説明

微孔膜を含む電動バルブ

【課題】微孔膜を含む電動バルブの提供。
【解決手段】本発明は本質的に、電場応答性高分子で形成された電気制御バルブに関し、より正確には、二つの空間に分かれた電気制御流体用バルブであって、以下:
・少なくとも一種の電場応答性高分子で表面が少なくとも部分的に覆われた微孔膜(16)であって、電場応答性高分子が微孔膜の孔の中に本質的に入っていることにより、高分子が規定の酸化/還元状態になると孔を塞ぐような微孔膜の少なくとも一つ;及び、
・電場応答性高分子の酸化/還元状態を変えることによってバルブを閉じた状態から開いた状態に又はその逆方向に切り替えることができる供給電源:を含むことを特徴とするバルブに関する。
また、本発明は、上記バルブを含むマイクロ流体デバイスにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、マイクロ流体工学の分野に関する。より正確には、本発明の主題は、電場応答性高分子で形成された電気制御バルブである。
【背景技術】
【0002】
特にバイオ医学の分野において解析用カード型のマイクロ流体デバイスによって、又は、化学合成の分野においてマイクロリアクターを使用することによってマイクロ流体工学が発展したため、信頼性の高い、最も具体的には再使用可能な高機能マイクロバルブが必要とされるようになった。
【0003】
バイオ医学の分野においては、様々な種類のマイクロバルブが報告されている。第一の種類としては、花火効果を使用したマイクロバルブが挙げられる。このバルブは、例えば特許文献1中に記載されており、経皮投与用デバイスの貯蔵器の口を塞ぐことを目的とした小型のバルブである。このバルブの作動原理は、空の貯蔵器と貯蔵流体とを最初に隔てていた基板を火薬(pyrotechnic charge)の燃焼ガスによって破壊することを基本とする。別の実施形態によれば、このマイクロバルブは、外側を膨張可能な覆いで囲んで使用してもよい。燃焼ガスによって基板が破壊されると覆いが膨張し、流体が押されて排出される。
【0004】
これらのマイクロバルブには、再使用不可能であるという大きな欠点がある。また、作動させると基板の小片が超小型回路の中に排出されるという大きな欠点もある。
【0005】
特許文献2中に、バイメタル板及びPDMS(ポリジメチルシロキサン)型のエラストマー材料を使用した、管が開いた多層型マイクロ流体デバイスが開示されている。バイメタル板に電圧がかかると、管の可撓性の壁が変形して平坦になって閉じる。
【0006】
このバルブは再使用可能であるが、構造が複雑(多層)で、かつ、管を閉じるためにバイメタル板の温度を多少上昇させなければならないという大きな欠点を有する。また、経時的な密閉性が非常に低いことも予想される。
【0007】
また、PDMSは、生物学的用途に使用されるマイクロシステム内部で液体を流す場合の材料としてはそれほど適切ではない。というのは、PDMSは非常に疎水性が強いため、マイクロ流体回路中で気泡が形成される可能性があるからである。またPDMSは、加工(鋳造)が困難であり、タンパク質に対する吸着性が高い。
【0008】
特許文献3中に、管を流れる液体を制御するためのマイクロ流体用バルブが開示されている。このバルブの作動は、温度に伴って粘度が大幅に増加する(液体がゲル状になる)(ポリエチレンオキシド型の)液体の使用に基づく。
【0009】
しかし、このデバイスには、運搬される液体と作動用の液体とを混合しなければならないという欠点(相溶性の問題、困難な処理)があり、また、作動用の液体と運搬される液体とを混合しない場合には、液体をマイクロ流体デバイス内部の狭い空間の中に組み込まなければならないために生じる充填に関する問題がある。また、このデバイスには、液体及び/又はデバイスを50℃まで加熱しなければならないという大きな欠点もある。この温度は、温度調節下で生じる生体反応、及び、恐らくはこのような温度上昇に耐えられない反応物(特に酵素)にとってあまり適切ではない。
【0010】
