説明

心電図データ処理装置、心電図データ処理方法及び心電図データ処理プログラム

【課題】ベクトル心電図の有用性を向上させること。
【解決手段】演算部102は、ベクトルループの三次元座標を示すベクトルループデータを取得し、三次元直交座標軸上の位置と異なる位置を視点として、又は前記三次元直交座標の方向と異なる方向を視方向として設定する。演算部102と出力機器制御部110とから構成される描画部は、設定された視点又は視方向から見たベクトルループを示すベクトル心電図を、取得されたベクトルループデータに基づいて描画する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心電図データ処理装置、心電図データ処理方法及び心電図データ処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
心電図は、心臓疾患の診断に主に用いられる生体情報であり、スカラーで示される(スカラー心電図)こともあれば、ベクトルで示される(ベクトル心電図)こともある。前者の場合、心起電力の変動が心電図波形として表現される。一方、後者の場合、心起電力の変動がベクトルループとして表現される。ベクトルループは、心起電力の立体的特徴と心臓内での電気興奮伝播の特徴を捕捉し得る情報である。また、ベクトルループは、X誘導、Y誘導及びZ誘導をそれぞれX成分、Y成分及びZ成分として有する座標点の集合により規定される。
【0003】
従来のベクトル心電図の表現方法では、三次元空間の直交座標系を構成する直交座標軸、すなわちX軸、Y軸及びZ軸のうち、二つの軸により規定される二次元平面にベクトルループを投影する(例えば、非特許文献1参照)。一般に、X−Y平面に投影されたベクトルループを示すベクトル心電図は、前面図(Frontal View)ベクトル心電図(以下、単に「前面図」という)と呼ばれ、Y−Z平面に投影されたベクトルループを示すベクトル心電図は、側面図(Sagittal View)ベクトル心電図(以下、単に「側面図」という)と呼ばれ、X−Z平面に投影されたベクトルループを示すベクトル心電図は、水平面図(Horizontal View)ベクトル心電図(以下、単に「水平面図」という)と呼ばれる。
【非特許文献1】P. W. Macfarlane他著、「12誘導ベクトル心電図」、図3.3、株式会社メディカルエレクトロタイムス、1996年6月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のベクトル心電図の表現方法においては、ベクトルループが、前面、側面及び水平面のみに投影される。換言すれば、従来のベクトル心電図は、三次元の情報であるベクトルループを、限られた幾つかの方向だけから見たものであり、このため、ベクトルループ本来の立体的な特徴を表現しきれていない。前面図、側面図及び水平面図を注意深く見ることによりベクトルループについてのより多くの特徴を推定して心臓疾患に関する所見を診断することは、可能ではあるものの、その精度或いは所要時間は医師の熟練度に依存する。したがって、従来のベクトル心電図は、心臓疾患の診断において高い有用性を発揮していない。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、ベクトル心電図の有用性を向上させることができる心電図データ処理装置、心電図データ処理方法及び心電図データ処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の心電図データ処理装置は、ベクトルループの三次元座標データを取得する取得部と、三次元直交座標軸上の位置と異なる位置を視点として、又は前記三次元直交座標軸の方向と異なる方向を視方向として設定する設定部と、設定された視点又は視方向から見たベクトルループを示すベクトル心電図を、取得された三次元座標データに基づいて描画する描画部と、を有する構成を採る。
【0007】
本発明の心電図データ処理方法は、ベクトルループの三次元座標データを取得する取得ステップと、三次元直交座標軸上の位置と異なる位置を視点として、又は前記三次元直交座標軸の方向と異なる方向を視方向として設定する設定ステップと、設定された視点又は視方向から見たベクトルループを示すベクトル心電図を、取得された三次元座標データに基づいて描画する描画ステップと、を有するようにした。
【0008】
本発明の心電図データ処理プログラムは、ベクトルループの三次元座標データを取得する取得機能と、三次元直交座標軸上の位置と異なる位置を視点として、又は前記三次元直交座標軸の方向と異なる方向を視方向として設定する設定機能と、設定された視点又は視方向から見たベクトルループを示すベクトル心電図を、取得された三次元座標データに基づいて描画する描画機能と、をコンピュータに実現させるようにした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ベクトル心電図の有用性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施の形態に係る心電図データ処理装置の構成を示すブロック図である。
