説明

微小流動性デバイスの内部の壁

1個、2個、3個もしくはそれ以上の封入マイクロチャネル構造を含む微小流動性デバイスであって、それぞれのマイクロチャネル構造が、
a) 液体のための入口を有する入口装置;
b) 入口より下流の微小反応空間(RM);および
c) 入口および微小反応空間(RM)の間に位置し、プラスチック材料から作られている2つの平坦な基板(ここで、該基板は該マイクロチャネル構造に共通である)の間に規定される上流部分;
を含む微小流動性デバイス。特徴的な構成は、該上流部分の内部の壁が酸化金属を含む基層上の親水領域を露出していることである。1つの態様において、微小流動性デバイスそのものが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、内部の壁をコーティングした新規設計を有する微小流動性デバイス(microfluidic device)、およびこれらのコーティングを導入する方法に関する。
【0002】
微小流動性デバイスは、1個、2個、3個もしくはそれ以上の封入マイクロチャネル構造を含む。それぞれのマイクロチャネル構造は、典型的には、
a) 環境雰囲気への入口を有する入口装置(arrangement);
b) 入口より下流の微小反応室;および
c) 出口;
を含む。典型的な一方法において、マイクロチャネル構造は、ペア毎に向き合わせ、かつ平行にした2個以上の平坦な基板の表面の間に規定される。マイクロチャネル構造の異なる部分が平坦な基板の異なるペアの間に規定されるならば、典型的には、基板に孔が設けられ、そしてこれらの部分が互いに連通している。
【0003】
“微小流動性”という用語は、反応物、検体、洗浄剤(液体そのものを含む)、反応生成物などが、微小体積の液体として、マイクロチャネル構造の機能ユニットの間を移送されることを意味する。反応物は、粒子に結合していてもよい。
【0004】
入口は、主に液体のためのものであり、そして出口は、過剰の空気のためのものであって、さらに場合により液体のためのものである。
【0005】
微小流動性デバイスは、典型的には、生物および/または化学で、例えば医薬、診断、生化学、薬物開発などで、平行して幾つかの実験を行うために用いられる。典型的には、それぞれの実験は、試薬、サンプル、および必要な他の液体を導入するための1個以上の添加段階、1個以上の反応段階、および1個以上の検出段階を含む。試薬は前もって添加されてもよい。主に、実験はそれぞれ、1個のマイクロチャネル構造を必要とする。実験は、分析および/または製造目的で行われ、液体からの粒子の分離、または溶解もしくは分散された種々の物質の相互分離を含んでもよい。合成プロトコールもまた含まれてもよい。
【0006】
この明細書で引用された特許文献は、引用することによってその全体が組み込まれている。WO公開公報において、これは、特に、その米国の指定または対応する米国特許および対応する米国特許出願を意味する。
【背景技術】
【0007】
背景課題
本発明は、
a) 微小流動性デバイスの複数のマイクロチャネル構造で、平行して、試薬、検体、洗浄液体、緩衝液などを、入口から微小反応空間へ適切に輸送すること;
b) 微小流動性フォーマット内で液体と接触すべきプラスチック材料の濡れ可能性(wettability)に関して、良好な安定性(保存安定性、および一度、二度などの再度の濡れに対する安定性)を得ること;
c) ペプチド構造、炭水化物構造、脂質構造、ヌクレオチド構造、核酸構造、ホルモン構造、ステロイド構造などを有する試薬などの付着劣化を減少させること;
d) プラスチック材料からの、残留モノマー、開始剤、柔軟剤などの除去;
e) 貯蔵中の、プラスチックの分子の移動およびコンホメーション変化によって起こる、表面特性の化学的変化;
f) 微小流動性デバイスの大量生産に用いられ得る費用効率の高い表面処理方法を提供すること;および
g) 微小流動性デバイス中の内部表面として含まれるべき表面であって、かつさらなるパターニング、試薬の結合、および他の官能化、例えば疎水化、イオン性基の導入などに、良好な基板である表面を提供すること;
に関する問題に関する。
【0008】
現在微小流動性系で行われているプロトコールの微細化は、80年代後半に始まった。基板材料の選択は、水性液体に対して良好な濡れ可能性(親水性)を本質的に有している、シリコンもしくはガラスであった。ほとんどの場合において、表面を別個に濡れ可能(親水性)とするための緊急の必要性はなかった。
【0009】
その後、プラスチック材料と複製技術が開発された(例えば WO 91 16966 (Amersham Pharmacia Biotech AB); WO 01 14116 (Aemic AB); WO 01 19586 (Aemic AB); WO 00 21728 (Aemic AB))。しかし、プラスチックは、本質的に濡れにくく、しばしば疎水性である。適切な親水化プロトコールが重要となった。
【0010】
その小規模化は、体積−表面の比を減少させ、そのことが、例えば付着劣化(非特異的吸着および/または変性)による、反応物の望ましくない消費/不活性化のリスクを著しく増大させることを意味する。
【0011】
親水性/疎水性バランスに関する付着劣化および貯蔵安定性は、微細化の際の初期作業では、全く見逃された。しかし、これらの問題は、プラスチック材料で作られたデバイスを利用した微小流動性概念の大量商品化に極めて重要である。
【0012】
多分、微小流動性デバイスの内部表面の最適なコーティングは、プロトコール自体、試薬/反応物、および/または用いられるべき液体、アッセイすべき検体、基板材料などに依存する。
【0013】
上述の理由より、プラスチック材料で作られた微小流動性デバイスにおける、水性液体に接触する内部表面として用いられる表面のための適切な一定の処理プロトコールに対する要請がある。
【0014】
背景文献
微小流動体における多くの近年の文献は、実際の問題を認識しないで、一般論として表面表面処理を論じている。例えば WO 97 21090 (Gamera Biosciences) および WO 99 58245 (Amersham Pharmacia Biotech AB)を参照のこと。ここで、双方とも一般論として、ガス・プラズマ処理および疎水性化合物でのコーティングについて述べている。
【0015】
他の近年の文献が上記で論じられている1個以上の問題の解決を示唆している。
WO 00 56808 (Amersham Pharmacia Biotech AB)は、改善された保存安定性を有し、かつ水性液体媒体と繰り返し接触するのに耐え得る親水性表面を達成するために、プラスチック材料のガス・プラズマ処理を記載している。
【0016】
WO 01 47637 (Gyros AB)は、プラスチック基板のためのコーティングを記載している。コーティングは、非イオン性親水性ポリマーを流体に曝し、親水性と非特異的吸着のバランスをとるために導入される。親水性ポリマーは、典型的には、プラスチック表面に結合する基体(base skeleton)に共有結合する。電荷を帯びた基体の場合には、例えばガス・プラズマ親水化によって、裸のプラスチック表面に反対の電荷を前もって導入することが示唆されている。金属層でのプラスチックのプレ・コーティングもまた示唆されている。
【0017】
US 6,236,083 (Caliper)は、蛋白質の非特異的吸着に対して抵抗性があるコーティングを記載している。コーティングは、マイクロチャネルにおける制御された電子浸透性流を促進するために用いられる。ある一方法は、WO 01 47637 (Gyros AB) のものと類似している。支持基板は、有機ポリマー、ガラス、またはシリカをベースとしたポリマーで作成される。
【0018】
WO 02 075775 (Gyros AB) および WO 02 75776 (Gyros AB)は、他のものと共に、エネルギー脱着イオン化質量スペクトルのための出口ポートにおける、酸化インジウム錫の導電層を記載している。
【0019】
WO 00 04390 (Zyomyx)は、支持層の上に置いた上部有機薄層を含む積層構造を有する微小流動性センサー表面を提示している。幾つかの代替の支持層は、例えば、特に酸化インジウム錫を含む、種々の金属および酸化金属層で与えられる。
【0020】
有機化合物の官能基と結合を形成するための、酸化金属表面の、例えば酸化チタン、酸化インジウム、酸化錫、およびそれらの種々の混合物のキャパシティーは、前もって決定した化学表面特性の単層露出表面を製造するために用いられている。関連の結合は、共有結合および非共有結合、例えば静電相互作用などを含む。酸化金属表面が、中間的pHでしばしば電荷を帯びることから、反対の電荷を帯びた基を有する化合物、例えば蛋白質を、非特異的に吸着する顕著な傾向を有する。種々の化合物をこの種の表面に結合するキャパシティーを、以下で利用している。
●Cohen et al., "Surface modification of inorganic oxide surfaces by graft polymerization" in "Oxide Surfaces", ed. Wingrave, Marcel Dekker Inc, New York (2001) p321-343;
●Doron et al., "Organization of Au colloids as monolayers films onto ITO glass surfaces: Application of the metal gold colloid films as base interfaces to construct redox-active monolayers", Langmuir 11 (1995) 1313-1317;
●Fang et al., "Soft-lithography-mediated submicrometer patterning of self-assembled monolayer of hemoglobin on ITO surfaces", Langmuir 16 (2000) 5221-5226;
