説明

微粒子分散液の改質方法、微粒子分散液、及び塗工シート

【課題】 微粒子分散液の分散状態を損なうことなく、かつ化学的な手段によらず、平均粒子径の増大、細孔容積の増大、特に扁平化をもたらす簡便な方法を提供し、それによって微粒子を使用した製品の品質を高める微粒子分散液の改質方法を提供する。
【解決手段】動的光散乱法による平均粒子径D0が1μm以下の微粒子分散液を湿式媒体ミルで処理して凝集させ、平均粒子径Dを、D>2D0とする微粒子分散液の改質方法である。
また、湿式媒体ミルが湿式媒体攪拌ミルである微粒子分散液の改質方法である。
更には、分散媒体が、真比重5g/cm以上のビーズである微粒子分散の改質方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体の微粒子が溶媒中に分散した分散液の改質方法に関する。さらに詳しくは微粒子に制御された凝集を起し、平均粒子径の増大、細孔容積の増大、更には扁平化をもたらす方法を提供しようとするものである。本発明により製造される微粒子分散液は各種の用途に使用しうるが、シート状の支持体に塗工層を設けた塗工シートの製造に好適に用いることができ、殊にインクジェット記録シートの製造に適したものである。
【背景技術】
【0002】
有機、無機を問わず微粒子分散液は多方面に利用されており、例えばインク、塗料、トナー、化粧品、塗工シートなどの製造に用いられている。また合成樹脂のフィラーとして、その力学的強度の改善や、化学的安定性の強化、紫外線吸収性などの機能付与のために使用されている。一般に微粒子は球状あるいは不定形であるが、扁平な形状が好ましい場合もある。例えば、化粧品の場合、扁平であると肌への密着性、伸びが良好とされ、扁平なマイカ、二酸化チタンが用いられることもある。また、支持体に扁平な微粒子を塗工すると微粒子の配向により、平滑度、透気度、及び光沢が高くなる。ただし、扁平な形状の微粒子は種類がごく限られているという制約があった。また微粒子は、一般に二次凝集をしていない単分散の状態であることが好まれるが、用途によっては、一次粒子が凝集した二次粒子であり、かつ二次粒子径も微細な粒子が好ましい場合がある。そのような用途の一つとして塗工シートが挙げられる。塗工シートは、印刷して情報伝達・記録媒体として用いられることが多いため、印刷適性の付与が必要となる。油性や水性のインクで印刷する場合には、インク中の溶媒を素早く吸収する必要があり、多孔質の塗工層を設けることが多い。特にインクジェットプリンターによる印刷方式は、多色印刷が容易であること、高速記録が可能であること、他の記録方式のプリンターに比べて小型で安価であること等の理由により、多方面で広く利用されているが、多量のインクを使用するため記録シートには特別に高いインク吸収性が必要である。
【0003】
インクジェット記録シートの製造に際しては、高いインク吸収性に加えて、高い発色濃度と写真調の光沢を得るためにできるだけ透明で平滑なインク受理層が求められる。このような受理層を形成するために、微粒子が用いられている。微粒子として、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、ベーマイト微粒子、水酸化アルミニウム微粒子などが使用されることが多い。
【0004】
シリカ微粒子の分散液として、コロイダルシリカが広く知られている。その製造方法に関して多くの方法が知られているが、ケイ酸ソーダの希釈水溶液をカチオン交換樹脂で処理して酸性の活性ケイ酸水溶液を調製し、この活性ケイ酸水溶液の一部に対しケイ酸ソーダをアルカリとして添加して安定化させて加熱重合することにより、シリカのシード粒子が単分散した液(シード液)を作り、アルカリ性条件を保持しながら活性ケイ酸水溶液の残部(フィード液)をこれに徐々に添加してケイ酸を重合させ、単分散状態を維持しながらシード粒子を所望の大きさに成長させる方法が広く行われている。形状は球状が一般的であり、乾燥状態では粒子が密に充填され、粒子間の空隙が非常に少ない構造をとる。従って、窒素吸着法で測定されたコロイダルシリカの細孔容積は一般的に0.3ml/g未満であり、コロイダルシリカを使用して得た塗膜は、インクジェット印刷におけるインク吸収性に劣っており、改良が求められていた。また、工業的に安価に入手できるコロイダルシリカは粒子径が7nm〜100nmであり、非常に粒子径が小さいため、コロイダルシリカを主成分とする塗膜は乾燥中にひび割れを起しやすい欠点もある。
【0005】
本発明者らの検討結果では、コロイダルシリカの細孔容積を大きくするには、二次粒子にすることが有効である。二次粒子を含む分散液を乾燥すると、二次粒子間の隙間だけでなく、一次粒子間の隙間もあるため、空隙が多い構造となり、多量のインクを吸収することができる。しかし、コロイダルシリカに凝集剤を添加して粒子径が適度に制御された二次粒子の分散液を製造する試みは、全体がゲル化するか、又は粗大な凝集物の沈殿を生じるのみで非常に困難であることがわかった。このような現象は特許文献1にも記載されている。特許文献1には、シリカなどのコロイド粒子はアニオン性であるため、カチオン樹脂添加により、粒子が凝集し、分散液が増粘し、流動性が無くなり、塗工が困難となる恐れがあると記載されている。そのため、特許文献1ではカチオン樹脂を添加して、凝集、増粘させた微粒子を分散装置を用いて再分散させて分散液としている。この方法はカチオン樹脂の添加が必要であり、カチオン性の微粒子しか製造できないという欠点がある。
【0006】
また本発明者らは特許文献2において、活性ケイ酸を縮合させてシリカ微粒子を製造する方法を開示している。この方法は、シリカの微細な一次粒子が結合したコロイド状の二次粒子を活性珪酸から化学的に直接製造する方法であり、塗膜のインク吸収性や透明度にも優れておりインクジェット記録シートの製造に好ましく使用できる。ただし、この方法は動的光散乱法による平均二次粒子径が20nm〜200nmのシリカ微粒子を製造するのに適し、200nmを超えるシリカ微粒子の製造は困難であり、用途に制限があった。
【特許文献1】特開平10―272833号公報
