説明

微細試料の加工方法,観察方法,及び装置

【課題】 薄膜加工位置やマイクロピラー形成位置の指定を、高い位置精度で簡単・迅速に行えるようにする。
【解決手段】 集束イオンビーム2による加工領域80の指定に加えて、集束イオンビーム2による非加工領域90の指定を行えるようにし、これら指定した集束イオンビーム2による加工領域80と非加工領域90との組み合わせによって、実際に集束イオンビーム2により加工する任意形状加工領域100の任意形状加工データを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細試料の顕微鏡像を得て、集束イオンビームで加工する試料上の任意形状加工領域をこの顕微鏡像に基づいて指定することができる微細試料の加工方法,観察方法,及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体構造の微細化の進行に伴い、その微細構造の観察や解析に対するニーズが急増している。これを受け、分解能が高く、微細試料の観察が可能な走査透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope:STEM),透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)を、半導体の微細構造の観察や解析に活用する頻度が増している。ところで、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM),走査透過電子顕微鏡(STEM),透過電子顕微鏡(TEM)といった電子顕微鏡を用いた半導体の微細構造の観察や解析では、予め観察箇所を基板から摘出しておき、観察試料として電子線が透過する程度に薄く前処理加工しておく必要がある。
【0003】
一方、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)装置は、集束イオンビームの照射によって試料から発生する二次粒子(例えば二次電子)を画像化し、その画像を基に試料における加工領域を設定することが可能なことから、微細試料の所望箇所に観察用断面やマイクロピラーを作製することができる。
【0004】
そのため、集束イオンビーム装置は、特に電子顕微鏡を用いた半導体の微細構造の観察や解析にも多用され、電子顕微鏡による観察試料の前処理加工装置としても活用されている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−52721号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体構造の微細化により、観察・解析対象としての試料の特徴部位の寸法は非常に小さくなってきている。そのため、集束イオンビーム装置による観察試料の前処理加工では、試料上における加工位置についての正確な位置決めが必要である。この試料上における加工位置の位置決めは、試料の走査イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope:SIM)像を用いて行われ、試料の走査イオン顕微鏡像上で、試料の加工領域を指定(設定)している。
【0007】
従来、走査イオン顕微鏡像を用いた試料の加工領域の指定は、走査イオン顕微鏡像上の任意形状からなる対象領域について、その対象領域内に含まれる試料上の各点をビーム照射位置座標として指定することによって行われている。この対象領域内に含まれる試料上の各点の指定は、例えばその加工領域が矩形形状である場合には、その矩形形状の加工領域に対応した対象領域の上・下,左・右の4種類の境界を、走査イオン顕微鏡像上で指定することによって行われていた。
【0008】
また、加工領域内における集束イオンビームの走査方法、すなわち加工領域内におけるビーム照射位置の移動方法をさらに規定する場合は、このようにして指定した試料上のビーム照射位置座標について、さらにその照射順の指定が必要であった。
【0009】
このようなことから、試料の微細化に伴い、集束イオンビーム加工を行う任意形状加工領域の指定を如何にして簡単・迅速にできるようにするか、その任意形状加工領域を観察部位(注目部位)が如何にして薄膜の中心部に残るように正確に精度よく設定するかが、重要な技術的な課題となってきた。
【0010】
そこで、本発明は、試料の微細化に伴い、薄膜加工位置やマイクロピラー形成位置の指定を高い位置精度で簡単・迅速に行えるとともに、試料の薄膜加工及びマイクロピラー加工を的確に実施して試料の微細構造の観察を可能とする、微細試料の加工方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決するために、本発明は、集束イオンビーム加工を用いて薄膜やマイクロピラーを作成するための任意形状加工領域の指定に、集束イオンビームによる加工を行わない非加工領域(マスク領域)の指定を用いるようにしたことを特徴とする。
【0012】
そのために、本発明では、この任意形状加工領域の指定を、集束イオンビームによる加工領域の指定とこの非加工領域の指定との組み合わせによって、走査イオン顕微鏡像上で指定できるようにしたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明では、この集束イオンビームによる加工領域の指定と非加工領域の指定とにより、指定された加工領域における、指定された非加工領域とは重畳しない領域部分に対応する走査イオン顕微鏡像上での座標を、試料上でのビーム照射位置座標に変換することにより、任意形状加工領域の加工データを作成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、集束イオンビームによって加工する任意形状加工領域を、この加工領域と非加工領域との組み合わせによって指定することができるので、任意形状加工領域の領域形状パターンが複雑化する、例えばマイクロピラーのような加工対象であっても、その任意形状加工領域の加工データの設定を容易にかつ迅速に行うことができる。
【0015】
この結果、本発明によれば、集束イオンビームを用いた微細試料の加工において、加工位置の指定の効率と加工スループットとが大幅に向上するメリットがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の微細試料の加工方法,観察方法,及び観察・加工装置の実施の形態について、図面とともに説明する。
【0017】
<第1の実施の形態>
図1は、本実施の形態で用いる集束イオンビーム装置の一実施例の概略構成図である。
【0018】
