説明

微小カーボン強化プラスチック組成物及び微小カーボン強化プラスチック成形体

【課題】汎用の資源を用いて経済性良好に且つ透明素材は透明のまま強化できる微小カーボン強化プラスチック組成物及び微小カーボン強化プラスチック成形体を提供する。
【解決手段】微小カーボンを液体溶媒に単分子状態で分散させた微小カーボン分散液から得た微小カーボン単分子体をプラスチック材料に混合する。微小カーボン分散液は両電子イオン対を有する両性分子を含有し、微小カーボン単分子体は前記微少カーボン分散液を凍結乾燥して得られるカーボンナノチューブである。前記プラスチック材料は透明プラスチック材料でありかつ前記微小カーボンは可視光の波長より小さいサイズのものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブなどの微小カーボンの単分子体を用いた微小カーボン強化プラスチック組成物及び微小カーボン強化プラスチック成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭酸ガス排出の観点で自動車燃費の改善から自動車素材の軽量化は急務であり種々のアプローチがなされている。躯体金属の薄膜化やエンジンのセラミックス化がその努力の結果である。唯一残された領域がウインドウガラス代替の軽量素材である。透明樹脂に代表されるポリカーボネートは、表面硬度が鉛筆硬度で2Bと軟らかく傷が付きやすいので表面コーテイングによる硬度改良が必要である。汎用表面改質材であるシリカ系コーテイングは、硬度を上げるためには厚塗りが必要であるものの厚塗りでは微細なクラックを生じやすく硬度が上がらないので、リアウインド等の一部にしか使われていない。
このように自動車のウインドウガラスを軽量の樹脂素材で実現することは、経済負担、環境政策上からも強く所望されていることから、透明樹脂強化用の重合体及びその組成物が開発されている(特許文献1参照)。しかしながら、この技術は一部に特殊なポリマーを被覆して表面硬度を上げるものであり、特殊ポリマーを使用する点で、経済的メリットが小さく、汎用化を実現していない。
【0003】
一方、カーボンナノチューブ(以下CNTと略記する)は、その機能性から各種の電子・電気デバイスとしての有効性を期待されているが、CNTは表面原子のファンデルワールス力が強く、単一のチューブが複数の強固な束になったバンドル構造が形成されてしまうことが知られている。束としての不確定性から性能がブロードな値を示し、単一チューブで想定される高度な感度を示すまでには至らず、デバイスとしての標準化を困難にしており、実用的な利用上の弊害となっている。
【0004】
そこで、現在、CNTの単一な分散を行うべく種々の試みがなされており、その解決策のひとつとして本発明者は、両性の界面活性剤を使用することを提案している(特許文献2、3など参照)が、完全に単一チューブに分散させるのは困難であり、完全に単一に分散させた分散物の挙動について正確に把握された報告はない。
【0005】
【特許文献1】特開2005−139246号公報
【特許文献2】WO2004/060798号公報
【特許文献3】WO2005/110594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑み、汎用の資源を用いて経済性良好に且つ透明素材は透明のまま強化できる微小カーボン強化プラスチック組成物及び微小カーボン強化プラスチック成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成する本発明の第1の態様は、微小カーボンを液体溶媒に単分子状態で分散させた微小カーボン分散液から得た微小カーボン単分子体をプラスチック材料に混合したことを特徴とする微小カーボン強化プラスチック組成物にある。
【0008】
かかる第1の態様では、単分子状態に分離された微小カーボン単分子をプラスチック材料に混合したので、微小カーボン単分子により有効に繊維強化される。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の微小カーボン強化プラスチック組成物において、前記微小カーボン分散液が、両電子イオン対を有する両性分子を含有することを特徴とする微小カーボン強化プラスチック組成物にある。
【0010】
かかる第2の態様では、両電子イオン対を有する両性分子を含有させることにより、単分子状態で微小カーボンを分散させた微小カーボン分散液を比較的容易に形成できる。
【0011】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様に記載の微小カーボン強化プラスチック組成物において、前記微小カーボン単分子体が、前記微小カーボン分散液を凍結乾燥して得たものであることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック組成物にある。
【0012】
