説明

微粒子化された物質の製造方法および微粒子化された物質

【課題】晶析法により微粒子化された物質の製造方法であって、粒径分布の狭い微粒子を得ることが出来、しかも、分散剤を用いずとも微粒子間の凝集を抑制することが出来る、粒子化された物質の製造方法および微粒子化された物質を提供する。
【解決手段】晶析法により微粒子化された物質の製造方法であって、微粒子化する対象物質を含む溶液を調製し、表面に微細突起を100個/cm以上の密度で有する基板と接触させて微粒子を析出させる方法、および、上記の製造方法により得られた生理活性物質の微粒子であって、分散剤を含有しない生理活性物質の微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子化された物質の製造方法および微粒子化された物質に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体材料を用いた発光素子や診断薬、磁性材料を用いた超高密度記録媒体、金属材料を用いた触媒、有機化合物を用いた医薬品などの生理活性物質などの各種化学品において、微粒子の応用が図られており、例えば、溶解度が約10mg/ml未満の、水に難溶な有機化合物の微粒子は、医薬品、インク、染料、顔料、潤滑剤、殺虫剤、農薬、肥料、化粧品などの幅広い化学品に応用されている。更に、例えば医薬品等において、特に水に難溶な薬物は、溶出速度が極めて遅く、体内においてその吸収部位を過ぎてもなお十分に溶出しない場合がある。そこで、斯かる問題に対処するため、ナノサイズの粒径まで微粒子化し比表面積を増大して溶解速度を向上させることにより、その生体利用効率を高める技術が提案されている。
【0003】
一方、ナノサイズの微粒子を製造する方法は多く提案されており、その方法は、バルクを砕いてナノサイズまで小さくするブレイクダウン手法とクラスターサイズの微粒子を成長させナノサイズまで大きくするビルドアップ手法の2つの方法に大別される。例えば、ブレイクダウン手法に分類される方法として、ボールミル法(例えば特許文献1参照)が挙げられるが、この方法では、400nmより小さな医薬品微粒子を得ることが出来るものの、グラインダー材料などの異物の混入が避けられないという欠点がある。これに対して、そのような混入の惧れのないビルドアップ手法に分類される方法として、溶質の過飽和溶液から溶質微粒子を析出させる晶析を利用した技術(例えば特許文献2参照)が挙げられるが、この方法では、例えば156nmの医薬品微粒子を得ることが出来るものの、用いる溶媒の種類や医薬品との組成比に大きく影響を受けるため、好適な条件設定が困難であるという欠点がある。
【0004】
また、ブレイクダウン、ビルドアップ両手法共、得られる微粒子の粒径の制御が難しいばかりか、粒径分布が大きくなるという欠点があり、更に、ナノサイズの微粒子は凝集しやすい性質があるため、通常、ブレイクダウン、ビルドアップ両手法共、その微粒子の凝集を防止するために界面活性剤などの分散剤を用いる必要があり、医薬品などには望ましくない化合物の混入を避けられない。
【特許文献1】米国特許第5145684号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0049323号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述の従来技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、晶析法により微粒子化された物質の製造方法であって、粒径分布の狭い微粒子を得ることが出来、しかも、分散剤を用いずとも微粒子間の凝集を抑制することが出来る、粒子化された物質の製造方法および微粒子化された物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、晶析法を行う際に、過飽和溶液を多数の微細突起を有する基板と接触させることにより、粒度分布の狭い、しかも、分散剤を含まない微粒子を凝集物なく製造することが出来ることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の第1の要旨は、晶析法により微粒子化された物質の製造方法であって、微粒子化する対象物質を含む溶液を調製し、表面に微細突起を100個/cm以上の密度で有する基板と接触させて微粒子を析出させることを特徴とする晶析法により微粒子化された物質の製造方法に存する。