説明

弾性表面波装置

【課題】広い温度範囲において温度特性が良好で、しかも、実装が容易で、小型化が可能な弾性表面波装置を提供する。
【解決手段】 所定のオイラー角で切り出された水晶基板2の表面上に、一対の櫛型電極3からなる弾性表面波素子4が配設され、櫛型電極3を構成する平棒状の電極指31の幅と配設ピッチとの比である幅ピッチ比が、電極指31のSAW伝搬と直交方向において、複数異なるように櫛型電極3が形成され、各幅ピッチ比は、当該幅ピッチ比での周波数温度特性曲線において所定の頂点温度が得られるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)フィルタや弾性表面波発振器などの弾性表面波装置に関し、特に、温度に対する周波数特性を安定化させた弾性表面波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波装置は、水晶などの圧電性基板上に、櫛型(IDT:InterDigital Transducer)電極・弾性表面波素子が配置されたものであり、温度変化に対する周波数の変動を低減するために、圧電性基板にSTカット水晶板を用いたものが知られている。また、複数の異なる弾性表面波素子を同一基板上に並列に配設することで、広い温度範囲において温度特性を良好・安定化した技術が知られている(例えば、特許文献1等参照。)。
【0003】
すなわち、所定のオイラー角で切り出された水晶基板の表面上に、櫛型電極の幅ピッチ比(電極幅/電極ピッチ)が異なる複数の弾性表面波素子が、弾性表面波の伝搬方向が一致するように配置されている。また、複数の弾性表面波素子が電気的に並列に接続され、各弾性表面波素子の幅ピッチ比は、温度特性曲線において所定・所望の頂点温度が得られるように設定されている。そして、各弾性表面波素子の温度特性曲線が並列に結合・合成されることで、広い温度範囲にわたって安定した(良好な)温度特性が得られるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−274696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の技術では、複数の弾性表面波素子を並列に接続するため、配線の引き回し(またがり配線)が必要となり、引き回しでの結合などを考慮しなければならず、また、実装が容易ではない。しかも、複数の弾性表面波素子を基板上に配設しなければならないため、装置が大型化してしまう。
【0006】
そこでこの発明は、広い温度範囲において温度特性が良好で、しかも、実装が容易で、小型化が可能な弾性表面波装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、所定のオイラー角で切り出された水晶基板の表面上に、一対の櫛型電極からなる弾性表面波素子が配設され、前記櫛型電極を構成する平棒状の電極片の幅と配設ピッチとの比である幅ピッチ比が、前記電極片のSAW伝搬と直交方向において、複数異なるように前記櫛型電極が形成され、前記各幅ピッチ比は、当該幅ピッチ比での周波数温度特性曲線において所定の頂点温度が得られるように設定されている、ことを特徴とする弾性表面波装置である。
【0008】
この発明によれば、電極片のSAW伝搬と直交方向において幅ピッチ比が複数異なり、電極片のSAW伝搬と直交方向に複数の異なる櫛型電極・弾性表面波素子が配置された状態となる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、電極片のSAW伝搬と直交方向に複数の異なる櫛型電極・弾性表面波素子が配置された状態となり、しかも、所定の頂点温度が得られるように各幅ピッチ比が設定されている。すなわち、温度特性曲線・頂点温度が異なる複数の櫛型電極・弾性表面波素子が並列に配置された状態となり、広い温度範囲において良好・安定な温度特性を得ることが可能となる。
【0010】
さらに、一対の櫛型電極のみで複数の異なる幅ピッチ比を構成するため、複数の弾性表面波素子を並列に接続する必要がなく、配線の引き回しが不要となる。このため、引き回しでの結合などを考慮する必要がなく、アイソレーションが高くなり、また、実装も容易となる。しかも、複数の弾性表面波素子を基板上に配設する必要がないため、装置を小型化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態に係る弾性表面波装置を示す概略平面図である。
