説明

弾性ホイール

【課題】ダンパー部材とリム又はディスクとの滑りを抑制し、駆動力や制動力の伝達性を高める。
【解決手段】リム3と、車軸に固定されるディスク4と、リム3とディスク4とを弾性的に連結する連結手段5を含む弾性ホイールである。連結手段5は、リム3の内周面3iから半径方向内方に突出しかつ内側面に円周方向にのびる第1の係合溝9が設けられた一対の第1のリング片6と、一対の第1のリング片6の間に配されかつ両側に第1の係合溝9とそれぞれ向き合って対となる円周方向にのびる第2の係合溝10が形成された第2のリング片7と、第1の係合溝9と第2の係合溝10との間に圧縮状態で保持されたリング状のゴム弾性体からなるダンパー部材8とを含む。第1の係合溝9及び/又は第2の係合溝10の内周面には、ダンパー部材8との滑りを防止するための凹凸部11が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リムとディスクとの間を弾性材料からなるダンパー部材で連結した弾性ホイールに関し、詳しくはダンパー部材とリム又はディスクとの滑りを抑制することにより、駆動力や制動力を確実に伝達しうる弾性ホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
図11には、従来の弾性ホイールrの断面図が示される。該弾性ホイールrは、タイヤtを支承できかつ円周方向にのびるリムaと、図示しない車軸に固定されるディスクbと、これらを連結するようにリムaとディスクbとの間に架け渡されたゴム弾性体からなるダンパー部材cとから構成される(例えば、下記特許文献1参照)。このような弾性ホイールrは、走行時のリムaの振動が、ダンパー部材cによって吸収されるので、車室内での乗り心地や騒音性能が向上する。
【0003】
【特許文献1】特開2006−335200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の弾性ホイールrでは、ダンパー部材cがリムa側に設けられた第1の係合溝g1と、ディスクb側に設けられた第2の係合溝g2との間で圧縮状態で保持される。そして、前記各溝g1及びg2の内周面との間で生じる摩擦力によって、ダンパー部材cは、リムa及びディスクbと一体となってトルクを伝える。
【0005】
しかしながら、上述の弾性ホイールrでは、前記摩擦力を超えるような大きな駆動力や制動力が作用した場合、前記第1の係合溝g1及び/又は第2の係合溝g2とダンパー部材cとの間で滑りが生じる。このような滑りが生じると、駆動力又は制動力を確実に伝達することができない。また、上述の滑りによって、ダンパー部材と溝との位置ズレが生じ、これがそのまま残存して走行時に振動等が生じるおそれがある。
【0006】
リムaとダンパー部材cとの間や、ディスクbとダンパー部材cとの間を加硫接着する方法も提案されている。しかし、このような方法では、弾性ホイールの生産性を著しく悪化させるという問題がある。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、ダンパー部材が保持される溝の内周面に、該ダンパー部材との滑りを防止するための凹凸部を設けることを基本として、ダンパー部材とリム及び/又はディスクとの摩擦力を高め、ひいては上述のような滑りを抑制することにより、駆動力や制動力を確実に伝達しうる弾性ホイールを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のうち請求項1記載の発明は、タイヤを支える円周方向にのびるリム、車軸に固定されるディスク及び前記リムと前記ディスクとを弾性的に連結する連結手段を含む弾性ホイールであって、前記連結手段は、前記リムの内周面から半径方向内方に突出しかつ車軸方向で向き合う各内側面に円周方向にのびる第1の係合溝が設けられた一対の第1のリング片と、前記一対の第1のリング片との間に車軸方向の間隙を有して配されかつ両側に前記第1の係合溝とそれぞれ向き合って対となる円周方向にのびる第2の係合溝が形成されしかも前記ディスクの半径方向外端部に設けられた第2のリング片と、前記第1の係合溝と第2の係合溝との間に圧縮状態で保持されかつ円周方向にのびるリング状のゴム弾性体からなるダンパー部材とを含むとともに、前記第1の係合溝及び/又は前記第2の係合溝の内周面の少なくとも一部には、ダンパー部材との滑りを防止するための凹凸部が設けられることを特徴とする。
