往復ピストン燃焼エンジン用のピストン、ピストンリング、およびオイル分配リング
【課題】改善されたピストン、対応するピストンリング、およびオイル分配リングを提供する。
【解決手段】少なくとも一つのシリンダ3を有する往復ピストン燃焼エンジン、特に大型2ストロークディーゼルエンジン用のピストンに関し、本ピストン1の燃焼空間に面するピストンクラウン101と、燃焼空間から離れたピストンスカート102の間のジャケット表面には、ピストンリングパッキング4が形成され、該ピストンリングパッキング4は、摩擦方式で、シリンダ3のシリンダ壁と協働し、ピストンリングパッキング4は、第1のピストンリング溝内に第1のピストンリング41を有する部分リングパッキングを有し、部分リングパッキングには、圧力緩和手段が提供される。ジャケット表面において、第1のピストンリングと第2のピストンリング42の間には、凹部5,51の形態の中間空間が提供される。
【解決手段】少なくとも一つのシリンダ3を有する往復ピストン燃焼エンジン、特に大型2ストロークディーゼルエンジン用のピストンに関し、本ピストン1の燃焼空間に面するピストンクラウン101と、燃焼空間から離れたピストンスカート102の間のジャケット表面には、ピストンリングパッキング4が形成され、該ピストンリングパッキング4は、摩擦方式で、シリンダ3のシリンダ壁と協働し、ピストンリングパッキング4は、第1のピストンリング溝内に第1のピストンリング41を有する部分リングパッキングを有し、部分リングパッキングには、圧力緩和手段が提供される。ジャケット表面において、第1のピストンリングと第2のピストンリング42の間には、凹部5,51の形態の中間空間が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項1、14、15のプリアンブルに示した、ピストン、ピストンリング、および特に大型2ストロークジーゼルエンジンのような、往復ピストン燃焼エンジンのピストン用のオイル分配リングに関する。
【背景技術】
【0002】
これに限られるものではないが、例えば、大型ディーゼルモータ用の従来のピストンは、通常、複数のピストンリングのパッキングを備え、これらのピストンリングは、それぞれのピストンリング溝の相互の上に配置される。従来のピストンリングパッキングは、通常、少なくとも2つのピストンリングを有するが、エンジンの寸法および/またはパワー、あるいは要望およびエンジンが作動される特定の作動条件に応じて、3、4、または5つのピストンリングを有しても良い。この点に関し、ピストンリングパッキングのトレンドは、次第に、できる限りピストンリングを少なくする方向に向かっている。例えば、2つのピストンリングのみを有するピストンリングパッキングが有意に使用されている。極めて特定のケースでは、ピストンは、単一のピストンリングのみを有することも原理上可能である。
【0003】
シリンダ内でのピストンの誘導、分配、および/またはシリンダの稼働表面の潤滑剤の除去、ピストンの下側に向かう燃焼空間のシール等のような、異なる機能を満たすピストンリングは、作動状態では、相当の負荷(strain)に晒される。このため、ピストンリングは、直接、シリンダ稼働表面と摩擦接触し、燃焼圧力は、ピストンリングに集中するため、ピストンリングは、相当な熱的、機械的、および化学的負荷を受ける。
【0004】
この点に関し、ピストンリングパッキングは、しばしば誤って想定されるように、シリンダ内のピストンの中心に配置されない場合がある。これは、構成上の理由のため避けられない。ピストンリング自身は、半径方向に対して、常時、自動で中心状態に誘導される。非挿入状態では、これらの外径は、常に、シリンダの内径よりも大きくなるように選択されるためである。ピストンリングの直径は、弾性的に変化し、ピストンリングは、周方向において、所定の圧力下で、常に、シリンダ壁に向かうように誘導される。一方、ピストンリングが配置されたピストンにおいて、ピストンリングの内径は、ピストンリング溝の外径よりも大きい。従って、ピストンリングパッキングまたは個々のピストンリングは、ピストンまたはピストンリング溝に対して、「自由浮遊」の状態で配置される。これは、ピストンリングが永久的にピストンリング溝と摩擦接触しないため、必須である。そうでなければ、ピストンリングは、もはやシリンダ壁に誘導されなくなり、シリンダ壁および/またはピストンリング溝で不具合(seizure)が生じ、大きく擦れるほどの重大な損傷が起こる。
【0005】
例えば、長手方向に掃気(scavenged)される大型2ストロークディーゼルエンジンでは、ピストンリングパッキングを使用することは、広く実施されており、これは、ピストン下側に対して燃焼空間をシールするため、2乃至5つのピストンリングで構成される。これは、受容空間に向かって誘導され、掃気(scavenging)段階の開始時に、受容空間から、掃気(scavenging)スリットを介してシリンダの燃焼空間に新鮮な空気が流れる。下側ピストンリングは、ピストンとシリンダ壁の間の環状クリアランスに応じて、多少大きな応力を受ける。この点に関し、下側ピストンリング同士の間で、異なるタイプの不安定性が生じる。その結果、例えば、圧力変動が生じ、これにより、特に、同様のまたは同一の機能を有する多くのピストンリングが存在するため、ピストンの稼働が不安定となる。
【0006】
これに関して、大型ディーゼルエンジンは、しばしば、船舶用、または例えば電気エネルギー発生のための大型発電器の駆動用の静置作動の駆動ユニットとして使用される。この点に関し、通常、エンジンは、相当の時間にわたって恒久動作で稼働し、作動安全性および利用性に対して高い要望がある。特に、長期のサービスインターバル、低摩耗性、ならびに燃料および作動材料の経済的取扱に関しては、オペレータが機械を動作する際の主要な尺度となる。そのような大型ボア低稼働ディーゼルエンジンのピストン稼働挙動は、特に、サービスインターバルの長さ、利用性、および潤滑剤の消費を介したまたは直接的な作動コストさらには作動効率の決定因子となる。従って、エンジンのシリンダ潤滑剤の複雑な問題は、次第に重要になっており、特に大型ディーゼルエンジンでは、ピストンの前後の移動の際、潤滑装置によってシリンダに潤滑性が生じ、あるいはこれは、シリンダ壁に提供された潤滑油ノズルによって実現される。
【0007】
燃焼エンジンの作動の際に何度も生じる問題は、エンジンの最も変動する点に堆積される、燃焼残渣である。特に、大型2ストロークディーゼルエンジンは、しばしば、重油燃料で作動され、燃焼残渣は、大きな問題となる。使用燃料、すなわち重油燃料は、多くの物質を含み、固体状、液体状、および気体状の全ての種類の燃焼残渣が生じ得るからである。
【0008】
別の大きな点は、作動状態におけるピストンリングパッキングのピストンリングの動的挙動である。装置は、ピストンの下側に向かって、燃焼空間の十分なシールを構成する必要がある。
【0009】
ピストンリング、特に燃焼空間といかなる直接的な接続もなく、ピストンリングパッキングの上部リングによって、燃焼空間から分離された、歪みの少ない「下側」ピストンリングの動的挙動に関し、これらのピストンリングパッキングの「下側」ピストンリングは、比較的少量の動的ガス負荷のため、未制御の動きをする傾向にあることが見出されている。これは、ピストンリングの流体力学上の理想的な動きの形態に一致しない。
【0010】
特に、「上側」上部リング、すなわち燃焼空間に直接隣接するピストンリングパッキングのピストンリングの動きに影響する別の因子は、「ブローバイ」(blowby)効果として知られている。当業者は、ピストンリングは、絶対気密でシールせず、むしろガスの所定量が燃焼空間から流れるものとして、ブローバイ効果を把握する。通常、燃焼空間のガス量の質量比の6〜8%が、未制御状態で、ピストンの下側に向かう方向にピストンリングパッキングを通過する。これにより、含まれる熱エネルギーが実質的に損失する。
【0011】
従って、特に、上死点に近接する燃焼空間で生じた圧力エネルギーをできるだけ利用し、ガス流の形態でピストンを通過した一部の未使用のガスが、シリンダの下側および受容空間に流れなくなるようにする必要がある。また、不十分なシールでは、ピストンを通過して下方に流れるガス流により、未制御状態で、個々の粒子が燃焼残渣の堆積物から剥がれるというリスクが常にある。これらは、例えば、シリンダの下側のシリンダ稼働表面に堆積され、これらは、シリンダ潤滑油を汚染し、最悪の場合、擦れのような損傷が生じる。
【0012】
この点に関し、実際には、ピストンリング通路には、オイル分配リングが極めて良く使用され、これは、シリンダ稼働表面、特にシリンダ稼働表面の周方向に、潤滑油のより良好な分配を提供する。従来のオイル分配リングは、しばしばオイルスクラッパまたはオイル捕集タンクとも称され、これは、例えば、潤滑油に含まれる固体、液体、および気体状の有害な残渣を、潤滑油とともに回収する。その結果、しばしば、いわゆる「フレッティング(fretting)」または「擦れ」が生じ、これは、シリンダ稼働表面、ピストンリングおよびピストン自身の大きな損傷につながる。
【0013】
また、前述の好ましくない、また極めて有害な不具合を回避することが重要になってきている理由は、燃料および潤滑剤の消費の抑制とともに、より良い特性が要求されるようになってきたことにある。また、環境標準も徐々に厳しくなってきている。
【0014】
