説明

微細粉粒体シール材

【課題】本発明は、微細トナー等の微細な粉粒体の漏れを防止すると共に、可動体に接触する繊維の保持性が良好で抜け落ち難く、かつ切断した際のほつれによる繊維の脱落を防止し、さらにクッション層を必要としないシール材を提供することを目的とする。
【解決手段】分割型複合繊維により構成される布帛からなり、当該布帛の表側の面においては前記分割型複合繊維に由来する極細繊維が形成され、当該極細繊維が水流交絡処理により交絡してなり、前記布帛の裏側の面においては前記分割型複合繊維の複合形態が維持されていることを特徴とする微細粉粒体シール材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー等の微細粉粒体の漏れ防止用のシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真複写機、レーザープリンター、ファクシミリ、ワードプロセッサー等では、トナーの帯電付着したマグネットローラから感光ドラムにトナーが付与されてトナーの像を形成し、次いで感光体表面のトナーを用紙に転写して画像記録を行う。転写後に画像担持体に残留したトナーはクリーニングブレードで除去するとともにクリーニング容器内にトナーを貯留する。そして、マグネットローラの軸受け側の両端部に対応するハウジング部位やクリーニングブレードと感光ドラムが接する部分の両端にはシール材が取付けられ、隙間をシールしてトナーの飛散もれを防止している。これらのプロセスは通常、一体構造にまとめてカートリッジ化されている。
【0003】
ここで、従来のシール材としては、フッ素繊維のフェルトにクッション層を接着したものやフッ素繊維のパイル織編物またはそれにクッション層を接着したもの等が用いられている。
【0004】
しかし、フッ素繊維のフェルトは、フッ素繊維が高価であることに加え、長時間使用すると、繊維が抜け落ち、復元性に乏しく、シール性が低下し、トナー漏れが生ずる問題があった。特にフッ素繊維はすべりやすく、その傾向は顕著である。さらに、近年のトナーの更なる微粒子化や重合トナー等の出現により、フェルトでは十分なシール性を得ることが困難になってきている。
【0005】
また、フッ素繊維のパイル織編物は、繊維の抜け落ちは回避できるものの、フッ素繊維を多量に使用する必要があるため高コストとなる問題がある。
【0006】
そこで、微細トナーに対応し、かつ繊維の抜け落ちを防止するため、基布をパイル織物とすると共に裏面にコーティング層を設ける方法が開示されている(例えば、特許文献1)。しかし、織物はタテ糸とヨコ糸が規則正しく配列しているため、プレス加工により所定形状に切断すると、切断面からほつれて脱落し、実用に供しうる切断物品を得ることができないという問題があった。これは、編物の場合についても、ヨコ編であれば非常にほつれやすい点で同様であり、タテ編でも完全に防止することは困難である。そのため、コーティング層を設けて繊維のほつれを防止することが有効となるが、そのためには多量の樹脂が必要であり、柔軟なシール材を得ることが困難となる。
【0007】
なお、微細トナーの漏れを防止し、繊維の脱落を防止するため、フッ素繊維からなる不織布の表面層に、織布または不織布の中間層を水流交絡せしめ、下層にクッション層として、プラスチック発泡体を積層させる方法が開示されている(例えば、特許文献2)。この場合、表面層の繊維の脱落はなく、クッション層を設けたことによって柔軟になるが、ローラ等と接する表面層と中間層からなる部材と下層を張り合わせる必要があるため、カートリッジ組立工程における時間と手間と必要とする。
【特許文献1】特開平11−61101号公報
【特許文献2】特開2007−286365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、微細トナー等の微細な粉粒体の漏れを防止すると共に、可動体に接触する繊維の保持性が良好で抜け落ち難く、かつ切断した際のほつれによる繊維の脱落を防止し、さらにクッション層を必要としないシール材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、分割型複合繊維により構成される布帛からなり、当該布帛の表側の面においては前記分割型複合繊維に由来する極細繊維が形成され、当該極細繊維が水流交絡処理により交絡してなり、前記布帛の裏側の面においては前記分割型複合繊維の複合形態が維持されていることを特徴とする微細粉粒体シール材である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の微細粉粒体シール材は、切断した際のほつれによる繊維の脱落を防止でき、規格に適合したサイズを容易に得ることができると共に、微細トナー等の微細な粉粒体の漏れを防止し、可動体に接触する繊維の保持性が高めて抜け落ちにくくさせ、また、新たにクッション層を設けることを必要としないことから、プリンターシール材として好適に使用することができ、カートリッジ組立工程における時間と手間を簡略化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の微細粉粒体シール材は、相溶し合わない成分同士の組み合わせからなる分割型複合繊維により構成される布帛からなる。