【0009】
また請求項2記載の発明は、前記凹凸部は、周方向に隔設された複数本の細溝からなる請求項1記載の弾性ホイールである。
【0010】
また請求項3の記載の発明は、前記細溝は、周方向に隔設されて複数本形成されていることを特徴とする請求項2記載の弾性ホイール。
【0011】
また請求項4記載の発明は、前記細溝は、深さ及び溝幅が0.10〜3.0mmである請求項2又は3に記載の弾性ホイールである。
【0012】
また請求項5記載の発明は、前記ダンパー部材は、ホイール中心軸を含む断面において、半径方向の内側面、半径方向の外側面及びこれらを繋ぐ両側の側壁面で囲まれる略横長矩形状をなすとともに、前記第1の係合溝及び前記第2の係合溝の内周面は、前記ダンパー部材の側壁面と密着する底面と、前記ダンパー部材の内側面と密着する外向き面と、前記ダンパー部材の外側面と密着する内向き面とからなり、前記細溝は、前記底面をのびる第1の細溝と、前記外向き面及び/又は前記内向き面をのびる第2の細溝とからなる請求項2乃至4記載の弾性ホイールである。
【0013】
また請求項6記載の発明は、前記第1の細溝は、円周方向に対して75〜90度の角度で傾くともに、前記第2の細溝は、円周方向に対して35〜55度の角度で傾いてのびる請求項5記載の弾性ホイールである。
【0014】
また請求項7記載の発明は、前記ダンパー部材の前記底面、前記内向き面又は前記外向き面のいずれか一方の面には、前記凹凸部と係合可能な係合部が設けられる請求項1乃至6のいずれかに記載の弾性ホイールである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の弾性ホイールは、ダンパー部材が圧縮状態で保持されている第1の係合溝及び/又は第2の係合溝の内周面の少なくとも一部には、ダンパー部材との滑りを防止するための凹凸部が設けられる。このため、ダンパー部材と前記内周面との摩擦力が増大し、ひいてはダンパー部材とリムとの滑り及び/又はダンパー部材とディスクとの滑りを抑制できる。これにより、タイヤと車軸との間で、より大きな駆動力や制動力の伝達が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の一形態を図面に基づき説明する。
図1は空気入りタイヤを装着した本実施形態の弾性ホイール1の断面図、図2はその弾性ホイールの部分拡大斜視図、図3は図1のA−A断面図、図4は図2のB−B断面図をそれぞれ示す。該弾性ホイール1は、空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」という場合がある。)2を支えるリム3と、図示しない車軸に固定されるディスク4と、前記リム3と前記ディスク4とを弾性的に連結する連結手段5とを含んで構成される。
【0017】
前記タイヤ2は、例えばリム3に着座する一対のビード部2a、2aを有したトロイド状の乗用車用のラジアルタイヤが例示される。
【0018】
前記リム3は、タイヤ2の前記ビード部2aが着座する一対のリムシート部3aと、このリムシート部3aから半径方向外側にのびる一対のフランジ部3bと、前記リムシート部3a間をのびる胴部3cとを有し、前記各部がホイール中心軸を中心として実質的に円周方向に連続してのびる環状体で構成される。このようなリム3は、例えば鉄、アルミ合金又はマグネシウム合金のような実質的に非伸張性の金属材料で形成される。
【0019】
また、前記ディスク4は、略円盤状をなし、前記リム3のタイヤ2が装着される側とは反対側の面である半径方向の内周面3i側の空洞部に配される。該ディスク4には、図示しない車軸(又は車軸ハブ)に固着され、駆動力が伝達される。ディスク4は、リム3と同様、鉄、アルミ合金又はマグネシウム合金のような実質的に非伸張性の金属材料で形成される。
【0020】
前記連結手段5は、リム3の内周面3iから半径方向内方に突出しかつ車軸方向に距離を隔てて設けられた一対の環状の第1のリング片6と、前記ディスク4の半径方向外端部に一体に設けられかつ前記第1のリング片6、6の間に車軸方向の間隙を有して配される第2のリング片7と、この第2のリング片7と前記第1のリング片6との前記間隙を跨るように配さたゴム弾性体からなる一対のダンパー部材8とを含んで構成される。
【0021】
図2に示されるように、前記第1のリング片6の車軸方向で向き合う各内側面には、円周方向に連続してのびる第1の係合溝9がそれぞれ形成される。一対の第1の係合溝9は、ホイール中心軸を中心とした円周溝であり、互いに同じ径、同じ溝幅GW及び溝深さGDを有している。
