説明

微細炭素繊維の製造装置及びその製造方法

【課題】 微細炭素繊維の製造法において、反応炉内における製造条件を均一化することにより、反応炉内の反応効率を向上し、繊維径等にバラツキの生じることなく、しかも、繊維同士が中継点によって結ばれた構造を有する微細炭素繊維を高収率で製造する。
【解決手段】 炭化水素ガス及び金属化合物ガスを含む原料混合ガスを導入させて、前記炭化水素ガスを加熱分解させる筒状の反応炉8と、前記反応炉8内を加熱する加熱手段11と、前記反応炉8の軸心方向の一端側から反応炉8内に前記原料混合ガスを導入させる導入ノズル9とを具備し、該反応炉8内における濃度分布と温度分布とを軸直交方向に対して均一化させる均一化手段を備える。この均一化手段として、導入ノズル9の原料混合ガス導入口14近傍に衝突部10を設け、導入された原料混合ガスに乱流を形成させるとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成長法によって微細炭素繊維を製造する製造装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細炭素繊維は、繊維自体の導電性が優れていること、又、アスペクト比が大きく、樹脂等の母材中で導電パスを形成しやすいことから、少量添加で高い導電性を発揮するための充填剤としての用途が期待されている。
【0003】
微細炭素繊維を製造する方法として気相中で金属微粒子を触媒とし、ベンゼン、トルエン又はキシレン等の炭素源となる炭化水素を熱分解して微細炭素繊維を成長させる気相成長法が知られている。この気相成長法で得られる微細炭素繊維は、有機材料、無機材料及び金属材料等の母材の性能向上及び新規機能を発現させる充填剤として期待されている。
【0004】
気相成長法には、基板上に存在する金属微粒子を触媒として微細炭素繊維を成長させる固定床方式と、浮遊する金属微粒子を触媒として微細炭素繊維を製造させる流動方式等が知られている。一般的に固定床方式は、連続生産が困難であり生産性が低いため、流動方式による製造方法が微細炭素繊維の連続生産の主流となっている。
【0005】
流動方式による微細炭素繊維の製造装置として、従来から、筒状の反応炉と、筒状の反応炉の一端に設けられ反応炉の内部に炭化水素等を導入させるノズルと、反応炉の外周部に配置され、反応炉内を加熱する加熱手段を備えた製造装置が用いられている。かかる構成を備えた製造装置は、例えば、特許文献1に示すように、炭化水素のガス及び金属化合物のガスと水素キャリアガスとを予め混合し、この原料混合ガスをノズルで反応炉内に導入させることにより、反応炉内で水素気流中、金属化合物の分解により生成させた金属微粒子を触媒とし、炭化水素を熱分解させ炭素源として使用して、微細炭素繊維を製造している。
【0006】
【特許文献1】特開2002−88591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
微細炭素繊維は、気相中で流動している短時間に金属化合物の分解により得られるFe等の金属微粒子を触媒として反応炉内で製造させる。繊維径等のバラツキのない微細炭素繊維を効率良く製造するには、反応炉内の金属触媒微粒子生成帯域と微細炭素繊維製造帯域の濃度、温度等の条件を均一にすることが重要である。
【0008】
一般的に、単管ノズルが、筒状の縦型反応炉の中心軸に一致するように反応炉の上段に配置された場合、ノズルから導入された原料混合ガスの流れは反応炉の中心を軸とする半径方向に関し、反応炉の中心部分の流速が速く、反応炉内壁に向かうにつれ流速が漸次遅くなるといった速度分布が形成される。この時の流れは、若干の乱れはあるが層流に近い流れとなり全体的に反応炉の上段から下段へと向かってピストン流に近い流れとなっている。この結果、ノズルから導入される原料混合ガスの濃度は、反応炉の中心を軸とする半径方向に関し、反応炉の中心部分の濃度が高く、反応炉内壁に向かうにつれ濃度が漸次低くなるといった濃度分布が形成される。
