説明

微小器官外植片、及びその生産方法

【課題】微小器官(micro−organ)、その微小器官から抽出した抽出物、および前記抽出物を含有する医薬組成物を利用して、宿主組織内の血管新生を刺激する方法、および、外因性ヌクレオチド配列で形質転換された微小器官、その形質転換された微小器官を利用して血管新生促進因子を宿主組織に与える方法の提供。
【解決手段】微小器官外植片であって、前記微小器官外植片が細胞の集団を含み、前記細胞の少なくとも一部が少なくとも一種の外因性ポリヌクレオチド配列を含み、前記微小器官外植片がそれが由来する器官の微小構造を維持しており、同時に、微小器官外植片中の細胞に十分な栄養物と気体を拡散させ、かつ細胞排泄物を微小器官外植片から拡散させて、細胞毒性と微小器官外植片中の排泄物の蓄積及び不十分な栄養物が原因で付随して起こる死とを最小限にするように選択された寸法を有している微小器官外植片。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小器官(micro−organ)、その微小器官から抽出した抽出物、および前記抽出物を含有する医薬組成物を利用して、宿主組織内の血管新生を刺激する方法に関する。さらに、本発明は、外因性ヌクレオチド配列で形質転換された微小器官、およびその形質転換された微小器官を利用して血管新生促進因子を宿主組織に与える方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過去数年間に、多数の研究業績によって、血管新生を誘発し制御する分子機構に新しい知見が提供されている。血管内皮増殖因子(VEGF)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、アンギオポエチン(angiopoietin)などの血管新生促進因子が発見されたので、研究者達は、これらの因子を、虚血組織領域の血管再生を行う薬剤として使用することを検討している。遺伝子療法または組み換えタンパク質法を利用するいくつもの異なる方法が試みられている。動物による予備試験の結果は前途有望であったが、これまで行われた臨床試験は、期待はずれの試験結果になっている(FerraraとAlitalo,Nature Medicine 5(12)巻1359〜1364頁1999年)。
【0003】
臨床レベルで成功していないのは、これらの実験に利用される遺伝子療法又は組み換えタンパク質法が、少なくとも一部分、原因になっている。
【0004】
生体内での血管新生は、スティムコレーターとインヒビターの両者を含む因子の複雑で動的な組み合わせによって行われかつ制御されていることがわかっている(Iruela−ArispeとDvorak, Thrombosis and Haemostasis 78(1)巻672〜677頁1997年;GaleとYancopolous, Genes and Development 13巻1055〜1066頁1999年参照)。さらに、血管新生を誘発するには刺激を長時間維持することが必要であると考えられている。したがって、これらの問題に取り組まない現在の遺伝子療法および組み換え増殖因子法は、生体内の血管新生を促進するのに必要な状態を作ることができない。
【0005】
最近、本発明の発明者らは、身体の外部で、自律的に機能する状態を長期間にわたって維持できる微小器官を製造する方法を発表した。このような微小器官、その調製、その保存といくつかの使用は、例えば米国特許第5888720号、米国特許願第09/425233号および国際特許願第PCT/US98/00594号に記載されている。なおこれらの特許文献は、本願の好ましい実施態様の項に援用するものである。
【0006】
本発明を実施したところ、後記実施例の項でさらに詳細に述べるように、かような微小器官は、生組織に移植すると、新しい血管を顕著に誘発する制御された血管新生促進因子の維持された複雑なレパートリーを、生組織に提供することが発見されたのである。また、移植された微小器官が、正常な動物と老齢の動物の両者に外科手術で誘発された虚血領域をよみがえらせることができることも発見されたのである。
【0007】
したがって、本発明は、血管新生を誘発する新規で有効な方法、すなわち、虚血組織を治療して従来技術の方法の限界をのりこえるのに利用できる方法を提供するものである。
【0008】
課題を解決するための手段
本発明の一側面によって、第一哺乳類の組織に血管新生を誘発させる方法であって、第一哺乳類の組織内に少なくとも一つの微小器官を移植するステップを含んでなり、その少なくとも一つの微小器官が複数種の血管新生促進因子を産生して血管新生を誘発する方法が提供される。
【0009】
本発明の他の側面によって、第一哺乳類の組織に血管新生を誘発する方法であって、(a)少なくとも一つの微小器官から可溶性分子を抽出し、次に(b)ステップ(a)で抽出された可溶性分子の少なくとも一つの予め定められた投与量を、第一哺乳類の組織に投与するステップを含んでなる方法が提供される。
【0010】
本発明のさらに他の側面によって、複数種の細胞を含んでなる微小器官であって、その複数種の細胞の少なくとも一部が、少なくとも一種の外因性ポリヌクレオチド配列を含有し、そしてその少なくとも一種の外因性ポリヌクレオチド配列が、これら細胞で発現される少なくとも一種の血管新生促進因子の発現を制御することができる微小器官が提供される。
本発明のさらに別の側面によって、少なくとも一つの微小器官由来の可溶性分子の抽出物および医薬として許容できる担体を含んでなる医薬組成物が提供される。
【0011】
本発明のさらに他の側面によって、第一哺乳類の組織に血管新生を誘発する方法であって、(a)少なくとも一つの微小器官を増殖培地で培養してならし培地をつくり、(b)少なくとも一つの予め定められた培養期間の後、そのならし培地を収集し、次いで(c)ステップ(b)で収集したならし培地の少なくとも一つの予め定められた投与量を、第一哺乳類の組織に投与して、その組織に血管新生を誘発するステップを含んでなる方法が提供される。
【0012】
下記の本発明の好ましい実施態様の別の特徴によれば、前記増殖培地は最小必須培地である。
【0013】
前記好ましい実施態様のさらに別の特徴によれば、少なくとも一つの微小器官が第二哺乳類の器官組織由来の器官である。
【0014】
前記好ましい実施態様のさらに別の特徴によれば、第一哺乳類と第二哺乳類は単一個体の哺乳類である。前記好ましい実施態様のさらに別の特徴によれば、その器官は、肺臓、肝臓、腎臓、筋肉、脾臓、皮膚または他の内臓からなる群から選択される。
【0015】
前記好ましい実施態様のさらに別の特徴によれば、少なくとも一つの微小器官は二種以上の細胞型を含有している。
【0016】
前記好ましい実施態様のさらに別の特徴によれば、第一哺乳類はヒトである。
【0017】
前記好ましい実施態様のさらに別の特徴によれば、少なくとも一つの微小器官は、第一哺乳類の組織内に移植される前に、身体外で少なくとも4時間培養される。
【0018】
前記好ましい実施態様のさらに別の特徴によれば、少なくとも一つの微小器官が、哺乳類の組織に移植されたとき、生存性を保持するように調製される。
【0019】
前記好ましい実施態様のさらに別の特徴によれば、少なくとも一つの微小器官の寸法が、その少なくとも一つの微小器官内に最も深く位置している細胞の少なくとも一つの微小器官の最も近い表面からの距離が少なくとも約100μmでかつ約225〜350μmまでであるような寸法である。
【0020】
前記好ましい実施態様のさらに別の特徴によれば、複数の血管新生促進因子各々が前記少なくとも一つの微小器官内で独特の発現パターンを有している。
【0021】
前記好ましい実施態様のさらに別の特徴によれば、前記少なくとも一つの微小器官の細胞の少なくとも一部が、血管新生を制御するために選択される少なくとも一種の外因性ポリヌクレオチド配列を含有している。
【0022】
前記好ましい実施態様のさらに別の特徴によれば、前記少なくとも一種の外因性ポリヌクレオチド配列が、前記少なくとも一つの微小器官の細胞の少なくとも一部分のゲノムに組み込まれている。
【0023】
前記好ましい実施態様のさらに別の特徴によれば、前記少なくとも一種の外因性ポリヌクレオチド配列が、前記複数種の血管新生促進因子のうち少なくとも一種の血管新生促進因子の発現を制御するように設計されている。
【0024】
前記好ましい実施態様のさらに別の特徴によれば、前記少なくとも一種の外因性ポリヌクレオチド配列が、エンハンサーまたはサプレッサーの配列を含有している。
【0025】
前記好ましい実施態様のさらに別の特徴によれば、前記少なくとも一種の外因性ポリヌクレオチド配列の発現産物が、前記複数種の血管新生促進因子のうちの少なくとも一種の血管新生促進因子の発現を制御することができる。