【0022】
また、前記第1のリング片6は、リム3を鍛造又は鋳造にて成形する際に該リム3に予め一体に形成された固定リング片6Aと、後からリム3に固着される後付リング片6Bとから構成される。後付リング片6Bは、その外周面6oがリム3の内周面3iよりも僅かに小さい外径をなすリング状で形成される。従って、後付リング片6Bは、リム3に固着される前の状態において、前記内周面3iに沿って車軸方向に移動できる。
【0023】
前記第2のリング片7は、リム3の内周面3iよりも小さい外径を有している。従って、第2のリング片7は、第1のリング片6間に遊嵌状態、即ち、リム3に対して、車軸方向及び半径方向に隙間を有して配され得る。
【0024】
また、第2のリング片7の車軸方向の両側面には、第1の係合溝9とそれぞれ対向して対となる第2の係合溝10が設けられる。該第2の係合溝10は、ホイール中心軸を中心として円周方向にのびており、本実施形態では前記第1の係合溝9と、ほぼ同じ溝幅GW及び溝深さGDを有する。また、「対向して対となる」とは、第2の係合溝10が、第1の係合溝9と実質的に向き合う位置に設けられることを意味する。これにより、第1の係合溝9及び第2の係合溝10の一組によって、一つのダンパー部材8の両端部が保持され得る。
【0025】
第1の係合溝9及び第2の係合溝10の溝深さGDや溝幅GWは、特に限定されるものではないが、ダンパー部材との十分な接触面積を確保するために、前記溝深さGDについては、好ましくは3mm以上、より好ましくは5mm以上、さらに好ましくは8mm以上が好ましい。他方、溝深さGDが大きすぎても、ダンパー部材8の材料を無駄に使用することになるため、好ましくは15mm以下が望ましい。また、第1の係合溝9及び第2の係合溝10の溝幅GW(半径方向に測定される)は、好ましくは前記溝深さGDに対して100%以上、より好ましくは150%以上が望ましく、また上限については、好ましくは400%以下、より好ましくは300%以下が望ましい。
【0026】
前記ダンパー部材8は、第2のリング片7の両側にそれぞれ配される。本実施形態において、各ダンパー部材8は、図5に示されるように、ホイール中心軸を含む断面において、半径方向の内側面8i、半径方向の外側面8o及びこれらを繋ぐ両側の側壁面8s、8sで囲まれる略横長矩形状で形成される。ダンパー部材8の厚さtは、前記第1及び第2の係合溝9及び10に挿入可能なように、これらの溝幅GWよりもわずかに小さく形成されている。
【0027】
ダンパー部材8は、第1のリング片6と第2のリング片7との間の隙間を継ぐように架け渡されている。具体的には、各ダンパー部材8の車軸方向の両端部は、第1の係合溝9及び第2の係合溝10にそれぞれ挿入されて保持されるとともに、中間部8cは変形可能なようにリム3及びディスク4のいずれにも拘束されることなくとも接触することなく前記間隙をのびている。
【0028】
ダンパー部材8を構成するゴム弾性体としては、特に限定されないが、例えばニトリルゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)等のジエン系ゴム、又はブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)等の非ジエン系ゴムの1種又は2種以上が望ましい。とりわけ、振動の吸収効果の観点より、複素弾性率E*が0.5〜5.0MPa、より好ましくは1.0〜2.0MPaのゴム組成物が好ましい。また前記ゴム組成物は耐久性の観点より、その損失正接tan δが0.05〜0.2、より好ましくは0.05〜0.1であるのが望ましい。なお複素弾性率E*及び損失正接tan δは、粘弾性スペクトロメータにて温度70℃、初期伸張10%、動歪±1.0%、周波数10Hzの条件下で測定された値である。
【0029】
このような弾性ホイール1の製造方法について述べる。先ず、リム3の固定リング片6Aに、一方のダンパー部材8、第2のリング片7及び他方のダンパー部材8及び後付リング片6Bが車軸方向に順次嵌め合わされる。次に、後付リング片6Bを車軸方向かつ固定リング片6A側に向けてプレス機等で押し付け、その状態で該後付リング片6Bがリム3の内周面3iに例えば溶接等にて固着される。従って、ダンパー部材8は、第1の係合溝9と第2の係合溝10との間で圧縮状態に保持され、各係合溝9、10の溝表面と高い圧力で接触できる。なお、後付リング片6Bは、前記固定リング片6Aに向けて、好ましくは10kN以上、より好ましくは15kN以上の車軸方向の力で押し付けることが望ましく、また上限については30kN以下、より好ましくは25kN以下が望ましい。
