微生物の流加培養方法及び流加培養装置
【課題】呼吸商を精密かつ高感度で測定し、ダイレクトに培地流加の指標とすることで菌株や培養設備、培地に全く影響されず、それぞれに合った形で効率良く酵母等の微生物を培養でき、菌株や培養設備、培地を評価することが出来る、微生物の流加培養方法および流加培養装置を提供する。
【解決手段】呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法。呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて微生物の増殖特性を評価する方法。呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて培地の性能を評価する方法。呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて培養装置の性能を評価する方法。前記呼吸商は、質量分析により求めた、流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出する。流加培養装置。
【解決手段】呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法。呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて微生物の増殖特性を評価する方法。呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて培地の性能を評価する方法。呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて培養装置の性能を評価する方法。前記呼吸商は、質量分析により求めた、流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出する。流加培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の流加培養方法及び流加培養装置に関する。さらに詳細には、本発明は、呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法及び流加培養装置に関する。さらに本発明は、上記微生物の流加培養方法を用いた、微生物の増殖特性を評価する方法、培地の性能を評価する方法及び培養装置の性能を評価する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
現在様々な有用物質を生産する酵母などの微生物について盛んに研究なされている。微生物研究において、微生物を効率良く増殖させ、目的物質を生産させることに加え、スケールアップに際しての指標を得ることは、その微生物を実用化する上で非常に重要である。
【0003】
従来、酵母を効率良く流加・連続培養する方法として、以下の(1)〜(4)の方法が知られている。
(1)酵母の増殖もしくは目的物質生産を数式モデル化し、培地流加を関数として最適化する方法、
(2)培養中の菌体量を連続的に測定して培地流加を菌体量から計算して行う方法、
(3)酵母の発生するアルコールを液中もしくは排気ガス中で連続的に測定して培地流加にフィードバックする方法、
(4)培養中の排気ガスから簡易的に酵母の呼吸活性(呼吸商)を測定し、ある程度の制御幅を用いて、その範囲内で他の要因(酸素消費速度など)で培地流加を最適化する方法(特公昭56-46825号公報(特許文献1)、 J. E. Claes, J. F. Van impe: Bioprocess Engineering, 22, 195-200(2000)(非特許文献1))。
【特許文献1】特公昭56-46825号公報
【非特許文献1】J. E. Claes, J. F. Van impe: Bioprocess Engineering, 22, 195-200(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの方法を比較すると、(1)の方法は、数式モデル化において非常に複雑な数式モデルを作る必要があるにも関わらず、実際の培養系とは合致せず手動による調整が必要となるという問題がある。また、菌株や培養設備、培地が変わった場合に数式モデルを変更する必要が生じる。(2)の方法は、酵母の様に好気条件下(エアーレーションを要する)で培養した場合、流体が微細な気体を含むため、菌体量を正確に測定することが非常に難しく、現実的ではない。(3)の方法は、現在でもパン酵母培養に広く使用されている方法であり、酵母の増殖時にわずかながら発酵させて早くかつ効率良く酵母を培養できる。しかし、その方法は、菌株や培養設備、培地に比較的依存しやすい方法である。また、アルコールの発生曲線をあらかじめ定めておく必要があるため、菌株や培養設備、培地が頻繁に変更される方法には不向きである。
【0005】
(4)の方法は、培養中の排気ガスから酵母の呼吸活性(呼吸商)を求め、その結果に基づいて培地流加を最適化できる方法であるため、自由度の高い方法である。しかるに、呼吸活性(呼吸商)を求めるために、供給ガス及び排気ガスの流量並びに酸素及び二酸化炭素の濃度を正確にかつ経時的に連続して求める必要がある。酸素及び二酸化炭素の濃度は、比較的容易に求められるが、供給ガス及び排気ガスの流量を正確に求めることは、実際は容易でない。供給ガス及び排気ガスの流量を求めることなしに、簡易的に呼吸商を求め、それに基づいて培地流加を最適化することも提案されているが、その結果は、最適化と言うには遠いものであった。
【0006】
そこで本発明は、呼吸商を精密かつ高感度で測定し、ダイレクトに培地流加の指標とすることで菌株や培養設備、培地に全く影響されず、それぞれに合った形で効率良く酵母等の微生物を培養でき、菌株や培養設備、培地を評価することが出来る、微生物の流加培養方法を提供することを目的とする。
【0007】
さらに本発明の目的は、上記微生物の流加培養方法に用いることができる流加培養装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
[請求項1]呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法であって、
前記呼吸商は、質量分析により求めた、流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする上記方法。
[請求項2]質量分析により、流入気体及び排出気体中の不活性ガス濃度もさらに求め、
得られた不活性ガス濃度を内部標準として前記呼吸商を算出する請求項1に記載の方法。
[請求項3]不活性ガスが、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、またはラドンである請求項2に記載の方法。
[請求項4]基質流加の制御は、微生物の単位時間当たりの産生量が最大になるように行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
[請求項5]基質流加の制御は、PID制御により行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
[請求項6]質量分析が、磁場固定型質量分析計を用いるものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
[請求項7]呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて微生物の増殖特性を評価する方法であって、
前記呼吸商は、質量分析により求めた、流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする上記方法。
[請求項8]微生物の増殖特性の評価は、培養時間と微生物数との関係に基づいて行う請求項7に記載の方法。
[請求項9]呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて培地の性能を評価する方法であって、
前記呼吸商は、質量分析により求めた、流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする上記方法。
[請求項10]培地の性能の評価は、培養時間と微生物数との関係に基づいて行う請求項9に記載の方法。
[請求項11]呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて培養装置の性能を評価する方法であって、
前記呼吸商は、質量分析により求めた、流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする上記方法。
[請求項12]培養装置の性能の評価は、培養時間と微生物数との関係に基づいて行う請求項11に記載の方法。
[請求項13]微生物の培養容器、
前記培養容器に培地を流加するためのポンプ、
前記培養容器へ流入する気体中の酸素及び二酸化炭素濃度、並びに前記培養容器から排出される気体中の酸素及び二酸化炭素濃度を計測するための質量分析装置、並びに
前記流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から呼吸商を算出し、かつ前記ポンプによる培地の流加を制御するための手段
を含む流加培養装置。
[請求項14]前記ポンプが、プランジャーポンプまたはペリスタポンプである請求項13に記載の装置。
[請求項15]前記質量分析装置が、磁場固定型質量分析計である請求項13または14に記載の装置。
[請求項16]前記質量分析装置は、流入気体及び排出気体中の不活性ガス濃度も計測できる請求項13または14に記載の装置。
[請求項17]培地流加制御は、PID制御により行う請求項13〜16のいずれか1項に記載の装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の本呼吸商を用いて培地の流加制御をしながら微生物を流加培養する方法は、(1)菌体の増殖特性を評価できる、(2)菌株に合った培地を評価できる、(3)設備(特にKLa)を評価できる、と共にそれらに合わせた培養を行うことができ、酵母培養、または酵母によって発酵生産される目的物質生産において、きわめて有効な方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[流加培養方法]
