説明

微量胃癌細胞の検出法

【課題】胃癌の術後の再発の予測に利用し得る情報や情報の取得のために有用な遺伝子の組合せ、これらの遺伝子を検出するためのプローブ及びPCR用のプライマーセット、これらを用いたこれらの遺伝子の検出方法及び再発予測に利用し得る情報を得る方法などを提供すること。
【解決手段】腹腔内洗浄液などの患者から採取した試料中での術後の再発の可能性を示す胃癌細胞の有無を、胃癌細胞に特異的な特定の遺伝子またはその遺伝子産物を検出することで測定し、予後再発の可能性を判断する上で有用な情報を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検体である胃癌摘出などの処置前から処置直後の患者の腹腔内洗浄液等から採取される試料に含まれる赤血球、白血球、脱落した腹腔中皮細胞および微量の遊離胃癌細胞のうち胃癌細胞で特異的に発現する遺伝子のmRNAを分析し、測定する方法に関する。具体的には検出のためのオリゴヌクレオチドプローブ、プローブセットおよびプローブを保持した担体に関する。また、それらの遺伝子を増幅するためのプライマー及びプライマーセット、並びにそれらを用いた遺伝子検出方法に関する。さらには、癌細胞特有の遺伝子の発現レベルを測定することによって、胃癌の術後再発を高感度・高精度に予測するための情報を得るための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の治療において、原発巣の外科的、内視鏡的切除や、放射線療法、化学療法および放射線化学療法後の再発は患者の生死に関わる重要な問題である。癌を主原因とする死亡において、原発巣に起因する死亡よりも、転移・再発による死亡が圧倒的に多い。そのため、特に外科的切除により原発巣を取り除いた癌患者に対する再発の予測は、癌患者の将来設計における重要な助言となることは勿論のこと、術後の化学療法などの治療方針を決定する上で極めて重要である。
【0003】
通常、胃癌の切除後の患者に対して、術後の画像診断を中心とした定期検診により再発を長期にわたり観察することが望まれる。しかし、1年以上も経過して異常がない場合、必ずしも長期観察は達成されず、その後、突然再発する例も多い。一方、切除前の開腹時に採取できる細胞の観察を行うこと、すなわち病理医による細胞診による癌細胞の確認も行われている。これは、たとえば胃癌の手術時に行われる診断方法(術中迅速細胞診)である。生理的に存在する腹腔内遊離細胞(主に赤血球、白血球、脱落した腹腔中皮細胞)の中に、わずかでも遊離癌細胞の存在を認めた場合、一般的に癌の進行が進んでおり、高い確率で転移や再発が起こるからである。細胞診の結果は患者の予後を推測するのみならず,術中術後の補助的化学療法(抗癌剤の投与、温熱療法など)を選択するうえでもきわめて重要な検査法として位置づけられている。
【0004】
一般的な細胞診の方法としては腹腔内洗浄液からスライドグラスに塗沫した細胞をPapanicolou染色し形状を観察する方法(簡便な細胞診)や、CEA(がん胎児性抗原)等の腫瘍マーカーと呼ばれるタンパク質を免疫染色する方法(免疫細胞診)がある。後者の免疫細胞診は手間とコストがかかるため普及は遅れている。一方、前者の簡便な細胞診は、本邦での胃癌手術の際に、標準的に行われている。しかし、顕微鏡による観察で1枚のスライドグラス当り1〜5個程度のごく微量の癌細胞の同定は事実上ほぼ不可能で、また形態上の診断は病理医の主観に依存するところが大きく診断にはかなりの熟練度を必要とする。その上、診断を行う病理医は慢性的に不足しているばかりでなく、専門領域も細分化されている。したがって、大多数の病院において同じレベルの細胞診ができる病理医を配置させることは現実的には困難で、さらに客観的な評価方法が求められている。
【0005】
こうしたニーズに応えるための診断技術として、各種のがんマーカーを遺伝子の発現レベルで判定しようとする技術が提案されている。これは例えば免疫染色などでマーカーとなるCEAのmRNAをリアルタイムPCR法によって定量をするものである。しかし、単一遺伝子の発現を情報とした場合、症例ごとの発現量にばらつきがあり、バックグランドとなる癌細胞以外の細胞(赤血球、白血球、脱落した腹腔中皮細胞)でも発現されたりする場合もあり、擬陽性、擬陰性を伴うことが指摘されている。(非特許文献1:Nagao K, Hisatomi H, Hirata H, et al. “Expression of molecular marker genes in various types of normal tissue: Implication for detection of micrometastases.” Int. J. Mol. Med. 2002; 10: 307−310参照)。この方法は胃がんの予後判定において前述の細胞診と比較して良好な結果が可能となっているものの、CEA単独での診断は未だに普及していない。
【0006】
K. Mori et al. / Biochemical and Biophysical Research Communications 313(2004) 931-937(非特許文献2)には、CEA以外の複数遺伝子の胃癌再発予測での有用性が示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nagao K, Hisatomi H, Hirata H, et al. “Expression of molecular marker genes in various types of normal tissue: Implication for detection of micrometastases.” Int. J. Mol. Med. 2002; 10: 307-10
【非特許文献2】K. Mori et al. / Biochemical and Biophysical Research Communications 313 (2004) 931-937
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
最近、本発明者らの論文(非特許文献2)によって、CEA以外の複数の遺伝子が胃癌の再発予測に有用であると報告された。マイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現プロファイルの比較から胃癌細胞で強く発現が認められる遺伝子10を絞り込んだ。このうち6遺伝子は、癌細胞で特異的に発現を認め、残る4遺伝子は癌細胞以外の細胞(赤血球、白血球、脱落した腹腔中皮細胞)でも僅かに発現されているものの、胃癌細胞では強い発現を認める事が通常のRT-PCRによって定性的に確認されている。もしも、βアクチンを加えたこれらの11種のマーカー遺伝子のmRNAをRT-PCRによる定性的判定ではなく、高感度な定量的判定法を開発できれば、各種の診断法の精度を更に向上させることができる。本発明が解決しようとする課題を以下にまとめた。
【0009】
(課題1)非特許文献1としての論文では、上記5種の遺伝子を個別にRT-PCRを行い、それぞれ電気泳動後、エチジウムブロマイド染色によってPCR産物の有無を定性的に判定している。このような遺伝子ごとに個別の定性的PCRではデータがばらつき易く、一定の感度を得ることは現実的に困難である。
【0010】
(課題2)微量の癌細胞で発現するmRNAを検出するには、通常のRT-PCRでは、感度が不足している。もしも、40〜50サイクルといった高サイクルのPCRで、感度を補おうとすると、不適当なPCR産物の生成によるノイズが増大し、判定不能となる。本来、PCRは直線的に増幅するサイクルでのみ正しい情報を与える。
【0011】
(課題3)非特許文献2としての論文では、定性的なRT-PCRで陽性であった患者の腹腔内洗浄液中での胃癌細胞の確認は行われていないため、PCRの結果が本当に遊離胃癌細胞の存在を反映しているか不明であった。すなわちRT-PCRによる再発予測の裏付けとなるデータが欠けている。
【0012】
本発明の目的は胃癌の術後の再発の予測に利用し得る情報や情報の取得に有用な遺伝子の組合せ、これらの遺伝子を検出するプローブ及びPCR用のプライマーセット、これらの遺伝子の検出方法及び再発予測に利用し得る情報を得る方法を提供する事にある。
【0013】
また本発明の他の目的は、胃癌を簡便に、精度よく検出、診断するためのキットを提供することにある。また本発明の他の目的は、検体中の特定の遺伝子の存在を高精度に検出することのできる遺伝子検出キットを提供することにある。また本発明の他の目的は、胃癌の再発リスクをより精度よく予測する方法を提供することにある。本発明の更に他の目的は、特定の遺伝子を特異的に検出するのに用いることのできる遺伝子検出プローブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の胃癌細胞に特異的な遺伝子 TFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA、TACSTD1、MASPIN、PRSS4、GW112またはACTBの検出用のプローブは、下記配列番号No.1〜No.11、No.34〜No.43(各番号は配列表の配列番号と同じである):
No.1:
TTCGACGACACCGTTCGTGGGGTCCCCTGGTGCTTCTATCCTAATACCATCGAC(TFF1用)
No.2:
TTGAAGTGCCCTGGTGCTTCTTCCCGAACTCTGTGGAAGACTGCCATTACTAAGAGAGGC(TFF2用)
No.3:
CATTCTGCACGATTTCCGACACCCCCTTGATATCCTTCCCCTTCTGGATGAGCTCTTCCG(FABP1用)
No.4:
GTACGAAACCAACGCCCCGAGGGCTGGTCGCGACTACAGTGCATATTACAGAC(CK20用)
No.5:
CTTGAAGTCCCCGGGCTTCAGGATGACGTGCTGGTTGTCGGGCCGTTTGATGATA(MUC2用)
No.6:
GGTTGGGGTTGCTCTGATATAGCAGCCCTGGTGTAGTTTCTTCATTTCAGGAAGACTGAC(CEA用)
No.7:
GCAGGGTCTAAAAGCTGGTGTTATTGCTGTTATTGTGGTTGTGGTGATAGCAGTTGTTGC(TACSTD1用)
No.8:
GTAATTTGTAAAGTTGGGTGGATAAGCTATCCCTGTTGCCGGTTCATGGATTACTTCTCT(MASPIN用)
No.9:
GATGCTCCGGTGCTGACCCAGGCTGAGTGTAAAGCCTCCTACCCTGGAAAGATTACCAAC(PRSS4用)
No.10:
AACCAGACTTACTAACCAATTCCACCCCCCACCAACCCCCTTCTACTGCCTACTTTAAAA(GW112用)
No.11:
CCTGTGGCATCCACGAAACTACCTTCAACTCCATCATGAAGTGTGACGTGGACATCCGCA(ACTB用)
No.34:
ACTGTCGGCATCATGATTGGAGTGCTGGTTGGGGTTGCTCTGATATAGCAGCCC(CEA用)
No.35:
CATCATGATTGGAGTGCTGGTTGGGGTTGCTCTGATATAGCAGCCCTGGTGTAGTTTCTT(CEA用)
No.36:
GATATAGCAGCCCTGGTGTAGTTTCTTCATTTCAGGAAGACTGACAGTTGTTTTGCTTCT (CEA用)
No.37:
TGCTATATCAGAGCAACCCCAACCAGCACTCCAATCATGATGCCGACAGTGGCC (CEA用)
No.38:
GAACTGAGGTTCAACTAACGGAGCTGAGACGCACCTCCCAGAGCCTTGAGATAGAACTCC(CK20用)
No.39:
TCTGGAGGCCCAACTGATGCAGATTCGGAGTAACATGGAACGCCAGAACAACGAATACCA (CK20用)
No.40:
CGGAGGTTTCGTACGCCGGCTGCACCAAGACCGTCCTCATGAATCATTGCTC (MUC2用)
No.41:
TCACGTTACCTTGACACATAGTTTTTCAGTCTATGGGTTTAGTTACTTTAGATGGCAAGC(MASPIN用)
No.42:
TCTAGCTGACTCGCACAGGGATTCTCACAATAGCCGATATCAGAATTTGTGTTGAAGGAA(MASPIN用)
No.43:
AACACTTCGTTCGCAGAGCTTTTCAGATTGTGGAATGTTGGATAAGGAATTATAGACCTC(MASPIN用);
これらの相補配列;及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、または付加した塩基配列;からなる群から選択された1つの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであることを特徴とするプローブである。
【0015】
本発明のプローブセットは胃癌細胞に特異的な遺伝子TFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA、TACSTD1、MASPIN、PRSS4、GW112及びACTBのうち2遺伝子以上の検出用の2以上のプローブからなるプローブセットで、
各プローブが、上記のNo.1〜11及びNo.34〜43の塩基配列;これらの相補配列;及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基がプローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、または付加した塩基配列;からなる群から選択された1つの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、
かつ前記2以上のプローブが異なる塩基配列を有することを特徴とするプローブセットである。
【0016】
本発明のプローブ担体は、胃癌細胞に特異的な遺伝子の検出用のプローブを担体に固定したプローブ担体であって、前記プローブが、上記のNo.1〜11及びNo.34〜43の塩基配列;これらの相補配列;及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基がプローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、または付加した塩基配列;からなる群から選択された1つの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであることを特徴とするプローブ担体である。
【0017】
本発明のプライマーセットは、胃癌細胞に特異的な遺伝子であるTFF1、TFF2、FABP1、CK20、CEA、TACSTD1、MASPIN、MUC2及びGW112のなかから選択された遺伝子の一部の領域をPCRにより増幅するためのプライマーセットであって、
下記の各組み合わせ:
TFF1の部分配列増幅用
No.12:CCTTTGGAGCAGAGAGGAGGCAAT及び
No.13:TCAGAGCAGTCAATCTGTGTTGTGAGC
TFF2の部分配列増幅用
No.14:ATAACAGGACGAACTGCGGCTTCC及び
No.15:AGCTGATAAGGCGAAGTTTCTTTCTTGG
FABP1の部分配列増幅用
No.16:TCATGAAGGCAATCGGTCTG及び
No.17:CAATGTCACCCAATGTCATGG
CK20の部分配列増幅用
No.18:ACACGGTGAACTATGGGAGCGATCT及び
No.19:CTTCCAGAAGGCGGCGGTAAGTAG
CEAの部分配列増幅用
No.20:AACTTCTCCTGGTCTCTCAGCT及び
No.21:GCAAATGCTTTAAGGAAGAAG
CEAの部分配列増幅用
No.44:TGCATCTGGAACTTCTCCTGGTCTC及び
No.45:TCACGATGTTGGCTAGGATGGTCT
TACSTD1の部分配列増幅用
No.22:TGCTGGGGTCAGAAGAACAG及び
No.23:TTGAGTTCCCTATGCATCTCA
MASPINの部分配列増幅用
No.32:TCCGGGGTAGTTGGCAGAAATACAG及び
No.33:TGCATGTCAAGGAAGAGATGGGAGA
MUC2の部分配列増幅用
No.26:CCGGGGAGTGCTGTAAGAAG及び
No.46:CTCCTCTTTGCAGCAGGAGC
GW112の部分配列増幅用
No.24:CAGAAGCCCCAGTAAGCTGTTTAGGA及び
No.25:GCACTTTGTCACTGCCATCAGATTTT
から選択された1種からなるものであることを特徴とするプライマーセットである。
【0018】
本発明のプライマーセットの他の態様は、胃癌細胞に特異的な遺伝子TFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA、TACSTD1、MASPIN、PRSS4、GW112及びACTBから選択された少なくとも2遺伝子の一部の領域をPCRにより増幅するためのプライマーのセットであって、
下記の各組み合わせ:
TFF1の部分配列増幅用
No.12:CCTTTGGAGCAGAGAGGAGGCAAT及び
No.13:TCAGAGCAGTCAATCTGTGTTGTGAGC
TFF2の部分配列増幅用
No.14:ATAACAGGACGAACTGCGGCTTCC及び
No.15:AGCTGATAAGGCGAAGTTTCTTTCTTGG
FABP1の部分配列増幅用
No.16:TCATGAAGGCAATCGGTCTG及び
No.17:CAATGTCACCCAATGTCATGG
CK20の部分配列増幅用
No.18:ACACGGTGAACTATGGGAGCGATCT及び
No.19:CTTCCAGAAGGCGGCGGTAAGTAG
MUC2の部分配列増幅用
No.26:CCGGGGAGTGCTGTAAGAAG及び
No.27:GCTCTCGATGTGGGTGTAGG
MUC2の部分配列増幅用
No.26:CCGGGGAGTGCTGTAAGAAG及び
No.46:CTCCTCTTTGCAGCAGGAGC
CEAの部分配列増幅用
No.20:AACTTCTCCTGGTCTCTCAGCT及び
No.21:GCAAATGCTTTAAGGAAGAAG
CEAの部分配列増幅用
No.44:TGCATCTGGAACTTCTCCTGGTCTC及び
No.45:TCACGATGTTGGCTAGGATGGTCT
TACSTD1の部分配列増幅用
No.22:TGCTGGGGTCAGAAGAACAG及び
No.23:TTGAGTTCCCTATGCATCTCA
MASPINの部分配列増幅用
No.32:TCCGGGGTAGTTGGCAGAAATACAG及び
No.33:TGCATGTCAAGGAAGAGATGGGAGA
PRSS4の部分配列増幅用
No.28:CTGGGCACAGTTGCTGTCCC及び
No.29:GGCCACCAGAGTCACGCTGG
GW112の部分配列増幅用
No.24:CAGAAGCCCCAGTAAGCTGTTTAGGA及び
No.25:GCACTTTGTCACTGCCATCAGATTTT
ACTBの部分配列増幅用
No.30:TCATCACCATTGGCAATGAG及び
No.31:CACTGTGTTGGCGTACAGGT
から選択された2種以上からなるものであることを特徴とするプライマーセットである。
【0019】
上記の各プライマーの塩基配列の有する番号は配列表の配列番号と同じである。
【0020】
本発明の遺伝子検査用キットは、上記のプローブ担体と、上記のプライマーセットと、を有する遺伝子検査用キットであって、