【0030】
以上のように構成された弾性ホイール1は、タイヤ2から入力される振動が、該ダンパー部材8の前記中間部8cが変形することにより、リム3とディスク4との相対変位が吸収される。従って、乗り心地や車室内での騒音性能を大巾に向上させることができる。
【0031】
また、本発明の弾性ホイール1は、第1の係合溝9及び/又は第2の係合溝10の内周面の少なくとも一部に、ダンパー部材8との滑りを防止するための凹凸部11が設けられている。
【0032】
図3に示されるように、本実施形態では第1の係合溝9及び/又は第2の係合溝10の双方に凹凸部11が設けられる。該凹凸部11により、ダンパー部材8と各係合溝9及び11の内周面との摩擦係数が増大し、大きな摩擦力が得られる。また、ダンパー部材8は、第1及び第2の係合溝9及び10に圧縮状態で挿入されているため、図3に示されるように、その外面が凹凸部11に食い込むよう弾性変形する。これによって、ダンパー部材8は第1及び第2の係合溝9及び10の凹凸部11に物理的に引っ掛かる効果をも期待できる。従って、ダンパー部材8とリム3及びディスク4との滑りがより一層効果的に抑制され、ひいてはタイヤと車軸との間で、より大きな駆動力や制動力の伝達が可能になる。
【0033】
前記凹凸部11は、図3及び図4に示されるように、周方向に隔設された複数本の細溝12と、該細溝12間で区画された凸部13とを含む。本実施形態の細溝12の断面は、角溝状であるが、三角形状、台形状又は円弧状など種々の断面形状が採用されても良い。また、ダンパー部材8の表面を保護するために、溝の各コーナ部は小円弧等により面取りされても良い。
【0034】
前記細溝12の溝幅gw及び溝深さgdは特に限定されないが、いずれも小さすぎると、ダンパー部材8との間の摩擦力等を十分に高めることができないおそれがある。このような観点より、細溝12の溝幅gw及び溝深さgdは、いずれも0.10mm以上、より好ましくは0.30mm以上、さらに好ましくは0.40mm以上が望ましい。他方、前記細溝12の溝幅gw及び溝深さgdが過度に大きくなると、ダンパー部材8と係合溝9及び10の内周面との接触面積がむしろ減少し、摩擦力の増大が期待できないおそれがある。このような観点より、細溝12の溝幅gw及び溝深さgdは、ともに3.0mm以下、より好ましくは2.0mm以下、さらに好ましくは1.0mm以下が望ましい
【0035】
また、細溝12の隔設ピッチPについても特に限定されないが、該ピッチPが小さすぎると、凸部13が過度に薄肉化されその強度が低下する他、ダンパー部材8に傷等を与えやすくなる。逆に前記ピッチPが大きすぎると、前述の摩擦力を増大させる効果が十分に得られないおそれがある。このような観点より、細溝12のピッチPは、好ましくは細溝12の溝幅gwの1%以上、より好ましくは3%以上が望ましく、かつ、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下が望ましい。
【0036】
前記第1の係合溝9は、ダンパー部材8の側壁面8sと密着しかつ半径方向にのびる面からなる底面9bと、ダンパー部材8の内側面8iと密着する外向き面9cと、ダンパー部材8の外側面8oと密着する内向き面9aとからなる略角溝状で構成される。同様に、第2の係合溝10も、ダンパー部材8の側壁面8sと密着しかつ半径方向にのびる面からなる底面10bと、ダンパー部材8の内側面8iと密着する外向き面10cと、ダンパー部材8の外側面8oと密着する内向き面10aとからなる略角溝状で構成される。
【0037】
図6(a)には第1の係合溝9の断面図、同図(b)には第1の係合溝9を矢印Zで示されるように、半径方向に沿った平面に展開した展開図がそれぞれ示される。本実施形態の細溝12は、第1の係合溝9の内周面の実質的に全域に設けられる。図示していないが、第2の係合溝10をのびる細溝12についても同様である。
【0038】
