説明

微量元素添加Ag合金およびその製造方法

【課題】脱酸剤を添加して溶解したAgでは、Ag中に脱酸剤が残存することになるが、その脱酸剤の残存が、微量の合金用の元素を添加したAg合金を作製するに際しては許容できない場合があり、また、Agは溶解の際に酸素を吸蔵する特性があり、合金用の元素を添加する場合は、Ag中に吸収される酸素との反応を十分に考慮しなければならない。
【解決手段】酸素含有量が10ppm未満とした純度99.99wt%以上のAgに、添加元素としてAl、Mg、Si、Zn、Bi、Ge、Pdの内の1種類以上を0.005wt%〜0.1wt%配合したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高反射率および耐熱性が要求される光記録ディスクや太陽電池のターゲット等に用いることができる微量元素添加Ag合金およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、Agターゲットは、光の反射率に優れているために、主に純Agが用いられている。
【0003】
しかし、純Agは大気中で硫化するためにその耐食性に問題がある。
【0004】
また、Agターゲットは、ガス溶解、高周波溶解等で溶解し、圧延、切削加工して指定の寸法に仕上げて用いられる。
【0005】
しかし、溶融したAgはその特性から酸素を吸蔵しやすく、凝固する際に酸素を放出するものの、鋳塊となってもなおAg組織内部に酸素が残存した状態となり易いという問題がある。
【0006】
このため、一般に酸素の吸蔵を防ぐ対策として脱酸剤を微量添加して溶解することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−258830号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明者は、高反射率および熱伝導性の特性を有し、しかも耐久性を向上させるために、極めて純Agに近い状態の微量元素添加Ag合金に着目した。
【0009】
脱酸剤を添加して溶解したAgにおいては、Ag中に脱酸剤が残存することになるが、微量の合金用の元素を添加したAg合金を作製するに際してはAg中の脱酸剤の残存が許容できない場合があることから、脱酸剤を使用しないことが望まれる。
【0010】
また、上記の如く、Agは溶解の際に酸素を吸蔵する特性があり、合金用の元素を添加する場合は、Ag中に吸蔵される酸素との反応を考慮しなければならない。特に、添加する元素が酸素と結合しやすい元素であると、溶解時に添加元素が酸化されて酸化物となってしまうためにその酸化物が溶湯から遊離して浮いてしまい、所望する配合値の組成通りにAg合金の組成を安定させることができない。
【0011】
さらに、Ag溶解時の雰囲気を、酸素が存在しない状態、つまり、ArやN2等の不活性ガスの雰囲気にして酸素を遮断しても、既に酸素が吸蔵されたAgインゴットを使用したのでは効果が少ない。雰囲気を真空状態にした場合は、Agの沸点が低くなり気化する現象が発生するため、やはり安定した組成を得ることが困難となる。
【0012】
本発明は、このような問題を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで本発明は、純度99.99wt%以上のAgをArやN2等の不活性ガス中にて400°C〜700°Cで1時間以上加熱して酸素含有量を10ppm未満にし、そのAgに対してAl、Mg、Si、Zn、Bi、Ge、Pdの内の1種類以上を、微量添加元素として0.005wt%〜0.1wt%配合して溶解することにより、所望する配合値の組成によるAg合金を得ることができるようにした。
【0014】
微量添加元素の配合に際しては、微量添加元素を、酸素含有量10ppm未満にした純度99.99wt%以上のAgを用いて作製したAgパイプに入れ、そのAgパイプ内部を真空にした後または不活性ガスを充填した後に封止し、Ag合金溶解時の雰囲気をArやN2等の不活性ガスに置換した状態で溶解して酸化を抑制する。なお、配合値調整の必要に応じて、溶解時に、Agパイプと同様のAgインゴットを秤量して溶解する。
【0015】
