説明

情報保持媒体及び表示装置

【課題】特定の波長の光で読み出すことができる画像情報を保持した情報保持媒体と、当該情報保持媒体に保持された画像情報を読み出して表示する表示装置と、を提供する。
【解決手段】複数階調で表現された画像情報を保持するシート状の情報保持媒体であって、複数の画素部が面内方向に配列されており、前記複数の画素部の各々は、予め定めた波長の光を前記画像情報に応じた透過率で透過する複屈折位相差Δを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報保持媒体及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光技術を利用した情報セキュリティ技術は、利便性と安全性とを両立できる技術として注目されている。特に、視覚復号型暗号技術は、秘匿情報を複数の物理鍵に分散するため安全性が高く、復号にはコンピュータ演算が不要であるため利便性に優れている。視覚復号型暗号技術としては、「画素を空間符号パターンで表現する暗号技法」や「多層の偏光位相子を重ねて画像を表現する手法」が提案されている。
【0003】
「画素を空間符号パターンで表現する暗号技法」は、一対のランダムドット状の透過画素又は遮光画素からなる、光アレイロジックと呼ばれる考え方に基づいている。暗号化された表示画像の前に復号用のマスクを設置し、復号マスクを通して暗号画像を見る時、表示画素と復号マスクとの関係が1対1に対応する視点位置が3次元的に限定される(非特許文献1、2参照)。
【0004】
「多層の偏光位相子を重ねて画像を表現する手法」は、2枚の四分の一波長板をその複屈折主軸方位を適当に回転させて、モザイク状に貼り合わせたものを積層し、これによって入射偏光の偏光軸の方位制御を行い、映像を作成している。1枚の暗号フィルムだけでは秘匿情報は表示できないが、もう1枚の暗号フィルムを重ねることで秘匿情報が表示できる(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tanida and Ichioka,"Optical logic array processor using shadowgrams",J.Opt.Soc.Am. A 73,800-809(1983)
【非特許文献2】Yatagai,"Optical space-variand logic-gate array based on spatial encoding technique",Opt.Lett. 11, 260-262 (1986)
【非特許文献3】Imagawa,Suyama and Yamamoto,"Visual cryptography using polarization-modulation films",Jpn.J.Appl.Phys. 48, No.9, 09LC02-09LC02-5 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、「画素を空間符号パターンで表現する暗号技法」は、観察時において厳密な位置合わせが必要であり、簡便性に欠けるという問題がある。また、「多層の偏光位相子を重ねて画像を表現する手法」は、複数の物理鍵が用意されると、後は簡単に秘匿情報が表示されてしまうという問題がある。
【0007】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、特定の波長の光で読み出すことができる画像情報を保持した情報保持媒体と、当該情報保持媒体に保持された画像情報を読み出して表示する表示装置と、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために各請求項に記載の発明は、下記構成を備えたことを特徴としている。
【0009】
請求項1に記載の発明は、複数階調で表現された画像情報を保持するシート状の情報保持媒体であって、複数の画素部が面内方向に配列されており、前記複数の画素部の各々が、予め定めた波長の光を前記画像情報に応じた透過率で透過する複屈折位相差Δを有する、情報保持媒体である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記複屈折位相差Δが下記式(1)で定義される、請求項1に記載の情報保持媒体である。

Δ=2πN+φ 式(1)
上記式(1)中、Nは複屈折次数を表す(Nは整数)。φは2π以下の端数を表す。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記複数の画素部の各々が、前記複屈折次数Nの値がランダムに変化する、請求項2に記載の情報保持媒体である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記複数の画素部の各々が、前記複屈折次数Nが4次以上である、請求項2又は3に記載の情報保持媒体である。
【0013】
請求項5に記載の発明は、前記情報保持媒体が2階調で明暗画像として表現された画像情報を保持しており、予め定めた波長の光を透過する明画素部と、予め定めた波長の光を減衰又は遮断する暗画素部とで構成され、明画素部及び暗画素部の一方が下記式(2)で表される複屈折位相差Δを有すると共に、明画素部及び暗画素部の他方が下記式(3)で表される複屈折位相差Δを有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の情報保持媒体である。
Δ=2πN+π (φ=π) 式(2)
Δ=2πN+0 (φ=0) 式(3)
【0014】
請求項6に記載の発明は、前記情報保持媒体が複数のシート状の部材で構成されており、前記複数のシート状の部材が重ね合わされたときに、前記複数の画素部の各々は、予め定めた波長の光を前記画像情報に応じた透過率で透過するように、前記複屈折位相差Δを有する、請求項1から5までの何れか1項に記載の情報保持媒体である。
【0015】
請求項7に記載の発明は、前記情報保持媒体が複数の画像情報を保持しており、前記複数の画像情報の各々に対応して異なる波長が予め定められ、前記複数の画素部の各々は、前記複数の画像情報の各々について、予め定めた波長の光を対応する画像情報に応じた透過率で透過するように、前記複屈折位相差Δを有する、請求項1から6までの何れか1項に記載の情報保持媒体である。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項1から7までに記載された情報保持媒体に保持された画像情報を読み出して表示する表示装置であって、前記情報保持媒体に予め定めた波長の光を含む読み出し光を照射する光源と、前記情報保持媒体を間に挟み込むように互いに離間して配置された一対の偏光子と、を備えた表示装置である。
