説明

応力バランスをとるための薄膜堆積方法

【課題】基板上の膜応力の問題を解決するための薄膜堆積方法を提供する。
【解決手段】光学部品のための薄膜堆積方法を用い、基板10の両側の間の膜応力のバランスをとる。所定の層数から構成される薄膜層を基板10の上側に堆積させ、かつ、同様の厚さを有する薄膜層を基板10の下側に堆積させ、基板10の両側の膜応力のバランスをとる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜堆積方法に関する。より詳細には、本発明は、光学基板上の応力のバランスをとるための薄膜堆積方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットを介したデータ通信が急速に増大するにつれ、バックボーンである光ケーブルの容量の向上が必要とされている。また、光学部品に必要とされる要件も多くなってきている。例えば、DWDMフィルタの基板上には、100を超える薄膜(20μmを超える厚さの)が堆積されている。堆積された薄膜層の層数が増大するとともに、従来は生じていなかった問題が、光学部品の製造において重要となってきている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
DWDM(Dense Wavelength Division Multiplexing:高密度波長多重分割)フィルタを製造する際には、必要とされるすべての光学薄膜を基板上に堆積させ、次いで、基板を所望のサイズに分割する。例えば、丸い基板(半径=90mm)をDWDMフィルタの製造に用いる際には、数百の薄膜を基板上に堆積させる。このように薄膜層を堆積させた基板を分割する際には、膜の剥離や基板の破壊が発生するという問題があった。
【0004】
図1に、光学部品に薄膜を堆積させた場合に起こり得る結果を示す。薄膜が基板上に堆積されると、張力が発生して基板が曲がるか、または、圧縮力が発生して膜上に突起や泡が生じ得る。張力および圧縮力はともに、製造プロセスに悪影響を及ぼす。DWDMの光フィルタを例とすると、薄膜が堆積された基板を分割する際に、薄膜の応力により薄膜が剥離するか、または、基板が破壊されうる。
【0005】
上記理由のため、光学部品上に数百の薄膜を堆積させた場合の膜応力の問題を解決する必要がある。
【0006】
上記事情を鑑みて、本発明の目的は、基板上の膜応力の問題を解決するための堆積方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記の目的および他の目的に従い、光学部品の基板の上下両側における応力のバランスをとるための薄膜堆積方法が用いられる。所定の層数の光学薄膜層あるいは所定の厚さの光学薄膜層を基板の上側に堆積させ、次いで、同一の層数の応力補整薄膜層または同一の厚さの応力補整薄膜層を基板の下側に堆積させる。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)光学部品上の膜応力のバランスをとるための薄膜堆積方法であって、所定の厚さを有する少なくとも一層の光学薄膜層を、前記光学部品の第1の側の上に堆積させるステップ、および前記光学部品の第1の側と第2の側との間の膜層の厚さの差を補整するための、少なくとも一層の補整薄膜層を前記光学部品の第2の側の上に堆積させるステップ、を含む堆積方法。
(2)前記所定の厚さを有する前記光学薄膜層は、高い屈折率を有する薄膜材料からなる薄膜または低い屈折率を有する薄膜材料からなる薄膜を含む、(1)に記載の堆積方法。(3)前記補整薄膜層は、前期第1の側の上に堆積された光学薄膜層の光学性能に影響を
与えないように、半波長則に従って、最適な設計方法によって設計されている、(1)に記載の堆積方法。
(4)前記補整薄膜層は、高い屈折率を有する薄膜材料からなる薄膜および低い屈折率を有する薄膜材料からなる薄膜から構成されている、(1)に記載の堆積方法。
