説明

微小気泡の作成方法

【課題】機械的方法により、有機物液体中に広範囲な種類の気体の微小気泡を容易に作成する方法を提供する。
【解決手段】気体を含む高分子モノマー、高分子溶液、高分子エマルジョン、高分子サスペンションもしくは高分子ゾル等の有機物液体を高速で流動させ、その流体経路の幅に規則的あるいは不規則に広狭の変動を与え、これに対応して生ずる流体の圧力変動を利用して高分子液体中に微小な気泡(直径10μm〜0.1μmのものを含む)を生成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡体の製造等の目的で、液中特に有機物液体中に微小気泡を作成する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体中に微小気泡を作成する技術としては、大別して、(A)主として機械的な手段によって気体を液中に分散させるものと、(B)液中に分散させた化学種(発泡剤)から、何らかの物理・化学反応によって気体を発生させるものとがあり、前者の方法として挙げられるものは、通常次のとおりである。(a1)加圧等により液中に気体を過剰に溶解させたものを減圧状態に導き、過剰溶解分を気体(気泡)として析出させるもの(例えば特開2002−52330)。気泡量は過剰溶解分以上には出来ない。(a2)気体を微量づつ液中に放出するもの。放出口としては微小孔板、メッシュ、連続気泡を有する高分子発泡材、焼結体等が用いられる(例えば特開平−196882)。生成する気泡径は放出口径よりもかなり大きく、一例では0.2mm径の放出口からの生成気泡径は2mmに達する。(a3)超音波等の振動を利用するもの。これには、振動による液圧で気泡を開裂・微細化させるものと、液体/固体界面における固体の振動によって局所的に負圧部分(キャビテイ)をつくり、ここに生ずる減圧気泡と気体との合体によって微小気泡を発生させるものとがあるが(例えば特開平8−230763、特開2002−113340)、効率的な問題があり、直径10μm以下の気泡を定常的に製造するには不十分である。(a4)液中に気体を放出し、生成した気液混合物に噴流、旋回等の運動を与えて液/液間の剪断力によって気泡を破砕・微細化するか、或いは気液混合物と器壁・突起等との衝突によって気泡を破砕・微細化するもの。この方法による気泡径は通常400〜500μmであるとされる。(a5)また、固定円筒中に回転円筒を設置し、円筒間の円管壁状細隙に気液混合物を導入して気泡を微細化する提案(例えば特開2002−346578)もあるが、何れも直径10μm以下の気泡を定常的に製造するには不十分である。
【0003】
しかし、(a5)の方式において、円筒間の細隙に円周方向に広狭の変化を与えたもの(特開2003−53373、特開2004−74131)では、直径10μm以下(サブミクロンのものを含む)の気泡を効率よく製造出来ることが、実測により確認されている。
【0004】
後者の方法で用いられる発泡剤は、(b1)気化等の物理変化を利用するペンタン、塩化メチレン、等の物理発泡剤と、(b2)化学変化(一般には熱分解)により2酸化炭素、窒素等を発生する化学発泡剤とに大別され、工業的に各種の発泡体の製造に広く使用されている。(例えばJETI Vol.47,No.5,P.90,1999)
【0005】
しかしながら、これらの発泡剤は予め発泡体の基材となる物質、多くはプラスチックスに混練され、必要形状に加工された後、加熱等による相変化・化学反応によって気体を発生するものであるため、気泡の生成効率に加えて、発泡剤・発生ガスとも基材に悪影響を及ぼさないことが要求される。このため、発泡剤は基材の性質に対応して個々に選定・設計され、発泡効率の改善のため発泡促進剤等の補助材料を用いなければならない場合もあり、気泡中のガスの種類も制約される。
【0006】
