説明

微細繊維集合体の製造方法及びその製造装置

【課題】静電紡糸法を用いた繊維集合体の製造方法において、紡糸用ノズルを用いることによる問題を避けることができ、かつ汎用的で安定且つ連続的に繊維集合体を製造することができる製造方法とそれを行うための製造装置を提供する。
【解決手段】 静電紡糸法により微細繊維集合体を製造する方法において、紡糸液を帯電させながら超音波を照射することにより、紡糸液表面から微細繊維を紡糸して微細繊維集合体を形成することを特徴とする微細繊維集合体の製造方法及び紡糸液を充填する紡糸液槽部と、紡糸液に超音波を照射する超音波照射部と、微細繊維集合体を捕集するコレクター部と、前記の紡糸液槽部とコレクター部間に電圧を印加する電源部を基本構成とすることを特徴とする静電紡糸法による微細繊維集合体の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細繊維集合体の製造方法と該集合体の製造装置に関する。さらに詳しくは、紡糸液を帯電させながら超音波を照射することにより、紡糸液表面から微細繊維を紡糸して微細繊維集合体を作製するための方法およびその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂から、繊維径が数〜数十マイクロメートルの繊維や繊維集合体を作製する方法としては、溶融紡糸法、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法など様々な方法が知られているが、これらの方法により、繊維径が1マイクロメートル以下の繊維を作製する際には、特殊な形状のノズルから紡糸した直径が数マイクロメートルの繊維から、特定の高分子のみを溶出除去するなどの特殊な方法を用いる以外に、直接的に工業的規模で生産することは難しいのが現状である。
【0003】
一方、静電紡糸法では、帯電させた種々の紡糸液を金属製のノズルから紡糸することで、直径が数ナノ〜数マイクロメートルの微細繊維からなる微細繊維集合体が容易に作製できる。この場合、紡糸液に、電圧を印加することにより紡糸液が帯電して、コレクター部とノズル部との間で生じた静電的な引力が紡糸液の表面張力を上回った際に、溶液が延伸されたあと、静電的な反発により霧状にスプレーされる。例えば、溶液の粘度と印加する電圧を適宜に設定することで、コレクター部に微細繊維集合体が捕集される。
【0004】
静電紡糸法よって得られた繊維集合体の一形態である不織布は、特殊用フィルター(非特許文献1)分野で実用化されている。また該繊維集合体は、大きな表面積や高い空隙率を有するなどの特徴を活かして、医療やバイオテクノロジーの分野で人工血管(非特許文献2)や細胞培養用の基材(非特許文献3)への応用に関する研究が行われている。
【0005】
静電紡糸法によって微細繊維を製造する方法としては、送液ポンプによって送られてきた紡糸液が、口径が0.1mm〜2mmの紡糸用ノズルから押し出されながら、接地または紡糸用ノズルとは反対の極に帯電した繊維捕集用の集積部で捕集される方法が最も一般的である(非特許文献4)。その他の方法としては、紡糸用ノズルを用いずに、例えば紡糸液槽に金属製の円筒体を浸漬し、該円筒体を回転させながらその円筒体の表面から紡糸する方法が知られている(特許文献1、2)。この場合、円筒体の表面は様々な形状に加工されていて、紡糸液の性状によりそれら円筒体を適宜選択して紡糸がおこなわれている。
【非特許文献1】T. Grafe, et al., InternatinalNonwovens Technical Conference (Joint INDA TAPPI Conference), Atlanta, Georgia, September 24-26, 2002
【非特許文献2】T. Matsuda, et al., Biomaterials, Vol. 26, 37-46 (2005)
【非特許文献3】H.-J. Jin, et al., Biomaterials, Vol. 25, 1039-1047 (2004)
【非特許文献4】山下義裕、加工技術、Vol.42、50-57(2007)
【特許文献1】WO-A1-2005024101
【特許文献2】WO-A1-2006131081
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、紡糸用ノズルを用いる方法(非特許文献4)は、実験的には容易に微細繊維を得ることができるが、工業的規模で生産するためには、多数の紡糸用ノズルが必要とされる。このような場合には設備構成が非常に複雑化するとともに、ノズルから紡糸された繊維同士あるいは設備筐体との電気的干渉の影響を受け、均質な微細繊維集合体を得ることは難しい。また連続的に紡糸をする過程で、紡糸用ノズルが閉塞する問題は避けられず、定期的なノズル交換、あるいはノズル洗浄の操作が不可欠となり、生産性の低下および製造コストの増大の要因となる。
【0007】
一方、紡糸用ノズルを用いずに、円筒体を紡糸液に浸漬し該円筒体を回転させながら紡糸する方法(特許文献1及び2)は、ノズルを使用することによる特有の問題は発生しないものの、紡糸液の個々性状によって、回転する円筒体の表面形状設計を図る必要があり、所望する最適な微細繊維を得るためには高度な表面設計技術や緻密な解析技術などが要求され、製造装置は高価なものとなる。
【0008】
本発明は、静電紡糸法を用いた繊維集合体の製造方法において、紡糸用ノズルを用いることによる問題を避けることができ、かつ汎用的で安定且つ連続的に繊維集合体を製造することができる製造方法とそれを行うための製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、紡糸液を帯電させながら超音波を照射することによって、上記の問題が解決されることを見出し、本発見に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の第1は、静電紡糸法により微細繊維集合体を製造する方法において、紡糸液を帯電させながら超音波を照射することにより、紡糸液表面から微細繊維を紡糸して微細繊維集合体を形成することを特徴とする微細繊維集合体の製造方法を要旨とするものである。
【0011】
本発明の第2は、紡糸液を充填する紡糸液槽部と、紡糸液に超音波を照射する超音波照射部と、微細繊維集合体を捕集するコレクター部と、前記の紡糸液槽部とコレクター部間に電圧を印加する電源部を基本構成とすることを特徴とする静電紡糸法による微細繊維集合体の製造装置を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、紡糸液を帯電させながら超音波を照射することで連続的に安定して微細繊維を紡糸することができ、さらには超音波振動子を利用した汎用性のある装置設計が可能となるため特殊な設備加工技術が不要となり、設備投資費用の低減が図られることから、微細繊維およびその集合体を安価に得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。初めに本発明の製造方法について説明する。
【0014】
本発明における微細繊維とは、該繊維の平均繊維径が1〜30000ナノメートルであり、好ましくは1〜2000ナノメートル、さらに好ましくは1〜1000ナノメートルである。
【0015】
本発明における微細繊維集合体とは、微細繊維からなる構造体のことであり、その形状は織物状、不織布状、シート状、撚り糸状、配向繊維状、紙状、綿状等いずれの形状であってもよい。
【0016】
本発明においては、まず、微細繊維形成物質の融液又は溶液からなる紡糸液の調製を行う。微細繊維形成物質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ナイロン、アラミド、ポリイミド、ポリアクリロニトリル、ポリアリレート、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクタム、ポリ乳酸-ポリグリコール酸共重合体、ゼラチン、コラーゲン、セルロース、酢酸セルロース、メチルセルロース、キチン、キトサンが挙げられる。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルホン酸)、ポリパラフェニレンビニレンなどの導電性高分子及びその前駆体や誘導体などが例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種類が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0017】
これらの微細繊維形成物質の融液とは、微細繊維形成物質を融点以上で加熱し、溶融した液体を称する。また溶液とは、上記の微細繊維形成物質を溶媒に溶解して得られる均一な液状物のことであり、ここで用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、2-メトキシエタノール、アセトン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピリジン、N−メチルピロリドン、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸プロピル、塩化メチレン、クロロホルム、ヘキサフルオロイソプロパノール、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル―n―ヘキシルケトン、メチル―n―プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、水等が挙げられる。
【0018】
本発明における紡糸液は、その粘度が25℃において回転粘度計を用いて測定した絶対粘度として0.1〜100000センチポアズであることが好ましく、より好ましくは1〜10000センチポアズ、さらには1〜5000センチポアズであるのが好ましい。
【0019】
本発明における紡糸液は、前記の微細繊維形成物質の他に、該物質の微細繊維形成性に悪影響を及ぼさない範囲で、有機低分子や無機分子を添加してもよい。そのような有機低分子としては、例えば、酢酸、クエン酸、乳酸などの酸、ミヨシ油脂社製の商品名「レゾソープNL」や第一工業製薬社製の商品名「ノイゲンEA120」、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等の界面活性剤、エチレンジアミン等が挙げられる。また、無機材料としては、例えば、Al2O3、Si02、TiO2、LiO2、ZnO、CaO、Fe2O3、CoO、NiO、CuCl2、AgCl、PdCl2、AgNO3、PdNO3、などが挙げられる。これらより選ばれた少なくとも一種類が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0020】
本発明の製造方法においては、次に上記のようにして調製した紡糸液を後述するような液槽に入れ、紡糸液面に対向する位置に設けた後述のコレクター部との間に電圧を印加して紡糸液を帯電させながら、さらに超音波を照射する。本発明において、紡糸液の帯電の極性は、正極性、負極性のいずれの極性であっても良く、直流ないしは交流のいずれでもよい。また、紡糸液の帯電状態は、紡糸液が1〜100KVに帯電しているのが好ましく、さらには、2〜50kVに帯電しているのが好ましく、2〜30kVに帯電しているのが好ましく、その場合印加する電圧の極性は正極または負極のいずれでもよい。
【0021】
本発明に用いられる超音波の周波数としては、好ましくは1〜100000kHz、より好ましくは20〜10000kHz、さらに好ましくは50〜5000kHzが好ましい。
【0022】
本発明において紡糸が行われているときの紡糸液の温度は、特に限定するものではなく、用いる微細繊維形成物質や溶媒によって適宜に設定することが可能である。
【0023】
以上のような操作を行うことにより、紡糸液表面から微細繊維が紡糸されコレクター部に繊維集合体が形成されることとなる。
【0024】
つぎに、本発明の製造装置について図1に基づいて説明する。
【0025】
本発明の静電紡糸法による微細繊維集合体の製造装置1は、紡糸液槽部2と、超音波照射部3と、コレクター部4と、前記の紡糸液とコレクター部間に電圧を印加する電源部5と、電源部と紡糸液とを電気的につなぐ電極部6を基本構成部とする。
【0026】
紡糸液槽部2とは、少なくとも紡糸液7を充填可能な紡糸液槽をいい、これと同様な機能を有する紡糸液槽であれば特に限定するものではない。紡糸液槽の材質は、金属、プラスチック、ガラス、セラミックスなどが挙げられ、紡糸液の性状によって適宜に選択すればよい。紡糸液槽は、少なくとも一部が開放されていることとする。紡糸液槽の形状は、例えば直方体、立方体、円柱、三角柱、球形、半球形、三角錐、四角錐などが挙げられ、これらより選ばれた少なくとも一種類が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0027】
本発明における超音波照射部3とは、超音波振動子とそれを振動させる電源とを基本構成とする装置のことを称する。超音波照射部3は、紡糸液7と直接または紡糸液槽、溶媒、空気を介して間接的に接触しているものとする。
【0028】
本発明におけるコレクター部4とは、紡糸液7の帯電極性とは逆の極性に帯電されたか、あるいは接地された金属性の対向電極と、対向電極上あるいは紡糸液槽と金属性の対向電極間を移動する基材を基本構成とする装置を称する。この場合の基材の材質としては、金属、プラスチック、ガラス、セラミックス、などが例示でき、これらより選ばれた少なくとも一種類が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。また該基材の構造としては、前記の基材の材質からなる、平板やフィルムや箔など帯状構造体、断面が円形、三角形、四角形などの棒状構造体や、平織や綾織などの種々の織り方が施された織物や、打抜きなどで多孔状加工が施されたさた網目状構造体や、繊維が絡み合った綿状構造体や、不織布や、紙等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種類が用いられるが、特にこれに限定されるものではない。本発明に用いられる基材は、巻きだし及び巻取り装置あるいはモーターを用いて移動あるいは回転させることが可能である。
【0029】
本発明における電源部5とは、少なくとも直流または交流の電圧を出力することができる電源を基本構成とする装置のことを称する。この電源部5の電源電圧は、好ましくは1〜100kV、より好ましくは1〜70kV、さらに好ましくは1〜50kVが好ましい。
【0030】
本発明における電極部6とは、紡糸液7に浸漬されており、電源部5と紡糸液7をつなぐ金属であれば、その形状は特に限定されるものではない。
【0031】
その他の構成部としては、紡糸液6を液槽に供給及び循環させるポンプ部、紡糸液の温度を一定保つための温度コントロール部などが挙げられるが、連続的に微細繊維集合体を得るために、適宜に組み合わせればよい。
【実施例】
【0032】
次に実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によってなんら限定されるものではない。
【0033】
実施例1
図1に示した製造装置を用いた。平均重合度1800のポリビニルアルコール(ユニチカ社製、ケン化度95%)を用いて、8重量パーセントのポリビニルアルコール水溶液を調製し、これを紡糸液とした。次にこの紡糸液を、底面に2.4MHzの超音波振動子を装着した直径60mmのポリスチレン製の円筒形の紡糸液槽に、超音波振動子から6mmの高さにまで充填した。接地した100mm角の金属平板は紡糸液表面から200mmの位置に配置した。直流電源装置と接続した直径20mmの銅リングを紡糸液に浸漬して、紡糸液に15kVを印加することで静電紡糸法を行った。得られた微細繊維集合体は電界放射形走査電子顕微鏡((株)日立製作所S-4000)を用いて形状観察した。結果を図2に示した。得られた微細繊維はランダムに堆積しており、平均直径は171nmであった。
【0034】
実施例2
平均分子量が500,000のポリエチレンオキサイドを用いて、絶対粘度が300cPの紡糸液を調製した。次にこれら紡糸液を、実施例1と同様のポリスチレン製の円筒状紡糸液槽に超音波振動子から4mmの高さにまで充填した。水溶液表面から200mmの位置に、接地した100mm角の金属平板を配置した。直流電源装置と接続した直径20mmの銅リングを水溶液中に浸漬して、紡糸液に10kVを印加することで静電紡糸法を行った。得られた微細繊維集合体は電界放射形走査電子顕微鏡((株)日立製作所S-4000)を用いて形状観察した。結果を図3に示した。得られた微細繊維はランダムに体積しており、平均直径は213nmであった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の製造装置の概略図である。
【図2】本発明の実施例1で得られたポリビニルアルコールからなる微細繊維集合体の電界放出型走査電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の実施例2で得られたポリポリエチレンオキサイドからなる微細繊維集合体の電界放出型走査電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0036】
1 微細繊維集合体の製造装置
2 紡糸液槽部
3 超音波照射部
4 コレクター部
5 電源部
6 電極部
7 紡糸液


【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電紡糸法により微細繊維集合体を製造する方法において、紡糸液を帯電させながら超音波を照射することにより、紡糸液表面から微細繊維を紡糸して微細繊維集合体を形成することを特徴とする微細繊維集合体の製造方法。
【請求項2】
紡糸液を充填する紡糸液槽部と、紡糸液に超音波を照射する超音波照射部と、微細繊維集合体を捕集するコレクター部と、前記の紡糸液槽部とコレクター部間に電圧を印加する電源部を基本構成とすることを特徴とする静電紡糸法による微細繊維集合体の製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−52171(P2009−52171A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220278(P2007−220278)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】