心不全の治療または予防のためのニューレグリンまたはそのサブ配列の治療的投与方法
本発明は、哺乳動物における心不全の治療に関する。従って、本発明は投与レジメンを確立することに関し、該投与レジメンにより、グリア成長因子2(GGF2)のようなニューレグリンまたはそのサブ配列の投与によって与えられる治療的利益が維持および/または増強され、その上、いずれの潜在的な副作用も同時に最小限にされる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明の分野は、心不全に治療に関する。より具体的には、本発明は改善された投与レジメンに関し、該投与レジメンにより、グリア成長因子2(GGF2)のようなニューレグリンまたはその断片の投与の治療的利益が維持および/または増強され、その上、いずれの潜在的な副作用も同時に最小限化される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
必要とする患者への医用薬剤の投与に関連する基本的な課題は、許容性と効能との関係である。治療指数は、患者へ投与され得る物質の有効用量から、患者に対して望ましくない副作用が見られる用量までの範囲である。一般的に、有効用量と副作用が発生する用量との差が大きいほど、物質はより安全であり、患者によって許容される可能性がより高い。
【0003】
心不全、特に、うっ血性心不全(CHF)は、先進国において主な死亡原因の1つである。うっ血性心不全の基礎となる因子としては、高血圧、虚血性心疾患、アントラサイクリン抗生物質などの心毒性化合物への曝露、放射線被曝、身体的外傷、および心不全のリスク増加と関連する遺伝的欠陥が挙げられる。従って、CHFは、しばしば、高血圧症に起因する心臓への仕事量の増加、慢性虚血からの心筋への損傷、心筋梗塞、ウイルス疾患、化学毒性、放射線、および強皮症などの他の疾患から生じる。これらの状態は、心臓のポンプ機能を次第に低下させる。最初は、高血圧または収縮性組織の減少から生じる仕事量の増加は、代償性心筋細胞肥大および左心室壁の肥厚を誘発し、それによって収縮性を増強し、心機能を維持する。しかし、経時的に、左心室腔は膨張し、収縮期ポンプ機能は低下し、心筋細胞(myocardiocyte)はアポトーシス細胞死を受け、心筋機能は次第に低下する。
【0004】
ニューレグリン(NRG)およびNRG受容体は、神経、筋肉、上皮および他の組織における器官形成および細胞発生に関与する細胞間シグナル伝達についての増殖因子-受容体チロシンキナーゼ系を構成する(Lemke, Mol. Cell. Neurosci. 7:247-262, 1996およびBurden et al., Neuron 18:847-855, 1997)。NRGファミリーは、上皮増殖因子(EGF)様、免疫グロブリン(Ig)、および他の認識可能なドメインを含む多数のリガンドをコードする4つの遺伝子からなる。多数の分泌および膜結合アイソフォームが、このシグナル伝達系においてリガンドとして機能する。NRGリガンドについての受容体は、EGF受容体(EGFR)ファミリーの全てのメンバーであり、これらは、EGFR(またはErbB1)、ErbB2、ErbB3、およびErbB4を含み、これらは、ヒトにおいて、それぞれ、HER1からHER4までとしても公知である(Meyer et al., Development 124:3575-3586, 1997;Orr-Urtreger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 1867-71, 1993;Marchionni et al., Nature 362:312-8, 1993;Chen et al., J. Comp. Neurol. 349:389-400, 1994;Corfas et al., Neuron 14:103-115, 1995;Meyer et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:1064-1068, 1994;およびPinkas-Kramarski et al., Oncogene 15:2803-2815, 1997)。
【0005】
4つのNRG遺伝子、NRG-1、NRG-2、NRG-3、およびNRG-4は、異なる染色体座に位置し(Pinkas-Kramarski et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:9387-91, 1994;Carraway et al., Nature 387:512-516, 1997;Chang et al., Nature 387:509-511, 1997;およびZhang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:9562-9567, 1997)、多様なNRGタンパク質を集合的にコードする。NRG-1の遺伝子産物は、例えば、約15個の異なる構造関連アイソフォームの群を含む(Lemke, Mol. Cell. Neurosci. 7:247-262, 1996およびPeles and Yarden, BioEssays 15:815-824, 1993)。NRG-1の最初に同定されたアイソフォームは、Neu分化因子(NDF;Peles et al., Cell 69, 205-216, 1992およびWen et al., Cell 69, 559-572, 1992)、ヘレグリン(HRG;Holmes et al., Science 256:1205-1210, 1992)、アセチルコリン受容体誘導活性(ARIA;Falls et al., Cell 72:801-815, 1993)、ならびにグリア成長因子GGF1、GGF2、およびGGF3(Marchionni et al. Nature 362:312-8, 1993)を含んだ。
【0006】
NRG-2遺伝子は、相同性クローニング(Chang et al., Nature 387:509-512, 1997;Carraway et al., Nature 387:512-516, 1997;およびHigashiyama et al., J. Biochem. 122:675-680, 1997)およびゲノムアプローチ(Busfield et al., Mol. Cell. Biol. 17:4007-4014, 1997)によって同定された。NRG-2 cDNAはまた、ErbBキナーゼの神経および胸腺由来活性化因子(NTAK;Genbankアクセッション番号AB005060)、ディバージェント・オブ・ニューレグリン(Divergent of Neuregulin)(Don-1)、および小脳由来増殖因子(CDGF;PCT出願WO 97/09425)としても公知である。実験的証拠は、ErbB4またはErbB2/ErbB4組み合わせを発現する細胞が、NRG-2に対して特に強い応答を示す可能性が高いことを示している(Pinkas-Kramarski et al., Mol. Cell. Biol. 18:6090-6101, 1998)。NRG-3遺伝子産物(Zhangら、上記)がErbB4受容体に結合しこれを活性化することも公知である(Hijazi et al., Int. J. Oncol. 13:1061-1067, 1998)。
【0007】
EGF様ドメインは、NRGの全ての形態の中心に存在し、ErbB受容体に結合しこれを活性化するために必要とされる。3つの遺伝子においてコードされるEGF様ドメインの推定アミノ酸配列は、約30〜40%同一である(ペアワイズ比較)。さらに、NRG-1およびNRG-2中にEGF様ドメインの少なくとも2つのサブ形態があると考えられており、これらは、異なる生物活性および組織特異的効果を与え得る。
【0008】
NRGに対する細胞応答は、NRG受容体チロシンキナーゼである、上皮増殖因子受容体ファミリーのEGFR、ErbB2、ErbB3およびErbB4によって媒介される。全てのNRGの高親和性結合は、主としてErbB3またはErbB4のいずれかによって媒介される。NRGリガンドの結合は、他のErbBサブユニットとの二量体化、および特定のチロシン残基上でのリン酸化によるトランス活性化をもたらす。ある実験設定において、ErbB受容体のほぼ全ての組み合わせが、NRG-1アイソフォームの結合に応答して二量体を形成することができると考えられる。しかし、ErbB2は、リガンド-受容体複合体を安定させることにおいて重要な役割を果たし得る好ましい二量体化パートナーであると考えられる。ErbB2は、単独ではリガンドに結合しないが、他の受容体サブタイプの1つと異種間で対形成されなければならない。ErbB3は、チロシンキナーゼ活性を有するが、他の受容体によるリン酸化の標的である。NRG-1、ErbB2、およびErbB4の発現が、マウス発生の間の心室筋の肉柱形成に必要であることが公知である。
【0009】
ニューレグリンは、生理学的ストレスへ供された心筋細胞について、代償性肥大成長を刺激しかつアポトーシスを阻害する。これらの観察によれば、ニューレグリンの投与は、高血圧症、虚血性心疾患、および心毒性などの基礎的因子から生じるうっ血性心疾患を予防するために、最小限にするために、または回復に向かわせるために有用である。例えば、全体が本明細書に組み入れられる、米国特許番号(USPN)6,635,249を参照のこと。
【0010】
一般集団における心不全の高罹患率を考慮して、例えば心機能の欠失を阻害することによってまたは心機能を改善することによって、この疾患の進行を防ぐかまたは最小限にする満たされない必要性が存在し続けている。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、哺乳動物における心不全を治療または予防するための方法を含む。該方法は、48、72、96時間またはそれ以上の投与間隔で哺乳動物へペプチドの治療有効量を投与することによるなどの、定常状態を維持しないニューレグリン投与についての投与レジメンによって、上皮増殖因子様(EGF様)ドメインを含むペプチドの治療的利益が達成され得るという驚くべき観察に基づく。従って、本方法は、哺乳動物へのEGF様ドメインを含むペプチドの断続的または不連続の投与(48〜96時間毎、またはさらに長い間隔)を必要とし、該EGF様ドメインは、ニューレグリン遺伝子によってコードされ、ペプチドの投与は、哺乳動物における心不全を治療または予防するに有効な量である。定常状態濃度を維持しないニューレグリン投与についての投与レジメンは、より頻繁な投与レジメンと同程度に等しく有効であるにも関わらず、より頻繁な投与から生じ得る不都合、コストまたは副作用を伴わない。本明細書において使用される場合、断続的または不連続の投与という用語は、少なくとも48時間、72時間、96時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、1週間、2週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月の間隔、または、間隔/レジメンが少なくとも48時間、72時間、96時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、1週間、2週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月である限り、それらの任意の組み合わせもしくは増分での投与についてのレジメンを含む。本明細書において使用される場合、断続的または不連続の投与という用語は、48時間、72時間、96時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、1週間、2週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月以上である間隔、または、間隔/レジメンが48時間、72時間、96時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、1週間、2週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月以上である限り、それらの任意の組み合わせもしくは増分での投与についてのレジメンを含む。
【0012】
本発明によれば、EGF様ドメインがニューレグリン遺伝子によってコードされる、EGF様ドメインを含むペプチドの哺乳動物への断続的または不連続の投与は、投与されるペプチドの狭い定常状態濃度が維持されない投与レジメンを達成することに向けられ、それによって、哺乳動物が、投与されるペプチドの超生理的レベルを長期間にわたって維持することから生じ得る不都合な副作用を経験する可能性が減らされる。例えば、外因的に投与されるNRGの超生理的レベルに伴う副作用としては、神経鞘過形成、乳房過形成、腎症、精子減少(hypospermia)、肝酵素増加、心臓弁変化、および注射部位での皮膚変化が挙げられる。
【0013】
好ましい態様において、本発明は、ニューレグリン遺伝子によってコードされるEGF様ドメインを含むペプチドの血清中濃度の変動を誘発するかまたは許容し、従って、ペプチドのより頻繁な投与に伴う有害な副作用についての可能性を減らす、断続的な投与レジメンに関する。従って、本発明の断続的な投与レジメンは、治療的利点を哺乳動物へ与えるが、ニューレグリン遺伝子によってコードされるEGF様ドメインを含むペプチドの定常状態治療レベルを維持しない。当業者によって認識されるように、断続的な投与を得るための本発明の種々の態様が存在し;これらの態様の利益は、例えば、前記投与が前記ペプチドの定常状態治療レベルを維持しない、該投与がより頻繁なNRGペプチドの投与に伴う有害な副作用についての可能性を減らすなど、様々に記載され得る。
【0014】
本発明の特定の態様において、ニューレグリンは、以下を含むか、以下から本質的になるか、または以下からなる、遺伝子、遺伝子産物、またはそれらのそれぞれのサブ配列もしくは断片であり得る:NRG-1、NRG-2、NRG-3またはNRG-4。好ましい態様において、本発明のNRGサブ配列または断片は、上皮増殖因子様(EGF様)ドメインまたはその相同体を含む。当業者によって認識されるように、EGF様ドメインペプチドのペプチド相同体は、構造的相同性を見出すことによって、またはErbB受容体に結合しこれを活性化することによるなどの機能的アッセイ法においてEGF様ペプチドが機能するように相同体ペプチドが機能することによって、決定される。好ましくは、断片は、少なくとも40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85アミノ酸長である。本発明のニューレグリンペプチドが、次に、これらのニューレグリン遺伝子(またはそれらのサブ配列)のいずれか1つによってコードされ得る。より特定の態様において、方法において使用されるペプチドは、組換えヒトGGF2またはその断片もしくはサブ配列である。全長ヒトGGF2のアミノ酸配列および核酸配列については、図8A〜8Dを参照のこと。
【0015】
本発明のある局面において、好適な哺乳動物は、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、サルまたはブタを含むが、これらに限定されない。本発明の一態様において、哺乳動物はヒトである。
【0016】
本発明の他の態様において、心不全は、高血圧症、虚血性心疾患、心毒性化合物(例えば、コカイン、アルコール、抗ErbB2抗体もしくは抗HER抗体、例えば、ハーセプチン(登録商標)、またはアントラサイクリン抗生物質、例えば、ドキソルビシンもしくはダウノマイシン)への曝露、心筋炎、甲状腺疾患、ウイルス感染症、歯肉炎、薬物乱用、アルコール乱用、心膜炎、アテローム性動脈硬化症、血管疾患、肥大型心筋症、急性心筋梗塞もしくは以前の心筋梗塞、左室収縮機能障害、冠動脈バイパス手術、飢餓、放射線被曝、摂食障害、または遺伝的欠陥から生じ得る。
【0017】
本発明の別の態様において、抗ErbB2抗体または抗HER2抗体、例えば、ハーセプチン(登録商標)が、アントラサイクリン投与の前、間、または後に、哺乳動物へ投与される。
【0018】
本発明の他の態様において、ペプチドは、心毒性化合物への曝露の前、該心毒性化合物への曝露の間、または該心毒性化合物への曝露の後に投与され;ペプチドは、前記哺乳動物におけるうっ血性心不全の診断の前または後に投与される。本発明の方法は、被験体哺乳動物が代償性心肥大を経験した後に行われ得;本発明の方法は、方法の成果が、左心室肥大を維持すること、または心筋菲薄化の進行を防ぐこと、または心筋細胞アポトーシスを阻害することであることを含む。本発明の方法において、ペプチドは、ニューレグリン遺伝子によってコードされるEGF様ドメインを含み得るか、これから本質的になり得るか、またはこれからなり得る。本発明のペプチドは、心毒性化合物への曝露の前、間、または後に投与される。別の態様において、これらの期間のうちの2つ、または3つ全ての間に、EGF様ドメインを含むペプチドを投与する。本発明によれば、48〜96時間毎の間隔で、ニューレグリン遺伝子によってコードされるEGF様ドメインを含むペプチドを投与する。本発明の一態様において、ニューレグリン遺伝子によってコードされるEGF様ドメインを含むペプチドは、GGF2である。本発明のさらに他の態様において、ペプチドは、哺乳動物におけるうっ血性心不全の診断の前または後のいずれかに投与される。本発明のさらに別の態様において、ペプチドは、代償性心肥大を経験した哺乳動物へ投与される。本発明の他の特定の態様において、ペプチドの投与は、左心室肥大を維持し、心筋菲薄化の進行を防ぎ、かつ/または心筋細胞アポトーシスを阻害する。
【0019】
本発明の態様は、以下の方法を含む。哺乳動物における心不全を治療するための方法であって、該方法が、上皮増殖因子様(EGF様)ドメインを含む外因性ペプチドを該哺乳動物へ投与する工程を含み、前記間隔における該投与する工程が、該哺乳動物における該外因性ペプチドの投与に伴う有害な副作用を減らす方法。哺乳動物における心不全を治療するための方法であって、該方法が、上皮増殖因子様(EGF様)ドメインを含む外因性ペプチドを該哺乳動物へ投与する工程を含み、該EGF様ドメインが、ニューレグリン(NRG)-1遺伝子によってコードされ、かつ該外因性ペプチドが、少なくとも48時間の間隔で該哺乳動物における心不全を治療するための治療有効量で投与され、該間隔における該投与する工程が、該哺乳動物において該外因性ペプチドの定常状態レベルを維持しない方法。哺乳動物における心不全を治療するための方法であって、該方法が、上皮増殖因子様(EGF様)ドメインまたはその相同体を含む外因性ペプチドを該哺乳動物へ投与する工程を含み、かつ該外因性ペプチドが、少なくとも48時間または48時間以上の間隔で該哺乳動物における心不全を治療するための治療有効量で投与され、該間隔における該投与する工程が、該哺乳動物におけるベースラインレベルまたは投与前レベルへの該外因性ペプチドの血清中濃度の用量内(intradose)変動を許容する方法。
【0020】
本明細書において使用される場合、有害なまたは有毒な副作用という用語は、医学的処置の意図されない望ましくない結果を指す。本発明に関して、外因性ペプチドの投与から生じる有害なまたは有毒な副作用は、以下のうちのいずれか1つまたは複数を含み得る:神経鞘過形成、乳房過形成、腎症、および注射部位での皮膚変化。
【0021】
本明細書において使用される場合、「該哺乳動物における投与前レベルへの該外因性ペプチドの血清中濃度の用量内変動」という用語は、ある用量の外因性ペプチドの投与の前の血清中濃度レベル間の差を指す。
【0022】
本明細書において使用される場合、「定常状態レベル」という用語は、投与と排出との間の平衡(後の投与間の変動の範囲内)を達成するのに十分である外因性薬剤(例えば、ペプチド)のレベルを指す。「定常状態治療レベルを維持する」は、被験体または患者へ治療的利益を与えるのに十分なレベルで外因性薬剤の濃度を持続させることを指す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】駆出率および短縮率の変化によって例証される心機能を示すヒストグラムを示す。図のように、ラットを、静脈内で(iv)毎日(1日毎(q day))、0.625 mg/kgでGGF2によってまたは等モル量のEGF様断片(断片;EGF-id)によって処置した。
【図2】駆出率および短縮率の変化によって明らかにされる心機能を示す折線グラフを示す。図のように、ラットを、0.625 mg/kgまたは3.25 mg/kg iv 1日毎でGGF2によって処置した。
【図3】処置期間の間の収縮末期容量の顕著な改善によって明らかにされる心機能を示す折線グラフを示す。図のように、ラットを、0.625 mg/kgまたは3.25 mg/kg iv 1日毎でGGF2によって処置した。
【図4】駆出率および短縮率の変化によって明らかにされる心機能を示す折線グラフを示す。図のように、ラットを、GGF2 3.25 mg/kg静脈内(iv)において24、48または96時間毎によって処置した。
【図5】心エコー駆出率の変化によって明らかにされる心機能を示す折線グラフを示す。図のように、ラットを、BSA有りまたは無しで、静脈内(iv)において、ビヒクルまたはGGF2 3.25 mg/kgによって処置した。
【図6】iv投与後の組換えヒトGGF2(rhGGF2)の半減期を示す折線グラフを示す。
【図7】皮下投与後の組換えヒトGGF2(rhGGF2)の半減期を示す折線グラフを示す。
【図8A】全長GGF2の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。核酸配列はSEQ ID NO:1で示され、アミノ酸配列はSEQ ID NO:2で示される。
【図8B】全長GGF2の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。核酸配列はSEQ ID NO:1で示され、アミノ酸配列はSEQ ID NO:2で示される。
【図8C】全長GGF2の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。核酸配列はSEQ ID NO:1で示され、アミノ酸配列はSEQ ID NO:2で示される。
【図8D】全長GGF2の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。核酸配列はSEQ ID NO:1で示され、アミノ酸配列はSEQ ID NO:2で示される。
【図9】上皮増殖因子様(EGFL)ドメイン1の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。EGFLドメイン1の核酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:3で示され、EGFLドメイン1のアミノ酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:4で示される。
【図10】上皮増殖因子様(EGFL)ドメイン2の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。EGFLドメイン2の核酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:5で示され、EGFLドメイン2のアミノ酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:6で示される。
【図11】上皮増殖因子様(EGFL)ドメイン3の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。EGFLドメイン3の核酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:7で示され、EGFLドメイン3のアミノ酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:8で示される。