【0012】
図1において、心電図データ処理装置100は、演算部102、記憶部104、測定機器制御部106、入力機器制御部108及び出力機器制御部110を有する。心電図データ処理装置100は、典型的には、例えばデスクトップ型PC(Personal Computer)等のような汎用コンピュータにおいて実現可能である。また、心電図データ処理装置100は、心電計112、四肢用心電図電極部114、胸部用心電図電極部116、マウス118、キーボード120、表示装置122及び印刷装置124と共に、心電図データ処理システムを構成する。
【0013】
測定機器制御部106は、各種の医用測定機器との通信を制御するプログラムを記憶する例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の記憶装置、上記制御プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)、及び通信中の医用測定機器との間で授受されるデータを一時的に格納するためのバッファを、主として有する。各種の医用測定機器は、図示されないコネクタを介して心電図データ処理装置100に接続される。本実施の形態では、心電計112が心電図データ処理装置100に接続されている。測定機器制御部106は、上記制御プログラムの実行により次の機能を実現する。すなわち、測定機器制御部106は、心電計112から12誘導心電図データのインポートを要求するコマンド(インポート要求)の入力を演算部102から受信し、これを心電計112に送信する。そして、測定機器制御部106は、インポート要求に応答して心電計112から送信されてきた、インポート要求において指定された患者の患者データ及び12誘導心電図データを受信し、これを演算部102に出力する。
【0014】
ここで、患者データとは、氏名や識別番号等のような個々の患者を特定するためのデータである。また、12誘導心電図データは、標準12誘導法の測定結果を含むデータであり、心電計112において生成される。具体的には、心電計112は、心電図測定時に患者の四肢に装着される複数の心電図電極を有する四肢用心電図電極部114と、心電図測定時に患者の胸部に装着される複数の心電図電極を有する胸部用心電図電極部116とを用いて、標準12誘導法により、I誘導、II誘導、III誘導、aVR誘導、aVL誘導、aVF誘導、V1誘導、V2誘導、V3誘導、V4誘導、V5誘導及びV6誘導を測定し、これらの測定結果を表すディジタルデータを12誘導心電図データとして生成する。心電計112は、生成した12誘導心電図データを患者データと関連付けて心電計112内の記憶装置(図示せず)に記憶する。
【0015】
また、心電計112は、年齢や身長、体重等のような個々の患者に付随するデータ(以下「属性データ」という)も、患者データと関連付けて心電計112内の記憶装置に記憶することができる。さらに、心電計112は、解析機能を有する場合、生成した12誘導心電図データを解析し、その解析結果も患者データに関連付けて心電計112内の記憶装置に記憶することができる。心電計112が表示装置又は印刷装置を内蔵している場合は、心電計112は、生成した12誘導心電図データに基づいて、スカラー心電図を、内蔵の表示装置に表示させたり内蔵の印刷装置に印刷させたりすることができ、さらにスカラー心電図と一緒又は別々に、解析結果も表示又は印刷させることができる。
【0016】
心電計112の上記各種の機能により、測定機器制御部106は、指定された患者の患者データ及び12誘導心電図データと一緒に、その患者データに関連付けられた属性データ若しくは解析結果又はその両方を必要に応じて心電計112から受信し、演算部102に出力することもできる。
【0017】
なお、測定機器制御部106が心電計112と心電図データ処理装置100との接続を検出する機能を有する場合は、測定機器制御部106は、この接続を検出したときに自発的にインポート要求を心電計112に送信してもよい。また、測定機器制御部106から心電計112にインポート要求を送信することなく心電計112が12誘導心電図データの送信を開始してもよい。
【0018】
記憶部104は、大容量の記憶装置であり、演算部102の各種の機能を実現するプログラムを予め記憶している。また、記憶部104は、演算部102から随時入力されるデータを記憶することもできる。その他、記憶部104には、ベクトル心電図や心電図レポートの描画に用いられる各種のデータが予め記憶されている。
【0019】
入力機器制御部108は、各種の入力機器からの入力を処理するプログラムを記憶する例えばRAMやROM等の記憶装置、上記処理プログラムを実行するCPU、及び入力機器からの入力を一時的に格納するためのバッファを、主として有する。各種の入力機器は、図示されないコネクタを介して心電図データ処理装置100に接続される。本実施の形態では、マウス118及びキーボード120が心電図データ処理装置100に接続されている。入力機器制御部108は、上記プログラムを実行することにより、マウス118又はキーボード120を用いた医師の入力をコマンドとして解釈し、コマンドを演算部102に出力する、という機能を実現する。なお、本実施の形態では入力機器としてマウス118及びキーボード120のみを例示しているが、タッチパネルやペンタブレット等のような他の入力機器を必要に応じて代用又は併用することもできる。
