説明

微細パターン形成用インキ組成物

【課題】 各種電子部品などに所望される画像を、凸版反転印刷法により正確に形成することができる微細パターン形成用インキ組成物を提供する。
【解決手段】 ブランケット表面に形成された均一なインキ塗膜を凸版に押圧して押圧部を凸版に転写させて除去することによって、ブランケット表面に画像を形成した後、これを被印刷基材に転写する凸版反転印刷法に用いられる微細パターン形成用インキ組成物であって、粒状成分、樹脂成分、有機溶剤、表面エネルギー調整剤、及び、ポリエーテル系化合物を含有することを特徴とする微細パターン形成用インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子部品などの微細パターンを必要とする印刷物を凸版反転印刷法により作製する際に好適に使用できるインキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カラー液晶表示装置のカラーフィルター、有機EL素子、有機トランジスタ、回路基板等の、微細なパターンを必要とする電子部品のパターン形成は、現在、フォトレジスト法が広く使用されている。しかしながら、このフォトレジスト法では、塗布、露光、現像等の長工程を経るため、莫大な設備投資を要し、昨今要求される低製造コスト化には必ずしも最適ではない。特に、カラー液晶表示装置に用いられるカラーフィルターを製造する方法としては、RGBの3色及びブラックマトリックスに対して、各色ごとに、夫々の工程を経るため、低製造コスト化に不適であった。このような欠点を解消する方法として、印刷方式によりパターンを形成する方法が注目されている。
【0003】
印刷方式により微細なパターンを形成する方法として凸版反転印刷法を用いて製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
この凸版反転印刷法とは、図1(a)に示すように、まずインキ塗布装置1により剥離性を有するブランケット2の表面に均一な厚みのインキ塗膜3を形成する。ついで、図1(b)に示すように、表面に均一なインキ塗膜3が形成されたブランケット2の表面を凸版3に押圧、接触させ、凸版4の凸部の表面に、ブランケット2表面上のインキ塗膜3の一部を付着、転移させる。これによりブランケット2の表面に残ったインキ塗膜3には印刷パターン(画像)が形成されることになる。ついで、図1(c)に示すように、この状態のブランケット2をガラス板、プラスチックシートなどの被印刷基材5の表面に押圧して、ブランケット2上に残ったインキ塗膜3を転写し、この被印刷基材5上に転写されたインキ塗膜3を乾燥する方法である。
【0005】
例えば、カラーフィルター製造の場合、4色同時パターニングが可能であり、各色ごとの露光、現像工程が不要であるなどにより、短工程によって製造が行え、低製造コスト及び低設備コスト化が実現できる。凸版反転印刷法に求められるインキは、ブランケット表面上に均一な厚さのインキ塗膜が形成され、このインキ塗膜が凸版と接触することにより忠実な印刷パターン(画像)がブランケット上に形成され、さらに、ブランケットから被印刷基材に印刷パターン(画像)が完全に転写される必要があり、これら要求に対応するインキ組成物が求められている。さらに、近年急速に進むディスプレイの高精細化、各種電子部品の高集積化に伴い、より微細な印刷パターン(画像)を正確に形成することができる微細パターン形成用インキ組成物が求められている。
【0006】
前記の要求に対応するために、ポリエーテル変性等のポリシロキサン添加で、濡れ性向上を図ることが知られている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、微細パターニング実現には、濡れ性のみならず、インキ組成物のレオロジーコントロールが不可欠である。特にインキ塗膜3が凸版と接触することにより印刷パターン(画像)がブランケット上に形成される過程において、忠実な印刷パターンを形成するためには、インキ塗膜3のレオロジー特性を適正な範囲に調整できるような材料を選択することが重要である。さらに各種電子部品としての機能を果たすためには、上記パターニング性能に加えて、基材への付着性等が必要であり、これら性能を具える微細パターン形成用インキ組成物が求められている。
【0007】
【特許文献1】特開2001−56405号公報
【特許文献2】特開2005−128346号公報
【特許文献3】特開2008−189909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、各種電子部品などに所望される画像を、凸版反転印刷法により正確に形成することができる微細パターン形成用インキ組成物を提供することにある。
【0009】
