説明

微生物由来バイオマスの乾燥方法

【課題】本発明は、バイオマスを油中で効率的に脱水乾燥する方法を大規模で工業的に実施するに当たり、スラリーの特性を維持することによりその輸送を容易にできる方法を提供することを目的にする。
【解決手段】本発明に係る微生物由来のバイオマスの乾燥方法は、動植物油と鉱物油からなり、動植物油と鉱物油の比率が1:99〜90:10である混合油を用いて微生物由来バイオマスをスラリー化する工程、および当該スラリーを120〜200℃に加熱して脱水する工程を含むことを特徴とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物由来のバイオマスを乾燥する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
「バイオマス」という語は、本来、生物学分野において「生物量」等と訳されていた。しかし、現在では生物学分野の垣根を越えて、生物起源の物質からなる食料、資材、燃料など広い概念を意味する語として用いられている。
【0003】
このバイオマスは、米糠や木炭などの様に利用方法が確立しているものもあるが、産業活動に伴う廃棄物として、その処理方法が検討されているものもある。例えば、農業系のバイオマス廃棄物としてはヤシガラや籾殻、林業系では木材チップダストや剪定枝、畜産系からは家畜の排泄物、水産系からは水産加工に伴う腸や骨、また、所謂生ゴミや下水汚泥等もバイオマスとされており、これらはいまだに処理方法が検討されている段階にある。
【0004】
これらバイオマスの処理には、コストの低減が必須要件として挙げられ、燃料等の資源として再利用できる方法であれば、なお望ましい。ところが、バイオマスには多量の水分が含まれており、この水分が焼却処理の際や燃料として使用する場合に問題となる。よって、先ずこの水分を除去する(乾燥する)ことが必要であるが、この乾燥工程には、いまだ処理や再利用が困難となる程のコストを必要とするのが現状である。
【0005】
バイオマスの乾燥方法としては、加圧脱水や遠心脱水などの方法がある。しかし、これら方法では十分に水分を除去することができない。その他に気流乾燥法があるが、十分に水分を除去するためには高温度のガスを必要とし、また、乾燥気体とバイオマスとの接触を良好にするために、回転機構、流動床、練り込み機構などの複雑なシステムが必要となる。特に、活性汚泥に代表される微生物由来のバイオマスは、細胞内に水分を包含していることから、これら物理的な方法では十分な乾燥は困難である。
【0006】
これら方法に対して、特許文献1には、あらかじめ粗脱水された汚泥を薄片状のケーキとした後、110〜200℃に加熱した油槽に通して脱水し、油分を含んだままボイラー等で燃焼させる方法が開示されている。また、三井造船株式会社は、油温減圧式乾燥システムを用いて下水汚泥と廃食用油を混合して約110℃に加熱し、減圧下短時間で乾燥する方法を実施している。さらに特許文献2にも、バイオマスを油中で減圧下に加熱乾燥し、固形燃料を製造する方法が記載されている。
【0007】
上記方法は、油中、減圧〜常圧条件下で汚泥を加熱する工程を含み、これにより乾燥に必要な熱エネルギーを低減する点において共通する。しかし、乾燥後のバイオマスから残留した油分を除去することが難しく、そのために処理コストが高くなるという問題があった。
【0008】
そこで本発明者らは、植物バイオマスを油中で乾燥するに当たり、いったん油中、加圧下で加熱して植物バイオマスを分解することによって、乾燥後におけるバイオマスと油分との分離を容易にする方法を発明し、特許出願している(特許文献3)。
【特許文献1】特開平6−218397号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平7−278581号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2004−209462号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した様に、バイオマスを油中で加熱することにより乾燥する方法は知られており、また、必要となる油分の量を低減して低コスト化を可能にする技術も開発されていた。
【0010】
しかし、特に活性汚泥など微生物由来のバイオマスの乾燥の場合には、工業的な実施が困難であるという問題があった。即ち、例えば活性汚泥を構成するのは主として菌体か或いはその死骸である。よって、活性汚泥は水分を多量に含む上に、その水分は細胞膜内に包含されているために乾燥が極めて難しい。それに加えて、微生物由来バイオマスを油中で乾燥しようとすると、バイオマスが極度に凝集して油中で均一分散化できなくなったり、或いはスラリーの流動性が無くなってポンプによる輸送が困難になるという問題があることが明らかとなった。