【0017】
請求項9に記載の発明は、前記表示装置の外側に設定される観察点と前記光源との間に配置され、予め定めた波長の光を選択的に透過する波長フィルタを更に備えた、請求項8に記載の表示装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の情報保持媒体によれば、特定の波長の光で読み出すことが可能な画像情報を保持することができる。また、本発明の表示装置によれば、情報保持媒体に保持された画像情報を読み出して表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る情報保持媒体の構成の一例を示す斜視図である。
【図2】複屈折体の透過光強度を測定する装置の構成を示す斜視図である。
【図3】高次複屈折体の構成の一例を示す断面図である。
【図4】高次複屈折体の分光透過率の一例を示すグラフである。
【図5】(A)は画素部の複屈折率位相差Δを定義する図であり、(B)は情報保持媒体の各画素部の複屈折率位相差Δを示す図である。
【図6】(A)は位相φ=πの画素部の分光透過率を示すグラフであり、(B)は位相φ=0の画素部の分光透過率を示すグラフである。
【図7】本発明の実施の形態に係る表示装置の構成の一例を示す分解斜視図である。
【図8】情報保持媒体に複数の波長の光を照射したときの各波長での読み出し画像を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る表示装置の構成の他の一例を示す分解斜視図である。
【図10】(A)及び(B)は本発明の第2の実施の形態に係る情報保持媒体(情報分散型)の構成の一例を示す斜視図である。
【図11】(A)は第1部材の各画素部の複屈折率位相差Δを示す図であり、(B)は第2部材の各画素部の複屈折率位相差Δを示す図であり、(C)は第1部材と第2部材とで構成される情報保持媒体の各画素部の複屈折率位相差Δを示す図である。
【図12】(A)は第1部材からの読み出し画像を示す図であり、(B)は第1部材と第2部材とで構成される情報保持媒体からの読み出し画像を示す図である。
【図13】本発明の第3の実施の形態に係る情報保持媒体(波長多重型)の設計原理を示す図表である。
【図14】本発明の第3の実施の形態に係る情報保持媒体の各画素部の複屈折率位相差Δを示す図である。
【図15】(A)第1の鍵波長λ1での読み出し画像を示す図であり、(B)は第2の鍵波長λ2での読み出し画像を示す図である。
【図16】(A)は高次複屈折体の分光透過率の一例を示すグラフである。(B)は(A)に示す分光透過率から得られた高次複屈折体の複屈折波長分散を示す図である。
【図17】複屈折率位相差Δを次数換算した場合の換算次数に対し、予め定めた波長範囲における透過光強度の分布を明暗画像で表す図である。
【図18】設計例に係る情報保持媒体(波長多重型)の各画素部を構成する4種類の高次複屈折体の分光透過率を示すグラフである。
【図19】波長560nm及び波長600nmでの4種類の高次複屈折体の透過光強度を符号化して示す図表である。
【図20】設計例に係る情報保持媒体(波長多重型)の各画素部の複屈折率位相差Δを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0021】
<第1の実施の形態>
(情報保持媒体の構造)
まず、本発明の第1の実施の形態に係る情報保持媒体について説明する。図1は本発明の実施の形態に係る情報保持媒体の構成の一例を示す斜視図である。図1に示すように、情報保持媒体10は、複数の画素部12が面内方向に配列されたシート状の情報保持媒体である。図示した例では、平面視が矩形状の9個の画素部12が、3行3列のマトリクス状に配列されている。m行n列に配列された画素部を「画素部12mn」と表示する。なお、これらを区別する必要が無い場合には「画素部12」と総称する。
【0022】
情報保持媒体10は、複数階調で表現された画像情報を保持している。例えば、二階調で表現された二値の画像情報でもよく、多階調で表現された多値の画像情報でもよい。以下では、説明を簡単にするために、明画素部と暗画素部とで構成された二値の画像情報を保持する場合について説明する。
【0023】
複数の画素部12の各々は、予め定めた波長(以下、「鍵波長」と称する。)の光を画像情報に応じた透過率で透過する複屈折位相差Δを有している。画素部12mnの複屈折位相差Δを「複屈折位相差Δmn」と表示する。後述する通り、情報保持媒体10に保持された画像情報は、鍵波長の光が各画素部12を予め定めた透過率で透過することで読み出される。また、複屈折位相差Δにより保持された情報は、磁界や電界でデータを破壊されることが無い。
【0024】
例えば、明画素部での鍵波長の光の透過率を最大にし、暗画素部での鍵波長の光の透過率を最小にするように、複数の画素部12の各々に複屈折位相差Δが付与される。読み出し原理については後述するが、複数の画素部12の各々に画像情報に応じて複屈折位相差Δを付与することで、鍵波長の光で読み出すことが可能な画像情報を情報保持媒体10に保持することができる。
【0025】
(複屈折位相差Δ)
次に、複屈折位相差Δについて説明する。複屈折位相差Δは、複屈折の大きさを表す物理量である。本実施の形態では、複屈折位相差Δを下記式(1)で定義する。
Δ=2πN+φ 式(1)
上記式(1)中、Nは複屈折次数を表す(Nは整数)。φは2π以下の端数を表す。なお、以下では、端数φを「位相φ」と称する。
【0026】
複屈折位相差Δ、複屈折次数N、及び位相φの関係は、複屈折体の透過光強度Iに関連付けて説明することができる。図2は複屈折体の透過光強度を測定する装置の構成を示す斜視図である。図2に示すように、測定装置20は、光源22、一対の偏光子24、26、及び光検出器28を備えている。光源22の光照射側には、透過軸24Aの偏光子24、透過軸26Aの偏光子26、及び光検出器28が、光源22側からこの順に配置されている。一対の偏光子24、26は、透過軸24Aと透過軸26Aとが互いに平行になるように配置された平行ニコル光学系である。
【0027】
複屈折体30は、一対の偏光子24、26の間に挟み込まれるように配置される。複屈折体30は、主軸方位30Aを偏光子方位(透過軸24A・透過軸26A)に対して45°傾けて配置される。一対の偏光子24、26の間に挟み込まれた複屈折体30に、光源22から光を照射する。偏光子24、複屈折体30、及び偏光子26を透過した光が、光検出器28で検出される。透過光強度Iは複屈折体30の複屈折位相差Δに依存して変化し、複屈折体30の透過光強度Iが測定される。