ここで凸版反転印刷法に好適なインキ組成物とは、ブランケット表面上に均一な厚さのインキ塗膜が形成され、このインキ塗膜と凸版が接触することにより忠実な印刷パターン(画像)がブランケット上に形成されるものである。さらに、ブランケットから被印刷基材に印刷パターン(画像)が完全に転写されるものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため、本発明は、ブランケット表面に形成された均一なインキ塗膜を凸版に押圧して押圧部を凸版に転写させて除去することによって、ブランケット表面に画像を形成した後、これを被印刷基材に転写する凸版反転印刷法に用いられる微細パターン形成用インキ組成物であって、粒状成分、樹脂成分、有機溶剤、表面エネルギー調整剤、及び、ポリエーテル系化合物を含有することを特徴とする微細パターン形成用インキ組成物を提供する。
【0011】
本発明は、第二に、前記したポリエーテル系化合物が、構成単位として1種以上の環状エーテル化合物由来の骨格を含有する微細パターン形成用インキ組成物を提供する。
【0012】
本発明は、第三に、前記したポリエーテル系化合物が、1種以上の環状エーテル化合物の開環重合体である微細パターン形成用インキ組成物を提供する。
【0013】
本発明は、第四に、前記したポリエーテル系化合物が水酸基を2個以上含有するポリエーテルポリオールである微細パターン形成用インキ組成物を提供する。
【0014】
本発明は、第五に、前記したポリエーテル系化合物の数平均分子量が300〜20,000である微細パターン形成用インキ組成物を提供する。
【0015】
本発明は、第六に、前記したポリエーテル系化合物をインキ固形分中で0.5〜25重量%含有する微細パターン形成用インキ組成物を提供する。
【0016】
本発明は、第七に、前記した樹脂成分が、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、カルド系樹脂、(ブロック)イソシアネート系樹脂からなる群から選ばれる1つ以上の硬化性樹脂を含有することを特徴とする微細パターン形成用インキ組成物を提供する。
【0017】
本発明は、第八に、前記した有機溶剤が、25℃における蒸気圧が20×10Pa(15mmHg)以上のエステル系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤、及びカーボネート系溶剤、から選ばれる1種以上の速乾性有機溶剤、及び、25℃における蒸気圧が0.4×10Pa(0.03mmHg)以上20×10Pa(15mmHg)未満のエステル系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤、及び、カーボネート系溶剤、から選ばれる1種以上の遅乾性有機溶剤を含有する微細パターン形成用インキ組成物を提供する。
【0018】
本発明は、第九に、前記した粒状成分が、樹脂成分及び有機溶剤に溶解しない有機顔料、無機顔料、無機透明粒子、金属微粉末から選ばれる1種以上であり、該粒状成分と樹脂成分の固形分比率が、容積比で2:5〜2:1である微細パターン形成用インキ組成物を提供する。
【0019】
本発明は、第十に、前記した表面エネルギー調整剤がフッ素系界面活性剤である微細パターン形成用インキ組成物を提供する。
【0020】
本発明は、第十一に、前記したインキ組成物の25℃に於ける粘度が、0.5mPa・s〜10.0mPa・sである微細パターン形成用インキ組成物提供する。
【0021】
本発明は、第十二に、前記したインキ組成物の表面エネルギーが、15mN/m〜30mN/mである微細パターン形成用インキ組成物を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の微細パターン形成用インキ組成物は、粒状成分、樹脂成分、有機溶剤、表面エネルギー調整剤と併せてポリエーテル系化合物を必須成分として含有することにより、インキ塗膜のレオロジー特性を適正な範囲に調整することができ、凸版反転印刷法で正確にパターニングされたインキ膜を形成することができる。そのため、例えば、カラーフィルター、導電回路パターン、絶縁膜用のインキ組成物として好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳しく説明する。本発明は、ブランケット表面に形成された均一なインキ塗膜を凸版に押圧して押圧部を凸版に転写させて除去することによって、ブランケット表面に画像を形成した後、これを被印刷基材に転写する凸版反転印刷法に用いられる微細パターン形成用インキ組成物であって、粒状成分、樹脂成分、有機溶剤、表面エネルギー調整剤、及び、ポリエーテル系化合物を含有することを特徴としている。
【0024】
