説明

微生物検出方法及び微生物検出装置

【課題】 より簡易かつ迅速に特定の微生物を検出するための微生物検出方法及び微生物検出装置を提供する。
【解決手段】 まず、電極11,12,13を用いて微生物の代謝に基づいて変化する前記特定物質の溶存量を測定することにより、微生物群濃度を測定しながら、特定の微生物を培養可能な液体培地で微生物を培養する。そして、微生物群濃度が所定値に達するまで培養を行い、触媒で標識した免疫測定試薬を用いて、この液体培地に含まれる特定の微生物に対して特定の免疫反応を生じせしめる。そして、この免疫反応に基づいて分離した特定の微生物を、標識された触媒と反応する基質を含む溶液中に加え、この触媒と基質による反応に基づいて変化する特定物質の溶存量を、同様の電極11,12,13を用いて電流値を測定することにより求め、特定の微生物を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物検出方法及び微生物検出装置に関し、より詳しくは、電極を用いて微生物の検出を行う微生物検出方法及び微生物検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食中毒を防止するため、食品の原材料や加工工程毎の安全面や衛生面の管理の高度化が望まれている。食中毒の原因となる微生物の検出や、微生物数の測定については、微生物の代謝による培地中の溶存酸素濃度の減少を酸素電極で検知する方法(酸素電極法)が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。この方法では、液体培地中で微生物(好気性菌及び通性嫌気性菌)を培養するとともに、酸素電極を用いて電流値を測定する。そして、微生物が一定以上の濃度になると、その呼吸により溶存酸素が消費し尽くされて酸素電極で検出される電流値がほぼゼロになることから、検量線を用いて、電流値が任意の値になるまでの培養時間に基づいて増殖開始前の微生物数を推定することができる。
【非特許文献1】吉田 雅一、「酸素電極法(DOX)による微生物検出技術の現状と将来像」、ジャパンフードサイエンス、日本食品出版株式会社、2003年1月、42巻、p.73−79
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記の従来の酸素電極法では、増殖開始前の微生物数を推定できても、その微生物の種類を判定することはできない。一方、特定の微生物のみ生育可能な液体培地を用いることも考えられるが、微生物によっては、そのような好ましい液体培地がない場合もある。また、公定法により微生物を検出する場合には、増菌、寒天培地による分離、栄養要求性により生化学的に同定という複雑なステップを経て検出を行うが、液体培地のみで同様に微生物の検出を行うことは不可能である。また、このような公定法による場合は、複雑なステップを経なくてはならないため、作業が煩雑であり、迅速に測定を行うことができない。
【0004】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、より簡易かつ迅速に特定の微生物を検出するための微生物検出方法及び微生物検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の微生物検出方法は、特定の微生物を培養可能な液体培地で微生物群濃度が所定値に達するまで培養を行う第1工程と、触媒で標識した免疫測定試薬を用いて、前記液体培地に含まれる特定の微生物に対して特定の免疫反応を生じせしめる第2工程と、前記特定の微生物を前記免疫反応に基づいて分離して前記触媒と反応する基質を含む溶液中に加え、前記触媒と前記基質による反応に基づいて変化する特定物質の溶存量を電極により測定することにより、前記特定の微生物を検出する第3工程とを含む。これによれば、微生物群濃度が所定値に達した場合に、電極を用いて、免疫測定試薬に標識された触媒と基質との反応に基づいて特定の微生物を検出することにより、特定の微生物の検出を、より簡易かつ迅速に行うことができる。