【0028】
複屈折体の透過光強度Iは、複屈折体の複屈折位相差Δを用いて下記式(4)で表される。また、下記式(4)は、下記式(5)や下記式(6)に書き換えることができる。
【0029】
【数1】

【0030】
【数2】

【0031】
上記式(5)及び式(6)中、λは波長を表し、kは波数を表す。波数kと波長λとはk=1/λの関係を満たす。δnは複屈折体の単位厚さあたりの複屈折量を表し、dは複屈折体の厚さを表す。[δn・d]が複屈折体の複屈折量Δnである。
【0032】
上記式(5)及び式(6)から分かるように、透過光強度Iは、照射する光の波長λ又は波数kに依存して変化する。上記式(6)から分かるように、透過光強度Iは波数kに対して余弦波状に変化し、その周波数は複屈折体の複屈折量[δn・d]に等しい。従って、複屈折位相差Δを2πのN倍で表すことができる。例えば、Nを整数に限定すると、上記式(1)の関係(Δ=2πN+φ)を満たす。透過光強度Iは、複屈折次数N及び位相φを用いて、下記式(7)で表される。
【0033】
【数3】

【0034】
例えば、2πに相当する波長を560nmとすると、1400nmの複屈折位相差Δは、複屈折次数Nが「2」、位相φが「π(=280nm)」となる。また、上記式(7)から分かるように、特定の波長λの光に対する透過光強度Iは、複屈折次数Nには依存せず、位相φの値に応じて増減する。なお、複屈折位相差Δは、位相φを次数換算して「換算次数」で表すこともできる。例えば、複屈折次数N=2、位相φ=πの場合は、換算次数は「2.5」である。
【0035】
上記の測定装置20では、一対の偏光子24、26は「平行ニコル光学系」を構成するように配置されている。平行ニコル光学系では、上記式(4)の「cosΔ」の符号は「正」である。従って、透過光強度Iは、φ=0のとき最大となり、φ=πのとき最小となる。即ち、560nmが鍵波長であり、φ=0のとき鍵波長の光の透過率が最大となり、φ=πのとき鍵波長の光の透過率が最小となる。
【0036】
これに対し、一対の偏光子24、26を「直交ニコル光学系」を構成するように配置すると、上記式(4)の「cosΔ」の符号は「負」に変わる。従って、透過光強度Iは、φ=πのとき最大となり、φ=0のとき最小となる。即ち、φ=πのとき鍵波長の光の透過率が最大となり、φ=0のとき鍵波長の光の透過率が最小となる。
【0037】
(複屈折体)
次に、複屈折体について説明する。複数の画素部12の各々は、複屈折体で構成されている。複屈折体としては、複屈折を有する異方性材料であればよく、高分子配向膜等の高分子材料、液晶高分子等の液晶材料、光学結晶等の結晶材料などを用いることができる。また、異なる材料を組み合わせて用いてもよい。例えば、位相差フィルムを用いることができる。位相差フィルムは、二軸延伸等の延伸加工を施された光学用フィルムであり、特定波長の互いに直交する偏光成分間に所定の位相差を付与する。
【0038】
また、複数の画素部12の各々は、予め定めた波長帯域の光に対し透明な複屈折体で構成されている。従って、情報保持媒体10も、予め定めた波長帯域の光に対し全体として透明である。ここで「透明」とは、予め定めた波長帯域の光を透過することを意味する。例えば、可視領域の光(可視光)を透過する複屈折体は、視覚的にも透明に見える。これに対し、赤外領域の光(赤外光)を透過する複屈折体は、視覚的には黒色に見える。また、600nm〜900nmの帯域の光を透過する複屈折体は、視覚的には赤色に見える。
【0039】
情報保持媒体10に保持された画像情報は、鍵波長の光が透過することで読み出される。従って、複屈折体の透過波長帯域は、鍵波長が含まれるように定められる。鍵波長の光を赤外光として画像情報を読み出す場合には、赤外光に対し透明な複屈折体で各画素部を構成すればよい。情報保持媒体10に秘匿情報を保持する場合には、赤外領域や紫外領域等の可視領域外の波長を鍵波長とした方が、保持情報の秘匿性が向上する。なお、以下では、可視光に対し透明な複屈折体で各画素部が構成されている場合について説明する。
【0040】
また、複数の画素部12を構成する複屈折体としては、4次以上の複屈折次数Nを有する「高次複屈折体」を用いることが好ましい。詳細は後述するが、複数の画素部12を高次複屈折体で構成すると、白色光を照射した場合に明画素部のみの画像となる。即ち、情報保持媒体10に保持された画像情報は、鍵波長の光で読み出すことができると共に、白色光では読み出すことができなくなる。情報保持媒体10に秘匿情報を保持する場合には、保持情報の秘匿性が向上する。
【0041】
以下では、位相差フィルムを用いて高次複屈折体を構成する例について説明する。図3は、高次複屈折体の構成の一例を示す断面図である。複屈折体30は、2πの位相差を生じさせる全波長板32と、π/2の位相差を生じさせる1/4波長板34とで構成されている。全波長板32及び1/4波長板34としては、市販の位相差フィルムを用いることができる。2枚の1/4波長板34上にN枚の全波長板32を積層することで、複屈折次数N、位相φ=πの高次複屈折体を得ることができる。
【0042】
図3に示す例では、全波長板32として複屈折量Δnが560nmの位相差フィルムを用い、1/4波長板34として複屈折量Δnが140nmの位相差フィルムを用いている。2枚の1/4波長板34上に10枚の全波長板32を積層して、N=10、φ=πの高次複屈折体を得ている。図4は、図3に示す高次複屈折体の分光透過率の一例を示すグラフである。図4に示すように、この複屈折体30は、鍵波長である560nmの光を最小透過率で透過する。
【0043】
また、N枚の全波長板32の積層体と、2枚の1/4波長板34上にN枚の全波長板32を積層した積層体とは、何れも可視光に透明であり視覚的に区別ができない。即ち、位相差フィルムを用いて高次複屈折体を構成する例では、N枚の全波長板32を積層することで、2枚の1/4波長板34により付与される位相φに関する情報を覆い隠すことができる。
【0044】
なお、図3に示す例では、複屈折体30を全波長板32と1/4波長板34とで構成する例について説明したが、所望の複屈折次数Nと位相φとが得られるように設計されていればよく、位相差フィルムの特性及び組み合わせは適宜変更してもよい。例えば、πの位相差を生じさせるために、2枚の1/4波長板34の代わりに、1枚の1/2波長板を用いてもよい。
【0045】
(画像情報の保持)