集束イオンビーム装置1は、試料室11,FIBカラム12,及び検出器13を含む装置本体10と、偏向信号発生手段21,XY独立ズーム率アドレス変換手段22,検出信号処理手段23,及び画像表示制御手段24を含む制御装置20と、キーボードやポインティングデバイス(例えばマウス)等を備えた入力装置30と、LCD等の表示素子を備えた表示装置40とを有して構成されている。
【0019】
FIBカラム12は、試料50に照射する集束イオンビーム2を生成し、生成した集束イオンビーム2を、偏向信号発生手段21から供給される偏向信号に基づいて偏向器によって偏向し、試料室11内の試料ステージ又は試料ホルダーに搭載された試料50上に走査照射する。偏向信号発生手段21は、集束イオンビーム2の走査位置(ビーム照射位置)を指定するための偏向アドレスを生成するビーム走査用カウンタ,その偏向アドレスに応じたアナログ走査信号を生成するD/A変換器,FIBカラム12内の偏向器にこのアナログ走査信号に応じた偏向信号を供給するプリアンプを含んでいる。
【0020】
一方、集束イオンビーム2の走査照射によって試料50から放出される二次電子3は、検出器13によって検出され、その検出信号は検出信号処理手段23に供給される。検出信号処理手段23では、検出器13からのアナログ検出信号を輝度電圧信号に変換し、この輝度電圧信号をさらにディジタル値の輝度データに変換して、画像表示制御手段24に備えられている画像メモリ25に随時格納していく。画像表示制御手段24には、偏向信号発生手段21から偏向アドレスが供給されている。画像表示制御手段24において、検出信号処理手段23からの輝度データの画像メモリ25への格納は、この偏向アドレスと同期をとって行われる。また、画像表示制御手段24は、画像メモリ25に集束イオンビーム2の走査位置に応じて格納されている輝度データに基づいて、走査イオン顕微鏡像を生成し、表示装置40に表示出力する。
【0021】
XY独立ズーム率アドレス変換手段22には、画像表示制御手段24と同じく、偏向信号発生手段21から偏向アドレスが供給されている。XY独立ズーム率アドレス変換手段22は、入力装置30の所定操作によって設定されたズーム率に基づいて、この偏向アドレスを変換し、ズーム表示のための表示アドレスを生成して、画像表示制御手段24に供給する。画像表示制御手段24は、画像メモリ25に格納されている集束イオンビーム2の走査位置毎の輝度データから、この表示アドレスに対応した必要な輝度データを読み出して、走査イオン顕微鏡像からなる試料50の試料画像(ズーム画像も含む)を生成し、表示装置40に表示出力する。XY独立ズーム率アドレス変換手段22は、X軸,Y軸それぞれ独立に、表示装置40の画面上における試料50の走査イオン顕微鏡像の表示倍率を変更できるようになっている。
【0022】
図2は、画像制御手段における画像メモリ周辺の回路構成についての一実施例を示したものである。
【0023】
画像メモリ25は、デュアルポートメモリ25’によって構成され、検出信号処理手段23から二次粒子輝度信号として供給される輝度データの格納と、画像表示制御手段24内に設けられた表示制御回路26への輝度データの出力とが、非同期で行える構成になっている。そのため、画像メモリ25は、輝度データの入力ポートData-inと、輝度データの出力ポートData-outとを独立に備え、検出信号処理手段23からの入力輝度データの格納アドレス(書き込みアドレス)を指定する入力アドレスポートAddress-inと、表示制御回路26へ出力する輝度データの格納アドレス(読み出しアドレス)を指定する出力アドレスポートAddress-outとを独立に備えている。
【0024】
シフトレジスタ27xは、表示装置40の表示画面上にOSD(On Screen Display)表示される試料の加工編集画面等において、走査イオン顕微鏡像の表示対象部分を横移動させる場合に用いる横スライドバーの移動量に対応した値sxを出力する。加算回路28xは、このシフトレジスタ27xの値sxと、偏向信号発生手段21からのX軸偏向アドレスdxとが入力され、両者を加算出力する。
【0025】
シフトレジスタ27yは、表示装置40の表示画面上にOSD表示される試料の加工編集画面等において、走査イオン顕微鏡像の表示対象部分を上下移動させる場合に用いる縦スライドバーの移動量に対応した値syを出力する。加算回路28yは、このシフトレジスタ27yの値syと、偏向信号発生手段21からのY軸偏向アドレスdyとが入力され、両者を加算出力する。
【0026】
これにより、試料50上における観察視野,すなわち走査イオン顕微鏡像の表示対象部分の横移動や上下移動に合わせて、画像メモリ25上で、試料ホルダーに搭載された試料50上のビーム照射位置をメモリアドレスに対応させることができるようになっている。
【0027】
その上で、加算回路28x,28yのそれぞれ出力sx+dx,sy+dyは、バレルシフト回路29x,29yにそれぞれ入力される。バレルシフト回路29xには、X軸方向のズーム率Zoom-xがシフトビット信号として入力され、バレルシフト回路29yには、Y軸方向のズーム率Zoom-yがシフトビット信号として入力される。これにより、バレルシフト回路29x,29yからは、加算回路28x,28yのそれぞれ出力sx+dx,sy+dyがズーム率Zoom-x,Zoom-yに応じてシフトされ、画像メモリ25の入力アドレスポートAddress-inに格納アドレス(書き込みアドレス)として供給される。これにより、ズーム率Zoomと画像メモリ25のアドレスとの変換が行われ、ズーム観察を行った場合でも、画像メモリ25上で、試料50上のビーム照射位置をメモリアドレスに対応させ格納することができるようになっている。
【0028】
一方、表示制御回路26は、XY独立ズーム率アドレス変換手段22や、画像表示制御手段24内に含まれる図示せぬOSD制御回路等に接続されている。表示制御回路26は、XY独立ズーム率アドレス変換手段22から供給される表示アドレスに基づいて、その対応部分の輝度データが格納されている画像メモリ25の格納アドレス(読み出しアドレス)に変換し、画像メモリ25の入力アドレスポートAddress-out に供給する。また、表示制御回路26は、この格納アドレス(読み出しアドレス)の入力アドレスポートAddress-outへの供給に対応して画像メモリ25の出力ポートData-outから出力される輝度データや、図示せぬOSD制御回路から供給されるGUIを含むOSD表示データを取り込んで、例えば、加工編集画面等における表示データを生成する。この生成された表示データは、表示制御回路26から表示装置40に供給され、その画面上に表示される。
【0029】
図3は、本実施例の集束イオンビーム装置を用いた微細試料の加工手順を示したフローチャートである。
【0030】
まず、試料50における不良個所近傍に対象領域を作成し、さらにこの作成した対象領域の加工パターンをマスクモード(非加工領域モード)に指定して、この対象領域を非加工領域にする(ステップS100)。
