微生物によるエタノール製造の強化
好熱性微生物は乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有さず、好ましくは、活性なピルビン酸ギ酸リアーゼ経路を含有する。好熱性微生物は、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を含有する。NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、好ましくは、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子のコドン最適化型である。DNA構築物は、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の好熱性微生物における安定な発現を可能にする。DNA構築物は、安定な発現、又は、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の中に挿入するための組換えを達成するための挿入配列の使用に基づいており、従って、遺伝子ノックアウト及び新しい機能性を一段階で達成する。微生物は、エタノールを製造するための糖の発酵において有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵法及びそれに使用される微生物に関し、具体的には、微生物によるエタノール製造の強化に関する。より詳細には、本発明は、バイオマスの加水分解に由来する混合糖からの好熱性細菌(例えば、バチルス(Bacillus)属など)による強化されたエタノール製造に関する。具体的には、本発明では、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼ酵素をコードする遺伝子を、ピルビン酸ギ酸リアーゼ酵素複合体をコードする機能的な遺伝子を有するが乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有さない微生物にクローン化することによるエタノール製造のための新規な経路が想定される。
【背景技術】
【0002】
バイオエタノールは現在、穀類デンプン、サトウキビ又はテンサイに由来するグルコース、マルトース又はスクロースから作製され、しかし、これらはすべてが食料としての価値を有する。セルロース及びヘミセルロースは農業副産物の大きな部分であり、特に、低コストで、再生可能なバイオエタノールの主要な供給源となり得る。しかしながら、発酵可能な糖をセルロースから得ることは困難であり、また、費用がかかる。それに反して、ヘミセルロースはセルロースとほぼ同じくらい豊富に存在し、また、容易に加水分解することができ、しかし、酵母が発酵することができないペントース糖を主とする混合物をもたらす。
【0003】
この理由のために、Hartley(国際特許出願公開第WO88/09379号を参照のこと)は、バイオマスに由来する糖のすべてを70℃までの温度で非常に迅速に発酵する好熱性バチルス属細菌の変異体によるエタノールの製造を提案した。しかしながら、高いエタノール収率は、ストレスを受けた瀕死の細胞によってのみ達成されるだけである。
【0004】
多くの微生物が、ピルビン酸をアセチルCoA及びギ酸に変換するピルビン酸ギ酸リアーゼ(PFL)経路を含有する(図1A)。ヘテロ乳酸(heterolactate)発酵微生物が1つのそのような部類である。これらの微生物は最初に、流入した糖を(一般には解糖のEMP経路によって)ピルビン酸に変換し、その後、微生物は、増殖条件に依存して、乳酸、ギ酸、酢酸、エタノール及びCO2を様々な割合で製造するために多くの経路を取ることができる。
【0005】
完全に好気性の細胞において、そのようなピルビン酸は、通常の場合、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)経路、トリカルボン酸サイクル及び電子移動鎖によってH2O及びCO2に代謝される。しかしながら、これらの生物の多くにおいて、特に、好熱性のバチルス属細菌では、糖の取り込み及び解糖が調節されないようであり、乳酸が、好気的条件下でさえ、高い糖濃度では優勢な産物である。このことは、PDH流束がその後、飽和してしまうこと、及び、過剰なピルビン酸が、あふれる乳酸デヒドロゲナーゼ経路に向けられることを示唆する。これは増殖のために使用されないで、新鮮な草が堆肥の山に置かれるときに見られ得るように、周囲温度を上昇させ、好中温性の競合菌を殺す熱をもたらす。
【0006】
ldh遺伝子(これは乳酸デヒドロゲナーゼをコードする)が、例えば、国際特許出願公開第WO02/29030号に記載されるように不活性化されるならば、乳酸の製造が止まり、過剰なピルビン酸は大部分が、増殖に結び付けられるPFL経路に向けられる(図1A)。しかしながら、非常に高い糖濃度及び/又は酸性pHでは、PFL経路の流束が低下し、過剰なピルビン酸が、その後、エタノール及びCO2をもたらすだけである嫌気性のPDH経路にあふれる(図1B)。従って、高いエタノール収率を得るための好ましい条件は、PFL経路を流れる流束を減少させ、PDH経路を介する流束を増大させる条件である(Hartley, B. S. and Shama, G.、Proc. Roy. Soc. Lond.、321、555〜568 (1987))。残念ながら、そのような条件の下では、細胞は代謝ストレスを受け、ATP製造が低下し、また、NAD/NADH比及びCoA/アセチルCoA比のバランスが崩れる可能性がある(図1C)。
【0007】
様々な発酵プロトコルが、この問題を回避するか、又は、最小限に抑えることを試みるために提案されている(例えば、上記で議論されるようなHartley,B.S.のプロトコル(国際特許出願公開第WO88/09379号を参照のこと)など)。
【0008】
2種類のギ酸デヒドロゲナーゼが存在する。1つ(これはfdhF遺伝子によってコードされる)はギ酸をCO2+H2に変換し、腸内細菌(例えば、大腸菌など)に典型的である。もう一方(これはfdh1遺伝子によってコードされる)はギ酸+NADをCO2+NADH2に変換し、多くの発酵性嫌気性菌に存在する。Berrios−Riveraら(Metabolic Engineering、4、217-219、2002)は大腸菌におけるfdhF遺伝子を酵母のfdh1遺伝子により置き換え、還元された嫌気性産物(例えば、エタノール、乳酸及びコハク酸など)が、酸化された産物(例えば、酢酸など)と比較して増大したことを見出した。この観測結果を基にして、San,K−Y.、Berrios−Rivers,S.J.及びBennett,G.N.(国際特許出願公開第WO2003/040690号を参照のこと)は、広範囲の生物転換に関与する細胞において還元力を増大させるための一般的な方法として、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の導入を提案した。続いて、San,K−Y.、Bennett,G.N.及びSanchez,A.(米国特許出願公開第US2005/0042736A1号)は、この概念の具体的な適用をコハク酸の製造のために提案した。これらの研究は大腸菌(糖の取り込みが調節される好中温菌の一例)において行われた。これらの実験の目的は、細胞内のNADHレベルを増大させ、その結果、強化された還元力を様々な生物転換のために提供するようにすることであった。
【0009】
Senら(2004)によって提示された酵母のギ酸デヒドロゲナーゼは、バイオエタノール製造において潜在的に有用である好熱性細菌のための最低増殖温度である60℃において不活性である。これまでに記載された最も熱安定性のギ酸デヒドロゲナーゼは、シュードモナス種(Pseudomonas sp.)101の酵素である(A. Rojkova、A. Galkin、L. Kulakova、A. Serov、P. Savitsky、V. Fedorchuk、V. Tishkov、FEBS Letters、Volume 445、Issue 1、183-188、1999)。
【発明の開示】
【0010】
本発明は、バイオマスからの高収率のエタノールをもたらすという問題を解決しようとするものである。具体的には、好熱性微生物(特に、細菌、例えば、バチルス属など)が最大のエタノール収率をもたらすことを可能にする新規な代謝経路が本明細書中に初めて記載される。
【0011】
本発明は、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有さず、従って、解糖により生じた過剰なNADHの再酸化のための代替経路を必要とする微生物に依存する。これは、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(例えば、fdh1遺伝子など)を前記微生物に導入することによって提供される。好熱性微生物において、また、好中温菌(例えば、大腸菌など)とは対照的に、糖の取り込みが調節されず、このことは高レベルの糖の存在下におけるNADHの蓄積を引き起こす。このことは、図1Cに概略的に示されるように、代謝崩壊、及び、いわゆる「レドックス死」を最終的には引き起こす。NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を微生物が取り込むことは、高い糖濃度における細胞死を防止することを、NADHレベルにおける低下及びNADレベルにおける増大を引き起こすことによって助ける。このことは部分的には、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)経路を流れる流束を回復することによるものであり、しかし、最も重要なことは、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を含むことにより、新規なピルビン酸ギ酸リアーゼ(PFL)−NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH)経路がエタノール製造のために作られる。図1Dは、高い糖レベルの存在下での迅速な解糖により生じたピルビン酸のすべてを、特に中性pH条件の下で、エタノール及びCO2に転換することによって、このPFL−FDH経路がレドックスバランスを回復させる可能性を示す。重要なことは、この経路が、細胞増殖のための最適条件下で働き、これにより、迅速なエタノール製造及び高い収率をもたらす。これは、PFL経路が、好熱性微生物における主要な、増殖に結び付けられる嫌気性経路であるからである。
【0012】
従って、第1の態様において、本発明は、乳酸デヒドロゲナーゼ(ldh)活性を有さない微生物(具体的には、好熱性微生物)であって、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼ(fdh)をコードする遺伝子を含有することを特徴とする微生物(好ましくは、好熱性微生物)を提供する。
【0013】
1つの実施形態において、微生物は、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を取り除く適切な遺伝子欠失又は他の変異によって乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有さない。従って、好ましくは、ldh遺伝子が欠失されるか、又は、他の場合には非機能的にされる。遺伝子ノックアウト及び遺伝子欠失の方法が当分野では周知であり、好ましい例が本明細書中に詳しく記載される。その上、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有さない細菌の公知菌株(例えば、アクセション番号NCIMB41075で寄託されたTN−T9、及び、アクセション番号NCIMB41115で寄託されたTN−TKなど)が、本発明における使用のために好適であり得る。
【0014】
本発明の微生物は、典型的には、活性なピルビン酸ギ酸リアーゼ経路を含有する。具体的には、微生物は、好ましくは、ピルビン酸ギ酸リアーゼをコードする遺伝子(例えば、pf1遺伝子など)を含む。本発明の微生物はまた、典型的には、活性なピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)経路を含有する。
【0015】
好ましい実施形態において、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が好熱性微生物のゲノムに組み込まれる。しかしながら、安定な発現が、例えば、好適なプラスミドの導入によって組み込みを伴うことなく達成されることもまた可能である。組み込みの1つの好ましい方法が、組換えによるものである。NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼの発現を行わせるための任意の好適な調節エレメントに機能的に連結することができる。「機能的に連結される」とは、機能的な連結が、調節エレメントと、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子との間に存在することを意味する。例えば、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を、例えば、構成的プロモーター又は誘導可能なプロモーターであり得る好適なプロモーターに連結することができる。「プロモーター」は、転写を開始するためにRNAポリメラーゼが結合することに関与するDNAの領域を含むことが本明細書中では定義される。
【0016】
典型的には、プロモーターは原核生物のプロモーターであり、従って、適切な−10配列及び−35配列(それらのコンセンサス配列が当分野では十分に定義される)を含む。遺伝子はまた、他の適切な調節配列(例えば、ターミネーターなど)に機能的に連結することができる。「ターミネーター」は、RNAポリメラーゼに転写を終結させるヌクレオチド配列として定義される。1つの実施形態において、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子はそれ自体のプロモーターから発現される。代わりの実施形態において、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は(ゲノムにおける適切な場所での組み込みのために)好熱性微生物のプロモーターから発現される。NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の発現が外来プロモーターによって駆動される構築物もまた想定され得る。これは、例えば、最大の発現レベル又は誘導可能な発現を達成するために行うことができる。一例として、ファージプロモーター(例えば、T7など)を、(別個のDNA構築物又は同じDNA構築物において提供され得る)好適なファージポリメラーゼとの併用で利用することができる。
【0017】
特に好ましい実施形態において、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の適切な調節領域(具体的には、上流の調節領域)に機能的に連結される。調節領域は、好ましくは、乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子のプロモーターを含む。プロモーターは、適切な−10配列及び−35配列を最小の機能的ユニットとして含むことが定義され得る。従って、本発明の1つの好ましい実施形態によれば、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は好熱性微生物の乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の中に挿入され、従って、その好熱性微生物の乳酸デヒドロゲナーゼ活性を不活性化する。本実施形態は、本発明の好熱性微生物を作製するために要求される両方の改変が一段階でもたらされるので、特に好ましい。このことを達成するための好適な構築物が本明細書中に詳しく記載される。
【0018】
