説明

弾性波フィルタ装置及びデュプレクサ

【課題】平衡−不平衡変換機能及びインピーダンス変換機能を有し、さらに、通過帯域内における挿入損失を低減することが可能とされている弾性波フィルタ装置を提供する。
【解決手段】不平衡信号端子5に第1〜第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11〜13の入力端が接続されており、第1の平衡信号端子6に、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11の出力端と、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ12の第1の出力端子としての第1のIDT12aとが接続されており、第2の平衡信号端子7に、第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ13の出力端と、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ12の第2の出力端子としての第3のIDT12cとが接続されており、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11における入力信号に対する出力信号の位相と、第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ13における入力信号に対する出力信号の位相とが180°異なっている、弾性波フィルタ装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波や弾性境界波を利用した弾性波フィルタ装置に関し、より詳細には、複数の縦結合共振子型弾性波フィルタを接続することにより構成されている弾性波フィルタ装置及び該弾性波フィルタ装置を用いたデュプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機では、小型化を果たすために、部品点数の削減が求められている。そのため、1つの部品に複数の機能をもたせることが望まれている。このような複数の機能を有する部品の一例として、バランスデュプレクサの開発が進められている。バランスデュプレクサは、アンテナ端子に接続される送信側フィルタと、平衡−不平衡変換機能を有する受信側フィルタとを備えている。受信側フィルタが、平衡−不平衡変換機能を有するため、平衡−不平衡変換機能を実現する部品、すなわちバランを省略することが可能とされている。
【0003】
上記のような受信側フィルタとして用いられる弾性表面波フィルタ装置の一例が下記の特許文献1に開示されている。
【0004】
図8は、特許文献1に記載の弾性表面波フィルタ装置の電極構造を示す模式的平面図である。
【0005】
弾性表面波フィルタ装置1001は、バランス型の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ装置である。弾性表面波フィルタ装置1001は、圧電基板上に図示の電極構造を形成することにより構成されている。
【0006】
弾性表面波フィルタ装置1001は、入力端子としての不平衡信号端子1002と、出力端子としての第1,第2の平衡信号出力端子1003,1004とを有する。不平衡信号端子1002に、第1,第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1005,1006が接続されている。第1,第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1005,1006は、それぞれ、3個のIDT1005a〜1005c,1006a〜1006cを有する3IDT型の縦結合共振子型弾性表面波フィルタである。なお、IDT1005a〜1005cが設けられている領域の表面波伝搬方向両側に、反射器1005d,1005eが配置されている。縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1006においても、同様に、反射器1006d,1006eが設けられている。
【0007】
不平衡信号端子1002に、中央のIDT1005b,1006bの一端が接続されており、IDT1005b,1006bの他端はグラウンド電位に接続されている。そして、第1の平衡信号端子1003に、縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1005の両側のIDT1005a,1005cの各一端が接続されており、IDT1005a,1005cの各他端はグラウンド電位に接続されている。同様に、第2の平衡信号端子1004に、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタ1006の両側のIDT1006a,1006cの各一端が接続されており、IDT1006a,1006cの各他端はグラウンド電位に接続されている。
【0008】
ここでは、第1の縦結合共振子型弾性波フィルタ1005における入力信号に対する出力信号の位相に対し、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1006における入力信号に対する出力信号の位相を180°異ならせることにより、平衡−不平衡変換機能が実現されている。第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1005の設計パラメータは、上記入力信号に対する出力信号の位相の点を除けば、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタ1006と同じとされている。
【0009】
特許文献1に記載の弾性表面波フィルタ装置1001では、上記のように、平衡−不平衡変換機能が実現されており、入力側インピーダンスと出力側インピーダンスとの比を1:2〜1:4とすることが可能とされている。例えば携帯電話機のRF段では、バランス型の弾性表面波フィルタ装置は受信側フィルタとして用いられ、その後段には平衡入力を有する増幅器が接続される。後段に接続される増幅器の入力インピーダンスは比較的高いため、入力側インピーダンスと出力側インピーダンスとの比が1:2〜1:4とされている上記弾性表面波フィルタ装置1001は、このような用途に好適に用いることができる。
【0010】
他方、図9の模式的平面図に示すように、4個の縦結合共振子型の弾性表面波フィルタを用いたバランス型の弾性表面波フィルタ装置1101も知られている。弾性表面波フィルタ装置1101は、不平衡信号端子1102と、出力端子としての第1,第2の平衡信号端子1103,1104とを有する。不平衡信号端子1102に、第1〜第4の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1105〜1108の中央に位置している各第2のIDT1105b〜1108bの一端が接続されており、これらのIDT1105b〜1108bの他端がグラウンド電位に接続されている。
【0011】
第1,第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1105,1106における両側の第1,第3のIDT1105a,1105c,1106a,1106cが、第1の平衡信号端子1103に接続されている。他方、第3,第4の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1107,1108において、中央の第2のIDT1107b,1108bの両側に位置している第1,第3のIDT1107a,1107c,1108a,1108cが、図示のように第2の平衡信号端子1104に接続されている。
【0012】
ここでは、第1,第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1105,1106における入力信号に対する出力信号の位相に対し、第3,第4の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1107,1108における入力信号に対する出力信号の位相が180°異なっており、それによって、第1,第2の平衡信号端子1103,1104から平衡出力が取り出されている。