胃癌細胞に特異的な遺伝子であるTFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA、TACSTD1、MASPIN、PRSS4、GW112及びACTBのから選択された少なくとも1種に特異的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを増幅して検出するためのものであることを特徴とする遺伝子検査用キットである。
【0021】
本発明の遺伝子検出方法は胃癌細胞に特異的な遺伝子の検出方法であって、核酸含有試料と上記のプローブ担体とを接触させて該試料中における該プローブ担体に固定された各プローブとハイブリダイズする遺伝子の存在を検出する遺伝子検出方法である。
【0022】
本発明にかかる胃癌細胞の検出方法は、検査対象としての患者から採取した試料中での胃癌細胞の存在の有無を検出するための方法であって、胃癌細胞に特異的な遺伝子であるTFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA、TACSTD1、MASPIN、PRSS4、GW112及びACTBから選択された1以上の発現を示す遺伝子産物の試料中での有無を免疫染色法により測定することを特徴とする胃癌細胞の検出方法である。
【0023】
本発明にかかる胃癌の再発予測のための情報取得方法は、
(i)胃癌細胞に特異的な遺伝子であるTFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA、TACSTD1、MASPIN、PRSS4、GW112及びACTBから選択された1以上の遺伝子の、胃癌患者から採取した試料中における発現レベルを測定する工程と、
(ii)測定された発現レベルと、胃癌の再発の可能性を示す前記遺伝子の予め設定された基準の発現レベルと、を対比して、測定された発現レベルが基準の発現レベル以上である場合を胃癌の再発の可能性を示す情報として取り込む工程と、を含む術後の胃癌の再発予測のための情報を得るための方法であって、
前記工程(i)は、上記のNo.1〜11及びNo.34〜43からなる群から発現レベルの測定対象としての遺伝子に応じて選択した塩基配列を選択する工程を含み、
前記工程(ii)は、前記選択した塩基配列を用いて測定した、測定対象としての遺伝子の発現レベルを、その基準発現レベルと比較して、胃癌の再発の可能性を示す情報を得る工程を含む、
ことを特徴とする特徴とする胃癌の再発予測のための情報取得方法である。
【0024】
本発明の術後の胃癌の再発予測のための情報を得るための方法は、
(i)胃癌患者から採取した試料中に存在する胃癌細胞に特異的な遺伝子であるTFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA、TACSTD1、MASPIN、PRSS4、GW112及びACTBから選択された1以上の遺伝子の発現の有無を免疫染色法で測定する工程と、
(ii)発現が検出された場合を胃癌の再発の可能性を示す情報として取り込む工程と、
を有することを特徴とする胃癌の再発予測のための情報取得方法である。
【0025】
本発明の診断キットは、胃癌細胞に特異的な遺伝子であるTFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA、TACATD1、MASPIN、PRSS4、GW112及びACTBの検出用のプローブから選ばれる少なくとも1つと、該プローブの検出対象である前記遺伝子の一部の領域をPCRにより増幅するためのプライマーセットとの組合せを含む胃癌の検出及び診断の少なくとも一方に用いられるキットにおいて、前記組合せが下記の組合せであることを特徴とする診断キットである。
(TFF1検出用の組合せ)
配列表の配列番号1で表わされる塩基配列からなるTFF1検出用プローブと、配列表の配列番号12及び13で表わされる塩基配列からなるTFF1増幅用プライマーセットとの組合せ、
(TFF2検出用の組合せ)
配列表の配列番号2で表わされる塩基配列からなるTFF2検出用プローブと、配列表の配列番号14及び15で表わされる塩基配列からなるTFF2増幅用プライマーセットとの組合せ、
(FABP1検出用の組合せ)
配列表の配列番号3で表わされる塩基配列からなるFABP1検出用プローブと、配列表の配列番号16及び17からなる塩基配列を有するFABP1増幅用プライマーセットとの組合せ、
(CK20検出用の組合せ)
配列表の配列番号4、38又は39で表わされる塩基配列からなるCK20検出用プローブと、配列表の配列番号18及び19で表わされる塩基配列からなるCK20増幅用プライマーセットとの組合せ、
(MUC2検出用の組合せ)
配列表の配列番号5で表わされる塩基配列からなるMUC2検出用プローブと、配列表の配列番号26及び27で表わされる塩基配列からなるMUC2増幅用プライマーセットとの組合せ、
(MUC2検出用の組合せ)
配列表の配列番号5又は40で表わされる塩基配列からなるMUC2検出用プローブと、配列表の配列番号26及び46で表わされる塩基配列からなるMUC2増幅用プライマーセットとの組合せ、
(CEA検出用の組合せ)
配列表の配列番号6で表わされる塩基配列からなるCEA検出用プローブと、配列表の配列番号20及び21で表わされる塩基配列からなるCEA増幅用プライマーセットとの組合せ、
(CEA検出用の組合せ)
配列表の配列番号6、34、35、36又は37で表わされる塩基配列からなるCEA検出用プローブと、配列表の配列番号44及び45で表わされる塩基配列からなるCEA増幅用プライマーセットとの組合せ、
(TACSTD1検出用の組合せ)
配列表の配列番号7で表わされる塩基配列からなるTACSTD1検出用プローブと、配列表の配列番号22及び23で示される塩基配列からなるTACSTD1増幅用プライマーセットとの組合せ、
(MASPIN検出用の組合せ)
配列表の配列番号8、41、42又は43で表わされる塩基配列からなるMASPIN検出用プローブと、配列表の配列番号32及び33で示される塩基配列からなるMASPIN増幅用プライマーセットとの組合せ、
(PRSS4検出用の組合せ)
配列表の配列番号9で表わされる塩基配列からなるPRSS4検出用プローブと、配列表の配列番号28及び29で示される塩基配列からなるPRSS4増幅用プライマーセットとの組合せ、
(GW112検出用の組合せ)
配列表の配列番号10で表わされる塩基配列からなるGW112検出用プローブと、配列表の配列番号24及び25で示される塩基配列からなるGW112増幅用プライマーセットとの組合せ、
(ACTB検出用の組合せ)
配列表の配列番号11で表わされる塩基配列からなるACTB検出用プローブと、配列表の配列番号30及び31で示される塩基配列からなるACTB増幅用プライマーセットとの組合せ。
【0026】
本発明の胃癌の検出及び診断の少なくとも一方を行う為のキットは、1種または2種以上のプローブが固相上に配置されているアレイと、該プローブの検出対象たる遺伝子の一部の領域をPCRにより増幅するためのプライマーセットとを含む胃癌の検出及び診断の少なくとも一方を行う為のキットであって、
前記1種のプローブが、あるいは前記2種以上のプローブのそれぞれが、配列番号1から11及び34から43で表わされる塩基配列からなる群から選択された1つの塩基配列からなり、
該プローブと該プライマーセットとの組合せが、上記の組合せであることを特徴とするキットである。
【0027】
本発明の遺伝子検出キットは、1種または2種以上のプローブと、該プローブの検出対象たる遺伝子の一部の領域をPCRにより増幅するためのプライマーセットとの組合せを含む遺伝子検出キットにおいて、
前記1種のプローブが、あるいは前記2種以上のプローブのそれぞれが、配列番号1から11及び34から43で表わされる塩基配列からなる群から選択された1つの塩基配列からなり、
該プローブと該プライマーセットとの組合せが上記の組合せであることを特徴とする遺伝子検出キットである。
【0028】
本発明の遺伝子検出キットは、1種または2種以上のプローブが固相上に配置されているアレイと、該プローブの検出対象たる遺伝子の一部の領域をPCRにより増幅するためのプライマーセットとを含む遺伝子検出キットにおいて、
前記1種のプローブが、あるいは前記2種以上のプローブのそれぞれが、配列番号1から11及び34から43で表わされる塩基配列からなる群から選択された1つの塩基配列からなり、
該プローブと該プライマーセットとの組合せが上記の組合せであることを特徴とする遺伝子検出キットである。
【0029】
本発明の胃癌の再発リスクの予測方法は、
(i)胃癌患者の腹腔内洗浄液中の遺伝子をPCRにより増幅するステップと、
(ii)前記ステップ(i)で得られた増幅物を、1種または2種以上のプローブが固相上に配置されているアレイとハイブリダイゼーション反応させるステップと、
(iii)前記ステップ(ii)の結果得られたアレイから、前記腹腔洗浄液中の、該プローブの検出対象たる遺伝子の有無を検出するステップと、
を含む胃癌の再発リスクの予測方法において、
前記1種のプローブが、あるいは前記2種以上のプローブのそれぞれが、配列番号1から11及び34から43で表わされる塩基配列からなる群から選択された1つの塩基配列からなり、
前記ステップ(i)が、該アレイが有しているプローブの検出対象たる遺伝子の一部の領域をPCRで増幅するためのプライマーセットを用いてPCRを行うステップを含み、且つ該プローブと該プライマーセットとの組合せが上記の組合せであることを特徴とする胃癌の再発リスクの予測方法である。
【0030】
また本発明で提供されるプローブは下記(i)〜(xi)から選ばれる少なくとも1つ
のプローブを含む、遺伝子検査用プローブである。
(i)配列番号1で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号1で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのTFF1遺伝子検出用プローブ、
(ii)配列番号2で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号2で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのTFF2遺伝子検出用プローブ、
(iii)配列番号3で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号3で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのFABP1遺伝子検出用プローブ、
(iv)配列番号4、38又は39で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号4、38又は39で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのCK20遺伝子検出用プローブ、
(v)配列番号5又は40で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号5又は40で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのMUC2遺伝子検出用プローブ、
(vi)配列番号6、34、35、36又は37で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号6、34、35、36又は37で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのCEA遺伝子検出用プローブ、
(vii)配列番号7で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号7で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのTACSTD1遺伝子検出用プローブ、
(viii)配列番号8、41、42又は43で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号8、41、42又は43で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのMASPIN遺伝子検出用プローブ、
(ix)配列番号9で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号9で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのPRSS4遺伝子検出用プローブ、
(x)配列番号10で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号10で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのGW112遺伝子検出用プローブ、
(xi)配列番号11で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号11で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのACTB遺伝子検出用プローブ、
である。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、ハウスキーピング遺伝子を含めた癌細胞の検出に有用な11遺伝子を検出するためのプローブ、プローブ担体(オリゴヌクレオチドマイクロアレイ)を提供できた。また、それらプローブを利用するために必要な検体処理方法、具体的にはマルチプレックスPCRに対応したプライマー、好適なプライマーセット、PCR条件、該担体を用いた好適なハイブリダイゼーション条件を提供できた。また、本発明により提供されたプローブ担体、プライマーセットを用いることによる遺伝子検出法も提供できた。この遺伝子検出法により、胃癌患者の腹腔内洗浄液、血液、リンパ液、リンパ節における微量な胃癌細胞の有無の判定と再発予測が可能となった。また本発明において検査対象とした遺伝子産物に対する抗体を使った免疫染色法もまた癌細胞の有無を精度よく検出できることが示された。
【0032】
本発明による微量胃癌細胞の検出法は、癌専門病院の熟練された病理医による細胞診の成績と同等以上の精度をもつばかりでなく、細胞診陰性症例で再発する患者の30%以上をも的確に予測するパワーを持つことが証明された。細胞診では見落とされるこれらの再発症例は、手術時には腹膜内にごく微量の胃癌細胞が認められるのみの転移症例の中においては比較的担癌量の少ない微小転移症例ということができる。
【0033】
胃癌における術後補助療法の有用性は厳密には証明されていないが、このような微小転移群においては術後化療による再発予防がより大きく期待できるという考え方は微量腫瘍細胞検出系が可能となれば将来的に証明できる可能性がある。
【0034】
以上のように、本発明によって、胃癌を専門とする病理医を配置することのできない多くの病院でも、均一で正確な胃癌の再発予測のためのデータ取得が可能となり、さらに本邦において最も多い癌の1つである胃癌の治療成績の向上に結び付く可能性は高い。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】マルチプレックスPCRしたPCR産物の電気泳動結果を示す図である。
【図2】18症例の電気泳動結果を示す図である。
【図3】マルチプレックスPCR産物の電気泳動の結果を示す図である。
【図4】マルチプレックスPCR産物の電気泳動の結果を示す図である。
【図5】マルチプレックスPCR産物の電気泳動の結果を示す図である。
【図6】マルチプレックスPCR産物の電気泳動の結果を示す図である。
【図7】マルチプレックスPCR産物の電気泳動の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
先に記載した課題1および2を解決するため、マルチプレックスRT-PCR法による複数の遺伝子から転写されるmRNAの同時増幅とPCR産物の標識を行った。さらに標識したPCR産物を定量用オリゴヌクレオチドマイクロアレイにハイブリダイゼーションし、複数の遺伝子の発現を高感度に定量するシステムの構築を行った。マルチプレックスPCR法は、複数の遺伝子領域を同時に増幅する際によく用いられる手法で、多検体SNP解析に有効であることが知られている。しかしその反面、個別に設定したプライマーが相互に干渉するなどの問題が生ずることがある。従って、マルチプレックスPCRを行う本発明のプライマーセットにおいても、同時増幅しても相互干渉などの不具合の生じないようなプライマーセット(組合せ)、配列の設計、PCR条件等が必要である。また非特許文献2としての論文のリストにある遺伝子は、上述にように5遺伝子に関しては、胃癌細胞で特異的に発現を認めるものの、残る6遺伝子に関しては癌細胞以外の細胞(赤血球、白血球、脱落した腹腔中皮細胞)でも僅かに発現されているものも存在する。したがって、マルチプレックスPCRを行う際のプライマーは、これら2つのグループの遺伝子ごとに別々のチューブで行い、増幅サイクルも至適化することが望ましい。しかしその一方で、簡便性などを重視し、検体を同一のチューブで増幅することも可能であり、その場合には、増幅する遺伝子の選択に応じて、プライマーを適切に設定することにより増幅可能である。
【0037】
さらにマルチプレックスPCRが最適に行われ、発現量に対応した増幅が行われたとしても、それぞれ増幅した遺伝子を特異的かつ高感度に検出する手段が必要である。蛍光標識したRT-PCR産物を検出用マイクロアレイにハイブリダイゼーションし、蛍光強度を測定することによって、RT-PCR産物の電気泳動・エチジウムブロマイド染色による方法に比べ、感度が著しく高まり、定量性を発揮できることが期待される。胃癌患者腹腔内洗浄液から遊離胃癌細胞の存在を予測し、術後の再発危険群を正確に把握するため、上記11種のマーカー遺伝子を特異的に検出するためのプローブ担体(オリゴヌクレオチドマイクロアレイ)を作製した。上記マルチプレックスPCR用の各遺伝子プライマーの設計とオリゴヌクレオチドマイクロアレイのプローブの設計は、プライマーの設計と平行して行い、ハイブリダイゼーションの結果を考慮し、最も至適なPCRプライマーとプローブの決定を行う必要がある。また、マルチプレックスRT-PCRで標識したPCR産物とオリゴヌクレオチドマイクロアレイのハイブリダイゼーションにおける至適化も重要である。
【0038】
検体中の癌細胞での各々の遺伝子発現は、症例ごとに異なる。したがって精度の高い予測判定を行うためには、胃癌患者を多く受け入れかつ病理診断が充実している施設から得られる多くの検体の測定結果をもとに判定基準をつくることが不可欠である。すなわち、増幅した遺伝子の蛍光強度から遊離胃癌細胞の有無を判定するための、アルゴリズムの構築が必要である。
【0039】
先に挙げた課題3を解決するため上記のようなマイクロアレイによる分子生物学的核酸検出だけでなく、腹腔内洗浄液における遊離胃癌細胞の存在の有無を確認するため、該当遺伝子産物に対する抗体を使った免疫染色を平行して行う必要がある。
【0040】
具体的には、非特許文献2としての論文のリストにある遺伝子11種のうち2種は本発明の予備的実験段階で除外され、また新たに後の解析からTACSTD1をマーカーとして付加したため、対象とした遺伝子は10種とした。さらにハウスキーピング遺伝子であるベータアクチン(ACTB)を加えた計11種の遺伝子に対し、特異的な配列を有する部分配列を選び出し、発現レベルを検出できるプローブを設計した。設計したプローブ配列は表1に記載のプローブである。また、これらプローブを用いた高感度な検出を行うため、プローブを担体表面に固定したプローブ担体も作製した。プローブを微少領域に固定化することにより、検体が集積し感度の高い検出が可能となるだけでなく、B/F分離が容易であるため精度の高い検出が可能となった。
【0041】
【表1】

