説明

微生物検出法及び微生物検出キット

【課題】食品や臨床試料中に含まれる微生物の検出法を提供する。
【解決手段】被検試料中の微生物の生菌を検出するための方法であって、以下の工程を含む方法:
a)前記被検試料をエチジウムモノアザイドで処理し、可視光を照射する工程と、アムサクリン、カンプトセシン、エリプチシン、エトポシド、ミトキサントロン、及び/又はシプロフロキサシンから選択されるトポイソメラーゼ阻害剤及び/又はDNAジャイレース阻害剤で被検試料を処理する工程からなる工程、
b)前記被検試料からDNAを抽出し、抽出されたDNAのターゲット領域をPCRにより増幅する工程、並びに
c)増幅産物を解析する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品や臨床試料中に含まれる微生物の検出法、及び微生物検出キットに関する。さらに詳しくは、食品や臨床試料中に含まれる微生物の生菌の選択的な検出が可能な検出法及び微生物検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
食品や臨床試料、又は環境中の一般生菌数の測定には、従来、平板培養法が用いられてきた。しかし、平板培養法は結果が得られるまでに2日間程度の時間を要する。
【0003】
食品の殺菌技術や加工技術が向上したことにより、微量であっても被検試料中に存在する微生物の生死の状態を識別するニーズが高まっている。特に、食品衛生検査や臨床検査領域においては、細菌の迅速検出法として、PCR法により各細菌の特異遺伝子を視覚的に捉えられる量まで増幅し、各細菌の存在の有無を判別及び定量する試みがなされている。しかし、細菌のDNAにターゲットを当てた場合、被検試料に元来含まれている死菌のバックグラウンドまで検出されるため、PCRで陽性判定がでた場合、必ずしも生きた細菌の存在を示唆しているとは限らなかった。そのために、食品衛生や臨床検査の分野では、PCRは高感度・迅速でありながら普及していないのが現状であった。
【0004】
最近では、mRNAをターゲットにして、逆転写酵素によりcDNAを作製後、各細菌の特異プライマーを用いてPCRを行い、被検試料中の生菌のみを検出・定量する試みがなされている。しかし、この方法では死菌のmRNAの逆転写そのものが阻害されるわけではなく、104cfu/ml又は104cfu/g以上の死菌が被検試料に含まれている場合、死菌のバックグラウンドを検出してしまうため、生死の判別法としては十分なものとは言えなかった。
【0005】
具体的には、PCR法を利用した細菌等の微生物の生死を判別する方法としては、特許文献1又は特許文献2に記載の方法が開示されている。しかしながら、これらのPCR法を利用した細菌等の微生物の生死を判別する方法には以下に示すような問題が残されていた。
【0006】
前記特許文献1の技術は、100℃、10〜30分の高温長時間加熱殺菌が施された一部のボイル(煮沸)食品中における死菌や、エタノール殺菌やホルムアルデヒト殺菌を施した食品中の微生物の識別を例示しているが、特に後者については実際そのような殺菌処理を施されている食品は存在しない。また、現在食品業界で主流な殺菌方法である低温保持殺菌(LTLT殺菌)、高温短時間(HTST殺菌)または超高温瞬間加熱殺菌(UHT殺菌)を施された食品中の生きた微生物のみの検出や、抗生物質投与を受けた感染症患者における臨床検体中の生きた特定病原菌等の検出は想定されていない。また、特許文献1の技術では、被検試料中に死菌バックグラウンドが104cfu/ml以上の濃度で存在する食品や臨床検体の場合、死菌由来のPCR最終増幅産物量が検出限界以上になり、被検試料のPCR陽性反応が生菌由来か死菌由来かの識別が不可能である。
【0007】
また、前記特許文献2の技術は、死細胞のRNA/DNAモル比が生細胞のそれと比較して相対的に低下することを利用した生菌と死菌を識別する方法を開示したものである。この方法は、トータルRNAを抽出し逆転写反応を利用してコンプリメンタリーDNAを作製し、その後PCRを行ってそのCt値を算出し、別途作製した検量線によりRNAのモル濃度を求め、一方で、このRNAに相当する染色体DNAの領域をPCRにより増幅してCt値を求め、前記検量線より染色体DNAのモル濃度を算出することにより、RN
A/DNAのモル比を求めるものである。すなわち、上記操作は、煩雑なトータルRNA抽出を行う必要があり、逆転写反応−PCRという2ステップを伴うために、定量性や迅速性で通常のDNAをターゲットにしたPCRより劣る。更に、生菌ではRNAが連続的に産生される一方、死菌由来のRNAは早期に分解されるため安定性に欠ける。また、高濃度の死菌を含む食品や臨床検体においてはその1/10濃度の生菌しか検出できない。したがって、迅速、高感度、且つ精確性を要求される食品衛生検査や臨床検査においては適用が困難であった。
【特許文献1】特表2003−530118号公報
【特許文献2】国際公開第2002/052034号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、食品や臨床試料中に含まれる微生物の生菌(live cell)(Viable-and-Culturable cell)を死菌(Dead cell)や損傷菌(Injured cell又はViable-but-Non Culturable cell;「VNC cell」)に比べて選択的に検出する方法、すなわち、培養法の特性をそのまま引き継いだ迅速代替検出法、及び同方法を実施するためのキットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々の殺菌方法に適用可能な、検出感度が高い食品衛生検査に適した微生物の生死の判別法、及び病院や臨床現場において感染症患者における特定病原菌の検出も可能な方法について鋭意検討したところ、被検試料中の微生物の生菌及び損傷菌を判別する方法において、被検試料をトポイソメラーゼ阻害剤及び/又はDNAジャイレース阻害剤で処理すること、又は、エチジウムモノアザイド処理と可視光照射、及びエチジウムモノアザイド以外のトポイソメラーゼ阻害剤及び/又はDNAジャイレース阻害剤で処理することにより、生菌染色体DNAを選択的にPCR反応により増幅することができ、培養法の迅速代替法となることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、被検試料中の微生物の生菌を検出するための方法であって、以下の工程を含む方法を提供する。
a)前記被検試料をトポイソメラーゼ阻害剤及び/又はDNAジャイレース阻害剤で処理する工程、
b)前記被検試料からDNAを抽出し、抽出されたDNAのターゲット領域をPCRにより増幅する工程、並びに
c)増幅産物を解析する工程。
【0011】
前記方法は、前記増幅産物の解析を、微生物の標準試料を用いて作成された微生物量及び増幅産物との関連を示す標準曲線を用いて行うことを好ましい態様としている。
【0012】
また前記方法は、前記PCRをリアルタイムPCR法により行い、PCRと増幅産物の解析を同時に行うことを好ましい態様としている。
【0013】
また前記方法は、前記被検試料が、乳、乳製品、乳若しくは乳製品を原料とする食品、血液試料、尿試料、髄液試料、滑液試料又は胸水試料のいずれかであることを好ましい態様としている。
【0014】
また前記方法は、前記微生物が細菌であることを好ましい態様としている。
【0015】
また前記方法は、前記ターゲット領域が23SrRNA遺伝子であることを好ましい態様としている。この態様においては、前記PCRを、配列番号1及び2に示すプライマー
セット、又は配列番号3及び4に示すプライマーセットを用いて行うことが好ましい。
【0016】
また前記方法は、前記微生物が病原性細菌であることを好ましい態様としている。この態様においては、前記ターゲット領域が病原遺伝子であることが好ましい。さらには、この態様においては、前記PCRを、配列番号7及び8に示すプライマーセットを用いて行うことが好ましい。
【0017】
また前記方法は、前記トポイソメラーゼ阻害剤が、アムサクリン(Amsacrine)、カンプトセシン(Camptothecin)、ドキソルビシン(Doxorubicin)、エリプチシン(Ellipticine)、エトポシド(Etoposide)、ミトキサントロン(Mitoxantrone)、サイントピン(Saintopin)、トポテカン(Topotecan)、及びCP−115,953から選択されることを好ましい態様としている。
【0018】
また前記方法は、前記DNAジャイレース阻害剤が、シプロフロキサシン(Ciprofloxacin)、オフロキサシン(Ofloxacin)、エノキサシン(Enoxacin)、ペフロキサシン(Pefloxacin)、フレロキサシン(Fleroxacin)、ノルフロキサシン(Norfloxacin)、ナリジクス酸(Nalidixic acid)、オキソリン酸(Oxolinic acid)、及びピロミド酸(Piromidic acid)から選択されることを好ましい態様としている。
【0019】
また前記方法は、前記トポイソメラーゼ阻害剤及び/又はDNAジャイレース阻害剤がエチジウムモノアザイドであり、エチジウムモノアザイドを添加した被検試料に可視光を照射する工程を含むことを好ましい態様としている。
【0020】
また前記方法は、エチジウムモノアザイドと、エチジウムモノアザイド以外のトポイソメラーゼ阻害剤及び/又はDNAジャイレース阻害剤で被検試料を処理することを好ましい態様としている。
【0021】
また前記方法は、前記a)の工程の前に、下記工程を行うことを好ましい態様としている。
d)前記被検試料をトポイソメラーゼ及び/又はDNAジャイレースで処理する工程。
【0022】
また前記方法は、被検試料中の微生物の生菌をPCRにより検出するためのキットであって、下記の要素を含むキットを提供する:
トポイソメラーゼ阻害剤及び/又はDNAジャイレース阻害剤、並びに
検出対象の微生物DNAのターゲット領域をPCRにより増幅するためのプライマー。
また前記キットは、さらに、トポイソメラーゼ及び/又はDNAジャイレースを含むことを好ましい態様としている。
【0023】
また前記キットは、前記トポイソメラーゼ阻害剤が、アムサクリン(Amsacrine)、カンプトセシン(Camptothecin)、ドキソルビシン(Doxorubicin)、エリプチシン(Ellipticine)、エトポシド(Etoposide)、ミトキサントロン(Mitoxantrone)、サイントピン(Saintopin)、トポテカン(Topotecan)、及びCP−115,953から選択されることを好ましい態様としている。
【0024】