上記以外の種類のバルブについても報告されている。フィルムで形成されたバルブである。この種のバルブは主として解析用カードの表面上に配置される。このフィルムは自己接着性であってよく、バルブに非粘着性の部分があってもよい。このバルブは、例えば、一つの反応を、又は、同時に若しくは連続して少なくとも二つの反応を内部で実施するためのデバイス又は解析用カードに関する発明について記載する、本出願人による特許文献4の場合である。このデバイスは、処理及び/又は分析する少なくとも一種の試料を運搬可能な管のネットワークによって形成されており、また、ネットワークの中へ運搬された各試料を誘導して、デバイス内での運搬、反応及び分析を制御するための少なくとも一つのバルブをデバイス内に組み込んだものである。図1〜3中に示される実施形態において、注目すべきは、自己接着性フィルムとカード胴部の間にエラストマー製ディスクが挿入されているためにバルブが再使用可能であるという点である。
【0011】
しかし、機能的な解析用カードを製造する際には、このような構造では構成要素の数が多く、コストがかかる。
【0012】
また、本出願人は特許文献5も出願している。この出願は、二つの表面の端がつながった解析用カード内で運搬手段によって少なくとも一種の流体を誘導するための管が少なくとも一本通っているバルブであって、上記カードの少なくとも一表面に部分的に固定された可撓性かつ/又は変形可能なフィルム、及び、応答性又は非応答性であってよいフィルム圧縮手段によって形成されていることを特徴とするバルブに関する。上記の固定は、少なくとも一つの平坦な表面において、バルブ周囲に陥没した溝等に配置された留め具により実施される。また、この固定は、バルブ周囲の溝の底の中に溶接することによっても実施される。
【0013】
しかし、この従来技術において使用される可撓性フィルムは非応答性である、すなわち物理的ストレスがかかった場合に構造が変形するという特性しか有していない。こうしたストレスが強く連続してかかると、永久に変形して、バルブが永久に閉じたままになったり永久に開いたままになったりする可能性がある。また、変形により開いたり及び/又は閉じたりさせるためには可撓性フィルムの動きを始動させる機構を使用する必要があるが、このような機構は容積が大きくて扱いにくく、またコストがかかる傾向がある。
【0014】
また、バルブの製造に使用される、非応答性ではない高分子も開示されている。本出願人による特許文献6中には例えば、電場応答性高分子によって又は形状記憶材料によって作動するバルブが開示されている。このような高分子は、通常は開いているか又は閉じており、電流が流れるとそれぞれ閉じるか又は開くようなバルブ、より正確には小型バルブの製造に使用できる。このようなバルブは、可撓性かつ/又は変形して解析用カードの表面に固定であるフィルム、及び、バルブを作動又は停止できる、供給電源によって形成されたフィルム作動用アクチュエーターから形成されている。
【0015】
本特許出願中に記載されるバルブは、表面用バルブ、すなわち解析用カードの少なくとも一表面上に配置されたフィルム状のバルブとしては特に有効であるが、フィルムの変形によっては技術的な問題が適切に解決されない場合に管又はダクトの内部では全く使用できない。
【0016】
電場応答性高分子を大量に使用してフィルムを製造すると解析用カードの製造コストは許容しがたい程大きくなるが、大規模に使用できるようにするためにはこの程度の製造コストはかかるのであろう。
【特許文献1】PCT特許WO−A−98/22719
【特許文献2】PCT特許WO−A−02/065005
【特許文献3】米国特許US−B−6382254
【特許文献4】PCT特許WO−A−00/13795
【特許文献5】PCT特許WO−A−00/78453
【特許文献6】PCT特許WO−A−02/44566
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
この従来技術に関して、本発明の一つの本質的な目的は、解析用カード型のマイクロ流体デバイス内部においてカード表面及び内部の管の中で使用できるバルブ、より具体的にはマイクロバルブの提案である。
【0018】
本発明の別の本質的な目的は、多数回使用できるバルブの提案である。
【0019】
本発明の別の目的は、高機能で信頼性の高いバルブの提案である。
【0020】
本発明の別の目的は、電場応答性高分子の使用に基づくが製造コストが低いバルブの提案である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的は、特に、二つの空間に分かれた電気制御流体用バルブであって、以下:
