説明

微細粉粒体のもれ防止用シール材

【課題】 微細粉粒体に対するシールを確実に行い、しかも当接負荷を軽減することができるようにする。
【解決手段】 (a)に示すように、パイル3の先端が現像ローラ6の外周面6aに当接する状態で当接荷重によって傾斜している方向にさらに傾斜すると、隣接する配列方向2aのパイル3に接触し、接触部分で微細粉粒体に対する高密度のシールを行うことができる。(b)に示す使用状態では、現像ローラ6の回転の回転方向6bに対し、パイル3の配列方向2aが予め定める角度θよりも大きな角度φをなすように、製織方向を回転方向6bに対して傾斜させる。パイル3の傾きによって、微細粉粒体であるトナー8が回転の軸線7a方向に、微細粉粒体もれ防止用シール材1を越えて移動しようとしても、パイル3の傾斜で軸線5a方向の逆方向に案内され、もれを防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式で使用するトナーなどの微細粉粒体を担持する回転体の外周面を、軸線方向に微細粉粒体がもれないようにシールする微細粉粒体もれ防止用シール材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子写真方式を利用する画像形成装置では、トナーと呼ばれる微細粉粒体が現像剤として使用される。電子写真方式の画像形成装置は、プリンタ、複写装置、ファクシミリ装置などとして広く用いられている。電子写真方式では、感光ドラムなどの像担持体に静電潜像を形成し、トナーで現像して、記録用紙などに転写し、トナーを記録用紙などに定着させる。トナーは現像ユニットの容器などに貯蔵され、現像ローラの外周面に付着した状態で感光ドラムなどの表面まで移動する。現像ローラや感光ドラムは回転しながら、その外周面にトナーを付着させる。現像ローラや感光ドラムには、たとえば軸線方向の外方などに、トナーがもれることがないよう、微細粉粒体もれ防止用シール材が使用されている。
【0003】
微細粉粒体もれ防止用シール材に関する先行技術には、可動体の表面に接触させるパイル糸と、それを支える基布とを含むパイル織物を主体とするものがある(たとえば、特許文献1〜3参照)。パイル織物は、パイル糸が基布の表面から突出するように製織され、パイル糸は切断されてカットパイルの状態となる。パイル糸は多数の繊維を撚り合わせて形成されており、カットパイルとして切断された後では、撚りが解消され、基布の表面から多数の繊維が突出する状態となる。微粉粒体は、パイルによって移動を阻止されるけれども、細い繊維であるパイルは可撓性があるので、可動体の表面に対するパイルの接触圧力は小さく、可動体の動きに対する負荷が小さい状態でシールを行うことができる。
【0004】
【特許文献1】特開平11−61101号公報
【特許文献2】特開2003−140465号公報
【特許文献3】特開2004−277561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パイル織物を使用する微細粉粒体もれ防止用シール材では、パイルがトナーなどの微細粉粒体の径と同程度の径の繊維で構成されるので、シールを有効に行うためには、パイルの密度を高める必要があると考えられている。たとえば、特許文献1ではパイル糸の立毛密度として1平方インチ(2.54cm平方)当り4〜8万本、特許文献2では1平方cm当り13,000〜346,000本、特許文献3では、1平方cm当り20,000〜35,000本とそれぞれ開示されている。
【0006】
パイル糸の立毛密度を高くして、パイルの繊維を密に配置すると、トナーなどの微細粉粒体に対するシール性は向上するけれども、繊維の数が多くなる結果、パイルの繊維が接触する可動体に対する当接荷重も大きくなり、可動体の移動に大きな駆動力が必要となる。
【0007】
本発明の目的は、微細粉粒体に対するシールを確実に行い、しかも当接負荷を軽減することができる微細粉粒体もれ防止用シール材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、微細粉粒体を担持する回転体の外周面にパイルを摺接させながら軸線方向へのもれを防ぐ微細粉粒体のもれ防止用シール材であって、
多数の微細長繊維を束ねて構成されるパイル糸が基布の表面に切断された状態で立設されるカットパイル織物を主体とし、