【0026】
前記好ましい実施態様のさらに別の特徴によれば、前記少なくとも一種の外因性ポリヌクレオチド配列が、少なくとも一種の組み換え血管新生促進因子をコードしている。
【0027】
本発明は、血管新生を、哺乳類の組織内に誘発させるために有用な方法、抽出物および医薬組成物を提供することによって、現在知られている配置構成の欠点をうまく克服する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明を、例示だけを目的として添付図面を参照して説明する。ここで図面について詳述するが、図示されている詳細部分は、例示として、本発明の好ましい実施態様を例示考察することだけを目的とするものであり、本発明の原理と概念の側面の最も有用でかつ容易に理解される説明であると考えられることを提供するために提供されることを強調するものである。この点について、本発明を基本的に理解するのに必要以上に詳細に本発明の構造の詳細を示すこころみはせずに、本発明のいくつもの形態がどのように実施されるかを当業技術者に対して明らかにするため、図面で説明を行う。
【図1】図1は、移植された微小器官(矢印で示す)のまわりの新しい血管形成を示す写真である。
【図2】図2は、移植された微小器官に発現された各種の血管新生促進因子の相対レベルを示すグラフである。Ang1−アンギオポエチン1、Ang2−アンギオポエチン2、MEF2C−ミオサイトエンハンサー因子2C、VEGF−血管内皮増殖因子。
【図3】図3は、調製後、各種の期間、身体外で培養された微小器官から抽出されたRNAの血管新生促進因子特異的PT−PCR産物である。Actin−β−アクチン(対照)。
【図4】図4は、β−アクチンRT−PCR産物(対照)のインテンシティーに対して正規化した、図3に示すRT−PCR産物のデンシトメトリーで得た半定量データを示すグラフである。
【図5】図5は、微小器官を移植されたかまたは擬似移植された(対照)総腸骨結紮ラットの歩行パターンを示すヒストグラムである。(n)=13。三つの時間グループのP値は左から右へ順に0.16,1および0.841である。得点:0−完全な機能性、9−四肢を全く動かすことができない、10−四肢の損失。
【図6】図6は、動物を歩行挙動について採点する前に身体運動を行わせたことを除いて図5の実験グループと同じグループを示すヒストグラムである。三つの時間グループのP値は左から右へ順に0.0001,0.0069および0.06である。
【図7】図7は、微小器官を移植されたかまたは擬似移植された総腸骨動脈結紮マウスの歩行パターンを示すヒストグラムである。0−完全な機能性、9−四肢を全く動かせない、10−四肢の損失。三つの時間グループのP値は、左から右へ順に0.00025,0.00571および0.07362である。
【図8】図8は、同系マウスの皮下領域中に移植してから6ヶ月後のマウス脾臓由来の微小器官(MC矢印で示す)を示す画像である。その微小器官を囲んでいる新しく形成された血管のうちの一つを矢印で示している。
【図9】図9は、同系ラット由来の肺臓微小器官を移植されたラットの角膜を示す画像である。その移植された微小器官(矢印で示す)が新しく形成された血管で囲まれている。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、微小器官、微小器官から抽出した抽出物または前記抽出物を含有する医薬組成物を利用して、哺乳類の組織に血管新生を誘発する方法の発明である。具体的に述べると、本発明は、一つ以上の微小器官を移植することによって、または微小器官から抽出した可溶性抽出物であって好ましくは医薬組成物に含まれている抽出物を局所に投与することによって、哺乳類の組織に血管新生を誘発するのに利用できる。
【0030】
本発明の原理と作用は、図面とその説明によって十分に理解することができる。
【0031】
本発明の少なくとも一つの実施態様の詳細な説明を行う前に、本発明は、以下の説明に記載されるか、または以下の実施例の章に例示されている要素の詳細な構成と配置にその用途を限定されないと解すべきである。本発明は、他の実施態様を実施することができるかまたは各種の方式で実行または実施することができる。また、本願で利用される語法と専門用語は説明を目的とするものであり、限定とみなすべきではないと解すべきである。
【0032】
用語「微小器官(micro−organ)」は、本願で使用する場合、身体から取り出され、以下にさらに説明するように、細胞の生存性と機能を助成する方式で調製される器官組織を意味する。このような調製は、身体の外部で、予め定められた期間培養することによって行われる。
【0033】
複雑な多細胞生物は、あらゆる細胞各々が必要とする酸素、栄養素および排泄物の除去を支える血管のネットワークに依存している。血管のこの複雑なネットワークは、血管新生のプロセスによって創成され維持される。ヒトの場合、血管ネットワークの衰退は閉塞性動脈疾患をもたらし、この疾患は、西欧世界では病的状態と死亡の主要原因である。現在利用可能な大部分の治療法の選択肢は、血管バイパスの作成または血管形成術などの外科的方法などの侵襲性の方法に基づいている。これらの解決策は、大体は成功しているが、短命であるか、またはすべての患者に適用できるわけではない。血管新生は、組織と器官の形成の基本要素であるから、大部分の組織は、再生中に、新しい血管の生成を誘発する性能を保持している。従って、本発明の発明者らは、身体から取り出された組織は、本質的に、少なくとも再生しようとしているので、血管新生の刺激剤として利用できると想定している。
【0034】
本発明は、微小器官を利用することに基づいた、血管新生を誘発する新しい方法を提供するものである。このような微小器官は、器官組織の基本的な微小構造を保持しているが、同時に、器官移植体が栄養素や気体のソースからの距離が100〜450ミクロンまでであるように調製されている。このような微小器官は、自律的に機能し、かつエクスビボの培養物としておよび移植された状態で、長期間にわたって生存し続ける。
【0035】
微小器官は調製後ただちに利用できるが、場合によっては、身体の外部で長期間培養することが、生存能力を増大するため有利なことがあるということはわかるであろう。例えば、可溶性分子を抽出する場合、微小器官の培養が予め定められた期間(4時間という短時間または数日もしくは数週間という長時間でもよい)行われる。
【0036】
したがって、これらの微小器官またはその器官から抽出した抽出物を、血管新生を誘発するのに使用することは、その細胞の機能が、移植する前の各種の期間保存されていることに依存している。本発明は、特定の環境下で、器官移植体の各種組織層、例えば間葉層および上皮層での細胞の増殖が活性化されて、培養中に増殖し、分化し次いで機能するという発見に一部基づいている。
【0037】
移植体自体において提供される細胞−細胞の相互作用と細胞−マトリックスの相互作用は細胞の恒常性を支えるのに十分であるので、器官の微小構造と機能を、長期間にわたって保持する。用語「恒常性」は、本願で使用する場合、細胞の増殖と細胞損失とが平行していることと定義する。
【0038】
細胞の恒常性が保持されると、例えば、ソースの器官中に存在する自然の細胞−細胞相互作用と細胞−マトリックス相互作用が保持される。従って、細胞のお互いの配向また他の固定培養基(anchorage substrate)に対する配向、およびホルモンなどの制御物質の存在の有無によって、ソースの器官の生化学的活性と生物学的活性を適当に維持することができる。さらに、微小器官は、有意な壊死なしで、少なくとも48日以上培養によって維持することができる。
微小器官の移植体のソース
微小器官を分離できる哺乳類の例としては、ヒトなどの霊長類、ブタ例えば全体もしくは部分的に同系交配させたブタ(例えば縮小ブタ及び遺伝子導入ブタ)、げっ歯動物などがある。適切な器官の例としては、限定されないが、肝臓、肺臓、他の腸管由来の器官、心臓、脾臓、腎臓、皮膚および膵臓がある。
増殖培地
動物由来の細胞を培養するのに用いる組織培養培地が多数存在している。これらのうちいくつかは複雑で、いくつかは単純である。微小器官は、複雑な培地で増殖できると予想されるが、ダルベッコの最少必須培地(DMEM)などの単純な培地で、培養物を維持できるということが米国特許願第08/482364号に示されている。さらに、微小器官は、血清または他の生物学的抽出物例えば下垂体抽出物を含有する培地で培養できるが血清または他の生物学的抽出物を必要としないことが、米国特許願第08/482364号に示されている。さらに、微小器官の培養物は、血清なしで長期間にわたって維持することができる。本発明の好ましい実施態様では、微小器官の培養物を生体外で維持する際に、増殖因子は培地に含まれていない。
