説明

情報入力装置

【課題】 もの作りをしている感覚で、繊細に、しかも簡単にパソコン等に情報(例えば、三次元情報)を入力できる情報入力装置を提供する。
【解決手段】 基本構造物をゲル状物質(自己保形性があり変形可能であってかつ復元性を有する物質)で構成し、基本構造物の面に加えられた圧力と、その圧力が作用する点および時間を感知可能な感知手段を設ける。基本構造物を手で掴んで変形させると、その変形に伴う圧迫圧力の作用点が検出される。したがって、その検出情報を、例えば、三次元グラフィックに利用することにより、同グラフィック処理に必要な情報の入力作業を簡素化でき、効率の改善とケアレスミスの回避を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、情報入力装置に係り、詳しくはゲル状物質を主な素材として、パーソナルコンピュータ(以下、単にパソコンという)等に三次元情報を入力することができ、しかも、もの作りをしている感覚で、人体に近い弾力性で、かつ肌へのなじみを保ちながら、簡単に情報を入力できる情報入力装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、パソコンやワークステーション等の主な入力装置としては、キーボードが使用され、補助入力装置としてポインティングデバイスが使用されている。ポインティングデバイスは、主に画面に表示されるカーソル(ポインタ)の座標指定を行うために用いられ、大きく分けると、タッチスクリーンやタブレットなど絶対座標検出型と、マウスやトラックボールなどの相対座標検出型に区分される。
【0003】絶対座標検出型は、ディスプレイ上の表示に対応する領域を外部に設け、その領域を指定することにより画面上の絶対座標を入力する装置であり、入力操作はタッチスクリーンでは画面上に設けられる透明電極に触れることによって行い、タブレットでは板状の入力装置をペン状のものでタッチすることによって行う。一方、相対座標検出型は、それ自体の平面移動に対応させた移動距離および方向(すなわち、単位時間当たりの移動ベクトル)をパルス情報としてパソコンに入力し、これに対応させてディスプレイに表示されるカーソルを移動させて、座標を指定するというものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来の情報入力装置にあっては、以下のような問題点があった。
(イ)コンピュータグラフックスで使用される三次元形状を生成するための入力装置に用いた場合、きわめて大量の座標情報を手作業で入力しなければならず、タッチ数の増加やマウスの複雑な動きを招き、手間がかかって面倒である。
(ロ)そのため、データ入力作業を軽減して、例えば粘土細工や積み木などのように、もの作りをしている感覚で入力者の操作を行わせたいという要求があるが、従来は、その要求に十分に応えるものではなかった。
(ハ)一方、ネットワーク環境でデータグローブを付けた協同作業者が同一の仮想設計物を加工する方法(例えば、ネットワーク対応仮想現実実感システム)もあるが、感触などの手がかりがないため、細かな作業ができず、実用的ではなかった。
【0005】そこで本発明は、もの作りをしている感覚で、繊細に、しかも簡単にパソコン等に情報(例えば、三次元情報)を入力できる情報入力装置を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1記載の情報入力装置は、基本構造物を所定のゲル状物質で構成し、該ゲル状物質は、自己保形性があり、変形可能であってかつ復元性を有し、該基本構造物の面に加えられた圧力と、その圧力が作用する点および時間を感知可能な感知手段を設け、該感知手段は、基本構造物の面に加えられた圧力の分布を三次元的に検出し、感知手段の出力を、操作者の入力情報として外部に取り出すことを特徴とする。また、好ましい態様として、例えば請求項1に従属する請求項2記載のように、前記ゲル状物質は、シリコンを主体とする素材を含み、人体に近い弾力性を有し、肌へのなじみがあって、素材の架橋状態又は分子構造を変えて形成することにより、任意の形状およびやわらかさの調整が可能な特性を備えているようにしてもよい。例えば請求項1に従属する請求項3記載のように、前記情報入力装置を、コンピュータの入力装置として使用するようにしてもよい。