【0031】
次に、マスクモードを指定した対象領域部分(非加工領域部分)を薄膜化・マイクロピラーによってサンプリングできるように、その周囲を含む対象領域の作成を行い、さらにこの作成した対象領域の加工パターンを非マスクモード(加工領域モード)指定して、この対象領域を加工領域にする(ステップS200)。
【0032】
次に、この指定した加工領域を加工する際に照射する集束イオンビームの走査モード(走査方法)を指定する(ステップS300)。なお、この加工領域を加工する際の集束イオンビームの走査方法の指定にあっては、マスクモード(非加工領域)に指定した非加工領域とその周囲を含む加工領域との重畳部分の境界面部分が、集束イオンビームの走査において最後にビームが照射されて加工されるような走査モードを指定することによって、それ以前のビーム照射による加工部分で起きた境界面部分に対する影響を抑制し、その境界面の加工仕上げを向上させることができる。
【0033】
次に、これら指定した非加工領域及び加工領域と、指定した集束イオンビームの走査方法とに基づいて、集束イオンビーム2の実際の照射により加工する任意形状加工領域の加工データを作成する(ステップS400)。
その上で、この作成した任意形状加工領域の加工データに基づき、任意形状加工領域に含まれる試料50上の各照射位置について、予め定めた順番で予め定めた所定時間だけ集束イオンビームを照射することによって、試料50の加工を開始する(ステップS500)。この任意形状加工領域の加工データに基づく試料50の加工が終了したならば、その一連の加工を終了する(ステップS600)。
【0034】
このように、本実施の形態による微細試料の加工方法では、集束イオンビーム2の実際の照射により加工する任意形状加工領域の指定を、試料上に薄膜やマイクロピラーを形成するためのために非加工領域とこの非加工領域の周辺部をも含んだ加工領域とのそれぞれ指定に分けて、両者を組み合わせて(合成して)行えることを特徴する。
【0035】
次に、上述した集束イオンビーム装置1を用いた微細試料50の加工手順における、ステップS100に示した非加工領域の指定、ステップS200に示した加工領域の指定、並びにステップS300に示した加工する際の集束イオンビーム2の走査モードの指定について、その具体例を説明する。
【0036】
図4は、任意形状加工領域の加工パターンを作成するときの加工編集画面の一実施例を示したものである。
【0037】
図4において、図4(a)は、非加工領域及び加工領域の指定前の当初の加工編集画面を、図4(b)は、非加工領域又は加工領域としての対象領域を指定した際の加工編集画面を、図4(c)は、任意形状加工領域の加工パターンを作成した際の加工編集画面をそれぞれ示す。
【0038】
加工編集画面400は、表示装置40の表示画面に、ユーザが加工領域を指定するためのGUI(Graphical User Interface)としてOSD表示される。
【0039】
加工編集画面400は、対象領域70を指定するために、試料50の所望部分の走査イオン顕微鏡像60を表示するための加工対象表示部410と、この加工対象表示部410に表示された試料50の所望部分の走査イオン顕微鏡像60上において、対象領域70の指定を行うための各種操作ボタン420とを備えている。
【0040】
この各種操作ボタン420の中には、加工対象表示部410の画面上から操作対象のオブジェクトを選択したり、加工対象表示部410の画面上に表示される走査イオン顕微鏡像60をズーム操作したりするとき等に用いる操作ボタン421や、選択した対象領域について凹部形状や凸部形状等といった形状状態を指定するときに用いる操作ボタン422や、加工編集画面400上に矩形,扇形,円,直線,曲線等といった所定の対象領域70を作成するときに用いる作成ボタン423等が含まれている。
【0041】
図4(b)は、図4(a)の加工編集画面400上の加工対象表示部410に表示されている試料50の走査イオン顕微鏡像60上の所定部分に顕われている不良箇所等の注目部位(観察部位)62に対し、入力装置30のポインティングデバイスを用いて上述した各種操作ボタン420を適宜操作し、矩形状の対象領域70を重畳させて指定した場合を示している。
【0042】
次に、ポインティングデバイスを用いてこの対象領域70を選択した状態で、図5に示す加工条件設定画面500により、この対象領域70についての加工領域80又は非加工領域90の指定を行う構成になっている。
【0043】
図5は、選択された対象領域について加工領域又は非加工領域の指定を行うための加工条件設定画面の一実施例を示したものである。
【0044】
なお、この加工条件設定画面500と加工編集画面400との表示方法は、例えば、加工編集画面400,加工条件設定画面500がそれぞれ個別ウィンドウとして表示装置40の表示画面上に一緒に表示されている形式であってもよいし、加工編集画面400上での特定の対象領域70を指定した所定操作に基づき、加工編集画面400に対して加工条件設定画面500がポップアップされる形式であっても、その具体的な両画面の表示方法は限定されるものではない。
【0045】
この加工条件設定画面500には、種々の加工条件設定欄510が備えられている。この種々の加工条件設定欄510の中には、個別の走査と個別の走査との間の時間間隔(Interval)を設定する走査間隔設定欄511,照射位置座標の一点当たりの集束イオンビームの照射時間(Dwell Time)を設定できるビーム滞在時間設定欄512,対象領域70について領域内を面加工(fill)するのか、境界線に沿った線加工するのかを選択するための加工種別設定欄513,対象領域70が集束イオンビームで加工する加工領域80であるか、加工しない非加工領域(Mask mode)90であるかを選択するためのマスクモード設定欄514,加工領域80を加工する場合のビーム走査モード(Scan)を選択する走査モード設定欄515,等を含んでいる。
【0046】
図示の例では、この対象領域70に関して、加工種別設定欄513のチェックボックスをチェックして対象領域70の面加工を指定するとともに、マスクモード設定欄514のチェックボックスをチェックしてマスクモードをオンにし、集束イオンビームで加工しない非加工領域90にした(図2、ステップS100)。
【0047】
図4(c)は、その後、再び加工編集画面400により、入力装置30のポインティングデバイスを用いて各種操作ボタン420を適宜操作し、この対象領域70を跨ぐように重畳させて対象領域71を指定した場合を示している。
【0048】