しかしながら、前述の悪影響は、燃料および潤滑剤のさらなる消費につながり、ピストン、ピストンリング、およびシリンダ壁での汚染物誘導摩耗現象につながる。これは、さらに、排気ガス値の低下、ならびにピストンリングパッキングのピストンリングの最適化されていない流体力学的挙動による早期摩耗につながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明の目的は、改善されたピストン、対応するピストンリング、およびオイル分配リングを提供することであり、これにより前述の従来の問題が回避される。特に、本発明の目的は、改善されたピストンリングを有する改善されたピストンを提供することであり、これにより、ピストンの下側に向かう、燃焼空間のより良いシールが可能となる。また、ピストンリングの流体力学的に最適化された稼働挙動が可能となり、すなわち、特に、「下側」ピストンリングの未制御の動きが抑制され、弱いガス動的負荷が得られる。また、潤滑油の分配が改善され、オイル分配リングに収集された汚染堆積物の濃度は、所定の段階まで上昇しなくなる。従って、往復ピストン燃焼エンジンの経済的な作動、影響を受ける部材およびエンジン全体の長期サービスインターバル、さらには長寿命化が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
これらの課題を満足する本発明の主題は、独立請求項1、14、15の特徴によって示されている。
【0017】
従属請求項は、本発明の特定の有意な実施例に関する。
【0018】
従って、本発明は、少なくとも一つのシリンダを有する往復ピストン燃焼エンジン、特に大型2ストロークディーゼルエンジン用のピストンに関し、当該ピストンは、前記シリンダ内で、挿入状態における燃焼空間を区画し、当該ピストンのピストン軸に沿った軸方向において、前記シリンダ内の上死点と下死点の間で、前後に可動に配置される。この点に関し、当該ピストンの前記燃焼空間に面するピストンクラウンと、前記燃焼空間から離れたピストンスカートの間のジャケット表面には、ピストンリングパッキングが形成され、該ピストンリングパッキングは、摩擦(rubbing)方式で、前記シリンダのシリンダ壁と協働し、前記ピストンリングパッキングは、第1のピストンリング溝内に第1のピストンリングを有する部分リングパッキングを有し、前記第1ピストンリングは、前記ピストンクラウンと、第2のピストンリング溝内に配置された第2のピストンリングの間に提供される。前記部分リングパッキングには、前記第2のピストンリングに、前記燃焼空間の燃焼空間圧力の所定の部分または正確に定められた部分の制御された圧力を印加するため、圧力緩和手段が提供される。本発明では、前記ジャケット表面の、前記第1のピストンリングと前記第2のピストンリングの間には、凹部の形態の中間空間が提供される。
【0019】
まず、本発明によるピストンの使用により、ピストンリングの未制御の流体力学的移動、ブローバイによるモータパワーのロス、およびこれに関する未制御の有害堆積物の搬送の形態に関する、従来の問題に対処することが可能になると同時に、ピストンリングパッキングの領域での潤滑油の理想的な分配が可能となる。
【0020】
このため、本発明により、部分リングパッキングに圧力緩和バルブが提供される。部分リングパッキングは、特に好適な実施例では、第1のピストンリングを有し、これは、実際は、通常、上部リング、すなわち燃焼空間に最近接に配置されたピストンリングであり、第2のピストンリングと面する下側に、圧力緩和溝または圧力緩和ボアを有するように提供される。第1のピストンリングの下側の圧力緩和溝により、その下側に配置された第2のピストンリングは、燃焼空間圧力の所定の部分によって、制御された方法で作動する。第2のピストンリングには、適当な形状選定および圧力緩和溝の配置により、制御されたガス流、すなわち制御されたブローバイが生じ、第2のピストンリングでのガスの動的負荷が適切に上昇するためである。
【0021】
ピストンリングの圧力緩和ボアの形態、または第1のピストンリング溝での、もしくは第2のピストンリングと面する第1のピストンリング溝の側の圧力緩和通路の形態での圧力緩和ジョイントの形態の圧力緩和手段により、同様の効果が得られる。一部にまたは全体に、以下により詳しく説明する前述のものとは異なる圧力緩和手段が提供されても良いことは、明らかである。
【0022】
本発明において、形状および配置が最適化され、ピストンリングパッキングまたはピストンに整合する中間空間を、第1のピストンリング溝と第2のピストンリングの間のジャケット表面に、凹部の形態で提供することは重要である。接線方向、すなわち半径方向とは幾分異なる方向に形成されることが好ましい前述の圧力緩和手段と組み合わせることにより、正確に制御されたブローバイが可能となり、接線方向に配置された圧力緩和手段によって、好ましいガスの渦流が生じる。一方、ガス流に体積最適化された、第1および第2のピストンリングの間の凹部との組み合わせにより、第2のピストンリングは、燃焼空間圧力の一部によって作動し、従来のような第2のピストンリングの有害な未制御移動が実質的に抑制され、第2のピストンリングは、本発明によるピストンにより、流体力学的に理想的な動きを取り入れることができる。
【0023】
一方、体積最適化凹部と組み合わせされたガス流の渦流は、潤滑剤の周囲分布に関して良い効果を有し、すなわち潤滑剤分布は、シリンダの周方向に対して特に改善される。
【0024】
さらに、ピストンの下側に向かう燃焼空間の十分なシールが提供される。第2のピストンリングは、燃焼空間圧力の一部にのみ関与し、これは、実際に、制御された方法で、気密に構成される。これにより、未制御ブローバイによる初期の圧力損失は、完全に抑制され、燃焼空間で生じたエネルギーをより効率的に利用できるようになる。また、第2のピストンリングは、より材料節約方式で、およびより安価な方式で、薄く構成されるようになり、これは、それに比較的小さな分圧が印加される点で好ましい。
【0025】
これは、燃焼空間から、ピストンの下のシリンダ稼働表面に輸送する有害なほこり粒子が、実質的に完全に抑制され、従来の有害な堆積物、さらにはシリンダ潤滑油の対応する汚染物が大きく低減されるという良い効果を有し、その結果、「フレッティング(fretting)」または「擦れ」による損傷のリスクが実質的に抑制される。
【0026】
本発明では、燃料および潤滑剤の消費が顕著に抑制される上、ピストン、ピストンリング、およびシリンダ壁での汚染物誘起摩耗現象が有意に抑制される。汚染物誘起摩耗現象は、最終的に、排気ガス値の劣化につながり、ピストンリングパッキングのピストンリングの流体力学的に最適化されていない移動挙動により、早期摩耗につながる。本発明により、サービスインターバルが延伸し、部材のサービス寿命が長くなり、本発明によるピストンを有するエンジンは、従来に比べてより経済的に作動させることができ、改善された放出値により環境に優しい作動が可能となる。
【0027】
特定の実施例を参照して本発明について詳しく説明する前に、本発明によるピストンの機能の基本概念について詳しく説明する。
【0028】
本発明の流体力学的に最適化されたピストンリングパッキングの目的は、特に、ピストンリングとシリンダ稼働表面の分離を支援する、流体力学的圧力を発生させることである。これにより、シリンダ稼働表面とピストンリングの間の潤滑性が改善され、シリンダ稼働表面とピストンリングの間の接触回数が低減され、最終的に摩耗が抑制される。このため、シリンダ稼働表面と摩擦接触するピストンリングの接触表面は、例えば、適切に構造化または加工され、例えば、レーザもしくは他の適当な従来方法により整合される。また、この方法は、構造の適当な選定により、ピストンリングとシリンダ稼働表面の協働に良い影響を与え、流体力学的潤滑油膜の形成が助長される。
【0029】
シリンダ内で、ピストンが軸方向の動きの際に上死点に配置されると、その速度はゼロになり、あるいは上死点において正確にゼロになる。ピストンリングは、シリンダ稼働表面と強く接触し、混合摩擦の条件が現れる。燃焼空間において、直ぐに燃焼プロセスを開始させると、ピストンは、下死点の方向に向かって動き始める。また、本発明のピストンにより、追加で、従来に比べてより迅速に、安定な流体力学的潤滑膜を構築することができ、これにより熱発生および摩耗が有意に抑制される。当業者は、使用に応じて、ならびにエンジンが通常作動される作動条件、および圧力、温度、使用燃料等のような燃焼パラメータ応じて、圧力緩和溝の形状、形態、相互位置、配置、ならびに第1および第2のピストンリングの間の体積最適化凹部を選択することができる。
【0030】
好適実施例では、部分リングパッキング、特に、燃焼空間に最近接に配置された上部リングは、作動状態において、燃焼空間と面する第1のピストンリングの上側の領域に、燃焼空間圧力の第1の分圧が形成され、作動状態において、燃焼空間と面する第2のピストンリングの上側の領域に、燃焼空間圧力の第2の分圧が形成されるように構成される。この点に関し、第1の分圧は、特に、第2の分圧よりも大きいことが好ましく、燃焼空間圧力は、実質的に、第1の分圧と第2の分圧の合計であることが好ましく、ある実施例では、第1の分圧は、燃焼空間圧力の55%から95%の間であることが好ましく、特に約65%であることが好ましい。
【0031】
一方、第2のピストンリングにおいて理想的なガス動的負荷を得るため、および周方向において潤滑油の改善された分布を得るため、圧力緩和手段は、特に、圧力緩和溝であることが好ましく、圧力緩和溝は、第1のピストンリングの下側において、半径方向とは異なる方向に延在し、好ましくは特に前記ピストン軸に対して垂直に延在する。圧力緩和溝は、ピストンリングの全幅にわたって延在しても良い。
【0032】
この点に関し、圧力緩和バルブは、例えば、第1のピストンリング溝に、圧力緩和ジョイントの形態で提供されても良い。あるいは別の実施例では、圧力緩和手段は、第1のピストンリングに圧力緩和ボアの形態で、または第1のピストンリング溝内に、圧力緩和通路の形態で、提供されても良い。この点に関し、第1のピストンリングの圧力緩和ボア、第1のピストンリングの圧力緩和通路、または圧力緩和ジョイントは、特に、半径方向とは異なる方向に延在し、ピストン軸に対してほとんど傾斜しない、または僅かに傾斜した、垂直な方向に延在することが好ましい。