好熱性細菌によるエタノール製造は、エタノール製造を高い温度で行うことができるので好都合である。好熱性微生物は酵母よりも低いエタノール耐性を有する一方で、エタノールを膜蒸発及び/又は穏和な真空蒸発によって高温発酵から連続的及び好都合に除去することができる。最適な嫌気性増殖条件において、バチルス菌株LLD−Rは、ほとんどもっぱらPFL経路によって70℃において非常に迅速に増殖する(Hartley及びShama、1982)。新規なPFL−FDH経路による増殖が同等に活発であることを想定することができ、しかし、最大増殖温度は、好熱性微生物に導入されたNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼの熱安定性によって制限されると考えられる。従って、1つの好ましい実施形態において、本発明の好熱性微生物は、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子、及び/又は、ヌクレオチド配列が、好熱性微生物による発現を容易にするためにコドン最適化されている遺伝子を取り込む。そのような熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼの作製が本明細書中に詳しく記載される。具体的な実施形態において、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、配列番号1として示されるヌクレオチド配列を含むか、又は、配列番号1として示されるヌクレオチド配列から本質的になるか、又は、配列番号1として示されるヌクレオチド配列からなる。さらなる実施形態において、本発明の好熱性微生物は、バチルス属における発現のために最適化されたコドン、すなわち、配列番号2として示されるヌクレオチド配列を含むか、又は、配列番号2として示されるヌクレオチド配列から本質的になるか、又は、配列番号2として示されるヌクレオチド配列からなる、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を取り込む。この配列は、必要最小限の(basic)熱安定的なNAD結合型デヒドロゲナーゼ配列に加えて、プロモーター領域及びターミネーター領域、そしてまた、好適なDNA構築物への遺伝子のクローン化を容易にするためのXba1部位を含む。
【0019】
さらなる実施形態において、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子はfdh1遺伝子である。fdh1遺伝子は任意の好適な供給源に由来することができ、好ましくは、関連した好熱性微生物における発現のためにコドン最適化される。
【0020】
本発明の好熱性微生物は、本明細書中にさらに詳しく記載されるように、本発明のDNA構築物のいずれかによる形質転換によって作製することができる。従って、そこで提供される議論が本発明の本実施形態に準用される。
【0021】
本発明の好熱性微生物は、エタノールをバイオマスから製造するための任意の好適な微生物であり得る。好ましくは、本発明の好熱性微生物はヘテロ乳酸発酵微生物である。より好ましくは、好熱性微生物は好熱性細菌であり、より好ましくは、バチルス属の細菌であり、一層より好ましくは、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)である。1つの実施形態において、本発明の好熱性微生物は、(バチルス・ステアロサーモフィルスの)公知菌株のLLD−R又はLLD−15に由来する。さらなる実施形態において、好熱性微生物はゲオバチルス・サーモグルコシダシウス(Geobacillus thermoglucosidasius)である。
【0022】
本発明によって容易にされる発酵プロセスでは、好ましくは、適切な好熱性微生物(例えば、バチルス菌株LLD−Rなど)のコドン選択の使用に起因する熱安定的なアミノ酸配列を発現するように設計される合成されたNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼが利用される。そのような合成遺伝子は、好ましくは、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子内への挿入を助けるための操作された制限部位を含有する。それにより、LDH経路の欠失及びPFL−FDH経路の作製が1回の操作で達成される。従って、第2の態様において、本発明は熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼを提供する。好ましくは、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼは60℃の温度またはそれよりも高い温度で機能を保持したままである。好ましくは、熱安定性の酵素は、好熱性微生物における発現のためにコドン最適化されているヌクレオチド配列によってコードされる。ギ酸デヒドロゲナーゼは、1つの実施形態において、配列番号3として示されるアミノ酸配列を含むことができ、又は、配列番号3として示されるアミノ酸配列から本質的になることができ、又は、配列番号3として示されるアミノ酸配列からなることができる。
【0023】
具体的な熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼが、下記の詳細な説明においてより詳しく議論されるように、シュードモナス種(Pseudomonas sp.)101のギ酸デヒドロゲナーゼのアミノ酸配列(配列番号3)に基づいて、また、ゲオバチルス・サーモグルコシダシウスについての最適化されたコドンの使用によって設計されている。当業者は、この基本的配列の様々な誘導体が機能性を保持することを理解する。例えば、保存的置換及び半保存的置換は熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをもたらすことができ、また、これらの誘導体は、それらが、好熱性微生物を使用するエタノール製造において有用であるような効果的な触媒作用活性及び熱安定性を保持するならば、本発明の範囲内であることが意図される。同様に、アミノ酸の軽微な欠失及び/又は付加は、適切な機能性を保持する誘導体をもたらすことができる。
【0024】
第3の態様において、本発明は、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする合成遺伝子に関する。好ましくは、この遺伝子は、配列番号1として示されるヌクレオチド配列を含むか、又は、配列番号1として示されるヌクレオチド配列から本質的になるか、又は、配列番号1として示されるヌクレオチド配列からなる。この配列は、コドンが熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼの製造のために最適化される新規のfdh遺伝子配列を表す。より具体的な実施形態において、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、配列番号2として示されるヌクレオチド配列を含むか、又は、配列番号2として示されるヌクレオチド配列から本質的になるか、又は、配列番号2として示されるヌクレオチド配列からなる。この配列は、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼのためのコード領域をバチルス属の好適なプロモーター及びrho非依存性ターミネーターと一緒に取り込む。この配列はまた、クローン化を助けるための好適な制限部位(具体的には、Xba1部位)を取り込む。当業者は、ヌクレオチド配列に対する軽微な改変体が、例えば、最適化されたコドンを適切な好熱性微生物の翻訳系において好まれる他のコドンにより置き換えることによって、得られた酵素の機能性又は熱安定性を変化させることなく、作製され得ることを容易に理解する。
【0025】
本発明はまた、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼ(具体的には、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼ)をコードする遺伝子を含有するDNA構築物に関し、この場合、遺伝子の両側には、好適なDNA構築物(例えば、発現ベクター又はプラスミドなど)への遺伝子のクローン化を容易にするための制限部位が存在する。
【0026】
関連した態様において、本発明はまた、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子に機能的に連結された調節配列を含むDNA構築物を提供する。従って、このDNA構築物は、最大のエタノール収率を与える効率的な発酵を行うことができる好熱性微生物を作製するために、好熱性微生物(具体的には、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有さない好熱性微生物)の形質転換を容易にする。上記で述べられたように、本明細書中で使用される用語「機能的に連結された」は、調節配列が遺伝子発現に影響を及ぼすことができるような、調節配列と、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子との間における機能的な連結を示す。例えば、好ましい調節配列はプロモーターである。上記で述べられたように、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、好ましくは、配列番号1として示されるヌクレオチド配列を含むか、又は、配列番号1として示されるヌクレオチド配列から本質的になるか、又は、配列番号1として示されるヌクレオチド配列からなる。好ましい調節配列はプロモーターであるが、DNA構築物は、好適なターミネーター配列をさらに取り込むことができる。1つの具体的な実施形態において、プロモーターは、配列番号4として示されるヌクレオチド配列を含む。他のプロモーターを、上記で議論されたように、高レベルの発現及び/又は誘導可能な発現のために利用することができる。
【0027】
本発明のさらなる態様において、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子と、挿入配列とを含むDNA構築物が提供され、この場合、挿入配列は、このDNA構築物により形質転換された好熱性微生物のゲノムへの、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の組み込みを容易にする。「挿入配列」とは、適切な好熱性微生物のゲノムへの組み込みを可能にする転移可能なDNAエレメントを意味する。挿入配列はまた、挿入配列エレメント(IE)として示される場合があり、天然に存在し得る。1つの具体的な実施形態において、挿入配列はバチルス・ステアロサーモフィルスの菌株LLD−R又は菌株LLD−15に由来する。
【0028】
より具体的な実施形態において、挿入配列は、配列番号5として示されるヌクレオチド配列(図3)を含むか、又は、配列番号5として示されるヌクレオチド配列(図3)から本質的になるか、又は、配列番号5として示されるヌクレオチド配列(図3)からなる。好ましい挿入配列を、配列番号6及び配列番号7として示されるヌクレオチド配列を含むプライマー、又は、配列番号6及び配列番号7として示されるヌクレオチド配列から本質的になるプライマー、又は、配列番号6及び配列番号7として示されるヌクレオチド配列からなるプライマーを使用する増幅によって作製することができる。この場合、公知のバチルス・ステアロサーモフィルス菌株LLD−15に由来するゲノムDNAをテンプレートとして使用することができる。1つの特に好ましいDNA構築物が、(下記の実験の節及び図5に記載されるような)プラスミドpUB−ISF1である。
【0029】
さらなる態様において、本発明は、乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の適切な調節領域(具体的には、上流の調節領域)に機能的に連結された、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする(fdh)遺伝子を含むDNA構築物に関する。調節領域は、好ましくは、乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(ldh)のプロモーターを含む。プロモーターは、RNAポリメラーゼの効果的な結合を可能にするために、適切な−10配列及び−35配列を最小の機能的ユニットとして含むことが定義され得る。乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーターは、好熱性微生物(例えば、バチルス属など)における高レベルの発現を行わせるために好適であり、これはまた、乳酸デヒドロゲナーゼ活性の欠失及びNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼ活性の導入の両方を同じ工程において達成するためのクローン化戦略の一部としても都合よく使用することができる。従って、DNA構築物はまた、乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(ldh)のプロモーターを含む核酸分子に機能的に連結された、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を含むものとして定義することができる。
【0030】
DNA構築物はまた、好ましくは、宿主の乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコード配列の一部を、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の下流側に含有する。このことは、DNA構築物により形質転換された微生物における遺伝子の組み込みを容易にする。「少なくとも一部」とは、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含有する微生物のゲノムへの組換え(好ましくは、2回の交差による組換え)による遺伝子組み込みを可能にするための十分な長さの遺伝子の一部分を意味する。コード配列の一部は、好ましくは、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の末端を取り込む。1つの実施形態において、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の少なくとも100ヌクレオチド、200ヌクレオチド、300ヌクレオチド、400ヌクレオチド、500ヌクレオチド、600ヌクレオチド、700ヌクレオチド又は750ヌクレオチドが、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の下流側に取り込まれる。従って、本発明の1つの実施形態において、DNA構築物は、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を含み、この場合、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子には、(対象の好熱性微生物に由来する)乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子に由来するヌクレオチド配列が隣接する。そのような隣接する配列は、乳酸デヒドロゲナーゼをコードする宿主遺伝子への、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の組み込みを可能にし、それにより、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼ活性の導入及び乳酸デヒドロゲナーゼ活性のノックアウトを1回のクローン化工程においてもたらすための十分な長さである。好ましくは、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子には、組換えによる組み込みの後で、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子がプロモーターに機能的に連結されるように、少なくとも、乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子のプロモーター領域が上流側に隣接する。特に好ましい実施形態において、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の下流側部分は、菌株LLD−Rをテンプレートとして使用するとき、配列番号8及び配列番号9として示されるヌクレオチド配列を含むプライマー、又は、配列番号8及び配列番号9として示されるヌクレオチド配列から本質的になるプライマー、又は、配列番号8及び配列番号9として示されるヌクレオチド配列からなるプライマーを使用するldh遺伝子の増幅によって得ることができる部分である。上流側の隣接領域(これは、好ましくは、ldhプロモーターを取り込む)は、好ましくは、宿主ゲノムとの組換えによる組み込み効率を最大にするために、適切なldh上流領域の少なくとも100ヌクレオチド、200ヌクレオチド、300ヌクレオチド、400ヌクレオチド、500ヌクレオチド、600ヌクレオチド、700ヌクレオチド又は750ヌクレオチドを含む。この上流領域は、当業者によって容易に決定されるように、対象の具体的な好熱性微生物におけるldh遺伝子の配列状況に依存し得る。従って、ldh遺伝子配列の知識を有する当業者は、組換えによる組み込みを可能にするための適切な隣接領域を容易に決定する。例えば、発表されたゲノム配列を調べることができ、又は、配列決定反応を行うことができ、又は、隣接領域を、ldh遺伝子配列に由来するプライマーを使用するPCRによって増幅することができる。従って、fdh遺伝子は、fdh遺伝子が、読み枠を一致させて、ldh遺伝子の少なくとも一部に取り替えられるように、ldh遺伝子に由来する2つのヌクレオチド配列の間に置かれる。