●Fang et al., "Anchoring of self-assembled hemoglobin molecules on bare indium-tin oxide surfaces", Langmuir 17 (2001) 4360-4366;
●Hofer et al., "Alkyl phosphate monolayers. Self-assembled from aqueous solution into metal oxide surfaces", Langmuir 17 (2001) 4014-4020;
●Mandler, "Preparation and characterization of octadecylsilane monolayers on indium-tin oxide (ITO) surfaces", J. Electroanal. Chem. 500 (2001) 453-460;
●Oh et al., "Formation of a self-assembled monolayer of diaminododecane and a heteropolyacid monolayer on the ITO-surface", Langmuir 15 (1999) 4690-4692;
●Oh et al., "Ionic charge-selective electron transfer at fullerene-multilayered architecture on an indium-tin oxide surface", Langmuir 16 (2000) 6777-6779;
●Schwendel et al., "Temperature dependence of the protein resistance of poly- and oligo(ethylene glycol) terminated alkanethiolate monolayers", Langmuir 17 (2001) 5717-5720;
●Textor et al., Structural chemistry of self-assembled monolayers of octadecylphosphoric acid on tantalum oxide surfaces", Langmuir;
●Yan et al., "Preparation and characterization of self-assembled monolayers on indium tin oxide", Langmuir 16 (2000) 6208-6215;
●Zotti et al., "Self-assembly of pyrrolyl- and cyclopentadiyldithiophene-4-yl-n-hexyl-ferrocene on ITO electrodes and their anodic coupling to polyconjugated polymer layers", Langmuir 13 (1997) 2694-2698;
【0021】
Huang et al., Langmuir 17 (2001) 489-498、Huang et al., Langmuir 18 (2001) 220-230、および Kenausis et al., J. Phys. Chem B 104 (2000) 3298-3309 は、場合により生物学的に活性な分子で官能基化されたポリ(エチレンオキシド)でグラフトされたポリカチオン性ポリリジンでコートされた酸化金属の支持層をベースとしたセンサー表面を記載している。特定の種類の微小流動性装置のセンサーに使用するために、この概念を示している。Voeroes et al. による "Controlled biosenser surfaces" のポスターを参照のこと。用いたコーティングは、蛋白質の非特異的吸着を著しく減少させる。
【0022】
Fang et al.(前掲)は、例えば生物学的な分野におけるアッセイのために、酸化インジウム錫表面への非特異的吸着が、センサー表面を形成するために用いられ得ることを、一般的に示している。
【0023】
Yamamoto et al., "Cell-Free Protein Synthesis in PDMS-Glass Hybrid Microreactor in Microfluidic Devices and Systems III", Eds. Mastrangelo et al., Proceedings of SPIE, Vol 4177 (2000) 72-79 は、細胞フリー蛋白質合成を意図したマイクロキャビティーのガラス基板上の加熱層としての酸化インジウム錫を示している。
【0024】
酸化アルミニウムでコートしたキャピラリー・チャネルの内部の壁を有する、プラスチック材料から作られるキャピラリー・デバイスは、AU 21583/99 (Boehringer Mannheim GmbH)で記載されている。
【発明の開示】
【0025】
本発明の目的
本発明の第1の目的は、マイクロチャネル構造が上記の通りの平坦なプラスチック基板の間に規定されており、かつプラスチック基板に存在し得る液体可溶性成分が浸透し得るもしくは浸透し得ない親水性の内部表面を有する、微小流動性デバイスを製造するための代替の方法を提供することである。この目的は、主に、マイクロチャネル構造の少なくとも1個の上流部分、すなわち、例えば微小反応空間への液体および試薬の輸送に関するマイクロ導管(microconduit)中の反応キャビティーの上流部分に関心がある。副目的は、水性液体との繰り返しの接触に、および/または長期保存に耐え得る、かつ費用効率が高い方法によって生産され得る、濡れることが可能な内側表面を有する新規微小流動性デバイスを提供することである。該表面は、最も異なって、裸のプラスチック表面と比較して生体分子の付着が著しく減少しているべきである。長期保存は、2週間以上、例えば1、2、3、または4カ月間以上の保存を意味する。ある一方法においては、目的は、10カ月間、12カ月間もしくはそれ以上の保存である。
【0026】
第2の目的は、入口装置、輸送マイクロ導管、または上流部分の何れかの他のマイクロ導管において、内部の壁が透明であり、かつ酸化金属層を含む微小流動性デバイスを提供することである。
【0027】
第3の目的は、加熱、導電測定などの場所でプラスチック基板を介して液体を同時に観測しながら、微小流動性デバイスの液体輸送システム中で、加熱、導電測定、駆動液流動電的電気泳動などのために、局所的に電圧をかけ得る、本明細書で定義した別の微小流動性デバイスを提供することである。
【0028】
第4の目的は、液体の通過の繰り返しに強い抵抗性を有する、親水性表面領域と疎水性表面領域の間に、局所の微小流動性表面の切れ目(break)および微小流動性の境界を提供することである。
【0029】
これらの目的は、主に、この明細書中の他の場所で定義した通りにnlの範囲の、例えば体積1000nlでの個々の水性液体アリコートの輸送を意図した微小流動性デバイスの改善を目的とする。
【0030】
図面
図面は、実験部分で得られる結果を示している。
図1:ITOフィルムにおける光透過スペクトル。酸素分圧とスキャンの数は、スパッタリングの間で変化させた。
図2:酸化金属層(酸化インジウム錫)を含む内部の壁の表面へのIgG吸着を裸のポリスチレン表面と比較した。
【0031】
本発明
本発明は、上記の目的が、透明な形態で得られる酸化金属を含む層を導入することによって達成し得ると認められる。層は、プラスチック材料基板および壁の内部表面の間の内部の壁に存在する。内部表面は、デバイスを通過する液体に曝露される。
【0032】
微小流動性デバイスを製造する方法(第1の態様)
本発明の第1の態様は、上記の2個もしくはそれ以上の平坦な基板の間に規定される1個、2個、3個、もしくはそれ以上の封入マイクロチャネル構造がある、微小流動性デバイスの製造方法である。これらのマイクロチャネル構造は、それぞれ
a) 環境雰囲気への入口を有する入口装置;
b) 入口より下流の微小反応室;および
c) 環境雰囲気への出口;
を含む。
【0033】
該方法は、プラスチック材料から作られた2個もしくはそれ以上の本質的に平坦な基板を向き合わせて互いに接合させ、その結果、それぞれのデバイスの封入マイクロチャネル構造において、対応する部分が基板の同じペアの間に規定されている、以前の技術に基づいている。例えば WO 97 21090 (Gamera Biosciences)、WO 99 58245 (Amersham Pharmacia Biotech AB)、WO 00 56808 (Amersham Pharmacia Biotech AB)、および WO 01 47637(Gyros AB)を参照のこと。
【0034】
基板のペアの間で規定されないマイクロチャネル構造の部分は、基板中で孔もしくは凹みとして存在する。これらの孔は、環境雰囲気との連通(入口および/または出口)または異なるペアの基板によって規定されるマイクロチャネル構造の部分の間の連通を提供し得る。
【0035】
革新的な方法は、
i) プラスチック材料から作られており、それぞれが、片面(それぞれサイドaおよびサイドaII)に、サイドaとサイドaIIを向き合わせて適切に合わせた場合に、それぞれのマイクロチャネル構造の少なくとも1個の上流部分を規定する表面領域(内部表面領域)を含む、2つの本質的に平坦な基板IおよびIIを提供すること;
ii) 親水性であって、かつサイドaおよびサイドaIIの一方もしくは両方の表面領域に酸化金属を含む層(基層)を導入すること;
iii) サイドaをサイドaIIに向き合わせて接着し、その結果それぞれの封入マイクロチャネル構造の上流部分を形成すること;
の段階を含むことを特徴とする。
【0036】
好ましくは、上流部分(=上流部分(part))の内部表面の一部となる、サイドaおよび/またはサイドaIIの一部に、酸化金属層が導入されている。
【0037】
