説明

急速細胞ブロック包埋法及び装置

【課題】フロースルー処理及び細胞を迅速に包埋するための包埋技法を利用する方法及び装置を提供する。
【解決手段】装置10は、細胞破片を細胞試料14から試料ポート26に給送するための流入チューブ20により定められた細胞流路16を備える。試料ポート26は、取り付けられたフィルター40を有する組織カセット30と連通している。細胞流路16は、試料ポート26を通してカセット30に試薬82、92、102を給送するための試薬流路18と連通している。装置10は、圧力を加えることにより細胞破片を細胞試料14から細胞流路16を通るように方向付けし、更に試薬82、92、102を、試薬流路18を通して給送するように構成される。装置10は、切断されるブロックの平面の近くに集中された細胞を有する包埋された細胞ブロックを迅速かつ効果的な方法で作る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡検査用の細胞の調製のため、及び分子試験と免疫試験のための細胞を保管する方法及び装置に関する。より特別には、本発明は、顕微鏡的評価のためにパラフィンのような固体物質内の細胞及び組織の断片をミクロトームで切断できるように、或いは安定状態で保管するために、これを包埋するための方法及び装置に関する。
本願は、優先権が請求される2002年10月31日付け、特許文献1「細胞ブロックの自動包埋装置」に基づく。
【背景技術】
【0002】
多くの病気の経過は、光学顕微鏡を使用する組織学的又は細胞学的な検査に基づいて診断することだけしかできない。例えば、放射線装置を使用して腫瘍の存在を検知できるが、腫瘍が良性か悪性かのいずれであるかの決定には、病理学者による光学顕微鏡を使用した細胞の様相の解釈が必要である。しかし、この段階に到達するより前に、まず、顕微鏡検査のために組織試料を採取し、集め、そして処理しなければならない。患者から生検用試料又は細胞試料を採取し、集めるために利用し得る多くの技法がある。生検試料又は細胞試料を得るために侵襲性の最も小さい技法を使用することが患者にとって有利である。例えば、細針吸引生検法により、或いは侵襲性の最も小さい内視鏡技術により接近可能な体腔面をブラッシングすることにより小さい組織破片を得ることができる。組織は、採取されると、続いて顕微鏡検査のために処理する必要がある。組織断片を顕微鏡のスライド上に直接置くために、cytospin(R)技法及び the thin-prep(R)技法を含んだ種々の処理技法が知られている。
【0003】
通常、細胞ブロック調製と呼ばれる別の技法は、組織断片を直接置くことに勝る幾つかの利点を持つ。細胞ブロックの手順は、細胞又は小さな組織断片を固体の支持体、典型的にはパラフィンワックスの中に固定する。次いで、ミクロトームにより細胞ブロックの薄片を切り出し、そしてこの切片を検査のために顕微鏡のスライド上に取り付ける。細胞ブロックから得られた切片は、直接載置技法を補完する方法で診断情報を表示する。例えば、細胞同志の構造配列は、顕微鏡スライド上に直接置かれた細胞より細胞ブロックからの切片においてより良く示される。細胞ブロックは、また、直接調製では困難又は非実際的であった細胞試料における重要な診断的な分子及び免疫の試験の実行を許す。加えて、細胞ブロックは、室温での通常の方法においては不確定である細胞を保護し、これにより生物医学的研究を容易にする。
【0004】
細胞ブロック調製法では、細胞の破片を固体媒体、最も普通にはパラフィンワックスの中に「包埋(ほうまい)」することが必要である。「包埋」は、以下の一般的段階を必要とする。(1)全ての水の分子を典型的にアルコールにより取り除かねばならない(水はアルコールと混和可能である);(2)全てのアルコールを全ての脂肪物質と共に除去しなければならない。そして典型的にキシレンと置換される(キシレンはアルコールとは混和するが水とは混和しない);(3)キシレンを除去しワックスと置換する(ワックスはキシレンと混和するがアルコール又は水とは混和しない);そして(4)ミクロトームを使用してワックスのブロックを包埋された組織と共に切片に切り得るように、熔融ワックス内の組織を手作業でまとめかつ組織カセットの下側で硬化させる。最初の3個の段階は「組織処理」と呼ばれ、「組織処理装置」、即ち組織カセットを収容しているチャンバー内でアルコール、キシレン、及び熔融ワックスを逐次循環させる装置により実行されることが普通である。組織カセットは、包埋処理中、細胞試料を収容するため、更に続いてカセットの下面上のワックスに包埋された細胞試料を薄い切片に切断できるようにミクロトーム機械にワックスブロックを保持するための取付け機構を提供することの二つの目的に使われることが普通である。
【0005】