【0020】
ここで、入力されるコマンドとしては、例えば次のものが挙げられる。
・インポート要求:心電計112からのデータのインポートを要求
・レポート表示要求:表示装置122の画面上での心電図レポートの表示を要求
・レポート印刷要求:印刷装置124による記録用紙への心電図レポートの印刷を要求
・解析要求:解析機能の実行を要求
・ビュー表示要求:表示装置122の画面上での三次元(以下、単に「3D」という)ベクトル心電図の表示を要求
・視点(又は視方向)指定:表示装置122の画面上に既に表示されている3Dベクトル心電図の新たな視点(又は)視方向を指定することによりベクトル心電図の視点(又は視方向)の変更を要求
【0021】
これらのコマンドにおいては、必要に応じて、患者を特定するための患者特定データ(例えば氏名、識別番号等)が示される。また、ビュー表示要求においては、視点(又は視方向)を特定するための視点(又は視方向)特定データ(例えば、座標、角度等)が通常は示されるが、示されないこともある。視点(又は視方向)指定においては、視点(又は視方向)特定データが必ず示される。
【0022】
したがって、上記コマンドのうちインポート要求、レポート表示要求、レポート印刷要求及び解析要求の場合は、医師が、マウス118又はキーボード120を使用して、所望の処理及びその処理の対象となる患者を指示すると、入力機器制御部108は、その患者の患者特定データを示し且つその処理の実行を指示するコマンドを生成し、これを演算部102に出力する。また、上記コマンドのうちビュー表示要求の場合は、医師が、マウス118又はキーボード120を使用して、所望の処理が3Dベクトル心電図の表示であること、表示対象となる患者、及び3Dベクトル心電図の視点(又は視方向)を指示すると、入力機器制御部108は、その患者の患者特定データ及び3Dベクトル心電図の視点(又は視方向)を示し且つ3Dベクトル心電図の表示の実行を要求するコマンドを生成し、これを演算部102に出力する。また、上記コマンドのうち視点(又は視方向)指定の場合は、医師が、マウス118又はキーボード120を使用して、3Dベクトル心電図の所望の視点(視方向)を指示すると、入力機器制御部108は、3Dベクトル心電図の視点(又は視方向)を示し且つ表示中の3Dベクトル心電図の視点(又は視方向)の変更の実行を指示するコマンドを生成し、これを演算部102に出力する。
【0023】
所望の処理が、表示装置122の画面上での心電図レポートの表示、又は印刷装置124による記録用紙への心電図レポートの印刷である場合、医師は、心電図レポートにおいて表示又は印刷するアイテムも指定することができ、入力機器制御部108は、生成するレポート表示要求又はレポート印刷要求に、指定されたアイテムも示す。表示アイテム又は印刷アイテムとして指定され得るアイテムとしては、例えば次のものが挙げられる。
・3Dベクトル心電図
・ベクトル心電図解析結果
・第1合成心電図:I誘導、II誘導、III誘導、aVR誘導、aVL誘導及びaVF誘導の各波形を示すスカラー心電図を前面図の周囲に配置してなる心電図
・第2合成心電図:V1誘導、V2誘導、V3誘導、V4誘導、V5誘導及びV6誘導の各波形を示すスカラー心電図を水平面図の周囲に配置してなる心電図
・12誘導心電図解析結果
・リズム誘導波形
・患者データ
【0024】
演算部102は、CPUを主として有し、記憶部104に記憶されたプログラムを実行することにより、入力機器制御部108からのコマンドにより指示された処理を実行するという機能を実現する。
【0025】
例えば、入力機器制御部108からインポート要求が入力された場合、演算部102は、インポート要求を測定機器制御部106に転送する。演算部102は、インポート要求転送後に測定機器制御部106から入力される、患者データ及び12誘導心電図データを含むデータを受信し、これを記憶部104に記憶させる。このようにして心電計112からのデータのインポートが実現される。インポートされるデータは、患者データ及び12誘導心電図データの他に、属性データ及び心電計112による解析結果を含んでもよい。
【0026】
さらに、演算部102は、インポートされた12誘導心電図データを、例えば逆Dower法によりXYZ誘導心電図データに変換する。よって、XYZ誘導心電図データは、12誘導心電図に含まれたI誘導、II誘導、III誘導、aVR誘導、aVL誘導、aVF誘導、V1誘導、V2誘導、V3誘導、V4誘導、V5誘導及びV6誘導から導出されたX誘導、Y誘導及びZ誘導を表すディジタルデータである。
【0027】