そうすることで、実質的に単一層の布帛に由来しながら後述するように表側の面と裏側の面とで異なる形態を形成することができる。
【0012】
相溶し合わない成分の組み合わせとしては、例えば一成分をポリエステル系成分とした場合、他方をナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系成分、ポリウレタン系成分、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系成分等から選択することができる。中でも、ポリエステル系成分とポリアミド系成分の2成分を用いた組み合わせが経済性、紡糸安定性、耐熱性に優れる点で好ましい。
【0013】
ポリエステル系成分としては例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレ−ト、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート等が挙げられる。中でも、ポリエチレンテレフタレートまたは主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体が、低コストで製造も容易な点で好ましい。
【0014】
また、ポリアミド系成分としては例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12等を挙げることができる。
【0015】
分割型複合繊維における成分比としては、2種の成分からなる場合は、紡糸安定性と分割性が優れる点で、7:3〜3:7が好ましく、6:4〜4:6がより好ましい。
【0016】
分割型複合繊維の断面形状としては、中空部を有することが好ましい。そうすることで、分割性に優れる。かかる中空率としては、0.5〜40%が好ましい。ここで、中空率とは、繊維の中空部を含む横断面積に対する中空部の面積の比率をいう。0.5%以上、好ましくは3%以上とすることで、分割性が向上する。また、40%以下、好ましくは20%以下とすることで、紡糸安定性を維持することができる。
【0017】
分割型複合繊維1本あたりの分割数としては、生産性と紡糸安定性に優れる点で、4〜48が好ましく、8〜36がより好ましい。
【0018】
本発明の微細粉粒体シール材は、布帛の表側の面においては極細繊維発現型複合繊維に由来する極細繊維が形成されていることが重要である。そうすることにより、微細粉粒体のシール性の向上に資する。
【0019】
かかる極細繊維の平均単繊維直径としては、0.1〜10μmが好ましい。10μm以下、より好ましくは5μm以下とすることで、シール性向上の実効を得ることができる。
一方、0.1μm以上、好ましくは1μm以上とすることで、摩擦による繊維の切断を防止することができる。
【0020】
さらにかかる極細繊維は、交絡していることが重要である。交絡により、シール材切断時の繊維のほつれ等を防止することができ、また、形態安定性も向上させることができる。
【0021】
またかかる交絡は、水流交絡処理によるものであることが重要である。水流交絡処理によるものとすることで、処理面側(表側)の極細繊維の発現と当該極細繊維同士の交絡を促進させる一方で、噴射した水流の勢いはシート内部を進むにつれて弱まり、裏側の面においては後述するように分割型複合繊維の複合形態を維持することが可能となる。水流交絡処理に対し、ニードルパンチでは、分割型複合繊維の分割後の平均単繊維直径が細い場合、繊維が切断するかまたは突き抜ける傾向が強くなり、繊維同士を絡合させることは困難である。特に平均単繊維直径が10μm以下の場合、その傾向は顕著である。平均単繊維直径が太い場合には、表側の面のみならず、裏側の面の繊維の分割が進み、見掛け密度も高くなるため、柔軟性・クッション性が低下する。
【0022】
