説明

弾性表面波素子実装用コレット及び弾性表面波素子実装方法

【課題】 SAW素子をパッケージに片持ち支持されるように実装する際に、接着剤がIDT側に流れないようにし、パッケージ等との熱膨張率の差に起因してSAW素子に生じ得る応力の影響をより確実に解消し、周波数特性の温度安定性を向上させる。
【解決手段】 ボンディング装置11のコレット15は、略四角錐形状の凹部からなりかつ全体的に水平面に関して或る僅少角度θ、好ましくは約0.6°で傾斜させた吸着面20を有する。SAW素子4をコレットにより吸着保持して搬送し、その一方の長手方向端部4aでパッケージ2の実装面3に接着剤8で片持ちに実装する。これにより、SAW素子は反対側の長手方向端部4bを僅かに持ち上げた状態で支持固定されるので、接着剤がSAW素子のIDT6側にはみ出して熱膨張率の差による応力の影響を受ける虞が解消される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波(surface accoustic wave:SAW)デバイスの製造に関し、特にSAW素子をパッケージに実装するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から携帯電話等の情報通信機器などの技術分野において、共振子、フィルタ、発振器などの回路素子としてSAWデバイスが広く使われている。一般にSAWデバイスは、圧電単結晶または多結晶基板の表面にIDT(すだれ状トランスデューサ)からなる励振電極を形成し、該IDTによりSAWを励振するSAW素子をパッケージに実装する。多くのSAWデバイスは、SAW素子の下面全面に接着剤を塗布して、パッケージの実装面に固定する(例えば、特許文献1を参照)。このとき、SAW素子とパッケージとの熱膨張率の差を吸収するために、加熱硬化後に常温まで冷却したときにそれほど硬くならないシリコン系接着剤を使用することが知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【0003】
一般にSAWデバイスは、その共振周波数が温度変化と共に微妙に変化する温度特性を有する。また、半導体素子は一般に動作周波数が高くなるほど発熱量が増加するから、これを同一パッケージ内に収容したSAW発振器などの場合、その発熱により接着剤が収縮してSAW素子に応力が生じる。更にSAWデバイスの使用条件によって、外部温度の変動により同様にSAW素子に応力が発生し、その結果SAWデバイスの共振周波数を変動させる虞がある。特に、SAWデバイスの高周波化が進むと、かかる熱膨張率の差異に起因する応力がSAWデバイスの周波数特性に与える影響が大きくなる。
【0004】
そこで、SAW共振子をIDTの存在しない領域で片持ちに支持固定することにより、パッケージとの熱膨張率の差異に起因する応力が作用する虞を解消したSAWデバイスが知られている(例えば、特許文献3〜5を参照)。図5は、このようなSAWデバイスの典型例を示している。同図において、SAWデバイス1は、例えばセラミック材料の矩形箱型をなすベース2からなるパッケージを備える。ベース2内部には、その実装面3にSAW素子4とこれを駆動する発振回路などのICチップ5とが実装されている。SAW素子4は、圧電基板の主面中央に1対の櫛型電極からなるIDT6と、その長手方向の両側に反射器7とが形成されている。SAW素子4は、長手方向の一方の端部4aにおいて接着剤8により、全体を実装面3から僅かに浮かせた状態で片持ち式に接着固定される。接着剤8は、SAW素子4の長手方向端部4a下面の反射器7を設けた領域に塗布される。このパッケージは、図示しない蓋をベース2の上端に接合することにより気密に封止される。また、特許文献4又は5に記載されるように、SAW伝搬方向又はその直交方向に延設した圧電基板の下面でSAW素子を接着固定することもできる。
【0005】
他方、SAW素子をパッケージに実装するために、ICチップなどの他の電子素子と同様に、コレットを有するボンディング装置を使用するのが一般的である。コレットはその下端に、ICチップの表面を押圧せず、その側縁のみを押圧するようにテーパ面からなる四角錐形状の凹部からなる吸着面を有する(例えば、特許文献6〜8を参照)。SAW素子は、コレットの吸着面に真空吸引して保持搬送し、接着剤を予め付着させたパッケージの実装面に上方から押圧して接着固定する。
【0006】
【特許文献1】特開2000−278082号公報
【特許文献2】特開2003−142985号公報