本発明は、呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法に関する。本発明において、微生物は、呼吸商を求められる微生物であれば、特に、制限はなく、好気性の微生物であればよい。好気性の微生物として、酵母を挙げることができるが、酵母以外に、細菌では、例えば、大腸菌、枯草菌、緑膿菌および酢酸菌などを挙げることができ、放線菌では、例えば、ストレプトミセス、アクチノミセスおよびノカルディアなどを挙げることができ、酵母以外の真菌としては、子嚢菌、担子菌および不完全菌などを挙げることができる。
また、流加する基質の種類及び組成は、培養する微生物の種類に応じて適宜決定することができる。
以下、微生物が酵母である場合を例として説明する。
【0011】
従来の呼吸商の測定方法および計算方法は培養系に供給される酸素量、二酸化炭素量と系外に排出される酸素量、二酸化炭素量のそれぞれの流量を測定し、供給と排出の比率を求めることにより算出していた(図1参照)。
【0012】
図1に示したとおり、RQ1は、理論的に正しく、呼吸商が1.0より離れたところで制御する場合であっても正確に測定することが出来る。しかし、供給する空気及び排出される気体(空気及び微生物によって排出された炭酸ガス等を含む)を流量として正確に測定することは事実上非常に困難であるため、あまり使用されていない。RQ2及びRQ 3は、供給する空気及び排出される気体の流量は測定せず、検出器として安価なガルバニ電極及び赤外吸光分析計を用い、系内に入る空気と排出される気体に含まれる酸素量と二酸化炭素量を測定する方法である。そのため簡易な方法であり、一般的に広く使用されている。しかしながら、呼吸商が1.0から離れると不正確になるなどのデメリットがある。
【0013】
それに対して、本発明における呼吸商RQ4は、質量分析により求めた、流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出する。呼吸商を流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出するに当たり、酸素及び二酸化炭素濃度を質量分析により求めることで、特に、炭酸ガスを低濃度であっても測定でき、高い感度で(一般に使用される赤外線吸収による分析法の100倍程度で)呼吸商を測定できるという利点がある。
【0014】
従来の報告(特公昭56-46825号公報)では呼吸商の範囲を定め、その中で酸素消費量によって流加を制御していた。従来、呼吸商を算出するための炭酸ガスの濃度の測定は、前述の通り赤外吸光分析によって行なわれていた。しかし、赤外吸光分析における炭酸ガスの最低検出感度は0.01%程度である。従って、この程度の感度では、酵母培養を2VVM程度の通気量で行った場合、培養初期の少ない酵母量の時には排気ガス中の炭酸ガスが希釈されて検出できず、結果的に呼吸商を測定することが出来なった。それに対して、本発明では、炭酸ガスを質量分析計で行うため、炭酸ガスの最低検出感度が0.0001%程度であり、単純に比較すると赤外吸光分析の約100倍の感度で呼吸商を測定できることになる。
【0015】
質量分析は、磁場固定型質量分析計を用いて行うことが好ましい。質量分析計は、試料をイオン化し、加速するイオン源、イオンを分離する質量分析部、および分離されたイオンを検出するイオン検出部からなり、分析性能は、主として質量分析部の性能に依存する。質量分析部としては、磁場固定型と四重極型が一般によく用いられているが、その他に、イオントラップ型、飛行時間型、フーリエ変換型があり、そのいずれかを用いて、質量分析を行うことが可能である。但し、本発明では、質量分析を、磁場固定型質量分析計を用いて行うことで、高感度で炭酸ガスを検出することが可能であり、呼吸商の算出が高精度でできるという利点がある。
【0016】
さらに本発明の方法では、質量分析により、流入気体及び排出気体中の不活性ガス濃度もさらに求め、得られた不活性ガス濃度を内部標準として前記呼吸商を算出することが好ましい。不活性ガス濃度を内部標準として算出した呼吸商は、より精度が高く、この精度が高い呼吸商を用いることで、流加制御もより、緻密に行うことができる。
【0017】
本発明における不活性ガス濃度を内部標準として用いた呼吸商RQ4の測定方法および計算方法を図2に示す。
【0018】
本発明では、質量分析計を用いて酸素、炭酸ガスの濃度を測定する。それに加え、供給エアー中の不活性ガスも測定し、内部標準として用いる。その結果、理論的にも正しく、呼吸商が1.0から大きく離れた場合でも正確に呼吸商を算出でき、流加の制御も的確に行うことができる。図3に、本発明の方法において求められる呼吸商RQ4と従来の呼吸商RQ2、3との関係を示す(実線)。 図3中、破線は、呼吸商RQ4と従来の呼吸商RQ2、3とが等しい場合の線である。培養系内に供給される空気中の不活性ガス(窒素他)は酵母の発酵または呼吸に関与しない気体であるため、供給された空気中の不活性ガス(例えば、窒素等)はそのまま系外に排出される。即ち、流入気体及び排出気体中の不活性ガス濃度は一定している。そこで、系外に排出される気体中に含まれる不活性ガス(窒素)を内部標準として用い、かつその不活性ガス(窒素他)の系内への供給濃度と系外へ排出濃度の比率を求めることにより、通気量に左右されない呼吸商を求めることが可能である。
【0019】
内部標準に用いる不活性ガスとしては、空気に含まれる量が多く一定である窒素を使用することが好ましい。しかし、窒素以外の不活性ガスである、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンなどを用いることもできる。これらの不活性ガスは、必要により、供給側エアーに予め一定量を添加することができ、それを内部標準として使用することもできる。一定量の不活性ガスを供給側エアーに添加する場合の添加量は、不活性ガスの種類に応じ、かつ使用する不活性ガスに対する質量分析計の感度を考慮して、適宜決定することができる。
【0020】
本発明の方法では、基質流加の制御は、例えば、PID制御により行うことが好ましい。PID制御におけるPIDは、proportional(比例)、integral(積分)、differential(微分)の頭文字であり、PID制御により、比例、積分及び微分を組み合わせることで、きめ細かくかつスムーズな制御を実現できる。PID制御は、PI(比例・積分)制御に微分を組み合わせた制御である。一般に、PI制御で実際の目標値に近づける制御はできる。しかし、PI制御には、制御応答の速さに改善の余地がある。即ち、PI制御では目標値に制御するために、一定の時間(時定数)が必要である。この時定数が大きいと、外乱があった時の応答性能が悪くなる。PI制御では、外乱に対しすばやく反応できず、すぐには元の目標値には戻せない。そこで、PID制御では、さらに微分動作を用いる。微分動作では、急激に起きる外乱に対して、偏差を参照し、前回偏差との差が大きい時には、思い切って操作量を多くし機敏に反応する。この前回との偏差の変化差をみることが「微分」に相当する。PID制御では、最初はかなりオーバードライブ気味に制御し、早く目標値になるように積極的に制御する。
【0021】
本発明において、流加する基質は、微生物の種類に応じて適宜決定する。また、基質の流加方法も常法により行うことができる。但し、本発明では、基質の流加制御をPID制御により精密に行うことから、基質の流加方法も、基質の流加を精密に行うことができる方法を採用することが適当である。基質の流加の制御を行うことができる方法としては、例えば、目標値に到達するまで流加し、到達すればストップするオン/オフ制御、目標値と測定値との差に応じて流加する比例制御および上述のPID制御等を挙げることができる。
【0022】
本発明の方法では、基質流加の制御を、PID制御により行うことで、早く目標値に到達し、厳密に目標値を維持できるという利点がある。
【0023】
本発明では、上記のように、質量分析で測定した呼吸商の値から流加量をダイレクトに連続制御(PID制御)することで安定した酵母(微生物)培養を行うことができる。
【0024】
本発明の方法では、基質流加の制御は、例えば、微生物の単位時間当たりの産生量が最大になるように行うことができる。基質流加は、呼吸商が、予め設定された一定の値を取るように行われる。ここで、呼吸商の設定値をどのような値にするかは、微生物の種類や培養の目的等に応じて適宜決定される。即ち、例えば、微生物の増殖量を最大にしたい場合には、それを達成できる呼吸商に設定し、微生物の生産物の生産量を最大にしたい場合には、それを達成できる呼吸商に設定することができる。
【0025】
後述するように、酵母の増殖または目的物質製造時の培地について本呼吸商による培地流加制御が有効である。ここで培地が適正化された場合、目的物質生産に関して適正な呼吸商が存在する。後述する実施例2に具体的に示すように、呼吸商の設定値によって、目的物質の経時的生産量及び菌体増殖量は変化する。これは目的物質が菌体の増殖速度に依存しているためで、設定呼吸商がある程度高い方が対糖収率は悪くとも比増殖速度が高いためである。このように、本発明によれば、培養目的に応じて、呼吸商の設定値を選択し、その設定呼吸商を満足するように流加制御することで、微生物の増殖量を最大にすることも、微生物の生産物の生産量を最大にすることもできる。
【0026】
以上のように目的物質製造を主目的とする場合、菌体増殖と目的物質生産が相反することもある。しかし、この場合であっても本発明の呼吸商を用いた培地流加制御によれば、適正な目的物質製造を行うことが出来る。
【0027】
さらに、本発明の微生物の流加培養方法は、菌株、培地、および設備の評価に用いることができる。以下、この点について説明する。
【0028】
[微生物の増殖特性を評価する方法]
本発明は、呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて微生物の増殖特性を評価する方法を包含する。本発明の微生物の増殖特性を評価する方法は、呼吸商を、質量分析により求めた流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする。呼吸商を、質量分析により求めた流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出する方法は、上述のとおりである。
【0029】