【0006】
この微生物検出方法において、前記第1工程において、前記液体培地での微生物群濃度は、微生物の代謝に基づいて変化する前記特定物質の溶存量を電極により測定することにより求め、前記第1工程の電極による測定方法と同じ方法で前記第3工程の測定を実行するものとすることができる。これによれば、第1工程における微生物群濃度の測定と、第
3工程における特定の微生物の検出とを同じ方法を用いて行うことができる。
【0007】
この微生物検出方法において、前記特定物質の溶存量を溶存酸素量とし、前記触媒を酸化還元触媒とすることができる。
この微生物検出方法において、前記免疫測定試薬を、特定の微生物と反応する抗体であって前記触媒で標識したものと前記特定の微生物を捕捉可能な捕捉体とを含むものとすることができる。これによれば、触媒で標識された抗体と捕捉体とを特定の微生物に結合させることができる。このため、捕捉体を用いて、触媒で標識された抗体が結合した特定の微生物を分離できる。そして、分離された微生物に結合した抗体に標識された触媒と基質による反応に基づいて、特定の微生物を検出できる。
この微生物検出方法において、前記免疫測定試薬を、特定の微生物を構成する抗原であって触媒により標識されたものと前記抗原と結合可能な捕捉体とを含むものとすることができる。これによれば、特定の微生物の抗原と免疫測定試薬中の抗原とが、競合的に捕捉体に結合する。つまり、特定の微生物と触媒により標識された抗原とが、競合的に捕捉体に結合する。従って、これらが結合した捕捉体を、基質を含む溶液に投入することにより、特定の微生物の検出を行うことができる。
【0008】
本発明の微生物検出装置は、電極を用いて特定物質の溶存量を測定する測定手段を備えた微生物検出装置であって、前記測定手段が、特定の微生物を培養可能な液体培地で、微生物の代謝に基づいて変化する前記特定物質の溶存量を電極により測定することにより、微生物群濃度を測定する微生物群濃度測定手段と、触媒で標識した免疫測定試薬を用いて、前記液体培地に含まれる特定の微生物に対して生じせしめた特定の免疫反応に基づいて前記特定の微生物を分離して、前記触媒と反応する基質を含む溶液中に加え、前記触媒と前記基質による反応に基づいて変化する前記特定物質の溶存量を電極により測定することにより、前記特定の微生物を検出する特定微生物検出手段として機能する。これによれば、電極を用いて特定物質の溶存量を測定する測定手段を用いて、微生物の代謝に基づく微生物の濃度の測定と、特定の微生物の検出のための免疫測定試薬に標識された触媒による反応に基づく特定の微生物の検出とを行うことができる。
【0009】
この微生物検出装置において、前記特定物質の溶存量を溶存酸素量とし、前記触媒を酸化還元触媒とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、より簡易かつ迅速に特定の微生物を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した実施形態について説明する。
本発明における微生物検出方法では、まず、特定の微生物を培養可能な液体培地で微生物群濃度が所定値に達するまで培養する(第1工程)。そして、この液体培地に含まれる特定の微生物に対して、触媒で標識した免疫測定試薬を用いて、特定の免疫反応を生じせしめる(第2工程)。そして、この免疫反応に基づいて検出対象の特定の微生物を分離して、これを免疫測定試薬に標識された触媒と反応する基質を含む溶液と反応させ、この触媒と基質による反応に基づく特定物質の溶存量を電極により測定することにより、特定の微生物を検出する(第3工程)。
【0012】
第1工程における微生物群濃度の測定は特に限定されないが、例えば、後述する第3工程における特定物質の溶存量の測定と同じ方法により、微生物の代謝による液体培地中の特定物質の溶存量を電極により測定することにより行うことができる。この場合、第1工程における測定と第3工程における測定とを、同様の電極を用いる測定手段により行うことができる。つまり、同様の電極を用いる測定手段が、第1工程における測定を行う場合