【0009】
一方、加熱手段が反応炉の外周部に設けられた筒状反応炉内は、反応炉内壁から反応炉の中心軸に向かうにつれ温度が漸次低くなるといった温度分布が形成される。このため、大量生産用の大型筒状反応炉内では、大きな温度勾配が生じることとなる。この反応炉内に単管ノズルを使用して原料混合ガスを導入すると、反応炉上段から下段へと真っ直ぐに流れ、対流による伝熱の効果は期待できない。又、キャリアガスとして好適な水素ガスは、二酸化炭素ガスや水蒸気ガスと比べて比熱が小さいため、熱の吸収、又は輻射による伝熱の効果も期待できず、反応炉内の大きな温度勾配は解消出来ない。
【0010】
微細炭素繊維は反応炉内の上段側から下段側へと流動する短時間で製造される。加熱手段が反応炉の外部に設けられた筒状の縦型反応炉において、反応炉の中心軸に一致するように反応炉の上段に単管ノズルが配置された場合、反応炉内の中心軸付近を単管ノズルから導入された原料混合ガス等が、最も速い速度で真っ直ぐ流通する。この結果、反応炉内の中心軸付近では、反応炉内の上段側で金属化合物の熱分解により生成されるべき金属触媒微粒子が、より下段側の領域で生成されることとなり、微細炭素繊維自体の長さ方向及び太さ方向の成長時間が不足する問題が生じ、成長不十分な微細炭素繊維が得られることとなる。
【0011】
反応炉内は、反応炉内壁から反応炉の中心軸に向かうにつれ温度が漸次低くなっている。この結果、反応炉内の中心軸付近では、金属化合物の熱分解が十分に促進されず金属触媒微粒子の生成量が減少し、この金属触媒微粒子を核として製造される微細炭素繊維自体の収率低下をもたらす。又、炭化水素ガスの分解もこの低温域では促進されず十分な炭素源が得られない。このため、製造反応に関与しなかった未反応の原料混合ガスが大量に回収されることとなる。
【0012】
更に、原料混合ガスが反応炉内の中心軸付近の低温域を高速で真っ直ぐ流通して製造された微細炭素繊維と、原料混合ガスが反応炉内壁付近の高温域をより低速で真っ直ぐ流通して製造された微細炭素繊維との間で成長のバラツキが生じてしまう。
【0013】
また、反応炉内壁付近と反応炉の中心軸付近で、原料混合ガス濃度も均一でなく、低温域でかつ流速の速い中心軸付近の原料混合ガス濃度が最も高い。この点においても微細炭素繊維の製造効率が非常に悪いという問題がある。
【0014】
本発明は、かかる問題点に鑑みなされたものであり、微細炭素繊維の製造効率が高く、微細炭素繊維の成長に差の生じない、微細炭素繊維の製造装置及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明では、第1に、上述の課題を解決するために、炭化水素ガス、金属化合物ガス及びキャリアガスを含む原料混合ガスを導入させて、前記炭化水素ガスを加熱分解反応させ微細炭素繊維を製造する筒状の反応炉と、前記筒状反応炉内を加熱する加熱手段と、前記筒状反応炉の軸心方向の一端側から筒状反応炉内に前記原料混合ガスを導入させる導入ノズルとを具備し、前記筒状反応炉は、該筒状反応炉内における濃度分布と温度分布とを軸直交方向に対して均一化させる均一化手段を備えた微細炭素繊維の製造装置を採用することとした。
【0016】
そして、本発明では、前記均一化手段が、前記導入ノズルの原料混合ガス導入口近傍に配設され、前記導入ノズルから導入された原料混合ガスを衝突させる衝突部を備え、前記均一化手段は、前記導入ノズルから導入される前記原料混合ガス流に乱流を生ぜしめる均一化手段であることを特徴としている。
【0017】
また、上記の微細炭素繊維の製造方法に関し、前記衝突部は、前記導入口の周方向において、前記導入ノズルを囲繞することを特徴としている。
【0018】
また、本発明では、第2に、上述の課題を解決するために、炭化水素ガス、金属化合物ガス及びキャリアガスを含む原料混合ガスを筒状反応炉内に導入ノズルで導入せしめ、前記筒状反応炉内で前記炭化水素ガスを加熱分解反応させて微細炭素繊維を製造する微細炭素繊維の製造方法であって、前記筒状反応炉内における濃度分布と温度分布とを軸直交方向に対して均一化させた状態にて微細炭素繊維を製造させる微細炭素繊維の製造方法を採用した。