【0042】
測定対象となるサンプル検体核酸は極めて少量であり、また場合によっては蛍光標識などによる標識化を必要とするため、サンプル検体核酸をテンプレートとしたPCR増幅が必要となるが、そのためのプライマーも本発明で新たに設計した。非特許文献2にあるプライマーは遺伝子を個別に増やす場合には特異的に作用し十分な増幅がなされるが、本発明のマルチプレックスPCR増幅法においては不十分であるため一部の遺伝子に対してはマルチプレックスPCRで機能するプライマーを新たに設計した。本発明において新たに設計したプライマーの塩基配列を表2に記載した。また、非特許文献2に記載されたプライマーと合わせた、全11遺伝子に対するプライマーの塩基配列を表3に記載した。表2、3においては、設計したプライマーにより増幅されるPCR産物の塩基長も合わせて記載した。
【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
上記表3に記載したプライマーセットは、表1に記載した各遺伝子検出用のプローブとの組合せにおいて、各遺伝子を確実に検出できるような設計がなされている。すなわち、表3に記載した各プライマーセットにより増幅されるDNA断片(PCR産物)は、各々対応する遺伝子のプローブ配列に相補的な配列を有しており、表1に記載のプローブとのハイブリダイゼーションにより特異的に各遺伝子を検出できる。以下に本発明に係るプライマーセットとプローブとの具体的な組合せを挙げる。
(i)TFF1検出用の組合せ
配列表の配列番号1で表わされる塩基配列からなるTFF1検出用プローブと、配列表の配列番号12及び13で表わされる塩基配列からなるTFF1増幅用プライマーセットとの組合せ。
(ii)TFF2検出用の組合せ
配列表の配列番号2で表わされる塩基配列からなるTFF2検出用プローブと、配列表の配列番号14及び15で表わされる塩基配列からなるTFF2増幅用プライマーセットとの組合せ。
(iii)FABP1検出用の組合せ
配列表の配列番号3で表わされる塩基配列からなるFABP1検出用プローブと、配列表の配列番号16及び17で表わされる塩基配列からなるFABP1増幅用プライマーセットとの組合せ。
(iv)CK20検出用の組合せ
配列表の配列番号4、38又は39で表わされる塩基配列からなるCK20検出用プローブと、配列表の配列番号18及び19で表わされる塩基配列からなるCK20増幅用プライマーセットとの組合せ。
(v)MUC2検出用の組合せ
配列表の配列番号5で表わされる塩基配列からなるMUC2検出用プローブと、配列表の配列番号26及び27で表わされる塩基配列からなるMUC2増幅用プライマーセットとの組合せ。
(vi)MUC2検出用の組合せ
配列表の配列番号5又は40で表わされる塩基配列からなるMUC2検出用プローブと、配列表の配列番号26及び46で表わされる塩基配列からなるMUC2増幅用プライマーセットとの組合せ。
(vii)CEA検出用の組合せ
配列表の配列番号6で表わされる塩基配列からなるCEA検出用プローブと、配列表の配列番号20及び21で表わされる塩基配列からなるCEA増幅用プライマーセットとの組合せ。
(viii)CEA検出用の組合せ
配列表の配列番号6、34、35、36又は37で表わされる塩基配列からなるCEA検出用プローブと、配列表の配列番号44及び45で表わされる塩基配列からなるCEA増幅用プライマーセットとの組合せ。
(ix)TACSTD1検出用の組合せ
配列表の配列番号7で表わされる塩基配列からなるTACSTD1検出用プローブと、配列表の配列番号22及び23で示される塩基配列からなるTACSTD1増幅用プライマーセットとの組合せ。
(x)MASPIN検出用の組合せ
配列表の配列番号8、41、42又は43で表わされる塩基配列からなるMASPIN検出用プローブと、配列表の配列番号32及び33で示される塩基配列からなるMASPIN増幅用プライマーセットとの組合せ。
(xi)PRSS4検出用の組合せ
配列表の配列番号9で表わされる塩基配列からなるPRSS4検出用プローブと、配列表の配列番号28及び29で示される塩基配列からなるPRSS4増幅用プライマーセットとの組合せ。
(xii)GW112検出用の組合せ
配列表の配列番号10で表わされる塩基配列からなるGW112検出用プローブと、配列表の配列番号24及び25で示される塩基配列からなるGW112増幅用プライマーセットとの組合せ。
(xiii)ACTB検出用の組合せ
配列表の配列番号11で表わされる塩基配列からなるACTB検出用プローブと、配列表の配列番号30及び31で示される塩基配列からなるACTB増幅用プライマーセットとの組合せ。
【0046】
そして、上記(i)〜(xiii)からなる群から選ばれる少なくとも1つの組合せにより、胃癌の検出及び診断の少なくとも一方を行うキットとすることができる。また、上記(i)〜(xiii)からなる群から選ばれる少なくとも1つの組合せにより、対応する遺伝子の検出を行うことの出来るキットとすることができる。尚、これらのキットにおいて、プローブを、固相表面に配置されたアレイとして提供することもできる。
【0047】
更に、胃癌患者の腹腔洗浄液中に表1の11種の遺伝子の何れかの存在が認められる場合、当該胃癌患者の再発リスクが高いとの本発明者らの知見に基づき上記(i)〜(xiii)からの少なくとも1つの組合せを胃癌の再発リスク予測用として用いる事ができる。具体的には、例えば、
(i)胃癌患者の腹腔内洗浄液中の遺伝子をPCRにより増幅するステップと、
(ii)上記ステップ(i)で得られた増幅物を配列表の配列番号1〜11及び34〜43で表わされる塩基配列からなるプローブとハイブリダイゼーション反応させるステップと、
(iii)上記ステップ(ii)の結果物から、該プローブとのハイブリッドを検出することで該腹腔洗浄液中の対象遺伝子の有無を検出するステップを含み、且つ
上記ステップ(i)が、上記ステップ(ii)に係るプローブの検出対象たる遺伝子の一部の領域をPCRで増幅するためのプライマーセットを用いてPCRを行うステップを有する胃癌の再発リスクの予測方法において、
該プローブと該プライマーセットの組合せを上記(i)〜(xiii)からなる群から選ばれる少なくとも1つの組合せとすることによって、胃癌再発リスクの予測精度をより高めることができる。
【0048】
また本発明者らは上記プライマーセットを全て用いて検体中の上記11種の遺伝子のPCR増幅を行う場合、同一条件で増幅可能なプライマーセットを組み合わせ、各プライマーセットでマルチプレックスPCRを行え、各遺伝子を効率的に増幅できる事を見出した。本発明にかかるプライマーセットの一例を下記に示す。
A群:TFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2及びCEA
B群:TACSTD1、MASPIN、PRSS4、GW112及びACTB
また、TFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA、TACSTD1、MASPIN及びACTBのプライマーセットも良いプライマーセットの一例である。
【0049】
これらの各プライマーセットによりPCRで増幅し、蛍光標識したDNAを、本発明で開発したプローブ担体とハイブリダイゼーションさせることにより、各遺伝子の発現レベルを特異的に測定することが可能となった。
【0050】
例えば胃癌の再発リスクの予測において、ステップ(ii)で用いるプローブが、前記表1に記載の11種の遺伝子検出用プローブの全てでありそれらが固相上に固定されているとする。その場合において、ステップ(i)で、仮に腹腔内洗浄液中に上記11種の遺伝子が存在していたとすれば、それらの遺伝子が全て正常に増幅されることが好ましい。この時増幅対象遺伝子と対応するプライマーセットとの関連において、同一条件で増幅可能なプライマーセットの群に分けて対象遺伝子を増幅する事で、それに引き続くプローブとのハイブリダイゼーション反応の結果の信頼性をより高いものとする事ができる。具体的には、例えば、上記ステップ(i)において、腹腔内洗浄液を2つの群に分ける(第1の腹腔内洗浄液、第2の腹腔内洗浄液)。第1の腹腔内洗浄液については、上記組合せ(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)及び(vii)の各々を構成するプライマーセットを用いて第1の腹腔内洗浄液中の遺伝子を増幅する。第2の腹腔内洗浄液については、上記組合せ(ix)〜(xiii)の各々を構成するプライマーセットを用いて第2の腹腔内洗浄液中の遺伝子を増幅する。その後、各々の増幅結果物の混合物を、固相上のプローブ、例えば配列番号1〜11、或いはそれらに加えて配列番号34〜43で表わされる塩基配列からなるプローブとハイブリダイゼーション反応させる。これにより、腹腔内洗浄液中の検出対象遺伝子11種の存在の有無をより正確に検出することが可能となる。即ち、胃癌の再発リスクの予測精度を、より一層高めることができる。
【0051】
また、上記胃癌の再発リスク予測において、検出対象遺伝子の種類、及びPCRに用いるプライマーセットによっては、腹腔内洗浄液を複数群に分けることなく対象遺伝子を正確に検出し得る。例えば、検出対象遺伝子を、CEA、TFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、MASPIN、ACTB及びTACSTD1の9種に絞り、当該遺伝子検出用のプローブに以下のプローブを用いるとする。
1.配列番号34〜37で表わされる塩基配列からなるCEA検出用プローブから選ばれる何れか。
2.配列番号1で表わされる塩基配列からなるTFF1検出用プローブ。
3.配列番号2で表わされる塩基配列からなるTFF2検出用プローブ。
4.配列番号3で表わされる塩基配列からなるFABP1検出用プローブ、
5.配列番号38又は39で表わされる塩基配列からなるCK20検出用プローブ。
6.配列番号40で表わされる塩基配列からなるMUC2検出用プローブ。
7.配列番号41〜43で表わされる塩基配列からなるMASPIN検出用プローブから選ばれる何れか。
8.配列番号11で表わされる塩基配列からなるACTB検出用プローブ。
9.配列番号7で表わされる塩基配列からなるTACSTD1検出用プローブ。
【0052】
そして、上記対象遺伝子の増幅用プライマーセットとして以下のプライマーセットを用いるとする:
1.配列番号44及び45で表わされる塩基配列からなるCEA増幅用プライマーセット。
2.配列番号12及び13で表わされる塩基配列からなるTFF1検出用プライマーセット。
3.配列番号14及び15で表わされる塩基配列からなるTFF2検出用プライマーセット。
4.配列番号16及び17で表わされる塩基配列からなるFABP1検出用プライマーセット。
5.配列番号18及び19で表わされる塩基配列からなるCK20検出用プライマーセット。
6.配列番号26及び46で表わされる塩基配列からなるMUC2検出用プライマーセット。
7.配列番号32及び33で表わされる塩基配列からなるMASPIN検出用プライマーセット。
8.配列番号30及び31で表わされる塩基配列からなるACTB検出用プライマーセット。
9.配列番号22及び23で表わされる塩基配列からなるTACSTD1検出用プライマーセット。
【0053】
この場合には、腹腔内洗浄液の遺伝子の、上記各プライマーセットを用いたPCRによる増幅は、腹腔内洗浄液中に上記9種のプライマーセットの全てを加え、所定の条件にてPCRを行うことで、対象遺伝子を正常に増幅できる。その結果として、腹腔内洗浄液中の検出対象遺伝子の検出、ひいては胃癌再発リスクの予測精度をより向上させることができる。
【0054】
また上記胃癌特異的な遺伝子のうち、MASPIN、CK20、MUC2、TFF1及びFABP1の遺伝子産物に対する抗体を使った免疫染色は、腹腔内洗浄液における遊離胃癌細胞の存在の有無の同定に極めて有効であることが確認された。さらにこの免疫染色はプローブ担体によるマーカー遺伝子の発現とこの免疫染色による遊離胃癌細胞の存在が良く一致することが分かった。これまで、免疫染色に標準的に用いられて来たのはCEAに対する抗体など、数種類しかないことから、上記5種の遺伝子産物に対する抗体を使った腹腔内洗浄液における遊離胃癌細胞の検出方法も、本発明に含まれる。
【0055】
以下、本発明について更に詳しく説明するが、いずれの記述も本発明内容を好適に実施するための実施形態例であり、本発明による他の実施形態を制限するものではない。
【0056】
検体としてはmRNAが好ましい。mRNAは腹腔内洗浄液に含まれる遊離細胞中から回収できる。通常は腹腔内洗浄液を遠心し、浮遊成分である遊離細胞をペレット状に沈殿させた後、そのペレットからmRNAがふくまれるtotal RNAを抽出する。total RNAの抽出方法は各種の方法が考案され、多くのメーカーによりキット化されており、本発明においてはいずれのキットも使用可能である。しかし、本発明による胃癌細胞特異的遺伝子の検出方法は、極めて高感度な検出方法であり、できるだけ高純度なRNAの抽出ができることが好ましい。具体的にはDNAの混入等による非RNA由来のシグナルを回避する事が望ましい。RNAの抽出キットの例としては、ニッポンジーンから市販されているISOGENなどは極めて純度の高いRNAの抽出キットである。ISOGENなどの有機層と水層の分離によるRNAの抽出においては、水層からの丁寧な回収が重要であり、回収率よりも抽出精度を重視した取り扱いが望ましい。
【0057】
また、回収RNAの量が少ない場合には、取り扱う容器にも細心の注意が必要である。例えば、容器表面に微少なキズ等があると、その部分にRNAの成分が吸着し、収量や品質に大きな影響を与えかねない。通常は1ml前後のポリプロピレン製などの容器を反応に用いるが、状況に応じて新品の容器に交換するなどし、配慮をすることが望ましい。また回収したRNAのチェック方法としては、電気泳動によるチェックを行う方法がある。ヒトの細胞から回収されたRNAで、分解していない良い品質のRNAであれば、18S以下の短い核酸は少なく、また18Sに対する28Sの比率が1.5倍以上であるのが通常である。これらを含めRNAの断片化が予測されるRNAにおいては、可能な範囲で再回収を試みるなどの対応が望ましい。
【0058】
腹腔内洗浄液中の遊離胃癌細胞の存在を予測するのに有効な遺伝子として同定された表1に記載の各遺伝子に対して、各遺伝子を特異的に検出するオリゴヌクレオチドプローブを設計した。設計においては、表1に記載の遺伝子を同時に検出できるよう、各遺伝子間で互いに特異性が保たれるよう配慮して設計を行った。設計したプローブの塩基配列については表1に合わせて示してある。
【0059】
表1に記載したプローブは50〜60merであり、複数のプローブを同時に用いてハイブリダイゼーションを行う事を想定し、プローブ間で互いにTm値等が大きく異ならないような調整がされている。しかしプローブ配列は特異性を失わない程度であれば、検出対象遺伝子の塩基配列を参照し塩基長を加減して用いることも可能である。また、二本鎖DNAを標識して、ハイブリダイゼーションすることもあるため、そのような場合に用いるプローブの配列は、表1に示す塩基配列の相補配列でも構わない。また、これらのプローブから選択された2種以上をプローブセットとして提供することが出来る。すなわち、検出対象として表1に記載の遺伝子から選択した少なくとも2種を検出可能なプローブからプローブセットを構成することができる。
【0060】
