説明

微細藻類培養装置及び方法

【課題】培養液を藻類担体に安定供給する。
【解決手段】垂直方向に延在する1あるいは複数の藻類担体と、該藻類担体の上部から培養液を供給する培養液供給手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細藻類培養装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、付着性微細藻類と培養液との懸濁液を貯留する培養槽の上方に担体を吊り下げ、懸濁液を曝気して懸濁液を飛散させることにより飛沫を発生させ、当該飛沫を担体に付着させることにより付着性微細藻類を大量培養する方法及び装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−80186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術は、懸濁液を曝気して発生する飛沫を担体に付着させるものなので、懸濁液の飛沫を安定して担体に付着させることが困難である。すなわち、曝気によって発生する飛沫は飛散量や飛散方向が不安定であり、よって上記従来技術では、必要量の懸濁液つまり付着性微細藻類及び培養液を安定して担体に付着させることが困難であり、この結果として付着性微細藻類を安定して培養することができない。
【0005】
また、曝気によって発生する飛沫は飛散量や飛散方向が不安定なので、担体の表面温度つまり担体の表面に付着した付着性微細藻類の培養温度を所望温度に安定化することが困難である。さらには、上記従来技術では、懸濁液を曝気するために大型の曝気装置を必要とするので、初期設備コストやランニングコストが高いという問題もある。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、以下の点を目的とするものである。
(1)培養液、あるいは微細藻類及び培養液を藻類担体に安定供給する。
(2)微細藻類の培養温度を安定化する。
(3)微細藻類の培養に関する初期設備コスト及びランニングコストを低減する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、微細藻類培養装置に係る第1の解決手段として、垂直方向に延在する1あるいは複数の藻類担体と、該藻類担体の上部から培養液を供給する培養液供給手段とを具備する、という手段を採用する。
【0008】
微細藻類培養装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、培養液供給手段は、藻類担体の下方に設けられ、上部が開放する培養液貯槽と、該培養液貯槽から培養液を汲み上げて藻類担体の上部に供給するポンプとを備える、という手段を採用する。
【0009】
微細藻類培養装置に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、培養液供給手段は、培養液に含まれる雑菌を殺菌あるいは滅菌する殺菌装置を備える、という手段を採用する。
【0010】
微細藻類培養装置に係る第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれかの解決手段において、培養液供給手段は、培養液の温度を調節する温度調節装置を備える、という手段を採用する。
【0011】
微細藻類培養装置に係る第5の解決手段として、上記第1〜第4のいずれかの解決手段において、培養液供給手段は、前記培養液に含まれる栄養塩の濃度を計測する栄養塩分析装置と、前記栄養塩分析装置による前記栄養塩の濃度計測結果に基づいて、前記栄養塩の濃度が適切値となるように前記栄養塩を前記培養液に添加する栄養塩添加装置とを備える、という手段を採用する。
【0012】
微細藻類培養装置に係る第6の解決手段として、上記第1〜第5のいずれかの解決手段において、藻類担体を覆う防御シートをさらに備える、という手段を採用する。
【0013】
微細藻類培養装置に係る第7の解決手段として、上記第1〜第6のいずれかの解決手段において、藻類担体は担体ユニットを複数連設してなる、という手段を採用する。
【0014】
微細藻類培養装置に係る第8の解決手段として、上記第7の解決手段において、前記藻類担体を吊り下げた状態で回転させる担体回転装置を備える、という手段を採用する。
【0015】
微細藻類培養装置に係る第9の解決手段として、上記第1〜第6のいずれかの解決手段において、藻類担体は平板状に形成されている、という手段を採用する。
【0016】
微細藻類培養装置に係る第10の解決手段として、上記第2〜第9のいずれかの解決手段において、培養液貯槽に代えて、藻類担体の下方に漏斗を設けて培養液を回収し、当該培養液を小型培養液貯槽に貯留する、という手段を採用する。