【0019】
そして、本発明では当該微細炭素繊維の製造方法に関し、前記導入ノズルで導入させた前記原料混合ガスに乱流を形成させて前記濃度分布と温度分布とを軸直交方向に対して均一化させることとした。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、筒状反応炉の内部において、濃度分布と温度分布とが軸直交方向に対して均一化されるため、繊維径等の均一性に優れた微細炭素繊維を高収率で製造することができる。また、発生した渦流により金属触媒微粒子の集合体が形成され、各々の金属触媒微粒子を核として放射状に微細炭素繊維が成長し、核を中継点とし、この中継点によって繊維同士が結ばれた構造を持つ導電パスが形成された微細炭素繊維が高収率で得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、この発明の実施形態にかかる微細炭素繊維の製造装置1及びその製造方法について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態にかかる微細炭素繊維の製造装置1の概略を示している。
【0023】
この製造装置1は、原料を蒸発せしめ、蒸発した原料をキャリアガスと混合し、この原料混合ガスを反応炉8の内部に導入し、反応炉8内で微細炭素繊維を製造するものである。製造装置1は、原料の充填された原料タンク2と、原料の搬送及び反応炉8への導入を行うキャリアガスの充填されたガスタンク4とを備え、これら原料タンク2及びガスタンク4は、原料導入管3及びガス導入管5を介して蒸発器6にそれぞれ接続されている。さらに、蒸発器6は、原料混合ガス導入管7を介して反応炉8に接続されている。
【0024】
そして、内部で微細炭素繊維を製造する反応炉8は、円筒状に形成されており、その軸心方向の一端をなす上端には、搬送されてきた原料混合ガスを反応炉8の内部に導入させる導入ノズル9を備えている。また、反応炉8の外周部には、加熱手段11としてヒーターが設けられ、反応炉8の外周部から反応炉8の内部を加熱している。そして、反応炉8の軸心方向の他端をなす下端側には、製造された微細炭素繊維を備蓄して回収する微細炭素繊維回収器12が接続されている。この微細炭素繊維回収器12には、ガスを排出するガス排出管13が接続されている。
【0025】
この微細炭素繊維の製造装置1では、微細炭素繊維の原料として、炭化水素化合物や金属化合物等が用いられる。炭化水素化合物としては、芳香族炭化水素、鎖状飽和炭化水素、脂環式炭化水素、不飽和炭化水素等を使用することができる。これらの炭化水素化合物のうち、ベンゼンやトルエン等の芳香族炭化水素が望ましい。又、異なる種類の炭化水素化合物を複数同時に原料として用いることも可能である。金属化合物は特に限定されるものではなく、加熱により気化するものが好ましい。金属化合物に含まれる金属種としては、適宜選択して用いることができ、特に制限されない。例えば、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が挙げられる。又、必要に応じて助触媒として硫黄化合物も一緒に使用することができる。
【0026】
一方、微細炭素繊維の製造時に使用されるキャリアガスとしては、アルゴン、ヘリウム等の希ガス、水素、窒素等を用いることができる。これらのキャリアガスのうち、水素ガスが繊維の収量を増す上で好ましい。
【0027】
これらの原料及びキャリアガスが導入される蒸発器6は、原料を反応炉8に導入する前に原料を気化させ、原料のガス濃度比(炭化水素と金属化合物との比率)が一定の原料混合ガスとして調整している。このため、原料タンク2から連続的に送り出された原料と、ガスタンク4から連続的に送り出されたキャリアガスとが蒸発器6で混合され、ガス濃度比一定の原料混合ガスとして形成される。この原料混合ガスが、連続的に蒸発器6から反応炉8へと搬送され、反応炉8の内部へ導入される。この際、蒸発器6が、原料混合ガスの濃度比を常に一定とすることで、反応炉8内への導入時における原料等の不均一な濃度が要因となる微細炭素繊維の収率低下を防ぐことが可能となる。このように、原料混合ガス濃度は、常に適切な濃度比で反応炉内へ導入される。
