が示される。図4(A)〜(C)の各態様では、ダンパー部材8が、いずれもゴム8aとコード8bとを含み、コード8bは一つのダンパー部材8の中に2つの層として埋設されたものが示される。
【0039】
図4(A)の実施形態において、ダンパー部材8のコード8bは、リムの円周方向CLとほぼ平行にのびるものが例示される。このようなダンパー部材8は、円周方向に関して大きな引張剛性を有する。従って、車軸からディスク4に負荷されたトルクがリム3に伝達される際、ダンパー部材8の円周方向の歪が小さく抑えられる。従って、例えば車両の加速時ないし減速時の車輪の応答性が大幅に向上する。
【0040】
また、図4(B)の実施形態では、ダンパー部材8のコード8bは、車軸方向ALとほぼ平行にのびるものが例示される。このようなダンパー部材8は、車軸方向に関して大きな引張剛性を有するため、旋回時等においてタイヤ2に大きな横力が作用した場合でも、ダンパー部材8の車軸方向の歪が小さく抑えられる。従って、ハンドル操舵時の旋回応答性が大幅に向上する。
【0041】
また、図4(C)の実施形態では、ダンパー部材8のコード8bは、円周方向CL及び車軸方向ALに対して、ともに傾斜したものが例示される。そして、2つの層として配されたコード8bは、互いに交差する向きに傾けて配されている。このようなダンパー部材8は、バランス良く円周方向及び車軸方向の歪が抑えられため、駆動走行時及び旋回時の双方においてバランスの良い性能が得られる。
【0042】
また、上記図4の各実施形態において、各ダンパー部材8は、その半径方向TLの剛性が実質的に変化しないため、走行時の振動吸収性を損ねることもない。従って、車両の乗り心地の向上をそのまま維持できる。なお図4の各実施形態では、繊維としてコード8bを用いたものを示すが、これらを短繊維で置き換えることもできるし、また短繊維を併用することもできる。
【0043】
以上のような弾性ホイール1の製造方法の一例について述べる。
先ず、図5に示されるように、リム3が準備される。該リム3は、一対のリング片6、6のうち第1のリング片6A(一方のリング片)が予めリム3の内周面3iに鋳造乃至鍛造等により一体形成されており、かつ、第2のリング片6B(他方のリング片)は、リム3とは別体で準備される。また、各リング片6A、6Bには、前記第1の係合溝9が既に設けられている。また、リム3は、例えば図示しない治具によって移動不能に固定されるのが望ましい。
【0044】
また、図5に示されるように、前記ダンパー部材8、8及び前記ディスク4が準備される。ダンパー部材8は、別の工程等で予め加硫された本実施形態では環状体として準備されている。また、ディスク4には、第2の係合溝10を有する結合部7が既に設けられている。
【0045】
次に、図5及び図6(A)に示されるように、リム3の第1のリング片6Aに向けて、一方のダンパー部材8、ディスク4の結合部7、他方のダンパー部材8及び第2のリング片6Bを、例えばリム3の車軸方向の一側部側から順次位置合わせしながら挿入し、ダンパー部材8の両端部8e、8eを第1の係合溝9とそれと対をなす第2の係合溝10との間でそれぞれ支持させる。これにより、前記リム3、前記ダンパー部材8、前記ディスク4及び第2のリング片6Bが仮組みされる。なお、この仮組みに際して、個々の部材を順番に配する必要はなく、例えば予め結合部7の両側の第2の係合溝10、10にダンパー部材8などを仮装着しておくことでも良いのは言うまでもない。
【0046】
また、図5に示されるように、前記ダンパー部材8の厚さRtは、前記第1の係合溝9(又は第2の係合溝10)の溝幅GWよりも僅かに小さい寸法で形成される。これにより、ダンパー部材8の両端部8eは、挿入に際して、こじれ等を生じることなく軽微な力で容易に各係合溝9ないし10の底部まで挿入することができ、また該ダンパー部材8と係合溝の溝底との間に空隙等が形成されるのを確実に防止しうる。
【0047】
前記ダンパー部材8の厚さRtは特に限定されないが、該厚さRtが小さすぎると、大きな荷重や衝撃力が作用した場合の吸収能力が不足しやすく、逆に大きすぎると弾性ホイール1の半径方向の剛性が過度に高められ乗り心地が低下したり、発熱しやすくなって耐久性を低下させるおそれがある。このような観点より、ダンパー部材8の前記厚さRtは、好ましくは8mm以上、より好ましくは10mm以上が望ましく、また上限については30mm以下、より好ましくは20mm以下が望ましい。
【0048】
また、ダンパー部材8の車軸方向の幅RWが小さすぎると、車軸方向の衝撃吸収能力が低下しやすく、逆に大きすぎても操縦安定性が低下しやすくなる傾向がある。このような観点より、ダンパー部材8の前記幅RWは、好ましくはその厚さRtの150%以上、より好ましくは200%以上が望ましく、また上限については、好ましくは400%以下、さらに好ましくは350%以下が望ましい。
【0049】