ここで、配合用Agの酸素含有量を10ppmとした理由は、Agの酸素含有量が10ppm以上の場合では、酸素との親和力の強い微量添加元素と含有した酸素との反応により、配合値の組成と溶解後の組成においてずれが生じるためである。
【0016】
また、添加元素の添加量を0.005wt%〜0.1wt%とした理由は、下限を0.005wt%より少なくすると耐食性の改良が得られないからであり、上限を0.1wt%より多くするとAg本来の高反射率および熱伝導性が得られなくなるからである。
【0017】
また、微量添加元素をAgパイプに入れて、パイプ内部を真空または不活性ガスを充填した状態にする理由は、溶解時に微量添加元素が空気中の酸素と反応することを抑止し、微量添加元素が酸化して溶湯から遊離してしまうことを防ぐためである。さらに、溶解時の雰囲気を不活性ガスに置換する理由も空気中の酸素との反応を抑止するためである。
【発明の効果】
【0018】
このようにした本発明によると、不活性ガス中にて400°C〜700°Cで1時間以上加熱して酸素含有量を10ppm未満にしたAgを用い、Ag合金溶解時に極力酸素との反応を抑止させることにより、所望する配合値の組成通りのAg合金を作製することが可能となる。これによって、例えば、高反射率でかつ均一な反射率が求められる光記録ディスクや太陽電池のターゲットに用いることが可能な、耐久性のあるAg合金を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1の高周波連続鋳造機を用いたAg合金の分析用サンプル採取の説明図。
【図2】実施例2の高周波連続鋳造機を用いたAg合金の分析用サンプル採取の説明図。
【図3】従来例の高周波溶解炉を用いたAg合金の分析用サンプル採取の説明図。
【図4】従来例の高周波連続鋳造機を用いたAg合金の分析用サンプル採取の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0021】
本実施例の目標組成を、Ag99.995wt%〜99.90wt%、微量添加元素0.005wt%〜0.1wt%とする。
【0022】
本実施例は、配合用Agとして酸素含有量が10ppm未満、純度99.99wt%のパイプおよびインゴットを用いる。
【0023】
まず、目標組成とするように所定量に秤量した純度99.99wt%以上のAgを不活性ガス雰囲気としてのN2雰囲気中で700°Cで1時間保持して酸素含有量を10ppm未満にする。
【0024】
この酸素含有量を10ppm未満にしたAgを使用してAgパイプおよびAgインゴットを作製する。
【0025】
つぎに、目標組成になるように所定の量に秤量した微量添加元素を上記Agパイプ内に入れ、真空引きを行い、封止して酸素との接触を抑止する。
【0026】
その後、カーボン製のるつぼに上記封止Agパイプ材料および必要に応じて配合値調整に秤量した上記Agインゴットを入れ、るつぼを高周波連続鋳造機の溶解炉内に入れる。炉蓋は閉め切りにし、炉蓋の開放は厳禁とする。
【0027】
そこで、不活性ガスとしてのN2により十分に雰囲気の置換を行い、高周波誘導加熱によってAgおよび微量添加元素を溶融させる。溶融後、N2ガスを溶湯中に入れて攪拌を行う。攪拌後、設定温度に到達した後、指定のダイスで引き出す。
【0028】
その後、図1に示す如く、1、2、3の個所でサンプリングを行い、Agと微量添加元素の定量分析を実施した。ICP分析装置にて分析した結果を表1に示す。なお、評価は、分析値が上記の目標組成値範囲内か否かの評価である。
【0029】
【表1】

【0030】
上記の工程により製造した、微量添加元素Mgを用いたAg合金の製造例について数値を用いて説明する。
【0031】
60Kgの微量添加元素Ag合金の製造例について示す。
【0032】
59,997gに秤量した純度99.99wt%以上のAgインゴットを不活性ガスとしてN2雰囲気中にて700°Cで1時間保持し、酸素含有量を10ppm未満にする。
【0033】
つぎに、0.005wt%の配合となるよう、添加元素であるMgを3.0gに秤量する。
【0034】
つぎに、酸素含有量を10ppm未満にした上記Agインゴットの内の300gを用いてパイプを作製した。具体的には、Agインゴットを圧延して板状にした後、筒状に曲げ、ドローベンチを用いて外径φ43mm、内径φ40mm、長さL150mmのパイプとした。