「包埋」の生ずるより前に、手作業により細胞試料を扱って、細胞を集中させ、そして包埋処理を通じてその移送を容易にするようにしなければならない。かかる細胞ブロックを調製するために普通に使用される手順は凝固法であり、これは非特許文献1に説明される。凝固法は以下の一般的段階を含む。(1)細胞試料を10分間、遠心分離する;(2)濃縮された細胞ボタンを残し、手作業で上澄み液を捨てる;(3)血液銀行供給者から得られたフィブリン及びトロンビンを手操作で細胞ボタンに加え、そして細胞ボタンを凝固用フィブリン内に閉じ込めるため、手作業で時々かき回した状態で15分間保温する;(4)遠心機チューブ側面に沿って凝塊が逃げ、又は凝塊が実用的でない小片に壊れることによる細胞の損失を避けるように注意して凝固した細胞試料をチューブから手で取り出す;(5)凝固した細胞試料を手作業でレンズペーパー上に移す。次いで、これを手で折り畳み、組織カセット内に置く;(6)次いで、組織カセットを、手操作で自動組織処理装置内に置き、(前述されたように)装置内にアルコール、キシレン、及び高温のパラフィンを循環させ、そして典型的には一晩中運転するように設定する;(7)翌朝、組織処理装置の液体パラフィンからカセットを手で取り出して開く;(8)レンズペーパーを開き、凝固した細胞をレンズペーパーからかき落とし、そして手作業で組織切片の型の中に置く;更に(9)手作業で、細胞の凝塊を型の最低面に維持するようにしながらパラフィンを徐々に型に加える。これは最終的に切断される。(10)次いでミクロトーム機械の保持器として作用させように型の上に組織カセットを反転させ、細胞凝塊と共にワックスを固化させる。(11)次に、ワックスに包埋された組織断片を含んだ組織カセットを手作業で型から分離する。この時点で、ワックスブロックはミクロトームによる切断のための待機状態となる。以上の11段階の多くは他の現在の細胞ブロック製造技術と共通である。
【0006】
細胞ブロックを調製する別の流布された手順は、非特許文献2に説明されるコロジオンバッグ技法である。このコロジオンバッグ技法は、段階1−4が次により置換される点を除いて上の11段階の全てを含む。遠心チューブに塗布するために、コロジオンを手作業でチューブ内に注入する。次いで、塗布されたチューブ内で、患者から採取された細胞試料を遠心処理する。上澄み液を捨て、そしてコロジオンの薄い塗膜を内部の細胞ボタンと共にチューブから引き出し、上の段階5−11におけるように包埋する。コロジオン技法は、フィブリン及びトロンビンによる細胞の希釈を避けることにより凝固技法に勝る利点を提供する。コロジオン技法では、凝固技法で要求されるような細胞の凝固を待つ必要がなく、かつ細胞は遠心チューブから引き出されるため損失の可能性がない。しかし、コロジオン技法は、コロジオンの可燃性とそのエーテル溶剤のため、凝固技法より危険性がかなり大きい。
【0007】
細胞ブロックを調製するためのなお別の技法が非特許文献3に説明される。この技法においては、細胞試料をまず濾過し、濾過された試料を濾過器から掻き落としレンズペーパー上に移し、次いでこのレンズペーパーを折って組織カセット内に置き、そして組織処理装置に輸送し、以下、段階6−11に従う。
【特許文献1】米国暫定特許出願第60/422,768号 明細書
【特許文献2】米国特許第6,225,125号 明細書
【特許文献3】米国特許第6,010,909号 明細書
【非特許文献1】ヤング(Yang)他、アクタ・サイトロジカ(Acta Cytologica), 42:703-706(1998)
【非特許文献2】ファヘイ及びベドロッシアン(Fahey and Bedrossian)、ラボラトリイ・メデシン(Laboratory Medicine),72(2):94-96(1993)
【非特許文献3】デアツ・ロザリ及びカバワト(Diaz-Rosario and Kabawat),キャンサー(Cancer),90:265-272(2000)
【非特許文献4】スリンバサン・エム、セドマック・デー、及びジュエル・エス(Srinvasan M,Sedmak D,and Jewell S)、「エフェクト・オブ・フィキサティブス・アンド・ティシュー・プロセッシング・オン・ザ・コンテント・アンド・インテグリティ・オブ・ニュークリーク・アシッド(Effect of fixatives and tissue processing on the content and integrity of nucleic acids)」, Am.J Pathol. 2002;161:1961-71
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述されたような現在利用し得る細胞ブロック調製技法は、調製を煩わしくし、大きな経費を要し、汚染又はラベル間違いの可能性があり、更に最終のミクロトーム切片内の診断用細胞を示すに不十分であるという多くの問題を抱える。例えば、ワックスに包埋された細胞組織の手作業による組織カセットへの輸送は、試料チューブから組織処理装置内への細胞の輸送の段階の実行にかなりの時間を要する。輸送及び/又は包埋の段階中に、多くの細胞破片が廃棄される。切断可能な材料内の細胞の濃度を改良しかつ細胞の廃棄を避けることを意図した過去の技法は、理想に達していないことが証明されている。これは、これらの技法は、比較的少数の細胞が存在するように、或いは包埋段階の前段階における細胞の損失を減らさないように、キャリヤー物質によるミクロトーム切片の希釈を必ず含むためである。
【0009】
組織処理装置における水、アルコール、脂肪、及びキシレンの抽出に時間を要するため、現在の細胞ブロック技法は完了までに典型的におおむね8から16時間かかる。マイクロ波放射、真空、高温、及びより迅速な透析薬品の使用のような組織処理段階(段階6以上)の高速化の方法があるが、これらの方法は、それ自体の問題がある。これらの技法は(段階6以降の)組織処理時間を僅かに減らすだけであって、実験室において確立するための比較的単調なものでる。更に、これらの技法は他の処理段階の効率を強化しない。細胞ブロックを即日作る能力は、関係の診断をより早くさせることができ、費用を節減しヘルスケヤシステムの生産性を大きくする。
【0010】
