説明

微生物担体

【課題】微生物担体の開気孔内で微生物の固定化機能を向上させた微生物担体の提供。
【解決手段】本発明に係る微生物担体は、三次元的に連通した複数の開気孔3a、3b、3c・・・を形成されて成る微生物担体1であって、前記開気孔3a、3b、3c・・・を構成する骨格部5は球状粒子7の焼結体で構成されており、前記球状粒子7は、その中心部近傍には中空部7aが形成されるとともに、前記中空部7aの一部には前記開気孔3a、3b、3c・・・側に通ずる開口部7bが形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物固定化機能を向上させた微生物担体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ガドニウム、六価クロム、水銀等のような重金属系による水質、土壌等の環境汚染が問題となっている。このため、これら汚染の原因物質を無害化させて、環境を浄化する技術が開発されている。
【0003】
このような環境浄化技術には、汚染原因物質を無害化する微生物を固定化させる微生物担体が一般的に用いられている。このような微生物担体は、環境浄化技術の向上のために様々な構成、材料等を備えるものが開発されている。
【0004】
例えば、気孔内の気体や液体の流通を容易とするために、直径が1〜3mmである相互に連通した気孔を有するセラミックス多孔質体からなる微生物担体が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
また、低温度焼結、材料強度、成形自由度、及び経済性に優れ、かつ、微生物固定化機能を有する微生物固定化担体として、粘土50〜98重量%と、ゼオライト2〜50重量%未満と、石炭灰0〜48重量%とを混合、焼結してなるセラミックス焼結体を用いる技術が開示されている(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−270048号公報
【特許文献2】特開2005−15276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の微生物担体は、気孔内へ気体や液体の流通を容易にするものであるが、気孔内での微生物の固定化機能を向上させるものではない。
【0007】
また、特許文献2に記載の微生物固定化担体においても、活性炭に匹敵する吸着性能を備えることができるものの、特許文献1と同様に、気孔内での微生物の固定化機能を向上させるものではない。
【0008】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、微生物担体の気孔内で微生物の固定化機能を向上させた微生物担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る微生物担体は、三次元的に連通した複数の開気孔を形成されて成る微生物担体であって、前記開気孔を構成する骨格部は球状粒子の焼結体で構成されており、前記球状粒子は、その中心部近傍には中空部が形成されるとともに、前記中空部の一部には前記開気孔側に通ずる開口部が形成されていることを特徴とする。
【0010】
このような構成とすることで、微生物担体の気孔内で微生物の固定化機能を向上させた微生物担体を得ることができる。
【0011】
前記球状粒子の開口部における最小幅は、1μm以上であることが好ましい。
【0012】
このような構成とすることで、開気孔内に入り込んだ微生物が、前記球状粒子の開口部から前記中空部内に確実に入り込み、且つ中空部内部から流出しにくくなるため、より多くの微生物を前記中空部内に固定化させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、微生物担体の気孔内で微生物の固定化機能を向上させた微生物担体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る微生物担体の外観形態の一例を示す概念図である。図2は、図1に示す微生物担体の断面図の一例を示す概念図である。図3(a)は、図2に示す断面図の骨格部を構成する球状粒子の外観図、図3(b)は、(a)のA−A線における断面図の一例を示す概念図である。
【0015】
本実施形態に係る微生物担体1は、図1及び図2に示すように、例えば、板状体で構成され、その平面1aから板状体の内部に向けて三次元的に連通した複数の開気孔3a、3b、3c・・・が形成されている。図2の断面図に示すように、前記開気孔3a、3b、3c・・・の周囲は骨格部5で構成されている。骨格部5は、図3(a)に外観を示すように、球状粒子7が複数焼結した焼結体で構成されている。球状粒子7の中心部近傍には、中空部7aが形成され、この中空部7aの一部には、図3(b)に示すように前記開気孔3a、3b、3c・・・側に開口する開口部7bが形成されている。
【0016】
