説明

患者に液体を注入するためのキット及び関連する製造方法

【課題】低コストであるにもかかわらず、患者の安全性を保証しつつ、高流量の液体注入を患者に施すのを可能にするような、患者に液体注入するためのキットを提供すること。
【解決手段】このキットは、植え込み可能なチャンバ(18)の隔壁(144)内に穿刺される自由端部(48)を有する針(36)と、針(36)に下流側で接続された中間管(38)とを含む注入機器(14)を含んでいる。キットは、液体ディスペンシング装置(12)に接続される上流端部(30A)と、中間管(38)に取り外し可能に接続された下流端部(32A)とを有する上流導管(13)を含んでいる。上流導管(13)及び注入機器(14)を通して液体を注入するときに、上流導管(13)を貫く圧力損失は、上流導管(13)の上流端部(30A)と針(36)の自由端部(48)との間で測られた総圧力損失の25%を上回る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者に液体を注入するためのキットであって、
− 中空ベース・ボディと、ベース・ボディを塞ぐ隔壁と、ベース・ボディから流体を放出するための導管とを含む植え込み可能なチャンバと、
− 隔壁内に穿刺されるように意図された自由端部を有する針と、針に下流側で接続された中間管とを備えた注入機器と、
− 液体ディスペンシング装置に接続されるように意図された上流端部と、中間管に取り外し可能に接続された下流端部とを有する上流導管と、
を含むタイプのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
このようなキットは特に、例えば腫瘍分野において又は患者への造影剤注入中に、患者に流体を注入することにより、医療用画像を撮影するように意図されている。
【0003】
この画像は、「CT」と呼ばれるコンピュータ断層撮影法によって血管造影法を実施するために、患者の血管系の特徴を非侵襲評価するのに使用することができる。
【0004】
後者の場合、患者の血管系内に高い流量で極めて急速に造影剤を注入することが必要である。これにより、30〜45秒のオーダーの全走査時間中に十分なコントラストを有するのに十分に高い濃度を得ることができる。
【0005】
患者の血管系内に高い流量で造影剤を注入するのを容易にするために、患者の皮膚下に植え込まれたチャンバを含む前述のタイプのキットを使用することが知られている。チャンバは患者における注入点を規定する。注入点は、造影剤を注入すべき血液循環路から離れるように配置される。このことは、血液循環路を繰り返し穿刺することにより、この循環路を劣化させるのを回避する。
【0006】
周知の方法では、このようなチャンバは、可撓性隔壁によって塞がれた中空体と、中空体から液体を排出するための導管とを含んでいる。放出導管は中空体から突出して、血管系内への注入点まで延びている。
【0007】
患者に液体を注入するために、施術者は、液体ディスペンシング装置の出口を針付き注入機器に接続する。次いで施術者は機器の針を、隔壁を通してチャンバ内に導入する。次いで施術者は、注入装置から注入機器及びチャンバを通して液体の注入をトリガーする。
【0008】
極めて高い流量、例えば1ml/sを上回る流量での液体の導入を保証するために、注入装置の出口の圧力を著しく高くする必要がある。この出口圧力は例えば18バールを上回ってよい。
【0009】
にもかかわらず、植え込み可能なチャンバの最大使用圧力は、その設計の理由から、一般に注入装置によって送達される液体の圧力よりも著しく低く、例えば約8バールに等しい。従って、流体が極めて高い流量で注入される用途において、チャンバがディスペンシング装置からの流体の内圧に耐えられないという深刻なリスクがある。
【0010】
患者が被るリスクを制限するために、米国特許出願公開第2009/227951号明細書に記載されたキットの場合、針付き注入機器は、約15バールのオーダーの著しい圧力損失を有する。従って、このような注入機器は患者の安全性を保証する一方で、高い圧力損失をもたらす。
【0011】
しかしながら、このような注入機器は特に高流量の注入のために設計されるはずであり、特に、注入装置の出口における圧力がより低い、低流量での他の生成物注入のために使用することはできない。従って、このことは前述のキットのコストを高くし、また使用可能性を制限する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、低コストであるにもかかわらず、患者の安全性を保証しつつ、高流量の液体注入を患者に施すのを可能にするような、患者に液体注入するためのキットを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これを目的として、本発明の対象は、上流導管及び注入機器を通して液体を注入している間、上流導管の上流端部と下流端部との間で測られた、上流導管を貫く圧力損失が、上流導管の上流端部と針の自由端部との間で測られた総圧力損失の25%を上回り、有利には総圧力損失の25〜45%である、ことを特徴とする、上述のタイプのキットである。