また前記キットは、前記DNAジャイレース阻害剤が、シプロフロキサシン(Ciprofloxacin)、オフロキサシン(Ofloxacin)、エノキサシン(Enoxacin)、ペフロキサシン(Pefloxacin)、フレロキサシン(Fleroxacin)、ノルフロキサシン(Norfloxacin)、ナリジクス酸(Nalidixic acid)、オキソリン酸(Oxolinic acid)、及びピロミド酸(Piromidic acid)から選択されることを好ましい態様としている。
【0025】
また前記キットは、エチジウムモノアザイドと、エチジウムモノアザイド以外のトポイソメラーゼ阻害剤及び/又はDNAジャイレース阻害剤を含むことを好ましい態様としている。
【0026】
また前記キットは、前記プライマーが、配列番号1及び2に示すプライマーセット、又は配列番号3及び4に示すプライマーセットであることを好ましい態様としている。
【0027】
また前記キットは、前記プライマーが、配列番号7及び8に示すプライマーセットであることを好ましい態様としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
【0029】
<1>本発明の方法
本発明の方法は、被検試料中の微生物の生菌を検出するための方法であって、以下の工程を含む方法である。
a)前記被検試料をトポイソメラーゼ阻害剤及び/又はDNAジャイレース阻害剤で処理する工程、
b)前記被検試料からDNAを抽出し、抽出されたDNAのターゲット領域をPCRにより増幅する工程、並びに
c)増幅産物を解析する工程。
【0030】
本明細書において、「被検試料」とは、その中に存在する微生物の生菌を検出する対象であり、PCR法による染色体DNAの特定領域の増幅によって存在を検出することが可能なものであれば特に制限されないが、食品、例えば、乳、乳製品、乳若しくは乳製品を原料とする食品、血液試料、尿試料、髄液試料、滑液試料又は胸水試料等が挙げられる。特に、乳、乳製品、乳若しくは乳製品を原料とする食品が好ましい。本発明においては、被検試料は、前記のような製品又は生体試料そのものであってもよく、これを希釈もしくは濃縮したもの、又は本発明の方法による処理以外の前処理をしたものであってもよい。前記前処理としては、加熱処理、濾過、遠心分離等が挙げられる。
【0031】
「微生物」は、本発明の方法により検出される対象であり、PCR法により検出することが可能であって、かつ、トポイソメラーゼ阻害剤又はDNAジャイレース阻害剤の微生物に対する作用が生菌と死菌や損傷菌とで異なるものであれば、特に制限されないが、好ましくは細菌、糸状菌、酵母等が挙げられる。細菌としては、グラム陽性菌及びグラム陰性菌のいずれもが含まれる。グラム陽性菌としては、ブドウ球菌(スタフィロコッカス・エピダーミディス(Staphylococcus epidermidis))等のスタフィロコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)等のリステリア属細菌、バチラス・セレウス(Bacillus cereus)等のバチラス属細菌、マイコバクテリウム属細菌等が挙げられる。また、グラム陰性菌としては、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエシェリヒア属細菌、エンテロバクター・サカザキ(Enterobacter sakazakii)等のエンテロバクター属細菌、シトロバクター・コーセリ(Citrobacter koseri)等のシトロバクター属細菌、クレブシェラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)等のクレブシェラ属細菌に代表される腸内細菌群、サルモネラ属細菌、ビブリオ属細菌、シュードモナス属細菌等が挙げられる。
【0032】
本発明において「生菌」(live cell)とは、一般に好適な培養条件によって培養した際に増殖が可能であって、その微生物が有する代謝活性を示す状態(Viable-and-Cultura
ble state)であり、細胞壁の損傷はほとんど無い微生物をいう。なお、ここでいう代謝活性とはATP活性やエステラーゼ活性を例示することができる。
【0033】
「死菌」(Dead cell)とは、好適な培養条件によって培養した場合であっても増殖は不可能であって、代謝活性を示さない状態(Dead)の微生物である。また、細胞壁の構造は維持されているものの、細胞壁自体は高度に損傷を受けており、ヨウ化プロピジウムのような弱透過性の核染色剤等が細胞壁を透過する状態である。
【0034】
「損傷菌」(Injured cell or Viable-but-Non Culturable cell)とは、人為的ストレス又は環境的ストレスにより損傷を受けているために、一般に好適な培養条件によって培養した場合であっても、増殖は困難であるが、その微生物が有する代謝活性は、生菌と比較すると低下しているものの死菌と比較すると有意に活性を有する状態の微生物である。
【0035】
特に、食品衛生検査や臨床検査において、穏和な加熱処理や抗生物質投与により、損傷菌の状態を呈した細菌の検出が注目されており、本発明においては、生菌の検出のみならず、生菌と死菌又は損傷菌との識別も可能な微生物の検出方法を提供するものである。
【0036】
尚、生菌、損傷菌及び死菌の菌数単位は、通常、いずれも細胞数(cells)/mlで表される。生菌の細胞数は、好適な平板培地上で好適な条件で培養したときのコロニー形成数(cfu/ml(colony formating units / ml))で近似させることができる。また、損傷菌の標準試料は、例えば、生菌懸濁液を加熱処理、例えば沸騰水中で加熱処理することにより調製することができるが、その場合は、損傷菌の細胞数は、加熱処理する前の生菌懸濁液のcfu/mlで近似させることができる。尚、損傷菌を調製するための沸騰水中での加熱時間は、微生物の種類により異なるが、例えば実施例に記載された細菌では、50秒程度で損傷菌を調製することができる。さらに、損傷菌の標準試料は、抗生物質処理によっても調製することができるが、その場合は、損傷菌の細胞数は、生菌懸濁液を抗生物質で処理した後、抗生物質を除去し、可視光(波長600nm)の透過度、すなわち濁度を測定し、生菌数濃度が予め判っている生菌懸濁液の濁度と比較することにより、好適な平板培地上で好適な条件で培養したときのコロニー形成数(cfu/ml)で近似させることができる。
【0037】
尚、本発明の方法は、生菌の検出が目的であり、生菌と区別される微生物は、損傷菌であっても死菌であってもよい。
【0038】
本発明において、「生菌の検出」とは、被検試料中の生菌の有無の判別及び生菌の量の決定のいずれをも含む。また、生菌の量とは、絶対的な量に限られず、対照試料に対する相対的な量であってもよい。
以下、本発明の方法を工程毎に説明する。
【0039】
(1)ステップa)
被検試料をトポイソメラーゼ阻害剤及び/又はDNAジャイレース阻害剤で処理する。
本発明に用いるトポイソメラーゼ阻害剤(Topoisomerase poison)及びDNAジャイレース阻害剤(DNA Gyrase poison)とは、それぞれトポイソメラーゼ(Topoisomerase)及びDNAジャイレース(DNA Gyrase)によるDNAを切断する活性は阻害せず、DNAの再結合を阻害するもの、又はDNAを切断する速度を促進するものをいう。好ましくは、トポイソメラーゼ阻害剤及びDNAジャイレース阻害剤は、微生物の染色体DNAに共有結合するか、染色体DNAにインターカレートし、可視光照射により染色体DNAに共有結合するもの、単に染色体DNAにインターカレートするもの、又はトポイソメラーゼもしくはDNAジャイレースと複合体形成するものである。
【0040】
トポイソメラーゼ阻害剤又はDNAジャイレース阻害剤は、両方を用いてもよく、一方のみを用いてもよい。
【0041】
前記トポイソメラーゼ阻害剤及びDNAジャイレース阻害剤は、生菌と、損傷菌又は死菌及びウシ白血球等の体細胞、白血球、血小板等に対する作用が異なるものであることが好ましく、より具体的には、生菌の細胞壁よりも損傷菌もしくは死菌の細胞壁、又はウシ白血球等の体細胞、白血球、血小板等の細胞膜に対して透過性が高いものであることが好ましい。
【0042】
前記トポイソメラーゼ阻害剤としては、アムサクリン(Amsacrine)、カンプトセシン(Camptothecin)、ドキソルビシン(Doxorubicin)、エリプチシン(Ellipticine)、エトポシド(Etoposide)、ミトキサントロン(Mitoxantrone)、サイントピン(Saintopin)、トポテカン(Topotecan)、及びCP−115,953等が挙げられる。トポイソメラーゼ阻害剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種又はそれ以上を併用してもよい。
【0043】
前記DNAジャイレース阻害剤としては、シプロフロキサシン(Ciprofloxacin)、オフロキサシン(Ofloxacin)、エノキサシン(Enoxacin)、ペフロキサシン(Pefloxacin)、フレロキサシン(Fleroxacin)、ノルフロキサシン(Norfloxacin)、ナリジクス酸(Nalidixic acid)、オキソリン酸(Oxolinic acid)、及びピロミド酸(Piromidic acid)等が挙げられる。DNAジャイレース阻害剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種又はそれ以上を併用してもよい。
【0044】
トポイソメラーゼ阻害剤又はDNAジャイレース阻害剤による処理の条件は、適宜設定することが可能であり、例えば、検出対象の微生物の生菌及び死菌もしくは損傷菌の懸濁液に、種々の濃度のトポイソメラーゼ阻害剤又はDNAジャイレース阻害剤を加えて、種々の時間置いた後、遠心分離等によって菌体を分離し、PCRで分析することによって、生菌と死菌もしくは損傷菌を区別しやすい条件を決定することができる。さらに、検出対象の微生物の生菌、及びウシ白血球等の体細胞又は血小板等の懸濁液に、種々の濃度のトポイソメラーゼ阻害剤を加えて、所定時間放置した後、遠心分離等によって菌体及び前記各種細胞を分離し、PCRで分析することによって、生菌と各種細胞を区別しやすい条件を決定することができる。このような条件として、具体的には、アムサクリンでは終濃度1〜100μg/ml、25〜37℃、5分〜48時間、エリプチシンでは終濃度0.05〜5μg/ml、25〜37℃、10分〜48時間、カンプトセシンでは終濃度1〜100μg/ml、25〜37℃、10分〜48時間、シプロフロキサシンでは終濃度0.4〜40μg/ml、25〜37℃、10分〜48時間、エトポシドでは終濃度1〜100μg/ml、25〜37℃、5分〜48時間、ミトキサントロンでは終濃度0.1〜10μg/ml、25〜37℃、10分〜48時間が挙げられる。被検試料を所定条件で処理した後に、希釈及び/又は遠心分離等による除去によって、処理を停止することが好ましい。
【0045】