さらに、演算部102は、XYZ誘導心電図データを合成することにより、ベクトルループデータを生成し、生成したXYZ誘導心電図データ及びベクトルループデータを、インポートした患者データに関連付けて記憶部104に記憶させる。ここで、ベクトルループデータは、1心周期分(拍動1回分)のベクトルループを構成する複数のドットの3D座標を表すディジタルデータであり、ベクトル心電図を構成するためのデータである。このようにして、演算部102は、スカラー心電図としての12誘導心電図を変換することによってベクトル心電図を導出することができる。すなわち、演算部102は、導出ベクトル心電図を取得するベクトル心電図取得部としての機能を有する。
【0028】
また、入力機器制御部108から解析要求が入力された場合、演算部102は、解析要求において患者特定データにより指定された患者の12誘導心電図データ及びベクトルループデータを記憶部104から読み出し、読み出したデータに対して心電図解析を行い、この解析処理の結果を患者データに関連付けて記憶部104に記憶させる。
【0029】
また、入力機器制御部108からレポート表示要求が入力された場合、演算部102は、レポート表示要求において患者特定データにより指定された患者の12誘導心電図データ及びベクトルループデータの少なくとも一方を記憶部104から読み出す。そして、演算部102は、読み出したベクトルループデータ及び12誘導心電図データの少なくとも一方に基づいて、心電図レポートを表すディジタルデータ(以下「心電図レポートデータ」という)を生成する。心電図レポートデータには、レポート表示要求において指定されたアイテムについてのデータが含まれる。
【0030】
例えば、レポート表示要求において3Dベクトル心電図のみが表示アイテムとして指定された場合は、演算部102は、指定された患者のベクトルループデータから3Dベクトル心電図のデータを生成し、さらに、この3Dベクトル心電図が所定のフォーマットに従って画面上に表示されるように3Dベクトル心電図のデータを編集することによって、心電図レポートデータを生成する。演算部102は、生成した心電図レポートデータをレポート表示要求と共に出力機器制御部110に出力する。
【0031】
また、入力機器制御部108からレポート印刷要求が入力された場合、演算部102は、レポート印刷要求において患者特定データにより指定された患者の12誘導心電図データ及びベクトルループデータの少なくとも一方を記憶部104から読み出す。そして、演算部102は、読み出したベクトルループデータ及び12誘導心電図データの少なくとも一方に基づいて、心電図レポートデータを生成する。
【0032】
例えば、レポート印刷要求において3Dベクトル心電図のみが印刷アイテムとして指定された場合は、演算部102は、指定された患者のベクトルループデータから3Dベクトル心電図のデータを生成し、さらに、この3Dベクトル心電図が所定のフォーマットに従って記録用紙上に印刷されるように3Dベクトル心電図のデータを編集することによって、心電図レポートデータを生成する。演算部102は、生成した心電図レポートデータをレポート印刷要求と共に出力機器制御部110に出力する。
【0033】
また、入力機器制御部108からビュー表示要求が入力された場合、演算部102は、ビュー表示要求において患者特定データにより指定された患者のベクトルループデータを記憶部104から読み出し、これを表示中データとして内部の保持手段に保持する。そして、演算部102は、読み出したベクトルループデータに基づいて、3Dベクトル心電図を示すデータ(以下「3Dベクトル心電図データ」という)を、ビュー表示要求内の視点(又は視方向)特定データ又はデフォルトに従って視点(又は視方向)を設定したうえで生成し、これを出力機器制御部110に出力する。なお、デフォルトの値は、記憶部104に予め記憶されており、適宜変更可能である。
【0034】
また、入力機器制御部108から視点(又は視方向)指定が入力された場合、演算部102は、保持した表示中データに基づいて、3Dベクトル心電図データを、視点(又は視方向)指定内の視点(又は視方向)特定データに従って視点(又は視方向)を設定したうえで生成し、これを出力機器制御部110に出力する。
【0035】
すなわち、演算部102は、ベクトルループデータを取得する取得部としての機能と、視点若しくは視方向を設定する設定部としての機能とを有する。
【0036】
出力機器制御部110は、表示装置122への出力を処理するプログラム及び印刷装置124への出力を処理するプログラムを記憶する例えばRAMやROM等の記憶装置、上記処理プログラムを実行するCPU、及び表示装置122及び印刷装置124への出力を一時的に格納するためのバッファを、主として有する。表示装置122は、例えば液晶ディスプレイやCRT(Cathode Ray Tube)等の表示画面を主として有する装置であり、図示されないコネクタを介して心電図データ処理装置100に接続される。また、印刷装置124は、印刷用紙を給紙する給紙機構と、給紙された印刷用紙に印字する例えばサーマルヘッド式、レーザ式、インク式等の印字機構とを主として有する装置であり、図示されないコネクタを介して心電図データ処理装置100に接続される。