酸化金属層は、適切に製造された場合に、場合により導電性であってもよい透明な層を形成し得る酸化金属を含む。この定義において、“適切に製造された”という用語は、例えば、層が適切な厚さを有し、かつ/または適切な金属原子/金属イオン/酸化金属を、ドープし、かつ/または含み、望ましい透明性および/または導電性を提供することを含む。
【0038】
上流部分は、微小反応空間(RM)の上流である、例えばマイクロチャネル構造中に2個もしくはそれ以上の微小反応空間があるならば最も下流の微小反応空間の上流である、マイクロチャネル構造の一部である。従って、“上流部分”という用語は、入口と微小反応空間(RM)の間、または入口とこのような部分の何れかのサブパートの間のどちらかに位置する部分を意図している。
【0039】
“内部表面”または“内部表面領域”という用語は、微小流動性デバイス/マイクロチャネル構造の内部表面の全てもしくは一部を意味する。文脈に依存して、用語はまた、該サイドが一体となって接合し、マイクロチャネル構造の部分を規定する場合に内部表面となる、サイドaおよび/またはサイドaIIにおける表面部分を言う。
【0040】
該方法はまた、もしあれば封入マイクロチャネル構造の残りの部分を規定するために、1個もしくはそれ以上のさらなる本質的に平坦な基板を向き合わせて接着する段階を含む。この場合において、上記のタイプの1個もしくはそれ以上の酸化金属層および1個もしくはそれ以上のさらなる層(下記参照)は、このようにして作られ得るマイクロチャネル構造の部分に、導入されてもされなくてもよい。
【0041】
前述のパラグラフで記載される一方法は、マイクロチャネル構造の異なる部分が基板の異なるペアの間に規定される、微小流動性デバイスの製造を意図している。例えば、基板Iにおいて、サイドaと反対のサイド(サイドaIopp)は、第3の基板(III)のサイドaIIIと接合して、基板IとIIの間に規定された部分とは別の部分のマイクロチャネル構造を規定する。この一方法において、基板Iは、典型的に、最終的なデバイスにおいて内部表面となるサイドaおよびaIoppにおける表面部分の間の連通を行うために、基板を通り抜ける1個もしくはそれ以上のマイクロ導管(孔)を有する。すなわち、これらのマイクロ導管がサイドaおよびサイドaIoppの間に(基板Iを通って)伸張している。この一方法は、基板IのサイドaIoppが、基板IIIのサイドaIIIと接合する前に、中間の平坦な基板によってカバーされることによって修飾されていること、すなわち中間の平坦な基板の片面が、段階(iii)においてサイドaIoppとして本当に機能することを含む。この種の中間の基板は、従って、基板Iと第3の基板IIIの間に規定されるマイクロチャネル構造の部分である場合に基板Iのために示されているものと同一の一般的な方法で、通り抜けている孔/導管を有し得る。
【0042】
段階(i):基板
基板は、縮合重合、不飽和有機化合物の重合、または他の重合反応によって得られるポリマーから選択されるプラスチック材料から作られ、そしてエラストマー、例えばシリコンゴム・ポリマー(例えばポリジメチルシロキサン)なども含む。
【0043】
本発明の優先日では、望ましいプラスチックは、ポリカーボネート、および直鎖、分枝、および/または環状非芳香族性構造を含む、重合可能なモノマーのオレフィンをベースとしたポリオレフィンであった。典型例は、Zeonex(商標)およびZeonor(商標)(Nippon Zeon, Japan)である。このことは、例えばスチレン、メタクリレートおよび/またはその他をベースとした、他のプラスチックの使用を除外しない。“ポリマー”という用語はまた、コポリマーを含む。
【0044】
平坦な基板のペアを向き合わせて、マイクロチャネル構造またはその部分を規定する場合、一方もしくは両方の基板の片面は、2つのサイドを向き合わせて適切に合わせたときに、封入マイクロチャネル構造の少なくとも1つの部分を形成するマイクロチャネル構造を示すよう製造される。微小構造は、様々な技術、例えばエッチング、レーザー切断、リトグラフィー、打ち出しやプレス加工や成型などによる複製などによって作られ得る。
【0045】
基板Iおよび基板IIのそれぞれは、基板Iと基板IIの間に規定されるマイクロチャネル構造以外にマイクロチャネル構造の他の部分が規定されてもされなくてもよい、2個以上の本質的に平坦な基板からなり得る。革新的な方法で出発基板として用いられるべき積層した基板の製造は、本革新的な概念によって指示される、すなわち、酸化金属層がこのような積層した出発基板の内部表面上にある酸化金属層の導入を、含んでも含まなくてもよい。
【0046】
革新的な方法で用いられるべき基板の材料は、透明であってもなくてもよい。幾つかの方法において、該材料/基板は、透明であり、少なくとも酸化金属を含む基層の下もしくは上である。
【0047】
段階(ii):酸化金属を含む層の導入
上記のように、酸化金属層(基層)の1個もしくはそれ以上の酸化金属成分は、透明な酸化金属層(少なくとも可視光について)を製造し得る、好ましくはさらに導電層を製造し得る酸化金属から選択される。該層において、成分の正しい選択は、何のために用いられるかに依存する。例えば該層が、下記のように十分な親水性を有する表面を提供するのみであるならば、または十分な親水性および付着の減少を提供する最上層(top layer)のためのサポートとして提供されるならば、基層の十分に高い導電性および/または透明性に関して、互いに関係した成分を最適化する必要はない。次に透明性および/または導電性の酸化金属層を与え得る成分から、酸化金属を選択するのに十分である。基板の透明性および/または導電性が、そのまま、例えば検出窓として、電気的接続として、加熱のためなどに利用可能であれば、逆もまた真である。
【0048】
本発明の望ましい一方法において、基層は、可視光で透明であり、かつ/または下記の制限の範囲内で導電性である。
望ましい一方法において、基層/酸化金属層は、本質的に、酸化金属、例えば本明細書中で概略された通りに選択される。
【0049】
透明であり、かつ/または導電性であり得る酸化金属層は、当分野で周知である。典型的には、酸化インジウムおよび/または酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛などを含む。示された酸化物の光学的および/または電気的性質が、十分に使用に望ましくない場合には、異なる酸化物の混合物で、ドープされても構成されるのであってもよい。透明であって、かつ導電性である酸化金属の典型例は、アルミニウムをドープした酸化インジウム錫および酸化亜鉛である。酸化金属、例えば酸化チタンは、典型的には、特に単独で使用されるならば、ナノ結晶形態である。酸化金属の透明かつ導電性の形態のための、新規代替物質が開発されている。例えば Cui et al., "Indium tin oxide alternatives - high work function transparent conducting oxides as anodes for organic light-emitting diodes", Adv.Mater. 13(19) (2001) 1476-1480 を参照のこと。
酸化金属層の導入は、当分野で周知の技術に従って行われる。
【0050】
1つの主要なルートは、適切なプラスチック基板表面上に、適切な金属層または場合により適切な金属塩層を堆積し、次に対応する酸化金属層に該層を変換することによるものである。金属層の場合においては、変換は、酸化条件で、例えば酸素を含む雰囲気中で処理することによるものであっても湿気化学酸化(wet chemical oxidation)によるものであってもよい。金属は、適切な合金の形態であってもよい。
【0051】
別の主要なルートは、適切な酸化金属層を、適切なプラスチック基板表面上に、直接堆積することによるものである。
【0052】
両方のルートにおいて、金属層および酸化金属層は、それぞれ、スパッタリング、ボール・ミル粉砕、蒸着、金属/酸化金属のナノ粒子などを含む分散液を該表面にスピン・コートすることによって導入され得る。これは、特に、目的が、透明であり、かつ/または導電性である酸化金属層を得ることである場合に適用される。電気的および光学的性質を含む錫をドープした酸化インジウム・フィルムについての、およびその製造方法についてのレビューは、Ederth, Jesper "Electrical Transport in Nanoparticle Thin Films of Gold and Indium Tin Oxide" - Uppsala, 2003 - 86 (p 1-35)- (Comprehensive Summaries of Uppsala Dissertations from the Faculty of Science and Technology, ISSN 1104-232X; 790, ISBN 91-554-5499-2) で示されている。酸化インジウム錫および酸化錫の薄いフィルムの導入のためのエアゾール・プラズマ加工方法は、Lee et al. (J.Mater.Res. 11(4) 895-)によって表されている。
【0053】
例えば酸化インジウム錫を含む酸化金属ナノ粒子の分散液は、ゾル−ゲル法によって得られ、スピン−コーティング法(上記参照)で用いられる。
【0054】
プラスチック基板表面へのネガティブな効果を避けるための基層の導入に適切な方法および/または条件を選択することが重要である。従って、特に基板表面が、マイクロ導管を規定する微小構造を有するならば、高エネルギー・インプットを必要とする方法および/または条件、例えばプラスチック基板の温度をその軟化温度付近もしくは以上まで上げることは避けるべきである。このことは、その他に、スパッタリングに適用される。
【0055】
例えば望ましいガス・プラズマで、例えば酸素プラズマで、導入される酸化金属層を後処理し、その最終的な最終物を得てもよい。
【0056】
酸化金属層(基層)を、段階的に導入してもよい。これは、基層が下層として導入され、ここで、上の下層はそれが上となっている下層と異なっていることを含む。これはまた、酸化金属層が、その後に適切な酸化金属層に変換される金属層として導入されることを含む。
【0057】
