説明

情報入力装置、および情報入力方法

【課題】キーボードやマウスなどを携帯する必要がなく、ユーザーに拘束感を与えずに使用が可能な情報入力装置を提供する。
【解決手段】情報入力装置100は、情報入力媒体表面の温度分布画像を撮像する遠赤外線カメラ10と、温度分布画像から情報入力媒体表面の温度変化の軌跡情報を抽出する情報抽出部21と、温度変化の軌跡情報に基づいて入力情報を認識する情報認識部22と、を備えたことを特徴とする。温度分布画像から温度変化の軌跡情報を抽出し、温度変化の軌跡情報を統合して入力情報として認識するため、何らかの媒体の表面温度を、入力したい情報に対応した部位や画像で変化させることにより情報の入力をすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報入力装置、および情報入力方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モバイルコンピューティングが進み、ウェアラブルコンピューターが実用化の段階を迎える中で、ユーザーに拘束感を与えず、いつでもどこでも自由に使用が可能で、直感的な操作が行えるヒューマンインターフェースとしての情報入力装置が望まれている。例えば、特許文献1には、実際のキーボードを必要とせず、ユーザーの手にデータグローブを装着して指の動きを感知することにより情報の入力を可能とする仮想キーボードの技術が提案されている。また、例えば、特許文献2には、広げた手の平の指の動きや、手の平を指し示すもう一方の手の動きを画像認識することで入力情報を認識する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2500283号公報
【特許文献2】特開2001−312356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載される方法では、入力できる情報が、仮想キーボードの各キーに割り当てられる情報の範囲に限られてしまうという問題があった。具体的には、従来はマウスなどを用いて入力できていた図画や絵などの入力ができないという問題である。また、特許文献2に記載される方法では、入力する文字を、手を用いて記述することで記述入力も実現できるとしているが、何らその具体的な方法が提案されていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例にかかる情報入力装置は、情報入力媒体表面の温度分布画像を撮像する遠赤外線カメラと、温度分布画像から情報入力媒体表面の温度変化の軌跡情報を抽出する情報抽出部と、温度変化の軌跡情報に基づいて入力情報を認識する情報認識部と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
本適用例によれば、温度分布画像から情報入力媒体表面の温度変化の軌跡情報を抽出し、情報入力媒体表面の温度変化の軌跡情報に基づいて入力情報を認識するため、何らかの媒体の表面温度を、入力したい情報に対応した部位や画像で変化させることにより情報の入力をすることができる。従って、キーボードやマウス、データグローブおよびその周辺機器などを携帯する必要がなく、ユーザーに拘束感を与えずに使用が可能な情報入力装置を提供することができる。また、入力する情報は、何らかの媒体の表面温度を変えることにより記録する方法であるため、可視光での認識ができない。そのため、ユーザー以外の認識が困難であり、情報セキュリティー上の効果もある。また、遠赤外線カメラにより読みとることができるため、暗所においての情報入力も可能である。
【0008】
[適用例2]上記適用例にかかる情報入力装置において、情報抽出部は、複数の温度分布画像の時系列から、温度変化の軌跡情報を抽出することを特徴とする。
【0009】
本適用例によれば、複数の温度分布画像の時系列から、温度変化の軌跡情報を抽出するため、情報入力の時系列に従った温度変化の軌跡を入力情報として捉えることができる。その結果、連続する軌跡情報としてより確実に情報の抽出を行うことができる。
【0010】
[適用例3]上記適用例にかかる情報入力装置において、情報抽出部は、温度分布画像から温度変化部位情報を抽出し、複数の温度変化部位情報の時系列から、温度変化の軌跡情報を抽出することを特徴とする。
【0011】
本適用例によれば、温度分布画像から抽出した温度変化部位情報の時系列から、温度変化の軌跡情報を抽出する。情報入力による温度変化部位の情報が抽出され、その時系列の情報から温度変化の軌跡を入力情報として捉えるため、連続する入力情報の軌跡情報としてより確実に情報の抽出を行うことができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例にかかる情報入力装置において、情報抽出部は、温度分布画像を構成する画素の内、所定範囲の温度変化プロファイルで変化する画素を抽出することにより、温度変化の軌跡情報を抽出することを特徴とする。
【0013】
本適用例によれば、温度分布画像を構成する画素の内、所定範囲の温度変化プロファイルで変化する画素を抽出することにより、温度変化の軌跡情報を抽出する。つまり、所定の温度変化プロファイルを示す画素を抽出することで、情報入力による温度変化が捉えられたと想定される有効な画素が抽出される。その結果、より確実に軌跡情報の抽出を行うことができる。
【0014】
[適用例5]上記適用例にかかる情報入力装置において、情報認識部は、温度変化の軌跡情報から、線情報を抽出し、統合することで入力情報として認識することを特徴とする。
【0015】
本適用例によれば、温度変化の軌跡情報から、線情報として入力された情報を抽出し、統合することで入力情報として認識するため、線情報と認識できない情報が排除される。その結果、入力情報とは異なると想定される面情報や点情報が排除され、有効な情報が入力情報として抽出されるため、より確実に情報の抽出を行うことができる。
【0016】
[適用例6]上記適用例にかかる情報入力装置において、報知部を更に備え、報知部は、温度変化の軌跡情報または入力情報を報知することを特徴とする。
【0017】
本適用例によれば、上記適用例に対して更に報知部を備え、温度変化部位情報または入力情報が報知されるため、ユーザーは、情報を入力しながら、その入力状況や認識状況を確認することができる。そのため、より確実に情報入力が可能となり、ストレスの少ないヒューマンインターフェースとしての情報入力装置を提供することができる。
【0018】
[適用例7]上記適用例にかかる情報入力装置において、報知部は表示部を含み、表示部は、温度変化の軌跡情報または入力情報を表示することを特徴とする。
【0019】
本適用例によれば、報知部は表示部を含み、温度変化部位情報または入力情報が表示されるため、ユーザーは、情報を入力しながら、その入力状況や認識状況を確認することができる。そのため、より確実に情報入力が可能となり、ストレスの少ないヒューマンインターフェースとしての情報入力装置を提供することができる。
【0020】
[適用例8]上記適用例にかかる情報入力装置において、表示部が頭部装着ディスプレイであることを特徴とする。
【0021】