【0037】
出力機器制御部110は、上記処理プログラムを実行することにより、演算部102から入力された心電図レポートデータに基づいて心電図レポートを表示装置122に表示させ又は印刷装置124に印刷させる、という機能を実現する。具体的には、出力機器制御部110は、心電図レポートデータと共にレポート表示要求が入力された場合は、画面上での心電図レポートの表示を表示装置122に行わせ、心電図レポートデータと共にレポート印刷要求が入力された場合は、記録用紙への心電図レポートの印刷を印刷装置124に行わせる。
【0038】
さらに、出力機器制御部110は、上記処理プログラムを実行することにより、演算部102から入力された3Dベクトル心電図データに従って3Dベクトル心電図を表示装置122に表示させる、という機能も実現する。
【0039】
これにより、心電図レポートの描画及び3Dベクトル心電図の描画が実現される。すなわち、演算部102及び出力機器制御部110の組合せは、心電図レポート又は3Dベクトル心電図を描画する描画部を構成する。
【0040】
以上、本実施の形態の心電図データ処理装置100の構成について説明した。
【0041】
なお、上記の説明では、心電図データ処理装置100は心電計112と独立しているが、心電図データ処理装置100及び心電計112は一体化されていてもよい。これは、心電図データ処理装置100について説明した上記各種のプログラムを、心電計112内の記憶装置に記憶させ、これを心電計112内のCPUで実行させることにより、実現可能である。
【0042】
また、上記の説明では、心電図データ処理装置100の構成を機能的な観点で、演算部102、記憶部104、測定機器制御部106、入力機器制御部108及び出力機器制御部110に大別し、それぞれの物理的構成を個別に説明しているが、これらの物理的構成は共通していてもよい。例えば、演算部102、測定機器制御部106、入力機器制御部108及び出力機器制御部110におけるCPUは、共通のCPUであってもよく、また、記憶部104、測定機器制御部106、入力機器制御部108及び出力機器制御部110における記憶装置は、共通の記憶装置であってもよい。
【0043】
次いで、演算部102におけるデータインポート処理の一例について図2を用いて説明する。
【0044】
ステップS1110では、演算部102は、インポート要求において患者特定データにより指定された患者の患者データ及びその患者データに関連付けられた12誘導心電図データを測定機器制御部106から受信する。ステップS1120では、演算部102は、受信した患者データ及び12誘導心電図データを互いに関連付けて記憶部104に記憶させる。ステップS1130では、演算部102は、受信した12誘導心電図データを例えば逆Dower法により変換してXYZ誘導心電図データを生成する。さらにステップS1140では、演算部102は、生成したXYZ誘導心電図データを合成してベクトルループデータを生成する。ステップS1150では、演算部102は、生成したXYZ誘導心電図データ及びベクトルループデータを、受信した患者データに関連付けて記憶部104に記憶させる。このようにして、演算部102は、データインポート時に、患者についての心電図データベースを作成又は更新する。
【0045】
なお、本実施の形態では、標準12誘導法により12誘導心電図データを得て、これをXYZ誘導心電図データに変換する場合を例にとって説明しているが、例えば直交軸誘導法によりXYZ誘導心電図データを直接得る場合もあり得る。
【0046】
次いで、心電図データ処理装置100における3Dベクトル心電図の描画処理について説明する。ここでは、図3、図4及び図5を用いて三つの例を挙げる。
【0047】
図3は描画処理の第一の例を示す。この例では、視点を設定して3Dベクトル心電図を表示する。
【0048】
まず、ステップS1210では、医師がマウス118又はキーボード120を用いて基本ビュー表示要求コマンドを入力する。ここで、基本ビュー表示要求コマンドは、ビュー表示要求コマンドの一種であり、視点特定データを示さないコマンドである。つまり、医師が視点の指定をしていないことを意味する。入力された基本ビュー表示要求コマンドは、入力機器制御部108から演算部102に送られる。
【0049】
そして、ステップS1220では、演算部102が、基本ビュー表示要求コマンド内の患者特定データにより指定された患者のベクトルループデータを記憶部104から読み出す。読み出されたベクトルループデータは、表示中データとして演算部102に保持される。
【0050】
ステップS1230では、演算部102が、後述する3Dベクトル心電図が画面に表示されるような3Dベクトル心電図データを、読み出したベクトルループデータに基づいて生成する。入力された基本ビュー表示要求コマンドには視点特定データが示されていないので、演算部102は、3Dベクトル心電図データを生成する際には、デフォルトとして記憶部104に記憶されている座標点を読み出し、これを視点として設定する。
【0051】