かかる第3の態様では、微小カーボンが単分子状態で分散した微小カーボン分散液を凍結乾燥することにより、微小カーボンが単分子状態となった微小カーボン単分子体が比較的容易に製造できる。
【0013】
本発明の第4の態様は、第1又は2の態様に記載の微小カーボン強化プラスチック組成物において、前記微小カーボン単分子体が、前記微小カーボン分散液を乾燥して微小カーボン単分子膜から得たマスター樹脂ペレットとして混合されることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック組成物にある。
【0014】
かかる第4の態様では、微小カーボンの単分子状態の分散液である微小カーボン分散液から得られる微小カーボン単分子膜から得たマスター樹脂ペレットは、微小カーボン単分子体をプラスチック材料に混合するための材料となり、好適に使用することができる。
【0015】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様に記載の微小カーボン強化プラスチック組成物において、前記微小カーボンがカーボンナノチューブであることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック組成物にある。
【0016】
かかる第5の態様では、カーボンナノチューブの単分子体で強化されたプラスチック組成物を得ることができる。
【0017】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様に記載の微小カーボン強化プラスチック組成物において、前記プラスチック材料が透明プラスチック材料であり且つ前記微小カーボンが可視光の波長より小さいサイズのものであることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック組成物にある。
【0018】
かかる第6の態様では、微小カーボンが可視光の波長より小さいものであり且つ透明プラスチック材料を用いているので、透明で且つ繊維強化された成形体を得ることができる微小カーボン強化プラスチック組成物とすることができる。
【0019】
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載の微小カーボン強化プラスチック組成物において、前記プラスチック材料が、アクリル樹脂(PMMA)、ポリスチレン、ポリカーボネート(PC)、PAc、ポリオレフィン系樹脂から選ばれるプラスチック材料であることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック組成物にある。
【0020】
かかる第7の態様では、所望の透明プラスチック材料を用いて透明で繊維強化された成形体を得ることができる微小カーボン強化プラスチック組成物とすることができる。
【0021】
本発明の第8の態様は、微小カーボンを液体溶媒に単分子状態で分散させた微小カーボン分散液から得た微小カーボン単分子体をプラスチック材料に混合して成形したことを特徴とする微小カーボン強化プラスチック成形体にある。
【0022】
かかる第8の態様では、単分子状態に分離された微小カーボン単分子をプラスチック材料に混合したので、微小カーボン単分子により有効に繊維強化されたプラスチック成形体を得ることができる。
【0023】
本発明の第9の態様は、第8の態様に記載の微小カーボン強化プラスチック成形体において、前記微小カーボン分散液が、両電子イオン対を有する両性分子を含有することを特徴とする微小カーボン強化プラスチック成形体にある。
【0024】
かかる第9の態様では、両電子イオン対を有する両性分子を含有させることにより、単分子状態で微小カーボンを分散させた微小カーボン分散液を比較的容易に形成できる。
【0025】
本発明の第10の態様では、第8又は9の態様に記載の微小カーボン強化プラスチック成形体において、前記微小カーボン単分子体が、前記微小カーボン分散液を凍結乾燥して得たものであることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック成形体にある。
【0026】
かかる第10の態様では、微小カーボンが単分子状態で分散した微小カーボン分散液を凍結乾燥することにより、微小カーボンが単分子状態となった微小カーボン単分子体が比較的容易に製造できる。
【0027】
本発明の第11の態様は、第8又は9の態様に記載の微小カーボン強化プラスチック成形体において、前記微小カーボン単分子体が、前記微小カーボン分散液を乾燥して微小カーボン単分子膜から得たマスター樹脂ペレットとして混合されることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック成形体にある。
【0028】
かかる第11の態様では、微小カーボンの単分子状態の分散液である微小カーボン分散液から得られる微小カーボン単分子膜から得たマスター樹脂ペレットは、微小カーボン単分子体をプラスチック材料に混合するための材料となり、好適に使用することができる。