カットパイル織物は、地糸の経糸または緯糸の径がパイル糸の径よりも細くされており、経糸と緯糸の径が同じ、もしくは経糸と緯糸が異なる径を用いてパイル織りされた織物であり、
パイル糸は、基布の製織方向の少なくとも一方に平行な方向に沿うように配列され、該基布の表面に対して、該配列の方向から予め定める角度θだけ開く方向に傾斜する斜毛状態で、パイル糸を構成する多数の微細長繊維が分離してパイルが形成され、かつパイル間のピッチが狭められるように毛羽立たされており、
使用状態では、回転体の回転方向に対し、該配列の方向が該予め定める角度θよりも大きな角度φをなすように、該配列の方向を該接線方向に対して傾斜させることを特徴とする微細粉粒体のもれ防止用シール材である。
【0009】
本発明に従えば、微細粉粒体のもれ防止用シール材は、微細粉粒体を担持する回転体の外周面に摺接しながら軸線方向へのもれを防ぐために、多数の微細長繊維で構成されるパイル糸が基布の表面に切断された状態で立設されるカットパイル織物を主体とする。カットパイル織物では、地糸の経糸または緯糸の径をパイル糸の径より小さくしている。経糸と緯糸の径が同じ、もしくは経糸と緯糸が異なる径を用いてパイル織りされた織物である。パイル糸は、基布の製織方向の少なくとも一方に平行な方向に沿うように配列され、かつ基布の表面に対して、配列の方向から予め定める角度θだけ開く方向に傾斜する斜毛状態で、パイル糸を構成する多数の微細長繊維が分離してパイルが形成され、かつパイル間のピッチが狭められるように毛羽立たされている。毛羽立つ状態のパイルを構成する多数の微細長繊維が回転体の外周面に当接し、微細粉粒体をシールすることができる。パイルは、基布の製織方向の少なくとも一方に平行な配列方向に沿って形成され、基布の表面に対して、配列方向から予め定める角度θだけ開く方向に傾斜するので、パイルの先端が回転体の外周面に当接する状態で当接荷重によって傾斜している方向にさらに傾斜すると、隣接する配列方向のパイルに接触し、接触部分で微細粉粒体に対する高密度のシールを行うことができる。
【0010】
パイルは、1つの配列方向ではパイル糸の状態で1平方cm当り数100〜数1000本程度と立毛密度が高くなくても、シールに対しては立毛密度が高い場合と同等に機能させることができる。使用状態では、回転体の回転方向に対し、パイルの配列方向が予め定める角度θよりも大きな角度φをなすように、製織方向を回転方向に対して傾斜させ、かつパイルが回転体の外周面に摺接するように、カットパイル織物が配置されるので、傾斜するパイルの方向は、回転体の回転方向よりも、パイルの配列方向側に傾く。回転の軸線方向は回転方向に垂直であるので、パイルの傾きによって、微細粉粒体が回転の軸線方向に、シール材を越えて移動しようとしても、パイルの傾斜で軸線方向の逆方向に案内され、もれを防ぐことができる。以上のように、パイルの傾斜による案内で微細粉粒体に対するシールを確実に行い、しかもパイル糸としての立毛密度を低くすることで当接負荷を軽減することができる。
【0011】
さらに、パイル間のピッチを変えることができ、パイル糸としての立毛密度を低くすると、パイルの根元部分に空隙が生じ、この空隙に微細粉粒体を捕捉することができる。捕捉した微細粉粒体は回転体に戻らなくなるので、回転体の外周面に付着している微細粉粒体に対するクリーニング作用を行うことも可能となる。
【0012】
また本発明で、前記カットパイル織物は、縦方向と横方向とに製織され、
前記パイル糸は、該縦方向と該横方向とで異なる本数の割合となるように配列され、
該縦方向および該横方向のパイル糸間の平均ピッチは、0.2mm〜1.5mmであり、
該縦方向と該横方向とのうち、パイル糸の本数の割合が大きい方向を前記配列方向として、
前記使用状態で前記パイルは、前記大きな角度φが0度以上45度以下の範囲で、該配列方向から前記予め定める角度θだけ前記接線方向側に傾斜していることを特徴とする。
【0013】