本適用例によれば、上記適用例の表示部が頭部装着ディスプレイ(HMD;Head Mounted Display)であることから、携帯性に優れ、ユーザーに拘束感を与えずに、いつでもどこでも使用が可能な情報入力装置を提供することができる。
【0022】
[適用例9]上記適用例にかかる情報入力装置において、情報送信部を更に備え、情報送信部は、温度変化の軌跡情報または入力情報を所定の情報処理装置に伝送することを特徴とする。
【0023】
本適用例によれば、上記適用例に対して更に情報送信部を備え、情報送信部は、温度変化部位情報または前記入力情報を所定の情報処理装置に伝送するため、所定の情報処理装置に対して必要な操作情報の入力を行うことができる。
【0024】
[適用例10]上記適用例にかかる情報入力装置において、情報認識部が認識する入力情報には、少なくとも、文字、数字、記号、図形、絵のいずれかが含まれることを特徴とする。
【0025】
本適用例によれば、画像形態で入力が行えるため、認識する入力情報には、文字、数字、記号、図形、絵などが含まれる。そのため、キーボードなどのように、入力する情報がキーボードに割り当てられた情報に限られることがなく、様々な情報の入力を行うことができる。
【0026】
[適用例11]上記適用例にかかる情報入力装置において、情報入力領域設定部を更に備え、情報入力領域設定部は、情報入力媒体表面を予め複数の情報入力領域に分割して設定し、情報認識部は複数の情報入力領域毎に入力情報を認識することを特徴とする。
【0027】
本適用例によれば、温度分布画像は、予め複数の情報入力領域に分割しておくことができるため、情報の入力をより効率的に行うことができる。具体的には、情報入力の開始・終了指示領域や、入力情報記述領域、様々な制御メニュー選択領域など、入力される情報のカテゴリー別に領域を分けておくなどすることで、より効率的な情報入力が可能となる。
【0028】
[適用例12]上記適用例にかかる情報入力装置において、情報抽出部は、温度分布画像から生体部を認識し、生体部領域の温度分布画像から温度変化の軌跡情報を抽出することを特徴とする。
【0029】
本適用例によれば、生体部領域の温度分布画像から抽出した温度変化部位情報に基づいて入力情報を認識するため、ユーザーの手の平や腕などを活用して情報を入力することが可能となる。従って、ユーザーの生活環境において、ユーザーに拘束感を与えずに、いつでもどこでも使用が可能な情報入力装置を提供することができる。
【0030】
[適用例13]上記適用例にかかる情報入力装置において、遠赤外線カメラが焦電型赤外線カメラであることを特徴とする。
【0031】
本適用例によれば、遠赤外線カメラが焦電型赤外線カメラであることから、温度分布画像は、温度変化が検出された部位で構成される画像となる。そのため、情報入力を目的として温度変化させた部位の画像情報をより効率的にとらえることができる。
【0032】
[適用例14]本適用例にかかる情報入力方法は、遠赤外線カメラによって情報入力媒体表面の温度分布画像を撮像する撮像ステップと、温度分布画像から情報入力媒体表面の温度変化の軌跡情報を抽出する情報抽出ステップと、温度変化の軌跡情報に基づいて入力情報を認識する情報認識ステップと、を含むことを特徴とする。
【0033】
本適用例によれば、温度分布画像から情報入力媒体表面の温度変化の軌跡情報を抽出し、情報入力媒体表面の温度変化の軌跡情報に基づいて入力情報を認識するため、何らかの媒体の表面温度を、入力したい情報に対応した部位や画像で変化させることにより情報の入力をすることができる。従って、キーボードやマウス、データグローブおよびその周辺機器などを携帯する必要がなく、ユーザーに拘束感を与えずに使用が可能な情報入力装置を提供することができる。また、入力する情報は、何らかの媒体の表面温度を変えることにより記録する方法であるため、可視光での認識ができない。そのため、ユーザー以外の認識が困難であり、情報セキュリティー上の効果もある。また、遠赤外線カメラにより読みとることができるため、暗所においての情報入力も可能である。
【0034】
[適用例15]上記適用例にかかる情報入力方法において、情報抽出ステップは、複数の温度分布画像の時系列から、温度変化の軌跡情報を抽出するステップを含むことを特徴とする。
【0035】
本適用例によれば、複数の温度分布画像の時系列から、温度変化の軌跡情報を抽出するため、情報入力の時系列に従った温度変化の軌跡を入力情報として捉えることができる。その結果、連続する軌跡情報としてより確実に情報の抽出を行うことができる。
【0036】
[適用例16]上記適用例にかかる情報入力方法において、情報抽出ステップは、温度分布画像から温度変化部位情報を抽出し、複数の温度変化部位情報の時系列から、温度変化の軌跡情報を抽出するステップを含むことを特徴とする。
【0037】
本適用例によれば、温度分布画像から抽出した温度変化部位情報の時系列から、温度変化の軌跡情報を抽出する。情報入力による温度変化部位の情報が抽出され、その時系列の情報から温度変化の軌跡を入力情報として捉えるため、連続する入力情報の軌跡情報としてより確実に情報の抽出を行うことができる。
【0038】
[適用例17]上記適用例にかかる情報入力方法において、情報抽出ステップは、温度分布画像を構成する画素の内、所定範囲の温度変化プロファイルで変化する画素を抽出することにより、温度変化の軌跡情報を抽出するステップを含むことを特徴とする。
【0039】
本適用例によれば、温度分布画像を構成する画素の内、所定範囲の温度変化プロファイルで変化する画素を抽出することにより、温度変化の軌跡情報を抽出する。つまり、所定の温度変化プロファイルを示す画素を抽出することで、情報入力による温度変化が捉えられたと想定される有効な画素が抽出される。その結果、より確実に軌跡情報の抽出を行うことができる。
【0040】
[適用例18]上記適用例にかかる情報入力方法において、情報認識ステップは、温度変化の軌跡情報から、線情報として入力された情報を抽出し、統合することで入力情報として認識するステップを含むことを特徴とする。
【0041】
本適用例によれば、温度変化の軌跡情報から、線情報として入力された情報を抽出し、統合することで入力情報として認識するため、線情報と認識できない情報が排除される。その結果、入力情報とは異なると想定される面情報や点情報が排除され、有効な情報が入力情報として抽出されるため、より確実に情報の抽出を行うことができる。
【0042】
[適用例19]上記適用例にかかる情報入力方法において、温度変化の軌跡情報または入力情報を報知部で報知する報知ステップを更に含むことを特徴とする。
【0043】
本適用例によれば、温度変化部位情報または入力情報が報知されるため、ユーザーは、情報を入力しながら、その入力状況や認識状況を確認することができる。そのため、より確実に情報入力が可能となる。
【0044】
[適用例20]上記適用例にかかる情報入力方法において、報知ステップは、温度変化の軌跡情報または入力情報を表示部に表示する表示ステップを含むことを特徴とする。
【0045】
本適用例によれば、温度変化部位情報または入力情報が表示されるため、ユーザーは、情報を入力しながら、その入力状況や認識状況を確認することができる。そのため、より確実に情報入力が可能となる。