望ましい一方法において、いわゆるスパッタリングは、適切な酸化物の蒸気を、それぞれ基板IおよびIIのサイドaおよび/またはサイドaIIの意図した部分に堆積させることを意味する堆積に用いられる。堆積後の表面の正確な化学的性質は、用いられた技術、金属イオン源、雰囲気(例えば酸素含量)に依存する。
【0058】
スパッタリング条件は、典型的には、1%の範囲の、例えば5%または10%または20%で、かつ<100%、例えば70%または50%または40%の、スパッタリング雰囲気を含む。
【0059】
酸化金属を含む層は、下記の範囲内の特性を示すべきである:
a) 表面抵抗として測定した導電率:1Ω/スクエア〜1000kΩ/スクエア、例えば<1kΩ/スクエアまたは20Ω/スクエアであるべきである。このことは、さらにより低い表面抵抗を、例えば1mΩ/スクエア以下の範囲、例えば0.01Ω/スクエア以下または0.1Ω/スクエア以下の範囲内に達し得ることを除外しない。導電層は、典型的に、50Ω/スクエアまたは40Ω/スクエアまたは20Ω/スクエアの表面抵抗を有する層である。
b) 適切な厚さは、1nm〜10,000nmの範囲内で、特に10nm〜1000nmまたは1nm〜1000nmの範囲内で見出され得る。厚さはまた、典型的に、酸化金属層で、マイクロ導管の最も小さい断面積の10%である(これは、1000nmより厚い基層、および1nmより薄い基層に適用し得る)。
c) 透明性は、可視光の波長(例えば550nm)で、0〜100%の範囲で選択される。層が存在する特定の微小流動性デバイスに依存して、可視光(例えば550nm)での透明性は、0〜90%の間、例えば0〜80%または0〜70%、または単に50%、および30〜100%、例えば40〜90%、または50%から選択される範囲であってもよい。
【0060】
段階(ii)は、段階(ii)によって処理されるべき表面領域を含む基板のサイドがマスクされ、その結果基層が選択された部分でのみ導入されるという前段階を含んでもよい。従って、それらがa)マイクロチャネル構造の内部表面を規定せず、かつ/またはb)マイクロチャネル構造の内部表面の表面領域を規定し、かつ何かの理由で、段階(ii)に影響を与えないならば、表面領域をマスクしてもよい。
【0061】
酸化金属層を導入するために用いられる方法に依存して、マスクは、プラスチック基板の表面に直接置いても、または段階(ii)の適切なサブステップの間で上記の一定の距離に表面を保ってもよい。
【0062】
適切ならば、段階(ii)はまた、基板表面をきれいにして、プラスチック基板表面に酸化金属が接着するのを助ける層を導入することなどの、1個もしくはそれ以上の前段階を含んでもよい。この種の処理は、一般的に、金属および/または酸化金属の層でプラスチックをコートする分野で既知である。
【0063】
段階(iii):基板Iの基板IIへの接着
2つのプラスチック基板の表面を互いに接着するために、文献で示された幾つかの技術がある。
【0064】
1つの代替法は、その遷移温度未満に他の表面を保ったまま、微小構造を含まない表面を、選択的にその遷移温度以上に加熱しながら該表面を一緒にプレスすることである。この代替法は、特に、微小構造を含まない表面が裸のプラスチック表面である場合に適用する。遷移温度は、関係する表面を支持しているプラスチック材料の遷移温度を言う。
【0065】
別の代替法において、種々の種類の粘着剤もしくは接着剤を用いてもよい。WO 94 24900 (Ove Oehman)、WO 98 45693 (Soane et al)、US 6,176,962 (Soane et al)、WO 99 56954 (Quine)、および WO 01 54810 (Derand et al)を参照のこと。
熱ラミネートを用いてもよい。WO 01 54810 (Derand et al) を参照のこと。
【0066】
段階(iii)の間でマイクロチャネル構造にプレスする粘着剤の量を減らすために、基板表面の一方もしくは両方に存在するレリーフ・パターンの形態の微小構造によって、マイクロチャネル構造を規定してもよい。WO 03 055790 (Gyros AB) および US 2003/0129360 (Gyros AB) を参照のこと。
【0067】
粘着剤は、US 6,176,962 および WO 98 45693 (Soane et al)に概略した通りに選択してもよい。従って、適切な結合物質は、エラストマー粘着物質および硬化性(curable)結合物質を含む。この種の粘着物質およびその他の物質は、基板表面に塗布する場合に液体の形態であってもよい。粘着剤を含む結合物質は、従って、液体硬化性粘着物質および液体エラストマー物質を含む。基板表面に塗布した後、もう一方の基板を粘着剤と接触させる前に、例えば溶媒の除去または部分硬化によって、粘着物質をより粘性にする、もしくは非流動可能とする。“液体の形態”という用語は、低粘性の物質および高粘性の物質を含む。
【0068】
硬化性粘着剤は、重合可能な粘着剤および活性化可能な粘着剤を含む。熱硬化、湿気硬化、および2成分、3成分、および多成分粘着剤はまた、硬化性粘着剤の例である。
マスクが段階(ii)に関して導入されたならば、典型的には、それは、段階(iii)の前に除去される。
【0069】
段階(iii)の前に導入されるさらなる表面層は、基板IとIIを互いに接合するのにネガティブな影響を与えるものでもよい。該層の導入の際に適切にマスクすることによって、すなわち基板を互いに粘着するために用いられる表面領域のマスキングによって、この種の問題を避けることが可能である。
【0070】
酸化金属層上へのさらなる層の導入
段階(ii)で導入される酸化金属層は、その親水性に関わりなく著しい付着活性を有しているかも知れない。従って、何度も1個もしくはそれ以上のさらなる層を導入することが望ましい。これらの余分の層は、段階(iii)の前および/または後の何れかで導入されてもよい。
【0071】
最終的なデバイス中でマイクロチャネル構造を通過する液体に曝露されるさらなる層を最上層(top layer)と呼ぶ。最上層と基層(典型的に酸化金属層)の間のさらなる層を、中間層と呼び、典型的には基層への最上層の粘着をサポートするために用いられる。さらなる層は、それぞれ、典型的に、酸化金属層の少なくとも一部のもしくはそれと同一の内部表面領域および/または酸化金属層で覆われていない他の内部表面領域を覆っている。さらなる層がなければ、基層がまた最上層である。
【0072】
最も広範囲の最上層は、典型的には親水性であり、複数の非イオン性親水性の基をマイクロチャネル構造を通過する液体に曝露する。最上層は、付着活性が低いべきである。複数の親水性の基は、ポリマー性であってかつ下の支持層(例えば基層)に多くの部位で結合している基体に結合していてもよい。あるいは、制限された数(例えば1、2、3、5、6など、例えば10)の親水性の官能基は、炭化水素鎖の一方の末端に結合し、一方、もう一方の末端は、下層(例えば基層(酸化金属層))に結合する官能基を有する。炭化水素鎖は直鎖(分枝していない)であっても分枝していてもよく、場合により環状構造を含む。
【0073】
“非イオン性親水性の基”という用語は、中間的pHでpH依存性電荷を有する基(例えばアミノ基、カルボキシ基など)、すなわち0〜12の範囲内のpKaを有する酸性の基、および対応する塩基性の基を除く。
【0074】
疎水性の最上層は、典型的には、複数の疎水性の基(例えば炭化水素/炭化水素基(hydrocarbyl group))を、マイクロチャネル構造の内部に露出し得る。
【0075】
最上層は、“背景文献”なる見出しのもとに引用した文献で説明されている通りに、例えば二個の官能基が炭化水素鎖によって隔てられている二官能基性化合物/試薬を含む溶液から得られる、自動形成(self-assemble)していてもしていなくてもよい、いわゆる単層であってもよい。
【0076】
親水性の最上層は、マイクロチャネル構造の特定の部分を規定している平坦な基板の何れか一方または両方によって提供される内部表面に存在していてもよい。
【0077】
親水性の最上層は、疎水性構造が必要である場所(疎水性バルブ、抗毛管手段(anti-wicking means)、単に空気孔/ガス孔として用いられるマイクロ導管など)を除いて、マイクロチャネル構造全体に広がっていてもよい。疎水性表面の特性は、疎水性および親水性の最上層のマスキングおよび導入の適切な組み合わせによって導入されてもよい。1つの代替法は、
a) 親水性の最上層の導入前に疎水性の最上層を導入すべき場所をマスクすること;
b) マスクされていない領域に親水性の最上層を導入すること;
c) 脱マスクすること;
c) 親水性の最上層を選択的にマスクすること;
d) 疎水性の最上層をマスクされていない部分に導入すること;および
e) 脱マスクすること;
の段階を含む。別の変法は、これを全く逆にしたものであり、すなわち親水性の最上層を備えるべき表面をマスクすることから始める。さらに別の変法は、
a) 最終的なデバイス中で内部表面となる基板表面の全てを、親水性もしくは疎水性の最上層でコートすること;
b) 始めに導入された最上層と異なる親水性/疎水性バランスを有する最上層であるべき場所をマスクすること;
c) マスクされていない部分に異なる最上層を導入すること;および
d) 脱マスクすること;
の段階を含む。
【0078】
最上層における非イオン性親水性の基のそれぞれは、好ましくはsp混成化の炭素に結合している非荷電官能基を含む。関連する官能基の種類は、典型的に、酸素および窒素から選択される、1個もしくはそれ以上のヘテロ原子を含む。望ましい親水性の官能基の例は、ヒドロキシ(HO−){ここで、自由原子価は炭素に結合している};−O(CHCHO)−{ここで、nは1であり、少なくとも1つの自由原子価は炭素に結合し、最大1つの自由原子価が水素と結合している};アミド(−CON<){ここで、少なくとも1つの自由原子価が炭素と結合し、最大2つの自由原子価が水素と結合している};エステル(−C(=O)O−){ここで、それぞれの自由原子価は炭素と結合している};スルホン(−S(=O)−){ここで、それぞれの自由原子価は炭素に結合している}などである。