【特許文献1】特開2002−290203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載の弾性表面波フィルタ装置1001では、IDT電極の交叉幅が比較的大きい。そのため、該弾性表面波フィルタを、DCSやPCS用の携帯電話機器の受信側フィルタの場合のように、通過帯域が2GHz付近の帯域フィルタとして用いると、IDT電極の抵抗が大きくなり、すなわちオーミック損が大きくなり、挿入損失が大きくならざるを得なかった。
【0014】
他方、図9に示した弾性表面波フィルタ装置1101では、4素子1段のバランス型弾性表面波フィルタ装置であるため、2素子1段のバランス型の弾性表面波フィルタ装置1001に比べて、IDT電極における交叉幅を1/2とすることができる。従って、IDT電極によるオーミック損を低減することができる。しかしながら、バルク波(SSBW)の励振が大きくなり、通過帯域内にリップルが生じ易くなり、それによって挿入損失が大きくなるという問題があった。
【0015】
なお、近年、弾性表面波フィルタ装置に代えて、パッケージ構造の簡略化を果たし得るので、弾性境界波を利用した弾性境界波フィルタが開示されている。このような弾性境界波フィルタにおいても、弾性表面波フィルタの場合と同様に、平衡−不平衡変換機能を有し、かつ帯域外減衰量を拡大し得る構造が強く求められている。
【0016】
本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、平衡−不平衡変換機能を有し、入力側インピーダンスに比べて、大きな出力インピーダンスで平衡出力を取り出すことができるだけなく、IDT電極によるオーミック損が小さく、バルク波による影響が小さく、通過帯域における挿入損失の低減を図ることが可能とされている弾性波フィルタ装置及び該弾性波フィルタ装置を用いたデュプレクサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願の第1の発明によれば、圧電基板と、前記圧電基板上において、弾性波伝搬方向に沿って配置された第1〜第3のIDTと、第1〜第3のIDTが設けられている領域の弾性波伝搬方向両側に配置された反射器とを有する第1〜第3の縦結合共振子型弾性波フィルタと、前記第1〜第3の縦結合共振子型弾性波フィルタの各第2のIDTが接続されている不平衡信号端子と、出力端子としての第1,第2の平衡信号端子とを備え、前記第1の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力信号に対する出力信号の位相と、前記第3の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力信号に対する出力信号の位相とが180°異なっており、前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタが第1,第2の出力端子を有しており、前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの入力端子から第1の出力端子へ伝送される信号の位相と、前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの入力端子から第2の出力端子へ伝送される信号の位相とが180°異なっており、前記第1の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力信号に対する出力信号の位相と、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力信号から第1の出力端子へ伝送される信号の位相とが同相であり、前記第3の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力信号に対する出力信号の位相と、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力端子から第2の出力端子へ伝送される信号の位相とが同相であり、前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1及び第3のIDTの一方が前記第1の出力端子、他方が前記第2の出力端子に接続されており、前記第1の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDT及び第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの前記第1の出力端子が、前記第1の平衡信号端子に接続されており、前記第3の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDT及び前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの前記第2の出力端子が前記第2の平衡信号端子に接続されていることを特徴とする、弾性波フィルタ装置が提供される。
【0018】
本願の第2の発明によれば、圧電基板と、圧電基板上において弾性波伝搬方向に沿って順に配置された第1〜第3のIDTと、第1〜第3のIDTが設けられている領域の弾性波伝搬方向両側に配置された反射器とを有する第1〜第3の縦結合共振子型弾性波フィルタと、前記第1〜第3の縦結合共振子型弾性波フィルタの各第1,第3のIDTが接続されている不平衡信号端子と、出力端子としての第1,第2の平衡信号端子とを備え、前記第1の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力信号に対する出力信号の位相が、前記第3の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力信号に対する出力信号の位相と180°異なっており、前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタが、第1,第2の出力端子を有しており、前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの入力端から第1の出力端子に伝送される信号の位相と、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力端から第2の出力端子へ伝送される信号の位相とが180°異なっており、前記第1の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力信号に対する出力信号の位相と、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力端から第1の出力端子に伝送される信号の位相とが同相であり、前記第3の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力信号に対する出力信号の位相と、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力端から第2の出力端子に伝送される信号の位相とが同相であり、前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2のIDTは、弾性波伝搬方向に分割されて設けられている第1分割IDT部及び第2分割IDT部を有し、第1分割IDT部及び第2分割IDT部がそれぞれ前記第1,第2の出力端子に接続されており、前記第1の平衡信号端子に、前記第1の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2のIDTと、前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1分割IDT部とが接続されており、前記第2の平衡信号端子に、前記第3の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2のIDTと、前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2分離IDT部とが接続されていることを特徴とする、弾性波フィルタ装置が提供される。
【0019】