【特許文献2】特開2001−354408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、微粒子分散液の分散状態を損なうことなく、かつ化学的な手段によらず、平均粒子径の増大、細孔容積の増大、特に扁平化をもたらす簡便な方法を提供し、それによって微粒子を使用した製品の品質を高めることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記の方法によらず、微粒子分散液に含まれる微粒子の平均粒子径の増大、細孔容積の増大を達成する方法として、機械的な力による微粒子の凝集現象に注目した。本発明者らはコロイダルシリカを回転式ホモジナイザーなどで長時間強く攪拌すると、凝集した粒子径の大きなシリカ粒子が少量ではあるが生成することを経験している。また、微粒子分散液を製造するために使用される湿式媒体攪拌ミルでも、条件によっては粉砕した粒子が湿式媒体攪拌ミル内部で再凝集することが知られている。
【0009】
湿式媒体攪拌ミルはビーズミルと呼ばれることもあるが、溶媒でスラリー化した粉体をおよそ3mmφ以下の粉砕媒体(ビーズ)により、粉砕、解砕、分散させる湿式粉砕機である。粉砕は、粉砕室に粉砕媒体であるガラスビーズやセラミックビーズを充填し、これを攪拌ディスクや攪拌アームなどで攪拌しながら、ここへ粉体を溶媒でスラリー化して供給する。スラリー中の粉体は運動する粉砕媒体間に補足されて、ずり応力やせん断力、摩擦力、衝撃力などの力によって粉砕される。
【0010】
湿式媒体攪拌ミルで、例えば二酸化チタンなどの粉砕を進めていくと、最初は急激に平均粒子径が小さくなるが、やがて殆ど変化しなくなり、逆に粒子径が増大する場合があることが経験的に知られている。この現象が起こるメカニズムは必ずしも定かではないが、湿式媒体攪拌ミルのディスク周速を高めるほど再凝集が強く起こることが知られている。また、平均粒子径が小さくなるほど起こりやすいことも知られている。この再凝集という現象は、粉砕という目的からすれば厄介者であり、特開2004−8993号公報のように、ミルの構造を改良することにより回避する技術開発も行われている。しかし、機械的な力による再凝集を積極的に利用して、微粒子分散液の改質に応用した例はなかった。
【0011】
本発明者は、湿式媒体攪拌ミルで一次粒子径が10nm〜20nmのコロイダルシリカの処理を検討したところ、特定の条件で、容易に凝集して二次粒子が生成し、平均粒子径の増大、細孔容積の増大が起こることを見出した。このとき、増粘やゲル化などの悪影響は無かった。また、この二次粒子化されたコロイダルシリカを紙に塗工したところ、インク吸収性が増大することを見出した。湿式媒体攪拌ミルによる微粒子の凝集はシリカで最も顕著に起こったが、シリカに限定されることなく、他の微粒子分散液、例えばアルミナ、ベーマイト、水酸化アルミニウムなどの微粒子分散液でも起こり、一般的な微粒子分散液改質方法として使用可能であった。また、特定の条件では凝集後の微粒子が扁平な形状となり、この微粒子を紙に塗工すると、光沢、平滑度、透気度が向上することを見出した。
本発明は以下の態様を含む。
(1)動的光散乱法による平均粒子径D0が1μm以下の微粒子分散液を湿式媒体ミルで処理して凝集させ、平均粒子径Dを、D>2D0とすることを特徴とする微粒子分散液の改質方法。
(2)湿式媒体ミルが湿式媒体攪拌ミルである(1)記載の微粒子分散液の改質方法。
(3)湿式媒体ミルの粉砕媒体が、真比重5g/cm以上のビーズである(1)または(2)記載の微粒子分散液の改質方法。
(4)(1)〜(3)のいずれか一項の方法によって製造され、凝集処理後の微粒子の平均粒子径Dが3μm以下である微粒子分散液。
(5)凝集処理後の微粒子の窒素吸着法による細孔容積が0.4〜2.0ml/gである(4)記載の微粒子分散液。
(6)凝集処理後の微粒子がアスペクト比(平均径/厚さ)3〜50の扁平状粒子である(4)または(5)記載の微粒子分散液。
(7)微粒子がシリカである(4)〜(6)のいずれか一項に記載の微粒子分散液。
(8)(4)〜(7)のいずれか一項に記載の微粒子分散液を含む塗工液を支持体上に塗工して製造された塗工シート。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、微粒子分散液中の微粒子の平均粒子径の増大、細孔容積の増大、扁平化をもたらす簡便な方法が提供される。平均粒子径の増大は塗膜のひび割れの低減、細孔容積の増大はインク吸収量の向上、扁平化は塗膜の光沢、平滑度、透気度の向上などをもたらすので、種々の塗工シートの品質改善に役立つものである。殊にインクジェット記録シートのインク受容層に本発明により改質された微粒子分散液を用いた場合には、ひび割れの低減効果とインク吸収量の増大のため、品質を大幅に向上させることができる。本発明は特に塗工シートの製造に有用なだけでなく、平均粒子径の増大、細孔容積の増大、扁平化がもたらされるので、微粒子が用いられている種々の用途、例えばインク、塗料、トナー、化粧品、樹脂フィラーなどの製造にも有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
[微粒子分散液]
本発明では平均粒子径Dが1μm以下の微粒子が溶媒中に分散した微粒子分散液を用いる。本発明において平均粒子径とは、動的光散乱法により測定され、キュムラント法を用いた解析から算出される値である。本発明では湿式媒体ミル中でのずり応力やせん断力、摩擦力、衝撃力などの機械的な力によって微粒子を結合・合体させて二次粒子とするものであるため、平均粒子径が1μmを超えると粒子の慣性力が大きく結合・合体に至りにくく、粉砕の方が優先して起こる傾向にある。好ましい平均粒子径は5nm〜500nmである。平均粒子径が1μmを超える場合は、予め何らかの手段で平均粒子径を1μm以下に粉砕して用いれば良い。
【0014】
微粒子の種類は、無機の微粒子であっても有機の微粒子であっても使用できる。また一次粒子であっても二次粒子であっても良い。無機の微粒子としては、シリカ、アルミナ、ベーマイト、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、クレー、カオリン、ゼオライト、二酸化チタン、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、珪酸アルミニウムなどの微粒子が例示される。これらの無機微粒子の中ではシリカが最も湿式媒体ミル中で凝集しやすいので好ましい。これはシリカの表面にはシラノール基があるので、シリカ微粒子同士の衝突によりシロキサン結合が生じ、離れにくくなるためと考えられる。
【0015】