【図12】上皮増殖因子様(EGFL)ドメイン4の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。EGFLドメイン4の核酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:9で示され、EGFLドメイン4のアミノ酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:10で示される。
【図13】上皮増殖因子様(EGFL)ドメイン5の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。EGFLドメイン5の核酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:11で示され、EGFLドメイン5のアミノ酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:12で示される。
【図14】上皮増殖因子様(EGFL)ドメイン6の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。EGFLドメイン6の核酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:13で示され、EGFLドメイン6のアミノ酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:14で示される。
【図15】上皮増殖因子様(EGFL)ドメインを含むポリペプチドのアミノ酸配列を示し、これは本明細書においてSEQ ID NO:21で示される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
本発明者らは、適切に空けられた時間間隔でのニューレグリンの不連続のまたは断続的な投与が、その必要がある患者へニューレグリンの治療有効量を送達し、このような治療レジメンが、うっ血性心不全などの心疾患を防ぐために、予防するために、改善するために、最小限にするために、治療するためにまたは回復に向かわせるために有用であるという驚くべき発見をした。
【0025】
最も狭い範囲の定常状態濃度を維持するように投与レジメンを設計することに関する一般通念および開発プラクティスにもかかわらず、本発明者らは、狭い定常状態濃度を維持しないニューレグリン投与についての投与レジメンが、より頻繁な投与レジメンと同じ程度に等しく有効であることを本明細書において実証する。実際に、本発明者らは、少なくとも48時間、72時間、96時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、1週間、2週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、または、間隔/レジメンが少なくとも48時間である限りそれらの任意の組み合わせもしくは増分の投与間隔での心不全のニューレグリン治療が、毎日の投与と同程度有効であることを示した。
【0026】
外因性NRGの薬物動態を評価するために、本発明者らは、ニューレグリンの半減期が、静脈内に送達された場合は4〜8時間であり、皮下に送達された場合は11〜15時間であることを示した。例えば、表1および2ならびに図6および7を参照のこと。従って、4日毎と同じぐらい頻繁でないレジメンでの投与は、次の投与までの少なくとも3日間は検出可能なレベルを維持しない。これらの知見に基づいて、本発明の前に、このようなピーク/トラフ比が一貫した治療的利益と相関するとは予想されなかった。このオーダーの半減期を有する化合物は、頻繁な投与レジメン(例えば、毎日、または複数回の1日用量)に従って一般的には投与されることが、注目に値する。実際に、GGF2について入手可能な薬物動態データに基づいて、伝統的な開発は、最適な治療が毎日の皮下投与を必要とすると予想すると考えられる。
【0027】
一般通念および開発プラクティスに従って、CHFについての他の医学的処置が、少なくとも毎日に基づいて、典型的に施される。このようなレジメンの周期性が必要とされると考えられ、何故ならば、CHFは、急性状態ではなく、心臓の損なわれた収縮および/または弛緩によって一般的に引き起こされる、慢性状態であるためである。弛緩障害およびCHFへ至る弱い心臓を有する人において、医学的処置は、特定の神経ホルモンの形成または作用を遮断する薬物(例えば、アンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)、アンギオテンシン受容体アンタゴニスト(ARB)、アルドステロンアンタゴニスト、およびβ-アドレナリン作動性受容体遮断薬)を含む。これらおよび他の医用薬剤は、慢性CHFの現在の標準治療であり、何故ならば、それらは、改善された症状、平均余命および/または入院の減少をもたらすことが実証されたためである。急性増悪または慢性症状の場合において、患者は、心収縮性を増強させるための変力物質(inotrope)(例えば、ドブタミン、ジゴキシン)、ならびにうっ血を減少させるための血管拡張薬(例えば、ニトレート、ネシリチド)および/または利尿薬(例えば、フロセミド)でしばしば治療される。高血圧症およびうっ血性心不全を有する患者は、1つまたは複数の抗高血圧剤、例えば、β遮断薬、ACE阻害剤およびARB、ニトレート(二硝酸イソソルビド)、ヒドララジン、ならびにカルシウムチャネル遮断薬で治療される。
【0028】
従って、CHFの治療に関しての典型的なプラクティスにもかかわらず、本発明者らは、新規の投与レジメンが、望ましくない副作用を回避すると同時に、CHFの有効な治療をもたらすことを実証した。理論によって拘束されることを望まないが、このようなニューレグリン治療は、心筋細胞肥大を刺激することによって心臓のポンプ機能を強化し、心筋細胞アポトーシスを抑制することによって心臓のさらなる劣化を部分的にまたは完全に阻害する可能性が高い。
【0029】
さらなる背景のために、投与の基本原則は、有効循環濃度を決定し、それらのレベルを維持するように投与レジメンを設計することである。薬物動態学(PK)および薬力学(PD)研究を組み合わせ、特定の薬物の定常状態レベルを維持する投与レジメンを予測する。典型的なプランは、CmaxとCminとの差を最小限にし、それによって副作用を減らすことである。
【0030】
薬物は、それらの「治療指数」によって記載され、これは、有効用量または循環濃度によって割られた毒性用量または循環レベルの比率である。治療指数が大きい場合、毒性レベルに近づくことなく有効用量が提供され得る広い安全性範囲がある。有効濃度に非常に近い濃度で不都合な効果が生じる場合、治療指数は狭いと記載され、薬物は安全に投与することが困難である。
【0031】
投与レジメンを開発する間、PK/PDデータと治療指数の知識とが組み合わされ、投与の用量および頻度が設計され、化合物は、有効濃度を超えかつ毒性濃度未満となるような濃度で患者(例えば、ヒト)において維持される。薬物の有効濃度が危険な効果を誘発することなしには維持され得ない場合、薬物は、開発の間に落第する。薬物開発に関するさらなる解説は、以下を含む種々の参考文献において見られ得る:全体が本明細書に組み入れられる、Pharmacokinetics in Drug Development: Clinical Study Design and Analysis (2004, Peter Bonate and Danny Howard, eds.)。
【0032】
ニューレグリンは、erbB受容体へ結合し上皮増殖因子に関連する増殖因子である。それらは、心不全、心毒性および虚血の多数のモデルにおいて心機能を改善させることが示された。それらはまた、脳卒中、脊髄損傷、神経ガス曝露、末梢神経損傷および化学毒性のモデルにおいて神経系を保護することが示された。
【0033】
しかし、外因的に供給されたニューレグリンの超正常レベルを維持することは、神経鞘過形成、乳房過形成および腎症を含む不都合な効果を有することが示された。これらの効果は、ニューレグリンの毎日の皮下投与に続いて観察された。例えば、表10を参照のこと。
【0034】
本明細書に記載される通り、静脈内投与と比較して延長された半減期と、リガンドの一定レベルを維持することは有利であるという最初の確信とにより、皮下投与を探究した。これらの効果を低下させるための投与レジメンを開発することは、治療剤として使用されるニューレグリンの能力を顕著に高め、本発明が向けられるのはこの目的である。一定レベルを維持しない頻度の少ない投与もまた有効であると実証することは、この開発を可能にする。
【0035】
ニューレグリン:
上記の通り、NRG-1、NRG-2、NRG-3およびNRG-4遺伝子によってコードされるペプチドは、それらがErbB受容体へ結合しこれを活性化することを可能にするEGF様ドメインを有する。Holmesら(Science 256:1205-1210, 1992)は、EGF様ドメインは単独でp185erbB2受容体に結合しこれを活性化するのに十分であることを示した。従って、NRG-1、NRG-2またはNRG-3遺伝子によってコードされる任意のペプチド産物、または任意のニューレグリン様ペプチド、例えば、ニューレグリン遺伝子もしくはcDNAによってコードされるEGF様ドメイン(例えば、米国特許番号5,530,109、米国特許番号5,716,930、および米国特許番号7,037,888に記載される、NRG-1ペプチドサブドメインC-C/DもしくはC-C/D'を含むEGF様ドメイン;またはWO 97/09425に開示されるEGF様ドメイン)を有するペプチドが、うっ血性心不全を予防または治療するために本発明の方法において使用され得る。米国特許番号5,530,109;米国特許番号5,716,930;米国特許番号7,037,888;およびWO 97/09425の各々の内容は、その全体が本明細書に組み入れられる。
【0036】
リスク因子:
個体がうっ血性心不全を発症する可能性を増加させるリスク因子は、周知である。これらとしては、喫煙、肥満、高血圧、虚血性心疾患、血管疾患、冠動脈バイパス手術、心筋梗塞、左室収縮機能障害、心毒性化合物(アルコール、薬物、例えば、コカイン、ならびにアントラサイクリン抗生物質、例えば、ドキソルビシン、およびダウノルビシン)への曝露、ウイルス感染症、心膜炎、心筋炎、歯肉炎、甲状腺疾患、放射線被曝、心不全のリスクを増加させることが公知である遺伝的欠陥(例えば、Bachinski and Roberts, Cardiol. Clin. 16:603-610, 1998;Siu et al., Circulation 8:1022-1026, 1999;およびArbustini et al., Heart 80:548-558, 1998に記載されるもの)、飢餓、摂食障害、例えば食欲不振症および過食症、心不全の家族歴、ならびに心筋肥大が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
本発明によれば、危険性があると同定された人におけるうっ血性心疾患進行を防ぐかまたはその速度を低下させることによるなどの予防を達成するために、ニューレグリンが、断続的に投与され得る。例えば、初期代償性肥大の患者へのニューレグリン投与は、肥大状態の維持を可能にし、心不全への進行を防ぐ。さらに、危険性があると同定された人は、代償性肥大の発症の前に、心臓保護的ニューレグリン治療が提供され得る。
【0038】
アントラサイクリン化学療法またはアントラサイクリン/抗ErbB2(抗HER2)抗体(例えば、ハーセプチン(登録商標))併用療法の前または間の癌患者へのニューレグリン投与は、患者の心筋細胞がアポトーシスを受けるのを防ぎ得、それによって心機能を保存し得る。心筋細胞減少を既に受けた患者もまた、ニューレグリン治療から利益を得、何故ならば、残りの心筋組織は、肥大成長および収縮性増加を示すことによってニューレグリン曝露に対して応答するためである。
【0039】
療法:
ニューレグリンおよびニューレグリン遺伝子によってコードされるEGF様ドメインを含むペプチドが、薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤と共に、患者または実験動物へ投与され得る。本発明の組成物は、単位剤形で提供され得る。
【0040】
従来の薬学的プラクティスが、好適な製剤または組成物を提供するために、およびこのような組成物を患者または実験動物へ投与するために、用いられる。静脈内投与が好ましいが、任意の好適な投与経路、例えば、非経口、皮下、筋肉内、経皮的、心臓内、腹腔内、鼻腔内、エアロゾル、経口、または局所(例えば、真皮を横断し血流に入ることができる製剤を含む粘着性パッチを提供することによる)投与が用いられ得る。
【0041】
治療製剤は、液剤または懸濁剤の形態であり得;経口投与について、製剤は、錠剤またはカプセル剤の形態であり得;鼻腔内製剤については、散剤、点鼻剤、またはエアロゾル剤の形態であり得る。
【0042】
製剤の作製のための当技術分野において周知の方法は、例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」において見られる。非経口投与用の製剤は、例えば、賦形剤、滅菌水、または食塩水、ポリアルキレングリコール、例えば、ポリエチレングリコール、植物起源のオイル、または水素化ナフタレンを含有し得る。本発明の分子を投与するための他の潜在的に有用な非経口送達システムとしては、エチレン-酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透圧ポンプ、移植可能な注入システム、およびリポソームが挙げられる。吸入用の製剤は、賦形剤、例えば、ラクトースを含有し得、または、例えば、ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル、グリココラートおよびデオキシコラートを含有する水性液剤であり得、または、点鼻剤の形態でのもしくはゲルとしての投与用の、油性液剤であり得る。
【0043】
本発明のさらなる局面として、特に上記の状態および疾患の治療または予防における、薬剤としての使用のための本化合物が提供される。上記の状態および疾患の1つの治療または予防用の医薬の製造における本化合物の使用もまた、本明細書において提供される。
【0044】
静脈内注射に関して、用量レベルは、本明細書に記載される通り、少なくとも約24、36、48時間毎〜約96時間毎、特に、48、72、または96時間毎またはそれ以上の規則的な時間間隔で、約0.001 mg/kg、0.01 mg/kg〜少なくとも10 mg/kgの範囲にある。特定の態様において、静脈内注射用量レベルは、本明細書に記載される通り、約48時間毎〜約96時間毎、特に、48、72、または96時間毎またはそれ以上の規則的な時間間隔で、約0.1 mg/kg〜約10 mg/kgの範囲にある。別の特定の態様において、静脈内注射用量レベルは、本明細書に記載される通り、約48時間毎〜約96時間毎、特に、48、72、または96時間毎またはそれ以上の規則的な時間間隔で、約1 mg/kg〜約10 mg/kgの範囲にある。さらに別の特定の態様において、静脈内注射用量レベルは、本明細書に記載される通り、約48時間毎〜約96時間毎、特に、48、72、または96時間毎またはそれ以上の規則的な時間間隔で、約0.01 mg/kg〜約1 mg/kgの範囲にある。さらに別の特定の態様において、静脈内注射用量レベルは、本明細書に記載される通り、約48時間毎〜約96時間毎、特に、48、72、または96時間毎またはそれ以上の規則的な時間間隔で、約0.1 mg/kg〜約1 mg/kgの範囲にある。
【0045】
皮下注射に関して、用量レベルは、本明細書に記載される通り、約48時間毎〜約96時間毎、特に、48、72、または96時間毎またはそれ以上の規則的な時間間隔で、約0.01 mg/kg〜少なくとも10 mg/kgの範囲にある。特定の態様において、注射用量レベルは、本明細書に記載される通り、約48時間毎〜約96時間毎またはそれ以上、特に、48、72、または96時間毎の規則的な時間間隔で、約0.1 mg/kg〜約10 mg/kgの範囲にある。別の特定の態様において、注射用量レベルは、本明細書に記載される通り、約48時間毎〜約96時間毎またはそれ以上、特に、48、72、または96時間毎の規則的な時間間隔で、約1 mg/kg〜約10 mg/kgの範囲にある。さらに別の特定の態様において、注射用量レベルは、本明細書に記載される通り、約48時間毎〜約96時間毎またはそれ以上、特に、48、72、または96時間毎の規則的な時間間隔で、約0.01 mg/kg〜約1 mg/kgの範囲にある。さらに別の特定の態様において、注射用量レベルは、本明細書に記載される通り、約48時間毎〜約96時間毎またはそれ以上、特に、48、72、または96時間毎の規則的な時間間隔で、約0.1 mg/kg〜約1 mg/kgの範囲にある。
【0046】
経皮用量は、注射用量を使用して達成されるのと同様であるかまたはこれよりも低い血中濃度を提供するように、一般的には選択される。
【0047】
本発明の化合物は、唯一の活性薬剤として投与され得、またはそれらは、同一のまたは類似の治療活性を示す、およびこのような併用投与について安全かつ有効であることが確定されている、他の化合物を含む、他の薬剤と併用して投与され得る。CHFの治療のために使用される他のこのような化合物としては、脳ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、特定の神経ホルモンの形成または作用を遮断する薬物(例えば、アンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)、アンギオテンシン受容体アンタゴニスト(ARB)、アルドステロンアンタゴニスト、およびβ-アドレナリン作動性受容体遮断薬)、心収縮性を増強するための変力物質(例えば、ドブタミン、ジゴキシン)、うっ血を減少させるための血管拡張薬(例えば、ニトレート、ネシリチド)および/または利尿薬(例えば、フロセミド)、ならびに1つまたは複数の抗高血圧剤、例えば、β遮断薬、ACE阻害剤およびARB、ニトレート(二硝酸イソソルビド)、ヒドララジン、ならびにカルシウムチャネル遮断薬が挙げられる。
【0048】
上記に示した通り、薬物治療を含む医学的介入は、適切な薬物の選択および適切な投与レジメンでのその送達を必要とする。適切な投与レジメンは、十分な用量、経路、頻度、および治療期間を含む。薬物療法の最終的な目的は、治療される患者が、治療が必要とされる病理学的過程を克服することを可能にするように、作用部位での最適な薬物濃度を獲得することである。概して、薬物体内動態(drug deposition)ドラッグディスポジションの原則の基礎知識は、適切な投与レジメンの選択を容易にする。しかし、治療薬物モニタリング(TDM)が、補助ツールとしてこれに関連して使用され得、個々の患者の医学療法のための選択薬物の有効かつ安全な投与レジメンを決定することにおいて主治医を援助する。
【0049】
標的濃度および治療ウインドウ:
最適な薬物濃度の定義は、特定の薬物の薬力学的特徴に応じて変化する。例えば、ペニシリンなどの時間依存性の抗生物質についての最適な療法は、2〜4の最高濃度対MIC(最小阻止濃度)比率、および投与間隔の75%に等しいMICを超える時間を達成することに関する。例えば、ゲンタマイシンなどの濃度依存性の抗生物質について、効能は、約8〜10の最高濃度対MIC比率を得る事に関する。特定の薬物の投与に伴う微妙な差異に関係なく、薬物療法は、標的種における薬物の薬物動態学、薬力学および毒性プロファイルに基づいて前もって決定された「治療ウインドウ」の制限内で標的血漿中濃度(これは、しばしば、作用部位での濃度を表す)を達成しようとする。このウインドウの幅は、種々の薬物および種について変化する。最小有効濃度と最小毒性濃度との差が小さい(2〜4倍)場合、治療ウインドウは狭いと言われる。対照的に、有効濃度と毒性濃度との間に大きな差がある場合、薬物は、広い治療ウインドウを有すると考えられる。狭い治療ウインドウを有する薬物の例は、ジゴキシンであり、ここで、平均の有効濃度と毒性濃度との差は2または3倍である。他方で、アモキシシリンは、広い治療域を有し、患者の過剰投与は、毒性問題を一般的に伴わない。
【0050】
薬物応答性の変動性:
薬物応答性に関しての同一種の健常被験体間の顕著な変動性は、一般的である。さらに、病状は、臓器系および機能(例えば、腎臓、肝臓、含水量)に影響を与える可能性を有し、これは、次に、薬物応答性に影響を与え得る。これは、次に、薬物が投与される病気の個体における薬物応答性の差異の増加に寄与する。さらに別の関連する問題は、同時の複数の薬物の投与に関し、これは、一方または両方の薬物に対する応答性の変化をもたらし得る薬物動態学的相互作用を生じさせる。要約すると、生理学的(例えば、年齢)、病理学的(例えば、疾患効果)、および薬理学的(例えば、薬物相互作用)因子は、動物における薬物のディスポジションを変化させ得る。その結果として起こる個体間の変動性の増加は、狭い治療指数を有する薬物の治療失敗または毒性をもたらし得る。
【0051】
本発明の治療レジメンから利益を得る患者集団は、非常に多様であり、例えば、腎臓機能障害を有する患者がよい候補であり、何故ならば、タンパク質治療剤の連続的なレベルは、しばしば、腎糸球体沈着物と関連するためである。本発明において記載される、一定の血漿中濃度を維持しない治療レジメンの有用性は、従って、既存の機能の減少が有害であり得る腎機能障害を有する患者に非常に有利である。同様に、本明細書に記載される通り、GGF2などの治療剤への短時間かつ断続的な曝露は、増殖因子での慢性的かつ連続的な刺激に対して応答性である腫瘍タイプを有する患者に有利であり得る。本明細書に記載される断続的な療法から特に利益を得る場合がある他の患者は、神経鞘腫および他の末梢性ニューロパチーを有する患者である。断続的な投与が、種々の組織の連続的な副作用関連刺激を維持しないことにおいて顕著な利点を有し得ることが、本発明の利点である。
【0052】
血清中薬物濃度を測定する目的での血液試料採取の適切なタイミング、ならびに報告された濃度の解釈は、測定される薬物の薬物動態学的性質の考慮を必要とする。これらの特性の議論において使用されるいくつかの用語を、以下の段落において定義する。
【0053】
半減期:
間隔の最初に存在する血清中濃度が50%減少するために必要とされる時間。おおよその半減期を知ることは、臨床医にとって必須であり、何故ならば、それは、経口剤での最適な投与スケジュール、血清中濃度の用量内変動、および定常状態を達成するために必要とされる時間を決定するためである。
【0054】
手短に記載すると、多数の薬物動態研究がGGF2について行われた。GGF2についての典型的な半減期は、静脈内(iv)経路については4〜8時間であり、一方、皮下(sc)投与されたGGF2の半減期は11〜15時間である。Cmax、AUC、TmaxおよびT1/2を下記の表1および2に示す。半減期がこれらの方法によって正確に測定されるには長すぎる場合、時間の代わりにダッシュを記載する。
【0055】
表1および表2
付録7
125I-rhGGF2の単回の静脈内または皮下への投与の後の雄性Sprague-Dawleyラットの血漿中の125I-rhGGF2由来の放射能の平均薬物動態
群1−i.v. 群2−s.c.
125I-rhGGF2の単回の静脈内または皮下への投与の後の雄性Sprague-Dawleyラットの血漿中の125I-rhGGF2由来の放射能の平均薬物動態
付録9
群1−i.v. 群2−s.c.