【0014】
本発明によるキットは、個別に、又は考えられ得る任意の技術的な組み合わせに従って採用される下記特徴、すなわち:
− 上流導管の上流端部と上流導管の下流端部との間の圧力損失が、上流導管の上流端部と針の自由端部との間の総圧力損失の30%を上回り、特に総圧力損失の30%〜45%である;
− 針がチャンバ内に穿刺されたときに、針付き注入機器を貫く圧力損失が、チャンバを貫く圧力損失の4倍を下回る;
− 上流導管の上流端部と、針の自由端部との間の圧力損失が、チャンバを貫く圧力損失の4倍を上回る;
− 上流導管の長さが中間管の長さの6倍を上回る;
− 流体を通過させるための上流導管内部の平均内径が、流体を通過させるための中間管内部の平均内径の150%以下である;
− 上流導管が、流体の循環のための通路を画定する上流管と、流体循環路内に位置する、圧力損失を大きくするための突起とを含んでいる;そして
− 上流導管が上流管と、上流管に介在する少なくとも1つの圧力損失ユニットとを含んでいる、
という特徴のうちの1つ又は2つ以上を含んでいてよい。
【0015】
本発明の対象は、中空ベース・ボディと、ベース・ボディを塞ぐ隔壁と、ベース・ボディから液体を放出するための導管とを含む、患者体内に配置された植え込み可能なチャンバ内に液体を注入する観点で、患者に液体を注入するためのキットを製造する方法であって、この方法は、下記工程、すなわち:
− 隔壁内に穿刺されるように意図された自由端部を有する針と、針に下流側で接続された中間管とを含む針付き注入機器を用意し;
液体ディスペンシング装置に接続されるように意図された上流端部と、中間管に取り外し可能に接続されるように意図された下流端部とを含む上流導管を用意することにより、上流導管の上流端部と上流導管の下流端部との間の圧力損失が、上流導管の上流端部と針の自由端部との間の総圧力損失の25%を上回るようにし;
−上流導管の下流端部を中間管に接続する、工程を有する。
【0016】
本発明によるキットは、個別に、又は考えられ得る任意の技術的な組み合わせに従って採用される下記特徴、すなわち:
− 特に液体を患者に注入する前に、1mL/s以上の値に、液体ディスペンシング装置の注入流量を調節するための工程を含む;そして
− 上流導管の上流端部と、針の自由端部との間の圧力損失が10バールを上回る、という特徴のうちの1つ又は2つ以上を含んでいてよい。
【0017】
本発明の対象はまた、液体、有利には非治療用液体、特に医療用画像化のための造影剤のような診断用製品を患者に注入する方法であって、この方法は、下記ステップ:
− 上流端部と下流端部とを有する上流導管を用意し;
− 上流導管の上流端部を液体ディスペンシング装置に接続し、そして上流導管の下流端部を、自由端部を有する針を含む針付き注入機器に接続し、針の自由端部は、中空ベース・ボディの含む植え込み可能なチャンバの、中空ベース・ボディを塞ぐ隔壁内に穿刺されるように意図されており;
− 液体ディスペンシング装置から、上流導管、針付き注入機器、及び植え込み可能なチャンバを通して液体を注入し、上流導管の上流端部と上流導管の下流端部との間の圧力損失が、上流導管の上流端部と針の自由端部との間の圧力損失の25%を上回る、ステップを有する。
【0018】
添付の図面を参照しながら、一例としての下記説明を読むと本発明をより良く理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による第1の注入キットを使用中の状態で示す概略断面図である。
【図2】図1のキットにおいて使用することができる針を備えた模範的な注入機器を示す斜視図である。
【図3】図1のキットの植え込み可能なチャンバを示す斜視図である。
【図4】本発明による第1のキットを示す概略図である。
【図5】本発明による第2のキットを示す図4と同様の図である。
【図6】本発明による第3のキットを示す図4と同様の図である。
【図7】本発明による第4のキットの上流導管を示す部分断面図である。