上述の細胞ブロック技法の別の欠点は、試料を、試料チューブ、レンズペーパー(又はコロジオン、及びその他のキャリヤー物質)、組織カセット、及び組織の型の間を手作業で動かさねばならないため、試料のラベル誤りの可能性のあることである。完全なラベル誤りの可能性に加えて、現在の技法では、患者の試料及び他のソースの(癌細胞を含んだ)細胞と生体分子の間の交差汚染も有り得る。即ち、フィブリン凝固技法においては、患者の細胞が、凝塊を形成するために他の患者のプールされた血漿と混合される。組織カセットへ及び組織カセットからの移送中に、細胞ボタンを手で取り扱うために使用される鉗子において、あるケースからの別のケースへの汚染が起こり得る。多数のカセットが組織処理装置内の共通の試薬槽に同時に浸漬されるため、(病理学者により「フローター(floaters)」と呼ばれる)ある患者から他の試料への癌細胞の交差汚染の可能性は重大な問題としてよく認識される。
【0011】
現在の組織処理装置段階におけるなお別の欠点は、これらの段階の標準化が難しいことである。これは、1台の組織処理装置が同時に多くの実験室試験のための包埋用試薬を循環させるためである。午前9時に組織処理装置に置かれた細胞ブロックは、午前9時30分に同じ処理装置に置かれた試料とは必然的に違った条件に暴露されるであろう。明らかになった分子技法は、最適性能のために標準化された処理を必要とする。
【0012】
光学顕微鏡検査法は、現在は、多くの病気の診断者にとって「黄金の標準」であり、病変の分子生物学の理解を助長し、その治療は、一般に細胞の顕微鏡検査的特徴を同時に研究する能力を要求し一方では研究のためのその組成分子を保存する。細胞の形態学及び生化学的な組成の同時保存は、研究者及び診断病理学者に対する多くの問題を示す。(非特許文献4)。凍結組織は、核酸及び蛋白質は保存するが(解凍中の幾分かの自己分解が避けられないため)冷凍組織は形態学的評価に障害を与える。障害には、形態を歪ませて古典的な光学顕微鏡検査による診断を妨げる「冷凍によるアーチファクト」、冷凍組織の薄い切片の切断の際の技術的困難、ある種の冷凍組織(例えば多量の脂肪を含んだ組織)からの組織学的切片の切断が不可能なこと、冷凍組織試料の厄介でかつ費用の嵩む貯蔵、極めて小さな組織試料を冷凍することの非実際性、更に冷凍組織の切断に要する特殊なミクロトームの大きな費用が含まれる。パラフィン包埋試料は、生体分子が包埋段階で生き残った場合は、形態学的に優秀であり、かつ核酸及び蛋白質のような生物分子が室温においても長期の貯蔵に対して極めて安定であることを示す。不都合なことに、パラフィン包埋組織ブロックの製造に固定剤として広く使用されるフォルムアルデヒド凝固薬が、核酸及び蛋白質を大きく損傷させる。フォルムアルデヒドを使用しないパラフィン包埋技法があるが、この技術はなお問題を抱えている。この問題には、包埋用試薬の拡散速度が遅く生体分子の劣化を許すこと、包埋試料に多くの日数にわたり大量の包埋用試薬が使用されたとき凝固条件が日々変動すること、及び現在の包埋技法で試薬槽の中に一緒に入れるためある試料から他の試料への汚染の可能性が含まれる。
【0013】
従って、フィブリン又はその他のキャリヤー分子により希釈されることなく、ワックス細胞ブロックの1個の切片が全ての細胞破片の実質的な比率を示すように、細胞を失うことなく細胞ブロック内の高濃度区域内で細胞破片を位置決めできる細胞ブロック調製技法についての要求がある。細胞ブロックのラベル間違い、及びある細胞ブロックの他の細胞ブロックによる汚染を避け、更に現在利用し得る技法よりも少ない包埋用試薬及び時間しか要求せず、かつ診断の調査研究のために生体分子の標準化された保管を許すことも望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、フロースルー(flow−through)処理及び細胞を迅速に包埋するための包埋技法を利用する方法及び装置を提供する。このフロースルー処理は包埋中の細胞の回収及び抽出の効率を最大にし、これにより細胞試料の所要量を減らし、処理時間の長さを最小にし、かつ包埋に要する試薬の量を最小とする。この方法及び装置は、細胞ブロックをキャリヤー物質で希釈することなしに細胞ブロック内の切断される場所の平面に細胞を自動的に定位置に置く。加えて、この方法及び装置は、細胞ブロックのラベル間違い及び2個の異なる細胞試料間の交差汚染の可能性を最小にし又は無くす。最後にこの方法は、細胞の研究を容易にするために細胞保存又は細胞の包埋条件のカスタマイズ化及び標準化を許す。
【0015】
本発明の実施例により、装置は、細胞試料の獲得及び包埋用試薬の流れ得る通路の提供の二重の機能を行う変更された組織カセットを備える。集められた細胞試料から細胞破片を典型的に、水溶液又は液状の細胞保存剤のいずれかで、変更された組織カセットを経て、細胞又は組織破片を捕捉するフィルターに給送するための細胞流路が提供される。装置は、組織カセットを通り更にフィルター上に堆積された細胞試料を通り、最後にパラフィンが組織カセットを通りフィルター上に堆積された細胞試料を通るように構成された試薬流路も備える。パラフィンの温度が低下したとき、フィルターがパラフィンに包埋された細胞から引き剥がされ、更にフィルターと組織カセットとの間のガスケットが組織カセットから引き剥がされる。この技法は、標準ミクロトームにより切断される組織切断平面に包埋細胞が置かれた状態で、組織カセットから突き出ているワックスの円板を残す。組織の切断平面にフィルターを置くことにより手作業による包埋処理が無くなり、包埋されたブロック内の細胞の平面を技術者が見いだすに要する時間が短縮される。その他の支持用のマトリックス材料は使用しないため、細胞の破片はマトリックスで「希釈」されず、従って各組織切片は高濃度の細胞を示す。