【0046】
[適用例21]上記適用例にかかる情報入力方法において、表示部が頭部装着ディスプレイであることを特徴とする。
【0047】
本適用例によれば、上記適用例の表示部が頭部装着ディスプレイ(HMD)であることから、携帯性に優れ、ユーザーに拘束感を与えずに、いつでもどこでも情報の入力をすることができる。
【0048】
[適用例22]上記適用例にかかる情報入力方法において、温度変化の軌跡情報または入力情報を所定の情報処理装置に伝送する伝送ステップを更に含むことを特徴とする。
【0049】
本適用例によれば、温度変化部位情報または入力情報を所定の情報処理装置に伝送するため、所定の情報処理装置に対して必要な操作情報の入力を行うことができる。
【0050】
[適用例23]上記適用例にかかる情報入力方法において、情報認識ステップで認識する入力情報には、少なくとも、文字、数字、記号、図形、絵のいずれかが含まれることを特徴とする。
【0051】
本適用例によれば、画像形態で入力が行えるため、認識する入力情報には、文字、数字、記号、図形、絵などが含まれる。そのため、キーボードなどのように、入力する情報がキーボードに割り当てられた情報に限られることがなく、様々な情報の入力を行うことができる。
【0052】
[適用例24]上記適用例にかかる情報入力方法において、温度分布画像を予め複数の情報入力領域に分割する情報入力領域定義ステップを更に含み、情報認識ステップは、複数の情報入力領域毎の情報認識ステップを含むことを特徴とする。
【0053】
本適用例によれば、温度分布画像は、予め複数の情報入力領域に分割しておくことができるため、情報の入力をより効率的に行うことができる。具体的には、情報入力の開始・終了指示領域や、入力情報記述領域、様々な制御メニュー選択領域など、入力される情報のカテゴリー別に領域を分けておくなどすることで、より効率的な情報入力が可能となる。
【0054】
[適用例25]上記適用例にかかる情報入力方法において、情報抽出ステップは、温度分布画像から生体部を認識し、生体部領域の温度分布画像から温度変化の軌跡情報を抽出するステップであることを特徴とする。
【0055】
本適用例によれば、生体部領域の温度分布画像から抽出した温度変化部位情報に基づいて入力情報を認識するため、ユーザーの手の平や腕などを活用して情報を入力することが可能となる。従って、ユーザーの生活環境において、ユーザーに拘束感を与えずに、いつでもどこでも使用が可能な情報入力装置を提供することができる。
【0056】
[適用例26]上記適用例にかかる情報入力方法において、生体部領域の温度分布画像は、生体部表面を棒状体の先端で押圧しながら棒状体を生体部表面で移動させることにより発生する温度分布情報を含み、棒状体の先端は、0.1mm<曲率半径R<2mmの曲面を有していることを特徴とする。
【0057】
本適用例によれば、0.1mm<曲率半径R<2mmの曲面を有している棒状体の先端で押圧し移動させることで、生体部表面に刺激を与えるため、生体部表面の刺激部分により明確な温度差を生じさせることが可能となる。ユーザーの手の平や腕などを活用してより確実に情報を入力することが可能となるため、ユーザーの生活環境において、ユーザーに拘束感を与えずに、いつでもどこでも使用が可能な情報入力装置を提供することができる。
【0058】
[適用例27]上記適用例にかかる情報入力方法において、遠赤外線カメラが焦電型赤外線カメラであることを特徴とする。
【0059】
本適用例によれば、遠赤外線カメラが焦電型赤外線カメラであることから、温度分布画像は、温度変化が検出された部位で構成される画像となる。そのため、情報入力を目的として温度変化させた部位の画像情報をより効率的にとらえることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】(a)実施形態1に係る情報入力装置の構成を示すブロック図、(b)該情報入力装置を用いた頭部装着装置を示す斜視図。
【図2】(a)、(b)、(c)手の平を用いた情報入力の方法を説明する概略図。
【図3】(a)遠赤外線カメラ10が捉えられた手の平71の温度分布画像を示す概略図、(b)入力用のペンを示す概略図。
【図4】(a)〜(d)温度分布画像および初期の温度分布画像との差異を抽出した画像を示す説明図。
【図5】(a)、(b)、(c)温度プロファイル抽出法の説明図。
【図6】情報入力領域の例を示す概略図。
【図7】情報入力の手順を説明するフローチャート。
【図8】情報入力方法の変形例1を説明する概略図。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下に本発明を具体化した実施形態について、図面を参照して説明する。以下は、本発明の一実施形態であって、本発明を限定するものではない。なお、以下の各図においては、説明を分かりやすくするため、実際とは異なる尺度で記載している場合がある。
【0062】
(実施形態1)
1.情報入力装置の構成
まず、実施形態1に係る情報入力装置の構成について説明する。
図1(a)は、実施形態1に係る情報入力装置100の構成を示すブロック図である。
情報入力装置100は、遠赤外線で捉えられた画像から抽出した情報を、情報入力装置100に接続される所定の情報処理装置50に、その入力情報として伝達する情報入力装置であり、遠赤外線カメラ10、画像処理部20、報知部30、情報送信部40などから構成されている。
【0063】
遠赤外線カメラ10は、撮像光学系のレンズ11、撮像素子12、ADC(Analog to Digital Converter)回路13、レンズ駆動用のモーター14、CPU(Central Processing Unit)15、記憶部16、慣性センサー17などから構成されている。
レンズ11は、モーター14によってズーミングやフォーカシングを行い、撮像素子12に光学的に接続される。撮像素子12は、遠赤外線画像センサーであり、レンズ11を透過し撮像素子12の受光面に入射した遠赤外線像を検出する。撮像素子12が検出した被写体の遠赤外像は、ADC回路13によって遠赤外像に対応する画像信号に変換され、被写体の温度分布画像として画像処理部20に伝達される。
【0064】
CPU15は、遠赤外線カメラ10の制御を含め、情報入力装置100の全体を統括制御する。CPU15は、記憶部16にロードされたプログラム18によって動作する。また、CPU15には、慣性センサー17が接続されている。
慣性センサー17は、撮像光学系の光軸に交差する平面における遠赤外線カメラ10の振れベクトル(撮像におけるカメラの振れ方向および振れ量)を検出する。慣性センサー17には、加速度センサーや角速度センサーなどを用いている。
【0065】
画像処理部20は、情報抽出部21、情報認識部22などを備え、ADC回路13によって生成された被写体の温度分布画像から、必要な情報を抽出し統合することで入力情報として認識する。情報の認識は、予め備える比較パターン24との比較によるパターン認識によって行う。比較パターン24には、入力情報として認識すべき文字、数字、記号、図形などがあり、それぞれ記憶部16に備えている。これら情報認識のための温度分布画像の処理については後述する。
