説明

微粒子白金粉末の製造方法

【課題】篩などによる分級を行うことなく、最大粒径5μm以下、平均粒径1μm以下の微粒子白金粉末を安定して工業生産することのできる方法を提供する。
【解決手段】
(1)アンモニア性水溶液中に、塩化白金酸水溶液とアンモニア・ヒドラジン水溶液とを同時に添加することを特徴とする微粒子白金粉末の製造方法、
(2)アンモニア水溶液を30〜70℃に加熱することを特徴とする請求項1記載の微粒子白金粉末の製造方法、
(3)微粒子白金粉末を300℃〜650℃で焼成することを特徴とする請求項1又は2に記載の微粒子白金粉末の製造方法、
(4)焼成後の微粒子白金粉末を水又は温水で脱塩素処理することを特徴とする請求項1〜3記載の微粒子白金粉末の製造方法、
(5)平均粒径が2.0μm以下であることを特徴とする請求項1〜4記載の微粒子白金粉末の製造方法、

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子白金粉末の製造方法に関し、特にスパッタリングターゲットの製造に有用な粒子径の揃った微粒子白金粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化白金酸アンモニウム、塩化白金酸カリウム等の溶液を塩酸ヒドラジン等の還元剤により還元させて白金粉末を析出沈降させるようにした白金粉末の製造方法において、白金化合物に対する還元剤に硫酸ヒドラジン等のヒドラジン化合物を用いるようにし、更に、添加剤として水酸化アンモニウム等のアンモニア化合物を用い0.5〜8.0μmの範囲の球形の白金粉末を製造する方法が知られている。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
塩化白金酸またはその塩の還元析出反応において、還元剤として塩酸ヒドラジンを使用すること、還元反応において緩衝剤としてアンモニウム、ナトリウムおよびカリウムの水酸化物、炭酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩クエン酸塩および酒石酸塩等を使用し、反応溶液のpH値を3以上に調節すること、反応温度を10℃〜100℃の範囲に調節すること、によってほぼ球状の白金粉末を製造することも知られている。(例えば、特許文献2参照)
【0004】
また、別の白金粉末の製法として、白金ブラックと、アルカリ塩またはアルカリ土類金属塩選んだ少なくとも一種の塩とを湿式混合して乾燥後、粉砕し、その粉砕体を焼成してガスを除去後、希酸によって塩を溶解させて水洗除去し、これを乾燥して白金粉末を得る高結晶性白金粉末の製造方法が知られている。(例えば、特許文献3参照)
【0005】
白金微粉末と炭酸カルシウム粉末とを混合し、加熱処理して炭酸カルシウム粉末を熱分解させて酸化カルシウムとし、この酸化カルシウム介在下で白金微粉末を粒成長させ、次いで水に接触させて酸化カルシウムを水酸化カルシウムに変化させ、しかる後に酸処理して水酸化カルシウムを水洗除去して白金粉末を製造する方法などが提案されている。(例えば、特許文献4参照)
【0006】
上記の特許文献1では、白金粉末の製造方法において、反応温度は50℃以上の高温で反応することが望ましいと記載され、実施例1では、80℃に加熱保持された塩化白金酸水溶液へ同じく80℃に加熱されたアンモニア化合物を添加した還元剤を徐々に滴下して球状の粒子径を有する白金粉末を得ることが開示されている。
この特許文献1においては、ヒドラジン化合物等の還元剤に予めアンモニア化合物を添加しておく点は、本発明に類似しているが、反応条件は全く異なるものである。即ち、本発明は、塩化白金酸溶液へアンモニア・ヒドラジン水溶液を直接添加するのではなく、50℃以下に加熱したアンモニア性水溶液中に塩化白金酸溶液とアンモニア・ヒドラジン水溶液とを同時に添加するものである。このようにすることにより本発明では粒子径の揃った微細な白金粉末を得ることに成功したものである。
しかしながら、特許文献1のように塩化白金酸水溶液へアンモニア化合物を添加した還元剤を直接添加し、しかも50℃以上の高温で還元を行うと、塩化白金酸は、容器の壁面で還元し、箔となった白金粉末や粒子成長した白金粉末が混入するので、これらの箔となった白金粉末や粒子成長した白金粉末を篩や分級により除去しなければならず、その作業に大変手間が掛かり、大量に生産するには難点があった。
【0007】