【0056】
投与後の血漿中濃度を、ivおよびsc投与について、それぞれ、図6および7に示す。図6および7に示される通り、Cmaxは、最大血漿中濃度(投与後のいずれかの時点での血漿中において測定される最大濃度)を指し;AUC無限は、無限時間までの濃度対曲線下の面積を指し(この方法は、アッセイ法が検出限界を有することを予想するために使用される);AUC0-tは、血漿中濃度下の面積を指し(時間ゼロから最後までの測定可能な濃度の時間曲線);任意の方法によるAUCは、動物への全曝露の推定値を指し;かつTmaxは、最大血漿中濃度の中央時間を指す。
【0057】
表および図から明らかである通り、4日毎、1日おき毎または毎日の投与でのいずれかの投与経路によって定常状態治療レベルを維持することは、可能でない。表11に記載のデータによって反映された通り、1日後に、それよりずっと前でさえ、レベルは測定不能である。
【0058】
(表11)静脈内投与後のGGF2についてのPKパラメータ*
*ELISAによって測定された血漿中GGF2濃度から得られたデータより取得。報告されたデータは平均値±SDである。
【0059】
定常状態:
定常状態血清中濃度は、各投与により繰り返される値であり、所定の時間間隔における投与される薬物の量と排出される量との平衡状態を示す。任意の薬物での長期間投与の間、その平均定常状態血清中濃度の2つの主要な決定要因は、薬物が投与される速度、および特定の患者における薬物の総クリアランスである。
【0060】
最高血清中濃度:
血清中濃度対時間曲線上の最大濃度のポイント。最高血清中濃度の正確な時間は、予測するのが困難であり、何故ならば、それは、インプット速度とアウトプット速度との間の複雑な関係を表すためである。
【0061】
トラフ血清中濃度:
投与間隔の間に見られる最小血清中濃度。トラフ濃度は、次の用量を投与する直前の期間において理論上存在する。
【0062】
吸収:
薬物が身体に入るプロセス。血管内投与された薬物は、完全に吸収されるが、血管外投与は、吸収の種々の程度および速度をもたらす。吸収速度と排出速度との関係は、血流中の薬物濃度の主な決定要因である。
【0063】
分布:
血管内腔から血管外液および組織へのならびにそれに従って標的受容体部位への、全身的に利用可能な薬物の分散。
【0064】
治療域:
高度の効能と低リスクの用量関連毒性とに関連する血清中薬物濃度のその範囲。治療域は、統計的概念であり:それは、大部分の患者における治療応答と関連する濃度範囲である。結果として、ある患者は、その範囲の下限未満の血清中濃度で治療応答を示し、一方、他の患者は、治療的利益について上限を超える血清中濃度を必要とする。
【0065】
試料収集の正確なタイミングが重要であり、何故ならば、薬物療法は、しばしば、血清中濃度測定に基づいて修正されるためである。試料が採取される前に、吸収および分布段階は完了しており、定常状態濃度が達成されているべきである。定常状態濃度が存在する前に得られるレベルは、誤って低い場合があり;このような結果に基づいて投与量を増加させることは、毒性濃度を生じさせ得る。さらに、比較測定を行う場合、試料採取時間が一定であることが重要である。
【0066】
投与量に関しての血液試料のタイミングは、血清中濃度結果の正確な解釈のために重要である。試料が薬物投与に関して採取される時間の選択は、薬物の薬物動態特性、その剤形、および試料をアッセイする臨床的理由(例えば、効能の評価または可能性のある薬物誘発毒性の解明)に基づくべきである。短い半減期を有する薬物の型通りの血清中濃度モニタリングについて、定常状態ピークおよびトラフ試料の両方が、血清中濃度プロファイルを特徴付けられるために収集され得;長い半減期を有する薬物については、定常状態トラフ試料のみで、一般的には十分である。
【0067】
「うっ血性心不全」とは、心臓が、安静時にまたは運動で正常な血液拍出量を維持することができないようにするか、または正常な心充満圧の設定で正常な心拍出量を維持することができないようにする、心機能障害を意味する。約40%またはそれ未満の左心室駆出率が、うっ血性心不全を示す(比較として、約60%パーセントの駆出率が正常である)。うっ血性心不全にある患者は、周知の臨床症状および徴候、例えば、頻呼吸、胸水、安静時または運動での疲労、収縮不全、および浮腫を示す。うっ血性心不全は、周知の方法によって容易に診断される(例えば、"Consensus recommendations for the management of chronic heart failure." Am. J. Cardiol., 83(2A):1A-38-A, 1999を参照のこと)。
【0068】
相対的重篤度および疾患進行は、周知の方法、例えば、身体検査、心エコー検査、放射性核種イメージング、侵襲性血行動態モニタリング、磁気共鳴血管造影、および酸素摂取量研究と組み合わされたトレッドミル運動負荷試験を使用して評価される。
【0069】
「虚血性心疾患」とは、心筋の酸素要求と酸素供給の妥当性との間の不均等から生じる任意の障害を意味する。大抵の虚血性心疾患は、アテローム性動脈硬化症または他の血管障害において生じるように、冠状動脈の狭窄から生じる。
【0070】
「心筋梗塞」とは、心筋が瘢痕組織によって置き換えられている領域において虚血性疾患が生じるプロセスを意味する。
【0071】
「心毒性」とは、心筋細胞を直接的にまたは間接的に害することまたは死滅させることによって心臓機能を低下させる化合物を意味する。
【0072】
「高血圧症」とは、医療専門家(例えば、医師または看護師)によって、正常よりも高く、うっ血性心不全を発症する高い危険性を有すると考えられる血圧を意味する。
【0073】
「治療する」とは、ニューレグリンまたはニューレグリン様ペプチドの投与が、治療がない場合に生じる疾患進行と比較して、統計的に有意な様式で、治療の間、うっ血性心不全の進行を遅らせるかまたは阻害することを意味する。周知の指標、例えば、左心室駆出率、運動能力、および上記に列挙されるような他の臨床検査、ならびに生存率および入院率が、疾患進行を評価するために使用され得る。治療が統計的に有意な様式で疾患進行を遅らせるまたは阻害するか否かは、当技術分野において周知である方法によって判定され得る(例えば、SOLVD Investigators, N. Engl. J. Med. 327:685-691, 1992およびCohn et al., N. Engl. J Med. 339:1810-1816, 1998を参照のこと)。
【0074】
「予防する」とは、うっ血性心不全を発症する危険性がある哺乳動物においてうっ血性心不全の発症を最小限にするかまたは部分的にまたは完全に抑制することを意味する("Consensus recommendations for the management of chronic heart failure." Am. J. Cardiol., 83(2A):1A-38-A, 1999に定義される通り)。うっ血性心不全がニューレグリンまたはニューレグリン様ペプチドの投与によって最小限にされるかまたは予防されるかどうかの判定は、公知の方法によって、例えば、SOLVD Investigators、前記、およびCohnら、前記に記載のものなどによって行われる。
【0075】
「治療有効量」という用語は、研究者、獣医、医師あるいは他の臨床医によって試みられている組織、システム、動物またはヒトの生物学的または医学的応答を誘発する薬物または薬剤の量を意味するように意図される。治療的変化は、取り組まれる疾患または状態を緩和すると予想される方向の、測定される生化学的特徴の変化である。より特定的には、「治療有効量」は、医学的状態または虚弱に関連する症状を減少させるに、特定の身体機能を害する疾患または障害において身体機能を正常化するに、または疾患の臨床的に測定されるパラメータの1つまたは複数の改善を提供するのに十分な量である。
【0076】
「予防有効量」という用語は、研究者、獣医、医師あるいは他の臨床医によって組織、系、動物またはヒトにおいて予防されるよう試みられる生物学的または医学的事象の発生の危険性を防ぐかまたは減らす薬学的薬物の量を意味するように意図される。
【0077】
「治療ウインドウ」という用語は、治療的変化を達成するための最小量と、患者に対して毒性直前の応答である応答を生じさせる最大量との間の用量の範囲を意味するように意図される。
【0078】
「うっ血性心不全の危険性がある」とは、喫煙するか、肥満であるか(即ち、理想体重を20%またはそれ以上超えている)、心毒性化合物(例えば、アントラサイクリン抗生物質)へ曝露されたかまたは曝露される予定であるか、または、高血圧、虚血性心疾患、心筋梗塞、心不全のリスクを増加させることが公知である遺伝的欠陥、心不全の家族歴、心筋肥大、肥大型心筋症、左室収縮機能障害、冠動脈バイパス手術、血管疾患、アテローム性動脈硬化症、アルコール症、心膜炎、ウイルス感染症、歯肉炎、もしくは摂食障害(例えば、神経性食欲不振症または過食症)を有する(または有した)か、またはアルコールもしくはコカイン常用者である個体を意味する。
【0079】
「心筋菲薄化の進行を低下させる」とは、心室壁の厚みが維持または増加されるように心室の心筋細胞の肥大を維持することを意味する。
【0080】
「心筋アポトーシスを阻害する」とは、ニューレグリン治療が、未処理心筋細胞と比較して、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%、なおより好ましくは少なくとも25%、なおより好ましくは少なくとも50%、なおより好ましくは少なくとも75%、最も好ましくは少なくとも90%、心筋細胞の死滅を阻害することを意味する。
【0081】
「ニューレグリン」または「NRG」とは、NRG-1、NRG-2、もしくはNRG-3遺伝子または核酸(例えば、cDNA)によってコードされ、ErbB2、ErbB3、もしくはErbB4受容体、またはそれらの組み合わせへ結合しこれを活性化するペプチドを意味する。
【0082】
「ニューレグリン-1」、「NRG-1」、「ヘレグリン」、「GGF2」、または「p185erbB2リガンド」とは、別の受容体(ErbB1、ErbB3またはErbB4)と対形成されるとErbB2受容体へ結合し、米国特許第5,530,109号;米国特許第5,716,930号;および米国特許第7,037,888号に記載のp185erbB2リガンド遺伝子によってコードされるペプチドを意味し、これらの各々はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0083】
「ニューレグリン様ペプチド」とは、ニューレグリン遺伝子によってコードされるEGF様ドメインを有し、ErbB2、ErbB3、ErbB4、またはその組み合わせへ結合しこれを活性化する、ペプチドを意味する。
【0084】
「上皮増殖因子様ドメイン」または「EGF様ドメイン」とは、ErbB2、ErbB3、ErbB4、またはその組み合わせへ結合しこれを活性化し、Holmes et al., Science 256:1205-1210, 1992;米国特許第5,530,109号;米国特許第5,716,930号;米国特許第7,037,888号;Hijazi et al., Int. J. Oncol. 13:1061-1067, 1998;Chang et al., Nature 387:509-512, 1997;Carraway et al., Nature 387:512-516, 1997;Higashiyama et al., J Biochem. 122:675-680, 1997;およびWO 97/09425に開示されるようなEGF受容体結合ドメインと構造的類似性を有する、NRG-1、NRG-2、またはNRG-3遺伝子によってコードされるペプチドモチーフを意味する。NRG-1遺伝子によってコードされるEGFLドメイン1〜6に対応する核酸配列およびアミノ酸配列については、図9〜14を参照のこと。
【0085】
「抗ErbB2抗体」または「抗HER2抗体」とは、ErbB2(ヒトにおいてHER2としても公知)受容体の細胞外ドメインへ特異的に結合し、ニューレグリン結合によって開始されるErbB2(HER2)依存性シグナル伝達を妨げる、抗体を意味する。
【0086】
「形質転換細胞」とは、ニューレグリンまたはニューレグリンEGF様ドメインを有するペプチドをコードするDNA分子が、組換えDNA技術または公知の遺伝子治療技術によって導入されている細胞(または細胞の子孫)を意味する。
【0087】
「プロモーター」とは、転写を指示するのに十分な最小配列を意味する。プロモーター依存性遺伝子発現を、細胞型または生理学的状態(例えば、正常酸素条件に対して低酸素条件)に基づいて制御可能にするか、または外部シグナルもしくは薬剤によって誘導可能にするのに十分である、プロモーター配列も、本発明に含まれ;このような配列は、天然遺伝子の5'または3'または内部領域に配置され得る。
【0088】
「機能的に連結された」とは、ペプチドをコードする核酸(例えば、cDNA)および1つまたは複数の調節配列が、適切な分子(例えば、転写活性化因子タンパク質)が調節配列へ結合されると遺伝子発現を可能にするように結合されていることを意味する。
【0089】
「発現ベクター」とは、例えば、バクテリオファージ、アデノウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、または人工染色体由来の、遺伝子操作されたプラスミドまたはウイルスを意味し、これは、プロモーターへ機能的に連結されたペプチド(例えば、ニューレグリン)コード配列を宿主細胞へ導入するために使用され、その結果、コードされるペプチドまたはペプチドが宿主細胞内で発現される。
【0090】
特に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同一の意味を有する。
【0091】
文書、行為、材料、装置、物品などの議論は、本発明についての背景を提供する目的のためにのみ、本明細書に含まれる。これらの事項のいずれかまたは全てが、先行技術の基礎の部分を形成したこと、または本出願の各請求項の優先日前に、本発明に関する分野における一般知識であったことは、示唆または表示されるものではない。
【0092】
他の態様
本発明をその特定の態様に関連して説明したが、本発明はさらなる改変が可能であることが理解され、本出願は、本発明の任意のバリエーション、使用、または適応を含むように意図され、これらは、一般的に本発明の原理に従い、本発明が属する分野内の公知または通常のプラクティス内の本開示からのこのような逸脱を含み、本明細書上記に記載の必須の特徴へ適用され得、添付の特許請求の範囲の範囲に入る。
【0093】
下記の実施例は、当業者が本発明ならびにその原理および利点をよりよく理解する助けとなる。これらの実施例は、本発明を説明し、その範囲を限定しないことが、意図される。
【実施例】
【0094】
本明細書において上記の通り、ニューレグリンは、上皮増殖因子(EGF)に構造的に関連する増殖因子のファミリーであり、心臓の正常な発達に必須である。ニューレグリンが、心不全、心筋梗塞、化学療法毒性およびウイルス性心筋炎を含む心疾患の治療についての可能性のある治療剤であることを証拠は示唆している。
【0095】
ラットにおけるうっ血性心不全の左前下行枝(LAD)動脈結紮モデルにおいて投与を定義するために、本明細書に記載の研究を役立てた。多数のニューレグリンスプライス変異体をクローニングし、作製した。以前の報告(Liuら, 2006)からのEGF様ドメイン(EGF-ld)からなるニューレグリン断片を、グリア成長因子2(GGF2)として公知の全長ニューレグリン、およびIgドメインを有するEGF様ドメイン(EGF-Ig)と比較した。雄性および雌性Sprague-DawleyラットにLAD動脈結紮を施した。結紮の7日後に、ラットを、毎日、ニューレグリンで静脈内(iv)処置した。心機能を心エコー検査によってモニタリングした。
【0096】
第1研究は、等モル量のEGF-ldまたはGGF2(GGF2について、これは、0.0625および0.325 mg/kgへ計算される)での投与の10日を比較した。GGF2処置は、投与期間の終了時でEGF-ldがもたらしたよりも、駆出率(EF)および短縮率(FS)において有意に(p<0.05)より大きな改善をもたらした。第2研究は、等モル濃度でのGGF2とEGF-ldおよびEGF-Igとの20日を比較した。GGF2処置は、有意に改善されたEF、FSおよびLVESDをもたらした(p<0.01)。心臓生理の改善は、EGF-ldまたはEGF-Igのいずれによっても、この期間の間、維持されなかった。第3研究は、GGF2(3.25 mg/kg)での20日間について毎日(q 24時間)、1日おき毎(q 48時間)および4日毎(q 96時間)の投与を比較した。3つ全てのGGF2治療レジメンが、EF、ESVおよびEDVを含む心臓生理の有意な改善をもたらし、効果は、投与の終了後10日間維持された。本明細書に示された研究は、GGF2をニューレグリンリード化合物として確認し、これを投与するための最適な投与レジメンを確立する。
【0097】
本明細書において示される通り、本研究は、公開されたニューレグリン断片(Liuら, 2006)と比較してのGGF2の相対的な効能を確立し、用量範囲および投与頻度研究を開始し、以前報告された通りにBSA賦形剤が必要とされるかどうかを決定する。
【0098】
方法および材料
GGF2 のIgEGF(Ig154Y)ドメイン(EGF-Ig)のクローニング、発現および精製
DNA:
IgEGFドメインを、既存のGGF2 cDNAから増殖し、Nde1およびBamH1制限部位を使用してpet 15bベクター(Novagenカタログ番号69661-3)へクローニングした。得られるタンパク質は、21.89 kda+約3kDa Hisタグ(=約25 kDa)である。
【0099】
IgEgf pet 15クローンのDNA配列:
下線が引かれた配列は、増幅のために使用されたプライマーである。太字の配列は、petベクターへ配列を挿入するために使用されたクローニング部位である(Nde1およびBamH1)。
【0100】
pet15bベクターからの最終的な翻訳されたタンパク質を、以下に示す。ベクター部分に下線が引かれている。
【0101】
タンパク質発現:
LB培地中において25℃で24時間Overnight Express Autoinduction System(Novagen)を使用して、タンパク質発現のためにクローンをBl21細胞へ形質転換した。
【0102】
タンパク質再折り畳み:
Novagen Protein Refolding Kit, 70123-3より適応させた。
【0103】
タンパク質精製:
His TRAPカラム−製造業者の説明書通り。
【0104】
ウエスタンブロッティング:
タンパク質発現をウエスタンブロッティングによって評価した。Hisタグを有する得られるバンドは、約25 kDに移動する。
【0105】
4-20%標準ゲル(criterion gel)(Biorad)をタンパク質分離のために使用し、続いて、Protranニトロセルロース紙(0.1μm細孔径、Schliecher and Schull製)へ転写した。ブロットをTBS-T(0.1%)中5%ミルクでブロッキングする。RTで1時間(4℃で一晩でも機能する)、TBS-T中5%ミルク中において一次抗体(抗EGFヒトNRG1-α/HRG1-αアフィニティー精製ポリクローナルAbカタログ番号AF-296-NA、R&D systems製)1:1000希釈。ウサギ抗ヤギHRP二次抗体を、RTで1時間、TBS-T中5%ミルク中において1:10,000希釈で使用した。全ての洗浄をTBS-T中において行った。
【0106】
Ig154Yについての精製プロトコール:
Novagen製のOvernight Express Autoinduction System 1(カタログ番号71300-4)中において25℃で、培養物を増殖させた。培養物を遠心沈殿させ、ペレットを取り出し、可溶化し、再折り畳みし、Ig154Yを得、その後、精製を行い得る。
【0107】
抽出、可溶化および再折り畳みのための材料:
10×洗浄バッファー:200mM Tris-HCl, pH 7.5、100mM EDTA、10% Triton X-100
10×可溶化バッファー:500mM CAPS, pH 11.0
50×透析バッファー:1M Tris-HCl, pH 8.5
30%N-ラウリルサルコシン-粉末(Sigma 61739-5G)として添加。
1M DTT
還元型グルタチオン(Novagen 3541)
酸化型グルタチオン(Novagen 3542)
【0108】
A.細胞溶解および封入体の調製
- 細胞ペレットを1×洗浄バッファー30ml中に解凍し、再懸濁した。
- プロテアーゼ阻害剤(50ml当たり10×を25ul)、DNase(50ml当たり1mg/mlを200ul)およびMgCl2(50ml当たり1Mを500ul)を、懸濁液へ添加した。
- 氷上で冷却しながら超音波処理によって細胞を溶解した。
- 超音波処理に続いて、封入体を12分間の10000×gでの遠心分離によって収集した。
- 上澄みを除去し、ペレットを、1×洗浄バッファー30ml中に完全に再懸濁した。
- 工程4を繰り返した。
- ペレットを、1×洗浄バッファー30ml中に完全に再懸濁した。
- 封入体を10分間の10000×gでの遠心分離によって収集した。
【0109】
B.可溶化および再折り畳み
- 処理される封入体の湿重量から、10〜15mg/mlの濃度で封入体を再懸濁するために必要な1×可溶化バッファーの量を計算する。計算された体積が250mlを超える場合、250mlを使用する。
- 室温で、0.3%N-ラウリルサルコシン(さらなる最適化において必要な場合には、2%までが使用され得る)(300mg/100mLバッファー)および1mM DTTが補われた計算された体積の1×可溶化バッファーを調製する。
- 工程2からの計算された量の1×可溶化バッファーを封入体へ添加し、穏やかに混合する。大きな細片は、ピペット操作を繰り返すことによって破壊され得る。
- 25℃、50〜100 rpmで4〜5時間(さらなる最適化において必要な場合には、さらに長く)、リフリジレーターシェーカー中においてインキュベートする。
- 室温での10分間の10000×gでの遠心分離によって清澄化する。
- 可溶性タンパク質を含有する上澄みを、清潔なチューブへ移す。
【0110】
C.タンパク質再折り畳みのための透析プロトコール
- 可溶化タンパク質の透析用の必要とされる体積のバッファーを調製する。透析は、試料の体積の50倍を超える少なくとも2回のバッファー交換を伴って行われるべきである。50×透析バッファーを所望の体積で1×へ希釈し、0.1mM DTTを補う。
- 4℃で少なくとも4時間透析する。バッファーを交換し、継続する。さらに4時間またはそれ以上の間、透析する。
- DTTを省略することを除いては、工程1において決定された通りに、新たな透析バッファーを調製する。
- 透析バッファーにDTTは含まれずに、2つのさらなる変更(各々、数分 4時間)によって透析を継続する。
【0111】
D.ジスルフィド結合形成を促進するための酸化還元再折り畳みバッファー
- 1×透析バッファー中において1mM還元型グルタチオン(1.2g/4L)および0.2mM酸化型グルタチオン(0.48g/4L)を含有する透析バッファーを調製する。体積は、可溶化タンパク質試料の体積よりも25倍大きいべきである。4℃まで冷やす。
- 工程1からの再折り畳みされたタンパク質を4℃で一晩透析する。
【0112】
精製のための材料
全ての手順を4℃で行う。
化学物質:
トリズマ塩酸塩(Sigma T5941-500G)
塩化ナトリウム5M溶液(Sigma S6546-4L)
水酸化ナトリウム10N(JT Baker 5674-02)
イミダゾール(JT Baker N811-06)
【0113】
A.HISPrep FF 16/10カラム-20ml(GE Healthcare)での精製
バッファーA:20mM Tris-HCL+500mM NaCl pH 7.5
バッファーB:バッファーA+500mMイミダゾール pH 7.5
カラムの平衡:バッファーA- 5CV、バッファーB- 5CV、バッファーA- 10CV
0.5ml/分で20mlカラム上での1実行当たり20mlの試料をロードする。
カラムを5CVのバッファーAで洗浄する。
カラムを5CVの280mMイミダゾールで溶出する。