【0033】
この点に関し、本発明によるピストンは、2つのピストンリング以外のピストンリングを含んでも良く、これは、特に、追加のオイル分配リングについて詳しく説明された以下の説明から明らかとなる。
【0034】
本発明による制御されたブローバイ効果の最適化のため、第1のピストンリング、またはピストンリングパッキングに含まれる他のピストンリングは、ピストン軸に対して非対称な外側輪郭であって、シリンダ壁と協働する外側輪郭を有し、第1のピストンリングの幅は、凹部の方向に徐々に増加することが好ましい。
【0035】
既に述べたように、第2のピストンリングは、挿入状態および作動状態において、シリンダのシリンダ壁と気密方式で協働するように構成されることが有意であり、ピストンリングパッキングは、従来のピストンに比べて、ピストンの下側に向かって、燃焼空間全体をより良くシールする。
【0036】
特定の実施例では、ピストンのジャケット表面における凹部は、ピストンの周方向において、第1のピストンリングと第2のピストンリングの間に延在するリング空間、特にリング溝であり、これは、特にピストン軸の周囲に延在する螺旋溝である。
【0037】
この点に関し、別の特定の実施例では、凹部は、例えば、ピストンのジャケット表面に、領域(areal)くぼみとして形成され、複数の別個の領域くぼみが存在することが好ましい。本発明の凹部は、第1のピストンリングと第2のピストンリングの間に、他のいかなる適当な形態で構成されても良いことが理解される。
【0038】
特に、シリンダ稼働表面にわたる潤滑油の分布をよりいっそう改善するため、および汚染物を有する潤滑油をできる限り抑制し、これをできる限り低く維持するため、第1のピストンリングと第2のピストンリングの間には、オイル分配リングが配置されても良い。
【0039】
本発明のオイル分配リングには、潤滑油の保管チャンバを有する接続通路が提供されることが好ましく、該接続通路は、入口開口と出口開口を接続する。入口開口は、燃焼空間と面する上側にあり、燃焼空間圧力の所定の部分によって作動し、出口開口は、作動状態において、前記シリンダ壁と摩擦(rubbing)接触する外周表面に提供される。
【0040】
この点に関し、第2のピストンリングは、それ自身がオイル分配リングとして形成されても良い。
【0041】
この点に関し、本発明の最適化されたオイル分配リング、またはオイル分配リングの入口開口は、本発明により第1のピストンリングによって生じる制御されたブローバイを介して、制御された方式で、所定のガス圧力で作動する。これにより、接続通路または接続通路の貯蔵リザーバに収集された潤滑油は、外側開口を介して、オイル分配リングから、シリンダ稼働表面に戻される。外側開口は、ノズルの形態で、好ましくは半径方向の外側に構成されることが好ましい。オイル分配リングが掃気(scavenging)スリットを超える場合、接続通路および貯蔵リザーバは、掃気スリットを介して「ブローフリー(blown free)」となり、これにより、有害な残渣のいかなる収集も回避される。オイル分配リングの対応する構成では、従来のピストンリングパッキングに比べて、潤滑剤消費が抑制される。従来のピストンリングパッキングでは、潤滑油は、掃気スリットの領域において、常に既知のピストンで損失するためである。一方、適当な構成手段により、掃気スリットでの潤滑油の損失は、本発明によるオイル分配リングの使用により、更に抑制される。
【0042】
さらに、本発明は、本願において詳しく説明した本発明によるピストンに使用される、往復ピストン燃焼エンジンのピストン用のピストンリングに関する。本発明によるピストンリングは、本発明のピストンに配置され、ピストンリングパッキングを形成する。ピストンリングパッキングは、ピストンリングの下側に、所定の領域にわたって延在する圧力緩和溝を有し、この圧力緩和溝は、作動状態において、燃焼空間から離れたピストンリングの下側に提供される。
【0043】
また、本発明は、本発明による往復ピストン燃焼エンジンのピストン用のオイル分配リングに関し、当該オイル分配リングには、好ましくは潤滑油用の貯蔵リザーバを有する接続通路が提供され、この接続通路は、入口開口と出口開口を接続し、入口開口は、挿入状態において、燃焼空間と面する上側で、燃焼空間圧力の所定の部分で作動し、出口開口は、挿入状態および作動状態において、シリンダ壁と摩擦接触する外周表面に提供される。
【0044】
本願に記載の本発明によるピストンまたはピストンリングの実施例は、単なる一例であって、実施例の全ての適当な組み合わせが本発明に包含されることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明によるピストンの第1の実施例を示した図である。
【図2a】全幅に沿って延在する圧力緩和溝を有する第1のピストンリングを示した図である。
【図2b】湾曲圧力緩和溝を有する、図2aによる第2の実施例を示した図である。
【図2c】一部にのみ形成された圧力緩和溝を有する第1のピストンリングを示した図である。
【図2d】圧力緩和ボアを有する別の第1のピストンリングを示した図である。
【図2e】圧力緩和ジョイントを有する第1のピストンリングを示した図である。
【図2f】圧力緩和通路を有する別の第1のピストンリング溝を示した図である。
【図3a】周囲リング溝の形態の凹部を有する、本発明によるピストンの第2の実施例を示した図である。
【図3b】周囲螺旋溝の形態の凹部を有する、本発明によるピストンの第3の実施例を示した図である。
【図3c】分離領域くぼみの形態の凹部を有する、本発明によるピストンの第4の実施例を示した図である。
【図4】本発明によるオイル分配リングの好適実施例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、図面を参照して、本発明について詳しく説明する。図面は、概略的に示されている。
【0047】
図1には、シリンダ3のシリンダ稼働表面31とともに、本発明によるピストンの第1の実施例が概略的断面で示されている。これは、概して、参照符号1で表される。
【0048】
図1の本発明によるピストンは、大型2ストロークディーゼルエンジン2用のピストンである。これは、複数のシリンダ3を有し、このシリンダ3内で、ピストン1は、図1による挿入状態において燃焼空間VBを区画し、ピストン1のピストン軸Aに沿った軸方向において、シリンダ3内を、上死点と下死点の間で前後に可動に配置される。燃焼空間VBと面するピストンクラウン101と、燃焼空間VBから離れたピストンスカート102の間のピストン1のジャケット表面には、既知の方法で、ピストンリングパッキング4が形成される。これは、摩擦(rubbing)方法で、シリンダ3のシリンダ壁31と協働する。前記ピストンリングパッキングは、第1のピストンリング溝411に、第1のピストンリング41を有し、第1のピストンリング41は、ピストンクラウン101と、第2のピストンリング溝421に配置された第2のピストンリング42の間に提供される。燃焼空間VBの燃焼空間圧力Pの所定の部分の第2のピストンリング42に対する制御された圧力印加のため、第1のピストンリング41の下側4110に、圧力緩和溝4111が提供され、これは、図1の例では、ピストンリング41の全幅bを横断するように、第1のピストンリング41の下側4110で、所定の領域に延在する。本発明では、第1のピストンリング41と第2のピストンリング42の間のジャケット表面に、凹部5、51の形態の中間空間が提供され、これは、図1の例では、周囲リング空間51である。
【0049】
第1のピストンリング41は、作動状態において、燃焼空間VBと対向する第1のピストンリングの上側の領域に、燃焼空間圧力Pの第1の分圧P1が形成され、作動状態において、燃焼空間VBと面する第2のピストンリング42の上側に、燃焼空間圧力Pの第2の分圧P2が形成されるように構成される。図1の例では、燃焼空間圧力Pは、実質的に第1の分圧P1と第2の分圧P2の合計となり、第1の分圧P1は、燃焼空間圧力の約65%となる。第2のピストンリング42は、シリンダ3のシリンダ壁31と大型気密方式で協働するように構成される。
【0050】
容易に認識されるように、図1による第1のピストンリング41は、ピストン軸Aに対して非対称な外側輪郭を有し、シリンダ壁31と協働する。第1のピストンリング41の幅bは、凹部5、51の方向において、徐々に増加する。この形状により、制御された方法で、ブローバイ(blowby)を調節することが実質的に容易となる。すなわち、第1のピストンリング41に、制御されたガス流が流れるようになる。
【0051】
図1による別の実施例では、図4を参照して以降により詳しく示されるオイル分配リング43が、例えば、第1のピストンリング41と第2のピストンリング42の間に提供される。また、第2のピストンリング42は、それ自身がオイル分配リング43として構成されても良い。
【0052】
図2a乃至2cには、本発明による第1のピストンリング41の圧力緩和溝4111の3つの変更実施例の一例を示す。圧力緩和溝4111を通るガス流は、参照符号Fで示されている。
【0053】
図2a乃至2cの圧力緩和溝4111は、それぞれ、ピストンリング41の下側4110で、半径方向Rとは異なる方向に延在する;この例では、この方向は、ピストン軸Aに対して垂直である。これは、凹部5、51、52、53に向かって傾斜しておらず、あるいは凹部5、51、52、53から遠ざかっていない。明示されていない別の実施例では、圧力緩和溝4111は、ピストン軸Aに対して、凹部5、51、52、53に向かう方向、または離れる方向に配置されても良いことが理解される。