次に、画像情報の保持方法について説明する。図5(A)は画素部の複屈折率位相差Δを定義する図であり、図5(B)は情報保持媒体の各画素部の複屈折率位相差Δを示す図である。図5(A)及び(B)に示すように、複数の画素部12の各々に、複屈折次数N、位相φで表される複屈折率位相差Δを付与することで、情報保持媒体10に画像情報が保持されている。画像情報は2値の画像情報であり、複数の画素部12の各々は「明画素部」又は「暗画素部」となる。以下では、「鍵波長」が560nmである場合について説明する。
【0046】
図5(B)に示すように、複数の画素部12の各々には、画像情報に応じて位相φが付与されている。ここでは、表示装置の一対の偏光子が「直交ニコル光学系」を構成することを前提として、明画素部ではφ=π、暗画素部ではφ=0とされている。上述した通り、鍵波長の光に対する透過光強度Iは、複屈折次数Nには依存せず、φ=πのとき最大となり、φ=0のとき最小となる。即ち、画像情報に応じて位相φ(即ち、複屈折率位相差Δ)を付与することで、鍵波長の光によって、情報保持媒体10に保持された画像情報を、高いコントラストで読み出すことができる。
【0047】
図6(A)はφ=πの画素部の分光透過率を示すグラフであり、図6(B)はφ=0の画素部の分光透過率を示すグラフである。図6(A)に示すように、複屈折率位相差Δ(換算次数)が「3.5〜8.5」の範囲で変化しても、波長560nmの光に対する透過光強度Iは、φ=πのとき最大となる。また、図6(B)に示すように、複屈折率位相差Δ(換算次数)が「2.0〜7.0」の範囲で変化しても、波長560nmの光に対する透過光強度Iは、φ=0のとき最小となる。
【0048】
また、図5(B)に示すように、複数の画素部12の各々には、複屈折次数Nの値がランダムに変化するように、複屈折次数Nが付与されている。複屈折次数Nをランダムに変化させると、複屈折位相差Δが変化する。従って、鍵波長の光に対して位相φを「π又は0」に固定したとしても、複屈折次数Nが異なると複屈折位相差Δが異なり、鍵波長以外の波長の光に対して位相φは「π又は0」にならない。即ち、複屈折次数Nをランダムに変化させることで、鍵波長以外の波長の光では、情報保持媒体10に保持された画像情報を読み出すことができなくなる。
【0049】
なお、図5(B)に示す例では、複屈折次数Nの分布範囲は「6〜12」とされている。複屈折次数Nの分布範囲が狭いと、即ち、複屈折次数Nのランダム性が低いと、鍵波長以外の波長において明暗が反転した「反転画像」が表示される場合がある。このため、複屈折次数Nの分布範囲は広い方が、即ち、複屈折次数Nのランダム性は高い方が好ましい。
【0050】
また、図5(B)に示すように、複数の画素部12の各々について、複屈折次数Nは4以上の整数とされている。図4に示すように、高次複屈折体の分光透過率曲線は、可視領域において複数の極大点と複数の極小点とを有している。これは鍵波長以外の波長の光も透過することを意味している。従って、白色光を照射した場合に明画素部のみの画像となる。これら明画素部の輝度が略均一になると、複数の画素部12を区別できなくなる。即ち、複数の画素部12の各々を高次複屈折体で構成することで、白色光では、情報保持媒体10に保持された画像情報が識別不能になる。
【0051】
以上の通り、複数の画素部12の各々に、画像情報に応じて位相φ(即ち、複屈折率位相差Δ)を付与することで、鍵波長の光で読み出すことができる画像情報を、情報保持媒体10に保持することができる。また、複屈折次数Nをランダムに変化させることで、鍵波長以外の波長の光では、情報保持媒体10に保持された画像情報を読み出すことができなくなる。更に、複数の画素部12の各々を高次複屈折体で構成することで、白色光では、情報保持媒体10に保持された画像情報を読み出すことができなくなる。
【0052】
換言すれば、複数の画素部12の複屈折次数Nをランダムに変化させることで、鍵波長の光でしか読み出せない画像情報を、情報保持媒体10に保持することができる。情報保持媒体10に秘匿情報を保持する場合には、鍵波長以外の波長の光で保持された画像情報を読み出すことができない方が、保持情報の秘匿性が向上する。更に、複数の画素部12の各々を高次複屈折体で構成することで、白色光では識別不能な画像情報を、情報保持媒体10に保持することができるようになり、保持情報の秘匿性が更に向上する。
【0053】
(画像情報の読み出し)
次に、画像情報の読み出しについて説明する。図7は本発明の実施の形態に係る表示装置の構成の一例を示す分解斜視図である。図7に示すように、表示装置40は、鍵波長の光を照射する単色光源42と一対の偏光子44、46とを備えている。単色光源42の光照射側には、透過軸44Aの偏光子44、及び透過軸46Aの偏光子46が、光源42側からこの順に配置されている。一対の偏光子44、46は、透過軸44Aと透過軸46Aとが互いに直交するように配置された「直交ニコル光学系」である。
【0054】
画像情報を読み出す場合には、情報保持媒体10は、一対の偏光子44、46の間に挟み込まれるように配置される。一対の偏光子44、46の間に挟み込まれた情報保持媒体10に、単色光源42から鍵波長の光を照射する。偏光子44、情報保持媒体10、及び偏光子46を透過した鍵波長の光が、偏光子46の光出射側(観察側)で観察される。ここでは、仮想の投影面48に透過光が投影される様子を図示する。
【0055】
上述した通り、情報保持媒体10の複数の画素部12の各々は、表示装置40の一対の偏光子が「直交ニコル光学系」を構成することを前提として、明画素部ではφ=π、暗画素部ではφ=0とすることで、2値の画像情報を保持している。単色光源42から照射された鍵波長の光は、明画素部(φ=π)を最大透過率で透過し、投影面48に明画素48Hが投影される。また、単色光源42から照射された鍵波長の光は、情報保持媒体10の暗画素部(φ=0)を最小透過率で透過し、即ち、減衰又は遮断されて、投影面48に暗画素48Lが投影される。
【0056】
この例では、複数の画素部12の各々には、明画素部(φ=π)と暗画素部(φ=0)とにより「T」という文字を形成するように、複屈折位相差Δが付与されている。情報保持媒体10に鍵波長の光が照射されると、投影面48には明画素48Hと暗画素48Lとにより「T」という文字が形成される。即ち、情報保持媒体10に保持された2値の画像情報(文字「T」を表す情報)が、高いコントラストで読み出されて、投影面48に表示される。
【0057】
図8は情報保持媒体に複数の波長の光を照射したときの各波長での読み出し画像を示す図である。図8に示すように、単色光源42から照射される光の波長を、400nmから710nmまで10nm単位で変化させると、投影面48に表示される画像も変化する。鍵波長である波長560nmで、最も高いコントラストで、文字「T」を表す情報が表示されている。これに対し、鍵波長以外の波長では、文字「T」を表す情報か否かが認識できない画像が表示されている。