第3の発明によれば、圧電基板と、圧電基板上において弾性波伝搬方向に沿って順に配置された第1〜第3のIDTと、第1〜第3のIDTが設けられている領域の弾性波伝搬方向両側に配置された反射器とを有する第1〜第6の縦結合共振子型弾性波フィルタと、前記第1〜第3の縦結合共振子型弾性波フィルタの各第2のIDTが接続されている不平衡信号端子と、出力端子としての第1,第2の平衡信号端子とを備え、前記第1の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDTが、前記第4の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDTと、それぞれ、第1,第2の信号線により接続されており、前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDTと、前記第5の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDTとが、それぞれ、第3,第4の信号線により接続されており、前記第3の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDTと、前記第6の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDTとが、それぞれ、第5,第6の信号線により接続されており、前記第1,第3,第5の信号線を流れる信号の位相が同相であり、前記第2,第4,第6の信号線を流れる信号の位相が同相であり、前記第1,第3,第5の信号線を流れる信号の位相と、第2,第4,第6の信号線を流れる信号の位相とが180°異なっており、前記第5の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2のIDTは、弾性波伝搬方向に分割されて設けられている第1分割IDT部及び第2分割IDT部を有し、前記第1の平衡信号端子に、前記第4の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2のIDTと、前記第5の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1分割IDT部とが接続されており、前記第2の平衡信号端子に、前記第6の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2のIDTと、前記第5の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2分割IDT部とが接続されており、それによって、前記第1,第2の平衡信号端子から平衡出力が取り出されるように、前記第1〜第6の縦結合共振子型弾性波フィルタの各第1〜第3のIDTが構成されていることを特徴とする、弾性波フィルタ装置が提供される。
【0020】
第1〜第3の発明では、好ましくは、少なくとも2つの前記縦結合共振子型弾性波フィルタが、それぞれにおける弾性波伝搬路がほぼ同一直線上に位置するように配置されており、縦結合共振子型弾性波フィルタ同士が弾性波伝搬方向において隣り合っている部分の少なくとも一箇所において、隣り合っている反射器が一つの反射器で共用されている。この場合には、反射器の数を少なくすることができ、かつ弾性波フィルタ装置の小型化を図ることが可能となる。
【0021】
本発明に係るデュプレクサは、送信側フィルタと、本発明に従って構成された弾性波フィルタ装置からなる受信側フィルタとを備えることを特徴とし、従って、受信側フィルタにおける。IDT電極のオーミック損及びバルク波の影響の低減、ひいては通過帯域における挿入損失の低減を効果的に図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
第1の発明に係る弾性波フィルタ装置では、第1〜第3の縦結合共振子型弾性波フィルタの各第2のIDTが不平衡信号端子に接続されており、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタが第1,第2の出力端子を有し、第1の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDT及び第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1の出力端子が第1の平衡信号端子に、第3の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDTと、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2の出力端子とが第2の平衡信号端子に接続されているので、IDT電極のオーミック損及びバルク波の影響を小さくでき、従って、挿入損失の低減を図ることが可能となる。
【0023】
同様に、第2の発明では、第1〜第3の縦結合共振子型弾性波フィルタの各第1,第3のIDTが不平衡信号端子に接続されており、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタが第2の IDTにおいて、第1,第2分割IDT部を有し、第1の平衡信号端子に、第1の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2のIDTと、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1分割IDT部とが接続されており、第2の平衡信号端子に、第3の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2のIDTと、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2分割IDT部とが接続されているので、IDT電極によるオーミック損及びバルク波の影響を小さくでき、挿入損失の低減を図ることが可能とされている。
【0024】
第3の発明に係る弾性波フィルタ装置では、第1〜第3の縦結合縦結合共振子型弾性波フィルタの後段に、第4〜第6の縦結合共振子型弾性波フィルタが接続されており、第5の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2のIDTが、第1,第2の分割IDT部を有し、第1の平衡信号端子に、第4の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2のIDTと、第5の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1分割IDT部とが接続されており、第2の平衡信号端子に、第6の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2のIDTと、第5の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2分割IDT部とが接続されているので、IDT電極におけるオーミック損及びバルク波の影響を小さくでき、挿入損失の低減を図ることが可能となる。
【0025】
よって、第1〜第3の発明によれば、入力インピーダンスに比べて出力インピーダンスを高くすることができる平衡−不平衡変換機能を有する弾性波フィルタ装置において、IDT電極におけるオーミック損及びバルク波の影響を小さくでき、挿入損失の低減を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0027】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るデュプレクサの電極構造を模式的に示す平面図である。デュプレクサ1は、アンテナ端子2を有する。アンテナ端子2に、本発明の一実施形態としての弾性表面波フィルタ装置3からなる受信側フィルタと、送信側フィルタを構成しているラダー型回路構成の弾性表面波フィルタ装置4とが接続されている。
【0028】
弾性表面波フィルタ装置3は、アンテナ端子2に接続される不平衡信号端子5と、受信出力端子としての第1,第2の平衡信号端子6,7とを有する。他方、弾性表面波フィルタ装置4は、一端がアンテナ端子2に接続されており、他端が送信端子8に接続されている。
【0029】
