心筋様細胞シート、3次元構造体、心筋様組織及びそれらの製造法
【課題】縮弛緩機能、細胞間の電気的結合及び配向を保持した心筋組織の細胞からなる心筋様培養細胞シート及びその3次元構造体を提供する。
【解決手段】水に対する上限もしくは下限臨界溶解温度が0〜80℃である温度応答性ポリマーで基材表面を被覆した細胞培養支持体上で培養し、その後(1)培養液温度を上限臨界溶解温度以上又は下限臨界溶解温度以下とし、更に必要に応じ、(2)培養された細胞シートを高分子膜に密着させ、(3)そのまま高分子膜と共に剥離することからなる、心筋細胞シートの3次元培養方法、および該方法により構築される心筋様組織。
【解決手段】水に対する上限もしくは下限臨界溶解温度が0〜80℃である温度応答性ポリマーで基材表面を被覆した細胞培養支持体上で培養し、その後(1)培養液温度を上限臨界溶解温度以上又は下限臨界溶解温度以下とし、更に必要に応じ、(2)培養された細胞シートを高分子膜に密着させ、(3)そのまま高分子膜と共に剥離することからなる、心筋細胞シートの3次元培養方法、および該方法により構築される心筋様組織。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学、医学等の分野における心筋様細胞シート、3次元構造体、心筋様組織、それらの製造法及びそれらを利用した治療方法に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
近年、in vitroでの心筋組織構築を目的にコラーゲンやポリ乳酸からなる3次元支持体を用いた心筋細胞培養が報告されている。例えば、エシェンハーゲンらは、コラーゲンマトリックス中における3次元再構築に関する報告を行っている(Eschenhagen et al,Faseb.J.,11,683−694,1997)。また、キャリヤーらは、ポリ乳酸による3次元の足場を用いる構築物に関する報告を行っている(Carrier et al,Biotechnil.Bioeng.,64,580−589,1999)。さらに、リーらは、ゼラチンメッシュ内に生物工学的に作製した心臓移植片について報告している(Li et al,J.Thorac.cardiovasc.surg.,119,368−375,2000)。これらの文献に記載されている従来技術においては、いずれも心筋細胞を3次元のマトリックス内で培養し、培養基材上で収縮弛緩挙動を実現している。しかし、これらの技術では得られる細胞塊は高分子ゲル若しくは高分子スポンジ内に包埋された状態であり、得られた細胞塊を例えば医療目的で用いることは、高分子材料のコンタミネーションが問題となる。しかも、細胞シート自身を重ね合わせる技術はこれまでになかった。
【0003】
一方、表皮のような心筋以外の組織の細胞培養に関する知見もこれまでに報告されている。従来、そのような細胞培養は、ガラス表面上あるいは種々の処理を行った合成高分子の表面上にて行われていた。例えば、ポリスチレンを材料とする表面処理、例えばγ線照射、シリコーンコーティング等を行った種々の容器等が細胞培養用容器として普及している。このような細胞培養用容器を用いて培養・増殖した細胞は、トリプシンのような蛋白分解酵素や化学薬品により処理することで容器表面から剥離・回収される。
【0004】
例えば、特公平2−23191号公報には、ケラチノサイトを、ケラチン組織の膜が容器の表面上に形成される条件下に、培養容器中で培養し、ケラチン組織の膜を酵素を用いて剥離させる、ことを特徴とするケラチン組織の移植可能な膜を製造する方法、が記載されている。具体的には、3T3細胞をフィーダーレイヤーとして増殖、重層化させ、蛋白質分解酵素であるディスパーゼを用いて細胞シートを回収する技術が開示されている。しかしながら、当該公報に記載されている方法は次のような欠点を有していた。
(1)ディスパーゼは菌由来のものであり、回収された細胞シートを十分に洗浄する必要性があること。
(2)培養された細胞ごとにディスパーゼ処理の条件が異なり、その処理に熟練が必要であること。
(3)ディスパーゼ処理により培養された表皮細胞が病理学的に活性化されること。
(4)ディスパーゼ処理により細胞外マトリックスが分解されること。
(5)そのためその細胞シートを移植された患部は感染され易いこと。
【0005】
上記欠点を有するため、特公平2−23191号公報に記載の方法をin vitroでの心筋様組織構築に適用することは困難である。
また、特開平05−192138号公報には、水に対する上限若しくは下限臨界溶解温度が0〜80℃であるポリマーで基材表面を被覆した細胞培養支持体上にて、皮膚細胞を上限臨界溶解温度以下又は下限臨界溶解温度以上で培養し、その後上限臨界溶解温度以上又は下限臨界溶解温度以下にすることにより培養皮膚細胞が剥離されることを特徴とする皮膚細胞培養法が記載されている。この方法においては、温度応答性ポリマーを被覆した培養基材から温度により細胞を剥離させているが、この方法では剥離性が悪く、得られた細胞シートは構造欠陥の多いものであった。したがって、特開平05−192138号公報に記載の方法をin vitroでの心筋様組織構築に適用することも困難である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決することを意図してなされたものである。すなわち、本発明は、収縮弛緩機能、細胞間の電気的結合及び配向を保持した心筋組織の細胞からなる心筋様培養細胞シート及びその3次元構造体を提供することを目的とする。また、本発明は、培養された心筋様細胞シートを高分子膜に密着させるとともにディスパーゼのような酵素で処理することなく環境温度を変化させることにより、培養・増殖させた細胞シートを容易にかつその形態を崩さずに支持体表面から剥離・回収することができる方法、及びそれらを3次元構造体とする方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて、研究開発を行った。その結果、温度応答性ポリマーで基材表面を被覆した細胞培養支持体上で心筋組織の細胞を培養し、心筋様細胞シートを得、それを所定の方法で心筋様細胞を重層化させ、その後、培養液温度を上限臨界溶解温度以上又は下限臨界溶解温度以下とし、培養した重層化細胞シートを高分子膜に密着させ、そのまま高分子膜と共に剥離させること、及びそれを所定の方法で3次元構造化させることにより、構造欠陥の少ない、in vitroでの心筋様組織として幾つかの機能を備えた細胞シート、及び3次元構造が構築されることを見いだした。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、収縮弛緩機能、細胞間の電気的結合及び配向を保持した心筋組織の細胞からなる心筋様培養細胞シートを提供する。
また、本発明は、血管内皮細胞による管腔形成及び/または心外膜様の一層の細胞層を外層に有しており、収縮弛緩機能を保持し、3次元に細胞間の電気的結合及び配向を保持した心筋様培養細胞の3次元構造体を提供する。
【0009】
更に、本発明は、水に対する上限もしくは下限臨界溶解温度が0〜80℃である温度応答性ポリマーで基材表面を被覆した細胞培養支持体上で培養し、その後、
(1)培養液温度を上限臨界溶解温度以上又は下限臨界溶解温度以下とし、さらに必要に応じ、
(2)培養された細胞シートまたは3 次元構造体を高分子膜に密着させ、
(3)そのまま高分子膜と共に剥離する
ことを含む心筋様細胞シートの製造法を提供する。
【0010】
加えて、本発明は、上記製造法において得られた高分子膜に密着した心筋様細胞シートを再び細胞培養支持体、温度応答性ポリマーで表面を被覆した細胞培養支持体、高分子膜、或いは他の細胞シートに付着させ、その後密着された高分子膜を剥がす操作を繰り返すことを含む心筋様細胞の3次元構造体の製造法を提供する。
【0011】
更に加えて、本発明は、上記製造法によって得られた心筋様細胞シート、及び3次元構造体を提供する。
更に、本発明は、上記の心筋様細胞シートまたは心筋様細胞の3次元構造体を生体内に埋入することで、当該心筋様細胞シートまたは心筋様細胞の3次元構造体自身に内在している血管内皮細胞による管腔形成、及び/または埋入された周囲の組織内の血管内皮細胞を進入させかつ管腔を形成させることにより血管を形成させた心筋様組織を提供する。
【0012】
加えて、本発明は、心疾患、その他の循環器関連疾患、或いは消化器関連疾患の治療用の上記心筋様細胞シート若しくは心筋様細胞の3次元構造体または上記心筋様組織を提供する。
【0013】
更に加えて、本発明は、上記心筋様細胞シート若しくは心筋様細胞の3次元構造体または上記心筋様組織を利用した心疾患、その他の循環器関連疾患、或いは消化器関連疾患の治療法を提供する。
【0014】
上記本発明によれば、心筋様細胞シートを第3物質のコンタミネーションがなく、しかも低損傷な状態で回収できる。また、重ね合わせることでin vitroで心筋様組織を構築することができ、このものは生体内の心筋組織と同様、収縮弛緩機能、細胞間の電気的同調性、配向性を備えている。本発明によって提供されるかかる心筋様組織細胞シート及び3次元構造体は、従来技術によっては得られなかったものであり、本発明は画期的な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、心筋細胞を温度応答性培養皿(グラフト量 2.0μg/cm2)を用いて培養した場合と、温度応答性ポリマーで被覆されていない市販培養皿を用いて培養した場合との心筋細胞の増殖状態を示す顕微鏡写真である。
【図2】図2は、心筋細胞を温度応答性培養皿(グラフト量 2.0μg/cm2)を用いて培養した場合と、温度応答性ポリマーで被覆されていない市販培養皿を用いて培養した場合との心筋細胞シートの運動状態を示すチャートである。
【図3】図3は、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)をグラフトした培養皿上で培養した心筋細胞シートに低温処理を施した場合の、心筋細胞シートの形態学的変化を示す顕微鏡写真である。
【図4】図4は、心筋細胞シートを得るための2次元マニピュレーション(マニピュレーション法1)を説明する図である。
【図5】図5は、マニピュレーション法1中の細胞骨格(F−actin)、細胞核(Nuclei)の様子を示す顕微鏡写真である。