また、画像処理部20では、慣性センサー17が検出した振れベクトルに応じて処理画像のずれや揺れを補正する。
【0066】
報知部30には、表示部31および音声出力部32などを備えている。表示部31は、CPU15の制御に従い、認識された入力情報や画像処理部20が捉えた画像などを表示する。音声出力部32は、CPU15の制御に従い、認識された入力情報や画像処理部20が捉えた画像に基づく音声などを出力する。
【0067】
情報送信部40は、CPU15の制御に従い、画像処理部20が受信した温度変化部位情報や画像処理部20で認識された入力情報を、情報送信部40に接続された所定の情報処理装置50に伝送する。情報送信部40と情報処理装置50との接続および伝送の方式は特に限定するものではないが、ユーザーに拘束感を与えないためには、無線接続されることが好ましい。
【0068】
図1(b)は、情報入力装置100を用いた頭部装着装置200を示す斜視図である。
頭部装着装置200は、通常の眼鏡60に情報入力装置100を取り付けた例である。
遠赤外線カメラ10(レンズ11)は、ユーザーの視野を捉え、視野内における遠赤外像によって情報の入力を可能としている。また表示部31は、投射透過型HMD(head mounted display)であり、ユーザーの視野内に情報を表示する。
【0069】
2.遠赤外像による情報の入力の概要
次に、遠赤外像による情報の入力方法の概要を説明する。
図2(a)、(b)、(c)は、一例として、手の平を用いた情報入力の方法を説明する概略図である。ここでは、情報入力装置100(頭部装着装置200)を用い、生体部表面としてユーザーの手の平に入力画像を描いて、その情報を入力情報として認識処理する方法を説明する。
【0070】
図2(a)に示すように、一方の手の平71に他方の手の指先72(爪先)を押圧したまま移動させると、手の平71の移動軌跡部分(爪による刺激部分)の温度が上昇する。
図2(b)は、押圧部分の断面図および、押圧後の温度分布のイメージを示すグラフである。図に示すように、応力が集中するように爪先で押圧し、痛みを感じない程度の押圧のまま移動させると、手の平71表面の移動軌跡部分に温度の上昇が見られる。この温度上昇の度合いは、生体部表面に与える刺激の度合いによって異なることが知られており、好ましくは、曲率半径R<2mm、より好ましくは、曲率半径R<1mm、更に好ましくは曲率半径R<0.5mmの曲面を有している棒状体の先端で痛みを感じない程度の圧力で押圧し移動させる。
【0071】
この移動軌跡部分の温度上昇は、遠赤外線カメラ10によって捉えることができる。
図2(c)は、情報入力装置100によって捉えた移動軌跡部分を示す画像である。図2(c)において、移動軌跡部分は、遠赤外線カメラ10の視野90内に、温度変化部位情報80として捉えられている。具体的には、上記の刺激を与える前の手の平71の温度分布画像と、刺激を与えた後の温度分布画像との差分を捉えていくことで鮮明に入力情報(温度変化部位情報80)として捉えることができる。また、移動軌跡部分の温度は、一旦上昇した後に徐々に元の温度に下降するため、特定の時間単位で持続する温度変化部位を記憶しておき、それらを連続させることで、入力した軌跡の画像として捉えることができる。
【0072】
遠赤外像による情報の入力は、具体的には、温度分布画像の取得、温度変化部位の抽出、温度変化の軌跡情報の抽出、有効情報の抽出、情報の統合、不要情報の排除、情報の認識、情報の報知、表示などのステップの組み合わせとなる。
以下に主なステップの詳細について説明する。
【0073】
3.遠赤外像から入力情報を抽出する方法
まず、画像処理部20における具体的な情報抽出の方法について説明する。
以下に示す情報抽出の処理は、画像処理部20における情報抽出部21(図1)の機能として実施される。入力情報の抽出は、温度分布画像から温度変化の軌跡情報を抽出することにより行う。この方法には様々な方法があり、例えば、初期温度比較抽出法や、温度変化部抽出法、特定温度抽出法、温度プロファイル抽出法などがある。
【0074】
初期温度比較抽出法は、初期温度分布画像と、情報を入力しながら撮像される温度分布画像との差分情報を次々と抽出し取り込む方法である。図3(a)、(b)、図4(a)〜(d)を参照して説明する。
図3(a)は、遠赤外線カメラ10が捉えられた手の平71の温度分布画像を示す概略図である。(b)は、入力用のペン73を示す概略図である。
図4(a)〜(d)は、ペン73の動きと温度分布画像、および初期の温度分布画像との差異を抽出した画像を示す説明図である。
ペン73は、指(爪)に代わり手の平71に情報を入力する樹脂により成形された棒状体であり、棒状体の先端は、曲率半径R=約0.5mmの曲面を有している。
【0075】
まず、図3(a)に示すように、遠赤外線カメラ10によって捉えられた手の平71の温度分布画像が画像処理部20(図1)に伝達される。視野90には、手の平71の温度分布を示すB部、および手の平の外周の温度分布を示すA部による画像が得られる。
【0076】
次に、前述した方法により手の平71にペン73により情報を記述する。手の平71には、図4(a)左図に示すように、ペン73の移動軌跡に沿って温度の上昇したC部が確認される。
次に、温度変化部位情報を抽出し、記述された情報部分を抽出する。具体的には、図4(a)に示す温度分布画像と、図3(a)に示す初期の温度分布画像との差分を抽出する。その結果、図4(a)右図に示すように、手の平71の形状に沿った画像はキャンセルされ、C部およびペン73に対応する部分(c1およびd1)のみが温度変化部位情報として取得される。
【0077】
図4(b)、(c)は、引き続きペン73による記述を続けた場合の温度分布画像、および初期の温度分布画像との差異を抽出した画像を示す説明図である。
遠赤外線カメラ10による撮像は、所定の時間単位で連続的に行われ、複数の温度分布画像が取得される。図4(a)、(b)、(c)は、その一部を抜粋している。
一旦温度の上昇したC部は、時間の経過と共に徐々に温度を下げ、初期値との差異が減少する。その結果、それぞれの右図に示すようにC部およびペン73に対応する部分(c2、c3およびd2、d3)が温度変化部位情報として取得される。
【0078】
取得された温度変化部位情報は、実際にペン73で入力した情報として認識できるようにするため、有効情報の抽出や情報の統合処理を行う。具体的には、ペン73に対応する部分の情報(d1〜d3)は、入力情報とは無関係であるため、無効情報としてキャンセルし、有効情報(c1〜c3)のみを統合する。c1〜c3の情報を足し合わせた画像情報ctがペン73で入力した情報として抽出される。
無効情報をキャンセル(排除)する有効情報の抽出処理の方法や、有効情報の統合処理については後述する。
【0079】
次に、温度変化部抽出法について説明する。
温度変化部抽出法は、情報を入力しながら次々と撮像される複数の温度分布画像の前後の画像を比較しながら、その差分情報を抽出し取り込む方法である。具体的には、例えば、図4(a)、(b)、(c)それぞれの左図において、(b)と(a)との差異、(c)と(b)との差異情報を抽出する。ペン73に対応する部分の情報(d1〜d3)は、無効情報としてキャンセルして、得られた差異情報を統合することで、画像情報ctと略同様の画像情報がペン73で入力した情報として抽出される。