前記細溝12は、前記各係合溝9及び10の底面9b、10bをのびる第1の細溝12Aと、前記外向き面9c、10c及び内向き面9a、10aをそれぞれのびる第2の細溝12Bとを含む。このように、第1及び第2の係合溝9及び10の全域に亘って細溝12を設けた場合には、広い範囲で満遍なく摩擦力を高め得る。この実施形態では、第1の細溝12Aと第2の細溝12Bとは連通しており、かつ、第2の細溝12Bの端部は、それぞれ係合溝9(又は10)の溝縁9Eで開口している。このような細溝12は、ダンパー部材8を係合溝9又は10に圧入する際、空気を逃す排気溝として役立ち、生産性を高めうる。
【0039】
また、図6(b)では、前記第1の細溝12A及び第2の細溝12Bは、いずれも円周方向に対してほぼ90度の角度で傾いてのびている。これは、係合溝9とダンパー部材8との円周方向の相対滑りを最も効率良く防止できる点で望ましい。
【0040】
他方、車両の旋回時等においては、タイヤに車軸方向の力が作用し、ダンパー部材8が係合溝9又は10に対して車軸方向に滑る場合が生じ得る。このような車軸方向の滑りをも効果的に防止するためには、図7(a)〜(b)に示されるように、第1の細溝12Aは、円周方向に対して75〜90度の角度θ1で傾いてのびる一方、第2の細溝12Bについて、円周方向に対して35〜55度の角度θ2で傾いてのびるものが望ましい。円周方向の成分を有する第2の細溝12Bは、ダンパー部材8の車軸方向の滑りを効果的に抑制しうる。
【0041】
なお、細溝12は、直線状で形成される他、例えば円弧状等の曲線状であっても良い。曲線の場合、その角度は、該曲線の両端及び中間で測定される接線の角度の平均値として表される。
【0042】
図8(a)、(b)には、ダンパー部材8の他の実施形態を示す部分断面図を示す。このダンパー部材8のいずれかの面には、前記凹凸部11と係合(噛み合い)可能な係合部16が設けられている。該係合部16は、凸部16aと凹部16bとが円周方向に交互に並べられている。そして、係合部16の凸部16aは前記凹凸部11の細溝12に、係合部16の凹部16bには凹凸部の凸部13がそれぞれ食い込み可能に設けられている。ダンパー部材8にこのような係合部16を設けることにより、より一層係合溝との間の摩擦力を向上できる点で好ましい。
【0043】
他の実施形態として、ダンパー部材8には、マトリックスゴムを繊維で補強した繊維補強ゴムが用いられても良い。該繊維としては、特に限定はされないが、短繊維、長繊維及び/又は図9に示されるようにコードなど各種のものが採用できる。また繊維の材料としては、特に限定されないが、例えばナイロン、ポリエステル、レーヨン、ビニロン、芳香族ポリアミド、コットン、セルロース樹脂又は結晶性ポリブタジエンなどの有機繊維や、ボロン、グラスファイバー、カーボン等の無機材料が採用できる。特に好ましくは、軽量かつゴムとの接着性の観点より、有機繊維が望ましい。
【0044】
図9の実施形態において、ダンパー部材8は、例えば車軸方向にのびる複数本のコード19aを並列したコード層20と、円周方向にのびるコード19bを並列したコード層21とが厚さ方向に重ねられている。このようなダンパー部材8は、円周方向及び車軸方向に関して、ともに大きな引張剛性を有するため、制動時や駆動時の変形が抑制されるみならず、旋回時等においてタイヤ2に大きな横力が作用した場合でも、ダンパー部材8の歪が小さく抑えられる。従って、ハンドル操舵時の旋回応答性が大幅に向上する。
【0045】
また、ダンパー部材8は、その側壁面8sにコード19aの端面を露出させている。該コード10aの端面は、係合溝9及び10の底面9b、10bにそれぞれ設けられた第1の細溝12Aに引っ掛かり係合することができる。従って、本実施形態のように、コード19aの端面によってもダンパー部材8の係合部16を構成できる。
【0046】
また、本発明の凹凸部11は、上述のような細溝12に限定されるものではない。例えば図10(a)及び(b)に示されるように、断続的に形成された突起15及び/又は凹部16で形成されても良い。
【0047】
また、ショットブラスト等によってランダムに凹凸が形成された、なし地のような凹凸部11であってもよい。このように、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施され得る。
【実施例】
【0048】
図1及び図2に示した基本形状を有した弾性ホイール(サイズ:18×8.5J)を表1の仕様で製造し、そのダンパー部材の耐滑り性能がテストされた。
【0049】
本テストでは、各弾性ホイールに245/45R18の乗用車用ラジアルタイヤをそれぞれ装着し内圧230kPaが充填された組立体を準備し、ドラム試験器上を荷重9.8kN及び制動力7kNをかけて10分間走行させるドラム試験を行い、ホイールとタイヤとのずれ量が測定された。数値が小さいほど良好である。
テストの結果などを表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
テストの結果、実施例の弾性ホイールは、ダンパー部材の耐滑り性能を大幅に向上していることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の弾性ホイールの一実施例を示す断面図である。
【図2】その部分斜視図である。
【図3】図1のA−A端面図である。
【図4】図2のB−B断面図である。
【図5】第1のリング片及びダンパー部材の組み立て前の状態を示す部分断面図である。
【図6】(a)は第1のリング片の断面図、(b)はその第1の係合溝の展開図である。
【図7】(a)及び(b)は第1の係合溝の展開図である。
【図8】(a)及び(b)はダンパー部材と第1の係合溝の係合状態を示す断面図である。
【図9】他の実施形態を示すダンパー部材の部分斜視図である。
【図10】他の実施形態を示す第1の係合溝の部分斜視図である。
【図11】従来技術を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 弾性ホイール
2 タイヤ
3 リム
4 ディスク
5 連結部材
6 第1のリング片
7 第2のリング片
8 ダンパー部材
9 第1の係合溝
10 第2の係合溝
11 凹凸部
12 細溝
12A 第1の細溝
12B 第2の細溝
16 係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤを支える円周方向にのびるリム、車軸に固定されるディスク及び前記リムと前記ディスクとを弾性的に連結する連結手段を含む弾性ホイールであって、
前記連結手段は、前記リムの内周面から半径方向内方に突出しかつ車軸方向で向き合う各内側面に円周方向にのびる第1の係合溝が設けられた一対の第1のリング片と、
前記一対の第1のリング片との間に車軸方向の間隙を有して配されかつ両側に前記第1の係合溝とそれぞれ向き合って対となる円周方向にのびる第2の係合溝が形成されしかも前記ディスクの半径方向外端部に設けられた第2のリング片と、
前記第1の係合溝と第2の係合溝との間に圧縮状態で保持されかつ円周方向にのびるリング状のゴム弾性体からなるダンパー部材とを含むとともに、
前記第1の係合溝及び/又は前記第2の係合溝の内周面の少なくとも一部には、ダンパー部材との滑りを防止するための凹凸部が設けられることを特徴とする弾性ホイール。
【請求項2】
前記凹凸部は、細溝からなる請求項1記載の弾性ホイール。
【請求項3】
前記細溝は、周方向に隔設されて複数本形成されていることを特徴とする請求項2記載の弾性ホイール。
【請求項4】
前記細溝は、深さ及び溝幅が0.10〜3.0mmである請求項2又は3に記載の弾性ホイール。
【請求項5】
前記ダンパー部材は、ホイール中心軸を含む断面において、半径方向の内側面、半径方向の外側面及びこれらを繋ぐ両側の側壁面で囲まれる略横長矩形状をなすとともに、
前記第1の係合溝及び前記第2の係合溝の内周面は、前記ダンパー部材の側壁面と密着する底面と、前記ダンパー部材の内側面と密着する外向き面と、前記ダンパー部材の外側面と密着する内向き面とからなり、
前記細溝は、前記底面をのびる第1の細溝と、前記外向き面及び/又は前記内向き面をのびる第2の細溝とからなる請求項2乃至4記載の弾性ホイール。
【請求項6】
前記第1の細溝は、円周方向に対して75〜90度の角度で傾くともに、前記第2の細溝は、円周方向に対して35〜55度の角度で傾いてのびる請求項5記載の弾性ホイール。
【請求項7】
前記ダンパー部材の前記底面、前記内向き面又は前記外向き面のいずれか一方の面には、前記凹凸部と係合可能な係合部が設けられる請求項1乃至6のいずれかに記載の弾性ホイール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−67202(P2009−67202A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−236973(P2007−236973)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)