このように、骨格部5を構成する球状粒子7が、中空部7a及び開口部7bを備えているため、開口部7bから微生物が前記球状粒子7の中空部7a内に侵入することができる。前記侵入した微生物は、中空部7a内にとどまって固定化され、且つ中空部7a内部から流出しにくくなるため、微生物担体1の開気孔3a、3b、3c・・・内で微生物の固定化機能を大きく向上させることができる。
【0017】
前記球状粒子7の開口部7bにおける最小幅は、1μm以上であることが好ましい。微生物が中空部7a内に侵入することができる大きさである。なお、ここでいう最小幅とは、球状粒子7の開口部7bを二次元画像処理した際、前記開口部7bの形状が、例えば、長方形に近似する場合(図4(a))は、その短軸Sの幅をさす。開口部7bの形状が、例えば、三角形に近似する場合(図4(b))は、その角に対向する辺に対して引いた垂直線S、S、Sのうちいずれかの最小の幅をさす。開口部7bが、例えば、多角形に近似する場合(図4(c))は、隣接しない角に対して引いた対角線S5、S6、S7・・・のうちいずれかの最小の幅のことをさす。
【0018】
このような構成とすることで、開気孔内に入り込んだ微生物が、前記球状粒子の開口部から前記中空部内に確実に入り込み、且つ中空部内部から流出しにくくなるため、より多くの微生物を前記中空部内に固定化させることができる。
【0019】
なお、前記最小幅の上限値は、球状粒子7の粒子径に依存して変化するため、一義的に定義は出来ないが、球状粒子7がその形態を保つことができる程度に十分な強度を有するためには、前記最小幅の上限値は、50μm以下であることが好ましい。
【0020】
前記開気孔3a、3b、3c・・・の気孔径、微生物担体1の表面1aの開口部9aの口径、三次元的に連通した複数の開気孔3a、3b、3c・・・間の連結部9b、9c、9d・・・の口径及び微生物担体1の気孔率は、浄化するための汚水や土壌等を容易に流し込むことが可能であり、かつ、微生物担体1として形態を保つことができる程度に十分な強度を備えるという観点から決定することが好ましい。
【0021】
このような微生物担体1としては、前記開気孔3a、3b、3c・・・の気孔径は、100μm以上600μm以下であり、開口部9aの口径及び連結部9b、9c、9d・・・の口径は、10μm以上60μm以下であり、微生物担体1の気孔率は、85%以上99%以下であることが好ましい。
【0022】
なお、ここでいう開気孔の気孔径は、顕微鏡による観察により測定した平均値であり、開口部9a及び連結部9b、9c、9d・・・の口径は水銀圧法で測定した平均値である。また、気孔率は、多孔体の密度と球状粒子7の理論密度から算出した値である。
【0023】
このように、本実施形態に係る微生物担体は、球状粒子の焼結体で骨格部が構成され、骨格部は中心部近傍に設けられた中空部と、前記中空部を前記開気孔側に開口する開口部とが形成されているので、前記球状粒子内の中空部内に微生物が入り込んで固定化されるため、微生物の固定化機能を大きく向上させることができる。
【0024】
上述したような微生物担体は、例えば、下記のような方法で製造することができる。
【0025】
前述した中空部及び開口部を有する球状粒子で構成された原料粉末、気散性の液体(例えば、イオン交換水)、分散剤(例えば、ポリアクリル酸アンモニウム)、硬化性樹脂(例えば、水溶性エポキシ樹脂)、硬化剤(例えば、アミン系化合物)、及び起泡剤(例えば、ラウリル硫酸トリエタノールアミン)を混合して、攪拌泡立てして泡沫状態のスラリーを調製し、このスラリーを所望の形状を有する型内に導入し、硬化性樹脂と硬化剤の作用により型内で泡沫状態のスラリーを硬化させた後、脱型した成形体中に含まれている気散性液体を蒸発させたのち、成形体を焼結することで製造することができる。
【0026】
前述した気孔径、開口部9a及び連結部9b、9c、9d・・・の口径及び気孔率の制御は、スラリーに添加される起泡剤の種類、起泡剤の濃度、スラリーの粘性、スラリーの発泡量、スラリー中に含まれる原料粉末の粒子径や粒子形状等の周知の方法により制御することができる。
【0027】
(実施例)
中空構造を備えるホウ珪酸ガラスで構成された中空粒子(平均粒子径30μm)に対して、粉砕機により粉砕処理を行い、図3に示すような開口部が形成された球状粒子を作製し、これを原料粉末とした。
【0028】
この原料粉末100重量部、気散性液体としてイオン交換水100重量部、分散剤としてポリアクリル酸アンモニウム0.75重量部を、超音波処理で15分混合しスラリーとした。このスラリーに、起泡剤としてラウリル硫酸トリエタノールアミンを0.75重量部添加し、ホウ珪酸ガラス粉末0.1kgにつき、1.0リットルの体積になるまで泡立て泡沫状のスラリーとした。
【0029】
ここに、硬化剤としてイミノビスプロピルアミンを1.3重量部、硬化性樹脂として水溶性エポキシ樹脂5重量部、添加して、充分に混合した後、図1に示すような板状体となるように、成形型に流し込んだ。得られた成形体を乾燥後、800℃で焼結して本実施例に関わる微生物担体を作製した。
【0030】
次に、図5に示すように、作製した板状体をカラム10に充填し、カラム10に対してペリスタポンプ(登録商標)20を設置し、ペリスタポンプ20からカラム10に対して微生物(菌)を流し込み、カラム10に充填された微生物担体に微生物を生着させた。
【0031】
次に、図6に示すように、減菌水30aを収容する収容容器30を用意し、減菌水30aがカラム10内に常に供給されるようにペリスタポンプ20を接続し、更に、カラム10内で微生物担体を通過させた減菌水30aを回収する回収容器60を接続し、収容容器30から減菌水30aをカラム10内に30分間、60分間、90分間の3条件で供給させて、微生物担体内の気孔内に対して減菌水30aを通過させた。
【0032】
次に、微生物を生着させた直後の微生物担体と、30分間、60分間、90分間、微生物担体を通過させて回収した4つの条件の減菌水に、SDS溶液を添加して、微生物中のATPを抽出した。そして、ルシフェリン・ルシフェラーズ発光反応をさせて、マイクロプレートリーダーで発光度を測定することで、4種類の洗浄水中の微生物量を測定した。
【0033】
(比較例)
中実粒子であるジルコニア粒子(平均粒子径15μm)に対して、粉砕機により粉砕処理を行わないで、その他は、実施例と同様な方法にて微生物担体を作製し、実施例と同様な方法にて、微生物を生着させた直後の微生物担体と、30分間、60分間、90分間、微生物担体を通過させて回収した4つの条件の減菌水中の微生物量を同様に測定した。
【0034】
(実施例及び比較例における評価結果)
表1に、実施例及び比較例における発光度の値を示す。図7に実施例において作製した微生物担体のSEM写真(倍率:1000倍)を、図8に比較例において作製した微生物担体のSEM写真(倍率:1000倍)をそれぞれ示す。
【0035】
表1に示すように、実施例に係る微生物担体においては、比較例と比べて非常に小さい発光度を有する。すなわち、かなり多くの微生物が該担体内に固定されたことが確認できる。更に、微生物担体を通過させた回収減菌水の発光度においても、発光強度としては低く(微生物生着直後の発光強度と比べて最大で5%程度)、微生物担体を通過させた回収減菌水には微生物が多く存在していないことから、洗浄作業によって、微生物担体から微生物が剥離しないことを確認した。この結果から、微生物担体内に多くの微生物が固定化されていることが確認できた。
【0036】
なお、実施例及び比較例に係る微生物担体の骨格部をSEM写真で確認したところ、実施例においては、骨格部を構成する球状粒子には前述したような開口部が設けられていることが確認できる(図7)。これに対し、比較例に係る骨格部を構成する球状粒子には前述したような開口部を確認することができない(図8)。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本実施形態に係る微生物担体の外観形態の一例を示す概念図である。
【図2】図1に示す微生物担体の断面図の一例を示す概念図である。
【図3】(a)は図2に示す断面図の骨格部を構成する球状粒子の外観図、(b)は(a)のA−A線における断面図の一例を示す概念図である。
【図4】球状粒子7における開口部の最小幅の定義を説明するための概念図である。
【図5】実施例及び比較例において作製した微生物担体に対して微生物を生着させる装置の一例を示す概念図である。
【図6】実施例及び比較例の効果を確認するための評価装置を示す概念図である。
【図7】実施例において作製した微生物担体のSEM写真(倍率:1000倍)である。
【図8】比較例において作製した微生物担体のSEM写真(倍率:1000倍)である。
【符号の説明】
【0038】
1 微生物担体
5 骨格部
7 球状粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元的に連通した複数の開気孔を形成されて成る微生物担体であって、
前記開気孔を構成する骨格部は球状粒子の焼結体で構成されており、
前記球状粒子は、その中心部近傍には中空部が形成されるとともに、前記中空部の一部には前記開気孔側に通ずる開口部が形成されていることを特徴とする微生物担体。
【請求項2】
前記球状粒子の開口部における最小幅は、1μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の微生物担体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−63412(P2010−63412A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233416(P2008−233416)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【出願人】(508276143)
【Fターム(参考)】