そして、本実施例の場合では、次にポインティングデバイスを用いてこの対象領域71を選択した状態で、図5に示す加工条件設定画面500により、この対象領域71に関して、加工種別設定欄513のチェックボックスをチェックして対象領域71の面加工を指定するとともに、マスクモード設定欄514のチェックボックスのチェックを外してマスクモードをオフにし、集束イオンビームで加工する加工領域80に指定した(図2、ステップS200)。
【0049】
これにより、制御装置20は、画像表示制御手段24内のOSD制御回路等を介して、加工編集画面400上の加工対象表示部410に表示された試料50の走査イオン顕微鏡像60の所定部分について、加工領域80として指定した対象領域71の中の、非加工領域90として指定した対象領域70と重畳していない2つの領域部分80a,80bを、集束イオンビーム2によって実際に加工する任意形状加工領域100としてグループ化された2つの実加工領域100a,100bとして指定するようになっている。制御装置20は、この2つの実加工領域100a,100bに対応する試料50上の位置座標を、試料50上のビーム照射位置座標として取得するようになっている。
【0050】
さらに、非加工対象領域90,加工対象領域80のいずれの指定も、不良箇所等の注目部位62を各領域90,80の共通の中心にした所望の図形によって指定することができ、2つの実加工領域100a,100bを、観察する部分すなわち注目部位62を中心に互い対称に位置させて設定することが容易にできる。
【0051】
このように、本実施例では、試料50上における任意形状加工領域100の指定を、走査イオン顕微鏡像60上で、まず、非加工領域又は加工領域の形状に対応した形状の対象領域70,71として指定し、このようにして指定した各対象領域70,71について非加工領域90又は加工領域80に指定することにより、容易かつ迅速に行うことができる。また、この任意形状加工領域100の加工データの作成も、この加工領域80の指定と非加工領域90の指定とにより、指定された加工領域71における、指定された非加工領域70とは重畳しない領域部分100に対応する走査イオン顕微鏡像60上での座標を、試料50上でのビーム照射位置座標に変換することにより、容易かつ迅速に行うことができる。
【0052】
その上で、本実施例では、さらに加工条件設定画面500のビームスキャン方法設定欄515によってビームスキャン方法(スキャンデータの作成方法)を選択する。
【0053】
ビームスキャン方法設定欄515には、図5に示すように、領域の左・右・上・下の各走査方向を指定するボタン515−1〜515−4,領域の上下両側から中央に向かっての走査方向を指定するボタン515−5,領域の左右両側から中央に向かって走査方向を指定するボタン515−6,矩形領域の境界面側から内方に向かっての走査方向を指定するボタン515−7,円形領域の境界面側から内方に向かっての走査方向を指定するボタン515−8,円形領域の内方から境界面側に向かっての走査方向を指定するボタン515−9,矩形領域の内方から境界面側に向かっての走査方向を指定するボタン515−10が設けられている。
【0054】
そして、本実施例の場合では、加工領域として指定した対象領域71について、ボタン515−5を操作して、ビームスキャン方法として、領域の上下両側から中央に向かっての走査方向モードを設定した(図2、ステップS300)。
【0055】
この結果、制御装置20は、画像表示制御手段24内のOSD制御回路等を介してこれらの操作指示を受け、図6に概念的に示すような、対象領域71の上下境界面に沿った方向の走査ビーム64が、対象領域71の上下両側から非加工領域90としての対象領域70の対応する上下境界側に向かって、その走査位置が矢印P方向に順次変位していく照射位置座標のスキャンデータを含む、任意形状加工領域100(100a,100b)についての任意形状加工データを作成する。
【0056】
図6は、制御装置が作成した任意形状加工データに関しての概念的な説明図である。
この場合、非加工領域90として指定した対象領域70よりも上方に位置する実加工領域100aについては、その左右境界面の一方側から他方側に向かう上方又は下方の境界面に沿った走査ビーム64を、非加工領域90側とは反対側の上方の境界面側から非加工領域90側の下方の境界面側に向かって順次シフトさせていく、試料上における照射位置及びそのスキャンデータを含んだ任形状加工データを作成する。
【0057】
同様に、非加工領域90として指定した対象領域70よりも下方に位置する実加工領域100bについては、その左右境界面の一方側から他方側に向かう上方又は下方の境界面に沿った走査ビーム64を、非加工領域90側とは反対側の下方の境界面側から非加工領域90側の上方の境界面側に向かって順次シフトさせていく、試料上における照射位置及びそのスキャンデータを含んだ任形状加工データを作成する。
【0058】
図示の例では、任意形状加工領域100の領域100aの対象領域70側とは反対側の境界面に沿った走査ビーム64−1の照射を行い、次に、領域100bの対象領域70側とは反対側の境界面に沿った走査ビーム64−2の照射を行い、次に、領域100aの前に照射した走査ビーム64−1の内側部分の走査ビーム64−3の照射を行い、次に、領域100bの前に照射した走査ビーム64−2の内側部分の走査ビーム64−4の照射を行うといった具合に、領域100aと領域100bとで交互に各領域内の内側にシフトしながら、走査ビーム64の照射を行う構成になっている。
【0059】
次に、同様にして、試料50の試料面にマイクロピラーを作製する場合について説明する。
【0060】
図7は、制御装置が作成したマイクロピラーを作製する場合の任意形状加工データに関しての概念的な説明図である。
【0061】
この場合も、まず、加工編集画面400上の加工対象表示部410に表示されている試料50の走査イオン顕微鏡像60上のマイクロピラーを作製する部位62に対し、入力装置30のポインティングデバイスを用いて上述した各種操作ボタン420を適宜操作し、ピラー断面積に合わせた矩形状の対象領域70を指定し、この対象領域70に関して、加工条件設定画面500を使用して面加工を指定するとともに、マスクモードをオンにし、集束イオンビームで加工しない非加工領域90にする(図2、ステップS100)。
【0062】
次に、加工編集画面400上の加工対象表示部410に表示されている試料50の走査イオン顕微鏡像60上で、対象領域70に同心で、この対象領域70よりも領域面積が大きな対象領域71を指定し、この対象領域71に関しては、加工条件設定画面500を使用して面加工を指定するとともに、マスクモードをオフにし、集束イオンビームで加工する加工領域80にする(図2、ステップS200)。
【0063】