【0035】
パイプ作製後、そのパイプを有機溶剤のアセトンにて洗浄した。洗浄後、パイプの片側の口を常温溶接によって封止を行い、上記3.0gに秤量したMgを添加元素としてパイプ内に入れる。なお、この際、この添加元素の大きさ(粒径)には指定はなく、パイプに入る大きさであればよい。
【0036】
その後、パイプ内部の真空引きを行い、パイプ口を常温溶接によって封止を行い、酸素との接触を抑制する。
【0037】
カーボン製のるつぼに上記封止Agパイプと残りのインゴットを入れ、るつぼを高周波連続鋳造機の高周波溶解炉内に入れる。
【0038】
その後、炉蓋を閉め、不活性ガスであるN2ガスにて置換を行い、酸素との接触を抑制する。炉蓋は閉め切りとし、開放は厳禁とする。N2ガスは微量元素添加Ag合金の引き出しが終わるまで出し続ける。
【0039】
置換開始から5分後、高周波の電源を入れて設定温度1100°Cとし、溶解を行う。材料が完全に溶け、湯になった後、N2ガスの噴射口を湯中に入れ、N2ガスにて3分間攪拌を行う。
【0040】
3分後、N2ガスの噴出口を湯中から出し、湯面の沈静化を5分間行う。沈静化後、所定温度に到達させた後、ダイスで引き出しを行う。
【0041】
なお、表1に示す他の微量添加元素Ag合金についても上記と同様の方法により製造した。
【実施例2】
【0042】
本実施例の目標組成を、Ag99.999wt%〜99.91wt%、微量添加元素0.001wt%〜0.09wt%とする。
【0043】
所望する微量の元素を添加したAg合金を製造することは極めて難しい。
【0044】
本実施例は、上記実施例1によって製造したAg合金(以下、母合金という。)を用いて、さらに二次希釈した微量元素添加のAg合金を作製する製造方法である。Ag−0.005wt%Mgを例に用いて説明する。
【0045】
まず、不活性ガス雰囲気としてのN2雰囲気中で700°Cで1時間保持し、酸素含有量を10ppm未満にしたAgを、所定の量に秤量して、AgパイプおよびAgインゴットを作製する。
【0046】
つぎに、目標組成になるように所定量に秤量した母合金を上記Agパイプに入れ、真空引きを行い、封止して酸素との接触を抑止する。
【0047】
その後、カーボン製のるつぼに上記封止Agパイプ材料および必要に応じて配合値調整に秤量した上記Agインゴットを入れ、るつぼを高周波連続鋳造機による溶解炉内に入れる。炉蓋は閉め切りにし、炉蓋の開放は厳禁とする。
【0048】
そこで、不活性ガスとしてのN2ガスにて十分に雰囲気の置換を行い、高周波誘導加熱によって添加元素の二次希釈を行う。溶融後、N2ガスを溶湯中に入れて攪拌を行う。攪拌後、設定温度に到達した後、Ag合金を指定のダイスで引き出す。
【0049】
その後、図2に示す如く、4、5、6の個所でサンプリングを行い、Agと微量添加元素の定量分析を実施した。ICP分析装置にて分析した結果を表2に示す。なお、評価は、分析値が上記の目標組成値範囲内か否かの評価である。
【0050】
【表2】

【0051】
比較例
比較例として従来の脱酸剤を使用した作製方法による例を説明する。
【0052】
目標組成を、Ag99.920wt%、微量添加元素としてMg0.005wt%とする。
【0053】
使用材料は、純度99.99wt%で酸素含有量10ppm以上のAg、純度99.9wt%のMgである。
【0054】
目標組成になるように所定の量に秤量したAg、Mgを、高周波溶解炉のカーボン製るつぼに入れ、そのるつぼを溶解炉内に入れる。この時、脱酸剤としてシリコン系フラックスを入れる。
【0055】
つぎに、N2にて十分に置換を行い、高周波溶解炉にて溶融させ、炉蓋をあけてN2雰囲気を開放し、カーボン製の攪拌棒によって攪拌を行う。
【0056】
その後、雰囲気の置換を行い、融点以上の所定温度で溶融し後、指定の鋳型に鋳込んで作製した。その後、図3に示す7、8、9の個所でサンプリングを行い、AgとMgの定量分析を行った。ICP分析装置にて分析した結果を表3に示す。なお、評価は、分析値が上記の目標組成値範囲内か否かの評価である。
【0057】
【表3】

【0058】