【0016】
この装置は、手作業で運転され、又は完全自動化することができる。本発明の方法を運転しかつ自動化するための方法も提供される。
【0017】
本発明は付属図面を参照しなされる以下の詳細な説明からより完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の細胞ブロック包埋装置の詳細図である。
【図2】本発明の細胞ブロック包埋装置の別の実施例の詳細図である。
【図3】(図3A)本発明の組織カセットの斜視図である。(図3B)図3Aの組織カセットを上方から見下ろした図面である。(図3C)図3Aの組織カセットを下方から見た図面である。
【図4】図3aの組織カセットの線3A−3Aに沿って得られた細胞カセットの上方から見た図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、ミクロトームにより切断する細胞ブロックの迅速調製のための方法及び装置を提供する。本発明の細胞ブロック包埋装置10は、フロースルーシステムとして設計される。図1に詳細に示されるように、装置10は、流入管20により定められた細胞流路16を備え、この流入管は内部に細胞試料14を保持している容器12内に置くように構成された入り口端部22及び廃棄可能な試料ポート26に着脱可能に連結された出口端部24を持つ。管20を通過する流体の流量を調節するために流入管20に沿って電磁式チューブクランプ28を配置することができる。容器12は、適宜適切な形状、形式、又は3大きさとすることができる。例えば、図示のように、容器12は標準の50mlの使捨ての遠心チューブとすることができる。細胞試料14は、ハンクス緩衝塩類溶液のような生理食塩水又は50%水性アルコールのような液体保存剤中に懸濁させることができる。細胞懸濁液は、懸濁された細胞の処理を始める直前に渦を巻かせることができる。加えて、細胞試料14は、続く諸段階中、懸濁を維持するために、例えば細胞試料容器12を機械式震盪器(図示せず)に取り付けることにより、或いは細胞試料容器12内に沈めた使捨ての機械式撹拌棒を有することにより(図示せず)、機械的に震盪させることもできる。
【0020】
装置10の試薬流路18の末端を形成する使捨て式の試薬ポート110が試料ポート26と連通している。試薬流路18は、それぞれ試薬源から伸びかつ試薬ポート110に集まる複数の試薬給送チューブ又は管路により定められる。包埋用試薬82、92及び102は、それぞれ、試薬ポート110と連通している流管路80、90及び100を通って試薬ポート110に流れる。流管路80、90、100の各は、試薬の給送を管理するポンプ84、94、104、及び流路の気密を確保する電磁式のチューブクランプ86、96、106を備える。一実施例においては、容器82に入れられたアルコールがアルコール流管路80を通り、容器92に入れられたキシレンがキシレン流管路90を通り、そして熔融パラフィンは加熱されたワックス容器102から加熱されたワックス流管路100を通って試薬ポート110に通過できる。加熱されたワックス流管路100は黄銅又はその他の熱伝導の良い材料から形成され、一方、アルコール及びキシレンの流管路80、90はナイロンのような試薬により劣化されない適切な材料から形成される。
【0021】
3種の異なった試薬流管路が図示され説明されたが、試薬流路18は適宜の数の試薬給送チューブ又はその組み合わせより構成し得ることが理解される。更に、多くの別の試薬も本発明において使用することができる。例えば、フォルマリン又はカルシウム除去用の酸溶液も含むことができる。免疫組織化学的な試薬の給送用チューブを本発明の装置10に適用し、これにより蛋白質の検出をすることもできる。これらチューブは、アルコール及びキシレンと同じ方法で試薬ポート110に連結することができる。更に、希望する場合は、同じ試薬を給送するために複数の試薬給送チューブを持つことも可能である。
【0022】
本発明の試料ポート26、細胞流入チューブとその取外し可能な出口端部24、及び細胞試料容器12は全て使捨て式であり、1個の試料だけの処理に使用される。流入チューブ20の出口端部24を試薬ポート110から分離するために、バッフルが使捨ての試料ポート26内に置かれる。このバッフルは、細胞試料による試薬ポート110の汚染を防ぎ、試料ポートを次の多くの細胞試料の処理に使用することを許す。
【0023】
図1に示されるように、試料ポート26は、本発明の着脱可能な組織カセット30に取り付けることができる。図3A−3Cに詳細に図示された組織カセット30は、カセット30の上面32から底面34を通って伸びる円筒状のポート36を備える。円筒状ポート36は、細胞及び給送される試薬のための通過流路を作る。円筒状ポート36は、カセット30の上面32から試料ポート26に取り付けられ、これにより試薬流路18と組織カセット30との間の連通を許す。最終的にはカセット30内(底面34に近い円筒状ポート36の内側)に形成されるであろうワックスプラグを留めるための薄い棚44が円筒状ポート36内にある。ワックスの接着を良くするために、円筒状ポート36内に、網面、突起、隆起、溝、又は粗面のような別の構造を含み得ることが理解される。組織カセット30は、パラフィンを節約するため、カセット30全体をワックスで満たす必要がないように十分な剛性の構造を提供するように設計される。組織カセット30は、アルコール、キシレン又は酸による劣化に抵抗する材料より作るべきことが理解される。組織カセット30を形成する材料の例は、ポリプロピレン、タルク入りのポリプロピレン、及びナイロンを含む。一実施例においては、組織カセット30は、約40−50mmの範囲の長さと約20−30mmの範囲の幅とを持つ。ポート36を含んだカセット30の全高は約5−15mmの範囲である。図4に示されるように、カセット30の円筒状ポート36は、底面32で測ったとき、直径が約12.7mm(0.5インチ)である。これらの寸法により、円筒状ポートは標準の包埋用の型に適合でき、かつ切断のために、標準のミクロトームの保持器内に位置決めすることができる。