【0080】
次に、特定温度抽出法について説明する。
特定温度抽出法は、情報を入力しながら撮像される温度分布画像の特定の温度範囲に分布する部分の情報を次々と抽出し取り込む方法である。例えば、温度分布画像には、図4(a)左図に示すように、視野90には、手の平71の外周の温度分布を示すA部、手の平71の温度分布を示すB部、ペン73の移動軌跡に沿って温度の上昇したC部、およびペン73の温度を示す部分による画像が得られる。この温度分布の中で、ペン73の移動軌跡に沿って温度の上昇したC部が効果的に抽出される温度範囲を予め求めておき、次々と撮像される温度分布画像からその温度範囲に該当する部分のみを抽出し統合することで、入力した情報が抽出される。
【0081】
次に、温度プロファイル抽出法について説明する。
図5(a)〜(c)は、温度分布画像を構成する各画素に注目した温度プロファイル抽出法を説明する図であり、(a)は、温度分布画像を画素に分解したイメージ図、(b)は、特徴的な画素の温度プロファイルを示すグラフ、(c)は、画素を抽出した結果、入力した情報として得られる画像である。
温度プロファイル抽出法は、情報を入力している間に所定範囲の温度変化プロファイルで変化した画素を有効画素として抽出する方法である。
図5(b)において、プロファイルAtは、手の平71の外周の温度分布を示すA部に対応する画素の温度変化プロファイルの例、プロファイルBtは、手の平71の温度分布を示すB部に対応する画素の温度変化プロファイルの例、プロファイル73tは、ペン73の温度を感知した画素の温度変化プロファイルの例、プロファイルCtは、ペン73の移動軌跡に沿って温度が上昇したC部に対応する画素の温度変化プロファイルの例である。
【0082】
プロファイルAtは、手の平71の外周の温度分布であるため、略一定であり、また手の平71の温度より低くなっている。
プロファイルBtは、温度変化の見られない手の平71の温度分布であるため、略一定であり、またプロファイルAtが示す温度より高くなっている。なお、手の平71の表面は温度の低い空気と接触しているため、体温(体内や血液の温度)よりも低い温度となっている。
プロファイル73tは、手の平71の上部をペン73が通過し、手の平71より低めの温度を示すペン73の温度を検知して瞬間的に低い温度を示している。
プロファイルCtは、ペン73の移動軌跡C部に対応する画素の温度分布である。まず、ペン73の先端部の通過に伴って瞬間的に温度が下がり、その後、再び手の平71の温度が観測される。ペン73による押圧に伴って一旦血行が阻害され、しかるのちに血流が増加,回復、することで、手の平71の温度は体温付近まで上昇する。手の平71の温度はしばらくの時間その温度を保っているが、空気によって冷やされてゆっくりと元の温度に戻る。
【0083】
上記のように、特徴的な各部分に対応する画素の温度プロファイルは、大きく異なった特性を示している。従って、画素の温度プロファイルを比較評価することで、入力情報に係る画素の識別を容易に行うことができる。例えば、プロファイルCtのように一定の時間高温が維持されるプロファイルを持つ画素、他の画素より高温を感知した画素、初期値に比較して高温を感知した画素、初期温度との差の累積量が大きな画素などを抽出することで、入力情報に係る画素を抽出することができる。図5(c)は、抽出した画素によって得られる画像である。
【0084】
なお、入力情報の抽出は、上記の方法に限定するものではなく、例えば、撮像素子12に焦電型赤外イメージセンサーを用いて温度変化部位の画像を撮像し、変化温度に対する閾値を設定することで、所定以上の温度変化があった部位の画像を抽出する方法を取るなどしても良い。
【0085】
4.有効情報の抽出方法
次に、上述した方法で得られた画像から有効情報を抽出し、無効情報をキャンセルする方法について説明する。
認識したい入力情報以外の無効情報とは、誤って、あるいは予期せずに抽出された温度変化部位情報により温度変化の軌跡として捉えられた情報である。例えば、手の平71の揺れや指が動いてしまったことによる温度分布画像の変化、情報を入力するための他方の手の指先72やペン73の動きによる温度分布画像の変化、遠赤外線カメラ10のブレによる温度分布画像の変化、遠赤外線カメラ10の撮像素子12に発生するノイズなどによるものが考えられる。
【0086】
これらの内、遠赤外線カメラ10のブレによるものは、前述したように、遠赤外線カメラ10に備える慣性センサー17を用いたブレ補正で、その発生が抑えられる。また、手の平71の揺れや指が動いてしまったことによる温度分布画像の変化は、極端に動いた場合を除き、初期の温度分布画像において認識した手の平71の外形々状パターンと、その後の温度分布画像における手の平71の外形々状パターンとのマッチング評価による画像の合わせこみを行なうことによりその発生が抑えられる。
【0087】
情報を入力するための他方の手の指先72やペン73の動きによる温度分布画像の変化については、例えば以下の方法により無効情報として排除することができる。
図4(a)〜(c)の各右図に示すように、有効情報(c1〜c3)と無効情報(d1〜d3)とは明らかにその形状が異なる。具体的には、入力する情報は、c1〜c3のようにペン73の先の押圧によって発生する線情報であるのに対して、他方の手の指先72やペン73の動きによる情報は、d1〜d3のような面情報、あるいはd1〜d3が重なった面情報になる。従って、例えば、視野90の幅に対して、所定の寸法を決め(例えば幅の20分の1とする)、その所定の寸法を上回る幅の情報(面情報)を無効情報としてキャンセルし、所定の寸法以下の幅の情報(線情報)を有効情報として抽出するなどの方法によって取捨選択することができる。
【0088】
あるいは、ペン73の形状を予め認識しておき、ペン73のペン先に注目して、ペン先の動きに近接した部分の温度変化情報のみを抽出するなどの方法であっても良い。
また、その他の方法として、特定の時間以内に移動してしまう温度変化部位の情報はキャンセルする、特定の温度範囲の情報(例えば体温より低い棒状体の温度の情報)はキャンセルする、棒状体の温度の情報に接して温度変化が発生した部分の情報のみ検出するなどの方法であっても良い。
【0089】
なお、無効情報のキャンセルは、以下に記述する入力情報認識の段階でも行うことができる。具体的には、一旦有効情報として抽出され統合処理した後の情報に対して、明らかに他の線情報とかけ離れた太さ(太すぎる線、細すぎる線)の線情報を除去する、長さが所定値以下の線情報は除去するなどの方法である。
【0090】
5.入力情報を認識する方法
次に、抽出された情報の具体的な認識方法について説明する。以下に示す情報認識の処理は、画像処理部20における情報認識部22(図1)の機能として実施される。
情報認識部22は、情報抽出部21によって抽出された温度変化部位情報や温度変化の軌跡情報を統合して意味を持つ文字、数字、記号、図形、絵を形成する機能と、形成された文字、数字、記号、図形、絵を入力情報として認識する機能とを持つ。
【0091】