本実施形態のデュプレクサ1は、受信側フィルタが、バランス型の縦結合共振子型の弾性表面波フィルタ装置3からなり、従ってバランスデュプレクサである。また、本実施形態のデュプレクサ1は、WCDMA方式の携帯電話機に用いられるものであり、WCDMAの送信周波数帯は1920〜1980MHzであり、受信周波数帯は2110〜2170MHzである。従って、受信側フィルタとしての弾性表面波フィルタ装置3における通過帯域は2110〜2170MHzであり、送信側の通過帯域である1920〜1980MHzにおける減衰量が大きいことが強く望まれる。
【0030】
デュプレクサ1は、圧電基板9上に図示の電極構造を形成することにより構成されている。圧電基板9は、40±5°回転Y板X伝搬のLiTaO基板からなる。この結晶角のLiTaO基板を用いることにより、受信側フィルタとして用いられている縦結合共振子型弾性表面波フィルタ装置3における挿入損失をより一層低減でき、好ましい。
【0031】
なお、送信側フィルタと受信側フィルタとは、同じ圧電基板上に形成される必要は必ずしもなく、異なる圧電基板上に構成されてもよい。従って、送信側フィルタを構成している弾性表面波フィルタ装置4に用いる圧電基板は、上記圧電基板と異なり、送信側フィルタに適した圧電基板材料により構成してもよい。
【0032】
また、縦結合共振子型弾性表面波フィルタ装置3を構成する圧電基板9は、上記40±5°回転Y板X伝搬のLiTaOに限定されず、他の結晶角のLiTaO基板、あるいは他の圧電単結晶または圧電セラミックスであってもよく、特に限定されるものではない。
【0033】
上記受信側フィルタを構成している縦結合共振子型の弾性表面波フィルタ装置3は、第1〜第3の3IDT型の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11〜13を有する。第1〜第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11〜13の入力端が共通接続され、1ポート型弾性表面波共振子14を介して不平衡信号端子5に接続されている。
【0034】
1ポート型弾性表面波共振子14が、第1〜第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11〜13の入力側に接続されているのは、送信側フィルタとしての弾性表面波フィルタ装置4と、上記弾性表面波フィルタ装置3との位相整合を図るためである。すなわち、送信側フィルタと受信側フィルタとの端子を共通接続点で共通化するには、一方のフィルタにおける他方のフィルタの通過帯域におけるインピーダンスが無限大となっていることが理想である。上記1ポート型弾性表面波共振子14を縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11〜13に直列に接続することにより、受信側フィルタにおいて、送信周波数帯が高インピーダンス側にシフトする。従って、1ポート型弾性表面波共振子14の容量を選択することにより位相整合用素子を用いることなく、上記位相整合を図ることができる。よって、小型化を図ることができ、携帯電話器における部品実装面積を小さくすることができる。
【0035】
上記第1〜第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11〜13は、それぞれ、表面波伝搬方向に沿って配置された第1〜第3のIDT11a,11b,11c〜13a,13b,13cを有する。
【0036】
第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11では、第1〜第3のIDT11a〜11cの設けられている領域の表面波伝搬方向両側に、反射器11d,11eが設けられている。他の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ12,13も、同様に、反射器12d,12e,13d,13eを有する。
【0037】
第1〜第3の縦結合共振子型弾性表面波共振子11〜13の中央に位置している第2のIDT11b,12b,13bの一端が、上記のように1ポート型弾性表面波共振子14を介して不平衡信号端子5に接続されており、他端がグラウンド電位に接続されている。
【0038】
第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ12では、第1のIDT12aの一端が第1の出力端子を構成しており、第3のIDT12cの一端が第2の出力端子を構成している。なお、IDT12aは、第2の出力端子を、第3のIDT12cが第1の出力端子を構成してもよい。
【0039】
そして、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11の第1,第3のIDT11a,11cの各一端が第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタの第1のIDT12aの一端と共通接続され、第1の平衡信号端子6に接続されている。IDT11a,11c及びIDT12aの他端はグラウンド電位に接続されている。
【0040】
他方、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタの第3のIDT12cの一端と、第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ13の第1,第3のIDT13a,13cの一端とが共通接続されて、第2の平衡信号端子7に接続されている。IDT12c及びIDT13a,13cの他端はグラウンド電位に接続されている。
【0041】
そして、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11における入力信号に対する出力信号の位相と、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ12における入力信号から第1の出力端子としてのIDT12aの−端へ伝送される信号の位相とが同相とされている。また、第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ13における入力信号に対する出力信号の位相と、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ12の入力端から第2の出力端子としてのIDT12cの−端へ伝送される信号の位相とが同相とされている。
【0042】
また、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11における入力信号に対する出力信号の位相と、第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ13における入力信号に対する出力信号の位相とが180°異なっている。同様に、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ12の入力端から上記第1の出力端子としてのIDT12aの出力端へ伝送される信号の位相と、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ12の入力端から第2の出力端子としてのIDT12cの出力端へ伝送される信号の位相とが180°異なっている。
【0043】
すなわち、IDT11a,11b,11c〜13a,13b,13cは、上記のような信号の位相関係を実現するように構成されている。より具体的には、本実施形態では、IDT11a,11c,12aの極性を、IDT12c,13a,13cに対して反転させることにより、上記位相関係が実現されている。もっとも、上記信号の位相関係を実現し得る限り、IDT11a〜13cの構成は、図示のものに限定されるものではない。
【0044】
従って、弾性表面波フィルタ装置3では、第1,第2の平衡信号端子6,7から平衡出力を取り出すことが可能とされている。また、弾性表面波フィルタ装置3では、入力側インピーダンスと出力側インピーダンスとの比を、1対2〜1対4とすることが可能とされている。なお、本実施形態では、一対の平衡信号端子6,7間の信号の平衡度を高めるために、IDT12cのIDT12b側端部、IDT13a,13cのIDT13b側端部に直列重み付けが施されている。直列重み付けとは、IDTの端部に位置している電極指と、該電極指に連なる一本以上の電極指を含む複数本の電極指内に、図示のような浮き電極指を設けることにより施される重み付けである。
