説明

後輪転舵軸の規制機構

【課題】簡易な構成で後輪転舵軸の回転および並進を規制することが可能な後輪転舵軸の規制機構を提供する。
【解決手段】後輪転舵装置40は、後輪転舵軸50に対して移動可能な規制部材71と、規制部材71を後輪転舵軸50に向けて移動させるソレノイド74とを有する。後輪転舵軸50は、軸方向に延びる回転規制溝72を外面上に有する。回転規制溝72の底面72Bは、規制部材71の先端部分71Bの形状に対応するロック穴73を有する。ロック穴73は、底面72Bにおいて後輪転舵軸50の中立並進位置に対応する箇所に位置する。規制部材71は、後輪転舵軸50に対する位置として、先端部分71Bが回転規制溝72の各側面72Aに対向し、かつ先端部分71Bがロック穴73の外に位置する転舵位置、および先端部分71Bがロック穴73に嵌め込まれる固定位置を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後輪転舵軸の動作を規制する後輪転舵軸の規制機構に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の操舵装置は、螺旋状の溝を有する後輪転舵軸と、後輪転舵軸の溝に噛み合わされるナットと、ナットを回転させる電動モーターと、後輪転舵軸の端部をタイロッドに接続するユニバーサルジョイントとを有する。
【0003】
上記操舵装置の制御装置は、ステアリングホイールが操作されたとき、操作方向および操作量に応じて後輪を回転させるための電流を電動モーターに供給する。電動モーターは、制御装置からの電流の供給を受けてナットを回転させる。後輪転舵軸は、ナットの回転にともない軸方向に並進することにより、ユニバーサルジョイントを介してタイロッドを並進させる。そして、後輪の転舵角がタイロッドの並進に応じて変化する。
【0004】
一方、後輪転舵軸は、ユニバーサルジョイントを介してタイロッドに接続されているため、電動モーターからナットにトルクが入力されるとき、同ジョイントの遊びに応じてナットとともに軸まわりに回転することがある。この場合、ナットの回転に対して後輪転舵軸が並進しないため、ナットの回転量と後輪転舵軸の軸方向の位置との関係にずれが生じる。
【0005】
このため、上記操舵装置は、後輪転舵軸の軸まわりの回転を規制する機構として、ハウジングに形成されたスプラインと、後輪転舵軸に形成された摺動部とを有する。スプラインおよび摺動部は、互いに噛み合わされることにより後輪転舵軸の軸まわりの回転を規制している。
【0006】
他方、操舵装置としては、後輪転舵軸の並進を規制することにより後輪の転舵角を固定する機構を備えるものも知られている。特許文献2は、同機構を備える操舵装置の一例を開示している。
【0007】
特許文献2に記載の操舵装置は、後輪転舵軸、ナット、および油圧アクチュエーターの他に、後輪を中立転舵角で固定する固定機構を有する。固定機構は、後輪転舵軸に形成された穴と、この穴に対応した形状を有するロックピンと、ロックピンを後輪転舵軸に対して移動させる固定アクチュエーターとを有する。
【0008】
この操舵装置の制御装置は、後輪の転舵角を中立転舵角に保持する要求があるとき、固定アクチュエーターの制御によりロックピンを後輪転舵軸に押し付ける。そして、後輪のセルフアライニングトルクの作用にともなう後輪転舵軸の移動により、穴の位置がロックピンの位置に一致するとき、ロックピンが穴に嵌め込まれる。後輪転舵軸は、穴にロックピンが嵌め込まれることにより中立並進位置において並進が規制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−67987号公報
【特許文献2】特開平5−58329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のとおり、特許文献1の操舵装置は、後輪転舵軸の軸まわりの回転を規制する機構を有する。また特許文献2の操舵装置は、後輪転舵軸の並進を規制する機構を有する。そして、操舵装置の実用性を高める観点からすると、特許文献1の上記機構に準じた機能を有する機構と、特許文献2の上記機構に準じた機能を有する機構とを併せて備えることが望ましい。しかし、2つの機構を操舵装置に備えた場合、装置の構成が複雑化するおそれがある。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するため、簡易な構成で後輪転舵軸の回転および並進を規制することが可能な後輪転舵軸の規制機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)第1の手段は、請求項1に記載の発明すなわち、後輪転舵軸の動作を規制する後輪転舵軸の規制機構において、前記後輪転舵軸に対して移動可能な規制部材と、この規制部材を前記後輪転舵軸に向けて移動させるアクチュエーターとを有し、前記後輪転舵軸は、前記後輪転舵軸の軸方向に延びる一対の対向する対向面と、前記規制部材の一部分である挿入部分が嵌め込まれる規制穴とを有し、前記規制穴は、前記後輪転舵軸上において前記後輪転舵軸の中立並進位置に対応する箇所に位置し、前記規制部材は、前記一対の対向面の少なくとも一方に接触可能な規制面を有し、前記後輪転舵軸に対する前記規制部材の位置は、前記規制面が前記一対の対向面に対向し、かつ前記挿入部分が前記規制穴の外に位置する規制位置A1と、前記挿入部分が前記規制穴に嵌め込まれる規制位置A2とを含むことを要旨とする。
【0013】
規制部材の規制面は、規制部材が後輪転舵軸に対して規制位置A1に位置するとき、後輪転舵軸の一対の対向面と対向する。規制面および各対向面の関係は、規制面が各対向面の少なくとも一方に対して所定の隙間を介して対向する第1の対向関係、および規制面が各対向面に接触して対向する第2の対向関係を含む。第1の対向関係においては、後輪転舵軸にトルクが入力されたとき、一方の対向面または他方の対向面が規制面に接触するまで後輪転舵軸が回転し、一方の対向面または他方の対向面が規制面に接触したとき、後輪転舵軸の回転が規制される。また第2の対向関係においては、後輪転舵軸にトルクが入力されたとき、規制面と各対向面との接触により後輪転舵軸の回転が規制される。
【0014】
他方、規制部材の挿入部分は、規制部材が後輪転舵軸に対して規制位置A2に位置するとき、規制穴に嵌め込まれる。このため、後輪転舵軸を並進させる力が同転舵軸に入力されたとき、挿入部分と規制穴の壁面との接触により後輪転舵軸の並進が規制される。
【0015】
このように規制部材は、後輪転舵軸の並進を許容するとともに回転を規制する機能と、後輪転舵軸の並進を規制する機能とを有する。このため、後輪転舵軸の回転を規制する機構と、後輪転舵軸の並進を規制する機構とを個別に備える構成と比較して、簡易な構成で後輪転舵軸の回転および並進を規制することが可能になる。
【0016】
(2)第2の手段は、請求項2に記載の発明すなわち、請求項1に記載の後輪転舵軸の規制機構において、前記後輪転舵軸は、前記後輪転舵軸の軸方向に延びる規制溝を有し、前記規制溝は、空間を介して対向する一対の側面と、この一対の側面と連続する底面とを有し、前記一対の側面は、前記一対の対向面を形成し、前記規制穴は、前記底面上において前記後輪転舵軸の中立並進位置に対応する箇所に位置することを要旨とする。
【0017】
規制部材の規制面は、規制部材が後輪転舵軸に対して規制位置A1に位置するとき、規制溝の各側面と対向する。規制面および規制溝の各側面の対向関係は、規制面が規制溝の各側面の少なくとも一方に対して所定の隙間を介して対向する第1の対向関係、および規制面が各側面に接触して対向する第2の対向関係を含む。第1の対向関係においては、後輪転舵軸にトルクが入力されたとき、一方の側面または他方の側面が規制面に接触するまで後輪転舵軸が回転し、一方の側面または他方の側面が規制面に接触したとき、後輪転舵軸の回転が規制される。また第2の対向関係においては、後輪転舵軸にトルクが入力されたとき、規制面と各側面との接触により後輪転舵軸の回転が規制される。
【0018】
(3)第3の手段は、請求項3に記載の発明すなわち、請求項2に記載の後輪転舵軸の規制機構において、前記規制部材は、前記挿入部分を有する移動部材と、この移動部材に取り付けられた軸受とを有し、前記軸受の外面は、前記規制面を形成し、前記後輪転舵軸および前記規制部材は、前記規制部材が前記規制位置A1に位置するとき、前記規制面としての前記軸受の外面が前記一対の対向面に対向する関係を有し、前記規制部材が前記規制位置A2に位置するとき、前記移動部材の挿入部分が前記規制穴に嵌め込まれる関係を有することを要旨とする。
【0019】
規制面としての軸受の外面は、規制部材が後輪転舵軸に対して規制位置A1に位置するとき、規制溝の各側面と対向する。このため、規制部材が軸受を有していない構成と比較して、各側面の少なくとも一方が規制面に接触した状態で後輪転舵軸が規制部材に対して並進するとき、後輪転舵軸の並進に対する摩擦抵抗が小さくなる。
【0020】