【0011】
そこで本発明が解決すべき課題は、微生物由来のバイオマスを油中で効率的に脱水乾燥する方法を大規模で工業的に実施するに当たり、スラリーの特性を維持することによりその攪拌や輸送を容易にできる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、特にスラリーの構成につき検討を進めた。その結果、動植物油と鉱物油との比率を適切に規定した混合油を用いて微生物由来バイオマスを乾燥すれば、上記問題を解決できることを見出した。つまり、親水性が極めて高い微生物由来のバイオマスは、疎水性の鉱物油中では極度に凝集する傾向があり、スラリーの特性を維持することができない。その一方で、親水性基を有する動植物油を用いれば斯かる凝集を抑制できるが、スラリーの粘度が過剰に高まったり、乾燥時における発泡により正常な輸送や安定的な実施が阻害されることが分かった。そこで本発明者らは、これら動植物油と鉱物油とを混合し、その混合比率を種々変更して実験を繰り返すことにより適切な混合比率を見出して、本発明を完成した。
【0013】
即ち、本発明に係る微生物由来のバイオマスの乾燥方法は、
動植物油と鉱物油からなり、動植物油と鉱物油の比率が1:99〜90:10である混合油を用いて微生物由来バイオマスをスラリー化する工程(以下、「スラリー形成工程」という)、および
当該スラリーを120〜200℃に加熱して脱水する工程(以下、「乾燥工程」という)、
を含むことを特徴とする。
【0014】
上記乾燥方法においては、スラリー形成工程前に微生物由来バイオマスを機械的に脱水することが好ましい。事前にフィルタープレス等の簡便な機械的方法で水分を除去しておくことにより乾燥効率をより一層高められるからである。また、スラリー形成工程において当該バイオマスを混合油中で粉砕することが好ましい。粉砕後に油中へ混合するという工程を必要とせず、パイプラインを利用してそのまま次工程へ移行することができることから、バッチ処理ではなく連続的処理が可能となり、乾燥処理全体の効率化が可能となるからである。
【0015】
上記スラリー形成工程後においては、スラリーを120〜300℃にて当該温度における混合油の蒸気圧以上の加圧下で処理する工程を行なうことが好ましい。微生物由来バイオマスを構成する菌体やその死骸を破壊し、より容易に乾燥できるからである。
【0016】
上記スラリー形成工程においては、微生物由来バイオマスに対する混合油の質量比率を2〜5倍とすることが好ましい。2倍未満ではスラリーの流動性が悪くなるおそれがある一方で、5倍を超えると油分が過剰となり、コスト高になる場合がある。
【0017】
上記乾燥工程においては、発生する水蒸気の蒸発潜熱を回収して再利用することが好ましい。発生する熱量の無駄を抑制し、コストの低減を図ることができるからである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る微生物由来バイオマスの乾燥方法によれば、従来、乾燥が困難であった微生物由来のバイオマスを低コストで効率よく乾燥することができる。また、従来方法におけるパイプ輸送時等の問題が解消されているので、工業的な大規模実施にも適用可能である。従って、本発明に係る微生物由来バイオマスの乾燥方法は、従来、処理が困難であった微生物由来バイオマスの処理と再利用を可能にするものとして、産業上非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係る微生物由来バイオマスの乾燥方法は、
動植物油と鉱物油からなり、動植物油と鉱物油の比率が1:99〜90:10である混合油を用いて微生物由来バイオマスをスラリー化する工程(スラリー形成工程)、および
当該スラリーを120〜200℃に加熱して脱水する工程(乾燥工程)、
を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明で処理すべきバイオマスの種類は特に制限されないが、例えば、下水処理場の混合汚泥、食品加工工場などの排水処理汚泥、ビール工場のビール酵母滓、焼酎滓などの微生物由来バイオマス;およびその事前処理物などを挙げることができる。これら微生物由来バイオマスは、乾燥が非常に困難であるだけでなく親水性が極めて高いことから、油中に添加すると攪拌や輸送が困難になるほど凝集してしまう。本発明は、かかる問題を解決できるものである。
【0021】
微生物由来の事前処理としては、後述する様な機械的脱水のほか、メタン菌と共に嫌気性条件でインキュベートし、汚泥を安定化する処理などがある。なお、かかる安定化処理をした活性汚泥は、消化汚泥ともいわれる。