は特許請求の範囲に記載の微生物群濃度測定手段として機能し、第3工程における測定を行う場合は特許請求の範囲に記載の特定微生物検出手段として機能する。
【0013】
本発明の微生物検出装置は、電極を用いて特定物質の溶存量を測定する測定手段を備え、この測定手段が、上記のように、微生物群濃度測定手段及び特定微生物検出手段として機能する。
【0014】
電極を用いて溶存量を測定する特定物質としては、酸素、二酸化炭素、水素イオン等が挙げられる。なお、水素イオンの溶存量については、pHとして測定してもよい。いずれの場合も、第1工程においては、微生物の代謝によって変化する溶存量を測定し、第3工程においては、免疫測定試薬に標識された触媒と基質との反応に基づいて変化する溶存量を測定する。以下、測定する特定物質の溶存量を溶存酸素量とする場合について説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0015】
まず、上記の測定手段において用いられる電極について図1を用いて説明する。
図1は、本発明の微生物検出装置の原理を示す概略図である。図1に示すように、微生物検出装置は、溶液を収容するセル中に、作用極(作用電極)11と参照極(参照電極)12と対極(対電極)13から構成される酸素電極を備えている。溶液中で作用極11において、O2+4H+→2H2Oの反応が生じて4e-の電子の授受が行われ、これに対応する電流が流れる。この反応は、溶存酸素濃度に依存するため、流れる電流量も溶存酸素濃度に依存する。従って、電流値の測定により、後述するように、第1工程では液体培地中の溶存酸素量に基づいて微生物群濃度を測定でき、第3工程では基質を含む溶液中の溶存酸素量に基づいて特定の微生物を検出できる。
【0016】
溶存酸素量の測定により特定の微生物を検出する場合、免疫測定試薬を標識する触媒として酸化還元触媒を用いる。酸化還元触媒としては、酸化還元酵素及び金属触媒が挙げられる。酸化還元酵素が特に好ましく、例えば、グルコースオキシダーゼ<グルコース>、アミノ酸オキシダーゼ<アミノ酸>、アスコルビン酸オキシダーゼ<アスコルビン酸>、アシル−CoAオキシダーゼ<アシルCoA>、ガラクトースオキシダーゼ<ガラクトース>、キサンチンオキシダーゼ<キサチン>、コレステロールオキシダーゼ<コレステロール>、シュウ酸オキシダーゼ<シュウ酸>、ザルコシンオキシダーゼ<ザルコシン>等が挙げられる。なお、ここでは、各酸化還元酵素とその基質とを「酸化還元酵素<基質>」のように示している。また、金属触媒としては、白金、金、酸化チタン等が挙げられる。
【0017】
免疫測定試薬は、特定の微生物の検出をサンドイッチ法により行う場合と競合法により行う場合とで異なる。サンドイッチ法による場合、免疫測定試薬として、検出対象の微生物の表面の抗原と結合しうる標識抗体を構成成分に含む試薬を用い、検出対象の微生物に、この標識抗体と、この検出対象の微生物を捕捉する捕捉体とを結合させる。一方、競合法による場合、免疫測定試薬として、検出対象の微生物を構成する抗原であって触媒により標識されたもの(標識抗原)を構成成分に含む試薬を用い、検出対象の微生物を捕捉可能な捕捉体に、検出対象の微生物と標識抗原とを競合的に結合させる。
【0018】
サンドイッチ法による場合と競合法による場合とでは、第2工程における反応や第3工程における反応及び電流値の測定結果が異なる。ここでは、サンドイッチ法による場合について説明し、競合法による場合については、他の実施形態として後述する。
【0019】
次に、各工程について、処理手順、反応、測定結果等について説明する。なお、ここでは、酸素電極の作用極11、参照極12及び対極13の各端子を備えたセル(容量:2.0ml)を備えた、温度制御可能な微生物検出装置を用いる。
【0020】
<第1工程>