【特許文献3】特開2002−26656号公報
【特許文献4】特開2005−136938号公報
【特許文献5】特開2003−309447号公報
【特許文献6】特開平11−87372号公報
【特許文献7】特開2002−353401号公報
【特許文献8】特許第3534045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、SAW素子はパーケージの実装面に直接固定するので、SAW素子下面と実装面との隙間が非常に狭い。そのため、接着剤が毛細管現象により、これを塗布した長手方向端部から内側へ、図5に想像線で示すように、IDT6を設けた領域まではみ出し易いという問題がある。接着剤のはみ出し部分9がIDT6の領域にまで至ると、上述したように同一パッケージに搭載したICチップの発熱や外部温度の変動により、SAW素子とパッケージとの熱膨張率の差に起因してSAW素子に応力が発生し、SAWデバイスの周波数特性に大きな影響を与えるという問題が生じる。
【0008】
特に、最近はSAWデバイスの小型化、低背化が要求されていることから、パッケージの実装面にボンディングパッドなどを設けて大きな隙間を確保しようとすると、低背化の要求に反することとなり、製造コストも増大する。また、接着剤の量を多くすれば、実装面との隙間を大きくできるが、接着剤がよりIDTの領域にはみ出し易くなり、またパッケージ内で所望の位置からずれ易くなる。逆に、接着剤の量が少ないと、接着剤のはみ出しはなくなるが、SAW素子を確実にかつ堅固に固定することが困難になり、SAW素子の反対側の長手方向端部が下がって実装面に接触する虞がある。
【0009】
本発明は、上述した従来の様々な問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、SAW素子をその一方の端部でパッケージに接着剤で片持ちに支持固定するSAWデバイスにおいて、接着剤がIDTの領域にはみ出すことがないようにSAW素子を実装し得るコレットを提供することにある。
【0010】
更に本発明の目的は、かかるSAW素子実装用コレットを用いることにより、パッケージ等との熱膨張率の差に起因してSAW素子に生じ得る応力の影響を確実に解消し、周波数特性の温度安定性を向上させ得るSAW素子の実装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、上記目的を達成するために、圧電基板の主面に形成したIDTを有するSAW素子を一方の端部で接着剤により片持ちにパッケージの実装面に接着固定するために、SAW素子を真空吸着して保持するための吸着面を有し、該吸着面が、SAW素子の外郭より大きい矩形開口を有し、SAW素子の対向する長手方向の各側辺がそれぞれ接する2つのテーパ面と、SAW素子の対向する幅方向の各側辺がそれぞれ接する2つのテーパ面とからなる凹部により形成され、SAW素子の長手方向の側辺に接する2つのテーパ面及び幅方向の側辺に接する2つのテーパ面が、それぞれ同一の寸法を有する等辺台形又は2等辺三角形をなし、かつそれら等辺台形の下辺又は2等辺三角形の底辺を水平面に対して微小角度θをもって傾斜させたSAW素子実装用コレットが提供される。
【0012】
上述したようにコレットの吸着面を全体として傾斜させて構成することにより、SAW素子は、反対側の端部を持ち上げるように、圧電基板の主面を水平面に対して角度θで傾斜させた状態で吸着保持し、かつ実装面に押圧することができる。従って、SAW素子の下面とパッケージの実装面との隙間が狭くなっても、接着剤が確実にIDTの領域にはみ出すことがないようにSAW素子を実装することができる。
【0013】
本発明の別の側面によれば、上述した本発明のSAW素子実装用コレットを使用し、その吸着面にSAW素子を微小角度θをもって傾斜させた状態で吸着保持し、SAW素子の一方の端部に対応する実装面の部分に接着剤を予め塗布し、該コレットによりSAW素子を実装面に対して角度θで傾斜させて押圧することにより、SAW素子をその一方の端部で接着剤により実装面に片持ちに接着固定するSAW素子実装方法が提供される。
【0014】
これにより、SAW素子は、常に接着剤がIDTの領域にはみ出すことがないように片持ちに実装されるので、パッケージ等との熱膨張率の差に起因してSAW素子に生じ得る応力の影響を確実に解消でき、周波数特性の温度安定性を向上させることができる。従って、SAWデバイスの製造歩留まりが向上し、高性能かつ高品質のSAWデバイスを低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、添付図面を用いて本発明の好適な実施態様を詳細に説明する。