【0029】
本発明の第12の態様は、第8〜11の何れかの態様に記載の微小カーボン強化プラスチック成形体において、微小カーボン強化プラスチック成形体が、シート又はフィルム状であることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック成形体にある。
【0030】
かかる第12の態様では、シート又はフィルム状の微小カーボン強化プラスチック成形体を得ることができる。
【0031】
本発明の第13の態様は、第8〜12の何れかの態様に記載の微小カーボン強化プラスチック成形体において、成形後又は成形途中で磁場若しくは電圧を印加するか又は延伸成形することにより微小カーボンを配向させたものであることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック成形体にある。
【0032】
かかる第13の態様では、充填材である微小カーボン単分子体が配向された状態で混合された微小カーボン強化プラスチック成形体を得ることができる。
【0033】
本発明の第14の態様は、第8〜13の何れかの態様に記載の微小カーボン強化プラスチック成形体において、前記微小カーボンがカーボンナノチューブであることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック成形体にある。
【0034】
かかる第14の態様では、カーボンナノチューブの単分子体で強化されたプラスチック成形体を得ることができる。
【0035】
本発明の第15の態様は、第8〜14の何れかの態様に記載の微小カーボン強化プラスチック成形体において、前記プラスチック材料が透明プラスチック材料であり且つ前記微小カーボンが可視光の波長より小さいサイズのものであり、成形体の光透過率が80%以上であることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック成形体にある。
【0036】
かかる第15の態様では、微小カーボンが可視光の波長より小さいものであり且つ透明プラスチック材料を用いているので、透明で且つ繊維強化された成形体を得ることができる。
【0037】
本発明の第16の態様は、第15の態様に記載の微小カーボン強化プラスチック成形体において、前記プラスチック材料が、アクリル樹脂(PMMA)、ポリスチレン、ポリカーボネート(PC)、PAc、ポリオレフィン系樹脂から選ばれるプラスチック材料であることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック成形体にある。
【0038】
かかる第16の態様では、所望の透明プラスチック材料を用いて透明で繊維強化された成形体を得ることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、微小カーボンが単分子状態で存在する微小カーボン単分子体を混合した微小カーボン強化プラスチック組成物を用いることにより、強度に強化され且つ透明プラスチック材料を用いた場合には透明を維持した成形体を得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明で用いる微小カーボンとは、ナノからマイクロサイズの微小カーボンをいう。ここで、ナノからマイクロサイズの微小カーボンとは、径が10−6〜10−9mのオーダー、長さが10−4〜10−9m(好適には10−6〜10−9m)のオーダーであるカーボンをいい、例えばナノカーボンである。ナノカーボンとは、10−9mのオーダーであるカーボンをいい、好適には、カーボンナノチューブ(単層・二層・多層タイプ、カップスタック型)、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、黒鉛又はフラーレンを挙げることができる。本発明の微小カーボンは、ナノからマイクロサイズのカーボンに該当する少なくとも一種のカーボンを含有することを意味し、例えば、ナノからマイクロサイズのすべてのサイズを含有することや、ナノからマイクロサイズ以外のカーボンを含有しないことを意味するものではない。また、カーボンナノチューブ(CNTと表記することがある)とは、単層及び多層(二層以上)を含み、グラファイト層の乱れたカーボンナノファイバーも包含する。
【0041】
本発明では、このような微小カーボンが単分子状態で存在する微小カーボン単分子体を用い、これをプラスチック材料に混合する。
【0042】
ここで、単分子状態で存在するとは微小カーボンが一つ一つ分離した状態で存在することをいい、結果的にプラスチック材料に混合した際に、単分子状態で混合されていればよい。すなわち、微小カーボンは、例えば、カーボンナノチューブは、通常、複数本が凝集したバンドルと呼ばれる状態で存在し、一般的な分散液ではバンドル状態のままであるが、本発明では単分子状態、例えばカーボンナノチューブが一本、一本分離したアンバンドル状態で存在する微小カーボン単分子体を用いる。