10CVの100%バッファーBでクリーニングする。
15CVのバッファーAで平衡させる。
SDS-page銀染色でフラクションを分析する。
Ig154Yを含むフラクションをプールする。
【0114】
B.Hisタグ除去
Hisタグの除去を、Novagen製のThrombin Cleavage Capture Kit(カタログ番号69022-3)で行う。前もっての試験に基づいて、最良の条件は、Ig154Yタンパク質10μg毎について1μl当たり0.005Uの酵素でのトロンビンを用いて室温で4時間である。4時間のインキュベーション後、トロンビン酵素1単位当たりストレプトアビジンアガローススラリー16μlを添加する。室温で30分間試料を揺り動かさせる。スピン濾過または滅菌濾過(体積に依存する)によってIg154Yを回収する。完全な切断を、EGFおよび抗Hisウエスタンブロッティングによって測定する。
【0115】
C.Ig154Yの濃縮
Millipore Centriprep 3000 MWCO 15ml濃縮器(Ultracel YM-3, 4320)を用いて、所望の濃度へ調節する。
【0116】
D.最終バッファー中の保存
20mM Tris+500mM NaCl pH 7.5および1×PBS+0.2% BSA中において保存する。
【0117】
156Q(EGF-Id)[NRG1b2 EGFドメイン(156Q)]のクローニング、発現および精製
DNA:
NRG1b2 egfドメインを、ヒト脳cDNAからクローニングし、Nde1およびBamH1 制限部位を使用してpet 15bベクター(Novagenカタログ番号69661-3)へクローニングした。得られるタンパク質は、6.92 kda+約3kDa Hisタグ(=9.35 kDa)である。
【0118】
NRG1b2 egf pet 15クローンのDNA配列
下線が引かれた配列は、クローニング部位(Nde1およびBamH1)である。
【0119】
pet15bベクターからの最終的な翻訳されたタンパク質を、以下に示す。egfドメインは、緑色で強調されている。
計算されたpI/Mw:7.69 / 9349.58
【0120】
タンパク質発現
LB培地中において25℃で24時間Overnight Express Autoinduction System(Novagen)を使用して、タンパク質発現のためにクローンをBl21細胞へ形質転換した。発現は、主に不溶性の封入体においてである。
【0121】
タンパク質再折り畳み:
Novagen Protein Refolding Kit, 70123-3から適応させた。
【0122】
タンパク質精製:
タンパク質を2.5ml/分でアニオン交換カラムDEAE上へロードする。EGF-Id断片は素通り画分に残り、一方、汚染物質は結合し、より高い塩で溶出される。ローディングおよび洗浄バッファーは、50mM Tris pH7.9であり、溶出バッファーは、1M NaClを含む50mM Tris pH7.9である。素通り画分をプールし、Millipore製のCentriprep YM-3で濃縮する。
【0123】
ウエスタンブロッティング:
タンパク質発現をウエスタンブロッティングによって評価する。得られるバンドは、約10kDに移動する。
【0124】
4-20%基準ゲル(Biorad)をタンパク質分離のために使用し、続いて、Protranニトロセルロース紙(0.1μm細孔径、Schliecher and Schull製)へ転写した。ブロットをTBS-T(0.1%)中5%ミルクでブロッキングした。RTで1時間(4℃で一晩でも機能する)、TBS-T中5%ミルク中において一次抗体(抗EGFヒトNRG1-α/HRG1-αアフィニティー精製ポリクローナルAbカタログ番号AF-296-NA、R&D systems製)1:1000希釈。ウサギ抗ヤギHRP二次抗体を、RTで1時間、TBS-T中5%ミルク中において1:10,000希釈で使用した。全ての洗浄をTBS-T中において行った。
【0125】
NRG-156Qについての精製プロトコール
Novagen製のOvernight Express Autoinduction System 1(カタログ番号71300-4)中において25℃で、培養物を増殖させる。ほんの僅かだけ可溶性のNRG-156Q(EGF-Id)が、存在する。培養物を遠心沈殿させ、ペレットを取り出し、可溶化し、再折り畳みし、NRG-156Qを得、その後、精製を行い得る。
【0126】
抽出、可溶化および再折り畳みのための材料:
10×洗浄バッファー:200mM Tris-HCl, pH 7.5、100mM EDTA、10% Triton X-100
10×可溶化バッファー:500mM CAPS, pH 11.0
50×透析バッファー:1M Tris-HCl, pH 8.5
30%N-ラウリルサルコシン-粉末(Sigma 61739-5G)として添加
1M DTT
還元型グルタチオン(Novagen 3541)
酸化型グルタチオン(Novagen 3542)
【0127】
A.細胞溶解および封入体の調製
- 細胞ペレットを1×洗浄バッファー30ml中に解凍し、再懸濁する。完全な再懸濁のために、必要な場合は混合する。
- プロテアーゼ阻害剤(50ml当たり10×を25ul)、DNase(50ml当たり1mg/mlを200ul)およびMgCl2(50ml当たり1Mを500ul)を、懸濁液へ添加する。
- 超音波処理によって細胞を溶解する。
a.この工程の間、細胞を氷上で冷却する。
b.懸濁液の粘着性が減少するまで、スクエアチップを使用して、10回、レベル6で30秒間超音波処理する。各超音波処理の間、懸濁液を氷上において60秒間冷却させる。超音波処理の際、50mlコニカルチューブ中において体積を40ml以下に維持する。
- 完了したら、各懸濁液を、F-16/250ローターでの使用のために250mlアングルドネック(angled neck)遠心分離機ボトルへ移す。
- 封入体を12分間の10,000×gでの遠心分離によって収集する。
- 上澄みを除去し(可溶性タンパク質の分析のために試料を保持する)、ペレットを1×洗浄バッファー30ml中に完全に再懸濁する。
- 工程4における通り遠心分離を繰り返し、ペレットを保持する。
- 再度、ペレットを1×洗浄バッファー30ml中に完全に再懸濁する。
- 封入体を10分間の10,000×gでの遠心分離によって収集する。上澄みをデカンテーションし、逆さにしたチューブをペーパータオル上で軽くたたくことによって、最後の微量の液体を除去する。
【0128】
B.可溶化および再折り畳み
- 処理される封入体の湿重量から、10〜15mg/mlの濃度で封入体を再懸濁するために必要な1×可溶化バッファーの量を計算する。計算された体積が250mlを超える場合、250mlを使用する。
- 室温で、0.3%N-ラウリルサルコシン(さらなる最適化において必要な場合には、2%までが使用され得る)(300mg/100mLバッファー)および1mM DTTが補われた計算された体積の1×可溶化バッファーを調製する。
- 工程2からの計算された量の1×可溶化バッファーを封入体へ添加し、穏やかに混合する。大きな細片は、ピペット操作を繰り返すことによって破壊され得る。
- 25℃、50〜100 rpmで4〜5時間、リフリジレーターシェーカー中においてインキュベートする。
- 室温での10分間の10,000×gでの遠心分離によって清澄化する。
【0129】
C.タンパク質再折り畳みのための透析プロトコール
- 可溶化タンパク質の透析用の必要とされる体積のバッファーを調製する。透析は、試料の体積の50倍を超える少なくとも2回のバッファー交換を伴って行われるべきである。
- 50×透析バッファーを所望の体積で1×へ希釈し、0.1mM DTTを補う。
- 4℃で少なくとも4時間透析する。バッファーを交換し、継続する。さらに4時間またはそれ以上の間、透析する。
- DTTを省略することを除いては、工程1において決定された通りに、新たな透析バッファーを調製する。
- 透析バッファーにDTTは含まれずに、2つのさらなる変更(各々、数分 4時間)によって透析を継続する。
【0130】
D.ジスルフィド結合形成を促進するための酸化還元再折り畳みバッファー
- 1×透析バッファー中において1mM還元型グルタチオン(1.2g/4L)および0.2mM酸化型グルタチオン(0.48g/4L)を含有する透析バッファーを調製する。体積は、可溶化タンパク質試料の体積よりも25倍大きいであるべきである。4℃まで冷やす。
- 工程1からの再折り畳みされたタンパク質を4℃で一晩透析する。
【0131】
精製のための材料
全ての手順を4℃で行う。
化学物質:
トリズマ塩酸塩(Sigma T5941-500G)
塩化ナトリウム5M溶液(Sigma S6546-4L)
水酸化ナトリウム10N(JT Baker 5674-02)
【0132】
E.DEAE HiPrep 16/10アニオンカラム-20ml(GE Healthcare)での精製
バッファーA:50mM Tris-HCL pH 8.0
バッファーB:50mM Tris-HCLおよび1M NaCl pH 8.0
カラムの平衡:バッファーA- 5CV、バッファーB- 5CV、バッファーA- 10CV
- 2.0ml/分で20mlカラム上での1実行当たり50mlの試料をロードする(NRG-156(EGF-Id)は素通り画分中にある)。
- 20mlカラムを5CVのバッファーAで洗浄する。
20mlカラムを100%Bへの勾配で5CVにおいて用いる。これによって汚染物質が溶出除去される。
- 10CVの100%バッファーBでクリーニングする。
- 15CVのバッファーAで平衡させる。
- SDS-page銀染色でフラクションを分析する。
- NRG-156Q(10kDa)を含むフラクションをプールする。
【0133】
F.NRG-156(EGF-Id)の濃縮
- Millipore Centriprep 3000 MWCO 15ml濃縮器(Ultracel YM-3, 4320)を用いて濃縮する。
- 濃度を測定するためにModified Lowry Protein Assayを使用する。
【0134】
G.Hisタグ除去
Hisタグの除去を、Novagen製のThrombin Cleavage Capture Kit(カタログ番号69022-3)で行う。前もっての試験に基づいて、最良の条件は、NRG-156Q(EGF-Id)タンパク質10μg毎について1μl当たり0.005Uの酵素でのトロンビンを用いて室温で4時間である。4時間のインキュベーション後、トロンビン酵素1単位当たりストレプトアビジンアガローススラリー16μlを添加する。室温で30分間試料を揺り動かさせる。スピン濾過または滅菌濾過(体積に依存する)によってNRG-156Qを回収する。完全な切断を、EGFおよび抗Hisウエスタンによって測定する。
【0135】
H.最終バッファー中の保存
4℃で1×PBSおよび0.2% BSA中に保存する。
【0136】
GGF2の発現および精製
GGF2についてのクローニングおよび背景情報については、米国特許番号5,530,109を参照のこと。細胞株は米国特許番号6,051,401に記載されている。米国特許番号5,530,109および米国特許番号6,051,401の各々の全内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0137】
CHO-(Alpha2HSG)-GGF細胞株:
この細胞株を、無血清条件においてrhGGF2の高い産生速度を支持するのに十分な量のフェチュイン(ヒトα2HSG)を産生するように設計した。
【0138】
Cho(dhfr-)細胞に、下記に示される発現ベクター(pSV-AHSG)をトランスフェクションした。安定細胞をアンピシリン選択下で増殖させた。細胞株を名付けた(dhfr-/α2HSGP)。次いで、カチオン性脂質DMRIE-C試薬(Life Technologies #10459-014)を使用して、ヒトGGF2についてのコード配列を含む下記に示されるpCMGGF2ベクターを、dhfr-/α2HSGP細胞にトランスフェクションした。
【0139】
安定で高産生性の細胞株を、4〜6週間間隔で、メトトレキサート(100 nM、200 nM、400 nM、1μM)を使用する標準プロトコール下で誘導した。細胞を、血清含有培地から徐々に引き離した。標準的な限界希釈法によって、クローンを単離した。培地要件の詳細は、上記の報告に見られる。
【0140】
転写を増強するために、GGF2コード配列を、EBV BMLF-1介在配列(MIS)の後に配置した。下記の線図を参照のこと。
【0141】
MIS配列(SEQ ID NO:20)
【0142】
GGF2コード配列(SEQ ID NO:1)-
【0143】
GGF2タンパク質配列(SEQ ID NO:2)-
【0144】
GGF2産生:
2.2×106細胞/mLのGGF2の1つのバイアルを100mlのAcorda培地1(表3を参照のこと)中へ解凍し、産生容器に接種するのに十分な数に達するまで拡大させた。細胞を、2リットル通気性ローラーボトル中において、1.0×105細胞/mLで、産生培地Acorda培地2(表4を参照のこと)へ接種した。ローラーボトルを37℃で5日間、次いで27℃で26日間維持する。ローラーボトルを、細胞数および全体的な外観についてモニタリングするが、それらに供給はしない。いったん生存力が10%未満になると、細胞をスピンアウトし、馴化培地を採取し、滅菌濾過する。
【0145】
(表3)培地1
【0146】
(表4)培地2
【0147】
GGF2についての精製プロトコール
全ての手順を4℃で行う。
化学物質:
酢酸ナトリウム
氷酢酸(pH調節のため)
10N NaOH(pH調節のため)
NaCl
硫酸ナトリウム
L-アルギニン(JT Bakerカタログ番号:2066-06)
マンニトール(JT Bakerカタログ番号:2553-01)
出発材料:
馴化培地上澄み。pHを6.5に調節する。
【0148】
工程1:
捕捉−カチオン交換クロマトグラフィー
HiPrep SP 16/10(Amersham Biosciences)
カラム平衡:バッファーA - 5CV、バッファーB - 5CV、バッファー15%B - 5CV
バッファーA:20 mM 酢酸Na, pH 6.0
バッファーB:20 mM 酢酸Na, pH 6.0, 1M NaCl
可能である場合は一晩連続的なロードで、試料を2ml/分でロードする。連続的なローディングによって、結合はより十分となる。
出発試料についての最大容量:5 mg GGF2/ml培地
流量:3ml/分
第1洗浄:15%B、10CV
第2洗浄:35%B、10CV
GGF2溶出:60%B、8CV
カラム洗浄:100%B、8CV
【0149】
工程2:
精製−ゲル濾過クロマトグラフィー
Sephacryl S200 26/60
溶出バッファー:20 mM酢酸Na、100mM硫酸ナトリウム、1%マンニトール、10 mM L-アルギニン, pH 6.5
バッファー導電率:
試料:約AU280 1.0まで濃縮されたSP GGF2溶出プール
流量:1.3 ml/分
ピーク溶出:注入開始から約0.36CVにおいて。
【0150】
工程3:DNAおよび内毒素除去−Intercept Q膜による濾過。
プレ平衡バッファー:20 mM酢酸Na、100mM硫酸ナトリウム、1%マンニトール、10 mM L-アルギニン, pH 6.5
素通り画分を収集する。
【0151】
工程4:最終製剤および試料調製
試料へ追加の90 mM L-アルギニンを添加する。
濃縮する。
滅菌濾過する。
【0152】
本明細書で使用するビヒクル/対照物は、0.2%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.1 Mリン酸ナトリウム, pH 7.6である。
【0153】
ラット株であるCD(登録商標)IGS[Crl:CD(登録商標)(SD)/MYOINFARCT]およびナイーブなSprague Dawleyを、本明細書では使用する。これらの株はCharles River Laboratoriesから得た。試験動物は、到着時に約6〜7週齢であり、外科的処置の時点で約160〜200 gの重さである。実際の範囲は変化し得、これをデータで記録に残す。
【0154】
受け取った全てのナイーブなSprague Dawley動物を研究に用い、群1へ割り当てた。研究に適切であると考えられた動物を、処置前に計量した。
【0155】
受け取った全てのCD(登録商標)IGS[Crl:CD(登録商標)(SD)/MYOINFARCT]動物を、Charles River Laboratoriesで行われた外科的処置の7日後に行われた心エコー検査からの計算された駆出率に基づいて、単純無作為化手順を使用して無作為に処置群(群2〜5)に分けた。単純無作為化を行い、適用可能数の動物からなる各処置群(群2〜5)を得、群2〜5にわたってほぼ等しい群平均駆出率(±3%)が得られた。
【0156】
群2〜6内の全ての動物を、Charles River Laboratoriesにおいてそのラボラトリーの標準操作手順に従って順応させた。続いて、動物を無作為化に処置群に分けた。群1内の全てのナイーブな動物を、それらの最初の心エコー検査の前に受け取り後の約24時間順応させた。
【0157】
吊り下げ式のステンレス鋼金網タイプのケージ中に動物を個々に収容し、ソリッドボトムケージは一般的に使用せず、何故ならば、げっ歯動物は糞食性(coprophagic)であり、排泄された試験物および代謝産物を含有する糞便の摂取、または敷きわら自体の摂取は、この毒性研究における結果の解釈を混乱させ得るためである。
【0158】
自動タイマーによって1日約12時間、蛍光照明を提供した。時々、研究に関する作業のために、暗サイクルを断続的に中断した。温度および湿度を毎日モニタリングし記録し、可能な限りそれぞれ64〜79oFおよび30〜70%に維持した。
【0159】
基礎食は、block Lab Diet(登録商標)Certified Rodent Diet #5002, PMI Nutrition International, Inc.であった。特に指定されない限り、この食事は、自由に利用可能であった。使用した各ロット番号を研究記録に記載した。特に記載されない限り、自動ウォーターシステムによって、全ての動物へ水道水を適宜供給した。
【0160】
研究設計
(表5)GGF2対EGF-ld断片(Liuら, 2006)
LAD後7日目から開始して10日間投与した。
【0161】
(表6)EGF-ldおよびEGF-Igと比較した場合のより高い用量のGGF2
LAD後7日目から開始して20日間投与した。10日洗い流し。
【0162】
(表7)GGF2投与頻度
TA 1−試験物1;M=雄性;F=雌性。
【0163】
(表8)BSA有りまたはBSA無しのGGF2
【0164】
試験物および対照物投与
投与経路
試験物および対照物を静脈内注射によって投与した。群1へ割り当てられた動物は、ビヒクルまたは試験物で処置せず;これらの動物は、処置を施さない年齢を適合させた対照として役立った。投与頻度、期間および用量は、表5〜8に記載の通りであった。用量体積は約1 ml/kgであった。
【0165】
試験物投与
試験物および対照物を、尾静脈を介して投与した。個々の用量は、最新の体重に基づいた。スポンサーによって特に指示されない限り、用量をボーラス注射によって投与した。
【0166】
試験システムの調製
外科的処置−左前下行枝動脈結紮
Charles River Laboratories Surgical Capabilities Reference Paper, Vol. 13, No.1, 2005に記載された通りに、外科的処置を、Charles River Laboratoriesで行った。簡単に記載すると、皮膚および胸筋を通って胸骨の僅かに左側の胸部に、頭蓋尾方向切開を作製する。第3および第4肋骨を横に切開し、肋間筋を鈍的解剖する。胸腔に迅速に入り、心膜を完全に開く。心臓を切開から体外へ出す。肺動脈円錐および左心耳を確認する。小さな曲針を使用し、左前下行枝冠状動脈下に1本の5-0絹縫合糸を通す。結紮を結び、心臓を胸郭へ戻す。胸壁および皮膚切開を閉じながら、胸腔中の空気を徐々に追い出す。陽圧換気を使用して動物を蘇生させ、酸素に富む環境下に置く。
【0167】
術後の回復
短期術後モニタリングおよび適切な鎮痛薬の投与を、Charles River Laboratories Surgical Capabilities Reference Paper, Vol. 13, No.1, 2005に記載された通りにCharles River Laboratoriesによって行った。
【0168】
長期術後モニタリングを行い、疼痛または感染症の徴候について動物を評価した。動物の受け取り後の7日間、毎日の切開部位観察を継続した。必要な場合、追加の疼痛管理および抗菌療法を施した。
【0169】
(表9)予定の医用薬剤および投与量
*-下記に示される動物群評価によって画定されるECHO処置日。
【0170】
生前の研究評価
ケージサイド観察
罹病、死滅、損傷、ならびに食料および水の利用可能性について少なくとも1日2回、全ての動物を観察した。健康状態が良くない動物を、さらなるモニタリングおよび可能性のある安楽死のために同定した。
【0171】
体重
無作為化の前に少なくとも1回および研究の間毎週、体重を測定および記録した。
【0172】
食料消費
食料消費は測定しなかったが、食欲不振は記録に残した。
【0173】
心エコー検査
受け取り(0日目)後1、12、22および32日目に、群1へ割り当てられた全ての動物について、心エコー検査を行った。Charles River Laboratoriesで行われた外科的処置(0日目)後7、18、28および38日目に、群2〜5へ割り当てられた全ての動物について、心エコー検査を行った。
【0174】
心エコー検査について、各動物を表5に従って麻酔し、その体毛を胸部から切り取った。カップリングゲルを心エコートランスデューサーへ塗布し、画像を得、多数のレベルで心機能を測定した。画像を各動物について短軸像で得た(中央乳頭レベルにおいて、または心エコー検査による観察される梗塞領域の位置に依存してその他において)。
【0175】
心エコーのパラメータ
左心室の、中央乳頭筋レベルにおいてまたは心エコー検査による観察される梗塞領域の位置に依存してその他において、ECHO画像を撮影した。M-モードおよび2-D画像をCDおよび/またはMODに記録および保存した。ECHOで得られる測定パラメータは以下を含む:心室内隔壁厚み(拡張期);単位=cm;心室内隔壁厚み(収縮期);単位=cm;左心室内部寸法(拡張期);単位=cm;左心室内部寸法(収縮期);単位=cm;左心室乳頭壁厚み(拡張期);単位=cm;左心室乳頭壁厚み(収縮期);単位=cm;拡張末期容量;単位=mL;収縮末期容量;単位=mL;駆出率;パーセンテージとして報告;一回心拍出量;単位=ml;およびパーセント短縮率;パーセンテージとして報告。
【0176】
安楽死
瀕死
試験施設標準操作手順によって定義されるいずれの瀕死の動物も、人道的な理由のために安楽死させた。死の間際に安楽死させたかまたは死んだ状態で見つけられた全ての動物を、通常の検死へ供した。
【0177】
安楽死の方法
大静脈への飽和塩化カリウム注射、続いての死を確実にするための承認された方法、例えば全採血によって、安楽死を行った。
【0178】
最終処分
研究した全ての生き残っている動物を、それらの予定の検死時に安楽死させたか、または必要ならば、死の間際に安楽死させた。
【0179】
結果
研究1−
GGF2 0.625 mg/kg iv 1日毎(qday)でのラットの処置により、駆出率および短縮率の変化によって本明細書で示される心機能の有意な改善が得られた。EGF-1d断片は、同程度の改善をもたらさなかった。表5を参照のこと。
【0180】
研究2−
GGF2 0.625および3.25 mg/kg iv 1日毎でのラットの処置により、駆出率および短縮率の変化によって本明細書で示される心機能の有意な改善が得られた。処置期間の間、収縮末期容量および拡張末期容量においても、有意な改善が見られた。表6を参照のこと。
【0181】
研究3 結果−
GGF2 3.25 mg/kg iv 24、48または96時間毎でのラットの処置により、駆出率および短縮率の変化によって本明細書で示される心機能の有意な改善が得られた。処置期間の間、収縮末期容量および拡張末期容量においても、有意な改善が見られた。表7を参照のこと。