【0054】
図2aおよび2bの実施例では、圧力緩和溝4111は、何れの場合も、本発明によるピストンリング41の全幅bにわたって延在するが、図2cの例では、圧力緩和溝4111は、ピストンリング41の全幅bにわたっては形成されていない。
【0055】
図2bの発明によるピストンリングの圧力緩和溝4111は、ピストンリング41の周方向に向かって湾曲され、圧力緩和溝4111は、シリンダ稼働表面31とピストンリング41の間の中間空間に向かって、ほぼ接線方向に沿って開口され、すなわち、この方向は、半径方向Rに対してほぼ垂直である。これにより、ガス流Fのより良い分配または乱流が得られる。
【0056】
図2d乃至2fには、圧力緩和手段4000、4112、4113、4114の別の変更例を示す。これらは、圧力緩和溝4111に代えて、あるいは相互に全ての組み合わせで提供され、および/または本発明によるピストンに、圧力緩和溝4111とともに提供される。
【0057】
図2dには、第1のピストンリング41の一例を示す。これは、圧力緩和溝4111に替えて、またはこれに加えて、圧力緩和ボア4112を有し、これらの圧力緩和ボアは、半径方向から離れるような接線方向に配列される。圧力緩和ボア4112は、ピストン軸Aに対して、図示されない第2のピストンリング42に向かう方向に傾斜していることが好ましい。これにより、第2のピストンリング42の圧力印加が更に最適化される。
【0058】
図2eを参照して、本発明によるピストン1の別の実施例を示す。図において、第1のピストンリング溝4111には、圧力緩和ジョイント4113が設けられている。図2fを参照すると、圧力緩和溝4114を有する別の実施例が概略的に示されている。いずれの場合も、第1のピストンリング41は、明確化のため示されていない。圧力緩和ジョイント4113および圧力緩和通路4114の作動が、圧力緩和ジョイント4111および/または圧力緩和ボア4112の機能と同等であることは、当業者には容易に理解される。
【0059】
図3a乃至3cには、凹部5、51、52、53の異なる実施例を示す。本発明において、これらの凹部は、第1のピストンリング41と第2のピストンリング42の間に提供される。
【0060】
この点に関し、図3aには、本発明によるピストン1の第2の実施例を概略的に示す。図において、凹部5、51は、ピストン1の周囲に延在するリング溝51の形態で構成される。図3aによる別の実施例では、平行にまたは非平行に、複数の周囲リング溝が有意に提供されても良いことが理解される。
【0061】
図3bによる本発明によるピストン1の第3の実施例では、凹部は、ピストン軸Aに対して、螺旋形状で構成された周囲溝5、52の形態で構成される。溝5、52の螺旋またはスパイラル構造を用いて、第2の分圧P2による第2のピストンリング42の作動が追加で整合、設定される。
【0062】
図3cによる本発明によるピストン1の第4の実施例では、凹部5、53は、分離領域(areal)くぼみ53の形態で形成される。特別な場合、そのような実施例は、図3aまたは3bによる実施例と組み合わせて使用することができる。
【0063】
図4には、本発明のオイル分配リング43の好適実施例を示す。
【0064】
オイル分配リング43に接続通路431が提供され、これが、入口開口4311と出口開口4312を接続することは、容易に理解される。入口開口4311は、燃焼空間VBと面する上側で、燃焼空間圧力Pの所定の部分PAによって、作動する。出口開口4312は、外周表面に提供され、作動状態の明確化のため図4には示されていないシリンダ壁31と、摩擦(rubbing)接触する。
【0065】
この点に関し、ピストンリングパッキング4において、オイル分配リング43は、第1のピストンリング41に加えて、第2のピストンリング42に提供されても良い。別の実施例では、第2のピストンリング42は、オイル分配リング43として形成されても良い。同一のピストンリングパッキング4に、数回、オイル分配リングが提供され得ることは、明らかである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項1、14、15のプリアンブルに示した、ピストン、ピストンリング、および特に大型2ストロークジーゼルエンジンのような、往復ピストン燃焼エンジンのピストン用のオイル分配リングに関する。
【背景技術】
【0002】
これに限られるものではないが、例えば、大型ディーゼルモータ用の従来のピストンは、通常、複数のピストンリングのパッキングを備え、これらのピストンリングは、それぞれのピストンリング溝の相互の上に配置される。従来のピストンリングパッキングは、通常、少なくとも2つのピストンリングを有するが、エンジンの寸法および/またはパワー、あるいは要望およびエンジンが作動される特定の作動条件に応じて、3、4、または5つのピストンリングを有しても良い。この点に関し、ピストンリングパッキングのトレンドは、次第に、できる限りピストンリングを少なくする方向に向かっている。例えば、2つのピストンリングのみを有するピストンリングパッキングが有意に使用されている。極めて特定のケースでは、ピストンは、単一のピストンリングのみを有することも原理上可能である。
【0003】
シリンダ内でのピストンの誘導、分配、および/またはシリンダの稼働表面の潤滑剤の除去、ピストンの下側に向かう燃焼空間のシール等のような、異なる機能を満たすピストンリングは、作動状態では、相当の負荷(strain)に晒される。このため、ピストンリングは、直接、シリンダ稼働表面と摩擦接触し、燃焼圧力は、ピストンリングに集中するため、ピストンリングは、相当な熱的、機械的、および化学的負荷を受ける。
【0004】
この点に関し、ピストンリングパッキングは、しばしば誤って想定されるように、シリンダ内のピストンの中心に配置されない場合がある。これは、構成上の理由のため避けられない。ピストンリング自身は、半径方向に対して、常時、自動で中心状態に誘導される。非挿入状態では、これらの外径は、常に、シリンダの内径よりも大きくなるように選択されるためである。ピストンリングの直径は、弾性的に変化し、ピストンリングは、周方向において、所定の圧力下で、常に、シリンダ壁に向かうように誘導される。一方、ピストンリングが配置されたピストンにおいて、ピストンリングの内径は、ピストンリング溝の外径よりも大きい。従って、ピストンリングパッキングまたは個々のピストンリングは、ピストンまたはピストンリング溝に対して、「自由浮遊」の状態で配置される。これは、ピストンリングが永久的にピストンリング溝と摩擦接触しないため、必須である。そうでなければ、ピストンリングは、もはやシリンダ壁に誘導されなくなり、シリンダ壁および/またはピストンリング溝で不具合(seizure)が生じ、大きく擦れるほどの重大な損傷が起こる。
【0005】
例えば、長手方向に掃気(scavenged)される大型2ストロークディーゼルエンジンでは、ピストンリングパッキングを使用することは、広く実施されており、これは、ピストン下側に対して燃焼空間をシールするため、2乃至5つのピストンリングで構成される。これは、受容空間に向かって誘導され、掃気(scavenging)段階の開始時に、受容空間から、掃気(scavenging)スリットを介してシリンダの燃焼空間に新鮮な空気が流れる。下側ピストンリングは、ピストンとシリンダ壁の間の環状クリアランスに応じて、多少大きな応力を受ける。この点に関し、下側ピストンリング同士の間で、異なるタイプの不安定性が生じる。その結果、例えば、圧力変動が生じ、これにより、特に、同様のまたは同一の機能を有する多くのピストンリングが存在するため、ピストンの稼働が不安定となる。
【0006】
これに関して、大型ディーゼルエンジンは、しばしば、船舶用、または例えば電気エネルギー発生のための大型発電器の駆動用の静置作動の駆動ユニットとして使用される。この点に関し、通常、エンジンは、相当の時間にわたって恒久動作で稼働し、作動安全性および利用性に対して高い要望がある。特に、長期のサービスインターバル、低摩耗性、ならびに燃料および作動材料の経済的取扱に関しては、オペレータが機械を動作する際の主要な尺度となる。そのような大型ボア低稼働ディーゼルエンジンのピストン稼働挙動は、特に、サービスインターバルの長さ、利用性、および潤滑剤の消費を介したまたは直接的な作動コストさらには作動効率の決定因子となる。従って、エンジンのシリンダ潤滑剤の複雑な問題は、次第に重要になっており、特に大型ディーゼルエンジンでは、ピストンの前後の移動の際、潤滑装置によってシリンダに潤滑性が生じ、あるいはこれは、シリンダ壁に提供された潤滑油ノズルによって実現される。
【0007】
燃焼エンジンの作動の際に何度も生じる問題は、エンジンの最も変動する点に堆積される、燃焼残渣である。特に、大型2ストロークディーゼルエンジンは、しばしば、重油燃料で作動され、燃焼残渣は、大きな問題となる。使用燃料、すなわち重油燃料は、多くの物質を含み、固体状、液体状、および気体状の全ての種類の燃焼残渣が生じ得るからである。
【0008】
別の大きな点は、作動状態におけるピストンリングパッキングのピストンリングの動的挙動である。装置は、ピストンの下側に向かって、燃焼空間の十分なシールを構成する必要がある。
【0009】
ピストンリング、特に燃焼空間といかなる直接的な接続もなく、ピストンリングパッキングの上部リングによって、燃焼空間から分離された、歪みの少ない「下側」ピストンリングの動的挙動に関し、これらのピストンリングパッキングの「下側」ピストンリングは、比較的少量の動的ガス負荷のため、未制御の動きをする傾向にあることが見出されている。これは、ピストンリングの流体力学上の理想的な動きの形態に一致しない。
【0010】