また、特許文献2では、還元剤に緩衝剤としてアンモニア化合物を加えた溶液を煮沸し、この煮沸せる溶液中へ塩化白金酸水溶液を迅速に注加し、白金を還元析出させる旨、記載されている。この方法も塩化白金酸は容器の壁面で還元し、箔となった白金粉末や粒子成長した白金粉末が混入するので、これらの箔となった白金粉末や粒子成長した白金粉末を篩や分級により除去しなければならず、その作業に大変手間が掛かり、大量に生産するには難点があった。
【0008】
さらに、特許文献3及び4ではアルカリ塩またはアルカリ土類金属塩を白金粉末へ添加しているので、その塩類を除去する作業に大変手間が掛かり、アルカリ塩類は完全に除去しきれないため、ターゲット材料として使用するには好ましくなかった。
【0009】
【特許文献1】特開平2−294416号公報
【特許文献2】特公昭58−55204号公報
【特許文献3】特開平10−102103号公報
【特許文献4】特開平10−102104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、篩などによる分級を行うことなく、最大粒径5μm以下、平均粒径2μm以下の微粒子白金粉末を安定して工業生産することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、以下の発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
(1)アンモニア性水溶液中に、塩化白金酸水溶液とアンモニア・ヒドラジン水溶液とを同時に添加することを特徴とする微粒子白金粉末の製造方法、
(2)アンモニア水溶液を30〜70℃に加熱することを特徴とする請求項1記載の微粒子白金粉末の製造方法、
(3)微粒子白金粉末を300℃〜650℃で焼成することを特徴とする請求項1又は2に記載の微粒子白金粉末の製造方法、
(4)焼成後の微粒子白金粉末を水又は温水で脱塩素処理することを特徴とする請求項1〜3記載の微粒子白金粉末の製造方法、
(5)平均粒径が2.0μm以下であることを特徴とする請求項1〜4記載の微粒子白金粉末の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の微粒子白金粉末は、原料としてナトリウム塩やカリウム塩を使用していないので、これらの塩類が微粒子白金粉末へ混入する心配がない。そのため、これらのアルカリ塩類の混入を嫌う電子材料分野において有効に使用することができる。
また、塩化白金酸溶液とアンモニア・ヒドラジンをpHが一定になるようにアンモニア性水溶液中に同時添加するので細かい粒子径の揃った白金粉末を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明で使用する塩化白金酸溶液としては、例えば、ヘキサクロロ白金(4)酸、テトラクロロ白金(2)酸、テトラアンミン白金(2)酸等が挙げられる。
【0014】
上記の塩化白金酸溶液と同時に添加するアンモニア・ヒドラジン溶液とは、25%アンモニア水に60%水加ヒドラジンを添加したものである。
【0015】
また、上記の塩化白金酸溶液とアンモニア・ヒドラジン溶液を同時に添加する際には、それを受ける反応容器中に、30〜70、好ましくは40〜60℃に保ったアンモニア性水溶液を入れておく。このようにすることにより一次粒子0.2〜0.4μmの微粒子白金微粉末を得ることができる。上記のアンモニア性水溶液を30〜70℃の範囲に保つのは、30℃以下では、反応に時間が掛かり70℃以上では反応容器の縁に白金が付着して箔状になり粒子が不揃いになるので好ましくない。
【0016】
生成した微粒子白金粉末は吸引ろ過し、水洗後、50〜80℃で乾燥を行う。次いで、この微粒子白金粉末を300〜650℃、好ましくは350〜600℃の範囲で焼成し、脱塩素、脱ガスを行うと、一次粒子が凝集して塊状にならず、粒子径の揃った微粒子白金粉末が得られる。
この微粒子白金粉末から微量な脱塩素を行うため、微粒子白金粉末を熱水中で加熱撹拌を行い、乾燥、粉砕する。
【0017】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【実施例】
【0018】
(実施例1)
塩化白金酸水溶液(白金含有量;62.5g/l)400mlを準備する。別に60%水加ヒドラジン50gと25%アンモニア水50gを含有するアンモニア・ヒドラジン溶液400mlを準備する。
次いで、25%アンモニア水40gを1200mlの水に溶解しアンモニア性水溶液を調製する。
【0019】
前記のアンモニア性水溶液を45℃に加熱し、撹拌しながらこれに前記により準備した塩化白金酸水溶液とアンモニア・ヒドラジン溶液とを60分間かけて同時に添加する。
添加終了後、さらに45℃で30分間熟成を行う。得られた微粒子白金の沈殿物は通常の方法で吸引濾過、温水洗浄を行った後、80℃で15時間乾燥を行う。