本発明に従えば、カットパイル織物は、多数の微細長繊維を束ねたパイル糸としての本数の割合が縦方向と横方向とで異なるように製織され、パイル糸の本数の割合が大きい方向がパイルの配列方向となるので、パイルは配列方向に配列方向とは異なる方向よりも高密度で配置される。配列方向に並ぶパイルについて、隣接するパイル間のピッチは、配列方向に沿ってのパイル間のピッチよりも大きくなる。パイルは、配列方向に対して角度θだけ開く方向に傾斜しているので、パイル糸間の平均ピッチが0.2mm〜1.5mmでも、使用状態では、パイルの微細長繊維が回転体の外周面に摺接される際にさらに傾斜して、隣接する配列方向に沿うパイルと重なり、微細粉粒体に対するシールを有効に行うことができる。
【0014】
また本発明で、前記パイル糸の斜毛状態は、前記基布の表面に対して0度よりも大きく45度以下の角度となるようになされていることを特徴とする。
【0015】
本発明に従えば、パイル糸が基布の表面に対して0度よりも大きく45度以下の角度となるような斜毛状態となっているので、パイルが回転体の外周面に当接してさらに傾斜する方向を、斜毛状態の傾斜で安定に揃えることができる。
【0016】
また本発明で、前記パイル糸は、単繊維の集合または複数種類の単繊維で構成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明に従えば、パイル糸が単繊維の集合または複数種類の単繊維で構成されるので、これらの単繊維を分離させて、多数の単繊維からなるパイルを形成することができる。
【0018】
また本発明で、前記パイル糸は、複合繊維で構成され、
該複合繊維は分割繊維からなることを特徴とする。
【0019】
本発明に従えば、パイル糸が複合繊維から構成され、複合繊維は分割繊維からなるので、複合繊維を分割繊維に分割してパイルを形成することができる。
【0020】
また本発明で、前記パイル糸は、単繊維と複合繊維との組合せで構成されていることを特徴とする。
【0021】
本発明に従えば、パイル糸が単繊維と複合繊維との組合せで構成されるので、複合繊維と単繊維とを分割して、特性の異なる繊維を組合わせてパイルを形成することができる。
【0022】
また本発明で、前記パイル糸を構成する微細長繊維は、高分子材料を素材とする単繊維または複合繊維からなり、
該微細長繊維の繊維径は平均で25μm以下であり、
該パイル糸は、該微細長繊維を50以上1000以下の本数束ねて構成されることを特徴とする。
【0023】
本発明に従えば、高分子材料を素材して繊維径が25μm以下の単繊維または複合繊維からなる微細長繊維を50以上1000以下の本数束ねて構成するパイル糸から微細長繊維を分離させて、これらの微細長繊維によるパイルを容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、カットパイル織物を主体として形成されるパイルの多数の微細長繊維が回転体の外周面に当接し、微細粉粒体をシールすることができる。パイルは、基布の表面に対して、配列方向から予め定める角度θだけ開く方向に傾斜するので、パイルの先端が回転体の外周面に当接する状態で当接荷重によって傾斜している方向にさらに傾斜すると、隣接する配列方向のパイルに接触し、接触部分で微細粉粒体に対する高密度のシールを行うことができる。パイルは、ピッチを変えることができ、1つの配列方向ではパイル糸の状態で1平方cm当り数100〜数1000本程度と立毛密度が高くなくても、パイルの傾斜による案内で微細粉粒体のもれを防ぐことができる。しかもパイル糸としての立毛密度を低くすることで当接負荷を軽減することができる。さらに、パイル糸としての立毛密度を低くすると、パイルの根元部分に空隙が生じ、この空隙に微細粉粒体を捕捉することができる。捕捉した微細粉粒体は回転体に戻らなくなるので、回転体の外周面に付着している微細粉粒体に対するクリーニング作用を行うことも可能となる。
【0025】
また本発明によれば、パイル糸の本数の割合が大きいカットパイル織物の製織方向がパイルの配列方向となり、配列方向に並ぶパイル間のピッチは、配列方向に沿ってのパイル間のピッチよりも大きくなるけれども、使用状態では、隣接する配列方向に沿うパイルと重なり、微細粉粒体に対するシールを有効に行うことができる。
【0026】
また本発明によれば、パイル糸が基布の表面に対して0度よりも大きく45度以下の角度となるような斜毛状態となっているので、パイルが回転体の外周面に当接してさらに傾斜する方向を、斜毛状態の傾斜で安定に揃えることができる。
【0027】
また本発明によれば、パイル糸が単繊維の集合または複数種類の単繊維で構成されるので、これらの単繊維を分離させて、多数の単繊維からなるパイルを形成することができる。