(4)第4の手段は、請求項4に記載の発明すなわち、請求項2または3に記載の後輪転舵軸の規制機構において、前記後輪転舵軸および前記規制部材は、前記規制部材が前記規制位置A1に位置するとき、前記挿入部分の端面と前記底面との間に隙間を有することを要旨とする。
【0021】
後輪転舵軸は、規制部材に対して並進する力が入力されたとき、挿入部分の端面と規制溝の底面との間に隙間が形成された状態で並進する。このため、挿入部分の端面が規制溝の底面と接触した状態で後輪転舵軸が並進する構成と比較して、後輪転舵軸の並進に対する摩擦抵抗が小さくなる。
【0022】
(5)第5の手段は、請求項5に記載の発明すなわち、後輪転舵軸の動作を規制する後輪転舵軸の規制機構において、前記後輪転舵軸に対して移動可能な規制部材と、この規制部材を前記後輪転舵軸に向けて移動させるアクチュエーターとを有し、前記後輪転舵軸は、前記後輪転舵軸の軸方向に延びる接触面と、前記規制部材の一部分である挿入部分が嵌め込まれる規制穴とを有し、前記規制穴は、前記接触面上において前記後輪転舵軸の中立並進位置に対応する箇所に位置し、前記規制部材は、前記接触面に接触可能な規制面を有し、前記後輪転舵軸に対する前記規制部材の位置は、前記規制面が前記接触面に対向し、かつ前記挿入部分が前記規制穴の外に位置する規制位置B1と、前記挿入部分が前記規制穴に嵌め込まれる規制位置B2とを含むことを要旨とする。
【0023】
規制部材の規制面は、規制部材が後輪転舵軸に対して規制位置B1に位置するとき、後輪転舵軸の接触面と対向する。規制面および接触面の関係は、規制面が接触面に対して所定の隙間を介して対向する第3の対向関係、および規制面が接触面に接触して対向する第4の対向関係を含む。第3の対向関係においては、後輪転舵軸にトルクが入力されたとき、接触面が規制面に接触するまで後輪転舵軸が回転し、接触面が規制面に接触したとき、後輪転舵軸の回転が規制される。また第4の対向関係においては、後輪転舵軸にトルクが入力されたとき、規制面と接触面との接触により後輪転舵軸の回転が規制される。
【0024】
他方、規制部材の挿入部分は、規制部材が後輪転舵軸に対して規制位置B2に位置するとき、規制穴に嵌め込まれる。このため、後輪転舵軸を並進させる力が同転舵軸に入力されたとき、挿入部分と規制穴の壁面との接触により後輪転舵軸の並進が規制される。
【0025】
このように規制部材は、後輪転舵軸の並進を許容するとともに回転を規制する機能と、後輪転舵軸の並進を規制する機能とを有する。このため、後輪転舵軸の回転を規制する機構と、後輪転舵軸の並進を規制する機構とを個別に備える構成と比較して、簡易な構成で後輪転舵軸の回転および並進を規制することが可能になる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、簡易な構成で後輪転舵軸の回転および並進を規制することが可能な後輪転舵軸の規制機構を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態における後輪転舵軸の規制機構を含む車両について、その全体構造を示す構成図。
【図2】同実施形態の後輪転舵装置について、後輪転舵軸の中心線に沿う断面構造を示す断面図。
【図3】同実施形態の後輪転舵装置について、(a)は後輪転舵軸が中立回転位置および中立並進位置に位置し、かつロック軸が非接触転舵位置に位置するときの断面構造を示す断面図、(b)は後輪転舵軸が最右並進位置および正転規制位置に位置するときの断面構造を示す断面図、(c)は後輪転舵軸が最左並進位置および逆転規制位置に位置するときの断面構造を示す断面図、(d)は後輪転舵軸が最左並進位置に位置し、かつロック軸が接触転舵位置に位置するときの断面構造を示す断面図。
【図4】同実施形態の後輪転舵装置について、(a)はロック軸が非接触転舵位置に位置し、後輪転舵軸が中立並進位置および中立回転位置に位置するときの断面構造を示す断面図、(b)はロック軸が非接触転舵位置に位置し、かつ後輪転舵軸が正転規制位置に位置するときの断面構造を示す断面図、(c)はロック軸が非接触転舵位置に位置し、かつ後輪転舵軸が逆転規制位置に位置するときの断面構造を示す断面図、(d)は後輪転舵軸が最左並進位置に位置し、かつロック軸が接触転舵位置に位置するときの断面構造を示す断面図。
【図5】同実施形態の後輪転舵装置について、(a)はロック軸が非接触転舵位置に位置し、かつ後輪転舵軸が逆転規制位置および最左並進位置に位置するときの断面構造を示す断面図、(b)はロック軸が接触転舵位置に位置し、かつ後輪転舵軸が最左並進位置に位置するときの断面構造を示す断面図、(c)はロック軸が後輪転舵軸に対して固定位置に位置するときの断面構造を示す断面図。
【図6】同実施形態の後輪転舵装置について、(a)は後輪転舵軸が逆転規制位置に位置し、かつロック軸が非接触転舵位置に位置するときの断面構造を示す断面図、(b)は後輪転舵軸が中立回転位置に位置し、かつロック軸が接触転舵位置に位置するときの断面構造を示す断面図、(c)はロック軸が後輪転舵軸に対して固定位置に位置するときの断面構造を示す断面図。
【図7】本発明の第2実施形態の後輪転舵装置について、(a)は後輪転舵軸およびロック軸の断面構造を示す断面図、(b)は同(a)の後輪転舵軸の一部の平面構造を示す平面図。
【図8】同実施形態の後輪転舵装置について、(a)は後輪転舵軸が中立回転位置および中立並進位置に位置するときの断面構造を示す断面図、(b)は後輪転舵軸が最右並進位置および正転規制位置に位置するときの断面構造を示す断面図、(c)は後輪転舵軸が最左並進位置および逆転規制位置に位置するときの断面構造を示す断面図、(d)は後輪転舵軸が最左並進位置に位置し、かつロック軸が接触転舵位置に位置するときの断面構造を示す断面図。
【図9】同実施形態の後輪転舵装置について、(a)はロック軸が非接触転舵位置に位置し、かつ後輪転舵軸が中立回転位置に位置するときの断面構造を示す断面図、(b)はロック軸が非接触転舵位置に位置し、かつ後輪転舵軸が正転規制位置に位置するときの断面構造を示す断面図、(c)はロック軸が非接触転舵位置に位置し、かつ後輪転舵軸が逆転規制位置に位置するときの断面構造を示す断面図、(d)は後輪転舵軸が最左並進位置に位置し、かつロック軸が接触転舵位置に位置するときの断面構造を示す断面図。
【図10】同実施形態の後輪転舵装置について、(a)はロック軸が非接触転舵位置に位置し、かつ後輪転舵軸が正転規制位置および最左並進位置に位置するときの断面構造を示す断面図、(b)はロック軸が接触転舵位置に位置し、後輪転舵軸が中立回転位置および最左並進位置に位置するときの断面構造を示す断面図、(c)はロック軸が後輪転舵軸に対して固定位置に位置するときの断面構造を示す断面図。
【図11】同実施形態の後輪転舵装置について、(a)は後輪転舵軸が正転規制位置に位置し、かつロック軸が非接触転舵位置に位置するときの断面構造を示す断面図、(b)は後輪転舵軸が中立回転位置に位置し、かつロック軸が接触転舵位置に位置するときの断面構造を示す断面図、(c)はロック軸が後輪転舵軸に対して固定位置に位置するときの断面構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1実施形態)
図1を参照して、車両1の全体構成について説明する。
車両1は、4つの駆動輪すなわち、右前輪11、左前輪12、右後輪13、および左後輪14と、4つの駆動輪11〜14の転舵角を変更する操舵装置20とを有する。
【0029】
操舵装置20は、ステアリングシャフト31にトルクを伝達するステアリングホイール21と、右前輪11および左前輪12の転舵角を変更する前輪転舵装置30と、右後輪13および左後輪14の転舵角を変更する後輪転舵装置40とを有する。またこの他に、操舵角、操舵トルク、および走行速度に応じて前輪転舵装置30および後輪転舵装置40を制御する制御装置25と、ステアリングシャフト31の操舵角を検出する操舵角センサ22と、ステアリングシャフト31に入力される操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ23と、車両1の走行速度を検出する車速センサ24とを有する。
【0030】
前輪転舵装置30は、ステアリングシャフト31の他に、ステアリングシャフト31にトルクを付与するアシストモーター32と、アシストモーター32の回転をステアリングシャフト31に伝達する減速機構33とを有する。またこの他に、ステアリングシャフト31に連結されたラックアンドピニオン機構34と、右前輪11および左前輪12を回転可能な状態で支持するラック軸35とを有する。
【0031】
図2を参照して、後輪転舵装置40の詳細な構成について説明する。
ここで、後輪転舵装置40に関する方向および位置を以下のとおり定義する。
(A)後輪転舵軸50の中心軸に沿う方向を「転舵軸方向X」とする。
(B)後輪転舵装置40の背面視(車両1の後方からの正面視)かつ転舵軸方向Xにおいて、左側から右側に向かう方向を「右方向R」とし、右側から左側に向かう方向を「左方向L」とする。