【0022】
本発明で用いる動植物油は、動物や植物に由来する油分をいい、飽和または不飽和の高級脂肪酸とグリセリンとのトリグリセライドを主成分とするものであり、モノグリセライドやジグリセライドなどを含んでいてもよいものをいう。より具体的には、サラダ油、菜種油、ごま油、オリーブ油などの植物油;鯨油、魚油、肝油、ラードなどの動物油;これらを使用した後に回収される廃油;植物油を製造する際に副生するダーク油などを例示することができる。これらは疎水性部分と共にエステル基など親水性が比較的高い官能基を有することから、親水性の高い微生物由来バイオマスの分散性に優れ、その凝集を抑制することができる。
【0023】
本発明で用いる鉱物油は石油由来の常温で液体の油分であり、流動パラフィンなどの炭化水素などを主成分とする。より具体的には、石油系の軽油、灯油、潤滑油等であり、初留点が150℃以上で95%留出温度が300℃以下のものを好適に使用する。鉱物油は動植物油に比べて粘度が低く、スラリー脱水時における発泡もなく、パイプ輸送などを容易に行なうことができる。
【0024】
本発明では、動植物油と鉱物油を1:99〜90:10の比率で混合して用いる。鉱物油の割合が動植物油1に対して99を超えると、親水性である微生物由来バイオマスがスラリー中で凝集し、均一分散できなくなったりパイプ壁に付着する場合がある。その一方で、動植物油の割合が鉱物油1に対して9を超えると、スラリーの乾燥時に発泡したり、スラリー粘度が高くなってパイプ輸送が困難になり得る。
【0025】
なお、本発明で用いる混合油は動植物と鉱物油からなるが、厳密に動植物と鉱物油のみから構成される意ではなく、これらを主成分とするものであれば、本発明の目的を達成できる範囲内で油分の構成成分とはいえないものや不純物が含まれていてもよいものとする。
【0026】
本発明方法では、動植物油と鉱物油との混合油と微生物由来バイオマスからスラリーを形成する。
【0027】
微生物由来バイオマスは、スラリーを形成する前に加圧脱水機(フィルタープレス機)、真空脱水機、遠心脱水機などにより機械的に脱水することが好ましい。しかし微生物由来バイオマスの場合には、これら機械的な脱水のみでは十分に水分を除去することができないために、本発明では油中で加熱乾燥する。
【0028】
機械的に脱水された微生物由来バイオマスは、塊状になるためスラリーを形成すべく粉砕する必要がある。この粉砕は混合油中で行なうことが好ましい。粉砕後に油中へ混合するという工程を必要とせず、パイプラインを利用してそのまま次工程へ移行することができることから、バッチ処理ではなく連続的処理することができ、乾燥処理全体の効率化が可能となるからである。
【0029】
バイオマスを粉砕する場合、その平均粒子径が5mmを超えるとスラリーを形成できない場合があるので、好適には5mm以下とする。一方、細かくし過ぎると、乾燥後に燃料等として使用する場合に取扱性が悪くなったり、かえって全体の効率が悪くなることがあるので、1mm程度以上とすることが好ましい。この平均粒径の測定方法としては、当該平均粒径を規定することの意義を喪失しない限り特に制限なく公知方法を採用することができるが、例えば、次の方法を挙げることができる。即ち、油中粉砕した試料をよく混合し、その一部をサンプリングして媒体油で10倍に希釈した後、これを口径10cm以上の濾紙を用いてバイオマス粉砕物ができるだけ重複しない様に濾過し、その結果を写真撮影して、粉砕物の長手方向の長さを測定する。この際、測定データは100個以上とするのが好ましい。得られたデータの内95%が1〜5mmの範囲であれば、平均粒径が規定範囲のものとする。一部に過大粒物や過少粒物があったとしても、ごく一部であれば本発明の効果に影響を及ぼさないからである。
【0030】
微生物由来バイオマスと混合油との混合割合は特に制限されないが、少なくともスラリーを形成できる必要がある。例えば、微生物由来バイオマスに対する混合油の質量比率を2〜5倍とする。2倍未満ではスラリーの流動性が悪くなるおそれがある一方で、5倍を超えると油分が過剰となり、コスト高になる場合がある。微生物由来バイオマスと混合油は、適切な割合で混合した上で攪拌し、スラリーとする。
【0031】
上記スラリーは、乾燥工程で乾燥する。具体的には、スラリーを120〜200℃に加熱して乾燥する。加熱温度は、使用する混合油の沸点未満とする必要がある。
【0032】
乾燥工程の圧力は、実施温度に依存する飽和水蒸気圧未満であれば特に制限されない。減圧下或いは常圧であれば効率的な乾燥が可能になり、また、飽和水蒸気圧未満の加圧下であれば、後述する様に水蒸気を加圧することにより発生する蒸発潜熱を再利用する際におけるコンプレッサーの負荷を小さくできることから、実際の運転上有利だからである。