次に、図6(B)に示されるように、前記第2のリング片6Bを、第1のリング片6Aに向けて車軸方向に押し付けることにより前記ダンパー部材8、8を圧縮する工程が行われる。この工程では、例えばプレス機等が用いられる。ダンパー部材8の圧縮行程は、該ダンパー部材8をその厚さ寸法が増大するように膨張変形させ、これにより、ダンパー部材8の表面は両係合溝9ないし10の表面と十分に広い範囲で密着し、かつ、その接触圧が高められる。これにより、ダンパー部材8とリム3との接触部、及びダンパー部材8とディスク4との接触部は、それぞれ非常に大きな摩擦力が働き、実質的な円周方向の相対滑りが防止された状態で連結できる。
【0050】
ここで、特に限定はされないが、前記ダンパー部材8を圧縮するための押付力Fが小さすぎると、ダンパー部材8と各係合溝9ないし10との間の摩擦力を十分に高められず、両者の結合力が低下してスリップ等が生じ易く操縦安定性が低下する傾向がある。また、前記押付力がある大きさまでは、操縦安定性とともに騒音性能も向上することが判明している。他方、前記押付力Fが過度に大きくなると、ダンパー部材8に亀裂等の損傷が生じやすくなったり、ダンパー部材8の振動吸収性が低下して騒音性能が悪化する傾向がある。このような観点より、前記第2のリング片6Bを、前記第1のリング片6Aに向けて10kN以上、より好ましくは15kN以上の車軸方向の力で押し付けることが望ましく、また上限については30kN以下、より好ましくは25kN以下が望ましい。
【0051】
次に、前記ダンパー部材8が圧縮された状態において、第2のリング片6Bが前記リム3の内周面3iに溶接固着される。本実施形態では、図2に示されるように、第2のリング片6Bとリム3の内周面3iとがなす入隅部14に円周方向に沿って溶接金属が盛られることにより溶接が行われる。
【0052】
以上のような製造方法によって製造された弾性ホイール1は、ゴム弾性材からなるダンパー部材8が加硫接着を経ることなく組み入れられるため、従来の一般的なホイール製造ラインの中で製造でき、生産性に優れる。
【0053】
図7、図8には、本発明の他の実施形態が示される。なお図7は、図2のA−A位置相当の端面図である。この実施形態の弾性ホイール1は、円周方向に連続していない第1の係合溝9及び第2の係合溝10を有する。第1の係合溝9は、円周方向に間隔を有して設けられかつ円弧状にのびている複数個の溝部9Aで構成される。同様に、第2の係合溝10は、円周方向に間隔を有して設けられかつ円弧状にのびている複数個の溝部10Aで構成される。また、これらに合わせて、ダンパー部材8は、対をなす各溝部9A、10Aに嵌入される扇状の複数のダンパー片8Aで構成される。このような実施形態では、各溝部9A、10Aの円周方向の端面16、17が、前記ダンパー片8Aの円周方向の移動を阻止するストッパとして機能し、前述の摩擦力との相乗作用により、ダンパー部材8とディスク4及び/又はリム3との滑りに起因した円周方向の相対的な位置ずれをより確実に防止できる。
【0054】
特に好ましい実施態様として、ダンパー片8Aの円周方向の分割数nは、8〜20が望ましい。前記分割数が小さくなると、耐久性が低下しやすい傾向があり、逆に分割数が大きくなると、弾性ホイール1の生産効率が低下しやすい。また、各ダンパー片8Aの円周方向の長さが小となって、個々のダンパー片8Aに作用する半径方向の荷重が増大し、振動の吸収緩和効果や耐久性が低下しやすい。なおダンパー片8Aの円周方向長さは、リム3の回転軸からの中心角αに換算して、(360/n)゜の50〜80%の範囲が好ましい。なお本例では、n=8、α=30°のものが例示される。
【0055】
図9には、さらに他の実施形態を示す
この実施形態のように、第1の係合溝9(及び/又は第2の係合溝10)は、溝底側に向かって溝幅GWが漸減するテーパ状の断面を含むことができる。この実施形態によれば、各係合溝9の溝底側において、ダンパー部材8はより大きな摩擦力が得られる点で好ましい。
【0056】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形しうるのは言うまでもない。例えば、ダンパー部材8と係合溝9、10との間に接着剤などを用いることも可能である。
【実施例】
【0057】
図1及び図2に示した基本形状を有した弾性ホイール(サイズ:18×8.0−JJ)を表1の仕様で製造し、実車走行により操縦安定性及び騒音性能をテストした。また、比較のために、ダンパー部材を具えない同サイズの一般的なアルミホイール(従来例)とその性能を比較した。テストの方法は次の通りである。
【0058】
操縦安定性:
各供試ホイールに、サイズ:245/45R18の乗用車用ラジアルタイヤ(市販品)を装着し、230kPaの内圧を充填して、排気量3000ccの乗用車の四輪に装着し、ドライアスファルト路面のタイヤテストコースを走行させた。そして、ハンドル応答性、剛性感、グリップ等に関する特性をドライバーの官能により評価した。結果は、従来例を100とする指数で表示した。指数が大きいほど良好である。