また、発泡体中の気泡径も多くは数10μ程度であって、より微小な気泡を含有する発泡体を作ることは必ずしも容易ではない。高圧下で不活性ガスを添加する方法(例えばUSP4473665)、臨界状態で2酸化炭素を混練する方法(例えばUSP5158986、特公平912625576、特開平8−258096、特開平10−230528)等が提案され、数μ以下の気泡が作られているが、大きな設備投資を必要とし、汎用性に富むとは言えない。近時、無公害の観点から注目されている水発泡においても微小気泡が得られているが、(例えば特開平7−276463、特開平11−268069)やはり特殊な設備を必要とし、且つ気泡中に水分が残留することに注意しなければならない。
【特許文献1】特開2002−52330
【特許文献2】特開2002−346578
【特許文献3】特開2003−53373
【特許文献4】特開2004−74131
【特許文献5】特開平8−230763
【特許文献6】特開2002−113340
【特許文献7】USP5158986
【特許文献8】特公平912625576
【特許文献9】特開平8−258096
【特許文献10】特開平10−230528
【特許文献11】特開平7−276463
【特許文献12】特開平11−268069
【非特許文献1】JETI Vol.47,No.5,P.90,1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明においては、主として発泡体に対する応用を念頭において、簡易な装置・操作によって有機物液体中に広範囲な種類の気体による微小気泡(直径10μm〜0.1μmのものを含む)を作成する方法を開発する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、環境改善のための微小気泡発生装置についての多年の経験、特に特開2003−53373、特開2004−74131関連の検討に基づき、以下のごとき発明を行った。
(1)幅を規則的に又は不規則的に変化させた流動経路に、気体を含む有機物液体を高速で流動させ、経路の広狭に対応して生ずる液体内の圧力変動等を利用して、該有機物液体中に該気体の微小気泡(直径10μm〜0.1μmのものを含む)を生成させることを特徴とする、微小気泡の作成方法。
(2)気体を含む有機物液体を高速で流動させ、その流動経路の幅を規則的に又は不規則的に変化させて、経路の広狭に対応して生ずる液体内の圧力変動等を利用して、該有機物液体中に該気体の微小気泡(直径10μm〜0.1μmのものを含む)を生成させることを特徴とする、微小気泡の作成方法。
(3)幅を規則的に又は不規則的に変化させた流動経路に、気体を含む有機物液体を高速で流動させ、同時にその流動経路の幅を規則的に又は不規則的に変化させて、経路の広狭に対応して生ずる液体内の圧力変動等を利用して、該有機物液体中に該気体の微小気泡(直径10μm〜0.1μmのものを含む)を生成させることを特徴とする、微小気泡の作成方法。
(4)固定円筒内に該固定円筒と軸を同じくする回転円筒を設置し、該固定円筒の内面及び該回転円筒の外面に、軸と平行の方向にそれぞれ複数個の突条を設け、該固定円筒と該回転円筒との間隙に、気体と有機物液体とを同時に注入するか、若しくは気体を含む有機物液体を注入し、回転円筒を高速回転させることによって、注入された有機物液体及び気体を高速で流動させ、突条によって形成される流動経路の広狭の繰り返しに対応して生ずる液体内の圧力変動等を利用して、該有機物液体中に該気体の微小気泡(直径10μm〜0.1μmのものを含む)を生成させることを特徴とする、微小気泡の作成方法。7
(5)(4)記載の微小気泡の作成方法において、該間隙内の気泡を含む有機物液体を円筒下部から連続的に取り出し、上部から気体を含む有機物液体若しくは気体と有機物液体とを連続的に供給して、直径10μm以下の微小気泡を含む有機物液体を連続的に取得することを特徴とする、微小気泡の作成方法。
(6)(1)〜(5)記載の微小気泡の作成方法において、有機物液体が高分子モノマー、高分子溶液、高分子エマルション、高分子サスペンション若しくは高分子ゾルであることを特徴とする、微小気泡の作成方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、目的とする有機物液体と気体とのみから、簡易な装置・操作によって有機物液体中に広範囲な種類の微小気泡、特に直径10μm以下の微小気泡を作成することが可能となり、発泡体の製造等の分野において、コストの低減と新材料の開発への寄与が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の基本は、流体の経路の幅に広狭の変化を与え、該経路を通過する流体にベルヌイの定理に従う圧力変動を生起させることを主体とし、これに流体と経路壁との衝突による気泡の開裂の効果を付加するものであり、これを実現するための形態としては、以下のようなものがある。