【0017】
また、本発明では、微細藻類培養方法に係る第1の解決手段として、垂直方向に延在する1あるいは複数の藻類担体の上部から培養液を供給する、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、垂直方向に延在する藻類担体の上部から培養液を供給するので、従来の培養液の飛散による供給方法に比較して、培養液、あるいは微細藻類及び培養液を藻類担体に安定供給することが可能であると共に、微細藻類の培養温度を安定化することが可能である。
さらには、従来技術のように大型の曝気装置が不要なので、微細藻類の培養に関する初期設備コスト及びランニングコストを低減させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る微細藻類培養装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る微細藻類培養装置の構成を示す模式図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る微細藻類培養装置の構成を示す模式図である。
【図4】本発明の第4実施形態に係る微細藻類培養装置の構成を示す模式図である。
【図5】第1及び第2実施形態の変形例を示す模式図である。
【図6】各実施形態の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の第1、第2実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
第1実施形態に係る微細藻類培養装置は、図1に示すように、藻類担体1、担体支持部材2、培養液貯槽3、ポンプ4、殺菌装置5、温度調節装置6及び防御シート7(透明シート)によって構成されている。これら各構成要素のうち、担体支持部材2、培養液貯槽3、ポンプ4、殺菌装置5及び温度調節装置6は、培養液供給手段を構成している。
【0021】
藻類担体1は、微細藻類Xを担持する担体であり、図示するように担体ユニット1aを垂直方向に連設することにより垂直方向に延在する。担体ユニット1aは、所定形状、例えば立方体のスポンジからなるものであり、表面に微細藻類Xが付着状態に担持されている。このような複数の担体ユニット1aを連設してなる藻類担体1は、担体支持部材2によって垂下されることによって垂直方向に延在するものであり、図示するように複数設けられている。
【0022】
上記微細藻類Xは、食品や燃料等の原料になる産業上有用な植物性プランクトンであり、例えば体内で炭化水素(燃料)を生成するボトリオコッカス・ブラウニー(学名:Botryococcus braunii)やアオコ、または食品原料として有用なクロレラである。このような微細藻類Xは、担体ユニット1aの表面において培養液Yを供給されつつ照明光(例えば太陽光)を照射されることにより光合成を繰り返して増殖する。培養液Yは、例えばC培地(NIES-Collection.List of Strains Fifth Edition Microalgae and Protozoa, Nissei Eblo Co., 140pp(1997))に代表される藻類の培養に必要な栄養塩を含むものである。
【0023】
上記担体ユニット1aの材質は、微細藻類Xが付着し易いものが好ましく、例えば発砲ポリエステルやポリウレタンである。また、担体ユニット1aの色は、照明光の透過性に優れた透明が好ましく、または熱を吸収し難い色(白色系)が好ましい。担体ユニット1aの大きさは、ハンドリングのし易さや照明光の透過性を考慮して設定されるものであり、例えば1辺が1〜10cm程度である。また、担体ユニット1aの形状は、表面積が広いこと、また製造が容易であることとを考慮して設定されるものであり、例えば球体や算盤玉のような立方体以外の形状であってもよい。
【0024】
担体支持部材2は、藻類担体1の一端を支持することにより藻類担体1を垂直方向に延在する姿勢とすると共に、培養液Yが流通する流路が形成された部材である。担体支持部材2は、外部から降り注ぐ照明光を極力遮らないようにパイプ状部材を組み合わせて棚状にしたものであり、この棚に藻類担体1の一端を所定間隔で固定することにより複数の藻類担体1を所定間隔を空けた状態かつ垂直状態に支持する。また、この担体支持部材2は、殺菌装置5及び温度調節装置6を介してポンプ4から供給される培養液Yを藻類担体1に分配供給する。
【0025】