【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態をパソコンの入力装置に適用した例として図面を参照して説明する。
A.情報入力装置の外観構成図1は本発明に係る情報入力装置の実施の形態の外観構成を示す図である。図1において、1は情報入力装置である。情報入力装置1は、基台2の上に基本構造物3を取り付けて構成されており、基本構造物3は、片手で把持可能な適当な形状(図では円柱状であるがこれに限らない。あるいは、何らかの意匠性を持たせた形状であってもよい)を有するとともに、且つ、ゼラチンの如き軟らかな弾性特性を有する素材からできており、力を込めて把持(圧迫)すると、その手の形状に従って自在に変形するようになっている。ここで、基本構造物3の好ましい素材は、シリコン等を主成分としたものであり、特に、ゲル状物質の特性を兼ね備えたものである。ゲル状物質は、以下の説明からも明らかになるが、自己保形性があり、変形可能であってかつ復元性を有するうえ、ゴムなどの弾性体にない独特の触感(人肌に似た触感)を持つ物質であるから、かかる用途に最適である。
【0008】ゲル(gel)とは、コロイド粒子あるいは高分子が三次元的に結合して巨視的な大きさの網目状の構造をした物質(あるいはその形態)のことをいう。網目の間にいろいろな大きさの低分子を取り込むことができ、液体を含むものをヒドロゲル、有機溶媒を含むものをオルガノゲル、気体を含むものをエアロゲルという。ゲルは、網目構造が形を保つための支持体になっており、剛性率をもつ点で液体と異なるが、多くのゲルは網目が柔らかく、網目の隙間に液体を含むので液体と固体の中間の性質をもつ。網目をつくる結合は、化学結合のような強い結合から、ファンデルワールス力のような弱い結合まで様々で、結合が微結晶できている場合もある。ヒドロゲルあるいはオルガノゲルにおいて、ゲルをつくる結合が物理的な弱い相互作用による場合には、かくはんや温度、イオン強度などの外部環境の変化で容易に結合が切れ、ゲルがゾルに変わる(ゾル・ゲル転移)。化学結合でつくられた網目は安定で、外部環境を変えると、ゲルのままであるが、不連続な体積変化を起こす場合もある(ゲルの相転移)。最も身近なヒドロゲルは、デザートのゼリー(ゼラチン)で、その他、卵白、寒天、こんにゃく、目の角膜や水晶体など生体物質が多い。シリカゲルは網目が硬いため固体状で、空隙に気体、液体、有機溶媒等を取り込むことができる。
【0009】図2は、基本構造物3の内部構造を示す図であり、基本構造物3の内部には、複数の円形プレート4a、4b、4c、・・・・(すべての円形プレートを指す場合符号4で表す)が積み重ねられている。なお、図では各円形プレート4a、4b、4c、・・・・を密着状態で積層しているが、間隔を空けて積層してもよい。図3は、円形プレート4の外観図である。円形プレート4は、厚さD、直径Lの円形部材5の外周面に等間隔に開けられた空気穴6〜9と、それぞれの空気孔6〜9に連通する圧力室10〜13とから構成されており、各圧力室10〜13の内部には、図4に示すように、室内圧の変化をストレンゲージ(歪み抵抗)の抵抗変化で捉え、これを電気信号V1〜V4に変換して外部に出力する半導体圧力センサ(例えば、拡散型半導体圧力センサ)14〜17が設けられている。
【0010】図4において、図示の都合上、図面下側の空気孔6のみを基本構造物3で覆っているが、実際には、他の空気孔7〜9も同様に基本構造物3で覆われている。今、基本構造物3を力Pで圧迫したと仮定する。圧迫の方向は、図面下側の空気孔6の方向である。この圧迫により、基本構造物3の内部を圧力波(弾性波)が伝わり、空気孔6を介して圧力室10の内圧を変化させる。したがって、当該圧力室10の内部に設けられた半導体圧力センサ14の出力電圧V3が変化し、この変化は、力Pに対応することになる。