【0039】
最少培地でのポイントリガーディンググロース(point regarding growth)が重要である。現在、哺乳類の細胞を長期間増殖させるのに使用する大部分の培地または系は、未定義(undefined)のタンパク質を取り込むかまたは支持細胞を利用して、このような増殖を維持するのに必要なタンパク質を提供する。このような未定義のタンパク質が存在すると、微小器官の目的とする最終用途を妨害することがあるので、未定義のタンパク質の存在を最少限にする条件下で外植片を培養することが一般に好ましい。
【0040】
用語「最少培地」は、本願で使用する場合、細胞が培養中に、生存し続けて増殖するのに必要な栄養素だけを含有している化学的に定義された培地を意味する。一般に、最少培地は、生物学的抽出物、例えば増殖因子、血清、下垂体抽出物、または培養中の細胞集団の生存と増殖を支えるのに必要でない他の物質を含有していない。例えば、最少培地は一般に、少なくとも一種のアミノ酸、少なくとも一種のビタミン、少なくとも一種の塩、少なくとも一種の抗生物質、少なくとも一種の指示薬例えば水素イオン濃度を確認するために使用されるフェノールレッド、および少なくとも一種の抗生物質、並びに細胞が生存し増殖するのに必要な他の種々の成分を含有している。最少培地は血清を含有していない。各種の最少培地が、最少必須培地として、米国メリーランド州ゲイサーズバーグ所在のGibco BRLから市販されている。
【0041】
しかし、増殖因子および制御因子は前記培地に添加する必要はないが、これらの因子の添加または他の分化した細胞の接種を利用して、培養物中の増殖と細胞成熟を促進し、変えまたは変調させることができる。培養中の細胞の増殖と活性は、各種の増殖因子、例えばインシュリン、増殖ホルモン、ソマトメジン類、コロニー刺激因子類、エリトロポエチン、上皮増殖因子、肝性骨髄性因子(hepatic erythropoietic factor)(ヘパトポエチン)、ならびに他の細胞増殖因子類、例えばプロスタグランジン類、インターロイキン類、および天然の負の増殖因子類、繊維芽細胞増殖因子類およびトランスフォーミング増殖因子−β−ファミリーのメンバーによって影響を受ける。
【0042】
培養容器
微小器官は適切な培養容器中に維持され、かつ37℃にて、5%CO雰囲気内に保持される。培養物は、通気を改善するため振盪する。
【0043】
微小器官をその中に/その上に提供することが好ましい培養容器については、好ましい実施態様で、かような容器は一般にいかなる材料および/または形態のものでもよいといえる。培養容器は、各種の材料を使用して製造することができる。その材料としては、限定されないが、ナイロン(ポリアミド類)、ダクロン(ポリエステル類)、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート類、ポリビニル化合物類(例えばポリ塩化ビニル)(PVC)、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE;テフロン(登録商標))、サーマノックス(thermanox)(TPX)、ニトロセルロース、綿、ポリグリコール酸(PGA)、腸線縫合糸類、セルロース、ゼラチン、デキストランなどがある。これらの材料はいずれも織ってメッシュにすることができる。
【0044】
培養物を、長期間維持しなければならないかまたは凍結保存しなければならない場合、劣化しない材料、例えばナイロン、ダクロン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリレート類、ポリビニル類、テフロン(登録商標)類、綿などが好ましい。本発明に使用できる便利なナイロンメッシュはNitexであり、これは通孔の平均の大きさが210μmでナイロン繊維の平均直径が90μmのナイロン製濾過メッシュ(Tetko,Inc.,米国ニューヨーク州)である。
【0045】
外植片の寸法
起源の組織の細胞−細胞、細胞−マトリックスおよび細胞−ストロマ(cell−stroma)の構造を保持している外植片を分離することに加えて、その外植片の寸法が、例えばその微小器官を長期間にわたって例えば7〜21日以上維持しようとする場合、外植片内の細胞の生存度にとって極めて重要である。
【0046】
したがって、組織外植片の寸法は、三次元の微小器官中のあらゆる細胞に、十分な栄養素と酸素などの気体を拡散させ、かつ細胞排泄物を外植片から拡散させて、細胞毒性と微小器官中への排泄物の局在が原因で付随して起こる死とを最少限にするように選択される。したがって外植片の寸法は、専用の送達構造または合成基体なしで、各細胞に対する最少レベルの接近能(accessibility)が必要なことに基づいて決定される。米国特許願第08/482364号に記載されているように、この接近能は、表面積−容積指数が特定の範囲内にある場合に維持できることが発見されている。
【0047】
表面積−容積指数がこのような選択された範囲にあると、細胞を、単層中の細胞と類似の方式の拡散によって、栄養素に、および排泄物廃棄の経路にアクセスさせる。このレベルの接近能は、本願で、「アレフまたはアレフ指数(Aleph index)」として定義される表面積−容積指数が少なくとも約2.6mm−1である場合に、得ることができて維持することができる。第三次元(the third dimension)は、第三次元が変化すると、容積と表面積の両方に比率計的変化(ratiometric variation)を起こすので、表面積−容積指数を決定する際に無視した。しかし、アレフを決定する場合のaとxは組織切片の二つの最少寸法と定義しなければならない。
【0048】
用語「アレフ」は式1/x+1/a[式中、xは組織の厚みであり、そしてaは組織の幅である(単位mm)]で表される表面積−容積指数を意味する。好ましい実施態様で、外植片のアレフは、約2.7mm−1〜約25mm−1の範囲内であり、より好ましくは約2.7mm−1〜約15mm−1の範囲内であり、さらに一層好ましくは約2.7mm−1〜約10mm−1の範囲内である。
【0049】
アレフの例を表1に示す。例えば、厚み(x)が0.1mmで幅(a)が1mmの組織は、アレフ指数が11mm−1である。
【0050】
【表1】

【0051】
したがって、例えば、個々の微小器官内に最も深く位置している細胞は、個々の微小器官の最も近い表面からの距離が少なくとも約100μmでかつ約225〜350μmまでであるので、生体内の構造が保持され、同時に、細胞が、気体や栄養素のソースから約225〜300μmを超えて離れないことが保証される。
【0052】
特定の理論にとらわれることなく、三次元の培養系によって提供されるいくつもの因子が、その成功に寄与している。
【0053】
第一に、例えば上記アレフの計算結果を利用することによって外植片の大きさを適当に選択すると、栄養素を外植片のすべての細胞に十分に拡散させかつ細胞の排泄物を外植片のすべての細胞から外部へ十分に拡散させる。
【0054】
第二に、外植片は三次元の形態であるから、各種の細胞が、集密的に増殖し接触阻止を示しそして増殖と分裂を停止する単層培養物中の細胞とは対照的に、活発に増殖し続ける。外植片の細胞を複製することによる増殖因子と制御因子の生成は、例えば全容積にわたって静的である微小器官に対してさえも、培養中の細胞の増殖の刺激と分化の制御に部分的に関与している。
【0055】
第三に、外植片の三次元マトリックスは、生体内の対応する器官に見られるのと極めて近い細胞要素の空間分布を保持している。
【0056】
第四に、細胞−細胞の相互作用と細胞−マトリックスの相互作用によって、細胞の成熟を助ける局在微小環境を達成することができる。分化した細胞表現型を維持するには、増殖/分化因子のみならず、適当な細胞の相互作用が必要であることが認められている。
【0057】
本発明を実施する場合、以下の実施例の章でさらに説明するように、微小器官は、被移植者に移植されると、複雑なレパートリーの血管新生促進因子類の投与量を維持して移植を受けた宿主の組織内に新しい血管を形成することが発見された。また、微小器官が、正常な動物と老齢動物の両者の宿主組織の虚血を逆行できることも発見された。さらに、生体外で培養された微小器官も、同じレパートリーの血管新生促進因子を発現することが発見された。
【0058】
したがって、本発明の一つの側面によって、哺乳類、例えばヒトなどの組織に血管新生を誘発する方法が提供される。この方法は、少なくとも一つの微小器官を、哺乳類の組織内に移植することによって行われる。微小器官を移植するのに適切な組織の例としては、限定されないが器官組織または筋肉組織がある。
【0059】
このような移植は、標準の外科技法によって、または微小器官を投与するのに適切なゲージの針を使用する特別に改造したシリンジを利用して、哺乳類の目的とする組織の領域に、微小器官の製剤を注射することによって実施できる。