シリカ微粒子として、まずコロイダルシリカが挙げられる。その製造方法は前記したように、ケイ酸ソーダの希釈水溶液をカチオン交換樹脂で処理して酸性の活性ケイ酸水溶液を調製し、この活性ケイ酸水溶液の一部に対しケイ酸ソーダをアルカリとして添加して安定化させて加熱重合することにより、シリカのシード粒子が単分散した液(シード液)を作り、アルカリ性条件を保持しながら活性ケイ酸水溶液の残部(フィード液)をこれに徐々に添加してケイ酸を重合させ、単分散状態を維持しながらシード粒子を所望の大きさに成長させる方法が広く行われている。また一次粒子が非球状のもの、細長い形状のもの、鎖状のもの、ネックレス状に連結したものも市販されている。これらのコロイダルシリカは一般的に平均粒子径が7nm〜100nmである。窒素吸着法による比表面積はおよそ30m/g〜400m/g、一次粒子が球状のものは細孔容積が0.3ml/g未満である。
【0016】
また、特開2001−354408号公報で開示されている、活性ケイ酸を縮合させて得られるシリカ微粒子分散液も好ましく使用できる。前記のコロイダルシリカの製造方法と異なる点は、窒素吸着法による比表面積が300m/g〜1000m/gで、細孔容積が0.4ml/g〜2.0ml/gであるシリカ微粒子がコロイド状に分散した液をシード液として用いる点である。その結果、コロイダルシリカより細孔容積が大きなシリカ微粒子分散液が得られる。成長後のシリカ微粒子は、平均粒子径が20nm〜200nm、窒素吸着法による比表面積が100m/g〜400m/g、かつ細孔容積が0.5ml/g〜2.0ml/gの範囲である。
【0017】
また、乾式法シリカを水中に分散させたものも使用できる。乾式法シリカとは、四塩化珪素などの揮発性珪素化合物を火焔中で高温分解する方法により製造される微粒子状シリカであり、比表面積が異なるものが各種市販されている。乾式法シリカは非常に嵩高い粉体であり、容易に水分散液とすることができる。水分散液の平均粒子径は、分散液の製造方法により異なるが、およそ100nm〜900nmの範囲である。水分散液を乾燥して窒素吸着法による比表面積と細孔容積を測定した場合には、およそ比表面積50m/g〜400m/g、細孔容積が0.6ml/g〜1.8ml/gの範囲である。
【0018】
さらに最近では、湿式法で製造された非晶質シリカの分散液も市販されており本発明に使用できる。湿式法とは、ケイ酸ナトリウムなどの水溶性ケイ酸塩水溶液に酸を混合して得られるものである。例えば、ケイ酸ナトリウム水溶液に対して2段に分けて酸添加を行い、シリカを沈殿させることにより細孔容積0.5ml/g以上の含水ケイ酸非晶質シリカを得る方法(沈降法)が行われている。また、ケイ酸ナトリウム水溶液に酸を添加して、混合物全体をゲル化させたのち粉砕、洗浄、乾燥を行って多孔質の含水非晶質シリカを製造する方法(ゲル法)も行われている。分散液中のシリカの平均粒子径は、分散液の製造条件で変えうるものであり、本発明に用いるには平均粒子径が1μm以下のものを選べば良い。分散液を乾燥して窒素吸着法による比表面積と細孔容積を測定した場合には、およそ比表面積50m/g〜500m/g、細孔容積が0.4ml/g〜1.8ml/gの範囲である。
【0019】
有機の微粒子としては、アクリルあるいはメタクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、スチレン−イソプレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シリコーン系樹脂、尿素樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂等の微粒子が例示される。
【0020】
微粒子の粉砕媒は安全性や取り扱いの容易さから水が好ましいが、有機溶媒でも良く、混合して用いても構わない。
【0021】
[湿式媒体ミル]
湿式媒体ミルは、粉砕媒体を使用して溶媒でスラリー化された粒子を微粉砕する装置の総称である。湿式媒体ミルは、湿式媒体攪拌ミルと湿式容器駆動媒体ミルに分類される。湿式媒体攪拌ミルはビーズミルと呼ばれることもあるが、溶媒でスラリー化した粒子をおよそ3mmφ以下の粉砕媒体(ビーズ)により、粉砕、解砕、分散させる湿式粉砕機である。粉砕は、粉砕室に粉砕媒体であるガラスビーズやセラミックビーズを充填し、これを攪拌ディスクや攪拌アームなどで攪拌しながら、ここへ粒子を溶媒でスラリー化して供給する。スラリー中の粒子は運動する粉砕媒体間に補足されて、ずり応力やせん断力、摩擦力、衝撃力などの力が与えられる。種々の形式の装置が製作されており、タワーミル、流通管式ミル(サンドグラインダー、パールミルがこの形式)、攪拌槽式ミル(アトライタ、アクアマイザーがこの形式)、アニュラー型ミル、アニュラー型攪拌槽ミル、マイクロス型などがある。
【0022】
容器駆動媒体ミルは、粉砕媒体とスラリーを充填した粉砕室を回転させたり、振動を与えたりすることにより粉砕を行う装置である。ボールミル、振動ミル、媒体遊星ミル、CFミル(遠心流動化ボールミル)などの形式が知られている。
【0023】
上記の湿式媒体ミルは何れも本発明に使用できるが、特に湿式媒体攪拌ミルは、粉砕媒体を高速で動かすことができ、微粒子に対し強い力を与えることができるので、微粒子分散液の凝集効果が特に優れる。また処理の連続化や、運転で発生する大量の熱を冷却により除去するのが容易であり本発明に好適である。
【0024】
粉砕室は粉砕媒体との衝突により磨耗しやすいため、耐摩耗性の高い材料が選択される。例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、硬質クロムメッキ、ジルコニア、アルミナ、ジルコニア強化アルミナ、窒化珪素、ゴム、ポリウレタン、プラスチックス(キャストナイロン、超高分子量ポリエチレン)などが用いられている。
【0025】
粉砕に用いる粉砕媒体はガラスビーズ、特殊ガラスビーズ(低アルカリ、無アルカリ、高比重)、ジルコニア・シリカ系セラミックビーズ、アルミナビーズ、ジルコニアビーズ、窒化けい素ビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが使用されている。本発明では真比重が大きいビーズほど微粒子分散液の凝集促進効果が高いので好ましい。特に真比重が5g/cm以上の粉砕媒体を選択すると特に凝集促進効果が高い。同一粒径のビーズで比較すると、ビーズの運動エネルギーはビーズの真比重に比例するため、凝集促進効果が高いと解釈される。ジルコニアビーズは真比重が約6g/cmあり、さらに耐摩耗性も優れているので最も好ましい。ビーズの粒径は0.05mmφ〜3mmφが最も使用される。粒径が大きいほど、微粒子分散液の凝集促進効果が高いが、同時に凝集後の粒径も大きくなる傾向なので、目的により選択する必要がある。
