説明

意識低下判定装置

【課題】 スタビリティーファクターを同定することなく過大操舵状態を精度よく判定して、運転者の不注意状態を精度よく判定することを可能とした意識低下判定装置を提供する。
【解決手段】 車両情報として車速V、ヨーレートφ、道路情報としてカーブ曲率ρを取得し(ステップS1)、カーブ走行に必要なヨーレートφr=Vρを算出し(ステップS2)、実ヨーレートφからこの必要旋回ヨーレートφrを差し引いたφ−φrを相対化ヨーレートφnとして求める(ステップS3)。この相対化ヨーレートφnに基づいて修正過大度を判定し(ステップS4)、その絶対値がしきい値を超える場合に、意識低下状態とみて警報を出力する(ステップS5)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転者の意識低下状態を判定する意識低下判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の運転者の意識低下状態を判定する技術として、特許文献1に開示されている技術が知られている。この技術は、車両の運転者の運転操作状態に基づいてその運転者の不注意状態(意識低下状態)を検出するものである。具体的には、ハンドル操作が行われていない無操舵状態から所定以上の操舵角及び/または操舵速度をもってハンドル操作が行われた場合に、運転者が不注意状態にあると判定すると記載されている。つまり、無操舵状態から過大な操舵が行われたことに基づいて運転者の不注意状態を判定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−542935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術は、基本的に直進時における判定に基づいており、旋回時等にそのまま拡張することはできない。旋回時に拡張する場合、旋回時に必要とされる舵角との差異を用いることが考えられるが、この必要舵角を求めるには、車両固有の運動特性値であるスタビリティーファクターを用いる必要がある。このスタビリティーファクターは、車両によって異なり、さらに同一の車両でも経年変化や積載状態の違いによって変化する。このため、過大操舵状態を精度よく判定するには、スタビリティーファクターを精度よく同定する必要があるが、それは困難である。
【0005】
そこで本発明は、スタビリティーファクターを同定することなく過大操舵状態を精度よく判定して、運転者の不注意状態を精度よく判定することを可能とした意識低下判定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る意識低下判定装置は、車両の運転者が意識低下状態であるか否かを判定する意識低下判定装置において、(1)車両が走行している道路のカーブ情報を取得する道路情報取得手段と、(2)車両の速度情報、ヨーレートを取得する車両情報取得手段と、(3)取得した速度情報、カーブ情報に基づいて車両が道路に沿って走行するのに必要なヨーレートを算出し、これを検出したヨーレートから差し引いて相対化ヨーレートを算出する相対化ヨーレート演算部と、(4)算出した相対化ヨーレートが大きい場合に、運転者が意識低下状態にあると判定する判定部とを備えていることを特徴とする。
【0007】
操舵によって車両が旋回しているときの実測ヨーレートから、道路に沿って走行する際に必要なヨーレートを差し引いた相対化ヨーレートを算出して、この相対化ヨーレートに基づいて過大操舵状態か否かの判定を行う。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、相対化ヨーレートによって過大操舵状態か否かを判定することで、スタビリティーファクターを同定することなく、精度よく過大操舵状態か否かの判定を行うことができる。このため、積載状態やタイヤの状態などによらずに精度よく判定が行える。これにより、運転者の意識低下状態の判定も精度よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る意識低下判定装置の実施形態を示すブロック構成図である。
【図2】図1の装置の判定動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の参照番号を附し、重複する説明は省略する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る意識低下判定装置100の概要を示すブロック構成図である。この意識低下判定装置100は、車両に搭載され、車両の運転者の意識が低下しているか否かを運転者の操舵状態に基づいて判定する装置である。