特に、「上側」上部リング、すなわち燃焼空間に直接隣接するピストンリングパッキングのピストンリングの動きに影響する別の因子は、「ブローバイ」(blowby)効果として知られている。当業者は、ピストンリングは、絶対気密でシールせず、むしろガスの所定量が燃焼空間から流れるものとして、ブローバイ効果を把握する。通常、燃焼空間のガス量の質量比の6〜8%が、未制御状態で、ピストンの下側に向かう方向にピストンリングパッキングを通過する。これにより、含まれる熱エネルギーが実質的に損失する。
【0011】
従って、特に、上死点に近接する燃焼空間で生じた圧力エネルギーをできるだけ利用し、ガス流の形態でピストンを通過した一部の未使用のガスが、シリンダの下側および受容空間に流れなくなるようにする必要がある。また、不十分なシールでは、ピストンを通過して下方に流れるガス流により、未制御状態で、個々の粒子が燃焼残渣の堆積物から剥がれるというリスクが常にある。これらは、例えば、シリンダの下側のシリンダ稼働表面に堆積され、これらは、シリンダ潤滑油を汚染し、最悪の場合、擦れのような損傷が生じる。
【0012】
この点に関し、実際には、ピストンリング通路には、オイル分配リングが極めて良く使用され、これは、シリンダ稼働表面、特にシリンダ稼働表面の周方向に、潤滑油のより良好な分配を提供する。従来のオイル分配リングは、しばしばオイルスクラッパまたはオイル捕集タンクとも称され、これは、例えば、潤滑油に含まれる固体、液体、および気体状の有害な残渣を、潤滑油とともに回収する。その結果、しばしば、いわゆる「フレッティング(fretting)」または「擦れ」が生じ、これは、シリンダ稼働表面、ピストンリングおよびピストン自身の大きな損傷につながる。
【0013】
また、前述の好ましくない、また極めて有害な不具合を回避することが重要になってきている理由は、燃料および潤滑剤の消費の抑制とともに、より良い特性が要求されるようになってきたことにある。また、環境標準も徐々に厳しくなってきている。
【0014】
しかしながら、前述の悪影響は、燃料および潤滑剤のさらなる消費につながり、ピストン、ピストンリング、およびシリンダ壁での汚染物誘導摩耗現象につながる。これは、さらに、排気ガス値の低下、ならびにピストンリングパッキングのピストンリングの最適化されていない流体力学的挙動による早期摩耗につながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明の目的は、改善されたピストン、対応するピストンリング、およびオイル分配リングを提供することであり、これにより前述の従来の問題が回避される。特に、本発明の目的は、改善されたピストンリングを有する改善されたピストンを提供することであり、これにより、ピストンの下側に向かう、燃焼空間のより良いシールが可能となる。また、ピストンリングの流体力学的に最適化された稼働挙動が可能となり、すなわち、特に、「下側」ピストンリングの未制御の動きが抑制され、弱いガス動的負荷が得られる。また、潤滑油の分配が改善され、オイル分配リングに収集された汚染堆積物の濃度は、所定の段階まで上昇しなくなる。従って、往復ピストン燃焼エンジンの経済的な作動、影響を受ける部材およびエンジン全体の長期サービスインターバル、さらには長寿命化が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
これらの課題を満足する本発明の主題は、独立請求項1、14、15の特徴によって示されている。
【0017】
従属請求項は、本発明の特定の有意な実施例に関する。
【0018】
従って、本発明は、少なくとも一つのシリンダを有する往復ピストン燃焼エンジン、特に大型2ストロークディーゼルエンジン用のピストンに関し、当該ピストンは、前記シリンダ内で、挿入状態における燃焼空間を区画し、当該ピストンのピストン軸に沿った軸方向において、前記シリンダ内の上死点と下死点の間で、前後に可動に配置される。この点に関し、当該ピストンの前記燃焼空間に面するピストンクラウンと、前記燃焼空間から離れたピストンスカートの間のジャケット表面には、ピストンリングパッキングが形成され、該ピストンリングパッキングは、摩擦(rubbing)方式で、前記シリンダのシリンダ壁と協働し、前記ピストンリングパッキングは、第1のピストンリング溝内に第1のピストンリングを有する部分リングパッキングを有し、前記第1ピストンリングは、前記ピストンクラウンと、第2のピストンリング溝内に配置された第2のピストンリングの間に提供される。前記部分リングパッキングには、前記第2のピストンリングに、前記燃焼空間の燃焼空間圧力の所定の部分または正確に定められた部分の制御された圧力を印加するため、圧力緩和手段が提供される。本発明では、前記ジャケット表面の、前記第1のピストンリングと前記第2のピストンリングの間には、凹部の形態の中間空間が提供される。
【0019】
まず、本発明によるピストンの使用により、ピストンリングの未制御の流体力学的移動、ブローバイによるモータパワーのロス、およびこれに関する未制御の有害堆積物の搬送の形態に関する、従来の問題に対処することが可能になると同時に、ピストンリングパッキングの領域での潤滑油の理想的な分配が可能となる。
【0020】
このため、本発明により、部分リングパッキングに圧力緩和バルブが提供される。部分リングパッキングは、特に好適な実施例では、第1のピストンリングを有し、これは、実際は、通常、上部リング、すなわち燃焼空間に最近接に配置されたピストンリングであり、第2のピストンリングと面する下側に、圧力緩和溝または圧力緩和ボアを有するように提供される。第1のピストンリングの下側の圧力緩和溝により、その下側に配置された第2のピストンリングは、燃焼空間圧力の所定の部分によって、制御された方法で作動する。第2のピストンリングには、適当な形状選定および圧力緩和溝の配置により、制御されたガス流、すなわち制御されたブローバイが生じ、第2のピストンリングでのガスの動的負荷が適切に上昇するためである。
【0021】
ピストンリングの圧力緩和ボアの形態、または第1のピストンリング溝での、もしくは第2のピストンリングと面する第1のピストンリング溝の側の圧力緩和通路の形態での圧力緩和ジョイントの形態の圧力緩和手段により、同様の効果が得られる。一部にまたは全体に、以下により詳しく説明する前述のものとは異なる圧力緩和手段が提供されても良いことは、明らかである。
【0022】
本発明において、形状および配置が最適化され、ピストンリングパッキングまたはピストンに整合する中間空間を、第1のピストンリング溝と第2のピストンリングの間のジャケット表面に、凹部の形態で提供することは重要である。接線方向、すなわち半径方向とは幾分異なる方向に形成されることが好ましい前述の圧力緩和手段と組み合わせることにより、正確に制御されたブローバイが可能となり、接線方向に配置された圧力緩和手段によって、好ましいガスの渦流が生じる。一方、ガス流に体積最適化された、第1および第2のピストンリングの間の凹部との組み合わせにより、第2のピストンリングは、燃焼空間圧力の一部によって作動し、従来のような第2のピストンリングの有害な未制御移動が実質的に抑制され、第2のピストンリングは、本発明によるピストンにより、流体力学的に理想的な動きを取り入れることができる。
【0023】
一方、体積最適化凹部と組み合わせされたガス流の渦流は、潤滑剤の周囲分布に関して良い効果を有し、すなわち潤滑剤分布は、シリンダの周方向に対して特に改善される。
【0024】
さらに、ピストンの下側に向かう燃焼空間の十分なシールが提供される。第2のピストンリングは、燃焼空間圧力の一部にのみ関与し、これは、実際に、制御された方法で、気密に構成される。これにより、未制御ブローバイによる初期の圧力損失は、完全に抑制され、燃焼空間で生じたエネルギーをより効率的に利用できるようになる。また、第2のピストンリングは、より材料節約方式で、およびより安価な方式で、薄く構成されるようになり、これは、それに比較的小さな分圧が印加される点で好ましい。
【0025】
これは、燃焼空間から、ピストンの下のシリンダ稼働表面に輸送する有害なほこり粒子が、実質的に完全に抑制され、従来の有害な堆積物、さらにはシリンダ潤滑油の対応する汚染物が大きく低減されるという良い効果を有し、その結果、「フレッティング(fretting)」または「擦れ」による損傷のリスクが実質的に抑制される。
【0026】
本発明では、燃料および潤滑剤の消費が顕著に抑制される上、ピストン、ピストンリング、およびシリンダ壁での汚染物誘起摩耗現象が有意に抑制される。汚染物誘起摩耗現象は、最終的に、排気ガス値の劣化につながり、ピストンリングパッキングのピストンリングの流体力学的に最適化されていない移動挙動により、早期摩耗につながる。本発明により、サービスインターバルが延伸し、部材のサービス寿命が長くなり、本発明によるピストンを有するエンジンは、従来に比べてより経済的に作動させることができ、改善された放出値により環境に優しい作動が可能となる。
【0027】
特定の実施例を参照して本発明について詳しく説明する前に、本発明によるピストンの機能の基本概念について詳しく説明する。
【0028】
本発明の流体力学的に最適化されたピストンリングパッキングの目的は、特に、ピストンリングとシリンダ稼働表面の分離を支援する、流体力学的圧力を発生させることである。これにより、シリンダ稼働表面とピストンリングの間の潤滑性が改善され、シリンダ稼働表面とピストンリングの間の接触回数が低減され、最終的に摩耗が抑制される。このため、シリンダ稼働表面と摩擦接触するピストンリングの接触表面は、例えば、適切に構造化または加工され、例えば、レーザもしくは他の適当な従来方法により整合される。また、この方法は、構造の適当な選定により、ピストンリングとシリンダ稼働表面の協働に良い影響を与え、流体力学的潤滑油膜の形成が助長される。
【0029】