【0079】
親水性の基は、ポリマー性であってもよく、すなわち親水性の官能基がある繰り返し単位を含んでもよい。典型的な非イオン性ポリマー性親水性の基は、例えば−O(CHCHO)−、−(CHCH(OH))−、−(CHCH(O−アルキレン−O−X))−などであり、ここで、nは>1の整数であり、典型的には25または100であり、Xは水素またはアルキルであり、同じ基/分子内の繰り返し単位の間で異なっていてもよく、そして少なくとも1つの自由原子価が炭素と結合し、最大1つの自由原子価が水素と結合している。アルキルおよびアルキレンは、炭素鎖が酸素原子で中断され、または終了しており、その結果アルキル/アルキレン基中で酸素原子当たり最大2つもしくは3つの炭素原子があってもよい、非分枝もしくは分枝炭化水素鎖を有する基を言う。多くの場合において、アルキル/アルキレンは、主に、純粋なC1−4アルキル/アルキレン基を言う。炭素は、主にsp混成炭素を言う。
【0080】
典型的には、非イオン性親水性ポリマー性の基は、ポリマー中で、例えばポリヒドロキシアルコール、例えば多糖類(デキストラン、キシラン、澱粉など)、ポリビニルアルコール、ポリ(ビニルヒドロキシアルキルエーテル)など;ポリエチレン オキシドおよび種々のエチレンオキシド アルキレンオキシド コポリマー;ポリアミド(例えばポリアクリルアミドおよびポリメタクリルアミド)、ポリエステル(例えばポリヒドロキシ低級アルキルメタクリレートおよびアクリレート)などの中で存在する。
【0081】
非イオン性親水性ポリマー性の基は、非イオン性親水性もしくはイオン性もしくはイオン化可能なポリ電解性ポリマーの基体に共有結合していても非共有結合していてもよい。ポリ電解性基体は、正および/または負の電荷を含んでもよい。
【0082】
該層を互いに共有結合もしくは非共有結合で結合させてもよい。非共有結合は、Van del Waals 結合、水素結合、静電的引力などを含む。従って、層が正電荷を帯びた基を有する場合、隣接する層が負電荷を有してもよく、層が疎水性の基を有する場合、隣接する層も疎水性の基などを有してもよい。典型的には、内部表面上の層(段階(iii)の後)、または内部表面となるべき基板表面上の層(段階(iii)の前)の形成と同時にかつ/または続いて、層を互いに共有結合させて層間架橋結合を行う。用いられる技術は当分野で周知である。
【0083】
さらなる層の導入に適切な技術は、以下に例示し得る。
a) WO 03 086960 (Gyros AB) および US 2003/0213551 (Gyros AB)に記載された通りに、有機前駆体分子をベースとしたガス・プラズマからの堆積;
b) 非イオン性ポリマー{場合により WO 01 47637 (Gyros AB)に概略した通りに電荷を帯びているもしくは帯びていない基体に結合している}でのコーティング;
c) 酸化金属層または幾つかの他の前もって導入された層の表面を、少なくとも二官能性試薬と反応させること{ここで、1つの官能基(I)は共有結合または幾つかの他の安定な結合を介して試薬を表面に結合させることができ、試薬の残りの幾つかの他の官能基(II)が、作られた新しい表面上に露出する}。該試薬は、場合によりその表面の化学的特性を規定する官能基(II)で、層を規定する。
【0084】
典型的には、上記の代替法c)によって用いられる試薬中の官能基は、
1) それらが求核性の基と反応することを意図されたならば求電子性であり;
2) それらが求電子性の基と反応することを意図されたならば求核性であり;そして
3) さらなる層が不飽和(炭素−炭素二重および/または三重結合)を含む化合物のグラフト重合によって導入されるならば重合可能な不飽和を含む。
【0085】
代替法c)によって導入された層は、上記の通りの、例えば自己形成した単層であってもよい。このことは、例えばチオール、ヒドロキシ、アミノ、炭化水素基、カルボキシ、ホスホネート(phosponate)、アルケン、反応性シラン、炭化水素基(=hydrocarbon group)などから選択される二個の末端官能基、および二個の末端の基を隔てる炭化水素鎖を含む二官能性試薬によって達成され得る。試薬の1つの官能基がヒドロキシであり、かつもう一方の末端の基がヒドロキシよりも下の表面に結合(coordinate)する傾向が強いならば、ヒドロキシ基を露出している単層が得られる。1つの末端の基が炭化水素基であり、もう一方の末端の基が炭化水素基よりも表面に結合する傾向が強いならば、疎水性表面を露出している単層が得られる。著しく親水性の基および疎水性の基を有する表面を提供する試薬の規定された混合物を用いることによって、それぞれ規定された中間の親水性/疎水性表面特性を有する最上表面が認識(envisage)され得る。単層は、最上層として用いられてもよい。
【0086】
さらなる層は、段階(iii)の前に、段階a)からc)の何れかによって導入されてもよい。このことは、適切な溶液で基板の適切なサイドをディッピングしインキュベートすること、および/または例えばインクジェットおよびスタンプ法などの印刷もしくはスプレー法の使用を含む。段階(iii)の後のさらなる層の導入は、適切な溶液をマイクロチャネル構造の入口を介して行うことを必要とする。
さらなる層は透明であってもなくてもよい。
【0087】
上記の種々のさらなる層、特に最上層はまた、酸化金属層の形態の基層がない内部表面上に存在してもよい。
最上層の付着活性および濡れ可能性(親水性)は、本質的に、“微小流動性デバイス”なる見出しのもとに示した制限の範囲内であるべきである。
【0088】
微小流動性デバイス(第2の態様)
この態様は、1個、2個、3個もしくはそれ以上の封入マイクロチャネル構造を含む微小流動性デバイスであって、それぞれのマイクロチャネル構造が、
a) 環境雰囲気への入口を有する入口装置;
b) 入口より下流の微小反応空間(RM);および
c) i) 入口と微小反応空間(RM)の間に位置し、ii) プラスチック材料から作られる2つの平坦な基板の間に規定される、上流部分;
を含む微小流動性デバイスである。
上流部分を規定する2つの基板はまた、典型的に、微小流動性デバイスのその他のマイクロチャネル構造中の対応する上流部分を規定する。
【0089】
特徴的な特徴は、それぞれのマイクロチャネル構造の上流部分における内部の壁が、酸化金属を含む下の透明な基層を有する親水性表面領域を露出していることである。
【0090】
微小反応空間(RM、例えばRM)は、反応が起こるべきマイクロキャビティーである。該反応は、2個もしくはそれ以上の反応物{ここで、その1個もしくはそれ以上が微小反応空間中に存在する固相に固定されていてもよい}に関係していてもよい。利用される反応物は、下記の種類の親和性反応物および/または1個もしくはそれ以上の共有結合の切断および/または形成によって構造的に新しい存在に変換される1個もしくはそれ以上の反応物を含む。触媒系の反応物、例えば酵素系も、しばしば含まれる(例えば酵素、基板、補因子、補酵素、補助基質(cosubstrate)など)。
【0091】
本発明の種々の態様において、“上流”および“下流”という用語は、マイクロチャネル構造における流れの方向を言い、液体の流れは下流位置より前に上流位置を通過することを意味する。流れが上流位置(例えば上流部分)と下流位置(例えば微小反応空間(RM))の間を行きつ戻りつして通過する場合、この語は、1回目に液体の流れがその位置の間を通過する場合で言う。
【0092】
微小流動性デバイスはまた、先のパラグラフで言及したマイクロチャネル構造と同じペアの基板の間に規定される部分であってもなくてもよい、さらなるマイクロチャネル構造を含んでもよい。これらのさらなるマイクロチャネル構造は、親水性表面および/または上記の支持基層(酸化金属層)を露出している内部の壁を含んでも含まなくてもよい。
【0093】
基層に加えて、別個の最上層、および場合により第1の態様に記載した通りに基層と最上層の間に中間層があってもよい。
異なる層の詳細は、第1の態様の内容で記載した。
デバイス当たりの革新的な種類のマイクロチャネル構造の数は、典型的には10であり、例えば25または90または180または270または360である。
【0094】
“マイクロチャネル”、“マイクロ導管”、“微小体積”などという用語は、チャネル構造が、10μm、好ましくは5×10μm、例えば10μmである断面積を有する1個もしくはそれ以上のキャビティーおよび/または導管を含むことを意図している。断面積の下限は、典型的には、革新的なデバイスのマイクロ導管を通過するであろう液体の最も大きい成分のサイズよりかなり大きい。マイクロキャビティーの体積および処理されるべき液体は、μlの範囲であり、すなわち5000μl、例えば1000μlまたは100μlまたは10μlであり、そしてナノリットル(nl)の範囲およびピコリットル(pl)の範囲を含む。nlの範囲は、5000nlの上限を有し、ほどんどの場合、1000nl、例えば500nlまたは100nlの体積に関する。plの範囲は、5000plの上限を有し、ほとんどの場合、1000pl、例えば500plまたは100plの体積に関する。
【0095】
マイクロキャビティーは、マイクロキャビティーに直接結合している何れかのマイクロ導管と同一または異なる断面積を有していてもよい。
μlの範囲(1μl)の上限であるマイクロキャビティーは、典型的には、入口ポートに直接結合しており、サンプルおよび/または洗浄液の適用を意図している。
【0096】
それぞれのマイクロチャネル構造は、
a) 場合により定容量ユニットを伴う、例えば入口ポート/入口を含む入口装置;
b) 液体輸送のためのマイクロ導管;
c) 微小反応空間(RM);
d) 微小混合空間;
e) 液体から特定の物を分離するためのユニット(入口装置中に存在してもよい);
f) 例えばキャピラリー電気泳動、クロマトグラフィーなどによって、サンプル中の溶解したもしくは懸濁した成分を互いに分離するためのユニット;
g) 微小検出空間;
h) 廃液導管/マイクロキャビティー;
i) バルブ;
j) 環境雰囲気への孔;
などから選択される、1個、2個、3個もしくはそれ以上の機能部分を含んでもよい。