次いで、乾燥した微粒子白金粉末を450℃で2時間熱処理し、粉砕する。この白金粉末は、微粒子で、残留塩素が殆んどなかった。そして粒度分布測定を行った結果、図1に示すように粒子径が非常に揃っていて平均粒径1.47μmであった。
【0020】
(実施例2)
塩化白金酸水溶液(白金含有量;62.5g/l)400mlを準備する。別に60%水加ヒドラジン50gと25%アンモニア水50gを含有するアンモニア・ヒドラジン溶液400mlを準備する。
次いで、25%アンモニア水40gを1200mlの水に溶解しアンモニア性水溶液を調製する。
【0021】
前記のアンモニア性水溶液を45℃に加熱し、撹拌しながらこれに前記により準備した塩化白金酸水溶液とアンモニア・ヒドラジン溶液とを60分間かけて同時に添加する。
添加終了後、さらに45℃で30分間熟成を行う。得られた白金の沈殿物は通常の方法で吸引濾過、温水洗浄を行った後、80℃で乾燥する。
次いで、乾燥した微粒子白金粉末を400℃で熱処理し、粉砕する。得られた白金粉末は温水浴中に投入し、60℃で180分間撹拌後、濾過、水洗し、80℃で乾燥し、粉砕する。
このようにして得られた微粒子白金粉末は残留塩素が殆ど含まれていなかった。そして粒度分布測定を行った結果、図2に示すように粒子径が非常に揃っていて平均粒径1.05μmであった。
【0022】
(比較例1)
撹拌機付きの反応容器に塩化白金酸水溶液(白金含有量;62.5g/l)2000ml入れ加熱撹拌して、塩化白金酸水溶液を70℃に保持する。
次いで、この塩化白金酸水溶液に60%水和ヒドラジン50gを20分間で滴下する。加熱撹拌を続けながら更に25%アンモニア水100gを20分間で滴下する。得られた白金粉末は、濾過、水洗し、80℃で乾燥し、粉砕する。
そして得られた白金粉末の粒度分布測定を行った結果、図3に示すように粒度分布には広がりがあり、平均粒径26.7μmであった。また、この白金粉末には白金箔粒子が含まれているため篩で除かなければならず、極めて作業性が悪かった。
【0023】
(比較例2)
撹拌機付きの反応容器に塩化白金酸水溶液(白金含有量;62.5g/l)2000ml入れ加熱撹拌して、塩化白金酸水溶液を80℃に保持する。
これとは別に60%水和ヒドラジン50gに25%アンモニア水100gを加えたアンモニア・ヒドラジン溶液を調製し、80℃に保持する。
次いで、上記の塩化白金酸水溶液を80℃に保持したまま撹拌し、これに上記のアンモニア・ヒドラジン溶液を30分間で添加した。
添加終了後、さらに60分間撹拌を継続する。
得られた白金粉末は、濾過、水洗し、80℃で乾燥し、粉砕する。
そして得られた白金粉末の粒度分布測定を行った結果、図4に示すように粒度分布には広がりがあり、平均粒径23.2μmであった。また、この白金粉末には白金箔粒子が含まれているため篩で除かなければならず、極めて作業性が悪かった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1で得られた微粒子白金粉末の粒度分布を示す図である。
【図2】実施例2で得られた微粒子白金粉末の粒度分布を示す図である。
【図3】比較例1で得られた白金粉末の粒度分布を示す図である。
【図4】比較例2で得られた白金粉末の粒度分布を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア性水溶液中に、塩化白金酸水溶液とアンモニア・ヒドラジン水溶液とを同時に添加することを特徴とする微粒子白金粉末の製造方法。
【請求項2】
アンモニア水溶液を30〜70℃に加熱することを特徴とする請求項1記載の微粒子白金粉末の製造方法。
【請求項3】
微粒子白金粉末を300℃〜650℃で焼成することを特徴とする請求項1又は2に記載の微粒子白金粉末の製造方法。
【請求項4】
焼成後の微粒子白金粉末を水又は温水で脱塩素処理することを特徴とする請求項1〜3記載の微粒子白金粉末の製造方法。
【請求項5】
平均粒径が2.0μm以下であることを特徴とする請求項1〜4記載の微粒子白金粉末の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−95174(P2008−95174A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125446(P2007−125446)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(393017188)小島化学薬品株式会社 (13)
【Fターム(参考)】