シリンダ内で、ピストンが軸方向の動きの際に上死点に配置されると、その速度はゼロになり、あるいは上死点において正確にゼロになる。ピストンリングは、シリンダ稼働表面と強く接触し、混合摩擦の条件が現れる。燃焼空間において、直ぐに燃焼プロセスを開始させると、ピストンは、下死点の方向に向かって動き始める。また、本発明のピストンにより、追加で、従来に比べてより迅速に、安定な流体力学的潤滑膜を構築することができ、これにより熱発生および摩耗が有意に抑制される。当業者は、使用に応じて、ならびにエンジンが通常作動される作動条件、および圧力、温度、使用燃料等のような燃焼パラメータ応じて、圧力緩和溝の形状、形態、相互位置、配置、ならびに第1および第2のピストンリングの間の体積最適化凹部を選択することができる。
【0030】
好適実施例では、部分リングパッキング、特に、燃焼空間に最近接に配置された上部リングは、作動状態において、燃焼空間と面する第1のピストンリングの上側の領域に、燃焼空間圧力の第1の分圧が形成され、作動状態において、燃焼空間と面する第2のピストンリングの上側の領域に、燃焼空間圧力の第2の分圧が形成されるように構成される。この点に関し、第1の分圧は、特に、第2の分圧よりも大きいことが好ましく、燃焼空間圧力は、実質的に、第1の分圧と第2の分圧の合計であることが好ましく、ある実施例では、第1の分圧は、燃焼空間圧力の55%から95%の間であることが好ましく、特に約65%であることが好ましい。
【0031】
一方、第2のピストンリングにおいて理想的なガス動的負荷を得るため、および周方向において潤滑油の改善された分布を得るため、圧力緩和手段は、特に、圧力緩和溝であることが好ましく、圧力緩和溝は、第1のピストンリングの下側において、半径方向とは異なる方向に延在し、好ましくは特に前記ピストン軸に対して垂直に延在する。圧力緩和溝は、ピストンリングの全幅にわたって延在しても良い。
【0032】
この点に関し、圧力緩和バルブは、例えば、第1のピストンリング溝に、圧力緩和ジョイントの形態で提供されても良い。あるいは別の実施例では、圧力緩和手段は、第1のピストンリングに圧力緩和ボアの形態で、または第1のピストンリング溝内に、圧力緩和通路の形態で、提供されても良い。この点に関し、第1のピストンリングの圧力緩和ボア、第1のピストンリングの圧力緩和通路、または圧力緩和ジョイントは、特に、半径方向とは異なる方向に延在し、ピストン軸に対してほとんど傾斜しない、または僅かに傾斜した、垂直な方向に延在することが好ましい。
【0033】
この点に関し、本発明によるピストンは、2つのピストンリング以外のピストンリングを含んでも良く、これは、特に、追加のオイル分配リングについて詳しく説明された以下の説明から明らかとなる。
【0034】
本発明による制御されたブローバイ効果の最適化のため、第1のピストンリング、またはピストンリングパッキングに含まれる他のピストンリングは、ピストン軸に対して非対称な外側輪郭であって、シリンダ壁と協働する外側輪郭を有し、第1のピストンリングの幅は、凹部の方向に徐々に増加することが好ましい。
【0035】
既に述べたように、第2のピストンリングは、挿入状態および作動状態において、シリンダのシリンダ壁と気密方式で協働するように構成されることが有意であり、ピストンリングパッキングは、従来のピストンに比べて、ピストンの下側に向かって、燃焼空間全体をより良くシールする。
【0036】
特定の実施例では、ピストンのジャケット表面における凹部は、ピストンの周方向において、第1のピストンリングと第2のピストンリングの間に延在するリング空間、特にリング溝であり、これは、特にピストン軸の周囲に延在する螺旋溝である。
【0037】
この点に関し、別の特定の実施例では、凹部は、例えば、ピストンのジャケット表面に、領域(areal)くぼみとして形成され、複数の別個の領域くぼみが存在することが好ましい。本発明の凹部は、第1のピストンリングと第2のピストンリングの間に、他のいかなる適当な形態で構成されても良いことが理解される。
【0038】
特に、シリンダ稼働表面にわたる潤滑油の分布をよりいっそう改善するため、および汚染物を有する潤滑油をできる限り抑制し、これをできる限り低く維持するため、第1のピストンリングと第2のピストンリングの間には、オイル分配リングが配置されても良い。
【0039】
本発明のオイル分配リングには、潤滑油の保管チャンバを有する接続通路が提供されることが好ましく、該接続通路は、入口開口と出口開口を接続する。入口開口は、燃焼空間と面する上側にあり、燃焼空間圧力の所定の部分によって作動し、出口開口は、作動状態において、前記シリンダ壁と摩擦(rubbing)接触する外周表面に提供される。
【0040】
この点に関し、第2のピストンリングは、それ自身がオイル分配リングとして形成されても良い。
【0041】
この点に関し、本発明の最適化されたオイル分配リング、またはオイル分配リングの入口開口は、本発明により第1のピストンリングによって生じる制御されたブローバイを介して、制御された方式で、所定のガス圧力で作動する。これにより、接続通路または接続通路の貯蔵リザーバに収集された潤滑油は、外側開口を介して、オイル分配リングから、シリンダ稼働表面に戻される。外側開口は、ノズルの形態で、好ましくは半径方向の外側に構成されることが好ましい。オイル分配リングが掃気(scavenging)スリットを超える場合、接続通路および貯蔵リザーバは、掃気スリットを介して「ブローフリー(blown free)」となり、これにより、有害な残渣のいかなる収集も回避される。オイル分配リングの対応する構成では、従来のピストンリングパッキングに比べて、潤滑剤消費が抑制される。従来のピストンリングパッキングでは、潤滑油は、掃気スリットの領域において、常に既知のピストンで損失するためである。一方、適当な構成手段により、掃気スリットでの潤滑油の損失は、本発明によるオイル分配リングの使用により、更に抑制される。
【0042】
さらに、本発明は、本願において詳しく説明した本発明によるピストンに使用される、往復ピストン燃焼エンジンのピストン用のピストンリングに関する。本発明によるピストンリングは、本発明のピストンに配置され、ピストンリングパッキングを形成する。ピストンリングパッキングは、ピストンリングの下側に、所定の領域にわたって延在する圧力緩和溝を有し、この圧力緩和溝は、作動状態において、燃焼空間から離れたピストンリングの下側に提供される。
【0043】
また、本発明は、本発明による往復ピストン燃焼エンジンのピストン用のオイル分配リングに関し、当該オイル分配リングには、好ましくは潤滑油用の貯蔵リザーバを有する接続通路が提供され、この接続通路は、入口開口と出口開口を接続し、入口開口は、挿入状態において、燃焼空間と面する上側で、燃焼空間圧力の所定の部分で作動し、出口開口は、挿入状態および作動状態において、シリンダ壁と摩擦接触する外周表面に提供される。
【0044】
本願に記載の本発明によるピストンまたはピストンリングの実施例は、単なる一例であって、実施例の全ての適当な組み合わせが本発明に包含されることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明によるピストンの第1の実施例を示した図である。
【図2a】全幅に沿って延在する圧力緩和溝を有する第1のピストンリングを示した図である。
【図2b】湾曲圧力緩和溝を有する、図2aによる第2の実施例を示した図である。
【図2c】一部にのみ形成された圧力緩和溝を有する第1のピストンリングを示した図である。
【図2d】圧力緩和ボアを有する別の第1のピストンリングを示した図である。
【図2e】圧力緩和ジョイントを有する第1のピストンリングを示した図である。
【図2f】圧力緩和通路を有する別の第1のピストンリング溝を示した図である。
【図3a】周囲リング溝の形態の凹部を有する、本発明によるピストンの第2の実施例を示した図である。
【図3b】周囲螺旋溝の形態の凹部を有する、本発明によるピストンの第3の実施例を示した図である。
【図3c】分離領域くぼみの形態の凹部を有する、本発明によるピストンの第4の実施例を示した図である。
【図4】本発明によるオイル分配リングの好適実施例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、図面を参照して、本発明について詳しく説明する。図面は、概略的に示されている。
【0047】
図1には、シリンダ3のシリンダ稼働表面31とともに、本発明によるピストンの第1の実施例が概略的断面で示されている。これは、概して、参照符号1で表される。
【0048】
図1の本発明によるピストンは、大型2ストロークディーゼルエンジン2用のピストンである。これは、複数のシリンダ3を有し、このシリンダ3内で、ピストン1は、図1による挿入状態において燃焼空間VBを区画し、ピストン1のピストン軸Aに沿った軸方向において、シリンダ3内を、上死点と下死点の間で前後に可動に配置される。燃焼空間VBと面するピストンクラウン101と、燃焼空間VBから離れたピストンスカート102の間のピストン1のジャケット表面には、既知の方法で、ピストンリングパッキング4が形成される。これは、摩擦(rubbing)方法で、シリンダ3のシリンダ壁31と協働する。前記ピストンリングパッキングは、第1のピストンリング溝411に、第1のピストンリング41を有し、第1のピストンリング41は、ピストンクラウン101と、第2のピストンリング溝421に配置された第2のピストンリング42の間に提供される。燃焼空間VBの燃焼空間圧力Pの所定の部分の第2のピストンリング42に対する制御された圧力印加のため、第1のピストンリング41の下側4110に、圧力緩和溝4111が提供され、これは、図1の例では、ピストンリング41の全幅bを横断するように、第1のピストンリング41の下側4110で、所定の領域に延在する。本発明では、第1のピストンリング41と第2のピストンリング42の間のジャケット表面に、凹部5、51の形態の中間空間が提供され、これは、図1の例では、周囲リング空間51である。