【0024】
再び図1を参照すれば、組織カセット30の底面34から伸びている円筒状ポート36は、平らなリング状のガスケット42に着脱自在に連結される。ガスケット42は厚さがほぼ1.59mm(1/16インチ)であり、組織カセット30の円筒状ポート36の壁の直径(12.7mm(0.5インチ))及び厚さにほぼ適合する。ガスケット42はVitonTMゴムのような柔軟な材料から構成することができる。この材料はガスケット42が組織カセット30と水密シ−ルを形成することを許し、かつキシレン及びその他の包埋用試薬に暴露されたときの化学的劣化に抵抗する。ガスケット42は、処理の終わりに組織カセットから突き出ている硬化したワックスを変形させることなしに硬化したワックスから引き離すことができるに十分に柔軟であるべきでもある。
【0025】
ガスケット42は、ガスケット42の内径より直径が小さいフィルター40に着脱自在に連結される。フィルター40は、細胞より小さい破片がフィルター40を通過して流れることを許し、一方、小寸法にされた個々の細胞が捕捉されるように、直径約6−12ミクロンの範囲の孔寸法を持つ。フィルターの孔の寸法は異なった形式の試料に適合させることができる。例えば、多数の赤血球及び細胞群を含むことが知られている試料は、組織破片は捕捉するが個々の赤血球はフィルターを通過できるような12ミクロンの孔寸法を持ったフィルターで処理することができる。フィルター40は、これを(例えば、Millipore corporation、 Billerica,MA で作られた isoporeTMのような)ポリカーボネートフィルターを備えることができ、これは平滑であって、細胞及びワックスを引き離すときにこれらがフィルターに付着することを防止する。更に、ガスケット42、組織カセット30及びフィルター40は、互いに軽く接着され、このためこれら3個の構成要素を装置10に迅速に装着することができる。
【0026】
一実施例においては、ガスケット42を取り付けた組織カセット30の総厚さは約5−20mmの範囲内、好ましくは10mmである。この背の低い形態のため、組織カセット40とガスケット42とを標準の組織の型の中に置いた場合、フィルター40は、標準の組織の型の最も低い面の場所に置かれる。この組織カセット30及びフィルター40の形態のため、組織の型に対する要求なしに、ミクロトームの刃が細胞ブロックを切断するであろう平面に隣接して堆積した細胞を自動的に位置決めすることができる。これは、細胞がミクロトームの切断用の刃に面した平面に最も近くかつミクロトームの取付け側から最も離れてワックスブロック内に包埋されるためである。ガスケット42及び組織カセット30は正確な寸法に作り得るため、細胞が置かれる平面で正確に切断を開始するようにミクロトームを事前に設定することが可能である。本発明のこの特徴がミクロトーム切断中の組織学者の時間と労力とを減らす。
【0027】
図1に示されるように、フィルター40はフィルター支持具60上にある。一実施例においては、フィルター40に面したフィルター支持具60の上面は、流体がフィルター40とフィルター支持具60とを通過して流れることができるように、その中央部分を多孔性とすることができる。フィルター支持具60は、中央の多孔性部分を囲んでいる非多孔性の平坦なリングを備えることができる。フィルター40は、フィルター支持具60の多孔性部分を完全に覆いかつフィルター支持具60の非多孔性部分の上に幾らか伸びるようにフィルター支持具60上に置くことができる。ガスケット42は、フィルター支持具60の非多孔性リングの上のフィルター40の外側の縁の上に置くことができる。この構成により、間にフィルター40自体を挟んだ組織カセット30の円筒状ポート36とフィルター支持具60との間の水密シールが形成される。この実施例の一態様(図示せず)においては、フィルター支持具60は、ガスケット42の上、及び組織カセット30の円筒状ポート36の下端に伸びる円筒状の延長部を持つことができる。この構成により、フィルター支持具60、ガスケット42、及びフィルター40に対する組織カセット30の正確な着座を確保することができる。
【0028】
別の態様においては、フィルター支持具60は、一体型の加熱用要素及び冷却用要素を備えることができる。フィルター支持具60は、パラフィンを熔融状態に保持するため及びパラフィンの固化過程の速度を上げるために、熱を支持具60に向かって導き又は熱を逃がすように導くように構成することができる。例えば、包埋処理中に支持具60の周囲の温度を上げるために、また包埋が完了してワックスを硬化させるときに支持具60への熱を減らすためにフィルター支持具60と組み合わせられたヒーターを使用することができる。その他の可能な加熱及び冷却用の代替方法は、装置10の全体を加熱された箱の中に維持し、或いはフィルター40上に赤外線を当てることを含む。
【0029】