【0182】
以前の報告(Liuら)は、BSAなどの担体タンパク質が最適なニューレグリン安定性および活性のために必要とされることを示した。GGF2は、BSAなどの担体無しで安定性を示した。この実験は、GGF2がBSA無しでの治療レジメンにおいて安定かつ活性であるかどうかを試験するように設計された。処置の10日後、BSA含有GGF2製剤およびBSA非含有GGF2製剤は両方とも、以前の研究において見られたものと同様のビヒクル対照と比較して、駆出率の改善をもたらした。従って、BSAまたは他の担体タンパク質はCHFの治療のためのGGF2製剤において必要とされないことが、この研究から明らかである。表8を参照のこと。
【0183】
(表10)病理学的所見
++ 頻繁に存在する。+ 存在する。+/- 時折観察される。- 稀に観察されるかまたは観察されない。
【0184】
表10に示された通り、GGF2の断続的な投与は、外因的に投与されるGGF2の超正常レベルに関連する副作用を減らす。本発明者らは、GGF2が静脈内または皮下投与されるかどうかに関係なく、この知見が真実であることを見出した。
【0185】
過形成および心臓影響が、1日おき毎の投与で時折見られる。本発明者らは、頻度の少ない投与では見なかった。
【0186】
いくつかの刊行物および特許文献が、本発明が属する分野の状態をより完全に説明するために、本出願において参照される。本明細書に記載の全ての刊行物および特許出願は、各独立した刊行物または特許出願が参照により組み込まれるように具体的にかつ個々に示されるかのように同程度まで、参照により本明細書に組み入れられる。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明の分野は、心不全に治療に関する。より具体的には、本発明は改善された投与レジメンに関し、該投与レジメンにより、グリア成長因子2(GGF2)のようなニューレグリンまたはその断片の投与の治療的利益が維持および/または増強され、その上、いずれの潜在的な副作用も同時に最小限化される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
必要とする患者への医用薬剤の投与に関連する基本的な課題は、許容性と効能との関係である。治療指数は、患者へ投与され得る物質の有効用量から、患者に対して望ましくない副作用が見られる用量までの範囲である。一般的に、有効用量と副作用が発生する用量との差が大きいほど、物質はより安全であり、患者によって許容される可能性がより高い。
【0003】
心不全、特に、うっ血性心不全(CHF)は、先進国において主な死亡原因の1つである。うっ血性心不全の基礎となる因子としては、高血圧、虚血性心疾患、アントラサイクリン抗生物質などの心毒性化合物への曝露、放射線被曝、身体的外傷、および心不全のリスク増加と関連する遺伝的欠陥が挙げられる。従って、CHFは、しばしば、高血圧症に起因する心臓への仕事量の増加、慢性虚血からの心筋への損傷、心筋梗塞、ウイルス疾患、化学毒性、放射線、および強皮症などの他の疾患から生じる。これらの状態は、心臓のポンプ機能を次第に低下させる。最初は、高血圧または収縮性組織の減少から生じる仕事量の増加は、代償性心筋細胞肥大および左心室壁の肥厚を誘発し、それによって収縮性を増強し、心機能を維持する。しかし、経時的に、左心室腔は膨張し、収縮期ポンプ機能は低下し、心筋細胞(myocardiocyte)はアポトーシス細胞死を受け、心筋機能は次第に低下する。
【0004】
ニューレグリン(NRG)およびNRG受容体は、神経、筋肉、上皮および他の組織における器官形成および細胞発生に関与する細胞間シグナル伝達についての増殖因子-受容体チロシンキナーゼ系を構成する(Lemke, Mol. Cell. Neurosci. 7:247-262, 1996およびBurden et al., Neuron 18:847-855, 1997)。NRGファミリーは、上皮増殖因子(EGF)様、免疫グロブリン(Ig)、および他の認識可能なドメインを含む多数のリガンドをコードする4つの遺伝子からなる。多数の分泌および膜結合アイソフォームが、このシグナル伝達系においてリガンドとして機能する。NRGリガンドについての受容体は、EGF受容体(EGFR)ファミリーの全てのメンバーであり、これらは、EGFR(またはErbB1)、ErbB2、ErbB3、およびErbB4を含み、これらは、ヒトにおいて、それぞれ、HER1からHER4までとしても公知である(Meyer et al., Development 124:3575-3586, 1997;Orr-Urtreger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 1867-71, 1993;Marchionni et al., Nature 362:312-8, 1993;Chen et al., J. Comp. Neurol. 349:389-400, 1994;Corfas et al., Neuron 14:103-115, 1995;Meyer et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:1064-1068, 1994;およびPinkas-Kramarski et al., Oncogene 15:2803-2815, 1997)。
【0005】
4つのNRG遺伝子、NRG-1、NRG-2、NRG-3、およびNRG-4は、異なる染色体座に位置し(Pinkas-Kramarski et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:9387-91, 1994;Carraway et al., Nature 387:512-516, 1997;Chang et al., Nature 387:509-511, 1997;およびZhang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:9562-9567, 1997)、多様なNRGタンパク質を集合的にコードする。NRG-1の遺伝子産物は、例えば、約15個の異なる構造関連アイソフォームの群を含む(Lemke, Mol. Cell. Neurosci. 7:247-262, 1996およびPeles and Yarden, BioEssays 15:815-824, 1993)。NRG-1の最初に同定されたアイソフォームは、Neu分化因子(NDF;Peles et al., Cell 69, 205-216, 1992およびWen et al., Cell 69, 559-572, 1992)、ヘレグリン(HRG;Holmes et al., Science 256:1205-1210, 1992)、アセチルコリン受容体誘導活性(ARIA;Falls et al., Cell 72:801-815, 1993)、ならびにグリア成長因子GGF1、GGF2、およびGGF3(Marchionni et al. Nature 362:312-8, 1993)を含んだ。
【0006】
NRG-2遺伝子は、相同性クローニング(Chang et al., Nature 387:509-512, 1997;Carraway et al., Nature 387:512-516, 1997;およびHigashiyama et al., J. Biochem. 122:675-680, 1997)およびゲノムアプローチ(Busfield et al., Mol. Cell. Biol. 17:4007-4014, 1997)によって同定された。NRG-2 cDNAはまた、ErbBキナーゼの神経および胸腺由来活性化因子(NTAK;Genbankアクセッション番号AB005060)、ディバージェント・オブ・ニューレグリン(Divergent of Neuregulin)(Don-1)、および小脳由来増殖因子(CDGF;PCT出願WO 97/09425)としても公知である。実験的証拠は、ErbB4またはErbB2/ErbB4組み合わせを発現する細胞が、NRG-2に対して特に強い応答を示す可能性が高いことを示している(Pinkas-Kramarski et al., Mol. Cell. Biol. 18:6090-6101, 1998)。NRG-3遺伝子産物(Zhangら、上記)がErbB4受容体に結合しこれを活性化することも公知である(Hijazi et al., Int. J. Oncol. 13:1061-1067, 1998)。
【0007】
EGF様ドメインは、NRGの全ての形態の中心に存在し、ErbB受容体に結合しこれを活性化するために必要とされる。3つの遺伝子においてコードされるEGF様ドメインの推定アミノ酸配列は、約30〜40%同一である(ペアワイズ比較)。さらに、NRG-1およびNRG-2中にEGF様ドメインの少なくとも2つのサブ形態があると考えられており、これらは、異なる生物活性および組織特異的効果を与え得る。
【0008】
NRGに対する細胞応答は、NRG受容体チロシンキナーゼである、上皮増殖因子受容体ファミリーのEGFR、ErbB2、ErbB3およびErbB4によって媒介される。全てのNRGの高親和性結合は、主としてErbB3またはErbB4のいずれかによって媒介される。NRGリガンドの結合は、他のErbBサブユニットとの二量体化、および特定のチロシン残基上でのリン酸化によるトランス活性化をもたらす。ある実験設定において、ErbB受容体のほぼ全ての組み合わせが、NRG-1アイソフォームの結合に応答して二量体を形成することができると考えられる。しかし、ErbB2は、リガンド-受容体複合体を安定させることにおいて重要な役割を果たし得る好ましい二量体化パートナーであると考えられる。ErbB2は、単独ではリガンドに結合しないが、他の受容体サブタイプの1つと異種間で対形成されなければならない。ErbB3は、チロシンキナーゼ活性を有するが、他の受容体によるリン酸化の標的である。NRG-1、ErbB2、およびErbB4の発現が、マウス発生の間の心室筋の肉柱形成に必要であることが公知である。
【0009】
ニューレグリンは、生理学的ストレスへ供された心筋細胞について、代償性肥大成長を刺激しかつアポトーシスを阻害する。これらの観察によれば、ニューレグリンの投与は、高血圧症、虚血性心疾患、および心毒性などの基礎的因子から生じるうっ血性心疾患を予防するために、最小限にするために、または回復に向かわせるために有用である。例えば、全体が本明細書に組み入れられる、米国特許番号(USPN)6,635,249を参照のこと。
【0010】
一般集団における心不全の高罹患率を考慮して、例えば心機能の欠失を阻害することによってまたは心機能を改善することによって、この疾患の進行を防ぐかまたは最小限にする満たされない必要性が存在し続けている。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、哺乳動物における心不全を治療または予防するための方法を含む。該方法は、48、72、96時間またはそれ以上の投与間隔で哺乳動物へペプチドの治療有効量を投与することによるなどの、定常状態を維持しないニューレグリン投与についての投与レジメンによって、上皮増殖因子様(EGF様)ドメインを含むペプチドの治療的利益が達成され得るという驚くべき観察に基づく。従って、本方法は、哺乳動物へのEGF様ドメインを含むペプチドの断続的または不連続の投与(48〜96時間毎、またはさらに長い間隔)を必要とし、該EGF様ドメインは、ニューレグリン遺伝子によってコードされ、ペプチドの投与は、哺乳動物における心不全を治療または予防するに有効な量である。定常状態濃度を維持しないニューレグリン投与についての投与レジメンは、より頻繁な投与レジメンと同程度に等しく有効であるにも関わらず、より頻繁な投与から生じ得る不都合、コストまたは副作用を伴わない。本明細書において使用される場合、断続的または不連続の投与という用語は、少なくとも48時間、72時間、96時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、1週間、2週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月の間隔、または、間隔/レジメンが少なくとも48時間、72時間、96時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、1週間、2週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月である限り、それらの任意の組み合わせもしくは増分での投与についてのレジメンを含む。本明細書において使用される場合、断続的または不連続の投与という用語は、48時間、72時間、96時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、1週間、2週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月以上である間隔、または、間隔/レジメンが48時間、72時間、96時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、1週間、2週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月以上である限り、それらの任意の組み合わせもしくは増分での投与についてのレジメンを含む。
【0012】
本発明によれば、EGF様ドメインがニューレグリン遺伝子によってコードされる、EGF様ドメインを含むペプチドの哺乳動物への断続的または不連続の投与は、投与されるペプチドの狭い定常状態濃度が維持されない投与レジメンを達成することに向けられ、それによって、哺乳動物が、投与されるペプチドの超生理的レベルを長期間にわたって維持することから生じ得る不都合な副作用を経験する可能性が減らされる。例えば、外因的に投与されるNRGの超生理的レベルに伴う副作用としては、神経鞘過形成、乳房過形成、腎症、精子減少(hypospermia)、肝酵素増加、心臓弁変化、および注射部位での皮膚変化が挙げられる。
【0013】
好ましい態様において、本発明は、ニューレグリン遺伝子によってコードされるEGF様ドメインを含むペプチドの血清中濃度の変動を誘発するかまたは許容し、従って、ペプチドのより頻繁な投与に伴う有害な副作用についての可能性を減らす、断続的な投与レジメンに関する。従って、本発明の断続的な投与レジメンは、治療的利点を哺乳動物へ与えるが、ニューレグリン遺伝子によってコードされるEGF様ドメインを含むペプチドの定常状態治療レベルを維持しない。当業者によって認識されるように、断続的な投与を得るための本発明の種々の態様が存在し;これらの態様の利益は、例えば、前記投与が前記ペプチドの定常状態治療レベルを維持しない、該投与がより頻繁なNRGペプチドの投与に伴う有害な副作用についての可能性を減らすなど、様々に記載され得る。
【0014】
本発明の特定の態様において、ニューレグリンは、以下を含むか、以下から本質的になるか、または以下からなる、遺伝子、遺伝子産物、またはそれらのそれぞれのサブ配列もしくは断片であり得る:NRG-1、NRG-2、NRG-3またはNRG-4。好ましい態様において、本発明のNRGサブ配列または断片は、上皮増殖因子様(EGF様)ドメインまたはその相同体を含む。当業者によって認識されるように、EGF様ドメインペプチドのペプチド相同体は、構造的相同性を見出すことによって、またはErbB受容体に結合しこれを活性化することによるなどの機能的アッセイ法においてEGF様ペプチドが機能するように相同体ペプチドが機能することによって、決定される。好ましくは、断片は、少なくとも40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85アミノ酸長である。本発明のニューレグリンペプチドが、次に、これらのニューレグリン遺伝子(またはそれらのサブ配列)のいずれか1つによってコードされ得る。より特定の態様において、方法において使用されるペプチドは、組換えヒトGGF2またはその断片もしくはサブ配列である。全長ヒトGGF2のアミノ酸配列および核酸配列については、図8A〜8Dを参照のこと。
【0015】
本発明のある局面において、好適な哺乳動物は、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、サルまたはブタを含むが、これらに限定されない。本発明の一態様において、哺乳動物はヒトである。
【0016】
本発明の他の態様において、心不全は、高血圧症、虚血性心疾患、心毒性化合物(例えば、コカイン、アルコール、抗ErbB2抗体もしくは抗HER抗体、例えば、ハーセプチン(登録商標)、またはアントラサイクリン抗生物質、例えば、ドキソルビシンもしくはダウノマイシン)への曝露、心筋炎、甲状腺疾患、ウイルス感染症、歯肉炎、薬物乱用、アルコール乱用、心膜炎、アテローム性動脈硬化症、血管疾患、肥大型心筋症、急性心筋梗塞もしくは以前の心筋梗塞、左室収縮機能障害、冠動脈バイパス手術、飢餓、放射線被曝、摂食障害、または遺伝的欠陥から生じ得る。
【0017】
本発明の別の態様において、抗ErbB2抗体または抗HER2抗体、例えば、ハーセプチン(登録商標)が、アントラサイクリン投与の前、間、または後に、哺乳動物へ投与される。
【0018】
本発明の他の態様において、ペプチドは、心毒性化合物への曝露の前、該心毒性化合物への曝露の間、または該心毒性化合物への曝露の後に投与され;ペプチドは、前記哺乳動物におけるうっ血性心不全の診断の前または後に投与される。本発明の方法は、被験体哺乳動物が代償性心肥大を経験した後に行われ得;本発明の方法は、方法の成果が、左心室肥大を維持すること、または心筋菲薄化の進行を防ぐこと、または心筋細胞アポトーシスを阻害することであることを含む。本発明の方法において、ペプチドは、ニューレグリン遺伝子によってコードされるEGF様ドメインを含み得るか、これから本質的になり得るか、またはこれからなり得る。本発明のペプチドは、心毒性化合物への曝露の前、間、または後に投与される。別の態様において、これらの期間のうちの2つ、または3つ全ての間に、EGF様ドメインを含むペプチドを投与する。本発明によれば、48〜96時間毎の間隔で、ニューレグリン遺伝子によってコードされるEGF様ドメインを含むペプチドを投与する。本発明の一態様において、ニューレグリン遺伝子によってコードされるEGF様ドメインを含むペプチドは、GGF2である。本発明のさらに他の態様において、ペプチドは、哺乳動物におけるうっ血性心不全の診断の前または後のいずれかに投与される。本発明のさらに別の態様において、ペプチドは、代償性心肥大を経験した哺乳動物へ投与される。本発明の他の特定の態様において、ペプチドの投与は、左心室肥大を維持し、心筋菲薄化の進行を防ぎ、かつ/または心筋細胞アポトーシスを阻害する。
【0019】
本発明の態様は、以下の方法を含む。哺乳動物における心不全を治療するための方法であって、該方法が、上皮増殖因子様(EGF様)ドメインを含む外因性ペプチドを該哺乳動物へ投与する工程を含み、前記間隔における該投与する工程が、該哺乳動物における該外因性ペプチドの投与に伴う有害な副作用を減らす方法。哺乳動物における心不全を治療するための方法であって、該方法が、上皮増殖因子様(EGF様)ドメインを含む外因性ペプチドを該哺乳動物へ投与する工程を含み、該EGF様ドメインが、ニューレグリン(NRG)-1遺伝子によってコードされ、かつ該外因性ペプチドが、少なくとも48時間の間隔で該哺乳動物における心不全を治療するための治療有効量で投与され、該間隔における該投与する工程が、該哺乳動物において該外因性ペプチドの定常状態レベルを維持しない方法。哺乳動物における心不全を治療するための方法であって、該方法が、上皮増殖因子様(EGF様)ドメインまたはその相同体を含む外因性ペプチドを該哺乳動物へ投与する工程を含み、かつ該外因性ペプチドが、少なくとも48時間または48時間以上の間隔で該哺乳動物における心不全を治療するための治療有効量で投与され、該間隔における該投与する工程が、該哺乳動物におけるベースラインレベルまたは投与前レベルへの該外因性ペプチドの血清中濃度の用量内(intradose)変動を許容する方法。
【0020】
本明細書において使用される場合、有害なまたは有毒な副作用という用語は、医学的処置の意図されない望ましくない結果を指す。本発明に関して、外因性ペプチドの投与から生じる有害なまたは有毒な副作用は、以下のうちのいずれか1つまたは複数を含み得る:神経鞘過形成、乳房過形成、腎症、および注射部位での皮膚変化。
【0021】
本明細書において使用される場合、「該哺乳動物における投与前レベルへの該外因性ペプチドの血清中濃度の用量内変動」という用語は、ある用量の外因性ペプチドの投与の前の血清中濃度レベル間の差を指す。
【0022】
本明細書において使用される場合、「定常状態レベル」という用語は、投与と排出との間の平衡(後の投与間の変動の範囲内)を達成するのに十分である外因性薬剤(例えば、ペプチド)のレベルを指す。「定常状態治療レベルを維持する」は、被験体または患者へ治療的利益を与えるのに十分なレベルで外因性薬剤の濃度を持続させることを指す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】駆出率および短縮率の変化によって例証される心機能を示すヒストグラムを示す。図のように、ラットを、静脈内で(iv)毎日(1日毎(q day))、0.625 mg/kgでGGF2によってまたは等モル量のEGF様断片(断片;EGF-id)によって処置した。
【図2】駆出率および短縮率の変化によって明らかにされる心機能を示す折線グラフを示す。図のように、ラットを、0.625 mg/kgまたは3.25 mg/kg iv 1日毎でGGF2によって処置した。
【図3】処置期間の間の収縮末期容量の顕著な改善によって明らかにされる心機能を示す折線グラフを示す。図のように、ラットを、0.625 mg/kgまたは3.25 mg/kg iv 1日毎でGGF2によって処置した。
【図4】駆出率および短縮率の変化によって明らかにされる心機能を示す折線グラフを示す。図のように、ラットを、GGF2 3.25 mg/kg静脈内(iv)において24、48または96時間毎によって処置した。
【図5】心エコー駆出率の変化によって明らかにされる心機能を示す折線グラフを示す。図のように、ラットを、BSA有りまたは無しで、静脈内(iv)において、ビヒクルまたはGGF2 3.25 mg/kgによって処置した。
【図6】iv投与後の組換えヒトGGF2(rhGGF2)の半減期を示す折線グラフを示す。
【図7】皮下投与後の組換えヒトGGF2(rhGGF2)の半減期を示す折線グラフを示す。
【図8A】全長GGF2の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。核酸配列はSEQ ID NO:1で示され、アミノ酸配列はSEQ ID NO:2で示される。
【図8B】全長GGF2の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。核酸配列はSEQ ID NO:1で示され、アミノ酸配列はSEQ ID NO:2で示される。
【図8C】全長GGF2の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。核酸配列はSEQ ID NO:1で示され、アミノ酸配列はSEQ ID NO:2で示される。
【図8D】全長GGF2の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。核酸配列はSEQ ID NO:1で示され、アミノ酸配列はSEQ ID NO:2で示される。
【図9】上皮増殖因子様(EGFL)ドメイン1の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。EGFLドメイン1の核酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:3で示され、EGFLドメイン1のアミノ酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:4で示される。