【0049】
第1のピストンリング41は、作動状態において、燃焼空間VBと対向する第1のピストンリングの上側の領域に、燃焼空間圧力Pの第1の分圧P1が形成され、作動状態において、燃焼空間VBと面する第2のピストンリング42の上側に、燃焼空間圧力Pの第2の分圧P2が形成されるように構成される。図1の例では、燃焼空間圧力Pは、実質的に第1の分圧P1と第2の分圧P2の合計となり、第1の分圧P1は、燃焼空間圧力の約65%となる。第2のピストンリング42は、シリンダ3のシリンダ壁31と大型気密方式で協働するように構成される。
【0050】
容易に認識されるように、図1による第1のピストンリング41は、ピストン軸Aに対して非対称な外側輪郭を有し、シリンダ壁31と協働する。第1のピストンリング41の幅bは、凹部5、51の方向において、徐々に増加する。この形状により、制御された方法で、ブローバイ(blowby)を調節することが実質的に容易となる。すなわち、第1のピストンリング41に、制御されたガス流が流れるようになる。
【0051】
図1による別の実施例では、図4を参照して以降により詳しく示されるオイル分配リング43が、例えば、第1のピストンリング41と第2のピストンリング42の間に提供される。また、第2のピストンリング42は、それ自身がオイル分配リング43として構成されても良い。
【0052】
図2a乃至2cには、本発明による第1のピストンリング41の圧力緩和溝4111の3つの変更実施例の一例を示す。圧力緩和溝4111を通るガス流は、参照符号Fで示されている。
【0053】
図2a乃至2cの圧力緩和溝4111は、それぞれ、ピストンリング41の下側4110で、半径方向Rとは異なる方向に延在する;この例では、この方向は、ピストン軸Aに対して垂直である。これは、凹部5、51、52、53に向かって傾斜しておらず、あるいは凹部5、51、52、53から遠ざかっていない。明示されていない別の実施例では、圧力緩和溝4111は、ピストン軸Aに対して、凹部5、51、52、53に向かう方向、または離れる方向に配置されても良いことが理解される。
【0054】
図2aおよび2bの実施例では、圧力緩和溝4111は、何れの場合も、本発明によるピストンリング41の全幅bにわたって延在するが、図2cの例では、圧力緩和溝4111は、ピストンリング41の全幅bにわたっては形成されていない。
【0055】
図2bの発明によるピストンリングの圧力緩和溝4111は、ピストンリング41の周方向に向かって湾曲され、圧力緩和溝4111は、シリンダ稼働表面31とピストンリング41の間の中間空間に向かって、ほぼ接線方向に沿って開口され、すなわち、この方向は、半径方向Rに対してほぼ垂直である。これにより、ガス流Fのより良い分配または乱流が得られる。
【0056】
図2d乃至2fには、圧力緩和手段4000、4112、4113、4114の別の変更例を示す。これらは、圧力緩和溝4111に代えて、あるいは相互に全ての組み合わせで提供され、および/または本発明によるピストンに、圧力緩和溝4111とともに提供される。
【0057】
図2dには、第1のピストンリング41の一例を示す。これは、圧力緩和溝4111に替えて、またはこれに加えて、圧力緩和ボア4112を有し、これらの圧力緩和ボアは、半径方向から離れるような接線方向に配列される。圧力緩和ボア4112は、ピストン軸Aに対して、図示されない第2のピストンリング42に向かう方向に傾斜していることが好ましい。これにより、第2のピストンリング42の圧力印加が更に最適化される。
【0058】
図2eを参照して、本発明によるピストン1の別の実施例を示す。図において、第1のピストンリング溝4111には、圧力緩和ジョイント4113が設けられている。図2fを参照すると、圧力緩和溝4114を有する別の実施例が概略的に示されている。いずれの場合も、第1のピストンリング41は、明確化のため示されていない。圧力緩和ジョイント4113および圧力緩和通路4114の作動が、圧力緩和ジョイント4111および/または圧力緩和ボア4112の機能と同等であることは、当業者には容易に理解される。
【0059】
図3a乃至3cには、凹部5、51、52、53の異なる実施例を示す。本発明において、これらの凹部は、第1のピストンリング41と第2のピストンリング42の間に提供される。
【0060】
この点に関し、図3aには、本発明によるピストン1の第2の実施例を概略的に示す。図において、凹部5、51は、ピストン1の周囲に延在するリング溝51の形態で構成される。図3aによる別の実施例では、平行にまたは非平行に、複数の周囲リング溝が有意に提供されても良いことが理解される。
【0061】
図3bによる本発明によるピストン1の第3の実施例では、凹部は、ピストン軸Aに対して、螺旋形状で構成された周囲溝5、52の形態で構成される。溝5、52の螺旋またはスパイラル構造を用いて、第2の分圧P2による第2のピストンリング42の作動が追加で整合、設定される。
【0062】
図3cによる本発明によるピストン1の第4の実施例では、凹部5、53は、分離領域(areal)くぼみ53の形態で形成される。特別な場合、そのような実施例は、図3aまたは3bによる実施例と組み合わせて使用することができる。
【0063】
図4には、本発明のオイル分配リング43の好適実施例を示す。
【0064】
オイル分配リング43に接続通路431が提供され、これが、入口開口4311と出口開口4312を接続することは、容易に理解される。入口開口4311は、燃焼空間VBと面する上側で、燃焼空間圧力Pの所定の部分PAによって、作動する。出口開口4312は、外周表面に提供され、作動状態の明確化のため図4には示されていないシリンダ壁31と、摩擦(rubbing)接触する。
【0065】
この点に関し、ピストンリングパッキング4において、オイル分配リング43は、第1のピストンリング41に加えて、第2のピストンリング42に提供されても良い。別の実施例では、第2のピストンリング42は、オイル分配リング43として形成されても良い。同一のピストンリングパッキング4に、数回、オイル分配リングが提供され得ることは、明らかである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのシリンダを有する往復ピストン燃焼エンジン、特に大型2ストロークディーゼルエンジン用のピストンであって、
当該ピストンは、前記シリンダ内で、挿入状態における燃焼空間を区画し、
当該ピストンのピストン軸に沿った軸方向において、前記シリンダ内の上死点と下死点の間で、前後に可動に配置され、
当該ピストンの前記燃焼空間に面するピストンクラウンと、前記燃焼空間から離れたピストンスカートの間のジャケット表面には、ピストンリングパッキングが形成され、
該ピストンリングパッキングは、摩擦方式で、前記シリンダのシリンダ壁と協働し、
前記ピストンリングパッキングは、第1のピストンリング溝内に第1のピストンリングを有する部分リングパッキングを有し、前記第1ピストンリングは、前記ピストンクラウンと、第2のピストンリング溝内に配置された第2のピストンリングの間に提供され、
前記部分リングパッキングには、前記第2のピストンリングに、前記燃焼空間の燃焼空間圧力の所定の部分の制御された圧力を印加するため、圧力緩和手段が提供され、
前記ジャケット表面において、前記第1のピストンリングと前記第2のピストンリングの間には、凹部の形態の中間空間が提供されることを特徴とするピストン。
【請求項2】
前記部分リングパッキングは、作動状態において、前記燃焼空間と面する前記第1のピストンリングの上側の領域に、前記燃焼空間圧力の第1の分圧が形成され、前記作動状態において、前記燃焼空間と面する前記第2のピストンリングの上側の領域に、前記燃焼空間圧力の第2の分圧が形成されるように構成されることを特徴とする請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記圧力緩和手段は、圧力緩和溝の形態で、前記第2のピストンリングと面する前記第1のピストンリングの下側に提供され、
前記圧力緩和溝は、前記第1のピストンリングの前記下側の所定の領域に延在し、
前記圧力緩和溝は、前記ピストンリングの前記下側において、特に前記ピストン軸に対して垂直に、半径方向とは異なる方向に延在し、および/または
前記圧力緩和溝は、前記ピストンリングの全幅にわたって延在することを特徴とする請求項1または2に記載のピストン。
【請求項4】
前記圧力緩和手段は、前記ピストンリングに、圧力緩和ボアの形態で提供されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項5】
前記圧力緩和手段は、前記第1のピストンリング溝に、圧力緩和ジョイント(joint)の形態で提供されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項6】
前記圧力緩和手段は、前記第1のピストンリング溝に、圧力緩和通路の形態で提供されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項7】
前記第1のピストンリングは、前記ピストン軸に対して非対称な外側輪郭であって、前記シリンダ壁と協働する外側輪郭を有し、
前記第1のピストンリングの幅は、前記凹部に向かって、徐々に増加することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項8】