このような担体支持部材2によって支持される藻類担体1の位置は、例えば1〜5mの範囲であり、各藻類担体1の間隔は例えば1m程度である。このように所定間隔を空けた状態で複数の藻類担体1を支持することにより、隣接する藻類担体1の陰になって照明光が照射されない部位が減少し、複数の藻類担体1の各々に均一に照明光を照射することが可能となる。
【0026】
培養液貯槽3は、図示するように複数の藻類担体1の下方に設けられると共に上部が開放した貯留槽である。培養液貯槽3は、各藻類担体1から滴下した培養液Yを回収して貯留すると共に、当該培養液Yをポンプ4に供給する。ポンプ4は、上記培養液貯槽3から培養液Yを汲み上げて担体支持部材2(つまり、各藻類担体1の上部)に供給する。このポンプ4によって各藻類担体1の上部に供給される培養液Yの供給量は、各担体ユニット1aの表面が乾かない程度、つまり当該各担体ユニット1aの表面に付着している微細藻類Xが培養液Yに常に浸る程度を最小限とし、かつ、正常な増殖速度で微細藻類Xが増殖する際に消費する栄養塩を供給できる量に設定される。
【0027】
殺菌装置5は、上記ポンプ4の吐出口側に設けられており、培養液Yに含まれる雑菌を殺菌あるいは滅菌する装置であり、例えば紫外線やオゾンを用いて雑菌を死滅させるものである。温度調節装置6は、培養液Yの流れ方向において上記殺菌装置5の下流側に設けられており、培養液Yを所定温度、つまり微細藻類Xの増殖に適した温度に調節する。防御シート7は、上記藻類担体1、担体支持部材2及び培養液貯槽3を覆う透明シートである。この防御シート7は、藻類担体1表面で増殖する微細藻類Xに外部から飛来する虫や気中物質が付着して増殖を阻害することを防止あるいは抑制する。
【0028】
また、このような防御シート7で藻類担体1、担体支持部材2及び培養液貯槽3を覆うことにより、微細藻類Xの培養雰囲気を藻類担体1の増殖に適した雰囲気とすることが容易となる。すなわち、防御シート7内の空間に酸素を含まないガスを積極的に供給することにより、あるいは防御シート7内の空間における酸素を他のガスに置換することにより、微細藻類Xが光合成によって生成する酸素の濃度が下がるので、微細藻類Xによる光合成が活発になって微細藻類Xの増殖が促進される。
【0029】
次に、このように構成された微細藻類培養装置の動作について詳しく説明する。
第1実施形態に係る微細藻類培養装置を稼働させて微細藻類Xを培養するに際して、初期的な微細藻類Xの植種方法には2つの方法が考えられる。すなわち、微細藻類Xを各担体ユニット1aの表面に植種する方法と微細藻類Xを培養液Yに植種する方法とが考えられる。これら2つの植種方法のうち、各担体ユニット1aに植種する方法は担体ユニット1aの個数が多いことを考慮すると作業が煩雑であり時間を要するが、培養液Yに植種する方法は、ポンプ4が作動することによって培養液Yが各担体ユニット1aに供給され、これによって培養液Y中の微細藻類Xの表面に付着するので、作業性に優れている。
【0030】
例えば、培養液Yに微細藻類Xを植種して培養を行う場合、培養開始時に培養液貯槽3に一定量の培養液Yを外部から供給すると共に当該培養液Yに一定量の微細藻類Xを植種用として添加し、この上でポンプ4を作動させて植種用の微細藻類Xが混じった培養液Yを培養液貯槽3から各藻類担体1の上部に供給する。この結果、培養液Yは、各藻類担体1の上部から各担体ユニット1aの表面を経由して下方に徐々に垂下して最終的に培養液貯槽3に滴下する。
【0031】
そして、これによって植種用の微細藻類Xは各担体ユニット1aの表面に徐々に付着するので、培養液Y中における微細藻類Xの濃度は徐々に低下して、最終的に培養液Yには微細藻類Xが殆ど含まれない状態となる。そして、各担体ユニット1aの表面に付着した微細藻類Xは、ポンプ4の作動によって順次供給される培養液Y中の栄養塩及び照明光(太陽光)の照射により光合成を繰り返して増殖する。そして、一定期間(培養期間)に亘って培養液Y中の供給と照明光(太陽光)の照射とを継続することにより、各担体ユニット1aの表面に付着した微細藻類Xは、所望量まで増殖する。
【0032】
ここで、培養期間の経過とともに培養液Y中の栄養塩の濃度が低下するので、培養期間においては、このような栄養塩の濃度低下を補うために、培養液貯槽3中の培養液Y(栄養塩の度が低下したもの)を一定の割合で新品状態の培養液Yと入れ替える処理を行う必要がある。このような培養液Yの入れ替え方法については、種々の方法が考えられるが、例えばポンプ4の作動を停止することなく、培養液貯槽3中の培養液Y(栄養塩の度が低下したもの)を所定流量で徐々に抜き取ると共に、当該所定流量で新品状態の培養液Yを培養液貯槽3に供給することを連続的に行うことにより、培養期間における培養液Yの栄養塩の濃度が所望値に維持されるようにすることが好ましい。