【0031】
従って、DNA構築物は一般に、対象の遺伝子(NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子)が、組み込み時にノックアウトされる遺伝子(この場合には、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子)のコード配列(ORF)の内部に挿入される遺伝子組み込みカセットを含む。組換えにより組み込まれたとき、対象の遺伝子の発現は、事実上、ノックアウトされた遺伝子の制御下にある。そのような構築物は、1つの遺伝子が、異種遺伝子の発現に有利なようにノックアウトされることが必要である状況において一般的な適用性を有し得る。1つの好ましい実施形態において、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする。本明細書中に提供される熱安定的なNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼの議論が、本発明のこの態様に準用される。具体的には、1つの実施形態において、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、配列番号1もしくは配列番号2として示されるヌクレオチド配列を含むか、又は、配列番号1もしくは配列番号2として示されるヌクレオチド配列から本質的になるか、又は、配列番号1もしくは配列番号2として示されるヌクレオチド配列からなる。特に好ましいDNA構築物が、(下記の実験の節及び図8に記載されるような)プラスミドpUCK−LF1である。
【0032】
本発明のすべてのDNA構築物について、好ましい形態が発現ベクターである。従って、本発明のDNA構築物は、構築物により形質転換された微生物における、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の確実な発現を可能にする。特に好ましい実施形態において、DNA構築はプラスミドである。好ましくは、DNA構築物は、宿主の好熱性微生物のゲノムとの組換えを介して宿主の好熱性微生物において複製することができるだけである。
【0033】
本発明のDNA構築物はまた、好ましくは、好適なレポーター遺伝子を、成功した形質転換の指標物として取り込む。1つの実施形態において、レポーター遺伝子は抗生物質耐性遺伝子(例えば、カナマイシン耐性遺伝子又はアンピシリン耐性遺伝子など)である。他のレポーター(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)及びβ−ガラクトシダーゼ(lacZ)など)を適するように利用することができる。DNA構築物は多数のレポーター遺伝子を適するように取り込むことができる。レポーター機能の喪失は、その後の世代においてであるが、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の、適切な隣接領域と一緒での組み込みを示す。
【0034】
さらなる態様において、本発明は、本発明のDNA構築物を含む微生物に関する。好ましいレシピエント微生物はヘテロ乳酸発酵微生物である。具体的には、本発明は、好ましくは、好熱性細菌、例えば、バチルス属の細菌などに関し、特に、バチルス・ステアロサーモフィルスに関する。細菌は、例えば、LLD−R又はLLD−15の菌株に由来することができる。さらなる実施形態において、好熱性微生物はゲオバチルス・サーモグルコシダシウスである。
【0035】
さらなる態様において、本発明は、発酵における本発明の微生物又は本発明の好熱性微生物の使用、具体的には、エタノールを製造するためのそれらの使用に関する。
【0036】
同様に、本発明は、本発明の好熱性微生物又は本発明の微生物に糖を与えることを含む、エタノールを製造するための発酵プロセスに関する。本発明に従って構築された微生物は、最適な増殖条件の下での高いエタノール収率及び体積生産性のために特に好適である。従って、本発明の微生物はどれも、任意の発酵槽形態(例えば、回分式発酵プロセス、流加回分(fed-batch)式発酵プロセス又は連続発酵プロセスなど)において使用することができる。1つの好ましい実施形態において、発酵プロセスは流加回分式発酵プロセスである。
【0037】
バイオエタノールを製造するために微生物(例えば、好熱性微生物など)を使用することの主要な利点の1つは、酵母とは異なり、そのような微生物は、農業廃棄産物(例えば、ヘミセルロースなど)に由来する広範囲の糖を発酵することができることである。従って、1つの実施形態において、本発明の発酵プロセスにおいて使用される糖はバイオマスに由来する。さらなる実施形態において、発酵は混合糖の発酵である。具体的な実施形態において、混合糖には、ペントース糖(好ましくは、ペントース糖の大部分)が含まれる。
【0038】
さらなる実施形態において、発酵プロセスは、レドックスバランスが保たれた状態で維持される。このことは、好熱菌に関しては特に重要である。これは、好中温菌とは異なり、糖の取り込みがこれらの微生物では調節されないようであるからである。好ましくは、これはフィードバックセンサーの使用によって達成される。
【0039】
好熱性細菌はエタノールに対する低い抵抗性を有するが、これは、エタノールの定期的な除去又は連続した除去によって本発明の発酵プロセスにおいて都合よく克服することができる。このことは、発酵におけるエタノール濃度が本発明の好熱性微生物又は微生物のエタノール許容度よりも低く保たれることを保証する。エタノールは、蒸発又は蒸留(例えば、膜蒸発及び/又は穏和な真空蒸発など)によって高温発酵から連続的かつ都合良く除去することができる。
【0040】
次に、本発明は、下記の限定されない説明及び図を参照して記載される。
【実施例】
【0041】
発明の説明
材料
培地及び緩衝液
LB培地:トリプトン 10g;酵母抽出物 5g;NaCl 10g;脱イオン水(1Lにする)。
pHを7に調節し、オートクレーブ処理して殺菌した。
平板培地については、20g/lの寒天を培地に加え、その後、オートクレーブ処理し、55℃に冷却し、無菌のペトリ皿に注いだ(平板あたり約20ml)。
LB−amp平板については、ろ過滅菌したアンピシリン溶液を50μg/mlの最終濃度に加え、その後、ペトリ皿に注いだ。
【0042】
SOC培地:トリプトン 2.0g;酵母抽出物 0.5g;NaCl 0.05g;MgCl2・6H2O 0.204g;MgSO4・7H2O 0.247g;グルコース 0.36g;脱イオン化H2O(100mlにする)。
溶解し、pHを7に調節し、ろ過滅菌した。
【0043】
TGP培地:トリプトン 17g;ダイズペプトン 3g;K2HPO4 2.5g;NaCl 5g;ピルビン酸Na 4g;グリセロール 4ml;脱イオン水(1Lにする)。pHを7に調節し、オートクレーブ処理して殺菌した。
平板培地については、20g/lの寒天を培地に加え、その後、オートクレーブ処理し、55℃に冷却し、無菌のペトリ皿に注いだ(平板あたり約25ml)。
TGP−kan平板については、10μg/mlの最終濃度にするためのろ過滅菌されたカナマイシン溶液を、ペトリ皿に注ぐ前に加えた。
【0044】
TH緩衝液:トレハロース 272mM;HEPES(KOHによりpH7.5) 8mM;2回蒸留H2O(1Lにする)。
【0045】
微生物菌株
大腸菌DH5−αの化学的コンピテント細胞をInvitrogenから購入した(Cat.18265−017)。
バチルス・ズブチリス亜種ズブチリス(Bacillus subtilis subsp. Subtilis)、ドイツ培養物コレクションDSMZ(DSM番号10)。
バチルス・ステアロサーモフィルス菌株LLD−R、これはNCIMB12403として寄託された。
バチルス・ステアロサーモフィルス菌株LLD−15、これはNCIMB12428として寄託された。
【0046】
プラスミド
プラスミドのpCR−Blunt及びpCR−TOPO2をInvitrogenから得た。
プラスミドpUB110、このプラスミドを保有する枯草菌(Bacillus subtilis)BD170をドイツ培養コレクションDSMZから得た(DSM番号4514)。
プラスミドpUC18をSigma−Aldrichから得た。
【0047】
実施例1.合成されたギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の構築(図2)
シュードモナス種101のギ酸デヒドロゲナーゼのアミノ酸配列(NCBIタンパク質データベースアクセション番号P33160−配列番号3)を、ゲオバチルス・サーモグルコシダシウスについての最適化されたコドンを有するDNA配列に逆翻訳した。バチルス属菌株に由来するプロモーター領域及びrho非依存性ターミネーター領域を、翻訳された配列の上流側及び下流側にそれぞれ加えた(図2)。この新規な配列は公知のfdh遺伝子配列との40%未満の類似性(公知のfdh1遺伝子との37%の同一性)を示した。Xba1部位が、好適なベクターへのそのクローン化を容易にするために構築物の両側に設計された。
【0048】
所望の配列を、Gaoらの方法(Xinxin Gao、Peggy Yo、Andrew Keith、Timothy J. Ragan及びThomas K. Harris (2003)、Nucleic Acids Research、31 (22)、e143を参照のこと)を使用して合成し、pCR−Bluntにその唯一のXba1位置においてクローン化した。得られたベクターpCR−F1(図4)を大腸菌DH5α細胞に導入し、陽性クローンをPCR分析及び制限分析によって確認した。
【0049】
2つの代替戦略を、下記の実施例において示されるように、この合成fdh遺伝子を標的バチルス属細菌のゲノムに挿入し、発現するために利用することができる。
【0050】
実施例2.多重(IS)部位へのfdh遺伝子の挿入
この戦略は、多重挿入部位において組換えが頻繁に生じる挿入配列(IS)を含有する菌株(例えば、バチルス・ステアロサーモフィルス菌株LLD−Rなど)に適用される。fdh遺伝子及びこのIS配列を有するベクターは、そのような場所の1又はそれ以上における安定な組み込みをもたらすことが予想される。
【0051】
プラスミドpUB−ISF1の構築(図5)
最初に、菌株LLD−Rの公知の挿入配列(配列番号5及び図3)を、フォワードプライマー(AGTACTGAAATCCGGATTTGATGGCG−配列番号6)及びリバースプライマー(AGTACTGCTAAATTTCCAAGTAGC−配列番号7)をテンプレートとしてのB.ステアロサーモフィルス菌株LLD−15とともに使用してPCR増幅する。Sca1制限部位が配列の両側に導入される。PCR生成物を最初にプラスミドpCR−TOPO2.1にクローン化し、その後、得られたプラスミドpCR−ISを大腸菌DH5α細胞に導入し、IS領域をSca1制限消化によって単離するために使用する。その後、単離されたISをpUB110にその唯一のSca1部位においてクローン化し、得られたプラスミドpUB−ISを枯草菌に導入する。
【0052】
その後、ldhプロモーターを含有する1.5kbのフラグメントと、fdh遺伝子とを、Xba1制限酵素を使用してpCR−F1プラスミドから消化し、同じ酵素により既に線状化されたプラスミドpUB−ISにクローン化する。その後、得られたプラスミドpUB−ISF1(図5)をB.subtilisに導入し、陽性クローンをTGP−kan平板において選択し、PCR分析及び制限分析によって確認する。
【0053】
菌株LLD−Rへのfdh遺伝子の組み込み
その後、プラスミドpUB−ISF1をHaeIIIメチラーゼ酵素によりインビトロでメチル化し、その後、バチルス・ステアロサーモフィルス菌株LLD−R又はそのldh欠失菌株(実施例3を参照のこと)の細胞をメチル化pUB−ISF1プラスミドにより形質転換する。陽性クローンを50℃におけるTGP−Kan平板において48時間後に選択し、fdh遺伝子のPCR増幅によって分析する。
【0054】
その後、fdh遺伝子を、形質転換クローンを60℃〜65℃で数世代にわたってTGP−Kan培地で増殖させ、TGP−Kan平板において選択することによって染色体に組み込ませる。陽性クローンをfdh遺伝子の存在について分析し、その後、振とうフラスコ及び発酵装置においてエタノール製造ならびにC5(ペントース)糖及びC6(ヘキソース)糖の利用についてスクリーニングする。
【0055】
実施例3.ldh欠失菌株の構築
最初の工程は、バチルス属のカナマイシン耐性マーカー(kan)と、B.ステアロサーモフィルス菌株LLD−Rのldh遺伝子を有するカセットとをプラスミドpUC18(これはグラム陰性微生物においてのみ複製することができる)にクローン化することである。
【0056】
バチルス属クローニングベクターの構築。プラスミドpUCK(図6)
カナマイシン耐性遺伝子(kan)を、プラスミドpUC18に、プラスミドにおける任意のコード領域の外側及びレポーター遺伝子(lacZ)の外側に位置するその唯一のZra1部位においてクローン化した。kan遺伝子をクローン化するために、カナマイシン耐性遺伝子を含有する1.13kbのフラグメントを、プラスミドpUB110をテンプレートとして使用して、下記のプライマー:
kan−BsZ−F(ACACAGACGTCGGCGATTTGATTCATAC−配列番号10)および
kan−BsZ−R(CGCCATGACGTCCATGATAATTACTAATACTAGG−配列番号11)
によりPCR増幅した。Zra1部位をプライマーを介してkan遺伝子の両端に導入した。その後、PCR生成物をZra1制限エンドヌクレアーゼ酵素により消化し、事前にZra1消化され、脱リン酸化されたプラスミドpUC18と連結した。その後、得られたプラスミドpUCK(図6)を大腸菌DH5α細胞に導入した。陽性クローンをLB−amp平板において選択し、PCR分析及び制限分析によって確認した。
【0057】
欠失を有するldh遺伝子を有するプラスミドpUCK−LCの構築(図7)
1.36kbのldhカセットを、そのORFの363bpが欠失された菌株LLD−Rのldh遺伝子全体と、その隣接部とを含有するように設計した。このカセットを、菌株LLD−Rをテンプレートとして使用するldh遺伝子の上部領域及び下部領域のPCR増幅によって構築した。その後、これらの領域を連結し、プラスミドpUCKにクローン化した。BglII部位を内側プライマーに導入した。上部領域を、下記のプライマーを使用してPCR増幅した。
LC−U−F1(AGGGCAATCTGAAAGGAAGGGAAAATTCC−配列番号12)及び
LC−UB−R1(TGCACAGATCTCCACCAAATCGGCGTC−配列番号13)。
【0058】
下部領域を、下記のプライマーを使用してPCR増幅した。
LC−DB−F1(TTGAGCAGATCTTGATGCAAAACGATAAC−配列番号14)及び
LC−D−R1(TAAAGCCGATGAGCAGCAGTTGAAG−配列番号15)。
【0059】
これらのPCR生成物をBglII制限エンドヌクレアーゼ酵素により消化し、T4DNAリガーゼ酵素を使用して連結した。連結物をテンプレートとして使用して、その後、ldhカセットを、プライマーとして、
LC−UX−F2(ATATTATCTAGACATTACGGAAATGATAATGGC−配列番号16)及び
LC−DX−R2(TCACAATCTAGACAATCGGCCATAAAC−配列番号17)
を使用してPCR増幅した。
【0060】
XbaI部位をプライマーを介してカセットの両端に導入した。その後、PCR生成物をXbaI酵素により消化し、同じ酵素により事前に消化され、脱リン酸化されたプラスミドpUCKにクローン化した。その後、得られたプラスミドpUCK−LCを大腸菌DH5αに導入した。陽性クローンをLB−amp平板において選択し、PCR分析及び制限分析によって確認した。
【0061】
ldh欠失菌株の構築
プラスミドpUCK−LCをHaeIIIメチラーゼ酵素によりインビトロでメチル化し、野生型の好熱性細胞(例えば、菌株LLD−R)をエレクトロポレーション(1000V、201オーム、25マイクロファラデー及び5ミリ秒)によってメチル化プラスミドにより形質転換する。陽性クローンを65℃でTGP−Kan平板において選択し、kan遺伝子のPCR増幅によって1回の交差事象体(single cross-over event)として確認する。