【0011】
第1の実施の形態:流体経路に、固定的な広狭の幅を設けるもの。最も標準的には、例えば図1に示すように、流体1の経路2に規則的な広狭の繰り返しを、必要個数設定するもので、広狭の幅の差、広部・狭部の長さ、繰り返し数は、目的とする有機物液体・気体の性質と気泡径とに応じて決定される。
【0012】
第2の実施の形態:流体経路の幅を、機械的な方法によって変化させるもの。具体的には、例えば図2aに示すように、適宜の金属または高分子材料によって作られたベロー状流体経路3aの伸縮によるもの、或いは図2bに示すように、可撓性材料で作られた流体経路3bの幅を外部からの力によって変動させるものがある。図2bは、一例として流体経路の外部に設けられたカム4の回転による方法を示した。広狭の幅の差、広部・狭部の長さ、繰り返し数は、目的とする有機物液体の性質と気泡径とに応じて決定される。第1、第2の実施の形態とも、流体経路は直線以外の形態、例えばスパイラル状に設置することが出来る。
【0013】
第3の実施の形態:第1の実施の形態である、固定的な広狭の幅の繰り返しと、第2の実施の形態である、流体経路の幅の変動を組み合わせたものであって、最も簡単にはこの2者の単純な直列結合によって形成されるが、(4)に述べた、それぞれ相対する面に軸方向の複数の突条を持つ固定円筒とその内部に設置された回転円筒とによって構成される装置は、第3の実施の形態として極めて効率の高いものである。図3は該固定円筒5と該回転円筒6の軸に垂直な断面を示したものであって、相対する突条7、8によって円周方向に広狭の変化が設定された円筒間の間隙に導入された有機物液体は、回転円筒の回転によってこの広狭のある間隙を高速で円周方向に流動し、同時に、回転に伴う突条の相対位置の変化により、流動経路の幅は高い周波数で変動する。この装置においては、目的に応じた圧力変動の周波数は回転円筒の駆動モーターの回転数によって容易に制御され、必要があれば、流体中にキャビテイを生ずる周波数を得ることが出来る。突条の高さ、突条の側面と円筒表面との角度、円筒間の間隙の幅は目的に応じて定められるが、通常は突条の側面と円筒表面との角度は20度〜60度、突条の高さは固定円筒上のものが回転円筒上のものよりも若干小さいことが有利である。
【0014】
第1〜第3の実施の形態は、通常各々単独で使用されるが、必要に応じ複数の形態を組み合わせて使用することも出来る。また、他の気泡生成手段によって作られた気泡を含む有機物液体を、第1〜第3の実施の形態に供給して使用することも出来る。多量の気体を含有させたい場合には、このような多段階の形態での使用が有利である。
【0015】
第1〜第3の実施の形態は、必要に応じ適宜な加熱・保温装置を付加することによって所要の温度に保持される。
【0016】
第1〜第3の実施の形態で処理される有機物液体は、発泡体分野での応用に対しては、通常高分子モノマー、高分子溶液、高分子エマルション、高分子サスペンション若しくは高分子ゾルであるが、特にこれらに限定されること無く、350℃以下で必要な流動性を有するものであれば処理の対象とすることが出来る。更に、有機物液体に限らず、無機物液体、無機物溶液、無機物エマルション、無機物サスペンション若しくは無機物ゾル等も処理が可能である。
【0017】
第1〜第3の実施の形態で処理される気体は、発泡体分野での応用に対しては、通常2酸化炭素、窒素、空気等であるが、特にこれらに限定されることなく、例えば水素、酸素、オゾン、水蒸気等の無機物ガスの他、気化アルコール等の有機物を処理することが可能である。第1〜第3の実施の形態は、外部で作られた気体を機械的手段によって流体中に微小気泡として取り込むものであるため、広い範囲の気体を容易に使用することが出来る。