本発明によるmRNAの検出のためのプローブは互いに特異性を有する。すなわち検出対象の遺伝子とそれを検出するためのプローブとが一対一で厳密に対応しており、プローブのハイブリダイゼーションが確認できるようであれば、複数種のプローブをセットとして用い、同時に使用することも可能である。プローブを使用する形態としては、液相、固相を問わず使用可能であるが、プローブごとにハイブリダイゼーション反応を検出するためには物理的に隔離された担体上に各プローブを固定して用いる方が好ましい。担体表面の微少なエリアに固定されたプローブを用いた検出の場合、蛍光標識されたcDNAが集積し感度の高い検出が可能となるだけでなく、B/F分離が容易であるため精度の高い検出が可能となり、プローブを効果的に利用する上で好適である。プローブの固定方法は、吸着、イオン結合、共有結合など、結合様式を問わず適用可能である。またプローブをより強固に結合させるため、検体(ここでは腹腔内洗浄液)mRNAから増幅、蛍光標識されたcDNAとプローブのハイブリダイゼーションを損なわない範囲でプローブに化学的な修飾を施し、その修飾残基を利用し結合させる事も可能である。化学修飾として良く用いられる方法としては、5'末端にアミノ基を導入する方法、チオール基を導入する方法、ビオチンを修飾する方法などが良く用いられる。
【0061】
担体としては平面状の基板、ビーズ、繊維など形態に制限なく様々な担体を用いることが可能である。また材質としては、金属、ガラス、プラスチック、ポリマー、繊維等、特に制限されることなく用いることが可能である。その中でも、高感度、同時多項目に検出可能な遺伝子検出方法として、ガラス基板の表面にオリゴヌクレオチドプローブを固定化したDNAマイクロアレイが挙げられる。DNAマイクロアレイとは平面基板の表面に複数種のプローブが高密度にアレイ状に並んだ核酸検出のためのデバイスである。このDNAマイクロアレイは、本発明によるプローブを固相担体上に固定して核酸検出デバイスとして用いる形態としては、好適な使用形態のひとつである。プローブを固相担体上に固定する方法には通常の様々な方法を用いることができる。固相としてガラスを用い、アミノ基を導入可能なアミノシランカップリング剤で処理し、さらに同仁化学社製のEMCS等によりマレイミド基をその表面に導入する。さらに5'末端にチオール基を修飾したオリゴヌクレオチドプローブとマレイミド基を反応させ、全て共有結合によりプローブをガラス表面に導入することが可能である。結合方法に関しては例えば特開平11−187900号公報などに詳しく記載されており、本発明においても好適に用いることが可能である。
【0062】
上記公開公報にもあるように、固相担体がガラス基板などの平面状の担体の場合、プローブをその表面に供給する手段としてはピペッティングやピン法等がその代表である。更に、より少量のプローブ溶液を高密度に供給するために、バブルジェット方式やピエゾ方式などを代表とするインクジェット法を用いた溶液供給方法が好適に用いられる。
【0063】
検体RNAの事前処理方法は、検体RNA中の目的のmRNAの存在を分光学的に可視化するための標識化と、感度を高めるための増幅の、主として2つの目的のために行われる。プローブとのハイブリダイゼーションを行ったのちにプローブと蛍光標識したcDNAのハイブリダイゼーションを別途検出する手段がある場合には標識化は必ずしも必要が無い。また、検体RNA中に検出対象mRNAが多く存在する場合には、増幅は必ずしも必要ではない。
【0064】
増幅工程を必要とする際によく用いられる増幅方法としては、RT-PCRがあげられる。複数の遺伝子を同時に(同一反応液中で)増幅するマルチプレックスPCRを行う場合には、遺伝子別に増幅可能なプライマー(たとえば非特許文献2のプライマー)であっても、プライマー同士が相互に干渉し、所望の増幅ができないことも多い。本発明においては、この問題を解決するため、マルチプレックスPCR反応に対応しうる新たなプライマーを設計した。新たに設計したプライマーを表2に示した。非特許文献2で設計されたプライマーと合わせ、本発明で利用可能な13種のプライマーセットの塩基配列をまとめて表3に記載した。これらの配列は、プローブの塩基配列と同様、複数種のプライマー間の均一性を保つように塩基配列を調整してあるため、特異性を失わず、PCR反応の増幅率を大きく損なわない範囲であれば塩基配列の加減は可能である。
【0065】
標識工程は、上記増幅工程の中で増幅産物の基質として標識化した基質を用いることにより容易に実施可能である。基質として導入する以外にも、プライマー自体をあらかじめ標識しておく方法や、増幅工程後に、得られた検体中の特定の官能基に対し、化学的あるいは酵素的手法により標識を結合させることも可能である。一般的に標識物質として用いられる蛍光物質は、比較的高分子であるため、PCR反応の基質に標識がなされている場合には増幅効率や標識率などに影響を与えてしまうこともある。その点、たとえばアミノアリル標識やビオチン標識した基質を用いた場合、PCR反応への影響は比較的軽微であるため、好適に用いられる。このうち、アミノアリル標識した標識検体はPCR反応終了後に、任意の標識剤(たとえば蛍光色素)を用いてアミノ基に対して標識を行うことで、容易に検出することが可能となる。標識剤としてはCy3やCy5などがよく用いられ、スクシイミド基を有するCy3誘導体やCy5誘導体をアミノアリル標識PCR産物に作用させることにより、Cy3またはCy5により標識されたPCR産物を得ることができる。
【0066】
PCR反応は表3に記載のプライマーを複数種組み合わせて使うことが可能であり、必要に応じて適宜プライマーの組み合わせをし、プライマーセットとして検体RNAからのRT-PCRに用いることができる。
【0067】
プライマーセットを構成するプライマーの組み合わせは、いかなる組み合わせであっても可能である。同じ増幅効率でPCR反応を行うプライマーを組み合わせたり、あるいはプライマー間の相互干渉をなるべく回避するようなプライマーを組み合わせることが多い。検査対象遺伝子の発現レベルをふまえ、必要に応じて、定性的あるいは定量的といった、注目する判定基準によってプライマーセットの構成を決めても良い。
【0068】
たとえば本発明の検査対象遺伝子では、
・A群としてTFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA
・B群としてTACSTD1、MASPIN、PRSS4、GW112、ACTB
の遺伝子を組み合わせ、それぞれを適切な条件下でPCR増幅すると、好適な増幅が可能である。また、簡便性等を考慮し、一本のPCRチューブでの増幅反応を行うことも可能である。その場合には、全遺伝子を同時増幅することも可能であるが、例えば、TFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA、TACSTD1、MASPIN、ACTBの9種の組合せは良い増幅を行うことが出来る組合せのひとつである。
【0069】
PCR用のポリメラーゼ酵素は様々なメーカーから供給されており、いかなる酵素も使用可能である。たとえば、インビトロジェン社のAccuPrimeなどは本発明の増幅工程において好適に用いることができる。
【0070】
また、これらのプライマーセットと、プローブが担体に結合した構成のプローブ担体とを合わせて用いることで、特定の遺伝子を検出するためのキットとして利用することが可能である。プライマーセットのみでも、適当なバッファー溶液に希釈しておくなどにより、同様な遺伝子検出キットとして利用できる。
【0071】
DNAマイクロアレイなどのスライドガラス表面にプローブが結合したプローブ担体に対し、蛍光標識した検体mRNAまたはそのcDNAをハイブリダイゼーションしたものは、市販のマイクロアレイスキャナーを用いて各プローブからの輝度値を得ることが可能である。DNAマイクロアレイなどの場合には、同一のプローブ担体上に同一種類のプローブを複数のスポットなどの独立した領域内に結合しておくことにより、むらの少ない正確な測定が可能となる。
【0072】
DNAマイクロアレイによる発現解析を行う場合には、各プローブ、検体RNAごとにしかるべき規格化を行い、各サンプル間で比較可能となる調整を行うことで、より確度の高い判定を行うことが出来る。例えば検体RNAごとに対象遺伝子の発現量に差が有る場合や増幅効率に差がある場合には、細胞ごとに一定量の発現が知られているハウスキーピング遺伝子(例えばベータアクチン)などの発現量との比較を行い、その回収量の補正を行う事が可能である。また、プローブごとに一定濃度の検査対象mRNAまたはそのcDNAに対する結合力が異なる場合には検量線による定量が可能である。人工的に合成した既知濃度の合成検体に対する輝度値などから検量グラフ(検量線)を作成し、その値を参照して検体RNA中に含まれる検査対象遺伝子の発現レベルを測定し、それを参考に判定を行うことも可能であり、より確度の高い判定ができる。
【0073】
プローブ担体(オリゴヌクレイチドマイクロアレイ)により、各遺伝子の発現レベルを測定した後は、得られた輝度値を総合的に判定し、癌細胞の有無や再発の予測を行うことができる。輝度値からの具体的な判定方法は、各種の方法が特に制限なく利用可能である。判定に組み込む遺伝子の種類や数は任意に設定することが可能であり、RT-PCRを行った遺伝子すべてを測定対象とすることも可能であるし、1つ以上の遺伝子を選択して判定することも可能である。
【0074】
検体に含まれる癌細胞における検査対象遺伝子の発現量は多様であるため、単一遺伝子の発現量で判定することは困難である。そのため、複数の遺伝子の発現量から経験的または総合的に判定することが求められている。例えば予後との関連性が高い遺伝子に対しては大きな重量配分をし、予後との関連が低い遺伝子については小さな重量配分をし、さらにその総和をとることで、的確な判定を行うことも出来る。
【0075】
また各遺伝子の発現量(発現レベル)のカットオフ値(基準値)を設定し、カットオフ値を上回った遺伝子数をカウントし、定めた数を上回るか下回るかにより判定を行う方法も有効である。その際のカットオフ値の設定や、判定基準の設定は任意に行うことができるが、例えば癌細胞が存在し得ない検体を陰性コントロールとし、一定数の検体を測定し、そこから判定値を導き出す方法がある。この陰性コントロールの最大値や平均値を基準にしたり、基準値に対して分散などの数値を加えて判定値とする方法などがある。また、プローブ担体の均一性や安定性があるならば、絶対輝度を基準に判定をすることもできる。その場合には、プローブ担体のバックグランドに対する輝度値の大きさが一定レベルを超えたものをカウントする等の方法がある。
【0076】
判定基準を作る上で、最も重要な点は、医療機関において実際の検体を用いた解析によって、経験的基準を設定することである。また、現代医学で求められるEvidence-based Medicineに基づき、検体の免疫染色法等による癌細胞の存在の裏付けを得ることも重要である。本発明においても100症例を超える胃癌患者の実検体(腹腔内洗浄液)を用いた基準の設定に関し、実施例中に記載している。本発明のような、臨床検査キットの開発では、モデル実験によるキットの評価ではなく、実際の臨床検体での評価が必須と考える。また、本発明による微少胃癌細胞の検出方法は極めて高感度かつ特異的な検出方法であるが、臨床の所見やその他の測定値を合わせ、より効果的な判定方法とすることが出来る。通常、胃癌手術において必須となっている細胞診断の結果に加えて、リンパ節転移の有無、各種の癌マーカーなどの数値を参照し、状況によっては判定方法を使い分けるなど、総合的に胃癌細胞の有無を判断するとより効果的である。
【0077】
また本発明において用いられた各種遺伝子は、胃癌患者の腹腔内洗浄液以外に血液、リンパ液、リンパ節に混入した胃癌細胞の検出に供することが可能であることは、実施例から自明である。なぜなら腹腔内洗浄液には、血液、リンパ液、リンパ節でバックグラウンドとなる赤血球、白血球が多く含まれており、本法は、これらの細胞中に含まれる極微量な胃癌細胞の存在を判定できるからである。従って、腹腔内洗浄液等から採取した採取試料中に含まれる胃癌細胞の検出を、本発明のプローブ、プライマーセットなどを用いた方法や、免疫染色を用いた方法により行い、その結果に基づいて術後の胃癌再発の予測に有用な情報を得ることが可能となる。なお、腹腔内洗浄液、血液、リンパ液、リンパ節は術中採取したものや、術前に採取したものを利用できる。例えば、事前のサンプル採取(バイオプシー)が可能であり、具体的には腹膜内に器具を挿入し、腹腔内液の採取により検体採取を行う事ができる。
【実施例】
【0078】
以下具体的な実施例を示し、本発明を更に詳細に説明する。
【0079】
<実施例1>細胞からのtotal RNA回収とcDNAの調製
(1)ヒト胃癌細胞、KATOIII
ヒト胃癌由来細胞株であるKATOIII(大日本製薬株式会社)を培養し、約1×106個の培養細胞を得た。得られた細胞からのtotal RNAの回収は常法に従い、以下に示す方法で行った。細胞に株式会社 ニッポンジーン社製ISOGENを加えてホモジナイズし、少量のクロロホルムを入れ、8000rpmで15分間遠心分離させ、上清を採取した。さらに採取量と等量のイソプロパノールを加え、15分以上室温でインキュベートした後、15000rpmで15分間遠心して、ペレットに回収し、エタノール沈殿(70%)によりtotal RNAを得た。
【0080】
得られたtotal RNA 約5μgを用いて、インビトロジェン社製 Super Script Choice System for cDNA Synthesisを用いて、T7−(dT)24プライマー(アマシャムファルマシア製)による逆転写を行った。具体的には下記の方法で行った。なお、反応は最終液量が20μlとなるように調製した。
【0081】
まず、total RNA 5μgにT7−(dT)24プライマーを加え熱変性させた。急冷後、バッファー、DTT、dNTP Mixを加えたのち、Superscript II RTを加え、42℃で1時間インキュベートした。1時間後、急冷し1st strand溶液約20μlを回収した。得られた1st strand cDNA溶液は、キットの手順に従い精製することなく2nd strand cDNA合成を行った。すなわちDNA Ligase、DNA polymerase、 RNase Hを加えて2nd strandを合成した後、T4 DNA polymeraseにより末端を平滑化した。得られたcDNAは、エッペンドルフ社製のフェーズロックゲルを用いて常法に従って精製した。精製されたcDNAは、1μg/μlとなるよう蒸留水に溶解した。
【0082】
(2)胃癌患者の術中腹腔内洗浄液中の細胞
胃癌術中患者に対し、通常行われる術式に従って100mlの生理食塩水を用いて腹腔内洗浄を行い、洗浄液を回収した。回収された腹腔内洗浄液のうち病理部に検査検体として提出するのに必要な分量を抜き取った余剰検体を検査対象検体とし、1500rpm、10分、常温遠心し、上清を除去することによりペレット状になった沈渣成分を腹腔内浮遊細胞として回収した。回収した細胞からのtotal RNAの回収、およびcDNAの合成までは、実施例1の(1)に記載のKATOIII 細胞からの回収と同様に行った。
【0083】
なお、胃癌術中患者からの腹腔内洗浄液の回収および研究への利用はインフォームドコンセントに従って患者の同意のもとに行われ、国立がんセンターにおいて収集され、予後の確定のできた全部で118症例が実験に用いられた。回収された細胞については、術中の迅速細胞診断を行い、また、該当する胃癌患者の術後経過については、2年以上にわたって詳しく追跡調査され、再発の有無等の情報を得た。全118症例の2年後再発有無等の臨床データについては、下記表4中に記載した。なお、細胞診及び免疫染色の結果は術中の患者からの腹腔内洗浄液についての結果である。また、免疫染色法における2次抗体としては、ニチレイ社のシンプルステインMAX-PO(M)キット(抗体としてペルオキシダーゼ修飾のヤギ由来マウスIgGモノクローナル抗体を使用)を用いた。
【0084】
【表4】