【0033】
また、培養期間においては植種用の微細藻類Xに初期的に含まれていたこと等に由来する雑菌も増殖するが、このような雑菌は、培養液Yがポンプ4によって各藻類担体1の上部に供給される際に通過する殺菌装置5によって除去されるので、微細藻類Xの増殖を妨げることはない。なお、培養の初期段階においては、培養液Y中に植種用の微細藻類Xが混じっているので、殺菌装置5を作動停止状態にすることが好ましい。
【0034】
また、培養期間において、培養液Yは、温度調節装置6によって微細藻類Xの増殖に適した温度に調節されるので、微細藻類Xの増殖環境は、温度環境として最適化される。例えば、太陽光を照明光とし屋外で微細藻類Xを培養する場合、季節や時間に応じて培養温度は著しく変動する。すなわち、夏場においては周囲温度が高くなり、冬場においては周囲温度が低くなるので、各藻類担体1の表面温度つまり微細藻類Xの培養温度も、これに応じて変動する。このような状況に対して、温度調節装置6は、微細藻類Xの培養温度が所望温度を維持するように培養液Yの温度を調節する。さらに、培養期間においては、防御シート7によって外部から飛来する虫や気中物質が微細藻類Xに付着することが防止あるいは抑制される。
【0035】
このような培養期間が経過すると、ポンプ4の作動を停止して培養が終了する。そして、各藻類担体1は、担体支持部材2から取り外され、さらに圧搾処理されることにより微細藻類Xが各担体ユニット1aから分離・回収される。この微細藻類Xが分離・回収された各担体ユニット1aは、洗浄及び殺菌処理を施した後に、上述した微細藻類Xの培養に再利用される。
【0036】
このような本第1実施形態によれば、担体支持部材2によって垂直方向に延在するように設けられた藻類担体1の上部に培養液Yを供給するので、培養液Yは、藻類担体1の延在方向、つまり藻類担体1の表面を上から下に向かって流れ、よって藻類担体1の各部位つまり各担体ユニット1aに所望量の培養液Yを均一かつ安定に供給することが可能である。
【0037】
また、殺菌装置5によって雑菌が除去され、さらに温度調節装置6によって培養液Yが微細藻類Xの増殖に適した温度に調節されるので、藻類担体1の増殖速度を最大化することができる。さらには、従来のような大型の曝気装置が不要なので、初期設備コスト及びランニングコストを従来よりも低減することが可能である。
【0038】
〔第2実施形態〕
第2実施形態に係る微細藻類培養装置は、図2に示すように、上述した第1実施形態の培養液貯槽3に代えて小型培養液貯槽3Aを設けると共に当該小型培養液貯槽3Aと各藻類担体1との間に傾斜板8を介装したものである。
【0039】
微細藻類Xを産業上の原料として培養するためには膨大な量を必要とするが、この膨大な必要量の微細藻類Xを培養するためには、広大な用地に藻類担体1を大量に配置して効率的に培養を行う必要がある。したがって、場合によっては、平地ではなく山間部等の傾斜地で微細藻類Xの培養を行うことも十分に想定される。上述した第1実施形態では、各藻類担体1の下方全域に亘る培養液貯槽3を設けたが、傾斜地では、このような培養液貯槽3を設けることは難しい。
【0040】
このような事情から、本第2実施形態に係る微細藻類培養装置では、傾斜地の一部に小型培養液貯槽3Aを設け、かつ、当該小型培養液貯槽3Aと各藻類担体1との間に各藻類担体1の下方全域に亘る傾斜板8を介装することにより、各藻類担体1から滴下した培養液Yを傾斜板8で受けて小型培養液貯槽3Aに導く。すなわち、傾斜板8は、各藻類担体1から滴下した培養液Yを受ける大型の漏斗として機能する。
【0041】
また、このような第2実施形態に係る微細藻類培養装置を傾斜地に設置する場合、微細藻類培養装置を斜面に沿って多段に設けることが考えられる。すなわち、培養液Yを小型培養液貯槽3Aからポンプ4によって直接汲み上げるのではなく、小型培養液貯槽3Aの培養液Yを傾斜方向において下側つまり高さが低い側の微細藻類培養装置の担体支持部材2と接続することにより高低差による重力を利用して低い側の微細藻類培養装置の各藻類担体1の上部に培養液Yを供給することが可能である。そして、最も低い所に位置する微細藻類培養装置の小型培養液貯槽3Aと最も高い所に位置する微細藻類培養装置の担体支持部材2とを接続することにより、培養液Yを各段の微細藻類培養装置全体で循環させる。
【0042】
このような第2実施形態によれば、傾斜地を有効利用して微細藻類Xを培養することが可能であると共に、上述した第1実施形態と同様な効果を得ることが可能である。また、微細藻類培養装置を斜面に沿って多段に設ける場合には、高低差による重力を利用するので、ポンプ4、殺菌装置5及び温度調節装置6の台数を必要最小限の各1台に削減して初期設備コスト及びランニングコストを低減することが可能である。