【0012】
この意識低下判定装置100は、制御部となるECU(Electronic Control Unit)1を中心に構成され、前方検知部2、車速センサ3、ヨーレートセンサ4、警報部5を備えている。
【0013】
前方検知部2は、車両前方の道路情報(例えば、カーブ情報)を取得する道路情報取得手段として機能する。例えば、車両の前方を撮像するカメラと画像処理装置により構成される。画像処理装置は、カメラで取得した撮像画像ないし撮像映像から走行路の白線検知を行う。前方検知部2は、検出した白線情報をECU1へと出力する。画像処理装置は、後述するECU1内の道路情報取得部11内に統合されていてもよい。
【0014】
車速センサ3、ヨーレートセンサ4は、車両の走行情報を取得する車両情報取得手段として機能する。車速センサ3としては、例えば車輪速センサが用いられる。ヨーレートセンサ4としては、ジャイロセンサ等を用いることができる。これらのセンサの出力は、ECU1へと入力される。
【0015】
警報部5は、車両の運転者に警報を与える警報手段であって、ECU1から出力される警報制御信号に応じて作動する。この警報部5としては、運転者の聴覚、視覚、触覚等の五感を通じて運転者に警報を与えるものが用いられる。例えば、スピーカ、ブザー、ナビゲーションシステムのモニタ、ディスプレイ、ランプ、LED、ハンドル又はシートに設置される振動装置などが用いられる。これらのいずれか一つを用いてもよいし、複数の警報手段を備えていてもよい。
【0016】
ECU1は、意識低下判定装置100の装置全体の制御を行う電子制御ユニットであり、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random AccessMemory)を含むコンピュータを主体とし、入力信号回路、出力信号回路、電源回路を含んで構成される。ECU1は、後述する各部をそれぞれ別々のハードウェアとして備えていてもよいが、共通のハードウェアを用い、ソフトウェア的に実現していてもよい。
【0017】
このECU1は、道路情報取得部11、車両情報取得部12、相対化ヨーレート演算部13、修正過大度判定部14、警報制御部15を備えている。
【0018】
道路情報取得部11は、前方検知部2で取得した走行路(走行レーン)の白線情報に基づいて走行レーンの幅、曲率、走行レーンに対する自車両の向きや、走行レーン内の自車両の位置等を把握する。前方検知部2内でこれらの情報を取得し、道路情報取得部11に送信する形態であってもよい。また、前述したように白線認識自体を道路情報取得部11で行うようにしてもよい。
【0019】
車両情報取得部12は、車速センサ3、ヨーレートセンサ4の出力に基づいて車速Vとヨーレートφを算出する。
【0020】
相対化ヨーレート演算部13は、取得した道路情報、車両情報に基づいて相対化ヨーレートを算出する。この相対化ヨーレートφrは、ヨーレートセンサ4で検出した車両に作用するヨーレートφから走行路に沿った走行に必要なヨーレートφnを差し引いた値(φ−φn)であり、φnは、車速をV、走行路のカーブ曲率をρとすると、Vρで表せる。
【0021】
修正過大度判定部14は、求めた相対化ヨーレートφrに基づいて、運転者による操舵の走行路に沿った走行に必要な操舵からのずれ(修正過大度)が大きいか否かを判定するものであり、意識低下の判定部として機能する。
【0022】
警報制御部15は、運転者が意識低下状態である場合に警報部5に対し警告制御信号を出力制御するものであって、警告制御手段として機能するものである。
【0023】
次に、本実施形態に係る意識低下判定装置100の動作について説明する。
【0024】
図2は、意識低下判定装置100の動作を示すフローチャートである。このフローチャートに示される一連の制御処理は、車両の電源がオンになっている間、例えばECU1によって予め設定された周期(例えば100ms)で繰り返し実行される。
【0025】
最初のステップS1では、道路情報取得部11、車両情報取得部12が、前方検知部2、車速センサ3、ヨーレートセンサ4からそれぞれの出力を読み込み、車両情報、道路情報を取得する。ここでは、車両情報として車速V、ヨーレートφ、道路情報としてカーブ情報である道路曲率ρを取得している。