まず、第1工程として、特定の微生物を培養可能な液体培地で微生物群濃度が所定値に達するまで、35℃で培養する。この特定の微生物を培養可能な液体培地とは、一般生菌用液体培地、もしくは特定の微生物を含む広い範囲の菌種類を培養可能な液体培地、もしくは特定の微生物を培養可能な液体培地である。このような液体培地としては、公知のものを用いることができる。そして、この液体培地に、測定対象物の抽出液を懸濁して調整する。測定対象物としては、肉、野菜、海産物、総菜、乳製品等の食材、医薬品、化学製品等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
微生物のうち好気性菌や通性嫌気性菌は呼吸により酸素を消費するが、液体培地中で培養した微生物の濃度が一定以上になると、液体培地中の溶存酸素の消費が加速し、溶存酸素が消費し尽くされる。このため、酸素電極で検出される電流値がほぼゼロになる。つまり、セルに収容された液体培地の溶存酸素が消費し尽くされると、図1に示した作用極11上の反応が起こらなくなるため、電流が流れなくなる。これを、図2を用いて説明する。
【0022】
図2は、異なる初期菌数でそれぞれ培養を行った場合について、酸素電極で測定された電流値の変化を示す。ここでは、初期菌数がそれぞれ105、104、103、102、101である場合と、微生物が存在しない場合とについて、酸素電極で測定された電流値の変
化をそれぞれ示す。液体培地中に微生物が存在しない場合、電流値は緩やかに減少する。一方、培養開始時に微生物が存在していた場合、電流値は培養開始からある時点までは緩やかに減少するが、ある時点を過ぎると急激に減少し、電流値がほぼゼロになる。これは、液体培地中の微生物がある程度まで増殖した場合に、呼吸により液体培地中の溶存酸素を使い切り、作用極における上記の反応が起こらなくなるため、急激に電流値が低下するものである。初期菌数が多いほど、より短い培養時間で液体培地中の微生物の濃度が一定以上になるため、ここでは、初期菌数が105の場合に、最も短い培養時間で電流値が急
激に減少している。そして、初期菌数が少なくなるに従って、電流値の急激な減少が起こるまでの培養時間が長くなっている。
【0023】
ここで、微生物が溶存酸素を使い切って電流値がゼロに近づいた状態の所定の電流値をしきい値とした場合、このしきい値に達するまでの培養時間は初期菌数によって異なるが、このしきい値に達した状態における液体培地中の微生物群濃度はほぼ一定となる。従って、しきい値に達した状態での液体培地を用いれば、ほぼ一定の微生物群濃度の液体培地を用いることができる。このため、電流値がしきい値に達した場合、電流値の測定を終了し、次の第2工程に移る。
【0024】
<第2工程>
電流値がしきい値に達した場合、電流値の測定を終了し、触媒で標識した免疫測定試薬を用いて、液体培地に含まれる特定の微生物に対して特定の免疫反応を生じせしめる。なお、この第2工程においては、後述するように、液体培地に含まれる特定の微生物を、この微生物の選択培地を用いて増菌培養する。以下、免疫測定試薬を標識する触媒として酸化還元酵素であるグルコースオキシダーゼを用いる場合について説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0025】
サンドイッチ法による場合、免疫測定試薬として、検出対象の微生物の表面の抗原と結合しうる標識抗体とこの検出対象の微生物を捕捉可能な捕捉体とを構成成分に含む試薬を用いる。標識抗体は、触媒により標識されている。ここでは、グルコースオキシダーゼにより標識された標識抗体(グルコースオキシダーゼ標識抗体)を用いる。そして、検出対象の微生物に、この標識抗体と、この検出対象の微生物を捕捉する捕捉体とを結合させる
。捕捉体としては、例えば、検出対象の微生物の細胞表層の構成成分に結合可能なリガンドを固定化した磁気ビーズを用いる。具体的には、例えば、検出対象の微生物がサルモネラ等のグラム陰性菌である場合、ポリミキシンBを固定化した磁気ビーズを用いる。なお、ポリミキシンBは、グラム陰性菌の外膜の構成成分であるリポポリサッカライドと特異的に結合することが知られている。なお、ここでは、捕捉体としてリガンドを固定化した磁気ビーズを用いたが、捕捉体はこれに限られるものではなく、検出対象の微生物を捕捉可能であればよい。例えば、ウェルにリガンドを固定化したものを捕捉体として用いてもよい。