一般的に、ペン入力した文字などの認識では、文字として入力が完了した画像を対象に認識処理を行うため、画像統合の処理を行う必要は無い。それに対し、本実施形態による方法では、時間と共に変化する温度変化部位を捉えて文字などの認識を行っているため、入力の開始から完了までの間の温度変化部位を重畳して認識する必要がある。そのため、情報認識部22では、情報抽出部21によって抽出された温度変化部位情報や温度変化の軌跡情報を重ね合わせる処理を行っている。具体的には、所定の時間単位で連続的に取得される複数の温度変化部位情報フレームを重ね合わせる処理を行っている。つまり、情報認識部22は、入力開始から完了までの間の情報抽出部21による温度変化部位情報を、画素毎に積分値情報として持つ統合処理を行っている。この統合処理により、一般的にペン入力された文字と略同等の情報として持つことが可能となる。
【0092】
次に、統合処理によって形成された文字、数字、記号、図形、絵などを入力情報として認識する。この認識方法には、様々なOCR(Optical Character Recognition/Reader)技術を活用することができる。本実施形態では、予め備える比較パターン24との比較によるパターン認識によって行っている。パターン認識に当たっては、正規化、特徴抽出などを行い、その比較によって最も近似する情報を特定し入力情報として認識している。
【0093】
なお、入力情報の認識を情報認識部22で行うことなく、情報抽出部21によって抽出された温度変化部位情報を、そのまま情報送信部40に接続された所定の情報処理装置50に伝送する方法を取っても良い。その場合、入力情報の認識は、温度変化部位情報を受信した情報処理装置50で行う。
【0094】
6.実施例
次に、上記の方法を用いた、より効率的に情報を入力する方法を実施例に従って説明する。
情報の入力は、上記のように、手の平などに軌跡として単一の情報を入力するだけではなく、予め(情報入力領域定義ステップとして)、遠赤外線カメラ10の視野90内に複数の情報入力領域を定義しておくことで、より効率的に情報の入力を行うことができる。以下、情報入力領域定義ステップについて具体的に説明する。
【0095】
図6は、情報入力領域の例を示す概略図である。
図6に示すように、視野90に対応する温度分布画像空間に、予め複数の情報入力領域を区分しておく。具体的には、ユーザーの手の平71を広げた画像に対して、手の平および各指の位置に対応する情報入力領域91〜96を区分しておく。この領域の区分は、画像処理部20(図1(a))に更に設けた情報入力領域設定部(図示省略)において行い、図6に示すように、破線で囲んだ領域として表示部31に表示され、ユーザーはこれらの領域を認識することができる。また、遠赤外線カメラ10が各指の形状を認識することで、各指に割り当てられた領域は、各指の位置に合わせて移動し、指の開き方にはある程度の自由度を持たせることができる。
【0096】
次に、情報入力領域91〜96のそれぞれに、情報の意味づけを行う。情報の意味づけとは、それぞれの情報入力領域に入力される情報の属性を定義することであり、具体的には、例えば、各指の位置に当たる情報入力領域92〜96はメニュー選択領域A〜Eとして定義し、情報入力領域91は、記述情報入力領域として定義する。
例えば、図6は、記述情報入力領域には温度変化部位情報80aによって文字「あ」が入力され、メニュー選択領域C(情報入力領域94)には、温度変化部位情報80bによってスクラッチ「ー」が入力され、ニュー選択領域Cが選択されている状態を示している。
【0097】
情報入力領域92〜96を選択肢として活用した場合には、様々なメニューとして用いることが可能で、例えば、情報入力領域91への“入力開始”、“入力終了”のメニュー釦として、あるいは、情報入力領域91に入力する情報の種類選択(文字、記号、図形など)のメニュー釦などとして活用することができる。
【0098】
本実施例では、一例として、情報入力領域92〜96を以下に示すように設定している。それぞれの領域にスクラッチ「ー」を入力すると、設定した機能が有効となる。
情報入力領域92・・・情報の種類選択;情報入力領域93〜96がメニュー選択領域となり、情報入力領域93〜96のそれぞれに順に対応した文字、記号、図形、絵の選択が可能となる。
情報入力領域93・・・記述開始;情報の種類を選択した後に、情報入力領域91に対して記述を開始する。
情報入力領域94・・・記述終了;情報入力領域91に対して記述を行った後に、情報入力領域91に対して記述を終了する。
情報入力領域95・・・やりなおし;情報入力領域91に入力中の情報をクリアする。
情報入力領域96・・・リセット・スタート・転送;情報入力領域91に何も入力されていない場合は、情報入力装置100を初期状態にセットする。また、情報入力領域91に何らかの情報が記録されている場合には、それまでに入力した情報列を情報処理装置50に伝送する。
【0099】
7.情報入力のフロー
図7は、情報入力の手順を説明するフローチャートである。
次に、図7のフローチャートおよび図1を参照して、情報入力の手順および情報入力装置100の動作を説明する。ユーザーの指示に対応した情報入力装置100の動作は、予めCPU15が動作するプログラムとして設定されている。
【0100】
<ステップS1>
まず、ユーザーは、情報入力装置100および接続される情報処理装置50を起動する。情報入力装置100は、遠赤外線カメラ10を起動し、撮像を開始する。
<ステップS2>
次にユーザーは、遠赤外線カメラ10の視野内に手の平71をかざす。遠赤外線カメラ10は、視野にユーザーの手の平71を捉える。手の平71が認識されると、初期状態として手の平71の温度分布画像が取得され、表示部31には、ユーザーの手の平の輪郭および情報入力領域91〜96のそれぞれに何も入力されていない画面(図6において、温度変化部位情報80a、80bの無い状態)が表示され、初期設定が完了する。
<ステップS3>
次にユーザーは、入力する情報の種類を選択するために情報入力領域92にスクラッチ「ー」を入れる。具体的には、情報入力領域92に対応する指に爪先などによりスクラッチによる刺激を与える。このスクラッチ「ー」の検出は、文字や記号として認識する必要は無く、情報抽出部21でスクラッチ「ー」による温度変化の軌跡を検出するのみで良い。
スクラッチ「ー」が検出されると、情報入力領域93〜96は、それぞれ、文字、記号、図形、絵の選択領域となる。ユーザーは、所望の情報種類の情報入力領域にスクラッチ「ー」を入れ選択する。この選択により、後述する情報認識ステップにおいて入力情報として認識すべき文字、数字、記号、図形などの比較パターン24が選択される。
<ステップS4>
次にユーザーは、情報入力領域93にスクラッチ「ー」を入れる。このタイミングにおける初期状態の情報入力領域91の温度分布画像は、以降取得される温度分布画像との差分による温度変化を抽出するためのベースデータとなる。
情報入力領域93にスクラッチ「ー」が検出されると、遠赤外線カメラ10は、温度分布画像の取得(撮像ステップ)を開始する。また、情報認識部22は、情報入力領域91を対象に、情報抽出部21によって抽出された温度変化部位情報の統合を開始する。