【0045】
なお、送信側フィルタ4では、図示の複数の直列腕共振子S1〜S3と、並列腕共振子P1,P2がラダー型回路を構成するように接続されている。直列腕共振子S1〜S3及び並列腕共振子P1,P2は、それぞれ1ポート型弾性表面波共振子により構成されている。
【0046】
本実施形態のデュプレクサ1においては、上記受信側フィルタとしての弾性表面波フィルタ装置3において、通過帯域内における挿入損失を効果的に低減することができる。これを、より具体的な実験例に基づき説明する。
【0047】
いま、受信側フィルタとしての弾性表面波フィルタ装置3の入力側、すなわち不平衡信号端子5側のインピーダンスを50Ω、受信出力端子としての第1,第2の平衡信号端子6,7におけるインピーダンスを100Ωとなるように、弾性表面波フィルタ装置3を設計した。まず、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11については、以下のように設計した。
【0048】
IDTの電極指のピッチで定まる波長をλIとする。
【0049】
IDTにおける電極指の交叉幅:28.8λI
IDT11a,11cにおける電極指の各本数:29本
IDT11bにおける電極指の本数:53本
反射器11d,11eにおける電極指の本数:65本
メタライゼーションレシオ:0.67
電極膜厚:0.106λI
第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ12は、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11のIDT11cに対して、IDT12cを反転させ、かつ直列重み付けを施したこと以外は、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11と同様とした。
【0050】
第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ13については、第1,第3のIDT13a,13cの極性を、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11の第1,第3のIDT11a,11cに対して反転し、直列重み付けを施したこと以外は、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11と同様とした。
【0051】
1ポート型弾性表面波共振子14については、IDTの電極指のピッチで定まる波長をλIとすると、電極指の交叉幅:14.6λI
IDTの電極指の本数:241本
反射器の電極指の本数:15本
メタライゼーションレシオ:0.58
電極膜厚:0.109λI
なお、図1では、1つの弾性表面共振子14のみを図示したが、本実験例では、上記設計の弾性表面波共振子を3個直列接続した。
【0052】
比較のために、図2に示した第1の比較例のデュプレクサ及び図3に示す第2の比較例のデュプレクサをそれぞれ用意した。
【0053】
第1の比較例のデュプレクサ1201では、特許文献1に記載の弾性表面波フィルタ装置1001と同様に受信側の弾性表面波フィルタ装置1203において、第1,第2の3IDT型の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1211,1212の中央の第2のIDT1211b,1212bを共通接続し、不平衡信号端子1205に接続した。また、第1,第3のIDT1211a,1211cを共通接続し、第1の平衡信号端子1206に接続した。また、第1,第3のIDT1212a,1212cの一端を共通接続し、第2の平衡信号端子1207に接続した。第1,第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1211,1212の設計パラメータは、上記実施形態の第1〜第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11〜13に対し、交叉幅を38.4λIとしたことを除いては、全て同様とした。
【0054】
図3に示した第2の比較例のデュプレクサ1301では、受信側フィルタとしての縦結合共振子型弾性表面波フィルタ装置1303では、図9に示した従来例と同様に、第1〜第4の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1311〜1314の各第2のIDT1311b〜1314bの一端を1ポート型弾性表面波共振子1315を介して不平衡信号端子1305に接続した。そして、図9に示した従来例と同様にして第1,第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1311,1312の第1,第3のIDT1311a,1311c,1312a,1312cの各一端を共通接続し、第1の不平衡信号端子1306に接続した。また、第3,第4の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1313,1314の第1,第3のIDT1313a,1313c,1314a,1314cの各一端を共通接続し、第2の平衡信号端子1307に接続した。この場合、第1〜第4の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ1311〜1314は、電極指の交叉幅が19.2λIとされていることを除いては、上記実施形態における第1〜第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11〜13と同様に設計した。
【0055】
上記実施形態及び第1,第2の比較例の各デュプレクサにおける受信側フィルタの伝送特性を図4に示す。図4から明らかなように、第1の比較例の伝送特性に比べて上記実施形態では、通過帯域の全域において、挿入損失が0.15dB程度小さくなっていることがわかる。これは、上記実施形態によれば、第1の比較例の場合に比べて、IDT電極の抵抗が小さくなり、オーミック損が小さくなったことによると考えられる。
【0056】
他方、第2の比較例の場合には、上記実施形態よりもさらにオーミック損は小さくなるため、通過帯域中央付近においては、第2の比較例の挿入損失は、上記実施形態の場合よりも小さくなっている。しかしながら、通過帯域の端部、特に低域側端部においては、逆に、第2の比較例では、実施形態に比べて挿入損失が大きくなっていることがわかる。これは、第2の比較例では、交叉幅が上記実施形態の場合よりも小さいため、バルク波(SSBW)のリップルが発生し、その影響により通過帯域の低域側における肩特性が悪化したことによるものと考えられる。
【0057】
従って、図4から明らかなように、上記実施形態によれば、IDT電極の抵抗によるオーミック損の増大を招くことなく、通過帯域内における挿入損失を小さくし得ることがわかる。
【0058】
よって、上記実施形態によれば、平衡−不平衡変換機能を有し、しかも不平衡信号端子側のインピーダンスと平衡信号端子側のインピーダンスとの比を1:2〜1:4とすることができ、さらに通過帯域内における挿入損失が小さい、弾性表面波フィルタ装置を提供し得ることがわかる。よって、上記実施形態のデュプレクサ1では、受信側フィルタが上記のような弾性表面波フィルタ装置3により構成されているため、受信特性を効果的に改善することが可能とされている。
【0059】
なお、上記実施形態では、ラダー型回路構成の弾性表面波フィルタ装置4からなる送信側フィルタと、上記弾性表面波フィルタ装置3とが組み合わされて、バランス型のデュプレクサ1が構成されていたが、上記実施形態の弾性表面波フィルタ装置3は、それ自体を段間フィルタとして用いられてもよい。その場合においても、平衡−不平衡変換機能を有し、しかもインピーダンス変換機能を有する段間フィルタであって、さらに通過帯域内における挿入損失の小さい、フィルタ特性に優れた帯域フィルタを提供することが可能となる。
【0060】