微生物の増殖特性の評価は、培養時間と微生物数との関係に基づいて行うことができる。変異株を用いて代謝産物など目的物質の生産を有利に行う場合、その効率を考えて増殖の良い野生株と最終的に掛け合わせることが一般的に行われる。この場合、実際に使用する培地で、各微生物の増殖特性を評価する必要がある。本発明の方法によれば、呼吸商の設定値を一定にした上で、評価すべき微生物を流加培養し、その増殖特性を測定する。増殖特性とは、具体的には、例えば、増殖速度(増殖時間)、最終菌数、最大乾物菌体量、微生物が酵母である場合には、さらに、最大エタノール濃度、対糖収率などである。後述する実施例3に示すように、本発明の方法によれば、野生株や変異株の増殖特性を客観的に評価することができる。
【0030】
[培地の性能を評価する方法]
さらに本発明は、呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて培地の性能を評価する方法を包含する。本発明の培地の性能を評価する方法は、呼吸商を、質量分析により求めた流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする。呼吸商を、質量分析により求めた流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出する方法は、上述のとおりである。
【0031】
培地の性能の評価は、培養時間と微生物数との関係に基づいて行うことができる。目的とする酵母菌株もしくは菌株に生成させる目的物質が決定された場合、次にその株に適している培地を選択、最適化することが目的菌株または目的生産物の効率生産を行なう上で非常に重要である。このような場合、本発明の方法によれば、呼吸商の設定値を一定にした上で、組成及び/又は組成比を変化させた培地を用いて微生物の流加培養を行い、増殖特性を測定する。測定する増殖特性は、前述の微生物の増殖特性を評価する方法において説明したものの中から、適当なものを用いることができる。即ち、例えば、増殖速度(増殖時間)、最終菌数、最大乾物菌体量、微生物が酵母である場合には、さらに、最大エタノール濃度、対糖収率などである。
【0032】
本発明の呼吸商による培地流加制御を用いて培地の性能の評価をし、その上で、培地にあわせた流加を行うことができる。そのため、その培地が目的菌体の増殖、または目的物生産に適合しているかどうかを評価することができる。
【0033】
[培養装置の性能を評価する方法]
本発明は、呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて培養装置の性能を評価する方法をも包含する。本発明の培養装置の性能を評価する方法は、前記呼吸商を、質量分析により求めた流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする。呼吸商を、質量分析により求めた流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出する方法は、上述のとおりである。
【0034】
培養装置の性能の評価は、培養時間と微生物数との関係に基づいて行うことができる。目的とする菌株、適正な培地、適正な設定呼吸商が明らかとなると、そのスケールアップが問題となる。一般的にスケールアップを行う場合、例えば、新たに大型タンクを設計・設置するか、あるいは既存の大型タンクを使用するなどの方法がとられる。いずれの場合であっても、設備の酸素移動速度容量係数(KLa)が、それまで実験室で培養発酵条件を検討してきたジャーファメンターと大きく異なる。そのため、培地流加曲線を作り直すもしくはスケールアップの際にKLaを統一する必要がある。本発明では、仮にスケールアップした容器のKLaが異なった場合であっても、その容器のKLaに応じた適切な流加培養を行うことができる。
【0035】
[流加培養装置]
本発明の流加培養装置は、(1)微生物の培養容器、(2)前記培養容器に培地を流加するためのポンプ、(3)前記培養容器へ流入する気体中の酸素及び二酸化炭素濃度、並びに前記培養容器から排出される気体中の酸素及び二酸化炭素濃度を計測するための質量分析装置、並びに(4)前記流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から呼吸商を算出し、かつ前記ポンプによる培地の流加を制御するための手段を含む。
【0036】
[連続培養法への応用]
一般的に連続培養法は(1)酵母の比増殖速度を計算して一定量を流加・引き抜きする方法(ケモスタット)、系内の菌体量を一定に保つように連続培養状態(定常状態)を継続する方法(タービドスタット)がある。ここで、酵母の呼吸活性は連続培養状態(定常状態)であっても変化する可能性があり、それに起因する比増殖速度(もしくは対糖収率)のわずかな変化が培養の継続と共に大きな変化となって系内の酵母菌体量が減少する(Washout)もしくは増加する現象が見られる。この危険性を最小限にするためにも本呼吸商による培地流加制御は有効と考えられ、例えば(1)連続培養状態(定常状態)において培地流加は呼吸商による制御で、培養液引き抜きは流加量と同量とする(ケモスタット)、(2)連続培養状態(定常状態)において培地流加は呼吸商による制御で、引き抜きは濁度または誘電率計などで制御する(タービドスタット)の両方への応用も包含する。
【0037】
本発明の流加培養装置の例を図4に示す。図4の左側は、500L培養発酵槽(TP)であり、右側は5Lのジャーファメンター(Jar)である。TPにおいて、1が培養器であり、2がプランジャーポンプであり、3が質量分析装置であり、4が培地の流加を制御するための手段であるコンピューターである。培地は、培地の貯蔵容器5からプランジャーポンプ2により、培養器1に供給される。一方、Jar(右図)においては、11が培養器であり、12がプランジャーポンプであり、13が質量分析装置であり、14が培地の流加を制御するための手段であるコンピューターである。培地は、培地の貯蔵容器15からプランジャーポンプ12により、培養器11に供給される。
【0038】
上記装置においてポンプは、例えば、プランジャーポンプまたは高分解能ペリスタポンプであることが、培地の流加制御を精密に行うことができるという観点から好ましい。
【0039】
質量分析装置は、例えば、磁場固定型質量分析計であることが、高感度分析および分析安定性という観点から好ましい。
【0040】
さらに、質量分析装置は、流入気体及び排出気体中の不活性ガス濃度も計測できるものであることが好ましい。
【0041】
培地流加制御は、PID制御により行う。具体的には、培地流加制御のために、コンピューター4及び14は、PID制御のためのプログラムを内蔵し、このプログラムを用いて、PID制御が行われる。
【実施例】
【0042】
以下本発明を実施例によりさら詳細に説明する。
【0043】
材料及び方法
(1)供試菌株
酵母(S.cervisiae)野生株IFO 10611、IFO 1089、IFO 1332、YNN27およびこれらの変異株 M 及びRの2株を用いた。
【0044】
(2)培養発酵槽
以下の装置をそれぞれ目的に合わせて用いた(図4参照)。
・培養発酵槽:エイブル社製5Lジャーファメンター(Jar)及び500L培養発酵槽(TP)
・培地流加ポンプ:ATTO高社製分解能ペリスタティックポンプ(ジャーファメンター用)及び高速液体クロマトグラフィー用プランジャーポンプ
・磁場固定型質量分析計:アルコシステム社製ARCO-2000磁場固定型質量分析計
【0045】
(3)培地
・カザミノ酸含有合成培地(組成は表1のとおり)
表1に示した組成で、グルコース及びその他の成分をそれぞれ別に滅菌して使用した。微量元素溶液としては、EDTA・2Na15g、ZnSO4・7H2O5.75g、MnCl2・4H2O0.32g、CuSO4・6H2O0.50g、CoCl2・6H2O0.47g、Na2MoO4・2H2O0.48g、CaCl2・2H2O2.9g、FeSO4・7H2O2.8gを1Lの水に溶解し0.45μmフィルターで濾過滅菌し、4℃で保存した物を使用した。
【0046】
【表1】
【0047】
・CSL/グルコース培地
購入したCSL(コーンスティープリカー)を冷却遠心分離(1℃、7000g×10分)後、セルロース、パーライトをろ剤としたフィルター(プレフィルター)、及びPESメンブラン(0.45μm)でろ過し、流加培地中で20%、基本培地(回分培地)中で0.5%として使用した。また、グルコース濃度は流加培地、基本培地中でそれぞれ20%、0.5%とした。
滅菌はグルコース及びその他の成分をそれぞれ別に滅菌して使用した。
【0048】
・リン酸アンモニウム含有合成培地
表1組成中、カザミノ酸を規定濃度のリン酸アンモニウムで置き換えて使用した。
【0049】
(4)菌数および菌量測定
・菌数:ヘマチトメーターおよび赤血球測定装置(シスメックス F-520)
・菌量:菌体を遠心集菌後、水洗水分計で乾燥菌体量を測定
【0050】
(5)培養条件
・培養温度:30℃
・攪拌速度:DO 8 ppmとなるようPID制御
・初発菌数:10×106個/mL
その他条件は各試験内容によって変更した。
【0051】
実施例1 (呼吸商による流加制御)
装置はJarを用い、株は酵母(S. cervisiae)変異株Mを用い、培地はCSL/グルコース培地を用いた。設定呼吸商は1.3とした。制御の結果を図5に示す。図に示したとおり、磁場固定型質量分析計を用いた呼吸商を制御に用いた結果、培養全体を通して安定した呼吸商を得ることができた。また、流加曲線は指数関数的に増加し、酵母の増殖にあわせて流加できていることが明らかとなった。一方で同時に測定した炭酸ガス測定に赤外吸光分析を用いた呼吸商を示した。培養初期では回分培養状態であるため本来高い呼吸商を示すはずであるが、感度不足のため低い値を示していた。また絶対値としても常に低い値を出しており、制御に用いることは不可能であると思われた。
【0052】
実施例2 (呼吸商を培地流加制御に用いた酵母代謝産物生産への利用)
装置はJarを用い、酵母(S. cervisiae)変異株Rで目的物質Rを製造するための適切な呼吸商について探索した。培地はカザミノ酸含有合成培地を用い、設定呼吸商を1.1及び1.3で培養し、目的物質Rの経時的生産量を測定した。結果を図6に示した。
【0053】
図6に示したとおり、菌体増殖量は設定呼吸商1.1の方が良いが、目的物質Rの生産量に関しては設定呼吸商1.3の方が有意に良かった。これは目的物質Rが菌体の増殖速度に依存しているためで、設定呼吸商がある程度高い方が対糖収率は悪くとも比増殖速度が高いためであると思われた。