上記トポイソメラーゼ阻害剤及びDNAジャイレース阻害剤は、生菌の細胞壁よりも死菌及び損傷菌の細胞壁の方が透過しやすい。したがって、前記に示す作用時間内であれば生菌の細胞壁は実質的に透過せず、損傷菌もしくは死菌または死細胞になっている体細胞の細胞膜は透過すると考えられる。また、生きた体細胞でも細胞膜のみであって、細胞壁を有さないことから前記阻害剤は透過すると考えられる。その結果、トポイソメラーゼ阻害剤又はDNAジャイレース阻害剤は、体細胞の死細胞及び死菌並びに損傷菌の細胞内に進入し、続いて、染色体DNAと無秩序に共有結合し、もしくはインターカレートし、もしくはトポイソメラーゼと複合体を形成し、さらに、体細胞内のトポイソメラーゼII又はトポイソメラーゼI、死菌又は損傷菌細胞内のトポイソメラーゼIV、もしくはトポイソメラーゼI、III、又は、DNAジャイレースによるDNA再結合を阻害すること、又はDN
A切断速度を促進することにより、染色体DNAが断片化されると推定される。
【0046】
生菌よりも損傷菌や死菌の染色体DNAが優先的に断片化されると、生菌では染色体DNAのターゲット領域がPCRにより増幅されるのに対し、損傷菌や死菌ではターゲット領域が切断される結果PCR増幅が阻害され、例えばアムサクリンやカンプトセシンでは、さらにクロスリンクするためにPCR増幅が阻害される。したがって、PCRによって、生菌を損傷菌や死菌に比べて選択的に検出することができる。
【0047】
尚、死菌では、細胞内のトポイソメラーゼ及び/又はDNAジャイレースの活性が失われていることがある。また、損傷菌でもこれらの酵素の活性が低下又は喪失していることがある。したがって、本発明の好ましい態様においては、ステップa)に先立って、被検試料をトポイソメラーゼ及び/又はDNAジャイレースで処理する(ステップd))。ステップd)については後で詳述する。
【0048】
本発明の他の好ましい態様は、前記トポイソメラーゼ阻害剤又はDNAジャイレース阻害剤がエチジウムモノアザイドであり、エチジウムモノアザイドを添加した被検試料に可視光を照射する工程を含む。エチジウムモノアザイド(EMA)は、微生物の生菌の細胞壁よりも損傷菌や死菌の細胞壁を透過しやすい。したがって、EMAは生菌の細胞壁は実質的に透過せず、損傷菌や死菌の細胞壁や死細胞になっている体細胞の細胞膜は透過すると考えられる。尚、血液中の白血球、血小板が生細胞の場合、EMAは滅菌水や低張な塩溶液下で前記細胞の細胞膜をより透過する。EMAは、体細胞の死細胞及び損傷菌並びに死菌の細胞内に進入して核内DNAに無秩序にインターカレートした後、可視光照射によりインターカレートしたEMAのみがナイトレンに変換され、核内DNAに共有結合する。そして、体細胞内のトポイソメラーゼII、損傷菌や死菌細胞内のトポイソメラーゼIV、又は、DNAジャイレースによるDNA再結合を阻害することにより、染色体DNAが断片化されると推定される。
【0049】
EMAによる処理の条件は、適宜設定することが可能であり、例えば、検出対象の微生物の生菌、及び損傷菌や死菌の懸濁液に、種々の濃度のEMAを加えて、種々の時間置いた後、可視光を照射して、必要に応じて遠心分離等によって菌体を分離し、PCRにより分析することによって、生菌と死菌及び損傷菌とを区別しやすい条件を決定することができる。また、可視光照射の条件も、照射時間を変えて上記の実験を行うことにより、好ましい条件を決定することができる。具体的には、EMAによる処理は終濃度0.5〜100μg/ml、4〜10℃、5分〜48時間が好ましい。また、EMA処理は、遮光下で行うことが好ましい。可視光としては、500〜700nmの成分を含む可視光が好ましい。また、可視光照射の条件として具体的には、被検試料から10〜50cmの距離から100〜750Wの可視光を5分〜2時間照射する条件が挙げられる。可視光照射は、低温下で、例えば試料を氷冷して行うことが好ましい。
【0050】
本発明の特に好ましい態様は、被検試料に対し、EMA処理及び可視光照射処理と、EMA以外のトポイソメラーゼ阻害剤及び/又はDNAジャイレース阻害剤による処理を行う。この場合、EMA処理及び可視光照射処理と、EMA以外のトポイソメラーゼ阻害剤及び/又はDNAジャイレース阻害剤による処理の順序は特に制限されず、また、これらの処理を同時に行ってもよい。
【0051】
(2)ステップb)
ステップa)で処理された被検試料からDNAを抽出し、抽出されたDNAのターゲット領域をPCR(White,T.J. et al., Trends Genet., 5, 185 (1989))により増幅する。
【0052】
被検試料からのDNAの抽出は、抽出されたDNAがPCRにおける鋳型として機能し得る限り特に制限されず、一般的に用いられている微生物のDNAの抽出法にしたがって行うことができる。
【0053】
DNAの抽出法は、例えば、Maniatis T., Fritsch E.F., Sambrook, J.: Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 3rd edn. Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor
Laboratory Press, 2001に記載されている。
【0054】
本発明において「ターゲット領域」とは、染色体DNAのうち、本発明に用いるプライマーを用いたPCRにより増幅され得る領域であり、検出対象の微生物を検出することができるものであれば特に制限されず、目的に応じて適宜設定することができる。例えば、被検試料に検出対象の微生物と異なる種類の細胞が含まれる場合には、ターゲット領域は、検出対象の微生物に特異的な配列を有することが好ましい。また、目的によっては、複数種の微生物に共通する配列を有するものであってもよい。さらに、ターゲット領域は単一であっても、複数であってもよい。検出対象の微生物に特異的なターゲット領域に対応するプライマーセットと、広汎な微生物の染色体DNAに対応するプライマーセットを用いると、検出対象の微生物の生菌量と、多数種の微生物の生菌量を、同時に測定することができる。ターゲット領域の長さとしては、通常80〜3000塩基、好ましくは900〜3000塩基、特に好ましくは2000〜3000塩基が挙げられる。具体的には、16S rRNA遺伝子及び23S rRNA遺伝子が挙げられる。これらの中では、23S rRNA遺伝子が好ましい。
【0055】
PCRに用いるプライマーは、上記ターゲット領域を特異的に増幅することができるものであれば特に制限されない。具体的には、23S rRNA遺伝子に対応するプライマーとしては、配列番号1及び2に示すプライマーセット、又は配列番号3及び4に示すプライマーセットが挙げられる。また、16S rRNA遺伝子に対応するプライマーとしては、配列番号5及び6に示すプライマーセットが挙げられる。
【0056】
また、検出対象の微生物が病原性細菌である場合には、ターゲット領域としては病原遺伝子が挙げられる。病原遺伝子としては、リステリア属細菌のリステリオリシンO(hlyA)遺伝子、サルモネラ属細菌のエンテロトキシン遺伝子やinvA遺伝子、病原性大腸菌O−157のベロ毒素遺伝子、エンテロバクター属細菌のMMS遺伝子(エンテロバクター・サカザキ菌)、黄色ブドウ球菌エンテロトキシン遺伝子、バチルス・セレウス菌のセレウリド(嘔吐毒素)遺伝子やエンテロトキシン遺伝子、ボツリヌス菌の各種毒素遺伝子等が挙げられる。また、同遺伝子に対応するプライマーとしては、配列番号7及び8に示すプライマーセットが挙げられる。
【0057】
複数種の微生物に共通するプライマーを用いると、被検試料中の複数種の微生物の生菌を検出することができる。また、特定の細菌に特異的なプライマーを用いると、被検試料中の特定の菌種の生菌を検出することができる。
【0058】
PCRの条件は、PCRの原理に則った特異的な増幅が起る限り特に制限されず、適宜設定することができる。
【0059】
本発明の各態様のうち、EMA処理及び可視光処理を行う態様においては、ターゲット領域が長い場合、例えば2000以上の場合は、EMA処理及び可視光照射処理のみでも効果的に生菌を検出することができる。一方、ターゲット領域が短い場合、例えば200以下の場合は、EMA処理及び可視光処理と、EMA以外のトポイソメラーゼ阻害剤及び/又はDNAジャイレース阻害剤による処理を併用することが好ましい。
【0060】
(3)ステップc)
続いて、PCR増幅産物を解析する。解析法は、PCR増幅産物の検出又は定量が可能なものであれば特に制限されず、電気泳動法、リアルタイムPCR法(Nogva et al./ Application of 5'-nuclease PCR for quantitative detection of Listeria monocytogenes in pure cultures, water, skim milk, and unpasteurized whole milk. Appl. Environ. Microbiol., vol.66, 2000, pp.4266-4271、 Nogva et al./ Application of the 5'-nuclease PCR assay in evaluation and development of methods for quantitative detection of campylobacter jejuni. Appl. Environ. Microbiol., vol.66, 2000, pp.4029-4036)等が挙げられる。電気泳動法によれば、PCR増幅産物の量、及びその大きさを評価することができる。また、リアルタイムPCR法によれば、迅速にPCR増幅産物の定量を行うことができる。リアルタイムPCR法を採用する場合、一般に増幅サイクル数1〜10までは蛍光強度の変化はノイズレベルでありゼロに等しいので、それらを増幅産物ゼロのサンプルブランクと見なし、それらの標準偏差SDを算出しその10を乗じた蛍光値をスレッショード値とし、そのスレッショード値を最初に上回るPCRサイクル数をサイクルスレッショード値(Ct値)という。従って、PCR反応溶液に初期のDNA鋳型量が多い程、Ct値は小さな値となり、鋳型DNA量が少ない程、Ct値は大きな値となる。また、鋳型DNA量が同じでも、その鋳型内のPCRのターゲット領域に切断が生じている割合が多くなる程、同領域のPCR反応のCt値は大きな値となる。
【0061】
また、増幅産物の有無は、増幅産物の融解温度(TM)パターンを解析することによっても行うことができる。
上記の各方法は、本発明の方法における諸条件の最適化に際しても使用することができる。
【0062】
本発明の方法によって生菌を検出する場合、PCR増幅産物の解析は、同定されている微生物の標準試料を用いて作成された微生物量及び増幅産物との関連を示す標準曲線を用いると、生菌の有無又は定量の精度を高めることができる。標準曲線は予め作成しておいたものを用いることができるが、被検試料と同時に標準試料について本発明の各ステップを行って作成した標準曲線を用いることが好ましい。また、予め微生物量とDNA量との相関を調べておけば、その微生物から単離されたDNAを標準試料として用いることもできる。