【0060】
移植するのに利用される微小器官は、移植を受ける哺乳類または同系の哺乳類の微小組織から調製することが好ましいが、移植する前または移植中に、移植片拒絶および/または移植片対宿主病(GVHD)を避けるために処置をするならば、異種組織も微小器官を調製するのに利用することができる。移植片の拒絶またはGVHDを予防または軽減する多数の方法が当業技術界では知られているので、本願ではそれ以上詳細に説明しない。
【0061】
本発明の好ましい一実施態様によれば、微小器官の細胞の少なくとも一部が少なくとも一種の外因性ポリヌクレオチド配列を含有している。このような単一もしくは複数種のポリヌクレオチド配列は、これらの細胞のゲノム中に安定して組み込まれていることが好ましいが、過渡的(transient)ポリヌクレオチド配列も利用できる。このような外因性ポリヌクレオチド類は、移植を行った後に、哺乳類の器官組織から微小器官の細胞中に導入することができ、または代わりに、哺乳類を、器官組織の外植片を調製する前に、外因性ポリヌクレオチドで形質転換することができる。哺乳類の細胞を形質転換する方法は、以下に詳細に説明する。
【0062】
単一もしくは複数のこのような外因性ポリヌクレオチドは、例えば、これら細胞内に発現される一種以上の内因性血管新生促進因子の発現を上方制御または下方制御することによって、血管新生を促進する働きをする。この場合、前記単一もしくは複数のポリヌクレオチドは、これら細胞内で発現される内因性血管新生促進因子の転写もしくは翻訳を制御するトランス作用もしくはシス−作用のエンハンサー要素もしくはサプレッサー要素を含んでいてもよい。哺乳類の細胞に利用できる適切な翻訳制御要素または転写制御要素の多数の例が当業技術界で知られている。
【0063】
例えば、転写制御要素は、特定のプロモーターからの転写を活性化するために必要なシス作用もしくはトランス作用の要素である(Careyら、J.Mol.Biol.,209巻423〜432頁1989年;Cressら、Science 251巻87〜90頁1991年;およびSadowskiら、Nature 335巻563〜564頁1988年)。
翻訳アクチベーターとして代表的なものは、カリフラワーモザイクウイルス翻訳アクチベーター(TAV)である(例えば、FuttererとHohn,EMBO J.10巻3887〜3896頁1991年参照)。この系では、ジ−シストロニックmRNA(di−cistronic mRNA)が産生される。すなわち、二つのコード領域が、同じプロモーターから同じmRNAに転写される。TAVがない場合、第一シストロンだけがリボソームによって翻訳される。しかし、TAVを発現する細胞内では、両方のシストロンが翻訳される。
【0064】
シス作用制御要素のポリヌクレオチド配列は、通常行われる遺伝子ノックイン技法によって、微小器官の細胞中に導入することができる。遺伝子ノックイン/ノックアウト法を調べるには、たとえば以下の文献を参照されたい。すなわち、米国特許の5487992号、5464764号、5387742号、5360735号、5347075号、5298422号、5288846号、5221778号、5175385号、5175384号、5175383号、4736866号;BurkeとOlson,Methods in Enzymology 194号251〜270頁1991年;Capecchi,Science 244巻1288〜1292頁1989年;Daviesら、Nucleic Acids Research 20(11)巻2693〜2698頁1992年;Dickinsonら、Human Molecular Genetics 2(8)巻1299〜1302頁1993年;DuffとLincoln,「Insertion of a pathogenic mutation into a yeast artificial chromosome containing the human APP gene and expression in ES cells」,Research Advances in Alzheimer’s Disease and Related Disorders,1995年;Huxleyら、Genomics 9巻742〜750頁1991年;Jakobovitsら、Nature 362巻255〜261頁1993年;Lambら、Nature Genetics 5巻22〜29頁1993年;PearsonとChoi,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90巻10578〜10582頁1993年;Rothstein,Methods in Enzymology 194巻281〜301頁1991年;Schedlら、Nature 362巻258〜261頁1993年、Straussら、Science 259巻1904〜1907頁1993年であり、国際特許願公開のWO 94/23049号、WO 93/14200号、WO 94/06908号およびWO 94/28123号も情報を提供する。
【0065】
また、内因性血管新生促進因子の下方制御は、アンチセンスRNAによって達成できる。この場合、単一もしくは複数種のポリヌクレオチドが、微小器官の細胞内で転写された血管新生促進因子のmRNA配列に相補的な配列をコードすることができる。また下方制御は、遺伝子ノックアウト法によって行うことができる。
【0066】
また上方制御は、過剰発現により、または高いコピー数の一種以上の血管新生促成因子コード配列を提供することによって達成できる。この場合、外因性ポリヌクレオチド配列は、一種以上の血管新生促進因子をコードすることができ、このような血管新生促進因子としては、例えば限定されないが、哺乳類発現ベクターの適切なプロモーターの転写制御下に配置することができるVEGF、bFGF、Ang1またはAng2がある。適切な哺乳発現ベクターとしては、限定されないが、Invitrogenから入手できるpcDNA3,pcDNA3.1(+/−),pZeoSV2(+/−),pSecTag2,pDisplay,pEF/myc/cyto,pCMV/myc/cyto,pCR3.1;Promegaから入手できるpCI;Stratageneから入手できるpBK−RSVとpBK−CMV;Clontechから入手できるpTRES;およびそれらの誘導体がある。
【0067】
外因性ポリヌクレオチド配列を、哺乳類の細胞に導入する多数の方法が当業技術界に知られている。このような方法としては、限定されないが直接DNAアップティク法(direct DNA uptake technique)およびウイスルもしくはリポソーム仲介形質転換法(さらに詳細を知るためには、例えば「Methods in Enzymology」1〜317巻Academic Press参照)がある。核酸をコートされた粒子によって、微小器官に衝撃を与える方法も考えられる。
【0068】
微小器官内で発現される血管新生促進因子は、微小組織から、粗製もしくは精製された抽出物として可溶性相で抽出し、次いで、血管新生を誘発するため、直接利用するかまたは宿主組織中に局所投与するため(例えばvia inで)医薬組成物の一部として利用できることは分かるであろう。微小器官は、移植後または培養中の異なる時点で、異なるレベルの各種の血管新生促進因子を発現するので、続けて局所投与すると、移植された微小器官または培養された微小器官の一過性発現物に似ている可溶性分子を、異なる微小器官培養物から異なる時点に抽出することができる。
【0069】
従って、本発明の別の側面によって、哺乳類の組織中に、血管新生を誘発する別の方法が提供される。この方法は、微小器官から可溶性分子を抽出し、次にその抽出された可溶性分子の少なくとも一つの予め定められた投与量を、哺乳類の組織に局所投与することによって実施される。多数の投与方法が当業技術界で知られている。医薬組成物に関するこれらの方法のいくつかの詳細な説明を以下に述べる。
【0070】
上記のように、本発明の別の好ましい実施態様によって、可溶性抽出物は医薬組成物に含有されており、またその医薬組成物は、可溶性抽出物の身体標的組織に対する接近能または標的指向性を安定化および/または促進するのに役立つ医薬として許容できる担体も含有している。
【0071】
医薬として許容できる担体の例としては、限定されないが、生理的溶液、ウイルスカプシド担体、リポソーム担体、ミセル担体、錯カチオン剤担体、ポリカチオン担体例えばポリリシンおよび細胞担体がある。
【0072】
医薬組成物の「有効成分」を構成する前記可溶性抽出物は、個体に、各種の投与方式で投与することができる。
【0073】