【0058】
また、波長フィルタを介して画像情報を読み出してもよい。図9は本発明の実施の形態に係る表示装置の構成の他の一例を示す分解斜視図である。図9に示すように、表示装置50は、白色光を照射する白色光源52、一対の偏光子54、56、及び鍵波長の光だけを透過する波長フィルタ58を備えている。白色光源52の光照射側には、透過軸54Aの偏光子54、透過軸56Aの偏光子56、及び波長フィルタ58が、光源52側からこの順に配置されている。一対の偏光子54、56は、透過軸54Aと透過軸56Aとが互いに直交するように配置された「直交ニコル光学系」である。
【0059】
画像情報を読み出す場合には、情報保持媒体10は、一対の偏光子54、56の間に挟み込まれるように配置される。一対の偏光子54、56の間に挟み込まれた情報保持媒体10に、白色光源52から白色光を照射する。偏光子54、情報保持媒体10、偏光子56、及び波長フィルタ58を透過した光が、波長フィルタ58の光出射側(観察側)で観察される。
【0060】
白色光源52から照射される白色光には、鍵波長の光が含まれている。鍵波長以外の波長の光も、偏光子54、情報保持媒体10、及び偏光子56を透過するが、波長フィルタ58により除去される。従って、鍵波長の光を照射した場合と同様に、鍵波長の光だけが、波長フィルタ58の光出射側で観察される。情報保持媒体10に鍵波長の光が照射されると、波長フィルタ58の光出射側では、明画素58Hと暗画素58Lとにより「T」という文字が形成される。即ち、情報保持媒体10に保持された文字「T」を表す情報が、高いコントラストで読み出されて、波長フィルタ58の光出射側の面に表示される。
【0061】
なお、図9に示す例では、観察側に波長フィルタ58を配置する例について説明したが、波長フィルタ58の位置はこれに限定される訳ではない。波長フィルタ58は、表示装置50の外側に設定された観察点と白色光源52との間に配置すればよい。例えば、白色光源52と偏光子54との間に配置してもよく、偏光子54と偏光子56との間に配置してもよい。
【0062】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態に係る情報保持媒体について説明する。図10(A)及び(B)は、本発明の第2の実施の形態に係る情報保持媒体(情報分散型)の構成の一例を示す斜視図である。図10(A)に示すように、情報保持媒体60は、シート状の第1部材60Aと、第1部材60Aに重ね合わせて使用されるシート状の第2部材60Bとで構成されている。
【0063】
情報保持媒体60は、第1部材60Aと第2部材60Bとを重ね合わせた場合にしか画像情報を読み出せないように、第1部材60Aと第2部材60Bとに分けて画像情報を保持している。このように、複数の部材から情報保持媒体を構成することで、高い秘匿性と簡便な取り扱いの両立が可能な視覚復号型暗号デバイスを実現することが可能となる。即ち、複数の物理鍵が用意されても、鍵波長が分からないと秘匿情報を読み出すことができなくなる。
【0064】
第1部材60Aには、平面視が矩形状の複数の画素部62Aが3行3列のマトリクス状に配列されている。m行n列に配列された画素部を「画素部62Amn」と表示する。なお、これらを区別する必要が無い場合には「画素部62A」と総称する。また、第2部材60Bには、第1部材60Aの複数の画素部62Aに対応して、複数の画素部62Bが3行3列のマトリクス状に配列されている。m行n列に配列された画素部を「画素部62Bmn」と表示する。なお、これらを区別する必要が無い場合には「画素部62B」と総称する。
【0065】
図10(B)に示すように、第1部材60Aと第2部材60Bとが重ね合わされると、画素部62Aと対応する画素部62Bとが重ね合わされる。情報保持媒体60は、第1部材60Aと第2部材60Bとが重ね合わされた状態で、複数の画素部62がマトリクス状に配列された情報保持媒体となる。複数の画素部62の各々は、鍵波長の光を画像情報に応じた透過率で透過する複屈折位相差Δを有している。m行n列に配列された画素部を「画素部62mn」と表示する。なお、これらを区別する必要が無い場合には「画素部62」と総称する。また、画素部62mnの複屈折位相差Δを「複屈折位相差Δmn」と表示する。
【0066】
第2の実施の形態においても、複数の画素部62の各々に、画像情報に応じて位相φ(即ち、複屈折率位相差Δ)を付与することで、情報保持媒体60に、鍵波長の光で読み出すことができる画像情報を保持することができる。また、複屈折次数Nをランダムに変化させることで、鍵波長以外の波長の光では、情報保持媒体60に保持された画像情報を読み出すことができなくなる。更に、複数の画素部62の各々を高次複屈折体で構成することで、白色光では、情報保持媒体60に保持された画像情報を読み出すことができなくなる。
【0067】
次に、画像情報の保持方法について具体例を挙げて説明する。図11(A)は第1部材の各画素部の複屈折率位相差Δを示す図であり、図11(B)は第2部材の各画素部の複屈折率位相差Δを示す図であり、図11(C)は第1部材と第2部材とで構成される情報保持媒体の各画素部の複屈折率位相差Δを示す図である。図11(A)〜(C)に示すように、第1部材60A、第2部材60B、及び情報保持媒体60の各々は、複数の画素部の各々に、複屈折次数N、位相φで表される複屈折率位相差Δが付与されている。
【0068】
図11(C)に示すように、情報保持媒体60の複数の画素部62の各々には、画像情報に応じて複屈折次数N、位相φが付与されている。情報保持媒体60は、図5(B)に示す情報保持媒体10と同じ画像情報(文字「T」を表す情報)を保持している。従って、複数の画素部62の各々に付与される複屈折率位相差Δ(複屈折次数N、位相φ)の値も、情報保持媒体10と同じである。
【0069】
また、図11(A)に示すように、第1部材60Aの複数の画素部62Aの各々には、ダミー画像情報に応じて位相φが付与されている。ここでは、表示装置の一対の偏光子が「直交ニコル光学系」を構成することを前提として、鍵波長の光に対し、明画素部に対してはφ=π、暗画素部に対してはφ=0とすることで、2値の画像情報を保持している。また、複数の画素部62Aに対し、高次の複屈折次数Nがランダムに付与されている。
【0070】
なお、「ダミー画像情報」とは、情報保持媒体60に保持された「真の画像情報」とは異なる画像情報のことである。この例では、文字「L」を表すダミー画像情報が、第1部材60Aに保持されている。情報保持媒体60に秘匿情報を保持する場合には、「ダミー画像情報」を表示することで、「真の画像情報」の真贋の判断が困難となり、保持情報の秘匿性が向上する。