本発明の微細粉粒体シール材は、布帛の裏側の面においては分割型複合繊維の複合形態が維持されていることが重要である。分割型複合繊維の複合形態が維持されている、すなわち単繊維直径が太い繊維が存在することにより、柔軟性・クッション性にも優れ、ポリウレタン等の発泡体の貼り付けを省略することが可能となり、カートリッジ組立工程における時間と手間を簡略化することができる。また、前述のような表側の面の態様と裏側の面の態様とが同一の布帛に由来し共存することにより、シール層/クッション層のように積層する必要が無く、布帛すなわちシール材内部において組織レベルで一体化しているので、ロール等の曲面に沿わせて使用する場合であっても皺の発生を抑制することができる。
【0023】
また、布帛の裏側の面において一部の分割型複合繊維が分割して極細繊維を発現していてもよい。
【0024】
布帛の裏側の面における繊維の平均単繊維直径としては、1〜100μmが好ましい。1μm以上、より好ましくは10μm以上とすることで、クッション層として代用可能な程度の柔軟性を維持させることができる。一方、100μm以下、より好ましくは50μm以下とすることで、シール材としての形態の安定性に優れる。
【0025】
また、布帛の裏側の面における繊維の、布帛の表側の面における繊維に対する平均単繊維直径の比としては、1.5〜20倍が好ましい。1.5倍以上、より好ましくは4倍以上とすることで、優れた柔軟性・クッション性を得ることができる。一方、20倍以下とすることで、布帛の表側の面の極細繊維を可動体への長時間接触にも耐えうるものにできる。
【0026】
また、布帛の表側の、布帛の裏側に対する見掛け密度の比としては、1.5〜20倍が好ましく、4〜20倍がより好ましい。この範囲内とすることで、布帛の裏側の面の柔軟性を適度に維持し、クッション層の代替として適用できる。
【0027】
布帛の表側の面における極細繊維を交絡させるための水流交絡処理は、コンベアー上を進行する布帛から5.0〜100mmの距離に布帛の進行方向と直交する方向に並んだ間隔0.2〜30mm、口径0.05〜3.00mmのノズルを配置し、ノズルから8〜40MPaに加圧された水を連続的に布帛に打ち付ける方法である。
【0028】
本発明における、かかる水流交絡処理としては、例えば、直径0.06〜0.15mmのノズルから圧力1〜60MPaで水を噴出させることが好ましい。ノズルの直径を0.15mm以下、より好ましくは0.10mm以下とすることで、付き抜けを防ぎつつ絡合性を向上させることができる。一方、0.06mm以上、より好ましくは0.09mm以上とすることで、ノズル詰まりを防ぎ、水を高度に濾過する必要なくコストを抑えることができる。
【0029】
また、水の噴出圧力を60MPa以下、より好ましくは40MPa以下、さらに好ましくは20MPa以下、さらに好ましくは10MPa以下とすることで、繊維の付き抜けを抑えることができる。なお、本発明の目的に支障をきたさない範囲で、布帛の裏側の面についても、水流交絡処理を行うことで、シール材の構造安定化を付与することができる。
【0030】
本発明の微細粉粒体シール材は、ウェブ、不織布または織編物のいずれかにより形成されることが好ましい。水流交絡処理時の取扱いの容易性から、不織布または織編物であることがより好ましい。なお、微細粉粒体シール材の表側の面と裏側の面の平均単繊維直径および見掛け密度に顕著な差を発現させるためには、水流交絡処理前の布帛において分割型複合繊維の複合形態が維持されていることが好ましい。
【0031】
かかるウェブおよび不織布としては、例えば抄紙法、メルトブロー法、ニードルパンチ法、低圧液体流交絡処理等によって得られるものが好ましい。中でも、分割型複合繊維の複合形態を維持しうる、抄紙法または低圧液体流交絡処理を使用することがより好ましい。
【0032】
かかる抄紙法による不織布は、例えば平均繊維長0.1〜1cmの繊維を、水溶性樹脂等を含む水中で叩解し、0.0001〜0.1%程度の濃度で分散させた分散液を金網等に抄造して製造することができる。本発明で好ましく用いられる1〜10μmの繊維とする場合、直接紡糸法により1〜10μmの繊維を製造し、次いで叩解して抄造することが好ましい。
【0033】
かかる低圧液体流交絡処理による不織布は、中でも、低圧水流交絡処理で製造することが好ましい。低圧水流交絡処理を行う場合は、通常、直径0.06〜1.0mmの細孔から圧力1〜10MPaで噴出させることで得られる。かかる処理は、表側の面から照射した際に、シート内部から裏側の面にかけて交絡が殆ど進まないことが好ましく、直径は1.0mm以下が好ましく、0.9mm以下がより好ましい。同様に圧力は10MPaが好ましく、5MPa以下がより好ましい。圧力が2MPa以下である場合はさらに好ましく、多数回繰り返す場合にも照射する水流が表面層のみに作用して、内部の分割型複合繊維の分割および交絡は殆ど進まないが、シートの表面の緻密な構造を形成させ、平滑性を向上させるため、好ましい。また、水流交絡処理を行う前に、水浸積処理を行うこともできる。