【0026】
湿式媒体ミルによる粉砕処理は、バッチ方式、パス方式、循環方式により行われる。バッチ方式は、例えばボールミルのように粉砕室に粉砕媒体とスラリーを充填し、所望の粒径になるまで連続的に運転を続ける方式である。パス方式とは、原料スラリーをタンクからポンプで湿式媒体ミルに送り、粉砕されたスラリーを原料タンクとは別のタンクに回収する方式である。一回の処理で希望の粒子径に達しない場合には、複数回の粉砕を繰り返す。この場合、一台のミルを使用しても良いし、複数のミルを直列に接続して運転しても良い。循環方式とは、粉砕されたスラリーを原料タンクに戻して希望の粒子径になるまで運転を続ける方式である。ただし、この場合は、粒子径が不均一にならないようにスラリーの循環量を多くする必要がある。
【0027】
湿式媒体ミルには多くの形式があるので、運転条件を一律に述べることはできないが、粉砕媒体の運動速度が速い運転条件ほど、凝集が起こりやすい。湿式媒体攪拌ミルの場合、攪拌ディスクや攪拌アームの回転数を大きくするほど短時間で凝集が起こる。粉砕媒体の運動速度の指標として、攪拌ディスクや攪拌アームの周速で表すと、8m/秒以上で凝集が顕著になる。また当然ながら、粉砕室におけるスラリーの滞留時間が長いほど凝集が強く起こる。必要な滞留時間は、攪拌ディスクや攪拌アームの周速によっても異なるが、例えば8m/秒の場合、1分〜20分程度である。ただし、上記したように、微粒子分散液に対する凝集促進効果は、ビーズ真比重、ビーズ粒径によっても変化するので、これらと周速などの運転条件を組み合わせて目的とする改質効果を得れば良い。
【0028】
処理時の微粒子の濃度は、高いほうが微粒子の凝集が容易に起こるが、濃度が高いと分散液の粘度も高いので湿式媒体ミルによる処理が困難になる。また、濃度が低すぎると凝集させることが困難であり、またエネルギー効率が悪いため、5質量%〜50質量%で行えば良い。
【0029】
上記の方法によって、微粒子分散液の品質を実質的に変えるためには、処理後の平均粒子径(D)を処理前の平均粒子径(D)の2倍を超える値とすることが必要である。好ましくは3倍以上、100倍未満である。
【0030】
上記の方法によって改質された微粒子の平均粒子径(D)を3μm以下にすると、塗工シートの光沢感が高く好ましい。3μm以下にすることは、凝集前の微粒子の平均粒子径、ビーズ真比重、ビーズ粒径、湿式媒体ミル運転条件の組み合わせにより達成できる。好ましくは0.05μm以上である。また凝集処理後の微粒子の窒素吸着法による細孔容積が0.4〜2.0ml/gにすると、インク吸収性の高い塗膜とすることができ、このような塗膜を支持体上に設けたものはインクジェット記録シートとして好適に使用できる。細孔容積を0.4〜2.0ml/gの範囲とすることは、ビーズ真比重、ビーズ粒径、湿式媒体ミル運転条件の組み合わせと、微粒子の選択により達成しうる。特にシリカを選択した場合、上記の細孔容積を容易に達成しうる。
【0031】
本発明の微粒子分散液の改質方法では、改質後の凝集粒子が扁平な形状となる場合がある。メカニズムは明らかではないが、微粒子が二つの粉砕媒体間に挟まれて衝撃力で合体するため扁平な形状になるものと思われる。扁平化を促進するためには、まず微粒子の選択が重要であり、特にシリカが扁平化しやすい。また、ビーズとしては真比重が大きいジルコニアビーズが扁平化を促進する。さらに、粒子径は大きいほどアスペクト比が高まる傾向にある。アスペクト比(粒子径/厚さ)が3〜50の扁平状粒子を支持体に塗工すると、光沢の向上、透気度及び平滑度の増加などの好ましい効果がある。
【0032】
[支持体]
以下に本発明の微粒子分散液を用いて塗工シート製造する方法を説明する。まず支持体であるが特に制限は無く、紙、樹脂被覆紙、合成紙、合成樹脂フィルム、金属箔などが使用できる。
紙としては、各種化学パルプ、セミケミカルパルプ、機械パルプ、再生パルプ(古紙パルプ)、麻、ジュート、ケナフ等の非木材パルプ、合成パルプ、合成繊維短繊維などを適宜配合して抄紙したものを使用することができる。また、所謂ECF、TCFパルプ等の塩素フリーパルプも好ましく使用できる。これらのパルプは紙力や平滑性、抄紙適性等を調整するために、叩解機により叩解度を調整できる。叩解度は、特に限定しないが、一般に50〜550ml(CSF:JIS−P−8121)程度が好ましい範囲である。必要に応じて、填料を内添することができ、タルク、炭酸カルシウム、クレー、カオリン、焼成カオリン、シリカ、ゼオライト、二酸化チタン、硫酸バリウム、有機填料などが好ましく使用される。填料の添加により、不透明性や平滑度を高めることができるが、過剰に添加すると、紙力が低下する場合があり、填料の内添量は、対木材パルプ1〜30質量%程度が好ましい。
【0033】
樹脂被覆紙は、紙表面を合成樹脂で被覆したもので、特に酸化チタンを練り込んだポリエチレンを紙表面に樹脂被覆したものは、銀塩写真印画紙や光沢インクジェット記録シートにも使用されている。ポリエチレン被覆層の厚みは、3〜50μmが好ましく、5〜30μmがより好ましい。ポリエチレン被覆層の厚みが3μm未満の場合は、樹脂被覆時にポリエチレン樹脂の穴等の欠陥が多くなりやすく、厚みのコントロールに困難がある場合が多く、平滑性も得にくくなる。逆に50μmを超えると、コストが増加する割には、得られる効果が小さく、不経済である。また、インク受容層との接着性を高めるため、樹脂層表面にコロナ放電処理を施したり、ゼラチン、ポリビニルアルコールなどのサブコート層を設けることが好ましい。
【0034】
合成紙としては顔料を内添したポリプロピレンを二軸延伸したユポ(ユポ・コーポレーション社製)や、ポリエステルフィルムに特殊加工を施して紙状の風合いと印刷適性を持たせたものが市販されている。
【0035】
合成樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、ポリエチレン、ポリプロピレン等のフィルムが挙げられる。これらの合成樹脂フィルムは、その表面に形成するインク受容層との接着力が不十分な場合にはサブコート層を施したり、コロナ放電処理などの各種の易接着処理を施すことができる。
【0036】
支持体の厚さに特に制限は無いが、インクジェット記録シート製造の場合には、プリンターの通紙性を考慮して通常50〜500μmである。また、カール抑制や、プリンターでの搬送性の向上のため、裏面層を設けることもできる。
【0037】
[塗工液]