前記第2のピストンリングは、挿入状態および作動状態において、前記シリンダの前記シリンダ壁と気密方式で協働するように構成されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項9】
前記第1の分圧は、前記第2の分圧よりも大きいことを特徴とする請求項2乃至8のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項10】
前記燃焼空間圧力は、実質的に、前記第1の分圧と前記第2の分圧の合計であり、および/または
前記第1の分圧は、前記燃焼空間圧力の55%から95%の間であることが好ましく、特に約65%であることを特徴とする請求項2乃至9のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項11】
前記凹部は、当該ピストンの周方向において、前記第1のピストンリングと前記第2のピストンリングの間に延在するリング空間、特にリング溝であり、特に、前記ピストン軸の周囲に延在する螺旋溝であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項12】
前記凹部は、当該ピストンのジャケット表面における領域(areal)くぼみであり、
好ましくは、複数の別個の領域くぼみが形成されることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項13】
前記第1のピストンリングと前記第2のピストンリングの間には、オイル分配リングが配置され、
前記オイル分配リングには接続通路が提供されることが好ましく、
該接続通路は、入口開口と出口開口を接続し、前記入口開口は、前記燃焼空間と面する上側で、前記燃焼空間圧力の所定の部分によって作動し、前記出口開口は、作動状態において、前記シリンダ壁と摩擦接触する外周表面に提供されることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一つに記載の往復ピストン燃焼エンジンのピストン用のピストンリング。
【請求項15】
請求項1乃至13のいずれか一つに記載の往復ピストン燃焼エンジンのピストン用のオイル分配リングであって、
当該オイル分配リングには、好ましくは潤滑油用の貯蔵リザーバを有する接続通路が提供され、
前記接続通路は、入口開口と出口開口を接続し、前記入口開口は、挿入状態において、燃焼空間と面する上側で、前記燃焼空間圧力の所定の部分で作動し、前記出口開口は、前記挿入状態および作動状態において、シリンダ壁と摩擦接触する外周表面に提供されることを特徴とするオイル分配リング。
【請求項1】
少なくとも一つのシリンダを有する往復ピストン燃焼エンジン、特に大型2ストロークディーゼルエンジン用のピストンであって、
当該ピストンは、前記シリンダ内で、挿入状態における燃焼空間を区画し、
当該ピストンのピストン軸に沿った軸方向において、前記シリンダ内の上死点と下死点の間で、前後に可動に配置され、
当該ピストンの前記燃焼空間に面するピストンクラウンと、前記燃焼空間から離れたピストンスカートの間のジャケット表面には、ピストンリングパッキングが形成され、
該ピストンリングパッキングは、摩擦方式で、前記シリンダのシリンダ壁と協働し、
前記ピストンリングパッキングは、第1のピストンリング溝内に第1のピストンリングを有する部分リングパッキングを有し、前記第1ピストンリングは、前記ピストンクラウンと、第2のピストンリング溝内に配置された第2のピストンリングの間に提供され、
前記部分リングパッキングには、前記第2のピストンリングに、前記燃焼空間の燃焼空間圧力の所定の部分の制御された圧力を印加するため、圧力緩和手段が提供され、
前記ジャケット表面において、前記第1のピストンリングと前記第2のピストンリングの間には、凹部の形態の中間空間が提供されることを特徴とするピストン。
【請求項2】
前記部分リングパッキングは、作動状態において、前記燃焼空間と面する前記第1のピストンリングの上側の領域に、前記燃焼空間圧力の第1の分圧が形成され、前記作動状態において、前記燃焼空間と面する前記第2のピストンリングの上側の領域に、前記燃焼空間圧力の第2の分圧が形成されるように構成されることを特徴とする請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記圧力緩和手段は、圧力緩和溝の形態で、前記第2のピストンリングと面する前記第1のピストンリングの下側に提供され、
前記圧力緩和溝は、前記第1のピストンリングの前記下側の所定の領域に延在し、
前記圧力緩和溝は、前記ピストンリングの前記下側において、特に前記ピストン軸に対して垂直に、半径方向とは異なる方向に延在し、および/または
前記圧力緩和溝は、前記ピストンリングの全幅にわたって延在することを特徴とする請求項1または2に記載のピストン。
【請求項4】
前記圧力緩和手段は、前記ピストンリングに、圧力緩和ボアの形態で提供されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項5】
前記圧力緩和手段は、前記第1のピストンリング溝に、圧力緩和ジョイント(joint)の形態で提供されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項6】
前記圧力緩和手段は、前記第1のピストンリング溝に、圧力緩和通路の形態で提供されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項7】
前記第1のピストンリングは、前記ピストン軸に対して非対称な外側輪郭であって、前記シリンダ壁と協働する外側輪郭を有し、
前記第1のピストンリングの幅は、前記凹部に向かって、徐々に増加することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項8】
前記第2のピストンリングは、挿入状態および作動状態において、前記シリンダの前記シリンダ壁と気密方式で協働するように構成されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項9】
前記第1の分圧は、前記第2の分圧よりも大きいことを特徴とする請求項2乃至8のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項10】
前記燃焼空間圧力は、実質的に、前記第1の分圧と前記第2の分圧の合計であり、および/または
前記第1の分圧は、前記燃焼空間圧力の55%から95%の間であることが好ましく、特に約65%であることを特徴とする請求項2乃至9のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項11】
前記凹部は、当該ピストンの周方向において、前記第1のピストンリングと前記第2のピストンリングの間に延在するリング空間、特にリング溝であり、特に、前記ピストン軸の周囲に延在する螺旋溝であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項12】
前記凹部は、当該ピストンのジャケット表面における領域(areal)くぼみであり、
好ましくは、複数の別個の領域くぼみが形成されることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項13】
前記第1のピストンリングと前記第2のピストンリングの間には、オイル分配リングが配置され、
前記オイル分配リングには接続通路が提供されることが好ましく、
該接続通路は、入口開口と出口開口を接続し、前記入口開口は、前記燃焼空間と面する上側で、前記燃焼空間圧力の所定の部分によって作動し、前記出口開口は、作動状態において、前記シリンダ壁と摩擦接触する外周表面に提供されることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一つに記載の往復ピストン燃焼エンジンのピストン用のピストンリング。
【請求項15】
請求項1乃至13のいずれか一つに記載の往復ピストン燃焼エンジンのピストン用のオイル分配リングであって、
当該オイル分配リングには、好ましくは潤滑油用の貯蔵リザーバを有する接続通路が提供され、
前記接続通路は、入口開口と出口開口を接続し、前記入口開口は、挿入状態において、燃焼空間と面する上側で、前記燃焼空間圧力の所定の部分で作動し、前記出口開口は、前記挿入状態および作動状態において、シリンダ壁と摩擦接触する外周表面に提供されることを特徴とするオイル分配リング。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図2e】
【図2f】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図4】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図2e】
【図2f】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図4】
【公開番号】特開2013−24420(P2013−24420A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−151359(P2012−151359)
【出願日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【出願人】(510210678)ヴェルツィラ シュヴェイツ アーゲー (18)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【出願人】(510210678)ヴェルツィラ シュヴェイツ アーゲー (18)
【Fターム(参考)】
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