(5)光学基板、前記光学基板の第1の側の上に堆積された、少なくとも一層の光学薄膜層、および前記光学基板の第2の側の上に堆積された、前記第1の側と前記第2の側との間の膜層の厚さの差を補整するための、少なくとも一層の補整薄膜層、を含む光学部品構造。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の好ましい実施の形態の一つでは、高屈折率の薄膜および低屈折率の薄膜からなる薄膜層を基板の上側に堆積させる。基板の下側には、該上側に堆積させた薄膜層と近似した厚さの薄膜層を堆積させる。下側の薄膜層は、応力補整薄膜層と、他種の光学薄膜層とから構成される。応力補整薄膜層は、機能不良になる設計規則(malfunction
design rule)と最適化される設計規則(optimum designrule)を基準として、上側に堆積した薄膜層の光学性能に影響を及ぼさないように設計されている。
【0010】
本発明の他の好ましい実施の形態では、高屈折率の薄膜および低屈折率の薄膜を基板の上側に堆積させる。下側の基板の応力については、近似した厚さの補整薄膜層を、基板の下側のうちの不要部分(動作中光が通過しない部分を指す)の上に堆積させ、他種の光学薄膜層を、機能部分(動作中光が通過する部分を指す)の上に堆積させる。この方法により、基板の上側の薄膜層の光学性能は、下側に堆積されたいかなる薄膜層の影響も受けない。
【0011】
結論として、本発明は、本来の光学性能に影響を与えることなく、光学部品の基板の上側および下側の間の応力のバランスをとるための薄膜堆積方法を提供する。すなわち、同一のまたは近似した厚さの薄膜層を、基板の上側および下側の両方に堆積させることにより、基板の両側の間における応力のアンバランスの問題を解決する。
【0012】
上記した一般的説明、および、以下の詳細な説明はいずれも例であり、特許請求された本発明をさらに詳しく説明するためのものであることは理解されるべきである。
【0013】
本明細書に添付の図面は、本発明をさらに理解するためのものであり、本明細書に含まれ、その一部を構成する。図面は、本発明の実施の形態を例示し、詳細な説明とともに、本発明の原理を説明する。
【0014】
次に、本発明の出願時における好ましい実施の形態について、添付の図面に示される実施例を参照して、以下詳細に説明する。以下において、可能な限り、図面中の番号を参照して本願発明を説明する。
【0015】
本発明に用いる理論について説明する。図2に、基板の応力を計算するための、概略図および計算式を示す。図2の概略図には、膜堆積前の基板の状態と、膜堆積後の基板の状態が示されている。計算式(a)は、本現象をシミュレートするために用いられる。計算式(a)中のパラメータr、σ、Δδ、νs、Esを定数であると仮定した場合、等式(a)は、df=(定数)×Δδと簡略化することができる。すなわち、膜の厚さは、基板の屈曲に正比例する。つまり、堆積された膜がより厚いほど、基板の屈曲は大きくなる。したがって、近似した厚さの膜は、一般に、近似した膜応力を発生しうる。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態について、MEMS(Micro−Electro Mec
hanicalSystems:マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム)の部品を用いてさらに提示する。
【0017】
図3に、本発明の好ましい実施の形態の1つに係る、膜の応力のバランスをとるための薄膜堆積方法を例示する。図3において、Hは、高屈折率材料から構成される1/4波長の薄膜を示し、Lは、低屈折率材料から構成される1/4波長の薄膜を示す。したがって、HまたはLの膜厚は、必要とされる波長によって変化させることができる。本発明の好ましい実施の形態の1つにおいて、基板10の上側に堆積されたH膜およびL膜からなる薄膜層は、全体として56のH膜と83のL膜からなる。6つのH膜と4つのL膜とから構成される反射防止薄膜層14が、基板10の下側に堆積されている。明らかに、基板10の上側の薄膜層と下側の薄膜層との差は、50のH膜および79のL膜である。
【0018】