本発明の微細パターン形成用インキ組成物は、粒状成分、樹脂成分、有機溶剤、表面エネルギー調整剤と併せてポリエーテル系化合物を必須成分として含有することにより、インキ塗膜のレオロジー特性を適正な範囲に調整することができ、凸版反転印刷法で正確にパターニングされたインキ膜を形成することができる。
【0025】
本発明の微細パターン形成用インキ組成物に含まれるポリエーテル系化合物としては、構造中に複数のエーテル結合を有するものであれば特に限定されないが、構成単位として1種以上の環状エーテル化合物由来の骨格を含有するものが好ましい。
【0026】
前記の環状エーテル化合物としては、例えば、プロピレンオキサイド、エチレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドや、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、オキセタンが挙げられる。
【0027】
これら環状エーテル化合物は、単独使用または2種類以上併用することができ、2種以上の環状エーテル化合物を併用するときの結合形式はランダム及び/又はブロックのいずれでもよい。
【0028】
また、本発明のポリエーテル系化合物が、前記した1種以上の環状エーテル化合物の開環重合体であると、特にパターン再現性が向上し好ましい。一方でシロキサン結合、又はパーフルオロアルキル基を有するポリエーテル系化合物は他のインキ成分への溶解性が悪く、パターン再現性に劣る。
【0029】
前記のポリエーテル系化合物が、末端及び/または側鎖に有する官能基としては特に限定されないが、パターン再現性が向上するという点で、末端及び/または側鎖に水酸基を含有するものが好ましく、特に、一分子中に水酸基を2個以上含有するポリエーテルポリオールが好ましい。
【0030】
前記のポリエーテル系化合物の数平均分子量は300〜20,000であることが好ましく、より好ましくは400〜5000である。ポリエーテル系化合物の数平均分子量が300未満であると十分な効果が得らにくく、20,000を超えると他のインキ組成物との溶解性に劣り、インキ中で分離又は凝集する傾向にある。
【0031】
これらのポリエーテル系化合物の代表的なものを以下に例示する。例えば、ポリオキシエチレンとして「PEG#400」、「PEG#1000」、「PEG#2000」(日油社製)、ポリオキシプロピレンとして、「D−400」、「D−1000」、「D−2000」、「D−3000」(三井化学社製)、ポリオキシテトラメチレンとして「PTMG650」、「PTMG1000」、「PTMG2000」(三菱化学社製)、ポリオキシ2−メチルテトラメチレンとしてPTG−L1000、PTG−L2000(保土谷化学工業製)である。
【0032】
本発明の微細パターン形成用インキ組成物に含まれるポリエーテル系化合物の含有量は、インキ固形分中で0.5〜25質量%であることが好ましい。含有量が0.5質量%未満であると、効果が小さく、25重量%を超えるとインキ膜の硬化を阻害し、基材への付着性及び耐湿性が悪化する傾向がある。
【0033】
本発明の微細パターン形成用インキ組成物に用いる樹脂成分は、粒状成分の結着剤として機能する。この樹脂としては、各種電子部品に要求される耐熱性、耐熱水性、耐アルカリ性、耐酸性などの物性を満足させるため、硬化性樹脂であることが好ましく、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、カルド系樹脂、(ブロック)イソシアネート系樹脂からなる群から選ばれる1つ以上のものが使用されることが好ましい。
【0034】
硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂、ラジカル型紫外線硬化型樹脂、カチオン型紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂などが使用できる。なかでも、熱硬化性樹脂であることが好ましい。使用される樹脂は、硬化システムに応じて、それぞれに最適な樹脂を選択できる。例えば、熱硬化システムを利用する場合、電子部品に用いられる一般的な熱硬化性樹脂が使用できる。
【0035】
これらの樹脂の代表的なものを以下に例示する。ポリエステル系樹脂としては、「25X1892」DIC製などが挙げられる。アクリル系樹脂としては、「アクリディックWFZ−675」、「アクリディックWFZ−288」、「アクリディックWHZ−105」、「アクリディックWHZ−344」何れもDIC製、エポキシ系樹脂としては、「エピクロン840」DIC製、「jER828」、「jER834」、「jER1001」何れもジャパンエポキシレジン社製、メラミン系樹脂としては、「メランX81」日立化成工業社製、「サイメル303」、「サイメル325」、「サイメル370」何れも日本サイテックインダストリーズ社製、ベンゾグアナミン系樹脂としては、「ユーバン21R」三井化学社製、(ブロック)イソシアネート系樹脂としては、「バーノックDB980K」DIC製などが挙げられる。なかでもアクリル系樹脂は、より微細な印刷パターンを正確に形成することができるため好ましい。