【0043】
このような微小カーボン単分子体は、微小カーボンを単分子状態で分散させた微小カーボン分散液から得ることができる。ここで、微小カーボン分散液とは、微小カーボンを液体溶媒に、必要に応じて分散剤により分散させたものであり、単分子状態で分散させたとは微小カーボンを一つ一つ分離して分散させた状態をいう。
【0044】
このような微小カーボン分散液を得る方法は特に限定されないが、本発明では、特に、特定の分散剤を用い、ボールミルなどの物理的な粉砕方法を併用することで初めて単分子状態の分散液が得られることが確認された。
【0045】
微小カーボン分散液が単分子状態で分散されているか否かの判断は、通常は困難であるが、本発明では微小カーボン分散液が確実に単分子状態で分散されたものであることを容易に判断する手法を確立した。すなわち、単分子状態で分散した微小カーボン分散液は、当該分散液を水中に滴下した場合、滴下された液滴が水中ではその周囲に拡散せず、鉛直方向上方のみに直線上に上昇し且つ水面の一点から周囲に膜状に拡散し、単分子膜を形成するという、特異な拡散現象を示すことが確認された。したがって、水中に滴下してこのような拡散現象を示さないで、水中で周囲に拡散してしまうものは単分子状態での分散液ではない。
【0046】
このような単分子状態で分散した微小カーボン分散液の特異な拡散現象の様子を図1に示す。図1(a)に示すように、微小カーボン分散液1を水中に滴下すると、液滴1aは、容器に湛えられた水2の中を鉛直下方に沈み、浮力と重量とがバランスしたところで停止する。この状態で、液滴1aからその周囲には微小カーボンは拡散しない。次いで、図1(b)に示すように、液滴1a中の微小カーボンは液滴1aから鉛直方向上方に直線状に上昇し、水面2aの中心点から水面2a上を周囲に拡散する。このように液滴1a中の微小カーボンが全て拡散した結果、図1(c)に示すように、液滴が消滅し、水面2a上には微小カーボン単分子膜3が形成される。
【0047】
このような微小カーボン分散液は、好適には、分散剤として両性分子を用い、ボールミルなどの物理的な粉砕又は電場、磁場、超音波、光励起等の外部応力を併用することにより得ることができる。
【0048】
本発明の微小カーボン分散剤を得るために好適に用いることができる分散剤としては、両性分子としては、単分子状態での分散液を得ることができるものであれば特に限定されないが、具体的には、2−メタクリロイルオキシエチルホスホコリンのポリマーやポリペプチドなどの両性高分子、3−(N,N’−ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホネート、3−(N,N’−ジメチルミリスチルアンモニオ)プロパンスルホネート、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホネート、n−ドデシル−N,N’−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホネート、n−ヘキサデシル−N,N’−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホネート、n−オクチルホスホコリン、n−ドデシルホスホコリン、n−テトラデシルホスホコリン、n−ヘキサデシルホスホコリン、ジメチルアルキルベタイン、パーフルオロアルキルベタイン、レシチンなどの両性高分子(両性界面活性剤を含む)などを挙げることができる。
【0049】
これらの両性分子に所望により安定剤、例えばグリセロール、多価アルコール、ポリビニルアルコール、アルキルアミンなどの水素結合を形成する物質を加えて分散剤としてもよい。
【0050】
また、分散剤としては、WO2004/060798号公報やWO2005/110594号公報に記載した各種界面活性剤、例えば、リン脂質系界面活性剤及び非リン脂質系活性剤、特に好適には両性界面活性剤(両性イオン界面活性剤)を用いることができる。
【0051】
また、本発明の微小カーボン分散液とするための液体溶媒は、使用する分散剤との組み合わせで、微小カーボンを単分子状態で分散させ得るものであれば特に限定されず、例えば、水性溶媒、例えば、水、アルコール、これらの組み合わせ、非水性溶媒(油性溶媒)、例えば、シリコンオイル、四塩化炭素、クロロホルム、トルエン 、アセトン、これらの組み合わせを挙げることができるが、非水性溶媒が好適である。
【0052】
本発明では、微小カーボンが単分子状態で分散した微小カーボン分散液を用いることにより、微小カーボン単分子体を比較的容易に得ることができる。
【0053】
図2には、微小カーボン分散液から微小カーボン強化プラスチック組成物を得るプロセスの一例を説明する図を示す。図2(a)に示すように、微小カーボンを単分子状態で分散した微小カーボン分散液1を凍結乾燥することにより、液体溶媒は除去され、微小カーボン単分子体4が得られる。よって、図2(b)に示すように、微小カーボン単分子体4を所望のプラスチック材料の樹脂ペレット5と混合することにより、微小カーボン単分子体4が混合された微小カーボン強化プラスチック組成物とすることができる。