【0059】
騒音性能:
前記車両、タイヤ条件にて、ロードノイズテストコースを速度60km/hで走行させ、運転席右耳許位置に設置したマイクロフォンで車室内のオーバオールの騒音を測定し、その周波数分析を行った。結果は、100〜200Hzの帯域でのピーク値を従来例を100とする指数で表示した。数値が小さいほど良好である。また、実施例1及び従来例については、周波数分析結果のグラフを図10に示す。
表1及び図10にテスト結果を示す。
【0060】
【表1】

【0061】
実施例の弾性ホイールは、操縦安定性を損ねることなく、しかも車室内で聴取されやすい100〜200Hzの周波数バンドでロードノイズを大巾に低減していうることが確認できる。またダンパー部材を圧縮する押付力については、15〜25kNの範囲で有意な効果が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の弾性ホイールの一実施例を示す断面図である。
【図2】その主要部を拡大して示す断面図である。
【図3】そのA−A端面図である。
【図4】(A)から(C)はダンパー部材の実施形態を示す部分斜視図である。
【図5】弾性ホイールの分解図である。
【図6】(A)か仮組み状態、(B)は圧縮状態を示す弾性ホイールの部分断面図である。
【図7】係合溝及びダンパー部材が周方向に分割された実施形態の端面図である。
【図8】その分解斜視図である。
【図9】結合溝の他の実施形態を示す断面図である。
【図10】車内騒音を周波数分析したグラフである。
【図11】従来技術を説明する断面図である。
【図12】その製造方法を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 弾性ホイール
2 タイヤ
3 リム
4 ディスク
5 連結手段
6 リング片
6A 第1のリング片
6B 第2のリング片
7 結合部
8 ダンパー部材
8A ダンパー片
9 第1の係合溝
10 第2の係合溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤを支承しうる円周方向にのびるリム、車軸に固定されるディスク及び前記リムと前記ディスクとを連結する連結手段を含み、
前記連結手段は、前記リムの内周面から半径方向内方に突出して円周方向にのびかつ車軸方向に距離を隔てて設けられた一対の環状のリング片と、
前記一対のリング片の間で円周方向にのびかつ各リング片と車軸方向の間隙を有する前記ディスクの半径方向外側に設けられた結合部と、
前記各間隙を継ぐように前記リング片と前記結合部との間に配されたゴム弾性材からなるダンパー部材とを含み、
前記各リング片の互いに向き合う内側面には、円周方向にのびる第1の係合溝がそれぞれ形成されるととともに、
前記結合部の車軸方向の両側面には、前記第1の係合溝とそれぞれ対向して対となりかつ円周方向にのびる第2の係合溝が形成され、
かつ、前記ダンパー部材は、車軸方向の両端部が前記対となる第1の係合溝と第2の係合溝とで支持されかつこれらの間で車軸方向に圧縮状態で配されたことを特徴とする弾性ホイール。
【請求項2】
前記リング片は、予めリムに一体形成された第1のリング片と、前記リムに溶接によって固着された第2のリング片とを含む請求項1記載の弾性ホイール。
【請求項3】
前記ゴム弾性材は、繊維により補強される請求項1又は2に記載の弾性ホイール。
【請求項4】
請求項1に記載された弾性ホイールを製造する弾性ホイールの製造方法であって、
前記一対のリング片のうち一方のリング片が予め前記内周面に一体形成され、かつ他方のリング片が前記リム3とは別体の状態で前記リムを準備する工程と、
予め加硫されたゴム弾性材からなるダンパー部材を準備する工程と、
前記ディスクを準備する工程と、
前記ダンパー部材の車軸方向の両端部を前記第1の係合溝とそれと対をなす前記第2の係合溝との間で支持させることにより、前記リム、前記ダンパー部材、前記ディスク及び前記他方のリング片を仮組みする工程と、
前記他方のリング片を前記一方のリング片に向けて押し付けることにより前記ダンパー部材を車軸方向に圧縮する工程と、
前記ダンパー部材の圧縮状態において前記他方リング片を前記リムに溶接固着する工程とを含むことを特徴とする弾性ホイールの製造方法。
【請求項5】
前記圧縮する行程は、前記他方のリング片を、前記一方のリング片に向けて15〜25kNの力で車軸方向に押し付ける請求項4記載の弾性ホイールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−335200(P2006−335200A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161733(P2005−161733)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)