【0036】
また、顔料を予め分散剤、有機溶剤などに分散させた顔料分散体に含まれる分散剤も、粒状成分の結着剤として機能する場合がある。このため、一般的に用いられている顔料分散剤も、本発明のインキ組成物中に含有させることができる。
【0037】
本発明の微細パターン形成用インキ組成物に用いる有機溶剤としては、本発明のインキ組成物中に含有される樹脂を溶解することができるものであればよく、任意の溶剤を使用することができる。なかでも、前記した、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、カルド系樹脂、(ブロック)イソシアネート系樹脂からなる群から選ばれる1つ以上を溶解することができる有機溶剤であることが好ましい。また、粒状成分、樹脂成分、および有機溶剤の配合比率は、ブランケット表面に均一なインキ塗膜を形成できるような範囲に設定することが好ましい。
【0038】
また、本発明の微細パターン形成用インキ組成物は、有機溶剤として、以下に示す速乾性有機溶剤及び遅乾性有機溶剤を含有することが好ましい。速乾性有機溶剤及び遅乾性有機溶剤を含有することで、ブランケット表面上のインキ塗膜がパターン形成に適正な乾燥性を保持し、さらに印刷後のブランケット表面の乾燥性も適正な状態に保たれるため、繰り返し印刷することが可能となる。
【0039】
速乾性有機溶剤としては、25℃における蒸気圧が20×10Pa(15mmHg)以上の溶剤のいずれか1つ以上が用いられ、この速乾性有機溶剤が、全インキ組成物中、5.0〜90.0質量%含有されることが好ましい。より好ましくは20.0〜80.0質量%、さらに好ましくは30.0〜70.0質量%である。速乾性有機溶剤の含有量が5.0質量%未満では、ブランケット上でのインキ塗膜の乾燥が不十分となりやすく、微細パターンの再現性に劣る場合がある。一方で90.0質量%を超えると、ブランケット上でインキ塗膜が乾燥しすぎて凸版または被印刷基材へ転写しにくくなる場合がある。
【0040】
これら速乾性有機溶剤は、樹脂の溶解性、顔料分散系への親和性を考慮し、それぞれに応じた溶剤が選択されるが、例として、次に挙げられるものが用いられる。エステル系溶剤として、酢酸エチル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、アルコール系溶剤として、メタノール、エタノール、2−プロパノール等、炭化水素系溶剤として、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン等、ケトン系溶剤として、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等、カーボネート系溶剤として、ジメチルカーボネート等が挙げられる。また、これらは、系内の複数種類の有機溶剤の混合物であってもよく、系の異なる複数種類の有機溶剤の混合物であってもよい。なかでも、酢酸イソプロピルや、2―プロパノール、およびジメチルカーボネートが、その蒸発速度や表面張力から見て好ましい。
【0041】
遅乾性有機溶剤としては、25℃における蒸気圧が0.4×10Pa(0.3mmHg)以上20×10Pa(15mmHg)未満の溶剤のいずれか1つ以上が用いられ、この遅乾性有機溶剤が、全インキ組成物中、5.0〜90.0質量%含有されることが好ましい。より好ましくは5.0〜70.0質量%、さらに好ましくは10.0〜40.0質量%である。前記の遅乾性有機溶剤の含有量が5.0質量%未満では、ブランケット上のインキ塗膜が乾燥しすぎて凸版に転写できにくくなる場合がある。一方で90.0質量%を超えるとブランケット上でのインキ塗膜の乾燥が不十分となりやすく、微細パターンの再現性に劣る場合がある。
【0042】
これら遅乾性有機溶剤は、樹脂の溶解性、顔料分散系への親和性を考慮し、それぞれに応じた溶剤が選択されるが、例として、次に挙げられるものが用いられる。エステル系溶剤として、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMAc)、3メトキシ−3−メチルーブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート(EEP)等、アルコール系溶剤として、1−ブタノール、3メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、1−ヘキサノール、1−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、4−メチル−2−ペンタノール等、エーテル系溶剤として、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル等、炭化水素系溶剤として、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、オクタン、ノナン、デカン等、カーボネート系溶剤としてジエチルカーボネート等が挙げられる。また、これらは、系内の複数種類の有機溶剤の混合物であってもよく、系の異なる複数種類の有機溶剤の混合物であってもよい。なかでも、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、および、ジエチルカーボネートが、その蒸発速度や表面張力から見て好ましい。