そして、本発明の第2の要旨は、上記の製造方法により得られた生理活性物質の微粒子であって、分散剤を含有しないことを特徴とする生理活性物質の微粒子に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、粒径分布の狭い微粒子を得ることが出来、しかも、分散剤を用いずとも微粒子間の凝集を抑制できる。従って、例えば、水に難溶な医薬品などにおいては、微粒子化して比表面積を増大し溶解速度を向上させることによりその生体利用効率を高めることが出来、更に、粒径分布を揃えることで体内に取り込まれるタイミングを揃えることも可能であり、しかも、分散剤などの好ましくない化合物を含有しないナノ粒子の医薬品などの生理活性物質などとしてその活用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、晶析法により微粒子化する対象物質(原料物質)としては、溶媒に溶解するものであれば特に限定されない。原料物質の溶媒に対する溶解度は、通常1mg/ml以上、好ましくは5mg/ml以上である。特に平均粒径1μ未満の微粒子が望まれる医薬品、インク、顔料、化粧品などの構成材料が好ましい。中でも、水に難溶な医薬品(20℃の水に対する溶解度が通常100mg/ml以下、好ましくは10mg/ml以下)は、微粒子化して比表面積を増大し溶解速度を向上させることにより、その生体利用効率を高めることが出来、更に、粒径分布を揃えることで体内に取り込まれるタイミングが揃うため適材適所の投与が可能となるため好ましい。
【0010】
また、溶媒としては、原料物質の溶解度が通常1mg/ml以上、好ましくは5mg/ml以上のものの中から、原料物質の種類に応じて適宜選択することが出来る。なお、その溶媒としては、少なくとも0〜30℃の温度において液体状態であるものが好ましく、特に20〜30℃において液体状態であるものが好ましい。溶媒の具体例としては、水;アルコール、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の極性溶媒;エーテル、トルエン、クロロホルム等の非極性溶媒などが挙げられる。
【0011】
原料物質が水溶性である場合には、溶媒としては水が好ましく、油溶性化合物である場合には、非極性溶媒が好ましいが、例えば溶液の昇降温操作により溶解度が変化することを考慮すれば、水溶性目的物の場合であっても溶媒として非極性溶媒を用いることも出来、また、その逆の組み合わせも可能である。
【0012】
本発明において、原料物質を過飽和状態で含む溶液を接触させる基板は、表面に、微細突起を有するものである。そして、その微細突起の密度は、100個/cm以上であることを必須とするが、好ましくは1万個/cm以上、更に好ましくは1億個/cm以上である。微細突起の密度の上限は通常100億個/cmである。微細突起の密度が前記範囲未満では、目的とする微粒子を製造することが困難となる。
【0013】
また、微細突起の形状としては、円錐状、円錐台状、多角錐状、多角錐台状、円柱状、多角柱状などの各種形状のものが挙げられ、その形状は限定されるものではないが、微細突起の形状が析出する微粒子の形態に影響を与える場合があると考えられることから、狭い粒径分布の微粒子を製造するためには、前記の密度で形成されている微細突起の各々が実質的に同一形状であることが好ましい。また、微細突起を有する基板を制作することの容易さの観点からも実質的に同一形状であることが好ましい。また、微細突起の高さの下限は、通常10nm、好ましくは50nmであり、上限は、通常5,000nm、好ましく1,000nmである。
また、基板表面の前記微細突起の配列は、粒径分布の面から規則性を有するのが好ましく、例えば、千鳥配列、六方充填配列、立方充填配列などが挙げられる。
【0014】
なお、微細突起を表面に有する基板の材質としては、前記の微細突起の形成が可能であり、且つ、接触せられる溶液の溶媒に対して耐溶媒性を有すると共に、溶質と化学反応を起こさないものであれば特に限定されるものではないが、吸着などの物理的現象を生じることのないものが好ましい。具体的には、例えば、鉄、ニッケル、アルミニウム等の金属、それらの合金、ガラス、プラスチック等が挙げられる。
【0015】