【0043】
〔第3実施形態〕
第3実施形態に係る微細藻類培養装置は、図3に示すように、上述した第1実施形態の藻類担体1、つまり担体ユニット1aを複数連設してなる藻類担体1に代えて、平板状に形成されたスポンジからなる藻類担体(以下、スポンジシートと称す)1Aを設けたものである。各スポンジシート1Aは、各担体支持部材2によって吊り下げられた状態で支持されており、培養液貯槽3の上方において垂直方向に延在している。
【0044】
スポンジシート1Aの材質は、第1実施形態と同様に微細藻類Xが付着し易いものが好ましく、例えば安価な発砲ポリエステルやポリウレタンを用いることができる。スポンジシート1Aの色も、第1実施形態と同様、照明光の透過性に優れた透明が好ましく、または熱を吸収し難い色(白色系)が好ましい。スポンジシート1Aの大きさは、ハンドリング性を考慮すると、幅(水平方向の長さ)2m〜数10m程度、高さ(垂直方向の長さ)1〜5m程度が好ましく、厚さは光透過性を考慮して1〜10cm程度が好ましい。
【0045】
培養液Yは、担体支持部材2からスポンジシート1Aの上側辺に沿って一定間隔で滴下される。培養液Yの滴下位置の間隔は、スポンジシート1Aの幅方向に対して均一に培養液Yが供給されるように設定されている。これにより、スポンジシート1Aに滴下された培養液Yは、スポンジシート1Aの表面に沿って降下し、その過程においてスポンジシート1Aの全面に均一に微細藻類Xが付着し増殖する。培養液貯槽3、ポンプ4、殺菌装置5、温度調節装置6及び防御シート7の役割は、第1実施形態と同様である。
【0046】
なお、図3では、複数のスポンジシート1Aが並列配置されている状態を図示しているが、隣接するスポンジシート1A同士の間隔は1m程度とすることが好ましい。これにより、隣接するスポンジシート1Aの陰になって照明光が照射されない部位が減少し、スポンジシート1Aの各々に均一に照明光を照射することが可能となる。また、入射した光が反射や吸収によってほど良く弱光化し、日光のような強い光でも有効利用できる。
【0047】
このような第3実施形態によれば、微細藻類Xの付着面積(培養面積)を増大させるこ
とができるので、第1実施形態と比較して、効率良く微細藻類Xの培養を行うことができるようになる。また、スポンジシート1Aの内外で微細藻類Xが十分に増殖した後、スポンジシート1Aを取り外して圧搾することにより、容易に高濃度の微細藻類Xを回収することができる。つまり、微細藻類Xの回収も第1実施形態より容易となる。さらに、上述した第1実施形態と同様な効果を得ることも可能であることは勿論である。
【0048】
〔第4実施形態〕
第4実施形態に係る微細藻類培養装置は、図4に示すように、上述した第2実施形態の藻類担体1、つまり担体ユニット1aを複数連設してなる藻類担体1に代えて、第3実施形態で使用した平板状に形成されたスポンジからなる藻類担体(スポンジシート)1Aを設けたものである。
【0049】
このような第4実施形態によれば、傾斜地を有効利用して微細藻類Xを培養することが可能であると共に、上述した第3実施形態と同様な効果、すなわち、効率良く微細藻類Xの培養を行うことができ、微細藻類Xの回収も容易になるという効果を得ることができる。また、第2実施形態と同様に、微細藻類培養装置を斜面に沿って多段に設ける場合には、高低差による重力を利用するので、ポンプ4、殺菌装置5及び温度調節装置6の台数を必要最小限に削減して初期設備コスト及びランニングコストを低減することが可能である。
【0050】
以上、本発明の第1〜第4実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記各実施形態では、微細藻類(植物性プランクトン)として、ボトリオコッカス・ブラウニーやアオコ)、またクロレラを例示したが、本発明はこれに限定されない。本発明はこれ以外の微細藻類についても有用である。
【0051】
(2)上記第1及び第2実施形態では、複数の担体ユニット1aを連設することにより藻類担体1を構成したが、本発明はこれに限定されない。この藻類担体については、例えば長尺状のスポンジの中心軸線に沿った断面形状を周期的に大小に変動させることにより、外形が周期的に膨らんだり細くなったりする形状であってもよい。また、このような形状の藻類担体の断面形状は、円あるいは多角形であってもよい。
【0052】