【0043】
本発明の微細パターン形成用インキ組成物は、前記した樹脂成分と相溶しない、有機顔料、無機顔料、無機透明粒子、金属微粉末から選ばれる1種以上の粒状成分を含有する。
【0044】
粒状成分はパターン化された膜に、着色性、透明性、絶縁性、導電性、耐候性、耐熱性等の必要な機能を付与するために用いられる。
【0045】
本発明の微細パターン形成用インキ組成物が、例えば、カラーフィルター製造に用いられる場合、粒状成分としては、カラーフィルター用顔料として用いることができる公知の顔料が挙げられるが、色純度と色濃度が高く、透明性の高いものが好まれている。すなわち、顔料の分散性が高いほどこれらの特性が発揮されやすいため、必要に応じて顔料への表面処理や、分散時に顔料分散剤や界面活性剤等の助剤を加えることができる。これらの顔料には、例えば、赤、緑及び青の各色で使用できる顔料として次のものが挙げられる。顔料の種類は、カラーインデックス(C.I.)No.で示す。
【0046】
まず、赤色顔料として、97、122、123、149、168、177、180、192、208、209、215、254等が、緑色顔料として7、36、58等が、青色顔料として、15、15:1、15:3、15:6、22、60、64等が挙げられる。墨顔料として、カーボンブラック、黒鉛、チタンブラック等が挙げられる。また、これら赤、緑及び青顔料の色調整及びインキの流動性を改善するために、次に挙げる顔料を必要量添加することができる。例えば、黄顔料として、17、83、109、110、128、150等が、紫顔料として、19、23、122等が、白顔料として、18、21、27、28等が、橙顔料として、38、43等が挙げられる。
【0047】
これらの顔料は無機透明粒子と併用することもできる。無機透明粒子としては、例えばシリカ、フッ化マグネシウム、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム等が挙げられる。中でもシリカ、フッ化マグネシウムが好ましく用いられる。
【0048】
また本発明の微細パターン形成用インキ組成物が、例えば、電子機器に用いられるプリント配線等の製造に用いられる場合、膜に導電性を付与するために、粒状成分としては、ニッケル、銅、金、銀、アルミニウム、クロム、白金(プラチナ)、パラジウム、タングステン、モリブデン等の単体、これら2種以上の金属からなる合金、あるいはこれら金属の化合物で良好な導電性を有するもの等が挙げられる。特に、銀粉末は、安定した導電性を実現し易く、また熱伝導特性も良好なため好ましい。
【0049】
さらに、該粒状成分と樹脂成分の固形分比率は、容積比で2:5〜2:1であることが好ましい。カラーフィルター作製用インキ組成物の場合、さらに好ましくは2:5〜1:1で、導電性インキ組成物の場合、さらに好ましくは1:1〜2:1である。この比率は、ブランケット表面のインキ塗膜に凸版により画像が形成された時点でも同じである。配合する樹脂によっても異なるが、顔料に対して必要以上の樹脂が存在すると、画線がビリついたりするなどシャープな画像が得られず好ましくない。一方、顔料に対しての樹脂が不足すると、ブランケット表面のインキ塗膜が凸版または被印刷基材へ転写しないなどの不具合が生じて好ましくない。尚、粒状成分には、顔料とともに、シリカ等の透明粒子も含む。また、樹脂成分には、顔料分散体に含まれる顔料分散剤、透明粒子とともに導入される樹脂も含む。
【0050】
本発明の微細パターン形成用インキ組成物は、表面エネルギー調整剤として、フッ素系界面活性剤を含有することが好ましい。
【0051】
表面エネルギー調整剤は、ブランケット表面にインキ組成物が均一に良好に塗布できるように、インキ組成物の表面エネルギーをブランケットの表面の表面エネルギーよりも小さくするために添加されるものである。この表面エネルギー調整剤には、フッ素系界面活性剤の1種または2種以上が用いられ、全インキ組成物中0.05〜5.0質量%含有することが好ましく、より好ましくは0.1〜1.0質量%含有される。これによりブランケットへのインキ塗工時に、塗工された塗膜の平滑性が向上し、より均一な塗膜が得られる。
【0052】