・少なくとも一種の電場応答性高分子で表面が少なくとも部分的に覆われた微孔膜であって、電場応答性高分子が微孔膜の孔の中に本質的に入っていることにより、高分子が規定の酸化/還元状態になると孔を塞ぐような微孔膜の少なくとも一つ;及び、
・電場応答性高分子の酸化/還元状態を変えることによってバルブを閉じた状態から開いた状態に又はその逆方向に切り替えることができる供給電源:を含むことを特徴とするバルブに関する本発明によって達成される。
【0022】
「表面」という用語は、作成された側の膜表面を意味するものとする。
【0023】
「規定の酸化/還元状態」という表現は、孔を塞いでいる際の高分子が、使用される高分子の種類に応じて酸化状態又は還元状態のいずれかにあることを意味するものとする。
【0024】
注目すべきことに、本発明による微孔膜は、直径がほぼ同一のほぼ円形の孔を有する。
【0025】
供給電源は、少なくとも一つの電極及び少なくとも一つの対電極を有することが好ましい。また、電極は微孔膜によって形成されている。
【0026】
本発明によるバルブの第一の実施形態において、微孔膜は非伝導材料で作られている。
【0027】
非伝導材料は、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(テフロン(登録商標))及びこれらの誘導体からなる群より選択される高分子であることが好ましい。
【0028】
例えば、ポリアミドはナイロン−6,6−ポリアミドであってよい。
【0029】
この第一の実施形態の変形形態は、非伝導材料がセルロースエステル、硝酸セルロース及びこれらの混合物からなる群より選択される高分子である形態である。
【0030】
有利には、この膜は少なくとも一種の金属外層を更に含む。
【0031】
より有利には、この膜は、金属外層が固定されている少なくとも一層の高分子中間層を更に含む。
【0032】
本発明によるバルブの第二の実施形態において、微孔膜は伝導材料で作られている。
【0033】
伝導材料は、金、白金、パラジウム及びこれら以外の当業者に公知の任意の同様の材料からなる群より選択される金属であることが好ましい。
【0034】
本発明の別の注目すべき特徴によれば、電場応答性高分子は、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリパラフェニルビニレン、ポリ(p−ピリジルビニレン)及びこれらの誘導体からなる群より選択される共役高分子である。
【0035】
本発明の別の注目すべき特徴によれば、孔の直径は0.1〜5ミクロン(μm)、好ましくは0.2〜1μmである。
【0036】
本発明の別の注目すべき特徴によれば、微孔膜の厚さは10μm〜1mm、好ましくは10〜30μmである。
【0037】
本発明の別の主題は、本発明によるバルブを少なくとも一つ含むマイクロ流体デバイスである。
【0038】
このマイクロ流体デバイスは、解析用カード型のマイクロ流体デバイスであることが好ましい。
【0039】
本発明の別の主題は、本発明によるバルブを製造する方法である。この方法は次の段階:
a)少なくとも一種のモノマーを含む電解液中に微孔膜を配置する段階;
b)電解液中において電気化学的な流れが生じる段階;
c)モノマーが微孔膜上に、特に膜の孔の中に固定される段階;
d)膜の孔の中でモノマーのラジカル重合(radial polymerization)が実施される段階;及び、
e)孔の中心まで高分子が形成されると電気化学的な流れが遮断されることにより重合が停止し、高分子が互いに重ならずに孔を塞ぐ段階:
を含むことが有利である。
【0040】
上記膜が非伝導材料で作られている場合に適用できる変形形態によれば、この方法は微孔膜を金属被覆する前段階を含み、この金属被覆段階は次の準段階:
a’)モノマー溶液中に微孔膜を配置する段階;
b’)モノマーが微孔膜上に固定される段階;
c’)膜表面全体においてモノマーが重合し、これによって高分子層が得られる段階;
d’)こうして得られた膜を、少なくとも一種の金属塩を含む溶液中に配置する段階;及び、
e’)酸化/還元反応によって高分子層上に金属が電着され、これによって微孔膜が金属フィルムで被覆される段階:
を含む。
【0041】