【0054】
このような微小カーボン単分子体4及び樹脂ペレット5は、微小カーボン強化プラスチック組成物の一形態であり、図3に示すように、成形加工時に微小カーボン単分子体4及び樹脂ペレット5を所定割合で混合して用い、微小カーボン強化プラスチック成形体20を成形するようにしてもよい。また、微小カーボン単分子体4及び樹脂ペレット5は予め混合して微小カーボン強化プラスチック組成物としてもよい。
【0055】
但し、微小カーボン単分子体4と樹脂ペレット5との混合物は、混合安定性に欠け、場所によって不均一となる可能性が大きいので、図2(c)に示すように、微小カーボン単分子体4及び樹脂ペレット5の混合物を予めペレット化して微小カーボン単分子体をプラスチック材料に均一に混合した混合ペレット6とすることができる。かかる混合ペレット6は、本発明の微小カーボン強化プラスチック組成物の一形態である。
【0056】
このような混合ペレット6は、マスター樹脂ペレットとして、種々の成形に用いることができる。すなわち、混合ペレット6は、成形時にプラスチック材料(混合ペレットのプラスチック材料と同一でも異なるものでもよい)に混合して微小カーボン単分子体をプラスチック材料に付与するための原料として用いてもよく、例えば、図4に示すように、樹脂ペレット5とマスター樹脂ペレットである混合ペレット6とを所定割合で混合し、成形することにより、微小カーボン強化プラスチック成形体20Aを成形するようにしてもよい。
【0057】
また、微小カーボン分散液は、各種基材上に展開し、乾燥することにより、容易に微小カーボン単分子膜を得ることができるので、この微小カーボン単分子膜をプラスチック材料に混合することにより、微小カーボン単分子体が混合された微小カーボン強化プラスチック組成物とすることができる。
【0058】
ここで、基材上に展開するとは、分散液を薄く引き延ばすことをいい、簡便には、基材上に分散液を注ぎ、余分な分散液を除去して基材の表面のみを濡らした状態とすればよい。これにより、単分子状態で分散した分散液の微小カーボンが単分子状態で基材の表面に並んで微小カーボン単分子膜3が形成される。勿論、単分子膜を形成するための最適量の分散液のみを基材上に導入して展開するようにしてもよい。また、単分子膜とは、微小カーボンが単分子状態で、すなわち、厚さ方向には実質的に重ならないで平面方向に並んで形成された膜をいい、カーボンナノチューブを用いると、配向して並んだ単分子膜となる。
【0059】
このような基材上への展開の様子を図5に示す。図5(a)に示すように、微小カーボン分散液11を基材12上に注ぎ、図5(b)に示すように、余分な微小カーボン分散液を除去することにより、図5(c)に示すように、基材12上に微小カーボン単分子膜13を形成することができる。
【0060】
このように基材上に形成された微小カーボン単分子膜13は、液体溶媒を乾燥することにより、強固な微小カーボン膜となるが、乾燥前、乾燥途中、乾燥後において、水や有機溶媒で洗浄することにより、分散液中に含有されていた分散剤などを容易に除去することができる。
【0061】
次に、図5(d)に示すように、微小カーボン単分子膜13を形成した後、その上に注型プラスチック材料21を注型し、図5(e)に示すように、乾燥して注型プラスチックフィルム21Aを得る。そして、図5(f)に示すように、注型プラスチックフィルム21Aを基材12から剥がすことにより、注型プラスチックフィルム21Aと微小カーボン単分子膜13との積層体31とする。
【0062】
このような積層体31は、注型プラスチックフィルム21Aと微小カーボン単分子膜13とからなり、微小カーボン単分子体の原料として用いることができる。
【0063】
すなわち、プラスチック材料(積層体31の注型プラスチックフィルム21Aと同一でも異なるものでもよい)に積層体31を所定割合で混合し、成形することにより、微小カーボン強化プラスチック成形体20を得ることができる。
【0064】
また、このような積層体は、上述したようなマスター樹脂ペレットとし、これをプラスチック材料のペレットと混合して用いてもよい。これにより、微小カーボン単分子体4が混合した微小カーボン強化プラスチック成形体20を得ることができる。
【0065】
なお、積層体31を構成するプラスチックフィルムとして、注型プラスチックフィルム21Aを例示して説明したが、これに限定されず、押出成形などにより成形されるプラスチックフィルム22上に微小カーボン単分子膜を形成したものを積層体としてもよい。
【0066】
また、上述したように、水面上に形成した微小カーボン単分子膜3は容易にプラスチック製の基材に転写又は掬い取ったものを同様な積層体として用いることもできる。
【0067】