適切な投与経路としては、例えば、筋肉内、皮下および髄内の注射、ならびに髄腔内、直接脳質内、静脈内、腹腔内、鼻腔内または眼内の注射を含む経粘膜または非経口の送達経路がある。
【0074】
組成物または抽出物は、全身方式ではなくて、例えば、個体の虚血組織領域に直接注射することによって局所に投与する方が好ましい。
【0075】
本発明の医薬組成物は、当業技術界で公知の方法、例えば通常の混合、溶解、顆粒化、糖衣錠製造、研和、乳化、被包、エントラッピング(entrapping)または凍結乾燥の方法によって製造することができる。
【0076】
したがって、本発明で使用する医薬組成物は、有効成分を医薬として使用できる製剤に加工しやすくする添加剤および助剤を含む一種以上の生理学的に許容できる担体を使用する通常の方式で配合することができる。適正な配合は、選択された投与経路によって決まる。
【0077】
注射用に、有効成分は、水溶液に配合することができ、生理的に適合性の緩衝液、例えばハンクス液、リンゲル液または生理的塩緩衝液に配合することが好ましい。経粘膜投与の場合、透過すべきバリヤーに対して適当な浸透剤が配合に使用される。このような浸透剤は当業技術界では広く知られている。
【0078】
本願に記載されている組成物は、例えばボーラス注入または持続静脈注射による非経口投与用に配合することができる。注射用配合物は、単位剤形で、例えばアンプルまたは任意に保存剤を添加したマルチドーズ(multidose)容器で提供できる。これらの組成物は、油性もしくは水性の賦形剤による懸濁液、溶液または浮濁液でもよく、そして懸濁化剤、安定剤および/または分散剤などの配合剤を含有していてもよい。
【0079】
非経口投与用の医薬組成物としては、水溶性の形態の有効成分の水溶液がある。さらに、有効成分の懸濁液は、適当な油または水がベースの注射用懸濁液として製造することができる。適切な親油性の溶媒または賦形剤としては、脂肪油例えばゴマ油または合成脂肪酸エステル例えばオレイン酸エチル、トリグリセリド類もしくはリポソーム類がある。水性注射用懸濁液は、その懸濁液の粘度を高くする物質、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールまたはデキストランを含有していてもよい。また、この懸濁液は、高濃度の溶液を製造できるように、有効成分の溶解度を増大する適切な安定剤もしくは薬剤を任意に含有していてもよい。
【0080】
さらに本発明の組成物は、局在ポンプ(localized pump)または個体の虚血組織内に移植できる徐放容器を通じて送達することができる。
【0081】
血管新生促進因子は一般に、プロデューシング細胞(producing cell)から分泌されるので、微小器官を適切な培地で培養し、次に分泌された血管新生促進因子を含有するならし培地を予め定められた時点で集めて、可溶性抽出物について先に述べたように利用することができる。
【0082】
したがって、本発明のさらに別の側面によって、第一哺乳類の組織内に血管新生を誘発する方法が提供される。本発明のこの側面による方法は、少なくとも一つの微小器官を増殖培地内で培養してならし培地をつくり、少なくとも一つの予め定められた培養期間の後、ならし培地を集め、次いでそのならし培地の少なくとも一つの予め定められた投与量を、第一哺乳類の組織内に投与して、その組織内に血管新生を誘発することによって行われる。
【0083】
好ましくは、前記増殖培地は、前記ならし培地の目的とする機能を妨害するかまたは投与された哺乳類に望ましくない反応を起こす未定義のタンパク質または他の増殖因子を含有していない最少必須培地(上記の)である。
【0084】
前記収集したならし培地は、アフィニティーカラムなどのクロマトグラフィーの技法を使用して処理され、哺乳類に投与したとき血管新生を誘発するのに適切な一連の血管新生促進因子を含有する実質的に純品の製剤を精製することができることが分かるであろう。
【0085】
さらに、本願に記載のならし培地と可溶性抽出物が、先に述べたような外因性ポリヌクレオチドを含有する微小器官から誘導することができることが分かるであろう。このような場合、利用される外因性ポリヌクレオチドが血管新生促進因子をコードしているとき、目的としている投与される哺乳類に適した外因性ポリヌクレオチドの配列を選択する。例えば、可溶性抽出物またはならし培地がヒトの宿主(recipient)に投与される場合、ヒトのポリヌクレオチド又はヒト化外因性ポリヌクレオチドを利用することが好ましい。
本発明が教示する微小器官は、調製に引き続いて利用することができ、あるいは冷凍保存して使用するまで−160℃で貯蔵することができる。例えば、微小器官は、10%のDMSO(ジメチルスルホキシド)と20%の血清の存在下、徐々に冷凍することによって冷凍保存することができる。
【0086】
この冷凍は、例えば微小器官を平坦なシート(例えば、アルギネートなどの半透性マトリックス)内に被包し、その被包された微小器官を、その大きさとごく近い寸法の密封可能な滅菌合成プラスチック製バッグ内に挿入することによって行うことができる。前記バッグは一方の末端に、一つのプラスチック製チューブ入口を備え、バッグの反対側の末端に一つのプラスチック製チューブ出口を備えている。微小器官を被包している前記平坦シートが入っている前記密封されたプラスチック製バッグを次に、10%のDMSOと20%の血清を含有するHam’s F12などの標準培養培地で灌流し次いで徐々に冷凍して−160℃で貯蔵できる。
【0087】
心臓血管医療の重要な目標は、外科によるバイパス形成を、治療的血管新生で代替することである。しかし、血管新生促進因子を、冠動脈または四肢の虚血の動物モデルに使用したとき、かなりの効力が観察されたにもかかわらず、臨床試験の結果は期待はずれであった。最近、臨床試験の不首尾は、利用される血管新生促進因子またはこれら因子の組み合わせを使用することが原因であるかもしれないということが示唆された。本発明の血管新生法は、従来技術の方法のこのような限界を克服するものである。
【0088】
本発明は、血管新生が、いくつもの制御因子によって仲介される複雑で高度に制御されて維持されているプロセスであることを確認する新規な方法を提供するものである。本発明が提供する試験結果は、身体の内外の両方における血管新生の誘発を研究することができ、その結果、重要な制御因子の発現パターンを立証できるモデルを提供する。本願に提供した試験結果は、移植された微小器官が、身体の内外の両方で協調方式にていくつもの重要な血管新生促進因子を発現することを示している。さらに、生体内の実験で示されているように、微小器官は、血管新生促進因子を転写することによってのみならず、新しい血管の形成を誘発することによって真正の血管ポンプ(genuine angiopump)として機能する。さらに、その誘発の程度は、形成される血管が、周囲の領域を灌注して、マウスやラットに人工的に誘発させた低酸素性組織領域を救出するのに十分な程度である。
【0089】
下記実施例の章で述べるラットの虚血のモデルは、不可逆損傷が全く起こらないので慢性虚血に似ているようである。未処置の動物の場合、虚血は身体運動(exertion)の後だけ現れた。恐らく、側副循環が、四肢を生存可能に保つのに十分であるが、追加の誘発(challenge)に直面したときに正常に機能させるには不十分である。微小器官の移植は、虚血領域への血液の供給を増大することによって、この症状を逆行させたようである。この試験結果は微小器官で処置したグループと対照グループとの間に有意な差を示しており、その差は疑いもなく、微小器官による血管新生の誘発が原因である。
【0090】
本願で提供されるマウスシリーズの生体内救助実験では、虚血障害が増大した。マウスは、ラットに比べて尾動脈の発達が低いため後脚への側副循環が劣っている。このグループでは、壊疽や自己切断(autoamputation)などの急性の不可逆虚血損傷の徴候が対照グループに検出された。この知見は、本発明が救済法にも有用であることを示唆しているが、この論点はさらに試験する必要がある。
【0091】
以下に示す追加の一連の試験では、すでに病気にかかっていた動物に虚血を誘発することによって、虚血の誘発を一層増大させた。やはり、不可逆の虚血損傷が、対照の動物にのみ起こった。対照動物に対する損傷は、非常に重篤であったのでストレステストを試みる余地はなかった。マウスの数は少数であったが差は顕著であった。これらの結果は、微小器官が、特定タイプの末梢血管の疾患に冒されている組織内にさえも血管新生を誘発できることを示しているので特に重要である。
【0092】
従って、本発明は、虚血組織を救助するかまたは閉塞した血管のまわりに自然のバイパスを形成するために、宿主組織内に血管の形成を誘発し維持する方法と組成物を提供するものである。
【0093】