フィルター支持具60は、包埋処理中の排液を捕捉するために廃棄物容器50に着脱自在に連結される。排液には細胞試料及び余分の包埋用試薬を含んだ流体媒体が含まれる。種々の廃棄物容器50をフィルター支持具60の下側から機械的に動かすことにより、種々の流出物を互いに分離することができる。或いは、廃棄物容器50が複数の独立した区画を備え、その各がそれ自体の電磁式クランプを持つようにすることができる。かかる構成により、電磁式クランプによってある特定の流出物をそれの関連の容器内に選択的に給送するように流すことができる。流出物中の包埋用試薬を分離するかかる手順が包埋用試薬の再使用を容易にすることが考えられ。この装置は、現在利用し得る別の細胞ブロック製造方法と比較して少ない試薬(例えば1細胞ブロック当たり約5ml)を使用するため、廃棄費用も少なくなる。
【0030】
細胞ブロックを作成する過程は、本発明により、フロースルーシステムにおける抽出効率の上昇によるより迅速な処理速度、包埋用試薬の使用量の低下、ラベル違いによる危険の低下、交差汚染の排除、組織成型段階の排除、及び包埋又は細胞保存条件の標準化を含む先に詳述された多くの利点を伴い実行することができる。本発明の細胞ブロック包埋装置10は包埋用溶液内に細胞破片を単純に浸漬するのではなくてフロースルー設計を利用するため、抽出効率の劇的な増加、試薬使用量の減少、及び極めて迅速な処理が得られた。本発明の装置を使用して調整された試料においては、作られる各細胞ブロック当たり5ml以下のアルコール、キシレン、及びワックスを必要とした。包埋処理は、手作業で行われる場合は、約10分間で行うことができる。手作業による処理では、細胞試料と包埋用試薬とは、目視による管理下で組織カセット30に又は試料ポート26にピペットで直接給送することができる。包埋用試薬がフィルター40上の細胞を経て流れ得るように細胞を十分なだけ装入することが重要である。これは、フィルター40の流出側に負圧を加えたときに凹面又は液位がどの程度早く下がるかを監視しながら手作業で細胞を落とし加えることにより行うことができる。装置の運転中、凹面又は液位の速度が最初に分かるほど下がったとき、少なくも20個の5ミクロン厚の組織切片のための十分に厚い細胞の層がある。抽出段階において液位の低下速度がより早いことが観察された。これは、細胞が水及び脂肪の除去のため徐々に孔の比率が大きくなるためである。包埋段階を手作業で行っているとき、流体の液位がフィルター40内に落ちることを常に防止することが重要である。これが生ずると細胞が歪を受ける。
【0031】
本発明の装置10は、うまく自動操作するように構成することができる。本発明による細胞ブロック製造を部分的に又は全部を自動化するために幾つかの方策を利用することができる。例えば、次のようなことが考えられる。即ち、細胞試料及び/又はフィルター40を通る包埋用試薬を押すように組織カセット30の上流側に適用する正の圧力、或いは試料及び/又はフィルターを通る包埋用試薬を引くように組織カセット70の廃棄側に適用する負の圧力と共同して細胞試料及び試薬を管理することができる。図1は、自動化された細胞ブロック包埋装置10を示し、これにおいては、真空源に連結できる負圧チューブ70を通して廃棄物容器50に負圧が加えられる。負圧は、流入チューブ20を通って細胞試料14から細胞をフィルター40上に引くように作用する。負圧はフィルター40を通って試薬を引き細胞上にワックス細胞ブロックを形成する。示されるように、装置10の運転中、システムの負圧を測定するために流出チューブと共に圧力計72を備えることができる。細胞試料容器12及び包埋用試薬容器82、92、102から廃棄物容器50に至る全システムを水密に作ることができる。かかる水密システムにおいては、廃棄物容器70の端部に負圧を適用することにより、電磁式チューブクランプ86、96及び106は、細胞試料14を給送するか否か、或いは包埋用試薬82、92及び102を試料ポート26に、更に、フィルター40に給送するか否かを管理することができる。
【0032】
細胞ブロック包埋装置10の運転方法において、水溶液中の細胞破片の試料は、フィルターの細孔が細胞破片により概ね塞がれるまで廃棄物容器50から流入チューブ20に真空又は負圧を適用することにより、フィルター40を通って容器12から引かれる。次いで、フィルター40を通してアルコールが引かれ、続いてキシレン及び熔融パラフィンが引かれる。パラフィンが冷された後、包埋された細胞からフィルター40が引き剥がされる。ワックスが硬化したとき、組織カセット30から突き出ている厚さ約1mmのワックスのリングを残して、フィルター40と組織カセット30との間のガスケット42が組織カセット30から引き剥がされる。組織カセット30は、切断するためにミクロトームの刃が細胞ブロックを切断するであろう平面又はこの平面の極めて近くに、堆積された細胞が集められるように設計される。細胞試料と接触する構成要素は使捨てであるため、使捨ての試料ポート26が細胞ブロック間の交差汚染の危険を無くす。
【0033】
図2は、追加の正圧が加えられた場合の図1の細胞ブロックの自動包埋装置10を示す。この実施例においては、図示のように気密の蓋76を有する容器12に正圧チューブ74を取り付けることができる。正圧チューブ74は、容器12に圧力を給送するための正圧源に連結することができる。これが、容器12内の細胞懸濁液から流入チューブ20を通り、続いて試料ポート24及びカセット30を通ってフィルター40に至る細胞の運動を容易にするであろう。細胞試料及び包埋用試薬の全てをフィルター40に給送するために、正圧と負圧との組合せを使用することができる。示されるように、流入チューブ20は、気密の通路を確保するために電磁式チューブクランプ28を備える。電磁式クランプ28は、正圧システムにおいては試料内に流体が入らないように作用し、負圧システムにおいては包埋用試薬の代わりに負圧が試料を引くことのないように作用する。