塗工液は、本発明の微粒子分散液にバインダー樹脂を必須成分として配合し、必要に応じて他の顔料を配合し、さらに必要に応じてさまざまな添加剤や濃度調整用の溶媒を配合して調製される。
【0038】
バインダー樹脂は特に限定されるものではなく、例えば、カゼイン、ゼラチンなどの蛋白質類;澱粉や酸化澱粉、加工澱粉等の各種澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体;ポリエチレンオキサイド、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、水溶性ポリビニルアセタール、ポリ−N−ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、ポリアクリロイルモルホリン、ポリヒドロキシアルキルアクリレート、ポリアクリル酸、完全けん化ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコールなどの合成水溶性樹脂;スチレン−ブタジエン樹脂、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等の共役ジエン系樹脂ラテックス;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の重合体または共重合体であるアクリル系樹脂ラテックス;エチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂ラテックス等が挙げられる。これらのバインダー樹脂は、1種を用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0039】
バインダー樹脂の配合量は、本発明の微粒子と必要に応じて添加されるその他の顔料の合計100質量部に対して5〜100質量部程度が好ましい。インクジェット記録シート用の塗工液を調製する場合には、乾燥後の塗膜が多孔質となるように、具体的には本発明の微粒子の細孔容積の選択と、必要に応じて添加されるその他の顔料の細孔容積の選択と、バインダー樹脂の添加量を適切に調節することにより、塗膜の細孔容積を0.2〜2.0ml/gの範囲になるよう調節すれば良い。尚、ここでいうところの細孔容積は窒素吸着法によって測定され、細孔径100nm以下の細孔の全細孔容積である。
【0040】
必要に応じて本発明の微粒子と併用する他の顔料としては、シリカ、アルミナ、ベーマイト、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、重質炭酸カルシウム、沈降法炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム)、クレー、カオリン、焼成カオリン、ゼオライト、二酸化チタン、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、珪酸アルミニウム、珪藻土、などの無機顔料;アクリルあるいはメタクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、スチレン−イソプレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シリコーン系樹脂、尿素樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂等の樹脂からなる有機顔料が挙げられ、これらの顔料は真球状でも不定形でも良く、無孔質でも多孔質でも良い。これらの顔料は、1種を用いても良く2種以上を混合して用いても良い。
【0041】
インクジェット記録シート用の塗工液を調製する場合には、インクの定着剤の配合が必要である。インク定着剤としては、カチオン性樹脂、多価金属塩、カチオン性界面活性剤などが使用されている。代表的なカチオン性樹脂としては、ポリエチレンポリアミンやポリプロピレンポリアミン等のポリアルキレンポリアミン類又はその誘導体、第1〜第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有する(メタ)アクリレートの重合物、第1〜第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体の重合物、ビニルアミン重合物又はその誘導体、アリルアミン重合物又はその誘導体、ジアリルアミン重合物、ジアリルメチルアミン重合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合物、ジアリルアミン−二酸化イオウ共重合、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド−二酸化イオウ共重合物、アクリルアミド−ジアリルアミン共重合物、アクリルアミド−ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合物、ジシアンジアミド−ホルマリン重縮合物に代表されるジシアン系カチオン性樹脂、ジシアンジアミド−ジエチレントリアミン重縮合物に代表されるポリアミン系カチオン性樹脂、エピクロルヒドリン−ジメチルアミン付加重合物、アクリロニトリルとN−ビニルホルムアミド共重合体の加水分解物、ポリビニルアミジン系樹脂等のカチオン性樹脂が例示でき、単独又は数種類を組み合わせて使用しても良い。カチオン性樹脂の配合量は、本発明の微粒子と必要に応じて添加されるその他の顔料の合計100質量部に対して5〜30質量部程度が好ましい。
【0042】
多価金属塩としては、水溶性ジルコニウム化合物及び水溶性アルミニウム化合物が定着効果が優れている。ここで水溶性とは20℃の水100gに1g以上溶解することを目安とする。水溶性ジルコニウム化合物の中でも、酢酸ジルコニル、硝酸ジルコニル、乳酸ジルコニル、酸塩化ジルコニウム、塩基性塩化ジルコニルが好ましく、特にジルコニウムイオンが複数個結合してポリマー状となった化合物が好ましく、そのような化合物として塩基性塩化ジルコニルが知られている。水溶性アルミニウム化合物としては、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウム、塩基性硫酸ケイ酸アルミニウムが好ましく、特にアルミニウムイオンが複数個結合してポリマー状となった化合物が好ましく、そのような化合物として塩基性塩化アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウム、塩基性硫酸ケイ酸アルミニウムなどが知られている。塗工液への配合量は、本発明の微粒子と必要に応じて添加されるその他の顔料の合計100質量部に対し、酸化物換算(Al又はZrO)で2〜30質量部程度が好ましい。
