説明

微細な凹凸の評価方法

【課題】測定された凹凸のデータをフーリエ変換して得られるパワースペクトルのグラフを、低波数側と高波数側の境界を設定することなく近似して評価することができる方法を提供する。
【解決手段】 測定された凹凸のデータをフーリエ変換して得られるパワースペクトルのグラフを、式(1)により近似し、

P=B×(A1/(1+f/fc) ) (1)

(Pは波数頻度、fは波数、A、B、fcはそれぞれ定数を表す。)
式(1)の係数の値を求めることを特徴とする微細な凹凸の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細な凹凸の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加工中の半導体の表面や、フォトレジストにより形成された膜の表面、フォトレジストにより形成されたライン状のパターンのエッジの形状などの微細な凹凸の評価方法として、測定された凹凸のデータをフーリエ変換してパワースペクトルを作成して行う評価方法が実施されている。
【0003】
特に、フォトレジストにより形成されたライン状のパターンのエッジの形状などの微細な凹凸(以下、ラインエッジラフネスという。)の評価においては、両対数の、パワースペクトル(波数頻度、すなわちPower=フーリエ振幅の絶対値の二乗、の波数依存性のグラフ)を作成し、波数頻度の描く曲線を、低波数側(低周波数側)では傾き1/fkの直線により近似し、高波数側(高周波数側)では傾き1/f(ここでk≠m)の直線により近似して、kおよびmの安定性を検査する評価方法が実施されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、低波数側と高波数側の境界をどこに設定するかにより、kおよびmの値が変動する問題点があった。
【0004】
【特許文献1】特開2006−38779
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、測定された凹凸のデータをフーリエ変換して得られるパワースペクトルのグラフを、低波数側と高波数側の境界を設定することなく近似して評価することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、測定された凹凸のデータをフーリエ変換して得られるパワースペクトルのグラフを近似して評価する方法について鋭意検討した結果、該パワースペクトルのグラフを特定の一つの近似式で近似して評価することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち本発明は、測定された凹凸のデータをフーリエ変換して得られるパワースペクトルのグラフを、式(1)により近似し、

P=B×(A1/(1+f/fc) ) (1)
(Pは波数頻度、fは波数、A、B、fcはそれぞれ定数を表す。)
式(1)の係数の値を求めることを特徴とする微細な凹凸の評価方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
従来は、図15に模式的に示したように、データを低波数側と高波数側2本の直線で近似していたため、低波数側と高波数側の境界をどこに設定するかにより、境界付近のデータが低波数側の直線に近似するために用いられるか、高波数側の直線に近似させるために用いられるかが異なり、2本の直線を定める定数が一意的に求まらず、低波数側と高波数側の境界の設定の任意性により、十分精度の高い評価ができなかった。
【0009】
本発明の評価方法によれば、測定された凹凸のデータをフーリエ変換してパワースペクトルを作成して行う微細な凹凸の評価方法において、低波数側と高波数側の境界の設定の任意性を避けることができ、従来より精度の高い評価が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の評価方法は、測定された凹凸のデータをフーリエ変換してパワースペクトルを作成して行う微細な凹凸の評価方法であり、測定された凹凸のデータをフーリエ変換して得られるパワースペクトルのグラフを、式(1)により近似し、

P=B×(A1/(1+f/fc) ) (1)
(Pは波数頻度、fは波数、A、B、fcはそれぞれ定数を表す。)
式(1)の係数の値を求めることを特徴とする。
【0011】
本発明における凹凸のデータは、接触式表面粗さ計による測定、光学式表面粗さ計による測定、走査型電子顕微鏡により得られる画像の濃淡の数値化、原子間力顕微鏡による測定等により得ることができる。
【0012】
得られたデータを両対数グラフにプロットすると目視でわかりやすいデータとなるが、必ずしもプロットする必要は無い。
【0013】
得られたデータを、式(1)により近似する。