【0062】
2回の交差による遺伝子欠失を達成するために、陽性クローンを数世代にわたってTGP培地で増殖させ(約5回の継代培養)、TGP平板において増殖することができるがTGP−kan平板においては増殖することができないクローンを選択する。その後、陽性クローンを、ldh遺伝子欠失体として、PCR分析によってカナマイシン遺伝子の不在について確認する。その後、クローンを振とうフラスコ及び発酵装置においてエタノール製造ならびにC5糖及びC6糖の利用について特徴づける。
【0063】
実施例4.同時でのfdh遺伝子の導入及びldh遺伝子の欠失
この代替戦略は、広範囲の種類のヘテロ乳酸発酵微生物に対して、好熱性バチルス属と同様に広く適用可能であるが、後者が例示として使用される。
【0064】
プラスミドpUCK−LFの構築(図9)
fdh遺伝子を含有し、それに加えて、ldh遺伝子全体、ならびに、約300bpの上流側及び下流側の隣接領域を含有する遺伝子組み込みカセットをプラスミドpUCKにクローン化する。この構築物では、ldhオープンリーディングフレームの最初の450bpが、遺伝子発現がldh遺伝子のプロモーターの制御下になるような方法でfdh遺伝子により置き換えられる。
【0065】
これを達成するために、ldh遺伝子の下流側領域を含有する約750bpのDNAフラグメントを、
LDHB−X−F1(GAACGATTCTAGATACAGCAAGATTCCGC−配列番号8)及び
LDHB−E−R1(GTTTGCGAATTCATAGACGGACGCAG−配列番号9)
をプライマーとして、バチルス・ステアロサーモフィルス菌株LLD−Rをテンプレートとして使用してPCR増幅する。従って、Xba1部位及びEcoR1部位がPCRフラグメントの端部に導入される。その後、PCRフラグメントを消化し、Xba1部位と、EcoR1部位との間においてプラスミドpUCKに一定方向でクローン化する。得られたプラスミドpUCK−ldhB(図8)を大腸菌DH5αに導入し、陽性クローンをLB−amp平板において選択し、PCR分析及び制限分析によって確認する。
【0066】
その後、ldhプロモーター及びfdh遺伝子を含有する1.5kbのフラグメントを、Xba1制限酵素を使用してpCR−F1プラスミドから消化し、同じ酵素により既に線状化されたプラスミドpUCK−ldhBにクローン化する(図8)。得られたプラスミドpUCK−LF1(図9)を大腸菌DH5α細胞に導入し、クローンをLB−amp平板において選択する。陽性クローン及び構築物の正しい配向をPCR分析及び制限分析によって確認する。
【0067】
エタノールを新規なPFL−FDH経路によって作製する菌株の構築
プラスミドpUCK−LF1をHaeIIIメチラーゼ酵素によりインビトロでメチル化し、標的の野生型細胞(例えば、菌株LLD−R細胞)をメチル化プラスミドにより形質転換し、TGP−Kan平板において60℃で選択する。陽性クローンは1回の交差事象体を表し、陽性クローンをfdh遺伝子のPCR増幅によって分析する。
【0068】
2回の交差による遺伝子組み込みを達成するために、TGP平板において増殖するがTGP−Kan平板においては増殖しないクローンを選択する。その後、陽性クローンをfdh遺伝子の存在及びカナマイシン遺伝子の不在について確認する。最後に、クローンを振とうフラスコ及び発酵装置においてエタノール製造ならびにC5糖及びC6糖の利用についてスクリーニングする。
【0069】
すべての参考文献はその全体が本明細書中に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1A】乳酸デヒドロゲナーゼ経路が不活性化されている好熱性微生物における代謝経路に対する様々な条件の影響を示す。矢の濃淡及び太さは個々の代謝経路の相対的な優勢を示す。中性pH及び低い糖の存在下で活性である代謝経路。この場合、ピルビン酸ギ酸リアーゼ経路が優勢である。
【図1B】乳酸デヒドロゲナーゼ経路が不活性化されている好熱性微生物における代謝経路に対する様々な条件の影響を示す。矢の濃淡及び太さは個々の代謝経路の相対的な優勢を示す。低いpH及び低い糖の存在下で活性である代謝経路。この場合、嫌気性ピルビン酸デヒドロゲナーゼ経路が優勢である。
【図1C】乳酸デヒドロゲナーゼ経路が不活性化されている好熱性微生物における代謝経路に対する様々な条件の影響を示す。矢の濃淡及び太さは個々の代謝経路の相対的な優勢を示す。低いpH及び高い糖の存在下で活性である代謝経路。この場合、細胞は代謝ストレスを受け、レドックスバランスが崩れ、これにより、いわゆる「レドックス死」を引き起こす。
【図1D】乳酸デヒドロゲナーゼ経路が不活性化されている好熱性微生物における代謝経路に対する様々な条件の影響を示す。矢の濃淡及び太さは個々の代謝経路の相対的な優勢を示す。中性pH及び高い糖の存在下で本発明の好熱性微生物において活性である代謝経路。この場合、新規なPFL−FDH経路が優勢となり、エタノール及びCO2が唯一の嫌気性産物である。
【図2】熱安定性を最大にするためのコドン最適化によって作製された合成fdh遺伝子のヌクレオチド配列を示す。fdhオープンリーディングフレームのDNA配列には、プロモーター及びターミネーター(斜体字)の領域が隣接する。プロモーターの−35ボックス及び−10ボックスには下線が付される。構築物を好適なベクターにクローン化するために、Xba1部位が配列の両側に導入された。
【図3】B.ステアロサーモフィルスのLLD−15菌株の挿入配列(IS)のヌクレオチド配列を示す。9bpの逆方向反復の末端が太字フォントで示される。
【図4】pCR−Blunt誘導体プラスミドのpCR−F1の概略図である。このプラスミドは、唯一のXba1部位においてpCR−Bluntにクローン化された、ldhプロモーターの制御下にあるコドン最適化されたfdh1遺伝子を含む。
【図5】pUB110誘導体プラスミドのpUB−ISF1の概略図である。このプラスミドは、pCR−F1プラスミドに由来する、ldhプロモーターの制御下にあるコドン最適化されたfdh1遺伝子を含み、公知のバチルス属菌株LLD−15に由来する挿入配列(IS)もまた含む。
【図6】pUCKと呼ばれるpUC18誘導体プラスミドの概略図である。このプラスミドは、プラスミドpUB100からpUC18における唯一のZra1制限部位にクローン化されたカナマイシン耐性遺伝子を含む。
【図7】pUCK誘導体のpUCK−LCの概略図である。このプラスミドは、ORFの中央における363bpの欠失を伴うldh遺伝子を有する。
【図8】pUCK誘導体のpUCK−ldhBの概略図である。このプラスミドは、遺伝子の下流側領域を含む、ldh遺伝子の750bpを含有する。
【図9】pUCK−LF1プラスミドの概略図である。このプラスミドは、fdh遺伝子をldhプロモーターの制御下に含有する遺伝子組み込みカセットを取り込むpUCK誘導体である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵法及びそれに使用される微生物に関し、具体的には、微生物によるエタノール製造の強化に関する。より詳細には、本発明は、バイオマスの加水分解に由来する混合糖からの好熱性細菌(例えば、バチルス(Bacillus)属など)による強化されたエタノール製造に関する。具体的には、本発明では、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼ酵素をコードする遺伝子を、ピルビン酸ギ酸リアーゼ酵素複合体をコードする機能的な遺伝子を有するが乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有さない微生物にクローン化することによるエタノール製造のための新規な経路が想定される。
【背景技術】
【0002】
バイオエタノールは現在、穀類デンプン、サトウキビ又はテンサイに由来するグルコース、マルトース又はスクロースから作製され、しかし、これらはすべてが食料としての価値を有する。セルロース及びヘミセルロースは農業副産物の大きな部分であり、特に、低コストで、再生可能なバイオエタノールの主要な供給源となり得る。しかしながら、発酵可能な糖をセルロースから得ることは困難であり、また、費用がかかる。それに反して、ヘミセルロースはセルロースとほぼ同じくらい豊富に存在し、また、容易に加水分解することができ、しかし、酵母が発酵することができないペントース糖を主とする混合物をもたらす。
【0003】
この理由のために、Hartley(国際特許出願公開第WO88/09379号を参照のこと)は、バイオマスに由来する糖のすべてを70℃までの温度で非常に迅速に発酵する好熱性バチルス属細菌の変異体によるエタノールの製造を提案した。しかしながら、高いエタノール収率は、ストレスを受けた瀕死の細胞によってのみ達成されるだけである。
【0004】
多くの微生物が、ピルビン酸をアセチルCoA及びギ酸に変換するピルビン酸ギ酸リアーゼ(PFL)経路を含有する(図1A)。ヘテロ乳酸(heterolactate)発酵微生物が1つのそのような部類である。これらの微生物は最初に、流入した糖を(一般には解糖のEMP経路によって)ピルビン酸に変換し、その後、微生物は、増殖条件に依存して、乳酸、ギ酸、酢酸、エタノール及びCO2を様々な割合で製造するために多くの経路を取ることができる。
【0005】
完全に好気性の細胞において、そのようなピルビン酸は、通常の場合、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)経路、トリカルボン酸サイクル及び電子移動鎖によってH2O及びCO2に代謝される。しかしながら、これらの生物の多くにおいて、特に、好熱性のバチルス属細菌では、糖の取り込み及び解糖が調節されないようであり、乳酸が、好気的条件下でさえ、高い糖濃度では優勢な産物である。このことは、PDH流束がその後、飽和してしまうこと、及び、過剰なピルビン酸が、あふれる乳酸デヒドロゲナーゼ経路に向けられることを示唆する。これは増殖のために使用されないで、新鮮な草が堆肥の山に置かれるときに見られ得るように、周囲温度を上昇させ、好中温性の競合菌を殺す熱をもたらす。
【0006】
ldh遺伝子(これは乳酸デヒドロゲナーゼをコードする)が、例えば、国際特許出願公開第WO02/29030号に記載されるように不活性化されるならば、乳酸の製造が止まり、過剰なピルビン酸は大部分が、増殖に結び付けられるPFL経路に向けられる(図1A)。しかしながら、非常に高い糖濃度及び/又は酸性pHでは、PFL経路の流束が低下し、過剰なピルビン酸が、その後、エタノール及びCO2をもたらすだけである嫌気性のPDH経路にあふれる(図1B)。従って、高いエタノール収率を得るための好ましい条件は、PFL経路を流れる流束を減少させ、PDH経路を介する流束を増大させる条件である(Hartley, B. S. and Shama, G.、Proc. Roy. Soc. Lond.、321、555〜568 (1987))。残念ながら、そのような条件の下では、細胞は代謝ストレスを受け、ATP製造が低下し、また、NAD/NADH比及びCoA/アセチルCoA比のバランスが崩れる可能性がある(図1C)。
【0007】
様々な発酵プロトコルが、この問題を回避するか、又は、最小限に抑えることを試みるために提案されている(例えば、上記で議論されるようなHartley,B.S.のプロトコル(国際特許出願公開第WO88/09379号を参照のこと)など)。
【0008】
2種類のギ酸デヒドロゲナーゼが存在する。1つ(これはfdhF遺伝子によってコードされる)はギ酸をCO2+H2に変換し、腸内細菌(例えば、大腸菌など)に典型的である。もう一方(これはfdh1遺伝子によってコードされる)はギ酸+NADをCO2+NADH2に変換し、多くの発酵性嫌気性菌に存在する。Berrios−Riveraら(Metabolic Engineering、4、217-219、2002)は大腸菌におけるfdhF遺伝子を酵母のfdh1遺伝子により置き換え、還元された嫌気性産物(例えば、エタノール、乳酸及びコハク酸など)が、酸化された産物(例えば、酢酸など)と比較して増大したことを見出した。この観測結果を基にして、San,K−Y.、Berrios−Rivers,S.J.及びBennett,G.N.(国際特許出願公開第WO2003/040690号を参照のこと)は、広範囲の生物転換に関与する細胞において還元力を増大させるための一般的な方法として、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の導入を提案した。続いて、San,K−Y.、Bennett,G.N.及びSanchez,A.(米国特許出願公開第US2005/0042736A1号)は、この概念の具体的な適用をコハク酸の製造のために提案した。これらの研究は大腸菌(糖の取り込みが調節される好中温菌の一例)において行われた。これらの実験の目的は、細胞内のNADHレベルを増大させ、その結果、強化された還元力を様々な生物転換のために提供するようにすることであった。
【0009】
Senら(2004)によって提示された酵母のギ酸デヒドロゲナーゼは、バイオエタノール製造において潜在的に有用である好熱性細菌のための最低増殖温度である60℃において不活性である。これまでに記載された最も熱安定性のギ酸デヒドロゲナーゼは、シュードモナス種(Pseudomonas sp.)101の酵素である(A. Rojkova、A. Galkin、L. Kulakova、A. Serov、P. Savitsky、V. Fedorchuk、V. Tishkov、FEBS Letters、Volume 445、Issue 1、183-188、1999)。
【発明の開示】
【0010】
本発明は、バイオマスからの高収率のエタノールをもたらすという問題を解決しようとするものである。具体的には、好熱性微生物(特に、細菌、例えば、バチルス属など)が最大のエタノール収率をもたらすことを可能にする新規な代謝経路が本明細書中に初めて記載される。
【0011】
本発明は、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有さず、従って、解糖により生じた過剰なNADHの再酸化のための代替経路を必要とする微生物に依存する。これは、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(例えば、fdh1遺伝子など)を前記微生物に導入することによって提供される。好熱性微生物において、また、好中温菌(例えば、大腸菌など)とは対照的に、糖の取り込みが調節されず、このことは高レベルの糖の存在下におけるNADHの蓄積を引き起こす。このことは、図1Cに概略的に示されるように、代謝崩壊、及び、いわゆる「レドックス死」を最終的には引き起こす。NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を微生物が取り込むことは、高い糖濃度における細胞死を防止することを、NADHレベルにおける低下及びNADレベルにおける増大を引き起こすことによって助ける。このことは部分的には、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)経路を流れる流束を回復することによるものであり、しかし、最も重要なことは、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を含むことにより、新規なピルビン酸ギ酸リアーゼ(PFL)−NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH)経路がエタノール製造のために作られる。図1Dは、高い糖レベルの存在下での迅速な解糖により生じたピルビン酸のすべてを、特に中性pH条件の下で、エタノール及びCO2に転換することによって、このPFL−FDH経路がレドックスバランスを回復させる可能性を示す。重要なことは、この経路が、細胞増殖のための最適条件下で働き、これにより、迅速なエタノール製造及び高い収率をもたらす。これは、PFL経路が、好熱性微生物における主要な、増殖に結び付けられる嫌気性経路であるからである。
【0012】
従って、第1の態様において、本発明は、乳酸デヒドロゲナーゼ(ldh)活性を有さない微生物(具体的には、好熱性微生物)であって、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼ(fdh)をコードする遺伝子を含有することを特徴とする微生物(好ましくは、好熱性微生物)を提供する。
【0013】