【0026】
ポリミキシンBが固定化された磁気ビーズを用いて微生物の捕捉を行う場合は、ポリミキシンBが固定化された磁気ビーズの添加に先立って増菌培養を行う。これは、ポリミキシンBを用いて捕捉を行う場合、捕捉を行う際に熱処理が必要であるため、その時点で微生物が死んでしまい、その後増殖しないためである。この場合、ポリミキシンBの添加より前に微生物を増殖させておく必要がある。捕捉の際に熱処理が必要かどうかはリガンドの種類による。捕捉の際に熱処理が不要なリガンドを用いる場合は、増菌培養と捕捉の順番を入れ替えてもよい。
【0027】
捕捉体の添加前に増菌培養を行う場合、まず、液体培地が収容されたセルから、適量の液体培地を採取する。そして、検出対象である特定の微生物の選択培地を用いてこの特定の微生物の増菌培養を行い、この増菌培養を行った液体培地中に、標識抗体とリガンドを固定化した磁気ビーズとを含む免疫測定試薬を検出対象の微生物の増菌培養を行った液体培地に添加する。これにより、検出対象の微生物に、標識抗体とリガンドを固定化した磁気ビーズとが、それぞれ結合する。ここで、磁石を用いて磁気ビーズを分離すると、磁気ビーズに結合した、標識抗体と結合した検出対象の微生物が分離される。
【0028】
なお、上記の場合は捕捉体の添加前に増菌培養を行ったが、捕捉の際に熱処理が必要でない場合は、上述のように、捕捉体の添加の前後のいずれで増菌培養を行ってもよい。捕捉体の添加後に増菌培養を行う場合、第2工程において、第1工程の液体培地を採取して、これに捕捉体(例えば、抗体を固定化した磁気ビーズ)を添加する。そして、この磁気ビーズにより捕捉された微生物を、検出対象の微生物の選択培地に添加する。そして、この選択培地において増菌培養を行うと、検出対象の微生物が増殖し、増殖した微生物が磁気ビーズに捕捉される。
【0029】
この微生物を捕捉した磁気ビーズを洗浄し、洗浄後の微生物を捕捉した磁気ビーズの溶液に標識抗体(例えば、グルコースオキシダーゼ標識抗体)を添加する。これにより、磁気ビーズに捕捉された微生物に標識抗体が結合する。そして、この磁気ビーズを分離すると、この標識抗体が結合した微生物が分離される。
【0030】
<第3工程>
次に、分離された捕捉体を、基質を含む溶液に投入する。そして、捕捉体に捕捉された微生物に結合した抗体に標識された触媒と、この触媒と基質による反応に基づく特定物質の溶存量を電極により測定することにより、特定の微生物を検出する。
【0031】
例えば、上記の例の場合、グルコースオキシダーゼにより標識された抗体が結合した検出対象の微生物を磁気ビーズにより捕捉し、この磁気ビーズを液体培地から分離して、セルに収容されたグルコースを含む溶液に投入する。そして、この場合の電流値を、酸素電極を用いて測定する。この場合の測定結果について図3を用いて説明する。なお、図3では、セルに投入した磁気ビーズのうち、グルコースオキシダーゼ標識抗体と結合した微生物を捕捉した磁気ビーズの量が異なる2つの場合について示している。
【0032】
図3に示すように、この磁気ビーズを投入するまでは電流値は緩やかに減少しているが、磁気ビーズを投入すると、急激に電流値が減少する。これは、グルコースオキシダーゼが触媒して化1に示す反応が生じ、グルコースが酸化され、酸素が消費されるためである。
【0033】
【化1】

ここで、グルコースオキシダーゼがセル中に含まれる場合、すなわち、グルコースオキシダーゼ標識抗体と結合した微生物を捕捉した磁気ビーズがセルに投入された場合、電流値が減少する。また、グルコースオキシダーゼがセル中に多く含まれる場合、すなわち、セルに投入した磁気ビーズのうち、グルコースオキシダーゼ標識抗体と結合した微生物を捕捉した磁気ビーズがより多い場合、電流値の減少がより大きくなる。
【0034】