図5は、上記実施形態に用いられている弾性表面波フィルタ装置3の変形例を示す模式的平面図である。本変形例の弾性表面波フィルタ装置21では、隣り合う弾性表面波フィルタ11,12間及び隣り合う弾性表面波フィルタ12,13間において、反射器が共用されていることを除いては、上記実施形態の弾性表面波フィルタ装置3と同様に構成されている。従って、同一部分については、同一の参照番号を付することにより、その説明を省略する。
【0061】
図5に示すように、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11と、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ12とは、その弾性表面波伝搬方向が同一直線上に位置するように配置されている。そして、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11のIDT11cの外側に位置する反射器と、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ12の第1のIDT12aの表面波伝搬方向外側に位置している反射器とが、1つの反射器22で共用されている。言い換えれば、図1に示した反射器11eと反射器12dとが反射器22で共用されている。
【0062】
同様に、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ12の表面波伝搬方向と、第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ13の表面波伝搬方向も同一直線上に位置しており、反射器23により、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ12の図1に示した反射器12eと、第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ13の反射器13dとが供用されている。
【0063】
従って、隣り合う縦結合共振子型弾性表面波フィルタの隣接する2つの反射器が1つの反射器で共用されているため、素子の小型化を図ることが可能とされている。なお、本発明においては、隣り合う弾性波フィルタ間において反射器を共用する構成は、全ての隣り合う弾性波フィルタ間において実現されておらずともよい。すなわち、弾性波フィルタ同士が隣り合う部分が複数設けられている場合、少なくとも1箇所において、反射器が共用されておればよく、それによって、素子の小型化を図ることができる。
【0064】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る弾性表面波フィルタ装置31を示す模式的平面図である。第2の実施形態の弾性表面波フィルタ装置31は、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ32が、第1の実施形態の第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ12と異なることを除いては、第1の実施形態の弾性表面波フィルタ装置3とほぼ同様に構成されている。すなわち、第1の実施形態の場合と同一の部分については同一の参照番号を付することにより、第1の実施形態における説明を援用することにより、説明を省略することとする。
【0065】
第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ32では、表面波伝搬方向に沿って第1〜第3のIDT32a〜32cが設けられており、IDT32a〜32cが配置されている領域の表面波伝搬方向両側に反射器32d,32eが配置されている。ここでは、第2のIDT32bが、表面波伝搬方向に2分割されており、それによって、第1分割IDT部33a及び第2分割IDT部33bが設けられている。本実施形態では、第2のIDT32bの一端がグラウンド電位に接続されており、他端が、上記のように、第1,第2の分割IDT部33a,33bとされている。
【0066】
そして、本実施形態では、第1の不平衡信号端子5に、1ポート型弾性表面波共振子14を介して、第1〜第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11,32,13の第1、第3のIDT11a,11c,32a,32c,13a,13cの各一端が接続されており、各他端はグラウンド電位に接続されている。そして、第1の平衡信号端子6には、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11の中央の第2のIDT11bの一端と、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ32の第1の出力端子としての第1分割IDT部33aの一端が接続されている。また、第2の平衡信号端子7には、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタの第2の出力端子としての第2分割IDT部33bの一端と、第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタの第2のIDT13bの一端とが接続されている。IDT11bの他端、IDT32bの他端及びIDT13bの他端はグラウンド電位に接続されている。
【0067】
そして、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11の入力端に対する出力信号の位相と、第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ13における入力信号に対する出力信号の位相とが180°異なっている。また、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ32において、入力端から第1の出力端子としての第1分割IDT部33aの出力側に流れる信号の位相と、入力端から、第2の出力端子としての第2分割IDT部33bに流れる伝送信号の位相とが180°異なっている。そして、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ11における入力信号に対する出力信号の位相と、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ32における入力端から第1分割IDT部33aに流れる信号の位相とが同相とされており、同様に、第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ13における入力信号に対する出力信号の位相と、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ32における入力端から第2分割IDT部33bに流れる信号の位相とが同相とされている。
【0068】
従って、本実施形態においても、第1の実施形態の場合と同様に、平衡−不平衡変換機能を有し、しかも入力端におけるインピーダンスに対し、第1,第2の平衡信号端子6,7側、すなわち出力側インピーダンスを2倍〜4倍とすることができ、さらに、IDT電極によるオーミック損の増大をさほど招くことなく、バルク波のリップルの影響を低減でき、挿入損失を効果的に小さくすることが可能とされている。
【0069】
図7は、本発明の第3の実施形態に係る弾性表面波フィルタ装置41を示す模式的平面図である。
【0070】
弾性表面波フィルタ装置41では、不平衡信号端子5に、第1〜第3の3IDT型の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ51〜53の中央の第2のIDT51b〜53bの一端が接続されている。第2のIDT51b〜53bの各他端はグラウンド電位に接続されている。
【0071】
他方、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ51の第1,第3のIDT51a,51cは、第1,第2の信号線61,62により第4の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ54の第1,第3のIDT54a,54cの一端に接続されている。第1,第3のIDT51a,51cの他端及びIDT54a,54cの他端はグラウンド電位に接続されている。
【0072】