本発明の追加の目的、利点および新規な特徴は、下記実施例を考察すれば、当業技術者には明らかになるであろう。なおこれら実施例は本発明を限定するものではない。さらに、先に詳述されかつ本願の特許請求の範囲の項に特許請求されている本発明の各種実施態様と側面は各々、下記実施例の実験によって支持されている。
【実施例】
【0094】
上記説明とあいまって、以下の実施例を参照して本発明を例示する。なおこれら実施例によって本発明は限定されない。
【0095】
本願で使用される用語と、本発明で利用される実験方法には、分子生化学、微生物学および組み換えDNAの技法が広く含まれている。これらの技法は文献に詳細に説明されている[例えば以下の諸文献を参照されたい。「Molecular Cloning:A laboratory Manual」Sambrookら1989年;Ausubel,R.M.編1994年「Current Protocols in Molecular Biology」I〜III巻;Ausubelら著1989年「Current Protocols in Molecular Biology」John Wiley and Sons,米国メリーランド州バルチモア;Perbal著「A Practical Guide to Molecular Cloning」John Wiley & Sons,米国ニューヨーク1988年;Watsonら、「Recombinant DNA」Scientific American Books、米国ニューヨーク;Birrenら編「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」1〜4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、米国ニューヨーク1998年;米国特許の4666828号、4683202号、4801531号、5192659号および5272057号に記載される方法;Cellis,J.E.編「Cell Biology:A Laboratory Handbook」I〜III巻1994年;Coligan,J.E.編「Current Protocols in Immunology」I〜III巻1994年;Stitesら編「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton & Lange、米国コネティカット州ノーウォーク1994年;MishellとShiigi編「Selected Methods in Cellular Immunology」、W.H.Freeman and Co.、米国ニューヨーク1980年;また利用可能な免疫検定法は、例えば以下の特許と科学文献に広範囲にわたって記載されている。米国特許の3791932号、3839153号、3850752号、3850578号、3853987号、3867517号、3879262号、3901654号、3935074号、3984533号、3996345号、4034074号、4098876号、4879219号、5011771号および5281521号;Gait,M.J.編「Oligonucleotide Synthesis」1984年;Hames,B.D.およびHiggins S.J.編「Nucleic Acid Hybridization」1985年;Hames,B.D.およびHiggins S.J.編「Transcription and Translation」1984年;Freshney,R.I.編「Animal Cell Culture」1986年;「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press 1986年;Perbal,B.著「A Practical Guide to Molecular Cloning」1984年および「Methods in Enzymology」1〜317巻、Academic Press;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、Academic Press、米国カリフォルニア州サンジエゴ1990年;Marshakら、「Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual」、CSHL Press、1996年;なおこれらの文献類は、あたかも本願に完全に記載されているように援用するものである]。その外の一般的な文献は、本明細書を通じて提供される。本明細書に記載の方法は当業技術界で周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。本明細書に含まれるすべての情報は本願に援用するものである。
【0096】
実施例1
材料と実験方法
動物実験の認可は、ヘブライ大学のthe Animal Care and Use Committee of the Faculty of Scienceから得た。
微小器官の調製:
成熟動物(C−57マウスまたはSprague Dawleyラット)をCOで窒息させて殺し次いで肺臓を滅菌条件下で取り出した。その肺臓を氷上に保持し、次にリンゲル液または4.5g/l D−グルコース含有DMEMで一回すすいだ。その肺臓をSorvall組織チョッパーできざんで幅が約300μmの小片にすることによって微小器官を調製した。その微小器官を、100単位/mlのペニシリン、1mg/mlのストレプトマイシンおよび2mMのL−グルタミン(Biological Industries)を含有するDMEMで2回すすぎ次いで使用するまで氷上に保持した。
【0097】
微小器官の移植:
体重1g当たり0.6mgのナトリウムペントバルビトールを使用して、成熟C−57マウスを麻酔した。マウスの毛をそって、胃の上方の領域の皮膚に長さが約2cmの切開部分を作った。止血鉗子を使用して、前記切開部分の両側に皮下「ポケット」をつくり、8〜9個の微小器官を各ポケットに移植した。なお移植は、微小器官を筋肉層の上に単に層状に挿入することによって行った。切開部を縫合し、次にこれら動物を暖かくて明かりをつけた部屋に数時間保持し、次いで動物ハウスに移した。4頭の動物を、移植を行った後、4時間後、24時間後、72時間後または7日後に殺し、移植した微小器官を、外科顕微鏡下でまわりの組織から切り離してRNAを抽出するのに利用した。その抽出したRNAを逆転写させ、得られたcDNAを、標準の方法を利用して、PCR分析用の鋳型として使用した。そのPCR反応に利用したオリゴヌクレオチドプライマーの配列、予想される産物の大きさおよび関連事項を下記表2に示す。
【0098】
【表2】

* 約320bpの別の分離したバンドが検出されることが多い。なおこのバンドの起源は不明である。** プライマー(Ang1)またはプライマー配列(VEGF)はご親切に、イスラエルのEli Keshet教授から提供していただいた。*** VEGF mRNAは選択的スプライシングを受ける。PCR産物の大きさは、VEGF121の場合444bpであり、VEGF165の場合573bpであり、そしてVEGF189の場合645bpである。**** Ibrahimら、Biochimica et Biophysica Acta 1403巻254〜264頁1998年。
【0099】
濃度測定分析(densitometric analysis)と定量:
各PCR反応生成物10μlずつを、臭化エチジウムで染色した1.5%アガロースゲル中に電気泳動させた。得られたゲルを、Macintosh Centris 660AVコンピュータ、およびToyo Optics TVズームレンズ(75〜125mm、F=1.8、Colkinオレンジ02フィルター付き)を具備するFujifilm Thermal Imaging Systemを利用して画像にした。濃度測定分析は、パブリック・ドメイン・ソフトウェアのNIH 1.61分析ソフトウェアを使用して実施した。定量は、各PCR産物の発現レベルを、β−アクチンの場合に得られたものに正規化することによって行った。PCR反応はすべて2回ずつ行った。各種VEGFアイソフォームの相対発現レベルの統計的分析を、移植の前後の非対試料について、ウェルチのt−検定法を使って平均値を比較することによって行った。
【0100】
虚血組織の救助実験:
1〜4ヶ月齢で体重が200〜300gの32頭のSprague Dawleyラットを利用した。各ラットの左総腸骨動脈を結紮し、腸骨分岐部のすぐ近位側の大動脈分岐部に、体重1g当たり0.9〜1.1mgのペントタールを使用して麻酔したラットから切りとった。16頭のラットに、虚血を誘発してから各々24時間後に3〜4個の微小器官を移植した。これらの微小器官は、筋肉内と皮下に、大腿動脈にそって(内側に)および坐骨神経にそって(外側に)移植した。残りの16頭のラットには、虚血を誘発してから24時間後に疑似移植(sham implantation)を行った。