【0085】
表4において再発の判定は、2年後までの経過を観察したのち再発が認められた症例を再発有りとしている。また、「ND(not determined)」はデータ無しを意味する。

<実施例2>癌マーカー遺伝子のRT-PCR
(1)シングルPCR
実施例1で得られた胃癌細胞KATOIIIのcDNAを用いて、表3の記載のプライマーによる増幅を確認した。PCR増幅はインビトロジェン社から市販されているキットを用いて常法に従って行った。PCR増幅反応の液組成は下記表5に記載の通りである。
【0086】
【表5】

【0087】
調製された反応液について、市販のサーマルサイクラーを用いて、下記表6の温度サイクル・プロトコルに従って、PCR増幅反応を行った。
【0088】
【表6】

【0089】
得られた各PCR産物をアジレント社製バイオアナライザー2100(キット名DNA12000)を用いて電気泳動し、可視化した。各PCR産物とも1本のバンドからなり、その鎖長は表3に記載された長さと一致した。この電気泳動にあたってはアジレント社製DNA12000を使用し、添付の説明書にしたがって標準的な手法により電気泳動を行った。

マルチプレックスRT-PCR
続いて、実施例2の(1)と同様にKATOIIIの全cDNAを鋳型に下記の遺伝子のcDNAを増幅、検出するためのPCRを行った。同一反応液中に複数のプライマーを用いるマルチプレックスPCR法によりcDNAの増幅を行った。同一の検体RNAまたはcDNAに対し、プライマーとして下記のA群及びB群の2組のプライマーセットをそれぞれ独立して用い、それぞれ異なるサイクル数でPCRを行った。
A群:TFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA
B群:TACSTD1、MASPIN、PRSS4、GW112、ACTB
A群の各遺伝子を増幅するために用いたプライマーの配列番号は、No.12〜No.21、No.26,No.27である。B群の各遺伝子を増幅するために用いたプライマーの配列番号は、No.22〜No.25、No.28〜No.33である。プライマーの濃度は各プライマーごとに下記の所定の濃度になるよう設定した。反応液の組成を表7に示した。
【0090】
【表7】

【0091】
調製された反応液について、市販のサーマルサイクラーを用いて、下記表8の温度サイクル・プロトコルに従って、PCR増幅反応を行った。
【0092】
【表8】

【0093】
得られた各PCR産物は、A群、B群それぞれ実施例2−(1)と同様に、アジレント社製バイオアナライザー2100(キット名DNA12000)を用いて電気泳動した。その結果を下記図1に示す。各PCR産物とも複数のバンドを検出し、いずれのバンドも各プライマーセットに含まれる遺伝子由来の鎖長を有していることを確認した。

<実施例3>チップの作製
(1)ガラス基板の洗浄
合成石英のガラス基板(サイズ:25mm×75mm×1mm、飯山特殊ガラス社製)を耐熱、耐アルカリのラックに入れ、所定の濃度に調製した超音波洗浄用の洗浄液に浸した。一晩洗浄液中で浸した後、20分間超音波洗浄を行った。続いて基板を取り出し、軽く純水ですすいだ後、超純水中で20分間超音波洗浄を行った。次に80℃に加熱した1N水酸化ナトリウム水溶液中に10分間基板を浸した。再び純水洗浄と超純水洗浄を行い、DNAマイクロアレイ用の石英ガラス基板を用意した。
【0094】
(2)表面処理
シランカップリング剤KBM−603(信越シリコーン社製)を、1%の濃度となるように純水中に溶解させ、2時間室温で攪拌した。続いて、先に洗浄したガラス基板をシランカップリング剤水溶液に浸し、20分間室温で放置した。ガラス基板を引き上げ、軽く純水で表面を洗浄した後、窒素ガスを基板の両面に吹き付けて乾燥させた。次に乾燥した基板を120℃に加熱したオーブン中で1時間ベークし、カップリング剤処理を完結させ、基板表面にアミノ基を導入した。次いで同仁化学研究所社製のN−マレイミドカプロイロキシスクシイミド(N-(6-Maleimidocaproyloxy)succinimide)(以下EMCSと略す)を、ジメチルスルホキシドとエタノールの1:1混合溶媒中に溶解させた。濃度は最終濃度が0.3mg/mlとなるように調製した。ベークの終了したガラス基板を放冷し、調製したEMCS溶液中に室温で2時間浸した。この処理により、シランカップリング剤によって表面に導入されたアミノ基とEMCSのスクシイミド基が反応し、ガラス基板表面にマレイミド基が導入された。EMCS溶液から引き上げたガラス基板を、先述のEMCSを溶解した混合溶媒を用いて洗浄し、さらにエタノールにより洗浄した後、窒素ガス雰囲気下で乾燥させた。
【0095】
(3)プローブDNA
プローブDNAは5'末端がチオール化したオリゴヌクレオチドプローブを用意した。用意したプローブは表1に記載した11種の遺伝子に対応したプローブである。各遺伝子に対応したプローブの配列番号は、TFF1検出用としてNo.1、TFF2検出用としてNo.2、FABP1検出用としてNo.3、CK20検出用としてNo.4、MUC2検出用としてNo.5、CEA検出用としてNo.6、TACSTD1検出用としてNo.7、MASPIN検出用としてNo.8、PRSS4検出用としてNo.9、GW112検出用としてNo.10、ACTB検出用としてNo.11のプローブである。
【0096】
(4)BJプリンターによるプローブDNA溶液の吐出、および基板への結合
グリセリン7.5質量%、チオジグリコール7.5質量%、尿素7.5質量%、アセチレノールEH(川研ファインケミカル社製)1.0質量%を含む水溶液を用意した。続いて、先に用意した11種類のプローブを上記の混合溶媒に5μMの濃度となるように溶解した。得られたDNA(プローブ)溶液をバブルジェットプリンター(商品名:BJF−850、キヤノン社製)用インクタンクに充填し、印字ヘッドに装着した。
【0097】
なお、ここで用いたバブルジェットプリンターは平板への印刷が可能なように改造を施したものである。またこのバブルジェットプリンターは、所定のファイル作成方法に従って印字パターンを入力することにより、約5ピコリットルのDNA溶液を約190μmピッチでスポッティングすることが可能となっている。また、各プローブごとに1枚のマイクロアレイあたり18スポットの印字ができるようになっている。続いて、この改造バブルジェットプリンターを用いて、1枚のガラス基板に対して、印字操作を行い、DNAマイクロアレイを作製した。印字が確実に行われていることを確認した後、30分間加湿チャンバー内に静置し、ガラス基板表面のマレイミド基と核酸プローブ末端のチオール基とを反応させた。
【0098】
(5)洗浄
30分間の反応後、100mMのNaClを含む10mMのリン酸緩衝液(pH7.0)により表面に残ったDNA溶液を洗い流し、ガラス基板表面に一本鎖DNAが固定したDNAマイクロアレイを得た。

<実施例4>多検体評価I
(1)マルチプレックスPCR
実施例1の(2)で回収した胃癌患者(国立がんセンター収集)118検体のcDNAを用いた評価実験を行った。実施例2の(2)と同様に、同一反応液中に複数のプライマーを用いるマルチプレックスPCR法によりPCR増幅を行った。
【0099】
同一の検体(cDNA)に対し、プライマーとして下記のA群及びB群の2組のプライマーセットをそれぞれ用い、それぞれ異なるサイクル数でPCR増幅を行った。各プライマーの配列番号は実施例2の(2)に示した通りである。また、実施例2の(2)とは異なり、PCR産物の標識のために、Ambion社製のアミノアリルdUTP(5-(3-aminoallyl)-dUTP)を基質としてPCRの反応溶液に加えた。反応液の組成を下記表9に示した。
A群:TFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA
B群:TACSTD1、MASPIN、PRSS4、GW112、ACTB
【0100】
【表9】

【0101】
調製された反応液について、市販のサーマルサイクラーを用いて、下記表10の温度サイクル・プロトコルに従って、PCR増幅反応を行った。
【0102】
【表10】

【0103】
精製は、各テンプレートごとにA群及びB群の2つのPCR産物の粗精製物を混ぜ合わせて、キアゲン社製のQIAquick PCR Purification Kitを用いて行った。精製の手順は、キットに添付のマニュアルに従って行い、最後の溶出は50μlの蒸留水によって行った。
【0104】
(2)Cy3標識
得られたアミノアリル標識PCR産物に対して、Cy3標識を行った。具体的には下記の手順で行った。(1)で得られた精製済のアミノアリル標識PCR産物を遠心濃縮器によりドライアップした。ドライアップしたPCR産物を0.2Mの炭酸バッファー(pH9.0)9μlに完全に溶解させた。得られた溶液に対し、Cy3標識試薬、2μlを添加し、室温暗所にて1時間攪拌した。Cy3標識試薬は、アマシャムバイオサイエンス社製のCy3 Mono-reactive NHS esterを用い、キット中の1ボトルを50μlのジメチルスルホキシドに溶解した溶液をCy3標識試薬として用いている。1時間攪拌した後、Cy3標識試薬2μlを加え、さらに室温暗所にて1時間攪拌した。反応終了後、37μlの蒸留水を加え、反応を停止し、Cy3標識PCR産物の粗精製物を得た。得られた粗精製物の精製は、(1)と同様にキアゲン社製の精製キットQIAquick PCR Purification Kitを用いて行った。最後の溶出は50μlの蒸留水によって行った。
【0105】
(3)マイクロアレイのハイブリダイゼーション
得られたCy3標識PCR産物全量に対し、バッファー等を加え、最終濃度が下記の構成となるようハイブリダイゼーション溶液を調製した。
【0106】
<ハイブリダイゼーション溶液>
6×SSPE/10% ホルムアミド/0.05% SDS/PCR増幅産物溶液
(6×SSPEの組成は、NaCl 900mM、NaH2PO4・H2O 60mM、EDTA 6mM、p.H. 7.4)
実施例3で作製したDNAマイクロアレイを、ハイブリダイゼーション装置(Genomic Solutions Inc. Hybridization Station)にセットし、上記組成のハイブリダイゼーション溶液を用いて、下記表11に示す手順・条件でハイブリダイゼーション反応を行った。
【0107】
【表11】

【0108】
ハイブリダイゼーション反応終了後、スピンドライしたDNAマイクロアレイについて、DNAマイクロアレイ用蛍光検出装置(Axon社製、Genepix 4000B)を用いて、各プローブごとに蛍光測定を行った。蛍光輝度を測定した結果を下記の表11に示す。

輝度の算出にあたっては、プローブ(スポット)周辺部から測定される蛍光輝度値をバックグランド値として、各スポットから得られる輝度値からバックグランド値を差し引いた値を実測値とした。各プローブごとに18個の輝度値が得られるが、各プローブごとに平均値を算出し、これを蛍光輝度値とした。テンプレート量のバラツキによる輝度値への影響を補正するため、ベータアクチンを同時に増幅している。表12−1〜12−4に118症例の蛍光輝度値を示す。
【0109】
【表12】

【0110】
【表13】

【0111】
【表14】

【0112】
【表15】

【0113】
各サンプルのテンプレート量の違いに基づくバラツキを抑えるため、各検体のβアクチン(ACTB)の輝度値による標準化を行った。各遺伝子の輝度値を各サンプルごとにACTBの輝度値で除した値を「標準化輝度値」とし、その結果を表13−1〜13−4に示す。
【0114】
【表16】

【0115】
【表17】

【0116】
【表18】

【0117】
【表19】

【0118】
(4)早期胃癌症例のデータからの判定値設定
得られた118症例の輝度値のうち、最終病期診断においてStage Iaの症例39症例をもとに、判定値の設定を行った。判定値は、「早期胃癌症例において存在しうる最大の輝度値」と定義し、この判定値を上回る輝度値が得られた場合に、「有意な発現があった」、すなわち早期胃癌症例のレベルを超えた発現と認めることとした。そのために、多数の早期胃癌症例を測定し、その中で最大の輝度値を判定値として採用する等の方法が考えられるが、統計学的な観点で一定のバラツキを加味するため、具体的な判定値の設定は下記の数式に基づいて計算を行った。なお、本実施例においては判定値の計算方法として2種の方法を採用した。
判定値(1)=早期胃癌症例(Stage Ia)の最大標準化輝度値+同標準偏差
判定値(2)=早期胃癌症例(Stage Ia)の平均標準化輝度値+同標準偏差×2
算出された判定値は下記表14の通りであった。
【0119】
【表20】

【0120】
(5) 判定値を用いた胃癌細胞の有無の判定
上記2つの判定値を利用し、早期胃癌も含めた全118症例の胃癌細胞の有無(再発予測)の判定を行った。判定方法として下記の2種類の方法を行った。
判定方法A:
各症例(各遺伝子)の標準化輝度値を判定値(1)と比較し、判定値を上回った遺伝子数をカウントする。全10遺伝子中2遺伝子以上が上回った場合に再発の可能性を示すがん細胞が検出される可能性、すなわち再発の可能性が高いとする情報(指標)とする。
判定方法B:
判定への寄与度が良好な6遺伝子(TFF1、TFF2、FABP1、CK20、MASPIN、TACSTD1)の標準化輝度値を判定値(2)と比較し、判定値を上回った遺伝子数をカウントする。6遺伝子中2遺伝子以上が上回った場合に再発の可能性を示すがん細胞が検出される可能性、すなわち再発の可能性が高いとする情報(指標)とする。
【0121】
全118症例の判定結果(カウントされた遺伝子数を含む)と、各症例の臨床データを表15に示す。
【0122】
【表21】

【0123】
上記の結果について、2つの判定方法を詳しく見てみる。
【0124】
(1)判定方法Aによる判定
早期胃癌症例(stage Ia)で再発判定がないのは、判定値の数式から当然として、無再発の32症例において全て正しく無再発判定(0%)がなされている。一方、細胞診陽性症例において17症例中12症例(71%)で再発判定、免疫染色陽性症例において6症例中5症例(83%)で再発判定がなされており、本法が、癌専門病院レベルの細胞診の判定能を十分備えていることがわかる。さらに、細胞診では陰性とされた再発症例(腹膜外再発および腹膜再発)においても、34症例中7症例(21%)が本法によって再発を予測できており、本発明による高感度な癌細胞の検出方法の優位性が確認できた。
【0125】
(2)判定方法Bによる判定
早期胃癌症例(stage Ia)において39症例中3症例(8%)、無再発症例において32症例中1症例(3%)で擬陽性判定がなされているが、誤判定率は極めて低い。再発症例では、細胞診陽性症例において17症例中15症例(88%)で再発判定、免疫染色陽性症例において6症例全て(100%)で再発判定がなされており、判定方法Aと同様に、癌専門病院レベルの細胞診の判定能を十分備えていることがわかる。さらに細胞診陰性であった再発症例(腹膜外再発および腹膜再発)においても、34症例中5症例(14%)が本法によって再発を予測できており、本発明による高感度な癌細胞の検出方法の優位性が確認できた。
【0126】
上記の結果から、本発明によるがん細胞の検出方法は、従来法である細胞診よりも高感度に胃癌細胞の検出ができることが示された。特に、術中の細胞診が陰性であったにもかかわらず再発した34症例のうち、本発明による検出方法により再発判定がなされた症例は7もしくは5症例に上っている。従って本発明による癌細胞の検出方法は、胃癌の再発を予測する上で、きわめて有効な情報であることが示された。

<実施例5>
(1)胃癌患者の術中腹腔内洗浄液中の細胞
国立がんセンターにておいて行われた胃癌手術において、胃癌術中患者に対し、通常行われる術式に従って100mlの生理食塩水を用いて腹腔内洗浄を行い、洗浄液を回収した。回収された腹腔内洗浄液のうち、病理学診断等に提供される検体を抜き取った余剰検体を本研究の検体として用いた。なお、余剰検体の本研究への利用にあたっては、インフォームドコンセントに従って、当該患者に対する説明および同意の下に行われた。回収した検体のうち、様々な原因により不適合とされた検体を除き、全部で47の検体数(患者数)であった。回収した検体は、遠心チューブに入れ、常温下で15000rpmにて遠心し、上澄みを取り除いたペレット状の沈渣成分を腹腔内浮遊細胞として回収した。
各検体の臨床情報については、予後観察期間が不十分(2年未満)であり、一部、確定していない症例もあるが、本実施例を行った時点での臨床情報は下表16の通りである。
【0127】
【表22】