【0063】
(4)ステップd)
前記のとおり、死菌では、細胞内のトポイソメラーゼ及び/又はDNAジャイレースの活性が失われることがあり、トポイソメラーゼ阻害剤又はDNAジャイレース阻害剤で処理しても、染色体DNAの切断が起らないことがある。このような場合であっても、ステップa)に先立って、被検試料をトポイソメラーゼ及び/又はDNAジャイレースで処理すると、死菌に選択的なDNAの切断が起るため、PCRによるターゲット領域の増幅を阻害することができる。
【0064】
トポイソメラーゼ及びDNAジャイレースは、両方を用いてもよく、一方のみを用いてもよい。また、各々一種を単独で用いてもよく、2種又はそれ以上を併用してもよい。
トポイソメラーゼ又はDNAジャイレースによる反応条件としては、具体的には後記する参考例に示される条件が例示されるが、一般的には、食品や血液等の臨床検体から回収された微生物を含む上清に対し、4℃にて14,000×g、10分間冷却遠心分離を行って上清を除去した後、DNA切断用緩衝液(10mMトリス塩酸緩衝液pH7.9、50mM塩化カリウム、50mM塩化ナトリウム、5mM塩化マグネシウム、0.01mM
EDTA、2.5%グリセロール)1mlを添加し、終濃度1〜50mMとなるようにトポイソメラーゼ又はDNAジャイレースを添加し、さらに終濃度1〜50mMとなるようにATPを加えて、30〜37℃で、5〜30分反応させる。尚、トポイソメラーゼ及
びDNAジャイレースの活性にはATPが必要であるため、これらの酵素で被検試料を処理する際には、ATP又はATP合成系を添加することが好ましい。
【0065】
<2>本発明のキット
本発明のキットは、被検試料中の微生物の生菌をPCRにより検出するためのキットであって、トポイソメラーゼ阻害剤及び/又はDNAジャイレース阻害剤、並びに検出対象の微生物DNAのターゲット領域をPCRにより増幅するためのプライマーを含む。
【0066】
上記キットにおいて、トポイソメラーゼ阻害剤及び/又はDNAジャイレース阻害剤は、本発明の方法で説明したものと同様である。
【0067】
本発明のキットの好ましい態様は、トポイソメラーゼ阻害剤及び/又はDNAジャイレース阻害剤として、EMA及びEMA以外の他のトポイソメラーゼ阻害剤及び/又はDNAジャイレース阻害剤を含む。
【0068】
また、本発明のキットは、上記の各要素に加えて、トポイソメラーゼ及び/又はDNAジャイレースを含む。
【0069】
本発明のキットは、さらに、希釈液、トポイソメラーゼ及び/又はDNAジャイレース反応用の反応液、本発明の方法を記載した説明書等を含めることもできる。
【実施例】
【0070】
次に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
〔実施例1〕
微生物の生菌と損傷菌をそれぞれトポイソメラーゼ阻害剤で処理し、各染色体DNAにおける切断の度合いを検討した。
【0072】
1.試料の調製
1−1)生菌及び損傷菌の懸濁液の調製
グラム陽性細菌であるリステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes JCM 2873;以下、「リステリア」と略記することがある)を、BHIブロスを用いて30℃で培養し、対数増殖期の培養液40mlを4℃で8,000×g、15分間冷却遠心分離し、上清を除去した。菌体に生理食塩水40mlを加えてよく攪拌し、同様に冷却遠心分離し、上清を除去した後、菌体に10mlの生理食塩水を加え、生菌懸濁液とした。この生菌懸濁液の生菌数を標準寒天平板培地により測定したところ、1.2×109cfu/mlであった。
【0073】
また、上記生菌懸濁液1mlを1.5mlマイクロチューブに入れ、沸騰水に50秒浸積後、氷水により急冷して損傷菌懸濁液を調製した。尚、この懸濁液中の細胞には少数の生菌及び死菌も一部含まれると考えられるが、主に損傷菌であるため、単に「損傷菌」と記載する。尚、本発明の方法は本来生菌を検出する方法であり、生菌と区別される微生物は、損傷菌であるか死菌であるかは問わない。以下に示す他の細菌についても同様である。
【0074】
1−2)トポイソメラーゼ阻害剤処理
前記で調製したリステリアの生菌懸濁液及び損傷菌懸濁液(それぞれ1.2×109cfu/ml)1mlずつを、新しく調製した9 mlのBHIブロスに加え(培地中の生菌及び損傷菌の菌数はともに1.2×108cfu/ml)、DMSOに溶解した5mg
/mlのアムサクリン溶液100μlを添加した。アムサクリンの終濃度は50μg/ml、DMSOの終濃度は1%であった。その後、それぞれ30℃で24時間、48時間、又は72時間インキュベーションした。
【0075】
損傷菌については、損傷菌体内に残存している活性を有するDNaseが損傷菌の染色体DNAに与える影響を調べるため、損傷菌懸濁液1mlを新しく調製した9mlのBHIブロスに加えた後、上記アムサクリン溶液の代りに100μlのDMSOを加え(DMSO終濃度1%)、30℃で72時間インキュベーションした。なお、生菌懸濁液1ml、及び損傷菌懸濁液1mlをコントロールとした。
【0076】
1−3)DNAの抽出
各懸濁液を、4℃で8,000×g、15分間冷却遠心分離し、上清を完全に除去した。ペレットに0.5mlの5mM EDTA溶液を加え、予め10mM塩化ナトリウム水溶液により5mg/mlに調製されたアクロモペプチダーゼ溶液(和光純薬社製、カタログ番号: 014-09661)20μlを加え、50℃で30分間放置した。その後、10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)を0.5ml加え、さらに1250U/mlプロテイナーゼK(シグマ社製、E.C.3.4.21.64)を20μl加え、予め滅菌水により10%(w/v)に調製されたSDS溶液を400μl加えて、50℃で一夜処理した。
【0077】
前記各処理液を2ml用マイクロチューブ2本に半量ずつ分けて入れ、1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)/飽和フェノール0.5mlを加え、15分間穏やかに混合した後、0.5mlのクロロホルムを加え、5分間穏やかに混合した。4℃で6,000×g、10分間冷却遠心分離し、上層の水層を、新しく用意した2ml容マイクロチューブに移し、3M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.2)を70μl、99.5%冷エタノールを1.21mlそれぞれ加えて穏やかに混合した。4℃で15,000×g、10分間冷却遠心分離し、上清を除去した後、0.4mlの70%冷エタノールで洗浄した。ペレットに0.5mlのTEバッファー(10mMトリス塩酸緩衝液、1mM EDTA・2Na)を加え、4℃で一夜放置してDNAを溶解した。
【0078】
予め滅菌水により10mg/mlに調製したRNase(シグマ社製:EC.3.1.27.5)溶液を5μl加え、37℃で1時間インキュベーションした。フェノール/クロロホルム(1/1)溶液を0.25ml加え、10分間穏やかに混合し、クロロホルム0.25mlを更に加え、5分間穏やかに混合した。4℃で6,000×g、10分間冷却遠心分離し、上層の水層を新しい2ml容マイクロチューブに移し、3M酢酸ナトリウム水溶液を50μl、99.5%冷エタノールを1mlそれぞれ加えて穏やかに混合した。4℃で15,000×g、10分間冷却遠心分離し、上清を除去した後、0.4mlの70%冷エタノールで洗浄してペレットを乾燥させた。
【0079】
乾燥させたペレットに125μlのTEバッファーを加え4℃で一夜放置することによりDNAを溶解させ、抽出DNAとした。精製DNA溶液の260nm及び280nmの吸光値(OD260、OD280:DNA溶液50μg/mlにおいてOD260=1.0、セル長1cm)を測定し、DNA濃度をOD260から算出し、精製DNAの純度をOD260/OD280により評価した。
【0080】
2.試験結果
1−3)により抽出した染色体DNAを0.8 %アガロースゲルを用いて電気泳動した。電気泳動完了後、アガロースゲルを1μg/mlエチジウムブロマイド水溶液に20分間浸積し、次いでイオン交換水で2回洗浄した後、UVトランスイルミネーター(波長254nm)により染色体DNAの切断の度合いを観察した。
【0081】
上記各抽出DNAを電気泳動により解析した。結果を図1に示す。図1は、リステリア(損傷菌)の染色体DNAに与える損傷菌体内に保持されているDNaseの影響、及びリステリア(生菌及び損傷菌)の染色体DNAに与えるアムサクリンの影響を表す。
【0082】
その結果、リステリアの損傷菌懸濁液にアムサクリンを添加せずに、72時間までインキュベーションしても、ウェルに滞留した極めて長いDNA断片、及び19,329 bp付近に位置する長いDNA断片に関して、有意な差は見受けられず、損傷菌体内に活性が残存しているDNaseにより、リステリア損傷菌の染色体DNAはほとんど切断を受けていなかった。しかし、同損傷菌にアムサクリンを添加して72時間までインキュベーションすると、特にウェルに滞留した極めて長いDNA断片が明らかに減少し、リステリアの損傷菌体内に残存している活性のあるDNAジャイレース又はトポイソメラーゼを介して、アムサクリンが染色体DNAを至る所で切断状態とすることが示唆された。
【0083】
また、リステリアの生菌懸濁液にアムサクリンを添加し、72時間までインキュベーションすると、24時間でウェルに滞留した極めて長いDNA断片、及び19,329 bp付近に位置する長いDNA断片が一時的に減少し、その後、インキュベーションを続けると、双方のDNA断片はインキュベーション時間に比例して増加した。これにより、アムサクリンは24時間経過時点で生菌の細胞壁を透過し、生菌内のDNAジャイレース又はトポイソメラーゼを介して染色体DNAを切断状態にするが、その中で、アムサクリンの作用を僅かしか受けていない、もしくはほとんど受けていないリステリアの残存した生菌が、再度インキュベーションすることにより増殖することが示唆された。
【0084】
また、アムサクリンは黄色着色物質であり疎水性の極めて高い物質なので、1〜30分という短時間作用の場合、細胞壁の損傷のない親水性の高い生菌の細胞壁はほとんど透過せず生菌のペレットは白色であるが、損傷菌は細胞壁の損傷があり疎水性も増していることから、損傷菌の細胞壁は透過し、損傷菌のペレットは黄色を呈している。本実施例により、生菌又は損傷菌であっても、アムサクリンが細胞壁を透過すれば、菌体内のDNAジャイレース及び/又はトポイソメラーゼを介して染色体DNAを至るところで切断状態にすることが確認されたが、短時間作用なら損傷菌の染色体が穏和であるが選択的にランダムに切断されることになり、アムサクリン等の短時間のトポイソメラーゼ阻害剤による追加処理(例えば、EMA等のトポイソメラーゼ阻害剤で処理した後、さらに追加で処理)を行えば、PCR法を用いて生菌と損傷菌又は死菌を高感度に判別することが可能である。