【0034】
システムを自動化するために、円筒状ポート36を通る液位がフィルター40内に引き込まれないように、及び試薬が組織カセット30を溢れさせることのないように、円筒状ポート36への試料及び包埋用試薬の流入を、廃棄物受容器50内への流出と適合させることが必要である。適切な水密システムにおいては、有用な包埋処理を行うために、細胞試料及び包埋用試薬を強制して円筒状ポンプ36を通過させその後フィルター40を通過させるように、細胞試料容器12並びに包埋用試薬ポンプ84、104、及び104に正圧を逐次適用することで十分である。
【0035】
或いは、通路36を通って細胞に給送される細胞試料14及び包埋用試薬の量を種々の技術により電子的に監視し、そして試料及び試薬の流量を適切に調節することができる。現在技術により液位を監視することができ、或いは技術を本発明に適合するように特殊化することができる。例えば、液位を監視するための一機構は、レーザー又は発光ダイオードから液位面にある角度で光を反射させる。光センサーが反射光線を監視しこれを液位の低下に変換する。センサーは組織カセットの上方、例えば試料ポンプ26に隣接して置くことができ、或いはセンサーを試料ポンプ26と一体化することができる。
【0036】
液位を監視する別の機構は、「レベル・ロック(level−lock)」システムとしてALA Scientific Instruments Inc. Westbury, NYより提供されるような使捨て式の浸漬可能な光ファイバーケーブルを使用する。このシステムにおいては、ケーブルが液体と接触したときにこれから光が漏れ出し、この光の強さの低下は浸漬の度合に比例する。使捨ての光ケーブルを組織カセット30の細胞流路16内に、又は試料ポンプ24内に組み込むことができる。
【0037】
液位を監視するなお別の機構は、空気と比較して比誘電率の異なる流体(非導電性液体を含む)を検出する容量形の液位モニターを使用する。電源及びセンサーはガスケット42の直上に置くことができる。
【0038】
液位を監視するなお別の機構は、半透明な組織カセット30内の、ガスケット42の直上の細胞流路の下方部分を水平に通過するように光ビームを位置決めする。細胞流路の反対側に置かれた光センサーは、光ビームが液位を通過するときの強さの変化を検出することができる。
【0039】
流量を監視する更に別の機構は、フィルターを通過するときの流体の重量を計る。組織カセットの細胞流路内の試料又は包埋用試薬の量を2個のレベル間に維持するように、試料及び包埋用試薬の給送と流体の重量とを組み合わせることができる。
【0040】
種々の機構によりフィルター40上に細胞試料14の適切な量を自動的に置くことができる。適切な水密構成においては、電磁式チューブクランプ86、96、106を閉じた状態で本発明の廃棄物端部に適度の負圧を適用させることによりフィルター40に細胞試料14を給送することができる。負圧がフィルター40の孔の幾つかの詰まりを示すある点に達したとき、圧力計72が負圧の解放を開始させることができる。この機構は特許文献2及び3に説明されたものと同様である。
【0041】
或いは、細胞試料容器12への正圧の短いパルスに適用が、図2に示されるように試料のアリコートを組織カセット30の円筒状ポート36内に強制する。給送された細胞の量は、フィルター40を通る流量により判定される。フィルター40に細胞試料の小量のアリコートを給送するこの過程を容易にするために、給送される細胞試料の小量のアリコートごとに大量のアルコール又は食塩水を注入することが実行可能である。圧送すべき試薬のある量に対してアルコールからキシレンに更にワックスへの切替えを設定することができる。本発明の装置10を使用した研究において、適正な包埋のためにはこれら試薬は各5mlが十分であることが繰り返し判定された。抽出が完了したことを示す屈折率の変化を監視することも実行可能である。即ち、廃棄物容器50の細胞試料の下流に屈折計を置き、そして水、アルコール、及びキシレン間の屈折率の差を、全ての試薬(例えば、水、アルコール、キシレンなど)が除去されたか否かを判定するために使用することができる。
【0042】
3種の異なった試薬給送チューブが示され説明されたが、試薬流路18は、適宜の数及び組み合わせの試薬競給送チューブを備え得ることが理解される。例えば、生理食塩水内に収容された細胞試料14から蛋白質を洗い去るために、試薬ポート110への流管を有する食塩水容器を備えることが有利である。試料の脱カルシウムを行い得るように酸容器及び試薬ポート110への流管を備えることもできる。現在の装置を使用する優れた事前清浄化も本発明により達成することができる。例えば、容器は、細胞試料の事前清浄化を許すためにヘマトキシリン、エオシン及び蒸留水を含むことができ、これにより最終のパラフィン切片の清浄化の必要性を無くすことにより時間を節約できる。エオシンは、パラフィン切片を切った組織学者に対して細胞試料を明瞭にし、組織学者に対してはミクロトームで切断された切片内の細胞の質と数との計測を許すためにアルコールの抽出中に含まれることが普通である。
【0043】