【図8】このキットを通して流体を注入している間の、本発明によるキットを貫く圧力損失を概略的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では全て、「上流」及び「下流」という用語は概ね、流体の注入中の通常の流体循環方向に関する位置を意味するものとする。
【0021】
患者11に液体を注入するための第1のキット10が図3に示されている。このようなキット10は特に、患者の血管系内に高い流量で、例えば1mL/秒を上回る、有利には5mL/秒に等しい流量で液体を注入するように意図されている。
【0022】
注入される液体は例えば薬物である。或いは、注入される液体は非治療用液体、例えば診断用製品、特に医療用画像化のための造影剤である。造影剤を用いると、患者の血管系の画像を、例えばコンピュータ断層撮影法によって形成することができる。
【0023】
注入される液体は、有利には1mPa.s〜20mPa.sの粘度を有している。
【0024】
キット10は、上流から下流に向かって見て、患者11の身体の外側に配置された液体ディスペンシング装置12と、上流導管13と、患者11の皮膚16を通して挿入されるように意図された針を備えた注入機器14と、患者の皮膚16の下側に配置されて下流側では血液循環路20に液圧的に接続された、本発明による植え込み可能なチャンバ18とを含む。
【0025】
ディスペンシング装置12は、調節可能な流量で液体をディスペンシング(分配)することができる、例えばシリンダを備えたポンプ22を含んでいる。ディスペンシング装置12は有利には、使用者によって作動させることができるポンプの体積流量を調節するためのユニット24を含んでいる。
【0026】
ディスペンシング装置12のシリンダ・ポンプ22は、上流導管13を取り外し可能に受容するように意図された出口末端部材26を含んでいる。
【0027】
上流導管13は、上流可撓管28と、管28の上流端部30Aに位置する上流取り付け部材30と、管28の下流端部32Aに位置する下流取り付け部材32とを含んでいる。
【0028】
上流導管の長さは1.5mよりも長く、例えば1.5m〜2.5mである。
【0029】
流体を通過させるための内径は、下で明らかになるように1.5mm未満であると有利である。
【0030】
針付き注入機器14は例えば、出願人の仏国出願FR2869806又はFR2886857に記載されたタイプから成る。針付き注入機器14は針支持体34と、支持体によって支持された針36と、針36を上流導管に接続するように意図された中間管38とを含んでいる。
【0031】
支持体34は、針36及び中間管38の下流端部を受容するコア40と、患者の皮膚に当てられるように意図される支持フィン42と、図2に示した例では、コア40上に永久的に取り付けられた任意の針保護集成体44とを含む。
【0032】
コア40は、長手方向軸A−A’に沿って延びる剛性体をベースとして形成されている。
【0033】
支持フィン42はコア40の両側で軸A−A’に対して横方向に突出している。
【0034】
コア40は、針36の上流区分と管38の下流端部とを受容するための内部通路を画定する。
【0035】
ニードル36は有利には曲げニードル、いわゆる「Huber」ニードルである。ニードル36は、コア40内に位置する上流区分35と、患者の皮膚11内に穿刺されるように、コア40の軸A−A’に対して垂直方向の軸B−B’に沿って突出する下流区分46とを含む。
【0036】
針36の下流区分46は、皮膚11における針の貫通、及びチャンバ18内へのその導入を容易にするために、傾斜した自由端48を有している。
【0037】
中間管38は針支持体34内に永久的に固定されている。中間管38は、取り付け部材50を備えた上流端部50Aと、コア40内の針36の上流区分35に永久的に結合された下流端部52との間で延びている。
【0038】
管38は有利には、管38を通る循環流体の流れを遮断するか又は流れを低減することができるクランプ54によって形成された閉塞ユニットを備えている。
【0039】
図2に示された保護集成体44は随意である。この集成体44は、仏国出願FR2886857に詳細に記載されている。これは、コア40の周りに接合されたベース56と、ベース52内にスライド可能に取り付けられた中空プッシャー58とを含む。この中空プッシャー58は、それが引き込まれている間は、針36の下流区分46を包み込むようになっている。
【0040】
仏国出願FR2886857に詳細に記載されているように、ベース56及びプッシャー58は、図2に示された、患者への製品注入のための寝かせた状態と、中空プッシャー58内に針を引き込むための起立状態との間で、軸C−C’を中心として運動可能である。
【0041】