【図6】図6は、図5に対応する各々の心筋細胞シートの運動状態を示すチャートである。
【図7】図7は、マニピュレーション法1を2回繰り返し2層の心筋様細胞の3次元構造体を得る方法(マニピュレーション法2)を説明する図である。
【図8】図8は、マニピュレーション法1及びマニピュレーション法2によって得られた心筋細胞シート及び3次元構造体の断面の様子を示す顕微鏡写真である。
【図9】図9は、マニピュレーション法1における高分子膜を高分子メッシュとし、剥離させた心筋細胞シートをそのまま培養皿に反転、固定させる方法を方法(マニピュレーション法3)を説明する図である。
【図10】図10は、高分子メッシュをあらかじめ別の培養皿上に固定しておき、その後はマニピュレーション法1の方法に従い心筋細胞シートを移し替える方法(マニピュレーション法4)を説明する図である。
【図11】図11は、マニピュレーション法3によって得られた心筋細胞シート表面の顕微鏡写真(上段)及びH.E.染色後の断面図(下段)の顕微鏡写真である。
【図12】図12は、マニピュレーション法3によって得られた心筋細胞シートの顕微鏡写真(上段)及びその運動性を示すチャートである。
【図13】図13は、ヘマトキシリン−エオシン染色した、マニピュレーション法3によって得られた心筋様細胞の3次元構造体の断面を表す顕微鏡写真である。
【図14】図14は、ヘマトキシリン−エオシン染色した、マニピュレーション法3によって得られた培養心筋様細胞の3次元構造体の断面を表す顕微鏡写真である。
【図15】図15は、マニピュレーション法3を改良して2層の心筋様細胞の3次元構造体を得る方法(マニピュレーション法5)を説明する図である。
【図16】図16は、マニピュレーション法5によって得られた心筋様細胞の3次元構造体表面の顕微鏡写真(上段)及びH.E.染色後の断面図(下段)の顕微鏡写真である。
【図17】図17は、2枚の心筋様細胞シートを一部重ね合わせて付着させ、一方の細胞シートより電気刺激を与えると、もう一方の細胞シートへその電気刺激が伝わることを示す図である。
【図18】図18は、実施例2におけるラットの自己心臓の心電波形及び移植細胞構造体由来の心電波形を示すチャートである。
【図19】図19は、実施例2におけるラットの移植細胞構造体周辺部分の組織切片をアザン染色した顕微鏡写真である。
【図20】図20は、実施例2におけるラットの移植細胞構造体の組織切片をFactor VIII免疫染色した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明における心筋組織の細胞とは、生体内の心臓から得られた細胞であれば特に限定されるものではないが、通常、その中には心筋細胞、血管内皮細胞、及び繊維芽細胞等が含まれている。これらを培養することで、一層からなる心筋様培養細胞シート、更にそれを特定の方法で3次元化することで心筋様培養細胞の3次元構造体を得ることができる。
【0017】
本発明における心筋様培養細胞シート、及び3次元構造体は、培養時にディスパーゼ、トリプシン等で代表される蛋白質分解酵素による損傷を受けていないものである。そのため、基材から剥離された細胞シート及び3次元構造体は細胞、細胞間の蛋白質が保持された強度ある細胞塊として回収でき、心筋細胞特有の収縮弛緩機能、細胞間の電気的結合、及び配向性等の機能を何ら損なうことなく保有している。また、3次元構造体においては、例えば、結合組織からなる心外膜形成、血管内皮細胞による管腔形成等の生体組織様の幾つかの特徴ある細胞の配列も認められるものである。以上のことを具体的に説明すると、トリプシン等の通常の蛋白質分解酵素を使用した場合、細胞、細胞間のデスモソーム構造、及び細胞、基材間の基底膜様蛋白質等は殆ど保持されておらず、従って細胞は個々に分かれた状態となって剥離される。その中で蛋白質分解酵素であるディスパーゼに関しては、細胞、基材間の基底膜様蛋白質を殆ど破壊してしまうものの、デスモソーム構造については10℃〜60℃に保持した状態で剥離させることができることで知られているが、得られる細胞シートは強度の弱いものである。それに対し、本発明の細胞シートは、デスモソーム構造、基底膜様蛋白質共に80%以上残存された状態のものであり、その結果上述したような種々の効果を得ることができるようになる。
【0018】
細胞培養支持体において基材の被覆に用いられる温度応答性ポリマーは、水溶液中で上限臨界溶解温度又は下限臨界溶解温度0℃〜80℃、より好ましくは20℃〜50℃を有する。上限臨界溶解温度又は下限臨界溶解温度が80℃を越えると細胞が死滅する可能性があるので好ましくない。また、上限臨界溶解温度又は下限臨界溶解温度が0℃より低いと一般に細胞増殖速度が極度に低下するか、又は細胞が死滅してしまうため、やはり好ましくない。
【0019】
本発明に用いる温度応答性ポリマーはホモポリマー、コポリマーのいずれであってもよい。このようなポリマーとしては、例えば、特開平2−211865号公報に記載されいるポリマーが挙げられる。具体的には、例えば、以下のモノマーの単独重合又は共重合によって得られる。使用し得るモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、又はビニルエーテル誘導体が挙げられ、コポリマーの場合は、これらのうちの任意の2種以上を使用することができる。更には、上記モノマー以外のモノマー類との共重合、ポリマー同士のグラフト又は共重合、あるいはポリマー、コポリマーの混合物を用いてもよい。また、ポリマー本来の性質を損なわない範囲で架橋することも可能である。
【0020】
被覆を施される基材としては、通常細胞培養に用いられるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の化合物を初めとして、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外の高分子化合物、セラミックス類など全て用いることができる。
【0021】
温度応答性ポリマーの支持体への被覆方法は、特に制限されないが、例えば、特開平2−211865号公報に記載されている方法に従ってよい。すなわち、かかる被覆は、基材と上記モノマー又はポリマーを、電子線照射(EB)、γ線照射、紫外線照射、プラズマ処理、コロナ処理、有機重合反応のいずれかにより、又は塗布、混練等の物理的吸着等により行うことができる。
【0022】
本発明において、心筋細胞の培養は上述のようにして製造された細胞培養支持体上(例えば、細胞培養皿)で行われる。培地温度は、基材表面に被覆された前記ポリマーが上限臨界溶解温度を有する場合はその温度以下、また前記ポリマーが下限臨界溶解温度を有する場合はその温度以上であれば特に制限されない。しかし、培養細胞が増殖しないような低温域、あるいは培養細胞が死滅するような高温域における培養が不適切であることは言うまでもない。温度以外の培養条件は、常法に従えばよく、特に制限されるものではない。例えば、使用する培地については、公知のウシ胎児血清(FCS)等の血清が添加されている培地でもよく、また、このような血清が添加されていない無血清培地でもよい。
【0023】
本発明の方法においては、前記方法に従い、心筋様細胞シートまたは3次元構造体の使用目的に合わせて培養時間を設定すればよい。培養した心筋様細胞シートまたは3次元構造体を支持体材料から剥離回収するには、培養された細胞シートまたは3次元構造体をそのまま、若しくは必要に応じ高分子膜に密着させ、細胞の付着した支持体材料の温度を支持体基材の被覆ポリマーの上限臨界溶解温度以上若しくは下限臨界溶解温度以下にすることによって、培養された細胞シートまたは3次元構造体を単独で、若しくは高分子膜に密着させた場合はそのまま高分子膜とともに剥離することができる。なお、心筋様細胞シートまたは3次元構造体を剥離することは心筋細胞を培養していた培養液において行うことも、その他の等張液において行うことも可能であり、目的に合わせて選択することができる。また、必要に応じ細胞シートまたは3次元構造体を密着させる際に使用する高分子膜としては、例えば、親水化処理が施されたポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース及びその誘導体、キチン、キトサン、コラーゲン、和紙等の紙類、ウレタン、スパンデックス等のネット状、ストッキネット状高分子材料等を挙げることができる。ここで、ネット状、ストッキネット状高分子材料であれば細胞シート及び3次元構造体は自由度が増し、収縮弛緩機能を更に増大させることができる。
【0024】
本発明における心筋細胞の3次元構造体の製法は特に限定されるものではないが、例えば、上記した高分子膜に密着した心筋培養細胞シートを利用することで製造することができる。かかる方法の例として、次に挙げる方法を用いることができる。
(1)高分子膜と密着した細胞シートを細胞培養支持体に付着させ、その後培地を加えることにより高分子膜を細胞シートから剥がし、そして更に別の高分子膜と密着した細胞シートを付着させることを繰り返すことで細胞シートを重層化させる方法。
(2)高分子膜と密着した細胞シートを反転させ、細胞培養支持体上で高分子膜側で固定させ、細胞シート側に別の細胞シートを付着させ、その後培地を加えることで高分子膜を細胞シートから剥がし、再び別の細胞シートを付着させる操作を繰り返すことにより細胞シートを重層化させる方法。
(3)高分子膜と密着した細胞シート同士を細胞シート側で付着させる方法。
【0025】
心筋様細胞シート及び3次元構造体を高収率で剥離、回収する目的で、細胞培養支持体を軽くたたいたり、ゆらしたりする方法、更にはピペットを用いて培地を撹拌する方法等を単独で、あるいは併用して用いてもよい。加えて、必要に応じて心筋様細胞シートは等張液等で洗浄して剥離回収してもよい。
【0026】
基材から剥離された心筋様細胞シート、または3次元構造体は、特定方向に引き伸ばすことで、更に配向された細胞シートまたは3次元構造体となる。その引き伸ばす方法は、何ら制約されるものではないが、テンシロンなどの引っ張り装置を用いる方法、或いは、単純にピンセットで引っ張る方法等が挙げられる。配向させることで、細胞シート及び3次元構造体自身の動きに方向性を持たせることができ、このことは、例えば、特定の臓器の動きに合わせて、細胞シート或いは3次元構造体を重ね合わせることを可能とするため、細胞シート或いは3次元構造体を臓器に適用する場合に効率が良い。