【0054】
実施例3 (呼吸商を培地流加制御に用いた菌株の増殖特性の評価への利用)
市販されている野生株であるIFO 10611、IFO 1089、IFO 1332を、カザミノ酸含有合成培地を用いて培養し、その増殖特性を評価した。設定呼吸商は1.1とした。結果を図7〜8に示した。
【0055】
図7〜8に示すように、IFO1089は3株のなかで最も増殖が早く、流加も早い時期から増殖が多量に行われ、結果として23.9時間で培養を終了した。その時の菌体収量は対糖収率で60%と非常によい結果となった。アルコール発生は培養初期の回分培養状態時に発生しているのみで、その後は検出できなかった。次いで増殖速度についてはIFO1089、IFO10611、IFO1332の順に早いことが認められた。
【0056】
一方で、対糖収率については一般的な酵母(S. cervisiae)の対糖収率(約53%)、流加にファジー推論を用いたもの(約55%)と比較しても、IFO10611及びIFO1089は、それぞれ60及び66%の対糖収率を示した。一方、IFO1332は、42%の対糖収率を示した。
【0057】
以上のように呼吸商による培地流加制御を用いて培養したことにより各株の増殖特性をよく表す結果となり、変異株とのかけ合わせにはIFO1089もしくはIFO10611が本試験株の中では適していると評価することができた。本評価は関数的流加を用いた方法では少ない試験回数では絶対に評価できないことであり、本制御法に優位性があると考えられた。
【0058】
実施例4(呼吸商を培地流加制御に用いた培地中の糖濃度の評価)
流加培地中の糖濃度と最終菌体密度の関係を調査するために、糖濃度の異なる培地での高密度培養を試みた。
培地にカザミノ酸含有合成培地を用い、グルコース濃度を20.0%、37.5%、40.0%と異なる培地を調製し(カザミノ酸含量はそれぞれ流加培地中で、1.0%、1.875%、2.0%)、設定呼吸商1.1でS.cerevisiaeの変異株であるM酵母を培養した。結果を図9に示した。グルコース濃度20%の培地では瞬時流加量が培養終了まで指数関数的に上昇しており、酵母菌体濃度が基質である糖の濃度に依存する培養条件であることが示された。それに対してグルコース濃度が37.5%、40.0%と高くなると、培養後期の瞬時流加量が指数関数的に上昇せず、一定となっていることが示された。これは、グルコース濃度が高くなると菌体密度が高くなり、培養系のKLa(酸素移動容量係数)が限界となるためである。一方、酵母菌体濃度は糖濃度にほぼ比例して増加していることが示された。このように、本呼吸商を用いた流加培地制御では、このような状況下でも対糖収率を落とすことなく流加培養を実施でき、他の制御法、特に指数関数的流加法では対応できず流加過剰となり、対糖収率を大きく低下させると考えられることから、本制御法に高い優位性があることが確認された。
【0059】
実施例5 (呼吸商を培地流加制御に用いた培地の評価への利用)
異なる培地、もしくは異なる成分含量の培地を用い、同一菌株での流加培養を試みた。培地はカザミノ酸含有合成培地(カザミノ酸含有量1、3、及び5%)、CSL/グルコース培地、及びリン酸アンモニウム含有合成培地(リン酸アンモニウム含有量2%,及び5%を用い、菌株は酵母(S. cervisiae)変異株であるR酵母を用いた。設定呼吸商は菌株に合わせて1.3とした。その他の条件は他の試験と同様とした。結果を図10に示した。
【0060】
図10に示すように、増殖速度及び培養時間に関してはカザミノ酸含有合成培地、CSL/グルコース、リン酸アンモニウム含有合成培地の順に良い結果であった。また、カザミノ酸含量については菌体増殖速度等に大きく影響しなかった。リン酸アンモニウム含有量については菌体増殖速度等がリン酸アンモニウム含量に依存していた。一方目的物質であるRは菌体増殖と同様カザミノ酸含有合成培地での生産量が他に比べて多かった。カザミノ酸含量への依存はあるように見えるが有意とは言えなかった。
【0061】
これらのことから株Rを効率良く増殖させ、目的物質Rを製造させる培地はカザミノ酸含有合成培地が適していることが分かる。
【0062】
実施例6 (呼吸商を培地流加制御に用いた設備の評価への利用)
500Lプラント(TP)及び5Lジャーファメンター(Jar)での培養を比較した。菌株は酵母(S. cervisiae)変異株Mを用い、培地はカザミノ酸含有合成培地を用いた。また設定呼吸商は1.1として菌体増殖を比較した。結果を図11に示した。
【0063】
図11に示すように、培養中期まではほぼ同様の流加曲線であるが、TPにおける培養後期の流加曲線は一定となっている。これはTPのKLaが限界となっていることを示している。しかし、到達菌数、目的生産物Mの生産量は変わっていない。
本発明によれば、本呼吸商を用いた培地流加制御は設備のKLaが変わった場合、すなわちスケールアップ等を行った場合でも有効な制御であり、目的菌体または目的物質を生産することができる。
【0064】
実施例7(呼吸商を用いた培地流加制御の連続培養法への応用)
500Lプラントでの連続培養に本呼吸商による培地流加制御の応用を試みた。容器は500L循環式発酵槽、菌株はS.cerevisiaeの変異株であるR酵母を用い、培地はカザミノ酸含有合成培地(カザミノ酸含量1.0%)、設定呼吸商1.3で、乾燥菌体約2.0%での定常状態に遷移させた。菌体量測定には誘電率計(Aber社製イーストモニター)を用いた。培養条件は連続培養状態(定常状態)において培地流加は呼吸商による制御で、引き抜きは誘電率計で制御し、系内の菌体量を一定に保つように連続培養状態(定常状態)を継続する方法(タービドスタット)を採用した。
流加培地中の糖濃度は20%で行い、引き抜き量と流加量を常時計算して無菌水を系内に加水して系内の液量のバランスをとった。培養開始後前述の呼吸商による培地流加制御を用いて菌体量を増加させ、目的とする乾燥菌体量2.0%となったところで定常状態に遷移させた(引き抜き及び加水を開始した)。培養結果を図12に示した。図に示される通り、定常状態ではイーストモニター計測値(誘電率からの換算値)及び乾燥菌体量を一定に制御することができた。
更に培養開始後125時間目以降、約24時間タップで設定菌体量を2.4%、2.7%、3.1%と上昇させたがそれぞれにおいて定常状態を保っており、連続培養における本制御法の高い有効性を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、酵母を含む種々の微生物の培養に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】公開されている呼吸商測定法
【図2】本発明の呼吸商測定法
【図3】呼吸商測定・計算方法の相関図
【図4】培養試験に用いた培養装置
【図5】呼吸商による流加量制御を用いた酵母培養結果
【図6】呼吸商による培地流加制御を用いた目的物質製造
【図7】呼吸商による培地流加制御を用いた酵母菌株評価
【図8】呼吸商による培地流加制御を用いた酵母菌株評価
【図9】呼吸商を培地流加制御に用いた培地中の糖濃度の評価
【図10】呼吸商による培地流加制御を用いた培地評価
【図11】呼吸商による培地流加制御を用いた設備評価
【図12】呼吸商を用いた培地流加制御の連続培養法への応用
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の流加培養方法及び流加培養装置に関する。さらに詳細には、本発明は、呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法及び流加培養装置に関する。さらに本発明は、上記微生物の流加培養方法を用いた、微生物の増殖特性を評価する方法、培地の性能を評価する方法及び培養装置の性能を評価する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
現在様々な有用物質を生産する酵母などの微生物について盛んに研究なされている。微生物研究において、微生物を効率良く増殖させ、目的物質を生産させることに加え、スケールアップに際しての指標を得ることは、その微生物を実用化する上で非常に重要である。
【0003】
従来、酵母を効率良く流加・連続培養する方法として、以下の(1)〜(4)の方法が知られている。
(1)酵母の増殖もしくは目的物質生産を数式モデル化し、培地流加を関数として最適化する方法、
(2)培養中の菌体量を連続的に測定して培地流加を菌体量から計算して行う方法、
(3)酵母の発生するアルコールを液中もしくは排気ガス中で連続的に測定して培地流加にフィードバックする方法、
(4)培養中の排気ガスから簡易的に酵母の呼吸活性(呼吸商)を測定し、ある程度の制御幅を用いて、その範囲内で他の要因(酸素消費速度など)で培地流加を最適化する方法(特公昭56-46825号公報(特許文献1)、 J. E. Claes, J. F. Van impe: Bioprocess Engineering, 22, 195-200(2000)(非特許文献1))。
【特許文献1】特公昭56-46825号公報
【非特許文献1】J. E. Claes, J. F. Van impe: Bioprocess Engineering, 22, 195-200(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの方法を比較すると、(1)の方法は、数式モデル化において非常に複雑な数式モデルを作る必要があるにも関わらず、実際の培養系とは合致せず手動による調整が必要となるという問題がある。また、菌株や培養設備、培地が変わった場合に数式モデルを変更する必要が生じる。(2)の方法は、酵母の様に好気条件下(エアーレーションを要する)で培養した場合、流体が微細な気体を含むため、菌体量を正確に測定することが非常に難しく、現実的ではない。(3)の方法は、現在でもパン酵母培養に広く使用されている方法であり、酵母の増殖時にわずかながら発酵させて早くかつ効率良く酵母を培養できる。しかし、その方法は、菌株や培養設備、培地に比較的依存しやすい方法である。また、アルコールの発生曲線をあらかじめ定めておく必要があるため、菌株や培養設備、培地が頻繁に変更される方法には不向きである。
【0005】