【0034】
また、かかる織編物としては、例えば織物の組織は、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織等の変化組織、蜂の巣織、模紗織、梨地織等の特別組織、たて二重織、緯二重織等の片二重組織、風通織、袋織、二重ビロード等の二重織組織、ベルト織等の多層組織、経ビロード、タオル、シール、ベロア等の経パイル織、別珍、緯ビロード、ベルベット、コール天等の緯パイル織、絽、紗、紋紗等のからみ組織等が挙げられる。編物の組織は、トリコット、ラッセル、ミラニーズ等の経組織、平編、リブ編、両面編、パール編等の緯組織が挙げられる。これらの織編物の中でも、立毛を形成しやすいパイル織編物を好ましく使用することができる。
【0035】
本発明の微細粉粒体シール材は、布帛の表側の面の見掛け密度が0.2〜0.5g/cmであることが好ましい。微細粉粒体に対する適度なシール性を付与するという観点から、0.2g/cm以上が好ましく、0.3g/cm以上がより好ましい。カートリッジ組立の際にローラ面に貼り付ける際に適度な柔軟性を必要とするため、0.5g/cm以下が好ましく、0.4g/cm以下がより好ましい。
【0036】
本発明の微細粉粒体シール材は、布帛の裏側の面の見掛け密度が0.02〜0.3g/cmであることが好ましい。微細粉粒体に対する十分なシール性を付与するという観点から、0.02g/cm以上が好ましく、0.03g/cm以上がより好ましい。クッション層として代用可能な程度の柔軟性を維持させる観点から、0.3g/cm以下が好ましく、0.2g/cm以下がより好ましい。
【0037】
また、本発明の微細粉粒体シール材は、布帛の厚みが0.1〜3.0mm、目付が20〜600g/mであることが好ましい。厚みを0.1mm以上(より好ましくは0.2mm以上)、目付を20g/m以上とすることで、表側の面を構成する織編物の繊維と十分に交絡して繊維脱落を抑制すると共に、微細粉粒体シール材の高い形態保持力を得ることができる。一方、厚みを3.0mm以下(より好ましくは2.0mm以下)、目付を600g/m以下(より好ましくは400g/m以下)とすることで、柔軟性を維持し、ローラー等へ接着した場合に発生する皺を抑制することができる。
【0038】
本発明の微細粉粒体シール材は、布帛の表側の面において繊維が立毛を形成していることが好ましい。かかる立毛を形成する繊維により、摺動性およびシール性を向上させることができる。特に、フッ素繊維と比較して摺動性の低い繊維、すなわち、ポリエステル、ポリアミド、および超高分子ポリエチレン等を採用する場合に、効果的に補うことができる。
【0039】
立毛長としては、1〜10mmが好ましい。1mm以上、より好ましくは2mm以上とすることでトナー漏れを防ぐことができ、10mm以下、より好ましくは5mm以下とすることで、使用と共に立毛繊維同士が絡まりあってシール性が低下するのを防ぐことができる。
【0040】
かかる立毛は、起毛処理により形成させることが好ましい。起毛処理には、針布起毛、エメリー起毛、ウエット起毛、フィブリル化起毛が挙げられる。前述のように、本発明では立毛長が1〜10mmであることが好ましく、この範囲の立毛を得るため、針布起毛が好ましい。
【0041】
また、織編物の中でも、パイル織編物を用いた場合では、パイルをカットして、立毛を得ることができる。パイル織編物としては、例えば、モケットやテレンプのようにパイルを長く出したビロード織物であるプラッシュ織、タフテッドカーペット地、ウィルトンカーペット地、ダブルトリコットやダブルラッセル機で編成したタテ編、ヨコ編などのパイル織編物を用い、ループパイルはシャーリング機によって先端を切ってカットパイルとし、二重織編組織ではナイフでセンターカットすることによって得ることができる。一方で、水流交絡処理により、立毛が布帛内部に取り込まれることもあるので、パイル織編物を用いた場合でも、水流交絡処理後には起毛処理を行うことが好ましい。また、カットパイルを行っていないパイル織編物に水流交絡処理を行ってから立毛を得る場合も、立毛の繊維長の均一化を図るため、起毛処理を行うことが好ましい。
【0042】
また、立毛を形成する繊維は、捲縮を有することが好ましい。かかる捲縮を有する繊維により、立毛同士が集束してシール性が低下するのを防ぐことができる。特に、平均単繊維繊度1dtex以下、立毛長が2mm以上の場合、集束の傾向がより顕著となるので、捲縮を有する繊維を採用することがより効果的である。
【0043】