【0028】
また本発明によれば、パイル糸が複合繊維から構成され、複合繊維は分割繊維からなるので、複合繊維を分割繊維に分割してパイルを形成することができる。
【0029】
また本発明によれば、パイル糸が単繊維と複合繊維との組合せで構成されるので、複合繊維と単繊維とを分割して、特性の異なる繊維を組合わせてパイルを形成することができる。
【0030】
また本発明によれば、高分子材料を素材して繊維径が25μm以下の単繊維または複合繊維からなる微細長繊維を50以上1000以下の本数束ねて構成するパイル糸から微細長繊維を分離させて、これらの微細長繊維によるパイルを容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1は、(a)で本発明の実施の一形態としての微細粉粒体もれ防止用シール材1を含む画像形成装置の部分的な断面構成を示し、(b)で微細粉粒体もれ防止用シール材1の部分的な平面構成を示す。微細粉粒体もれ防止用シール材1は、基布2の表面からパイル3を起毛させたパイル織物で構成される。基布2は、緯糸と経糸とで製織され、経糸の一部がパイル糸4となって基布2の表面から突出し、パイル3は、パイル糸4を構成する微細長繊維が分離されて形成される。微細粉粒体もれ防止用シール材1は、支持板5の表面で支持され、パイル3の先端が現像ローラ6の外周面6aに接触する。現像ローラ6は、回転軸7の軸線7aまわりに回転する。微細粉粒体もれ防止用シール材1は、現像ローラ6の外周面6aなどの表面に付着する微細粉粒体であるトナー8に対するシールを行う。トナー8は、複写機や印刷機などの画像形成装置が電子写真方式で画像形成を行う際に、静電潜像を顕像化させる現像剤となる。
【0032】
すなわち、微粉粒体もれ防止用シール材1は、微細粉粒体としてのトナー7を担持する回転体である現像ローラ5の外周面5aにパイル3を摺接させながら軸線6a方向へのもれを防ぐために用いられ、多数の微細長繊維を束ねて構成されるパイル糸4が基布2の表面に切断された状態で立設されるカットパイル織物を主体としている。後述するように、パイル糸4は、基布2の製織方向の少なくとも一方に平行な方向2aに沿うように配列され、かつ基布2の表面に対して、配列の方向2aから予め定める角度θだけ開く方向4aに向かい、基布2の表面に対して角度δで傾斜する斜毛状態で、パイル糸4を構成する多数の微細長繊維が分離してパイル3が形成されるように毛羽立たされている。微粉粒体もれ防止用シール材1の使用状態では、回転体である現像ローラ6の回転方向6bである回転の接線方向に対し、配列の方向4aが予め定める角度θよりも大きな角度φをなすように、配列の方向4aを回転方向6bに対して傾斜させる。なお、基布2から突出するパイル3は、基布2の表面に対して垂直ではなく、一定の角度δで傾斜する状態としておく。
【0033】
また、パイル糸4を構成する微細長繊維は、高分子材料を素材とする単繊維または複合繊維からなり、微細長繊維の繊維径は平均で25μm以下であり、パイル糸4は、微細長繊維を50以上1000以下の本数束ねて構成されることが好ましい。パイル糸4から微細長繊維を分離させて、これらの微細長繊維によるパイル3を容易に形成することができるからである。
【0034】
以上のような微細粉粒体のもれ防止シール材1は、トナー8を担持する現像ローラ6の外周6aに摺接しながら軸線7a方向へのもれを防ぐために、多数の微細長繊維で構成されるパイル糸4が基布2の表面に切断された状態で立設されるカットパイル織物を主体としている。パイル糸4は、基布2の製織方向の少なくとも一方に平行な方向2aに沿うように配列され、かつ基布2の表面に対して、配列の方向2aから予め定める角度θだけ開く方向4aに傾斜角度δで傾斜する斜毛状態で、パイル糸4を構成する多数の微細長繊維が分離してパイル3が形成されるように毛羽立たされている。毛羽立つ状態のパイル3を構成する多数の微細長繊維は、現像ローラ6の外周面6aに当接し、微細粉粒体をシールすることができる。パイル3は、基布2の製織方向の少なくとも一方に平行な配列方向2aに沿って形成され、基布2の表面に対して、配列方向2aから予め定める角度θだけ開く方向4aに傾斜する。
【0035】