一つの注目すべき特徴によれば、段階a’)で使用されるモノマーは、ピロール、チオフェン及びこれらの誘導体からなる群より選択される。
【0042】
別の注目すべき特徴によれば、段階d’)で使用される金属塩は、シアン化金、塩化金及び任意の同様の化合物からなる群より選択される。
【0043】
本発明及び本発明により得られる利点は、下記図面を参照する以下の詳細な記載に照らしてより明瞭に理解されるであろう。
【0044】
図1は、本発明によるバルブを製造するためのデバイスの断面図を示す。
【0045】
図2は、重合前における本発明によるバルブの微孔膜の上部の写真を示す。
【0046】
図3は、モノマーが膜表面を覆う重合初期における、本発明によるバルブの微孔膜の上部の写真を示す。
【0047】
図4は、高分子が膜の孔を部分的に塞ぐ重合進行段階における、本発明によるバルブの微孔膜の上部の写真を示す。
【0048】
図5は、高分子が完全に膜の孔を塞ぐ、すなわちバルブが閉じた状態の重合後における、本発明によるバルブの微孔膜の上部の写真を示す。
【0049】
図6は、高分子が収縮した状態の、すなわちバルブが開いた、本発明によるバルブの微孔膜の上部の写真を示す。
【0050】
図7は、バルブが再び閉じた本発明によるバルブの微孔膜の上部の写真を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
本発明によるバルブを製造するために、図1中に示されるようなデバイスを使用する。このデバイス10は、高分子材料製の平坦な土台12からなる。この高分子材料は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はこれと同等の特性を有する任意の材料であってよい。この土台の厚さは約3mmである。またこの土台は、穿孔により形成された貫通穴14を有する。この穴の断面は円形であることが好ましい。しかし、この断面の輪郭は他の任意の形状であってもよい。貫通穴の直径は3mmである。しかし、貫通穴の直径は20μm〜5mmであってよい。微孔膜16は土台の下面に固定されていて、貫通穴14の下端を覆っている。この固定は、Rhodia社製のRhodorsil(商標)CAF4ケイ素樹脂等の接着剤の堆積物17及び18によってなされる。微孔膜16を土台12に固定する際には、他の同等の材料を使用してもよい。
【0052】
第一の実施形態において、微孔膜16は伝導性金属メッシュで形成されている。このメッシュは金でできていてよく、断面がほぼ円形で直径約5ミクロン(μm)のワイヤーからなる。メッシュ小孔間の間隔は11μmであることが有利である。このメッシュの上部は図2の写真で示される。
【0053】
本発明のこの第一の実施形態によれば、メッシュ16は、銀ラッカーの堆積物22により導線20がメッシュに電気接続されて形成される電気回路を有しているが、この実施形態には何ら限定されない。この実施形態によれば、接続ワイヤー20は土台12の細い第二の貫通穴24を通って土台12を貫通している。図1中に示すように、樹脂18の堆積物は、銀ラッカーの堆積物22により形成された電気回路を絶縁する役割も果たしている。この電気回路により、メッシュ16は電極として作用する。
【0054】
第二の導線26は、土台12の上面に配置されており、また、メッシュ16の垂直方向上方に、好ましくはメッシュ16の中心の垂直方向上方に配置された白金対電極28に接続されている。
【0055】
本発明の有利な変形形態(図示せず)において、デバイスは対電極を二つ有していてよい。この変形形態において、第一の対電極は、上記の実施形態と同様に配置される。しかし、第二の対電極は、メッシュ16の下の第一の対電極に対してほぼ対称となる位置に配置されることが好ましい。このような変形形態を使用すれば、微孔膜の上のモノマーの堆積を改善して重合をより良好に実施することができる。
【0056】
重合によって微孔膜を機能化にするために、デバイスを電気化学的電池(図示せず)の中に浸漬する。メッシュ16からなる電極及び対電極28を電圧発生機に接続する。電気化学的電池は参照極を有する。この参照極は、例えばAg/AgCl型のものであってよい。
【0057】
この電池は、(3−メチルチオフェン、ピロール又はこれらの誘導体のうち任意の一種であってよい)モノマーを(アセトニトリル又は当業者に公知の任意の同等の溶媒であってよい)溶媒中に含有する電気化学的溶液を含む。
