説明

往復動圧縮機

【課題】合口加工を施した拡縮径可能なピストンリングを備える往復動圧縮機において、運転による発熱でピストンリング合口部に溶着が発生しないピストンリングを有する往復動圧縮機を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、ピストンリングが装着されたピストンがシリンダ内で往復動することにより、空気を圧縮する圧縮機本体と、前記圧縮機本体を駆動するモータとを備え、前記ピストンリングは、拡縮径可能な合口部を有し、PTFEを基材として、銅粉が充填され、充填された銅粉の粒径の分布は100μm以上のものが10%以下となることを特徴とする往復動空気圧縮機を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンリングを備えた往復動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の空気圧縮機用ピストンリングは、PTFEを基材とし潤滑材及び球状の炭素材を充填したことを特徴としている。
【0003】
また、特許文献2に記載の空気圧縮機用シール材は、旧モース硬度が6〜8でありかつ平均粒径が100μm以下の粉末状の硬質材料と、ポリテトラフルオロエチレン樹脂及び/または四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン樹脂とを含有する複合材料により構成され、硬質材料を、珪藻土、電気石、珪酸塩鉱物、金属酸化物から選択された1種または2種以上とし、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン樹脂を、その分子量を500万以上とし、かつ非熱可塑性としたことを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願平10−78045
【特許文献2】特願2004−135785
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記2つの特許文献に記載のリング材料は、耐摩耗性を向上させるものであるが、圧縮機の更なる小型、高圧化を図る場合、ピストンリング合口部の溶着が大きな課題となる。
【0006】
そこで本発明は上記課題に鑑み、合口加工を施した拡縮径可能なピストンリングを備える往復動圧縮機において、運転による発熱でピストンリング合口部に溶着が発生しないピストンリングを有する往復動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ピストンリングを有するピストンがシリンダ内で往復動することにより、空気を圧縮する圧縮機本体と、前記圧縮機本体を駆動するモータとを備え、前記ピストンリングは、拡縮径可能な合口部を有し、PTFEを基材として、銅粉が充填され、充填された銅粉の粒径の分布は100μm以上のものが10%以下となることを特徴とする往復動圧縮機を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、圧縮機の運転による発熱でピストンリングの合口部が溶着が発生しないピストンリングを有する往復動圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例1に係る圧縮機本体の側断面図である。
【図2】本発明の実施例1に係るピストンリングである。
【図3】本発明の実施例1に係るピストンリングの配合である。
【図4】本発明の実施例1に係る充填材のサイズと割合である。
【図5】本発明の実施例1に係る溶着確認の試験結果である。
【図6】本発明の実施例1に係るピストンリング合口部の拡大図である。
【図7】本発明の実施例2に係るピストンリングの配合である。
【図8】本発明の実施例2に係る充填材のサイズと割合である。
【図9】本発明の実施例2に係る溶着確認の試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施例に係る空気圧縮機本体及びピストンリング材料を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、本発明の実施例1に係る空気圧縮機において空気を圧縮する圧縮機本体の構造を、図1を参照しつつ以下に説明する。なお、本実施例では空気を圧縮する圧縮機で説明するが、その他の流体を圧縮する場合も同様な効果を奏することが可能である。