表面エネルギー調整剤の具体的なものとしては、メガファック F−470、メガファック F−472、メガファック F−482(以上、商品名:DIC製)、メガファック EXP.TF−1303、メガファック EXP.TF−1159(以上、固形分30%のフッ素系界面活性剤:DIC製)等の1種以上が用いられる。
【0053】
本発明の微細パターン形成用インキ組成物は、前記した成分の他、ブランケット剥離性付与剤、消泡剤、被印刷基材への接着付与剤などの各種添加剤を適宜配合することができる。
【0054】
インキ膜転写性向上剤は、ブランケット表面上に形成された均一な厚さのインキ塗膜が凸版と接触し、凸版の凸部の表面にブランケット表面上のインキ塗膜の一部を付着、転移させる際に、及びブランケット上に形成された印刷パターン(画像)を被印刷基材に完全に転写する際に、ブランケットからのインキ膜の転写性を向上させる目的で添加される。このインキ膜転写性向上剤にはシリコーンオイルの一種または二種以上が用いられ、全インキ組成物中0.05〜5.0質量%含有することが好ましく、より好ましくは0.1〜1.0質量%含有される。これによりブランケットからのインキ膜の転写性が向上して、ブランケット上にインキ残が残るのを防ぐ。またこれにより、ブランケット上のインキ塗膜の一部を凸版へ付着、転移させる速度、及びブランケット上の印刷パターン(画像)を被印刷基材へ転写させる速度の向上が図れる。
【0055】
また、顔料と無機透明粒子は、単体以外に、顔料を予め分散剤、有機溶剤に分散させた顔料分散体であっても良い。例えば、青色顔料15:6の場合には、EXCEDIC BLUE 0565(DIC製)が使用できる。これ以外の顔料では、EXCEDIC RED 0759、EXCEDIC YELLOW 0599、EXCEDIC GREEN 0358、EXCEDIC YELLOW 0648、UK9−1231(DIC製)、チタンブラック分散液BT−1CA、BT−1DE(三菱マテリアル社製)などを使用することができる。無機透明粒子では、NANOBYK−3650(ビックケミージャパン社製)、IPA−ST、IPA−ST−ZL(日産化学工業社製)、フッ化マグネシウム分散液(シーアイ化成社製)などを使用することができる。
【0056】
本発明の微細パターン形成用インキ組成物の製造は、粒状成分、樹脂成分、および有機溶剤を、ビーズミルなどの一般的な分散機を用いて分散し、これにさらに樹脂、有機溶剤および表面エネルギー調整剤などの各種添加剤を混合後、粗大粒子を濾過して行われる。また本発明の微細パターン形成用インキ組成物に用いるポリエーテル系化合物は製造の任意の段階で添加することができる。
【0057】
本発明の微細パターン形成用インキ組成物にあっては、上述の組成を有するものであるが、その物性も重要な因子である。この物性としては、まず温度が25℃におけるインキ粘度が、0.5mPa・s〜10.0mPa・sの範囲内にあることが好ましい。これは、ブランケットへインキ組成物を均一に塗布するために、塗布装置からのインキ吐出性を鑑みて決定されたものである。この範囲よりも高い粘度の場合、塗工装置からのインキ吐出が不均一になりやすく、ブランケット上に分断されて塗工される不具合や、塗工されたインキ塗膜が不均一となりやすい。インキ組成物の粘度の測定は、市販のコーンプレート型回転粘度計(例えば、東機産業(株)製 TV−20Lなど)によって行われる。
【0058】
次に、インキ組成物の表面エネルギーも重要な因子である。インキ組成物の表面エネルギーは、15〜30mN/mの範囲に調整することが好ましい。この範囲より高い表面エネルギーの場合、ブランケットへのインキレベリング性が悪く、ブランケット上でインキがはじいたりするなど均一なインキ塗膜が得られにくくなる。表面エネルギーの測定は、市販の自動表面張力計(例えば、協和界面化学(株)製CBYP−A3など)を用いて行われる。
【0059】
さらに、ブランケットに対する膨潤量も重要である。この膨潤量は100mg/cm以下、好ましくは40〜90mg/cmの範囲とされる。この膨潤量とは、インキ組成物をブランケットに塗布した際に、インキ組成物中に含まれる有機溶剤がブランケット表面に浸透し、ブランケットの表面がこの浸透した有機溶剤で膨潤する度合いを示すものである。この値は、インキ組成物中の有機溶剤が凸版と接触するまでの間にブランケット表面に吸収される量に関係するとともに、ブランケットの表面がこの吸収された有機溶剤によって膨潤し、適切なインキ塗膜の剥離性、転移性を得るためにも関係する。
【0060】
この膨潤量の具体的な測定法は、面積50cm、厚さ0.5mmのブランケット材にインキ塗膜が10μmになるように、バーコーターを用いて塗布し、1分後に粘着紙などを用いて剥がし取る。この塗布、拭き取りの操作を同じブランケット材に対して10回繰り返し、最終的なブランケット材の重量増加から膨潤量を算出し、これをブランケット材の体積で除して膨潤量とするものである。この膨潤量が100mg/cmを超えると、ブランケット表面のシリコーンゴム層とこれを支える支持層との間で剥離が生じ、平滑性が失われたりして良好な画像が得られにくくなる。