1つの実施形態において、微生物は、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を取り除く適切な遺伝子欠失又は他の変異によって乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有さない。従って、好ましくは、ldh遺伝子が欠失されるか、又は、他の場合には非機能的にされる。遺伝子ノックアウト及び遺伝子欠失の方法が当分野では周知であり、好ましい例が本明細書中に詳しく記載される。その上、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有さない細菌の公知菌株(例えば、アクセション番号NCIMB41075で寄託されたTN−T9、及び、アクセション番号NCIMB41115で寄託されたTN−TKなど)が、本発明における使用のために好適であり得る。
【0014】
本発明の微生物は、典型的には、活性なピルビン酸ギ酸リアーゼ経路を含有する。具体的には、微生物は、好ましくは、ピルビン酸ギ酸リアーゼをコードする遺伝子(例えば、pf1遺伝子など)を含む。本発明の微生物はまた、典型的には、活性なピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)経路を含有する。
【0015】
好ましい実施形態において、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が好熱性微生物のゲノムに組み込まれる。しかしながら、安定な発現が、例えば、好適なプラスミドの導入によって組み込みを伴うことなく達成されることもまた可能である。組み込みの1つの好ましい方法が、組換えによるものである。NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼの発現を行わせるための任意の好適な調節エレメントに機能的に連結することができる。「機能的に連結される」とは、機能的な連結が、調節エレメントと、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子との間に存在することを意味する。例えば、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を、例えば、構成的プロモーター又は誘導可能なプロモーターであり得る好適なプロモーターに連結することができる。「プロモーター」は、転写を開始するためにRNAポリメラーゼが結合することに関与するDNAの領域を含むことが本明細書中では定義される。
【0016】
典型的には、プロモーターは原核生物のプロモーターであり、従って、適切な−10配列及び−35配列(それらのコンセンサス配列が当分野では十分に定義される)を含む。遺伝子はまた、他の適切な調節配列(例えば、ターミネーターなど)に機能的に連結することができる。「ターミネーター」は、RNAポリメラーゼに転写を終結させるヌクレオチド配列として定義される。1つの実施形態において、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子はそれ自体のプロモーターから発現される。代わりの実施形態において、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は(ゲノムにおける適切な場所での組み込みのために)好熱性微生物のプロモーターから発現される。NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の発現が外来プロモーターによって駆動される構築物もまた想定され得る。これは、例えば、最大の発現レベル又は誘導可能な発現を達成するために行うことができる。一例として、ファージプロモーター(例えば、T7など)を、(別個のDNA構築物又は同じDNA構築物において提供され得る)好適なファージポリメラーゼとの併用で利用することができる。
【0017】
特に好ましい実施形態において、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の適切な調節領域(具体的には、上流の調節領域)に機能的に連結される。調節領域は、好ましくは、乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子のプロモーターを含む。プロモーターは、適切な−10配列及び−35配列を最小の機能的ユニットとして含むことが定義され得る。従って、本発明の1つの好ましい実施形態によれば、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は好熱性微生物の乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の中に挿入され、従って、その好熱性微生物の乳酸デヒドロゲナーゼ活性を不活性化する。本実施形態は、本発明の好熱性微生物を作製するために要求される両方の改変が一段階でもたらされるので、特に好ましい。このことを達成するための好適な構築物が本明細書中に詳しく記載される。
【0018】
好熱性細菌によるエタノール製造は、エタノール製造を高い温度で行うことができるので好都合である。好熱性微生物は酵母よりも低いエタノール耐性を有する一方で、エタノールを膜蒸発及び/又は穏和な真空蒸発によって高温発酵から連続的及び好都合に除去することができる。最適な嫌気性増殖条件において、バチルス菌株LLD−Rは、ほとんどもっぱらPFL経路によって70℃において非常に迅速に増殖する(Hartley及びShama、1982)。新規なPFL−FDH経路による増殖が同等に活発であることを想定することができ、しかし、最大増殖温度は、好熱性微生物に導入されたNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼの熱安定性によって制限されると考えられる。従って、1つの好ましい実施形態において、本発明の好熱性微生物は、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子、及び/又は、ヌクレオチド配列が、好熱性微生物による発現を容易にするためにコドン最適化されている遺伝子を取り込む。そのような熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼの作製が本明細書中に詳しく記載される。具体的な実施形態において、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、配列番号1として示されるヌクレオチド配列を含むか、又は、配列番号1として示されるヌクレオチド配列から本質的になるか、又は、配列番号1として示されるヌクレオチド配列からなる。さらなる実施形態において、本発明の好熱性微生物は、バチルス属における発現のために最適化されたコドン、すなわち、配列番号2として示されるヌクレオチド配列を含むか、又は、配列番号2として示されるヌクレオチド配列から本質的になるか、又は、配列番号2として示されるヌクレオチド配列からなる、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を取り込む。この配列は、必要最小限の(basic)熱安定的なNAD結合型デヒドロゲナーゼ配列に加えて、プロモーター領域及びターミネーター領域、そしてまた、好適なDNA構築物への遺伝子のクローン化を容易にするためのXba1部位を含む。
【0019】
さらなる実施形態において、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子はfdh1遺伝子である。fdh1遺伝子は任意の好適な供給源に由来することができ、好ましくは、関連した好熱性微生物における発現のためにコドン最適化される。
【0020】
本発明の好熱性微生物は、本明細書中にさらに詳しく記載されるように、本発明のDNA構築物のいずれかによる形質転換によって作製することができる。従って、そこで提供される議論が本発明の本実施形態に準用される。
【0021】
本発明の好熱性微生物は、エタノールをバイオマスから製造するための任意の好適な微生物であり得る。好ましくは、本発明の好熱性微生物はヘテロ乳酸発酵微生物である。より好ましくは、好熱性微生物は好熱性細菌であり、より好ましくは、バチルス属の細菌であり、一層より好ましくは、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)である。1つの実施形態において、本発明の好熱性微生物は、(バチルス・ステアロサーモフィルスの)公知菌株のLLD−R又はLLD−15に由来する。さらなる実施形態において、好熱性微生物はゲオバチルス・サーモグルコシダシウス(Geobacillus thermoglucosidasius)である。
【0022】
本発明によって容易にされる発酵プロセスでは、好ましくは、適切な好熱性微生物(例えば、バチルス菌株LLD−Rなど)のコドン選択の使用に起因する熱安定的なアミノ酸配列を発現するように設計される合成されたNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼが利用される。そのような合成遺伝子は、好ましくは、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子内への挿入を助けるための操作された制限部位を含有する。それにより、LDH経路の欠失及びPFL−FDH経路の作製が1回の操作で達成される。従って、第2の態様において、本発明は熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼを提供する。好ましくは、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼは60℃の温度またはそれよりも高い温度で機能を保持したままである。好ましくは、熱安定性の酵素は、好熱性微生物における発現のためにコドン最適化されているヌクレオチド配列によってコードされる。ギ酸デヒドロゲナーゼは、1つの実施形態において、配列番号3として示されるアミノ酸配列を含むことができ、又は、配列番号3として示されるアミノ酸配列から本質的になることができ、又は、配列番号3として示されるアミノ酸配列からなることができる。
【0023】
具体的な熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼが、下記の詳細な説明においてより詳しく議論されるように、シュードモナス種(Pseudomonas sp.)101のギ酸デヒドロゲナーゼのアミノ酸配列(配列番号3)に基づいて、また、ゲオバチルス・サーモグルコシダシウスについての最適化されたコドンの使用によって設計されている。当業者は、この基本的配列の様々な誘導体が機能性を保持することを理解する。例えば、保存的置換及び半保存的置換は熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをもたらすことができ、また、これらの誘導体は、それらが、好熱性微生物を使用するエタノール製造において有用であるような効果的な触媒作用活性及び熱安定性を保持するならば、本発明の範囲内であることが意図される。同様に、アミノ酸の軽微な欠失及び/又は付加は、適切な機能性を保持する誘導体をもたらすことができる。
【0024】
第3の態様において、本発明は、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする合成遺伝子に関する。好ましくは、この遺伝子は、配列番号1として示されるヌクレオチド配列を含むか、又は、配列番号1として示されるヌクレオチド配列から本質的になるか、又は、配列番号1として示されるヌクレオチド配列からなる。この配列は、コドンが熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼの製造のために最適化される新規のfdh遺伝子配列を表す。より具体的な実施形態において、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、配列番号2として示されるヌクレオチド配列を含むか、又は、配列番号2として示されるヌクレオチド配列から本質的になるか、又は、配列番号2として示されるヌクレオチド配列からなる。この配列は、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼのためのコード領域をバチルス属の好適なプロモーター及びrho非依存性ターミネーターと一緒に取り込む。この配列はまた、クローン化を助けるための好適な制限部位(具体的には、Xba1部位)を取り込む。当業者は、ヌクレオチド配列に対する軽微な改変体が、例えば、最適化されたコドンを適切な好熱性微生物の翻訳系において好まれる他のコドンにより置き換えることによって、得られた酵素の機能性又は熱安定性を変化させることなく、作製され得ることを容易に理解する。
【0025】
本発明はまた、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼ(具体的には、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼ)をコードする遺伝子を含有するDNA構築物に関し、この場合、遺伝子の両側には、好適なDNA構築物(例えば、発現ベクター又はプラスミドなど)への遺伝子のクローン化を容易にするための制限部位が存在する。
【0026】
関連した態様において、本発明はまた、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子に機能的に連結された調節配列を含むDNA構築物を提供する。従って、このDNA構築物は、最大のエタノール収率を与える効率的な発酵を行うことができる好熱性微生物を作製するために、好熱性微生物(具体的には、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有さない好熱性微生物)の形質転換を容易にする。上記で述べられたように、本明細書中で使用される用語「機能的に連結された」は、調節配列が遺伝子発現に影響を及ぼすことができるような、調節配列と、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子との間における機能的な連結を示す。例えば、好ましい調節配列はプロモーターである。上記で述べられたように、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、好ましくは、配列番号1として示されるヌクレオチド配列を含むか、又は、配列番号1として示されるヌクレオチド配列から本質的になるか、又は、配列番号1として示されるヌクレオチド配列からなる。好ましい調節配列はプロモーターであるが、DNA構築物は、好適なターミネーター配列をさらに取り込むことができる。1つの具体的な実施形態において、プロモーターは、配列番号4として示されるヌクレオチド配列を含む。他のプロモーターを、上記で議論されたように、高レベルの発現及び/又は誘導可能な発現のために利用することができる。
【0027】
本発明のさらなる態様において、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子と、挿入配列とを含むDNA構築物が提供され、この場合、挿入配列は、このDNA構築物により形質転換された好熱性微生物のゲノムへの、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の組み込みを容易にする。「挿入配列」とは、適切な好熱性微生物のゲノムへの組み込みを可能にする転移可能なDNAエレメントを意味する。挿入配列はまた、挿入配列エレメント(IE)として示される場合があり、天然に存在し得る。1つの具体的な実施形態において、挿入配列はバチルス・ステアロサーモフィルスの菌株LLD−R又は菌株LLD−15に由来する。
【0028】
より具体的な実施形態において、挿入配列は、配列番号5として示されるヌクレオチド配列(図3)を含むか、又は、配列番号5として示されるヌクレオチド配列(図3)から本質的になるか、又は、配列番号5として示されるヌクレオチド配列(図3)からなる。好ましい挿入配列を、配列番号6及び配列番号7として示されるヌクレオチド配列を含むプライマー、又は、配列番号6及び配列番号7として示されるヌクレオチド配列から本質的になるプライマー、又は、配列番号6及び配列番号7として示されるヌクレオチド配列からなるプライマーを使用する増幅によって作製することができる。この場合、公知のバチルス・ステアロサーモフィルス菌株LLD−15に由来するゲノムDNAをテンプレートとして使用することができる。1つの特に好ましいDNA構築物が、(下記の実験の節及び図5に記載されるような)プラスミドpUB−ISF1である。
【0029】