(4)の方法は、培養中の排気ガスから酵母の呼吸活性(呼吸商)を求め、その結果に基づいて培地流加を最適化できる方法であるため、自由度の高い方法である。しかるに、呼吸活性(呼吸商)を求めるために、供給ガス及び排気ガスの流量並びに酸素及び二酸化炭素の濃度を正確にかつ経時的に連続して求める必要がある。酸素及び二酸化炭素の濃度は、比較的容易に求められるが、供給ガス及び排気ガスの流量を正確に求めることは、実際は容易でない。供給ガス及び排気ガスの流量を求めることなしに、簡易的に呼吸商を求め、それに基づいて培地流加を最適化することも提案されているが、その結果は、最適化と言うには遠いものであった。
【0006】
そこで本発明は、呼吸商を精密かつ高感度で測定し、ダイレクトに培地流加の指標とすることで菌株や培養設備、培地に全く影響されず、それぞれに合った形で効率良く酵母等の微生物を培養でき、菌株や培養設備、培地を評価することが出来る、微生物の流加培養方法を提供することを目的とする。
【0007】
さらに本発明の目的は、上記微生物の流加培養方法に用いることができる流加培養装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
[請求項1]呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法であって、
前記呼吸商は、質量分析により求めた、流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする上記方法。
[請求項2]質量分析により、流入気体及び排出気体中の不活性ガス濃度もさらに求め、
得られた不活性ガス濃度を内部標準として前記呼吸商を算出する請求項1に記載の方法。
[請求項3]不活性ガスが、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、またはラドンである請求項2に記載の方法。
[請求項4]基質流加の制御は、微生物の単位時間当たりの産生量が最大になるように行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
[請求項5]基質流加の制御は、PID制御により行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
[請求項6]質量分析が、磁場固定型質量分析計を用いるものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
[請求項7]呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて微生物の増殖特性を評価する方法であって、
前記呼吸商は、質量分析により求めた、流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする上記方法。
[請求項8]微生物の増殖特性の評価は、培養時間と微生物数との関係に基づいて行う請求項7に記載の方法。
[請求項9]呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて培地の性能を評価する方法であって、
前記呼吸商は、質量分析により求めた、流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする上記方法。
[請求項10]培地の性能の評価は、培養時間と微生物数との関係に基づいて行う請求項9に記載の方法。
[請求項11]呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて培養装置の性能を評価する方法であって、
前記呼吸商は、質量分析により求めた、流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする上記方法。
[請求項12]培養装置の性能の評価は、培養時間と微生物数との関係に基づいて行う請求項11に記載の方法。
[請求項13]微生物の培養容器、
前記培養容器に培地を流加するためのポンプ、
前記培養容器へ流入する気体中の酸素及び二酸化炭素濃度、並びに前記培養容器から排出される気体中の酸素及び二酸化炭素濃度を計測するための質量分析装置、並びに
前記流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から呼吸商を算出し、かつ前記ポンプによる培地の流加を制御するための手段
を含む流加培養装置。
[請求項14]前記ポンプが、プランジャーポンプまたはペリスタポンプである請求項13に記載の装置。
[請求項15]前記質量分析装置が、磁場固定型質量分析計である請求項13または14に記載の装置。
[請求項16]前記質量分析装置は、流入気体及び排出気体中の不活性ガス濃度も計測できる請求項13または14に記載の装置。
[請求項17]培地流加制御は、PID制御により行う請求項13〜16のいずれか1項に記載の装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の本呼吸商を用いて培地の流加制御をしながら微生物を流加培養する方法は、(1)菌体の増殖特性を評価できる、(2)菌株に合った培地を評価できる、(3)設備(特にKLa)を評価できる、と共にそれらに合わせた培養を行うことができ、酵母培養、または酵母によって発酵生産される目的物質生産において、きわめて有効な方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[流加培養方法]
本発明は、呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法に関する。本発明において、微生物は、呼吸商を求められる微生物であれば、特に、制限はなく、好気性の微生物であればよい。好気性の微生物として、酵母を挙げることができるが、酵母以外に、細菌では、例えば、大腸菌、枯草菌、緑膿菌および酢酸菌などを挙げることができ、放線菌では、例えば、ストレプトミセス、アクチノミセスおよびノカルディアなどを挙げることができ、酵母以外の真菌としては、子嚢菌、担子菌および不完全菌などを挙げることができる。
また、流加する基質の種類及び組成は、培養する微生物の種類に応じて適宜決定することができる。
以下、微生物が酵母である場合を例として説明する。
【0011】
従来の呼吸商の測定方法および計算方法は培養系に供給される酸素量、二酸化炭素量と系外に排出される酸素量、二酸化炭素量のそれぞれの流量を測定し、供給と排出の比率を求めることにより算出していた(図1参照)。
【0012】
図1に示したとおり、RQ1は、理論的に正しく、呼吸商が1.0より離れたところで制御する場合であっても正確に測定することが出来る。しかし、供給する空気及び排出される気体(空気及び微生物によって排出された炭酸ガス等を含む)を流量として正確に測定することは事実上非常に困難であるため、あまり使用されていない。RQ2及びRQ 3は、供給する空気及び排出される気体の流量は測定せず、検出器として安価なガルバニ電極及び赤外吸光分析計を用い、系内に入る空気と排出される気体に含まれる酸素量と二酸化炭素量を測定する方法である。そのため簡易な方法であり、一般的に広く使用されている。しかしながら、呼吸商が1.0から離れると不正確になるなどのデメリットがある。
【0013】
それに対して、本発明における呼吸商RQ4は、質量分析により求めた、流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出する。呼吸商を流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出するに当たり、酸素及び二酸化炭素濃度を質量分析により求めることで、特に、炭酸ガスを低濃度であっても測定でき、高い感度で(一般に使用される赤外線吸収による分析法の100倍程度で)呼吸商を測定できるという利点がある。
【0014】
従来の報告(特公昭56-46825号公報)では呼吸商の範囲を定め、その中で酸素消費量によって流加を制御していた。従来、呼吸商を算出するための炭酸ガスの濃度の測定は、前述の通り赤外吸光分析によって行なわれていた。しかし、赤外吸光分析における炭酸ガスの最低検出感度は0.01%程度である。従って、この程度の感度では、酵母培養を2VVM程度の通気量で行った場合、培養初期の少ない酵母量の時には排気ガス中の炭酸ガスが希釈されて検出できず、結果的に呼吸商を測定することが出来なった。それに対して、本発明では、炭酸ガスを質量分析計で行うため、炭酸ガスの最低検出感度が0.0001%程度であり、単純に比較すると赤外吸光分析の約100倍の感度で呼吸商を測定できることになる。
【0015】
質量分析は、磁場固定型質量分析計を用いて行うことが好ましい。質量分析計は、試料をイオン化し、加速するイオン源、イオンを分離する質量分析部、および分離されたイオンを検出するイオン検出部からなり、分析性能は、主として質量分析部の性能に依存する。質量分析部としては、磁場固定型と四重極型が一般によく用いられているが、その他に、イオントラップ型、飛行時間型、フーリエ変換型があり、そのいずれかを用いて、質量分析を行うことが可能である。但し、本発明では、質量分析を、磁場固定型質量分析計を用いて行うことで、高感度で炭酸ガスを検出することが可能であり、呼吸商の算出が高精度でできるという利点がある。
【0016】
さらに本発明の方法では、質量分析により、流入気体及び排出気体中の不活性ガス濃度もさらに求め、得られた不活性ガス濃度を内部標準として前記呼吸商を算出することが好ましい。不活性ガス濃度を内部標準として算出した呼吸商は、より精度が高く、この精度が高い呼吸商を用いることで、流加制御もより、緻密に行うことができる。
【0017】
本発明における不活性ガス濃度を内部標準として用いた呼吸商RQ4の測定方法および計算方法を図2に示す。
【0018】
本発明では、質量分析計を用いて酸素、炭酸ガスの濃度を測定する。それに加え、供給エアー中の不活性ガスも測定し、内部標準として用いる。その結果、理論的にも正しく、呼吸商が1.0から大きく離れた場合でも正確に呼吸商を算出でき、流加の制御も的確に行うことができる。図3に、本発明の方法において求められる呼吸商RQ4と従来の呼吸商RQ2、3との関係を示す(実線)。 図3中、破線は、呼吸商RQ4と従来の呼吸商RQ2、3とが等しい場合の線である。培養系内に供給される空気中の不活性ガス(窒素他)は酵母の発酵または呼吸に関与しない気体であるため、供給された空気中の不活性ガス(例えば、窒素等)はそのまま系外に排出される。即ち、流入気体及び排出気体中の不活性ガス濃度は一定している。そこで、系外に排出される気体中に含まれる不活性ガス(窒素)を内部標準として用い、かつその不活性ガス(窒素他)の系内への供給濃度と系外へ排出濃度の比率を求めることにより、通気量に左右されない呼吸商を求めることが可能である。