【0128】
(2)total RNAの抽出
得られた浮遊細胞に対し、ISOGEN(ニッポンジーン社製) 600μlを加えた。よくホモジナイズし5分ほど室温放置した後、クロロホルム120μlを加えさらにホモジナイズした。15000rpmにて10分間遠心し、上澄みの水層成分を回収した。回収した水層成分に対し、グリコーゲン20μgおよびイソプロパノール400μlを加え、室温で15分間放置した後、15000rpmにて10分間遠心した。遠心チューブの下部に集積しているペレット状の成分を吸引しないように注意し、上澄み成分を除去した後、70%エタノールを加え15000rpmにて10分間遠心した。チューブの下部に集積しているペレット状の成分を吸引しないように注意し、上澄み成分を除去した後、室温にて風乾し、エタノール成分を除去した。超純水21μlを加え回収したtotal RNAをよく溶解した。チューブ壁面へのtotal RNA成分の付着を防ぐため、total RNAの溶液全量を新品のマイクロチューブに移した。回収したtotal RNA から1μlを抜き取り、260nmの吸光度を測定し回収total RNAの濃度および収量を測定した。

(3)逆転写反応
回収したtotal RNAから10μgを取り、超純水を加えて10μlのボリュームとなるよう調製した。0.5μg/μlの濃度になっているランダムヘキサマー(アマシャムバイオサイエンス社製)を1μl加えたのち、65℃で10分間加熱し、2分間以上氷上にて急冷した。続いて、逆転写酵素SuperScript IIキット(インビトロジェン社製)による逆転写反応を行った。 すなわち、キットに付属している、反応バッファー4μlおよび0.1MのDTT溶液2μl、10mMのdNTP Mix 1μl、リボヌクレアーゼインヒビター(タカラ社製)1μlを加え、簡単に攪拌した後、37℃に2分間置いた。続いてSuperScript IIを1μl加え、37℃で1時間反応させた。これによりmRNAの逆転写産物(一本鎖cDNA)の組精製物が得られた。

(4)マルチプレックスPCR
続いて、一本鎖cDNAをテンプレートとしたマルチプレックスPCRを行った。増幅対象とした遺伝子は、CEA、TFF1、TFF2、FABP1、CK20、Muc2、Maspin、TACSTD1、ACTBの全9遺伝子である。全9遺伝子を一括して増幅するマルチプレックスPCR法により増幅反応を行った。各プライマーの配列は表18に示した通りである。また、実施例4と同様に、インビトロジェン社製のAccuPrime酵素を用い、PCR産物の標識のためにアミノアリルdUTP(5-(3-aminoallyl)-dUTP)を基質としてPCRの反応溶液に加えた。反応液の組成を下記表17に示した。
【0129】
【表23】

【0130】
【表24】

【0131】
調製された反応液について、市販のサーマルサイクラーを用いて、下記表19の温度サイクル・プロトコルに従って、PCR増幅反応を行った。
【0132】
【表25】

【0133】
精製は、キアゲン社製のQIAquick PCR Purification Kitを用いて行った。精製の手順は、キットに添付のマニュアルに従って行い、最後工程のカラムからの溶出は50μlの蒸留水によって行った。以下Cy3による標識からハイブリダイゼーション溶液の調製までは実施例4と同様の方法で行った。
【0134】
(5)マイクロアレイの作製
本実施例を行うにあたって、新たにマイクロアレイの作製を行った。胃癌特異的遺伝子として特定されている11種の遺伝子のうち、PRSS4、GW112を除き、9種の遺伝子による検出を行うためのマイクロアレイの作製を行った。マイクロアレイの作製方法は、実施例3に記載の作製方法と同じであるが、9種の遺伝子を検出するためのプローブとして下記表20に記載のプローブをスポットした。
【0135】
【表26】

【0136】
(6)ハイブリダイゼーション
作製したマイクロアレイに対し、実施例4の(2)で合成したCy3標識済みの増幅検体をハイブリダイゼーションさせた。ハイブリダイゼーションは実施例4と同様、精製した増幅検体全量を用い、ハイブリダイゼーション装置を用いて行った。
【0137】
ハイブリダイゼーションの溶液組成は実施例4と同様の構成とし、所定の手順に従ってハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションの条件、手順は下記の表21の通りである。
【0138】
【表27】

【0139】
スピンドライしたマイクロアレイは実施例4と同様にスキャンし蛍光輝度値を測定した。本実施例においては、実施例4で行ったバックグランドの減算は行わず、画像から得られる輝度値をそのまま採用し、以降の判定に用いた。各プローブから得られた輝度値を下記表22に示す。
【0140】
【表28】

【0141】
(7)判定方法I
実施例4と同様に、得られたデータをもとに判定値および判定方法の設定を行った。本実施例においては、「リンパ節転移の無い早期胃癌症例20症例」をもとに各遺伝子の判定値を設定した。本実施例においてはβアクチンによる規格化は行わず、βアクチン以外の8遺伝子のプローブから得られた輝度値を直接用い、判定値の設定等を行った。本実施例で取り扱った47症例の輝度値のうち、「リンパ節転移が無く早期胃癌症例」である20症例をもとに判定値の設定を行った。判定値は、実施例4と同様に「早期胃癌症例において存在しうる最大の輝度値」と定義し、この判定値を上回る輝度値が得られた場合に、「有意な発現があった」、すなわち早期胃癌症例のレベルを超えた発現と認めることとした。そのために、多数の早期胃癌症例を測定し、その中で最大の輝度値を判定値として採用する等の方法が考えられるが、統計学的な観点で一定のバラツキを加味するため、具体的な判定値の設定は下記の数式に基づいて計算を行った。
(計算式)
判定値=早期胃癌症例の平均標準化輝度値+早期胃癌症例の標準偏差×2
算出された標準化輝度値における判定値は下記表22の通りであった。
【0142】
【表29】

【0143】
続いて、上記の判定値を利用し、早期胃癌も含めた全47症例の胃癌細胞の有無(再発予測)の判定を行った。判定方法は、下記の方法により行った。各症例(各遺伝子)の標準化輝度値を判定値と比較し、判定値を上回った遺伝子数をカウントする。対象となる全8遺伝子中2遺伝子以上が判定値を上回った場合に癌細胞が存在、すなわち、”再発”とする。1遺伝子以下であった場合には、癌細胞は存在せず、”無再発”とした。全47症例の判定結果(カウントされた遺伝子数を含む)と、各症例の臨床データを表23に示す。
【0144】
【表30】

【0145】
上記の判定結果を考察すると、リンパ節転移のない早期胃癌症例(全20例)においては2症例のみ再発判定(癌細胞有り)となり、他18症例において無再発判定となった。一般的に、リンパ節転移のない早期胃癌症例であっても、10%程度は最終的に再発するという統計的なデータがでており、本判定結果においての10%の陽性率は概ね妥当な数値といえる。一方、細胞診陽性症例においては、全7症例中7症例で再発判定となり、完全に病理医の所見と一致しており、本発明のマイクロアレイによる診断の妥当性が強く示されたと言える。またその一方、進行癌で細胞診陰性の症例については、19症例中6症例で再発判定となった。これら19症例は、手術時の細胞診で陰性、すなわち再発可能性が認められなかった症例である。これらの症例についても、30%程度は再発するという統計的なデータがでており、本判定結果においての約30%の陽性率は概ね妥当な数値といえる。本発明による再発有無の判定は術後2年後までの再発を判定するものであるが、本実施例は2年未満で行われており、これらの症例に対する判定の正誤は厳密に判定できない。しかし統計的なデータが本発明による判定方法の妥当性を強く支持しており、有望な判定方法であるということができる。

(8)判定方法II
次に、各プローブの絶対輝度を基準にした判定を行った。表21に記載の輝度データのうち、細胞の種類によらず発現するβアクチンを除いた8遺伝子の輝度値をもとに、各遺伝子の輝度値を「点数化」したうえで症例ごとに点数を合算し、その合計点により判定を行った。各遺伝子の点数化の方法は下記表24の通りである。
【0146】
【表31】

【0147】
上記基準に従って、各症例ごとに点数を合算し、2遺伝子が陽性となった場合の点数、すなわち8点以上の症例を、「再発」判定、7点以下の症例を「無再発」判定とした。
各症例の臨床情報、合計点、判定結果を下記表25に示す。
【0148】
【表32】

【0149】
上記の判定結果を考察すると、リンパ節転移のない早期胃癌症例(全20例)においては2症例のみ再発判定(癌細胞有り)となり、他18症例において無再発判定となった。一般的に、リンパ節転移のない早期胃癌症例であっても、10%程度は最終的に再発するという統計的なデータがでており、本判定結果においての10%の陽性率は概ね妥当な数値といえる。一方、細胞診陽性症例においては、全7症例中6症例で再発判定となり、1症例のみ病理医の所見と異なるものの、本発明のマイクロアレイによる診断の妥当性が強く示されたと言える。またその一方、進行癌で細胞診陰性の症例については、19症例中5症例で再発判定となった。これら19症例は、手術時の細胞診で陰性、すなわち再発可能性が認められなかった症例である。これらの症例についても、30%程度は再発するという統計的なデータがでており、本判定結果においての約30%の陽性率は概ね妥当な数値といえる。本発明による再発有無の判定は術後2年後までの再発を判定するものであるが、本実施例は2年未満で行われており、これらの症例に対する判定の正誤は厳密に判定できない。しかし統計的なデータが本発明による判定方法の妥当性を強く支持しており、有望な判定方法であるということができる。

<実施例6>
各遺伝子のシングルPCRおよびマイクロアレイによる検出
実施例1で得られた胃癌細胞KATOIIIのcDNAをテンプレートとし、下記のCEA用プライマーを用いてPCR増幅を行った。
CEA用フォワードプライマー:AACTTCTCCTGGTCTCTCAGCT(配列番号20)
CEA用リバースプライマー:GCAAATGCTTTAAGGAAGAAG(配列番号21)
PCR増幅はTakara社から市販されているExTaq酵素のキットを用いて常法に従って行った。 増幅反応においては、標識化のためアマシャムファルマシア社製の蛍光標識基質Cy3dUTPを用いた。PCR反応液の組成を下記表26に示す。
【0150】
【表33】

【0151】
調製された反応液について、サーマルサイクラーを用いて、下記表27の温度サイクルプロトコルに従ってPCR増幅反応を行った。
【0152】
【表34】

【0153】
得られたPCR産物50μl全量をキアゲン社製DNA精製キットQIAquickを用いて精製した。キットからの抽出は、キットに付属するEBバッファー50μlを用いて行った。得られたPCR産物は、実施例2の(1)と同様に電気泳動を行い、表3に記載の鎖長145bpを有する一本のバンドからなることを確認した。得られたPCR産物を用いたマイクロアレイへのハイブリダイゼーションは、PCR産物の20μlを用いた。ハイブリダイゼーション用の溶液調製、温度条件、輝度測定などは実施例4の(3)と同様に行った。なお、使用したマイクロアレイは実施例4の(3)で用いたマイクロアレイと同一である。CEA検出用のプローブから輝度値を測定した結果、輝度値は15740となった。本実施例により、本発明で開示したCEA用のプライマーで増幅したPCR産物を、マイクロアレイ上のCEA検出用のプローブが検出している事が証明された。同様の検証実験は、他の全てのプライマー/プローブの組合せにおいて確認され、本発明で開示したプライマーにより増幅されたPCR産物が、開示したプローブにより検出できることがわかった。

<比較例1>電気泳動法による検出との感度比較
本発明により作成されたプローブ担体の感度について確認するため、電気泳動法との比較実験を行った。比較実験にあたっては、実施例4−(1)において得られたマルチプレックスPCR産物を利用した。すなわちA群とB群のマルチプレックスPCR産物を混合し、精製キットにて精製した約50μlの精製済PCR産物を利用した。電気泳動はアジレント社製バイオアナライザー2100(キット名DNA12000)を用い、添付のマニュアルに従って得られた精製済のPCR反応産物50μlのうち1μlを電気泳動した。
【0154】
電気泳動に用いた検体は、実施例4の118検体のうち、各症例を代表して、計18検体である。具体的には、早期胃癌(Stage Ia)症例として検体番号(No.)1、2、3、細胞診陽性症例として検体No.40,43,44、腹膜外再発症例として検体No.59,61,64、腹膜再発症例として検体No.72,73,76、無再発症例として検体No.81,82,83、免疫染色陽性症例として検体No.113,114,115の計18検体を用いた。電気泳動の結果を図2に示す。
【0155】
電気泳動結果をみると、全ての症例において約155bp付近にハウスキーピング遺伝子であるベータアクチンのバンドが確認されている。また、細胞診陽性の3症例(No.40、43、44)については、ベータアクチン以外のPCR産物由来のバンドが確認されており、電気泳動でも当該遺伝子の検出が可能であることがわかる。しかし、早期胃癌を除く他の再発症例においては、ベータアクチン以外のバンドはほとんど認めらない。同じ検体を用いたマイクロアレイ解析においては、いずれもPCR産物の存在(該当遺伝子の発現)を検出できており、本発明のマイクロアレイによる検出は極めて高感度な検出方法であることが示された。