(3)上記各実施形態では、ポンプ4が担体支持部材2に供給する培養液Yの全部を殺菌あるいは滅菌するが、本発明はこれに限定されない。すなわち、担体ユニット1a(或いはスポンジシート1A)の表面に付着した微細藻類Xの一部が担体ユニット1a(或いはスポンジシート1A)の表面から脱落して培養液Yとともに培養液貯槽3あるいは小型培養液貯槽3Aに回収することが考えられるので、このような事態を考慮すると、例えばポンプ4から殺菌装置5に供給される培養液Yを細孔径10μm程度のプランクトンネット等でろ過することにより、2μm以下の大きさである雑菌と10μm以上の大きさの微細藻類Xとを分別し、当該分別された微細藻類Xを殺菌装置5を迂回させて担体支持部材2に供給することが好ましい。
【0053】
(4)上記第1及び第2実施形態では、複数の担体ユニット1aを連設することにより藻類担体1を構成し、その藻類担体1をパイプ状(棒状)の担体支持部材2に吊り下げた状態で保持しておく場合を例示した。しかしながら、このような状態では、藻類担体1の表面において、日中、常に日光に当たる部位と、常に日陰となる部位が発生する。太陽は東から西に移動するとは言え、藻類担体1の全表面において入射光量が均一になることはあり得ない。光が当たりすぎの部位は強光阻害により増殖が停滞する。逆に光量不足の部位は十分な光合成ができず増殖が停滞する。
一般に、光合成を行う生物は周期的(例えば数秒毎)に明暗が訪れることが生育によいとされている(例えば非特許文献「M. Janssen et al. Photosynthetic efficiency of Dunaliella tertiolecta under short light/dark cycles Enzyme and Microbial Technology 29 (2001) 298-305」を参照)。
【0054】
そこで、第1及び第2実施形態の微細藻類培養装置において、図5に示すような、藻類担体1を吊り下げた状態で回転させる担体回転装置を設けても良い。この担体回転装置は、図5(a)に示すように、藻類担体1を担体支持部材2に吊り下げた状態で鉛直軸回りに回転自在に支持する回転支持機構11と、担体支持部材2の回転を藻類担体1の鉛直軸回りの回転に変換する歯車12、13とから構成されている。なお、図5(b)は、図5(a)のA−A’矢視図であり、図5(c)は、図5(a)のB−B’矢視図である。
【0055】
図5(d)は、一本の担体支持部材2に複数の藻類担体1を担体回転装置によって回転自在に吊り下げた状態を示したものである。担体支持部材2の一端は、モータ14の回転軸と接続されており、モータ14が回転することで担体支持部材2も回転し、各藻類担体1も鉛直軸回りに回転することになる。このような構成を採用することにより、各藻類担体1の全表面における入射光量を均一化させることができ、その結果、微細藻類Xの培養効率を向上させることができる。
【0056】
なお、モータ14の回転数は、例えば0.1〜60rpmが好ましいが、この数値は藻類担体1の大きさや微細藻類Xの目標培養効率など、微細藻類培養装置の仕様に応じて適切な値に設定すれば良い。また、担体回転装置の構成も図5に示した構成に限定されず、藻類担体1を担体支持部材2に吊り下げた状態で鉛直軸回りに回転させることができれば、どのような構成を採用しても良い。例えば、水等の液体の落下エネルギーを利用して藻類担体1を回転させるような構成が考えられる。
【0057】
(5)培養液Yに含まれる栄養塩(リン、窒素、カリウム、鉄、カルシウム、マグネシウムなど)の濃度管理は非常に重要である。栄養塩の濃度が濃すぎても、薄すぎても、微細藻類Xの増殖速度が低下するからである。そこで、上記各実施形態の微細藻類培養装置において、図6に示すように、ポンプ4から担体支持部材2に至る培養液Yの循環経路に、ポンプ4から送り出される培養液Yに含まれる栄養塩の濃度を計測する栄養塩分析装置15と、栄養塩分析装置15による栄養塩の濃度計測結果に基づいて、栄養塩の濃度が適切値となるように栄養塩を培養液Yに添加する栄養塩添加装置16とを設けても良い。
【0058】
培養液Yに含まれる栄養塩である、リン(リン酸イオンとして)、窒素(硝酸イオンとして)、カリウムイオン、鉄イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンなどの各種培地成分は、比色法を用いて簡単に計測することができる(例えばホームページアドレスhttp://kyoritsu-lab.co.jp/pack/packtest/wak_2.htmlを参照)。栄養塩分析装置15は、例えば上記の手法を用いて1時間に1回、各成分の濃度を計測する。
【0059】