(C)ハウジング41または規制機構70のロック軸71Aに対する後輪転舵軸50の転舵軸方向Xの位置を「並進位置」とする。
(D)右後輪13および左後輪14の転舵角が「0°」のとき、すなわち右後輪13および左後輪14の転舵角が中立転舵角のときにおける後輪転舵軸50の並進位置を「中立並進位置」とする。
(E)ハウジング41または規制機構70のロック軸71Aに対する後輪転舵軸50の回転方向の位置を「回転位置」とする。
(F)規制機構70のロック軸71Aの中心軸に沿う方向を「ロック軸方向Z」とする。
(G)ロック軸方向Zにおいて、ロック軸71Aが後輪転舵軸50に近づく方向を「接近方向D」とし、後輪転舵軸50から離れる方向を「離間方向U」とする。
【0032】
後輪転舵装置40は、後輪転舵軸50の一部を収容するハウジング41と、ハウジング41の各開口部分において後輪転舵軸50を支持する一対の軸受42と、ボールナット61の回転角(以下、「ナット回転角」)を検出する回転角センサ43とを有する。またこの他に、後輪転舵軸50を転舵軸方向Xに駆動する転舵駆動機構60と、後輪転舵軸50の回転および並進を規制する規制機構70とを有する。
【0033】
ハウジング41は、規制機構70のロック軸71Aを内部の空間に挿入するための挿入孔41Aを有する。回転角センサ43は、ハウジング41の内面においてローター62Aと対向する位置に固定されている。
【0034】
転舵駆動機構60は、後輪転舵軸50に噛み合わされるボールナット61と、ボールナット61を回転させる転舵モーター62と、転舵モーター62のローター62Aを回転可能な状態で支持するローター軸受63とを有する。
【0035】
転舵モーター62は、ボールナット61と一体的に回転するローター62Aと、ローター62Aを回転させるステーター62Bとを有する。ローター62Aは、ボールナット61の外周面上に固定された複数の永久磁石(図示略)を有する。複数の永久磁石は、周方向において所定の間隔をおいて配置されている。ステーター62Bは、ハウジング41の内面に固定された複数のコイル(図示略)を有する。複数のコイルは、ローター62Aの永久磁石のそれぞれと対向する。
【0036】
後輪転舵軸50は、ボールナット61の回転にともないボールナット61に対して転舵軸方向Xに並進する並進軸51と、並進軸51の右方向Rおよび左方向Lへの並進をタイロッド(図示略)に伝達する一対の連結軸53とを有する。またこの他に、並進軸51の右側端部および左側端部のそれぞれと連結軸53とを互いに接続する一対のボールジョイント52を有する。
【0037】
並進軸51は、ボールナット61に噛み合わされるスクリュー部51Aを有する。各ボールジョイント52は、各連結軸53と一体的に動作するボール52Aと、ボール52Aを受けるボール受け52Bとを有する。ボール52Aは、連結軸53の先端部分に固定されている。ボール受け52Bは、並進軸51の先端部分に固定されている。
【0038】
規制機構70は、後輪転舵軸50に対してロック軸方向Zに移動する規制部材71と、規制部材71が挿入される回転規制溝72と、規制部材71が嵌め込まれるロック穴73とを有する。またこの他に、規制部材71を後輪転舵軸50に対してロック軸方向Zに移動させるソレノイド74と、規制部材71のロック軸方向Zへの移動を案内するすべり軸受75と、規制部材71に復元力を付与するばね76とを有する。なお、回転規制溝72は「規制溝」に相当する。また、ロック穴73は「規制穴」に相当する。また、ソレノイド74は「アクチュエーター」に相当する。
【0039】
ソレノイド74は、ハウジング41に固定されている。回転規制溝72は、並進軸51の外面上においてスクリュー部51Aの右側に形成されている。回転規制溝72の各側面72A(各側面72Aのうちの一方の側面は図示略)は、互いに平行する。回転規制溝72の底面72Bは、各側面72Aのそれぞれに対して直交する。なお、回転規制溝72の各側面72Aは「後輪転舵軸の対向面」に相当する。また、回転規制溝72の底面72Bは「後輪転舵軸の接触面」に相当する。
【0040】
規制部材71は、ソレノイド74から付与される力によりロック軸方向Zに移動するロック軸71Aと、回転規制溝72の各側面72Aに接触または対向するロック軸受71Eとを有する。ロック軸71Aは、回転規制溝72に挿入される先端部分71Bと、回転規制溝72の底面72Bに対向する端面71Cと、ばね76の復元力を受けるフランジ71Dとを有する。なお、先端部分71Bは「移動部材の挿入部分」に相当する。また、ロック軸受71Eは「移動部材に取り付けられた軸受」に相当する。
【0041】
フランジ71Dは、ロック軸71Aと同一の材料により一体的に形成されている。ロック軸受71Eとしては、内輪、外輪、および転動体を有する玉軸受が用いられている。ロック軸受71Eの内輪は、ロック軸71Aに固定されている。なお、外輪の外面は「規制部材の規制面」に相当する。
【0042】
ロック穴73は、後輪転舵軸50が中立並進位置のときにロック軸71Aと対応する箇所に形成されている。なお、ロック軸71Aと対応する箇所は、ロック軸71Aが後輪転舵軸50に対して接近方向Dに移動したとき、先端部分71Bが挿入される箇所を示す。
【0043】
ばね76の一方の端部は、フランジ71Dのすべり軸受75側に固定されている。ばね76の他方の端部は、すべり軸受75のフランジ71D側に固定されている。このためばね76は、ロック軸71Aが接近方向Dに移動するとき、ロック軸71Aを離間方向Uに押す復元力をロック軸71Aに付与する。
【0044】
前輪転舵装置30の動作について説明する。
運転者は、右前輪11および左前輪12の転舵角を変更するとき、ステアリングホイール21に操舵トルクを入力する。ステアリングシャフト31は、ステアリングホイール21の回転にともない回転する。制御装置25は、ステアリングシャフト31の操舵トルクおよび車両1の走行速度に応じた電流をアシストモーター32に供給する。
【0045】
アシストモーター32は、電流の供給を受けて出力軸を回転させる。減速機構33は、出力軸の回転を減速してステアリングシャフト31に伝達する。ラックアンドピニオン機構34は、ステアリングシャフト31の回転をラック軸35の軸方向の直線運動に変換する。ラック軸35は、直線運動すなわち並進運動することによりタイロッドを介してナックル(いずれも図示略)を動作させる。そして、ナックルの動作にともない右前輪11および左前輪12の転舵角が変化する。
【0046】
後輪転舵装置40の動作について説明する。
制御装置25は、ステアリングシャフト31の操舵角および車両1の走行速度に応じた電流を転舵モーター62に供給する。転舵モーター62は、電流の供給を受けて出力軸とともにボールナット61を回転させる。ボールナット61は、スクリュー部51Aとの噛み合いにより、転舵モーター62の回転を並進軸51の直線運動に変換する。並進軸51は、直線運動すなわち並進移動することにより各ボールジョイント52および各連結軸53を介してタイロッドおよびナックル(いずれも図示略)を動作させる。そして、ナックルの動作にともない右後輪13および左後輪14の転舵角が変化する。
【0047】
転舵駆動機構60の動作について説明する。
以下では、後輪転舵軸50の左方向Lからの側面視かつ後輪転舵軸50の中心軸まわりの回転方向Jにおいて、時計回り方向を「正転方向J1」とし、反時計回り方向を「逆転方向J2」とする。
【0048】
転舵モーター62のローター62Aは、ステーター62Bが正の電流の供給を受けているとき、正転方向J1に回転する。ボールナット61は、ローター62Aが正転方向J1に回転するとき、ローター62Aとともに正転方向J1に回転する。並進軸51は、ボールナット61の正転方向J1への回転にともない、ボールナット61およびスクリュー部51Aの噛み合いの関係からハウジング41に対して右方向Rに並進する。また、各ボールジョイント52および各連結軸53は、並進軸51の右方向Rへの並進にともない同じ方向に並進する。すなわち、ボールナット61の正転方向J1への回転にともない後輪転舵軸50が右方向Rに並進する。
【0049】
転舵モーター62のローター62Aは、ステーター62Bが負の電流の供給を受けているとき、逆転方向J2に回転する。ボールナット61は、ローター62Aが逆転方向J2に回転するとき、ローター62Aとともに逆転方向J2に回転する。並進軸51は、ボールナット61の逆転方向J2への回転にともない、ボールナット61およびスクリュー部51Aの噛み合いの関係からハウジング41に対して左方向Lに並進する。また、各ボールジョイント52および各連結軸53は、並進軸51の左方向Lへの並進にともない同じ方向に並進する。すなわち、ボールナット61の逆転方向J2への回転にともない後輪転舵軸50が左方向Lに並進する。
【0050】
図3および図5を参照して、規制機構70の動作について説明する。