【0027】
上述の方法により得られた心筋様細胞シート及び3次元構造体は、従来の方法では得られなかったものである。得られた細胞シート或いは3次元構造体は従来技術では断絶された基底膜を保持している為、心臓以外の腕、肩、足、その他のいかなる臓器等、生体内のどこに埋入しても、周囲の組織に良く生着し、それぞれの場合で脈を打ち続ける。これは、生体内に埋入された細胞シート或いは3次元構造体が、生体組織に生着すると同時に、収縮弛緩することで低酸素状態となり、それを補うために生体組織側より積極的に血管内皮細胞が進入し、血管が形成され、血液を介して酸素のみならず栄養分も十分に補給された結果と考えられる。以上より、生体内に埋入された細胞シート及び3次元構造体により、生体内で心筋様組織が形成されることとなる。それらは移植用等の臨床応用が強く期待される。具体的には、本発明の細胞シート、3次元構造体或いは心筋様組織を心臓の収縮力の弱まった部位に移植することで、心筋梗塞等の心疾患等に対する治療用用具として、或いはそれらを血管の周囲に当てることで血行を改善させることができ、例えば、重度のレイノウ、重度な肩こり、更には大動脈の機能不全等の治療用具として有用なものとなる。
【0028】
なお、本発明の方法において使用される細胞培養支持体は繰り返し使用が可能である。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
[実施例1]
(材料、使用機器)
1.細胞:初代ニワトリ胚心筋細胞を常法により採取、培養した(Cardiovasc.Res.,41,641(1999)を参照)。
2.培養皿:温度応答性培養皿(グラフト量 2.0μg/cm2)を用いた。対照として、温度応答性ポリマーで被覆されていない市販培養皿(Falcon3001)を使用した。
3.培地:6%FBS、40%199培地、0.2%ペニシリン−ストレプトマイシン、2.7mMグルコース、54%生理食塩水(116mM NaCl,1.0mM NaH2PO4,8mM MgSO4,1.18mM KCl,0.87mM CaCl2,26.2mM NaHCO3)からなる培地を用いた。
4.培養:初代トリ胎児心筋細胞を35mmの培養皿に0.5x106 cells/cm2の細胞密度で播種した。
5.その他の条件は常法に従った。
6.細胞の顕微鏡観察:位相差顕微鏡(ET300、ニコン製)及び蛍光顕微鏡(DMIRB、ライカ製)を使用した。
7.収縮弛緩挙動測定法:CCDカメラ(RS−170、COHU製)にて撮影したものを画像解析した。
【0030】
(方法)
具体的には下記のようにして、心筋様細胞シートを作製した。
10日目ニワトリ胚よりトリプシンを用いて心筋細胞を単離し、温度応答性培養皿、すなわち、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)をグラフトした培養皿上で培養した。細胞との接着を減少させる目的で、種々の高分子からなるメッシュを支持体として用い低温処理(20℃)を行った。培養皿から脱着しメッシュに付着した心筋細胞シートを培養皿上で上下反転し遊離した状態で培養した。また、心筋細胞シートの付着したメッシュを、温度応答性培養皿上に培養した新たな心筋細胞シートに重層し、低温処理後2枚の心筋細胞シートと一緒にメッシュを反転し培養した。形態を組織切片像(H.E、Azan染色)にて、収縮弛緩機能を顕微鏡に接続したCCDカメラを介してVTR録画し、画像解析装置にて定量化した。その方法は特に限定されるものではないが、例えば、細胞質中に目視できる濃淡部を特定し、その動きを画像解析装置にて追跡しその軌跡を調べることで定量化することができる。
【0031】
(結果)
図1は、心筋細胞を温度応答性培養皿(グラフト量 2.0μg/cm2)を用いて培養した場合と、温度応答性ポリマーで被覆されていない市販培養皿を用いて培養した場合との心筋細胞の増殖状態を示す顕微鏡写真である。図1において、Normalは市販培養皿を用いて培養した場合、PIPAAmは温度応答性培養皿を用いて培養した場合をそれぞれ表す。Sparseは心筋細胞の散生状態を示し、Confluentは心筋細胞の集密状態を示す。図1から、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)をグラフトした培養皿上でも、通常の市販培養皿と同様、心筋細胞はコンフルエント(confluent)になることが判る。
【0032】
図2は、心筋細胞を温度応答性培養皿(グラフト量 2.0μg/cm2)を用いて培養した場合と、温度応答性ポリマーで被覆されていない市販培養皿を用いて培養した場合との心筋細胞の運動状態を示すチャートである。図2において、Normalは市販培養皿を用いて培養した場合、PIPAAmは温度応答性培養皿を用いて培養した場合をそれぞれ表す。Motionは細胞の振幅を画像解析装置にて測定した結果で、それは心筋細胞の収縮弛緩を示す。図2から、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)をグラフトした培養皿上でも、通常の市販培養皿と同様、心筋細胞は収縮弛緩機能を有することが判る。但し、前者においては、心筋細胞が皿上に接着しているため変化量は少ない。
【0033】
図3は、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)をグラフトした培養皿上で培養した心筋細胞に低温処理を施した場合の、心筋細胞の形態学的変化を示す顕微鏡写真である。図3において、Preは低温処理前の心筋細胞の状態を、Postは低温処理後の心筋細胞の状態をそれぞれ示す。図3から、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)をグラフトした培養皿上の細胞は、低温処理により剥離することが判る。
【0034】
図4は、心筋細胞シートの2次元マニピュレーション(以下、「マニピュレーション法1」と略す)を説明する図である。まず、ポリイソプロピルアクリルアミドをグラフトした培養皿上で培養。コンフルエント(confluent)後、高分子膜(ポリビニリデンジフルオライド)を密着させながら、低温処理し、剥離。別の培養皿に移し替える。図4において、Support membraneは高分子膜を表し、PIPAAm grafted dishはポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)をグラフトした培養皿を表し、Normal culture dishは通常の市販培養皿を表す。Recovered cardiac cell sheetは回収された心筋細胞シートを表す。
【0035】
図5は、マニピュレーション法1中の細胞骨格(F−actin)、細胞核(Nuclei)の様子を示す顕微鏡写真である。図5において、Normal sheetは、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)をグラフトした培養皿上で培養された細胞を表し、Shrunk sheetは、剥離し、丸まってしまった状態の細胞を表し、Recovered sheetは高分子膜と共に回収された心筋細胞シートが再び細胞培養支持体上に付着された状態の細胞シートを表す。図5から、別の培養皿に移し替えたもの(図4におけるRecovered sheet)も、移し替える前の状態を再現できていることが判る。
【0036】
図6は、図5に対応する各々の心筋細胞の運動状態を示すチャートである。Motionは細胞の振幅を画像解析装置にて測定した結果で、それは心筋細胞の収縮弛緩を示す。図6から、マニピュレーション法1前後(Normal sheetとRecovered sheet)の心筋細胞の収縮弛緩機能が維持されていることが裏付けられた。一方、高分子膜と共に剥離しなかったものは、低温処理により細胞培養支持体上より剥離されるが、細胞シート自身が丸まり、収縮してしまい、目的とする収縮弛緩機能は認められなかった。
【0037】
図7は、マニピュレーション法1を2回繰り返し2層の新規細胞シートを得る方法(以下、「マニピュレーション法2」と略す)を説明する図である。即ち、高分子膜と密着した細胞シートを細胞培養支持体に付着させ、その後培地を加えることにより高分子膜を細胞シートから剥がし、そして更に別の高分子膜と密着した細胞シートを付着させることを繰り返すことで細胞シートを重層化させる方法を示している。図7において、Support membraneは高分子膜を表し、PIPAAm grafted dish及びNormal culture dishは前記と同じ意味を表す。Piled up cardiac cell sheetsは2層の心筋細胞シートを示す。
【0038】
図8は、マニピュレーション法1及びマニピュレーション法2によって得られた心筋細胞の断面の様子を示す顕微鏡写真である。いずれの方法によって得られた細胞シートもヘマトキシリン−エオシンにより染色した。図8において、Single layerはマニピュレーション法1によって得られた心筋細胞(単層)の断面の様子を、Double layerはマニピュレーション法2によって得られた心筋細胞(2層)の断面の様子をそれぞれ表す。Hematoxylin−eosin stainはこれらの細胞シートがヘマトキシリン−エオシン染色を施されたことを意味する。
【0039】
図9は、マニピュレーション法1における高分子膜を高分子メッシュとし、剥離させた心筋細胞シートをそのまま培養皿に反転、固定させる方法を方法(以下、「マニピュレーション法3」と略す)を説明する図である。マニピュレーション法3によれば、心筋細胞シートが接している高分子材料がメッシュであるため、心筋細胞シートの収縮弛緩機能が高まる。図9において、Meshは高分子メッシュを表し、PIPAAm grafted dish及びNormal culture dishは前記と同じ意味を表す。Recovered free cardiac cell sheetは回収された遊離心筋細胞シートを表す。Inverは剥離させた心筋細胞シートをそのまま培養皿に反転させることを意味する。
【0040】