【0043】
尚、インクの定着性を高めるために、顔料をカチオン性のシランカップリング剤で処理する方法もとることができる。特にシリカはアニオン性であるので、カチオン性のシランカップリング剤による表面処理は好ましい。カチオン性のシランカップリング剤の一例としては、第1級、第2級、第3級のアミノ基、又は第4級アンモニウム基を分子構造内に有するものが挙げられ、これらの具体例としては、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−[ビス(β−ヒドロキシエチル)]−アミノプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、SH−6026、SZ−6050(東レダウコーニング製)の商品名で市販されている特殊アミノシラン等が挙げられる。
【0044】
他の任意成分としては、一般の記録シート製造において使用される増粘剤、消泡剤、湿潤剤、界面活性剤、着色剤、帯電防止剤、耐光性改善助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐ガス性改善助剤、ブロッキング防止剤、防腐剤などの各種助剤等が適宜添加される。
【0045】
界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤のいずれであってもよい。アニオン系界面活性剤としては、例えば、硫酸エステル塩系、スルホン酸塩系、リン酸エステル塩系等が挙げられる。カチオン系界面活性剤としては、例えば、アミン塩系、4級アンモニウム塩系等が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系、ポリエチレングリコール系(高級アルコールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、高級脂肪族アミンおよび脂肪酸アミドのエチレンオキサイド付加物)、多価アルコール系(グリセリンおよびペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、多価アルコールのエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アルカノールアミド等)等が挙げられる。
【0046】
[塗工方法]
塗工は、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロッドブレードコーター、リップコーター、カーテンコーター、ダイコーター等の各種公知の塗工装置で形成することができる。塗工後に、マシンカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー、グロスカレンダー、シューニップカレンダー等のカレンダーを用いて光沢度、厚さ、密度などの調整を行っても良い。
【0047】
塗工量は、乾燥後の質量として1〜60g/m程度が好ましく、さらに好ましくは3〜50g/m程度である。インクジェット記録シートの場合、塗工量が1g/mより少ないとインクの吸収が不十分となりやすく、60g/mより多いとカールが発生しやすくなるし、コストもかさむので好ましくない。
【実施例】
【0048】
以下に本発明の更に詳しい説明を実施例により行うが、本発明はこれらの例に制限されるものではない。尚、以下に%とあるのは75度光沢値以外は質量%、部とあるのは質量部を意味する。実施例および比較例に記載した試験項目の測定方法は以下の通りである。
【0049】
[細孔容積測定方法]
試料の分散液の場合をそのまま105℃で乾燥し、窒素ガス吸着法比表面積・細孔分布測定装置〔Coulter社製SA3100plus型〕を用い、前処理として200℃で2時間真空脱気した後に測定した。細孔容積は細孔径100nm以下の全細孔容積の値(窒素相対圧0.9814)を使用した。
【0050】
[平均粒子径測定方法]
動的光散乱法によるレーザー粒度分布計(大塚電子株式会社製FPAR1000)を用いて、サンプルを十分に蒸留水で希釈した状態で測定した。平均粒子径はキュムラント法を用いた解析から算出される値を用いた。
【0051】
[塗膜のひび割れの評価方法]
塗工層の状態を、目視にて次の3段階に評価した。
3点:亀裂・ひび割れは全くない
2点:塗工層の一部に亀裂が入っている
1点:塗工層の全面に亀裂が入っている
【0052】
[インク吸収性の評価方法]
試料のインクジェット記録シートをセイコーエプソン社製インクジェットプリンターPM−G820(染料インク搭載機)のスーパーファイン紙推奨設定で、ISO−400の画像(「高精細カラーディジタル標準画像データISO/JIS−SCID」、p13、画像名称:果物かご)を印字し、目視にて画質を次の4段階に評価した。
4点:インクのあふれなし
3点:インクのあふれがベタ印字部で多少目立つ程度
2点:インクのあふれが全体的に目立つ
1点:インクがほとんど吸収されず、画像が完全に破綻している
【0053】
[75度白紙光沢測定方法]
村上色彩技術研究所の光沢度計(GM−26 PRO/AUTO)を用い、ISO 8254−1に基づいて測定した。
【0054】
[透気度及び平滑度測定方法]
王研式透気度・平滑度測定機により測定した。
【0055】
[アスペクト比測定方法]
走査型電子顕微鏡で拡大写真を撮影し、扁平粒子の平均厚さと、厚さと垂直方向の平均径を測定し、アスペクト比(平均径/厚さ)を計算した。尚、この値が3未満の場合は不定形と表示した。
【0056】
実施例1
粉砕室容量0.6リットルの湿式媒体攪拌ミル(アシザワ・ファインテック(株)製LMZ−06型)に0.3mmφのジルコニアビーズ0.48リットルを充填し、ホースポンプで水を送って、粉砕室内部を水で充填した。この状態の粉砕室内部のビーズを除く空隙(水が占める体積)は0.3リットルであった。攪拌機付きステンレスタンクに、微粒子分散液としてコロイダルシリカ(日産化学(株)製、商品名:スノーテックスO、pH3)3.6リットルを仕込んだ。湿式媒体攪拌ミルの攪拌羽根の周速が12m/秒になるようにインバーターで調整した後、ホースポンプを運転して微粒子分散液を1.5リットル/分で湿式媒体攪拌ミルに通した。ミルから出た処理液は、最初の0.6リットルは捨てた後、ステンレスタンクに戻るようにして循環方式で処理を行った。循環方式では装置の運転時間ではなく、粉砕室における平均滞留時間を処理時間とすべきであり、当業者には明らかであるが、この条件では微粒子分散液の粉砕室における平均滞留時間をn分とするには、ミルの実運転時間をn×10分とすれば良い{(3.6−0.6)/0.3=10}。この条件で、平均滞留時間を2分として微粒子分散液の凝集処理を行った。凝集処理前、及び後の平均粒子径、細孔容積、アスペクト比の測定を行った結果を表1に示す。