【0019】
内部標準に用いる不活性ガスとしては、空気に含まれる量が多く一定である窒素を使用することが好ましい。しかし、窒素以外の不活性ガスである、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンなどを用いることもできる。これらの不活性ガスは、必要により、供給側エアーに予め一定量を添加することができ、それを内部標準として使用することもできる。一定量の不活性ガスを供給側エアーに添加する場合の添加量は、不活性ガスの種類に応じ、かつ使用する不活性ガスに対する質量分析計の感度を考慮して、適宜決定することができる。
【0020】
本発明の方法では、基質流加の制御は、例えば、PID制御により行うことが好ましい。PID制御におけるPIDは、proportional(比例)、integral(積分)、differential(微分)の頭文字であり、PID制御により、比例、積分及び微分を組み合わせることで、きめ細かくかつスムーズな制御を実現できる。PID制御は、PI(比例・積分)制御に微分を組み合わせた制御である。一般に、PI制御で実際の目標値に近づける制御はできる。しかし、PI制御には、制御応答の速さに改善の余地がある。即ち、PI制御では目標値に制御するために、一定の時間(時定数)が必要である。この時定数が大きいと、外乱があった時の応答性能が悪くなる。PI制御では、外乱に対しすばやく反応できず、すぐには元の目標値には戻せない。そこで、PID制御では、さらに微分動作を用いる。微分動作では、急激に起きる外乱に対して、偏差を参照し、前回偏差との差が大きい時には、思い切って操作量を多くし機敏に反応する。この前回との偏差の変化差をみることが「微分」に相当する。PID制御では、最初はかなりオーバードライブ気味に制御し、早く目標値になるように積極的に制御する。
【0021】
本発明において、流加する基質は、微生物の種類に応じて適宜決定する。また、基質の流加方法も常法により行うことができる。但し、本発明では、基質の流加制御をPID制御により精密に行うことから、基質の流加方法も、基質の流加を精密に行うことができる方法を採用することが適当である。基質の流加の制御を行うことができる方法としては、例えば、目標値に到達するまで流加し、到達すればストップするオン/オフ制御、目標値と測定値との差に応じて流加する比例制御および上述のPID制御等を挙げることができる。
【0022】
本発明の方法では、基質流加の制御を、PID制御により行うことで、早く目標値に到達し、厳密に目標値を維持できるという利点がある。
【0023】
本発明では、上記のように、質量分析で測定した呼吸商の値から流加量をダイレクトに連続制御(PID制御)することで安定した酵母(微生物)培養を行うことができる。
【0024】
本発明の方法では、基質流加の制御は、例えば、微生物の単位時間当たりの産生量が最大になるように行うことができる。基質流加は、呼吸商が、予め設定された一定の値を取るように行われる。ここで、呼吸商の設定値をどのような値にするかは、微生物の種類や培養の目的等に応じて適宜決定される。即ち、例えば、微生物の増殖量を最大にしたい場合には、それを達成できる呼吸商に設定し、微生物の生産物の生産量を最大にしたい場合には、それを達成できる呼吸商に設定することができる。
【0025】
後述するように、酵母の増殖または目的物質製造時の培地について本呼吸商による培地流加制御が有効である。ここで培地が適正化された場合、目的物質生産に関して適正な呼吸商が存在する。後述する実施例2に具体的に示すように、呼吸商の設定値によって、目的物質の経時的生産量及び菌体増殖量は変化する。これは目的物質が菌体の増殖速度に依存しているためで、設定呼吸商がある程度高い方が対糖収率は悪くとも比増殖速度が高いためである。このように、本発明によれば、培養目的に応じて、呼吸商の設定値を選択し、その設定呼吸商を満足するように流加制御することで、微生物の増殖量を最大にすることも、微生物の生産物の生産量を最大にすることもできる。
【0026】
以上のように目的物質製造を主目的とする場合、菌体増殖と目的物質生産が相反することもある。しかし、この場合であっても本発明の呼吸商を用いた培地流加制御によれば、適正な目的物質製造を行うことが出来る。
【0027】
さらに、本発明の微生物の流加培養方法は、菌株、培地、および設備の評価に用いることができる。以下、この点について説明する。
【0028】
[微生物の増殖特性を評価する方法]
本発明は、呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて微生物の増殖特性を評価する方法を包含する。本発明の微生物の増殖特性を評価する方法は、呼吸商を、質量分析により求めた流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする。呼吸商を、質量分析により求めた流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出する方法は、上述のとおりである。
【0029】
微生物の増殖特性の評価は、培養時間と微生物数との関係に基づいて行うことができる。変異株を用いて代謝産物など目的物質の生産を有利に行う場合、その効率を考えて増殖の良い野生株と最終的に掛け合わせることが一般的に行われる。この場合、実際に使用する培地で、各微生物の増殖特性を評価する必要がある。本発明の方法によれば、呼吸商の設定値を一定にした上で、評価すべき微生物を流加培養し、その増殖特性を測定する。増殖特性とは、具体的には、例えば、増殖速度(増殖時間)、最終菌数、最大乾物菌体量、微生物が酵母である場合には、さらに、最大エタノール濃度、対糖収率などである。後述する実施例3に示すように、本発明の方法によれば、野生株や変異株の増殖特性を客観的に評価することができる。
【0030】
[培地の性能を評価する方法]
さらに本発明は、呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて培地の性能を評価する方法を包含する。本発明の培地の性能を評価する方法は、呼吸商を、質量分析により求めた流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする。呼吸商を、質量分析により求めた流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出する方法は、上述のとおりである。
【0031】
培地の性能の評価は、培養時間と微生物数との関係に基づいて行うことができる。目的とする酵母菌株もしくは菌株に生成させる目的物質が決定された場合、次にその株に適している培地を選択、最適化することが目的菌株または目的生産物の効率生産を行なう上で非常に重要である。このような場合、本発明の方法によれば、呼吸商の設定値を一定にした上で、組成及び/又は組成比を変化させた培地を用いて微生物の流加培養を行い、増殖特性を測定する。測定する増殖特性は、前述の微生物の増殖特性を評価する方法において説明したものの中から、適当なものを用いることができる。即ち、例えば、増殖速度(増殖時間)、最終菌数、最大乾物菌体量、微生物が酵母である場合には、さらに、最大エタノール濃度、対糖収率などである。
【0032】
本発明の呼吸商による培地流加制御を用いて培地の性能の評価をし、その上で、培地にあわせた流加を行うことができる。そのため、その培地が目的菌体の増殖、または目的物生産に適合しているかどうかを評価することができる。
【0033】
[培養装置の性能を評価する方法]
本発明は、呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて培養装置の性能を評価する方法をも包含する。本発明の培養装置の性能を評価する方法は、前記呼吸商を、質量分析により求めた流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする。呼吸商を、質量分析により求めた流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出する方法は、上述のとおりである。
【0034】
培養装置の性能の評価は、培養時間と微生物数との関係に基づいて行うことができる。目的とする菌株、適正な培地、適正な設定呼吸商が明らかとなると、そのスケールアップが問題となる。一般的にスケールアップを行う場合、例えば、新たに大型タンクを設計・設置するか、あるいは既存の大型タンクを使用するなどの方法がとられる。いずれの場合であっても、設備の酸素移動速度容量係数(KLa)が、それまで実験室で培養発酵条件を検討してきたジャーファメンターと大きく異なる。そのため、培地流加曲線を作り直すもしくはスケールアップの際にKLaを統一する必要がある。本発明では、仮にスケールアップした容器のKLaが異なった場合であっても、その容器のKLaに応じた適切な流加培養を行うことができる。
【0035】
[流加培養装置]
本発明の流加培養装置は、(1)微生物の培養容器、(2)前記培養容器に培地を流加するためのポンプ、(3)前記培養容器へ流入する気体中の酸素及び二酸化炭素濃度、並びに前記培養容器から排出される気体中の酸素及び二酸化炭素濃度を計測するための質量分析装置、並びに(4)前記流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から呼吸商を算出し、かつ前記ポンプによる培地の流加を制御するための手段を含む。
【0036】
[連続培養法への応用]
一般的に連続培養法は(1)酵母の比増殖速度を計算して一定量を流加・引き抜きする方法(ケモスタット)、系内の菌体量を一定に保つように連続培養状態(定常状態)を継続する方法(タービドスタット)がある。ここで、酵母の呼吸活性は連続培養状態(定常状態)であっても変化する可能性があり、それに起因する比増殖速度(もしくは対糖収率)のわずかな変化が培養の継続と共に大きな変化となって系内の酵母菌体量が減少する(Washout)もしくは増加する現象が見られる。この危険性を最小限にするためにも本呼吸商による培地流加制御は有効と考えられ、例えば(1)連続培養状態(定常状態)において培地流加は呼吸商による制御で、培養液引き抜きは流加量と同量とする(ケモスタット)、(2)連続培養状態(定常状態)において培地流加は呼吸商による制御で、引き抜きは濁度または誘電率計などで制御する(タービドスタット)の両方への応用も包含する。