【0028】
この蒸発器6により混合された原料混合ガスは、この導入ノズル9から、1000〜2000NL/minの導入速度で、その圧力が1.0〜1.1atmで反応炉8の内部に導入される。
【0029】
原料混合ガスの導入される反応炉8の内部は、その軸心方向が二つの帯域を構成している。軸心方向に関し、原料混合ガスが導入される原料混合ガス導入口14近傍の上端側の領域が金属触媒粒子生成帯域20であり、この金属触媒粒子生成帯域20より下端側の領域が微細炭素繊維の製造される微細炭素繊維製造帯域30である。
【0030】
そして、原料混合ガスの導入される反応炉8の内部は、加熱手段11により加熱される。加熱温度は、微細炭素繊維製造用の金属触媒微粒子の好適な生成温度、又は、生成された金属触媒微粒子を用いた炭化水素ガスの熱分解による微細炭素繊維の好適な製造温度等に応じて適宜温度設定される。具体的には、約800℃〜1300℃に加熱される。なお、反応炉8内の温度は、約800℃〜1300℃の温度範囲内で一律に同じ温度に設定しても良いが、原料混合ガスが導入される導入ノズル9側から微細炭素繊維回収側の間で温度勾配をもたせてもよい。また、反応炉8内の温度領域を二つに分け、例えば、反応炉8内で上端側の温度と下端側の温度を二段階に分けて異なる温度設定をすることも可能である。
【0031】
反応炉8は、このように高温に加熱されるため、微細炭素繊維の製造温度に耐えうる金属やセラミックス等の耐熱性材料で構成されている。なかでも、気孔率の低い熱伝導率に優れた炭化珪素焼結体等のセラミックス材料がより好ましい。
【0032】
そして、この製造装置1では、反応炉8に設けられた導入ノズル9の原料混合ガス導入口14近傍に、衝突部を設ける。この衝突部は、導入ノズル9から反応炉8の内部に導入された層流状態の原料混合ガスを乱流状態に形成する手段である。ここでいう乱流とは、激しく乱れた流れであり、渦巻いて流れるような流れをいう。
【0033】
衝突部は、導入ノズル9近傍において配置された原料混合ガスの流通の妨げとなる衝突の起点として作用する障害物であり、この障害物と原料混合ガスが衝突することで渦流が発生し温度分布と濃度分布とを均一化することが可能となる。衝突部の形状は、何ら限定されることはなく、衝突部を起点として発生した渦流が消滅することなく反応炉8の下端側まで逐次形成される形状であれば良い。
【0034】
衝突部の形状としては、例えば衝突部10のような形状が挙げられる。衝突部10は、原料混合ガス導入口14の周方向において、導入ノズル9を囲繞するよう筒状に形成されている。ここでいう導入ノズル9の囲繞とは、導入ノズル9から衝突部10にかけて急激に拡径する形状で囲繞されていればよく、導入ノズル9の端部に衝突部10が連続もしくは一体的に形成されて急激に拡径する形状であっても良い。
【0035】
衝突部10は、導入ノズル9よりもその内径は大きく、原料混合ガスの流路が急に拡がるように設計されており、径が急に拡がることによって大きな流速の変化や圧力差が生じ、又、衝突部10は、導入ノズル9から導入された半径方向外側に広がる原料混合ガスが衝突することで逐次渦流が形成される。
【0036】
さらに原料混合ガスの流路が衝突部10の内径から反応炉8の内径まで拡がり、ここでも流速変化や圧力差が生じ、又、反応炉の内壁は衝突壁として作用するため、渦流は消滅することなく反応炉8の下端側まで逐次形成されることとなる。
【0037】
このような衝突部10をもつ導入ノズル9として例えば、図2に示すノズルを使用することができる。この図2は、反応炉8、導入ノズル9、及び衝突部10の半径方向及び軸心方向に関する相互の位置関係を示している。
【0038】
図2に示すように、導入ノズル9の内径a、反応炉8の内径b、筒状の衝突部10の内径c、反応炉8の上端から原料混合ガス導入口14までの距離d、原料混合ガス導入口14から衝突部10の下端までの距離e、原料混合ガス導入口14から反応炉8の下端までの距離をfとする。
【0039】
内径aと内径bの寸法は、a:bが1:2〜1:5の寸法比となるように形成した場合、内径aと内径cの寸法比は、a:cが1:1.1〜1:3となるように形成すれば良い。
【0040】
また、距離dと距離fとの関係は、1:4〜1:9の寸法比となるように形成した場合、距離eと距離dの寸法比は、1:1.1〜1:3となるように形成すれば良い。
【0041】
例えば、内径aを70mm、内径bを250mm、距離dを230mm及び距離fを1500mmに各々設計した場合、衝突部10の内径cは77mm〜210mm、又、原料混合ガス導入口14から衝突部10の下端までの距離eは、77mm〜210mとすれば良い。
【0042】
原料混合ガスを1000〜2000NL/minの導入速度で、その圧力が1.0〜1.1atmでの範囲で反応炉8の内部に導入した場合、反応炉8、導入ノズル9及び衝突部10の寸法関係をこのように形成すれば、導入ノズル9から導入された原料混合ガスは、衝突部10によって、反応炉下端まで逐次渦流を形成した状態で微細炭素繊維の製造反応を伴いながら流動する。
【0043】
図3は、反応炉8の内部における原料混合ガスの流体挙動をシミュレーションにより求めた結果から、流体の軌跡を模型的に図示したものである。反応炉8の上部に設けられた導入ノズル9より衝突部10の内径が大きくなるよう形成されている。
【0044】
このため、導入ノズル9から反応炉8に導入された直後の原料混合ガスは、流速や圧力等の差が生じ半径方向外側に広がる。更に、原料混合ガスは衝突部10に衝突して、激しい渦流を形成し、微細炭素繊維回収側へと逐次渦流を形成しながら流通することとなる。この衝突部10の存在が原料混合ガス導入時における乱流形成の起点として働き、形成された渦流は、反応炉8内の伝熱や物質移動の促進に効果を発揮する。
【0045】
即ち、この激しい渦流は、反応炉8の内壁まで流路が更に拡がることによって、流速や圧力等の差が生じ大きな渦流を形成し、流れが整うことなく渦流のまま流れていくことが可能になる。この流れにのって、反応炉8内では、渦流により旋回しながら原料混合ガスから微細炭素繊維が製造され反応炉8内を流通していく。
【0046】
この結果、金属触媒微粒子を生成する過程と微細炭素繊維の製造する過程で反応炉8内における製造条件を均一化することができる。具体的には、反応炉8内では、導入された原料混合ガスの濃度分布と温度分布とが軸直交方向に対して均一化される。このように、製造条件が均一化されることで、微細炭素繊維が均等に成長する。
【0047】
シミュレーションは、Computational Fluid Dynamics(CFD)モデルにより微細炭素繊維を生成する筒状反応炉を対象として、温度、原料混合ガスの導入速度、および原料混合ガスを衝突させる衝突部の条件を種々変化させた場合の反応炉内部の流れ、物質移動、伝熱および化学反応などの現象変化を計算した。計算モデルには、周囲にヒーターを設置した縦型の筒状反応炉の上端に設置した導入ノズルより原料のトルエンとキャリアガスの水素を導入させ、排ガスは反応炉の下端に設置したガス排出管から排出するモデルを使用した。化学反応モデルとして、トルエンと水素との反応によるベンゼンの生成、ベンゼンから微細炭素繊維への生成反応およびフェロセンの熱分解反応によるFe触媒の生成反応をも考慮して計算を行った。
【0048】
かかるシミュレーションによって、図2に示す微細炭素繊維の製造装置に設けられた衝突部をもつ導入ノズルは、筒状反応炉に導入された原料混合ガスの濃度分布と温度分布とを軸直交方向に対して均一化することが確認された。
【0049】
以上の微細炭素繊維の製造装置1によれば、微細炭素繊維は次のようにして製造される。
【0050】
原料タンク2から一定量の原料が蒸発器6に送り込まれると共に、ガスタンク4からキャリアガスが一定の流量ずつ蒸発器6に送り込まれる。送り込まれた原料は、蒸発器6により気化され、キャリアガスと混合される。この際、原料のガス濃度比は一定に調整される。
【0051】
蒸発器6でキャリアガスと原料とが混合されると、この原料混合ガスは、原料混合ガス導入管7を通されて反応炉8の上端側に導かれる。そして、反応炉8の上端に設けられた導入ノズル9から反応炉8内部に導入される。
【0052】
導入された原料混合ガスは、導入直後に径が変わることによって、流速変化や圧力変化が生じ原料混合ガスの流れは乱れて半径方向外側に向けて広がるようにして流通し、導入ノズル9の外側に設けられた衝突部10と衝突して原料混合ガスの渦流が形成され乱流状態となる。
【0053】
反応炉8内部に導入した直後に生じる原料混合ガス中の金属化合物の分解により金属触媒微粒子が形成される過程で、まず、遷移金属化合物が分解され金属原子となり、次いで約100原子程度の金属原子の衝突によりクラスター生成が起こる。この生成したクラスターの段階では、結晶性がなく微細炭素繊維の触媒として作用せず、生成したクラスター同士の衝突により更に集合した約5nm〜10nm程度の金属の結晶性粒子が微細炭素繊維の製造用の金属触媒微粒子として利用されることとなる。この触媒形成過程において、激しい乱流による渦流が存在することにより、ブラウン運動のみの金属原子又はクラスター同士の衝突と比してより激しい衝突が可能となり、単位時間あたりの衝突回数の増加によって金属触媒微粒子が短時間に高収率で得られ、又、渦流によって濃度、温度等が均一化されることにより粒子のサイズの揃った金属触媒微粒子を得ることができる。
【0054】
そして、金属触媒微粒子が高収率で得られることで、金属触媒微粒子を核として製造される微細炭素繊維も高収率で得られ、微細炭素繊維の製造反応に関与しなかった未反応の原料混合ガスの回収量は減少する。この他、金属触媒微粒子が速やかに生成されるため、微細炭素繊維自体の長さ方向及び太さ方向の成長に要する時間不足は解消し、炭化水素ガスの分解も促進され十分な炭素源が供給されることになり、微細炭素繊維の成長不足は解消され所望の繊維径と繊維長を有する微細炭素繊維がバラツキなく得られることとなる。
【0055】
さらに、この実施形態にかかる微細炭素繊維の製造装置1及びその製造方法を用いると、金属触媒微粒子が形成される過程で、渦流による激しい衝突により金属の結晶性粒子が多数集合した金属触媒微粒子の集合体を形成する。そこから各々の金属触媒微粒子を核として放射状に微細炭素繊維が成長することにより、核を中継点としこの中継点によって繊維同士が結ばれた構造を有することとなり、導電パスが形成された微細炭素繊維が高収率で得られることが判明した。
【0056】
このことについて、以下の実施例に基づいて具体的に説明する。
【実施例1】
【0057】
図1に示す装置を用いて微細炭素繊維を製造した。反応炉8は、炭化珪素焼結体で形成されたものを用いた。そして、図2に示す、外側方に衝突部10を備えた導入ノズル9を用いて原料混合ガスを導入した。なお、この実施例では、導入ノズル9の内径a、反応炉8の内径b、筒状の衝突部10の内径c、反応炉8の上端から原料混合ガス導入口14までの距離d、原料混合ガス導入口14から衝突部10の下端までの距離e、原料混合ガス導入口14から反応炉8の下端までの距離をfとすると、各々の寸法比は、おおよそa:b:c:d:e:f=1.0:3.6:1.8:3.2:2.0:21.0に形成されたものを採用した。かかる製造装置1を使用し、水素ガス雰囲気の下、反応炉8内部を加熱手段11により反応炉8温度を1200℃に加温し、触媒としてフェロセン及びチオフェンを使用し、トルエン、水素ガスとともに蒸発器6により375℃に加熱気化させて反応炉8の内部へ導入して微細炭素繊維を製造した。この時の原料混合ガス導入速度は、1050〜1850NL/min、圧力は1.03atmであった。そして、得られた微細炭素繊維の走査型電子顕微鏡で観察した結果、繊維同士が中継点によって結ばれた構造を有する微細炭素繊維が多数存在することが確認出来た。このときの微細炭素繊維の収率は、60%であった。
【0058】
(比較例1)
この実施例1と同条件で、原料導入ノズルのみ図4に示す衝突部10を有しない構造の単管ノズル(ノズルの径a:反応炉8の径b:ノズルの長さd=1:4:3)を用いて微細炭素繊維を製造した。得られた微細炭素繊維を走査型電子顕微鏡で観察した結果、径にバラツキがあることが確認できた。繊維同士が中継点によって結ばれた構造を有する微細炭素繊維は、僅かにしか得られていないことも確認できた。このときの微細炭素繊維の収率は、40%であった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本実施形態における微細炭素繊維製造装置の構造を模式的に示した構造図である。
【図2】図1に示す微細炭素繊維の製造装置に設けられた、衝突部をもつ導入ノズルの模式的な図面である。
【図3】反応炉の内部で発生している原料混合ガスの乱流状態を模式的に示した図面である。
【図4】単管ノズルの模式的な図面である。
【符号の説明】
【0060】
1・・・・・微細炭素繊維の製造装置
2・・・・・原料タンク
3・・・・・原料導入管
4・・・・・ガスタンク
5・・・・・ガス導入管
6・・・・・蒸発器
7・・・・・原料混合ガス導入管
8・・・・・反応炉
9・・・・・導入ノズル
10・・・・衝突部(均一化手段)
11・・・・加熱手段
12・・・・微細炭素繊維回収器
13・・・・ガス排出管
14・・・・原料混合ガス導入口
20・・・・金属触媒粒子生成帯域
30・・・・微細炭素繊維製造帯域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素ガス、金属化合物ガス及びキャリアガスを含む原料混合ガスを導入させて、前記炭化水素ガスを加熱分解反応させ微細炭素繊維を製造する筒状反応炉と、前記筒状反応炉内を加熱する加熱手段と、前記筒状反応炉の軸心方向の一端側から筒状反応炉内に前記原料混合ガスを導入させる導入ノズルとを具備し、
前記筒状反応炉は、該筒状反応炉内における濃度分布と温度分布とを軸直交方向に対して均一化させる均一化手段を備えたことを特徴とする微細炭素繊維の製造装置。
【請求項2】
前記均一化手段は、前記導入ノズルの原料混合ガス導入口近傍に配設され、前記導入ノズルから導入された原料混合ガスを衝突させる衝突部を備え、
前記均一化手段は、前記導入ノズルから導入される原料混合ガス流に乱流を生ぜしめることを特徴とする請求項1に記載の微細炭素繊維の製造装置。
【請求項3】
前記衝突部は、前記導入口の周方向において、前記導入ノズルを囲繞することを特徴とする請求項2に記載の微細炭素繊維の製造装置。
【請求項4】
炭化水素ガス、金属化合物ガス及びキャリアガスを含む原料混合ガスを筒状反応炉内に導入ノズルで導入せしめ、前記筒状反応炉内で前記炭化水素ガスを加熱分解反応させて微細炭素繊維を製造する微細炭素繊維の製造方法であって、
前記筒状反応炉内における濃度分布と温度分布とを軸直交方向に対して均一化させた状態にて微細炭素繊維を製造させることを特徴とする微細炭素繊維の製造方法。
【請求項5】
前記導入ノズルで導入させた前記原料混合ガスに乱流を形成させて前記濃度分布と温度分布とを軸直交方向に対して均一化させることを特徴とする請求項4に記載の微細炭素繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−39838(P2007−39838A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225764(P2005−225764)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(502205145)株式会社物産ナノテク研究所 (101)
【Fターム(参考)】