【0033】
スラリーの加熱時間は、バイオマスの種類や水分含量、加熱温度などにもよるが、十分に水分を除去するために、通常、30〜60分間行なえばよい。
【0034】
乾燥工程を行なう加熱槽は特に制限されないが、例えば回分式反応器、完全混合型反応器、押出し流れ型反応器を挙げることができる。
【0035】
乾燥工程で発生した水蒸気の蒸発潜熱は、回収して再利用することが好ましい。その実施形態は、発生した水蒸気を加圧して蒸気温度を高め、乾燥工程または後述する改質工程で加熱に使用することにより蒸発潜熱を再利用し、本発明の実施をより効率的にするものである。これにより、プロセス全体のエネルギー利用効率を高めることが可能となり、コストを抑えることができる。
【0036】
スラリー形成工程後においては、スラリーを120〜300℃にて当該温度における混合油の蒸気圧以上の加圧下で処理する工程(以下、「改質工程」という場合がある)を行なってもよい。当該工程によって、微生物由来バイオマスを構成する菌体やその死骸を破壊し、乾燥をより容易にできるからである。
【0037】
「120〜300℃」としたのは、120℃未満では効率的に処理を行なえない場合があり、一方、300℃を超えるとかえってエネルギー的に無駄が生じるおそれがあるからである。また、「当該温度における当該油の蒸気圧以上の加圧下」としたのは、当該工程で油が蒸発してしまうとスラリーの流動性が低下するおそれがあるからである。当該温度条件としては、140℃以上、160℃以上、180℃以上、200℃以上、290℃以下、280℃以下、270℃以下が好ましい。また、圧力の上限は特に制限されないが、設備費用の面等から「5MPa以下」とするのが好ましい。より好ましくは、媒体油の蒸気圧以上であることは必要であるが、4MPa以下、3MPa以下、2MPa以下、1MPa以下が好適である。また、当該改質工程を上記乾燥工程よりも先に実施する場合には、当該圧力を実施温度の水蒸気圧以上にすることが好ましい。バイオマスに含まれる水を利用して、バイオマスの改質をより一層進行せしめるためである。
【0038】
改質工程は、10〜90分間行なうことが好ましい。10分未満であると十分に改質できない場合があり、90分を超えてもそれ以上改質が進行しない場合がある。当該時間については、20分以上、40分以上、80分以下で処理することが好ましく、約1時間が最適である。
【0039】
改質工程を行なう加熱槽は特に制限されないが、例えば回分式反応器、完全混合型反応器、押出し流れ型反応器を挙げることができる。
【0040】
改質工程は、上記乾燥工程の前に行なってもよいし、後に行なってもよい。乾燥工程前に改質工程を行なう場合には、改質工程においてバイオマスの一部が分解されることにより気孔に保持される油分が低減されるため、プロセス全体における油分のロスが減り、ここでもコストを抑えることができる。
【0041】
乾燥工程を行なった後、或いは乾燥工程に次いで改質工程を行なった後には、遠心脱水法や圧縮脱水法,或いはフラッシュ法によって油分を除去する。次いで、更に過剰な油分を除去すべく、加熱することにより油分を留去してもよい。こうして回収された油分は、コスト面から再利用する。
【0042】
本発明に係る微生物由来バイオマスの乾燥方法の一態様を、図1に示す。先ず、本発明では媒体油として動植物油と鉱物油との混合油を用い、さらにバイオマスと混合する。バイオマスが塊状となっている場合には、粉砕工程で粉砕した上で攪拌等することによりスラリーとする。
【0043】
次に、加熱することによりバイオマスを脱水するが、図1の態様では得られた水蒸気を加圧器1により加圧して蒸発潜熱を得、乾燥工程へ還元している。この蒸発潜熱は、改質工程で利用してもよい。
【0044】
乾燥したスラリー中のバイオマスは、改質工程により分解してもよい。その後、分離工程で媒体油を除去し、乾燥バイオマスとする。この乾燥バイオマスはそのまま焼却処分してもよいが、直接燃料としたり、或いは石炭等と混合して燃料とすることができるなど、非常に有用なものである。その上、バイオマスはカーボンニュートラルであることから、燃焼させても環境中の二酸化炭素量を実質的に増加させない。
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0046】
比較例1
消化汚泥と灯油を混合比率1:2(消化汚泥400g、灯油800g)、1:2.7(消化汚泥300g、灯油800g)または1:4(消化汚泥200g、灯油800g)で混合し、さらにジューサーで攪拌した後に5分間静置し、状態を観察した。