<ステップS5>
次にユーザーは、情報入力領域91に入力情報の記述を行う。表示部31には、統合されている温度変化部位情報が随時表示される(表示ステップ)。
<ステップS6>
次にユーザーは、表示部31を確認しながら、入力情報の記述が良好に行われているか否かを確認する。
<ステップS7>
ステップS6で記述のやり直しが必要と判断した場合に、ユーザーは、情報入力領域95にスクラッチ「ー」を入れる。
<ステップS8>
スクラッチ「ー」が認識されると、情報入力領域91に対して統合処理していた情報をクリアし、ステップS5から処理をやり直す。
<ステップS9>
ステップS6で記述が良好に終了したと判断した場合に、ユーザーは、情報入力領域94にスクラッチ「ー」を入れる。
<ステップS10>
スクラッチ「ー」が認識されると、情報認識部22は、情報抽出部21によって抽出された温度変化部位情報の統合を終了し、比較パターン24と照合して入力情報の認識を行う(情報認識ステップ)。認識された入力情報は、一旦、画像処理部20に保管され、情報入力領域91に対して統合処理していた情報をクリアする。ここで、必要により認識された入力情報(照合により特定された比較パターン24)を確認のために表示部31に表示させても良い。
<ステップS11>
次にユーザーは、このまま記述を継続するか(入力を完了するか否か)を判断する。記述を一旦終了し、保管した入力情報を情報処理装置50に伝送する場合には、情報入力領域96にスクラッチ「ー」を入れる。継続する場合には、ステップS5に戻り記述を継続する。
<ステップS12>
情報入力領域96にスクラッチ「ー」が認識されると、画像処理部20に保管されていた入力情報を、情報送信部40を通じて、情報処理装置50に送信する(伝送ステップ)。
<ステップS13>
次にユーザーは、新たに記述を開始するか判断する。終了する場合には、情報入力領域91に何も記述されていない状態で情報入力領域96にスクラッチ「ー」を入れる。スクラッチ「ー」が認識されると、情報入力装置100は初期状態に戻り、処理を終了する。新たに記述を開始する場合には、ステップS5に戻り記述を継続する。
【0101】
以上述べたように、本実施形態による情報入力装置100、および情報入力方法によれば、以下の効果を得ることができる。
遠赤外線カメラ10が捉えた温度分布画像から温度変化部位情報を抽出し、温度変化部位情報を統合して入力情報として認識するため、何らかの媒体の表面温度を、入力したい情報に対応した部位や画像で変化させることにより情報の入力をすることができる。従って、キーボードやマウス、データグローブおよびその周辺機器などを携帯する必要がなく、ユーザーに拘束感を与えずに使用が可能な情報入力装置を提供することができる。また、入力する情報は、何らかの媒体の表面温度を変えることにより記録する方法であるため、可視光での認識はできない。そのため、ユーザー以外の認識は困難であり、情報セキュリティー上の効果もある。また、遠赤外線カメラにより読みとることができるため、暗所においての情報入力も可能である。
【0102】
また、生体部表面が刺激されたことにより生ずる生体部表面の温度変化を基に、温度変化部位情報を抽出し、統合して入力情報として認識することができるため、ユーザーの手の平や腕などを活用して情報を入力することが可能となる。従って、ユーザーの生活環境において、ユーザーに拘束感を与えずに、いつでもどこでも使用が可能な情報入力装置を提供することができる。
【0103】
また、ユーザーは、表示部31の表示を見ることで、情報を入力しながら、その入力状況や認識状況を確認することができる。そのため、より確実に情報入力が可能となり、ストレスの少ないヒューマンインターフェースとしての情報入力装置を提供することができる。
【0104】
また、表示部31が頭部装着ディスプレイであることから、携帯性に優れ、ユーザーに拘束感を与えずに、いつでもどこでも使用が可能な情報入力装置を提供することができる。
【0105】
また、情報送信部40は、温度変化部位情報または前記入力情報を所定の情報処理装置50に伝送するため、所定の情報処理装置50に対して必要な操作情報の入力を行うことができる。
【0106】
また、画像形態で入力が行えるため、認識する入力情報には、文字、数字、記号、図形、絵などが含まれる。そのため、キーボードなどのように、入力する情報がキーボードに割り当てられた情報に限られることがなく、様々な情報の入力を行うことができる。
【0107】
また、温度分布画像は、予め複数の情報入力領域に分割しておくことができるため、情報の入力をより効率的に行うことができる。具体的には、情報入力の開始・終了指示領域や、入力情報記述領域、様々な制御メニュー選択領域など、入力される情報のカテゴリー別に領域を分けておくなどすることで、より効率的な情報入力が可能となる。
【0108】
また、撮像素子12に焦電型赤外線センサーを用いた場合には、温度分布画像は、温度変化が検出された部位で構成される画像となるため、情報入力を目的として温度変化させた部位の画像情報をより効率的にとらえることができる。
【0109】
また、0.1mm<曲率半径R<2mmの曲面を有している棒状体の先端で押圧し移動させることで、生体部表面に刺激を与えるため、生体部表面の刺激部分により明確な温度差を生じさせることが可能となり、より確実に情報の入力が可能となる。
【0110】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、上述した実施形態に種々の変更や改良などを加えることが可能である。変形例を以下に述べる。ここで、実施形態1と同一の構成部位については、同一の符号を使用し、重複する説明は省略している。
【0111】
(変形例1)
実施形態1では、生体部表面を活用して情報入力を行う方法を前提として説明したが、情報の入力媒体は、これに限定するものではない。例えば、温度の軌跡を描く方法として、机やボードなどの物体を活用しても良い。つまり、机やボードなどに指を当て、指の熱をそれらの物体に転写しながらその軌跡を撮像するなどの方法であっても良い。あるいは、指からの熱の転写に限らず、摩擦熱を利用する方法であっても良い。具体的には、机やボードなどを擦りながら摩擦熱を発生させてその摩擦熱による軌跡を撮像する方法である。
【0112】
図8は、上記の方法を取る場合の表示部31に表示される視野90を示している。
図8において、情報入力領域91〜96は、実施形態1のように手の平を対象としていないので、視野90内に整然と設定されている。ユーザーは、この情報入力領域91〜96を見ながら、机やボードなどの対象位置に熱の転写や摩擦熱による軌跡を描くことで情報を入力する。
この方法によると、両手を使用する必要が無いため、より簡便に情報の入力を行うことができる。
【符号の説明】
【0113】
10…遠赤外線カメラ、11…レンズ、12…撮像素子、13…ADC回路、14…モーター、15…CPU、16…記憶部、17…慣性センサー、20…画像処理部、21…情報抽出部、22…情報認識部、30…報知部、31…表示部、40…情報送信部、50…情報処理装置、60…通常の眼鏡、71…手の平、72…他方の手の指先、73…ペン、80,80a,80b…温度変化部位情報、90…視野、91〜96…情報入力領域、100…情報入力装置、200…頭部装着装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報入力媒体表面の温度分布画像を撮像する遠赤外線カメラと、