ロック軸71Aは、ソレノイド74から付与される力およびばね76から付与される力の関係に応じて後輪転舵軸50に対してロック軸方向Zに移動する。後輪転舵軸50に対するロック軸71Aのロック軸方向Zの位置(以下、「ロック軸位置」)は、ロック軸71Aの先端部分71Bが回転規制溝72内においてロック穴73の外に位置する「転舵位置」と、ロック軸71Aの先端部分71Bがロック穴73内に位置する「固定位置」とを有する。
【0051】
転舵位置は、先端部分71Bの端面71Cが回転規制溝72の底面72Bと非接触の状態で対向する「非接触転舵位置」と、ロック軸71Aの先端部分71Bが回転規制溝72の底面72Bと接触した状態で対向する「接触転舵位置」とを有する。なお、転舵位置は「規制位置A1」に相当する。また、固定位置は「規制位置A2」に相当する。
【0052】
ソレノイド74は、駆動用電流の供給を受けていないとき、ロック軸71Aに対して電磁力を付与しない。ロック軸71Aは、ソレノイド74からの力が付与されていないとき、ばね76の復元力により非接触転舵位置に位置する。図5(a)は、ロック軸71Aが非接触転舵位置に位置するときの一例を示している。
【0053】
ソレノイド74は、駆動用電流の供給を受けているとき、ロック軸71Aを後輪転舵軸50に対して接近方向Dに移動させる力を付与する。ロック軸71Aは、ソレノイド74から力が付与されているとき、ばね76の力に抗して非接触転舵位置から接近方向Dに移動する。
【0054】
ロック軸71Aは、後輪転舵軸50が中立並進位置に位置する状態(図3(a)参照)、すなわち転舵軸方向Xにおいてロック軸71Aがロック穴73と対応する箇所に位置する状態において、後輪転舵軸50に対して接近方向Dに移動したとき、先端部分71Bがロック穴73に嵌め込まれる。すなわち、ロック軸位置が非接触転舵位置から固定位置に変化する。図5(c)は、ロック軸71Aが固定位置に位置する状態を示している。
【0055】
ロック軸71Aは、後輪転舵軸50が中立並進位置以外に位置する状態(図3(b)および図3(c)参照)、すなわち転舵軸方向Xにおいてロック軸71Aがロック穴73と非対応の箇所に位置する状態において、後輪転舵軸50に対して接近方向Dに移動したとき、先端部分71Bが回転規制溝72の底面72Bに接触する。すなわち、ロック軸位置が非接触転舵位置から接触転舵位置に変化する。図5(b)は、ロック軸71Aが接触転舵位置に位置するときの一例を示している。
【0056】
図3および図4を参照して、後輪転舵軸50の回転の規制について説明する。
ここで、後輪転舵軸50に関する位置を以下のとおり定義する。
(A)後輪転舵軸50が正転方向J1のトルクによりロック軸受71Eに接触しているときの回転方向の位置を「正転規制位置」とする。
(B)後輪転舵軸50が逆転方向J2のトルクによりロック軸受71Eに接触しているときの回転方向の位置を「逆転規制位置」とする。
(C)後輪転舵軸50がロック軸受71Eに接触していないときの回転方向の位置を「中立回転位置」とする。
【0057】
また、後輪転舵装置40に関する動作状態を以下のとおり定義する。
(A)ロック軸71Aが非接触転舵位置に位置し、かつ後輪転舵軸50が中立回転位置に位置する状態を「第1中立動作状態」とする。
(B)ロック軸71Aが接触転舵位置に位置し、かつ後輪転舵軸50が中立回転位置に位置する状態を「第2中立動作状態」とする。
(C)ロック軸71Aが非接触転舵位置に位置し、かつ後輪転舵軸50が正転規制位置に位置する状態を「正転規制状態」とする。
(D)ロック軸71Aが非接触転舵位置に位置し、かつ後輪転舵軸50が逆転規制位置に位置する状態を「逆転規制状態」とする。
(E)ロック軸71Aが固定位置に位置する状態を「固定動作状態」とする。
【0058】
図3(a)および図4(a)は、第1中立動作状態の一例として、後輪転舵軸50が中立並進位置に位置する状態をそれぞれ示している。また、図3(b)および図4(b)は、正転規制状態の一例として、後輪転舵軸50が最右並進位置に位置する状態をそれぞれ示している。また、図3(c)および図4(c)は、逆転規制状態の一例として、後輪転舵軸50が最左並進位置に位置する状態をそれぞれ示している。また、図3(d)および図4(d)は、第2中立動作状態の一例として、後輪転舵軸50が最左並進位置に位置する状態をそれぞれ示している。
【0059】
図3(a)および図4(a)に示される第1中立動作状態の詳細について説明する。
後輪転舵装置40は、基準の動作状態として第1中立動作状態を有する。図3(a)に示されるように、ロック軸71Aの先端部分71Bは、回転規制溝72内においてロック穴73の外に位置する。先端部分71Bは、転舵軸方向Xにおいてロック穴73と対応する箇所に位置する。先端部分71Bの端面71Cは、ロック穴73の底面と隙間を介して対向する。図4(a)に示されるように、ロック軸受71Eの外輪は、回転規制溝72の各側面72Aと所定の隙間を介して対向する。すなわち、ロック軸受71Eの外輪の外面および回転規制溝72の各側面72Aの対向関係は、ロック軸71Aが有するロック軸受71Eの外輪の外面が回転規制溝72の各側面72Aの一方に対して所定の隙間を介して対向する第1の対向関係を有する。
【0060】
図3(a)および図4(a)に示される第1中立動作状態においては、後輪転舵軸50とロック軸受71Eとが接触していないため、ロック軸71Aおよび図2のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の回転が、各側面72Aとロック軸受71Eとの間の隙間の分だけ許容される。一方、ロック軸71Aの先端部分71Bがロック穴73の外に位置するため、ロック軸71Aおよび図2のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の並進が許容される。
【0061】
図3(b)および図4(b)に示される正転規制状態の詳細について説明する。
後輪転舵装置40は、図3(a)および図4(a)の第1中立動作状態においてボールナット61が正転方向J1に回転することにより、図3(b)および図4(b)の正転規制状態に移行する。
【0062】
図3(b)に示されるように、ロック軸71Aの先端部分71Bは、回転規制溝72内においてロック穴73の外に位置する。先端部分71Bの端面71Cは、回転規制溝72の底面72Bと隙間を介して対向する。図4(b)に示されるように、ロック軸受71Eの外輪は、回転規制溝72における一対の側面72Aのうちの車両前方側に位置する側面72Aと接触する。
【0063】
図3(b)および図4(b)に示される正転規制状態においては、後輪転舵軸50とロック軸受71Eとが互いに接触しているため、ロック軸71Aおよび図2のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の正転方向J1への回転が規制される。このため、ボールナット61が正転方向J1に回転するとき、後輪転舵軸50がボールナット61とともに正転方向J1に回転することが規制される。一方、ロック軸71Aの先端部分71Bがロック穴73の外に位置するため、ロック軸71Aおよび図2のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の並進が許容される。
【0064】
図3(c)および図4(c)に示される逆転規制状態の詳細について説明する。
後輪転舵装置40は、図3(a)および図4(a)の第1中立動作状態においてボールナット61が逆転方向J2に回転することにより、図3(c)および図4(c)の逆転規制状態に移行する。
【0065】
図3(c)に示されるように、ロック軸71Aの先端部分71Bは、回転規制溝72内においてロック穴73の外に位置する。先端部分71Bの端面71Cは、回転規制溝72の底面72Bと隙間を介して対向する。図4(c)に示されるように、ロック軸受71Eの外輪は、回転規制溝72における一対の側面72Aのうちの車両後方側に位置する側面72Aと接触する。
【0066】
図3(c)および図4(c)に示される逆転規制状態においては、後輪転舵軸50とロック軸受71Eとが互いに接触しているため、ロック軸71Aおよび図2のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の逆転方向J2への回転が規制される。このため、ボールナット61が逆転方向J2に回転するとき、後輪転舵軸50がボールナット61とともに逆転方向J2に回転することが規制される。一方、ロック軸71Aの先端部分71Bがロック穴73の外に位置するため、ロック軸71Aおよび図2のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の並進が許容される。
【0067】
図3(d)および図4(d)に示される第2中立動作状態の詳細について説明する。
後輪転舵装置40は、図3(c)および図4(c)の逆転規制状態においてロック軸71Aが後輪転舵軸50に対して接近方向Dに移動することにより、図3(d)および図4(d)に示す第2中立動作状態に移行する。また、正転規制状態においてロック軸71Aが後輪転舵軸50に対して接近方向Dに移動するとき、同様に第2中立動作状態に移行する。また、第1中立動作状態かつ後輪転舵軸50が中立並進位置以外の並進位置に位置する状態においてロック軸71Aが後輪転舵軸50に対して接近方向Dに移動するとき、同様に第2中立動作状態に移行する。
【0068】
図3(d)に示されるように、ロック軸71Aの先端部分71Bは、回転規制溝72内においてロック穴73の外に位置する。先端部分71Bの端面71Cは、回転規制溝72の底面72Bと接触している。図4(d)に示されるように、ロック軸受71Eの外輪は、回転規制溝72の各側面72Aと隙間を介して対向する。
【0069】
図3(d)および図4(d)に示される第2中立動作状態においては、後輪転舵軸50とロック軸71Aとが接触しているため、ロック軸71Aおよび図2のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の回転が規制される。一方、ロック軸71Aの先端部分71Bがロック穴73の外に位置するため、ロック軸71Aおよび図2のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の並進が許容される。
【0070】
逆転規制状態から正転規制状態への移行について説明する。
後輪転舵装置40は、逆転規制状態(図4(c))においてボールナット61が正転方向J1に回転することにより、第1中立動作状態(図4(a))を経て正転規制状態(図4(b))に移行する。そして、上記の説明と同様、ロック軸受71Eと側面72Aとの接触により、ロック軸71Aおよび図2のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の正転方向J1への回転が規制される。
【0071】
正転規制状態から逆転規制状態への移行について説明する。
後輪転舵装置40は、正転規制状態(図4(b))においてボールナット61が逆転方向J2に回転することにより、第1中立動作状態(図4(a))を経て逆転規制状態(図4(c))に移行する。そして、上記の説明と同様、ロック軸受71Eと側面72Aとの接触により、ロック軸71Aおよび図2のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の逆転方向J2への回転が規制される。
【0072】
図5および図6を参照して、後輪転舵軸50の並進の規制について説明する。
図5(a)および図6(a)は、逆転規制状態において後輪転舵軸50が最左並進位置に位置し、かつロック軸71Aが非接触転舵位置に位置する状態をそれぞれ示している。また、図5(b)および図6(b)は、第2中立動作状態において後輪転舵軸50が最左並進位置に位置する状態をそれぞれ示している。また、図5(c)および図6(c)は、固定動作状態をそれぞれ示している。
【0073】
後輪転舵装置40は、図5(a)および図6(a)の逆転規制状態においてロック軸71Aが後輪転舵軸50に対して接近方向Dに移動することにより、図5(b)および図6(b)の第2中立動作状態に移行する。
【0074】
図5(b)に示されるように、ロック軸71Aの先端部分71Bは、回転規制溝72内においてロック穴73の外に位置する。先端部分71Bは、転舵軸方向Xにおいてロック穴73と非対応の箇所に位置する。先端部分71Bの端面71Cは、回転規制溝72の底面72Bに接触して対向する。図6(b)に示されるように、ロック軸受71Eの外輪は、回転規制溝72の各側面72Aと隙間を介して対向する。
【0075】
図5(b)および図6(b)に示される第2中立動作状態においては、先端部分71Bの端面71Cは回転規制溝72の底面72Bに接触して対向しているため、ロック軸71Aおよび図2のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の回転が中立回転位置に規制される。一方、ロック軸71Aの先端部分71Bがロック穴73の外に位置するため、ロック軸71Aおよび図2のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の並進が許容される。
【0076】
後輪転舵装置40は、図5(b)および図6(b)の第2中立動作状態において後輪転舵軸50がロック軸71Aに対して右方向Rに移動することにより、図5(c)および図6(c)の固定動作状態に移行する。
【0077】
図5(c)に示されるように、ロック軸71Aの先端部分71Bは、転舵軸方向Xにおいてロック穴73内に位置する。先端部分71Bの端面71Cは、ロック穴73の底面に接触して対向する。図6(c)に示されるように、ロック軸受71Eの外輪は、回転規制溝72の各側面72Aと隙間を介して対向する。
【0078】
図5(c)および図6(c)に示される固定動作状態においては、ロック軸71Aがロック穴73に嵌め込まれているため、ロック軸71Aおよび図2のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の回転および並進が不能となる。また後輪転舵軸50は、中立並進位置に位置する。このため、右後輪13および左後輪14は、中立転舵角に保持される。
【0079】
図3〜図6に示されるとおり、後輪転舵装置40の動作状態が第1中立動作状態のとき、ロック軸受71Eの外輪の外面が回転規制溝72の各側面72Aと対向する。ロック軸受71Eの外輪の外面および回転規制溝72の各側面72Aの関係は、ロック軸受71Eの外輪の外面が回転規制溝72の各側面72Aに対して隙間を介して対向する関係(第1の対向関係)を有する。この関係においては、後輪転舵軸50にローター62Aのトルクが入力されたとき、回転規制溝72の各側面72Aの一方がロック軸受71Eの外輪の外面に接触するまで後輪転舵軸50が回転し、回転規制溝72の各側面72Aの一方がロック軸受71Eの外面に接触したとき、後輪転舵軸50の回転が規制される。
【0080】
また後輪転舵装置40においては、ロック軸71Aが後輪転舵軸50に対して固定位置に位置するとき、先端部分71Bがロック穴73に嵌め込まれる。このため、後輪転舵軸50を並進させる力が入力されたとき、ロック軸71Aの先端部分71Bとロック穴73の壁面との接触により後輪転舵軸50の並進が規制される。また、ロック軸71Aに対する後輪転舵軸50の回転も併せて規制される。
【0081】
図2を参照して、制御装置25の動作について説明する。
制御装置25は、車両1の走行速度および操舵角に基づいて右後輪13および左後輪14の転舵角を制御する後輪転舵角制御と、車両1の走行速度に応じて後輪転舵軸50の並進を規制する並進規制制御とを行う。
【0082】
後輪転舵角制御は、走行速度および操舵角に基づいて右後輪13および左後輪14の転舵角の目標値を算出し、回転角センサ43の出力に基づいて計算される転舵角を目標値に近づけるフィードバック制御を行う。このフィードバック制御は、転舵角の計算結果および目標値の差に応じて転舵モーター62に供給する電流を制御する。
【0083】
並進規制制御は、車両運転中において右後輪13および左後輪14の転舵角を中立転舵角に固定するための転舵角固定条件が成立したか否かを判定し、判定の結果に応じてロック軸71Aのロック軸位置を制御する。具体的には、車両1の走行速度が基準速度以上のとき、転舵角固定条件が成立していると判定する。そして、この判定結果に基づいて、ロック軸71Aを固定位置に移動させるための制御を実行することにより、後輪転舵軸50の並進を規制する。一方、走行速度が基準速度未満のとき、転舵角固定条件が成立していないと判定する。そして、この判定結果に基づいて、ロック軸71Aを非接触転舵位置または接触転舵位置に移動させるための制御を実行することにより、後輪転舵軸50の並進を許容する。
【0084】
並進規制制御にともなう各要素の具体的な動作を以下の(A)および(B)に示す。
(A)並進規制制御は、走行速度が基準速度未満の大きさから基準速度以上の大きさに変化したとき、転舵モーター62の駆動を停止した後にソレノイド74に駆動用電流を供給する。また、走行速度が基準速度以上の大きさから基準速度未満の大きさに変化するまでの期間、ソレノイド74に継続して駆動用電流を供給する。
【0085】
ロック軸71Aは、ソレノイド74から付与される力により非接触転舵位置から接触転舵位置または固定位置に移動する。ソレノイド74は、制御装置25から駆動用電流の供給を受けている期間、ロック軸71Aに対して継続して接近方向Dの力を付与する。このため、ロック軸71Aの端面71Cが回転規制溝72の底面72Bまたはロック穴73の底面に押し付けられた状態が維持される。
【0086】
後輪転舵軸50は、転舵モーター62が電流の供給を受けていないとき、右後輪13および左後輪14が路面から受けるセルフアライニングトルクにより中立並進位置に向けて移動する。
【0087】
ロック軸71Aの先端部分71Bは、後輪転舵軸50が中立並進位置以外の位置から中立並進位置まで移動する過程において、端面71Cが回転規制溝72の底面72Bに押し付けられた状態において底面72Bに対して移動する。そして、後輪転舵軸50が中立並進位置に到達したとき、ロック穴73内に移動する。
【0088】
(B)並進規制制御は、走行速度が基準速度以上の大きさから基準速度未満の大きさに変化したとき、ソレノイド74への駆動用電流の供給を停止する。そして、ロック軸71Aが固定位置から非接触転舵位置に移動した後、転舵モーター62のフィードバック制御を再開する。
【0089】
ソレノイド74は、制御装置25から駆動用電流の供給が停止されたとき、ロック軸71Aに対する力の付与を停止する。このため、ロック軸71Aがばね76の復元力により固定位置から非接触転舵位置に移動する。
【0090】
(実施形態の効果)
本実施形態の後輪転舵装置40は以下の効果を奏する。
(1)後輪転舵装置40の規制機構70は、後輪転舵軸50に対してロック軸方向Zに移動するロック軸71Aと、後輪転舵軸50上において転舵軸方向Xに延びる回転規制溝72と、後輪転舵軸50の中立並進位置に対応するロック穴73とを有する。
【0091】
この構成によれば、ロック軸71Aは、ハウジング41に対する後輪転舵軸50の並進を許容するとともに回転を規制する機能と、ハウジング41に対する後輪転舵軸50の回転および並進を規制する機能とを有する。このため、後輪転舵軸50の並進を許容するとともに回転を規制する機構と、後輪転舵軸50の並進を規制する機構とを個別に備える構成と比較して、簡易な構成で後輪転舵軸50の回転および並進を規制することが可能になる。
【0092】
(2)規制機構70のロック軸71Aは、回転規制溝72の各側面72Aと接触するロック軸受71Eを先端部分71Bに有する。ロック軸受71Eの外面は、ロック軸71Aが非接触転舵位置に位置するとき、回転規制溝72の各側面72Aの一方と接触する。
【0093】
この構成によれば、ロック軸受71Eの外面は、ロック軸71Aが後輪転舵軸50に対して規制位置A1に位置するとき、回転規制溝72の各側面72Aと対向する。このため、ロック軸受71Eを有していない構成と比較して、各側面72Aの一方が、ロック軸受71Eの外輪の外面に接触した状態で後輪転舵軸50がロック軸71Aに対して並進するとき、後輪転舵軸50の並進に対する摩擦抵抗が小さくなる。
【0094】
(3)規制機構70のロック軸71Aは、後輪転舵軸50に対して非接触転舵位置に位置するとき、先端部分71Bの端面71Cと回転規制溝72の底面72Bとの間に隙間を形成する。
【0095】
この構成によれば、後輪転舵軸50は、ロック軸71Aに対して並進する力が入力されたとき、先端部分71Bの端面71Cと回転規制溝72の底面72Bとの間に隙間が形成された状態で並進する。このため、先端部分71Bの端面71Cが回転規制溝72の底面72Bと接触した状態で後輪転舵軸50が並進する構成と比較して、後輪転舵軸50の並進に対する摩擦抵抗が小さくなる。
【0096】
(4)後輪転舵軸50の並進軸51は、ボールジョイント52を介して連結軸53に接続されている。すなわち後輪転舵装置40は、ボールジョイント52の遊びに応じてボールナット61とともに並進軸51が回転することを許容する構成を有する。一方、後輪転舵装置40は、並進軸51の並進を許容するとともに回転を規制する規制機構70を有する。このため、ボールナット61の回転にともない並進軸51が回転することが抑制される。
【0097】
(第2実施形態)
図7に示される本実施形態の後輪転舵装置40は、図2に示される第1実施形態の後輪転舵装置40との主要な相違点として、次の相違点を有する。すなわち、第1実施形態の後輪転舵装置40は、並進軸51に回転規制溝72が形成された規制機構70を有する。一方、本実施形態の後輪転舵装置40は、並進軸51において回転規制溝72に代わる接触面82が形成された規制機構80を有する。以下では、第1実施形態の後輪転舵装置40と異なる点の詳細を説明し、第1実施形態と共通する構成については同一の符号を付してその説明の一部または全部を省略する。
【0098】
図7(a)に示されるように、本実施形態の規制機構80は、規制部材71、ロック穴73、ソレノイド74、すべり軸受75、およびばね76に準じた構成を有する規制部材81、ロック穴83、ソレノイド84、すべり軸受85、およびばね86を有する。また、規制部材81と接触することにより並進軸51の回転を規制する接触面82を有する。なお、接触面82は「規制面」に相当する。また、ロック穴83は「規制穴」に相当する。また、ソレノイド84は「アクチュエーター」に相当する。
【0099】
接触面82は、並進軸51の外面上においてスクリュー部51Aの右側に形成されている。接触面82は、第1実施形態の並進軸51において回転規制溝72の各側面72Aを形成する壁部を省略した部分に相当する。なお、図7(b)は、並進軸51の平面視において接触面82およびロック穴83の関係を模式的に示している。
【0100】
規制部材81は、ソレノイド84から付与される力によりロック軸方向Zに移動するロック軸81Aを有する。また、ロック軸81Aは、接触面82に対して所定の隙間を介して対向する先端部分81Bと、先端部分81Bの外面の一部分を形成する端面81Cと、ばね86の復元力を受けるフランジ81Dとを有する。なお、先端部分81Bは「移動部材の挿入部分」に相当する。
【0101】
ばね86の一方の端部は、フランジ81Dのすべり軸受85側に固定されている。ばね86の他方の端部は、すべり軸受85のフランジ81D側に固定されている。このためばね86は、ロック軸81Aがロック軸方向Zの接近方向Dに移動するとき、ロック軸81Aを離間方向Uに押す復元力をロック軸81Aに付与する。
【0102】
図8および図9を参照して、後輪転舵軸50の回転の規制について説明する。
ここで、後輪転舵軸50に関する位置を以下のとおり定義する。
第2実施形態では、第1実施形態における後輪転舵軸50の位置に関する定義、および後輪転舵装置40の動作状態に関する定義をそれぞれ以下のように読み替える。なお、転舵位置は「規制位置B1」に相当する。また、固定位置は「規制位置B2」に相当する。
(A)「転舵位置」は、ロック軸81Aの端面81Cが後輪転舵軸50の接触面82に対して所定の隙間を介して対向するロック軸位置を示す。
(B)「固定位置」は、ロック軸81Aの先端部分81Bがロック穴83内に位置するときのロック軸位置を示す。
(C)「正転規制位置」は、後輪転舵軸50が正転方向J1のトルクによりロック軸81Aに接触しているときの回転方向の位置を示す。
(D)「逆転規制位置」は、後輪転舵軸50が逆転方向J2のトルクによりロック軸81Aに接触しているときの回転方向の位置を示す。
(E)「正転規制状態」は、ロック軸81Aが非接触転舵位置に位置し、かつ後輪転舵軸50が正転規制位置に位置する状態を示す。
(F)「逆転規制状態」は、ロック軸81Aが非接触転舵位置に位置し、かつ後輪転舵軸50が逆転規制位置に位置する状態を示す。
【0103】
図8(a)および図9(a)は、第1中立動作状態の一例として、後輪転舵軸50が中立並進位置に位置する状態をそれぞれ示している。また、図8(b)および図9(b)は、正転規制状態の一例として、後輪転舵軸50が最右並進位置に位置する状態をそれぞれ示している。また、図8(c)および図9(c)は、逆転規制状態の一例として、後輪転舵軸50が最左並進位置に位置する状態をそれぞれ示している。また、図8(d)および図9(d)は、第2中立動作状態の一例として、後輪転舵軸50が最左並進位置に位置する状態をそれぞれ示している。
【0104】
図8(a)および図9(a)に示される第1中立動作状態の詳細について説明する。
図8(a)および図9(a)に示されるように、ロック軸81Aの先端部分81Bは、非接触位置に位置する。先端部分81Bは、転舵軸方向Xにおいてロック穴83と対応する箇所に位置する。先端部分81Bの端面81Cは、接触面82に対して所定の隙間を介して対向する。すなわち、ロック軸81Aの端面81Cおよび後輪転舵軸50の接触面82の関係は、ロック軸81Aの端面81Cが後輪転舵軸50の接触面82と所定の隙間を介して対向する第3の対向関係を有する。
【0105】
図8(a)および図9(a)に示される第1中立動作状態においては、後輪転舵軸50と先端部分81Bとが接触していないため、ロック軸81Aおよび図7のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の回転が端面81Cと接触面82との隙間の分だけ許容される。一方、ロック軸81Aの先端部分81Bがロック穴83の外に位置するため、ロック軸81Aおよび図7のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の並進が許容される。
【0106】
図8(b)および図9(b)に示される正転規制状態の詳細について説明する。
後輪転舵装置40は、図8(a)および図9(a)の第1中立動作状態において図2のボールナット61が正転方向J1に回転することにより、図8(b)および図9(b)の正転規制状態に移行する。
【0107】
ロック軸81Aが非接触転舵位置に位置するときの端面81Cと後輪転舵軸50の接触面82との隙間の大きさは、図9(a)に示される断面上において、後輪転舵軸50の回転中心軸と接触面82の縁とを結ぶ仮想の線分Sが後輪転舵軸50の回転中心軸まわりで回転するときの回転半径よりも小さい。
【0108】
図8(b)に示されるように、ロック軸81Aは、転舵軸方向Xにおいてロック穴83と非対応の箇所に位置する。図8(b)に示されるように、先端部分81Bの端面81Cのうちの車両前方側の部分は、接触面82と接触する。
【0109】
図8(b)および図9(b)に示される正転規制状態においては、後輪転舵軸50とロック軸81Aとが互いに接触しているため、ロック軸81Aおよび図7のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の正転方向J1への回転が規制される。このため、ボールナット61が正転方向J1に回転するとき、後輪転舵軸50がボールナット61とともに正転方向J1に回転することが規制される。一方、ロック軸81Aの先端部分81Bがロック穴83の外に位置するため、ロック軸81Aおよび図7(a)のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の並進が許容される。
【0110】
図8(c)および図9(c)に示される逆転規制状態の詳細について説明する。
後輪転舵装置40は、図8(a)および図9(a)の第1中立動作状態においてボールナット61が逆転方向J2に回転することにより、図8(c)および図9(c)の逆転規制状態に移行する。
【0111】
図8(c)に示されるように、ロック軸81Aの先端部分81Bは、転舵軸方向Xにおいてロック穴83と非対応の箇所に位置する。図8(c)に示されるように、先端部分81Bの端面81Cのうちの車両後方側の部分は、接触面82と接触する。
【0112】
図8(c)および図9(c)に示される逆転規制状態においては、後輪転舵軸50とロック軸81Aとが互いに接触しているため、ロック軸81Aおよび図7のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の逆転方向J2への回転が規制される。このため、ボールナット61が逆転方向J2に回転するとき、後輪転舵軸50がボールナット61とともに逆転方向J2に回転することが規制される。一方、ロック軸81Aの先端部分81Bがロック穴83の外に位置するため、ロック軸81Aおよび図7(a)のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の並進が許容される。
【0113】
図8(d)および図9(d)に示される第2中立動作状態の詳細について説明する。
後輪転舵装置40は、図8(c)および図9(c)の逆転規制状態においてロック軸81Aが後輪転舵軸50に対して接近方向Dに移動することにより、図8(d)および図9(d)に示す第2中立動作状態に移行する。また、正転規制状態においてロック軸81Aが後輪転舵軸50に対して接近方向Dに移動するとき、同様に第2中立動作状態に移行する。また、第1中立動作状態かつ後輪転舵軸50が中立並進位置以外の並進位置に位置する状態においてロック軸81Aが後輪転舵軸50に対して接近方向Dに移動するとき、同様に第2中立動作状態に移行する。
【0114】
図8(d)に示されるように、ロック軸81Aの先端部分81Bは、接触面82上においてロック穴83の外に位置する。先端部分81Bの端面81Cは、接触面82と接触して対向している。
【0115】
図8(d)および図9(d)に示される第2中立動作状態においては、後輪転舵軸50とロック軸81Aとが接触しているため、ロック軸81Aおよび図2のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の回転が規制される。一方、ロック軸81Aの先端部分81Bがロック穴83の外に位置するため、ロック軸81Aおよび図7(a)のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の並進が許容される。
【0116】
逆転規制状態から正転規制状態への移行について説明する。
後輪転舵装置40は、逆転規制状態(図9(c))においてボールナット61が正転方向J1に回転することにより、第1中立動作状態(図9(a))を経て正転規制状態(図9(b))に移行する。そして、上記の説明と同様、ロック軸81Aと接触面82との接触により、ロック軸81Aおよび図7(a)のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の正転方向J1への回転が規制される。
【0117】
正転規制状態から逆転規制状態への移行について説明する。
後輪転舵装置40は、正転規制状態(図9(b))においてボールナット61が逆転方向J2に回転することにより、第1中立動作状態(図9(a))を経て逆転規制状態(図9(c))に移行する。そして、上記の説明と同様、ロック軸81Aと接触面82との接触により、ロック軸81Aおよび図7(a)のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の逆転方向J2への回転が規制される。
【0118】
図10および図11を参照して、後輪転舵軸50の並進の規制について説明する。
図10(a)および図11(a)は、正転規制状態において後輪転舵軸50が最左並進位置に位置し、かつロック軸81Aが非接触転舵位置に位置する状態をそれぞれ示している。また、図10(b)および図11(b)は、第2中立動作状態において後輪転舵軸50が最左並進位置に位置する状態をそれぞれ示している。また、図10(c)および図11(c)は、固定動作状態をそれぞれ示している。
【0119】
後輪転舵装置40は、図10(a)および図11(a)の正転規制状態においてロック軸81Aが後輪転舵軸50に対して接近方向Dに移動することにより、図10(b)および図11(b)の第2中立動作状態に移行する。
【0120】
図10(b)に示されるように、ロック軸81Aの先端部分81Bは、転舵軸方向Xにおいてロック穴83と非対応の箇所に位置する。先端部分81Bの端面81Cは、接触面82に接触して対向する。
【0121】
図10(b)および図11(b)に示される第2中立動作状態においては、後輪転舵軸50とロック軸81Aとが接触しているため、ロック軸81Aおよび図7のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の回転が規制される。一方、ロック軸81Aの先端部分81Bがロック穴83の外に位置するため、ロック軸81Aおよび図7(a)のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の並進が許容される。
【0122】
後輪転舵装置40は、図10(b)および図11(b)の第2中立動作状態において後輪転舵軸50がロック軸81Aに対して右方向Rに移動することにより、図10(c)および図11(c)の固定動作状態に移行する。
【0123】
図10(c)に示されるように、ロック軸81Aの先端部分81Bは、転舵軸方向Xにおいてロック穴83内に位置する。先端部分81Bの端面81Cは、ロック穴83の底面に接触して対向する。
【0124】
図10(c)および図11(c)に示される固定動作状態においては、ロック軸81Aがロック穴83に嵌め込まれているため、ロック軸81Aおよび図7(a)のハウジング41等に対する後輪転舵軸50の回転および並進が不能となる。また後輪転舵軸50は、中立並進位置に位置する。このため、右後輪13および左後輪14は、中立転舵角に保持される。
【0125】
図8〜図11に示されるとおり、後輪転舵装置40の動作状態が第1中立動作状態のとき、ロック軸81Aの端面81Cが接触面82と対向する。ロック軸81Aの端面81Cおよび後輪転舵軸50の接触面82の関係は、ロック軸81Aの端面81Cが後輪転舵軸50の接触面82に対して隙間を介して対向する関係(第3の対向関係)を有する。この関係においては、後輪転舵軸50にローター62Aのトルクが入力されたとき、後輪転舵軸50の接触面82がロック軸81Aの端面81Cに接触するまで後輪転舵軸50が回転し、接触面82がロック軸81Aの端面81Cに接触したとき、後輪転舵軸50の回転が規制される。
【0126】
また後輪転舵装置40においては、ロック軸81Aが後輪転舵軸50に対して固定位置に位置するとき、先端部分81Bがロック穴83に嵌め込まれる。このため、後輪転舵軸50を並進させる力が入力されたとき、ロック軸81Aの先端部分81Bとロック穴83の壁面との接触により後輪転舵軸50の並進が規制される。また、ロック軸81Aに対する後輪転舵軸50の回転も併せて規制される。
【0127】
(実施形態の効果)
本実施形態の後輪転舵装置40は、第1実施形態の後輪転舵装置40が奏する(1)〜(4)の効果に準じた効果を奏する。
【0128】
(その他の実施形態)
本発明は、第1および第2実施形態以外の実施形態を含む。以下、本発明のその他の実施形態としての上記実施形態の変形例を示す。なお、以下の各変形例は、互いに組み合わせることもできる。
【0129】
・第1実施形態(図2)の後輪転舵装置40の規制機構70は、ロック軸受71Eとして玉軸受を有する。一方、変形例の規制機構70は、ロック軸受71Eとして玉軸受とは別の種類のころがり軸受(例えば、ころ軸受または針軸受)を有する。また、ロック軸受71Eの外面、および回転規制溝72の各側面72Aの関係として第1の対向関係を有する。
【0130】
・第1実施形態(図2)の後輪転舵装置40の規制機構70は、ロック軸受71Eとしてころがり軸受を有する。一方、変形例の規制機構70は、ロック軸受71Eとしてすべり軸受を有する。また、ロック軸受71Eの外面および回転規制溝72の各側面72Aの関係として第1の対向関係を有する。なお、この変形例を「変形例Z1」とする。
【0131】
・上記変形例Z1に対する変形例としての規制機構70の規制部材71は、ロック軸受71Eとして回転規制溝72の各側面72Aのそれぞれに接触するすべり軸受を有する。このすべり軸受は、ロック軸位置が接触転舵位置または非接触転舵位置のとき、回転規制溝72の各側面72Aに接触して対向する。この変形例においては、ロック軸71Aが後輪転舵軸50に対して接触転舵位置または非接触転舵位置に位置するとき、すべり軸受が回転規制溝72の各側面72Aと接触して対向する。すなわち、すべり軸受および回転規制溝72の各側面72Aは、すべり軸受が各側面72Aと接触して対向する関係(第2の対向関係)を有する。この関係においては、後輪転舵軸50にローター62Aのトルクが入力されたとき、回転規制溝72の各側面72Aとすべり軸受との接触により後輪転舵軸50の正転方向J1および逆転方向J2への回転が規制される。以下では、この変形例を「変形例Z2」とする。
【0132】
・上記変形例Z2に対する変形例としての規制機構70の規制部材71は、すべり軸受に代えて保持器付き針状ころを有する。この保持器付き針状ころは、ロック軸位置が接触転舵位置または非接触転舵位置のとき、回転規制溝72の各側面72Aと接触して対向する。すなわち、ロック軸受71Eの外面および回転規制溝72の各側面72Aの関係として第2の対向関係を有する。
【0133】
・第1実施形態(図2)の規制機構70の規制部材71は、ロック軸受71Eを有する。一方、変形例の規制機構70の規制部材71は、ロック軸受71Eを省略している。この変形例においては、ロック軸71Aに対する後輪転舵軸50の正転方向J1または逆転方向J2への回転にともない回転規制溝72の各側面72Aの一方がロック軸71Aに接触するとき、後輪転舵軸50の正転方向J1または逆転方向J2への回転が規制される。なお、この変形例を「変形例Z3」とする。
【0134】
・上記変形例Z3に対する変形例としての規制機構70の規制部材71は、回転規制溝72の幅と同じ大きさの径を有するロック軸71Aを有する。この変形例においては、ロック軸71Aが後輪転舵軸50に対して転舵位置に位置するとき、ロック軸71Aが回転規制溝72の各側面72Aと接触して対向する。すなわち、ロック軸71Aおよび回転規制溝72の各側面72Aの関係として第2の対向関係を有する。このため、ロック軸71Aと回転規制溝72の各側面72Aとの接触により後輪転舵軸50の正転方向J1および逆転方向J2への回転が規制される。
【0135】
・第2実施形態(図7)の規制機構80の規制部材81は、ソレノイド84に駆動用電流が供給されていないとき、ロック軸81Aが後輪転舵軸50に対して非接触転舵位置に位置する。一方、変形例の規制機構80の規制部材81は、ソレノイド84に駆動用電流が供給されていないとき、ロック軸81Aが後輪転舵軸50に対して接触転舵位置に位置する。すなわち、ロック軸81Aの端面81Cおよび後輪転舵軸50の接触面82の関係は、ロック軸81Aの端面81Cが接触面82に対して接触して対向する第4の対向関係を有する。この変形例においては、後輪転舵軸50にトルクが入力されたとき、ロック軸81Aの端面81Cと接触面82との接触により、後輪転舵軸50の正転方向J1または逆転方向J2への回転が規制される。
【0136】
・第1および第2実施形態(図1)の制御装置25は、車両1の走行速度および基準速度の関係に基づいて、転舵角固定条件が成立しているか否かを判定する。一方、変形例の制御装置25は、操舵角センサ22、操舵トルクセンサ23、制御装置25、および後輪転舵装置40を含む車両1の車載機器の少なくとも1つの異常の有無に基づいて、転舵角固定条件が成立しているか否かを判定する。具体的には、車載機器の少なくとも1つに異常が生じているとき、転舵角固定条件が成立していると判定する。そして、ロック軸71Aを固定位置に移動させることにより、後輪転舵軸50の並進を規制する。一方、いずれの車載機器にも異常が生じていないとき、転舵角固定条件が成立していないと判定する。そして、ロック軸71Aを転舵位置に移動させることにより、後輪転舵軸50の並進を許容する。
【符号の説明】
【0137】
50…後輪転舵軸、70…規制機構、71…規制部材、71A…ロック軸、71B…先端部分(挿入部分)、71C…端面、71E…ロック軸受(軸受)、72…回転規制溝(規制溝)、72A…側面(対向面)、72B…底面(接触面)、73…ロック穴(規制穴)、74…ソレノイド(アクチュエーター)、80…規制機構、81…規制部材、81A…ロック軸、81B…先端部分(挿入部分)、81C…端面(規制面)、82…接触面、83…ロック穴(規制穴)、84…ソレノイド(アクチュエーター)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後輪転舵軸の動作を規制する後輪転舵軸の規制機構において、
前記後輪転舵軸に対して移動可能な規制部材と、この規制部材を前記後輪転舵軸に向けて移動させるアクチュエーターとを有し、
前記後輪転舵軸は、前記後輪転舵軸の軸方向に延びる一対の対向する対向面と、前記規制部材の一部分である挿入部分が嵌め込まれる規制穴とを有し、
前記規制穴は、前記後輪転舵軸上において前記後輪転舵軸の中立並進位置に対応する箇所に位置し、
前記規制部材は、前記一対の対向面の少なくとも一方に接触可能な規制面を有し、
前記後輪転舵軸に対する前記規制部材の位置は、前記規制面が前記一対の対向面に対向し、かつ前記挿入部分が前記規制穴の外に位置する規制位置A1と、前記挿入部分が前記規制穴に嵌め込まれる規制位置A2とを含む
ことを特徴とする後輪転舵軸の規制機構。
【請求項2】
請求項1に記載の後輪転舵軸の規制機構において、
前記後輪転舵軸は、前記後輪転舵軸の軸方向に延びる規制溝を有し、
前記規制溝は、空間を介して対向する一対の側面と、この一対の側面と連続する底面とを有し、
前記一対の側面は、前記一対の対向面を形成し、
前記規制穴は、前記底面上において前記後輪転舵軸の中立並進位置に対応する箇所に位置する
ことを特徴とする後輪転舵軸の規制機構。
【請求項3】
請求項2に記載の後輪転舵軸の規制機構において、
前記規制部材は、前記挿入部分を有する移動部材と、この移動部材に取り付けられた軸受とを有し、
前記軸受の外面は、前記規制面を形成し、
前記後輪転舵軸および前記規制部材は、前記規制部材が前記規制位置A1に位置するとき、前記規制面としての前記軸受の外面が前記一対の対向面に対向する関係を有し、前記規制部材が前記規制位置A2に位置するとき、前記移動部材の挿入部分が前記規制穴に嵌め込まれる関係を有する
ことを特徴とする後輪転舵軸の規制機構。
【請求項4】
請求項2または3に記載の後輪転舵軸の規制機構において、
前記後輪転舵軸および前記規制部材は、前記規制部材が前記規制位置A1に位置するとき、前記挿入部分の端面と前記底面との間に隙間を有する
ことを特徴とする後輪転舵軸の規制機構。
【請求項5】
後輪転舵軸の動作を規制する後輪転舵軸の規制機構において、
前記後輪転舵軸に対して移動可能な規制部材と、この規制部材を前記後輪転舵軸に向けて移動させるアクチュエーターとを有し、
前記後輪転舵軸は、前記後輪転舵軸の軸方向に延びる接触面と、前記規制部材の一部分である挿入部分が嵌め込まれる規制穴とを有し、
前記規制穴は、前記接触面上において前記後輪転舵軸の中立並進位置に対応する箇所に位置し、
前記規制部材は、前記接触面に接触可能な規制面を有し、
前記後輪転舵軸に対する前記規制部材の位置は、前記規制面が前記接触面に対向し、かつ前記挿入部分が前記規制穴の外に位置する規制位置B1と、前記挿入部分が前記規制穴に嵌め込まれる規制位置B2とを含む
ことを特徴とする後輪転舵軸の規制機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−95192(P2013−95192A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237497(P2011−237497)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】