【0071】
また、図11(B)に示すように、第2部材60Bの複数の画素部62Bの各々には、第1部材60Aと第2部材60Bとが重ね合わされた状態で、図11(C)に示す情報保持媒体60となるように、予め設計された複屈折率位相差Δ(複屈折次数N、位相φ)が付与されている。画素部62Aと画素部62Bとを重ね合わせたときの複屈折率位相差Δは、複屈折次数N、位相φの各値を加算して求められる。複屈折率位相差Δは2πの周期性を有することから、複屈折率位相差Δの加算は、φ=0を「0」、φ=πを「1」とした排他的論理和(XOR)演算となる。
【0072】
例えば、第1部材60Aの画素部62A33は、複屈折次数N=8、位相φ=πである。また、第2部材60Bの画素部62B33は、複屈折次数N=1、位相φ=πである。従って、情報保持媒体60の対応する画素部6233の複屈折率位相差Δ33は、複屈折次数N=10、位相φ=0となる。このように、第1部材60Aの各画素部62Aの複屈折次数N、位相φと、第2部材60Bの各画素部62Bの複屈折次数N、位相φとは、情報保持媒体60の画素部62の複屈折率位相差Δに応じて定められる。
【0073】
図12(A)は第1部材60Aからの読み出し画像を示す図であり、図12(B)は第1部材60Aと第2部材60Bとで構成される情報保持媒体60からの読み出し画像を示す図である。画像情報を読み出す場合には、図7又は図9に示す表示装置を用いる。ここでは、図7に示す表示装置を用いて画像情報を読み出す場合について説明する。
【0074】
第1部材60Aだけを、一対の偏光子44、46の間に挟み込まれるように配置して、第1部材60Aに、単色光源42から鍵波長の光を照射する。偏光子44、第1部材60A、及び偏光子46を透過した鍵波長の光が、偏光子46の光出射側(観察側)で観察される。図12(A)に示すように、第1部材60Aに鍵波長の光が照射されると、投影面48には明画素48Hと暗画素48Lとにより「L」という文字が形成される。即ち、第1部材60に保持された「ダミー画像情報」が読み出されて、投影面48に表示される。
【0075】
一方、第1部材60Aと第2部材60Bとを重ね合わせて情報保持媒体60とし、一対の偏光子44、46の間に挟み込まれるように配置して、情報保持媒体60に、単色光源42から鍵波長の光を照射する。偏光子44、情報保持媒体60、及び偏光子46を透過した鍵波長の光が、偏光子46の光出射側(観察側)で観察される。図12(B)に示すように、情報保持媒体60に鍵波長の光が照射されると、投影面48には明画素48Hと暗画素48Lとにより「T」という文字が形成される。即ち、情報保持媒体60に保持された「真の画像情報」が読み出されて、投影面48に表示される。
【0076】
なお、上記の第2の実施の形態では、第1部材と第2部材とで情報保持媒体を構成する例について説明したが、部材の枚数は2枚に限定される訳ではない。画像情報を3枚以上の部材に分散して保持してもよい。視覚復号型暗号として利用する場合、分散する枚数が増加するほど、保持される画像情報の秘匿性が向上する。
【0077】
また、上記の第2の実施の形態では、鍵波長の光で「ダミー画像情報」を読み出す例について説明したが、第1部材、第2部材等、一部の部材だけでは、画像情報を読み出せないようにしてもよい。また、「ダミー画像情報」を読み出す場合でも、読み出し光の波長は「鍵波長」に限定される訳ではない。鍵波長以外の波長の光で「ダミー画像情報」を読み出せるようにしてもよい。
【0078】
また、上記の第2の実施の形態では、第1部材及び第2部材の各画素部の位相φを「0」又は「π」としたが、各部材における各画素部の位相φは「0」又は「π」に限定される訳ではない。複数のシート状の部材を重ね合わせて得られる「情報保持媒体」において、各画素部の位相φが「0」又は「π」となればよい。
【0079】
例えば、第1部材60Aの画素部62A11を、複屈折次数N=6、位相φ=π/2とする。また、第2部材60Bの画素部62B11を、複屈折次数N=1、位相φ=π/2とする。これにより、情報保持媒体60の対応する画素部6211の複屈折率位相差Δ11は、複屈折次数N=7、位相φ=πとなる。このように、「情報保持媒体」を構成する複数の部材については、各画素部の位相φを「0」及び「π」以外の値としてもよい。
【0080】
<第3の実施の形態>
次に、本発明の第3の実施の形態に係る情報保持媒体について説明する。図13は、本発明の第3の実施の形態に係る情報保持媒体(波長多重型)の設計原理を示す図表である。また、図14は、本発明の第3の実施の形態に係る情報保持媒体の各画素部の複屈折率位相差Δを示す図である。
【0081】
図14に示すように、情報保持媒体70は、平面視が矩形状の複数の画素部72が、3行3列のマトリクス状に配列されたシート状の情報保持媒体である。複数の画素部72の各々は、鍵波長の光を画像情報に応じた透過率で透過する複屈折位相差Δを有している。m行n列に配列された画素部を「画素部72mn」と表示する。なお、これらを区別する必要が無い場合には「画素部72」と総称する。
【0082】
情報保持媒体70は、1枚の情報保持媒体に複数の画像情報を保持している。本実施の形態では、波長の異なる「複数の鍵波長」が設定されており、鍵波長毎に異なる画像情報を読み出すことができる。換言すれば、鍵波長毎に異なる画像情報を読み出すことができればよく、1枚の情報保持媒体に保持される画像情報の個数に制限はない。なお、以下では、説明を簡単にするために、「第1の鍵波長λ1」の光を照射して第1の画像情報を読み出し、「第2の鍵波長λ2」の光を照射して第2の画像情報を読み出す場合について説明する。2つの鍵波長を設定して2種類の画像情報を読み出すためには、図13に示すように、少なくとも4種類の複屈折率位相差Δの複屈折体を用意する必要がある。
【0083】
なお、第1の実施の形態と同様に、複数の画素部72の各々に、画像情報に応じて位相φ(即ち、複屈折率位相差Δ)を付与することで、情報保持媒体70に、鍵波長の光で読み出すことができる画像情報を保持することができる。また、複屈折次数Nをランダムに変化させることで、鍵波長以外の波長の光では、情報保持媒体70に保持された画像情報を読み出すことができなくなる。更に、複数の画素部72の各々を高次複屈折体で構成することで、白色光では、情報保持媒体70に保持された画像情報を読み出すことができなくなる。
【0084】