図10は、高分子メッシュをあらかじめ別の培養皿上に固定しておき、その後はマニピュレーション法1の方法に従い心筋細胞シートを移し替える方怯(以下、「マニピュレーション法4」と略す)を説明する図である。図10において、Support membrane、PIPAAm grafted dish及びRecovered free cardiac cell sheetは前記と同じ意味を表す。また、Mesh in a culture dishは、培養皿上に固定されたメッシュを表す。
【0041】
図11は、マニピュレーション法3によって得られた心筋細胞シート表面の顕微鏡写真(上段)及びH.E.染色後の断面図(下段)の顕微鏡写真である。図11において、Meshは前記と同じ意味を表し、Free cardiac sheetは遊離された心筋細胞シートを、Cross−sectional View(H.E.)はH.E.染色後の断面図を表す。
【0042】
図12は、マニピュレーション法3によって得られた心筋細胞シートの顕微鏡写真(上段)及びその運動性を示すチャートである。図12において、Motionは前記と同じ意味を表し、On dishは培養皿上における場合を表し、On meshはメッシュ上における場合を表す。図12から、支持体がメッシュにになったため、心筋細胞の運動の変化量が増大したことが判る。
【0043】
図13の上下段の写真は共に、ヘマトキシリン−エオシン染色した、マニピュレーション法3によって得られた培養心筋細胞シートの断面を表す顕微鏡写真である。
図14は、ヘマトキシリン−エオシン染色した、マニピュレーション法3によって得られた培養心筋細胞シートの断面を表す顕微鏡写真である。上段は本発明の方法により得られた心筋組織の顕微鏡写真であり、下段はニワトリ胚(10日目)心筋組織の顕微鏡写真である。図14から、本発明の方法により得られた心筋組織が生体内組織と極めて似た構造となっていることが判る。
【0044】
図15は、マニピュレーション法3を改良して2層の心筋細胞シートを得る方法(以下、「マニピュレーション法5」と略す)を説明する図である。マニピュレーション法5においては、高分子メッシュとしてストッキングを利用する。図15において、Mesh、PIPAAm grafted dish、Invert、Normal culture dishは前記と同じ意味を表す。Recovered free cardiac cell sheets(Double)は、回収された遊離心筋細胞シート(2層)を表す。
【0045】
図16は、マニピュレーション法5によって得られた心筋細胞シート表面の顕微鏡写真(上段)及びH.E.染色後の断面図(下段)の顕微鏡写真である。図16において、Mesh及びCross−sectional View(H.E.)は前記と同じ意味を表す。上段のSingleは1層目、Doubleは2層目を表す。
【0046】
図17は、2枚の心筋様細胞シートを一部重ね合わせて付着させ、一方の細胞シート(右側の細胞シート(図中a))より電気刺激を与えると、もう一方の細胞シート(左側の細胞シート(図中b))へその電気刺激が伝わることを示す図である(但し、図が横長であるため、本来の上下の位置を反時計回りに90度回転して示してある)。図17において、Electrical stimulationとは右側の細胞シートから送られるパルス状の電気的刺激を意味する(図中のElectrical stimulationの下線部分の後半(右側)に示される縦の線がパルス状の刺激を示す。)。その刺激を左側の細胞シートより上述した細胞の振幅を画像解析装置にて観測(observation)する方法をとった。図中下に示されるMotionとは、その細胞の振幅を画像解析装置にて測定した結果で、Spontaneous beatsとは、先の電気刺激が与えられた後の細胞の挙動を示している。一方の細胞シートに与えられた電気刺激により、他方の細胞シートの収縮弛緩のリズムが速くなっている結果を示している。このことは、本発明で得られた心筋様細胞シートにおいては、シート内の細胞と細胞の間、さらにシート同士を重ね合わせるだけで異なるシート間の細胞と細胞の間にも電気的結合が保持されていることを意味する。
【0047】
(考察)
上記実施例及び図1〜図17に示された結果から次のことが判明した。
(1)メッシュ上の心筋細胞シート及びその3次元構造体は、培養皿表面に固定されている時と比べ、より大きな収縮弛緩を示す。これは、個々の細胞が培養皿から脱着し自由度が増大したためと考えられる。
(2)心筋細胞シートの重層化による3次元培養を行ったところ、組織切片上2枚のシート接着が認められた。また、重層化心筋細胞シート全体が同期して拍動し、2枚のシートの電気的な結合が示唆された。さらに、心筋細胞シート全体をメッシュ上で、ある一方向にのみ収縮させると、それと垂直方向に3次元的な束状になり、その結果、心筋細胞が配向性を獲得し、長軸方向に拍動した。
(3)長期(5日間)に培養しておくと、横断組織切片上、束状の心筋細胞の周囲に、心外膜様の一層の細胞層の形成が観察された。
【0048】
[実施例2]
新生仔ラットより心筋細胞をコラゲナーゼを用い単離し、実施例1と同じ温度応答性培養皿に播種した。実施例1と同じ培地、培養条件で4日間培養し、コンフルエントになった心筋細胞シートを低温処理することで剥離させた。2枚の剥離心筋様細胞シートを培養液中でピペッティング操作により重ね合わせた。この際、高分子膜は用いず、剥離後収縮した心筋シートをそのまま重ね合わせる方法をとった。約20分で2枚のシートは互いに接着した。次にこの3次元構造体をヌードラット(免疫不全ラット、F344)の背部皮下組織に常法に従い移植した。
【0049】
その結果、図18に示すように、移植直後より体表面からラットの自己心臓の拍動とは独立した移植細胞構造体由来の心電波形が確認された。移植3週間後、移植部位を切開したところ、移植細胞構造体の拍動およびそれへの生体組織側からの血管新生が肉眼レベルで確認された。
【0050】
図19は、その部分の組織切片をアザン染色(H.E、Azan染色)した結果を示す顕微鏡写真である。移植細胞構造体は筋組織であるために赤色に、移植された皮下組織は結合組織であり、青色に染まる。そしてその移植細胞構造体に赤色に染まった血管に認められ、その管内に赤色の血球のあることを認められた。また、この移植細胞構造体内に血管が形成されたことは、図20の血管内皮細胞のみが染色されるFactor VIII免疫染色の結果からも確認することができた。
【0051】
以上により、組織切片上でも心筋組織同様の構造及び移植細胞構造体内の血管の新生が確認された。
[産業上の利用の可能性]
本発明によれば、心筋細胞シートの3次元培養が可能となり、心筋様組織を構築することができる。したがって、本発明は臨床応用が大いに期待でき、細胞工学、医用工学、などの医学、生物学等の分野における極めて有用な発明である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学、医学等の分野における心筋様細胞シート、3次元構造体、心筋様組織、それらの製造法及びそれらを利用した治療方法に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
近年、in vitroでの心筋組織構築を目的にコラーゲンやポリ乳酸からなる3次元支持体を用いた心筋細胞培養が報告されている。例えば、エシェンハーゲンらは、コラーゲンマトリックス中における3次元再構築に関する報告を行っている(Eschenhagen et al,Faseb.J.,11,683−694,1997)。また、キャリヤーらは、ポリ乳酸による3次元の足場を用いる構築物に関する報告を行っている(Carrier et al,Biotechnil.Bioeng.,64,580−589,1999)。さらに、リーらは、ゼラチンメッシュ内に生物工学的に作製した心臓移植片について報告している(Li et al,J.Thorac.cardiovasc.surg.,119,368−375,2000)。これらの文献に記載されている従来技術においては、いずれも心筋細胞を3次元のマトリックス内で培養し、培養基材上で収縮弛緩挙動を実現している。しかし、これらの技術では得られる細胞塊は高分子ゲル若しくは高分子スポンジ内に包埋された状態であり、得られた細胞塊を例えば医療目的で用いることは、高分子材料のコンタミネーションが問題となる。しかも、細胞シート自身を重ね合わせる技術はこれまでになかった。
【0003】
一方、表皮のような心筋以外の組織の細胞培養に関する知見もこれまでに報告されている。従来、そのような細胞培養は、ガラス表面上あるいは種々の処理を行った合成高分子の表面上にて行われていた。例えば、ポリスチレンを材料とする表面処理、例えばγ線照射、シリコーンコーティング等を行った種々の容器等が細胞培養用容器として普及している。このような細胞培養用容器を用いて培養・増殖した細胞は、トリプシンのような蛋白分解酵素や化学薬品により処理することで容器表面から剥離・回収される。
【0004】
例えば、特公平2−23191号公報には、ケラチノサイトを、ケラチン組織の膜が容器の表面上に形成される条件下に、培養容器中で培養し、ケラチン組織の膜を酵素を用いて剥離させる、ことを特徴とするケラチン組織の移植可能な膜を製造する方法、が記載されている。具体的には、3T3細胞をフィーダーレイヤーとして増殖、重層化させ、蛋白質分解酵素であるディスパーゼを用いて細胞シートを回収する技術が開示されている。しかしながら、当該公報に記載されている方法は次のような欠点を有していた。
(1)ディスパーゼは菌由来のものであり、回収された細胞シートを十分に洗浄する必要性があること。
(2)培養された細胞ごとにディスパーゼ処理の条件が異なり、その処理に熟練が必要であること。
(3)ディスパーゼ処理により培養された表皮細胞が病理学的に活性化されること。
(4)ディスパーゼ処理により細胞外マトリックスが分解されること。
(5)そのためその細胞シートを移植された患部は感染され易いこと。
【0005】
上記欠点を有するため、特公平2−23191号公報に記載の方法をin vitroでの心筋様組織構築に適用することは困難である。
