説明

微粒子分散液の濃縮方法

【課題】簡単な装置で実施でき、比較的高濃度の微粒子分散液を連続処理をすることができる微粒子分散液の濃縮方法を提供する。
【解決手段】平均粒子径が1〜1000nmであるゼオライト粒子又はシリカ粒子を0.01〜30体積%含む流量が20〜200L/min/mである微粒子分散液を、圧力0.03〜1.0MPaで1〜100nmの孔径を有する固定限外ろ過膜に供給する微粒子分散液の濃縮方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子分散液の濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子分散液は、電子材料、触媒、熱線遮蔽、コーティング剤等の広い分野に用いられている。
上記微粒子分散液中の微粒子の平均粒径は、通常、数10nmであるが、平均粒径が1〜100nm程度になると、デッドエンドろ過では液と微粒子の分離に非常に時間がかかる問題があった。
【0003】
微粒子分散液の濃縮は、通常、遠心分離機が用いられる。しかし、遠心分離機は大型化が困難であり、また連続操作することができないので、大量の微粒子分散液を処理することはできなかった。
【0004】
逆浸透膜又は限外ろ過膜を用いて微粒子分散液を濃縮する場合、分離対象物質は通常、微粒子分散液に含まれる微粒子が分子又は高分子オーダーで、その濃度も通常、体積1%以下である。微粒子の粒径が1μm超であれば、通常のろ過を用いることができる。
【0005】
上記逆浸透膜又は限外ろ過膜を用いる方法は、いくつか提案されているが(特許文献1、並びに非特許文献1及び非特許文献2)、微粒子と液が完全に分離され、且つ分離対象である微粒子の粒径がナノオーダー(1〜1000nm)である濃縮方法の開示はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6521562号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】From Zeolites to Porous MOF Materials the 40th Anniversary of International Zeolite Conference, R.Xu, Z.Gao, J.Chen and W.Yan(Editors), Elsevier, 242-249(2007)
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc., 128, 3190-3197(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、簡単な装置で実施でき、比較的高濃度の微粒子分散液を連続処理をすることができる微粒子分散液の濃縮方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下の濃縮方法が提供される。
1.平均粒子径が1〜1000nmであるゼオライト粒子又はシリカ粒子を0.01〜30体積%含む流量が20〜200L/min/mである微粒子分散液を、圧力0.03〜1.0MPaで1〜100nmの孔径を有する固定限外ろ過膜に供給する微粒子分散液の濃縮方法。
2.平均粒子径が1〜1000nmであるゼオライト粒子又はシリカ粒子を0.01〜30体積%含む微粒子分散液を、圧力0.03〜1.0MPaで周速が1.5〜12m/sである1〜100nmの孔径を有する円盤状回転限外ろ過膜に供給する微粒子分散液の濃縮方法。
3.前記ゼオライト粒子がMFI型ゼオライト粒子である1又は2に記載の微粒子分散液の濃縮方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡単な装置で実施でき、比較的高濃度の微粒子分散液を連続処理をすることができる微粒子分散液の濃縮方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る微粒子分散液の濃縮方法のシステム図である。
【図2】実施例1〜6で使用した微粒子分散液の濃縮方法のシステム図である。
【図3】実施例7及び8で使用した微粒子分散液の濃縮方法のシステム図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の微粒子分散液の濃縮方法は、平均粒子径が1〜1000nmであるゼオライト粒子又はシリカ粒子を0.01〜30体積%含む流量が20〜200L/min/mである微粒子分散液を、圧力0.03〜1.0MPaで1〜100nmの孔径を有する固定限外ろ過膜に供給する。
【0013】
また、本発明の微粒子分散液の濃縮方法は、平均粒子径が1〜1000nmであるゼオライト粒子又はシリカ粒子を0.01〜30体積%含む微粒子分散液を、圧力0.03〜1.0MPaで周速が1.5〜12m/sである1〜100nmの孔径を有する回転限外ろ過膜に供給する。
【0014】
含まれる微粒子の粒径がナノオーダー(1〜1000nm)である場合、通常、微粒子分散液は固液分離しにくいが、本発明の微粒子分散液の濃縮方法を用いることにより、簡単な装置で連続して一定以上の流量(例えば透過流量で1×10−6/m/s以上)で濃縮することができる。
また、本発明の微粒子分散液の濃縮方法を用いることにより、微粒子分散液を例えば20〜30体積%にまで濃縮することができる。
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る微粒子分散液の濃縮方法のシステム図である。
図1に示すように、微粒子分散液は、分散液供給槽10から輸送ポンプ20により膜分離モジュール30に供給される。膜分離モジュール30において微粒子分散液は濾過され、濾液は排出路40から排出され、微粒子の濃縮液は循環路50からバルブ60を通じて分散液供給槽10に戻される。
【0016】
本発明の濃縮方法に用いる微粒子分散液(以下、単に本発明の微粒子分散液という場合がある)に含まれる微粒子はゼオライト粒子又はシリカ粒子であり、好ましくはMFI型ゼオライト粒子である。
上記ゼオライト粒子及びシリカ粒子の平均粒子径は、それぞれ1〜1000nmであり、好ましくは10〜500nmである。この平均粒子径は、動的散乱法を用いて得られる値であり、例えばELS−Z2(大塚電子株式会社製)を用いることにより測定できる。
尚、合成されるゼオライト粒子は、通常10〜1000nmである。
【0017】
本発明の微粒子分散液の微粒子の含有量は、0.01〜30体積%であり、好ましくは0.1〜10体積%である。微粒子の含有量が30体積%超の場合、透過液流量が減るおそれがある。
尚、図1のシステムのように微粒子分散液を循環させる場合において、処理する最初の微粒子分散液の濃度及びろ過後の濃縮水の濃度が低い場合がある。例えば、濾液分だけ洗浄液を加えて、濃度を上げずに洗浄してもよい。
【0018】
本発明の微粒子分散液の分散溶媒としては、例えば水;エタノール、メタノール等のアルコール等を用いることができる。
【0019】
本発明の微粒子分散液は、例えば市販のシリカ分散液に水等の分散溶媒を加えて所定の濃度にすることにより調製できる。また、ゼオライトの反応終了液をそのまま本発明の微粒子分散液として用いることもできる。
【0020】
本発明の濃縮方法では、本発明の微粒子分散液を圧力0.03〜1.0MPaで限外ろ過膜に供給し、好ましくは本発明の微粒子分散液を圧力0.03〜0.2MPaで限外ろ過膜に供給する。微粒子分散液の供給圧力を1.0MPa超にした場合であっても、透過液量を増やすことはできない。
微粒子分散液の供給圧力は、図1に示すシステムの場合、例えば輸送ポンプ20及び/又はバルブ60で調整することができる。
【0021】
本発明の濃縮方法で用いる限外ろ過膜の孔径は、1〜100nmである。限外ろ過膜の孔径は、処理する微粒子分散液に含まれる微粒子の粒子径に依存する。通常、粒子には粒径分布があるので、限外ろ過膜の孔径は、微粒子の平均粒径より小さく設定する。
限外ろ過膜の孔径が1nm未満の場合、透過液流量が少なくなって処理時間が長くなるおそれがある。一方、限外ろ過膜の孔径が100nm超の場合、微粒子が通過してしまうおそれがある。
【0022】
本発明の濃縮方法では、固定限外ろ過膜又は円盤状回転ろ過膜を用いる。
本発明の濃縮方法で用いる限外ろ過膜は、例えば平膜又は環状膜を用いることができ、これら膜はモジュール形式でもよい。ろ過膜の膜面積は、微粒子分散液の処理量によって調整でき、限外ろ過膜が大面積を要する場合は、環状膜のモジュール形式が好ましい。
例えばゼオライト合成は高アルカリ性で行う場合が多いので、限外ろ過膜は耐アルカリ性であることが望ましい。
【0023】
固定限外ろ過膜を用いて本発明の濃縮方法を実施する場合、本発明の微粒子分散液を膜面積当り流量20〜200L/min/mで固定限外ろ過膜に供給する。
流量が20L/min/m未満の場合、流れによる粒子の剥ぎ取り効果が得られないおそれがある。一方、流量が200L/min/m超の場合、圧力が上昇して輸送ポンプの負荷が大きくなるおそれがある。
【0024】
円盤状回転ろ過膜を用いて本発明の濃縮方法を実施する場合、円盤状回転ろ過膜を外径基準の周速で1.5〜12m/sとし、好ましくは5〜10m/sとして、本発明の微粒子分散液を円盤回転ろ過膜に供給する。
周速が1.5m/s未満の場合、回転による粒子の剥ぎ取り効果が得られないおそれがある。一方、周速が12m/s超の場合、キャビテーション、軸振動、及び膜の耐久性低下が問題となるおそれがある。
【0025】
固定限外ろ過膜が、流体の流れで微粒子を剥ぎ取るのに対し、円盤状回転ろ過膜は、膜自身を回転させて微粒子を剥ぎ取る。
上記円盤状回転ろ過膜の具体例としては、寿工業株式会社製のR−ファインが挙げられる。
【0026】
本発明の濃縮方法において、例えば図1に示すシステムの排出路、循環路及び膜分離モジュールは、圧力に耐えられ、微粒子分散液に不純物が混入することがなければ特に限定されない。上記排出路、循環路及び膜分離モジュールは、通常、ステンレス製又は樹脂製である。
【実施例】
【0027】
実施例1
図2に示す微粒子分散液の濃縮システムを用いて、微粒子分散液の濃縮を行った。
具体的には、微粒子分散液を、分散液供給槽10から輸送ポンプ20により膜分離モジュール30に供給した。膜分離モジュール30において微粒子分散液は濾過され、濾液を排出路40から排出し、微粒子分散液の濃縮液を、バルブ60及び流量メーター70を通過させ、循環路50から分散液供給槽10に戻した。
尚、分散液供給槽10はスターラー80で攪拌しながら、サーモスタット90で温度管理した。また、濃縮液の透過流量を流量メーター70で測定し、濃縮液の膜分離モジュール30における膜分離の圧力を、ゲージ100で測定した。
【0028】
微粒子に平均粒径が11nmであるコロイダルシリカ(触媒化成工業株式会社製,SI−30)を用い、分散溶媒には水を用いて、濃度が1.2体積%である微粒子分散液を調製した。
膜分離モジュール30は、薄膜流式平膜テストセルC10−T(日東電工株式会社製)であり、膜分離モジュール30のろ過膜に、分画分子量が50,000(膜孔径が約5nm)の限外ろ過膜(日東電工株式会社製、NTU−3150)を用い、上記微粒子分散液を流量140L/min/m及び圧力0.12MPaで限外ろ過膜に供給し、透過流量を測定した。結果を表1に示す。
【0029】
実施例2
微粒子分散液の微粒子に平均粒径が47nmであるコロイダルシリカ(触媒化成工業製,SI−45P)を用いた他は実施例1と同様にして微粒子分散液の濃縮を行い、透過流量を測定した。結果を表1に示す。
【0030】
実施例3
微粒子分散液の微粒子に平均粒径が80nmであるコロイダルシリカ(触媒化成工業製,SI−80P)を用いた他は実施例1と同様にして微粒子分散液の濃縮を行い、透過流量を測定した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

尚、実施例1の透過流量1.7×10−5/m/sは、換算すると1.0L/min/mであり、実施例2の透過流量7.5×10−6/m/sは、換算すると0.45L/min/mであり、実施例3の透過流量6.0×10−6/m/sは、換算すると0.36L/min/mである。
【0032】
実施例4
ZEOLITES, 14, 557-567(1994)に開示の方法を基に、10%NaOH水溶液(和光純薬製)40g、精製水(和光純薬製)2188g、TPAOH(テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、SACHEM製)2000g及びTEOS(テトラエトキシシラン、信越化学製)2553gを10L攪拌槽に投入し、密閉下で攪拌しながら25℃24時間及び100℃で48時間それぞれ反応させ、平均粒径が100nmのゼオライト微粒子を含む濃度が10体積%であるゼオライト微粒子分散液(ゼオライト反応液)を調製した。
尚、得られたゼオライト微粒子分散液の組成(モル比)は以下の通りであった。
TPAOH/SiO2/H2O/EtOH=8/25/338/100
【0033】
上記で調製した微粒子分散液を使用した他は実施例1と同様にして、微粒子分散液の濃縮を行い、透過流量を測定した。結果を表2に示す。
【0034】
実施例5
微粒子分散液の濃度を5体積%とした他は実施例4と同様にして、微粒子分散液の濃縮を行い、透過流量を測定した。結果を表2に示す。
【0035】
実施例6
微粒子分散液の濃度を2.5体積%とした他は実施例4と同様にして、微粒子分散液の濃縮を行い、透過流量を測定した。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

尚、実施例4の透過流量1.2×10−6/m/sは、換算すると0.072L/min/mであり、実施例5の透過流量2.8×10−6/m/sは、換算すると0.17L/min/mであり、実施例6の透過流量5.0×10−6/m/sは、換算すると0.30L/min/mである。
【0037】
実施例7
図3に示す微粒子分散液の濃縮システムを用いて、微粒子分散液の濃縮を行った。
具体的には、微粒子分散液を、分散液供給槽10から輸送ポンプ20により膜分離モジュール30に供給した。円盤状回転ろ過膜を含む膜分離モジュール30において微粒子分散液は濾過され、濃縮液及び濾液をそれぞれ分離した。分離した濃縮液及び濾液はそれぞれ、バルブ60を制御して一部は分散液供給槽10に戻し、残りは排出した。
【0038】
膜分離モジュール30は、R−ファイン(寿工業株式会社製)であり、膜分離モジュール30のろ過膜に、孔径7nmのセラミック膜を用いて、このセラミック膜を740rpm(周速:5.9m/s)で回転させながら、実施例4で調製した平均粒径が10nmで濃度が10体積%であるゼオライト微粒子分散液を圧力0.1MPaで供給し、透過流量を測定した。結果を表3に示す。
【0039】
実施例8
微粒子分散液の濃度を5体積%とした他は実施例7と同様にして、微粒子分散液の濃縮を行い、透過流量を測定した。結果を表3に示す。
【0040】
【表3】

尚、実施例7の透過流量3.1×10−6/m/sは、換算すると0.19L/min/mであり、実施例8の透過流量5.3×10−6/m/sは、換算すると0.32L/min/mである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の濃縮方法で濃縮した微粒子分散液は、電子材料、触媒、熱線遮蔽、コーティング剤等の広い分野に用いることができる。
【符号の説明】
【0042】
10 分散液供給槽
20 輸送ポンプ
30 膜分離モジュール
40 排出路
50 循環路
60 バルブ
70 流量メーター
80 スターラー
90 サーモスタット
100 ゲージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が1〜1000nmであるゼオライト粒子又はシリカ粒子を0.01〜30体積%含む流量が20〜200L/min/mである微粒子分散液を、圧力0.03〜1.0MPaで1〜100nmの孔径を有する固定限外ろ過膜に供給する微粒子分散液の濃縮方法。
【請求項2】
平均粒子径が1〜1000nmであるゼオライト粒子又はシリカ粒子を0.01〜30体積%含む微粒子分散液を、圧力0.03〜1.0MPaで周速が1.5〜12m/sである1〜100nmの孔径を有する円盤状回転限外ろ過膜に供給する微粒子分散液の濃縮方法。
【請求項3】
前記ゼオライト粒子がMFI型ゼオライト粒子である請求項1又は2に記載の微粒子分散液の濃縮方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−253442(P2010−253442A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109575(P2009−109575)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】