組織切片の平面にフィルターを置くことにより、手作業による包埋処理が無くされ、包埋されたブロック内の細胞の平面を見いだすために技術者が要する時間が短縮された。その他の支持用マトリックス材料は無いので、細胞の破片はマトリックスにより「希釈」されず、かつ各組織切片は高度に濃縮された細胞を示すことができる。それにも拘わらずある状況においては、最終の包埋細胞試料を再熔融及び再硬化するために組織型内に置くことが望ましい場合がある(背景技術において説明された一般の細胞ブロック手順の段階(11))。これは自動方式で行うことができる。再熔融及び再硬化段階の機能は、ミクロトーム切断における「フェーシング・イン(facing in)」段階を容易にするためにワックスの薄層が細胞の底部を覆うことを許し、これが細胞ブロックから切断し得る有効な切片の数を多くする、
装置が汚染物を他のものから容易に除去できるように構成されることが理解される。これは、技術者が、使用された又は摩耗した構成要素を効率的な方法で迅速かつ容易に置換できるため望ましい。更に、本発明の試料ポート26、細胞流入チューブ20とその取り外し可能な出口24、及び細胞試料容器12は全て使捨てである。これが、1個の試料に対するこれら構成要素の各の1回の使用を許し、これにより続く細胞試料の処理中の汚染を防止する。
【0044】
細胞ブロック包埋装置10及びこの装置の使用方法が、ここに詳細に説明されたが、本発明は細胞流路16が組織カセット30を通過しない場合でも現在技術に勝る利点をなお提供し得ると考えられる。例えば、フィルター40の上にある臨時の区画内に細胞を効果的かつ迅速に包埋できることが明らかである。この臨時の区画は、後で、標準の組織型の中で熔融することができ、更にこの再熔融は自動化することができる。
【0045】
更に、細胞試料のラベルと組織カセット上のラベルとを適合させるために、本発明にバーコード読取り器を備え、これによりラベル違いを無くすことが考えられる。
【0046】
以上は本発明の原理を説明しただけであること、及び本発明の範囲と精神から離れることなく本技術の熟練者により種々の変更をなし得ることが理解されたであろう。ここに挙げられた全ての参考文献はその全文を参考文献として明白に組み入れられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロースルー式の細胞ブロック包埋装置であって、
細胞破片を細胞試料から試料ポートに給送するための流入チューブにより定められた細胞流路であって、試料ポートはこれに取り付けられるフィルターを有する組織カセットと連通しており、圧力を加えたとき、細胞破片が細胞試料から流入チューブを通って試料ポートに引かれそしてフィルター上に堆積するように構成された細胞流路、及び
試料ポートと連通している試薬ポートに試薬を給送するための複数の試薬給送チューブにより定められた試薬流路であって、圧力が加えられたとき、試薬が試薬給送チューブを通って試薬ポートに、更にフィルター上の堆積された細胞破片に引かれるように構成された試薬流路
を備えた装置。
【請求項2】
細胞破片が、ミクロトームにより切断される平面の近くに自動的に堆積される請求項1の装置。
【請求項3】
試薬流路に加えられる圧力が負圧である請求項1の装置。
【請求項4】
試薬流路に加えられる圧力が正の圧力である請求項1の装置。
【請求項5】
細胞流路に加えられる圧力が負圧である請求項1の装置。
【請求項6】
細胞流路に加えられる圧力が正の圧力である請求項1の装置。
【請求項7】
試薬流路が、アルコール、キシレン、高温のパラフィン、蒸留水、食塩水、酸、ホマトキシリン、エオシン、及び免疫組織化学試薬よりなるグループから選ばれた試薬を給送するための試薬給送チューブを含む請求項1の装置。
【請求項8】
試薬流路が、高温パラフィンを試料ポートに給送するための加熱された試薬給送チューブを含む請求項7の装置。
【請求項9】
各試薬給送チューブが、チューブを通る試薬の流量を調整するためのポンプを更に備える請求項1の装置。
【請求項10】
各試薬給送チューブが、気密の通路を形成するために電磁式チューブクランプを更に備える請求項1の装置。
【請求項11】
フィルターが組織カセットから取り外し得る請求項1の装置。
【請求項12】
フィルターがポリカーボネートよりなる請求項11の装置。
【請求項13】
組織カセットが、フィルターに取り付けるように構成されカセットを通って伸びている円筒状ポートを更に備える請求項1の装置。
【請求項14】
円筒状ポートが試料ポートに取り付けるように構成された請求項13の装置。
【請求項15】
複数の試薬の少なくも一つを集めるための廃棄物容器を更に含む請求項1の装置。
【請求項16】
廃棄物容器が圧力源に連結するためのポートを含む請求項15の装置。
【請求項17】
ポートが圧力計を更に含む請求項16の装置。
【請求項18】
試料ポートが使捨てである請求項1の装置。
【請求項19】
装置が完全自動化された請求項1の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−266458(P2010−266458A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−156635(P2010−156635)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【分割の表示】特願2004−550244(P2004−550244)の分割
【原出願日】平成15年10月30日(2003.10.30)
【出願人】(505157991)ユニバーシテイ・オブ・マサチユセツツ (3)
【Fターム(参考)】