【0061】
また、ブランケットの表面材料は通常シリコーンゴムから構成されており、このシリコーンゴムに対してインキ組成物が良好に付着し、均一なインキ塗膜が形成されるために、ブランケット表面に対する接触角が35°以下とすることが望ましく、好ましくは25〜35°とされる。接触角の測定は、市販の自動接触角計(例えば、協和界面化学(株)製CA−W150など)を用いて行われる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例、比較例を用いて、本発明を具体的に示す。これらの例中、「部」は質量部、「%」は質量パーセントを意味するものとする。
【0063】
(実施例1)
顔料分散液 AR6−9201(赤色顔料分散液)31.3部、顔料分散液 AY6−8022(黄色顔料分散液)10.4部、NANO BYK−3650(シリカゾル)2.5部、アクリディック WFZ−288(樹脂成分)12.4部、D−3000(ポリエーテル系化合物)1.0部、メガファック EXP. TF−1159(表面エネルギー調整剤)0.5部、変性シリコーン(インキ膜転写性向上剤)1.0部、酢酸イソプロピル(溶剤)29.4部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(溶剤)1.2部、プロピレングリコールモノエチルエーテル(溶剤)11.8部を分散攪拌機で攪拌し、微細パターン形成用インキ組成物を調製した。
【0064】
前記した微細パターン形成用インキ組成物を用いて、ガラス基板上に、凸版反転印刷法により、膜厚1.5μmで線幅20μmのストライプパターンを印刷した。
【0065】
(実施例2〜5)
実施例1と同様にして、表1に示す組成比により、実施例2〜5用インキ組成物を調製し、同様に凸版反転印刷法により印刷した。但し、実施例5のインキは膜厚1.0μmで印刷した。
【0066】
(比較例1〜2)
実施例1と同様にして、表1に示す組成比により、比較例1〜2用インキ組成物を調製し、同様に凸版反転印刷法により印刷した。但し、比較例2のインキは膜厚1.0μmで印刷した。
【0067】
(印刷パターン品質の評価方法)
微細パターン形成用インキ組成物の印刷物のパターン形状を顕微鏡にて観察し、以下の基準に従って評価をした。
○:パターンの直線性に優れる。パターンの線幅が版設計値通りに形成されている。
×:パターンエッジの不鮮明さ、直線性の欠陥、断線あり。パターンの線幅が版設計値よりも5μm以上太い、または細い。
【0068】
(基材への付着性の評価方法)
微細パターン形成用インキ組成物をガラス基板上に、膜厚が1μmになるように、スピンコーターにて塗布し、250℃にて30分間加熱(基本焼成)してインキ塗板を作製した。該インキ塗板を用いて、JISK5600−5−6付着性(クロスカット法)の手順で試験を実施し、以下の基準に従って評価をした。
○:すべての格子の目にも塗膜の剥がれがない。
△:部分的に塗膜の剥がれがある。
×:全面的に塗膜の剥がれがある。
【0069】
(耐湿性の評価方法)
上記の基材への付着性の評価と同様にして作製したインキ塗板を、120℃、飽和水蒸気下に24hr放置し、その後に上記の基板への付着性の評価を行った。
【0070】
【表1】

【0071】
表1中の略号は以下の通りである。
・顔料分散液 AR6−9201:顔料濃度15%、分散樹脂濃度7.5%の赤色顔料分散液(DIC製)、
・顔料分散液 AY6−8022:顔料濃度15%、分散樹脂濃度13.5%の黄色顔料分散液(DIC製)、
・顔料分散液 BT−1DE:顔料濃度25%。分散樹脂濃度2.5%のチタンブラック系黒色顔料分散液(三菱マテリアル社製)、
・NANO BYK−3650::シリカ粒子濃度25%、樹脂成分濃度6%の透明シリカゾル(ビックケミー・ジャパン社製)、
・アクリディック WFZ−288:固形分55%のビニル系共重合体(DIC製)、
・アクリディック WHZ−105:固形分55%のビニル系共重合体(DIC製)、
・D−3000:固形分100%、数平均分子量3000のポリエーテルポリオール(三井化学社製)、
・PTMG 650:固形分100%、数平均分子量650のポリエーテルポリオール(三菱化学社製)、
・メガファック EXP.TF−1159:固形分30%のフッ素系表面エネルギー調整剤(DIC社製)、
・IPAc:酢酸イソプロピル、
・PGMAc:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、
・PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル、
・PNP:プロピレングリコールモノプロピルエーテル
【0072】
表1中の粒状成分と樹脂成分の容積比は、赤色顔料及び黄色顔料の比重を1.5、シリカ粒子の比重を2.0、チタンブラック顔料の比重を4.0、さらに樹脂成分の比重を1.2として計算した値である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の微細パターン形成用インキ組成物は、凸版反転印刷法で正確にパターニングされたインキ膜を形成することができるため、カラーフィルターを始めとする各種電子部品に所望される微細パターンを凸版反転印刷法にて作製する際に好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明における凸版反転印刷法の一例を模式的に示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0075】
1 インキ塗布装置
2 ブランケット
3 インキ塗膜
4 凸版
5 被印刷基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブランケット表面に形成された均一なインキ塗膜を凸版に押圧して押圧部を凸版に転写させて除去することによって、ブランケット表面に画像を形成した後、これを被印刷基材に転写する凸版反転印刷法に用いられる微細パターン形成用インキ組成物であって、粒状成分、樹脂成分、有機溶剤、表面エネルギー調整剤、及び、ポリエーテル系化合物を含有することを特徴とする微細パターン形成用インキ組成物。
【請求項2】
前記したポリエーテル系化合物が、構成単位として1種以上の環状エーテル化合物由来の骨格を有する請求項1に記載の微細パターン形成用インキ組成物。
【請求項3】
前記したポリエーテル系化合物が、1種以上の環状エーテル化合物の開環重合体である請求項1又は2に記載の微細パターン形成用インキ組成物。
【請求項4】
前記したポリエーテル系化合物が、水酸基を2個以上含有するポリエーテルポリオールである請求項1〜3の何れかに記載の微細パターン形成用インキ組成物。
【請求項5】
前記したポリエーテル系化合物の数平均分子量が、300〜20,000である請求項1〜4の何れかに記載の微細パターン形成用インキ組成物。
【請求項6】
前記したポリエーテル系化合物のインキ固形分中の含有量が、0.5〜25質量%である請求項1〜5の何れかに記載の微細パターン形成用インキ組成物。
【請求項7】
前記した樹脂成分が、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、カルド系樹脂、(ブロック)イソシアネート系樹脂からなる群から選ばれる1つ以上の硬化性樹脂を含有する請求項1〜6の何れかに記載の微細パターン形成用インキ組成物。
【請求項8】
前記した有機溶剤が、25℃における蒸気圧が20×10Pa(15mmHg)以上のエステル系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤、及びカーボネート系溶剤、から選ばれる1種以上の速乾性有機溶剤、及び、25℃における蒸気圧が0.4×10Pa(0.03mmHg)以上、20×10Pa(15mmHg)未満のエステル系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤、及びカーボネート系溶剤、から選ばれる1種以上の遅乾性有機溶剤を含有する請求項1〜7の何れかに記載のインキ組成物。
【請求項9】
前記した粒状成分が、樹脂成分及び有機溶剤に溶解しない有機顔料、無機顔料、無機透明粒子、金属微粉末から選ばれる1種以上であり、該粒状成分と樹脂成分の固形分比率が、容積比で2:5〜2:1である請求項1〜8の何れかに記載の微細パターン形成用インキ組成物。
【請求項10】
前記した表面エネルギー調整剤が、フッ素系界面活性剤である請求項1〜9の何れかに記載の微細パターン形成用インキ組成物。
【請求項11】
前記したインキ組成物の25℃に於ける粘度が、0.5mPa・s〜10.0mPa・sである請求項1〜10の何れかに記載の微細パターン形成用インキ組成物。
【請求項12】
前記したインキ組成物の表面エネルギーが、15mN/m〜30mN/mである請求項1〜11の何れかに記載の微細パターン形成用インキ組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−57820(P2011−57820A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208057(P2009−208057)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】