ステップS1240では、演算部102により生成された3Dベクトル心電図データが出力機器制御部110に送られ、そして、出力機器制御部110が、3Dベクトル心電図データに従って3Dベクトル心電図を表示装置122の画面上に表示させる。これにより、3Dベクトル心電図の基本ビューの描画が実現される。
【0052】
ここで、例えばY軸上の座標点が視点のデフォルトとして定められている場合は、表示される3Dベクトル心電図は、図6(a)に示すように水平面図となり、例えばZ軸上の座標点が視点のデフォルトとして定められている場合は、表示される3Dベクトル心電図は、図6(b)に示すように前面図となり、例えばX軸上の座標点が視点のデフォルトとして定められている場合は、表示される3Dベクトル心電図は、図6(c)に示すように側面図(ここでは左側面図(Left sagittal View))となる。なお、デフォルトの座標は、X軸、Y軸及びZ軸上の座標と異なる座標であってもよい。
【0053】
また、図6の三つの例から分かるように、描画される3Dベクトル心電図においては、ベクトルループを構成するドットの大きさをその座標に応じて変え、遠近感を出すことによって、ベクトルループの立体的特徴を表現することができる。また、視点(又は視方向)のナビゲーションとして人体モデルが3Dベクトル心電図と共に描画される。さらに、その人体モデルに対する視点(又は視方向)を示すマークが描画される。本実施の形態の3Dベクトル心電図では、このマークは、人体モデルに重ねて描画された三次元直交座標系において視点に相当する座標に示されるドットと、このドットと三次元直交座標系とを結び視方向を示す線とから構成される。人体モデル及びマークの描画により、描画された3Dベクトル心電図がどの視点(又は視方向)から見たものであるかを分かり易くすることができる。人体モデルやマークのピクチャデータは、予め記憶部104に記憶されており、必要時に演算部102に読み出される。また、ベクトルループが、1心周期を細分化して得られる複数の部分にそれぞれ対応付けられた色により色分けして描画されると、描画されたベクトルループの特性をより判断し易くすることができる。
【0054】
そして、ステップS1250では、医師がマウス118又はキーボード120を用いて視点指定コマンドを入力する。入力された視点指定コマンドは、入力機器制御部108から演算部102に送られる。視点の指定は、キーボード120のテンキーで座標点の値(x,y,z)を入力することにより行ってもよいし、マウス118で表示中のマークをドラッグすることにより行ってもよい。他の適切な方法により行うことも可能である。X成分の入力値x、Y成分の入力値y、Z成分の入力値zがいずれもゼロでない値であれば、視点を三次元直交座標軸上の座標と異なる座標に設定することができる。
【0055】
ステップS1260では、演算部102が、後述する3Dベクトル心電図が画面に表示されるような3Dベクトル心電図データを、ステップS1220で読み出したベクトルループデータ、つまり保持した表示中データに基づいて生成する。このとき、演算部102は、視点指定コマンドにより指定された座標点を新たな視点として設定する。
【0056】
ステップS1270では、演算部102により生成された3Dベクトル心電図データが出力機器制御部110に送られ、そして、出力機器制御部110が、3Dベクトル心電図データに従って3Dベクトル心電図を表示装置122の画面上に表示させる。これにより、任意に指定された視点から見た3Dベクトル心電図の描画が実現される。図7(a)は、任意に指定された視点から見た3Dベクトル心電図の一例を示す。
【0057】
なお、図3の例では、最初に視点の指定が行われていないが、最初から視点を指定することも可能である。
【0058】
図4は描画処理の第二の例を示す。この例では、視方向をオープンビュー(Open View)方向に設定して3Dベクトル心電図を表示する。
【0059】
まず、ステップS1310では、医師がマウス118又はキーボード120を用いてオープンビュー表示要求コマンドを入力する。つまり、医師がオープンビューの表示を要求していることを意味する。入力されたオープンビュー表示要求コマンドは、入力機器制御部108から演算部102に送られる。
【0060】
ここで、オープンビュー表示要求コマンドは、ビュー表示要求コマンドの一種であり、視方向特定データを示すコマンドである。さらに、このコマンドの視方向特定データは、オープンビュー方向を示す。なお、オープンビューとは、ベクトルループを、その投影面積が最大となる方向(オープンビュー方向)から見たベクトル心電図である。言い換えれば、このベクトル心電図では、ベクトルループを真正面から見る。
【0061】
そして、ステップS1320では、演算部102が、オープンビュー表示要求コマンド内の患者特定データにより指定された患者のベクトルループデータを記憶部104から読み出す。読み出されたベクトルループデータは、表示中データとして演算部102に保持される。
【0062】