【0101】
1〜3ヶ月齢で体重が19〜27gの26頭のC57/Bマウスも試験した。麻酔をかけたマウスの左総腸骨動脈を結紮して、腸骨分岐部のすぐ近位側の該動脈分岐部で切り取った。3〜4個の微小器官を、各マウスに、虚血を誘発してから24時間後に移植した。9頭のマウスは、筋肉内と皮下に、近位左後足の大腿骨動脈にそって(内側に)および坐骨神経にそって(外側に)移植された。17頭の対照マウスは、虚血誘発後、移植するために準備したが移植は行わなかった。手術中に静脈または神経を損傷した動物および著しく出血した動物は試験から除外した。
【0102】
22ヶ月齢で体重が24〜28gの7頭の老C57/Bマウスも、先に述べたのと同様に、左総腸骨動脈の結紮と切取りを行った。3頭には、健常の同系マウスから取り出した微小器官を、直ちに移植した。4頭には直ちに疑似移植を行った。手術中に、静脈もしくは神経の損傷または著しい出血はなかった。
【0103】
機能検定:
動物は、移植後、第一日目と第二日目に、神経の損傷を除外するために試験を行った。この試験は、動物が浮かんだままでいるためにはすべての四肢を常に動かしている必要があるように水位を設定された微温の水浴で、動物を泳がせることからなる試験である。運動の時限を徐々に増大した。第一週中は、浮かんだままでいようとする努力が失われるまでの時限を3分間とした。第二週中、その時限を5分間まで上げたが、第三週から、時限はさらに6分間にした。跛行度を評価するため0から10までの尺度を作った。0〜1の得点は正常または正常に近い歩行を示す。2〜3の得点は体重を正常に支持する軽い(slight)かないしは中位の跛行を意味する。4〜5の得点は、体重支持に障害がある中位の跛行を示す。6〜7の得点は過酷な跛行を示す。8〜9の得点は、機能しない四肢、萎縮またはれん縮を示し、そして得点10は壊死または自己切断(autoamputation)を意味する。これらの得点は、実験に参画しておらずかつその前の動物の処置を知らない独立した観察者が与えた。
【0104】
血管造影:
移植後、4日目、14日目、26日目と31日目に何頭かのラットの血管造影を行った。これらのラットは先に述べたのと同様に麻酔をかけて、P10カテーテルを、右表在大腿動脈を通じて導入して、大動脈中に配置した。1cc Telebrixのボーラス注入液を注射して、0.5秒間毎に写真を撮影した。血管造影を行った動物は、その後、試験グループから除外した。
【0105】
実験結果
移植された微小器官は血管新生を誘発する:
図1は、移植された微小器官に対する周囲組織の反応を示す。微小器官は、同系動物の皮下に移植すると、その微小器官の方に(図1の矢印)血管新生反応を誘発する。主要血管が生成し、分枝してより細い血管になって、移植された微小器官を囲む毛細血管のネットに枝分かれしている。
【0106】
微小器官は、同系マウスの皮下に移植されると、血管新生促進因子の持続性の動的アレイ(sustained and dynamic array)を転写する。図2は、微小器官から抽出したRNAについて行ったRT−PCR分析によって確認された、いくつかの既知の血管新生促進因子の代表的な半定量的分析の結果を示す。上記結果から分かるように、血管新生促進因子の強い誘発が、移植後(PI)4時間の時点で起こっている。この初期誘発に続いて、個々の促進因子は各々、以下に詳述するように異なる発現パターンをとる。
VEGF:VEGFの転写レベルは、PI 24時間まで上昇し続けた。PI 3日目に、VEGFの転写レベルが低下する。その後の数日間、この血管新生促進因子の低いmRNAレベルが検出されたが、このレベルは、このようにして形成された新しい血管新生状態を維持するために恐らく必要である。PI 7日目に、VEGF mRNAは、移植の時点(t)で、微小器官に検出されたのと類似のレベルに戻った。
アンギオポエチン1(angiopoietin 1):Ang1 mRNAのレベルは、最初のPI 4時間には増大したが変動が大きかった。PI 1日目〜3日目に、転写は、移植の時点(t)の微小器官について検出されたレベルより一層低いレベルまで低下した(Maisonpierreら、Science 277巻55〜60頁1997年;GaleとYancopolous 1999年の前掲文献参照)。PI 7日目に、Ang1のmRNAは、tの時点で検出されたのと類似のレベルまで戻った。
【0107】
アンギオポエチン2:Ang2(Ang1のアンタゴニスト)は、PI 24時間にて、高レベルで転写された。mRNAのレベルはPI 3日目と7日目に低下したが、これらのレベルはtにおいて検出されたレベルより依然として高かった。これは恐らく、移植された微小器官中およびそのまわりに血管が再形成されているためである。
【0108】
したがって、これらの結果から明らかなように、移植された微小器官は、血管新生の制御に関与している因子すなわちスティミュレーターとインヒビターの両者の動的アレイを転写する。移植された微小器官のまわりの新しい血管の生成に関与するこの転写パターンは、少なくともPI 1週間の期間にわたって維持される。
【0109】
微小器官は、培養されると、血管新生促進因子の持続性の動的アレイを転写する:
微小器官がエクスビボで培養されたときに、血管新生促進因子を転写する性能を確認するため、上記のようにして調製した微小器官を、1ヶ月にわたる期間、血清なしで増殖させた。試料を各種の時点で取り出して、いく種類もの因子のmRNAのレベルを検定した。図4は、培養した微小器官から抽出したRNAについて行ったRT−PCRで確認されたいくつもの既知の血管新生促進因子(図3)の代表的な半定量分析の結果を示す。図3と4に示されているように、血管新生促進因子発現の強い誘発が、培養をはじめて4時間後に起こっている。この初期誘発に続いて、異なる促進因子は各々、以下に詳細に説明するように、異なる発現パターンを示している。
【0110】
VEGF:VEGFの発現レベルは、培養をはじめてから24時間上昇し続けた。培養してから3日目にVEGFの発現レベルは低下したが、PI 7日目に再び上昇した。その後の数日は、VEGFの発現レベルが、低下し、次いで培養開始の時点で微小器官が発現したレベルと類似のレベルまで戻る。
【0111】
アンギオポエチン1:Ang1発現のレベルは、培養をはじめて最初の4時間は増大したが、変動が大きかった。培養をはじめてから1日目〜3日目は発現が、培養の時点で検定したレベルよりさらに低いレベルまで低下した。培養をはじめてから7日目に、Ang1の発現は、培養の時点のレベルに類似のレベルまで戻った。
【0112】
アンギオポエチン2:Ang2(Ang1のアンタゴニスト)は、培養をはじめて第1日中、高レベルで発現された。この発現レベルは、培養をはじめてから3日目と7日目に低下したが、培養の時点の発現レベルより依然として高い。
【0113】
これらの試験結果から明らかなように、身体外で培養される微小器官は生体外で1ヶ月にわたって生存可能でかつ機能し、血管新生の制御に関与するスティミュレーターとインヒビターの両者を含む血管新生促進因子の動的アレイを発現する。
【0114】
微小器官を移植すると、ラットとマウスの四肢の虚血を逆行させる:
シリーズ1:32頭のラットの左総腸骨動脈を先に述べたのと同様にして結紮して切り取った。これらラットのうち16頭に微小器官を移植し、残りの16頭のラットは対照群(疑似手術)として利用した。32頭のラットはすべて手術後、生存していた。身体運動を行う前は、これら2群の間に有意差は検出されなかった(図5)。身体運動を行った後、有意差が検出された。すなわち、対照群の累積平均跛行得点は4.8であったが一方微小器官を移植された群の得点は1.6であった(図6)。類似の結果が、試験期間全体を通じて記録された。対照群の得点は、手術後(PO)6〜10日では5であり、PO 11〜15日では5であり、そしてPO 17日では4であった。微小器官を移植された群の得点はそれぞれ1.67,1.5および1.7であった。微小器官移植群には平均得点が6.5のラット一頭が含まれていたことに注目すべきである。組織学的検査の結果、このラットに移植した微小器官は壊疽器官であることが明らかになった。
【0115】