本発明によれば、上流導管13及び注入機器14は、上流導管13の上流端部30Aと下流端部32Bとの間で測られた、上流導管13を貫く圧力損失ΔPaが、上流導管13の上流端部30Aと針の自由端部48との間で測られた、上流導管13と注入機器14とを貫く総圧力損失ΔPbの25%を上回るように、寸法設定されている。
【0042】
このように、例えば装置12のポンプによって供給される圧力が、上流ポンプによって供給される流体流量5mL/sに対応して16バールを上回る場合、上流導管13と注入機器14とを貫く総圧力損失ΔPbは12バールを上回るのに対して、上流導管13を貫く圧力損失ΔPaは4バールを上回る。
【0043】
有利には、導管13を貫く圧力損失ΔPaは、上流導管13及び注入機器14を貫く総圧力損失ΔPbの25%〜60%であり、特に総圧力損失の25%〜45%、有利には30〜45%である。
【0044】
これを目的として、図4に概略的に示された第1実施態様の場合、流体が通過するための上流管28の内径D1は、管38の通路の内径D2の150%以下、特に100%未満である。
【0045】
例えば、管38の直径D2が1mm〜1.5mmである場合、管28の内径D1は、1.5mm〜1.3mmである。
【0046】
下で明らかになるように、上流導管13内部のこの圧力損失は、針38がチャンバ18内に穿刺されたときに、中間管38の内側断面が大きいにもかかわらず、また針36を貫く圧力損失が比較的低いにもかかわらず、チャンバ18内の流体圧力が所与の安全値を下回ることを保証する。
【0047】
さらに、針付き注入機器14を貫く圧力損失は、針36がチャンバ内に穿刺された時に、チャンバ18を貫く圧力損失の3倍未満、特に4倍未満である。
【0048】
さらに、上流導管13の上流端部30Aと、針36の自由端部48との間の圧力損失は、チャンバ18を貫く圧力損失の4倍を上回る。
【0049】
これらの圧力損失を測定するために、次の方法、すなわち、好適な位置に圧力センサを配置した状態で、流体流量をシミュレートするか、又はインビトロ(in vitro)での注入をシミュレートすることによる方法を用いることができる。圧力損失を測定するのに使用される流体の粘度は10mPa.sに等しい。
【0050】
図1〜3に示されているように、チャンバ18は、液体を受容するための容積142を画定するベース・ボディ140と、針36によって穿刺されるように意図された、容積142を塞ぐ隔壁144と、容積142から液体循環導管20に向かって放出するための導管146とを含んでいる。
【0051】
ベース・ボディ140は、中心軸D−D’を備えた内部容器150と、外周シェル152とを含んでいる。このシェルは、例えば内部容器150にスナップ固定されている。
【0052】
この例において、容器150は、液体を受容するための金属タンク154と、タンク154の周りに取り付けられた下側挿入体156と、タンク154の上方に位置する隔壁144の保持リング158とを含んでいる。或いは、タンク154と挿入体156とリング158とは、一体のものとして形成されている。
【0053】
タンク154は例えばチタニウムで形成されている。タンクは、容積142の底部と、部分的にチャンバ18の底部と、容積142を横方向に画定するほぼ円筒形の側壁162とを含んでいる。
【0054】
側壁162は、隔壁144を支持する環状ショルダ164を有している。隔壁144は環状ショルダの上縁に沿って延びている。
【0055】
挿入体156は、環状ショルダ164の下側で、タンク154の側壁162の周りに延びている。
【0056】
リング158は、環状ショルダ164に面して延びており、隔壁144を締め付けるための上面166を画定する。
【0057】
容積142は、側壁162とタンク154の底部との間に画定されている。容積142は、隔壁144を受容する主要上側開口168を通して上方に向かって開いており、容積142は横方向では、タンクの側壁162を通して、製品を放出するための半径方向開口170を通して開いている。半径方向開口170は、主要アパーチャ168よりも小さい断面積を有している。
【0058】
挿入体156は導管146が貫通する半径方向通路を画定する。
【0059】
外周シェル152はプラスチック材料、例えばポリオキシメチレン又はPOMから形成されている。外周シェル152は挿入体156及びリング158の周りに延びることにより、リング158及び挿入体156をタンク154上の所定の位置に保持する。
【0060】
シェル152は、容器150の底部160と同一平面上に位置する下面172と、凹面状の上面174とを有している。上面174は、上から下へ向かって、リング158から、下面172に配置されたシェル152の周縁176に向かって収束している。