【0011】ここで、他の半導体圧力センサ15〜17の出力電圧V1、V2、V4の変化をゼロとすると、円形プレート4の平面上における圧力Pの作用点は、図面下側の半導体圧力センサ14の位置とみなすことができ、又は、図面上側の半導体圧力センサ16の出力電圧V1も同程度に変化したとすると、そのときの作用点は、図面上下の二つの半導体圧力センサ14、16の間のほぼ中間点、すなわち、円形プレートの略中心点の位置とみなすことができるから、要するに、円形プレート4の四つの出力電圧V1〜V4に基づいて、円形プレート4の平面上における圧力Pの作用点の座標を特定できる。さらに、本実施の形態では、円形プレート4を多数枚積層しているため、各円形プレート4a、4b、4c、・・・・のそれぞれの出力電圧V1〜V4に基づいて、基本構造物3の軸方向における作用点の位置も特定できる。
【0012】B.情報入力装置1を含むシステムの構成例図5において、20は上記の情報入力装置1を用いたセンサ(以下、ゲルセンサと呼ぶことにする)、21はキーボード、22はマウス、23はCD−ROMドライブ、24はハードディスク、25は音声出力装置、26はディスプレイ装置、27は制御部である。ここで、制御部27は、ハードディスク24やCD−ROM23aに格納された任意のアプリケーションプログラムを実行するコンピュータであり、特に限定しないが、少なくともアプリケーションプログラムの一つはコンピュータグラフックスプログラムで、特に、大量の入力情報を必要とする三次元グラフィック用のプログラムである。なお、ディスプレイ装置26はアプリケーションプログラムの処理結果等をグラフィカルに表示するもの、音声出力装置25は警告音や合成音声でアプリケーションプログラムの処理結果等を出力するものである。
【0013】一般に二次元グラフィックは二つの座標軸(x軸,y軸)上で表すことのできる単純な平面図形を取り扱うが、三次元グラフィックは更にz軸も含めた複雑な立体図形を扱うため、その形状モデルも、ワイヤーフレーム、サーフェイス及びソリッドなどと多岐にわたり、必要とする入力情報もきわめて膨大になる。したがって、キーボード21やマウス22だけで三次元グラフィックを行おうとすると、情報の入力作業が大変で効率が悪いばかりか、ケアレスミスも避けられないという不都合がある。そこで、本実施の形態では、キーボード21やマウス22だけでなく、ゲルマウス20も使って制御部27への情報入力を行うことにより、特に、三次元グラフィックの入力作業を軽減し、且つ、ケアレスミスの回避を図るようにしている。
【0014】図6は、三次元グラフィックプログラムの概略的な要部フローチャートである。フローを開始すると、まず、使用する形状モデルの選定等、必要な初期設定を行い(S10)、次に、キーボード21やマウス22などのゲルマウス20以外の入力装置からの情報を受付け(S20)、その情報に応じた所要の処理を実行した後、ゲルマウス20からの情報を受け付ける(S30)。ゲルマウス20からの情報は、既述のとおり、円形プレート4の出力信号V1〜V4である。そして、この円形プレート4は、第1枚目の円形プレート4a、第2枚目の円形プレート4b、第3枚目の円形プレート4c・・・・と順次に積層(図2参照)されているから、結局、ゲルマウス20からの情報は、四つの出力信号V1〜V4を1組にしてこれをn倍(nはプレートの枚数)した信号で構成されていることになる。
【0015】ゲルマウス20からの情報を受け付けると(S30)、次に、ゲルマウス20の形状(図1の基本構造物3の形状)を立体的に把握するため、ゲルマウス20の表面に加えられた圧力の作用点を三次元座標上で特定し、その座標情報に基づいて、選定済みの形状モデルを使い三次元画像を生成する(S40)。そして、その画像をディスプレイ装置26に表示し(S50)、キーボード21やマウス22からの情報に基づく所要の処理を行った後(S60)、さらに画像生成を継続するか否かを判定し(S70)、継続の場合はステップS20以降を繰り返す一方、継続でない場合は当該画像の生成処理を一旦終了(S80)した後、再びステップS20以降を繰り返すという流れになる。