特に、図1(a)に示すように、パイル3の先端が現像ローラ6の外周面6aに当接する状態で当接荷重によって傾斜している方向にさらに傾斜すると、隣接する配列方向2aのパイル3に接触し、接触部分で微細粉粒体に対する高密度のシールを行うことができる。パイル3は、1つの配列方向2aではパイル糸4の状態で1平方cm当り数100〜数1000本程度と立毛密度が高くなくても、シールに対しては立毛密度が高い場合と同等に機能させることができる。
【0036】
特に、図1(b)に示すように、使用状態では、回転体である現像ローラ6の回転方向6bに対し、パイル3の配列方向2aが予め定める角度θよりも大きな角度φをなすように、製織方向を回転方向6bに対して傾斜させ、かつパイル3が現像ローラ6の外周面6aに摺接するように、カットパイル織物が配置されるので、傾斜するパイル3の方向4aは、現像ローラ6の回転の回転方向6bよりも、パイル3の配列方向2a側に傾く。回転の軸線7a方向は回転方向6bに垂直であるので、パイル3の傾きによって、微細粉粒体であるトナー8が回転の軸線7a方向に、微細粉粒体もれ防止用シール材1を越えて移動しようとしても、パイル3の傾斜で軸線5a方向の逆方向に案内され、もれを防ぐことができる。
【0037】
以上のように、パイル3の配列を組織的に行い、その配列に角度を持たせたことによって、微細粉粒体に対して流れを規制する方向となり、パイル3の根元に入り込む微細粉粒体が外側へ漏れ出ることを規制することが可能となる。パイル組織で微細粉粒体の流れを規制することが可能となるので、パイル3の密度を低くして、所定面積内の空隙率を増やすことが可能となり、パイル3の先端による現像ローラ6の外周面6aへの当接荷重を軽減することができる。さらに、所定面積での空隙率を増すことで、現像ローラ6などの微細粉粒体の表面をクリーニングすることもできる。すなわち、パイル3の傾斜による案内でトナー8に対するシールを確実に行い、しかもパイル糸4としての立毛密度を低くすることで当接負荷を軽減することができる。さらに、パイル糸4としての立毛密度を低くすると、図1(a)に示すように、パイル3の根元部分に空隙が生じ、この空隙にトナー8を捕捉することができる。捕捉したトナー8などの微細粉粒体は現像ローラ6などの回転体に戻らなくなるので、回転体の外周面に付着している微細粉粒体に対するクリーニング作用を行うことも可能となる。
【0038】
図2は、図1に示す微細粉粒体もれ防止用シール材1と現像ローラ6の外周面6aとの関係を示す。微細粉粒体もれ防止用シール材1は、現像ローラ6の外周面6aに対し、サイドシールタイプとして機能する。微細粉粒体もれ防止用シール材1は、現像ローラ6の外周面6aに密着し、軸線7a方向の中間部分に印字幅に合わせてトナー層8aを形成し、その軸線7a方向の両端側にトナーが付着しないブランク部分9a,9bを設けるために使用される。現像ローラ6は、電子写真方式の画像形成装置の現像ユニット10で感光体に臨む開口部10aに装着される。微細粉粒体もれ防止用シール材1は、現像ユニット10に、現像ローラ6に先だって取付けられる。現像ユニット10には、トナー層8aの厚みを規制するために、ブレード11も設けられる。現像ローラ6の回転軸7は、現像ユニット10の筐体に回転可能に支持され、現像ローラ6のトナー層8aには、現像ユニット10の内部からトナーが供給される。トナー層8aでのトナーの厚みは、トナー規制部材であるブレード11によって調整され、一定以下に保たれる。微細粉粒体もれ防止用シール材1では、カットパイルとしてシールを形成するパイルを、回転方向に対して一定の開き角度で配列させ、かつ基布2に対して傾斜させて斜毛させることによって、トナーの案内を有効に行い、軸線7a方向には移動しないようにすることができる。
【0039】
図3は、図1の回転体用シール材1で図2の現像ユニット10が電子写真方式の画像形成装置に設けられる感光体に臨む開口部10aでトナーの封止を行う考え方を示す。回転体用シール材1では、織目の方向であるパイル糸の配列の方向4aを実線で示すようにたとえば45°である角度φだけ回転方向である回転方向6bに対して傾斜させ、開口部10aから破線で示すようにトナーが現像ユニットの容器外側へ行こうとするのを堰き止めるようにしている。
【0040】