【0085】
〔実施例2〕
DNAジャイレース阻害剤で処理した微生物の生菌と損傷菌の染色体DNAを用い、23SrRNA遺伝子をターゲットにしたPCR法による解析を行った。
【0086】
1.試料の調製
1−1)生菌及び損傷菌の懸濁液の調製
グラム陰性細菌であるエンテロバクター・サカザキ(Enterobacter sakazakii ATCC 51329株;以下、「エンテロバクター」と略記することがある)をBHIブロスを用いて37℃で培養し、対数増殖後期の培養液40mlを4℃で8,000×g、15分間冷却遠心分離し、上清を除去した。菌体に生理食塩水40mlを加えてよく攪拌し、同様に冷却遠心分離し、上清を除去した後、菌体に10mlの生理食塩水を加え、生菌懸濁液とした。この生菌懸濁液の生菌数を標準寒天平板培地により測定したところ、4.4×108cfu/mlであった。
【0087】
また、上記生菌懸濁液1mlを1.5mlマイクロチューブに入れ、沸騰水に50秒浸積後、氷水により急冷して損傷菌懸濁液を調製した。
リステリア・モノサイトゲネスJCM 2873の生菌懸濁液及び損傷菌懸濁液を、実施例1と同様にして調製した。尚、生菌懸濁液中の生菌数は4.0×108cfu/mlであった。
【0088】
1−2)DNAジャイレース阻害剤(シプロフロキサシン)処理
エンテロバクター(生菌及び損傷菌)懸濁液、及びリステリア(生菌及び損傷菌)懸濁液のそれぞれ各1mlづつを分取し、9mlの新しく調製したBHIブロスに加え(培地中のエンテロバクターの生菌及び損傷菌の菌数は、それぞれ4.4×107cfu/ml、4.4×107cfu/ml、リステリアの生菌及び損傷菌の菌数は、4.0×107cfu/ml、4.0×107cfu/ml)、シプロフロキサシン溶液(130μg/ml;生理食塩水で溶解)2mlをそれぞれに添加した。
【0089】
損傷菌については、損傷菌体内に残存している活性を有するDNaseが損傷菌の染色体DNAに与える影響を調べるため、エンテロバクター及びリステリアの各損傷菌懸濁液1mlを新しく調製した9mlのBHIブロスにそれぞれ加えた後、上記シプロフロキサシン溶液の代わりに生理食塩水2 mlを加えたものを用意した。
その後、エンテロバクター(生菌及び損傷菌)は37℃で1時間30分、3時間30分、5時間又は72時間培養した懸濁液をそれぞれ調製した。また、リステリア(生菌及び損傷菌)は30℃で1時間30分、3時間30分、5時間又は72時間培養した懸濁液をそれぞれ調製した。さらに、0時間培養に相当するコントロールとして、エンテロバクター、リステリアの各々の生菌及び損傷菌懸濁液を、シプロフロキサシン未添加生菌懸濁液、シプロフロキサシン未添加損傷菌懸濁液とした。
【0090】
各懸濁液を、4℃で8,000×g、15分間冷却遠心分離し、上清を完全に除去してペレットを回収した。エンテロバクター、及びリステリアそれぞれについて、以下の方法でDNAを抽出した。
【0091】
1−3)DNAの抽出
エンテロバクターのDNAの抽出は、下記の方法により行った。
0.5mlの10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)を前記ペレットに加え、10μlの1250U/mlプロテイナーゼK(シグマ社製:EC.3.4.21.64)を加え、予め滅菌水により10%(w/v)に調製されたSDS溶液200μlを加え、50℃で一夜処理した。この処理液に、1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)/飽和フェノール0.5mlを加え、15分間穏やかに混合した後、0.5mlのクロロホルムを加え、5分間穏やかに混合した。4℃で6,000×g、10分間冷却遠心分離し、上層の水層を、新しく用意した2ml容マイクロチューブに移し、3M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.2)を70μl、99.5%冷エタノール1.29 ml加え、穏やかに混合した。4℃で15,000×g、10分間冷却遠心分離し、上清を除去した後、0.4mlの70%冷エタノールで洗浄した。ペレットに0.5mlのTEバッファー(10mMトリス塩酸緩衝液、1mM EDTA・2Na)を入れ、4℃で一夜放置してDNAを溶解した。
【0092】
予め滅菌水により10mg/mlに調製したRNase(シグマ社製:EC.3.1.27.5)溶液5μlを加え、37℃で1時間インキュベーションした。フェノール/クロロホルム(1/1)溶液を0.25ml加え、10分間穏やかに混合し、クロロホルム0.25mlを更に加え、5分間穏やかに混合した。4℃で6,000×g、10分間冷却遠心分離し、上層の水層を新しい2ml容マイクロチューブに移し、3M酢酸ナトリウム水溶液を50μl、99.5%冷エタノール1mlそれぞれを加え、穏やかに混合した。4℃で15,000×g、10分間冷却遠心分離し、上清を除去した後、0.4mlの70%冷エタノールで洗浄しペレットを乾燥させた。
【0093】
乾燥させたペレットに125μlのTEバッファーを加え4℃で一夜放置することによりDNAを溶解させ、抽出DNAとした。精製DNA溶液の260nm及び280nmの吸光値(OD260、OD280:DNA溶液50μg/mlにおいてOD260=1.0、セル長1cm)を測定し、DNA濃度をOD260から算出し、精製DNAの純度をOD260/OD280により評価した。
【0094】
なお、リステリアのDNAの抽出は、実施例1の「1−3)DNAの抽出」の方法に準じて行った。
【0095】
1−4)PCR増幅産物の電気泳動
1−3)により抽出した染色体DNAを0.8 %アガロースゲルを用いて電気泳動した。電気泳動完了後、アガロースゲルを1μg/mlエチジウムブロマイド水溶液に20分間浸積し、次いでイオン交換水で2回洗浄した後、UVトランスイルミネーター(波長254nm)により染色体DNAの切断の度合いを観察した。
【0096】
2.試験方法(23SrRNA遺伝子をターゲットにしたPCR、及び電気泳動)
2−1)PCRマスターミックスの調製
下記の組成によりマスターミックス(全量50μl)を調製した。
・Ex-Taq(宝酒造社製、カタログ番号:RR001B):0.25μl
・10×Ex-Taq Buffer(宝酒造社製、カタログ番号:RR001B):5μl
・dNTP mixture(宝酒造社製、カタログ番号:RR001B):4μl
・5pmol/μl、配列番号1(23S−F)DNA:2.5μl
・5pmol/μl、配列番号2(23S−R)DNA:2.5μl
・5pmol/μl、配列番号3(23S−MF)DNA:2.5μl
・5pmol/μl、配列番号4(23S−MR)DNA:2.5μl
・2×SYBA Green (BMA社製、カタログ番号:50513):10μl
・滅菌水:15.75μl
・鋳型DNA(15ng/μl):10μl
尚、配列番号1、2のプライマーは、23S rRNAのほぼ全領域を増幅するためのプライマーであり、およそ2840bpの増幅断片がグラム陰性細菌を中心に得られる。配列番号3、4のプライマーは23S rRNAの中央領域に相当し、約900bpの増幅断片がグラム陽性細菌(グラム陰性細菌も増幅する)から得られる。
【0097】
2−2)23SrRNA遺伝子増幅用PCRサーマルサイクルプロファイル
エンテロバクターの23S rRNA遺伝子増幅用PCRサーマルサイクルプロファイルは表1に示すとおりである。
【0098】
【表1】

【0099】
リステリアの23S rRNA遺伝子増幅用PCRサーマルサイクルプロファイルは表2に示すとおりである。
【0100】
【表2】

【0101】
2−3)PCR反応
前記1−3)で調製した各DNA溶液を、TEバッファーで15ng/μlに希釈し、その10μlを前記2−1)の鋳型DNAとして用いた。すなわち、50μlのPCR反応液中に150ngの鋳型DNAを含む。ネガティブコントロールとしてはTEバッファー10μlを用いた。
【0102】
前記2−2)で示したPCRサーマルサイクルプロファイルに従い、リアルタイムPCR装置i Cycler(バイオラッド社製、機種番号:iQ)を用いて、PCR反応、及び増幅産物のTM解析(融解温度解析)を行った。リアルタイムPCRのスレッシュホールド値(境界値)は、0サイクル〜10サイクルまでのSYBA Greenによる蛍光量の標準偏差SDに10を乗じた値とした。また、各リアルタイムPCR増幅曲線において、スレッシュホールド値を超えるサイクル数を、以下「Ct値」と略記する。
【0103】
3.試験結果
本実施例における試験結果を図2〜図11に示す。図2は、エンテロバクター(損傷菌)の染色体DNAに与える菌体内保持DNaseの影響を示している。図3は、同菌(生菌及び損傷菌)の染色体DNAに与えるシプロフロキサシンの影響を示している。図4は、リステリア(損傷菌)の染色体DNAに与える損傷菌体内保持DNaseの影響を示している。図5は、及び同菌(生菌及び損傷菌)の染色体DNAに与える同薬剤の影響を示している。
【0104】
また、図6は、シプロフロキサシン処理されたエンテロバクター生菌の23S rRNA遺伝子をターゲットにしたリアルタイムPCR曲線を示している。図7は、図6における増幅産物のTMパターン解析を示している。同様に、同薬剤で処理された同菌損傷菌のリアルタイムPCR曲線及び増幅産物のTMパターン解析結果を図8、及び図9にそれぞれ示す。さらに、同薬剤で処理されたリステリア生菌及び損傷菌のリアルタイムPCR曲線を図10、及び図11にそれぞれ示す。
【0105】
図2より、エンテロバクター損傷菌体内に保持されているDNaseにより、損傷菌染色体DNAは72時間かけてわずかに切断されていることが確認された。しかしながら、図3より、損傷菌にシプロフロキサシンを1.5〜5時間作用させても上記DNaseより遥かに強いDNA切断現象が見受けられた。生菌の場合、19329 bp付近の長い染色体D
NA断片が逆に増加し、シプロフロキサシンを短時間作用させることにより、バクテリアDNAジャイレースを介して生菌より損傷菌の染色体DNAをより切断していることが確認された。
図4が示すように、損傷菌染色体DNAは、19329bp付近の染色体DNA由来の長い断片では、72時間かけてもリステリア損傷菌体内に保持されているDNaseによるDNA切断現象はほとんど見受けられなかった。しかしながら、図5が示すように、損傷菌にシプロフロキサシンを72時間作用させると、上記DNaseにより、はるかに強いDNA切断現象が見受けられた。生菌へのシプロフロキサシンの作用効果も同様と解釈される。
【0106】