そして、栄養塩添加装置16は、予め微細藻類Xの培養に最適な濃度(適切値)が設定されており、栄養塩分析装置15による栄養塩の濃度計測結果に基づいて、栄養塩の濃度が適切値となるように必要な量の栄養塩を培養液Yに添加する。微細藻類Xの培養に最適な濃度は、例えば非特文献「C. Dayananda et al., Autotrophic cultivation of Botryococcus braunii for the production of hydrocarbons and exopolysaccharides in various media, Biomass and Bioenergy 31 (2007) 87-93」を参考にして決定することができる。また、栄養塩の添加量は、例えば図1中で使用している培養液Yの量[l(リットル)]×(予め設定した増殖に最適な栄養塩濃度[g/l]−現在の濃度[g/l])
で算出できる。
【0060】
なお、上記のような栄養塩濃度のモニタリングの他、培養液Yの濁度を連続モニタリングして、濁りが激しいときは培養がうまくいっていない(濁度の上昇はバクテリアの過増殖、藻体の死滅による細胞内成分流出などを意味する)ことを検出しても良い。
また、培養液Yにおける可視光や紫外光の波長の吸光度を、周波数別に連続スキャンして吸光スペクトラムを測定しても良い。この吸光スペクトラムは、培養液Yにどのような有機物が含まれているかを定性的に示しているので、この吸光スペクトラムが急激に変化したならば(例えば、波長300nmの吸収がある時急激に増加した、など)培養コンディションが急激に変化した可能性がある。この時の吸光スペクトラムと、その時観察された実際の培養条件の悪化理由をデータベース化すれば、培養時のトラブルを未然に防ぐことができるようになる。
【符号の説明】
【0061】
1、1A…藻類担体、1a…担体ユニット、2…担体支持部材、3…培養液貯槽、3A…小型培養液貯槽、4…ポンプ、5…殺菌装置、6…温度調節装置、7…防御シート、8…傾斜板、X…微細藻類、Y…培養液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直方向に延在する1あるいは複数の藻類担体と、
該藻類担体の上部から培養液を供給する培養液供給手段と
を具備することを特徴とする藻類培養装置。
【請求項2】
培養液供給手段は、
藻類担体の下方に設けられ、上部が開放する培養液貯槽と、
該培養液貯槽から培養液を汲み上げて藻類担体の上部に供給するポンプとを備えることを特徴とする請求項1記載の藻類培養装置。
【請求項3】
培養液供給手段は、培養液に含まれる雑菌を殺菌あるいは滅菌する殺菌装置を備えることを特徴とする請求項1または2記載の藻類培養装置。
【請求項4】
培養液供給手段は、培養液の温度を調節する温度調節装置を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の藻類培養装置。
【請求項5】
培養液供給手段は、
前記培養液に含まれる栄養塩の濃度を計測する栄養塩分析装置と、
前記栄養塩分析装置による前記栄養塩の濃度計測結果に基づいて、前記栄養塩の濃度が適切値となるように前記栄養塩を前記培養液に添加する栄養塩添加装置と、
を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の藻類培養装置。
【請求項6】
藻類担体を覆う防御シートをさらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の藻類培養装置。
【請求項7】
藻類担体は、担体ユニットを複数連設してなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の藻類培養装置。
【請求項8】
前記藻類担体を吊り下げた状態で回転させる担体回転装置を備えることを特徴とする請求項7に記載の藻類培養装置。
【請求項9】
藻類担体は、平板状に形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の藻類培養装置。
【請求項10】
培養液貯槽に代えて、藻類担体の下方に漏斗を設けて培養液を回収し、当該培養液を小型培養液貯槽に貯留することを特徴とする請求項2〜9のいずれか一項に記載の藻類培養装置。
【請求項11】
垂直方向に延在する1あるいは複数の藻類担体の上部から培養液を供給することを特徴とする藻類培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−175964(P2012−175964A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166299(P2011−166299)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】