【0097】
これらの部分の多くは、1個もしくはそれ以上の機能性を有していてもよい。微小反応空間および微小検出空間は、例えば一致していてもよい。他の例は、可溶性反応物、微小反応空間もしくは上流のマイクロキャビティー中で起こった反応の生成物などが結合し得る反応物を結合させた固相を含む微小反応空間である。組み合わせ反応、微小分離空間および微小検出空間として機能し得る。マイクロチャネル構造中で分離され、形成され、またはそうでなくとも処理された物質を回収し、幾つかの他の機器、例えば分析機器(例えば質量分析器)に移す、微小回収空間であってもよい。微小流動性デバイスにおける様々な種類の機能ユニットは、Gyros AB/Amersham Pharmacia Biotech AB による:WO 99 55827, WO 99 58245, WO 02 074438, WO 02 75312, WO 03 018198, WO 03 024598、および Tecan/Gamera Biosciences による:WO 01 87487, WO 01 87486, WO 00 79285, WO 00 78455, WO 00 69560, WO 98 07019, WO 98 53311 に記載されている。
【0098】
入口装置は、1つのマイクロチャネル構造に結合していてもよく、またはマイクロチャネル構造のサブグループに、例えば2個、3個、4個などから10個までまたは15個までまたは20個までのマイクロチャネル構造に共通であってもよく、そして入口ポートおよび典型的に入口ポートと関連したマイクロチャネル構造当たり1個の体積規定ユニットを含む。それぞれの体積規定ユニットの下流末端で、典型的に、入口装置/体積規定ユニットから体積規定ユニットに関連したマイクロチャネル構造の下流部分への液体の漏れを防ぐバルブ機能がある。このバルブ機能は、典型的には、例えば疎水性の切れ目もしくはバリアをベースとした、非密閉型バルブ、例えば受動バルブ(passive valve)である。例えば WO 02 074438、WO 02 75312、WO 03 018198、US 2003/0044322、および US 2003/0053934 を参照のこと。
【0099】
微小流動性デバイスはまた、異なるマイクロチャネル構造をつなぐ共通のチャネル、例えば液体の導入のための共通分配チャネル、および廃液リザーバーを含む共通廃液チャネルを含んでもよい。例えば入口ポート、出口ポート、孔などの種々の部分を含む共通のチャネルは、それらが連通しているそれぞれのマイクロチャネル構造の部分と考えられる。
【0100】
上記のユニット、マイクロキャビティー、およびマイクロ導管は、本発明の第1の態様に概略された通りに、酸化金属層を含む下の基層を伴う親水性内部表面を有してもよい。これらのユニットは、上記の上流部分中に、または微小反応空間RMより下流に存在する。この種の内部表面/内部の壁はまた、微小反応空間RM中に、例えば内部の壁の1個、2個、3個もしくは4個のサイド中に存在してもよい。
【0101】
微小反応空間は、反応物が固定された(共有結合でまたは吸着によって)固相を含んでもよい。典型的な固相は、多孔性モノリシック・ベッド、すなわちマイクロ導管中の多孔性プラグ、多孔性および/または非多孔性粒子の形態の充填ベッド、および微小反応空間の内部表面である。場合によってはまた、多孔性および/または非多孔性粒子の流動床は、関心があり得る。反応物は、典型的に、親和性反応物(例えば生体親和性反応物)および他の反応物から選択される。
【0102】
反応物は、何れのコーティングにもよらず、または最上層について記載したものと同じ種類から選択され得る非イオン性親水性の基を露出しているコーティングを介さず、固相に直接固定されていてもよい。濡れ可能性および/またはコーティングの表面の低い付着活性は、本明細書中の他の場所に記載した通りであってもよい。
【0103】
固定された反応物(リガンド)は、典型的に、微小反応空間を通過する液体に溶解させたまたは粒子として懸濁させた反応物と親和性結合または共有結合が可能である。共有結合は、利用するならば、例えばチオール−ジスルフィド交換(例えばリガンドはいわゆる反応性ジスルフィドまたはチオール基を介して固定される)によって可逆的であってもよい。
【0104】
親和性結合(=親和性吸着)は、以下に例示し得る:
(a) リガンドおよび結合する存在が反対の電荷を有することが典型的に必要である静電相互作用;
(b) リガンドおよび結合する存在が疎水性の基を含むことが典型的に必要である疎水相互作用;
(c) リガンドおよび結合する存在がそれぞれ電子受容基および電子供与基を有するか、またはその逆である電子供与受容相互作用;
(d) 典型的に相互作用が異なる種類の相互作用および/または基の混合に関する、天然の複合体の相互作用である生体親和性結合。
【0105】
イオン交換リガンドは、カチオン性(=アニオン交換リガンド)であっても、アニオン性(=カチオン交換リガンド)であってもよい。典型的なアニオン交換リガンドは、正電荷を帯びた窒素を有し、最も一般的なものは、第1級、第2級、第3級、もしくは第4級アンモニウム基、およびある種のアミジニウム基から選択される、1個もしくはそれ以上の基を含む。典型的なカチオン交換リガンドは、負電荷を帯びた酸素を有し、最も一般的なものは、カルボキシレート、ホスフェート、ホスホネート、スルフェート、およびスルホネートから選択される1個以上の基を含む。
【0106】
生体親和性結合は、固相上の反応物(リガンド)がいわゆる生体親和性ペアの一方のメンバーであり、そして親和性結合によって結合した反応物がそのペアのもう一方のメンバーであるものを含む。典型的な生体親和性ペアは、
a) 抗原/ハプテンおよび抗体/抗体の抗原結合フラグメント;
b) ビオチンおよびビオチンと親和性結合し得る化合物(例えばストレプトアビジン(strepavidin)、アビジン、ニュートラアビジン(neutravidin)、およびビオチンに匹敵するもしくはそれより強い親和性および特異性を有する他の化合物);
c) 相補的な核酸;
d) 免疫グロブリン結合蛋白質および免疫グロブリン(例えばIgGもしくはそのFc部分および蛋白質AもしくはG);
e) レクチンおよび対応する炭水化物;
などである。“生体親和性ペア”という用語は、メンバーの一方もしくは両方が合成されたもの、例えば生体親和性ペアの天然のメンバーを模倣したもの、金属イオンキレート(IMAC)などである、親和性ペアを含む。抗体という用語はまた、抗原/ハプテンに匹敵する結合能力を有する他の結合メンバー、例えば親和性抗体(affibody)、一本鎖抗体、キメラ抗体などを含む。
【0107】
2個もしくはそれ以上の上記の機能部分の間の微小流動性デバイス/マイクロチャネル構造中の液体を輸送するために、異なる原理が利用され得る。例えば次のパラグラフに記載した通りにディスクをスピンすることによって、慣性力が用いられ得る。他の力は、毛管力、動電力、非動電力(例えば毛管力、静水圧など)である。
【0108】
微小流動性デバイスは、典型的にディスクの形態である。望ましいフォーマットは、ディスク型変法において、ディスク平面に垂直な、もしくは完全な対称軸(C)を有する。nは整数2、3、4、もしくは5であり、好ましくは∞(C)である。言い換えれば、ディスクは、方形(例えば正方形)および他の多角形であってもよいが、円形であってもよい。適切なディスクのフォーマットが選択されたならば、遠心力が、液体の流れを駆動するために用いられ得る。典型的にはディスク平面に垂直もしくは平行である回転軸に対してデバイスをスピンすることが、必要な遠心力を生む。回転軸は、必ずしもディスクを横切らない。優先日での最も明らかなディスクの変法において、回転軸は、上記の対称軸と一致し、ディスク平面と共通ではないがディスク平面に平行である。例えば PCT/SE03/01850 (Gyros AB)を参照のこと。
【0109】
内部表面は、特に、本発明の第1の態様によって導入される最上表面(最上層の表面において酸化金属層がそのまま露出している場合を除く)は、付着活性が低い(=付着活性が本質的にない)べきである。付着活性へのコーティング(主に最上層)の効果は、最上表面へのモデル蛋白質の吸着と裸のプラスチック表面への吸着の間の比率として測定され得る。この比率は、典型的に0.75、例えば0.50または0.25であるべきであり、そして少なくとも1つの選択されたモデル蛋白質のためのマイクロチャネル構造中の微小反応空間より上流の内部表面の主要な部分における減少率と呼ばれる。内部表面における減少率0.75は、表面が非特異的吸着を本質的にしないことを意味する。これらの内部表面のある部分における高い比率は、1個もしくはそれ以上の他の部分における低い値で補われ得る。比率は、例えば0.10まで下げられ得る。減少率の測定は、WO 03 086960 (Gyros AB) および US 2003/002134551 (Gyros AB) で提示された通りに行われ得る。典型的なモデル蛋白質は、様々な種由来の血清アルブミン(例えばウシもしくはヒト血清アルブミン)、または種々のタイプ(IgG、IgAなど)の、および様々な種由来(ヒト、ウシ、ウサギなど)の免疫グロブリン(Ig)から選択され得る。
【0110】
本発明の内容において、表面に関する“濡れ可能性”(親水性)という用語は、表面が90°の水接触角を有することを意味する。“非濡れ可能性”(疎水性)という用語は、表面が90°の接触角を有することを言う。本発明の微小流動性デバイスの異なる機能部分の間で液体をうまく輸送するのを助けるためには、個々の部分の水接触角が主に濡れ可能性であるべきであり、好ましくは50°の、例えば40°または30°または20°の接触角を有する。特に、一旦液体がキャビティー(=親水性マイクロ導管/マイクロキャビティー)に入り始めれば水性液体がキャピラリー(自己吸引)によって意図されたマイクロキャビティーを満たし得るように、濡れ可能性を適合させるべきである。マイクロチャネル構造における親水性内部表面は、例えば受動バルブ、抗毛管手段、単に環境雰囲気などへの孔として機能する孔などを導入するために、1個もしくはそれ以上の局所的疎水性表面の親水性の切れ目を含んでもよい。従って、該表面の切れ目は、親水性表面と疎水性表面の間の境界を含む。切れ目での疎水性表面は、典型的には、非濡れ可能性であり、90°の、例えば100°または110°または120°の水接触角を有する。境界での濡れ可能性の違いは、典型的には50°であり、例えば60°または70°である。バルブ調節、抗毛管手段、排出目的のためなどに用いられるならば、マイクロ導管中の内部の壁の一方のサイドの内側を覆う(delineate)2つの長手方向の末端(length-going edge)の間の最上表面にわたって、境界が伸張していてもよい。1個、2個、または他の内部のサイドにおいてほぼ同じ位置で、境界はまた、同時に存在してもよい。