また、エンテロバクターの生菌、損傷菌ともに、72時間シプロフロキサシンを作用させると、PCRが大幅に抑制されたが、Ct(生菌;Cip72時間)−Ct(生菌;Cip未)=13、及びCt(損傷菌;Cip72時間)−Ct(損傷菌;Cip未)=17に示されるように、損傷菌の方がよりPCRが抑制された。すなわち、27サイクルでPCRを打ち切った場合、生菌由来のPCRは陽性、損傷菌由来のPCRは陰性と判断されるため、シプロフロキサシンにより生菌と損傷菌を識別できることが確認された。リステリアについても、同様に、図10、図11にそれぞれ示すように、20サイクルでPCRを打ち切った場合、生菌由来のPCRは陽性、損傷菌由来のPCRは陰性と判断されるため、同薬剤によりリステリアに関しても生菌と損傷菌が識別できることが確認された。
【0107】
図7及び図9に示されるように、シプロフロキサシンを72時間作用させたエンテロバクター・サカザキ生菌と損傷菌の染色体DNAのPCR増幅産物のTMパターン解析により、生菌のPCR増幅産物は、ターゲットである23S rRNA遺伝子に相当するが、損傷菌のPCR増幅産物はターゲットとしている増幅産物ではないと推定される。損傷菌のPCR増幅産物は、鋳型DNAの23S rRNA遺伝子の内部に複数の切断が生じたため、結果として23S rRNAの一部の領域が増幅されたと考えられる。以上のように、シプロフロキサシン処理により、PCRによる生菌と損傷菌の識別が可能であることが示された。
【0108】
〔実施例3〕
EMAで処理した微生物の生菌と損傷菌の染色体DNAを用い、16SrRNA遺伝子又は23SrRNA遺伝子をターゲットにしたPCR法による解析を行った。
【0109】
1.試料の調製
1−1)グラム陰性細菌(生菌及び損傷菌)懸濁液の調製
大腸菌DH5α(以下、「大腸菌」と略記することがある)、シトロバクター・コーセリ(Citrobacter koseri JCM 1658;以下、「シトロバクター」と略記することがある)、サルモネラ・エンテリティディス(Salmonella enteritidis IID 604;以下、「サルモネラ」と略記することがある)、クレブシェラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca JCM 1665;以下、「クレブシェラ」と略記することがある)を、BHIブロスを用いて37℃で培養し、対数増殖後期の培養液40mlを4℃で8,000×g、15分間冷却遠心分離し、上清を除去した後、生理食塩水40mlを入れよく攪拌し、同様に冷却遠心分離し、上清を除去した後、菌体に10mlの生理食塩水を加え、生菌懸濁液とした。これらの生菌懸濁液の生菌数は、大腸菌:3.2×108cfu/ml、シトロバクター:6.7×107cfu/ml、サルモネラ:1.9×108cfu/ml、クレブシェラ:4.8×108cfu/mlであった。
【0110】
また、各生菌懸濁液1mlを1.5mlマイクロチューブに入れ、沸騰水に50秒浸積後、氷水により急冷して損傷菌懸濁液を調製した。
【0111】
1−2)グラム陽性細菌(生菌及び損傷菌)懸濁液の調製
バチルス・セレウス(Bacillus cereus JCM 2152;以下、「バチルス」と略記することがある)、及びスタフィロコッカス・エピダーミディス(Staphylococcus epidermidis KD;以下、「スタフィロコッカス」と略記することがある)を37℃で、また、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes JCM 2873;以下、「リステリア」と略記することがある)を30℃で、それぞれBHIブロスで培養した。対数増殖期の各培養液40ml(バチルスに関しては栄養型細胞)を4℃で8,000×g、15分間冷却遠心分離し、上清を除去した後、生理食塩水40mlを入れてよく攪拌し、同様に冷却遠心分離し、上清を除去した後、菌体に10mlの生理食塩水を加え、生菌懸濁液とした。この生菌懸濁液の生菌数は、バチラス:3.0×107cfu/ml、リステリア:1.3×108cfu/ml、スタフィロコッカス:1.1×106cfu/mlであった。
また、各生菌懸濁液1mlを1.5mlマイクロチューブに入れ、沸騰水に50秒浸積後、氷水により急冷して損傷菌懸濁液を調製した。
【0112】
2.試験方法
2−1)EMA処理及び可視光照射工程
1000μg/mlとなるようにEMA(シグマ社製、カタログ番号:E 2028)を滅菌水に溶解し、0.45 μmのマイクロフィルターによりろ過したEMA水溶液を、前記グラム陰性細菌(生菌及び損傷菌)、及びグラム陽性細菌(生菌及び損傷菌)の各懸濁液1mlに10μlずつ添加し、遮光下で、4℃、30分間放置した。その後、各懸濁液を氷上に置き、懸濁液から20cmの距離に設置した500Wの可視光線(FLOOD PRF:100V、500W、岩崎電気社製)を10分間照射した。以上のEMA溶液を添加し、可視光線を照射する工程を、「EMA処理」と略記することがある。別途、前記グラム陰性細菌(生菌及び損傷菌)及び前記グラム陽性細菌(生菌及び損傷菌)の懸濁液各1mlにEMA溶液の代りに10μlの滅菌水を加え、以下EMA処理と同様に処理した。
【0113】
2−2)DNA抽出
前記グラム陰性細菌及びグラム陽性細菌の生菌、損傷菌(それぞれEMA未処理及びEMA処理)の入ったマイクロチューブを4℃で15,000×g、10分間冷却遠心分離した。各マイクロチューブに990μlの生理食塩水を加えよく攪拌した後、2mlマイクロチューブに全量移し、4℃で15,000×g、10分間冷却遠心分離し、上清を除去した。以下、実施例1、「1−3)DNAの抽出」と同様にしてDNAを抽出し、DNA濃度の測定及び純度の評価を行った。
【0114】
3.16SrRNA遺伝子、又は23SrRNA遺伝子をターゲットにしたPCR
3−1)PCRマスターミックスの調製
【0115】
下記の組成によりマスターミックス(全量50μl)を調製した。
・Ex-Taq(宝酒造社製、カタログ番号:RR001B):0.25μl
・10×Ex-Taq Buffer(宝酒造社製、カタログ番号:RR001B):5μl
・dNTP mixture(宝酒造社製、カタログ番号:RR001B):4μl
・5pmol/μl、配列番号1(23S−F)DNA:2.5μl
・5pmol/μl、配列番号2(23S−R)DNA:2.5μl
・5pmol/μl、配列番号3(23S−MF)DNA:2.5μl
・5pmol/μl、配列番号4(23S−MR)DNA:2.5μl
・5pmol/μl、配列番号5(16S−F)DNA:2.5μl
・5pmol/μl、配列番号6(16S−R)DNA:2.5μl
・2×SYBA Green (BMA社製、カタログ番号:50513):10μl
・滅菌水:15.75μl
・鋳型DNA(15ng/μl):10μl
【0116】
3−2)16SrRNA遺伝子増幅用PCRサーマルサイクルプロファイル
各細菌の16S rRNA遺伝子増幅用PCRサーマルサイクルプロファイルは表3に示すとおりである。
【0117】
【表3】

【0118】
3−3)23SrRNA遺伝子増幅用PCRサーマルサイクルプロファイル
各細菌の23S rRNA遺伝子増幅用PCRサーマルサイクルプロファイルは表4(グラム陰性細菌)、表5(グラム陽性細菌)に示すとおりである。
【0119】
【表4】

【0120】
【表5】

【0121】
3−4)PCR反応
前記2−2)で調製した各DNA溶液を、TEバッファーにより15ng/μlに希釈し、その10μlを前記3−1)の鋳型DNAとして用いた。すなわち、50μlのPCR反応液中に150ngの鋳型DNAを含む。ネガティブコントロールとしてはTEバッファー10μlを用いた。
【0122】
前記3−2)、又は3−3)で示したPCRサーマルサイクルプロファイルに従い、リアルタイムPCR装置i Cycler(バイオラッド社製、機種番号:iQ)を用いて、PCR反応、及び増幅産物のTM解析(融解温度解析)を行った。リアルタイムPCRのスレッシュホールド値(境界値)及びCt値の算出は、実施例2、2−3)と同様である。
3−5)PCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動
【0123】
Seakem GTG アガロース(FMC社製、カタログ番号:50070)とTAEバッファー(Tris4.84g/l、酢酸1.142ml/l、EDTA・2Na0.149g/l)により0.8%アガロースゲルを作製し、マーカーとしてλ-EcoT14 I digest(宝酒造社製、Code:3401)及び100bp DNA Ladder(宝酒造社製、Code:3407A)を用い、グラム陰性細菌、及びグラム陽性細菌に関してそれぞれ、各PCR反応溶液10μlをウェルに注入し、電気泳動を行い、ブロムフェノールブルー(BPB)がゲルを9割程度泳動した時点で電気泳動を終了させた。
【0124】
1μg/mlのエチジウムブロマイド水溶液に、電気泳動後のゲルを20分間浸積し、イオン交換水で2回洗浄し後、UVトランスイルミネーター(254nm)によりPCR増幅産物を観察した。
【0125】
4.試験結果
細菌懸濁液1mlを入れた1.5mlマイクロチューブを沸騰水に浸漬したときの温度の経時変化を図12に示す。図12から、損傷菌懸濁液の調製における沸騰水50秒浸積は、72〜75℃、15〜16秒の高温短時間殺菌(HTST殺菌)より、やや激しく加熱処理した方法であり、従って、超高温瞬間殺菌(UHT殺菌)と同等の加熱処理に相当することがわかる。
【0126】
16SrRNA遺伝子をターゲットにした生菌、損傷菌の識別結果を図13に、及び23SrRNA遺伝子をターゲットにした生菌、損傷菌の識別結果を図14、図15にそれぞれ示す。図13〜15において、各細菌のPCR反応溶液は、生菌懸濁液・EMA未処理、生菌懸濁液・EMA処理、損傷菌懸濁液・EMA未処理、損傷菌懸濁液・EMA処理の順番でゲルにロードされている。
【0127】
図13より、ターゲットが16S rRNA遺伝子の場合には、シトロバクター及びクレブシェラでは、EMA処理した損傷菌ではPCR増幅産物が見られず、生菌と損傷菌の明確な識別が可能であった。その他の細菌については、EMA処理した損傷菌で増幅産物が認められ、生菌と損傷菌との識別が不明確であった。
【0128】
一方、図14及び図15より、ターゲットが23S rRNA遺伝子の場合は、グラム陰性細菌及び陽性細菌のいずれの細菌においても、EMA処理により、生菌と損傷菌の識別を明瞭に行なえることが示された。サンプルバックグラウンドとして108cfu/mlレベルの細菌の損傷菌を含む被検試料を用いて、150ngの鋳型DNAを50μlのPCRに供しても、損傷菌のPCR反応は完全に抑制され、生菌のPCRはほぼ完全に抑制されなかった。また、105〜107cfu/mlの損傷菌を含む牛乳においても、損傷菌のPCRは完全に抑制され、生菌を低濃度で検出することが可能であると考えられることから、食品衛生検査の一般細菌のスクリーニング検査として適用することが可能である
。さらに、敗血症で肝機能障害を持つ患者の場合、血液中に生菌及び損傷菌が104cfu/ml以上の高濃度で存在する可能性もあり、そのような場合にも本発明により生菌のみを迅速に検出できる。