【0037】
本発明の流加培養装置の例を図4に示す。図4の左側は、500L培養発酵槽(TP)であり、右側は5Lのジャーファメンター(Jar)である。TPにおいて、1が培養器であり、2がプランジャーポンプであり、3が質量分析装置であり、4が培地の流加を制御するための手段であるコンピューターである。培地は、培地の貯蔵容器5からプランジャーポンプ2により、培養器1に供給される。一方、Jar(右図)においては、11が培養器であり、12がプランジャーポンプであり、13が質量分析装置であり、14が培地の流加を制御するための手段であるコンピューターである。培地は、培地の貯蔵容器15からプランジャーポンプ12により、培養器11に供給される。
【0038】
上記装置においてポンプは、例えば、プランジャーポンプまたは高分解能ペリスタポンプであることが、培地の流加制御を精密に行うことができるという観点から好ましい。
【0039】
質量分析装置は、例えば、磁場固定型質量分析計であることが、高感度分析および分析安定性という観点から好ましい。
【0040】
さらに、質量分析装置は、流入気体及び排出気体中の不活性ガス濃度も計測できるものであることが好ましい。
【0041】
培地流加制御は、PID制御により行う。具体的には、培地流加制御のために、コンピューター4及び14は、PID制御のためのプログラムを内蔵し、このプログラムを用いて、PID制御が行われる。
【実施例】
【0042】
以下本発明を実施例によりさら詳細に説明する。
【0043】
材料及び方法
(1)供試菌株
酵母(S.cervisiae)野生株IFO 10611、IFO 1089、IFO 1332、YNN27およびこれらの変異株 M 及びRの2株を用いた。
【0044】
(2)培養発酵槽
以下の装置をそれぞれ目的に合わせて用いた(図4参照)。
・培養発酵槽:エイブル社製5Lジャーファメンター(Jar)及び500L培養発酵槽(TP)
・培地流加ポンプ:ATTO高社製分解能ペリスタティックポンプ(ジャーファメンター用)及び高速液体クロマトグラフィー用プランジャーポンプ
・磁場固定型質量分析計:アルコシステム社製ARCO-2000磁場固定型質量分析計
【0045】
(3)培地
・カザミノ酸含有合成培地(組成は表1のとおり)
表1に示した組成で、グルコース及びその他の成分をそれぞれ別に滅菌して使用した。微量元素溶液としては、EDTA・2Na15g、ZnSO4・7H2O5.75g、MnCl2・4H2O0.32g、CuSO4・6H2O0.50g、CoCl2・6H2O0.47g、Na2MoO4・2H2O0.48g、CaCl2・2H2O2.9g、FeSO4・7H2O2.8gを1Lの水に溶解し0.45μmフィルターで濾過滅菌し、4℃で保存した物を使用した。
【0046】
【表1】
【0047】
・CSL/グルコース培地
購入したCSL(コーンスティープリカー)を冷却遠心分離(1℃、7000g×10分)後、セルロース、パーライトをろ剤としたフィルター(プレフィルター)、及びPESメンブラン(0.45μm)でろ過し、流加培地中で20%、基本培地(回分培地)中で0.5%として使用した。また、グルコース濃度は流加培地、基本培地中でそれぞれ20%、0.5%とした。
滅菌はグルコース及びその他の成分をそれぞれ別に滅菌して使用した。
【0048】
・リン酸アンモニウム含有合成培地
表1組成中、カザミノ酸を規定濃度のリン酸アンモニウムで置き換えて使用した。
【0049】
(4)菌数および菌量測定
・菌数:ヘマチトメーターおよび赤血球測定装置(シスメックス F-520)
・菌量:菌体を遠心集菌後、水洗水分計で乾燥菌体量を測定
【0050】
(5)培養条件
・培養温度:30℃
・攪拌速度:DO 8 ppmとなるようPID制御
・初発菌数:10×106個/mL
その他条件は各試験内容によって変更した。
【0051】
実施例1 (呼吸商による流加制御)
装置はJarを用い、株は酵母(S. cervisiae)変異株Mを用い、培地はCSL/グルコース培地を用いた。設定呼吸商は1.3とした。制御の結果を図5に示す。図に示したとおり、磁場固定型質量分析計を用いた呼吸商を制御に用いた結果、培養全体を通して安定した呼吸商を得ることができた。また、流加曲線は指数関数的に増加し、酵母の増殖にあわせて流加できていることが明らかとなった。一方で同時に測定した炭酸ガス測定に赤外吸光分析を用いた呼吸商を示した。培養初期では回分培養状態であるため本来高い呼吸商を示すはずであるが、感度不足のため低い値を示していた。また絶対値としても常に低い値を出しており、制御に用いることは不可能であると思われた。
【0052】
実施例2 (呼吸商を培地流加制御に用いた酵母代謝産物生産への利用)
装置はJarを用い、酵母(S. cervisiae)変異株Rで目的物質Rを製造するための適切な呼吸商について探索した。培地はカザミノ酸含有合成培地を用い、設定呼吸商を1.1及び1.3で培養し、目的物質Rの経時的生産量を測定した。結果を図6に示した。
【0053】
図6に示したとおり、菌体増殖量は設定呼吸商1.1の方が良いが、目的物質Rの生産量に関しては設定呼吸商1.3の方が有意に良かった。これは目的物質Rが菌体の増殖速度に依存しているためで、設定呼吸商がある程度高い方が対糖収率は悪くとも比増殖速度が高いためであると思われた。
【0054】
実施例3 (呼吸商を培地流加制御に用いた菌株の増殖特性の評価への利用)
市販されている野生株であるIFO 10611、IFO 1089、IFO 1332を、カザミノ酸含有合成培地を用いて培養し、その増殖特性を評価した。設定呼吸商は1.1とした。結果を図7〜8に示した。
【0055】
図7〜8に示すように、IFO1089は3株のなかで最も増殖が早く、流加も早い時期から増殖が多量に行われ、結果として23.9時間で培養を終了した。その時の菌体収量は対糖収率で60%と非常によい結果となった。アルコール発生は培養初期の回分培養状態時に発生しているのみで、その後は検出できなかった。次いで増殖速度についてはIFO1089、IFO10611、IFO1332の順に早いことが認められた。
【0056】
一方で、対糖収率については一般的な酵母(S. cervisiae)の対糖収率(約53%)、流加にファジー推論を用いたもの(約55%)と比較しても、IFO10611及びIFO1089は、それぞれ60及び66%の対糖収率を示した。一方、IFO1332は、42%の対糖収率を示した。
【0057】
以上のように呼吸商による培地流加制御を用いて培養したことにより各株の増殖特性をよく表す結果となり、変異株とのかけ合わせにはIFO1089もしくはIFO10611が本試験株の中では適していると評価することができた。本評価は関数的流加を用いた方法では少ない試験回数では絶対に評価できないことであり、本制御法に優位性があると考えられた。
【0058】
実施例4(呼吸商を培地流加制御に用いた培地中の糖濃度の評価)
流加培地中の糖濃度と最終菌体密度の関係を調査するために、糖濃度の異なる培地での高密度培養を試みた。
培地にカザミノ酸含有合成培地を用い、グルコース濃度を20.0%、37.5%、40.0%と異なる培地を調製し(カザミノ酸含量はそれぞれ流加培地中で、1.0%、1.875%、2.0%)、設定呼吸商1.1でS.cerevisiaeの変異株であるM酵母を培養した。結果を図9に示した。グルコース濃度20%の培地では瞬時流加量が培養終了まで指数関数的に上昇しており、酵母菌体濃度が基質である糖の濃度に依存する培養条件であることが示された。それに対してグルコース濃度が37.5%、40.0%と高くなると、培養後期の瞬時流加量が指数関数的に上昇せず、一定となっていることが示された。これは、グルコース濃度が高くなると菌体密度が高くなり、培養系のKLa(酸素移動容量係数)が限界となるためである。一方、酵母菌体濃度は糖濃度にほぼ比例して増加していることが示された。このように、本呼吸商を用いた流加培地制御では、このような状況下でも対糖収率を落とすことなく流加培養を実施でき、他の制御法、特に指数関数的流加法では対応できず流加過剰となり、対糖収率を大きく低下させると考えられることから、本制御法に高い優位性があることが確認された。
【0059】
実施例5 (呼吸商を培地流加制御に用いた培地の評価への利用)
異なる培地、もしくは異なる成分含量の培地を用い、同一菌株での流加培養を試みた。培地はカザミノ酸含有合成培地(カザミノ酸含有量1、3、及び5%)、CSL/グルコース培地、及びリン酸アンモニウム含有合成培地(リン酸アンモニウム含有量2%,及び5%を用い、菌株は酵母(S. cervisiae)変異株であるR酵母を用いた。設定呼吸商は菌株に合わせて1.3とした。その他の条件は他の試験と同様とした。結果を図10に示した。
【0060】
図10に示すように、増殖速度及び培養時間に関してはカザミノ酸含有合成培地、CSL/グルコース、リン酸アンモニウム含有合成培地の順に良い結果であった。また、カザミノ酸含量については菌体増殖速度等に大きく影響しなかった。リン酸アンモニウム含有量については菌体増殖速度等がリン酸アンモニウム含量に依存していた。一方目的物質であるRは菌体増殖と同様カザミノ酸含有合成培地での生産量が他に比べて多かった。カザミノ酸含量への依存はあるように見えるが有意とは言えなかった。
【0061】
これらのことから株Rを効率良く増殖させ、目的物質Rを製造させる培地はカザミノ酸含有合成培地が適していることが分かる。
【0062】
実施例6 (呼吸商を培地流加制御に用いた設備の評価への利用)
500Lプラント(TP)及び5Lジャーファメンター(Jar)での培養を比較した。菌株は酵母(S. cervisiae)変異株Mを用い、培地はカザミノ酸含有合成培地を用いた。また設定呼吸商は1.1として菌体増殖を比較した。結果を図11に示した。
【0063】
図11に示すように、培養中期まではほぼ同様の流加曲線であるが、TPにおける培養後期の流加曲線は一定となっている。これはTPのKLaが限界となっていることを示している。しかし、到達菌数、目的生産物Mの生産量は変わっていない。
本発明によれば、本呼吸商を用いた培地流加制御は設備のKLaが変わった場合、すなわちスケールアップ等を行った場合でも有効な制御であり、目的菌体または目的物質を生産することができる。