【0026】
続いてステップS2では、相対化ヨーレート演算部13により、必要旋回ヨーレートφnが算出される。この必要旋回ヨーレートφnは前述したように、φn=Vρとして求めることができる。
【0027】
相対化ヨーレート演算部13は、続くステップS3において、相対化ヨーレートφrを求める。この相対化ヨーレートφrは前述したように、φr=φ−φnとして求めることができる。
【0028】
次のステップS4では、修正過大度判定部14が、φrの絶対値が、予め設定されているしきい値に比べて大きいか否かを判定する。φrの絶対値が予め設定されたしきい値以下の場合は、操舵によって発生するヨーレートと走行路に沿った走行に必要なヨーレートとの乖離が小さいことを意味している。この場合は、運転者が走行路に沿った走行を維持している、つまり、運転者が注意しており、覚醒度の高い状態にあって意識低下状態にないと判定し、その後の処理をスキップして処理を終了する。
【0029】
一方、φrの絶対値が、予め設定されているしきい値を超えている場合には、操舵によって発生するヨーレートと走行路に沿った走行に必要なヨーレートとの乖離が大きいことを意味している。この場合は、運転者が走行路に沿った走行から逸脱しようとしているかすでに逸脱状態にあるか、または、走行路から逸脱することを回避するための修正操舵を運転者が入力したことを意味する。つまり、運転者の注意状態が低い不注意状態にあり、意識低下状態にあると判定し、ステップS5へと移行して警報処理が行われる。
【0030】
そして、ステップS5では、警報制御部15が、警報部5に対し警報制御信号を出力する。この警報処理により、警報部5が運転者に対し警報動作、例えば音声もしくは警報音を発したり、モニタもしくはディスプレイに警報表示を行ったり、ハンドルもしくはシートに警報振動を与えたりする。これにより、運転者は意識低下状態から覚醒状態となることが期待される。
【0031】
以上のように、本実施形態に係る意識低下判定装置によれば、相対化ヨーレートに基づいて運転者の操舵のずれが過大であるか否かを評価することで、車両固有の運動特性値であるスタビリティーファクターを用いることなく運転者の操舵のずれを評価する修正過大度を判定することができる。スタビリティーファクターの同定が不要であり、これに影響を及ぼすタイヤ・サスペンションの左右差、経年劣化、積載条件の変化、部品によるばらつき等の影響を受けることがなく、修正過大度を精度よく判定することができる。これにより、修正過大度に基づいた意識低下状態の判定も精度よく行うことができる。
【0032】
なお、上述した実施形態は本発明に係る意識低下判定装置の実施形態を説明したものであり、本発明に係る意識低下判定装置は本実施形態に記載したものに限定されるものではない。本発明に係る意識低下判定装置は、本発明の要旨を変更することなく実施形態に係る意識低下判定装置を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0033】
例えば、図2のステップS2とS3の演算を一括して行ってもよく、ステップS4の判定処理中で行うことも可能である。また、走行路の曲率は、地図情報や、路車間通信等によって取得してもよい。
【符号の説明】
【0034】
1…ECU、2…前方検知部、3…車速センサ、4…ヨーレートセンサ、5…警報部、11…道路情報取得部、12…車両情報取得部、13…相対化ヨーレート演算部、14…修正過大度判定部、15…警報制御部、100…意識低下判定装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転者が意識低下状態であるか否かを判定する意識低下判定装置において、
車両が走行している道路のカーブ情報を取得する道路情報取得手段と、
車両の速度情報、ヨーレートを取得する車両情報取得手段と
取得した速度情報、カーブ情報に基づいて車両が道路に沿って走行するのに必要なヨーレートを算出し、これを検出したヨーレートから差し引いて相対化ヨーレートを算出する相対化ヨーレート演算部と、
算出した相対化ヨーレートが大きい場合に、運転者が意識低下状態にあると判定する判定部とを備えていることを特徴とする意識低下判定装置。


【図1】
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【図2】
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