4種類の複屈折位相差Δとは、「第1の鍵波長λ1」に対し「明」で且つ「第2の鍵波長λ2」に対し「暗」となる複屈折率位相差「Δ1」、「第1の鍵波長λ1」に対し「暗」で且つ「第2の鍵波長λ2」に対し「明」となる複屈折率位相差「Δ2」、「第1の鍵波長λ1」に対し「暗」で且つ「第2の鍵波長λ2」に対し「暗」となる複屈折率位相差「Δ3」、「第1の鍵波長λ1」に対し「明」で且つ「第2の鍵波長λ2」に対し「明」となる複屈折率位相差「Δ4」である。
【0085】
なお、表示装置の一対の偏光子が「直交ニコル光学系」を構成する場合には、鍵波長の光に対し、明画素部ではφ=π、暗画素部ではφ=0とすればよい。一方、表示装置の一対の偏光子が「平行ニコル光学系」を構成する場合には、鍵波長の光に対し、明画素部ではφ=0、暗画素部ではφ=πとすればよい。
【0086】
図14に示すように、情報保持媒体70の複数の画素部72の各々には、画像情報に応じて複屈折位相差Δ1〜Δ4の何れかが付与されている。情報保持媒体70から画像情報を読み出す場合には、図7又は図9に示す表示装置を用いる。ここでは、図7に示す表示装置を用いて画像情報を読み出す場合について説明する。図15(A)は第1の鍵波長λ1での読み出し画像を示す図であり、図15(B)は第2の鍵波長λ2での読み出し画像を示す図である。
【0087】
情報保持媒体70を、「直交ニコル光学系」を構成する一対の偏光子44、46の間に挟み込まれるように配置して、情報保持媒体70に、単色光源42から「第1の鍵波長λ1」の光を照射する。偏光子44、情報保持媒体70、及び偏光子46を透過した「第1の鍵波長λ1」の光が、偏光子46の光出射側(観察側)で観察される。図15(A)に示すように、情報保持媒体70に「第1の鍵波長λ1」の光が照射されると、投影面48には明画素48Hと暗画素48Lとにより「T」という文字が形成される。即ち、情報保持媒体70に保持された「第1の画像情報」が読み出されて、投影面48に表示される。
【0088】
一方、一対の偏光子44、46の間に配置された情報保持媒体70に、単色光源42から「第2の鍵波長λ2」の光を照射する。偏光子44、情報保持媒体70、及び偏光子46を透過した「第2の鍵波長λ2」の光が、偏光子46の光出射側(観察側)で観察される。図15(B)に示すように、情報保持媒体70に「第2の鍵波長λ2」の光が照射されると、投影面48には明画素48Hと暗画素48Lとにより「L」という文字が形成される。即ち、情報保持媒体70に保持された「第2の画像情報」が読み出されて、投影面48に表示される。
【0089】
ここで、図13に示すように、2つの鍵波長を設定して2種類の画像情報を読み出すために、4種類の複屈折位相差Δの複屈折体を選択する具体的な設計方法について説明する。複屈折量Δnが560nmの位相差フィルム(全波長板)を10枚積層して、N=10、φ=0、換算次数「10.0」の高次複屈折体を得ることができる。図16(A)は、この高次複屈折体の分光透過率の一例を示すグラフである。測定装置の一対の偏光子は「平行ニコル光学系」を構成し、この高次複屈折体は、鍵波長である560nmの光を最大透過率で透過する。
【0090】
高次複屈折体の複屈折波長分散、即ち、任意の波長における複屈折量Δnは、下記式(8)で表される「コーシーの分散式」を用いて、下記式(9)で表される。以下では、下記式(9)を「複屈折体におけるコーシー分散式」という。
【0091】
【数4】

【0092】
【数5】


上記式(8)中、nは屈折率であり、λは波長であり、A、Bは係数である。また、上記式(9)中、nは屈折率の異常光成分であり、nは屈折率の常光成分である。λは波長であり、ΔA、ΔBは係数である。
【0093】
図16(A)に示すグラフ(実測値)から、高次複屈折体について、透過率が極大又は極小となる複数の波長が分かる。これらの複数の条件を満たすように、上記式(9)の「複屈折体におけるコーシー分散式」でフィッティング(回帰演算)して、係数ΔA、ΔBの値を求めると、高次複屈折体の複屈折波長分散を得ることができる。例えば、図16(A)に示す実測値から、図16(B)に示すように、複屈折量Δnが波長λに対してプロットされた波長分散曲線を得ることができる。
【0094】
上記式(6)における[δn・d]が複屈折体の複屈折量Δnである。例えば、フィッティングの際には、下記式(10)に示すように、フィッティングの容易な波数kの関数として、パラメータ「ΔA」とパラメータ「ΔA・ΔB」とを求めることができる。このとき、複屈折体の厚さ「d」が、位相差フィルム(全波長板)の枚数、即ち「複屈折次数N」に相当することになる。即ち、複屈折量Δnは、複屈折次数Nの値に比例して増加する。
【0095】
【数6】

【0096】
複屈折次数N、位相φの値が異なる複数の高次複屈折体について、上記手法により複屈折波長分散を求めると、図17に示すように、複屈折次数に対し予め定めた波長範囲における透過光強度の分布を明暗画像で表すことができる。なお、図17における複屈折次数は、複屈折位相差Δを表す「換算次数」で表記している。「特定の複屈折位相差Δ」の複屈折体が「特定の波長」に対し「明画素部」になるか「暗画素部」になるかは、「特定の換算次数」を表す直線と「特定の波長」を表す直線との交点が「明」か「暗」かで判断できる。
【0097】
次に、波長多重型の情報保持媒体70の設計例を示す。図18は設計例に係る情報保持媒体(波長多重型)の各画素部を構成する4種類の高次複屈折体の分光透過率を示すグラフである。図19は波長560nm及び波長600nmでの4種類の高次複屈折体の透過光強度を符号化して示す図表である。図20は設計例に係る情報保持媒体(波長多重型)の各画素部の複屈折率位相差Δを示す図である。
【0098】
図18に示すように、分光透過率特性の異なる4種類の高次複屈折体を用意する。これら4種類の高次複屈折体は、換算次数が「5.0」、「6.5」、「11.5」、「12.0」と異なっており、異なる複屈折位相差Δを有している。図13に基づいて説明した通り、異なる複屈折位相差Δを有する4種類の高次複屈折体により、第1の鍵波長λ1、第2の鍵波長λ2の2つの鍵波長を設定して、2種類の画像情報を読み出すことができる。
【0099】
図13に示す複屈折位相差Δ1〜Δ4が、図19に示す「N=5、φ=0」、「N=6、φ=π」、「N=11、φ=π」、「N=12、φ=0」に相当する。図19に示す関係に基づいて、図20に示すように、情報保持媒体70の複数の画素部72の各々に、画像情報に応じた複屈折位相差Δ(複屈折次数N、位相φ)を付与する。これにより、「直交ニコル光学系」を構成する一対の偏光子を備えた表示装置(図7参照)を用いて読み出すと、図15(A)に示すように、第1の鍵波長λ1(波長560nm)で第1の画像情報を読み出すことが可能となり、図15(B)に示すように、第2の鍵波長λ2(波長600nm)で第2の画像情報を読み出すことが可能となる。