P=B×(A1/(1+f/fc) ) (1)
(Pは波数頻度、fは波数、A、B、fcはそれぞれ定数を表す。)
【0014】
近似するには、通常は最小自乗法が用いられるが、3次以上の近似関数で一度カーブフィッティングした上で、得られた近似関数の係数から式(1)の係数を算出するなどの方法で近似してもよい。
【0015】
得られたデータを、式(1)により近似することにより、式(1)の各定数が一意的に求まる。
【0016】
本発明の評価方法により品質管理を行うには、製造物から無作為にサンプリングし、得られた試料の微細な凹凸を測定して微細な凹凸のデータを取得し、得られたデータを本発明の評価方法により評価し、得られた前記式(1)の定数を記録し、その値を用いて、統計的品質管理の手法を用いた母集団の標準偏差の推定、母集団の平均値の推定等を行い、また、以前に製造した製造品との差の検定を行うことにより、品質管理を行うことができる。また、管理図を作成して安定した製品が生産できるよう管理することができる。
【0017】
本発明は、測定された凹凸のデータをフーリエ変換してパワースペクトルを作成して行う微細な凹凸の評価方法に用いることができ、特に、フォトレジストにより形成されたライン状のパターンのラインエッジラフネスの評価に好適に用いることができる。
【0018】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
実施例1
本発明の第一の実施例を図1から図8を用いて説明する。
図1は、膜厚120nmで反射防止膜上に塗布されたArFレジストを用いて、NA=0.85のArFスキャナー露光機で65nm(1:1配線パターン)を露光した際に得られた線幅の凹凸を示すデータを、配線方向にプロットした値である(n=5)。図2は、図1のデータをフーリエ変換して得られた波数頻度(フーリエ係数の絶対値の二乗、すなわちPower)の波数(f:1/nm)依存性のグラフである。図3は、図2の波数頻度の平均値を、ln(1/f)に対してプロットしたグラフである。特許文献1にも記述されている通り、低波数側(低周波数側)と高波数側(高周波数側)で傾きが変化する為に、フィッティングする場合にフィッティング範囲を何処に取るかにより、フィッティング曲線が一意的に定まらない欠点がある。
図4は、幾つかのフィッティング領域を選び、式(2)によるフィッティングを行った際の曲線群である。
P=E×(1/f)D (2)
(Pは波数頻度、fは波数、D、Eはそれぞれ定数を表す。)
【0020】
本発明者らは、波数頻度の自然対数(常用対数でもよい)を1/(1+f/fc)に対してプロットすると(fcは定数。)、図5に見られるように直線性が見られることを見出した。図5において、直線による直線回帰計算を行い、ln(P)=Ln(B)+Ln(A)×(1/(1+f/fc))の回帰係数Ln(A)およびLn(B)を算出した。ここで、fcの値を変化させつつ、直線回帰計算のRSQ値(ピアソンの積率相関係数の2乗値、Microsoft社製ExcelのRSQ関数で計算した。)を計算し、最もRSQ値が大きくなる際のfc値と回帰係数(A、B)を、フィッティング曲線の最適値として決定した(図6)。定数は、fc=0.025、A=220911、B=1.143と算出された。図7に、図6で最適化したフィッティング係数Ln(A)、Ln(B)、fcを用いて、波数頻度の式(1)によるフィッティングを行った結果を示す。
P=B×(A1/(1+f/fc) ) (1)
【0021】
実施例2
本発明の第二の実施例を図8から図14を用いて説明する。
実施例1とは異なる種類のフォトレジストを使用し、実施例1と同様の解析を行った。図8は、膜厚120nmで反射防止膜上に塗布されたArFレジストを用いて、NA=0.85のArFスキャナー露光機で65nm(1:1配線パターン)を露光した際に得られた線幅の凹凸を示すデータを、配線方向にプロットした値である(n=5)。図9は、図8のデータをフーリエ変換して得られた波数頻度(フーリエ係数の絶対値の二乗、すなわちPower)の波数(f:1/nm)依存性のグラフである。図10は、図9の波数頻度の平均値を、ln(1/f)でプロットしたグラフである。図11は、幾つかのフィッティング領域を選び、式2によるフィッティングを行った際の曲線群である。
【0022】
図12は、波数頻度の自然対数を1/(1+f/fc)でプロットしたグラフである。図5と同様に良い直線性が見られる。図11において、1次直線による直線回帰計算を行い、ln(P)=Ln(B)+Ln(A)×(1/(1+f/fc))の回帰係数Ln(A)およびLn(B)を算出した。ここで、fcの値を変化させつつ、直線回帰計算のRSQ値(ピアソンの積率相関係数の2乗値)を計算し、最もRSQ値が大きくなる際のfc値と回帰係数(A、B)を、フィッティング曲線の最適値として決定した(図13)。各定数は、fc=0.031、A=131571、B=0.582と算出された。図14に、図13で最適化したフィッティング係数Ln(A)、Ln(B)、fcを用いて、波数頻度の式(1)によるフィッティングを行った結果を示す。
P=B×(A1/(1+f/fc) ) (1)
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】レジスト1の線幅測長値
【図2】レジスト1のPOWER(フーリエ係数の絶対値の二乗)スペクトル
【図3】レジスト1のln(POWER)対ln(1/f)プロット
【図4】レジスト1の式(2)によるフィッティング例
【図5】レジスト1のln(POWER)対1/(1+f/fc)プロット
【図6】レジスト1の式(1)によるフィッティング係数の最適化
【図7】レジスト1の式(1)によるフィッティング
【図8】レジスト2の線幅測長値
【図9】レジスト2のPOWER(フーリエ係数の絶対値の二乗)スペクトル
【図10】レジスト2のln(POWER)対ln(1/f)プロット
【図11】レジスト2の式(2)によるフィッティング例
【図12】レジスト2のln(POWER)対1/(1+f/fc)プロット
【図13】レジスト2の式(1)によるフィッティング係数の最適化
【図14】レジスト2の式(1)によるフィッティング
【図15】測定された凹凸のデータをフーリエ変換して得られるパワースペクトル((波数頻度)を波数f(1/nm)に対して両対数でプロットしたグラフ)を作成し、低波数側と高波数側の2本の直線により近似する従来の評価方法を示す模式図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定された凹凸のデータをフーリエ変換して得られるパワースペクトルのグラフを、式(1)により近似し、

P=B×(A1/(1+f/fc) ) (1)

(Pは波数頻度、fは波数、A、B、fcはそれぞれ定数を表す。)
式(1)の係数の値を求めることを特徴とする微細な凹凸の評価方法。
【請求項2】
測定された凹凸のデータが、接触式表面粗さ計による測定、光学式表面粗さ計による測定、走査型電子顕微鏡により得られる画像の濃淡の数値化、原子間力顕微鏡による測定のいずれかにより得られたデータである請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
測定された凹凸のデータが、フォトレジストにより形成されたライン状のパターンのラインエッジラフネスである請求項1または2に記載の評価方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の評価方法により行うことを特徴とする品質管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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