さらなる態様において、本発明は、乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の適切な調節領域(具体的には、上流の調節領域)に機能的に連結された、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする(fdh)遺伝子を含むDNA構築物に関する。調節領域は、好ましくは、乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(ldh)のプロモーターを含む。プロモーターは、RNAポリメラーゼの効果的な結合を可能にするために、適切な−10配列及び−35配列を最小の機能的ユニットとして含むことが定義され得る。乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーターは、好熱性微生物(例えば、バチルス属など)における高レベルの発現を行わせるために好適であり、これはまた、乳酸デヒドロゲナーゼ活性の欠失及びNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼ活性の導入の両方を同じ工程において達成するためのクローン化戦略の一部としても都合よく使用することができる。従って、DNA構築物はまた、乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(ldh)のプロモーターを含む核酸分子に機能的に連結された、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を含むものとして定義することができる。
【0030】
DNA構築物はまた、好ましくは、宿主の乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコード配列の一部を、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の下流側に含有する。このことは、DNA構築物により形質転換された微生物における遺伝子の組み込みを容易にする。「少なくとも一部」とは、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含有する微生物のゲノムへの組換え(好ましくは、2回の交差による組換え)による遺伝子組み込みを可能にするための十分な長さの遺伝子の一部分を意味する。コード配列の一部は、好ましくは、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の末端を取り込む。1つの実施形態において、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の少なくとも100ヌクレオチド、200ヌクレオチド、300ヌクレオチド、400ヌクレオチド、500ヌクレオチド、600ヌクレオチド、700ヌクレオチド又は750ヌクレオチドが、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の下流側に取り込まれる。従って、本発明の1つの実施形態において、DNA構築物は、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を含み、この場合、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子には、(対象の好熱性微生物に由来する)乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子に由来するヌクレオチド配列が隣接する。そのような隣接する配列は、乳酸デヒドロゲナーゼをコードする宿主遺伝子への、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の組み込みを可能にし、それにより、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼ活性の導入及び乳酸デヒドロゲナーゼ活性のノックアウトを1回のクローン化工程においてもたらすための十分な長さである。好ましくは、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子には、組換えによる組み込みの後で、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子がプロモーターに機能的に連結されるように、少なくとも、乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子のプロモーター領域が上流側に隣接する。特に好ましい実施形態において、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の下流側部分は、菌株LLD−Rをテンプレートとして使用するとき、配列番号8及び配列番号9として示されるヌクレオチド配列を含むプライマー、又は、配列番号8及び配列番号9として示されるヌクレオチド配列から本質的になるプライマー、又は、配列番号8及び配列番号9として示されるヌクレオチド配列からなるプライマーを使用するldh遺伝子の増幅によって得ることができる部分である。上流側の隣接領域(これは、好ましくは、ldhプロモーターを取り込む)は、好ましくは、宿主ゲノムとの組換えによる組み込み効率を最大にするために、適切なldh上流領域の少なくとも100ヌクレオチド、200ヌクレオチド、300ヌクレオチド、400ヌクレオチド、500ヌクレオチド、600ヌクレオチド、700ヌクレオチド又は750ヌクレオチドを含む。この上流領域は、当業者によって容易に決定されるように、対象の具体的な好熱性微生物におけるldh遺伝子の配列状況に依存し得る。従って、ldh遺伝子配列の知識を有する当業者は、組換えによる組み込みを可能にするための適切な隣接領域を容易に決定する。例えば、発表されたゲノム配列を調べることができ、又は、配列決定反応を行うことができ、又は、隣接領域を、ldh遺伝子配列に由来するプライマーを使用するPCRによって増幅することができる。従って、fdh遺伝子は、fdh遺伝子が、読み枠を一致させて、ldh遺伝子の少なくとも一部に取り替えられるように、ldh遺伝子に由来する2つのヌクレオチド配列の間に置かれる。
【0031】
従って、DNA構築物は一般に、対象の遺伝子(NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子)が、組み込み時にノックアウトされる遺伝子(この場合には、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子)のコード配列(ORF)の内部に挿入される遺伝子組み込みカセットを含む。組換えにより組み込まれたとき、対象の遺伝子の発現は、事実上、ノックアウトされた遺伝子の制御下にある。そのような構築物は、1つの遺伝子が、異種遺伝子の発現に有利なようにノックアウトされることが必要である状況において一般的な適用性を有し得る。1つの好ましい実施形態において、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする。本明細書中に提供される熱安定的なNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼの議論が、本発明のこの態様に準用される。具体的には、1つの実施形態において、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、配列番号1もしくは配列番号2として示されるヌクレオチド配列を含むか、又は、配列番号1もしくは配列番号2として示されるヌクレオチド配列から本質的になるか、又は、配列番号1もしくは配列番号2として示されるヌクレオチド配列からなる。特に好ましいDNA構築物が、(下記の実験の節及び図8に記載されるような)プラスミドpUCK−LF1である。
【0032】
本発明のすべてのDNA構築物について、好ましい形態が発現ベクターである。従って、本発明のDNA構築物は、構築物により形質転換された微生物における、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の確実な発現を可能にする。特に好ましい実施形態において、DNA構築はプラスミドである。好ましくは、DNA構築物は、宿主の好熱性微生物のゲノムとの組換えを介して宿主の好熱性微生物において複製することができるだけである。
【0033】
本発明のDNA構築物はまた、好ましくは、好適なレポーター遺伝子を、成功した形質転換の指標物として取り込む。1つの実施形態において、レポーター遺伝子は抗生物質耐性遺伝子(例えば、カナマイシン耐性遺伝子又はアンピシリン耐性遺伝子など)である。他のレポーター(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)及びβ−ガラクトシダーゼ(lacZ)など)を適するように利用することができる。DNA構築物は多数のレポーター遺伝子を適するように取り込むことができる。レポーター機能の喪失は、その後の世代においてであるが、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の、適切な隣接領域と一緒での組み込みを示す。
【0034】
さらなる態様において、本発明は、本発明のDNA構築物を含む微生物に関する。好ましいレシピエント微生物はヘテロ乳酸発酵微生物である。具体的には、本発明は、好ましくは、好熱性細菌、例えば、バチルス属の細菌などに関し、特に、バチルス・ステアロサーモフィルスに関する。細菌は、例えば、LLD−R又はLLD−15の菌株に由来することができる。さらなる実施形態において、好熱性微生物はゲオバチルス・サーモグルコシダシウスである。
【0035】
さらなる態様において、本発明は、発酵における本発明の微生物又は本発明の好熱性微生物の使用、具体的には、エタノールを製造するためのそれらの使用に関する。
【0036】
同様に、本発明は、本発明の好熱性微生物又は本発明の微生物に糖を与えることを含む、エタノールを製造するための発酵プロセスに関する。本発明に従って構築された微生物は、最適な増殖条件の下での高いエタノール収率及び体積生産性のために特に好適である。従って、本発明の微生物はどれも、任意の発酵槽形態(例えば、回分式発酵プロセス、流加回分(fed-batch)式発酵プロセス又は連続発酵プロセスなど)において使用することができる。1つの好ましい実施形態において、発酵プロセスは流加回分式発酵プロセスである。
【0037】
バイオエタノールを製造するために微生物(例えば、好熱性微生物など)を使用することの主要な利点の1つは、酵母とは異なり、そのような微生物は、農業廃棄産物(例えば、ヘミセルロースなど)に由来する広範囲の糖を発酵することができることである。従って、1つの実施形態において、本発明の発酵プロセスにおいて使用される糖はバイオマスに由来する。さらなる実施形態において、発酵は混合糖の発酵である。具体的な実施形態において、混合糖には、ペントース糖(好ましくは、ペントース糖の大部分)が含まれる。
【0038】
さらなる実施形態において、発酵プロセスは、レドックスバランスが保たれた状態で維持される。このことは、好熱菌に関しては特に重要である。これは、好中温菌とは異なり、糖の取り込みがこれらの微生物では調節されないようであるからである。好ましくは、これはフィードバックセンサーの使用によって達成される。
【0039】
好熱性細菌はエタノールに対する低い抵抗性を有するが、これは、エタノールの定期的な除去又は連続した除去によって本発明の発酵プロセスにおいて都合よく克服することができる。このことは、発酵におけるエタノール濃度が本発明の好熱性微生物又は微生物のエタノール許容度よりも低く保たれることを保証する。エタノールは、蒸発又は蒸留(例えば、膜蒸発及び/又は穏和な真空蒸発など)によって高温発酵から連続的かつ都合良く除去することができる。
【0040】
次に、本発明は、下記の限定されない説明及び図を参照して記載される。
【実施例】
【0041】
発明の説明
材料
培地及び緩衝液
LB培地:トリプトン 10g;酵母抽出物 5g;NaCl 10g;脱イオン水(1Lにする)。
pHを7に調節し、オートクレーブ処理して殺菌した。
平板培地については、20g/lの寒天を培地に加え、その後、オートクレーブ処理し、55℃に冷却し、無菌のペトリ皿に注いだ(平板あたり約20ml)。
LB−amp平板については、ろ過滅菌したアンピシリン溶液を50μg/mlの最終濃度に加え、その後、ペトリ皿に注いだ。
【0042】
SOC培地:トリプトン 2.0g;酵母抽出物 0.5g;NaCl 0.05g;MgCl2・6H2O 0.204g;MgSO4・7H2O 0.247g;グルコース 0.36g;脱イオン化H2O(100mlにする)。
溶解し、pHを7に調節し、ろ過滅菌した。
【0043】
TGP培地:トリプトン 17g;ダイズペプトン 3g;K2HPO4 2.5g;NaCl 5g;ピルビン酸Na 4g;グリセロール 4ml;脱イオン水(1Lにする)。pHを7に調節し、オートクレーブ処理して殺菌した。
平板培地については、20g/lの寒天を培地に加え、その後、オートクレーブ処理し、55℃に冷却し、無菌のペトリ皿に注いだ(平板あたり約25ml)。
TGP−kan平板については、10μg/mlの最終濃度にするためのろ過滅菌されたカナマイシン溶液を、ペトリ皿に注ぐ前に加えた。
【0044】
TH緩衝液:トレハロース 272mM;HEPES(KOHによりpH7.5) 8mM;2回蒸留H2O(1Lにする)。
【0045】
微生物菌株
大腸菌DH5−αの化学的コンピテント細胞をInvitrogenから購入した(Cat.18265−017)。
バチルス・ズブチリス亜種ズブチリス(Bacillus subtilis subsp. Subtilis)、ドイツ培養物コレクションDSMZ(DSM番号10)。
バチルス・ステアロサーモフィルス菌株LLD−R、これはNCIMB12403として寄託された。
バチルス・ステアロサーモフィルス菌株LLD−15、これはNCIMB12428として寄託された。
【0046】
プラスミド
プラスミドのpCR−Blunt及びpCR−TOPO2をInvitrogenから得た。
プラスミドpUB110、このプラスミドを保有する枯草菌(Bacillus subtilis)BD170をドイツ培養コレクションDSMZから得た(DSM番号4514)。
プラスミドpUC18をSigma−Aldrichから得た。
【0047】
実施例1.合成されたギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の構築(図2)
シュードモナス種101のギ酸デヒドロゲナーゼのアミノ酸配列(NCBIタンパク質データベースアクセション番号P33160−配列番号3)を、ゲオバチルス・サーモグルコシダシウスについての最適化されたコドンを有するDNA配列に逆翻訳した。バチルス属菌株に由来するプロモーター領域及びrho非依存性ターミネーター領域を、翻訳された配列の上流側及び下流側にそれぞれ加えた(図2)。この新規な配列は公知のfdh遺伝子配列との40%未満の類似性(公知のfdh1遺伝子との37%の同一性)を示した。Xba1部位が、好適なベクターへのそのクローン化を容易にするために構築物の両側に設計された。
【0048】
所望の配列を、Gaoらの方法(Xinxin Gao、Peggy Yo、Andrew Keith、Timothy J. Ragan及びThomas K. Harris (2003)、Nucleic Acids Research、31 (22)、e143を参照のこと)を使用して合成し、pCR−Bluntにその唯一のXba1位置においてクローン化した。得られたベクターpCR−F1(図4)を大腸菌DH5α細胞に導入し、陽性クローンをPCR分析及び制限分析によって確認した。
【0049】
2つの代替戦略を、下記の実施例において示されるように、この合成fdh遺伝子を標的バチルス属細菌のゲノムに挿入し、発現するために利用することができる。
【0050】
実施例2.多重(IS)部位へのfdh遺伝子の挿入
この戦略は、多重挿入部位において組換えが頻繁に生じる挿入配列(IS)を含有する菌株(例えば、バチルス・ステアロサーモフィルス菌株LLD−Rなど)に適用される。fdh遺伝子及びこのIS配列を有するベクターは、そのような場所の1又はそれ以上における安定な組み込みをもたらすことが予想される。
【0051】
プラスミドpUB−ISF1の構築(図5)
最初に、菌株LLD−Rの公知の挿入配列(配列番号5及び図3)を、フォワードプライマー(AGTACTGAAATCCGGATTTGATGGCG−配列番号6)及びリバースプライマー(AGTACTGCTAAATTTCCAAGTAGC−配列番号7)をテンプレートとしてのB.ステアロサーモフィルス菌株LLD−15とともに使用してPCR増幅する。Sca1制限部位が配列の両側に導入される。PCR生成物を最初にプラスミドpCR−TOPO2.1にクローン化し、その後、得られたプラスミドpCR−ISを大腸菌DH5α細胞に導入し、IS領域をSca1制限消化によって単離するために使用する。その後、単離されたISをpUB110にその唯一のSca1部位においてクローン化し、得られたプラスミドpUB−ISを枯草菌に導入する。
【0052】
その後、ldhプロモーターを含有する1.5kbのフラグメントと、fdh遺伝子とを、Xba1制限酵素を使用してpCR−F1プラスミドから消化し、同じ酵素により既に線状化されたプラスミドpUB−ISにクローン化する。その後、得られたプラスミドpUB−ISF1(図5)をB.subtilisに導入し、陽性クローンをTGP−kan平板において選択し、PCR分析及び制限分析によって確認する。
【0053】
菌株LLD−Rへのfdh遺伝子の組み込み
その後、プラスミドpUB−ISF1をHaeIIIメチラーゼ酵素によりインビトロでメチル化し、その後、バチルス・ステアロサーモフィルス菌株LLD−R又はそのldh欠失菌株(実施例3を参照のこと)の細胞をメチル化pUB−ISF1プラスミドにより形質転換する。陽性クローンを50℃におけるTGP−Kan平板において48時間後に選択し、fdh遺伝子のPCR増幅によって分析する。
【0054】
その後、fdh遺伝子を、形質転換クローンを60℃〜65℃で数世代にわたってTGP−Kan培地で増殖させ、TGP−Kan平板において選択することによって染色体に組み込ませる。陽性クローンをfdh遺伝子の存在について分析し、その後、振とうフラスコ及び発酵装置においてエタノール製造ならびにC5(ペントース)糖及びC6(ヘキソース)糖の利用についてスクリーニングする。
【0055】
実施例3.ldh欠失菌株の構築
最初の工程は、バチルス属のカナマイシン耐性マーカー(kan)と、B.ステアロサーモフィルス菌株LLD−Rのldh遺伝子を有するカセットとをプラスミドpUC18(これはグラム陰性微生物においてのみ複製することができる)にクローン化することである。
【0056】
バチルス属クローニングベクターの構築。プラスミドpUCK(図6)
カナマイシン耐性遺伝子(kan)を、プラスミドpUC18に、プラスミドにおける任意のコード領域の外側及びレポーター遺伝子(lacZ)の外側に位置するその唯一のZra1部位においてクローン化した。kan遺伝子をクローン化するために、カナマイシン耐性遺伝子を含有する1.13kbのフラグメントを、プラスミドpUB110をテンプレートとして使用して、下記のプライマー:
kan−BsZ−F(ACACAGACGTCGGCGATTTGATTCATAC−配列番号10)および
kan−BsZ−R(CGCCATGACGTCCATGATAATTACTAATACTAGG−配列番号11)
によりPCR増幅した。Zra1部位をプライマーを介してkan遺伝子の両端に導入した。その後、PCR生成物をZra1制限エンドヌクレアーゼ酵素により消化し、事前にZra1消化され、脱リン酸化されたプラスミドpUC18と連結した。その後、得られたプラスミドpUCK(図6)を大腸菌DH5α細胞に導入した。陽性クローンをLB−amp平板において選択し、PCR分析及び制限分析によって確認した。
【0057】
欠失を有するldh遺伝子を有するプラスミドpUCK−LCの構築(図7)
1.36kbのldhカセットを、そのORFの363bpが欠失された菌株LLD−Rのldh遺伝子全体と、その隣接部とを含有するように設計した。このカセットを、菌株LLD−Rをテンプレートとして使用するldh遺伝子の上部領域及び下部領域のPCR増幅によって構築した。その後、これらの領域を連結し、プラスミドpUCKにクローン化した。BglII部位を内側プライマーに導入した。上部領域を、下記のプライマーを使用してPCR増幅した。
LC−U−F1(AGGGCAATCTGAAAGGAAGGGAAAATTCC−配列番号12)及び
LC−UB−R1(TGCACAGATCTCCACCAAATCGGCGTC−配列番号13)。
【0058】
下部領域を、下記のプライマーを使用してPCR増幅した。
LC−DB−F1(TTGAGCAGATCTTGATGCAAAACGATAAC−配列番号14)及び
LC−D−R1(TAAAGCCGATGAGCAGCAGTTGAAG−配列番号15)。
【0059】
これらのPCR生成物をBglII制限エンドヌクレアーゼ酵素により消化し、T4DNAリガーゼ酵素を使用して連結した。連結物をテンプレートとして使用して、その後、ldhカセットを、プライマーとして、
LC−UX−F2(ATATTATCTAGACATTACGGAAATGATAATGGC−配列番号16)及び
LC−DX−R2(TCACAATCTAGACAATCGGCCATAAAC−配列番号17)
を使用してPCR増幅した。
【0060】
XbaI部位をプライマーを介してカセットの両端に導入した。その後、PCR生成物をXbaI酵素により消化し、同じ酵素により事前に消化され、脱リン酸化されたプラスミドpUCKにクローン化した。その後、得られたプラスミドpUCK−LCを大腸菌DH5αに導入した。陽性クローンをLB−amp平板において選択し、PCR分析及び制限分析によって確認した。
【0061】
ldh欠失菌株の構築
プラスミドpUCK−LCをHaeIIIメチラーゼ酵素によりインビトロでメチル化し、野生型の好熱性細胞(例えば、菌株LLD−R)をエレクトロポレーション(1000V、201オーム、25マイクロファラデー及び5ミリ秒)によってメチル化プラスミドにより形質転換する。陽性クローンを65℃でTGP−Kan平板において選択し、kan遺伝子のPCR増幅によって1回の交差事象体(single cross-over event)として確認する。
【0062】
2回の交差による遺伝子欠失を達成するために、陽性クローンを数世代にわたってTGP培地で増殖させ(約5回の継代培養)、TGP平板において増殖することができるがTGP−kan平板においては増殖することができないクローンを選択する。その後、陽性クローンを、ldh遺伝子欠失体として、PCR分析によってカナマイシン遺伝子の不在について確認する。その後、クローンを振とうフラスコ及び発酵装置においてエタノール製造ならびにC5糖及びC6糖の利用について特徴づける。
【0063】
実施例4.同時でのfdh遺伝子の導入及びldh遺伝子の欠失
この代替戦略は、広範囲の種類のヘテロ乳酸発酵微生物に対して、好熱性バチルス属と同様に広く適用可能であるが、後者が例示として使用される。
【0064】
プラスミドpUCK−LFの構築(図9)
fdh遺伝子を含有し、それに加えて、ldh遺伝子全体、ならびに、約300bpの上流側及び下流側の隣接領域を含有する遺伝子組み込みカセットをプラスミドpUCKにクローン化する。この構築物では、ldhオープンリーディングフレームの最初の450bpが、遺伝子発現がldh遺伝子のプロモーターの制御下になるような方法でfdh遺伝子により置き換えられる。
【0065】
これを達成するために、ldh遺伝子の下流側領域を含有する約750bpのDNAフラグメントを、
LDHB−X−F1(GAACGATTCTAGATACAGCAAGATTCCGC−配列番号8)及び
LDHB−E−R1(GTTTGCGAATTCATAGACGGACGCAG−配列番号9)
をプライマーとして、バチルス・ステアロサーモフィルス菌株LLD−Rをテンプレートとして使用してPCR増幅する。従って、Xba1部位及びEcoR1部位がPCRフラグメントの端部に導入される。その後、PCRフラグメントを消化し、Xba1部位と、EcoR1部位との間においてプラスミドpUCKに一定方向でクローン化する。得られたプラスミドpUCK−ldhB(図8)を大腸菌DH5αに導入し、陽性クローンをLB−amp平板において選択し、PCR分析及び制限分析によって確認する。
【0066】
その後、ldhプロモーター及びfdh遺伝子を含有する1.5kbのフラグメントを、Xba1制限酵素を使用してpCR−F1プラスミドから消化し、同じ酵素により既に線状化されたプラスミドpUCK−ldhBにクローン化する(図8)。得られたプラスミドpUCK−LF1(図9)を大腸菌DH5α細胞に導入し、クローンをLB−amp平板において選択する。陽性クローン及び構築物の正しい配向をPCR分析及び制限分析によって確認する。
【0067】
エタノールを新規なPFL−FDH経路によって作製する菌株の構築
プラスミドpUCK−LF1をHaeIIIメチラーゼ酵素によりインビトロでメチル化し、標的の野生型細胞(例えば、菌株LLD−R細胞)をメチル化プラスミドにより形質転換し、TGP−Kan平板において60℃で選択する。陽性クローンは1回の交差事象体を表し、陽性クローンをfdh遺伝子のPCR増幅によって分析する。
【0068】
2回の交差による遺伝子組み込みを達成するために、TGP平板において増殖するがTGP−Kan平板においては増殖しないクローンを選択する。その後、陽性クローンをfdh遺伝子の存在及びカナマイシン遺伝子の不在について確認する。最後に、クローンを振とうフラスコ及び発酵装置においてエタノール製造ならびにC5糖及びC6糖の利用についてスクリーニングする。
【0069】
すべての参考文献はその全体が本明細書中に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1A】乳酸デヒドロゲナーゼ経路が不活性化されている好熱性微生物における代謝経路に対する様々な条件の影響を示す。矢の濃淡及び太さは個々の代謝経路の相対的な優勢を示す。中性pH及び低い糖の存在下で活性である代謝経路。この場合、ピルビン酸ギ酸リアーゼ経路が優勢である。
【図1B】乳酸デヒドロゲナーゼ経路が不活性化されている好熱性微生物における代謝経路に対する様々な条件の影響を示す。矢の濃淡及び太さは個々の代謝経路の相対的な優勢を示す。低いpH及び低い糖の存在下で活性である代謝経路。この場合、嫌気性ピルビン酸デヒドロゲナーゼ経路が優勢である。
【図1C】乳酸デヒドロゲナーゼ経路が不活性化されている好熱性微生物における代謝経路に対する様々な条件の影響を示す。矢の濃淡及び太さは個々の代謝経路の相対的な優勢を示す。低いpH及び高い糖の存在下で活性である代謝経路。この場合、細胞は代謝ストレスを受け、レドックスバランスが崩れ、これにより、いわゆる「レドックス死」を引き起こす。
【図1D】乳酸デヒドロゲナーゼ経路が不活性化されている好熱性微生物における代謝経路に対する様々な条件の影響を示す。矢の濃淡及び太さは個々の代謝経路の相対的な優勢を示す。中性pH及び高い糖の存在下で本発明の好熱性微生物において活性である代謝経路。この場合、新規なPFL−FDH経路が優勢となり、エタノール及びCO2が唯一の嫌気性産物である。
【図2】熱安定性を最大にするためのコドン最適化によって作製された合成fdh遺伝子のヌクレオチド配列を示す。fdhオープンリーディングフレームのDNA配列には、プロモーター及びターミネーター(斜体字)の領域が隣接する。プロモーターの−35ボックス及び−10ボックスには下線が付される。構築物を好適なベクターにクローン化するために、Xba1部位が配列の両側に導入された。
【図3】B.ステアロサーモフィルスのLLD−15菌株の挿入配列(IS)のヌクレオチド配列を示す。9bpの逆方向反復の末端が太字フォントで示される。
【図4】pCR−Blunt誘導体プラスミドのpCR−F1の概略図である。このプラスミドは、唯一のXba1部位においてpCR−Bluntにクローン化された、ldhプロモーターの制御下にあるコドン最適化されたfdh1遺伝子を含む。
【図5】pUB110誘導体プラスミドのpUB−ISF1の概略図である。このプラスミドは、pCR−F1プラスミドに由来する、ldhプロモーターの制御下にあるコドン最適化されたfdh1遺伝子を含み、公知のバチルス属菌株LLD−15に由来する挿入配列(IS)もまた含む。
【図6】pUCKと呼ばれるpUC18誘導体プラスミドの概略図である。このプラスミドは、プラスミドpUB100からpUC18における唯一のZra1制限部位にクローン化されたカナマイシン耐性遺伝子を含む。
【図7】pUCK誘導体のpUCK−LCの概略図である。このプラスミドは、ORFの中央における363bpの欠失を伴うldh遺伝子を有する。
【図8】pUCK誘導体のpUCK−ldhBの概略図である。このプラスミドは、遺伝子の下流側領域を含む、ldh遺伝子の750bpを含有する。
【図9】pUCK−LF1プラスミドの概略図である。このプラスミドは、fdh遺伝子をldhプロモーターの制御下に含有する遺伝子組み込みカセットを取り込むpUCK誘導体である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を含有することを特徴とする、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有さない、好熱性微生物。
【請求項2】
ピルビン酸ギ酸リアーゼを発現する、請求項1に記載の好熱性微生物。
【請求項3】
NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子が好熱性微生物のゲノムに組み込まれる、請求項1または2に記載の好熱性微生物。
【請求項4】
NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子がそれ自体のプロモーターから発現されるか、又は、好熱性微生物のプロモーターから発現される、請求項1から3のいずれか一項に記載の好熱性微生物。
【請求項5】
NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子が好熱性微生物の乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の中に挿入され、これにより、前記好熱性微生物の乳酸デヒドロゲナーゼ活性を不活性化する、請求項1から4のいずれか一項に記載の好熱性微生物。
【請求項6】
NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子が熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする、請求項1から5のいずれか一項に記載の好熱性微生物。
【請求項7】
NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子が、配列番号1又は配列番号2として示されるヌクレオチド配列を含む、請求項1から6のいずれかに記載の好熱性微生物。
【請求項8】
配列番号1として示されるヌクレオチド配列を含む熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子に機能的に連結された調節配列を含むDNA構築物により形質転換されている、請求項1から7のいずれかに記載の好熱性微生物。
【請求項9】
NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子と、挿入配列とを含むDNA構築物により形質転換され、前記挿入配列が、前記DNA構築物により形質転換された好熱性微生物のゲノムへの、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子の組み込みを容易にする、請求項1から7のいずれか一項に記載の好熱性微生物。
【請求項10】
乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の上流領域に機能的に連結された、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を含むDNA構築物により形質転換され、前記上流領域がプロモーターを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の好熱性微生物。
【請求項11】
前記DNA構築物が、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子の下流側に乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の少なくとも一部をさらに含むものであり、これにより、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子の両側が、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の十分な部分の間に挿入され、その結果NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子が、好熱性微生物のゲノムにおいて乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子との組み換えにより組み込まれることが容易となる、請求項10に記載の好熱性微生物。
【請求項12】
好熱性細菌である、請求項1から11のいずれかに記載の好熱性微生物。
【請求項13】
バチルス(Bacillus)属である、請求項12に記載の好熱性微生物。
【請求項14】
バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)又はゲオバチルス・サーモグルコシダシウス(Geobacillus thermoglucosidasius)である、請求項13に記載の好熱性微生物。
【請求項15】
前記バチルス・ステアロサーモフィルスがLLD−R又はLLD−15の菌株に由来する、請求項14に記載の好熱性微生物。
【請求項16】
配列番号1として示されるヌクレオチド配列を含む、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子。
【請求項17】
配列番号1として示されるヌクレオチド配列を含む、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子に機能的に連結された調節配列を含む、DNA構築物。
【請求項18】
前記調節配列がプロモーターである、請求項17に記載のDNA構築物。
【請求項19】
前記プロモーターが、配列番号4として示されるヌクレオチド配列を含む、請求項18に記載のDNA構築物。
【請求項20】
NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子と、挿入配列とを含むDNA構築物であって、前記挿入配列が、前記DNA構築物により形質転換された好熱性微生物のゲノムへの、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子の組み込みを容易にする、DNA構築物。
【請求項21】
前記挿入配列がバチルス・ステアロサーモフィルスの菌株LLD−R又は菌株LLD−15に由来する、請求項20に記載のDNA構築物。
【請求項22】
前記挿入配列が、配列番号5として示されるヌクレオチド配列を含む、請求項21に記載のDNA構築物。
【請求項23】
前記挿入配列が、配列番号6及び配列番号7として示されるヌクレオチド配列を含むプライマーと、テンプレートとしてのバチルス・ステアロサーモフィルス菌株LLD−15とを使用する増幅によって作製される、請求項22に記載のDNA構築物。
【請求項24】
乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の上流領域に機能的に連結された、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を含むDNA構築物であって、前記上流領域がプロモーターを含む、DNA構築物。
【請求項25】
前記DNA構築物が、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子の下流側に乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の少なくとも一部をさらに含むものであり、これにより、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子の両側が、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の十分な部分の間に挿入され、その結果NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子が、好熱性微生物のゲノムにおいて乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子との組み換えにより組み込まれることが容易となる、請求項24に記載のDNA構築物。
【請求項26】
NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子が、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子である、請求項17から25のいずれか一項に記載のDNA構築物。
【請求項27】
熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子が、配列番号1として示されるヌクレオチド配列を含む、請求項26に記載のDNA構築物。
【請求項28】
発現ベクターである、請求項17から27のいずれか一項に記載のDNA構築物。
【請求項29】
プラスミドである、請求項17から28のいずれか一項に記載のDNA構築物。
【請求項30】
請求項17から29のいずれか一項に記載のDNA構築物を含む、微生物。
【請求項31】
好熱性細菌である、請求項30に記載の微生物。
【請求項32】
バチルス(Bacillus)属である、請求項31に記載の微生物。
【請求項33】
バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)又はゲオバチルス・サーモグルコシダシウス(Geobacillus thermoglucosidasius)である、請求項32に記載の微生物。
【請求項34】
エタノールを製造するための、請求項1から15のいずれか一項に記載の好熱性微生物、又は請求項30から33のいずれか一項に記載の微生物の使用。
【請求項35】
請求項1から15のいずれか一項に記載の好熱性微生物、又は請求項30から33のいずれか一項に記載の微生物に糖を与えることを含む、エタノールを製造するための発酵プロセス。
【請求項1】
NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を含有することを特徴とする、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を有さない、好熱性微生物。
【請求項2】
ピルビン酸ギ酸リアーゼを発現する、請求項1に記載の好熱性微生物。
【請求項3】
NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子が好熱性微生物のゲノムに組み込まれる、請求項1または2に記載の好熱性微生物。
【請求項4】
NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子がそれ自体のプロモーターから発現されるか、又は、好熱性微生物のプロモーターから発現される、請求項1から3のいずれか一項に記載の好熱性微生物。
【請求項5】
NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子が好熱性微生物の乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の中に挿入され、これにより、前記好熱性微生物の乳酸デヒドロゲナーゼ活性を不活性化する、請求項1から4のいずれか一項に記載の好熱性微生物。
【請求項6】
NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子が熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする、請求項1から5のいずれか一項に記載の好熱性微生物。
【請求項7】
NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子が、配列番号1又は配列番号2として示されるヌクレオチド配列を含む、請求項1から6のいずれかに記載の好熱性微生物。
【請求項8】
配列番号1として示されるヌクレオチド配列を含む熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子に機能的に連結された調節配列を含むDNA構築物により形質転換されている、請求項1から7のいずれかに記載の好熱性微生物。
【請求項9】
NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子と、挿入配列とを含むDNA構築物により形質転換され、前記挿入配列が、前記DNA構築物により形質転換された好熱性微生物のゲノムへの、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子の組み込みを容易にする、請求項1から7のいずれか一項に記載の好熱性微生物。
【請求項10】
乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の上流領域に機能的に連結された、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を含むDNA構築物により形質転換され、前記上流領域がプロモーターを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の好熱性微生物。
【請求項11】
前記DNA構築物が、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子の下流側に乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の少なくとも一部をさらに含むものであり、これにより、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子の両側が、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の十分な部分の間に挿入され、その結果NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子が、好熱性微生物のゲノムにおいて乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子との組み換えにより組み込まれることが容易となる、請求項10に記載の好熱性微生物。
【請求項12】
好熱性細菌である、請求項1から11のいずれかに記載の好熱性微生物。
【請求項13】
バチルス(Bacillus)属である、請求項12に記載の好熱性微生物。
【請求項14】
バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)又はゲオバチルス・サーモグルコシダシウス(Geobacillus thermoglucosidasius)である、請求項13に記載の好熱性微生物。
【請求項15】
前記バチルス・ステアロサーモフィルスがLLD−R又はLLD−15の菌株に由来する、請求項14に記載の好熱性微生物。
【請求項16】
配列番号1として示されるヌクレオチド配列を含む、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子。
【請求項17】
配列番号1として示されるヌクレオチド配列を含む、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子に機能的に連結された調節配列を含む、DNA構築物。
【請求項18】
前記調節配列がプロモーターである、請求項17に記載のDNA構築物。
【請求項19】
前記プロモーターが、配列番号4として示されるヌクレオチド配列を含む、請求項18に記載のDNA構築物。
【請求項20】
NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子と、挿入配列とを含むDNA構築物であって、前記挿入配列が、前記DNA構築物により形質転換された好熱性微生物のゲノムへの、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子の組み込みを容易にする、DNA構築物。
【請求項21】
前記挿入配列がバチルス・ステアロサーモフィルスの菌株LLD−R又は菌株LLD−15に由来する、請求項20に記載のDNA構築物。
【請求項22】
前記挿入配列が、配列番号5として示されるヌクレオチド配列を含む、請求項21に記載のDNA構築物。
【請求項23】
前記挿入配列が、配列番号6及び配列番号7として示されるヌクレオチド配列を含むプライマーと、テンプレートとしてのバチルス・ステアロサーモフィルス菌株LLD−15とを使用する増幅によって作製される、請求項22に記載のDNA構築物。
【請求項24】
乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の上流領域に機能的に連結された、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を含むDNA構築物であって、前記上流領域がプロモーターを含む、DNA構築物。
【請求項25】
前記DNA構築物が、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子の下流側に乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の少なくとも一部をさらに含むものであり、これにより、NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子の両側が、乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の十分な部分の間に挿入され、その結果NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子が、好熱性微生物のゲノムにおいて乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子との組み換えにより組み込まれることが容易となる、請求項24に記載のDNA構築物。
【請求項26】
NAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子が、熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子である、請求項17から25のいずれか一項に記載のDNA構築物。
【請求項27】
熱安定性のNAD結合型ギ酸デヒドロゲナーゼをコードする前記遺伝子が、配列番号1として示されるヌクレオチド配列を含む、請求項26に記載のDNA構築物。
【請求項28】
発現ベクターである、請求項17から27のいずれか一項に記載のDNA構築物。
【請求項29】
プラスミドである、請求項17から28のいずれか一項に記載のDNA構築物。
【請求項30】
請求項17から29のいずれか一項に記載のDNA構築物を含む、微生物。
【請求項31】
好熱性細菌である、請求項30に記載の微生物。
【請求項32】
バチルス(Bacillus)属である、請求項31に記載の微生物。
【請求項33】
バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)又はゲオバチルス・サーモグルコシダシウス(Geobacillus thermoglucosidasius)である、請求項32に記載の微生物。
【請求項34】
エタノールを製造するための、請求項1から15のいずれか一項に記載の好熱性微生物、又は請求項30から33のいずれか一項に記載の微生物の使用。
【請求項35】
請求項1から15のいずれか一項に記載の好熱性微生物、又は請求項30から33のいずれか一項に記載の微生物に糖を与えることを含む、エタノールを製造するための発酵プロセス。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2009−529905(P2009−529905A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−500929(P2009−500929)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【国際出願番号】PCT/GB2007/001060
【国際公開番号】WO2007/110606
【国際公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(508284539)バイオコンバージョン テクノロジーズ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【国際出願番号】PCT/GB2007/001060
【国際公開番号】WO2007/110606
【国際公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(508284539)バイオコンバージョン テクノロジーズ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】
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