図6には、水面上に形成した微小カーボン単分子膜3を基材に転写する(掬い取る)手順の一例を示す。図6(a)〜(c)に示すように、水面2a上に形成された微小カーボン単分子膜3上に、プラスチック製の基材10を密着させた後、基材10を上昇させることにより、基材10に微小カーボン単分子膜3を転写する(掬い取る)ことができる。
【0068】
このような微小カーボン単分子膜の転写(掬い取り)は、図7(a)に示すように、水面2aに微小カーボン単分子膜3を形成した後、基材10Aを水中に沈め(予め水中に沈めておいてもよい)、基材10Aにより微小カーボン単分子膜3を下側から掬い取って、図7(b)に示すように、基材10A上に微小カーボン単分子膜3を転写することもできる。
【0069】
また、このように水面に微小カーボン単分子膜3を形成した場合、微小カーボン分散液11中に界面活性剤などの分散剤が含有されている場合には、水中に拡散し、微小カーボン単分子膜3を水洗した場合と同様になる。
【0070】
さらに、水面上に微小カーボン単分子膜3を形成する手法は、例えば、上述したように単分子状態で分散した微小カーボン分散液を水中に滴下すればよいが、周知のラングミュア・ブロジェット膜(LB膜)の溶液面上への展開方法を適用することができ、これにより微小カーボン単分子膜を溶液面上に容易に形成することができる。
【0071】
また、このように本発明の微小カーボン強化プラスチック組成物の原料となる積層体は、連続的に製造することもできる。
【0072】
図8にはその製造例の一例を説明する概略図を示す。図8(a)、(b)に示すように、微小カーボン分散液11を、連続的に押出し成形されるプラスチックフィルム22上に連続的に展開し、乾燥することにより微小カーボン単分子膜13とし、プラスチックフィルム22と微小カーボン単分子膜13との積層体32を巻き取ることにより、連続成形できる。
【0073】
このような積層体の連続製造は、注型によっても行うことができる。図9は積層体の製造例の他の例を説明する概略図を示す。図9(a)に示すように、製造基板41上に注型プラスチック材料21を注型して注型プラスチックフィルム21Aを連続的に製造しながら、図9(b)に示すように、その上に微小カーボン分散液11を展開し、乾燥して微小カーボン単分子膜13とすることにより、図9(c)に示すように、注型プラスチックフィルム21Aと微小カーボン単分子膜13との積層体33とし、これを巻き取るようにしてもよい。
【0074】
本発明において使用することができるプラスチック材料は用途に応じて選択するものであり、特に限定されない。例えば、透明性に重点をおいた積層体を製造するための透明性樹脂としては、アクリル樹脂(PMMA)、ポリスチレン、ポリカーボネート(PC)、PAc、ポリオレフィン系樹脂等を挙げることができ、特に環状オレフィン・コポリマー(COC)を挙げることができる。
【0075】
また、本発明の微小カーボン強化プラスチック成形体は、例えば、フィルム状、シート状とすることができるが、この場合、製造途中で磁場又は電圧を印加して、又は延伸することにより、微小カーボンを配向させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】単分子状態で分散した微小カーボン分散液の特異な拡散現象の様子を表す図である。
【図2】微小カーボン強化プラスチック組成物の形態を説明するための図である。
【図3】微小カーボン強化プラスチック成形体の製造の一例を表す図である。
【図4】微小カーボン強化プラスチック成形体の製造の他の例を表す図である。
【図5】微小カーボン単分子膜を注型フィルムに転写して積層体とする手順の一例を示す図である。
【図6】水面上に形成した微小カーボン単分子膜を基材に転写する手順の一例を示す図である。
【図7】水面上に形成した微小カーボン単分子膜を基材に転写する手順の他の例を示す図である。
【図8】積層体の製造例の一例を説明する概略図である。
【図9】積層体の製造例の他の例を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0077】
1 微小カーボン分散液
1a 液滴
2 水
2a 水面
3 微小カーボン単分子膜
4 微小カーボン単分子体
5 樹脂ペレット
6 混合ペレット
10,10A 基材
11 微小カーボン分散液
12 基材
13 微小カーボン単分子膜
21 注型プラスチック材料
21A 注型プラスチックフィルム
22 プラスチックフィルム
31,32,33 積層体