【0061】
シェル152は、下面172に対してほぼ平行な周囲リップ178を有している。周囲リップ178は、主要開口168の周りでリング158上に載置されている。
【0062】
周縁176は、チャンバ18の外輪郭を画定する。この例では、この輪郭はほぼ三角形である。
【0063】
外周シェル152はさらに、縫合糸を通すための貫通開口180と、液体放出導管146を通すための半径方向開口182とを画定する。
【0064】
貫通開口180は、周縁176の近くで上面174を下面172に、軸D−D’に対してほぼ平行に結合する。これらの貫通開口180は、軸D−D’の周りに所定の角度で分配されている。半径方向開口182は、D−D’軸に対して半径方向に延びる放出開口170に面して開いている。
【0065】
隔壁144は例えば、可撓性プラスチック材料、例えばシリコーンを基材として形成されている。隔壁144は、主要開口168を塞ぐ中心部分184と、環状ショルダ164とリング158の下面166との間に閉じ込められた周囲部分186とを有している。主要部分184は周囲部分よりも高い。
【0066】
隔壁144は容積142を外方に対して密閉可能に塞ぐ。
【0067】
放出導管146は、剛性取り付け部材188と、可撓管190と、剛性取り付け部材188に被さる、可撓管190の圧着リング192とを含んでいる。
【0068】
放出導管146はベース・ボディ140から突出して、半径方向開口182を通ってこの半径方向開口182を超えて延びている。
【0069】
剛性取り付け部材188は、容器の外壁162で放出開口170の周りに組み立てられた中空ロッド194によって形成されている。中空ロッド194は半径方向で、半径方向開口182を通ってベース・ボディ140の外側に突出している。
【0070】
管190は、可撓性プラスチック材料を基材として形成されている。管190は、ベース・ボディ140の最大横方向延在長さより長く、例えばベース・ボディの最大延在長さの少なくとも2倍長い。
【0071】
管190は、剛性取り付け部材188の自由端部の周りにプレス嵌めされた上流端部196と、血液循環路20内に配置されるように意図された下流自由端部198との間に延びている。
【0072】
圧着リング192は、可撓性管190を中空ロッド194に圧着させるために、半径方向開口182内にプレス嵌めされている。圧着リング192は半径方向に、管190よりも短い長さ、例えば管190の2分の1以下の長さにわたって、ベース・ボディ140を超えて延びている。
【0073】
本発明による第1キット10の作業について以下に説明する。
【0074】
最初に植え込み可能なチャンバ18を、患者16の皮膚下に外科的に配置した。これを目的として、チャンバ18を患者の組織に当て、チャンバ18を貫通開口180を通して縫合することにより、これを所定の位置に保持する。次いで、機器14の注入針36を容易に受容するために、隔壁144を皮膚16の近くで皮膚16に面するように置く。
【0075】
患者の身体内に可撓管190を配置することにより、患者の血管系、血管循環路20内に可撓管の自由端部198を置く。
【0076】
そして患者の皮膚16を次いで元に戻し、チャンバ18が皮膚16によって部分的又は全体的に覆われるようにする。
【0077】
患者に流体を注入するときには、チャンバ18の正確な位置を観察してその特徴、特に最大圧力の注入流量を割り出すために、施術者は先ず第一に患者に対してラジオグラフィを施す。
【0078】
次いで施術者は、チャンバ18によって許される最大流量以下の流量に流量を調節するために、ユニット24を調節する。
【0079】
次いで、施術者は、上流導管13と注入機器14とを上記のように選択する。
【0080】
施術者は、上流導管13の上流端部30Aに配置された上流取り付け部材30を、注入装置12の出口末端部材26に結合する。
【0081】
次いで施術者は、上流管28の下流端部38Bに配置された下流取り付け部材32に、中間管38の上流端部50Aに配置された取り付け部材50を取り付けることにより、中間管38を上流管13に接続する。
【0082】
この導管13を貫く圧力損失ΔPaが、上流導管13と注入機器14とを貫く総圧力損失ΔPbの少なくとも25%を上回るように選択された上流導管13が存在すると、特にチャンバの圧力が、高流量注入チャンバが耐える最大圧力Psを上回るのを回避することにより、総圧力損失ΔPbが、患者の安全性を確保するのに十分に大きくなることを保証する。
【0083】