【0057】
実施例2
粉砕媒体として0.5mmφの窒化珪素ビーズを用い、処理時間を15分としたこと以外は実施例1と同様にして微粒子分散液の凝集処理を行った。凝集処理後の平均粒子径、細孔容積、アスペクト比の測定を行った結果を表1に示す。
【0058】
実施例3
粉砕媒体として0.42mmφ〜0.6mmφのガラスビーズ混合物を用い、処理時間を20分としたこと以外は実施例1と同様にして微粒子分散液の凝集処理を行った。凝集処理後の平均粒子径、細孔容積、アスペクト比の測定を行った結果を表1に示す。
【0059】
実施例4
内容積3.1リットルのセラミックポットに0.3mmφジルコニアビーズを2.5リットル充填し、次いで実施例1で用いたコロイダルシリカを1リットル仕込んだ。ポットに蓋をして、容器駆動媒体ミルの一種である振動ミル(中央加工機(株)製MB-1)に取り付けた。次に振動ミルを振動数1200回/分、振巾8mmで5分間運転した。運転終了後、ビーズと微粒子分散液を100メッシュのステンレス篩で分離し、処理された微粒子分散液を得た。凝集処理後の平均粒子径、細孔容積、アスペクト比の測定を行った結果を表1に示す。
【0060】
実施例5
[微粒子分散液の製造]
特開2001−354408号公報に基づき、シリカ微粒子分散液の製造を以下のように行った。
SiO濃度30%、SiO/NaOモル比3.1のケイ酸ソーダ溶液((株)トクヤマ製、三号珪酸ソーダ)に蒸留水を混合し、SiO濃度4.0%の希ケイ酸ソーダ水溶液を調製した。この水溶液を、水素型陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製、ダイヤイオンSK−1BH)が充填されたカラムに通じて、SiO濃度が4.0%、pHは2.9の活性珪酸を調製した。
還流器、攪拌機、温度計を備えた70リットルのステンレス製反応容器中で、11.3kgの蒸留水を90℃に加温した。この熱水を90℃に保ちながら、上記の活性ケイ酸水溶液を13.6kg/時の速度で合計13.6kgを添加し、その後30分間、90℃で加温し、シード液を調製した。
上記シード液に対し、濃度3.4%のアンモニア水溶液0.3kgを一時に添加して安定化させた。このシード液を90℃に保ちながら、上記の活性ケイ酸水溶液を13.6kg/時の速度でさらに34.8kg添加した。添加終了後、90℃で1時間加熱を行い、シリカ微粒子分散液60kgを得た。このシリカ微粒子分散液を限外ろ過モジュール(旭化成ケミカルズ(株)製、マイクローザSLP2053)で濃縮し、濃度20%、pH8.6のシリカ微粒子分散液を得た。
[微粒子分散液の凝集処理]
上記の微粒子分散液3.6リットルをタンクに仕込み、実施例1と同様にして微粒子分散液の凝集処理を行った。凝集処理前、及び凝集処理後の平均粒子径、細孔容積、アスペクト比の測定を行った結果を表1に示す。
【0061】
実施例6
ステンレスタンクにイオン交換水200kgを仕込み、吸引分散機(Ystral社製Conti−TDS−4)と接続し、気相法シリカ(トクヤマ社製、商品名:レオロシールQS−30)20kgを約30分かけて徐々に吸引し、同時に分散した。この時、吸引分散機のローターは3000rpmで行った。吸引完了後さらに30分運転を続けてシリカ微粒子分散液を得た。続いてこの微粒子分散液の凝集処理を実施例1と同様に行った。凝集処理前、及び凝集処理後の平均粒子径、細孔容積、アスペクト比の測定を行った結果を表1に示す。
【0062】
実施例7
市販のシリカ微粒子分散液(グレースデビソン社製、商品名:サイロジェット703A、成分は湿式シリカの微粒子、pH8.3)を用いて実施例1と同様に凝集処理を行った。ただし、平均滞留時間を5分間とした。凝集処理前、及び凝集処理後の平均粒子径、細孔容積、アスペクト比の測定を行った結果を表1に示す。
【0063】
実施例8
平均滞留時間を10分間としたこと以外は実施例7と同様に凝集処理を行った。凝集処理後の平均粒子径、細孔容積、アスペクト比の測定を行った結果を表1に示す。
【0064】
実施例9
市販のアルミナゾル(触媒化成工業(株)製アルミナゾルAS−3、濃度7.1%、pH6.9)をそのまま用いて、実施例1と同様に凝集処理を行った。凝集処理前、及び凝集処理後の平均粒子径、細孔容積、アスペクト比の測定を行った結果を表1に示す。
【0065】
比較例1
実施例1で用いたコロイダルシリカ1リットルを高速回転式ホモミキサー(プライミクス(株)製ロボミクスfmodel、攪拌部としてホモミクサーMARK2−2.5型付き)を用い、14000回転/分で30分処理した。処理後の平均粒子径、細孔容積、アスペクト比の測定を行った結果を表1に示す。
【0066】
比較例2
実施例1で用いたコロイダルシリカ1リットルを超高圧ホモジナイザー(Microfluidics社製、商品名:マイクロフルイタイザー、型番:M110/EH)による分散処理を100MPaで1回施した。処理後の平均粒子径、細孔容積、アスペクト比の測定を行った結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

以下に微粒子分散液を用いて塗工シートを作成した例を示す。
実施例10
実施例1〜4で製造した凝集処理後の微粒子分散液に、完全けん化ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:PVA−145、重合度=4500、けん化度=99%以上)の8%水溶液と、カチオン性樹脂(センカ社製、商品名:ユニセンスCP−103、成分:ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド)の10%水溶液、及び水を加え、よく攪拌して均一な塗工液とした。配合比は固形分質量比でシリカ:PVA:カチオン樹脂=100:7:6であり、全固形分濃度は15%である。
市販のA4判PPC用紙(富士ゼロックスオフィスサプライ(株)製、商品名:カラー/モノクロ兼用リサイクル用紙C2r、坪量70g/m)にこの塗工液を乾燥質量で塗工量が5g/mとなるようにバー塗工を行い、110℃で10分間熱風乾燥して塗工シートを得た。インクジェット記録シートとしての品質を評価するため、インク吸収量、塗膜のひび割れを測定した結果を表2に示す。