前記温度分布画像から前記情報入力媒体表面の温度変化の軌跡情報を抽出する情報抽出部と、
前記温度変化の軌跡情報に基づいて入力情報を認識する情報認識部と、を備えたことを特徴とする情報入力装置。
【請求項2】
前記情報抽出部は、
複数の前記温度分布画像の時系列から、前記温度変化の軌跡情報を抽出することを特徴とする請求項1に記載の情報入力装置。
【請求項3】
前記情報抽出部は、
前記温度分布画像から温度変化部位情報を抽出し、
複数の前記温度変化部位情報の時系列から、前記温度変化の軌跡情報を抽出することを特徴とする請求項1に記載の情報入力装置。
【請求項4】
前記情報抽出部は、
前記温度分布画像を構成する画素の内、所定範囲の温度変化プロファイルで変化する画素を抽出することにより、前記温度変化の軌跡情報を抽出することを特徴とする請求項1に記載の情報入力装置。
【請求項5】
前記情報認識部は、前記温度変化の軌跡情報から、線情報を抽出し、統合することで入力情報として認識することを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の情報入力装置。
【請求項6】
報知部を更に備え、
前記報知部は、前記温度変化の軌跡情報または前記入力情報を報知することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の情報入力装置。
【請求項7】
前記報知部は表示部を含み、
前記表示部は、前記温度変化の軌跡情報または前記入力情報を表示することを特徴とする請求項6に記載の情報入力装置。
【請求項8】
前記表示部が頭部装着ディスプレイであることを特徴とする請求項7に記載の情報入力装置。
【請求項9】
情報送信部を更に備え、
前記情報送信部は、前記温度変化の軌跡情報または前記入力情報を所定の情報処理装置に伝送することを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の情報入力装置。
【請求項10】
前記情報認識部が認識する前記入力情報には、少なくとも、文字、数字、記号、図形、絵のいずれかが含まれることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の情報入力装置。
【請求項11】
情報入力領域設定部を更に備え、
前記情報入力領域設定部は前記情報入力媒体表面を予め複数の情報入力領域に分割して設定し、前記情報認識部は前記複数の情報入力領域毎に入力情報を認識することを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の情報入力装置。
【請求項12】
前記情報抽出部は、温度分布画像から生体部を認識し、前記生体部領域の温度分布画像から前記温度変化の軌跡情報を抽出することを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか一項に記載の情報入力装置。
【請求項13】
前記遠赤外線カメラが焦電型赤外線カメラであることを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれか一項に記載の情報入力装置。
【請求項14】
遠赤外線カメラによって情報入力媒体表面の温度分布画像を撮像する撮像ステップと、
前記温度分布画像から前記情報入力媒体表面の温度変化の軌跡情報を抽出する情報抽出ステップと、
前記温度変化の軌跡情報に基づいて入力情報を認識する情報認識ステップと、を含むことを特徴とする情報入力方法。
【請求項15】
前記情報抽出ステップは、
複数の前記温度分布画像の時系列から、前記温度変化の軌跡情報を抽出するステップを含むことを特徴とする請求項14に記載の情報入力方法。
【請求項16】
前記情報抽出ステップは、
前記温度分布画像から温度変化部位情報を抽出し、
複数の前記温度変化部位情報の時系列から、前記温度変化の軌跡情報を抽出するステップを含むことを特徴とする請求項14に記載の情報入力方法。
【請求項17】
前記情報抽出ステップは、
前記温度分布画像を構成する画素の内、所定範囲の温度変化プロファイルで変化する画素を抽出することにより、前記温度変化の軌跡情報を抽出するステップを含むことを特徴とする請求項14に記載の情報入力方法。
【請求項18】
前記情報認識ステップは、前記温度変化の軌跡情報から、線情報として入力された情報を抽出し、統合することで入力情報として認識するステップを含むことを特徴とする、請求項14ないし請求項17のいずれか一項に記載の情報入力方法。
【請求項19】
前記温度変化の軌跡情報または前記入力情報を報知部で報知する報知ステップを更に含むことを特徴とする請求項14ないし請求項18のいずれか一項に記載の情報入力方法。
【請求項20】
前記報知ステップは、前記温度変化の軌跡情報または前記入力情報を表示部に表示する表示ステップを含むことを特徴とする請求項19に記載の情報入力方法。
【請求項21】
前記表示部が頭部装着ディスプレイであることを特徴とする請求項20に記載の情報入力方法。
【請求項22】
前記温度変化の軌跡情報または前記入力情報を所定の情報処理装置に伝送する伝送ステップを更に含むことを特徴とする請求項14ないし請求項21のいずれか一項に記載の情報入力方法。
【請求項23】
前記情報認識ステップで認識する前記入力情報には、少なくとも、文字、数字、記号、図形、絵のいずれかが含まれることを特徴とする請求項14ないし請求項22のいずれか一項に記載の情報入力方法。
【請求項24】
前記温度分布画像を予め複数の情報入力領域に分割する情報入力領域定義ステップを更に含み、前記情報認識ステップは、前記複数の情報入力領域毎の情報認識ステップを含むことを特徴とする請求項14ないし請求項23のいずれか一項に記載の情報入力方法。
【請求項25】
前記情報抽出ステップは、前記温度分布画像から生体部を認識し、前記生体部領域の前記温度分布画像から前記温度変化の軌跡情報を抽出するステップであることを特徴とする請求項14ないし請求項24のいずれか一項に記載の情報入力方法。
【請求項26】
前記生体部領域の温度分布画像は、前記生体部表面を棒状体の先端で押圧しながら前記棒状体を前記生体部表面で移動させることにより発生する温度分布情報を含み、
前記棒状体の先端は、0.1mm<曲率半径R<2mmの曲面を有していることを特徴とする請求項25に記載の情報入力方法。
【請求項27】
前記遠赤外線カメラが焦電型赤外線カメラであることを特徴とする請求項14ないし請求項26のいずれか一項に記載の情報入力方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−73434(P2013−73434A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212175(P2011−212175)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】