これにより、制御装置20は、加工領域80として指定した対象領域71の中の、非加工領域90として指定した対象領域70と重畳していない矩形枠状の領域部分80を、集束イオンビーム2によって実際に加工するグループ化された任意形状加工領域100として指定するようになっている。制御装置20は、この2つの実加工領域100に対応する試料50上の位置座標を、試料50上のビーム照射位置座標として取得するようになっている。
【0064】
その上で、さらに加工条件設定画面500のビームスキャン方法設定欄515によって、加工領域として指定した対象領域71について、ボタン515−7を操作して、ビームスキャン方法として、矩形領域の境界面側から内方に向かっての走査方向モードを設定する(図2、ステップS300)。
【0065】
この場合は、図7に示すように、非加工領域90として指定した対象領域70を囲む矩形枠状の任意形状加工領域100について、その境界線に沿った矩形状の走査ビーム64を、非加工領域90側とは反対側の境界面側から非加工領域90側の上方の境界面側に向かって、その大きさを相似縮小させながら順次シフトさせていく、試料上における照射位置及びそのスキャンデータを含んだ任形状加工データを作成する。
【0066】
これにより、集束イオンビームを用いたマイクロピラーの加工にあっては、そのマイクロピラーを取り囲む矩形枠状の任意形状加工領域の設定は、従来は、切り出し位置の周りに複数(例えば、4つ)の矩形形状の加工領域を指定して並べて、これら矩形形状の加工領域毎に集束イオンビーム加工をしなくてはならなかったが、1つの加工領域の指定と1つの非加工領域の指定とによって、マイクロピラーの加工のためのマイクロピラーを取り囲む矩形枠状の任意形状加工領域の設定を、この1つの加工領域と1つの非加工領域との組み合わせ(合成)によって、図7に示すように、容易にかつ迅速に設定することができる。さらに、そのスキャンデータも、マイクロピラーの側面が矩形状の走査ビーム64によって最後に形成されるので、マイクロピラーの側面の加工仕上りを向上させることができる。
【0067】
このように、本実施例では、ある対象領域71について加工領域80に指定するときに、その加工領域71における集束イオンビームのビーム走査をも含めた加工条件を、任意に併せて設定できる。また、その際における任意形状加工領域の加工データにおける集束イオンビームのビーム走査の設定も、任意形状加工領域の境界面に沿った集束イオンビームのビーム走査が、任意形状加工領域の一方の境界面側から他方の境界面側へ向かって順次移動する走査方法,任意形状加工領域の形状と相似形の集束イオンビームのビーム走査が、任意形状加工領域の内方又は境界側から境界側又は内方へ向かって順次拡大又は縮小移動していく走査方法,等といったように、薄膜やマイクロピラー等の加工対象の形状に合わせて、その加工領域の指定時に、容易にかつ迅速に行うことができる。
【0068】
なお、上記説明では、非加工領域90及び加工領域80を矩形状の対象領域70,71で指定したが、加工する任意形状加工領域に応じて、対象領域70,71を、円形,扇形,台形等、矩形状以外の予め準備された対象領域指定するようにしてもよく、また、指定する対象領域70,71のそれぞれ形状も異なっていても構わない。このような非加工領域90と加工領域80との形状が異なるような場合には、そのビームスキャン方法の設定では、最後にビームが照射される境界面がその加工仕上りが向上することから、例えば、操作した走査ビーム64を操作したボタン515−1〜515−10に基づく走査方向行先側の境界面に沿った走査ビーム64を自動的に指定する。
【0069】
さらに、上記説明では、非加工領域90としての対象領域70,加工領域80としての対象領域71をそれぞれ1つ指定する例で説明したが、非加工領域90又は加工領域80を、複数の対象領域70の組み合わせ又は複数の対象領域71の組み合わせで指定することを妨げるものではなく、このような場合においても、加工領域と非加工領域との組み合わせによって行うことができるから、任意形状加工領域の設定を容易にかつ迅速に行うことができる。
【0070】
すなわち、本実施例によれば、任意形状加工領域の加工においても、非加工領域の指定に基づくマスク加工パターンと集束イオンビームの各種走査方法とを駆使して任意形状加工領域の加工が行えることから、特に電子線照射に弱い材料に対しても高い位置精度で加工することができ、精度の高い微細試料の作製が可能となり、電子顕微鏡によるこの微細試料に基づく高分解能観察を可能にする。
【0071】
<第2の実施の形態>
本実施の形態では、装置本体10の同一の試料室11に対して、FIBカラム12と、走査電子顕微鏡カラム14とを実装した複合装置としてのFIB−SEM装置1’を用いて、微細試料の加工を行う場合について説明する。
【0072】
なお、その説明にあたっては、前述した第1の実施の形態で説明した集束イオンビーム装置1の構成と同様若しくは対応する構成については、同一符合を付し、その説明は省略する。
【0073】
図8は、本実施の形態で用いるFIB−SEM装置の一実施例の概略構成図である。
【0074】
FIB−SEM装置1’は、試料室11,FIBカラム12,電子ビームカラム14,検出器13,デポジション銃15,及びマイクロプローブ16を備えた装置本体10と、制御装置20と、キーボードやポインティングデバイス(例えばマウス)等を備えた入力装置30と、LCD等の表示素子を備えた表示装置40とを有して構成されている。
【0075】
制御装置20は、集束イオンビーム加工に関連して、図示省略した偏向信号発生手段,XY独立ズーム率アドレス変換手段,検出信号処理手段,及び画像表示制御手段を有する
電子ビームカラム14は、通常の走査電子顕微鏡(SEM)に用いられているものと同様なもので、試料50上に焦点を結んだ状態で試料50上を電子ビーム4によって走査する。検出器13は、集束イオンビーム2や電子ビーム4の走査照射によって試料50から放出される二次電子を検出する。デポジション銃15は、試料50に保護膜を形成する際や集束イオンビーム加工により作製した薄膜試料やマイクロピラーを他の物に固定する際に加工ガスを放出する。マイクロプローブ16は、集束イオンビームにより作製した薄膜試料やマイクロピラーの運搬を行うためのものである。また、試料室11内には、試料50を保持し、移動させるための試料ステージ17が実装されている。この試料ステージ17には、試料50に加えて、サンプリングした薄膜試料やマイクロピラーといった微細試料を搭載する薄膜キャリア18も搭載されている。
【0076】
このように構成されたFIB−SEM装置1’は、集束イオンビーム2がFIBカラム12から試料50上に照射されている場合は、集束イオンビーム2による二次電子を検出器13で捕らえ、制御装置20の画像制御手段により、表示装置40の画面上に走査イオン顕微鏡像を表示し、電子ビーム4が電子ビームカラム14から試料50上に照射されている場合は、電子ビーム4による二次電子を検出器13で捕らえ、制御装置20の画像制御手段により、表示装置40の画面上に走査電子顕微鏡像を表示する構成になっている。集束イオンビーム2と電子ビーム4の切替は、制御装置20からのタイミング指令により、スキャン制御,ブランキング制御を所望に切替えて行われる。
【0077】
このように構成からなるFIB−SEM装置1’においても、表示装置40に表示され、走査イオン顕微鏡像及び走査電子顕微鏡像が切り替え表示可能なイメージモニタウインドウ600上で、図9及び図10に示すように、走査イオン顕微鏡像又は走査電子顕微鏡像において、第1の実施の形態の集束イオンビーム装置の場合と同様にして、任意形状加工領域100を、容易にかつ迅速に設定することができる。
【0078】
図9は、イメージモニタウインドウ上で薄膜を作製する場合における任意形状加工データに関しての概念的な説明図である。
【0079】
図10は、イメージモニタウインドウ上でマイクロピラーを作製する場合における任意形状加工データに関しての概念的な説明図である。
【0080】
次に、このFIB−SEM装置1’を用いての、試料50における観察部位(注目部位)51を含んだ微細試料53の摘出(マイクロサンプリング)方法について説明する。
【0081】
図11は、微細試料の摘出について加工手順を示したものである。
【0082】
まず、前述したイメージモニタウインドウ上で、試料50の注目部位51上に(図11(1)参照)、FIB誘起デポジション(ガスアシストデポジション)によるデポジション膜52を形成するための照射領域81を指定する。その上で、デポジション銃15から照射領域81に向けタングステンヘキサカルボニルガスを放出しながら、集束イオンビーム2を照射領域81に局所照射し、この集束イオンビーム2の照射によってガスを構成していた金属を分解して加工領域81に堆積させて、デポジション膜(堆積膜)52を形成する(図11(2)参照)。
【0083】
次に、注目部位51の周りの試料50の穴加工を行うため、まず、イメージモニタウインドウ上で、デポジション膜52部分を非加工領域90に指定し、デポジション膜(堆積膜)52部分を含む、注目部位51を中心としたデポジション膜(堆積膜)52部分よりも大きな加工領域80に指定し、両領域80,90の組み合わせからなる任意形状加工領域100に集束イオンビーム2を走査照射して、デポジション膜52周囲の溝膜加工を行う。この溝膜加工の後、試料50を傾斜させて、同様にイメージモニタウインドウ上で、試料50の深さ方向に延びる両領域80,90の境界面について、溝開口側に非加工領域(図示せず)と溝底部側に加工領域(図示せず)とを指定し、両領域の組み合わせからなる任意形状加工領域(図示せず)に集束イオンビーム2を走査照射して、境界面の溝底部側にスリットを入れる加工を実施する。このスリット加工によって、デポジション膜52で保護された注目部位51を含む、片持ち梁形状の微細試料53を作製する(図11(3)参照)。
【0084】
そして、傾斜させた試料50を元の状態に戻し、マイクロプローブ16先端をこの片持ち梁形状の微細試料53に位置させて、イメージモニタウインドウ上で、このマイクロプローブ16先端と微細試料53を接着するためのデポジション膜52を形成するための照射領域81を指定する。その上で、デポジション銃58から照射領域81に向けタングステンヘキサカルボニルガスを放出しながら、集束イオンビーム2を照射領域81に局所照射し、デポジション膜52によって、マイクロプローブ16先端と微細試料53とを接着する(図11(4)参照)。
【0085】
次に、片持ち梁形状の微細試料53の、試料50との接続箇所部分に、イメージモニタウインドウ600上で加工領域80を指定し、この加工領域80からなる任意形状加工領域100に集束イオンビーム2を走査照射して、微細試料53を試料50から切り離す(図11(5)参照)。それから、マイクロプローブ16を上昇させ、注目部位51を内包する微細試料53を摘出する。
【0086】
次に、試料ステージ17を移動し、FIB光軸に薄膜キャリア18が来るようにする(図11(6)参照)。そして、マイクロプローブ16を下降させて、薄膜キャリア18に微細試料53を接触させ、イメージモニタウインドウ上で、この微細試料53と薄膜キャリア18とを接着するためのデポジション膜52を形成するための照射領域81を指定する。その上で、デポジション銃58から照射領域81に向けタングステンヘキサカルボニルガスを放出しながら、集束イオンビーム2を照射領域81に局所照射し、デポジション膜52によって、薄膜キャリア18と微細試料53とを接着する(図11(7)参照)。
【0087】
その後、イメージモニタウインドウ上で、マイクロプローブ16先端と微細試料53との接着部分に照射領域81を指定し、集束イオンビーム2を照射領域81に局所照射してデポジション膜52を除去し、微細試料53とマイクロプローブ16とを分離する(図11(8)参照)。
【0088】
以上の工程により、試料50から注目部位51を内包する微細試料53をサンプリングし、薄膜キャリア18上に移設した。
【0089】
次に、この微細試料53に対して、任意形状のマスク加工とセクションビューを用いて、微細試料53の注目部位51の両面断面出しを行う場合について、図12及び図13により説明する。なお、図12において、図12(5)は、図12(1)に示した微細試料53の平面を斜視方向から、図12(6)は、図12(3)に示したに示した微細試料53の平面を斜視方向から眺めたものである。
【0090】
図12は、サンプリングした微細試料から薄膜を加工する加工手順の説明図である。
【0091】
図13は、サンプリングした微細試料から薄膜を加工する加工フローチャートである。
【0092】
まず、微細試料53に対して任意加工形状のマスク加工(ステップS1100)と、セクションビューを用いて両面の断面出し(ステップS1200)を行う(図12(2),(3)参照)。
【0093】
注目部位51は、例えば半導体試料のキャパシタ54であるものとし、相対向するキャパシタ列(図示せず)が消滅した断面を、イメージモニタウインドウのセクションビューで判定すると、加工終了する。
【0094】
微細試料53の裏面側(薄膜キャリア18に近接した側)の面は、キャパシタ54を内包する部分の厚みの0.3μmを目安に、矩形状の加工領域80及び矩形状の非加工領域90を設定し、これら指定した両領域80,90の組み合わせに基づく任意加工形状領域100について加工し、微細試料53を薄膜化する。
【0095】
次に、注目キャパシタ54の中心断面を形成する目的で、FIB断面加工を薄膜の膜厚を徐々に薄くする方向に、集束イオンビーム加工を実施する(図12(2)参照)。その際には、電子ビームカラム14を備えた走査電子顕微鏡を加速電圧30kVの条件で用い、その断面情報をセクションビューに表示される走査電子顕像で確認しながら、加工の終点を判定する(ステップS1300〜S1600)。
【0096】
なお、微細試料53のキャパシタ54部分には、例えば有機ポリマー又は有機シリカガラス等のような低誘電率材料、いわゆるLow−K材料と呼ばれる電子ビーム4の照射に弱い材料が用いられているが、30kVの電子ビーム4は薄膜試料55を透過するため、薄膜試料55内部でのエネルギー損失が少なく、薄膜試料55の損傷や変形を極小に抑えることが可能である。
【0097】
その後、微細試料53を薄膜キャリア18ごと、すなわち試料ステージ17を水平面内で180度回転し(ステップS1700)、その裏面(この場合は、薄膜キャリア18とは離間している側)も、上記と同様の手法で加工し(ステップS1300〜S1600)、最終的にキャパシタ54中心を切り出した膜厚60nmの薄膜試料55を作製する(図12(3)参照)。
【0098】
このように、セクションビューを利用した薄膜加工後に、高加速電子線を用いた走査電子顕像による断面確認を行いつつ、最終的な薄膜仕上げ加工を実施することで、電子線照射により損傷や変形を受けやすい材料に対しても、損傷や変形が極小で且つ、高い加工位置精度を有する薄膜加工が可能となる。加工した薄膜試料55は、薄膜キャリア18ごと、高加速走査透過電子顕微鏡や透過電子顕微鏡のホルダーに移設し、高分解能での像観察を実施する。
【0099】
このように、本実施例によれば、微細試料の加工時に、この微細試料を高加速電子ビームにより観察することで試料損傷を抑えた観察が可能となり、この電子ビームによる観察像(試料像)を併用することによって、微細試料を、さらに薄く、精度の高い薄膜試料に集束イオンビーム加工することが可能となり、電子顕微鏡による高分解能観察が可能となる。
【0100】
<第3の実施の形態>
第3の実施の形態は、薄膜・マイクロピラー仕上げ加工時の断面モニタを、走査透過電子顕微鏡像により実施する事例である。
【0101】
図14は、本実施の形態で用いるFIB−SEM装置の一実施例の概略構成図である。
【0102】
なお、その説明にあたっては、前述した第2の実施の形態で説明したFIB−SEM装置1’の構成と同様若しくは対応する構成については、同一符合を付し、その説明は省略する。
【0103】
本実施の形態で用いるFIB−SEM装置1”は、図7に示したFIB−SEM装置1’に対し、サイドエントリーステージ170と、STEM検出器19とが新たに追加されて装着された構成になっている。
【0104】
サイドエントリーステージ170は、試料室11内を横方向に移動可能に延び、自身の軸線周りに回転可能なホルダー171と、ホルダー171に自身の軸線を直交させるように搭載されて設けられ、回転機構172によって回転可能なニードル形キャリア173を有する構成になっている。
【0105】
次に、このFIB−SEM装置1”を用いての、試料50における観察部位(注目部位)51を含んだ微細試料53の摘出(マイクロサンプリング)方法について説明する。
【0106】
図15は、本実施の形態による薄膜加工手順の説明図である。
【0107】
まず、前述したイメージモニタウインドウ上で、試料50の注目部位51上に(図15(1)参照)、FIB誘起デポジション(ガスアシストデポジション)によるデポジション膜52を形成する(図15(2)参照)。
【0108】
次に、注目部位51の周りの試料50の穴加工を行うため、まず、イメージモニタウインドウ上で、デポジション膜52部分及びこのデポジション膜52部分と加工領域の周りの試料50部分とを連結する連結部分を非加工領域90,90に指定し、デポジション膜(堆積膜)52部分を含む、注目部位51を中心とした非加工領域90,90部分よりも大きな加工領域80に指定し、両領域80,90,90の組み合わせからなる任意形状加工領域100に集束イオンビーム2を走査照射して、非加工領域90,90周囲の溝膜加工を行う。この溝膜加工の後、試料50を傾斜させて、同様にイメージモニタウインドウ上で、試料50の深さ方向に延びる両領域80,90の境界面について、溝開口側に非加工領域(図示せず)と溝底部側に加工領域(図示せず)とを指定し、両領域の組み合わせからなる任意形状加工領域(図示せず)に集束イオンビーム2を走査照射して、境界面の溝底部側にスリットを入れる加工を実施する。このスリット加工によって、デポジション膜52で保護された注目部位51を含む、片持ち支持形状の微細試料53を作製する(図15(3)参照)。
【0109】
そして、傾斜させた試料50を元の状態に戻し、マイクロプローブ16先端をこの片持ち梁形状の微細試料53に位置させて、デポジション膜52によって、マイクロプローブ16先端と微細試料53とを接着する(図15(4)参照)。
【0110】
次に、微細試料53の、試料50との連結部分に、集束イオンビーム2を走査照射して、微細試料53を試料50から切り離す(図15(5)参照)。それから、マイクロプローブ16を上昇させ、注目部位51を内包する微細試料53を摘出する。
【0111】
次に、試料ステージ17を移動し、FIB光軸にサイドエントリーステージ170のニードル形キャリア173が来るようにする。そして、マイクロプローブ16を下降させて、ニードル形キャリア173に微細試料53を接触させる(図15(6)参照)。
【0112】
その上で、FIB誘起デポジション(ガスアシストデポジション)によるデポジション膜52によって、ニードル形キャリア173と微細試料53とを接着する(図15(7)参照)。
【0113】
その後、マイクロプローブ16先端と微細試料53との接着部分に集束イオンビーム2を照射領域81に局所照射してデポジション膜52を除去し、微細試料53とマイクロプローブ16とを分離する(図15(8)参照)。
【0114】
その後、図12で説明した、サンプリングした微細試料53から薄膜試料55を加工する加工手順を行う場合は、微細試料53の回転が必要となるが、本実施の形態では、ニードル形キャリア8を用いて回転させ、必要に応じてホルダー171を試料室11内で移動又は回転させながら、薄膜試料55の加工を行う。なお、本実施の形態の場合は、その仕上げ加工時の電子ビームによる断面構造観察に、STEM検出器19を用いる点が異なる。
【0115】
本実施の形態によれば、加工した薄膜試料55を形成した微細試料53は、サイドエントリーステージ170のホルダー171に装着されており、このホルダー171を抜き、ホルダー171ごと透過電子顕微鏡や走査透過電子顕微鏡専用機に移動することで、さらに高い分解能の画像観察をすることが可能となる。さらに、本実施の形態では、微細試料53の実装状態での薄膜キャリア18への着脱が不要なため、作業中に試料を破損したり、紛失したりするリスクが低く、複数の試料が確保しにくい不良解析に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本実施の形態で用いる集束イオンビーム装置の一実施例の概略構成図である。
【図2】画像制御手段における画像メモリ周辺の回路構成についての一実施例を示したものである。
【図3】本実施例の集束イオンビーム装置を用いた微細試料の加工手順を示したフローチャートである。
【図4】任意形状加工領域の加工パターンを指定するときの加工編集画面の一実施例を示したものである。
【図5】選択された対象領域について加工領域又は非加工領域の指定を行うための加工条件設定画面の一実施例を示したものである。
【図6】任意形状加工データに関しての概念的な説明図である。
【図7】マイクロピラーを作製する場合の任意形状加工データに関しての概念的な説明図である。
【図8】第2の実施の形態で用いるFIB−SEM装置の一実施例の概略構成図である。
【図9】イメージモニタウインドウ上で薄膜を作製する場合における任意形状加工データに関しての概念的な説明図である。
【図10】イメージモニタウインドウ上でマイクロピラーを作製する場合における任意形状加工データに関しての概念的な説明図である。
【図11】微細試料の摘出について加工手順を示したものである。
【図12】サンプリングした微細試料から薄膜を加工する加工手順の説明図である。
【図13】サンプリングした微細試料から薄膜を加工する加工フローチャートである。
【図14】第3の実施の形態で用いるFIB−SEM装置の一実施例の概略構成図である。
【図15】本実施の形態による薄膜加工手順の説明図である。
【符号の説明】
【0117】
1 集束イオンビーム装置、 1’ FIB−SEM装置、 2 集束イオンビーム、
3 二次電子、 4 電子ビーム、 10 装置本体、 11 試料室、
12 FIBカラム、 13 検出器、 14 電子ビームカラム、
15 デポジション銃、 16 マイクロプローブ、 17 試料ステージ、
170 サイドエントリーステージ、 171 ホルダー、 172 回転機構、
173 ニードル形キャリア、 18 薄膜キャリア、 19 STEM検出器、
20 制御装置、 21 偏向信号発生手段、
22 XY独立ズーム率アドレス変換手段、 23 検出信号処理手段、
24 画像表示制御手段、 25 画像メモリ、 25’ デュアルポートメモリ、
26 表示制御回路、 27 シフトレジスタ、 28 加算回路、
29 バレルシフト回路、 30 入力装置、 40 表示装置、 50 試料、
51 注目部位、 52 デポジション膜、 53 微細試料、 54 キャパシタ、
55 薄膜試料、 60 走査イオン顕微鏡像、 62 不良箇所、
64 走査ビーム、 70,71 対象領域、 80 加工領域、
90 非加工領域、 100 任意形状加工領域、 400 加工編集画面、
410 加工対象表示部、 420 操作ボタン、
421,422,423 操作ボタン、
440 不良箇所、 451 対象領域(非加工領域)、
452 対象領域(加工領域)、 500 加工条件設定画面、
510 加工条件設定欄、 511 走査間隔設定欄、
512 ビーム滞在時間設定欄、 513 加工種別設定欄、
514 マスクモード設定欄、 515 走査モード設定欄、
600 イメージモニタウインドウ、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束イオンビームを試料に照射して微細試料を作製する微細試料の加工方法であって、
集束イオンビームを実際に照射する試料上の任意形状加工領域の指定を、試料について取得した顕微鏡像上で、集束イオンビームによる加工を行わない非加工領域の指定と、集束イオンビームによる加工を行う加工領域の指定とを用いて行い、
前記加工領域における、前記非加工領域とは重畳しない領域部分に対応する顕微鏡像上での座標を、試料上でのビーム照射位置座標に変換することにより、任意形状加工領域の加工データを作成する
微細試料の加工方法。
【請求項2】
集束イオンビームを試料に照射して微細試料を作製する微細試料の加工方法であって、
集束イオンビームを実際に照射する試料上の任意形状加工領域の指定を、試料について取得した顕微鏡像上で、集束イオンビームによる加工を行わない非加工領域の指定と、集束イオンビームによる加工を行う加工領域の指定とを用いて行い、
さらに加工領域の指定に際しては、当該領域の境界との関係での集束イオンビームの走査方法を併せて設定し、
前記加工領域における、前記非加工領域とは重畳しない領域部分に対応する顕微鏡像上での座標を、前記設定された集束イオンビームの走査方法に基づいて、試料上でのビーム照射位置座標に変換することにより、任意形状加工領域の加工データを作成する
微細試料の加工方法。
【請求項3】
前記加工領域の境界との関係での集束イオンビームの走査方法には、加工領域の境界から領域内の内側へのビーム走査の移動、及び加工領域内の内側から領域の境界へのビーム走査の移動を含む
ことを特徴とする請求項2記載の微細試料の加工方法。
【請求項4】
微細試料の加工時に、微細試料を高加速電子ビームにより観察した観察像を併用する
ことを特徴とする請求項1記載の微細試料の加工方法。
【請求項5】
集束イオンビームを試料に照射して試料を加工する集束イオンビーム加工装置であって、
走査イオン顕微鏡像上で、注目部位に対応させた集束イオンビームによる加工を行わない非加工領域と集束イオンビームによる加工を行う加工領域とを重畳させて指定する指定手段と、
前記指定手段によって指定された非加工領域と加工領域とを合成し、当該合成結果に基づいて、任意形状加工領域のビーム照射位置座標に変換した加工データを作成する加工データ作成手段と
を備えていることを特徴とする集束イオンビーム加工装置。
【請求項6】
前記指定手段には、指定した加工領域内における集束イオンビームの走査方法を指定する走査方法指定手段
を含むことを請求項5記載の集束イオンビーム加工装置。
【請求項7】
集束イオンビームを試料に照射して試料を加工する集束イオンビーム加工装置であって、
走査イオン顕微鏡像上で、注目部位に対応させた集束イオンビームによる加工を行わない非加工領域と集束イオンビームによる加工を行う加工領域とを重畳させて指定する指定手段と、
前記指定手段によって指定された非加工領域と加工領域とを合成し、当該合成結果に基づいて、任意形状加工領域のビーム照射位置座標に変換した加工データを作成する加工データ作成手段と
を備え、
加工試料が収容される試料室には、集束イオンビームカラムに加えて、電子ビームカラムが設けられている
ことを特徴とする集束イオンビーム加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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