この保証は、たとえ注入機器14が高流量注入用に特に意図されていない場合にも確保される。このことは、標準化された注入機器を、より低コストで使用するのを可能にする。
【0084】
次いで、施術者は、針36の自由端部48を容積142内に運ぶために針支持体34を把持することによって、患者11の皮膚16及び隔壁144に針を刺す。
【0085】
こうして、注入装置12から、出口部材26と、上流管28と、中間管38と、針36と、容積142と、放出開口170と、放出導管146内に画定された下流路とを通って、管190の自由端部198までの連続流路が確立される。
【0086】
次いで施術者は、特に1mL/sを上回る、特に4mL/sを上回る高い流量で患者に液体を安全に注入することができる。
【0087】
図8によって示されているように、注入装置12の出口で測られた注入圧力P1が、チャンバ18によって耐えられる最大圧力Psの4倍を上回るにもかかわらず、上流導管13は、その出口で測られる圧力P2を著しく低減するように設計されている。
【0088】
このことは、たとえ注入機器14の圧力損失が低くても、チャンバ42内の針48の自由端部で測られた圧力P3が、安全な圧力Psを大きく下回ることを保証する。
【0089】
従って、注入機器14は、患者の安全性を保証する上流導管13とともに、高圧用途のために使用するだけではなく、上流導管13なしで、又は圧力損失の低い上流導管とともに、著しく低い注入圧力の用途のためにも使用することができる。
【0090】
従って、注入機器14、ひいてはキット10のコストを低くすることができる。それというのも、高圧用途のためにも低圧用途のためにも標準的な注入機器を製造することができるからである。
【0091】
注入装置12の出口において約0.1バールの圧力で注入する場合、チャンバ18を貫く流量は、0.5mL/sであってよい。流入圧力が低いにもかかわらず、この流量は例えば0.6mL/よりも大きい。
【0092】
図5に示された第2注入キット210の場合、上流管28の内径D1が、必ずしも中間管38の内径D2の150%未満でなくてもよい。
【0093】
この点において、上流管28の長さL1が長くされ、そして、この長さは、中間管38の長さL2の少なくとも例えば6倍を上回るように選択される。
【0094】
本発明による第3注入キット220の場合、上流導管13は、例えばフィルタによって形成された中間要素222を備えている。中間要素222は圧力損失を大きくすることを可能にするので、上流導管13を貫く圧力損失は、上流導管13及び注入機器14を貫く圧力損失の25%を上回る。
【0095】
これを目的として、フィルタ222を貫く圧力損失は例えば2.5バールを上回る。
【0096】
本発明による第3キット220の作業は、第1キット10の作業と同様である。
【0097】
本発明による第4注入キット230の上流管28は、図7に示されている。第1キット10の上流管28とは異なり、この管は、上流管28によって画定された内部通路内に突出する要素232を備えており、従って上流導管13を貫く圧力損失は、上流導管13及び注入機器14を貫く圧力損失の25%を上回る。
【0098】
図7に示された例において、突出要素232は、管28の軸に向かって半径方向に突出するスパイクによって形成されている。
【0099】
さらに、本発明による第3キット230の作業も、第1キット10の作業と同様である。
【0100】
上記のように、圧力損失は、好適な位置に圧力センサを配置した状態で、流体流量をシミュレートするか、又はインビトロ(in vitoro)での注入をシミュレートすることによって明確に測定することができる。第1の事例では、Fluent, COMSOL, CODE SATURNEのタイプのソフトウェア・パッケージを使用してよい。さらに、インビトロ(in vitoro)注入のシミュレーションの場合、流体流量を5mL/sに、そして粘度を10mPa.sに設定することができる。
【0101】
圧力損失の別の測定方法は、ポアズイユの法則を用いることであってよい。ポアズイユの法則を用いることにより、直径、長さ、流体流量、及び粘度に対する、導管内の層流によって発生する圧力損失が定義される。
【0102】
上記のように、流体流量は5mL/sに、そして粘度は10mPa.sに設定される。
【0103】
本発明の具体的な模範実施態様を以下に説明する。
【0104】
例1:
PEROUSE MEDICALによって市販されているPolyperf Safe(登録商標) 603011タイプの針を備えた注入機器14を使用する。この機器14は針36及び中間管38を含んでいる。針の自由端部48と中間管38の上流端部との間で測定された、この針付き注入機器を貫く圧力損失は、3.32バールである。