シリーズ2:26頭の若いC57/Bマウスを、手術による損傷または手術前の死亡なしで先に述べたようにして手術した。これらのマウスのうち9頭に微小器官を移植し、残りの17頭は対照(疑似手術)として利用した。17頭の対照マウスのうち4頭が、虚血誘発四肢に壊疽を発生してPO 2〜3日目に死んだ(23.5%)。この群の他の一頭のマウスが、手術後8日目に、萎縮した一本の肢の自己切断が起こった(5.9%)。微小器官を移植したマウスには、壊疽、自己切断または手術後の死は全く発生しなかった(0%)。対照群の身体運動後の平均累積跛行得点は6であり、各得点は、PO 5〜9日では7.7で、PO 13〜19では6.2で、そしてPO 21〜25日では4.1であった。微小器官移植群の平均累積跛行得点は2.4であり、各得点は、PO 5〜9日では1.8で、PO 13〜19日では2.2であり、そしてPO 21〜25日では3.1であった(図7)。
【0116】
微小器官の移植によって、老マウスの虚血四肢が救助される:
ステージ3:7頭の老齢C57/Bマウスの手術を行ったが、手術による損傷または死亡はなかった。3頭のマウスに微小器官の移植を行い、4頭のマウスは対照として利用した。対照群のうち1頭は壊疽を発生してPO 3日目に死亡し(25%)、1頭はPO 5日目に一本の萎縮肢の自己切断を起こした(25%)。残りの2頭のマウスは、四肢が全く機能せず静止していた(跛行指数の得点は8であった)。微小器官を移植したマウスはいずれも壊疽または自己切断を全く起こさず(0%)、1週間目の時点の平均跛行得点は5.7であった。
【0117】
移植された微小器官は生存可能であり血管を新生する:
サンプリングしたラットの試料において、微小器官移植片は生存可能であり、かつその構造が保存されかつ拒絶の証拠は全くなかった。微小器官と周囲の筋肉組織に、肉眼で見える血管が新生した。
【0118】
血管造影は、微小器官移植ラットの血管新生活性を明確に示す:
PO 4日目、14日目、26日目および31日目に血管造影を行った。微小器官で処置した群と対照群の間には、微小であるが検出可能な差があった。移植をうけた四肢に増大した血管新生活性の証拠は、PO 4日目という早期に検出された。大きさが中位の新しい血管が、移植をうけた四肢に、PO 16日目に目視できた。
【0119】
実施例2
脾臓の微小器官
マウスの脾臓の微小器官を、先に述べたのと同様にして調製して、同系のマウスに移植した。図8は、同系のマウスの皮下に移植し、移植してから6ヶ月後の時点で検査した微小器官(矢印)を示す。図8に明瞭に示されているように、該微小器官は血管新生を誘発した。実際に、形成された血管のパターンは、その微小器官が宿主の固有器官であったという印象を与えている。
【0120】
実施例3
微小器官の角膜への移植
角膜は、血管を欠いている身体の唯一の組織である。それ故、角膜は血管新生を試験するのに優れたモデル組織である。ラット肺臓の微小器官を、同系ラットの角膜に移植した。図9に示すように、最も顕著な血管新生パターンがこの角膜にも誘発された。これらの顕著な試験結果は、やはり、微小器官が血管新生を誘発し促進するのに有効であることを立証している。
【0121】
本発明を、その具体的実施態様とともに説明してきたが、多くの変形と変更が当業技術者には明らかであることは明白である。したがって、本発明は、本願の特許請求の範囲の精神と広い範囲内に入っているこのような変形と変更をすべて含むものである。本願に開示されておりおよび/または本明細書に記載のGeneBankの受託番号によって挙げられているすべての刊行物、特許、特許願および配列は、あたかも、個々の刊行物、特許、特許願または配列各々が、本願に具体的にかつ個々に参照して示されているように、本願に援用するものである。さらに、本願における任意の文献の引用もしくは確認は、このような文献が本発明に対する従来技術として利用できるという自白とみなすべきではない。
【配列表フリーテキスト】
【0122】
配列番号1〜8はいずれもPCRプライマーの配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小器官外植片であって、前記微小器官外植片が細胞の集団を含み、前記細胞の少なくとも一部が少なくとも一種の外因性ポリヌクレオチド配列を含み、前記微小器官外植片がそれが由来する器官の微小構造を維持しており、同時に、微小器官外植片中の細胞に十分な栄養物と気体を拡散させ、かつ細胞排泄物を微小器官外植片から拡散させて、細胞毒性と微小器官外植片中の排泄物の蓄積及び不十分な栄養物が原因で付随して起こる死とを最小限にするように選択された寸法を有している微小器官外植片。
【請求項2】
前記微小器官外植片が同系組織から由来する請求項1に記載の微小器官外植片。
【請求項3】
前記微小器官外植片が異種組織から由来する請求項1に記載の微小器官外植片。
【請求項4】
前記器官が、肺臓、肝臓、他の消化管由来の器官、心臓、脾臓、腎臓、皮膚及び膵臓からなる群から選択されたものである請求項1に記載の微小器官外植片。
【請求項5】
外植片が得られた器官の微小構造に類似する微小構造に配列された上皮及びストロマ細胞を含む請求項1に記載の微小器官外植片。
【請求項6】
器官が皮膚であり、外植片が少なくとも一つの毛包及び腺を含む請求項1に記載の微小器官外植片。
【請求項7】
前記微小器官外植片が、微小器官外植片内の最も深くに位置する細胞が栄養物及び気体の最も近いソースから約100マイクロメートル〜約225マイクロメートルの距離にあるような寸法を有する請求項1に記載の微小器官外植片。
【請求項8】
外植片が、式1/x+1/a>2.6mm−1により特徴付けられる表面積−容積指数(式中、xはミリメートルでの組織の厚さであり、aはミリメートルでの前記組織の幅である)を有する請求項1に記載の微小器官外植片。
【請求項9】
外植片が最少培地中で維持可能である請求項1に記載の微小器官外植片。
【請求項10】
外植片が、培養物中で少なくとも24時間の間維持可能である請求項1に記載の微小器官外植片。
【請求項11】
前記外因性ポリヌクレオチド配列がマーカータンパク質をコードする請求項1に記載の微小器官外植片。
【請求項12】
請求項1に記載の微小器官外植片を含む医薬製剤。
【請求項13】
以下のステップを含む、少なくとも一種の外因性ポリヌクレオチド配列を含む微小器官外植片の生産方法:
(a)動物から細胞の集団を含む器官の一部分を単離し(ただし、前記器官の一部分はそれが由来する器官の微小構造を維持しており、同時に、微小器官外植片中の細胞に十分な栄養物と気体を拡散させ、かつ細胞排泄物を微小器官外植片から拡散させて、細胞毒性と前記器官の一部分中の排泄物の蓄積及び不十分な栄養物が原因で付随して起こる死とを最小限にするように選択された寸法を有している);そして
(b)前記器官の一部分の細胞の集団の細胞の少なくともいくつかを外因性ポリヌクレオチド配列で遺伝的に改変して少なくとも一種の組換え遺伝子産物を発現させる。
【請求項14】
前記微小器官外植片が同系組織から由来する請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記微小器官外植片が異種組織から由来する請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記器官が、肺臓、肝臓、他の消化管由来の器官、心臓、脾臓、腎臓、皮膚及び膵臓からなる群から選択されたものである請求項13に記載の方法。
【請求項17】
外植片が得られた器官の微小構造に類似する微小構造に配列された上皮及びストロマ細胞を含む請求項13に記載の方法。
【請求項18】
器官が皮膚であり、外植片が少なくとも一つの毛包及び腺を含む請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記微小器官外植片が、微小器官外植片内の最も深くに位置する細胞が栄養物及び気体の最も近いソースから約100マイクロメートル〜約225マイクロメートルの距離にあるような寸法を有する請求項13に記載の方法。
【請求項20】
外植片が、式1/x+1/a>2.6mm−1により特徴付けられる表面積−容積指数(式中、xはミリメートルでの組織の厚さであり、aはミリメートルでの前記組織の幅である)を有する請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−87592(P2011−87592A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271065(P2010−271065)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【分割の表示】特願2001−506851(P2001−506851)の分割
【原出願日】平成12年6月22日(2000.6.22)
【出願人】(592169334)イッサム・リサーチ・ディベロップメント・カンパニー・オブ・ザ・ヘブルー・ユニバーシティ・オブ・エルサレム (2)
【氏名又は名称原語表記】YISSUM RESEARCH DEVELOPMENT COMPANY OF THE HEBREW UNIVERSITY OF JERUSALEM
【Fターム(参考)】