【0111】
全ての接触角は、使用温度で、典型的には25℃での値を言い、固定的であり、WO 00 56808 (Gyros AB)、および WO 01 47637 (Gyros AB)に説明されている方法によって測定され得る。
【0112】
本発明の第3の態様
本発明の別個の態様は、1個、2個、もしくはそれ以上のマイクロチャネル構造を含む微小流動性デバイスであって、それぞれが反応物を結合させた固相を有する固相を含む微小反応空間(RM)を有する微小流動性デバイスである。特徴的な特徴は、微小反応空間(RM)の固相および/または内部の壁は、上記の通りの酸化金属層(基層)を含む、コーティングを有することである。コーティングは、本発明の他の態様に記載した通りの最上層および1個もしくはそれ以上の中間相を含んでもよい。最上表面は、酸化金属層によって、または本発明の他の態様で記載された通りに、その表面に非イオン性親水性の基を露出している別の最上層として定義される。本発明の第1の態様および第2の態様による最上表面のコーティングについて記載した通りに、最上表面は、濡れ可能性を有し、場合により低い付着活性を有する。革新的なコーティングは、微小反応空間の内部の壁の1個、2個、3個、もしくは4個の内部のサイドで存在してもよい。
【0113】
第3の態様のデバイスは、マイクロチャネル構造の他の部分において、本発明のコートを有しても有しなくてもよい。この態様に関する微小反応空間は、典型的には、最も下流の微小反応空間である。
【0114】
本態様の特定の他の特徴は、“微小流動性デバイス”および“微小流動性デバイスの製造方法”で明らかである。
【0115】
本発明の第4の態様(局所の表面の切れ目を規定する疎水表面領域)
受動バルブ、孔、抗毛管手段などとして使用するための、微小流動性デバイスの親水性の内部の壁における局所の疎水表面の切れ目は、プラスチック表面に結合しにくい物質で、適切な疎水性パターンをスプレーする、プリントする、またはペイントすることによって導入される。本発明のこの態様は、液体を繰り返し通過させる局所の微小流動性疎水性表面の切れ目の安定性に関連する問題に関する。
【0116】
この態様は、親水性表面における疎水表面の切れ目によって表され、典型的には局所である。切れ目は、親水性表面と疎水性表面の間の境界を含む。境界もしくは切れ目はマイクロ導管における内部の壁の内部サイドの内側を覆う、2つの長手方向の末端の間に伸張している。長手方向の末端の規定については、WO 02 74438 (Gyros AB)を参照のこと。境界は、マイクロ導管において本質的に同じ位置で、1個、2個、3個、もしくはそれ以上の内部サイドに存在してもよい。
【0117】
革新的な疎水性表面の切れ目は、疎水性表面領域を含む最上層が、最上層の下の層の表面上部に共有結合しているという点で特徴付けられる。疎水性表面の基(主に炭化水素基)は、従って、最上表面から最上層の下の層を架橋している有機化合物の一部であり、典型的にこの後者の層に共有結合している。この下層は、
a) プラスチック表面そのまま;
b) 存在するならば上記の酸化金属層(基層);
c) i) プラスチック基板表面と最上層の間、またはii) 最上層と、存在するならば酸化金属層(基層)の間に位置する中間層;
であってもよい。中間層はまた、層が疎水性最上表面を露出した層の下に広がっている、境界の別のサイドでの親水性表面領域の最上層であってもよい。
【0118】
一方法は、境界を規定する疎水表面領域と親水性表面領域における水接触角が上記の範囲内であることを特徴としていることを特徴としている。水接触角の違いは、第2の態様で記載された通りであり得る。
【0119】
革新的な表面の切れ目の境界を規定している疎水性表面領域および親水性表面領域は、本発明の第1の態様に記載された通り、それぞれ疎水性の基および親水性の基を露出していてもよい。代表的な層は、第1の態様に記載された通りに導入され得る。
【0120】
本発明のこの態様は、主に、微小流動性デバイスのマイクロチャネル構造中の液体輸送に用いられるマイクロ導管における、受動バルブおよび/または抗毛管手段に関する。
【実施例】
【0121】
ITOのスパッタリング
ITO(酸化インジウム錫, 90%In−10%SnO)の薄いフィルムを、Zeonor(Zeon Corp, Japan)の基板上に、DC(MRC 902, ESC, Equipment Support Company Ltd, Cambridge, U.K.) magnetron sputter によって、加熱することなく堆積させた。フィルムの光学的性質および電気的性質は、出発物質のスパッタリング・パラメーターと物理的性質に大きく依存している。
【0122】
実験で用いられるパラメーターは、表1に記載されている。ガス1はアルゴンを表し、ガス2は酸素を表す。この特定の場合は、酸素分圧10%におけるスパッタリング条件を示す。
【表1】

表1:酸素分圧10%であるITOのスパッタリングのためのセットアップ条件
【0123】
ITOフィルムの光学的性質
高い導電性または低い抵抗性は、可視領域において、高透過率に対してバランスをとり、そして酸素分圧の比およびフィルムの厚さ(スキャン数およびスキャン速度によって示される)によって左右される。
【0124】
図1において、酸素分圧およびスキャン数(スキャン速度200cm/分)の比は、異なる厚さと透過率を有するフィルムを与えるよう変化させた。
緑色光(550nm)において、酸素分圧40%および20%、およびスキャン数4において、90%の透過率を達成した。透過率はスキャン数を2に減少させれば、増大すると考えられる。図Aでは非処理Zeonor(商標);Bでは酸素分圧40%、スキャン数4;Cでは酸素分圧20%、スキャン数4;Dでは酸素分圧10%、スキャン数4;Eでは酸素分圧1%、スキャン数4;そしてFでは酸素分圧10%、スキャン数8である。
【0125】
電気的性質
堆積した層は、それが導電性を示すほど高密度の電荷キャリアを含まなければならない。これらのキャリアは、自由電子と酸素空孔であり、そして過剰集合は吸収を起こす。高導電性、低抵抗性は、可視領域での高透過率に対してバランスをとる。透過率90%付近を有するITOフィルムは、100Ω/m以上の抵抗を有する。75%未満の透過率を有するフィルムにおいて、30Ω/mの抵抗が得られた。
【0126】
ITOフィルムの接触角
表1(酸素分圧10%、スキャン数4)に従ってスパッタリングしたフィルムのために、堆積直後の静的水接触角(static water angle)は、20〜30°付近の間を変化した。Al-folio 中で4週間保存した後、95% EtOHで洗浄後、定位水接触角は21°であった。これより、より長い時間(例えば1、2、3カ月以上)での保存のための許容される保存安定性が、この種類の表面修飾で達成されるであろうという兆候が顕著である。
【0127】
微小流動性試験
Mylar OL2 Lid (Dupont)(基板I)を、CD面を有する円形プラスチックディスク(基板II)の表面にラミネートした。該ディスクの表面は、出口より中心に近い入口を有する、ディスクの中心に対して輪状に配置した開いたマイクロチャネル構造を含んでいた。蓋は、マイクロチャネル構造の入口と出口に合わせた孔を有した。酸化インジウム錫は、開いたマイクロチャネル構造を含む基板表面へ、上記の通りスパッタリングされた。ラミネートされた構造(=微小流動性デバイス)は、ITO(親水性)の内側表面を有する幾つかの封入マイクロチャネル構造を含んだ。
【0128】
微小流動性試験は、それぞれのマイクロチャネル構造の入口に水滴をアプライすることによって行った。それぞれの液滴は、対応するマイクロチャネル構造へ毛管現象によって、すぐに吸引された。比較として、内部表面が非処理プラスチック(疎水性)である同種の微小流動性デバイスで同じ試験を行った。この場合、液滴は、マイクロチャネル構造の外側に残った。
【0129】
その下に酸化インジウム錫の基層を有する非イオン性親水性最上層への蛋白質の非特異的吸着
PEG−PEI/ITO表面
ポリエチレン イミン(PEI)およびエポキシ−メトキシ−PEGのコンジュゲート(PEG−PEI)を、0.43gの Lupasol Sk (BASF, Germany, PEI中24%wt(製造者による))を、5gのエポキシ−メトキシ−PEG(Shearwater Polymer, Inc, Huntsville, AL, USA)と反応させることによって合成した。次に、上記の通りに(酸素分圧10%、スキャン数4)得られたポリスチレン上のITO表面上に、水溶液(pH 約7.8)から、コンジュゲートを1時間吸着させた。吸着に続いて、表面を水で洗い、窒素下で乾燥した。吸着させた層は28°の接触角を有した。手順は、WO 01 47637 (Gyros AB)で概略した。
【0130】
PEG−PEI/ITO表面への蛋白質吸着を、ELISA法によって試験した。PEG−PEI/ITO表面を、PBS中3つの異なる濃度(0.5;5;50μg/ml)で、100μlのウサギの免疫グロブリン溶液と共に、終夜室温でインキュベートした。その後、それぞれの表面を、PBS/Tween(10mM リン酸塩および0.15mM NaCl)で3回洗浄した。該表面に吸着したウサギIgGの量を定量するために、それぞれの表面を90μlのHRPコンジュゲート抗ウサギIgG抗体(濃度1μg/ml)と共に、90分間インキュベートした。次に、それぞれの混合物に、90μlのTMB(テトラメチルベンジジン)基質を加え、640nmで吸光度を測定した。5分間インキュベートした後、90μlのTMB停止溶液を加え、405nmの吸光度を検出した。