また、特開平05−192138号公報には、水に対する上限若しくは下限臨界溶解温度が0〜80℃であるポリマーで基材表面を被覆した細胞培養支持体上にて、皮膚細胞を上限臨界溶解温度以下又は下限臨界溶解温度以上で培養し、その後上限臨界溶解温度以上又は下限臨界溶解温度以下にすることにより培養皮膚細胞が剥離されることを特徴とする皮膚細胞培養法が記載されている。この方法においては、温度応答性ポリマーを被覆した培養基材から温度により細胞を剥離させているが、この方法では剥離性が悪く、得られた細胞シートは構造欠陥の多いものであった。したがって、特開平05−192138号公報に記載の方法をin vitroでの心筋様組織構築に適用することも困難である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決することを意図してなされたものである。すなわち、本発明は、収縮弛緩機能、細胞間の電気的結合及び配向を保持した心筋組織の細胞からなる心筋様培養細胞シート及びその3次元構造体を提供することを目的とする。また、本発明は、培養された心筋様細胞シートを高分子膜に密着させるとともにディスパーゼのような酵素で処理することなく環境温度を変化させることにより、培養・増殖させた細胞シートを容易にかつその形態を崩さずに支持体表面から剥離・回収することができる方法、及びそれらを3次元構造体とする方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて、研究開発を行った。その結果、温度応答性ポリマーで基材表面を被覆した細胞培養支持体上で心筋組織の細胞を培養し、心筋様細胞シートを得、それを所定の方法で心筋様細胞を重層化させ、その後、培養液温度を上限臨界溶解温度以上又は下限臨界溶解温度以下とし、培養した重層化細胞シートを高分子膜に密着させ、そのまま高分子膜と共に剥離させること、及びそれを所定の方法で3次元構造化させることにより、構造欠陥の少ない、in vitroでの心筋様組織として幾つかの機能を備えた細胞シート、及び3次元構造が構築されることを見いだした。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、収縮弛緩機能、細胞間の電気的結合及び配向を保持した心筋組織の細胞からなる心筋様培養細胞シートを提供する。
また、本発明は、血管内皮細胞による管腔形成及び/または心外膜様の一層の細胞層を外層に有しており、収縮弛緩機能を保持し、3次元に細胞間の電気的結合及び配向を保持した心筋様培養細胞の3次元構造体を提供する。
【0009】
更に、本発明は、水に対する上限もしくは下限臨界溶解温度が0〜80℃である温度応答性ポリマーで基材表面を被覆した細胞培養支持体上で培養し、その後、
(1)培養液温度を上限臨界溶解温度以上又は下限臨界溶解温度以下とし、さらに必要に応じ、
(2)培養された細胞シートまたは3 次元構造体を高分子膜に密着させ、
(3)そのまま高分子膜と共に剥離する
ことを含む心筋様細胞シートの製造法を提供する。
【0010】
加えて、本発明は、上記製造法において得られた高分子膜に密着した心筋様細胞シートを再び細胞培養支持体、温度応答性ポリマーで表面を被覆した細胞培養支持体、高分子膜、或いは他の細胞シートに付着させ、その後密着された高分子膜を剥がす操作を繰り返すことを含む心筋様細胞の3次元構造体の製造法を提供する。
【0011】
更に加えて、本発明は、上記製造法によって得られた心筋様細胞シート、及び3次元構造体を提供する。
更に、本発明は、上記の心筋様細胞シートまたは心筋様細胞の3次元構造体を生体内に埋入することで、当該心筋様細胞シートまたは心筋様細胞の3次元構造体自身に内在している血管内皮細胞による管腔形成、及び/または埋入された周囲の組織内の血管内皮細胞を進入させかつ管腔を形成させることにより血管を形成させた心筋様組織を提供する。
【0012】
加えて、本発明は、心疾患、その他の循環器関連疾患、或いは消化器関連疾患の治療用の上記心筋様細胞シート若しくは心筋様細胞の3次元構造体または上記心筋様組織を提供する。
【0013】
更に加えて、本発明は、上記心筋様細胞シート若しくは心筋様細胞の3次元構造体または上記心筋様組織を利用した心疾患、その他の循環器関連疾患、或いは消化器関連疾患の治療法を提供する。
【0014】
上記本発明によれば、心筋様細胞シートを第3物質のコンタミネーションがなく、しかも低損傷な状態で回収できる。また、重ね合わせることでin vitroで心筋様組織を構築することができ、このものは生体内の心筋組織と同様、収縮弛緩機能、細胞間の電気的同調性、配向性を備えている。本発明によって提供されるかかる心筋様組織細胞シート及び3次元構造体は、従来技術によっては得られなかったものであり、本発明は画期的な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、心筋細胞を温度応答性培養皿(グラフト量 2.0μg/cm2)を用いて培養した場合と、温度応答性ポリマーで被覆されていない市販培養皿を用いて培養した場合との心筋細胞の増殖状態を示す顕微鏡写真である。
【図2】図2は、心筋細胞を温度応答性培養皿(グラフト量 2.0μg/cm2)を用いて培養した場合と、温度応答性ポリマーで被覆されていない市販培養皿を用いて培養した場合との心筋細胞シートの運動状態を示すチャートである。
【図3】図3は、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)をグラフトした培養皿上で培養した心筋細胞シートに低温処理を施した場合の、心筋細胞シートの形態学的変化を示す顕微鏡写真である。
【図4】図4は、心筋細胞シートを得るための2次元マニピュレーション(マニピュレーション法1)を説明する図である。
【図5】図5は、マニピュレーション法1中の細胞骨格(F−actin)、細胞核(Nuclei)の様子を示す顕微鏡写真である。
【図6】図6は、図5に対応する各々の心筋細胞シートの運動状態を示すチャートである。
【図7】図7は、マニピュレーション法1を2回繰り返し2層の心筋様細胞の3次元構造体を得る方法(マニピュレーション法2)を説明する図である。
【図8】図8は、マニピュレーション法1及びマニピュレーション法2によって得られた心筋細胞シート及び3次元構造体の断面の様子を示す顕微鏡写真である。
【図9】図9は、マニピュレーション法1における高分子膜を高分子メッシュとし、剥離させた心筋細胞シートをそのまま培養皿に反転、固定させる方法を方法(マニピュレーション法3)を説明する図である。
【図10】図10は、高分子メッシュをあらかじめ別の培養皿上に固定しておき、その後はマニピュレーション法1の方法に従い心筋細胞シートを移し替える方法(マニピュレーション法4)を説明する図である。
【図11】図11は、マニピュレーション法3によって得られた心筋細胞シート表面の顕微鏡写真(上段)及びH.E.染色後の断面図(下段)の顕微鏡写真である。
【図12】図12は、マニピュレーション法3によって得られた心筋細胞シートの顕微鏡写真(上段)及びその運動性を示すチャートである。
【図13】図13は、ヘマトキシリン−エオシン染色した、マニピュレーション法3によって得られた心筋様細胞の3次元構造体の断面を表す顕微鏡写真である。
【図14】図14は、ヘマトキシリン−エオシン染色した、マニピュレーション法3によって得られた培養心筋様細胞の3次元構造体の断面を表す顕微鏡写真である。
【図15】図15は、マニピュレーション法3を改良して2層の心筋様細胞の3次元構造体を得る方法(マニピュレーション法5)を説明する図である。
【図16】図16は、マニピュレーション法5によって得られた心筋様細胞の3次元構造体表面の顕微鏡写真(上段)及びH.E.染色後の断面図(下段)の顕微鏡写真である。
【図17】図17は、2枚の心筋様細胞シートを一部重ね合わせて付着させ、一方の細胞シートより電気刺激を与えると、もう一方の細胞シートへその電気刺激が伝わることを示す図である。
【図18】図18は、実施例2におけるラットの自己心臓の心電波形及び移植細胞構造体由来の心電波形を示すチャートである。
【図19】図19は、実施例2におけるラットの移植細胞構造体周辺部分の組織切片をアザン染色した顕微鏡写真である。
【図20】図20は、実施例2におけるラットの移植細胞構造体の組織切片をFactor VIII免疫染色した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明における心筋組織の細胞とは、生体内の心臓から得られた細胞であれば特に限定されるものではないが、通常、その中には心筋細胞、血管内皮細胞、及び繊維芽細胞等が含まれている。これらを培養することで、一層からなる心筋様培養細胞シート、更にそれを特定の方法で3次元化することで心筋様培養細胞の3次元構造体を得ることができる。
【0017】
本発明における心筋様培養細胞シート、及び3次元構造体は、培養時にディスパーゼ、トリプシン等で代表される蛋白質分解酵素による損傷を受けていないものである。そのため、基材から剥離された細胞シート及び3次元構造体は細胞、細胞間の蛋白質が保持された強度ある細胞塊として回収でき、心筋細胞特有の収縮弛緩機能、細胞間の電気的結合、及び配向性等の機能を何ら損なうことなく保有している。また、3次元構造体においては、例えば、結合組織からなる心外膜形成、血管内皮細胞による管腔形成等の生体組織様の幾つかの特徴ある細胞の配列も認められるものである。以上のことを具体的に説明すると、トリプシン等の通常の蛋白質分解酵素を使用した場合、細胞、細胞間のデスモソーム構造、及び細胞、基材間の基底膜様蛋白質等は殆ど保持されておらず、従って細胞は個々に分かれた状態となって剥離される。その中で蛋白質分解酵素であるディスパーゼに関しては、細胞、基材間の基底膜様蛋白質を殆ど破壊してしまうものの、デスモソーム構造については10℃〜60℃に保持した状態で剥離させることができることで知られているが、得られる細胞シートは強度の弱いものである。それに対し、本発明の細胞シートは、デスモソーム構造、基底膜様蛋白質共に80%以上残存された状態のものであり、その結果上述したような種々の効果を得ることができるようになる。
【0018】