【図10】上皮増殖因子様(EGFL)ドメイン2の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。EGFLドメイン2の核酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:5で示され、EGFLドメイン2のアミノ酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:6で示される。
【図11】上皮増殖因子様(EGFL)ドメイン3の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。EGFLドメイン3の核酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:7で示され、EGFLドメイン3のアミノ酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:8で示される。
【図12】上皮増殖因子様(EGFL)ドメイン4の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。EGFLドメイン4の核酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:9で示され、EGFLドメイン4のアミノ酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:10で示される。
【図13】上皮増殖因子様(EGFL)ドメイン5の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。EGFLドメイン5の核酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:11で示され、EGFLドメイン5のアミノ酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:12で示される。
【図14】上皮増殖因子様(EGFL)ドメイン6の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。EGFLドメイン6の核酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:13で示され、EGFLドメイン6のアミノ酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:14で示される。
【図15】上皮増殖因子様(EGFL)ドメインを含むポリペプチドのアミノ酸配列を示し、これは本明細書においてSEQ ID NO:21で示される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
本発明者らは、適切に空けられた時間間隔でのニューレグリンの不連続のまたは断続的な投与が、その必要がある患者へニューレグリンの治療有効量を送達し、このような治療レジメンが、うっ血性心不全などの心疾患を防ぐために、予防するために、改善するために、最小限にするために、治療するためにまたは回復に向かわせるために有用であるという驚くべき発見をした。
【0025】
最も狭い範囲の定常状態濃度を維持するように投与レジメンを設計することに関する一般通念および開発プラクティスにもかかわらず、本発明者らは、狭い定常状態濃度を維持しないニューレグリン投与についての投与レジメンが、より頻繁な投与レジメンと同じ程度に等しく有効であることを本明細書において実証する。実際に、本発明者らは、少なくとも48時間、72時間、96時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、1週間、2週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、または、間隔/レジメンが少なくとも48時間である限りそれらの任意の組み合わせもしくは増分の投与間隔での心不全のニューレグリン治療が、毎日の投与と同程度有効であることを示した。
【0026】
外因性NRGの薬物動態を評価するために、本発明者らは、ニューレグリンの半減期が、静脈内に送達された場合は4〜8時間であり、皮下に送達された場合は11〜15時間であることを示した。例えば、表1および2ならびに図6および7を参照のこと。従って、4日毎と同じぐらい頻繁でないレジメンでの投与は、次の投与までの少なくとも3日間は検出可能なレベルを維持しない。これらの知見に基づいて、本発明の前に、このようなピーク/トラフ比が一貫した治療的利益と相関するとは予想されなかった。このオーダーの半減期を有する化合物は、頻繁な投与レジメン(例えば、毎日、または複数回の1日用量)に従って一般的には投与されることが、注目に値する。実際に、GGF2について入手可能な薬物動態データに基づいて、伝統的な開発は、最適な治療が毎日の皮下投与を必要とすると予想すると考えられる。
【0027】
一般通念および開発プラクティスに従って、CHFについての他の医学的処置が、少なくとも毎日に基づいて、典型的に施される。このようなレジメンの周期性が必要とされると考えられ、何故ならば、CHFは、急性状態ではなく、心臓の損なわれた収縮および/または弛緩によって一般的に引き起こされる、慢性状態であるためである。弛緩障害およびCHFへ至る弱い心臓を有する人において、医学的処置は、特定の神経ホルモンの形成または作用を遮断する薬物(例えば、アンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)、アンギオテンシン受容体アンタゴニスト(ARB)、アルドステロンアンタゴニスト、およびβ-アドレナリン作動性受容体遮断薬)を含む。これらおよび他の医用薬剤は、慢性CHFの現在の標準治療であり、何故ならば、それらは、改善された症状、平均余命および/または入院の減少をもたらすことが実証されたためである。急性増悪または慢性症状の場合において、患者は、心収縮性を増強させるための変力物質(inotrope)(例えば、ドブタミン、ジゴキシン)、ならびにうっ血を減少させるための血管拡張薬(例えば、ニトレート、ネシリチド)および/または利尿薬(例えば、フロセミド)でしばしば治療される。高血圧症およびうっ血性心不全を有する患者は、1つまたは複数の抗高血圧剤、例えば、β遮断薬、ACE阻害剤およびARB、ニトレート(二硝酸イソソルビド)、ヒドララジン、ならびにカルシウムチャネル遮断薬で治療される。
【0028】
従って、CHFの治療に関しての典型的なプラクティスにもかかわらず、本発明者らは、新規の投与レジメンが、望ましくない副作用を回避すると同時に、CHFの有効な治療をもたらすことを実証した。理論によって拘束されることを望まないが、このようなニューレグリン治療は、心筋細胞肥大を刺激することによって心臓のポンプ機能を強化し、心筋細胞アポトーシスを抑制することによって心臓のさらなる劣化を部分的にまたは完全に阻害する可能性が高い。
【0029】
さらなる背景のために、投与の基本原則は、有効循環濃度を決定し、それらのレベルを維持するように投与レジメンを設計することである。薬物動態学(PK)および薬力学(PD)研究を組み合わせ、特定の薬物の定常状態レベルを維持する投与レジメンを予測する。典型的なプランは、CmaxとCminとの差を最小限にし、それによって副作用を減らすことである。
【0030】
薬物は、それらの「治療指数」によって記載され、これは、有効用量または循環濃度によって割られた毒性用量または循環レベルの比率である。治療指数が大きい場合、毒性レベルに近づくことなく有効用量が提供され得る広い安全性範囲がある。有効濃度に非常に近い濃度で不都合な効果が生じる場合、治療指数は狭いと記載され、薬物は安全に投与することが困難である。
【0031】
投与レジメンを開発する間、PK/PDデータと治療指数の知識とが組み合わされ、投与の用量および頻度が設計され、化合物は、有効濃度を超えかつ毒性濃度未満となるような濃度で患者(例えば、ヒト)において維持される。薬物の有効濃度が危険な効果を誘発することなしには維持され得ない場合、薬物は、開発の間に落第する。薬物開発に関するさらなる解説は、以下を含む種々の参考文献において見られ得る:全体が本明細書に組み入れられる、Pharmacokinetics in Drug Development: Clinical Study Design and Analysis (2004, Peter Bonate and Danny Howard, eds.)。
【0032】
ニューレグリンは、erbB受容体へ結合し上皮増殖因子に関連する増殖因子である。それらは、心不全、心毒性および虚血の多数のモデルにおいて心機能を改善させることが示された。それらはまた、脳卒中、脊髄損傷、神経ガス曝露、末梢神経損傷および化学毒性のモデルにおいて神経系を保護することが示された。
【0033】
しかし、外因的に供給されたニューレグリンの超正常レベルを維持することは、神経鞘過形成、乳房過形成および腎症を含む不都合な効果を有することが示された。これらの効果は、ニューレグリンの毎日の皮下投与に続いて観察された。例えば、表10を参照のこと。
【0034】
本明細書に記載される通り、静脈内投与と比較して延長された半減期と、リガンドの一定レベルを維持することは有利であるという最初の確信とにより、皮下投与を探究した。これらの効果を低下させるための投与レジメンを開発することは、治療剤として使用されるニューレグリンの能力を顕著に高め、本発明が向けられるのはこの目的である。一定レベルを維持しない頻度の少ない投与もまた有効であると実証することは、この開発を可能にする。
【0035】
ニューレグリン:
上記の通り、NRG-1、NRG-2、NRG-3およびNRG-4遺伝子によってコードされるペプチドは、それらがErbB受容体へ結合しこれを活性化することを可能にするEGF様ドメインを有する。Holmesら(Science 256:1205-1210, 1992)は、EGF様ドメインは単独でp185erbB2受容体に結合しこれを活性化するのに十分であることを示した。従って、NRG-1、NRG-2またはNRG-3遺伝子によってコードされる任意のペプチド産物、または任意のニューレグリン様ペプチド、例えば、ニューレグリン遺伝子もしくはcDNAによってコードされるEGF様ドメイン(例えば、米国特許番号5,530,109、米国特許番号5,716,930、および米国特許番号7,037,888に記載される、NRG-1ペプチドサブドメインC-C/DもしくはC-C/D'を含むEGF様ドメイン;またはWO 97/09425に開示されるEGF様ドメイン)を有するペプチドが、うっ血性心不全を予防または治療するために本発明の方法において使用され得る。米国特許番号5,530,109;米国特許番号5,716,930;米国特許番号7,037,888;およびWO 97/09425の各々の内容は、その全体が本明細書に組み入れられる。
【0036】
リスク因子:
個体がうっ血性心不全を発症する可能性を増加させるリスク因子は、周知である。これらとしては、喫煙、肥満、高血圧、虚血性心疾患、血管疾患、冠動脈バイパス手術、心筋梗塞、左室収縮機能障害、心毒性化合物(アルコール、薬物、例えば、コカイン、ならびにアントラサイクリン抗生物質、例えば、ドキソルビシン、およびダウノルビシン)への曝露、ウイルス感染症、心膜炎、心筋炎、歯肉炎、甲状腺疾患、放射線被曝、心不全のリスクを増加させることが公知である遺伝的欠陥(例えば、Bachinski and Roberts, Cardiol. Clin. 16:603-610, 1998;Siu et al., Circulation 8:1022-1026, 1999;およびArbustini et al., Heart 80:548-558, 1998に記載されるもの)、飢餓、摂食障害、例えば食欲不振症および過食症、心不全の家族歴、ならびに心筋肥大が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
本発明によれば、危険性があると同定された人におけるうっ血性心疾患進行を防ぐかまたはその速度を低下させることによるなどの予防を達成するために、ニューレグリンが、断続的に投与され得る。例えば、初期代償性肥大の患者へのニューレグリン投与は、肥大状態の維持を可能にし、心不全への進行を防ぐ。さらに、危険性があると同定された人は、代償性肥大の発症の前に、心臓保護的ニューレグリン治療が提供され得る。
【0038】
アントラサイクリン化学療法またはアントラサイクリン/抗ErbB2(抗HER2)抗体(例えば、ハーセプチン(登録商標))併用療法の前または間の癌患者へのニューレグリン投与は、患者の心筋細胞がアポトーシスを受けるのを防ぎ得、それによって心機能を保存し得る。心筋細胞減少を既に受けた患者もまた、ニューレグリン治療から利益を得、何故ならば、残りの心筋組織は、肥大成長および収縮性増加を示すことによってニューレグリン曝露に対して応答するためである。
【0039】
療法:
ニューレグリンおよびニューレグリン遺伝子によってコードされるEGF様ドメインを含むペプチドが、薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤と共に、患者または実験動物へ投与され得る。本発明の組成物は、単位剤形で提供され得る。
【0040】
従来の薬学的プラクティスが、好適な製剤または組成物を提供するために、およびこのような組成物を患者または実験動物へ投与するために、用いられる。静脈内投与が好ましいが、任意の好適な投与経路、例えば、非経口、皮下、筋肉内、経皮的、心臓内、腹腔内、鼻腔内、エアロゾル、経口、または局所(例えば、真皮を横断し血流に入ることができる製剤を含む粘着性パッチを提供することによる)投与が用いられ得る。
【0041】
治療製剤は、液剤または懸濁剤の形態であり得;経口投与について、製剤は、錠剤またはカプセル剤の形態であり得;鼻腔内製剤については、散剤、点鼻剤、またはエアロゾル剤の形態であり得る。
【0042】
製剤の作製のための当技術分野において周知の方法は、例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」において見られる。非経口投与用の製剤は、例えば、賦形剤、滅菌水、または食塩水、ポリアルキレングリコール、例えば、ポリエチレングリコール、植物起源のオイル、または水素化ナフタレンを含有し得る。本発明の分子を投与するための他の潜在的に有用な非経口送達システムとしては、エチレン-酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透圧ポンプ、移植可能な注入システム、およびリポソームが挙げられる。吸入用の製剤は、賦形剤、例えば、ラクトースを含有し得、または、例えば、ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル、グリココラートおよびデオキシコラートを含有する水性液剤であり得、または、点鼻剤の形態でのもしくはゲルとしての投与用の、油性液剤であり得る。
【0043】
本発明のさらなる局面として、特に上記の状態および疾患の治療または予防における、薬剤としての使用のための本化合物が提供される。上記の状態および疾患の1つの治療または予防用の医薬の製造における本化合物の使用もまた、本明細書において提供される。
【0044】
静脈内注射に関して、用量レベルは、本明細書に記載される通り、少なくとも約24、36、48時間毎〜約96時間毎、特に、48、72、または96時間毎またはそれ以上の規則的な時間間隔で、約0.001 mg/kg、0.01 mg/kg〜少なくとも10 mg/kgの範囲にある。特定の態様において、静脈内注射用量レベルは、本明細書に記載される通り、約48時間毎〜約96時間毎、特に、48、72、または96時間毎またはそれ以上の規則的な時間間隔で、約0.1 mg/kg〜約10 mg/kgの範囲にある。別の特定の態様において、静脈内注射用量レベルは、本明細書に記載される通り、約48時間毎〜約96時間毎、特に、48、72、または96時間毎またはそれ以上の規則的な時間間隔で、約1 mg/kg〜約10 mg/kgの範囲にある。さらに別の特定の態様において、静脈内注射用量レベルは、本明細書に記載される通り、約48時間毎〜約96時間毎、特に、48、72、または96時間毎またはそれ以上の規則的な時間間隔で、約0.01 mg/kg〜約1 mg/kgの範囲にある。さらに別の特定の態様において、静脈内注射用量レベルは、本明細書に記載される通り、約48時間毎〜約96時間毎、特に、48、72、または96時間毎またはそれ以上の規則的な時間間隔で、約0.1 mg/kg〜約1 mg/kgの範囲にある。
【0045】
皮下注射に関して、用量レベルは、本明細書に記載される通り、約48時間毎〜約96時間毎、特に、48、72、または96時間毎またはそれ以上の規則的な時間間隔で、約0.01 mg/kg〜少なくとも10 mg/kgの範囲にある。特定の態様において、注射用量レベルは、本明細書に記載される通り、約48時間毎〜約96時間毎またはそれ以上、特に、48、72、または96時間毎の規則的な時間間隔で、約0.1 mg/kg〜約10 mg/kgの範囲にある。別の特定の態様において、注射用量レベルは、本明細書に記載される通り、約48時間毎〜約96時間毎またはそれ以上、特に、48、72、または96時間毎の規則的な時間間隔で、約1 mg/kg〜約10 mg/kgの範囲にある。さらに別の特定の態様において、注射用量レベルは、本明細書に記載される通り、約48時間毎〜約96時間毎またはそれ以上、特に、48、72、または96時間毎の規則的な時間間隔で、約0.01 mg/kg〜約1 mg/kgの範囲にある。さらに別の特定の態様において、注射用量レベルは、本明細書に記載される通り、約48時間毎〜約96時間毎またはそれ以上、特に、48、72、または96時間毎の規則的な時間間隔で、約0.1 mg/kg〜約1 mg/kgの範囲にある。
【0046】
経皮用量は、注射用量を使用して達成されるのと同様であるかまたはこれよりも低い血中濃度を提供するように、一般的には選択される。
【0047】
本発明の化合物は、唯一の活性薬剤として投与され得、またはそれらは、同一のまたは類似の治療活性を示す、およびこのような併用投与について安全かつ有効であることが確定されている、他の化合物を含む、他の薬剤と併用して投与され得る。CHFの治療のために使用される他のこのような化合物としては、脳ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、特定の神経ホルモンの形成または作用を遮断する薬物(例えば、アンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)、アンギオテンシン受容体アンタゴニスト(ARB)、アルドステロンアンタゴニスト、およびβ-アドレナリン作動性受容体遮断薬)、心収縮性を増強するための変力物質(例えば、ドブタミン、ジゴキシン)、うっ血を減少させるための血管拡張薬(例えば、ニトレート、ネシリチド)および/または利尿薬(例えば、フロセミド)、ならびに1つまたは複数の抗高血圧剤、例えば、β遮断薬、ACE阻害剤およびARB、ニトレート(二硝酸イソソルビド)、ヒドララジン、ならびにカルシウムチャネル遮断薬が挙げられる。
【0048】
上記に示した通り、薬物治療を含む医学的介入は、適切な薬物の選択および適切な投与レジメンでのその送達を必要とする。適切な投与レジメンは、十分な用量、経路、頻度、および治療期間を含む。薬物療法の最終的な目的は、治療される患者が、治療が必要とされる病理学的過程を克服することを可能にするように、作用部位での最適な薬物濃度を獲得することである。概して、薬物体内動態(drug deposition)ドラッグディスポジションの原則の基礎知識は、適切な投与レジメンの選択を容易にする。しかし、治療薬物モニタリング(TDM)が、補助ツールとしてこれに関連して使用され得、個々の患者の医学療法のための選択薬物の有効かつ安全な投与レジメンを決定することにおいて主治医を援助する。
【0049】
標的濃度および治療ウインドウ:
最適な薬物濃度の定義は、特定の薬物の薬力学的特徴に応じて変化する。例えば、ペニシリンなどの時間依存性の抗生物質についての最適な療法は、2〜4の最高濃度対MIC(最小阻止濃度)比率、および投与間隔の75%に等しいMICを超える時間を達成することに関する。例えば、ゲンタマイシンなどの濃度依存性の抗生物質について、効能は、約8〜10の最高濃度対MIC比率を得る事に関する。特定の薬物の投与に伴う微妙な差異に関係なく、薬物療法は、標的種における薬物の薬物動態学、薬力学および毒性プロファイルに基づいて前もって決定された「治療ウインドウ」の制限内で標的血漿中濃度(これは、しばしば、作用部位での濃度を表す)を達成しようとする。このウインドウの幅は、種々の薬物および種について変化する。最小有効濃度と最小毒性濃度との差が小さい(2〜4倍)場合、治療ウインドウは狭いと言われる。対照的に、有効濃度と毒性濃度との間に大きな差がある場合、薬物は、広い治療ウインドウを有すると考えられる。狭い治療ウインドウを有する薬物の例は、ジゴキシンであり、ここで、平均の有効濃度と毒性濃度との差は2または3倍である。他方で、アモキシシリンは、広い治療域を有し、患者の過剰投与は、毒性問題を一般的に伴わない。
【0050】
薬物応答性の変動性:
薬物応答性に関しての同一種の健常被験体間の顕著な変動性は、一般的である。さらに、病状は、臓器系および機能(例えば、腎臓、肝臓、含水量)に影響を与える可能性を有し、これは、次に、薬物応答性に影響を与え得る。これは、次に、薬物が投与される病気の個体における薬物応答性の差異の増加に寄与する。さらに別の関連する問題は、同時の複数の薬物の投与に関し、これは、一方または両方の薬物に対する応答性の変化をもたらし得る薬物動態学的相互作用を生じさせる。要約すると、生理学的(例えば、年齢)、病理学的(例えば、疾患効果)、および薬理学的(例えば、薬物相互作用)因子は、動物における薬物のディスポジションを変化させ得る。その結果として起こる個体間の変動性の増加は、狭い治療指数を有する薬物の治療失敗または毒性をもたらし得る。
【0051】
本発明の治療レジメンから利益を得る患者集団は、非常に多様であり、例えば、腎臓機能障害を有する患者がよい候補であり、何故ならば、タンパク質治療剤の連続的なレベルは、しばしば、腎糸球体沈着物と関連するためである。本発明において記載される、一定の血漿中濃度を維持しない治療レジメンの有用性は、従って、既存の機能の減少が有害であり得る腎機能障害を有する患者に非常に有利である。同様に、本明細書に記載される通り、GGF2などの治療剤への短時間かつ断続的な曝露は、増殖因子での慢性的かつ連続的な刺激に対して応答性である腫瘍タイプを有する患者に有利であり得る。本明細書に記載される断続的な療法から特に利益を得る場合がある他の患者は、神経鞘腫および他の末梢性ニューロパチーを有する患者である。断続的な投与が、種々の組織の連続的な副作用関連刺激を維持しないことにおいて顕著な利点を有し得ることが、本発明の利点である。
【0052】
血清中薬物濃度を測定する目的での血液試料採取の適切なタイミング、ならびに報告された濃度の解釈は、測定される薬物の薬物動態学的性質の考慮を必要とする。これらの特性の議論において使用されるいくつかの用語を、以下の段落において定義する。
【0053】
半減期:
間隔の最初に存在する血清中濃度が50%減少するために必要とされる時間。おおよその半減期を知ることは、臨床医にとって必須であり、何故ならば、それは、経口剤での最適な投与スケジュール、血清中濃度の用量内変動、および定常状態を達成するために必要とされる時間を決定するためである。
【0054】
手短に記載すると、多数の薬物動態研究がGGF2について行われた。GGF2についての典型的な半減期は、静脈内(iv)経路については4〜8時間であり、一方、皮下(sc)投与されたGGF2の半減期は11〜15時間である。Cmax、AUC、TmaxおよびT1/2を下記の表1および2に示す。半減期がこれらの方法によって正確に測定されるには長すぎる場合、時間の代わりにダッシュを記載する。
【0055】
表1および表2
付録7
125I-rhGGF2の単回の静脈内または皮下への投与の後の雄性Sprague-Dawleyラットの血漿中の125I-rhGGF2由来の放射能の平均薬物動態
群1−i.v. 群2−s.c.
125I-rhGGF2の単回の静脈内または皮下への投与の後の雄性Sprague-Dawleyラットの血漿中の125I-rhGGF2由来の放射能の平均薬物動態
付録9
群1−i.v. 群2−s.c.