【図2】図1の弾性表面波装置における櫛型電極の電極指の幅とスペースと配設ピッチとの関係を示す図である。
【図3】図1の弾性表面波装置の周波数温度特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0013】
図1は、この実施の形態に係る弾性表面波装置1を示す概略平面図である。この弾性表面波装置1は、所定のオイラー角で切り出された水晶基板2の表面上に、一対の櫛型電極3からなる弾性表面波素子4が配設された装置である。
【0014】
水晶基板2は、STカット水晶板で、STカット水晶板のX軸方向(電気軸方向)が弾性表面波の伝搬方向となっている。具体的には、オイラー角(φ,θ,ψ)が(0°,0°,0°)の水晶板を、電気軸(X軸)回りにθ=113〜135°回転させて得られるSTカット水晶板の新しい座標軸に沿って切り出されるもので、このSTカット水晶板の新しいZ軸(Z’軸)回りにさらにψ=±(40〜49)°回転させ、弾性表面波の伝播方向がこの方向になるように作製されたものである。
【0015】
つまり、水晶基板2のオイラー角(φ,θ,ψ)は、(0°,113〜135°,±(40〜49°))となっており、このようなSTカット水晶板を用いた弾性表面波装置は、温度特性が極めて良好であることが知られている。さらに、この実施の形態では、Z’軸回りに面内回転を行わせることで、容易に極値(極大値と極小値)を有する周波数温度特性曲線が得られるように、次の関係式が成り立つように、オイラー角が設定されている。
ψ=0.3295×θ+3.3318°±1.125°
【0016】
櫛型電極3は、アルミニウムなどの金属製で、平棒状、つまり薄膜状で長く延びた、電極指(電極片)31で構成されている。また、電極指31の幅と配設ピッチとの比である幅ピッチ比が、電極指31のSAW伝搬と直交方向において複数異なるように、櫛型電極3が形成されている。すなわち、図2に示すように、一方の櫛型電極3における電極指31の幅を符号Lとし、配設ピッチを符号Pとし場合に、幅LをピッチPで除算した値(L/P)である幅ピッチ比ηが、電極指31のSAW伝搬と直交方向において、複数(3つ)異なるように形成されている。ここで、符号Sは、一方の櫛型電極3の電極指31と、隣接する他方の櫛型電極3の電極指31とのスペース・間隔であり、水晶基板2の表面が露出している部分の距離である。
【0017】
具体的には、この実施の形態では、電極指31がSAW伝搬と直交方向に3つの領域M1〜M3に分けられ、図1中の上部である第1の領域M1では、
幅L:スペースS=0.4:0.6
ピッチP=1.005
に設定され、ピッチPに対して電極指31の幅Lが細くなっている。
【0018】
また、図1中の中央部である第2の領域M2では、
幅L:スペースS=0.5:0.5
ピッチP=1.000
に設定され、ピッチPに対して電極指31の幅Lが中位になっている。
【0019】
さらに、図1中の下部である第3の領域M3では、
幅L:スペースS=0.6:0.4
ピッチP=0.995
に設定され、ピッチPに対して電極指31の幅Lが太くなっている。
【0020】
つまり、各領域M1〜M3における幅ピッチ比η1〜η3が、次の関係を有するように設定されている。
第1の幅ピッチ比η1<第2の幅ピッチ比η2<第3の幅ピッチ比η3
【0021】
ここで、上記の幅L、スペースSおよびピッチPの数値は、説明するための疑似的なイメージ値であり、実際の櫛型電極3として適正な数値ではなく、実際の数値は、電気的な仕様などに基づいて設定される。例えば、幅L:スペースS=0.5:0.5の場合、幅LおよびスペースSを弾性表面波の波長λの1/4とし、ピッチPを波長λとする、などと設定する。
【0022】
このような各領域M1〜M3における幅ピッチ比η1〜η3は、その幅ピッチ比ηでの周波数温度特性曲線において所定・所望の頂点温度が得られるように設定されている。すなわち、オイラー角が所定値で、電極指31の膜厚Hと弾性表面波の波長λとの比(H/λ)が所定値における、幅ピッチ比ηと周波数温度特性曲線の頂点温度Tとの関係(幅ピッチ比ηがいくつの場合には、頂点温度Tがいくつになる、という関係)が予め得られており、この関係に基づいて、所定・所望の頂点温度が得られるように各幅ピッチ比η1〜η3が設定されている。
【0023】
ここで、各頂点温度は、後述するように弾性表面波装置1の温度特性が得られた場合に、その温度特性が使用温度範囲で良好、安定となるように選択される。具体的には、例えば、最も小さい第1の幅ピッチ比η1では、頂点温度T1が約70℃、第2の幅ピッチ比η2では、頂点温度T2が約30℃、最も大きい第3の幅ピッチ比η3では、頂点温度T3が約−10℃になるように、各幅ピッチ比η1〜η3が設定されている。
【0024】
そして、このような櫛型電極3のそれぞれに、端子線5が接続されているものである。
【0025】
このような構成の弾性表面波装置1によれば、電極指31のSAW伝搬と直交方向において幅ピッチ比η1〜η3が異なり、電極指31のSAW伝搬と直交方向に3つの異なる櫛型電極・弾性表面波素子が並列に配置されたのと同じ状態となる。すなわち、図1中の上部において、横に延びた第1の領域M1が第1の弾性表面波素子を構成し、図1中の中央部において、横に延びた第2の領域M2が第2の弾性表面波素子を構成し、図1中の下部において、横に延びた第3の領域M3が第3の弾性表面波素子を構成し、これらが並列に接続された構成となっている。
【0026】
そして、図3に示すように、頂点温度T1が約70℃である第1の弾性表面波素子の周波数温度特性曲線C1と、頂点温度T2が約30℃である第2の弾性表面波素子の周波数温度特性曲線C2と、頂点温度T3が約−10℃である第3の弾性表面波素子の周波数温度特性曲線C3とが結合・合成された曲線が、本弾性表面波素子4の温度特性曲線Cとなる。この温度特性曲線Cは、図示のように、広い温度範囲にわたって安定しており(周波数偏差がゼロに近く)、良好な温度特性が得られるものである。ここで、安定している温度範囲が、弾性表面波装置1の使用温度範囲を含んでいる。言い換えると、安定している温度範囲が使用温度範囲を含むように、各頂点温度T1〜T3、つまり各幅ピッチ比η1〜η3が設定されている。
【0027】
さらに、一対の櫛型電極3のみで複数の異なる幅ピッチ比η1〜η3、領域M1〜M3を構成するため、複数の弾性表面波素子を並列に接続する必要がなく、配線の引き回しが不要となる。つまり、図1に示すように、またがり配線(配線の交差)がなく、各櫛型電極3から直線的に端子線5を配設すればよい。このため、引き回しでの結合などを考慮する必要がなく、アイソレーションが高くなり、また、平面のみの配線となるため、実装も容易で、電気的特性や信頼性も向上する。しかも、複数の弾性表面波素子を水晶基板2上に配設する必要がないため、装置1を小型化することが可能となる。
【0028】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、各領域M1〜M3における幅ピッチ比η1〜η3を変えるために、幅LとピッチPの双方を変える場合を例に説明したが、一方のみを変えて幅ピッチ比η1〜η3を変えるようにしてもよい。また、上記の実施の形態では、電極指31をSAW伝搬と直交方向に3つの領域M1〜M3に分け、各領域M1〜M3における幅ピッチ比η1〜η3を異なるようにしているが、使用する温度範囲や弾性表面波の波長などに応じて、電極指31をSAW伝搬と直交方向に2つの領域に分けたり、4つ以上の領域に分けたりしてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 弾性表面波装置
2 水晶基板
3 櫛型電極
31 電極指(電極片)
4 弾性表面波素子
5 端子線
L 幅
S スペース
P 配設ピッチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のオイラー角で切り出された水晶基板の表面上に、一対の櫛型電極からなる弾性表面波素子が配設され、
前記櫛型電極を構成する平棒状の電極片の幅と配設ピッチとの比である幅ピッチ比が、前記電極片のSAW伝搬と直交方向において、複数異なるように前記櫛型電極が形成され、
前記各幅ピッチ比は、当該幅ピッチ比での周波数温度特性曲線において所定の頂点温度が得られるように設定されている、
ことを特徴とする弾性表面波装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−81098(P2013−81098A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220370(P2011−220370)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】