細胞培養支持体において基材の被覆に用いられる温度応答性ポリマーは、水溶液中で上限臨界溶解温度又は下限臨界溶解温度0℃〜80℃、より好ましくは20℃〜50℃を有する。上限臨界溶解温度又は下限臨界溶解温度が80℃を越えると細胞が死滅する可能性があるので好ましくない。また、上限臨界溶解温度又は下限臨界溶解温度が0℃より低いと一般に細胞増殖速度が極度に低下するか、又は細胞が死滅してしまうため、やはり好ましくない。
【0019】
本発明に用いる温度応答性ポリマーはホモポリマー、コポリマーのいずれであってもよい。このようなポリマーとしては、例えば、特開平2−211865号公報に記載されいるポリマーが挙げられる。具体的には、例えば、以下のモノマーの単独重合又は共重合によって得られる。使用し得るモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、又はビニルエーテル誘導体が挙げられ、コポリマーの場合は、これらのうちの任意の2種以上を使用することができる。更には、上記モノマー以外のモノマー類との共重合、ポリマー同士のグラフト又は共重合、あるいはポリマー、コポリマーの混合物を用いてもよい。また、ポリマー本来の性質を損なわない範囲で架橋することも可能である。
【0020】
被覆を施される基材としては、通常細胞培養に用いられるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の化合物を初めとして、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外の高分子化合物、セラミックス類など全て用いることができる。
【0021】
温度応答性ポリマーの支持体への被覆方法は、特に制限されないが、例えば、特開平2−211865号公報に記載されている方法に従ってよい。すなわち、かかる被覆は、基材と上記モノマー又はポリマーを、電子線照射(EB)、γ線照射、紫外線照射、プラズマ処理、コロナ処理、有機重合反応のいずれかにより、又は塗布、混練等の物理的吸着等により行うことができる。
【0022】
本発明において、心筋細胞の培養は上述のようにして製造された細胞培養支持体上(例えば、細胞培養皿)で行われる。培地温度は、基材表面に被覆された前記ポリマーが上限臨界溶解温度を有する場合はその温度以下、また前記ポリマーが下限臨界溶解温度を有する場合はその温度以上であれば特に制限されない。しかし、培養細胞が増殖しないような低温域、あるいは培養細胞が死滅するような高温域における培養が不適切であることは言うまでもない。温度以外の培養条件は、常法に従えばよく、特に制限されるものではない。例えば、使用する培地については、公知のウシ胎児血清(FCS)等の血清が添加されている培地でもよく、また、このような血清が添加されていない無血清培地でもよい。
【0023】
本発明の方法においては、前記方法に従い、心筋様細胞シートまたは3次元構造体の使用目的に合わせて培養時間を設定すればよい。培養した心筋様細胞シートまたは3次元構造体を支持体材料から剥離回収するには、培養された細胞シートまたは3次元構造体をそのまま、若しくは必要に応じ高分子膜に密着させ、細胞の付着した支持体材料の温度を支持体基材の被覆ポリマーの上限臨界溶解温度以上若しくは下限臨界溶解温度以下にすることによって、培養された細胞シートまたは3次元構造体を単独で、若しくは高分子膜に密着させた場合はそのまま高分子膜とともに剥離することができる。なお、心筋様細胞シートまたは3次元構造体を剥離することは心筋細胞を培養していた培養液において行うことも、その他の等張液において行うことも可能であり、目的に合わせて選択することができる。また、必要に応じ細胞シートまたは3次元構造体を密着させる際に使用する高分子膜としては、例えば、親水化処理が施されたポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース及びその誘導体、キチン、キトサン、コラーゲン、和紙等の紙類、ウレタン、スパンデックス等のネット状、ストッキネット状高分子材料等を挙げることができる。ここで、ネット状、ストッキネット状高分子材料であれば細胞シート及び3次元構造体は自由度が増し、収縮弛緩機能を更に増大させることができる。
【0024】
本発明における心筋細胞の3次元構造体の製法は特に限定されるものではないが、例えば、上記した高分子膜に密着した心筋培養細胞シートを利用することで製造することができる。かかる方法の例として、次に挙げる方法を用いることができる。
(1)高分子膜と密着した細胞シートを細胞培養支持体に付着させ、その後培地を加えることにより高分子膜を細胞シートから剥がし、そして更に別の高分子膜と密着した細胞シートを付着させることを繰り返すことで細胞シートを重層化させる方法。
(2)高分子膜と密着した細胞シートを反転させ、細胞培養支持体上で高分子膜側で固定させ、細胞シート側に別の細胞シートを付着させ、その後培地を加えることで高分子膜を細胞シートから剥がし、再び別の細胞シートを付着させる操作を繰り返すことにより細胞シートを重層化させる方法。
(3)高分子膜と密着した細胞シート同士を細胞シート側で付着させる方法。
【0025】
心筋様細胞シート及び3次元構造体を高収率で剥離、回収する目的で、細胞培養支持体を軽くたたいたり、ゆらしたりする方法、更にはピペットを用いて培地を撹拌する方法等を単独で、あるいは併用して用いてもよい。加えて、必要に応じて心筋様細胞シートは等張液等で洗浄して剥離回収してもよい。
【0026】
基材から剥離された心筋様細胞シート、または3次元構造体は、特定方向に引き伸ばすことで、更に配向された細胞シートまたは3次元構造体となる。その引き伸ばす方法は、何ら制約されるものではないが、テンシロンなどの引っ張り装置を用いる方法、或いは、単純にピンセットで引っ張る方法等が挙げられる。配向させることで、細胞シート及び3次元構造体自身の動きに方向性を持たせることができ、このことは、例えば、特定の臓器の動きに合わせて、細胞シート或いは3次元構造体を重ね合わせることを可能とするため、細胞シート或いは3次元構造体を臓器に適用する場合に効率が良い。
【0027】
上述の方法により得られた心筋様細胞シート及び3次元構造体は、従来の方法では得られなかったものである。得られた細胞シート或いは3次元構造体は従来技術では断絶された基底膜を保持している為、心臓以外の腕、肩、足、その他のいかなる臓器等、生体内のどこに埋入しても、周囲の組織に良く生着し、それぞれの場合で脈を打ち続ける。これは、生体内に埋入された細胞シート或いは3次元構造体が、生体組織に生着すると同時に、収縮弛緩することで低酸素状態となり、それを補うために生体組織側より積極的に血管内皮細胞が進入し、血管が形成され、血液を介して酸素のみならず栄養分も十分に補給された結果と考えられる。以上より、生体内に埋入された細胞シート及び3次元構造体により、生体内で心筋様組織が形成されることとなる。それらは移植用等の臨床応用が強く期待される。具体的には、本発明の細胞シート、3次元構造体或いは心筋様組織を心臓の収縮力の弱まった部位に移植することで、心筋梗塞等の心疾患等に対する治療用用具として、或いはそれらを血管の周囲に当てることで血行を改善させることができ、例えば、重度のレイノウ、重度な肩こり、更には大動脈の機能不全等の治療用具として有用なものとなる。
【0028】
なお、本発明の方法において使用される細胞培養支持体は繰り返し使用が可能である。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
[実施例1]
(材料、使用機器)
1.細胞:初代ニワトリ胚心筋細胞を常法により採取、培養した(Cardiovasc.Res.,41,641(1999)を参照)。
2.培養皿:温度応答性培養皿(グラフト量 2.0μg/cm2)を用いた。対照として、温度応答性ポリマーで被覆されていない市販培養皿(Falcon3001)を使用した。
3.培地:6%FBS、40%199培地、0.2%ペニシリン−ストレプトマイシン、2.7mMグルコース、54%生理食塩水(116mM NaCl,1.0mM NaH2PO4,8mM MgSO4,1.18mM KCl,0.87mM CaCl2,26.2mM NaHCO3)からなる培地を用いた。
4.培養:初代トリ胎児心筋細胞を35mmの培養皿に0.5x106 cells/cm2の細胞密度で播種した。
5.その他の条件は常法に従った。
6.細胞の顕微鏡観察:位相差顕微鏡(ET300、ニコン製)及び蛍光顕微鏡(DMIRB、ライカ製)を使用した。
7.収縮弛緩挙動測定法:CCDカメラ(RS−170、COHU製)にて撮影したものを画像解析した。
【0030】
(方法)
具体的には下記のようにして、心筋様細胞シートを作製した。
10日目ニワトリ胚よりトリプシンを用いて心筋細胞を単離し、温度応答性培養皿、すなわち、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)をグラフトした培養皿上で培養した。細胞との接着を減少させる目的で、種々の高分子からなるメッシュを支持体として用い低温処理(20℃)を行った。培養皿から脱着しメッシュに付着した心筋細胞シートを培養皿上で上下反転し遊離した状態で培養した。また、心筋細胞シートの付着したメッシュを、温度応答性培養皿上に培養した新たな心筋細胞シートに重層し、低温処理後2枚の心筋細胞シートと一緒にメッシュを反転し培養した。形態を組織切片像(H.E、Azan染色)にて、収縮弛緩機能を顕微鏡に接続したCCDカメラを介してVTR録画し、画像解析装置にて定量化した。その方法は特に限定されるものではないが、例えば、細胞質中に目視できる濃淡部を特定し、その動きを画像解析装置にて追跡しその軌跡を調べることで定量化することができる。
【0031】
(結果)
図1は、心筋細胞を温度応答性培養皿(グラフト量 2.0μg/cm2)を用いて培養した場合と、温度応答性ポリマーで被覆されていない市販培養皿を用いて培養した場合との心筋細胞の増殖状態を示す顕微鏡写真である。図1において、Normalは市販培養皿を用いて培養した場合、PIPAAmは温度応答性培養皿を用いて培養した場合をそれぞれ表す。Sparseは心筋細胞の散生状態を示し、Confluentは心筋細胞の集密状態を示す。図1から、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)をグラフトした培養皿上でも、通常の市販培養皿と同様、心筋細胞はコンフルエント(confluent)になることが判る。
【0032】
図2は、心筋細胞を温度応答性培養皿(グラフト量 2.0μg/cm2)を用いて培養した場合と、温度応答性ポリマーで被覆されていない市販培養皿を用いて培養した場合との心筋細胞の運動状態を示すチャートである。図2において、Normalは市販培養皿を用いて培養した場合、PIPAAmは温度応答性培養皿を用いて培養した場合をそれぞれ表す。Motionは細胞の振幅を画像解析装置にて測定した結果で、それは心筋細胞の収縮弛緩を示す。図2から、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)をグラフトした培養皿上でも、通常の市販培養皿と同様、心筋細胞は収縮弛緩機能を有することが判る。但し、前者においては、心筋細胞が皿上に接着しているため変化量は少ない。
【0033】
図3は、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)をグラフトした培養皿上で培養した心筋細胞に低温処理を施した場合の、心筋細胞の形態学的変化を示す顕微鏡写真である。図3において、Preは低温処理前の心筋細胞の状態を、Postは低温処理後の心筋細胞の状態をそれぞれ示す。図3から、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)をグラフトした培養皿上の細胞は、低温処理により剥離することが判る。
【0034】
図4は、心筋細胞シートの2次元マニピュレーション(以下、「マニピュレーション法1」と略す)を説明する図である。まず、ポリイソプロピルアクリルアミドをグラフトした培養皿上で培養。コンフルエント(confluent)後、高分子膜(ポリビニリデンジフルオライド)を密着させながら、低温処理し、剥離。別の培養皿に移し替える。図4において、Support membraneは高分子膜を表し、PIPAAm grafted dishはポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)をグラフトした培養皿を表し、Normal culture dishは通常の市販培養皿を表す。Recovered cardiac cell sheetは回収された心筋細胞シートを表す。
【0035】
図5は、マニピュレーション法1中の細胞骨格(F−actin)、細胞核(Nuclei)の様子を示す顕微鏡写真である。図5において、Normal sheetは、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)をグラフトした培養皿上で培養された細胞を表し、Shrunk sheetは、剥離し、丸まってしまった状態の細胞を表し、Recovered sheetは高分子膜と共に回収された心筋細胞シートが再び細胞培養支持体上に付着された状態の細胞シートを表す。図5から、別の培養皿に移し替えたもの(図4におけるRecovered sheet)も、移し替える前の状態を再現できていることが判る。
【0036】
図6は、図5に対応する各々の心筋細胞の運動状態を示すチャートである。Motionは細胞の振幅を画像解析装置にて測定した結果で、それは心筋細胞の収縮弛緩を示す。図6から、マニピュレーション法1前後(Normal sheetとRecovered sheet)の心筋細胞の収縮弛緩機能が維持されていることが裏付けられた。一方、高分子膜と共に剥離しなかったものは、低温処理により細胞培養支持体上より剥離されるが、細胞シート自身が丸まり、収縮してしまい、目的とする収縮弛緩機能は認められなかった。
【0037】
図7は、マニピュレーション法1を2回繰り返し2層の新規細胞シートを得る方法(以下、「マニピュレーション法2」と略す)を説明する図である。即ち、高分子膜と密着した細胞シートを細胞培養支持体に付着させ、その後培地を加えることにより高分子膜を細胞シートから剥がし、そして更に別の高分子膜と密着した細胞シートを付着させることを繰り返すことで細胞シートを重層化させる方法を示している。図7において、Support membraneは高分子膜を表し、PIPAAm grafted dish及びNormal culture dishは前記と同じ意味を表す。Piled up cardiac cell sheetsは2層の心筋細胞シートを示す。
【0038】
図8は、マニピュレーション法1及びマニピュレーション法2によって得られた心筋細胞の断面の様子を示す顕微鏡写真である。いずれの方法によって得られた細胞シートもヘマトキシリン−エオシンにより染色した。図8において、Single layerはマニピュレーション法1によって得られた心筋細胞(単層)の断面の様子を、Double layerはマニピュレーション法2によって得られた心筋細胞(2層)の断面の様子をそれぞれ表す。Hematoxylin−eosin stainはこれらの細胞シートがヘマトキシリン−エオシン染色を施されたことを意味する。
【0039】
図9は、マニピュレーション法1における高分子膜を高分子メッシュとし、剥離させた心筋細胞シートをそのまま培養皿に反転、固定させる方法を方法(以下、「マニピュレーション法3」と略す)を説明する図である。マニピュレーション法3によれば、心筋細胞シートが接している高分子材料がメッシュであるため、心筋細胞シートの収縮弛緩機能が高まる。図9において、Meshは高分子メッシュを表し、PIPAAm grafted dish及びNormal culture dishは前記と同じ意味を表す。Recovered free cardiac cell sheetは回収された遊離心筋細胞シートを表す。Inverは剥離させた心筋細胞シートをそのまま培養皿に反転させることを意味する。
【0040】
図10は、高分子メッシュをあらかじめ別の培養皿上に固定しておき、その後はマニピュレーション法1の方法に従い心筋細胞シートを移し替える方怯(以下、「マニピュレーション法4」と略す)を説明する図である。図10において、Support membrane、PIPAAm grafted dish及びRecovered free cardiac cell sheetは前記と同じ意味を表す。また、Mesh in a culture dishは、培養皿上に固定されたメッシュを表す。
【0041】
図11は、マニピュレーション法3によって得られた心筋細胞シート表面の顕微鏡写真(上段)及びH.E.染色後の断面図(下段)の顕微鏡写真である。図11において、Meshは前記と同じ意味を表し、Free cardiac sheetは遊離された心筋細胞シートを、Cross−sectional View(H.E.)はH.E.染色後の断面図を表す。
【0042】
図12は、マニピュレーション法3によって得られた心筋細胞シートの顕微鏡写真(上段)及びその運動性を示すチャートである。図12において、Motionは前記と同じ意味を表し、On dishは培養皿上における場合を表し、On meshはメッシュ上における場合を表す。図12から、支持体がメッシュにになったため、心筋細胞の運動の変化量が増大したことが判る。
【0043】
図13の上下段の写真は共に、ヘマトキシリン−エオシン染色した、マニピュレーション法3によって得られた培養心筋細胞シートの断面を表す顕微鏡写真である。
図14は、ヘマトキシリン−エオシン染色した、マニピュレーション法3によって得られた培養心筋細胞シートの断面を表す顕微鏡写真である。上段は本発明の方法により得られた心筋組織の顕微鏡写真であり、下段はニワトリ胚(10日目)心筋組織の顕微鏡写真である。図14から、本発明の方法により得られた心筋組織が生体内組織と極めて似た構造となっていることが判る。
【0044】
図15は、マニピュレーション法3を改良して2層の心筋細胞シートを得る方法(以下、「マニピュレーション法5」と略す)を説明する図である。マニピュレーション法5においては、高分子メッシュとしてストッキングを利用する。図15において、Mesh、PIPAAm grafted dish、Invert、Normal culture dishは前記と同じ意味を表す。Recovered free cardiac cell sheets(Double)は、回収された遊離心筋細胞シート(2層)を表す。
【0045】
図16は、マニピュレーション法5によって得られた心筋細胞シート表面の顕微鏡写真(上段)及びH.E.染色後の断面図(下段)の顕微鏡写真である。図16において、Mesh及びCross−sectional View(H.E.)は前記と同じ意味を表す。上段のSingleは1層目、Doubleは2層目を表す。
【0046】
図17は、2枚の心筋様細胞シートを一部重ね合わせて付着させ、一方の細胞シート(右側の細胞シート(図中a))より電気刺激を与えると、もう一方の細胞シート(左側の細胞シート(図中b))へその電気刺激が伝わることを示す図である(但し、図が横長であるため、本来の上下の位置を反時計回りに90度回転して示してある)。図17において、Electrical stimulationとは右側の細胞シートから送られるパルス状の電気的刺激を意味する(図中のElectrical stimulationの下線部分の後半(右側)に示される縦の線がパルス状の刺激を示す。)。その刺激を左側の細胞シートより上述した細胞の振幅を画像解析装置にて観測(observation)する方法をとった。図中下に示されるMotionとは、その細胞の振幅を画像解析装置にて測定した結果で、Spontaneous beatsとは、先の電気刺激が与えられた後の細胞の挙動を示している。一方の細胞シートに与えられた電気刺激により、他方の細胞シートの収縮弛緩のリズムが速くなっている結果を示している。このことは、本発明で得られた心筋様細胞シートにおいては、シート内の細胞と細胞の間、さらにシート同士を重ね合わせるだけで異なるシート間の細胞と細胞の間にも電気的結合が保持されていることを意味する。
【0047】
(考察)
上記実施例及び図1〜図17に示された結果から次のことが判明した。
(1)メッシュ上の心筋細胞シート及びその3次元構造体は、培養皿表面に固定されている時と比べ、より大きな収縮弛緩を示す。これは、個々の細胞が培養皿から脱着し自由度が増大したためと考えられる。