次に、上記比較例により作製された材料により高周波連続鋳造機を使用した場合を説明する。
【0059】
目標組成を、Ag99.920wt%、微量添加元素としてMg0.005wt%とする。
【0060】
使用材料は、純度99.99wt%で酸素含有量10ppm以上のAg、純度99.9wt%のMgである。
【0061】
高周波連続鋳造機用のカーボン製るつぼに、目標組成になるように秤量した所定量のAg、Mgを入れる。
【0062】
つぎに、N2ガスにて十分に置換を行い、高周波誘導加熱によって溶融させ、炉蓋をあけてN2雰囲気を開放し、カーボン製の攪拌棒によって攪拌を行う。
【0063】
その後、雰囲気の置換を行い、所定温度になった後、指定のダイスによって引き出す。その後、図4に示す10、11、12の個所でサンプリングを行い、AgとMgの定量分析を行った。ICP分析装置にて分析した結果を表4に示す。なお、評価は、分析値が上記の目標組成値範囲内か否かの評価である。
【0064】
【表4】

【符号の説明】
【0065】
1〜6 サンプリング箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素含有量が10ppm未満とした純度99.99wt%以上のAgに、添加元素としてAl、Mg、Si、Zn、Bi、Ge、Pdの内の1種類以上を0.005wt%〜0.1wt%配合したことを特徴とする微量元素添加Ag合金。
【請求項2】
純度99.99wt%以上のAgを不活性ガス中で400°C〜700°Cで加熱して酸素含有量を10ppm未満にし、この純度99.99wt%以上のAgに、添加元素としてAl、Mg、Si、Zn、Bi、Ge、Pdの内の1種類以上を0.005wt%〜0.1wt%配合し、溶解したことを特徴とする微量元素添加Ag合金の製造方法。
【請求項3】
純度99.99wt%以上のAgを不活性ガス中で400°C〜700°Cで加熱して酸素含有量を10ppm未満にし、この純度99.99wt%以上のAgによりパイプおよびインゴットを作製し、前記Agパイプ内に、添加元素としてAl、Mg、Si、Zn、Bi、Ge、Pdの内の1種類以上を0.005wt%〜0.1wt%入れ、パイプ内部を真空または不活性ガスを充填してから前記Agパイプを封止して酸素との接触を抑止し、その後、必要に応じて配合値調整に秤量した上記Agインゴットと共にるつぼ内で溶解したことを特徴とする微量元素添加Ag合金の製造方法。
【請求項4】
請求項2もしくは請求項3で作製した微量元素添加Ag合金に、さらに酸素含有量を10ppm未満とした純度99.99wt%以上のAgを添加して添加元素が0.001wt%〜0.09wt%の組成とした微量元素添加Ag合金。
【請求項5】
純度99.99wt%以上のAgを不活性ガス中で400°C〜700°Cで加熱して酸素含有量を10ppm未満にし、この純度99.99wt%以上のAgによりパイプを作製し、このAgパイプ内に、請求項2もしくは請求項3で作製した微量元素添加Ag合金を入れ、パイプ内部を真空または不活性ガスを充填してから前記Agパイプを封止して酸素との接触を抑止し、その後、溶解したことを特徴とする微量元素添加Ag合金の製造方法。
【請求項6】
純度99.99wt%以上のAgを不活性ガス中で400°C〜700°Cで加熱して酸素含有量を10ppm未満にし、この純度99.99wt%以上のAgによりパイプおよびインゴットを作製し、このAgパイプ内に、請求項2もしくは請求項3で作製した微量元素添加Ag合金を入れ、パイプ内部を真空または不活性ガスを充填してから前記Agパイプを封止して酸素との接触を抑止し、その後、配合値調整に秤量した上記Agインゴットと共にるつぼ内で溶解したことを特徴とする微量元素添加Ag合金の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−202233(P2011−202233A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70912(P2010−70912)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000152158)株式会社徳力本店 (29)
【Fターム(参考)】