セルに投入した磁気ビーズのうち、グルコースオキシダーゼ標識抗体と結合した微生物を捕捉した磁気ビーズがより多くなるのは、上記の第1工程で所定の濃度まで微生物を培養した際に、液体培地中に測定対象の微生物が多く含まれていた場合である。従って、上記の処理を行った磁気ビーズをグルコースが含まれる溶液中に投入した場合に電流値が急激に下がることにより、測定対象の微生物を検出できる。また、この場合の電流値の変化の度合いにより、セル中の測定対象の微生物の数を推定することが可能となり、さらに、この微生物数と培養時間とに基づいて、第1工程における培養開始時点での測定対象の微生物の数を推定することが可能となる。
【0035】
なお、H22の発生による反応性の低下は、例えば、o-フェニレンジアミン(OPD
)とペルオキシダーゼを共存させることにより、ペルオキシダーゼにより触媒されるH2
2とOPDとの反応によりH22を除去することで防止できる。この場合、OPDが発
色するため、吸光度の測定によっても、グルコースオキシダーゼにより触媒される反応によりH22が発生したことを確認できる。
【0036】
(他の実施形態)
上記の実施形態では、特定の微生物の検出をサンドイッチ法により行う場合について説明したが、特定の微生物の検出は競合法により行ってもよい。ここでは、他の実施形態として、特定の微生物の検出を競合法により行う場合について説明する。この場合、第2工程における反応や第3工程における反応及び電流値の測定結果が上記の実施形態の場合と異なるため、ここでは、第2工程及び第3工程について説明する。
【0037】
<第2工程>
競合法による場合、免疫測定試薬として、検出対象の微生物を構成する抗原であって触媒により標識されたもの(標識抗原)とこの抗原と結合可能であって検出対象の微生物を捕捉可能な捕捉体とを構成成分に含む試薬を用いる。ここで、標識抗原は、この微生物に含まれる抗原が触媒により標識されている。ここでは、グルコースオキシダーゼにより標識された標識抗原(グルコースオキシダーゼ標識抗原)を用いる。また、検出対象の微生物を捕捉可能な捕捉体として、この抗原と結合可能なリガンドを固定化した磁気ビーズを用いる。
【0038】
この第2工程では、まず、採取された液体培地に対し、検出対象である特定の微生物の選択培地を用いて、検出対象である特定の微生物の増菌培養を行う。そして、増菌培養を行った選択培地に標識抗原及び捕捉体を含む免疫測定試薬を添加する。
【0039】
この場合、培養された検出対象の微生物と、免疫測定試薬に含まれる標識抗原とは、競
合的に捕捉体に結合する。そして、捕捉体を分離すると、捕捉体とともに、捕捉された微生物等(検出対象の微生物又は標識抗原)が分離される。ここでは、培養された検出対象の微生物とグルコースオキシダーゼ標識抗原とが競合的にリガンドを固定化した磁気ビーズに結合し、捕捉された微生物等(液体培地で培養された検出対象の微生物又はグルコースオキシダーゼ標識抗原)が分離される。
【0040】
<第3工程>
次に、分離された捕捉体を、基質を含む溶液に投入し、電極を用いて電流値を測定する。上記の例では、培養された検出対象の微生物又はグルコースオキシダーゼ標識抗原を捕捉した磁気ビーズを、グルコースを含む溶液に投入し、酸素電極を用いて電流値を測定する。
【0041】
この場合、この磁気ビーズを投入するまでは緩やかに減少しているが、磁気ビーズを投入すると、この磁気ビーズにグルコースオキシダーゼ標識抗原が捕捉されている場合、グルコースオキシダーゼが触媒して、上記の化1に示す反応が生じる。このため、グルコースが酸化され、酸素が消費されることにより、電流値が急激に減少する。また、セルに投入した磁気ビーズのうち、グルコースオキシダーゼ標識抗原を捕捉した磁気ビーズがより多い場合、電流値の減少がより大きくなる。つまり、競合法による場合は、培養された液体培地中に検出対象の微生物が多く存在していた場合は、電流値の減少が小さく、反対に液体培地中に検出対象の微生物が存在していなかった場合は、電流値の減少が大きくなる。
【0042】
従って、ビーズをセルに投入した場合の電流値の減少の度合いにより、測定対象の微生物を検出できる。また、この場合の電流値の変化の度合いにより、セル中の測定対象の微生物の数を推定することが可能となり、さらに、この微生物数と培養時間とに基づいて、第1工程における培養開始時点での測定対象の微生物の数を推定することが可能となる。なお、H22による反応性の低下は、上記の場合と同様の方法で防止できる。
【0043】
上記実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
・ 上記実施形態では、特定の微生物を培養可能な液体培地で微生物群濃度が所定値に達するまで培養を行う。そして、触媒で標識した免疫測定試薬を用いて、この液体培地に含まれる特定の微生物に対して特定の免疫反応を生じせしめる。そして、この免疫反応に基づいて分離した特定の微生物を、標識された触媒と反応する基質を含む溶液中に加え、この触媒と基質による反応に基づいて変化する特定物質の溶存量を電極により測定することにより、特定の微生物を検出する。これにより、微生物群濃度が所定値に達した場合に、免疫測定試薬に標識された触媒と基質との反応に基づいて、特定の微生物を、電極を用いて検出することができる。従って、公定法のような煩雑なステップを経ずに、より簡易かつ迅速に特定の微生物を検出できる。また、微生物群濃度が所定値に達した場合は、検出対象の微生物が存在する可能性が高いため、微生物群濃度が高いものだけを調べることは有効であり、これにより、効率よく特定の微生物の検出を行うことができる。
【0044】
・ 上記実施形態では、第1工程において培養された微生物の濃度は、微生物の代謝に基づいて変化する前記特定物質の溶存量を電極により測定することにより求め、この方法と同じ方法で、第3工程において測定を実行することができる。これにより、第1工程における微生物群濃度の測定と、第3工程における特定の微生物の検出とを同じ方法を用いて行うことができる。このため、同様の電極を用いて、第1工程の測定と、第3工程の測定とを行うことができ、同じ装置を用いて、微生物の代謝に基づく微生物の濃度の測定と、特定の微生物の検出のための免疫測定試薬に標識された触媒による反応に基づく特定の微生物の検出とを行うことができる。従って、微生物の代謝により変化する特定物質の溶存量を測定するための電極を有する一般生菌測定用の装置を用いて微生物の種類を特定で
きる。このため、より簡易かつ迅速に特定の微生物を検出できる。
【0045】
・ 上記実施形態では、例えば、酸素電極を用いて溶存酸素量を測定する。この場合、第3工程において、免疫反応に基づいて分離した特定の微生物を、標識された酸化還元触媒と反応する基質を含む溶液中に加え、この酸化還元触媒と基質による反応に基づいて変化する溶存酸素量を酸素電極により測定することにより、特定の微生物を検出する。これにより、第1工程では、酸素電極を用いて、微生物の呼吸による溶存酸素量の減少に基づいて微生物群濃度が所定値に達したことを検知し、第3工程では、同様の酸素電極を用いて、酸化還元触媒と基質による反応に基づいて変化する溶存酸素量に基づいて測定対象の特定の微生物を検出する。従って、第1工程における微生物群濃度の測定と、第3工程における特定の微生物の検出とを、同様の酸素電極を用いて、同じ方法により行うことができる。このため、微生物の代謝により変化する溶存酸素量を測定するための酸素電極を有する一般生菌測定用の装置を用いて微生物の種類を特定できる。このため、より簡易かつ迅速に特定の微生物を検出できる。
【0046】
・ 上記実施形態では、検出対象の微生物の表面の抗原と結合しうる抗体であって触媒により標識されたもの(標識抗体)とこの検出対象の微生物を捕捉可能な捕捉体とを構成成分に含む免疫測定試薬を用いる。このため、液体培地中に検出対象の微生物が存在する場合、この微生物を捕捉する捕捉体を用いて標識抗体が結合した検出対象の微生物を分離して基質を含む溶液に投入し、電流値が急激に低下することにより、対象の微生物を検出できる。
【0047】
・ 上記の他の実施形態では、検出対象の微生物を構成する抗原であって触媒により標識されたもの(標識抗原)とこの抗原と結合可能な捕捉体とを構成成分に含む免疫測定試薬を用いる。これによれば、特定の微生物の抗原と標識抗原とが、競合的に捕捉体に結合する。つまり、培養された測定対象の微生物と、添加された標識抗原とが競合的に捕捉体に結合する。従って、これらが結合した捕捉体を、基質を含む溶液に投入すると、液体培地中に存在していた検出対象の微生物が少ないほど電流値が急激に低下するため、電流値の低下の度合いに基づいて、特定の微生物の検出を行うことができる。
【0048】
・ 上記実施形態では、検出対象の微生物の選択培地を用いて増菌培養を行う。このため、特定の微生物の検出における感度を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態における電流値の測定方法を説明するための模式図。
【図2】本発明の一実施形態の第1工程における溶存酸素量を示すグラフ。
【図3】本発明の一実施形態の第3工程における溶存酸素量を示すグラフ。
【符号の説明】
【0050】
11…作用極(作用電極)、12…参照極(参照電極)、13…対極(対電極)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の微生物を培養可能な液体培地で微生物群濃度が所定値に達するまで培養を行う第1工程と、
触媒で標識した免疫測定試薬を用いて、前記液体培地に含まれる特定の微生物に対して特定の免疫反応を生じせしめる第2工程と、
前記特定の微生物を前記免疫反応に基づいて分離して前記触媒と反応する基質を含む溶液中に加え、前記触媒と前記基質による反応に基づいて変化する特定物質の溶存量を電極により測定することにより、前記特定の微生物を検出する第3工程と
を含むことを特徴とする微生物検出方法。
【請求項2】
前記第1工程において、前記液体培地での微生物群濃度は、微生物の代謝に基づいて変化する前記特定物質の溶存量を電極により測定することにより求め、
前記第1工程の電極による測定方法と同じ方法で前記第3工程の測定を実行することを特徴とする請求項1に記載の微生物検出方法。
【請求項3】
前記特定物質の溶存量は溶存酸素量であり、前記触媒は酸化還元触媒であることを特徴とする請求項1又は2に記載の微生物検出方法。
【請求項4】
前記免疫測定試薬は、特定の微生物と反応する抗体もしくはリガンドであって前記触媒で標識したものと前記特定の微生物を捕捉可能な捕捉体とを含むものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の微生物検出方法。
【請求項5】
前記免疫測定試薬は、特定の微生物を構成する抗原であって触媒により標識されたものと前記抗原と結合可能な捕捉体とを含むものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の微生物検出方法。
【請求項6】
電極を用いて特定物質の溶存量を測定する測定手段を備えた微生物検出装置であって、
前記測定手段が、
特定の微生物を培養可能な液体培地で、微生物の代謝に基づいて変化する前記特定物質の溶存量を電極により測定することにより、微生物群濃度を測定する微生物群濃度測定手段と、
触媒で標識した免疫測定試薬を用いて、前記液体培地に含まれる特定の微生物に対して生じせしめた特定の免疫反応に基づいて前記特定の微生物を分離して、前記触媒と反応する基質を含む溶液中に加え、前記触媒と前記基質による反応に基づいて変化する前記特定物質の溶存量を電極により測定することにより、前記特定の微生物を検出する特定微生物検出手段
として機能することを特徴とする微生物検出装置。
【請求項7】
前記特定物質の溶存量は溶存酸素量であり、前記触媒は酸化還元触媒であることを特徴とする請求項6に記載の微生物検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−149270(P2006−149270A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−343954(P2004−343954)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】