【0058】
この電気化学的溶液は、(パラナフタレンスルホン酸リチウム、パラトルエンスルホン酸リチウム又はLiCFSOであってよい)電解塩を溶媒中に再希釈した状態のものも含む。電解塩の陰イオンは立体障害の程度が高い方が非常に有利である。というのは、重合中に電解塩由来の陰イオンと高分子が結合するために高分子の大きさ及び容積が陰イオンの立体障害よりも大きいからである。
【0059】
電解液の一例としては、例えば3−メチルチオフェンを5×10−1mol/l及びLiCFSOを2×10−1mol/l含むアセトニトリル溶液を挙げることができる。
【0060】
電気化学的電池に電圧をかける(加電圧は一定であってよい)。しかし、サイクリックボルタンメトリーの実施が有利である。上述の電解液の場合、加電圧の電位は−0.3V/Ag/AgCl〜1.6V/Ag/AgClであってよい。
【0061】
重合における変化を観測できるように、デバイス全体を立体顕微鏡の下に配置する。
【0062】
図2中に示すように、また上述のように、デバイス内で使用される金メッシュは、最初は高分子材料を含んでいない。
【0063】
電池に電圧がかかると、電解液中に含まれるモノマーが、電極を構成するメッシュのワイヤー上に堆積する。機能化のこの段階については、図3中に示される。
【0064】
メッシュがモノマーで覆われると、メッシュの孔の中で高分子が成長し始める。この重合は放射状に生じる、すなわち高分子が孔の周囲で繊維状に成長して孔の中心へと集まる。
【0065】
図4は、重合の中間段階におけるメッシュを示す。繊維が孔の一部を塞いでいる。孔の中心部分のみが塞がれていない。
【0066】
重合が進行して、高分子繊維が孔の中心でつながる。この段階において、電圧発生機を切って重合を中断する。重合を停止する時期は非常に重要である。というのは、高分子がメッシュの孔を完全に塞いで高分子層がある程度非浸透性となり得たタイミングで停止させなければならないからである。また、高分子繊維が互いに重なったり又は更には互いにかみ合ったりするとバルブ、特にバルブ穴の適切な作動に悪影響を及ぼす可能性があるため、そうなる前に停止させなければならない。
【0067】
また、重合を同じ速度で進行させるために、微孔膜の孔はどのような場合においても全て同じ大きさでなければならない。
【0068】
図5は、重合が停止した際のメッシュを示す。孔が完全に塞がれている様子が分かるであろう。
【0069】
適切なタイミングで重合を一時的に停止するために、所定の電流強度で重合を実施するのに必要な電荷をあらかじめ決めておく。この電荷がかかると電圧発生機が停止する。
【0070】
本発明によるバルブの第二の実施形態において、微孔膜16は伝導性金属メッシュではなく、例えば高分子材料で作られた非伝導性微孔膜である。この膜は、ワットマン社(商標)製造のNUCLEPORE(登録商標)型ポリカーボネート、又は、ミリポア社(商標)製のISOPORE(登録商標)ポリカーボネートで作られていてよい。この膜の使用は、それぞれの孔の大きさが同一であれば、本発明によるバルブの製造に特に適している。
【0071】
使用される微孔膜の孔の大きさは0.1〜5μmであることが好ましい。
【0072】
電場応答性高分子で膜を覆うためには、膜に伝導性を付与する必要がある。微孔膜への伝導性の付与は、金属被覆法によって実施することが好ましい。
【0073】
この方法において、まず最初に、あらかじめ精製されたピロール約5×10−3mol/lを含む無水アセトニトリル溶液中に微孔膜を配置する。こうすることによって、(孔の内側面を含む)膜の表面全体にピロールモノマーが非常に薄いフィルム状で吸着する。
【0074】
アセトニトリル溶液中で洗浄後、ナフタレンスルホン酸塩又はベンゼンスルホン酸リチウム等の塩を5×10−2mol/l及び塩化鉄FeClを約5×10−4mol/l含む無水アセトニトリル溶液中に膜を浸漬する。こうすることによって、ピロール層が化学重合されて伝導性ポリピロールフィルムとなる。
【0075】
この膜を、以下:
銀コロイド溶液の薄層を膜の角の一つ(面積1cm)に堆積させること;及び、
銀の層を乾燥させて、(電気化学において使用されるワニ口クリップ等によって)接触させること:
によって電気的に接触させる。
【0076】