なお、立毛を形成する繊維に捲縮を付与するには、糸の状態、布帛を形成させた後、または立毛を形成させた後に熱処理等によって捲縮を発現させることもできるが、本発明においては布帛を形成させた後または立毛を形成させた後に捲縮を発現させることが、布帛の裏側の面の繊維が必要以上に分割することもなく、交絡が進むこともないため、好ましい。
【0044】
また、立毛の傾斜方向としては、回転方向に傾斜していることが摺動性を向上させる点で好ましい。
【0045】
立毛の傾斜は、100〜180℃に加熱されたローラーを用いてポリッシャー加工することにより付与することができる。
【0046】
本発明の微細粉粒体シール材は、布帛の表側の面、特に立毛部分にフッ素系樹脂が付着していることが好ましい。かかるフッ素樹脂の付着により、摺動性をさらに向上させることができるため、好ましい。フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等が挙げられる。フッ素系樹脂の付着量としては、5〜100g/mが好ましく、10〜50g/mがより好ましい。5g/m以上とすることで、効果的に摺動性を向上させることができる。また、50g/m以下とすることで、樹脂の脱落による不具合を抑制することができる。
【0047】
表側の面にフッ素系樹脂を付与する方法としては、例えば、フッ素樹脂の溶液や分散液をスプレー、コーティング、ディップニップ、等で付与する方法が挙げられる。
【0048】
本発明の微細粉粒体シール材は、布帛の裏側の面に樹脂がコーティングされていることが好ましい。かかる樹脂により、繊維の脱落防止およびシール性をより向上させることができる。かかる樹脂としては、アクリル、ポリウレタン、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル等を採用することができ、中でもアクリルやポリウレタンが柔軟性や接着性に優れる点で好ましい。
【0049】
裏面をコーティングする方法としては、例えば、一般的な接着剤、ゴム糸、アクリル糸、および樹脂の溶液や分散液を用いることが挙げられる。この際、コーティング液の粘度を調整し、表側の立毛が接着収束しないように注意することが好ましい。
【実施例】
【0050】
[測定方法]
作製した微細粉粒体シール材の両側の面の物性値を比較するため、表側の面と裏側の面を分けて考えた。すなわち、布帛の厚み方向に4〜6割の地点、好ましくは両側の面から等距離にある地点より、両側の面と平行方向に半裁した。半裁して得られた元の表側の面および裏側の面を含む布帛について、下記(1)〜(4)の測定を行った。
【0051】
(1)目付
JIS L 1096:1999 8.4.2に記載された方法で測定した。
20cm×20cmの試験片を3枚採取し、それぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表した。
【0052】
(2)厚み
JIS L 1096:1999 8.5に準じて測定した。試料の異なる10か所について厚さ測定機(尾崎製作所製、商品名“ピーコックH”)を用いて、厚さを落ち着かせるために10秒間待った後に厚さを測定し、平均値を算出した。
【0053】
(3)見掛け密度
上記目付の値を上記厚みの値で割って、繊維見掛け密度(g/cm)を求めた。
【0054】
(4)平均単繊維直径
測定対象の側の面を光学顕微鏡にて拡大し、100箇所をランダムに選んで直径を測定した後、数平均を求めた。
【0055】
[実施例1]
(ウェブ)
ポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.66)とナイロン6(相対粘度2.40)を用い、図1のaに示す断面形状に類似した24分割の繊維断面になる矩形口金を用い、複合比1:1、紡糸温度290℃にて紡糸した後、矩形エジェクター(エジェクター圧0.35MPa)を用いて、紡糸速度4650m/分で吸引下にあるネットコンベアー(捕集シート)上に捕集した。この時、ネットコンベアー上に捕集した繊維を採取し、ウェブを得た。ウェブの目付は300g/mであり、繊維の単繊維繊度は2.4デシテックス、中空率は9%であった。
【0056】
(水流交絡処理)
上記ウェブを80℃に加熱したドット柄のエンボスロールを用いて加熱した。加熱後のウェブは、熱融着していないものだった。次に、速度10m/分で移動するスクリーン上で20MPaに加圧した常温の水を0.8mm間隔に並んだ直径0.1mmのノズルから吹き出してウェブの一方の面に打ち付けることによって、極細繊維の布帛を得た。得られた布帛は、目付364g/m、厚み1.12mmであり、半裁したところ、裏側の繊維の平均単繊維直径が表側の繊維の15倍であり、表側の見掛け密度が裏側の10倍であった。
【0057】
(起毛処理・ポリッシャー加工・コーティング)