同様に、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ52の第1,第3のIDT52a,52cの各一端が第3,第4の信号線63,64により、第5の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ55の第1,第3のIDT55a,55cの一端に接続されている。IDT52a,52cの他端及びIDT55a,55cの他端はグラウンド電位に接続されている。
【0073】
また、第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ53の第1,第3のIDT53a,53cの各一端が、それぞれ、第5及び第6の信号線65,66により、第6の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ56の第1,第3のIDT56a,56cの一端に接続されている。IDT53a,53cの他端及びIDT56a,56cの他端はグラウンド電位に接続されている。
【0074】
また、第1〜第6の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ51〜56は、それぞれ、第1〜第3のIDTが設けられている領域の表面波伝搬方向両側に反射器51d,51e〜56d,56eを有する。
【0075】
すなわち、本実施形態では、第1〜第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ51〜53と、第4〜第6の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ54〜56とが二段縦続接続されている。
【0076】
また、第5の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ55は、図6に示した縦結合共振子型弾性表面波フィルタ32と同様に、第2のIDT55bが、表面波伝搬方向に沿って配置された第1,第2の分割IDT部57a,57bを有する。
【0077】
すなわち、第5の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ55では、第1,第2の出力端子として、第1,第2の分割IDT部57a,57bが設けられている。
【0078】
第4の縦結合共振子型弾性表面波フィルタの第2のIDT54bの一端と、上記第1分割IDT部57aとが共通接続され、第1の平衡信号端子6に接続されている。他方、第2分割IDT部57bと、第6の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ56の中央の第2のIDT56bの一端とが共通接続され、第2の平衡信号端子7に接続されている。
【0079】
IDT54bの他端、IDT55bの他端及びIDT56bの他端はグラウンド電位に接続されている。
【0080】
本実施形態では、第1,第3,第5の信号線61,63,65を流れる信号の位相が同相であり、第2,第4,第6の信号線62,64,66を流れる信号の位相が同相であり、第1,第3,第5の信号線61,63,65を流れる信号の位相と、第2,第4,第6の信号線62,64,66を流れる信号の位相とが180°異なっている。そして、IDT54bに対し、IDT54aの向きと、IDT54cの向きとが反対とされており、同様に、IDT56bに対し、IDT56aの向きとIDT56cの向きとが反対とされている。
【0081】
従って、第3の実施形態の弾性表面波フィルタ装置41においても、第1,第2の平衡信号端子6,7から平衡出力を取り出すことができ、しかも入力インピーダンスに比べて出力インピーダンスを2倍〜4倍と大きくすることができる。さらに、第1,第2の実施形態の場合と同様に、IDT電極によるオーミック損をさほど増大させることなく、バルク波による影響を低減して、通過帯域内における挿入損失を小さくすることが可能とされている。
【0082】
なお、第1〜第3の実施形態及び上記変形例では、弾性表面波フィルタ装置につき説明したが、本発明は、弾性表面波を利用したものに限らず、弾性境界波などの他の弾性波を利用した弾性波装置であってもよい。すなわち、圧電体と、誘電体との界面に上述した実施形態と同様の電極構造を形成して弾性境界波フィルタ装置を構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るデュプレクサを示す模式的平面図。
【図2】第1の比較例のデュプレクサを示す模式的平面図。
【図3】第2の比較例のデュプレクサを示す模式的平面図。
【図4】第1の実施形態、第1の比較例及び第2の比較例のデュプレクサにおける受信側フィルタの伝送特性を示す図。
【図5】第1の実施形態の変形例に係る弾性表面波フィルタ装置の電極構造を示す模式的平面図。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る弾性表面波フィルタ装置を示す模式的平面図。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る弾性表面波フィルタ装置を示す模式的平面図。
【図8】従来の弾性表面波フィルタ装置の電極構造を示す模式的平面図。
【図9】従来の弾性表面波フィルタ装置の他の例の電極構造を模式的に示す平面図。
【符号の説明】
【0084】
1…デュプレクサ
2…アンテナ端子
3…弾性表面波フィルタ装置
4…弾性表面波フィルタ装置
5…不平衡信号端子
6,7…第1,第2の平衡信号端子
8…送信端子
11〜13…第1〜第3の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ
11a〜11c…第1〜第3のIDT
11d,11e…反射器
12a〜12c…第1〜第3のIDT
12d,12e…反射器
13a〜13c…第1〜第3のIDT
13d,13e…反射器
14…弾性表面波共振子
21…弾性表面波フィルタ装置
22,23…反射器
31…弾性表面波フィルタ装置
32…第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ
32a〜32c…第1〜第3のIDT
32d,32e…反射器
33a〜33c…第1,第2分割IDT部
41…弾性表面波フィルタ装置
51〜56…第1〜第6の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ
51a〜56a…第1のIDT
51b〜56b…第2のIDT
51c〜56c…第3のIDT
51d,51e〜56d,56e…反射器
57a,57b…第1,第2分割IDT部
61〜66…第1〜第6の信号線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上において、弾性波伝搬方向に沿って配置された第1〜第3のIDTと、第1〜第3のIDTが設けられている領域の弾性波伝搬方向両側に配置された反射器とを有する第1〜第3の縦結合共振子型弾性波フィルタと、
前記第1〜第3の縦結合共振子型弾性波フィルタの各第2のIDTが接続されている不平衡信号端子と、
出力端子としての第1,第2の平衡信号端子とを備え、
前記第1の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力信号に対する出力信号の位相と、前記第3の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力信号に対する出力信号の位相とが180°異なっており、
前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタが第1,第2の出力端子を有しており、前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの入力端子から第1の出力端子へ伝送される信号の位相と、前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの入力端子から第2の出力端子へ伝送される信号の位相とが180°異なっており、
前記第1の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力信号に対する出力信号の位相と、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力信号から第1の出力端子へ伝送される信号の位相とが同相であり、