【0018】
第1〜第3の実施の形態においては、必要に応じ流体経路内の適宜の位置に磁石を配置し、流体に対し磁気処理を施すことが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明により、広範囲な種類の気体の微小気泡を含む有機液体を容易に作成することが出来、発泡体の製造を中心とする工業分野において,コストの低減と新規な機能を持つ材料の開発とが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1の実施形態における流体経路の1例の断面図である。
【図2a】第2の実施形態における流体経路の1例の断面図である。
【図2b】第2の実施形態における流体経路の1例の断面図である。
【図3】第3の実施形態における1例の、固定円筒及び回転円筒の軸方向に垂直な断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 流体
2 流体経路
3a ベロー状流体経路
3b 可撓性流体経路
4 カム
5 固定円筒
6 回転円筒
7 固定円筒上の突条
8 回転円筒上の突条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅を規則的に又は不規則的に変化させた流動経路に、気体を含む有機物液体を高速で流動させ、経路の広狭に対応して生ずる液体内の圧力変動等を利用して、該有機物液体中に該気体の微小気泡(直径10μm〜0.1μmのものを含む)を生成させることを特徴とする、微小気泡の作成方法。
【請求項2】
気体を含む有機物液体を高速で流動させ、その流動経路の幅を規則的に又は不規則的に変化させて、経路の広狭に対応して生ずる液体内の圧力変動等を利用して、該有機物液体中に該気体の微小気泡(直径10μm〜0.1μmのものを含む)を生成させることを特徴とする、微小気泡の作成方法。
【請求項3】
幅を規則的に又は不規則的に変化させた流動経路に、気体を含む有機物液体を高速で流動させ、同時にその流動経路の幅を規則的に又は不規則的に変化させて、経路の広狭に対応して生ずる液体内の圧力変動等を利用して、該有機物液体中に該気体の微小気泡(直径10μm〜0.1μmのものを含む)を生成させることを特徴とする、微小気泡の作成方法。
【請求項4】
固定円筒内に該固定円筒と軸を同じくする回転円筒を設置し、該固定円筒の内面及び該回転円筒の外面に、軸と平行の方向にそれぞれ複数個の突条を設け、該固定円筒と該回転円筒との間隙に、気体と有機物液体とを同時に注入するか、若しくは気体を含む有機物液体を注入し、回転円筒を高速回転させることによって、注入された有機物液体及び気体を高速で流動させ、突条によって形成される流動経路の広狭の繰り返しに対応して生ずる液体内の圧力変動等を利用して、該有機物液体中に該気体の微小気泡(直径10μm〜0.1μmのものを含む)を生成させることを特徴とする、微小気泡の作成方法。
【請求項5】
請求項4記載の微小気泡の作成方法において、該間隙内の気泡を含む有機物液体を円筒下部から連続的に取り出し、上部から気体を含む有機物液体若しくは気体と有機物液体とを連続的に供給して、微小気泡(直径10μm〜0.1μmのものを含む)を含有する有機物液体を連続的に取得することを特徴とする、微小気泡の作成方法。
【請求項6】
請求項1〜5記載の微小気泡の作成方法において、有機物液体が高分子モノマー、高分子溶液、高分子エマルション、高分子サスペンション若しくは高分子ゾルであることを特徴とする、微小気泡の作成方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−198597(P2006−198597A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−39770(P2005−39770)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000100757)アイシーエス株式会社 (26)
【出願人】(501326724)
【Fターム(参考)】