【0047】
当該結果によれば、消化汚泥:灯油=1:2で混合した場合には、凝集した消化汚泥中に灯油が取り込まれた状態になって流動性がなくなり、攪拌さえ困難となった。また、消化汚泥:灯油=1:2.7と1:4の場合でも、1:2ほどではないが消化汚泥が凝集して即座に沈降した。これでは、パイプラインを使った輸送は困難である。かかる結果の原因は、ジューサーにより強く攪拌して消化汚泥をいったんは分散しても、親水性が極めて高い微生物由来のバイオマスは、親水性を全く示さない灯油中で各粒子が単独で存在することはできず、凝集して安定する傾向にあることによると考えられる。
【0048】
比較例2
上記比較例1において、灯油の代わりにサラダ油を用い、消化汚泥:サラダ油=1:2(消化汚泥200g、サラダ油400g)で混合攪拌した場合における状態を観察した。その結果、消化汚泥:油分=1:2の割合であっても、灯油を用いた場合よりスラリー粒子が細かく均質で、速やかな沈降も見られず流動性の高いものであった。よって、このスラリーはパイプラインを使用した輸送も可能である。これは、サラダ油の主成分がグリセリンと高級脂肪酸とのエステルであり、このエステル基は比較的親水性が高いことから親水性のバイオマス表面と親和性を持ち、スラリーを安定化した結果であると考えられる。
【0049】
次に、得られたスラリーを常圧下で攪拌しながら100℃で120分間加熱し、乾燥を行なった。攪拌速度は、乾燥開始時は300rpmとし、乾燥時は100rpmとした。その結果、乾燥が進むにつれ泡が生じ、この泡はサラダ油の粘度が高いためになかなか消失しなかった。
【0050】
乾燥時に発泡すると、例えば蒸発潜熱を取り出すための蒸気圧縮機に気泡が混入し、圧縮効率が低下したり、媒体油のみが失われることにより以降のスラリー濃度が高くなり、スラリーの移送が難しくなる。よって、サラダ油のみを媒体油とした場合には、工業的に大規模で実施するのは困難であることが分かった。
【0051】
実施例1
灯油とサラダ油を表1の比率で混合したもの400gへ消化汚泥を200g加えて混合し、さらにジューサーで攪拌した。得られた混合物の流動性を目視で観察した。また、上記比較例2と同様に得られた混合物を加熱乾燥し、泡の発生の有無を観察した。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
上記結果の通り、灯油/サラダ油が99/1〜10/90である場合にスラリーの流動性が良好で加熱時の発泡も無いことが分かった。よって、パイプ輸送等を用いてバイオマスを油中で大規模に乾燥する場合には、媒体油として動植物油と鉱物油との混合油を用い、その割合(動植物油:鉱物油)を1:99〜90:10にすべきである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る植物由来バイオマスの乾燥方法の一態様を表す模式図である。
【符号の説明】
【0055】
1:加圧器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動植物油と鉱物油からなり、動植物油と鉱物油の比率が1:99〜90:10である混合油を用いて微生物由来のバイオマスをスラリー化する工程(以下、「スラリー形成工程」という)、および
当該スラリーを120〜200℃に加熱して脱水する工程(以下、「乾燥工程」という)、
を含むことを特徴とする微生物由来バイオマスの乾燥方法。
【請求項2】
さらに、スラリー形成工程前に微生物由来バイオマスを機械的に脱水する工程を含む請求項1に記載の乾燥方法。
【請求項3】
スラリー形成工程において微生物由来バイオマスを混合油中で粉砕する請求項1または2に記載の乾燥方法。
【請求項4】
スラリー形成工程後、スラリーを120〜300℃にて当該温度における混合油の蒸気圧以上の加圧下で処理する工程を行なう請求項1〜3のいずれかに記載の乾燥方法。
【請求項5】
スラリー形成工程において、微生物由来バイオマスに対する混合油の質量比率を2〜5倍とする請求項1〜4のいずれかに記載の乾燥方法。
【請求項6】
乾燥工程において発生する水蒸気の蒸発潜熱を回収して再利用する請求項1〜5のいずれかに記載の乾燥方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−125468(P2007−125468A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318671(P2005−318671)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】