【0100】
<その他の変形例>
上記の第1〜第3の実施の形態では、マトリクス状に配列された9個の画素部を有する情報保持媒体について説明したが、複数の画素部が面内方向に配列されていればよく、画素部の個数、配列、形状等はこれに限定される訳ではない。例えば、画素部の個数は、画像情報に応じて増やしてもよい。画素部の配列は、正六角形が隙間無く並んだハニカム構造のように規則的な配列でもよく、ランダムドットのように不規則な配列でもよい。画素部の形状は、平面視が他の多角形状(三角形、四角形、五角形、八角形など)でもよく、平面視が円形状(真円形状、楕円形状、長円形状)でもよく、不定形状でもよい。また、複数の画素部の各々は、同じ形状である必要はなく、大きさが異なっていてもよい。
【0101】
また、本発明の情報保持媒体は、鍵波長の光で読み出すことが可能な画像情報を保持することができ、本発明の表示装置は、情報保持媒体に保持された画像情報を読み出して表示することができる。これらの基本原理は、他の情報秘匿技術との親和性に優れ、他の情報秘匿技術と併用することも可能である。既存の情報秘匿技術と融合することで、個人情報の流出、他人のなりすまし、文書偽造などを、未然に防止することが可能になる。例えば、本発明の技術を、QRコードや前記の「空間符号パターン」と組み合わせて使用することも可能である。
【0102】
QRコードは、白黒のランダムなパターンを2次元的に配置することで、少ない面積の中に大容量の情報を記述できることで知られている。例えば、QRコードを、鍵波長の光で読み出すことが可能な画像情報として作成することで、秘匿情報を安全に保存することが可能になる。また、空間符号パターン法は、「脇からの覗き見」に対する秘匿性が高いという特徴を有するが、視点位置が3次元的に限定されてしまう。例えば、空間符号パターンを、鍵波長の光で読み出すことが可能な画像情報として作成することで、光源と一対の偏光子という簡単な装置により、容易に情報を読み出して表示することができ、利便性が顕著に向上する。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の情報保持媒体及び表示装置は、情報セキュリティ分野での利用が可能である。例えば、ICカード認証の代替え技術、個人認証のIDカードへの適用、秘密文書等の保管や通信媒体としての利用、コンピュータの利用認証(本人確認用)の暗号媒体、クレジットカード・キャッシュカードなどの偽造防止や認証媒体等が、応用分野として挙げられる。
【符号の説明】
【0104】
10 情報保持媒体
12 画素部
20 測定装置
22 光源
24 偏光子
26 偏光子
28 光検出器
30 複屈折体
30A 主軸方位
32 全波長板
34 1/4波長板
40 表示装置
42 単色光源
44 偏光子
46 偏光子
48 投影面
48H 明画素
48L 暗画素
50 表示装置
52 白色光源
54 偏光子
56 偏光子
58 波長フィルタ
58L 暗画素
58H 明画素
60 情報保持媒体
60A 第1部材
60B 第2部材
62 画素部
62A 画素部
62B 画素部
70 情報保持媒体
72 画素部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数階調で表現された画像情報を保持するシート状の情報保持媒体であって、
複数の画素部が面内方向に配列されており、
前記複数の画素部の各々は、予め定めた波長の光を前記画像情報に応じた透過率で透過する複屈折位相差Δを有する、情報保持媒体。
【請求項2】
前記複屈折位相差Δは、下記式(1)で定義される、請求項1に記載の情報保持媒体。
Δ=2πN+φ 式(1)
上記式(1)中、Nは複屈折次数を表す(Nは整数)。φは2π以下の端数を表す。
【請求項3】
前記複数の画素部の各々は、前記複屈折次数Nの値がランダムに変化する、請求項2に記載の情報保持媒体。
【請求項4】
前記複数の画素部の各々は、前記複屈折次数Nが4次以上である、請求項2又は3に記載の情報保持媒体。
【請求項5】
前記情報保持媒体は、2階調で明暗画像として表現された画像情報を保持しており、
予め定めた波長の光を透過する明画素部と、予め定めた波長の光を減衰又は遮断する暗画素部とで構成され、明画素部及び暗画素部の一方が下記式(2)で表される複屈折位相差Δを有すると共に、明画素部及び暗画素部の他方が下記式(3)で表される複屈折位相差Δを有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の情報保持媒体。
Δ=2πN+π (φ=π) 式(2)
Δ=2πN+0 (φ=0) 式(3)
【請求項6】
前記情報保持媒体は、複数のシート状の部材で構成されており、
前記複数のシート状の部材が重ね合わされたときに、
前記複数の画素部の各々は、予め定めた波長の光を前記画像情報に応じた透過率で透過するように、前記複屈折位相差Δを有する、
請求項1から5までの何れか1項に記載の情報保持媒体。
【請求項7】
前記情報保持媒体は、複数の画像情報を保持しており、
前記複数の画像情報の各々に対応して、異なる波長が予め定められ、
前記複数の画素部の各々は、前記複数の画像情報の各々について、予め定めた波長の光を対応する画像情報に応じた透過率で透過するように、前記複屈折位相差Δを有する、
請求項1から6までの何れか1項に記載の情報保持媒体。
【請求項8】
請求項1から7までに記載された情報保持媒体に保持された画像情報を読み出して表示する表示装置であって、
前記情報保持媒体に予め定めた波長の光を含む読み出し光を照射する光源と、
前記情報保持媒体を間に挟み込むように互いに離間して配置された一対の偏光子と、
を備えた表示装置。
【請求項9】
前記表示装置の外側に設定される観察点と前記光源との間に配置され、予め定めた波長の光を選択的に透過する波長フィルタを更に備えた、請求項8に記載の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−181615(P2012−181615A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42956(P2011−42956)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年11月8日 社団法人 応用物理学会 分科会 日本光学会発行の「日本光学会年次学術講演会 Optics&Photonics Japan 2010 講演予稿集」に発表
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】