<比較例2>免疫染色による検出
国立がんセンターにおいて収集された上記実施例中の118検体の中で、検体No.113から118の6検体については免疫染色法による細胞観察を行っており、その結果、陽性であったことについては表4中に示してある。免疫染色方法は定法に従って行った。下記にその代表的な免疫染色画像を図3〜7に示す。なお、図中に示す番号は表4に示す検体番号、遺伝子名は染色した抗体の名称を示す。免疫染色は極めて特異性の高い癌細胞の検出方法であり、免疫染色法による陽性判定は、その細胞が確実に癌細胞であることを示している。これら免疫染色法陽性の6症例のうち判定方法Aにより5症例が、判定方法Bにより6症例すべてが、遺伝子の発現レベルからも癌細胞であることが強く示されている。すなわち、本発明による癌細胞の検出方法は、免疫染色法と同等の検出精度を持つことがわかり、感度と精度の高い検出方法であることが示された。また同時に、本発明において検出対象となっている遺伝子の発現を検出することによって、癌細胞を確実に検出できていることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胃癌細胞に特異的な遺伝子であるTFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA、TACSTD1、MASPIN、PRSS4、GW112またはACTBの検出用のプローブであって、
下記塩基配列No.1からNo.11、No.34からNo.43:
No.1:
TTCGACGACACCGTTCGTGGGGTCCCCTGGTGCTTCTATCCTAATACCATCGAC(TFF1用)
No.2:
TTGAAGTGCCCTGGTGCTTCTTCCCGAACTCTGTGGAAGACTGCCATTACTAAGAGAGGC(TFF2用)
No.3:
CATTCTGCACGATTTCCGACACCCCCTTGATATCCTTCCCCTTCTGGATGAGCTCTTCCG(FABP1用)
No.4:
GTACGAAACCAACGCCCCGAGGGCTGGTCGCGACTACAGTGCATATTACAGAC(CK20用)
No.5:
CTTGAAGTCCCCGGGCTTCAGGATGACGTGCTGGTTGTCGGGCCGTTTGATGATA(MUC2用)
No.6:
GGTTGGGGTTGCTCTGATATAGCAGCCCTGGTGTAGTTTCTTCATTTCAGGAAGACTGAC(CEA用)
No.7:
GCAGGGTCTAAAAGCTGGTGTTATTGCTGTTATTGTGGTTGTGGTGATAGCAGTTGTTGC(TACSTD1用)
No.8:
GTAATTTGTAAAGTTGGGTGGATAAGCTATCCCTGTTGCCGGTTCATGGATTACTTCTCT(MASPIN用)
No.9:
GATGCTCCGGTGCTGACCCAGGCTGAGTGTAAAGCCTCCTACCCTGGAAAGATTACCAAC(PRSS4用)
No.10:
AACCAGACTTACTAACCAATTCCACCCCCCACCAACCCCCTTCTACTGCCTACTTTAAAA(GW112用)
No.11:
CCTGTGGCATCCACGAAACTACCTTCAACTCCATCATGAAGTGTGACGTGGACATCCGCA(ACTB用)
No.34:
ACTGTCGGCATCATGATTGGAGTGCTGGTTGGGGTTGCTCTGATATAGCAGCCC(CEA用)
No.35:
CATCATGATTGGAGTGCTGGTTGGGGTTGCTCTGATATAGCAGCCCTGGTGTAGTTTCTT(CEA用)
No.36:
GATATAGCAGCCCTGGTGTAGTTTCTTCATTTCAGGAAGACTGACAGTTGTTTTGCTTCT (CEA用)
No.37:
TGCTATATCAGAGCAACCCCAACCAGCACTCCAATCATGATGCCGACAGTGGCC (CEA用)
No.38:
GAACTGAGGTTCAACTAACGGAGCTGAGACGCACCTCCCAGAGCCTTGAGATAGAACTCC(CK20用)
No.39:
TCTGGAGGCCCAACTGATGCAGATTCGGAGTAACATGGAACGCCAGAACAACGAATACCA (CK20用)
No.40:
CGGAGGTTTCGTACGCCGGCTGCACCAAGACCGTCCTCATGAATCATTGCTC (MUC2用)
No.41:
TCACGTTACCTTGACACATAGTTTTTCAGTCTATGGGTTTAGTTACTTTAGATGGCAAGC(MASPIN用)
No.42:
TCTAGCTGACTCGCACAGGGATTCTCACAATAGCCGATATCAGAATTTGTGTTGAAGGAA(MASPIN用)
No.43:
AACACTTCGTTCGCAGAGCTTTTCAGATTGTGGAATGTTGGATAAGGAATTATAGACCTC(MASPIN用);
これらの相補配列;及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、または付加した塩基配列;からなる群から選択された1つの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであることを特徴とするプローブ。
【請求項2】
胃癌細胞に特異的な遺伝子であるTFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA、TACSTD1、MASPIN、PRSS4、GW112及びACTBの2以上の検出用の2以上のプローブからなるプローブセットであって、
各プローブが、下記塩基配列No.1からNo.11、No.34からNo.43:
No.1:
TTCGACGACACCGTTCGTGGGGTCCCCTGGTGCTTCTATCCTAATACCATCGAC(TFF1用)
No.2:
TTGAAGTGCCCTGGTGCTTCTTCCCGAACTCTGTGGAAGACTGCCATTACTAAGAGAGGC(TFF2用)
No.3:
CATTCTGCACGATTTCCGACACCCCCTTGATATCCTTCCCCTTCTGGATGAGCTCTTCCG(FABP1用)
No.4:
GTACGAAACCAACGCCCCGAGGGCTGGTCGCGACTACAGTGCATATTACAGAC(CK20用)
No.5:
CTTGAAGTCCCCGGGCTTCAGGATGACGTGCTGGTTGTCGGGCCGTTTGATGATA(MUC2用)
No.6:
GGTTGGGGTTGCTCTGATATAGCAGCCCTGGTGTAGTTTCTTCATTTCAGGAAGACTGAC(CEA用)
No.7:
GCAGGGTCTAAAAGCTGGTGTTATTGCTGTTATTGTGGTTGTGGTGATAGCAGTTGTTGC(TACSTD1用)
No.8:
GTAATTTGTAAAGTTGGGTGGATAAGCTATCCCTGTTGCCGGTTCATGGATTACTTCTCT(MASPIN用)
No.9:
GATGCTCCGGTGCTGACCCAGGCTGAGTGTAAAGCCTCCTACCCTGGAAAGATTACCAAC(PRSS4用)
No.10:
AACCAGACTTACTAACCAATTCCACCCCCCACCAACCCCCTTCTACTGCCTACTTTAAAA(GW112用)
No.11:
CCTGTGGCATCCACGAAACTACCTTCAACTCCATCATGAAGTGTGACGTGGACATCCGCA(ACTB用)
No.34:
ACTGTCGGCATCATGATTGGAGTGCTGGTTGGGGTTGCTCTGATATAGCAGCCC(CEA用)
No.35:
CATCATGATTGGAGTGCTGGTTGGGGTTGCTCTGATATAGCAGCCCTGGTGTAGTTTCTT(CEA用)
No.36:
GATATAGCAGCCCTGGTGTAGTTTCTTCATTTCAGGAAGACTGACAGTTGTTTTGCTTCT (CEA用)
No.37:
TGCTATATCAGAGCAACCCCAACCAGCACTCCAATCATGATGCCGACAGTGGCC (CEA用)
No.38:
GAACTGAGGTTCAACTAACGGAGCTGAGACGCACCTCCCAGAGCCTTGAGATAGAACTCC(CK20用)
No.39:
TCTGGAGGCCCAACTGATGCAGATTCGGAGTAACATGGAACGCCAGAACAACGAATACCA (CK20用)
No.40:
CGGAGGTTTCGTACGCCGGCTGCACCAAGACCGTCCTCATGAATCATTGCTC (MUC2用)
No.41:
TCACGTTACCTTGACACATAGTTTTTCAGTCTATGGGTTTAGTTACTTTAGATGGCAAGC(MASPIN用)
No.42:
TCTAGCTGACTCGCACAGGGATTCTCACAATAGCCGATATCAGAATTTGTGTTGAAGGAA(MASPIN用)
No.43:
AACACTTCGTTCGCAGAGCTTTTCAGATTGTGGAATGTTGGATAAGGAATTATAGACCTC(MASPIN用);
これらの相補配列;及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基がプローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、または付加した塩基配列からなる群から選択されたいずれかの塩基配列;からなる群から選択された1つの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、かつ前記2以上のプローブが異なる塩基配列を有することを特徴とするプローブセット。
【請求項3】
胃癌細胞に特異的な遺伝子の検出用のプローブを担体に固定したプローブ担体であって、前記プローブが下記塩基配列No.1からNo.11、No.34からNo.43:
No.1:
TTCGACGACACCGTTCGTGGGGTCCCCTGGTGCTTCTATCCTAATACCATCGAC(TFF1用)
No.2:
TTGAAGTGCCCTGGTGCTTCTTCCCGAACTCTGTGGAAGACTGCCATTACTAAGAGAGGC(TFF2用)
No.3:
CATTCTGCACGATTTCCGACACCCCCTTGATATCCTTCCCCTTCTGGATGAGCTCTTCCG(FABP1用)
No.4:
GTACGAAACCAACGCCCCGAGGGCTGGTCGCGACTACAGTGCATATTACAGAC(CK20用)
No.5:
CTTGAAGTCCCCGGGCTTCAGGATGACGTGCTGGTTGTCGGGCCGTTTGATGATA(MUC2用)
No.6:
GGTTGGGGTTGCTCTGATATAGCAGCCCTGGTGTAGTTTCTTCATTTCAGGAAGACTGAC(CEA用)
No.7:
GCAGGGTCTAAAAGCTGGTGTTATTGCTGTTATTGTGGTTGTGGTGATAGCAGTTGTTGC(TACSTD1用)
No.8:
GTAATTTGTAAAGTTGGGTGGATAAGCTATCCCTGTTGCCGGTTCATGGATTACTTCTCT(MASPIN用)
No.9:
GATGCTCCGGTGCTGACCCAGGCTGAGTGTAAAGCCTCCTACCCTGGAAAGATTACCAAC(PRSS4用)
No.10:
AACCAGACTTACTAACCAATTCCACCCCCCACCAACCCCCTTCTACTGCCTACTTTAAAA(GW112用)
No.11:
CCTGTGGCATCCACGAAACTACCTTCAACTCCATCATGAAGTGTGACGTGGACATCCGCA(ACTB用)
No.34:
ACTGTCGGCATCATGATTGGAGTGCTGGTTGGGGTTGCTCTGATATAGCAGCCC(CEA用)
No.35:
CATCATGATTGGAGTGCTGGTTGGGGTTGCTCTGATATAGCAGCCCTGGTGTAGTTTCTT(CEA用)
No.36:
GATATAGCAGCCCTGGTGTAGTTTCTTCATTTCAGGAAGACTGACAGTTGTTTTGCTTCT (CEA用)
No.37:
TGCTATATCAGAGCAACCCCAACCAGCACTCCAATCATGATGCCGACAGTGGCC (CEA用)
No.38:
GAACTGAGGTTCAACTAACGGAGCTGAGACGCACCTCCCAGAGCCTTGAGATAGAACTCC(CK20用)
No.39:
TCTGGAGGCCCAACTGATGCAGATTCGGAGTAACATGGAACGCCAGAACAACGAATACCA (CK20用)
No.40:
CGGAGGTTTCGTACGCCGGCTGCACCAAGACCGTCCTCATGAATCATTGCTC (MUC2用)
No.41:
TCACGTTACCTTGACACATAGTTTTTCAGTCTATGGGTTTAGTTACTTTAGATGGCAAGC(MASPIN用)
No.42:
TCTAGCTGACTCGCACAGGGATTCTCACAATAGCCGATATCAGAATTTGTGTTGAAGGAA(MASPIN用)
No.43:
AACACTTCGTTCGCAGAGCTTTTCAGATTGTGGAATGTTGGATAAGGAATTATAGACCTC(MASPIN用);
これらの相補配列;及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基がプローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、または付加した塩基配列;からなる群から選択された1つの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであることを特徴とするプローブ担体。
【請求項4】
前記プローブとして、異なる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの2以上が担体に固定されている請求項3に記載のプローブ担体。
【請求項5】
胃癌細胞に特異的な遺伝子であるTFF1、TFF2、FABP1、CK20、CEA、TACSTD1、MASPIN、GW112及びMUC2のなかから選択された遺伝子の一部の領域をPCRにより増幅するためのプライマーセットであって、
下記の各組み合わせ:
TFF1の部分配列増幅用
No.12:CCTTTGGAGCAGAGAGGAGGCAAT及び
No.13:TCAGAGCAGTCAATCTGTGTTGTGAGC
TFF2の部分配列増幅用
No.14:ATAACAGGACGAACTGCGGCTTCC及び
No.15:AGCTGATAAGGCGAAGTTTCTTTCTTGG
FABP1の部分配列増幅用
No.16:TCATGAAGGCAATCGGTCTG及び
No.17:CAATGTCACCCAATGTCATGG
CK20の部分配列増幅用
No.18:ACACGGTGAACTATGGGAGCGATCT及び
No.19:CTTCCAGAAGGCGGCGGTAAGTAG
CEAの部分配列増幅用
No.20:AACTTCTCCTGGTCTCTCAGCT及び
No.21:GCAAATGCTTTAAGGAAGAAG
TACSTD1の部分配列増幅用
No.22:TGCTGGGGTCAGAAGAACAG及び
No.23:TTGAGTTCCCTATGCATCTCA
MASPINの部分配列増幅用
No.32:TCCGGGGTAGTTGGCAGAAATACAG及び
No.33:TGCATGTCAAGGAAGAGATGGGAGA
GW112の部分配列増幅用
No.24:CAGAAGCCCCAGTAAGCTGTTTAGGA及び
No.25:GCACTTTGTCACTGCCATCAGATTTT
CEAの部分配列増幅用
No.44:TGCATCTGGAACTTCTCCTGGTCTC及び
No.45:TCACGATGTTGGCTAGGATGGTCT
MUC2の部分配列増幅用
No.26:CCGGGGAGTGCTGTAAGAAG及び
No.46:CTCCTCTTTGCAGCAGGAGC
から選択された1種からなるものであることを特徴とするプライマーセット。
【請求項6】
胃癌細胞に特異的な遺伝子であるTFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA、TACSTD1、MASPIN、PRSS4、GW112及びACTBの一部の領域を増幅するためのプライマーセットであって、下記の各プライマーセットのなかから選択された少なくとも2種のプライマーセットを含むことを特徴とするプライマーセット:
TFF1の部分配列増幅用
No.12:CCTTTGGAGCAGAGAGGAGGCAAT及び
No.13:TCAGAGCAGTCAATCTGTGTTGTGAGC
TFF2の部分配列増幅用
No.14:ATAACAGGACGAACTGCGGCTTCC及び
No.15:AGCTGATAAGGCGAAGTTTCTTTCTTGG
FABP1の部分配列増幅用
No.16:TCATGAAGGCAATCGGTCTG及び
No.17:CAATGTCACCCAATGTCATGG
CK20の部分配列増幅用
No.18:ACACGGTGAACTATGGGAGCGATCT及び
No.19:CTTCCAGAAGGCGGCGGTAAGTAG
MUC2の部分配列増幅用
No.26:CCGGGGAGTGCTGTAAGAAG及び
No.27:GCTCTCGATGTGGGTGTAGG
CEAの部分配列増幅用
No.20:AACTTCTCCTGGTCTCTCAGCT及び
No.21:GCAAATGCTTTAAGGAAGAAG
TACSTD1の部分配列増幅用
No.22:TGCTGGGGTCAGAAGAACAG及び
No.23:TTGAGTTCCCTATGCATCTCA
MASPINの部分配列増幅用
No.32:TCCGGGGTAGTTGGCAGAAATACAG及び
No.33:TGCATGTCAAGGAAGAGATGGGAGA
PRSS4の部分配列増幅用
No.28:CTGGGCACAGTTGCTGTCCC及び
No.29:GGCCACCAGAGTCACGCTGG
GW112の部分配列増幅用
No.24:CAGAAGCCCCAGTAAGCTGTTTAGGA及び
No.25:GCACTTTGTCACTGCCATCAGATTTT
ACTBの部分配列増幅用
No.30:TCATCACCATTGGCAATGAG及び
No.31:CACTGTGTTGGCGTACAGGT
CEAの部分配列増幅用
No.44:TGCATCTGGAACTTCTCCTGGTCTC及び
No.45:TCACGATGTTGGCTAGGATGGTCT
MUC2の部分配列増幅用
No.26:CCGGGGAGTGCTGTAAGAAG及び
No.46:CTCCTCTTTGCAGCAGGAGC。
【請求項7】
TFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2及びCEAからの塩基配列の増幅用のプライマーの各組み合わせを有する請求項6に記載のプライマーセット。
【請求項8】
TACSTD1、MASPIN、PRSS4、GW112及びACTBからの塩基配列の増幅用のプライマーの各組み合わせを有する請求項6に記載のプライマーセット。
【請求項9】
TFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA、TACSTD1、MASPIN及びACTBからの塩基配列の増幅用のプライマーの各組み合わせを有する請求項6に記載のプライマーセット。
【請求項10】
請求項3または4に記載のプローブ担体と、請求項5から9のいずれかに記載のプライマーセットと、を有する遺伝子検査用キットであって、
胃癌細胞に特異的な遺伝子であるTFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA、TACSTD1、MASPIN、PRSS4、GW112及びACTBの中から選択された少なくとも1種に特異的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを増幅して検出するためのものであることを特徴とする遺伝子検査用キット。
【請求項11】
胃癌細胞に特異的な遺伝子の検出方法であって、核酸含有試料と請求項3または4に記載のプローブ担体とを接触させて、該試料中における該プローブ担体に固定された各プローブとハイブリダイズする遺伝子の存在を検出することを特徴とする遺伝子検出方法。