上記布帛の表側の面に対し、針布起毛を行った後、ポリッシャー加工して立毛繊維を傾斜させた。次いで、裏側の面にアクリル系エマルジョンを用いてコーティングを行い、微細粉粒体シール材を得た。得られた微細粉粒体シール材は、打ち抜き切断した場合においても繊維のほつれが見られず、良好なトナーシール性を有していた。また、裏側の面が十分な柔軟性を有しており、クッション性が良好であった。
【0058】
[実施例2]
(不織布)
実施例1で作製したウェブをポリマーの融点未満である150℃で、カレンダープレス法により熱接着しない条件で仮セットを行った。ついで水に浸積した後、孔径0.1mmのノズルが0.6mm間隔で並んだノズルプレートを用い、1m/分の処理速度で、水流交絡処理を実施して、表(捕集時のネットコンベアーに接触していない面)2MPa、裏2MPaを交互に4回処理を行った。得られた不織布の表側の面と裏側の面の各表層はほぼすべて分割された極細繊維の不織布を得た。
【0059】
(水流交絡処理・起毛処理・ポリッシャー加工・コーティング)
上記不織布について、実施例1と同様に水流交絡処理を行った。得られた布帛は、目付 382g/m、厚み0.94mmであり、半裁したところ、裏側の繊維の平均単繊維直径が表側の繊維の5倍であり、表側の見掛け密度が裏側の3倍であった。
【0060】
次いで、起毛処理・ポリッシャー加工・コーティングを行い、微細粉粒体シール材を得た。得られた微細粉粒体シール材は、打ち抜き切断した場合においても繊維のほつれが見られず、良好なトナーシール性を有していた。また、裏側の面が適度な柔軟性を有しており、クッション性が良好であった。
【0061】
[実施例3]
(編物)
実施例1と同様に紡糸を実施した後、巻き取りを行った。この巻取糸を3段延伸して、分割型複合繊維を得た。
【0062】
上記複合繊維を、ダブルラッセル編機で釜間3mm、24ゲージの条件で編成した。次に、編成物の厚み中央をスライスして、分割型複合繊維の立毛編物を得た。
【0063】
(水流交絡処理・起毛処理・ポリッシャー加工・コーティング)
上記立毛編物について、実施例1と同様に水流交絡処理を行った。得られた布帛は、目付320g/m、厚み1.36mmであり、半裁したところ、裏側の繊維の平均単繊維直径が表側の繊維の11倍であり、表側の見掛け密度が裏側の8倍であった。
【0064】
次いで、起毛処理・ポリッシャー加工・コーティングを行い、微細粉粒体シール材を得た。得られた微細粉粒体シール材は、打ち抜き切断した場合においても繊維のほつれが見られず、良好なトナーシール性を有していた。また、裏側の面が十分な柔軟性を有しており、クッション性が良好であった。
【0065】
[比較例1]
(ウェブ)
実施例1と同様のウェブを用いた。
【0066】
(水流交絡処理・起毛処理・ポリッシャー加工・コーティング)
水流交絡処理は、行わなかった。
【0067】
次いで、上記ウェブを、実施例1と同様にして起毛処理したが、繊維が脱落した。ポリッシャー加工・コーティングを行い、微細粉粒体シール材を得た。得られた各微細粉粒体シール材を打ち抜き切断したところ、繊維がさらにほつれて脱落した。
【0068】
[比較例2、3]
(不織布・編物)
実施例2および3と同様の布帛を用いた。
【0069】
(水流交絡処理・起毛処理・ポリッシャー加工・コーティング)
各布帛に対して、水流交絡処理は、行わなかった。
【0070】
次いで、上記の各布帛を、実施例1と同様にして起毛処理・ポリッシャー加工・コーティングを行い、微細粉粒体シール材を得た。得られた各微細粉粒体シール材を打ち抜き切断したところ、繊維がほつれて脱落した。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の微細粉粒体シール用材は、電子写真複写機、レーザープリンター、ファクシミリ、ワードプロセッサー等のトナーカートリッジにおけるトナーのシール材として好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分割型複合繊維により構成される布帛からなり、当該布帛の表側の面においては前記分割型複合繊維に由来する極細繊維が形成され、当該極細繊維が水流交絡処理により交絡してなり、前記布帛の裏側の面においては前記分割型複合繊維の複合形態が維持されていることを特徴とする微細粉粒体シール材。

【公開番号】特開2010−83945(P2010−83945A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252810(P2008−252810)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】