【0129】
〔実施例4〕
病原性細菌をEMA、及びトポイソメラーゼ阻害剤又はDNAジャイレース阻害剤で処理し、病原遺伝子をターゲットにしたPCR法による細菌の生菌・損傷菌の識別を行った。
【0130】
1.細菌(生菌)培養液の調製
実施例1と同様にして、リステリア(リステリア・モノサイトゲネス:Listeria monocytogenes JCM 2873)の生菌懸濁液及び損傷菌懸濁液を調製した。生菌懸濁液の生菌数は、1.3×108cfu/mlであった
【0131】
2.試験方法
2−1)EMA処理及び可視光照射工程
前記で調製したリステリアの生菌懸濁液及び損傷菌懸濁液に対し、実施例3と同様にして、EMA処理及び可視光照射を行った。なお、EMAは細胞壁に外膜を有さないグラム陽性細菌の場合、細胞壁損傷のない生菌であっても、透過しやすい傾向があるので、EMA添加後の遮光下4℃での放置時間を5分に短縮し、可視光照射時間も5分に短縮した。また、生菌及び損傷菌懸濁液に対してEMAを添加する代わりに滅菌水10μlを添加し、同様の処理を行ったものも用意した。
【0132】
2−2)トポイソメラーゼ阻害剤、又はDNAジャイレース阻害剤処理工程
前記のEMA処理及び可視光照射工程を終えた後、各処理液が入ったマイクロチューブを4℃で15,000×g、10分間冷却遠心分離し、上清を除去した。菌体に1mlの生理食塩水を加えてよく攪拌し、同様に冷却遠心分離した、上清を除去した後、菌体に生理食塩水1mlを加えてよく攪拌した。こうして、生菌のEMA未処理1ml×1本、生菌のEMA処理1ml×7本、損傷菌のEMA未処理1ml×1本、損傷菌のEMA処理1ml×7本作製した。
【0133】
EMA処理した生菌及び損傷菌の1本づつを1セットとして、6つのセットに分けた。第1セットにDNAジャイレース阻害剤であるシプロフロキサシン(0.5mg/ml;生理食塩水により溶解)を8μl、第2セットにトポイソメラーゼ阻害剤であるカンプトセシン(1mg/ml;ジメチルスルフォキシドに溶解)を10μl、第3セットに対しトポイソメラーゼ阻害剤であるエトポシド(1mg/ml;ジメチルスルフォキシドに溶解)を10μl、第4セットにトポイソメラーゼ阻害剤であるエリプチシン(0.1mg/ml;ジメチルスルフォキシドに溶解)を5μl、第5セットにトポイソメラーゼ阻害剤であるミトキサントロン(0.1mg/ml;ジメチルスルフォキシドに溶解)を10μl、第6セットにトポイソメラーゼ阻害剤であるアムサクリン(1mg/ml;ジメチルスルフォキシドに溶解)を10μlそれぞれ添加した。各試料を、30℃で30分間インキュベーションした後、2mlマイクロチューブに全量移し、4℃で15,000×g、10分間冷却遠心分離し、上清を除去した。
【0134】
2−3)DNA抽出工程
上記のようにして調製した各試料から、実施例1、「1−3)DNAの抽出」と同様にしてDNAを抽出した。
【0135】
3.リステリア菌の各種遺伝子をターゲットにしたPCR
3−1)病原遺伝子リステリア・リステリオリシンO(hlyA)遺伝子増幅
3−1−1)PCRマスターミックスの調製
【0136】
下記の組成によりマスターミックス(全量50μl)を調製した。
・Ex-Taq(宝酒造社製、カタログ番号:RR001B):0.25μl
・10×Ex-Taq Buffer(宝酒造社製、カタログ番号:RR001B):5μl
・dNTP mixture(宝酒造社製、カタログ番号:RR001B):4μl
・5pmol/μl、配列番号7(hlyA−F)DNA:2.5μl
・5pmol/μl、配列番号8(hlyA−R)DNA:2.5μl
・2×SYBA Green(BMA社製、カタログ番号:50513):10μl
・滅菌水:15.75μl
・鋳型DNA(15ng/μl):10μl
3−1−2)hlyA遺伝子増幅用PCRサーマルサイクルプロファイル
【0137】
【表6】

【0138】
3−1−3)PCR反応
前記2−3)で調製した各DNA溶液をTEバッファーにより15ng/μlに希釈し、その10μlについて前記3−1−1)における鋳型DNAとして用いた。すなわち、50μlのPCR反応液中に150ngのDNAを含む。ネガテイブコントロールとしてはTEバッファー10μlを用いた。
【0139】
前記3−1−2)で示したPCRサーマルサイクルプロファイルに従い、リアルタイムPCR装置i Cycler(バイオラッド社製、機種番号:iQ)を用いてPCR反応を行った。
【0140】
3−2)16SrRNA、及び23SrRNA遺伝子増幅
3−2−1)PCRマスターミックスの調製
実施例3、3−1)「PCRマスターミックスの調製」と同様にしてマスターミックス(全量50μl)を調製した。
3−2−2)16SrRNA遺伝子増幅用PCRサーマルサイクルプロファイル
実施例3、3−2)「16SrRNA遺伝子増幅用PCRサーマルサイクルプロファイル」(表3)にしたがった。
【0141】
3−2−3)グラム陽性細菌23SrRNA遺伝子増幅用PCRサーマルサイクルプロファイル
実施例3、3−3)「グラム陽性細菌23SrRNA遺伝子増幅用PCRサーマルサイクルプロファイル」(表5)にしたがって行った。
3−2−4)PCR反応
前記2−3)で調製した各DNA溶液を、TEバッファーにより15ng/μlに希釈
し、その10μlを前記3−1−1)又は3−2−1)の鋳型DNAとして用いた。すなわち、50μlのPCR反応液中に150ngのDNAを鋳型を含む。ネガテイブコントロールとしては、TEバッファー10μlを用いた。
【0142】
前記3−2−2)又は3−2−3)で示したPCRサーマルサイクルプロファイルに従い、リアルタイムPCR装置i Cycler(バイオラッド社製、機種番号:iQ)を用いてPCR反応を行った。
【0143】
3−3)PCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動
電気泳動は、実施例2、1−4)「PCR増幅産物の電気泳動」と同様にして行った。なお、hlyA遺伝子増幅産物の検出は、3%アガロースゲルを使用した。
【0144】
4.試験結果
hlyA遺伝子がターゲットのときの結果を図16に、16SrRNA遺伝子及び23SrRNA遺伝子がターゲットのときの結果を図17及び図18にそれぞれ示す。
【0145】
図16及び図17より、hlyA及び16S rRNA遺伝子をターゲットとした場合、EMA処理により、損傷菌のDNA増幅がわずかに阻害される程度であった。しかし、EMAとともに、トポイソメラーゼ阻害剤又はDNAジャイレース阻害剤で処理した場合、損傷菌のDNA増幅はさらに阻害された。特に、hlyA遺伝子をターゲットにした場合は、エトポシド、ミトキサントロン、又はアムサクリン、及び16SrRNA遺伝子をターゲットとした場合は、カンプトセシン、エトポシド、エリプチシン、又はアムサクリンを、それぞれEMAと併用することにより、損傷菌のDNA増幅が著しく阻害された。
また、図18により、23S rRNA遺伝子をターゲットとした生菌の場合、EMAとその他のトポイソメラーゼ阻害剤又はDNAジャイレース阻害剤を併用することにより、PCRが同様に著しく阻害された。
【0146】
特定病原細菌に焦点を当て生菌と死菌又は損傷菌との識別を迅速に行なう場合、病原遺伝子の特異性を高めるためには100〜200bpという短い遺伝子領域をターゲット領域とする傾向がある。ターゲット領域がこのように短い場合は、EMAが損傷菌の細胞壁を透過してDNAの切断が生じても、ターゲット領域が切断されずに増幅される結果、PCRは完全に抑制されないと考えられる。一方、EMAとトポイソメラーゼ阻害剤又はDNAジャイレース阻害剤とを併用することにより、113bpの極めて短いhlyA遺伝子をターゲットにした場合であっても、108cfu/mlレベルのリステリア損傷菌のPCRをほぼ完全に抑制し、生菌のPCRはほとんど抑制されなかった。
これは、トポイソメラーゼ阻害剤がEMAと異なった位置にDNAクロスリンクをランダムに行い、損傷菌体内の活性を残存したDNAジャイレース、バクテリア・トポイソメラーゼI、III、及びIVの切断−再結合の中でも、再結合を阻害することにより、EMA単独によるDNA切断状態より、さらに激しくあらゆる箇所でDNA切断状態に至らしめ、100bp〜200bpの短いターゲット遺伝子の中にも切断が生じた結果等と考えられる。
したがって、高濃度の特定病原細菌の損傷菌バックグラウンドを含む食品や各種臨床検体において、特定病原細菌の生菌と損傷菌又は死菌との識別を明瞭に行うことが可能である。ただし、死菌のPCR増幅産物抑制のためには、損傷菌とは異なり、トポイソメラーゼ又はDNAジャイレースが失活していることもあるので、予めATP及びMg2+と、トポイソメラーゼ又はDNAジャイレース(酵素)を添加しておいた方がより好ましい。
例えば、抗結核剤を投与されている結核症の患者においては、治療中後期における検査材料の喀痰において、抗結核剤により結核菌損傷菌が108〜109cfu/mlの濃度で存在しているが、そのような場合であっても、本発明に方法により、生菌のみを検出することが可能である。
【0147】
[参考例1]食品からの被検試料の調製
本発明の被検試料の1つである食品として、牛乳中に微生物が混入していた場合を想定した被検試料の調製法を以下に例示する。
【0148】
牛乳に、終濃度が1〜5mM、特に2mMとなるようにEDTA溶液、及び終濃度が0.1〜0.5%、特に0.1%となるようにTween80をそれぞれ添加し、10,000×gにて、10分間、4℃により冷却遠心分離した。なお、終濃度10〜20U/mlのリパーゼ(シグマ社製E.C.3.1.1.3)を添加し、30〜37℃により30分〜1時間処理した後、終濃度が20U/mlとなるようにプロテイナーゼKを(シグマ社製E.C.3.4.21.64)添加して30分〜1時間放置することが好ましい。液表面の脂肪層及び中間部の水層を除去し、沈渣を回収した。この沈渣には、細菌、乳腺上皮細胞、ウシ白血球等の体細胞が含まれており、10,000×g以上で遠心分離した場合は、プロテイナーゼKにより不完全に分解したミセルタンパク質分解物(カゼインミセル不完全分解物)も含まれる。ここで、カゼインミセル不完全分解物は疎水性の高いα、β−カゼインのサブミセルと考えられる。
【0149】
前記沈渣に当初と同容量の生理食塩水を添加して懸濁した後、100×gにて、5分間、4℃で冷却遠心分離し、微生物等が存在する上清を回収した。
【0150】
[参考例2]血液からの被検試料の調製(1)
ヘパリン加血液に同容量の生理食塩水を加え、10,000×gにて、5分間、4℃で遠心分離し、上清は除去し、沈渣を回収した。この沈渣には、細菌、血小板、単球やリンパ球等の単核球、顆粒球、及び赤血球が含まれていた。
【0151】
[参考例3]血液からの被検試料の調製(2)