【0105】
上流導管13の上流端部30Aと下流端部32Bとの間で測られた圧力損失が、上流導管13の上流端部30Aと針36の自由端部との間で測られた総圧力損失の25%を上回る上流導管13を得るために、上流導管13は内径2.2mmであり、長さ127cmである。この事例では、上流導管13を貫いて発生する圧力損失は1.1バールである。この値は総圧力損失の約25%に相当する。
【0106】
例2:
この例では、PEROUSE MEDICALによって市販されているPolyperf Safe(登録商標) 601509の機器14を使用する。この針付き注入機器14の圧力損失は3.95バールである。この事例では、上流導管13は直径2.2mmであり、長さ151cmである。このような長さの場合、上流導管13は1.31バールの圧力損失を発生させる。この値は総圧力損失の25%にほぼ相当する。
【0107】
例3:
針付き注入機器14は、PEROUSE MEDICALによって市販されているPolyperf Safe(登録商標) 601507タイプから成る。この針付き注入機器14の圧力損失は3.90バールである。この場合、上流導管13は内径1.5mm、及び長さ134cmを有するように選択されており、1.30バールの圧力損失を発生させる。
【0108】
例4:
例1におけるものと同じ機器14を使用する。上流導管13は内径1.2mm及び長さ139cmである。上流導管13の上流端部と下流端部との間で測られた、上流導管13を貫く圧力損失は、13.7バール、すなわち、上流導管13の上流端部30Aと針36の自由端部48との間で測られた総圧力損失の80%に相当する。
【0109】
例5:
例2におけるものと同じ機器14を使用する。内径1.2mm及び長さ133cmの上流導管13を使用する。上流導管13を貫く圧力損失は13.0バールにほぼ等しく、この値は、上流導管13の上流端部30Aと針36の自由端部48との間で測られた総圧力損失の76%に相当する。
【0110】
例6:
例3におけるものと同じ機器14を使用する。上流導管13は直径0.8mm及び長さ110cmである。これは13.1バールの圧力損失を発生させる。この圧力損失は、上流導管13の上流端部30Aと針36の自由端部48との間で測られた総圧力損失の約77%に相当する。
【0111】
前述のこのような例は、上流導管の上流端部と下流端部との間で測られた、上流導管を貫く圧力損失が、上流導管の上流端部と針の自由端部との間で測られた総圧力損失の25%を上回る、本発明によるキットを得るために必要とされるパラメータは、関連する注入機器に従って決定され得るという事実を示している。
【符号の説明】
【0112】
12 液体ディスペンシング装置
13 上流導管
14 注入機器
18 チャンバ
36 針
144 隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に液体を注入するためのキット(10;210;220;230)であって、針付き注入機器(14)と上流導管(13)とを含み、
針付き注入機器(14)が、中空ベース・ボディ(140)を含む植え込み可能なチャンバ(18)の隔壁(144)内に穿刺されるように意図された自由端部(48)を有する針(36)を含み、前記隔壁(144)はベース・ボディ(140)を塞いており、そして前記チャンバは、前記ベース・ボディ(140)から流体を放出するための導管(146)を含んでおり、前記注入機器(14)は、前記針(36)に下流側で接続された中間管(38)を含んでおり、
前記上流導管(13)は、液体ディスペンシング装置(12)に接続されるように意図された上流端部(30A)と、前記中間管(38)に取り外し可能に接続された下流端部(32A)とを有している形式のものにおいて、
前記上流導管(13)及び前記注入機器(14)を通して液体を注入している間、前記上流導管の前記上流端部(30A)と前記下流端部(32A)との間で測られた、前記上流導管(13)を貫く圧力損失が、前記上流導管(13)の前記上流端部(30A)と前記針(36)の前記自由端部(48)との間で測られた総圧力損失の25%を上回る、ことを特徴とする患者に液体を注入するためのキット。
【請求項2】
前記上流導管(13)の前記上流端部(30A)と前記上流導管(13)の前記下流端部(32A)との間の圧力損失が、前記上流導管(13)の上流端部(30A)と前記針(36)の前記自由端部(48)との間の総圧力損失の30%を上回り、特に、総圧力損失の30%〜45%である、ことを特徴とする請求項1に記載のキット(10;210;220;230)。