【0064】
実施例7(呼吸商を用いた培地流加制御の連続培養法への応用)
500Lプラントでの連続培養に本呼吸商による培地流加制御の応用を試みた。容器は500L循環式発酵槽、菌株はS.cerevisiaeの変異株であるR酵母を用い、培地はカザミノ酸含有合成培地(カザミノ酸含量1.0%)、設定呼吸商1.3で、乾燥菌体約2.0%での定常状態に遷移させた。菌体量測定には誘電率計(Aber社製イーストモニター)を用いた。培養条件は連続培養状態(定常状態)において培地流加は呼吸商による制御で、引き抜きは誘電率計で制御し、系内の菌体量を一定に保つように連続培養状態(定常状態)を継続する方法(タービドスタット)を採用した。
流加培地中の糖濃度は20%で行い、引き抜き量と流加量を常時計算して無菌水を系内に加水して系内の液量のバランスをとった。培養開始後前述の呼吸商による培地流加制御を用いて菌体量を増加させ、目的とする乾燥菌体量2.0%となったところで定常状態に遷移させた(引き抜き及び加水を開始した)。培養結果を図12に示した。図に示される通り、定常状態ではイーストモニター計測値(誘電率からの換算値)及び乾燥菌体量を一定に制御することができた。
更に培養開始後125時間目以降、約24時間タップで設定菌体量を2.4%、2.7%、3.1%と上昇させたがそれぞれにおいて定常状態を保っており、連続培養における本制御法の高い有効性を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、酵母を含む種々の微生物の培養に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】公開されている呼吸商測定法
【図2】本発明の呼吸商測定法
【図3】呼吸商測定・計算方法の相関図
【図4】培養試験に用いた培養装置
【図5】呼吸商による流加量制御を用いた酵母培養結果
【図6】呼吸商による培地流加制御を用いた目的物質製造
【図7】呼吸商による培地流加制御を用いた酵母菌株評価
【図8】呼吸商による培地流加制御を用いた酵母菌株評価
【図9】呼吸商を培地流加制御に用いた培地中の糖濃度の評価
【図10】呼吸商による培地流加制御を用いた培地評価
【図11】呼吸商による培地流加制御を用いた設備評価
【図12】呼吸商を用いた培地流加制御の連続培養法への応用
【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法であって、
前記呼吸商は、質量分析により求めた、流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする上記方法。
【請求項2】
質量分析により、流入気体及び排出気体中の不活性ガス濃度もさらに求め、
得られた不活性ガス濃度を内部標準として前記呼吸商を算出する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
不活性ガスが、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、またはラドンである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
基質流加の制御は、微生物の単位時間当たりの産生量が最大になるように行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
基質流加の制御は、PID制御により行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
質量分析が、磁場固定型質量分析計を用いるものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて微生物の増殖特性を評価する方法であって、
前記呼吸商は、質量分析により求めた、流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする上記方法。
【請求項8】
微生物の増殖特性の評価は、培養時間と微生物数との関係に基づいて行う請求項7に記載の方法。
【請求項9】
呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて培地の性能を評価する方法であって、
前記呼吸商は、質量分析により求めた、流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする上記方法。
【請求項10】
培地の性能の評価は、培養時間と微生物数との関係に基づいて行う請求項9に記載の方法。
【請求項11】
呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて培養装置の性能を評価する方法であって、
前記呼吸商は、質量分析により求めた、流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする上記方法。
【請求項12】
培養装置の性能の評価は、培養時間と微生物数との関係に基づいて行う請求項11に記載の方法。
【請求項13】
微生物の培養容器、
前記培養容器に培地を流加するためのポンプ、
前記培養容器へ流入する気体中の酸素及び二酸化炭素濃度、並びに前記培養容器から排出される気体中の酸素及び二酸化炭素濃度を計測するための質量分析装置、並びに
前記流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から呼吸商を算出し、かつ前記ポンプによる培地の流加を制御するための手段
を含む流加培養装置。
【請求項14】
前記ポンプが、プランジャーポンプまたはペリスタポンプである請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記質量分析装置が、磁場固定型質量分析計である請求項13または14に記載の装置。
【請求項16】
前記質量分析装置は、流入気体及び排出気体中の不活性ガス濃度も計測できる請求項13または14に記載の装置。
【請求項17】
培地流加制御は、PID制御により行う請求項13〜16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項1】
呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法であって、
前記呼吸商は、質量分析により求めた、流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする上記方法。
【請求項2】
質量分析により、流入気体及び排出気体中の不活性ガス濃度もさらに求め、
得られた不活性ガス濃度を内部標準として前記呼吸商を算出する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
不活性ガスが、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、またはラドンである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
基質流加の制御は、微生物の単位時間当たりの産生量が最大になるように行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
基質流加の制御は、PID制御により行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
質量分析が、磁場固定型質量分析計を用いるものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて微生物の増殖特性を評価する方法であって、
前記呼吸商は、質量分析により求めた、流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする上記方法。
【請求項8】
微生物の増殖特性の評価は、培養時間と微生物数との関係に基づいて行う請求項7に記載の方法。
【請求項9】
呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて培地の性能を評価する方法であって、
前記呼吸商は、質量分析により求めた、流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする上記方法。
【請求項10】
培地の性能の評価は、培養時間と微生物数との関係に基づいて行う請求項9に記載の方法。
【請求項11】
呼吸商に基づいて基質流加の制御を行う微生物の流加培養方法を用いて培養装置の性能を評価する方法であって、
前記呼吸商は、質量分析により求めた、流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から算出することを特徴とする上記方法。
【請求項12】
培養装置の性能の評価は、培養時間と微生物数との関係に基づいて行う請求項11に記載の方法。
【請求項13】
微生物の培養容器、
前記培養容器に培地を流加するためのポンプ、
前記培養容器へ流入する気体中の酸素及び二酸化炭素濃度、並びに前記培養容器から排出される気体中の酸素及び二酸化炭素濃度を計測するための質量分析装置、並びに
前記流入気体及び排出気体中の酸素及び二酸化炭素濃度から呼吸商を算出し、かつ前記ポンプによる培地の流加を制御するための手段
を含む流加培養装置。
【請求項14】
前記ポンプが、プランジャーポンプまたはペリスタポンプである請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記質量分析装置が、磁場固定型質量分析計である請求項13または14に記載の装置。
【請求項16】
前記質量分析装置は、流入気体及び排出気体中の不活性ガス濃度も計測できる請求項13または14に記載の装置。
【請求項17】
培地流加制御は、PID制御により行う請求項13〜16のいずれか1項に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−288201(P2006−288201A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107093(P2005−107093)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】
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