ヘパリン加血液に同容量の生理食塩水を加え、100×gにて、5分、4℃で冷却遠心分離し、血漿と血球成分(単球やリンパ球等の単核球、並びに顆粒球及び赤血球)に分離し、微生物が存在する血漿を回収した。
【0152】
[参考例4]血液からの被検試料の調製(3)
ヘパリン加血液に同容量の生理食塩水を加えた。滅菌試験管に、まず2倍希釈されたヘパリン加血液と同容量のFicoll-Paque[アマシャムバイオサイエンス社製;Ficoll 400 (フィコール400)は5.7g/100ml、ジアトリゾエートナトリウムは9g/100mlである。比重1.077g/ml]を充填し、その後、前記の2倍希釈されたヘパリン加血液を、試験管を斜めに傾けながらゆっくりと重層した。続いて、100×g、5分間、4℃で冷却遠心分離し、微生物が存在する上清を回収した。なお、Ficoll-Paqueに2倍希釈されたヘパリン加血液を重層するする前に、終濃度10〜20U/mlのリパーゼ(シグマ社製E.C.3.1.1.3)溶液を添加した後、10〜50U/mlのデオキシリボヌクレアーゼI(シグマ社製、EC 3.1.21.1)溶液を添加し、30〜37℃により30分〜1時間処理後、終濃度10〜20U/mlとなるようにプロテイナーゼK(シグマ社製E.C.3.4.21.64)を添加し、30〜37℃により30分〜1時間処理することが好ましい。
【0153】
[参考例5]血液からの被検試料の調製(4)
滅菌試験管に、予めヘパリン加血液の1/2容量となるようにMonopolyTM[アマシャムバイオサイエンス社製; Ficoll(フィコール)とMetrizoate(メトリゾエート)の混合液、比重1.115g/ml]添加しておき、試験管を傾けながらゆっくりとヘパリン加血液を重層した。その後、100×g、5分、4℃で冷却遠心分離し、細菌が存在する上清を回収した。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明により、培養法の特性をそのまま引き継いだ迅速代替法として、食品や臨床試料中に含まれる微生物の生菌(Viable-and-Culturable)を死菌(Dead)や損傷菌(Injured
or Viable-but-Non Culturable state)に比べて選択的に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】リステリア(損傷菌)の染色体DNAに与える損傷菌体内DNaseの影響、リステリア(損傷菌)の染色体DNAに与えるアムサクリンの影響、及び、リステリア(生菌)の染色体DNAに与えるアムサクリンの影響を示す電気泳動写真。未: 未処理;アムサクリン(-): アムサクリン未添加;アムサクリン(+): アムサクリン添加;1: 30 ℃ 24時間インキュベーション;2: 30 ℃ 48時間インキュベーション;3: 30 ℃ 72時間インキュベーション;
【図2】エンテロバクター(損傷菌)の染色体DNAに与える損傷菌体内DNaseの影響を示す電気泳動写真。未: 未処理;1: 37 ℃、24時間インキュベーション;2: 37 ℃、48時間インキュベーション;3: 37 ℃、72時間インキュベーション;
【図3】エンテロバクター(生菌・損傷菌)の染色体DNAに与えるシプロフロキサシンの影響を示す電気泳動写真。未: 未処理;1: 37 ℃、1.5時間インキュベーション;2: 37 ℃、3.5時間インキュベーション;3: 37 ℃、 5時間インキュベーション;4: 37 ℃、72時間インキュベーション;
【図4】リステリア(損傷菌)の染色体DNAに与える損傷菌体内DNaseの影響を示す電気泳動図。未: 未処理;1: 30 ℃、24時間インキュベーション;2: 30 ℃、48時間インキュベーション;3: 30 ℃、72時間インキュベーション;
【図5】リステリア(生菌、損傷菌)の染色体DNAに与えるシプロフロキサシンの影響を示す電気泳動写真。未: 未処理;1: 30 ℃、1.5時間インキュベーション;2: 30 ℃、3.5時間インキュベーション;3: 30 ℃、 5時間インキュベーション;4: 30 ℃、72時間インキュベーション;
【図6】シプロフロキサシン処理されたエンテロバクター(生菌)の23S rRNA遺伝子をターゲットにしたリアルタイムPCR増幅曲線(中間調画像の写真)。
【図7】シプロフロキサシン処理されたエンテロバクター(生菌)の23S rRNA遺伝子をターゲットにしたリアルタイムPCR増幅産物のTMパターン(中間調画像の写真)。
【図8】シプロフロキサシン処理されたエンテロバクター(損傷菌)の23S rRNA遺伝子をターゲットにしたリアルタイムPCR増幅曲線(中間調画像の写真)。
【図9】シプロフロキサシン処理されたエンテロバクター(損傷菌)の23S rRNA遺伝子をターゲットにしたリアルタイムPCR増幅産物のTMパターン(中間調画像の写真)。
【図10】シプロフロキサシン処理されたリステリア(生菌)の23S rRNA遺伝子をターゲットにしたリアルタイムPCR増幅曲線(中間調画像の写真)。
【図11】シプロフロキサシン処理されたリステリア(損傷菌)の23S rRNA遺伝子をターゲットにしたリアルタイムPCR増幅曲線(中間調画像の写真)。
【図12】細菌懸濁液を入れたマイクロチューブの沸騰水への浸積時間と液温の関係を示す図。
【図13】EMA未処理又はEMA処理された7種の細菌(生菌・損傷菌)の16S rRNA遺伝子をターゲットにしたPCR遺伝子増幅の結果を示す電気泳動写真。各細菌毎に、それぞれ、生菌懸濁液・EMA未処理、生菌懸濁液・EMA処理、損傷菌懸濁液・EMA未処理、損傷菌懸濁液・EMA処理の順序である。図14及び図15においても同様である。
【図14】EMA未処理又はEMA処理された4種の細菌(生菌・損傷菌)の23S rRNA遺伝子をターゲットにしたPCR遺伝子増幅の結果を示す電気泳動写真。
【図15】EMA未処理又はEMA処理されたリステリア(生菌・損傷菌)の23S rRNA遺伝子をターゲットにしたPCR遺伝子増幅の結果を示す電気泳動写真。
【図16】EMA未処理又はEMA処理後、DNAジャイレース阻害剤又はトポイソメラーゼ阻害剤で処理したリステリア(生菌・損傷菌)のhlyA遺伝子をターゲットにしたPCR遺伝子増幅の結果を示す電気泳動写真。未: 未処理;E: EMA;1: EMA-シプロフロキサシン;2: EMA-カンプトセシン;3: EMA-エトポシド;4: EMA-エリプチシン;5: EMA-ミトキサントロン;6: EMA-アムサクリン
【図17】EMA未処理又はEMA処理後、DNAジャイレース阻害剤又はトポイソメラーゼ阻害剤で処理したリステリア(生菌・損傷菌)の16S rRNA遺伝子をターゲットにしたPCR遺伝子増幅の結果を示す電気泳動写真。未: 未処理;E: EMA;1: EMA-シプロフロキサシン;2: EMA-カンプトセシン;3: EMA-エトポシド;4: EMA-エリプチシン;5: EMA-ミトキサントロン;6: EMA-アムサクリン
【図18】EMA未処理又はEMA処理後、DNAジャイレース阻害剤又はトポイソメラーゼ阻害剤で処理したリステリア(生菌・損傷菌)の23S rRNA遺伝子をターゲットにしたPCR遺伝子増幅の結果を示す電気泳動写真。未: 未処理;E: EMA;1: EMA-シプロフロキサシン;2: EMA-カンプトセシン;3: EMA-エトポシド;4: EMA-エリプチシン;5: EMA-ミトキサントロン;6: EMA-アムサクリン;

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料中の微生物の生菌を検出するための方法であって、以下の工程を含む方法:
a)前記被検試料をエチジウムモノアザイドで処理し、可視光を照射する工程と、アムサクリン、カンプトセシン、エリプチシン、エトポシド、ミトキサントロン、及び/又はシプロフロキサシンから選択されるトポイソメラーゼ阻害剤及び/又はDNAジャイレース阻害剤で被検試料を処理する工程からなる工程、
b)前記被検試料からDNAを抽出し、抽出されたDNAのターゲット領域をPCRにより増幅する工程、並びに
c)増幅産物を解析する工程。
【請求項2】
前記増幅産物の解析を、微生物の標準試料を用いて作成された微生物量及び増幅産物との関連を示す標準曲線を用いて行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記PCRをリアルタイムPCR法により行い、PCRと増幅産物の解析を同時に行うことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記被検試料が、乳、乳製品、乳若しくは乳製品を原料とする食品、血液試料、尿試料、髄液試料、滑液試料又は胸水試料のいずれかである請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記微生物が細菌である請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ターゲット領域が23SrRNA遺伝子である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記PCRを、配列番号1及び2に示すプライマーセット、又は配列番号3及び4に示すプライマーセットを用いて行うことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記a)の工程の前に、下記工程を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法:
d)前記被検試料をトポイソメラーゼ及び/又はDNAジャイレースで処理する工程。
【請求項9】
被検試料中の微生物の生菌をPCRにより検出するためのキットであって、下記の要素を含むキット:
エチジウムモノアザイド、並びに
アムサクリン、カンプトセシン、エリプチシン、エトポシド、ミトキサントロン、及びシプロフロキサシンから選択される少なくとも一つ、並びに
検出対象の微生物DNAのターゲット領域をPCRにより増幅するためのプライマー。
【請求項10】
さらに、トポイソメラーゼ及び/又はDNAジャイレースを含む、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
前記プライマーが、配列番号1及び2に示すプライマーセット、又は配列番号3及び4に示すプライマーセットである請求項9又は10に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−79617(P2008−79617A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−310206(P2007−310206)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【分割の表示】特願2007−531499(P2007−531499)の分割
【原出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】