【請求項3】
前記キットが、中空ベース・ボディ(140)を含む植え込み可能なチャンバ(18)を含んでおり、前記隔壁(144)はベース・ボディ(140)を塞いており、そして前記チャンバは、前記ベース・ボディ(140)から流体を放出するための導管(146)を含んでいる、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のキット(10;210;220;230)。
【請求項4】
前記針(36)が前記チャンバ(18)内に穿刺されたときに、前記針付き注入機器(14)を貫く圧力損失が、前記チャンバ(18)を貫く圧力損失の4倍を下回る、ことを特徴とする請求項3に記載のキット(10;210;220;230)。
【請求項5】
前記上流導管(13)の前記上流端部(30A)と、前記針(36)の前記自由端部(48)との間の圧力損失が、前記チャンバ(18)を貫く圧力損失の4倍を上回る、ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のキット(10;210;220;230)。
【請求項6】
前記上流導管(13)の長さが中間管(38)の長さの6倍を上回る、ことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一つの請求項に記載のキット(210)。
【請求項7】
流体を通過させるための前記上流導管(13)内部の平均内径が、流体を通過させるための中間管(38)内部の平均内径の150%以下であることを特徴とする、請求項1から請求項6までのいずれか一つの請求項に記載のキット(10)。
【請求項8】
前記上流導管(13)が、流体の循環のための通路を画定する上流管と、前記流体循環路内に位置する、圧力損失を大きくするための突起(232)とを含んでいる、ことを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか一つの請求項に記載のキット(230)。
【請求項9】
前記上流導管(13)が上流管(28)と、前記上流管(28)に介在する少なくとも1つの圧力損失ユニット(222)とを含んでいる、ことを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか一つの請求項に記載のキット(220)。
【請求項10】
中空ベース・ボディ(140)と、前記ベース・ボディ(140)を塞ぐ隔壁(144)と、前記ベース・ボディ(140)から液体を放出するための導管(146)とを含む、患者体内に配置された植え込み可能なチャンバ(18)内に液体を注入する目的で、患者に液体を注入するためのキット(10;210;220;230)を製造する方法であって、
隔壁(144)内に穿刺されるように意図された自由端部(48)を有する針(36)と、前記針(36)に下流側で接続された中間管(38)とを含む針付き注入機器(14)を用意する工程と、
液体ディスペンシング装置(12)に接続されるように意図された上流端部(30A)と、前記中間管(38)に取り外し可能に接続されるように意図された下流端部(32A)とを含む上流導管(13)を用意することにより、前記上流導管(13)の前記上流端部(30A)と前記上流導管(13)の前記下流端部(32A)との間の圧力損失が、前記上流導管(13)の前記上流端部(30A)と前記針(36)の前記自由端部(48)との間の総圧力損失の25%を上回るようにする工程と、
前記上流導管(13)の前記下流端部(32A)を前記中間管(38)に接続する工程とを有する、患者に液体を注入するためのキット(10;210;220;230)を製造する方法。
【請求項11】
さらに、特に液体を患者に注入する前に、1mL/s以上の値で、前記液体ディスペンシング装置(12)の注入流量を調節するための工程を有する、ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記上流導管(13)の前記上流端部(30A)と、前記針(36)の前記自由端部(48)との間の圧力損失が10バールを上回る、ことを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−235097(P2011−235097A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−101762(P2011−101762)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(511107935)プルーズ メディカル (3)
【Fターム(参考)】