前記第3の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力信号に対する出力信号の位相と、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力端子から第2の出力端子へ伝送される信号の位相とが同相であり、
前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1及び第3のIDTの一方が前記第1の出力端子、他方が前記第2の出力端子に接続されており、
前記第1の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDT及び第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの前記第1の出力端子が、前記第1の平衡信号端子に接続されており、前記第3の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDT及び前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの前記第2の出力端子が前記第2の平衡信号端子に接続されていることを特徴とする、弾性波フィルタ装置。
【請求項2】
圧電基板と、圧電基板上において弾性波伝搬方向に沿って順に配置された第1〜第3のIDTと、第1〜第3のIDTが設けられている領域の弾性波伝搬方向両側に配置された反射器とを有する第1〜第3の縦結合共振子型弾性波フィルタと、
前記第1〜第3の縦結合共振子型弾性波フィルタの各第1,第3のIDTが接続されている不平衡信号端子と、
出力端子としての第1,第2の平衡信号端子とを備え、
前記第1の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力信号に対する出力信号の位相が、前記第3の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力信号に対する出力信号の位相と180°異なっており、
前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタが、第1,第2の出力端子を有しており、
前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの入力端から第1の出力端子に伝送される信号の位相と、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力端から第2の出力端子へ伝送される信号の位相とが180°異なっており、
前記第1の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力信号に対する出力信号の位相と、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力端から第1の出力端子に伝送される信号の位相とが同相であり、
前記第3の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力信号に対する出力信号の位相と、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタにおける入力端から第2の出力端子に伝送される信号の位相とが同相であり、
前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2のIDTは、弾性波伝搬方向に分割されて設けられている第1分割IDT部及び第2分割IDT部を有し、第1分割IDT部及び第2分割IDT部がそれぞれ前記第1,第2の出力端子に接続されており、
前記第1の平衡信号端子に、前記第1の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2のIDTと、前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1分割IDT部とが接続されており、
前記第2の平衡信号端子に、前記第3の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2のIDTと、前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2分離IDT部とが接続されていることを特徴とする、弾性波フィルタ装置。
【請求項3】
圧電基板と、圧電基板上において弾性波伝搬方向に沿って順に配置された第1〜第3のIDTと、第1〜第3のIDTが設けられている領域の弾性波伝搬方向両側に配置された反射器とを有する第1〜第6の縦結合共振子型弾性波フィルタと、
前記第1〜第3の縦結合共振子型弾性波フィルタの各第2のIDTが接続されている不平衡信号端子と、出力端子としての第1,第2の平衡信号端子とを備え、
前記第1の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDTが、前記第4の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDTと、それぞれ、第1,第2の信号線により接続されており、
前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDTと、前記第5の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDTとが、それぞれ、第3,第4の信号線により接続されており、
前記第3の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDTと、前記第6の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDTとが、それぞれ、第5,第6の信号線により接続されており、
前記第1,第3,第5の信号線を流れる信号の位相が同相であり、前記第2,第4,第6の信号線を流れる信号の位相が同相であり、前記第1,第3,第5の信号線を流れる信号の位相と、第2,第4,第6の信号線を流れる信号の位相とが180°異なっており、
前記第5の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2のIDTは、弾性波伝搬方向に分割されて設けられている第1分割IDT部及び第2分割IDT部を有し、
前記第1の平衡信号端子に、前記第4の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2のIDTと、前記第5の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1分割IDT部とが接続されており、
前記第2の平衡信号端子に、前記第6の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2のIDTと、前記第5の縦結合共振子型弾性波フィルタの第2分割IDT部とが接続されており、それによって、前記第1,第2の平衡信号端子から平衡出力が取り出されるように、前記第1〜第6の縦結合共振子型弾性波フィルタの各第1〜第3のIDTが構成されていることを特徴とする、弾性波フィルタ装置。
【請求項4】
少なくとも2つの前記縦結合共振子型弾性波フィルタが、それぞれにおける弾性波伝搬路がほぼ同一直線上に位置するように配置されており、縦結合共振子型弾性波フィルタ同士が弾性波伝搬方向において隣り合っている部分の少なくとも一箇所において、隣り合っている反射器が一つの反射器で共用されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波フィルタ装置。
【請求項5】
送信側フィルタと、請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性波フィルタ装置からなる受信側フィルタとを備えることを特徴とする、デュプレクサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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