その後、金フィルムの電気めっきに適した電解液(シアン化金2g/l、シアン化カリウム16g/l及びリン酸水素二ナトリウム4g/lを含むもの等)中に膜を浸漬する。
【0077】
その後、陰極を金フィルムでめっきする(その厚さはニオブの電荷をかけることによって制御される)。このめっきの厚さは、40nm又は50nmであることが好ましい。
【0078】
こうして得られた膜はその後、図1中に記載されるものと同様の、同様の方法によって機能化されたデバイスの中で使用される。
【0079】
バルブとしての微孔膜の作動は、膜の孔を覆う電場応答性高分子の酸化/還元状態の変化に基づく。その理由を以下に示す;バルブが閉じている場合、すなわち図5中に示されるように膜の孔が高分子で覆われている場合、高分子は酸化状態にある。この状態において、電解塩の陰イオンが高分子の中に挿入され、高分子繊維の直径が大きくなる。
【0080】
バルブは、高分子の酸化/還元状態の変化によって、すなわち高分子が酸化状態から還元状態に変化することによって開く。
【0081】
このように変化させるため、アセトニトリル等の溶媒及び微孔膜の機能化に使用される電解質塩を含む電解液の存在下、かつ、モノマーの非存在下で電気化学的電池の中にデバイスを配置する。この電解質塩は、重合によってバルブを機能化する際に使用されるものと同一であることが好ましい。しかし、変形形態として、NaCl水溶液等の他の電解液を使用することもできる。電解塩は溶液中に1×10−1〜5×10−1mol/lの濃度で含まれる。
【0082】
電気化学的電池の端子に電圧をかけて、高分子の酸化/還元状態を変化させる。この電圧は、使用される高分子の酸化/還元電位の両側で変化させる。加電圧は、高分子を酸化するのか還元するのかによって−5〜+5ボルトの範囲で変化させることが好ましい。
【0083】
この場合、高分子は酸化状態又はドーピング状態であり、約−5ボルトの負の電圧をかけて還元する。
【0084】
高分子が還元状態又は中性状態である場合、高分子中に挿入された電解塩の陰イオンが溶媒中に放出されて高分子繊維の容積が1/4に減少し、図6中に示すように微孔膜の孔を塞ぐことができなくなる。その結果バルブが再び開くため、流体が孔を通って膜を通過できるようになる。
【0085】
また、電気化学的電池に約+5ボルトの正の電圧をかけるとバルブが閉じ、高分子が再度酸化されて電気化学的電池の陰イオンによってドーピングされるであろう。こうして、図7中に示されるようにバルブが再び閉じる。
【0086】
本発明によるバルブの開/閉性能を改善するため、本出願人による研究は、重合によってバルブを機能化する場合に、高分子を酸化状態から還元状態へと連続的に変化させることによってドーピング状態から非ドーピング状態への切り替えに高分子を順応させることが有利となる可能性があることを示した。この方法によれば本質的に、ドーピング速度及び「脱ドーピング」速度が改善され、その結果としてバルブの開/閉速度が改善される。
【0087】
本発明によるバルブの開/閉時間は、微孔膜の孔の直径(有利には0.2〜1μm)に応じて1〜100ミリ秒であることが好ましい。
【0088】
本発明によるバルブは、解析用カード型のマイクロ流体デバイス内に組み込まれることが有利である。このような解析用カードは、面積が数平方センチメートル(cm)の一つの土台の上に次の多数の機能を組み合わせて有するものである:流体の管理(マイクロ流体機能);化学及び/又は生化学反応;流体中の種の分離;及び、これらの種の検出。このシステムによれば、自動的かつ自発的に、数ナノリットル〜数マイクロリットルという非常に少量の反応物を処理するだけで、従来の一連の化学及び/又は生化学分析全体の全ての機能を実施することができる。本発明によるバルブは、カードの表面上に又は微小管内部に有利に配置することができる。
【0089】
本発明によるバルブは、例えば連続工程により、実験施設内で製造してよい。微孔膜は、幅の広いテープ状で梱包し、リールに巻いた状態で保管するのが有利であろう。こうすることによって、電解液及びモノマーを含有する電気化学的電池を含む製造ラインにおいて、モノマーを膜の上に堆積させて重合するのに必要な時間膜テープを解体した状態で電池の中に浸漬すれば、重合による微孔膜の機能化を連続的に実施できる。また、その後で膜を乾燥させて、使用するまでリールに巻いた状態で再び梱包することが可能である。使用時には、膜を溶媒中に湿潤させるという前段階を実施する必要がある。
【0090】
膜が非伝導材料でできている場合には、上記の連続的な機能化工程に加えて、膜を金属被覆するための前段階を実施することが有利であろう。従って、製造ラインは、その上流に、膜へのモノマーの付着が生じる電解液及びモノマーを含んだ第一の電気化学的電池を含んでいてもよい。その後、化学重合剤(FeCl)を含む第二の電池の中に膜を浸漬する。そしてこの製造ラインは、解体状態の膜を浸漬して金属被覆するための金属溶液を含有する第三の電池を含む。その後、金属被覆された膜を引き続き上述の重合機能化工程に供する。
【0091】
上述のように膜を製造する方法の一つとして、例えばヨーロッパ特許EP−B−0142089中に記載されるものと同等の方法を挙げることができる。
【0092】
このように調製した膜は、下準備せずに使用して、上述のようにマイクロ流体デバイス内に組み込んでもよい。これを実施するためには、上述の方法によって得られた膜テープを切断して、マイクロ流体デバイスの表面又は管の内部に配置することが有利であろう。このため、切断部分の大きさ及び形は非常に多様である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明によるバルブを製造するためのデバイスの断面図を示す。
【図2】重合前における本発明によるバルブの微孔膜の上部の写真を示す。
【図3】モノマーが膜表面を覆う重合初期における、本発明によるバルブの微孔膜の上部の写真を示す。
【図4】高分子が膜の孔を部分的に塞ぐ重合進行段階における、本発明によるバルブの微孔膜の上部の写真を示す。
【図5】高分子が完全に膜の孔を塞ぐ、すなわちバルブが閉じた状態の重合後における、本発明によるバルブの微孔膜の上部の写真を示す。
【図6】高分子が収縮した状態の、すなわちバルブが開いた、本発明によるバルブの微孔膜の上部の写真を示す。
【図7】バルブが再び閉じた本発明によるバルブの微孔膜の上部の写真を示す。
【符号の説明】
【0094】
10、デバイス
12、土台
14、貫通穴
16、微孔膜
17、接着剤の堆積物
18、接着剤の堆積物
20、接続ワイヤー
22、銀ラッカーの堆積物
24、第二の貫通穴
26、第二の導線
28、対電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの空間に分かれた電気制御流体用バルブであって、以下:
・少なくとも一種の電場応答性高分子で表面が少なくとも部分的に覆われた微孔膜(16)であって、電場応答性高分子が微孔膜の孔の中に本質的に入っていることにより、高分子が規定の酸化/還元状態になると孔を塞ぐような微孔膜の少なくとも一つ;及び、
・電場応答性高分子の酸化/還元状態を変えることによってバルブを閉じた状態から開いた状態に又はその逆方向に切り替えることができる供給電源:を含む
ことを特徴とするバルブ。
【請求項2】
微孔膜は、直径がほぼ同一のほぼ円形の孔を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のバルブ。
【請求項3】
供給電源は、少なくとも一つの電極及び少なくとも一つの対電極(28)を有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のバルブ。
【請求項4】
電極は微孔膜(16)によって形成されている
ことを特徴とする請求項3に記載のバルブ。
【請求項5】
微孔膜は非伝導材料で作られている
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のバルブ。
【請求項6】
非伝導材料は、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(テフロン(登録商標))及びこれらの誘導体からなる群より選択される高分子である
ことを特徴とする請求項5に記載のバルブ。
【請求項7】
非伝導材料は、セルロースエステル、硝酸セルロース及びこれらの混合物からなる群より選択される高分子である
ことを特徴とする請求項5に記載のバルブ。
【請求項8】
膜は少なくとも一種の金属外層を更に含む
ことを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載のバルブ。
【請求項9】
膜は、金属外層が固定されている少なくとも一層の高分子中間層を更に含む
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のバルブ。
【請求項10】
微孔膜は伝導材料で作られている
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のバルブ。
【請求項11】
伝導材料は、金、白金、パラジウム及びこれら以外の任意の同様の材料からなる群より選択される金属である
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のバルブ。
【請求項12】
電場応答性高分子は、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリパラフェニルビニレン、ポリ(p−ピリジルビニレン)及びこれらの誘導体からなる群より選択される共役高分子である
ことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のバルブ。
【請求項13】
孔の直径は0.1〜5ミクロン(μm)、好ましくは0.2〜1μmである
ことを特徴とする請求項2〜12のいずれか1項に記載のバルブ。
【請求項14】
微孔膜の厚さは10μm〜1mm、好ましくは10〜30μmである
ことを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載のバルブ。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載のバルブを少なくとも一つ含む
ことを特徴とするマイクロ流体デバイス。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか1項に記載のバルブを製造する方法であって、
次の段階:
a)少なくとも一種のモノマーを含む電解液中に微孔膜を配置する段階;
b)電解液中において電気化学的な流れが生じる段階;
c)モノマーが微孔膜上に、特に膜の孔の中に固定される段階;
d)膜の孔の中でモノマーのラジカル重合(radial polymerization)が実施される段階;及び、
e)孔の中心まで高分子が形成されると電気化学的な流れが遮断されることにより重合が停止し、高分子が互いに重ならずに孔を塞ぐ段階:を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項17】
膜が非伝導材料で作られている場合に微孔膜を金属被覆する前段階を含み、この金属被覆段階は次の準段階:
a’)モノマー溶液中に微孔膜を配置する段階;
b’)モノマーが微孔膜上に固定される段階;
c’)膜表面全体においてモノマーが重合し、これによって高分子層が得られる段階;
d’)こうして得られた膜を、少なくとも一種の金属塩を含む溶液中に配置する段階;及び、
e’)酸化/還元反応によって高分子層上に金属が電着され、これによって微孔膜が金属フィルムで被覆される段階:を含む
ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
モノマーは、ピロール、チオフェン及びこれらの誘導体からなる群より選択される
ことを特徴とする請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
金属塩は、シアン化金、塩化金及び任意の同様の化合物からなる群より選択される
ことを特徴とする請求項17又は18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−516062(P2007−516062A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518314(P2006−518314)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【国際出願番号】PCT/FR2004/050316
【国際公開番号】WO2005/007278
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(504238301)ビオメリュー (74)
【Fターム(参考)】