【0068】
比較例3
実施例1〜4で用いた凝集処理前の微粒子分散液を用いて、実施例10と同様にしてインクジェット記録シートを作成し、比較例3とした。
【0069】
実施例11
実施例5で製造した凝集処理後の微粒子分散液に、完全けん化ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:PVA−145、重合度=4500、けん化度=99%以上)の8%水溶液と、カチオン性樹脂(センカ社製、商品名:ユニセンスCP−103、成分:ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド)10%水溶液、及び水を加え、よく攪拌して均一な塗工液とした。配合比は固形分質量比でシリカ:PVA:カチオン樹脂=100:15:8であり、全固形分濃度は15%に調整した。
実施例10で用いた市販のA4判PPC用紙にこの塗工液を乾燥質量で塗工量が5g/mとなるようにバー塗工を行い、110℃で10分間熱風乾燥して塗工シートを得た。
インクジェット記録シートとしての品質を評価するため、インク吸収量、塗膜のひび割れを測定した結果を表2に示す。
【0070】
比較例4
実施例5で用いた凝集処理前の微粒子分散液を用いて、実施例11と同様にしてインクジェット記録シートを作成し、比較例4とした。
【0071】
【表2】

実施例12
実施例7及び実施例8で製造した凝集処理後の微粒子分散液に、バインダーとしてアクリル系ラテックス(ニチゴー・モビニール(株)製、商品名:モビニール718)、及び水を加え、よく攪拌して均一な塗工液とした。配合比は固形分質量比でシリカ:ラテックス=100:30であり、全固形分濃度は15%である。この塗工液を市販のA4判PPC用紙(富士ゼロックスオフィスサプライ(株)製、商品名:カラー/モノクロ兼用リサイクル用紙C2r、坪量70g/m)に乾燥質量で塗工量が5g/mとなるようにバー塗工を行い、110℃で10分間熱風乾燥して塗工シートを得た。その後、金属ロールと弾性ロールで構成されたキャレンダーに線圧140kg/cm、ロール温度40℃、速度10m/minで3回通紙して塗工面の平滑化処理を行った。印刷用紙としての品質を評価するため、75度光沢、平滑度、透気度を測定した結果を表3に示す。
【0072】
比較例5
実施例7及び実施例8で用いた凝集処理前の微粒子分散液を用いて、実施例12と同様にして塗工シートを作成し、比較例5とした。
【0073】
【表3】

実施例1〜9が示しているように、各種微粒子分散液を湿式媒体ミルで処理すると、容易に平均粒子径を大きくすることができ、その大きさは使用する粉砕媒体の種類(真比重)、処理時間、媒体ミルの種類などでかなり広範囲に制御することができた。また、処理によって細孔容積の増大が起こった。一方、高速回転式ホモミキサーや高圧ホモジナイザーで微粒子分散液を処理した場合には、平均粒子径や細孔容積に違いは検出できなかった(比較例1及び比較例2)。処理により微粒子分散液の増粘やゲル化は起こらなかったので、粒子径や細孔容積を応用製品に合わせて調整することに利用できる。
詳細に見ると真比重が大きいジルコニアビーズを用いると、短時間で粒子径を大きくすることができ(実施例1)、一方真比重が小さいガラスビーズを用いた場合には凝集が比較的ゆっくり起こった(実施例3)。同一粉砕媒体を用いた場合には、容器駆動媒体ミルより、媒体攪拌ミルの方が短時間で凝集が起こった(実施例1及び実施例4)。
また、大き目の粉砕媒体を使用し、比較的長時間処理を行った試料を走査型電子顕微鏡で観察したところ、扁平な形状であることを見出した(実施例7及び実施例8)。
実施例1〜4で得られた凝集後の微粒子を用いてインクジェット記録シートを作成したところ、凝集前の微粒子と比較して、インク吸収性と塗膜のひび割れが大きく改善した(実施例10及び比較例3)。インク吸収性は細孔容積が大きいほど良好な傾向にあり、細孔容積が元々大きい微粒子を凝集処理してインクジェット記録シートに使用するとインク吸収性はさらに改善された(実施例11及び比較例4)。
実施例7及び実施例8で得られた扁平化した微粒子分散液を使用して、印刷用紙を製造したところ、光沢、平滑度、透気度が大幅に向上した(実施例12及び比較例5)
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、微粒子分散液の分散状態を損なわずに、平均粒子径の増大、細孔容積の増大、扁平化をもたらす簡便な方法として使用でき、それによって微粒子を使用した製品の品質を高めることに利用できる。例えばインク、塗料、トナー、化粧品、樹脂フィラー、塗工シートなどの製造に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動的光散乱法による平均粒子径D0が1μm以下の微粒子分散液を湿式媒体ミルで処理して凝集させ、平均粒子径Dを、D>2D0とすることを特徴とする微粒子分散液の改質方法。
【請求項2】
湿式媒体ミルが湿式媒体攪拌ミルである請求項1記載の微粒子分散液の改質方法。
【請求項3】
湿式媒体ミルの粉砕媒体が、真比重5g/cm以上のビーズである請求項1または請求項2記載の微粒子分散液の改質方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項の方法によって製造され、凝集処理後の微粒子の平均粒子径Dが3μm以下である微粒子分散液。
【請求項5】
凝集処理後の微粒子の窒素吸着法による細孔容積が0.4〜2.0ml/gである請求項4記載の微粒子分散液。
【請求項6】
凝集処理後の微粒子がアスペクト比(平均径/厚さ)3〜50の扁平状粒子である請求項4または請求項5記載の微粒子分散液。
【請求項7】
微粒子がシリカである請求項4〜6のいずれか一項に記載の微粒子分散液。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか一項に記載の微粒子分散液を含む塗工液を支持体上に塗工して製造された塗工シート。

【公開番号】特開2008−74983(P2008−74983A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256590(P2006−256590)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】