【請求項12】
請求項5から9のいずれかに記載のプライマーセットを用いたPCR増幅により前記核酸含有試料を調製する請求項11に記載の遺伝子検出方法。
【請求項13】
前記核酸含有試料が、腹腔内洗浄液、血液、リンパ液およびリンパ節から採取された採取試料から調製されたものである請求項11または12に記載の遺伝子検出方法。
【請求項14】
前記採取試料中での胃癌細胞の存在の有無を検出するための方法である請求項11から13のいずれかに記載の遺伝子検出方法。
【請求項15】
検査対象としての患者から採取した試料中での胃癌細胞の存在の有無を検出するための方法であって、胃癌細胞に特異的な遺伝子であるTFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA、TACSTD1、MASPIN、PRSS4、GW112及びACTBから選択された1以上の発現を示す遺伝子産物の試料中での有無を免疫染色法により測定することを特徴とする胃癌細胞の検出方法。
【請求項16】
前記胃癌細胞に特異的な遺伝子が、TFF1、FABP1、CK20、MUC2及びMASPINである請求項15に記載の胃癌遺伝子の検出方法。
【請求項17】
前記試料が腹腔内洗浄液、血液、リンパ液およびリンパ節から得られたものである請求項15または16に記載の検出方法。
【請求項18】
(i)胃癌細胞に特異的な遺伝子であるTFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA、TACSTD1、MASPIN、PRSS4、GW112及びACTBから選択された1以上の遺伝子の、胃癌患者から採取した試料中における発現レベルを測定する工程と、
(ii)測定された発現レベルと、胃癌の再発の可能性を示す前記遺伝子の予め設定された基準の発現レベルと、を対比して、測定された発現レベルが基準の発現レベル以上である場合を胃癌の再発の可能性を示す情報として取り込む工程と、を含む術後の胃癌の再発予測のための情報を得るための方法であって、
前記工程(i)は、下記No.1からNo.11及びNo.34からNo.43からなる群から発現レベルの測定対象としての遺伝子に応じて選択した塩基配列を選択する工程を含み、
前記工程(ii)は、前記選択した塩基配列を用いて測定した、測定対象としての遺伝子の発現レベルを、その基準発現レベルと比較して、胃癌の再発の可能性を示す情報を得る工程を含む、
ことを特徴とする特徴とする胃癌の再発予測のための情報取得方法:
No.1からNo.11、及びNo.34からNo.43の塩基配列:
No.1:
TTCGACGACACCGTTCGTGGGGTCCCCTGGTGCTTCTATCCTAATACCATCGAC(TFF1用)
No.2:
TTGAAGTGCCCTGGTGCTTCTTCCCGAACTCTGTGGAAGACTGCCATTACTAAGAGAGGC(TFF2用)
No.3:
CATTCTGCACGATTTCCGACACCCCCTTGATATCCTTCCCCTTCTGGATGAGCTCTTCCG(FABP1用)
No.4:
GTACGAAACCAACGCCCCGAGGGCTGGTCGCGACTACAGTGCATATTACAGAC(CK20用)
No.5:
CTTGAAGTCCCCGGGCTTCAGGATGACGTGCTGGTTGTCGGGCCGTTTGATGATA(MUC2用)
No.6:
GGTTGGGGTTGCTCTGATATAGCAGCCCTGGTGTAGTTTCTTCATTTCAGGAAGACTGAC(CEA用)
No.7:
GCAGGGTCTAAAAGCTGGTGTTATTGCTGTTATTGTGGTTGTGGTGATAGCAGTTGTTGC(TACSTD1用)
No.8:
GTAATTTGTAAAGTTGGGTGGATAAGCTATCCCTGTTGCCGGTTCATGGATTACTTCTCT(MASPIN用)
No.9:
GATGCTCCGGTGCTGACCCAGGCTGAGTGTAAAGCCTCCTACCCTGGAAAGATTACCAAC(PRSS4用)
No.10:
AACCAGACTTACTAACCAATTCCACCCCCCACCAACCCCCTTCTACTGCCTACTTTAAAA(GW112用)
No.11:
CCTGTGGCATCCACGAAACTACCTTCAACTCCATCATGAAGTGTGACGTGGACATCCGCA(ACTB用)
No.34:
ACTGTCGGCATCATGATTGGAGTGCTGGTTGGGGTTGCTCTGATATAGCAGCCC(CEA用)
No.35:
CATCATGATTGGAGTGCTGGTTGGGGTTGCTCTGATATAGCAGCCCTGGTGTAGTTTCTT(CEA用)
No.36:
GATATAGCAGCCCTGGTGTAGTTTCTTCATTTCAGGAAGACTGACAGTTGTTTTGCTTCT (CEA用)
No.37:
TGCTATATCAGAGCAACCCCAACCAGCACTCCAATCATGATGCCGACAGTGGCC (CEA用)
No.38:
GAACTGAGGTTCAACTAACGGAGCTGAGACGCACCTCCCAGAGCCTTGAGATAGAACTCC(CK20用)
No.39:
TCTGGAGGCCCAACTGATGCAGATTCGGAGTAACATGGAACGCCAGAACAACGAATACCA (CK20用)
No.40:
CGGAGGTTTCGTACGCCGGCTGCACCAAGACCGTCCTCATGAATCATTGCTC (MUC2用)
No.41:
TCACGTTACCTTGACACATAGTTTTTCAGTCTATGGGTTTAGTTACTTTAGATGGCAAGC(MASPIN用)
No.42:
TCTAGCTGACTCGCACAGGGATTCTCACAATAGCCGATATCAGAATTTGTGTTGAAGGAA(MASPIN用)
No.43:
AACACTTCGTTCGCAGAGCTTTTCAGATTGTGGAATGTTGGATAAGGAATTATAGACCTC(MASPIN用)。
【請求項19】
前記測定対象としての遺伝子が、TFF1、TFF2、FABP1、CK20、TACSTD1及びMASPINである請求項18に記載の情報取得方法。
【請求項20】
前記試料が腹腔内洗浄液、血液、リンパ液およびリンパ節から得られたものである請求項18または19に記載の情報取得方法。
【請求項21】
術後の胃癌の再発予測のための情報を得るための方法であって、
(i)胃癌患者から採取した試料中に存在する胃癌細胞に特異的な遺伝子であるTFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA、TACSTD1、MASPIN、PRSS4、GW112及びACTBから選択された1以上の遺伝子産物の有無を免疫染色法で測定する工程と、
(ii)発現が検出された場合を胃癌の再発の可能性を示す情報として取り込む工程と、
を有することを特徴とする胃癌の再発予測のための情報取得方法。
【請求項22】
前記胃癌細胞に特異的な遺伝子が、TFF1、FABP1、CK20、MUC2及びMASPINである請求項21に記載の情報取得方法。
【請求項23】
前記試料が腹腔内洗浄液、血液、リンパ液およびリンパ節から得られたものである請求項21または22に記載の情報取得方法。
【請求項24】
胃癌細胞に特異的な遺伝子であるTFF1、TFF2、FABP1、CK20、MUC2、CEA、TACATD1、MASPIN、PRSS4、GW112及びACTBの検出用のプローブから選ばれる少なくとも1つと、該プローブの検出対象である前記遺伝子の一部の領域をPCRにより増幅するためのプライマーセットとの組合せを含む胃癌の検出及び診断の少なくとも一方に用いられるキットにおいて、前記組合せが下記の組合せであることを特徴とする診断キット:
(TFF1検出用の組合せ)
配列表の配列番号1で表わされる塩基配列からなるTFF1検出用プローブと、配列表の配列番号12及び13で表わされる塩基配列からなるTFF1増幅用プライマーセットとの組合せ、
(TFF2検出用の組合せ)
配列表の配列番号2で表わされる塩基配列からなるTFF2検出用プローブと、配列表の配列番号14及び15で表わされる塩基配列からなるTFF2増幅用プライマーセットとの組合せ、
(FABP1検出用の組合せ)
配列表の配列番号3で表わされる塩基配列からなるFABP1検出用プローブと、配列表の配列番号16及び17からなる塩基配列を有するFABP1増幅用プライマーセットとの組合せ、
(CK20検出用の組合せ)
配列表の配列番号4、38又は39で表わされる塩基配列からなるCK20検出用プローブと、配列表の配列番号18及び19で表わされる塩基配列からなるCK20増幅用プライマーセットとの組合せ、
(MUC2検出用の組合せ)
配列表の配列番号5で表わされる塩基配列からなるMUC2検出用プローブと、配列表の配列番号26及び27で表わされる塩基配列からなるMUC2増幅用プライマーセットとの組合せ、
(MUC2検出用の組合せ)
配列表の配列番号5又は40で表わされる塩基配列からなるMUC2検出用プローブと、配列表の配列番号26及び46で表わされる塩基配列からなるMUC2増幅用プライマーセットとの組合せ、
(CEA検出用の組合せ)
配列表の配列番号6で表わされる塩基配列からなるCEA検出用プローブと、配列表の配列番号20及び21で表わされる塩基配列からなるCEA増幅用プライマーセットとの組合せ、
(CEA検出用の組合せ)
配列表の配列番号6、34、35、36又は37で表わされる塩基配列からなるCEA検出用プローブと、配列表の配列番号44及び45で表わされる塩基配列からなるCEA増幅用プライマーセットとの組合せ、
(TACSTD1検出用の組合せ)
配列表の配列番号7で表わされる塩基配列からなるTACSTD1検出用プローブと、配列表の配列番号22及び23で示される塩基配列からなるTACSTD1増幅用プライマーセットとの組合せ、
(MASPIN検出用の組合せ)
配列表の配列番号8、41、42又は43で表わされる塩基配列からなるMASPIN検出用プローブと、配列表の配列番号32及び33で示される塩基配列からなるMASPIN増幅用プライマーセットとの組合せ、
(PRSS4検出用の組合せ)
配列表の配列番号9で表わされる塩基配列からなるPRSS4検出用プローブと、配列表の配列番号28及び29で示される塩基配列からなるPRSS4増幅用プライマーセットとの組合せ、
(GW112検出用の組合せ)
配列表の配列番号10で表わされる塩基配列からなるGW112検出用プローブと、配列表の配列番号24及び25で示される塩基配列からなるGW112増幅用プライマーセットとの組合せ、
(ACTB検出用の組合せ)
配列表の配列番号11で表わされる塩基配列からなるACTB検出用プローブと、配列表の配列番号30及び31で示される塩基配列からなるACTB増幅用プライマーセットとの組合せ。
【請求項25】
1種または2種以上のプローブが固相上に配置されているアレイと、該プローブの検出対象たる遺伝子の一部の領域をPCRにより増幅するためのプライマーセットとを含む胃癌の検出及び診断の少なくとも一方を行う為のキットであって、
前記1種のプローブ、または前記2種以上のプローブのそれぞれが配列表の配列番号1から11及び34から43で表わされる塩基配列からなる群から選択された1つの塩基配列からなり、
該プローブと該プライマーセットとの組合せが、請求項24に記載の組合せであることを特徴とするキット。
【請求項26】
1種または2種以上のプローブと、該プローブの検出対象たる遺伝子の一部の領域をPCRにより増幅するためのプライマーセットとの組合せを含む遺伝子検出キットにおいて、
前記1種のプローブ、または前記2種以上のプローブのそれぞれが配列表の配列番号1から11及び34から43で表わされる塩基配列からなる群から選択された1つの塩基配列からなり、
該プローブと該プライマーセットとの組合せが請求項24に記載の組合せであることを特徴とする遺伝子検出キット。
【請求項27】
1種または2種以上のプローブから選ばれる少なくとも1つのプローブが固相上に配置されているアレイと、該プローブの検出対象たる遺伝子の一部の領域をPCRにより増幅するためのプライマーセットとを含む遺伝子検出キットにおいて、
前記1種のプローブ、または前記2種以上のプローブのそれぞれが配列表の配列番号1から11及び34から43で表わされる塩基配列からなる群から選択された1つの塩基配列からなり、
該プローブと該プライマーセットとの組合せが請求項24に記載の組合せであることを特徴とする遺伝子検出キット。
【請求項28】
(i)胃癌患者の腹腔内洗浄液中の遺伝子をPCRにより増幅するステップと、
(ii)前記ステップ(i)で得られた増幅物を、1種または2種以上のプローブが固相上に配置されているアレイとハイブリダイゼーション反応させるステップと、
(iii)前記ステップ(ii)の結果得られたアレイから、前記腹腔洗浄液中の、該プローブの検出対象たる遺伝子の有無を検出するステップと、
を含む胃癌の再発リスクの予測方法において、
前記1種のプローブ、または前記2種以上のプローブのそれぞれが配列表の配列番号1から11及び34から43で表わされる塩基配列からなる群から選択された1つの塩基配列からなり、
前記ステップ(i)が、該アレイが有しているプローブの検出対象たる遺伝子の一部の領域をPCRで増幅するためのプライマーセットを用いてPCRを行うステップを含み、且つ該プローブと該プライマーセットとの組合せが請求項24に記載の組合せであることを特徴とする胃癌の再発リスクの予測方法。
【請求項29】
該アレイが、配列番号1から11で表わされる塩基配列からなるプローブの全てを固相上に互いに隔離されたスポットとして配置されている請求項28に記載の予測方法。
【請求項30】
前記ステップ(i)が、該腹腔内洗浄液を第1及び第2の腹腔内洗浄液に分け、第1の腹腔内洗浄液については、配列番号12と13で表わされる塩基配列からなるプライマーセット、配列番号14と15で表わされる塩基配列からなるプライマーセット、配列番号16と17で表わされる塩基配列からなるプライマーセット、配列番号18と19で表わされる塩基配列からなるプライマーセット、配列番号20と21で表わされる塩基配列からなるプライマーセット及び配列番号26と27で表わされる塩基配列からなるプライマーセット、を用いてPCRにより該腹腔内洗浄液中の遺伝子を増幅する第1ステップと、
第2の腹腔内洗浄液については、配列番号22と23で表わされる塩基配列からなるプライマーセット、配列番号24と25で表わされる塩基配列からなるプライマーセット、配列番号28と29で表わされる塩基配列からなるプライマーセット、配列番号30と31で表わされる塩基配列からなるプライマーセット及び配列番号32と33で表わされる塩基配列からなるプライマーセットを用いてPCRにより該腹腔内洗浄液中の遺伝子を増幅する第2ステップとを含み、
前記ステップ(ii)が、上記第1ステップの結果物と上記第2ステップの結果物との混合物をアレイと反応させるステップを含む請求項29に記載の予測方法。
【請求項31】
該アレイが、配列番号1から3、7、8、11、37、39及び40で表わされる塩基配列からなるプローブの全てを固相上に互いに隔離されたスポットとして配置されている請求項28に記載の予測方法。
【請求項32】
前記ステップ(i)が、該腹腔内洗浄液を、配列番号12と13で表わされる塩基配列からなるプライマーセット、配列番号14と15で表わされる塩基配列からなるプライマーセット、配列番号16と17で表わされる塩基配列からなるプライマーセット、配列番号18と19で表わされる塩基配列からなるプライマーセット及び配列番号44と45で表わされる塩基配列からなるプライマーセット、配列番号22と23で表わされる塩基配列からなるプライマーセット、配列番号26と46で表わされる塩基配列からなるプライマーセット、配列番号30と31で表わされる塩基配列からなるプライマーセット及び配列番号32と33で表わされる塩基配列からなるプライマーセットを用いてPCRにより該腹腔内洗浄液中の遺伝子を増幅するステップを含む請求項31に記載の予測方法。
【請求項33】
下記(i)から(xi)から選ばれる少なくとも1つのプローブを含むことを特徴とする遺伝子検出用プローブ:
(i)配列番号1で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号1で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのTFF1遺伝子検出用プローブ、
(ii)配列番号2で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号2で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのTFF2遺伝子検出用プローブ、
(iii)配列番号3で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号3で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのFABP1遺伝子検出用プローブ、
(iv)配列番号4、38又は39で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号4、38又は39で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのCK20遺伝子検出用プローブ、
(v)配列番号5又は40で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号5又は40で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのMUC2遺伝子検出用プローブ、
(vi)配列番号6、34、35、36又は37で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号6,34,35,36又は37で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのCEA遺伝子検出用プローブ、
(vii)配列番号7で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号7で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのTACSTD1遺伝子検出用プローブ、
(viii)配列番号8、41、42又は43で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号8,41,42又は43で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのMASPIN遺伝子検出用プローブ、
(ix)配列番号9で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号9で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのPRSS4遺伝子検出用プローブ、
(x)配列番号10で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号10で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのGW112遺伝子検出用プローブ、
(xi)配列番号11で表わされる塩基配列、これの相補配列、及びこれらの塩基配列において1または数個の塩基が、プローブ機能を維持し得る範囲で欠失、置換、又は付加した塩基配列及び配列番号11で示される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる群から選択された少なくとも1つのACTB遺伝子検出用プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−148269(P2009−148269A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223(P2009−223)
【出願日】平成21年1月5日(2009.1.5)
【分割の表示】特願2006−14420(P2006−14420)の分割
【原出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(590001452)国立がんセンター総長 (80)
【Fターム(参考)】