図1は、本発明を適用してSAWデバイスのパッケージにSAW素子を実装するためのボンディング装置の実施例を示している。本実施例のボンディング装置11は、下方に延出する2本の垂直ロッド12の下端に固定されて上下に駆動されるコレット取付板13を有する。コレット取付板13には、コレット取付ブロック14を用いて本発明によるコレット15が一体に固定される。コレット15は、その下端に後述するSAW素子の吸着面を有する。
【0016】
ボンディング装置11は、水平方向のガイドレール16に沿って、図1において実線で示す実装位置と、想像線で示す取出位置との間で移動させることができる。前記実装位置において、ボンディング装置11の下方にはパッケージホルダ17が設けられ、その上面には前記パッケージのベース2が位置決めして配置される。前記取出位置では、ボンディング装置11の下方にトレーセット台18が設けられ、その上には、複数のSAW素子4を載置したトレー19が配置される。
【0017】
SAW素子の実装工程において、ボンディング装置11を前記取出位置に移動させ、コレット15を下降させて、トレー19上から1個のSAW素子4を吸着した後、上昇させて取り出す。このようにSAW素子4を保持した状態で、ボンディング装置11を前記取出位置から移動させ、前記実装位置に搬送する。次に、コレット15を下降させ、SAW素子4をベース2に実装する。別の実施例では、図示しない別個のピックアップコレットを用いてSAW素子4をトレー19から取り出し、一旦チップセット台(図示せず)上に載置して位置決めした後、コレット15に吸着させることができる。これにより、SAW素子をより正確にかつ確実に吸着保持することができる。
【0018】
図2(A)(B)に示すように、コレット15は、その下端にSAW素子の吸着面20を有する。吸着面20は、全体としてSAW素子4の外形より幾分大きい矩形の開口を有する略四角錐形状の浅い凹部からなる。前記凹部は、4つのテーパ面21,22により形成される。長手方向の稜線21aを挟んで山形に接する2つのテーパ面21は、同一寸法の等辺台形をなす。テーパ面21の両側辺を稜線として接する長手方向両端の2つのテーパ面22は、同一寸法の2等辺三角形をなす。更に、前記凹部の各隅部には、テーパ面21とテーパ面22とが接する稜線に沿って小溝23が形成されている。
【0019】
テーパ面21は、対向する平行な2辺21a,21bが水平面hに対して僅かな角度θをなすように形成する。これにより、吸着面20を全体として水平面に対して角度θで傾斜させることができる。角度θは、例えば後述するように0.6°程度の微小な値に設定する。
【0020】
また、コレット15には、吸着面20の中央に開口する上下方向の吸気孔24が貫設されている。吸気孔24は、図示しない真空吸引装置に接続される。コレット15の吸着面20をトレー19上のSAW素子4に被せて前記真空吸引装置を作動させると、該SAW素子は吸着面20に吸着される。上述したように吸着面20を構成したことにより、SAW素子4は、図3に示すように、長手方向端部4bを持ち上げるように、その主面を水平面に対して角度θで傾斜させて吸着保持することができる。
【0021】
このとき、SAW素子4は吸着面20に、長手方向の両側辺が各テーパ面21に接し、かつ幅方向の両側辺が各テーパ面22にそれぞれ接するように吸着されるので、SAW素子表面のIDT又は反射器を損傷する虞がない。また、SAW素子4の各角部は、小溝23が逃げとなるので、破損する虞がない。
【0022】
このようにSAW素子4を吸着保持した状態で、コレット15をベース2の実装面3に向けて下降させる。実装面3には、SAW素子4の一方の長手方向端部4aに対応する部分に接着剤8が予め塗布されている。コレット15は、所定の押圧荷重でSAW素子4を実装面3に押圧し、その下面で接着剤8を押し広げる。接着剤8は、SAW素子4の反対側の長手方向端部4bが傾斜角度θをもって持ち上げられているので、IDT6の領域まではみ出す虞がない。また、接着剤8の硬化前に、SAW素子4の長手方向端部4bが自重により下がったとしても、せいぜい実装面3と平行になるだけで、それ以上下がることはない。
【0023】