41 製造基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小カーボンを液体溶媒に単分子状態で分散させた微小カーボン分散液から得た微小カーボン単分子体をプラスチック材料に混合したことを特徴とする微小カーボン強化プラスチック組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の微小カーボン強化プラスチック組成物において、前記微小カーボン分散液が、両電子イオン対を有する両性分子を含有することを特徴とする微小カーボン強化プラスチック組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の微小カーボン強化プラスチック組成物において、前記微小カーボン単分子体が、前記微小カーボン分散液を凍結乾燥して得たものであることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の微小カーボン強化プラスチック組成物において、前記微小カーボン単分子体が、前記微小カーボン分散液を乾燥して微小カーボン単分子膜から得たマスター樹脂ペレットとして混合されることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の微小カーボン強化プラスチック組成物において、前記微小カーボンがカーボンナノチューブであることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の微小カーボン強化プラスチック組成物において、前記プラスチック材料が透明プラスチック材料であり且つ前記微小カーボンが可視光の波長より小さいサイズのものであることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の微小カーボン強化プラスチック組成物において、前記プラスチック材料が、アクリル樹脂(PMMA)、ポリスチレン、ポリカーボネート(PC)、PAc、ポリオレフィン系樹脂から選ばれるプラスチック材料であることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック組成物。
【請求項8】
微小カーボンを液体溶媒に単分子状態で分散させた微小カーボン分散液から得た微小カーボン単分子体をプラスチック材料に混合して成形したことを特徴とする微小カーボン強化プラスチック成形体。
【請求項9】
請求項8に記載の微小カーボン強化プラスチック成形体において、前記微小カーボン分散液が、両電子イオン対を有する両性分子を含有することを特徴とする微小カーボン強化プラスチック成形体。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の微小カーボン強化プラスチック成形体において、前記微小カーボン単分子体が、前記微小カーボン分散液を凍結乾燥して得たものであることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック成形体。
【請求項11】
請求項8又は9に記載の微小カーボン強化プラスチック成形体において、前記微小カーボン単分子体が、前記微小カーボン分散液を乾燥して微小カーボン単分子膜から得たマスター樹脂ペレットとして混合されることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック成形体。
【請求項12】
請求項8〜11の何れかに記載の微小カーボン強化プラスチック成形体において、微小カーボン強化プラスチック成形体が、シート又はフィルム状であることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック成形体。
【請求項13】
請求項8〜12の何れかに記載の微小カーボン強化プラスチック成形体において、成形後又は成形途中で磁場若しくは電圧を印加するか又は延伸成形することにより微小カーボンを配向させたものであることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック成形体。
【請求項14】
請求項8〜13の何れかに記載の微小カーボン強化プラスチック成形体において、前記微小カーボンがカーボンナノチューブであることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック成形体。
【請求項15】
請求項8〜14の何れかに記載の微小カーボン強化プラスチック成形体において、前記プラスチック材料が透明プラスチック材料であり且つ前記微小カーボンが可視光の波長より小さいサイズのものであり、成形体の光透過率が80%以上であることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック成形体。
【請求項16】
請求項15に記載の微小カーボン強化プラスチック成形体において、前記プラスチック材料が、アクリル樹脂(PMMA)、ポリスチレン、ポリカーボネート(PC)、PAc、ポリオレフィン系樹脂から選ばれるプラスチック材料であることを特徴とする微小カーボン強化プラスチック成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−201965(P2008−201965A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41496(P2007−41496)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】