【0016】以上、説明のとおり、上記実施の形態の情報入力装置1をゲルマウス20と称して入力装置の一つに加えた図5、図6のシステムによれば、キーボード21やマウス22などの通常の入力装置だけのシステムに比べて、膨大な量の情報入力を一瞬に且つケアレスミスを招かずに行うことができるという格別の効果が得られる。これは、上記実施の形態の情報入力装置1(ゲルマウス20)を把持して、その形状を変形させると、変形に伴う圧迫の強弱が内部の半導体圧力センサ14〜17で検知され、その力の作用点が三次元座標上で立体的に把握されるからであり、この検知情報を利用することにより、例えば、図7(a)〜(c)に示すように、圧迫を加えないときの三次元グラフィック図形30(図では便宜的に円柱図形)、小さ目の圧迫力P1を加えたときの同変形図形31、大き目の圧迫力P2を加えたときの同変形図形32を一瞬にして描き出すことができる。ちなみに、これらと同様の図形をキーボード21やマウス22だけで描き出すには、まず、立体図形を構成する各面を作り、次に、それらの面を結合して立体図形にするという手順を踏む必要があり、座標指定や線分指定を何度も繰り返さなければならないうえ、図形の一部が変形する度にこれらの手順を再度行う必要があるから、たった一度の把持動作だけで済む本実施の形態のシステムは、明白な優位性を持っていることを容易に理解できる。
【0017】なお、以上の例では、情報入力装置1(ゲルマウス20)から取り出される情報を、半導体圧力センサ14〜17の出力電圧V1〜V4そのものとしているが、これに限らず、V1〜V4をアンプで増幅して取り出してもよいし、さらに、ディジタル信号に変換して取り出してもよい。また、以上の例では、情報入力装置1(ゲルマウス20)の変形に伴う圧迫圧力の作用点の把握を、コンピュータ(図5の制御部27)で行うようにしているが、コストアップを許容できるのであれば、情報入力装置1の内部にその把握機能を組み込んでも構わない。
【0018】
【発明の効果】本発明によれば、基本構造物を手で掴んで変形させると、その変形に伴う圧迫圧力の作用点が三次元座標上で立体的に検出される。したがって、その検出情報を、例えば、三次元グラフィックに利用することにより、同グラフィック処理に必要な情報の入力作業を簡素化でき、効率の改善とケアレスミスの回避を図ることができるという格別な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】情報入力装置の外観図である。
【図2】情報入力装置の内部構造図である。
【図3】円形プレートの外観図である。
【図4】円形プレートの断面図である。
【図5】情報入力装置(ゲルセンサ)を含むシステム図である。
【図6】図5のシステムのフローチャートである。
【図7】図5のシステムの画像生成図である。
【符号の説明】
3 基本構造物
14〜17 半導体圧力センサ(感知手段)
27 制御部(コンピュータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基本構造物を所定のゲル状物質で構成し、該ゲル状物質は、自己保形性があり、変形可能であってかつ復元性を有し、該基本構造物の面に加えられた圧力と、その圧力が作用する点および時間を感知可能な感知手段を設け、該感知手段は、基本構造物の面に加えられた圧力の分布を三次元的に検出し、感知手段の出力を、操作者の入力情報として外部に取り出すことを特徴とする情報入力装置。
【請求項2】 前記ゲル状物質は、シリコンを主体とする素材を含み、人体に近い弾力性を有し、肌へのなじみがあって、素材の架橋状態又は分子構造を変えて形成することにより、任意の形状およびやわらかさの調整が可能な特性を備えていることを特徴とする請求項1記載の情報入力装置。
【請求項3】 前記情報入力装置を、コンピュータの入力装置として使用することを特徴とする請求項1記載の情報入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2002−32173(P2002−32173A)
【公開日】平成14年1月31日(2002.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−213207(P2000−213207)
【出願日】平成12年7月13日(2000.7.13)
【出願人】(000231350)ジヤトコ・トランステクノロジー株式会社 (899)
【Fターム(参考)】