【0056】
投与後の血漿中濃度を、ivおよびsc投与について、それぞれ、図6および7に示す。図6および7に示される通り、Cmaxは、最大血漿中濃度(投与後のいずれかの時点での血漿中において測定される最大濃度)を指し;AUC無限は、無限時間までの濃度対曲線下の面積を指し(この方法は、アッセイ法が検出限界を有することを予想するために使用される);AUC0-tは、血漿中濃度下の面積を指し(時間ゼロから最後までの測定可能な濃度の時間曲線);任意の方法によるAUCは、動物への全曝露の推定値を指し;かつTmaxは、最大血漿中濃度の中央時間を指す。
【0057】
表および図から明らかである通り、4日毎、1日おき毎または毎日の投与でのいずれかの投与経路によって定常状態治療レベルを維持することは、可能でない。表11に記載のデータによって反映された通り、1日後に、それよりずっと前でさえ、レベルは測定不能である。
【0058】
(表11)静脈内投与後のGGF2についてのPKパラメータ*
*ELISAによって測定された血漿中GGF2濃度から得られたデータより取得。報告されたデータは平均値±SDである。
【0059】
定常状態:
定常状態血清中濃度は、各投与により繰り返される値であり、所定の時間間隔における投与される薬物の量と排出される量との平衡状態を示す。任意の薬物での長期間投与の間、その平均定常状態血清中濃度の2つの主要な決定要因は、薬物が投与される速度、および特定の患者における薬物の総クリアランスである。
【0060】
最高血清中濃度:
血清中濃度対時間曲線上の最大濃度のポイント。最高血清中濃度の正確な時間は、予測するのが困難であり、何故ならば、それは、インプット速度とアウトプット速度との間の複雑な関係を表すためである。
【0061】
トラフ血清中濃度:
投与間隔の間に見られる最小血清中濃度。トラフ濃度は、次の用量を投与する直前の期間において理論上存在する。
【0062】
吸収:
薬物が身体に入るプロセス。血管内投与された薬物は、完全に吸収されるが、血管外投与は、吸収の種々の程度および速度をもたらす。吸収速度と排出速度との関係は、血流中の薬物濃度の主な決定要因である。
【0063】
分布:
血管内腔から血管外液および組織へのならびにそれに従って標的受容体部位への、全身的に利用可能な薬物の分散。
【0064】
治療域:
高度の効能と低リスクの用量関連毒性とに関連する血清中薬物濃度のその範囲。治療域は、統計的概念であり:それは、大部分の患者における治療応答と関連する濃度範囲である。結果として、ある患者は、その範囲の下限未満の血清中濃度で治療応答を示し、一方、他の患者は、治療的利益について上限を超える血清中濃度を必要とする。
【0065】
試料収集の正確なタイミングが重要であり、何故ならば、薬物療法は、しばしば、血清中濃度測定に基づいて修正されるためである。試料が採取される前に、吸収および分布段階は完了しており、定常状態濃度が達成されているべきである。定常状態濃度が存在する前に得られるレベルは、誤って低い場合があり;このような結果に基づいて投与量を増加させることは、毒性濃度を生じさせ得る。さらに、比較測定を行う場合、試料採取時間が一定であることが重要である。
【0066】
投与量に関しての血液試料のタイミングは、血清中濃度結果の正確な解釈のために重要である。試料が薬物投与に関して採取される時間の選択は、薬物の薬物動態特性、その剤形、および試料をアッセイする臨床的理由(例えば、効能の評価または可能性のある薬物誘発毒性の解明)に基づくべきである。短い半減期を有する薬物の型通りの血清中濃度モニタリングについて、定常状態ピークおよびトラフ試料の両方が、血清中濃度プロファイルを特徴付けられるために収集され得;長い半減期を有する薬物については、定常状態トラフ試料のみで、一般的には十分である。
【0067】
「うっ血性心不全」とは、心臓が、安静時にまたは運動で正常な血液拍出量を維持することができないようにするか、または正常な心充満圧の設定で正常な心拍出量を維持することができないようにする、心機能障害を意味する。約40%またはそれ未満の左心室駆出率が、うっ血性心不全を示す(比較として、約60%パーセントの駆出率が正常である)。うっ血性心不全にある患者は、周知の臨床症状および徴候、例えば、頻呼吸、胸水、安静時または運動での疲労、収縮不全、および浮腫を示す。うっ血性心不全は、周知の方法によって容易に診断される(例えば、"Consensus recommendations for the management of chronic heart failure." Am. J. Cardiol., 83(2A):1A-38-A, 1999を参照のこと)。
【0068】
相対的重篤度および疾患進行は、周知の方法、例えば、身体検査、心エコー検査、放射性核種イメージング、侵襲性血行動態モニタリング、磁気共鳴血管造影、および酸素摂取量研究と組み合わされたトレッドミル運動負荷試験を使用して評価される。
【0069】
「虚血性心疾患」とは、心筋の酸素要求と酸素供給の妥当性との間の不均等から生じる任意の障害を意味する。大抵の虚血性心疾患は、アテローム性動脈硬化症または他の血管障害において生じるように、冠状動脈の狭窄から生じる。
【0070】
「心筋梗塞」とは、心筋が瘢痕組織によって置き換えられている領域において虚血性疾患が生じるプロセスを意味する。
【0071】
「心毒性」とは、心筋細胞を直接的にまたは間接的に害することまたは死滅させることによって心臓機能を低下させる化合物を意味する。
【0072】
「高血圧症」とは、医療専門家(例えば、医師または看護師)によって、正常よりも高く、うっ血性心不全を発症する高い危険性を有すると考えられる血圧を意味する。
【0073】
「治療する」とは、ニューレグリンまたはニューレグリン様ペプチドの投与が、治療がない場合に生じる疾患進行と比較して、統計的に有意な様式で、治療の間、うっ血性心不全の進行を遅らせるかまたは阻害することを意味する。周知の指標、例えば、左心室駆出率、運動能力、および上記に列挙されるような他の臨床検査、ならびに生存率および入院率が、疾患進行を評価するために使用され得る。治療が統計的に有意な様式で疾患進行を遅らせるまたは阻害するか否かは、当技術分野において周知である方法によって判定され得る(例えば、SOLVD Investigators, N. Engl. J. Med. 327:685-691, 1992およびCohn et al., N. Engl. J Med. 339:1810-1816, 1998を参照のこと)。
【0074】
「予防する」とは、うっ血性心不全を発症する危険性がある哺乳動物においてうっ血性心不全の発症を最小限にするかまたは部分的にまたは完全に抑制することを意味する("Consensus recommendations for the management of chronic heart failure." Am. J. Cardiol., 83(2A):1A-38-A, 1999に定義される通り)。うっ血性心不全がニューレグリンまたはニューレグリン様ペプチドの投与によって最小限にされるかまたは予防されるかどうかの判定は、公知の方法によって、例えば、SOLVD Investigators、前記、およびCohnら、前記に記載のものなどによって行われる。
【0075】
「治療有効量」という用語は、研究者、獣医、医師あるいは他の臨床医によって試みられている組織、システム、動物またはヒトの生物学的または医学的応答を誘発する薬物または薬剤の量を意味するように意図される。治療的変化は、取り組まれる疾患または状態を緩和すると予想される方向の、測定される生化学的特徴の変化である。より特定的には、「治療有効量」は、医学的状態または虚弱に関連する症状を減少させるに、特定の身体機能を害する疾患または障害において身体機能を正常化するに、または疾患の臨床的に測定されるパラメータの1つまたは複数の改善を提供するのに十分な量である。
【0076】
「予防有効量」という用語は、研究者、獣医、医師あるいは他の臨床医によって組織、系、動物またはヒトにおいて予防されるよう試みられる生物学的または医学的事象の発生の危険性を防ぐかまたは減らす薬学的薬物の量を意味するように意図される。
【0077】
「治療ウインドウ」という用語は、治療的変化を達成するための最小量と、患者に対して毒性直前の応答である応答を生じさせる最大量との間の用量の範囲を意味するように意図される。
【0078】
「うっ血性心不全の危険性がある」とは、喫煙するか、肥満であるか(即ち、理想体重を20%またはそれ以上超えている)、心毒性化合物(例えば、アントラサイクリン抗生物質)へ曝露されたかまたは曝露される予定であるか、または、高血圧、虚血性心疾患、心筋梗塞、心不全のリスクを増加させることが公知である遺伝的欠陥、心不全の家族歴、心筋肥大、肥大型心筋症、左室収縮機能障害、冠動脈バイパス手術、血管疾患、アテローム性動脈硬化症、アルコール症、心膜炎、ウイルス感染症、歯肉炎、もしくは摂食障害(例えば、神経性食欲不振症または過食症)を有する(または有した)か、またはアルコールもしくはコカイン常用者である個体を意味する。
【0079】
「心筋菲薄化の進行を低下させる」とは、心室壁の厚みが維持または増加されるように心室の心筋細胞の肥大を維持することを意味する。
【0080】
「心筋アポトーシスを阻害する」とは、ニューレグリン治療が、未処理心筋細胞と比較して、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%、なおより好ましくは少なくとも25%、なおより好ましくは少なくとも50%、なおより好ましくは少なくとも75%、最も好ましくは少なくとも90%、心筋細胞の死滅を阻害することを意味する。
【0081】
「ニューレグリン」または「NRG」とは、NRG-1、NRG-2、もしくはNRG-3遺伝子または核酸(例えば、cDNA)によってコードされ、ErbB2、ErbB3、もしくはErbB4受容体、またはそれらの組み合わせへ結合しこれを活性化するペプチドを意味する。
【0082】
「ニューレグリン-1」、「NRG-1」、「ヘレグリン」、「GGF2」、または「p185erbB2リガンド」とは、別の受容体(ErbB1、ErbB3またはErbB4)と対形成されるとErbB2受容体へ結合し、米国特許第5,530,109号;米国特許第5,716,930号;および米国特許第7,037,888号に記載のp185erbB2リガンド遺伝子によってコードされるペプチドを意味し、これらの各々はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0083】
「ニューレグリン様ペプチド」とは、ニューレグリン遺伝子によってコードされるEGF様ドメインを有し、ErbB2、ErbB3、ErbB4、またはその組み合わせへ結合しこれを活性化する、ペプチドを意味する。
【0084】
「上皮増殖因子様ドメイン」または「EGF様ドメイン」とは、ErbB2、ErbB3、ErbB4、またはその組み合わせへ結合しこれを活性化し、Holmes et al., Science 256:1205-1210, 1992;米国特許第5,530,109号;米国特許第5,716,930号;米国特許第7,037,888号;Hijazi et al., Int. J. Oncol. 13:1061-1067, 1998;Chang et al., Nature 387:509-512, 1997;Carraway et al., Nature 387:512-516, 1997;Higashiyama et al., J Biochem. 122:675-680, 1997;およびWO 97/09425に開示されるようなEGF受容体結合ドメインと構造的類似性を有する、NRG-1、NRG-2、またはNRG-3遺伝子によってコードされるペプチドモチーフを意味する。NRG-1遺伝子によってコードされるEGFLドメイン1〜6に対応する核酸配列およびアミノ酸配列については、図9〜14を参照のこと。
【0085】
「抗ErbB2抗体」または「抗HER2抗体」とは、ErbB2(ヒトにおいてHER2としても公知)受容体の細胞外ドメインへ特異的に結合し、ニューレグリン結合によって開始されるErbB2(HER2)依存性シグナル伝達を妨げる、抗体を意味する。
【0086】
「形質転換細胞」とは、ニューレグリンまたはニューレグリンEGF様ドメインを有するペプチドをコードするDNA分子が、組換えDNA技術または公知の遺伝子治療技術によって導入されている細胞(または細胞の子孫)を意味する。
【0087】
「プロモーター」とは、転写を指示するのに十分な最小配列を意味する。プロモーター依存性遺伝子発現を、細胞型または生理学的状態(例えば、正常酸素条件に対して低酸素条件)に基づいて制御可能にするか、または外部シグナルもしくは薬剤によって誘導可能にするのに十分である、プロモーター配列も、本発明に含まれ;このような配列は、天然遺伝子の5'または3'または内部領域に配置され得る。
【0088】
「機能的に連結された」とは、ペプチドをコードする核酸(例えば、cDNA)および1つまたは複数の調節配列が、適切な分子(例えば、転写活性化因子タンパク質)が調節配列へ結合されると遺伝子発現を可能にするように結合されていることを意味する。
【0089】
「発現ベクター」とは、例えば、バクテリオファージ、アデノウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、または人工染色体由来の、遺伝子操作されたプラスミドまたはウイルスを意味し、これは、プロモーターへ機能的に連結されたペプチド(例えば、ニューレグリン)コード配列を宿主細胞へ導入するために使用され、その結果、コードされるペプチドまたはペプチドが宿主細胞内で発現される。
【0090】
特に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同一の意味を有する。
【0091】
文書、行為、材料、装置、物品などの議論は、本発明についての背景を提供する目的のためにのみ、本明細書に含まれる。これらの事項のいずれかまたは全てが、先行技術の基礎の部分を形成したこと、または本出願の各請求項の優先日前に、本発明に関する分野における一般知識であったことは、示唆または表示されるものではない。
【0092】
他の態様
本発明をその特定の態様に関連して説明したが、本発明はさらなる改変が可能であることが理解され、本出願は、本発明の任意のバリエーション、使用、または適応を含むように意図され、これらは、一般的に本発明の原理に従い、本発明が属する分野内の公知または通常のプラクティス内の本開示からのこのような逸脱を含み、本明細書上記に記載の必須の特徴へ適用され得、添付の特許請求の範囲の範囲に入る。
【0093】
下記の実施例は、当業者が本発明ならびにその原理および利点をよりよく理解する助けとなる。これらの実施例は、本発明を説明し、その範囲を限定しないことが、意図される。
【実施例】
【0094】
本明細書において上記の通り、ニューレグリンは、上皮増殖因子(EGF)に構造的に関連する増殖因子のファミリーであり、心臓の正常な発達に必須である。ニューレグリンが、心不全、心筋梗塞、化学療法毒性およびウイルス性心筋炎を含む心疾患の治療についての可能性のある治療剤であることを証拠は示唆している。
【0095】
ラットにおけるうっ血性心不全の左前下行枝(LAD)動脈結紮モデルにおいて投与を定義するために、本明細書に記載の研究を役立てた。多数のニューレグリンスプライス変異体をクローニングし、作製した。以前の報告(Liuら, 2006)からのEGF様ドメイン(EGF-ld)からなるニューレグリン断片を、グリア成長因子2(GGF2)として公知の全長ニューレグリン、およびIgドメインを有するEGF様ドメイン(EGF-Ig)と比較した。雄性および雌性Sprague-DawleyラットにLAD動脈結紮を施した。結紮の7日後に、ラットを、毎日、ニューレグリンで静脈内(iv)処置した。心機能を心エコー検査によってモニタリングした。
【0096】
第1研究は、等モル量のEGF-ldまたはGGF2(GGF2について、これは、0.0625および0.325 mg/kgへ計算される)での投与の10日を比較した。GGF2処置は、投与期間の終了時でEGF-ldがもたらしたよりも、駆出率(EF)および短縮率(FS)において有意に(p<0.05)より大きな改善をもたらした。第2研究は、等モル濃度でのGGF2とEGF-ldおよびEGF-Igとの20日を比較した。GGF2処置は、有意に改善されたEF、FSおよびLVESDをもたらした(p<0.01)。心臓生理の改善は、EGF-ldまたはEGF-Igのいずれによっても、この期間の間、維持されなかった。第3研究は、GGF2(3.25 mg/kg)での20日間について毎日(q 24時間)、1日おき毎(q 48時間)および4日毎(q 96時間)の投与を比較した。3つ全てのGGF2治療レジメンが、EF、ESVおよびEDVを含む心臓生理の有意な改善をもたらし、効果は、投与の終了後10日間維持された。本明細書に示された研究は、GGF2をニューレグリンリード化合物として確認し、これを投与するための最適な投与レジメンを確立する。
【0097】
本明細書において示される通り、本研究は、公開されたニューレグリン断片(Liuら, 2006)と比較してのGGF2の相対的な効能を確立し、用量範囲および投与頻度研究を開始し、以前報告された通りにBSA賦形剤が必要とされるかどうかを決定する。
【0098】
方法および材料
GGF2 のIgEGF(Ig154Y)ドメイン(EGF-Ig)のクローニング、発現および精製
DNA:
IgEGFドメインを、既存のGGF2 cDNAから増殖し、Nde1およびBamH1制限部位を使用してpet 15bベクター(Novagenカタログ番号69661-3)へクローニングした。得られるタンパク質は、21.89 kda+約3kDa Hisタグ(=約25 kDa)である。
【0099】
IgEgf pet 15クローンのDNA配列:
下線が引かれた配列は、増幅のために使用されたプライマーである。太字の配列は、petベクターへ配列を挿入するために使用されたクローニング部位である(Nde1およびBamH1)。
【0100】
pet15bベクターからの最終的な翻訳されたタンパク質を、以下に示す。ベクター部分に下線が引かれている。
【0101】
タンパク質発現:
LB培地中において25℃で24時間Overnight Express Autoinduction System(Novagen)を使用して、タンパク質発現のためにクローンをBl21細胞へ形質転換した。
【0102】
タンパク質再折り畳み:
Novagen Protein Refolding Kit, 70123-3より適応させた。
【0103】
タンパク質精製:
His TRAPカラム−製造業者の説明書通り。
【0104】
ウエスタンブロッティング:
タンパク質発現をウエスタンブロッティングによって評価した。Hisタグを有する得られるバンドは、約25 kDに移動する。
【0105】
4-20%標準ゲル(criterion gel)(Biorad)をタンパク質分離のために使用し、続いて、Protranニトロセルロース紙(0.1μm細孔径、Schliecher and Schull製)へ転写した。ブロットをTBS-T(0.1%)中5%ミルクでブロッキングする。RTで1時間(4℃で一晩でも機能する)、TBS-T中5%ミルク中において一次抗体(抗EGFヒトNRG1-α/HRG1-αアフィニティー精製ポリクローナルAbカタログ番号AF-296-NA、R&D systems製)1:1000希釈。ウサギ抗ヤギHRP二次抗体を、RTで1時間、TBS-T中5%ミルク中において1:10,000希釈で使用した。全ての洗浄をTBS-T中において行った。
【0106】
Ig154Yについての精製プロトコール:
Novagen製のOvernight Express Autoinduction System 1(カタログ番号71300-4)中において25℃で、培養物を増殖させた。培養物を遠心沈殿させ、ペレットを取り出し、可溶化し、再折り畳みし、Ig154Yを得、その後、精製を行い得る。
【0107】
抽出、可溶化および再折り畳みのための材料:
10×洗浄バッファー:200mM Tris-HCl, pH 7.5、100mM EDTA、10% Triton X-100
10×可溶化バッファー:500mM CAPS, pH 11.0
50×透析バッファー:1M Tris-HCl, pH 8.5
30%N-ラウリルサルコシン-粉末(Sigma 61739-5G)として添加。
1M DTT
還元型グルタチオン(Novagen 3541)
酸化型グルタチオン(Novagen 3542)
【0108】
A.細胞溶解および封入体の調製
- 細胞ペレットを1×洗浄バッファー30ml中に解凍し、再懸濁した。
- プロテアーゼ阻害剤(50ml当たり10×を25ul)、DNase(50ml当たり1mg/mlを200ul)およびMgCl2(50ml当たり1Mを500ul)を、懸濁液へ添加した。
- 氷上で冷却しながら超音波処理によって細胞を溶解した。
- 超音波処理に続いて、封入体を12分間の10000×gでの遠心分離によって収集した。
- 上澄みを除去し、ペレットを、1×洗浄バッファー30ml中に完全に再懸濁した。
- 工程4を繰り返した。
- ペレットを、1×洗浄バッファー30ml中に完全に再懸濁した。
- 封入体を10分間の10000×gでの遠心分離によって収集した。
【0109】
B.可溶化および再折り畳み
- 処理される封入体の湿重量から、10〜15mg/mlの濃度で封入体を再懸濁するために必要な1×可溶化バッファーの量を計算する。計算された体積が250mlを超える場合、250mlを使用する。
- 室温で、0.3%N-ラウリルサルコシン(さらなる最適化において必要な場合には、2%までが使用され得る)(300mg/100mLバッファー)および1mM DTTが補われた計算された体積の1×可溶化バッファーを調製する。
- 工程2からの計算された量の1×可溶化バッファーを封入体へ添加し、穏やかに混合する。大きな細片は、ピペット操作を繰り返すことによって破壊され得る。
- 25℃、50〜100 rpmで4〜5時間(さらなる最適化において必要な場合には、さらに長く)、リフリジレーターシェーカー中においてインキュベートする。
- 室温での10分間の10000×gでの遠心分離によって清澄化する。
- 可溶性タンパク質を含有する上澄みを、清潔なチューブへ移す。
【0110】
C.タンパク質再折り畳みのための透析プロトコール
- 可溶化タンパク質の透析用の必要とされる体積のバッファーを調製する。透析は、試料の体積の50倍を超える少なくとも2回のバッファー交換を伴って行われるべきである。50×透析バッファーを所望の体積で1×へ希釈し、0.1mM DTTを補う。
- 4℃で少なくとも4時間透析する。バッファーを交換し、継続する。さらに4時間またはそれ以上の間、透析する。
- DTTを省略することを除いては、工程1において決定された通りに、新たな透析バッファーを調製する。
- 透析バッファーにDTTは含まれずに、2つのさらなる変更(各々、数分 4時間)によって透析を継続する。
【0111】
D.ジスルフィド結合形成を促進するための酸化還元再折り畳みバッファー
- 1×透析バッファー中において1mM還元型グルタチオン(1.2g/4L)および0.2mM酸化型グルタチオン(0.48g/4L)を含有する透析バッファーを調製する。体積は、可溶化タンパク質試料の体積よりも25倍大きいべきである。4℃まで冷やす。
- 工程1からの再折り畳みされたタンパク質を4℃で一晩透析する。
【0112】
精製のための材料
全ての手順を4℃で行う。
化学物質:
トリズマ塩酸塩(Sigma T5941-500G)
塩化ナトリウム5M溶液(Sigma S6546-4L)
水酸化ナトリウム10N(JT Baker 5674-02)
イミダゾール(JT Baker N811-06)
【0113】
A.HISPrep FF 16/10カラム-20ml(GE Healthcare)での精製
バッファーA:20mM Tris-HCL+500mM NaCl pH 7.5
バッファーB:バッファーA+500mMイミダゾール pH 7.5
カラムの平衡:バッファーA- 5CV、バッファーB- 5CV、バッファーA- 10CV
0.5ml/分で20mlカラム上での1実行当たり20mlの試料をロードする。
カラムを5CVのバッファーAで洗浄する。
カラムを5CVの280mMイミダゾールで溶出する。
10CVの100%バッファーBでクリーニングする。
15CVのバッファーAで平衡させる。
SDS-page銀染色でフラクションを分析する。
Ig154Yを含むフラクションをプールする。
【0114】
B.Hisタグ除去
Hisタグの除去を、Novagen製のThrombin Cleavage Capture Kit(カタログ番号69022-3)で行う。前もっての試験に基づいて、最良の条件は、Ig154Yタンパク質10μg毎について1μl当たり0.005Uの酵素でのトロンビンを用いて室温で4時間である。4時間のインキュベーション後、トロンビン酵素1単位当たりストレプトアビジンアガローススラリー16μlを添加する。室温で30分間試料を揺り動かさせる。スピン濾過または滅菌濾過(体積に依存する)によってIg154Yを回収する。完全な切断を、EGFおよび抗Hisウエスタンブロッティングによって測定する。
【0115】
C.Ig154Yの濃縮
Millipore Centriprep 3000 MWCO 15ml濃縮器(Ultracel YM-3, 4320)を用いて、所望の濃度へ調節する。
【0116】
D.最終バッファー中の保存
20mM Tris+500mM NaCl pH 7.5および1×PBS+0.2% BSA中において保存する。
【0117】
156Q(EGF-Id)[NRG1b2 EGFドメイン(156Q)]のクローニング、発現および精製
DNA:
NRG1b2 egfドメインを、ヒト脳cDNAからクローニングし、Nde1およびBamH1 制限部位を使用してpet 15bベクター(Novagenカタログ番号69661-3)へクローニングした。得られるタンパク質は、6.92 kda+約3kDa Hisタグ(=9.35 kDa)である。
【0118】
NRG1b2 egf pet 15クローンのDNA配列
下線が引かれた配列は、クローニング部位(Nde1およびBamH1)である。
【0119】
pet15bベクターからの最終的な翻訳されたタンパク質を、以下に示す。egfドメインは、緑色で強調されている。
計算されたpI/Mw:7.69 / 9349.58
【0120】
タンパク質発現
LB培地中において25℃で24時間Overnight Express Autoinduction System(Novagen)を使用して、タンパク質発現のためにクローンをBl21細胞へ形質転換した。発現は、主に不溶性の封入体においてである。
【0121】
タンパク質再折り畳み:
Novagen Protein Refolding Kit, 70123-3から適応させた。
【0122】
タンパク質精製:
タンパク質を2.5ml/分でアニオン交換カラムDEAE上へロードする。EGF-Id断片は素通り画分に残り、一方、汚染物質は結合し、より高い塩で溶出される。ローディングおよび洗浄バッファーは、50mM Tris pH7.9であり、溶出バッファーは、1M NaClを含む50mM Tris pH7.9である。素通り画分をプールし、Millipore製のCentriprep YM-3で濃縮する。
【0123】
ウエスタンブロッティング:
タンパク質発現をウエスタンブロッティングによって評価する。得られるバンドは、約10kDに移動する。
【0124】
4-20%基準ゲル(Biorad)をタンパク質分離のために使用し、続いて、Protranニトロセルロース紙(0.1μm細孔径、Schliecher and Schull製)へ転写した。ブロットをTBS-T(0.1%)中5%ミルクでブロッキングした。RTで1時間(4℃で一晩でも機能する)、TBS-T中5%ミルク中において一次抗体(抗EGFヒトNRG1-α/HRG1-αアフィニティー精製ポリクローナルAbカタログ番号AF-296-NA、R&D systems製)1:1000希釈。ウサギ抗ヤギHRP二次抗体を、RTで1時間、TBS-T中5%ミルク中において1:10,000希釈で使用した。全ての洗浄をTBS-T中において行った。
【0125】
NRG-156Qについての精製プロトコール
Novagen製のOvernight Express Autoinduction System 1(カタログ番号71300-4)中において25℃で、培養物を増殖させる。ほんの僅かだけ可溶性のNRG-156Q(EGF-Id)が、存在する。培養物を遠心沈殿させ、ペレットを取り出し、可溶化し、再折り畳みし、NRG-156Qを得、その後、精製を行い得る。
【0126】
抽出、可溶化および再折り畳みのための材料:
10×洗浄バッファー:200mM Tris-HCl, pH 7.5、100mM EDTA、10% Triton X-100
10×可溶化バッファー:500mM CAPS, pH 11.0
50×透析バッファー:1M Tris-HCl, pH 8.5
30%N-ラウリルサルコシン-粉末(Sigma 61739-5G)として添加
1M DTT
還元型グルタチオン(Novagen 3541)
酸化型グルタチオン(Novagen 3542)
【0127】
A.細胞溶解および封入体の調製
- 細胞ペレットを1×洗浄バッファー30ml中に解凍し、再懸濁する。完全な再懸濁のために、必要な場合は混合する。
- プロテアーゼ阻害剤(50ml当たり10×を25ul)、DNase(50ml当たり1mg/mlを200ul)およびMgCl2(50ml当たり1Mを500ul)を、懸濁液へ添加する。
- 超音波処理によって細胞を溶解する。
a.この工程の間、細胞を氷上で冷却する。
b.懸濁液の粘着性が減少するまで、スクエアチップを使用して、10回、レベル6で30秒間超音波処理する。各超音波処理の間、懸濁液を氷上において60秒間冷却させる。超音波処理の際、50mlコニカルチューブ中において体積を40ml以下に維持する。
- 完了したら、各懸濁液を、F-16/250ローターでの使用のために250mlアングルドネック(angled neck)遠心分離機ボトルへ移す。
- 封入体を12分間の10,000×gでの遠心分離によって収集する。
- 上澄みを除去し(可溶性タンパク質の分析のために試料を保持する)、ペレットを1×洗浄バッファー30ml中に完全に再懸濁する。
- 工程4における通り遠心分離を繰り返し、ペレットを保持する。
- 再度、ペレットを1×洗浄バッファー30ml中に完全に再懸濁する。
- 封入体を10分間の10,000×gでの遠心分離によって収集する。上澄みをデカンテーションし、逆さにしたチューブをペーパータオル上で軽くたたくことによって、最後の微量の液体を除去する。
【0128】
B.可溶化および再折り畳み
- 処理される封入体の湿重量から、10〜15mg/mlの濃度で封入体を再懸濁するために必要な1×可溶化バッファーの量を計算する。計算された体積が250mlを超える場合、250mlを使用する。
- 室温で、0.3%N-ラウリルサルコシン(さらなる最適化において必要な場合には、2%までが使用され得る)(300mg/100mLバッファー)および1mM DTTが補われた計算された体積の1×可溶化バッファーを調製する。
- 工程2からの計算された量の1×可溶化バッファーを封入体へ添加し、穏やかに混合する。大きな細片は、ピペット操作を繰り返すことによって破壊され得る。
- 25℃、50〜100 rpmで4〜5時間、リフリジレーターシェーカー中においてインキュベートする。
- 室温での10分間の10,000×gでの遠心分離によって清澄化する。
【0129】
C.タンパク質再折り畳みのための透析プロトコール
- 可溶化タンパク質の透析用の必要とされる体積のバッファーを調製する。透析は、試料の体積の50倍を超える少なくとも2回のバッファー交換を伴って行われるべきである。
- 50×透析バッファーを所望の体積で1×へ希釈し、0.1mM DTTを補う。
- 4℃で少なくとも4時間透析する。バッファーを交換し、継続する。さらに4時間またはそれ以上の間、透析する。
- DTTを省略することを除いては、工程1において決定された通りに、新たな透析バッファーを調製する。
- 透析バッファーにDTTは含まれずに、2つのさらなる変更(各々、数分 4時間)によって透析を継続する。
【0130】
D.ジスルフィド結合形成を促進するための酸化還元再折り畳みバッファー
- 1×透析バッファー中において1mM還元型グルタチオン(1.2g/4L)および0.2mM酸化型グルタチオン(0.48g/4L)を含有する透析バッファーを調製する。体積は、可溶化タンパク質試料の体積よりも25倍大きいであるべきである。4℃まで冷やす。
- 工程1からの再折り畳みされたタンパク質を4℃で一晩透析する。
【0131】
精製のための材料
全ての手順を4℃で行う。
化学物質:
トリズマ塩酸塩(Sigma T5941-500G)
塩化ナトリウム5M溶液(Sigma S6546-4L)
水酸化ナトリウム10N(JT Baker 5674-02)
【0132】
E.DEAE HiPrep 16/10アニオンカラム-20ml(GE Healthcare)での精製
バッファーA:50mM Tris-HCL pH 8.0
バッファーB:50mM Tris-HCLおよび1M NaCl pH 8.0
カラムの平衡:バッファーA- 5CV、バッファーB- 5CV、バッファーA- 10CV
- 2.0ml/分で20mlカラム上での1実行当たり50mlの試料をロードする(NRG-156(EGF-Id)は素通り画分中にある)。
- 20mlカラムを5CVのバッファーAで洗浄する。
20mlカラムを100%Bへの勾配で5CVにおいて用いる。これによって汚染物質が溶出除去される。
- 10CVの100%バッファーBでクリーニングする。
- 15CVのバッファーAで平衡させる。
- SDS-page銀染色でフラクションを分析する。
- NRG-156Q(10kDa)を含むフラクションをプールする。
【0133】
F.NRG-156(EGF-Id)の濃縮
- Millipore Centriprep 3000 MWCO 15ml濃縮器(Ultracel YM-3, 4320)を用いて濃縮する。
- 濃度を測定するためにModified Lowry Protein Assayを使用する。
【0134】
G.Hisタグ除去
Hisタグの除去を、Novagen製のThrombin Cleavage Capture Kit(カタログ番号69022-3)で行う。前もっての試験に基づいて、最良の条件は、NRG-156Q(EGF-Id)タンパク質10μg毎について1μl当たり0.005Uの酵素でのトロンビンを用いて室温で4時間である。4時間のインキュベーション後、トロンビン酵素1単位当たりストレプトアビジンアガローススラリー16μlを添加する。室温で30分間試料を揺り動かさせる。スピン濾過または滅菌濾過(体積に依存する)によってNRG-156Qを回収する。完全な切断を、EGFおよび抗Hisウエスタンによって測定する。
【0135】
H.最終バッファー中の保存
4℃で1×PBSおよび0.2% BSA中に保存する。
【0136】
GGF2の発現および精製
GGF2についてのクローニングおよび背景情報については、米国特許番号5,530,109を参照のこと。細胞株は米国特許番号6,051,401に記載されている。米国特許番号5,530,109および米国特許番号6,051,401の各々の全内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0137】
CHO-(Alpha2HSG)-GGF細胞株:
この細胞株を、無血清条件においてrhGGF2の高い産生速度を支持するのに十分な量のフェチュイン(ヒトα2HSG)を産生するように設計した。
【0138】
Cho(dhfr-)細胞に、下記に示される発現ベクター(pSV-AHSG)をトランスフェクションした。安定細胞をアンピシリン選択下で増殖させた。細胞株を名付けた(dhfr-/α2HSGP)。次いで、カチオン性脂質DMRIE-C試薬(Life Technologies #10459-014)を使用して、ヒトGGF2についてのコード配列を含む下記に示されるpCMGGF2ベクターを、dhfr-/α2HSGP細胞にトランスフェクションした。
【0139】
安定で高産生性の細胞株を、4〜6週間間隔で、メトトレキサート(100 nM、200 nM、400 nM、1μM)を使用する標準プロトコール下で誘導した。細胞を、血清含有培地から徐々に引き離した。標準的な限界希釈法によって、クローンを単離した。培地要件の詳細は、上記の報告に見られる。
【0140】
転写を増強するために、GGF2コード配列を、EBV BMLF-1介在配列(MIS)の後に配置した。下記の線図を参照のこと。
【0141】
MIS配列(SEQ ID NO:20)
【0142】
GGF2コード配列(SEQ ID NO:1)-
【0143】
GGF2タンパク質配列(SEQ ID NO:2)-
【0144】
GGF2産生:
2.2×106細胞/mLのGGF2の1つのバイアルを100mlのAcorda培地1(表3を参照のこと)中へ解凍し、産生容器に接種するのに十分な数に達するまで拡大させた。細胞を、2リットル通気性ローラーボトル中において、1.0×105細胞/mLで、産生培地Acorda培地2(表4を参照のこと)へ接種した。ローラーボトルを37℃で5日間、次いで27℃で26日間維持する。ローラーボトルを、細胞数および全体的な外観についてモニタリングするが、それらに供給はしない。いったん生存力が10%未満になると、細胞をスピンアウトし、馴化培地を採取し、滅菌濾過する。
【0145】
(表3)培地1
【0146】
(表4)培地2
【0147】
GGF2についての精製プロトコール
全ての手順を4℃で行う。
化学物質:
酢酸ナトリウム
氷酢酸(pH調節のため)
10N NaOH(pH調節のため)
NaCl
硫酸ナトリウム
L-アルギニン(JT Bakerカタログ番号:2066-06)
マンニトール(JT Bakerカタログ番号:2553-01)
出発材料:
馴化培地上澄み。pHを6.5に調節する。
【0148】
工程1:
捕捉−カチオン交換クロマトグラフィー
HiPrep SP 16/10(Amersham Biosciences)
カラム平衡:バッファーA - 5CV、バッファーB - 5CV、バッファー15%B - 5CV
バッファーA:20 mM 酢酸Na, pH 6.0
バッファーB:20 mM 酢酸Na, pH 6.0, 1M NaCl
可能である場合は一晩連続的なロードで、試料を2ml/分でロードする。連続的なローディングによって、結合はより十分となる。
出発試料についての最大容量:5 mg GGF2/ml培地
流量:3ml/分
第1洗浄:15%B、10CV
第2洗浄:35%B、10CV
GGF2溶出:60%B、8CV
カラム洗浄:100%B、8CV
【0149】
工程2:
精製−ゲル濾過クロマトグラフィー
Sephacryl S200 26/60
溶出バッファー:20 mM酢酸Na、100mM硫酸ナトリウム、1%マンニトール、10 mM L-アルギニン, pH 6.5
バッファー導電率:
試料:約AU280 1.0まで濃縮されたSP GGF2溶出プール
流量:1.3 ml/分
ピーク溶出:注入開始から約0.36CVにおいて。
【0150】
工程3:DNAおよび内毒素除去−Intercept Q膜による濾過。
プレ平衡バッファー:20 mM酢酸Na、100mM硫酸ナトリウム、1%マンニトール、10 mM L-アルギニン, pH 6.5
素通り画分を収集する。
【0151】
工程4:最終製剤および試料調製
試料へ追加の90 mM L-アルギニンを添加する。
濃縮する。
滅菌濾過する。
【0152】
本明細書で使用するビヒクル/対照物は、0.2%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.1 Mリン酸ナトリウム, pH 7.6である。
【0153】
ラット株であるCD(登録商標)IGS[Crl:CD(登録商標)(SD)/MYOINFARCT]およびナイーブなSprague Dawleyを、本明細書では使用する。これらの株はCharles River Laboratoriesから得た。試験動物は、到着時に約6〜7週齢であり、外科的処置の時点で約160〜200 gの重さである。実際の範囲は変化し得、これをデータで記録に残す。
【0154】
受け取った全てのナイーブなSprague Dawley動物を研究に用い、群1へ割り当てた。研究に適切であると考えられた動物を、処置前に計量した。
【0155】
受け取った全てのCD(登録商標)IGS[Crl:CD(登録商標)(SD)/MYOINFARCT]動物を、Charles River Laboratoriesで行われた外科的処置の7日後に行われた心エコー検査からの計算された駆出率に基づいて、単純無作為化手順を使用して無作為に処置群(群2〜5)に分けた。単純無作為化を行い、適用可能数の動物からなる各処置群(群2〜5)を得、群2〜5にわたってほぼ等しい群平均駆出率(±3%)が得られた。
【0156】
群2〜6内の全ての動物を、Charles River Laboratoriesにおいてそのラボラトリーの標準操作手順に従って順応させた。続いて、動物を無作為化に処置群に分けた。群1内の全てのナイーブな動物を、それらの最初の心エコー検査の前に受け取り後の約24時間順応させた。
【0157】
吊り下げ式のステンレス鋼金網タイプのケージ中に動物を個々に収容し、ソリッドボトムケージは一般的に使用せず、何故ならば、げっ歯動物は糞食性(coprophagic)であり、排泄された試験物および代謝産物を含有する糞便の摂取、または敷きわら自体の摂取は、この毒性研究における結果の解釈を混乱させ得るためである。
【0158】
自動タイマーによって1日約12時間、蛍光照明を提供した。時々、研究に関する作業のために、暗サイクルを断続的に中断した。温度および湿度を毎日モニタリングし記録し、可能な限りそれぞれ64〜79oFおよび30〜70%に維持した。
【0159】
基礎食は、block Lab Diet(登録商標)Certified Rodent Diet #5002, PMI Nutrition International, Inc.であった。特に指定されない限り、この食事は、自由に利用可能であった。使用した各ロット番号を研究記録に記載した。特に記載されない限り、自動ウォーターシステムによって、全ての動物へ水道水を適宜供給した。
【0160】
研究設計
(表5)GGF2対EGF-ld断片(Liuら, 2006)
LAD後7日目から開始して10日間投与した。
【0161】
(表6)EGF-ldおよびEGF-Igと比較した場合のより高い用量のGGF2
LAD後7日目から開始して20日間投与した。10日洗い流し。
【0162】
(表7)GGF2投与頻度
TA 1−試験物1;M=雄性;F=雌性。
【0163】
(表8)BSA有りまたはBSA無しのGGF2
【0164】
試験物および対照物投与
投与経路
試験物および対照物を静脈内注射によって投与した。群1へ割り当てられた動物は、ビヒクルまたは試験物で処置せず;これらの動物は、処置を施さない年齢を適合させた対照として役立った。投与頻度、期間および用量は、表5〜8に記載の通りであった。用量体積は約1 ml/kgであった。
【0165】
試験物投与
試験物および対照物を、尾静脈を介して投与した。個々の用量は、最新の体重に基づいた。スポンサーによって特に指示されない限り、用量をボーラス注射によって投与した。
【0166】
試験システムの調製
外科的処置−左前下行枝動脈結紮
Charles River Laboratories Surgical Capabilities Reference Paper, Vol. 13, No.1, 2005に記載された通りに、外科的処置を、Charles River Laboratoriesで行った。簡単に記載すると、皮膚および胸筋を通って胸骨の僅かに左側の胸部に、頭蓋尾方向切開を作製する。第3および第4肋骨を横に切開し、肋間筋を鈍的解剖する。胸腔に迅速に入り、心膜を完全に開く。心臓を切開から体外へ出す。肺動脈円錐および左心耳を確認する。小さな曲針を使用し、左前下行枝冠状動脈下に1本の5-0絹縫合糸を通す。結紮を結び、心臓を胸郭へ戻す。胸壁および皮膚切開を閉じながら、胸腔中の空気を徐々に追い出す。陽圧換気を使用して動物を蘇生させ、酸素に富む環境下に置く。
【0167】
術後の回復
短期術後モニタリングおよび適切な鎮痛薬の投与を、Charles River Laboratories Surgical Capabilities Reference Paper, Vol. 13, No.1, 2005に記載された通りにCharles River Laboratoriesによって行った。
【0168】
長期術後モニタリングを行い、疼痛または感染症の徴候について動物を評価した。動物の受け取り後の7日間、毎日の切開部位観察を継続した。必要な場合、追加の疼痛管理および抗菌療法を施した。
【0169】
(表9)予定の医用薬剤および投与量
*-下記に示される動物群評価によって画定されるECHO処置日。
【0170】
生前の研究評価
ケージサイド観察
罹病、死滅、損傷、ならびに食料および水の利用可能性について少なくとも1日2回、全ての動物を観察した。健康状態が良くない動物を、さらなるモニタリングおよび可能性のある安楽死のために同定した。
【0171】
体重
無作為化の前に少なくとも1回および研究の間毎週、体重を測定および記録した。
【0172】
食料消費
食料消費は測定しなかったが、食欲不振は記録に残した。
【0173】
心エコー検査
受け取り(0日目)後1、12、22および32日目に、群1へ割り当てられた全ての動物について、心エコー検査を行った。Charles River Laboratoriesで行われた外科的処置(0日目)後7、18、28および38日目に、群2〜5へ割り当てられた全ての動物について、心エコー検査を行った。
【0174】
心エコー検査について、各動物を表5に従って麻酔し、その体毛を胸部から切り取った。カップリングゲルを心エコートランスデューサーへ塗布し、画像を得、多数のレベルで心機能を測定した。画像を各動物について短軸像で得た(中央乳頭レベルにおいて、または心エコー検査による観察される梗塞領域の位置に依存してその他において)。
【0175】
心エコーのパラメータ
左心室の、中央乳頭筋レベルにおいてまたは心エコー検査による観察される梗塞領域の位置に依存してその他において、ECHO画像を撮影した。M-モードおよび2-D画像をCDおよび/またはMODに記録および保存した。ECHOで得られる測定パラメータは以下を含む:心室内隔壁厚み(拡張期);単位=cm;心室内隔壁厚み(収縮期);単位=cm;左心室内部寸法(拡張期);単位=cm;左心室内部寸法(収縮期);単位=cm;左心室乳頭壁厚み(拡張期);単位=cm;左心室乳頭壁厚み(収縮期);単位=cm;拡張末期容量;単位=mL;収縮末期容量;単位=mL;駆出率;パーセンテージとして報告;一回心拍出量;単位=ml;およびパーセント短縮率;パーセンテージとして報告。
【0176】
安楽死
瀕死
試験施設標準操作手順によって定義されるいずれの瀕死の動物も、人道的な理由のために安楽死させた。死の間際に安楽死させたかまたは死んだ状態で見つけられた全ての動物を、通常の検死へ供した。
【0177】
安楽死の方法
大静脈への飽和塩化カリウム注射、続いての死を確実にするための承認された方法、例えば全採血によって、安楽死を行った。
【0178】
最終処分
研究した全ての生き残っている動物を、それらの予定の検死時に安楽死させたか、または必要ならば、死の間際に安楽死させた。
【0179】
結果
研究1−
GGF2 0.625 mg/kg iv 1日毎(qday)でのラットの処置により、駆出率および短縮率の変化によって本明細書で示される心機能の有意な改善が得られた。EGF-1d断片は、同程度の改善をもたらさなかった。表5を参照のこと。
【0180】
研究2−
GGF2 0.625および3.25 mg/kg iv 1日毎でのラットの処置により、駆出率および短縮率の変化によって本明細書で示される心機能の有意な改善が得られた。処置期間の間、収縮末期容量および拡張末期容量においても、有意な改善が見られた。表6を参照のこと。
【0181】
研究3 結果−
GGF2 3.25 mg/kg iv 24、48または96時間毎でのラットの処置により、駆出率および短縮率の変化によって本明細書で示される心機能の有意な改善が得られた。処置期間の間、収縮末期容量および拡張末期容量においても、有意な改善が見られた。表7を参照のこと。
【0182】
以前の報告(Liuら)は、BSAなどの担体タンパク質が最適なニューレグリン安定性および活性のために必要とされることを示した。GGF2は、BSAなどの担体無しで安定性を示した。この実験は、GGF2がBSA無しでの治療レジメンにおいて安定かつ活性であるかどうかを試験するように設計された。処置の10日後、BSA含有GGF2製剤およびBSA非含有GGF2製剤は両方とも、以前の研究において見られたものと同様のビヒクル対照と比較して、駆出率の改善をもたらした。従って、BSAまたは他の担体タンパク質はCHFの治療のためのGGF2製剤において必要とされないことが、この研究から明らかである。表8を参照のこと。
【0183】
(表10)病理学的所見
++ 頻繁に存在する。+ 存在する。+/- 時折観察される。- 稀に観察されるかまたは観察されない。
【0184】
表10に示された通り、GGF2の断続的な投与は、外因的に投与されるGGF2の超正常レベルに関連する副作用を減らす。本発明者らは、GGF2が静脈内または皮下投与されるかどうかに関係なく、この知見が真実であることを見出した。
【0185】
過形成および心臓影響が、1日おき毎の投与で時折見られる。本発明者らは、頻度の少ない投与では見なかった。
【0186】
いくつかの刊行物および特許文献が、本発明が属する分野の状態をより完全に説明するために、本出願において参照される。本明細書に記載の全ての刊行物および特許出願は、各独立した刊行物または特許出願が参照により組み込まれるように具体的にかつ個々に示されるかのように同程度まで、参照により本明細書に組み入れられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物における心不全を治療または予防するための方法であって、
上皮増殖因子様(EGF様)ドメインを含むペプチドを提供する工程;
治療有効量が哺乳動物において心不全を治療または予防するために有効である、該ペプチドの該治療有効量を該哺乳動物へ少なくとも48時間の間隔で投与する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記投与する工程が48時間毎に行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記投与する工程が96時間毎に行われる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記投与が、4日毎、1週間毎、10日毎、14日毎、1ヶ月毎、2ヶ月毎、3ヶ月毎または4ヶ月毎からなる群より選択されるレジメンで行われる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記ペプチドが組換えヒトGGF2である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記ペプチドが、
である、請求項記載の方法。
【請求項8】
前記ペプチドが、
である、請求項記載の方法。
【請求項9】
前記ペプチドが、ニューレグリン(NRG)-1遺伝子、ニューレグリン(NRG)-2遺伝子、ニューレグリン(NRG)-3遺伝子、またはニューレグリン(NRG)-4遺伝子によってコードされる、請求項1記載の方法。
【請求項1】
哺乳動物における心不全を治療または予防するための方法であって、
上皮増殖因子様(EGF様)ドメインを含むペプチドを提供する工程;
治療有効量が哺乳動物において心不全を治療または予防するために有効である、該ペプチドの該治療有効量を該哺乳動物へ少なくとも48時間の間隔で投与する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記投与する工程が48時間毎に行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記投与する工程が96時間毎に行われる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記投与が、4日毎、1週間毎、10日毎、14日毎、1ヶ月毎、2ヶ月毎、3ヶ月毎または4ヶ月毎からなる群より選択されるレジメンで行われる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記ペプチドが組換えヒトGGF2である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記ペプチドが、
である、請求項記載の方法。
【請求項8】
前記ペプチドが、
である、請求項記載の方法。
【請求項9】
前記ペプチドが、ニューレグリン(NRG)-1遺伝子、ニューレグリン(NRG)-2遺伝子、ニューレグリン(NRG)-3遺伝子、またはニューレグリン(NRG)-4遺伝子によってコードされる、請求項1記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2011−528353(P2011−528353A)
【公表日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−518734(P2011−518734)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【国際出願番号】PCT/US2009/004130
【国際公開番号】WO2010/030317
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(501073611)アコーダ セラピューティクス インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【国際出願番号】PCT/US2009/004130
【国際公開番号】WO2010/030317
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(501073611)アコーダ セラピューティクス インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】
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