上述の規則に従い、基板10の上側の薄膜層と下側の薄膜層との厚さの差を補整するための、50のH膜と79のL膜とから構成される補整薄膜層が、基板10の下側にさらに堆積される必要がある。但し、基板10の下側に堆積された補整薄膜層は、本来の光学性能に影響を与えないようにするべきであることに留意すべきである。本発明に用いられる方法は、基板10の上側に堆積された薄膜層の光学性能に影響を与えないように、半波長側に従って、最適な設計方法によって、基板10の下側に偶数のH膜または偶数のL膜を連続して堆積させる方法である。偶数のH膜または偶数のL膜の組合せは、光学的空白層ということができる。言い換えれば、50のH膜と、78または80のL膜から構成される補整薄膜層が基板10の下側にさらに堆積され、本来の光学性能に影響を与えることなく、上側の薄膜層と下側の薄膜層との間の厚さの差を補整する。上側の薄膜層と下側の薄膜層との間の厚さの差は50のH膜および79のL膜であるが、50のH膜と、78または80のL膜から構成される補整薄膜層が基板10の下側に堆積されて、本来の光学性能への影響を防ぐ。さらに、基板10の両側の薄膜層の厚さは、完全に同一である必要はない。厚さの差によって生じる応力が光学部品の品質に影響を与えない限り、適当な厚さの差は許容される。
【0019】
図4に、本発明の別の好ましい実施の形態に係る、膜の応力のバランスをとるための堆積方法を例示する。本発明は、上述した実施形態の代わりに、別の好適な実施の形態によって行うことができる。例えば、基板10の上側に堆積されたH膜およびL膜からなる薄膜層は、全体として56のH膜と83のL膜とから構成される。補整薄膜層12(例えば、56のH膜と82のL膜とから構成される薄膜層)は、基板10の上側の不要部分16の上に堆積され、反射防止薄膜層は基板10の下側の機能部分18の上に堆積される。補整薄膜層12を形成する方法は、機能部分18を(例えば、フォトレジストを用いて)マスクし、不要部分16上に補整薄膜層12を堆積させる方法である。次いで、マスク層を除去し、反射防止層を機能部分18の上に堆積させる。本実施の形態の利点は、基板の光学性能は下側に堆積されたいかなる層によっても影響を受けないことである。
【0020】
特に、本発明の上記2つの好ましい実施の形態においては、堆積プロセスの2つの代替的方法がある。第1の代替的方法は、上側の堆積プロセスが完了した後に、補整薄膜層を下側に堆積させる方法である。例えば、最初に56のH膜と83のL膜とから構成される薄膜層を上側に堆積させ、次いで、下側に50のH膜と78のL膜とから構成される補整薄膜層、ならびに、6つのH膜と4つのL膜とから構成される反射防止層を続いて堆積させる。第2の代替的方法は、上側または下側に交互に薄膜を堆積させる方法である。例えば、最初に6つのH膜および4つのL膜とから構成される薄膜層を上側に堆積させ、続いて6つのH膜と4つのL膜とから構成される別の薄膜層を下側に堆積させ、さらに、すべての所望の薄膜が堆積されるまで、堆積プロセスを上側と下側とに繰り返す。第1の方法は効率的かつ経済的であるが、すべてのプロセスにおいて用いることはできない。例えば、基板の厚さが50μmであり、所望の堆積させる層の数が50層(1層あたり4μm)で
あるとき、25番目の層を堆積したときに基板が曲がるおそれがある。これを避けるため、第2の方法が本発明において不可欠である。
【0021】
結論として、本発明によれば、本来の光学性能に影響を与えることなく、基板の両側の膜の応力のバランスをとるための堆積方法が提供される。本堆積方法は、基板の上側と下側とに近似した厚さの薄膜層または近似した層数の薄膜層を堆積させることにより、基板の両側の膜応力のアンバランスを解決するものである。特に、本発明の好ましい実施の形態における補整薄膜層は、機能不良になる設計規則と最適化される設計規則を基準として設計される。同様に補整薄膜層の設計に用いられる他の光学手法もまた、本発明の範囲に含まれる。
【0022】
様々な修正および変更が、本発明の範囲または主旨から逸脱することなく、本発明の構成に適用できることが、当業者には自明であろう。上記観点から、特許請求の範囲およびその均等の範囲内にある限り、本発明は、本発明に関する修正および変更を包含するものである。
【0023】
発明の効果