【0131】
PEG/PEI/SiOx表面
用いた装置(CVD Piccolo, Plasma Electronic(Neuenburg, Germany))の製造者によって推奨される標準的な方法によって親水性ガラス様表面(SiOx)を作る、ポリスチレン表面へのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)プラズマ堆積によって、ガラス様SiOx層を作った。第1の段階で、表面をきれいにし、堆積させる層を良好に接着させるために、アルゴン/酸素プラズマ中でポリスチレン表面を処理した。SiOxをHMDSOプラズマから堆積させ、次に酸化段階を行った。該プロセスのパラメーターは、以下の通りである。
【表2】

上記の通りに得られたPEG−PEIを、次にSiOx表面に吸着させた。蛋白質吸着は、PEG−PEI/ITO表面と同様の方法で試験した。
【0132】
PEG−PEI表面
ポリスチレン表面(PS)を、酸素プラズマで親水化し、WO 00 56808 (Gyros AB) および WO 01 47637 (Gyros AB) で概略した通りにPEG−PEIで吸着させた。PEG−PEI/ITO表面と同様の方法で蛋白質吸着を試験した。
【0133】
裸のポリスチレン表面
ポリスチレン表面への直接の蛋白質吸着を、PEG−PEI/ITO表面と同様の方法で試験した。
【0134】
蛋白質濃度が最も多い結果を図2に示す。ポリスチレン比は、特定の表面および標準的な表面(この場合裸のポリスチレン表面)に吸着した蛋白質の量の比を言う。吸着したPEG−PEIを有するITO表面は、蛋白質吸着が最も少ない。図2参照のこと。
【0135】
ITO表面へのシラン−アクリレート・モノマーの結合
上記の通り得られたITO(酸素分圧10%、スキャン数4)を、MAPTS(3−メタクリルオキシプロピルトリメチルシラン)でスピン・コートし、オーブン中で硬化させた。MAPTS塗布前のITO表面の接触角は、20°であり、MAPTS後は予測された通り66°であった。このことは、ITO表面でのOH基がシラン試薬とうまく反応したことを示している。導入されたメタクリレート基は、例えば重合可能な不飽和モノマーを利用して重合することによってさらなる層を導入することによって、さらに表面を誘導体化するために用いられ得る。
【0136】
不飽和モノマーが疎水性モノマーを与える場合、疎水表面は、特に、本発明の第4の態様において概略された通りに疎水性表面の切れ目として用いられ得る。アクリレート基を1個もしくはそれ以上の疎水性の基で置換したシラン化試薬を用いることによって直接疎水表面が得られる。両方の変法で、親水性表面および疎水性表面の間のよく規定された境界を作るためには、適切なマスキングが必要である。
【0137】
本発明のある革新的な態様は、添付の請求項により詳細に定義されている。本発明およびその利点は詳細に記載されているが、本発明の考えおよび範囲から離れることなく、種々の変化、置き換え、および改変を行い得ると解するべきである。さらに、本明細書の範囲は、本明細書に記載した事項、手段、方法、および段階のプロセス、機械、製造、組成の特定の態様に制限されることを意図されていない。当業者が本発明の開示より容易に想到する通りに、本明細書に記載された対応する態様と実質的に同様の機能を行うまたは実質的に同じ結果を達成する、現存するまたはそれ以降に開発された事項、手段、方法、または段階のプロセス、機械、製造、組成は、本発明によって利用され得る。従って、添付の請求項は、このような事項、手段、方法、または段階の、プロセス、機械、製造、組成の範囲内を含むことを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】ITOフィルムのための光透過スペクトル。酸素分圧とスキャンの数は、スパッタリングの間で変化させた。
【図2】酸化金属層(酸化インジウム錫)を含む内部の壁の表面へのIgG吸着を裸のポリスチレン表面と比較した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個、2個、3個もしくはそれ以上の封入マイクロチャネル構造を含む微小流動性デバイス(microfluidic device)であって、それぞれのマイクロチャネル構造が、
a) 環境雰囲気へ開いている入口を有する入口装置(inlet arrangement);
b) 入口より下流の微小反応室;および
c) 出口;
を含む微小流動性デバイスの製造方法であって、それぞれのマイクロチャネル構造の対応する部分が、基板の同じペアの間に規定されるようにプラスチック材料で作られている2個もしくはそれ以上の本質的に平坦な基板を互いに接合することによって製造される方法であって、
i) プラスチック材料で作られており、それぞれが、片面(それぞれサイドaおよびサイドaII)に、一体となった際にそれぞれのマイクロチャネル構造の上流部分を規定する表面領域を含む、2つの本質的に平坦な基板IおよびIIを提供すること;
ii) 親水性かつ透明であって、かつサイドaおよびサイドaIIの少なくとも一方の表面領域に酸化金属を含む層(基層)を導入すること;
iii) サイドaをサイドaIIに向き合わせて接着し、それぞれのマイクロチャネル構造の上流部分を形成すること;
iv) 所望により、さらに平坦な基板を接合してマイクロチャネル構造を完成させること;
の段階を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
該酸化金属を酸化インジウム錫および/または酸化チタンを含み、その両方が好ましくはナノ結晶形態であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1個もしくはそれ以上のさらなる層を、段階(iii)の前もしくは後に、該基層の上に導入することを特徴とする、請求項1〜2の何れかに記載の方法。
【請求項4】
1個、2個、3個もしくはそれ以上の封入マイクロチャネル構造を含む微小流動性デバイスであって、それぞれのマイクロチャネル構造が、
a) 液体のための入口を有する入口装置;
b) 入口より下流の微小反応空間(RM);および
c) 入口および微小反応空間(RM)の間に位置し、プラスチック材料で作られている2つの平坦な基板(ここで、該基板は該マイクロチャネル構造に共通である)の間に規定される上流部分;
を含む微小流動性デバイスであって、該上流部分の内部の壁が酸化金属を含む基層上の親水性表面領域を露出していることを特徴とする微小流動性デバイス。
【請求項5】
酸化金属が酸化インジウム錫または酸化チタンであって、その両方が好ましくはナノ結晶形態であることを特徴とする、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
親水性表面領域が、
a) 基層によって提供され;および/または
b) その表面上で非イオン性親水性基を露出している最上層(top layer)の一部;
であることを特徴とする、請求項4〜5の何れかに記載のデバイス。
【請求項7】
(i) 親水性表面領域が(b)に記載するものであり;そして
(ii) 該基層と該最上層の間に1個以上の中間層がある;
ことを特徴とする、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
該層のそれぞれが、非共有結合かつ/または共有結合、非共有結合によって別の層に結合している、請求項6〜7の何れかに記載のデバイス。
【請求項9】
該最上層は、それが存在する場合、最上層の表面と接触する蛋白質水溶液からの蛋白質の非特異的吸着が、本質的にないことを特徴とする、請求項6〜8の何れか1項に記載のデバイス。
【請求項10】
該部分が、入口ユニットに添加された液体の、さらに下流側のマイクロチャンネル構造への制御されない漏れを防ぐバルブ機能が、下流方向端に位置している入口装置の一部を含み、該入口装置の内表面が、典型的には該ユニットに添加された水溶液の流体先端がキャピラリーによりバルブ機能に到達できる程度に濡れ得ることを特徴とする、請求項4〜9の何れか1項に記載のデバイス。
【請求項11】
該部分が2つの機能ユニットの間の水性液体の輸送のために用いられるマイクロ導管(microconduit)を含むことを特徴とする、請求項4〜10の何れか1項に記載のデバイス。
【請求項12】
該部分が、微小反応空間(RM)の上流に位置する微小反応空間(RM)を含むこと、および/または微小反応空間(RM)が酸化金属を含む基層上の親水性表面を露出していることを特徴とする、請求項4〜11の何れか1項に記載のデバイス。
【請求項13】
該部分が、微小反応空間(RM)の上流に位置する検出ユニットを含むことを特徴とする、請求項4〜12の何れか1項に記載のデバイス。
【請求項14】
該部分が、場合により微小反応空間と組み合わされた、および/または一致している加熱ユニットを含むことを特徴とする、請求項4〜13の何れか1項に記載のデバイス。
【請求項15】
該基層が透明である、請求項4〜14の何れか1項に記載のデバイス。
【請求項16】
該基層が電気伝導性であることを特徴とする、請求項4〜15の何れか1項に記載のデバイス。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−519100(P2006−519100A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502780(P2006−502780)
【出願日】平成16年1月28日(2004.1.28)
【国際出願番号】PCT/SE2004/000109
【国際公開番号】WO2004/067444
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(505358004)ユィロス・パテント・アクチボラグ (22)
【氏名又は名称原語表記】Gyros Patent AB
【Fターム(参考)】