(2)心筋細胞シートの重層化による3次元培養を行ったところ、組織切片上2枚のシート接着が認められた。また、重層化心筋細胞シート全体が同期して拍動し、2枚のシートの電気的な結合が示唆された。さらに、心筋細胞シート全体をメッシュ上で、ある一方向にのみ収縮させると、それと垂直方向に3次元的な束状になり、その結果、心筋細胞が配向性を獲得し、長軸方向に拍動した。
(3)長期(5日間)に培養しておくと、横断組織切片上、束状の心筋細胞の周囲に、心外膜様の一層の細胞層の形成が観察された。
【0048】
[実施例2]
新生仔ラットより心筋細胞をコラゲナーゼを用い単離し、実施例1と同じ温度応答性培養皿に播種した。実施例1と同じ培地、培養条件で4日間培養し、コンフルエントになった心筋細胞シートを低温処理することで剥離させた。2枚の剥離心筋様細胞シートを培養液中でピペッティング操作により重ね合わせた。この際、高分子膜は用いず、剥離後収縮した心筋シートをそのまま重ね合わせる方法をとった。約20分で2枚のシートは互いに接着した。次にこの3次元構造体をヌードラット(免疫不全ラット、F344)の背部皮下組織に常法に従い移植した。
【0049】
その結果、図18に示すように、移植直後より体表面からラットの自己心臓の拍動とは独立した移植細胞構造体由来の心電波形が確認された。移植3週間後、移植部位を切開したところ、移植細胞構造体の拍動およびそれへの生体組織側からの血管新生が肉眼レベルで確認された。
【0050】
図19は、その部分の組織切片をアザン染色(H.E、Azan染色)した結果を示す顕微鏡写真である。移植細胞構造体は筋組織であるために赤色に、移植された皮下組織は結合組織であり、青色に染まる。そしてその移植細胞構造体に赤色に染まった血管に認められ、その管内に赤色の血球のあることを認められた。また、この移植細胞構造体内に血管が形成されたことは、図20の血管内皮細胞のみが染色されるFactor VIII免疫染色の結果からも確認することができた。
【0051】
以上により、組織切片上でも心筋組織同様の構造及び移植細胞構造体内の血管の新生が確認された。
[産業上の利用の可能性]
本発明によれば、心筋細胞シートの3次元培養が可能となり、心筋様組織を構築することができる。したがって、本発明は臨床応用が大いに期待でき、細胞工学、医用工学、などの医学、生物学等の分野における極めて有用な発明である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
収縮弛緩機能、細胞間の電気的結合及び配向を保持した心筋組織の細胞からなる心筋様培養細胞シート。
【請求項2】
血管内皮細胞による管腔形成及び/または心外膜様の一層の細胞層を外層に有しており、収縮弛緩機能を保持し、3次元に細胞間の電気的結合及び配向を保持した心筋様培養細胞の3次元構造体。
【請求項3】
蛋白質分解酵素による処理を施されることなく基材から剥離された請求項1または2記載の心筋様培養細胞シートまたは3次元構造体。
【請求項4】
基材から剥離された心筋様培養細胞シートまたは3次元構造体を特定方向に引き伸ばすことで特定方向に配向された請求項1、2または3記載の心筋様培養細胞シートまたは3次元構造体。
【請求項5】
水に対する上限もしくは下限臨界溶解温度が0〜80℃である温度応答性ポリマーで基材表面を被覆した細胞培養支持体上で培養し、その後
(1)培養液温度を上限臨界溶解温度以上又は下限臨界溶解温度以下とし、さらに必要に応じ、
(2)培養された細胞シートを高分子膜に密着させ、
(3)そのまま高分子膜と共に剥離する
ことを含む心筋様細胞シートの製造法。
【請求項6】
請求項5で得られた心筋様細胞シートを再び細胞培養支持体、温度応答性ポリマーで表面を被覆した細胞培養支持体、高分子膜、或いは細胞シートに付着させ、重ね合わせていくことを含む心筋様細胞の3次元構造体の製造法。
【請求項7】
剥離が蛋白質分解酵素による処理が施されていない、請求項5または6記載の心筋様細胞シートの製造法または心筋様細胞の3次元構造体の製造法。
【請求項8】
温度応答性ポリマーが、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)である、請求項5または6記載の心筋様細胞シートの製造法または心筋様細胞の3次元構造体の製造法。
【請求項9】
高分子膜が、親水化処理が施されたポリビニリデンジフルオライドからなる膜、ポリウレタン、スパンデックスからなるメッシュ、及びストッキネット状素材から選択される、請求項5または6記載の心筋様細胞シートの製造法または心筋様細胞の3次元構造体の製造法。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれか1項記載の製造法によって得られた心筋様細胞シートまたは心筋様細胞の3次元構造体。
【請求項11】
請求項1〜4及び10のいずれか1項記載の心筋様細胞シートまたは心筋様細胞の3次元構造体を生体内に埋入することで、当該心筋様細胞シートまたは心筋様細胞の3次元構造体自身に内在している血管内皮細胞による管腔形成、及び/または埋入された周囲の組織内の血管内皮細胞を進入させかつ管腔を形成させることにより血管を形成させた心筋様組織。
【請求項12】
心疾患、その他の循環器関連疾患、或いは消化器関連疾患の治療用の請求項1〜4及び10のいずれか1項記載の心筋様細胞シート若しくは心筋様細胞の3次元構造体または請求項11記載の心筋様組織。
【請求項13】
請求項1〜4及び10のいずれか1項記載の心筋様細胞シート若しくは心筋様細胞の3次元構造体または請求項11記載の心筋様組織を利用した心疾患、その他の循環器関連疾患、或いは消化器関連疾患の治療法。
【請求項1】
収縮弛緩機能、細胞間の電気的結合及び配向を保持した心筋組織の細胞からなる心筋様培養細胞シート。
【請求項2】
血管内皮細胞による管腔形成及び/または心外膜様の一層の細胞層を外層に有しており、収縮弛緩機能を保持し、3次元に細胞間の電気的結合及び配向を保持した心筋様培養細胞の3次元構造体。
【請求項3】
蛋白質分解酵素による処理を施されることなく基材から剥離された請求項1または2記載の心筋様培養細胞シートまたは3次元構造体。
【請求項4】
基材から剥離された心筋様培養細胞シートまたは3次元構造体を特定方向に引き伸ばすことで特定方向に配向された請求項1、2または3記載の心筋様培養細胞シートまたは3次元構造体。
【請求項5】
水に対する上限もしくは下限臨界溶解温度が0〜80℃である温度応答性ポリマーで基材表面を被覆した細胞培養支持体上で培養し、その後
(1)培養液温度を上限臨界溶解温度以上又は下限臨界溶解温度以下とし、さらに必要に応じ、
(2)培養された細胞シートを高分子膜に密着させ、
(3)そのまま高分子膜と共に剥離する
ことを含む心筋様細胞シートの製造法。
【請求項6】
請求項5で得られた心筋様細胞シートを再び細胞培養支持体、温度応答性ポリマーで表面を被覆した細胞培養支持体、高分子膜、或いは細胞シートに付着させ、重ね合わせていくことを含む心筋様細胞の3次元構造体の製造法。
【請求項7】
剥離が蛋白質分解酵素による処理が施されていない、請求項5または6記載の心筋様細胞シートの製造法または心筋様細胞の3次元構造体の製造法。
【請求項8】
温度応答性ポリマーが、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)である、請求項5または6記載の心筋様細胞シートの製造法または心筋様細胞の3次元構造体の製造法。
【請求項9】
高分子膜が、親水化処理が施されたポリビニリデンジフルオライドからなる膜、ポリウレタン、スパンデックスからなるメッシュ、及びストッキネット状素材から選択される、請求項5または6記載の心筋様細胞シートの製造法または心筋様細胞の3次元構造体の製造法。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれか1項記載の製造法によって得られた心筋様細胞シートまたは心筋様細胞の3次元構造体。
【請求項11】
請求項1〜4及び10のいずれか1項記載の心筋様細胞シートまたは心筋様細胞の3次元構造体を生体内に埋入することで、当該心筋様細胞シートまたは心筋様細胞の3次元構造体自身に内在している血管内皮細胞による管腔形成、及び/または埋入された周囲の組織内の血管内皮細胞を進入させかつ管腔を形成させることにより血管を形成させた心筋様組織。
【請求項12】
心疾患、その他の循環器関連疾患、或いは消化器関連疾患の治療用の請求項1〜4及び10のいずれか1項記載の心筋様細胞シート若しくは心筋様細胞の3次元構造体または請求項11記載の心筋様組織。
【請求項13】
請求項1〜4及び10のいずれか1項記載の心筋様細胞シート若しくは心筋様細胞の3次元構造体または請求項11記載の心筋様組織を利用した心疾患、その他の循環器関連疾患、或いは消化器関連疾患の治療法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−4750(P2011−4750A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168577(P2010−168577)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【分割の表示】特願2002−513872(P2002−513872)の分割
【原出願日】平成13年7月2日(2001.7.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成12年5月 発行の「第3回日本組織工学会 プログラム・抄録集」に発表
【出願人】(501345220)株式会社セルシード (39)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【分割の表示】特願2002−513872(P2002−513872)の分割
【原出願日】平成13年7月2日(2001.7.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成12年5月 発行の「第3回日本組織工学会 プログラム・抄録集」に発表
【出願人】(501345220)株式会社セルシード (39)
【Fターム(参考)】
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