本発明によれば、基板上の膜応力の問題を解決するための堆積方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】光学部品に膜が堆積された場合に起こり得る結果を示す図である。
【図2】基板の応力を計算するための概略図および計算式を示す図である。
【図3】本発明の好ましい実施の形態の一つに係る、膜応力のバランスをとるための堆積方法を示す図である。
【図4】本発明の別の好ましい実施の形態に係る、膜応力のバランスをとるための堆積方法を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部品上の膜応力のバランスをとるための薄膜堆積方法であって、
所定の厚さを有する少なくとも一層の光学薄膜層を、前記光学部品の第1の側の上に堆積させるステップ、
前記光学部品の第1の側と第2の側との間の膜層の厚さの差を補整するための、少なくとも一層の補整薄膜層を前記光学部品の第2の側の上に堆積させるステップ、および
少なくとも一層の反射防止薄膜層を、前記光学部品の第2の側の上に堆積させるステップ、
を含むことを特徴とする堆積方法。
【請求項2】
前記補整薄膜層又は反射防止薄膜層は、高い屈折率を有する薄膜材料からなる複数の薄膜及び/又は低い屈折率を有する薄膜材料からなる複数の薄膜を含む、請求項1に記載の堆積方法。
【請求項3】
前記補整薄膜層は、前記第1の側の上に堆積された光学薄膜層の光学性能に影響を与えないように、半波長則に従って、最適な設計方法によって設計されている、請求項1又は2に記載の堆積方法。
【請求項4】
前記補整薄膜層は、高い屈折率を有する薄膜材料からなる複数の1/4波長の薄膜及び/又は低い屈折率を有する薄膜材料からなる複数の1/4波長の薄膜を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の堆積方法。
【請求項5】
前記光学部品の第2の側は、補整薄膜層を堆積させるための不要部分及び反射防止薄膜層を堆積させるための機能部分をさらに含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の堆積方法。
【請求項6】
光学基板、
前記光学基板の第1の側の上に堆積された、少なくとも一層の光学薄膜層、
前記光学基板の第2の側の上に堆積された、前記第1の側と前記第2の側との間の膜層の厚さの差を補整するための、少なくとも一層の補整薄膜層、および
前記光学基板の第2の側の上に堆積された、少なくとも一層の反射防止薄膜層、
を含むことを特徴とする光学部品構造物。
【請求項7】
前記補整薄膜層は、高い屈折率を有する薄膜材料からなる複数の薄膜及び/又は低い屈折率を有する薄膜材料からなる複数の薄膜を含む、請求項6に記載の光学部品構造物。
【請求項8】
前記補整薄膜層は、高い屈折率を有する薄膜材料からなる複数の1/4波長の薄膜及び/又は低い屈折率を有する薄膜材料からなる複数の1/4波長の薄膜を含むことを特徴とする、請求項6又は7に記載の光学部品構造物。
【請求項9】
前記反射防止薄膜層は、高い屈折率を有する複数の薄膜及び/又は低い屈折率を有する複数の薄膜を含む、請求項6から8のいずれか一項に記載の光学部品構造物。
【請求項10】
前記光学基板の第2の側は、補整薄膜層を堆積させるための不要部分及び反射防止薄膜層を堆積させるための機能部分を含むことを特徴とする、請求項6から9のいずれか一項に記載の光学部品構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−193357(P2007−193357A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98476(P2007−98476)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【分割の表示】特願2003−141053(P2003−141053)の分割
【原出願日】平成15年5月19日(2003.5.19)
【出願人】(503082583)デルタ エレクトロニクス インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】