ここで、図1(b)に示すようなパイル糸4の角度θでの斜毛状態は、基布2の表面に対して0度よりも大きく45度以下の角度となるようになされていることが好ましい。パイル糸4が基布2の表面に対して0度よりも大きく45度以下の角度となるような斜毛状態となっていれば、パイル3が回転体である現像ローラ6の外周面6aに当接してさらに傾斜する方向を、斜毛状態の傾斜で安定に揃えることができる。
【0041】
図4は、図1に示す微細粉粒体もれ防止用シール材1の主体となるカットパイル織物20の実施例の構成を、(a)で平面視、(b)で側断面視して模式的に示す。パイル糸4は、地経糸21および地緯糸22で形成する基布2の表面から突出するように立設される。基布2は、2層であり、従来からの一重一越を基準とすれば二重一越と呼ぶべきような組織が形成され、U字状に突出するパイル糸4が密着するように、経方向に縮められている。なお、パイル糸4は、密着させなくても、ピッチを狭くすれば、密度を高めることができる。
【0042】
図5は、基布2に対してパイル糸4を密着させる縮めが行われていない状態を、(a)で平面視、(b)で側断面視して、それぞれ模式的に示す。なお、2層を構成する地経糸21および地緯糸22をずらすことによって、図1(a)および図1(b)に示すような角度δおよび角度θの傾斜をそれぞれつける参考例を示す。
【0043】
図4および図5では、パイル糸4として、地経糸21および地緯糸22よりも太い径の糸を使用する例を、(a)で平面視、(b)で側断面視して、それぞれ模式的に示す。図6は経方向に縮めた状態、図7は縮めていない状態をそれぞれ示す。パイル糸4としての経を太くすることによって、多数の微細長繊維を含ませることができ、繊維密度を高めることができる。地経糸21または地緯糸22のうちの一方は、パイル糸4と同等の径とすることもできる。すなわち、地経糸21または地緯糸22は、パイル糸4よりも小径とする。図4と図5の違いは、図4では、地緯糸22でパイル糸4を絞る構造となる点にある。この構造によって、パイル糸4の繊維(ファイバー)が抜けにくくなるようにすることができる。
【0044】
図6および図7では、パイル糸4と地経糸21および地緯糸22とは、径が同等の糸を使用する。パイル糸4と地経糸21および地緯糸22とに、径が異なる糸を使用して、同様な二重一越の組織を得る参考例を示す。
【0045】
図4や図6に示すように、経方向に縮めることによって、基布2の縦方向である経方向と横方向である緯方向とで、パイル糸4を異なる本数の割合となるように配列させることができる。ここで、縦方向および横方向のパイル糸4間の平均ピッチは、0.2mm〜1.5mmとする。縦方向と横方向とのうち、パイル糸4の本数の割合が大きい縦方向を配列方向とする。
【0046】
図8は、図4〜図7に示すカットパイル織物20の製造状態を(a)で、使用状態を(b)でそれぞれ示す。カットパイル織物20は、前述のように、たとえば経方向である縦方向が配列方向2aとなって、配列方向2aに沿ってパイル糸4が最も高密度で配列している。ただし、(a)に示すように、パイル4糸は、角度θで配列方向2aから傾斜した方向4aに傾いて突出するような斜毛状態で形成される。(b)に示すように、使用状態では、回転体の回転方向6bに対して配列方向2aが角度θよりも大きな角度φをなすように、カットパイル織物20は傾けられる。この角度φは、0度以上45度以下の範囲である。角度θは角度φよりも小さくする。すなわち、パイル糸4の方向は、配列方向2aから予め定める角度θだけ回転方向6b側に傾斜している。なお、パイル糸4の本数の割合は、緯方向である横方向の方が大きいようにすることもできる。
【0047】
カットパイル織物20は、多数の微細長繊維を束ねたパイル4糸としての本数の割合が縦方向と横方向とで異なるように製織され、パイル糸4の本数の割合が大きい方向がパイル糸4の配列方向2aとなるので、パイル3は配列方向2aに、配列方向2aとは異なる方向よりも高密度で配置される。配列方向2aに並ぶパイル糸4について、隣接するパイル糸4間のピッチは、配列方向2aに沿ってのパイル糸4間のピッチよりも大きくなる。パイル糸4は、配列方向2aに対して角度θだけ開く方向4aに傾斜しているので、パイル糸4間の平均ピッチが0.2mm〜1.5mmでも、使用状態では、パイル3の微細長繊維が現像ローラ6などの回転体の外周面に摺接される際にさらに傾斜して、隣接する配列方向2aに沿うパイル3と重なり、微細粉粒体に対するシールを有効に行うことができる。
【0048】
カットパイル織物20は、概略的に、製織→毛割→シャーリング→コーティング→毛割り→シャーリングの工程を経て製造する。製織の工程では、縦パイルまたは横パイルとしてパイル織物を製造する。毛割の工程では、パイル糸4の角度出しを行う。シャーリングの工程では、パイル糸4の先端を切断し、基布2の表面から突出するパイル3の高さを揃える。コーティングの工程では、基布2の裏面側に接着剤を塗布する。次の毛割の工程とシャーリングの工程は、仕上げである。
【0049】
以上のようなカットパイル織物20に使用するパイル糸4は、単繊維の集合または複数種類の単繊維で構成されているものを使用することができる。パイル糸4は多数の単繊維の集合または複数種類の単繊維で構成され、これらの単繊維が撚り合わされているので、撚りを戻してこれらの単繊維を分離させて、多数の単繊維からなるパイル3を形成することができる。
【0050】
たとえば、径が数D(デニール)程度の複数種類の単繊維をたとえば300本程度束ねてパイル糸4を構成し、2.54cm(1インチ)当りの縦パイル数を20、横パイル数を50程度とすると、パイル密度は1000となり、単繊維の密度は1平方インチ当り30000本程度となる。
【0051】
図9は、パイル糸4として使用可能な複合繊維(コンジュゲートフィラメント)糸30の断面構成を示す。この複合繊維糸30は、たとえば放射状のナイロン繊維31と外側のポリエステル繊維32とで構成され、たとえば登録商標ベリーマ(カネボウ)として製造されている。このような複合繊維糸30は、成分の異なる2種類以上のポリマーを紡糸口で複合し、同時に紡糸させたものであり、複数の成分がそれぞれ繊維の長さ方向に連続した構造で、単繊維内で相互接着している。複合繊維糸30をパイル糸4とすると、複合繊維を分割させて、異なる性質の単繊維からなるパイルを得ることができる。
【0052】
たとえば、300D(デニール)程度の複合繊維糸30をパイル糸4として、1インチ(2.54cm)当りの縦パイル数を46程度、横パイル数を24程度とし、パイル糸4当り600本の分割繊維を含むものとすれば、パイル密度は1100程度となり、分割繊維の密度は1平方インチ当り660000程度となる。以上のように、パイル糸4が複合繊維から構成されれば、複合繊維は分割繊維からなるので、複合繊維を分割繊維に分割してパイル3を形成することができる。また、パイル糸4は、単繊維と複合繊維との組合せで構成することもできる。パイル糸4を単繊維と複合繊維との組合せで構成すれば、複合繊維と単繊維とを分割して、特性の異なる繊維の組合わせとしてパイル3を形成することができる。
【0053】
以上の説明では、回転体として現像ローラ6に本発明を適用する場合について説明しているけれども、電子写真方式の感光体として感光ドラムを使用するような場合に、感光ドラムに対する微細粉粒体もれ防止用シール材として使用することもできる。また、トナー8や、他の微細粉粒体を製造したり、取扱ったりする過程で必要となる回転体のシールに、本発明を同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の一形態としての微細粉粒体もれ防止用シール材1を含む画像形成装置の部分的な断面図および微細粉粒体もれ防止用シール材1の部分的な平面図である。
【図2】図1に示す微細粉粒体もれ防止用シール材1と現像ローラ6の外周面6aとを、現像ユニット10の開口部10aに装着する状態を示す簡略化した分解斜視図である。
【図3】図1の回転体用シール材1で図2の現像ユニット10が電子写真方式の画像形成装置に設けられる感光体に臨む開口部10aでトナーの封止を行う考え方を示す図である。
【図4】図1に示す微細粉粒体もれ防止用シール材1の主体となるカットパイル織物20の実施例の構成を簡略化して示す模式的な平面図および断面図である。
【図5】図1に示す微細粉粒体もれ防止用シール材1の主体となるカットパイル織物20の参考例の構成を簡略化して示す模式的な平面図および断面図である。
【図6】図1に示す微細粉粒体もれ防止用シール材1の主体となるカットパイル織物20の参考例の構成を簡略化して示す模式的な平面図および断面図である。