ステップS1330では、演算部102が、オープンビューの3Dベクトル心電図が画面に表示されるような3Dベクトル心電図データを、読み出したベクトルループデータに基づいて生成する。このとき、演算部102は、オープンビュー表示要求コマンド内の視方向特定データにより指定されたオープンビュー方向を視方向として設定する。
【0063】
ステップS1340では、演算部102により生成された3Dベクトル心電図データが出力機器制御部110に送られ、そして、出力機器制御部110が、3Dベクトル心電図データに従って3Dベクトル心電図を表示装置122の画面上に表示させる。これにより、オープンビューの3Dベクトル心電図の描画が実現される。図7(b)は、オープンビューの3Dベクトル心電図の一例である。
【0064】
図5は描画処理の第三の例を示す。この例では、視方向をエッジビュー(Edge View)方向に設定して3Dベクトル心電図を表示する。
【0065】
まず、ステップS1410では、医師がマウス118又はキーボード120を用いてエッジビュー表示要求コマンドを入力する。つまり、医師がエッジビューの表示を要求していることを意味する。入力されたエッジビュー表示要求コマンドは、入力機器制御部108から演算部102に送られる。
【0066】
ここで、エッジビュー表示要求コマンドは、ビュー表示要求コマンドの一種であり、視方向特定データを示すコマンドである。さらに、このコマンドの視方向特定データは、エッジビュー方向を示す。なお、エッジビューとは、ベクトルループを、その投影面積が最小となる方向(エッジビュー方向)から見たベクトル心電図である。言い換えれば、このベクトル心電図では、ベクトルループを真横から見る。
【0067】
そして、ステップS1420では、演算部102が、エッジビュー表示要求コマンド内の患者特定データにより指定された患者のベクトルループデータを記憶部104から読み出す。読み出されたベクトルループデータは、表示中データとして演算部102に保持される。
【0068】
ステップS1430では、演算部102が、エッジビューの3Dベクトル心電図が画面に表示されるような3Dベクトル心電図データを、読み出したベクトルループデータに基づいて生成する。このとき、演算部102は、エッジビュー表示要求コマンド内の視方向特定データにより指定されたエッジビュー方向を視方向として設定する。
【0069】
ステップS1440では、演算部102により生成された3Dベクトル心電図データが出力機器制御部110に送られ、そして、出力機器制御部110が、3Dベクトル心電図データに従って3Dベクトル心電図を表示装置122の画面上に表示させる。これにより、エッジビューの3Dベクトル心電図の描画が実現される。図7(c)は、エッジビューの3Dベクトル心電図の一例である。
【0070】
なお、図4及び図5の例では、三次元直交軸の方向と異なるオープンビュー方向及びエッジビュー方向を視方向として設定する場合について説明した。ただし、視点の場合と同様にマウス118又はキーボード120でその他の任意の方向を指定することにより、視方向を自由に設定することができる。つまり、任意に指定された方向から見た3Dベクトル心電図の描画が実現される。また、これらの例では、最初に視方向の指定が行われているが、最初に視方向の指定をせずにデフォルト値を使用し、その後、視方向の指定を行うことも可能である。
【0071】
図6及び図7において例示した複数の3Dベクトル心電図は、一つの心電図レポートに一括して表示又は印刷することができる。例えば、図8及び図9に示すように、それぞれ異なる方向から見た3Dベクトル心電図をその名前を添えて表示又は印刷することができる。図8の例は、6つの3Dベクトル心電図を整列させてなる心電図レポートを例示したものであり、図9の例は、中心に視方向(又は視点)指定の3Dベクトル心電図を配置し、その周囲にその他の3Dベクトル心電図を配置してなる心電図レポートを例示したものである。このような心電図レポートのフォーマットは、レポート表示(又は印刷)要求において、或いはレポート表示(又は印刷)要求から独立したコマンドにおいて、任意に指定することができ、心電図波形や患者データ、心電図解析結果等を一緒に表示又は印刷することができる。
【0072】
ここで、3Dベクトル心電図の描画態様の一変形例について図10を用いて説明する。この例では、ベクトルループを外周とする領域を塗りつぶし、ベクトルループを構成する心起電力ベクトルの線を示すことによって、ベクトルループに面張りが行われる。これにより、電気興奮伝播の面のねじれや、電気興奮伝播の速さ等を明確化することができる。
【0073】
図11には、3Dベクトル心電図の描画態様の他の変形例が示されている。この例では、立体的に表現されたベクトルループと共に心臓モデル及び顔面モデルが描画される。心臓モデルの描画により、ベクトルループの形態と心臓の形状との対応関係を明確化することができる。また、顔面モデルの描画により、ベクトルループの向きを明確化することができる。なお、心臓モデル及び顔面モデルのピクチャデータは、予め記憶部104に記憶されており、必要時に演算部102により読み出される。
【0074】