【0012】
1は空気を圧縮する圧縮機本体である。圧縮機本体1は、クランクケース1Aとクランクケース1Aに取り付けられたシリンダ18A、18Bを備えている。クランクケース1A内にはモータ6のシャフト(回転軸)6Aが貫通している。
【0013】
1Aは圧縮機本体1及びモータ6を覆うクランクケースである。クランクケース1Aの一端側にはステータ2が直接固定され、ベアリング3が装着されており、ステータ2の取り付け側と反対側には、ベアリング4が装着された軸受箱5が勘合される構造となっている。また、クランクケース1A内を貫通するシャフト6Aの中央部にはキー12を有する。また、空気をシールするためのピストンリング24が装着されたピストン14、空気をシールするためのリップリング26が装着されたピストン25が、ベアリング15と偏心したエキセントリック16を介してバランス17と共に挿入される。ピストン14、ピストン25、バランス17は、クランクケース1Aおよび軸受箱5に装着された2個のベアリング3、4によって両側から支持されている。なお、本実施例では、高圧側のシリンダ18A内で往復動するピストン14にのみピストンリング24を設けたが、低圧側のシリンダ18B内で往復動するピストン25にも同様にピストンリング24を設けてもよい。
【0014】
6は圧縮機本体1を駆動するモータである。モータ6はステータ2、ベアリング3、シャフト6A、キー7、ロータ8、ワッシャ9を有し、シャフト6Aの端部には冷却ファン10が設けられている。シャフト6Aの一端側にキー7を介してロータ8が装着されている。ロータ8はワッシャ9と冷却ファン10を取り付けるためのファンシャフト11によって、軸方向に固定されている。
【0015】
10はステータ2、シリンダ18A、18B、シリンダヘッド21A、21Bなど空気圧縮機の構成要素を冷却するための冷却ファンである。冷却ファン10はファンシャフト11によってシャフト6Aの端部に設けられ、モータ6によって駆動される。
【0016】
18Aは、クランクケースに取り付けられた高圧側のシリンダである。本実施例では高低圧側にシリンダ18A、18Bの2つを設け、一対のシリンダ18A、18Bがクランクケースを挟んで互いに対向するように取り付けた。シリンダ18Aは、フランジ19A、空気弁20A、通しボルト22Aを備える。シリンダヘッド21A、クランクケース1Aにはシリンダ18Aを取り付けるためのフランジ19Aが設けられており、シリンダ18A、空気弁20A、シリンダヘッド21Aが、通しボルト22Aによって前記フランジ19Aに固定され、圧縮室23Aを形成している。
【0017】
同様に18Bは、クランクケースに取り付けられた低圧側のシリンダである。シリンダ18Bは、フランジ19B、空気弁20B、通しボルト22Bを備える。シリンダヘッド21Bクランクケース1Aにはシリンダ18Bを取り付けるためのフランジ19Bが設けられており、シリンダ18B、空気弁20B、シリンダヘッド21Bが、通しボルト22Bによって前記フランジ19Bに固定され、圧縮室23Bを形成している。
【0018】
本実施例における圧縮機本体1の動作について図1、図2を用いて説明する。本実施例における圧縮機本体1は前記ロータ8の駆動によりシャフト6Aが回転すると、エキセントリック27によってリップリング26を有するピストン25が圧縮室23B内をリップリング26がシリンダ18Bと摺動しつつ往復運動する。リップリング26を有するピストン25が上死点から下死点へ向かう吸い込み工程ではクランクケース1A、シリンダ19Bを通じて圧縮室23B内へ空気を吸い込み、逆に上死点へ向かう吐き出し工程では吸い込んだ空気を0.7MPa程度まで圧縮しつつ、空気弁20B、シリンダヘッド21Bを通じて吐き出す構造であり、吐き出された圧縮空気は配管28を通して、高圧側のシリンダヘッド21Aへ送られる。低圧側と同様に、ロータ8の駆動によりシャフト6Aが回転し、エキセントリック16によってピストンリング24を有するピストン14が圧縮室23A内をピストンリング24がシリンダ18Aと摺動しつつ往復運動することで、低圧側のシリンダ18Aより送られた圧縮空気は、ピストンリング24を有するピストン14が上死点から下死点へ向かう吸込み工程でシリンダヘッド21A、空気弁20Aを通じて圧縮室23A内へ吸い込まれ、逆に上死点へ向かう吐き出し工程で高圧縮の一例として、4.2MPa程度まで再度圧縮される。そこで圧縮された空気は配管29を通し、空気タンク30に貯留される。このように本実施例の圧縮機本体1は二段階に分けて空気を圧縮する二段圧縮機である。二段圧縮機は、一段圧縮の場合よりも低圧側、高圧側の圧力比が各々小さくなるため、効率がよくなることで圧縮部に発生する熱を少なくすることができる。しかし、本圧縮機は無給油式圧縮機であり、潤滑油を用いないため、ピストンリング24にはPTFEを基材とし、二硫化モリブデン、銅粉、炭素などを充填した摺動性の高い、耐摩耗性に優れた部材が用いている。そのため、給油式に比べ圧縮部の温度が高くなる傾向がある。また、本圧縮機は4.0MPa以上の高圧空気を圧縮する高圧圧縮機ため、1.0MPa程度まで空気を圧縮する標準の圧縮機に比べ、圧縮により発生する圧縮熱が高くなり、圧縮部の温度が上昇する傾向にある。
【0019】
次に、本発明の実施例1に係るピストンリング24の溶着について図3、図4を参照しつつ以下に説明する。
【0020】
実施例1に使用されるピストンリングには、主に図3に示すリークカットピストンリング24Aや図4に示すステップカットピストンリング24Bが用いられる。このリークカットピストンリング24Aやステップカットピストンリング24Bは合口部31を有しており、その合口部31が自在に拡縮径することで、圧縮工程時にピストンリング24がシリンダ18Aの形状に合わせ変形することで、シリンダ18Aとピストンリング24のシールを行う。
【0021】
前述した通り、本圧縮機は無給油式圧縮機且つ高圧圧縮機のため、給油式圧縮機や1.0MPa程度の低圧圧縮機に比べ、圧縮部の温度が高くなる。更に現在、製品のニーズとして圧縮機の小型化、高圧化が進んでおり、それに伴い圧縮部の温度が上昇するという問題がある。圧縮部の温度が上昇すると、熱可塑性樹脂であるPTFEを基材にしたピストンリング24は軟化する。ピストンリングが軟化状態のまま、圧縮機の運転により生成される圧縮空気でピストンリング合口部25同士が押しつけられ常温まで冷やされると、ピストンリング合口部の溶着が発生する。これはピストンリングの主材料であるPTFEが熱可塑性樹脂であるため、リング軟化時に合口部同士が固着し、リング温度が低下するとPTFEが硬化するために起こる。尚、より高圧、例えば4.0MPa以上で合口部同士が押し付けられると合口部は更に溶着し易くなる。前述したように、リークカットピストンリング24Aやステップカットピストンリング24Bは合口部31を有しており、その合口部31が自在に拡縮径することで、ピストンリングはシリンダ18Bとシールするが、合口部が溶着すると、ピストンリングが拡縮径しないため(合口部同士が固着しリングの径が変わらないため)運転をしても圧縮機は昇圧しない。そのため、現在までは圧縮機本体1の冷却の高効率化などが進められてきたが、今後更なる高圧化、小型化を目指した場合に本問題に有効は手段の確立は不可欠である。そこで、冷却性の向上ではなく、以下に示す材料の改良により本問題を解決した。
【0022】
従来、無給油式往復動圧縮機では、摺動性や放熱性を良くするためピストンリング24には、例えば、グラファイト等を混合したPTFE(ポリ四弗化エチレン)が用いられる。PTFEに二硫化モリブデンや青銅粉を混合する場合もある。しかし、ステップカットピストンリング24Bやリークカットピストンリング24Aのような合口部を持つピストンリング24においては、前述した通りピストンリング24の合口部の溶着という問題がある。
【0023】
そこで、以下に上記問題を解決する本発明の具体的な実施の形態について説明する。まず、PTFEを基材とし、リングの強度を向上させるため球状の炭素を、圧縮機の運転によりピストンリングの熱を放熱させるため銅粉を、リングとシリンダの摺動性を向上させるため二硫化モリブデンをそれぞれ図5の比較例1、実施例1〜2の欄に示す種類、比率で混合したものを、圧縮成型、熱処理、切削加工しピストンリング(比較例1、実施例1〜2)を得た。尚、混合した銅粉の粒径分布を図6に示す。ここで、図6に示すとおり、比較例1、実施例1〜2の銅粉の粒径分布は、比較例1では、100μm以上のものが少なくとも15%以上あり、実施例1では、100μm以上のものが10%、実施例2では、100μm以上のものが0%である。
【0024】
そして、上記ピストンリングを図1に示す圧縮機に装着し、高温、高負荷(4.2MPa)で連続運転を行い、温度がサチレートした後、負荷をかけた状態で圧縮機を常温まで冷却する溶着再現試験を実施した。その結果を図7に示す。
【0025】
図7の結果から、比較例1では、溶着が発生し、実施例1、2では、溶着の発生を防ぐことができたことがわかる。即ち、PTFEに充填している銅粉の粒径の分布を100μm以上のものが10%以下となるような分布とすることで溶着の発生を防ぐことができることがわかる。これは、ステップカットピストンリング24Bやリークカットピストンリング24Aなどの縮径部をもつピストンリング24の切削加工時に銅粉が加工面より脱落し、図9に示す孔33の発生を防止できるからである。ピストンリング24の合口部は刃物にて加工されるが、加工面にピストンリング24に充填されていた銅粉32が存在すると、図8のように加工時に銅粉32が脱落する可能性がある。銅粉32が加工時に脱落すると、ピストンリング合口部31に図8、図9に示すような孔33が多数発生し、運転により生成される圧縮空気でピストンリングの合口部同士が押し付けられた際、従来よりもピストンリング合口部同士が接触する面積が少なくなるため、合口接触面の面圧が上昇し溶着が発生しやすくなる。
【0026】
そこで、充填している銅粉の粒径を細かくすることで、リング加工時に銅粉が脱落し難くすると共に、銅粉が脱落しても孔が小さいため、合口部の面圧上昇を防ぐことができる。
【0027】
このように、ピストンリングのPTFEに充填している銅粉の粒径の分布を100μm以上のものが10%以下となるような分布とすることでピストンリング合口部の溶着を防止できると以下のような効果がある。
(1)ピストンリング合口部に特殊なコーティング等の処理を施す必要がなく安価で生成可能である
(2)圧縮機の小型化、高圧化による温度上昇が発生しても高信頼性のピストンリングを提供可能である。
(3)ピストンリング合口部を別工程で研磨加工する必要がなく安価で生成可能である。
(4)ピストンリング合口部を摩耗させるための慣らし運転を必要とせず、生産性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 圧縮機本体
1A クランクケース
6 モータ
6A シャフト
10 冷却ファン
18 シリンダ
21 シリンダヘッド
24 ピストンリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンリングを有するピストンがシリンダ内で往復動することにより、空気を圧縮する圧縮機本体と、
前記圧縮機本体を駆動するモータとを備え、
前記ピストンリングは、拡縮径可能な合口部を有し、PTFEを基材として、銅粉が充填され、充填された銅粉の粒径の分布は100μm以上のものが10%以下となることを特徴とする往復動圧縮機。
【請求項2】
前記圧縮機本体は、圧縮時に潤滑油を用いない無給油式であることを特徴とする請求項1に記載の往復動圧縮機。
【請求項3】
前記圧縮機本体は4.0MPa以上の圧力に昇圧させることを特徴とする請求項1に記載の往復動圧縮機。
【請求項4】
前記圧縮機本体は、低圧側のシリンダとピストンとで圧縮された空気をさらに高圧側のシリンダとピストンとで圧縮する二段圧縮を行うことを特徴とする請求項1に記載の往復動圧縮機。
【請求項5】
前記低圧側のピストンにリップリングを装着し、前記高圧側のピストンに前記ピストンリングを装着することを特徴とする請求項4に記載の往復動圧縮機。
【請求項6】
前記ピストンリングは、二硫化モリブデン、銅粉、炭素が充填されることを特徴とする請求項1に記載の往復動圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−44272(P2013−44272A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182100(P2011−182100)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】