また、微細突起の形成方法としては、例えば、半導体リソグラフィー手法、干渉露光手法でパターンニングされた原板にニッケルを電鋳して形成する方法、基板の上に半導体を気相成長させて島状突起を自己組織化させる方法などが挙げられる。中で、突起形状のコントロール性の容易さの面から、リソグラフィー手法を用いた方法が好ましい。また、突起表面の化学的性質に基づいて微粒子析出の程度が変わるため、突起表面が疎水化処理されたり逆に親水化処理されたりしていてもよい。
【0016】
本発明の製造方法において、原料物質を過飽和状態で含む溶液を調製し、表面に前記微細突起を有する前記基板と接触させるには、原料物質の飽和溶解度未満の溶液を過飽和状態とした後、前記基板と接触することとしてもよいが、基板表面の微細突起の頂部、および/または、突起側面や谷部に規則的に原料物質の微粒子を析出させ得る面からは、原料物質の飽和溶解度未満の溶液を前記基板と接触させた後、当該溶液を過飽和状態とするのが好ましい。
【0017】
なお、飽和溶解度未満の溶液を過飽和状態とするには、溶液の温度を下げる方法や溶媒を蒸発させて溶質の濃度を低下させる方法などがあるが、操作性の容易さの面から、溶液の温度を下げる方法が好ましい。また、溶液の温度を下げるには、基板表面の微細突起に効果的に原料物質の析出を行い得る面から、基板の温度を下げて伝熱により溶液の温度を下げるのが好ましい。なお、その際、低下させる温度幅は通常1〜100℃の範囲である。
【0018】
本発明において、原料物質を過飽和状態で含む溶液を前記基板と接触させることにより、原料物質の微粒子が基板表面の微細突起の頂部、および/または、突起側面や谷部など、突起周辺に析出する。その際、析出する原料物質の微粒子は、結晶質であっても非晶質であってもよい。また、結晶質の場合、基板表面の微細突起表面の結晶構造等により、析出する微粒子の結晶系を制御することも出来る。
【0019】
本発明において、前述の如くして析出させた微粒子は、残余溶液を除去した後に回収する。その際、従来の方法で微粒子を製造した場合、微粒子と残余溶液を分離するためには濾過、遠心分離などの煩雑な操作が必要であるが、本発明においては、例えば、微粒子に対する貧溶媒で基板ごと洗浄する方法、空気、窒素などの不活性ガスで残余溶液を吹き飛ばす方法、それらの方法を組み合わせた方法により、容易に微粒子と残余溶液を分離することが出来る。更に、残余溶液を除去した後、貧溶媒中で超音波処理する方法、中程度の溶解度を持つ溶媒を流す方法、貧溶媒に浸し基板を加熱する方法などで微粒子をスラリー状で回収することが出来る。
【0020】
得られた微粒子スラリーは、基板表面での析出後、基板から離脱させられるまでの間、基板表面の微細突起周辺に付着し相互の接触が回避されていることから、微粒子間の凝集が抑制されており、以後の所望の操作を速やかに行うことにより、ナノ粒子の凝集が進まない状態で用いることが出来、また、ある程度凝集が進んだとしても、超音波処理などの簡便な方法で再分散させることが容易である。
【0021】
本発明の製造方法は、微粒子の大きさや粒径分布のコントロール性に優れ、得られる微粒子の平均粒径は、通常1nm以上1mm未満の範囲、好ましくは1nm以上500μm未満の範囲、更に好ましくは1nm以上50μm未満の範囲、特に好ましくは1nm以上1μm未満の範囲でコントロール可能である。なお、本発明において、平均粒径とは重量平均粒径を意味する。重量平均粒径は動的光散乱法により測定することが出来る。
【0022】
また、本発明において、得られる微粒子は次のような狭い粒径分布を有する。すなわち、重量換算分布において、小さい粒径から積算して全体重量の50重量%までの粒子群を与える径である篩下50重量%粒径(D50)に対する、同じく全体重量の90重量%までの粒子群を与える径である篩下90重量%粒径(D90)の比(D90/D50)は、通常2以下であり、好ましくは1.8以下、特に好ましくは1.5以下、という粗大粒径粒子の少ない粒径分布である。更に、同じく全体重量の10重量%までの粒子群を与える径である篩下10重量%粒径(D10)に対する、同じく全体重量の50重量%までの粒子群を与える径である篩下50重量%粒径(D50)の比(D50/D10)は、通常2以下、好ましくは1.8以下、特に好ましくは1.5以下、という超微細粒径粒子も少ない粒径分布である。上記粒径分布は動的光散乱法により測定することが出来る。
【実施例】
【0023】
実施例1:
20℃の室温下、L−グルタミン酸62mgを秤り取り、30mlねじ口瓶中の水10mlに投入して溶解させ、溶液を調製した。20℃におけるL−グルタミン酸の水に対する溶解度は7.2mg/mlであるのに対して、調製したL−グルタミン酸溶液の濃度は6.2mg/mlであり、飽和溶解度を下回っている。
【0024】
一方、底面に19×23mmの平面を有するSUS製のバルブを逆さにして固定し、その上に、表面に半導体リソグラフィー手法で縦横450nm間隔毎に高さ450nmの円錐状のニッケルの微細突起が5億個/cmの密度でパターンニングされ、裏面は平面である、大きさ9×10mm、厚さ0.3mmの基板を置き、当該基板上に、室温下、前記で得られた溶液0.05gをマイクロピペットで滴下して液滴を形成した後、0℃に冷却した冷媒をバルブに連続的に流し16分間保った。0℃におけるL−グルタミン酸の水に対する溶解度は3.3mg/mlであるので、溶液は過飽和状態を経て、L−グルタミン酸の微粒子が析出していると推察された。
【0025】
引き続いて、直径5cmのシャーレに室温の水20mlを溜めておき、 基板の両側をピンセットで掴みシャーレ中の水に全体を2回通して残余飽和溶液を洗浄除去し、直後に窒素ガンで窒素を吹き付けて乾燥させ、サンプルを得た。サンプルの表面を走査型電子顕微鏡で2万2千倍に拡大して観察したところ、一部の微細突起の頂部に、粒径180nmのL−グルタミン酸のナノ粒子が付着しているのが観察された。
【0026】
同様に作製した別のサンプルを30mlねじ口瓶中の10mlの水中に入れ超音波をかけることにより、L−グルタミン酸ナノ粒子を基板から離脱させた後、得られるL−グルタミン酸ナノ粒子を含むスラリーについて、Malvern社製動的光散乱粒度分布測定装置「HPPS」を用いて粒度分布を測定すると、平均粒径が約180nmのナノ粒子となる。これら粒子は、D90/D50値やD50/D10値が小さい、粒径分布の狭い微粒子であることがわかる。また、得られたL−グルタミン酸ナノ粒子は界面活性剤等の分散剤を含んでいないナノ粒子である。
【0027】
比較例1
実施例1で用いたのと同じ溶液5mlを10mlバイヤル瓶中に入れ、0℃の冷媒中に浸し16分間保持したところ、白濁した微粒子スラリーが得られた。このスラリーについて、実施例1と同様の方法で粒度分布を測定したところ、平均粒径8μmであり、D90/D50が3.0、D50/D10が2.5と粒径分布の広いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
晶析法により微粒子化された物質の製造方法であって、微粒子化する対象物質を含む溶液を調製し、表面に微細突起を100個/cm以上の密度で有する基板と接触させて微粒子を析出させることを特徴とする晶析法により微粒子化された物質の製造方法。
【請求項2】
微粒子化する対象物質を未飽和状態で含む溶液を調製し、表面に微細突起を100個/cm以上の密度で有する基板と接触させて後、上記の溶液を過飽和状態として粒子を析出させる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
微粒子の平均粒径が1nm以上1mm未満である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
析出した微粒子の、篩下50重量%粒径(D50)に対する篩下90重量%粒径(D90)の比(D90/D50)が2以下である請求項1〜3の何れかに記載の製造方法。
【請求項5】
析出した微粒子の、篩下10重量%粒径(D10)に対する篩下50重量%粒径(D50)の比(D50/D10)が2以下である請求項1〜4の何れかに記載の製造方法。
【請求項6】
微粒子化する対象物質が生理活性物質である請求項1〜5の何れかに記載の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法により得られた生理活性物質の微粒子であって、分散剤を含有しないことを特徴とする生理活性物質の微粒子。

【公開番号】特開2006−104193(P2006−104193A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−257520(P2005−257520)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】