【図7】図1に示す微細粉粒体もれ防止用シール材1の主体となるカットパイル織物20の参考例の構成を簡略化して示す模式的な平面図および断面図である。
【図8】図4〜図7に示すカットパイル織物20の製造状態と使用状態とをそれぞれ示す模式的な平面図である。
【図9】図1のパイル糸4として使用可能な複合繊維(コンジュゲートフィラメント)糸30の模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 微細粉流体もれ防止用シール材
2 基布
2a 配列方向
3 パイル
4 パイル糸
6 現像ローラ
6a 外周面
6b 回転方向
7 回転軸
8 トナー
10 現像ユニット
11 ブレード
20 カットパイル織物
30 複合繊維糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細粉粒体を担持する回転体の外周面にパイルを摺接させながら軸線方向へのもれを防ぐ微細粉粒体のもれ防止用シール材であって、
多数の微細長繊維を束ねて構成されるパイル糸が基布の表面に切断された状態で立設されるカットパイル織物を主体とし、
カットパイル織物は、地糸の経糸または緯糸の径がパイル糸の径よりも細くされており、経糸と緯糸の径が同じ、もしくは経糸と緯糸が異なる径を用いてパイル織りされた織物であり、
パイル糸は、基布の製織方向の少なくとも一方に平行な方向に沿うように配列され、該基布の表面に対して、該配列の方向から予め定める角度θだけ開く方向に傾斜する斜毛状態で、パイル糸を構成する多数の微細長繊維が分離してパイルが形成され、かつパイル間のピッチが狭められるように毛羽立たされており、
使用状態では、回転体の回転方向に対し、該配列の方向が該予め定める角度θよりも大きな角度φをなすように、該配列の方向を該接線方向に対して傾斜させることを特徴とする微細粉粒体のもれ防止用シール材。
【請求項2】
前記カットパイル織物は、縦方向と横方向とに製織され、
前記パイル糸は、該縦方向と該横方向とで異なる本数の割合となるように配列され、
該縦方向および該横方向のパイル糸間の平均ピッチは、0.2mm〜1.5mmであり、
該縦方向と該横方向とのうち、パイル糸の本数の割合が大きい方向を前記配列方向として、
前記使用状態で前記パイルは、前記大きな角度φが0度以上45度以下の範囲で、該配列方向から前記予め定める角度θだけ前記接線方向側に傾斜していることを特徴とする請求項1記載の微細粉粒体のもれ防止用シール材。
【請求項3】
前記パイル糸の斜毛状態は、前記基布の表面に対して0度よりも大きく45度以下の角度となるようになされていることを特徴とする請求項1または2記載の微細粉粒体のもれ防止用シール材。
【請求項4】
前記パイル糸は、単繊維の集合または複数種類の単繊維で構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の微細粉粒体のもれ防止用シール材。
【請求項5】
前記パイル糸は、複合繊維で構成され、
該複合繊維は分割繊維からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の微細粉粒体のもれ防止用シール材。
【請求項6】
前記パイル糸は、単繊維と複合繊維との組合せで構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の微細粉粒体のもれ防止用シール材。
【請求項7】
前記パイル糸を構成する微細長繊維は、高分子材料を素材とする単繊維または複合繊維からなり、
該微細長繊維の繊維径は平均で25μm以下であり、
該パイル糸は、該微細長繊維を50以上1000以下の本数束ねて構成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の微細粉粒体のもれ防止用シール材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−249383(P2006−249383A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71666(P2005−71666)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(596116363)三和テクノ株式会社 (16)
【出願人】(505094157)
【Fターム(参考)】