コレット15は、実装面3に所定時間押圧してSAW素子4の姿勢が安定すると、前記真空吸引装置を停止させてSAW素子4を吸着面20から解放し、かつ元の位置まで上昇させる。この後、約150℃の温度で約30分加熱して前記接着剤を仮硬化させ、更に真空中で約245℃の温度で5時間アニールすることにより、本硬化させる。
【0024】
本実施例では、SAW素子4の実装後における接着剤8の広がりを半径1.5〜1.8mmとし、実装面3とSAW素子4下面との隙間を約50μmとし、角度θを0.6°に設定した。その結果、接着剤のはみ出しを生じることなく、SAW素子を良好に接着固定することができた。
【0025】
図4は、本発明の第2実施例を示している。第2実施例では、従来のコレットと同様に水平な吸着面26を有するコレット25を使用する。コレット25を一体に保持するコレット取付ブロック27は、コレット取付板13に形設した位置決め用の突起28を長孔29に嵌合させ、締付ボルト30により固定する。このとき、締付ボルト30の締付位置を調整することにより、吸着面26が水平面に対して微小角度θで傾斜するように、斜めに取り付けることができる。本実施例でも、このように吸着面26を傾斜させることによって、図2の実施例と同様に、SAW素子4を角度θで傾斜させた状態に吸着保持しかつベースの実装面に接着固定することができる。
【0026】
以上、本発明の好適な実施例について詳細に説明したが、本発明はその技術的範囲内において上記実施例に様々な変形・変更を加えて実施することができる。例えば、コレットの吸着面は、それぞれ2等辺三角形をなす4つのテーパ面からなる四角錐形状の凹部で形成することができる。また、SAW素子の圧電基板をSAW伝搬方向又はその直交方向に延設し、圧電基板の該延設部分下面に接着剤を塗布してSAW素子をパッケージに接着固定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に使用するボンディング装置の構成全体を示す概略図。
【図2】(A)図は本発明のコレットを示す断面図、(B)図はその底面図。
【図3】コレットを用いてSAW素子をパッケージに実装する状態を示す断面図。
【図4】本発明の第2実施例によるボンディング装置を示す部分拡大図。
【図5】本発明を適用するSAWデバイスの平面図。
【符号の説明】
【0028】
1…SAWデバイス、2…パッケージ、3…実装面、4…SAW素子、4a,4b…長手方向端部、5…ICチップ、6…IDT、7…反射器、8…接着剤、9…はみ出し部分、11…ボンディング装置、12…垂直ロッド、13…コレット取付板、14,27…コレット取付ブロック、15,25…コレット、16…ガイドレール、17…パッケージホルダ、18…トレーセット台、19…トレー、20,26…吸着面、21,22…テーパ面、21a…稜線、21b…辺、23…小溝、24…吸気孔、28…突起、29…長孔、30…締付ボルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の主面に形成したIDTを有する弾性表面波素子を一方の端部で接着剤により片持ちにパッケージの実装面に接着固定するために、前記弾性表面波素子を真空吸着して保持するための吸着面を有し、
前記吸着面が、前記弾性表面波素子の外郭より大きい矩形開口を有し、前記弾性表面波素子の対向する長手方向の各側辺がそれぞれ接する2つのテーパ面と、前記弾性表面波素子の対向する幅方向の各側辺がそれぞれ接する2つのテーパ面とからなる凹部により形成され、前記弾性表面波素子の長手方向の側辺に接する前記2つのテーパ面及び前記弾性表面波素子の幅方向の側辺に接する前記2つのテーパ面が、それぞれ同一の寸法を有する等辺台形又は2等辺三角形をなし、かつ前記等辺台形の下辺又は2等辺三角形の底辺が水平面に対して微小角度θをもって傾斜していることを特徴とする弾性表面波素子実装用コレット。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波素子実装用コレットの前記吸着面に弾性表面波素子を微小角度θをもって傾斜させた状態で吸着保持し、前記弾性表面波素子の前記一方の端部に対応する実装面の部分に接着剤を予め塗布し、前記コレットにより前記弾性表面波素子を前記実装面に対して前記角度θで傾斜させて押圧することにより、前記弾性表面波素子を前記一方の端部で前記接着剤により前記実装面に片持ちに接着固定することを特徴とする弾性表面波素子実装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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