また、図11の例では、ベクトルループを構成する心起電力ベクトルのうち、初期ベクトル(心室の興奮開始時の心起電力ベクトル)と、最大ベクトル(心室の興奮が最大となる時の心起電力ベクトル)と、ベクトルループの回転方向(興奮伝播方向)とが矢印により示されており、ベクトルループの特徴を一層明確化することができる。
【0075】
また、さらに他の変形例としては、視点又は視方向の設定を行った後に、ベクトルループを動画で表現することもできる。ベクトルループの動画表現は、ベクトルループを構成するドットを、その描画過程をユーザが追跡して目視できる程度に遅い速度で順次描画することにより実現可能である。
【0076】
以上のように、本実施の形態によれば、三次元直交座標軸上の位置と異なる位置を視点として、又は三次元直交座標軸の方向と異なる方向を視方向として設定し、設定した視点又は視方向から見た3Dベクトル心電図を描画するため、ベクトルループ本来の立体的表現を正確に捉え易くすることができ、ひいては、心臓疾患の診断におけるベクトル心電図の有用性を向上させることができる。
【0077】
以上、本発明の実施の形態について説明した。なお、以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されず、上記実施の形態は、種々変更して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の一実施の形態に係る心電図データ処理装置の構成を示すブロック図
【図2】本発明の一実施の形態に係るデータインポート処理を示すフロー図
【図3】本発明の一実施の形態に係る3Dベクトル心電図の描画処理の一例を示すフロー図
【図4】本発明の一実施の形態に係る3Dベクトル心電図の描画処理の他の例を示すフロー図
【図5】本発明の一実施の形態に係る3Dベクトル心電図の描画処理のさらに他の例を示すフロー図
【図6】本発明の一実施の形態に係る三種類の3Dベクトル心電図を示す図
【図7】本発明の一実施の形態に係る他の三種類の3Dベクトル心電図を示す図
【図8】本発明の一実施の形態に係る心電図レポートの一例を示す図
【図9】本発明の一実施の形態に係る心電図レポートの他の例を示す図
【図10】本発明の一実施の形態に係る3Dベクトル心電図の描画態様の一変形例を示す図
【図11】本発明の一実施の形態に係る3Dベクトル心電図の描画態様の他の変形例を示す図
【符号の説明】
【0079】
100 心電図データ処理装置
102 演算部
104 記憶部
106 測定機器制御部
108 入力機器制御部
110 出力機器制御部
112 心電計
122 表示装置
124 印刷装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベクトルループの三次元座標データを取得する取得部と、
三次元直交座標軸上の位置と異なる位置を視点として、又は前記三次元直交座標軸の方向と異なる方向を視方向として設定する設定部と、
設定された視点又は視方向から見たベクトルループを示すベクトル心電図を、取得された三次元座標データに基づいて描画する描画部と、
を有することを特徴とする心電図データ処理装置。
【請求項2】
前記描画部は、設定された視点又は視方向を前記ベクトル心電図と共に描画することを特徴とする請求項1記載の心電図データ処理装置。
【請求項3】
前記描画部は、人体モデルを前記ベクトル心電図と共に描画し、前記人体モデルに対する視点又は視方向を表すオブジェクトを、設定された視点又は視方向として描画することを特徴とする請求項2記載の心電図データ処理装置。
【請求項4】
前記描画部は、前記ベクトルループを外周として有する面を前記ベクトル心電図と共に描画することを特徴とする請求項1記載の心電図データ処理装置。
【請求項5】
前記描画部は、前記ベクトルループを規定する複数の心起電力ベクトルを前記ベクトル心電図の中心座標に位置合わせして前記ベクトル心電図と共に描画することを特徴とする請求項1記載の心電図データ処理装置。
【請求項6】
前記描画部は、心臓モデルを前記ベクトル心電図と共に描画することを特徴とする請求項1記載の心電図データ処理装置。
【請求項7】
ベクトルループの三次元座標データを取得する取得ステップと、
三次元直交座標軸上の位置と異なる位置を視点として、又は前記三次元直交座標軸の方向と異なる方向を視方向として設定する設定ステップと、
設定された視点又は視方向から見たベクトルループを示すベクトル心電図を、取得された三次元座標データに基づいて描画する描画ステップと、
を有することを特徴とする心電図データ処理方法。
【請求項8】
ベクトルループの三次元座標データを取得する取得機能と、
三次元直交座標軸上の位置と異なる位置を視点として、又は前記三次元直交座標軸の方向と異なる方向を視方向として設定する設定機能と、
設定された視点又は視方向から見たベクトルループを示すベクトル心電図を、取得された三次元座標データに基づいて描画する描画機能と、
をコンピュータに実現させるための心電図データ処理プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate