説明

感光性平版印刷版の製版処理廃液のリサイクル方法

【課題】設備のメンテナンス性に優れ、長時間連続的に製版処理した場合でも析出物の発生が抑制され、排出される製版処理廃液の量が少ない平版印刷版の製版処理廃液のリサイクル方法を提供する
【解決手段】自動現像機から排出される製版処理廃液を、蒸発釜と冷却手段とを備える廃液濃縮装置により容量比で1/5〜1/8量となるように蒸発濃縮すること、製版処理廃液より蒸発濃縮された際に分離された水蒸気を冷却手段で凝縮して再生水とすること、再生水を自動現像機における希釈水及びリンス水の少なくとも一方として供給すること、及び、自動現像機に供給する現像補充液として、現像浴中での現像液の標準活性度を満たす条件に適合するように、少なくとも前記再生水を用いて、標準濃度より1.2倍から2倍に希釈した現像補充液を標準供給量の1.3倍〜2倍量補充すること、を含む感光性平版印刷版の製版処理廃液のリサイクル方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は感光性平版印刷版の製版処理廃液のリサイクル方法に関し、特にポジ型感光性平版印刷版をアルカリ性現像液で製版処理した際の廃液のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポジ型感光性平版印刷版の画像記録層には感光成分であるo−キノンジアジド化合物の結合剤(バインダー)としてクレゾールノボラック樹脂が用いられてきた。そのため現像液としては、クレゾールノボラック樹脂を溶解可能なpH13前後の強アルカリ性の珪酸塩を用いることが一般的であった。
【0003】
感光性平版印刷版原版は、画像露光後に、自動現像機で連続的に現像、製版処理されることが一般的であり、自動現像機で製版する場合は、処理や経時で失われる成分の濃度やpHを一定に保ち、現像液の性能を維持するために現像補充液を各工程の現像液に供給する手段が採られている。このような補充を行っても、現像液の性能が許容限度外になるような場合には、現像液の全てが製版処理廃液として廃棄処分される。製版処理廃液はアルカリ性が強いためにそのままでは一般排水として排出することができないために、排水前になんらかの処理が必要であり、製版業者が自ら公害処理設備を設置するか、廃液処理業者に処理を委託する等の廃液処理は、例えば、廃液処理業者に委託する方法は廃液の貯蔵に多大なスペースが必要となり、またコスト的にもきわめて高価である。また、廃液処理設備は初期投資が極めて大きく、整備するのにかなり広大な場所を必要とする等の問題を有している。
【0004】
このような問題に対して、廃液貯蔵タンクに温風を吹き込んで廃液を濃縮して処理廃液量を減少させる方法(例えば、特許文献1参照。)や、処理廃液を中和し、凝集剤を添加して凝集成分を凝集させて廃棄物を無害化し、量を減少させる技術(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。
特許文献1の技術では、温風処理では蒸発量が多くないので、現像廃液を濃縮するのに長い時間とエネルギーとを必要とする。そのため廃液量減少の効率が低く、その効果も充分ではない。また、蒸発した水分の処理について検討されていない。
特許文献2の技術では、凝集剤を必要とするため廃液の処理にコストがかかるという問題があった。また、ポリマーを含有する現像廃液の場合、蒸発釜内に残った固形物が飴状となって蒸発釜の壁面に付着し、汚れやすく、また廃液処理装置の配管が詰まり易い等の問題があった。
【0005】
また、現像廃液の排出量を削減することができ、現像廃液の処理過程で生じる水を容易に再利用できる平版印刷版現像廃液削減装置が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。一方、ポジ型の平版印刷版の現像処理廃液の問題に対しては、平版印刷版の現像液処方の観点から、非還元糖、および塩基を含む現像液を用いた平版印刷版を処理する際における効率的な廃液減少手段を有する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
また、自動現像機中の現像処理液においては、処理を重ねるとともに現像除去された平版印刷版の画像記録層に由来する種々の化合物の濃度が上昇し、自動現像機の現像浴内に析出して装置を汚染したり、製版された平版印刷版に付着して汚れを引き起したり、といった問題を生じる懸念もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−341535号公報
【特許文献2】特開平2−157084号公報
【特許文献3】特許第4774124号公報
【特許文献4】特開2011−90282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、平版印刷版の製版処理廃液の処理方法については、種々の検討がなされているが、リサイクルの観点からはなお改良の余地があるといえる。
上記課題を考慮した本発明は、設備のメンテナンス性に優れ、長時間連続的に製版処理した場合においても、析出物の発生が抑制され、且つ、排出される製版処理廃液の量が極めて少ない感光性平版印刷版の製版処理廃液のリサイクル方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
<1> 自動現像機において、感光性平版印刷版用現像液を用いて感光性平版印刷版の製版処理を行った際に排出される製版処理廃液を、廃液濃縮装置で蒸発濃縮し水蒸気と溶解成分とに分離することを含む製版処理廃液のリサイクル方法であって、前記自動現像機から排出される前記製版処理廃液を、蒸発釜と冷却手段とを備える廃液濃縮装置における蒸発釜中で加熱手段により加熱して容量基準で1/5〜1/8量となるように蒸発濃縮すること、前記製版処理廃液より蒸発濃縮された際に分離された前記水蒸気を前記蒸発釜より導出し、冷却手段中で凝縮して再生水とすること、前記再生水を前記自動現像機における希釈水及びリンス水の少なくとも一方として前記自動現像機に供給すること、及び、前記自動現像機に供給する現像補充液として、現像浴中での現像液の標準活性度を満たす条件に適合するように、少なくとも前記希釈水を用いて、標準濃度より1.2倍から2倍に希釈した現像補充液を標準供給量の1.3倍〜2倍量補充すること、を含む感光性平版印刷版の製版処理廃液のリサイクル方法。
本実施形態によれば、現像浴内における平版印刷版原版の画像記録層成分に由来する析出物の発生が抑制され、設備のメンテナンス性に優れ、且つ、製版処理廃液の量が著しく低減される。
【0009】
<2> 前記前記自動現像機に供給する希釈された現像補充液とともに、リンス水を標準供給量の1.5倍〜5倍量供給する<1>に記載の感光性平版印刷版の製版処理廃液の処理方法。
本実施形態によれば、現像浴内における平版印刷版原版の画像記録層成分に由来する析出物の発生抑制効果が向上する。
<3> 前記自動現像機に用いられる現像液が、緩衝作用を有する有機化合物と塩基とを主成分とし、二酸化ケイ素を含有しないアルカリ現像液である<1>又は<2>に記載の感光性平版印刷版の製版処理廃液の処理方法。
本実施形態によれば、廃液が珪酸塩を含まないため蒸発釜内部や加熱手段の表面に廃液の濃縮物が付着しにくくなり、廃液濃縮装置内の設備のメンテナンス性がより向上する。
<4> 前記自動現像機に用いられる、標準濃度より1.2倍から2倍に希釈した現像補充液のpHが12.5〜13.5の範囲である<1>〜<3>のいずれか1項に記載の感光性平版印刷版の製版処理廃液のリサイクル方法。
本実施形態によれば、長期間現像処理した場合における現像性が良好に維持され、現像浴内における平版印刷版原版の画像記録層成分に由来する析出物の発生抑制効果が向上する。
【0010】
<5> 前記蒸発釜内部を減圧手段で減圧して前記現像廃液を加熱濃縮する<1>〜<4>のいずれか1項に記載の現像処理廃液のリサイクル方法。
本実施形態によれば、製版処理廃液を廃液濃縮装置で減圧下、蒸発濃縮させることで、内部の廃液の沸点を低下させ、大気圧下よりも低い温度で廃液を蒸発濃縮させることにより、安全で蒸発釜、廃液および廃液濃縮物が熱による影響を受けにくくなり、廃液濃縮装置内の設備のメンテナンス性が向上するとともに、消費エネルギーが低減される。
<6> 前記再生水を前記自動現像機における希釈水及びリンス水の少なくとも一方として前記自動現像機に供給する手段が、再生水を自動現像機に供給する配管と、配管内の圧力を測定する圧力計と、ポンプとを備える蒸留再生水再利用装置である<1>〜<5>のいずれか1項に記載の感光性平版印刷版の製版処理廃液のリサイクル方法。
本実施形態によれば、自動現像機の現像浴内における現像処理液の活性がより良好に維持される。
<7> 前記蒸留再生水再利用装置が備える圧力計で測定された圧力値に応じて、前記ポンプの駆動を制御し、前記洗浄水タンクから前記自動現像機への前記再生水供給量を制御する<6>に記載の感光性平版印刷版の製版処理廃液のリサイクル方法。
本実施形態によれば、自動現像機の現像浴内における現像処理液の活性がより良好に維持される。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上記構成を有することにより、設備のメンテナンス性に優れ、長時間連続的に製版処理した場合においても、析出物の発生が抑制され、且つ、排出される製版処理廃液の量が極めて少ない感光性平版印刷版の製版処理廃液のリサイクル方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の現像処理廃液のリサイクル方法の一態様に係る装置のフローを示す概念図である。
【図2】従来の現像処理廃液の処理方法に係る装置のフローを示す概念図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明のリサイクル方法に係る実施形態の一例について説明する。
<全体構成>
図1は、本発明の現像処理廃液のリサイクル方法の一態様に係る装置のフローを示す概念図である。
図1に示すように、本実施形態に係る現像処理廃液のリサイクル方法に用いる装置は、感光性平版印刷版の製版処理に伴って自動現像機10から排出される現像液の廃液を貯蔵する処理液タンク20、処理液タンク20より送られた廃液を減圧下で加熱し、蒸発する水分と残留する濃縮物(スラリー)とに分離する廃液濃縮装置30、廃液濃縮装置30で水蒸気として分離された水分を導入し、冷却・凝結された再生水を貯蔵する再生水タンク50、廃液濃縮装置30で濃縮された廃液を回収する廃液回収タンク40とを備える。
廃液濃縮装置30で濃縮された廃液は廃液タンク40に回収される。廃液タンク40への濃縮された廃液の移送は、ポンプで加圧して行うことも好ましい。
また、分離された再生水を一時貯蔵する再生水タンク50と配管を介して連結された、再生水の自動現像機10への供給を制御しうる蒸留再生水再利用装置60を備える。蒸留再生水再利用装置60は、好ましくは、再生水を自動現像機10に供給する配管と、配管内の圧力を測定する圧力計と、ポンプとを備える。また、分析装置を備え、再生水の成分を分析し、その成分に応じて中和、新水の供給などを行い、再生水の組成を調製する手段を有していてもよい。
回収された再生水は、例えば、蒸留再生水再利用装置60が備える圧力計で測定された圧力値に応じて、或いは、現像補充液を希釈するために必要な、予め定められた供給量に応じて、前記ポンプの駆動を制御し、前記希釈水タンク50を介して前記自動現像機10へ供給される。
この再生水は、現像補充液の希釈水やリンス水として使用される。本発明においては、現像補充液は、標準濃度より1.2倍から2倍に希釈して自動現像機10の現像浴に供給される。図1では、現像補充液タンク70からの供給量に応じて補充水タンク80から供給する再生水の量を制御して、自動現像機10内に配置された、図示されない現像浴内で所定倍率に現像補充液を希釈する態様を示す。なお、再生水の供給量が希釈水としての必要量を下回った場合には、蒸留再生水再利用装置60内において新水を供給して、自動現像機10に供給する補充水(希釈水)の量が適量となるように調製される。
本実施形態では、現像補充液と再生水を利用した希釈水との供給が別々に行われ、自動現像機10における現像浴内で所定の希釈率とされるが、本発明はこの態様に限定されず、予め、現像補充液と再生水(希釈水)とを混合し、現像補充液を所定の倍率に希釈してから現像浴内に供給してもよい。
【0014】
<現像補充液>
本発明においては、現像補充液を、現像補充液として現像浴中での現像液の標準活性度を満たす条件に適合するように、標準濃度より1.2倍から2倍に希釈した現像補充液を標準供給量の1.3倍〜2倍量補充することを特徴とする。
本明細書における現像補充液について説明する。
自動現像機10の現像浴内に最初に仕込んだ現像液は、感光性平版印刷版の処理により発生した溶出物により劣化する。また、現像液がアルカリ性であるため空気中の二酸化炭素の吸収に起因してpHが低下し劣化する。従って、自動現像機10において長期間連続的に製版処理を行うためには、通常、感光性平版印刷版の現像品質を維持するために、劣化を補償する現像補充液を間欠的にまたは連続的に補充する必要がある。
本明細書における「現像液」とは、特にことわりのない限りは、未処理の現像液を意味し、また、「現像補充液」とは、感光性平版印刷版の現像処理や二酸化炭素の吸収等に伴い劣化した現像浴中の現像液に補充する現像用補充液を意味する。
通常は、自動現像機10へ供給される現像補充液は、劣化した現像液の活性度を回復させるため、当初の現像液よりも高活性である必要がある。
【0015】
現像補充液の現像浴への導入方法としては、(1)当初用いた現像液よりも高活性の現像補充液と水とを一定量の割合で、それぞれ別々に現像浴に導入する方法、(2)当初用いた現像液よりも高活性の現像補充液と水を一定量の割合であらかじめ混合して希釈した後、現像浴に導入する方法、及び、(3)最初から一定濃度に調整された現像補充液(例えば、市販の非濃縮タイプの現像補充液)をそのまま現像浴に導入する方法がある。
従来は、(1)又は(2)の方法、例えば、市販の、濃縮して用いるタイプの現像補充液を使用する方法において、発生する廃液量を少なくするため、できるだけ濃い濃度の(高活性の)現像補充液を少量添加することが行われている。しかしながら、現像補充液として高活性のものを使用すると、現像浴中の現像液の塩濃度が高くなるため、製版処理により発生した溶出物が析出を起こしやすくなる懸念が生じる。また、少量の添加を行う場合には、添加量の精密な制御が必要となる。
従来の方法では、現像補充液の添加量を増加させると、それに伴い廃液量も増加して処理すべき廃液が増加するという問題があったところ、本発明のリサイクル方法によれば、現像補充液と再生水の総量における現像活性度が、当初用いた現像液と同じかそれ以上の現像補充液を、標準濃度〔(1)又は(2)の方法における(現像補充液+再生水の総量)の濃度、或いは、(3)の方法における希釈されない現像補充液の濃度〕よりも低い濃度として、同一の活性を達成するために標準補充量よりも多い量、現像浴に導入することにより、製版処理により発生した溶出物が析出し難くなる。(3)の方法をとる場合には、再生水はリンス水として用いられる。
通常は、低濃度の現像補充液を大量に添加することで活性を一定に維持しようとした場合、現像浴中の現像液に起因する塩濃度は低く抑えられ、析出物の発生を抑制しながら高品質の現像処理を継続することができるが、製版処理廃液量も多くなるところ、本発明の方法では、製版処理廃液から分離された再生水を自動現像機10へ供給し、再利用するために、従来法に比較して、排出される製版処理廃液の量を、現像補充液の供給量に対して飛躍的に低減させることができる。
自動現像機10に供給される現像補充液の希釈倍率と補充量とを調整することで、現像浴中での現像液の標準活性度を満たす条件に適合されるが、現像浴内に供給される現像補充液のpHは、現像に適するpHである9.0〜13.5に維持されることが好ましく、12.5〜13.5の範囲となるように維持されることがより好ましい。
【0016】
以下、本発明のリサイクル方法の一態様を例に挙げて詳細に説明する。
本実施形態では、感光性平版印刷版の製版処理に伴って自動現像機10から排出される製版処理廃液(主として現像液廃液であり、以下、単に「廃液」と称することがある)を貯蔵する処理液タンク20、処理液タンク20より送られた廃液を減圧下で加熱し、蒸発する水分と残留する濃縮物(スラリー)とに分離する廃液濃縮装置30を備える装置を用いて、まず、製版処理廃液の濃縮が実施される。
前記廃液濃縮装置30は、図示されない、耐塩基性を備えた蒸発釜と冷却手段とを備える。ここで、耐塩基性とは、現像液のアルカリ性、一般には、pH8〜14程度の塩基性溶液を使用した場合においても、蒸発釜を構成する各部材表面の腐食や剥離などが生じない物性を有することを指す。
この廃液濃縮装置30における蒸発釜における加熱手段は特に制限はないが、製版処理廃液を保持する容器中に備えられた加熱コイル或いはヒートポンプを用いることが好ましい。当該容器中で、加熱された濃縮廃液は、廃液回収タンク40に排出される。また、水蒸気として分離された水分は、冷却手段により冷却され、凝結された再生水となり、該再生水は、これを一時貯蔵する再生水タンク50に供給される。
冷却釜などの冷却部材は、加熱により発生した水蒸気を凝結しうる限り特に制限はなく、各種熱交換器などを使用しうる。例えば、冷却コイルを設けた冷却釜を用いたり、以下に示すヒートポンプの吸熱部を使用したり、といった方法が挙げられる。なお、蒸発釜と異なり、冷却部材は特に耐塩基性の材料で構成されなくてもよい。
【0017】
廃液の濃縮は、前記蒸発釜内部を減圧手段で減圧して、加熱濃縮する方法をとることが、廃液の沸点を低下させ、大気圧下におけるよりも低い温度で廃液を蒸発濃縮させることできるため好ましい。減圧手段を用いることで、より安全で蒸発釜、廃液および廃液濃縮物が熱による影響を受けにくいという利点を有する。減圧手段としては、一般的な水封式や油回転式、ダイヤフラム式等の機械的真空ポンプ、油や水銀を用いた拡散ポンプ、多段ターボ圧縮機、往復圧縮機、ねじ圧縮機等の圧縮機、アスピレータが挙げられるが、この中ではアスピレータがメンテナンス性、コストの点で好ましく用いられる。
減圧条件としては、例えば、100mmHg以下、好ましくは30mmHg以下となるまで減圧することが挙げられる。
【0018】
また、蒸発釜における加熱手段としてヒートポンプを使用することも好ましい態様である。ヒートポンプの放熱部で製版処理廃液を加熱する一方、ヒートポンプの吸熱部で前記冷却手段の水蒸気を冷却することができ、廃液の加熱濃縮をヒートポンプの発熱で行い、水蒸気の凝縮をヒートポンプの吸熱で行うため熱効率がよく、電熱器等の加熱手段を用いた場合に比較し、局所的に高熱とならない、より安全性が高い、二酸化炭素の排出量が減少するなどの利点を有する。
加熱条件は、水流ポンプや真空ポンプで得られやすい圧力である5mmHg〜100mmHgに対応した温度域が選択される。具体的には20℃〜80℃の範囲であり、より好ましくは25℃〜45℃の範囲である。
高温で蒸留し、濃縮を行うと多くの電力を要するため、減圧することにより加熱温度を低くし、使用電力を抑制することができる。
この廃液濃縮装置において、製版処理廃液を蒸発濃縮する工程では、製版処理廃液は、蒸発釜中で加熱手段により加熱して容量基準で1/5〜1/8倍量となるように蒸発濃縮される。ここで、濃縮比が1/5倍未満であると、処理すべき廃液量の減少が効果的に行われず、また、1/8倍量を超えて濃縮した場合、廃液濃縮装置30の蒸発釜内で濃縮された廃液に起因する固形物の析出が生じやすくなり、メンテナンス性が低下する懸念がある。
【0019】
なお、廃液濃縮装置30に供給される製版処理廃液は、所望により予めpHを下げる中和処理などを行うことも好ましい態様である。製版処理廃液の中和処理を予め行うことで製版処理廃液のpHが低下するので、廃液濃縮装置30が備える蒸発釜や蒸発釜中に配置された加熱手段などが強アルカリの影響を受けにくく、また、排出される濃縮廃液や再生水にアルカリが残りにくいという利点を有する。
前記廃液濃縮装置は公知のものを任意に適用してもよく、例えば、本発明者らが先に提案した特開2011−90282公報に記載の平版印刷版現像廃液削減装置などが好適に使用される。
【0020】
分離された再生水は、これを一時貯蔵する再生水タンク50へ供給される。その後、再生水は、再生水タンク50と配管を介して結合してなる蒸留再生水再利用装置60へ搬送され、蒸留再生水再利用装置60から、希釈水等を一時保存する補充水タンク80へ搬送された後、補充水タンク80から自動現像機10の現像浴内に、希釈水として供給される。なお、再生水は、自動現像装機10においてリンス水として、リンス浴に供給されてもよい。
【0021】
このシステムで得られた再生水は、BOD、COD値の低い再生水である。本発明で用いられる現像液を使用した場合、おおよそ、BOD値は250mg/L以下、COD値200mg/L以下となるので、自動現像機の現像補充液の希釈水、または、リンス水として用いる他に、余剰の再生水はそのまま一般排水に放出してもよい。
【0022】
蒸留再生水再利用装置60は、再生水を補充水タンク80へ供給する配管と、図示されない配管内の圧力を測定する圧力計と、ポンプとを備える態様が好ましい。補充水タンク80から自動現像機10へ、現像補充液タンク70から供給される現像補充液の供給量に応じた、適切な希釈倍率となるように希釈水として制御された量、即ち、現像補充液を1.2倍〜2倍に希釈する量で供給される。ここで、再生水の量が、現像補充液の希釈に必要な供給量に満たない場合には、蒸留再生水再利用装置60内で新水を所定量供給し、再生水と親水との混合物が補充水タンク80へ供給される。
ここで、現像補充液を標準濃度より1.2倍から2倍に希釈するとは、現像補充液として通常、希釈せずそのまま現像浴に供給するタイプ(既述の(3)の方法に相当)の現像補充液の場合には、1.2倍〜2倍に希釈する。また、通常、原液を特定倍率に希釈して現像浴に供給するタイプ(既述の(1)又は(2)の方法に相当)の現像補充液を用いる場合には、希釈率を通常のさらに1.2倍〜2倍に希釈することを意味する。即ち、例えば、市販される原液を1.5倍に希釈して用いる現像補充液の場合、通常、100mlの原液に水50mlを加えて1.5倍液として用いるところ、その1.2倍、すなわちさらに30mlの水を加え、希釈率を原液の1.8倍(標準濃度の1.2倍)として使用することを意味する。
なお、蒸留再生水再利用装置60は、さらに分析装置と再生水の組成物を調製する装置とを備えるものであってもよく、この場合には、再生水の成分を分析装置にて分析し、得られた分析値に応じて、中和したり、新水を供給したり、などの処理を蒸留再生水再利用装置60内で行い、再生水の組成を調製したのち、補充水タンク80へ搬送していてもよい。
【0023】
<現像液>
次に、本発明の製版処理廃液のリサイクル方法において、感光性平版印刷版の現像に用いる好適に使用される現像液について説明する。
なお、本明細書中において、特にことわりのない限り、現像液とは現像開始液(当初落いた狭義の現像液)と現像補充液とを包含する意味で用いられる。
本発明の適用される現像液および現像補充液としては、緩衝作用を有する有機化合物と塩基とを主成分とし、二酸化ケイ素を含有しないアルカリ現像液を用いることが好ましい。本発明では、このような現像液を以下、「非シリケート現像液」と称する。なお、ここで「二酸化ケイ素を含有しない」との文言は、不可避の不純物及び副生成物としての微量の二酸化ケイ素の存在を許容することを意味する。より具体的には、二酸化ケイ素の含有量が0.1質量%以下であることを意味する。
【0024】
以下に本発明の平版印刷版用現像液について詳しく述べる。なお、本明細書中において、特にことわりのない限り、現像液とは現像開始液(狭義の現像液)と現像補充液とを意味する。
【0025】
[非還元糖及び塩基]
従来の感光性平版印刷版の現像液として最も一般的に使用されていたのは珪酸ナトリウム、珪酸カリウム等の珪酸塩水溶液である。その理由は珪酸塩の成分である酸化珪素SiO 2とアルカリ金属酸化物MOの比率(一般に[SiO]/[MO]のモル比で表す)と濃度によってある程度現像性の調節が可能とされるためである。また、ほとんど全てのポジ型感光性平版印刷版が現像にpH13前後の強アルカリを必要とし、珪酸塩がそのpH領域で良好な緩衝作用を示し、安定した現像ができるためである。しかしながら、主成分である珪酸塩は、アルカリ性領域では安定であるが、中性ではゲル化、不溶化し、また蒸発乾固により析出するとフッ化水素酸のような強烈な酸にしか溶けなくなる欠点を持っている。このため、この処理廃液を濃縮する過程で珪酸塩が不溶化し析出してしまうので、濃縮液を別の容器に移液したり、濃縮処理を継続して実施したりするためには不溶化した珪酸塩を取り除く必要があり、濃縮装置のメンテナンス性が著しく低下する。
【0026】
これに対し、本発明で用いられる現像液は、その主成分が、非還元糖から選ばれる少なくとも一つの化合物と、少なくとも一種の塩基からなる。液のpHはおよそ9.0〜13.5の範囲となるように調整され用いられる。
【0027】
かかる非還元糖とは、遊離のアルデヒド基やケトン基を持たず、還元性を示さない糖類であり、還元基同士の結合したトレハロース型少糖類、糖類の還元基と非糖類が結合した配糖体、および糖類に水素添加して還元した糖アルコールに分類され、何れも本発明に好適に用いられる。トレハロース型少糖類には、サッカロースやトレハロースがあり、配糖体としては、アルキル配糖体、フェノール配糖体、カラシ油配糖体などが挙げられる。また糖アルコールとしてはD,L−アラビット、リビット、キシリット、D,L−ソルビット、D,L−マンニット、D,L−イジット、D,L−タリット、ズリシットおよびアロズルシットなどが挙げられる。更に二糖類の水素添加で得られるマルチトールおよびオリゴ糖の水素添加で得られる還元体(還元水あめ)が好適に用いられる。これらの中で本発明の現像液に用いられる好ましい非還元糖は糖アルコールとサッカロースであり、特にD−ソルビット、サッカロース、還元水あめが適度なpH領域に緩衝作用があることと、低価格であることから好ましい。
【0028】
これらの非還元糖は、単独もしくは二種以上を組み合わせて使用でき、それらの現像液中に占める割合は0.1質量%〜30質量%が好ましく、更に好ましくは、1質量%〜20質量%である。この範囲以下では十分な緩衝作用が得られず、またこの範囲以上の濃度では、高濃縮化し難く、また原価が高くなるといった問題が生じる。
【0029】
尚、還元糖を塩基と組み合わせて使用した場合、経時的に褐色に変色し、pHも徐々に下がり、よって現像性が低下するという問題点がある。
【0030】
非還元糖に組み合わせる塩基としては、従来公知のアルカリ剤が使用できる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、燐酸三ナトリウム、燐酸三カリウム、燐酸三アンモニウム、燐酸二ナトリウム、燐酸二カリウム、燐酸二アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム、硼酸ナトリウム、硼酸カリウム、硼酸アンモニウムなどの無機アルカリ剤が挙げられる。また、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、n−ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、エチレンイミン、エチレンジアミン、ピリジンなどの有機アルカリ剤も用いられる。
【0031】
これらのアルカリ剤は単独もしくは二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中で好ましいのは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。その理由は、非還元糖に対するこれらの量を調整することにより広いpH領域でpH調整が可能となるためである。また、燐酸三ナトリウム、燐酸三カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどもそれ自身に緩衝作用があるので好ましい。
【0032】
これらのアルカリ剤は現像液のpHを9.0〜13.5の範囲になるように添加され、その添加量は所望のpH、非還元糖の種類と添加量によって決められる。より好ましいpHの範囲は10.0〜13.2である。
【0033】
本発明の現像液には更に、糖類以外の弱酸と強塩基からなるアルカリ性緩衝液を併用できる。かかる緩衝液として用いられる弱酸としては、解離定数(pKa)が10.0〜13.2のものが好ましい。このような弱酸としては、Pergamon Press社発行のIONISATION CONSTANTS OF ORGANIC ACIDS IN AQUEOUS SOLUTION などに記載されているものから選ばれ、例えば2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール(pKa 12.74)、トリフルオロエタノール(pKa 12.37)、トリクロロエタノール(pKa 12.24)などのアルコール類、ピリジン−2−アルデヒド(pKa 12.68)、ピリジン−4−アルデヒド(pKa 12.05)などのアルデヒド類、サリチル酸(pKa 13.0)、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(pKa 13.84)、カテコール(pKa 12.6)、没食子酸(pKa 12.4)、スルホサリチル酸(pKa 11.7)、3,4−ジヒドロキシスルホン酸(pKa 12.2)、3,4−ジヒドロキシ安息香酸(pKa 11.94)、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン(pKa 11.82)、ハイドロキノン(pKa 11.56)、ピロガロール(pKa 11.34)、o−クレゾール(pKa 10.33)、レゾルシノール(pKa 11.27)、p−クレゾール(pKa 10.27)、m−クレゾール(pKa 10.09)などのフェノール性水酸基を有する化合物、2−ブタノンオキシム(pKa 12.45)、アセトキシム(pKa 12.42)、1,2−シクロヘプタンジオンジオキシム(pKa 12.3)、2−ヒドロキシベンズアルデヒドオキシム(pKa 12.10)、ジメチルグリオキシム(pKa 11.9)、エタンジアミドジオキシム(pKa 11.37)、アセトフェノンオキシム(pKa 11.35)などのオキシム類、アデノシン(pKa 12.56)、イノシン(pKa 12.5)、グアニン(pKa 12.3)、シトシン(pKa 12.2)、ヒポキサンチン(pKa 12.1)、キサンチン(pKa 12.9)などの核酸関連物質、ジエチルアミノメチルホスホン酸(pKa 12.32)、1−アミノ−3,3,3−トリフルオロ安息香酸(pKa 12.29)、イソプロピリデンジホスホン酸(pKa 12.10)、1,1−エチリデンジホスホン酸(pKa 11.54)、1,1−エチリデンジホスホン酸−1−ヒドロキシ(pKa 11.52)、ベンズイミダゾール(pKa 12.86)、チオベンズアミド(pKa 12.8)、ピコリンチオアミド(pKa 12.55)、バルビツル酸(pKa 12.5)などの弱酸が挙げられる。
【0034】
これらの弱酸の中で好ましいのは、スルホサリチル酸、サリチル酸である。これらの弱酸に組み合わせる塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムが好適に用いられる。これらのアルカリ剤は単独もしくは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
上記の各種アルカリ剤は濃度および組み合わせによりpHを好ましい範囲内に調整して使用される。
【0036】
[界面活性剤]
本発明の現像液には、現像性の促進や現像カスの分散および印刷版画像部の親インキ性を高める目的で必要に応じて種々界面活性剤や有機溶剤を添加できる。好ましい界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系および両性界面活性剤が挙げられる。
【0037】
界面活性剤の好ましい例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ショ糖脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、ポリオキシエチレンアルキルアミン類、トリエタノールアミン脂肪酸エステル、トリアルキルアミンオキシドなどの非イオン性界面活性剤、脂肪酸塩類、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、などのアニオン界面活性剤、アルキルアミン塩類、テトラブチルアンモニウムブロミド等の第四級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体などのカチオン性界面活性剤、カルボキシベタイン類、アミノカルボン酸類、スルホベタイン類、アミノ硫酸エステル類、イミダゾリン類などの両性界面活性剤が挙げられる。
【0038】
更に好ましい界面活性剤は分子内にパーフルオロアルキル基を含有するフッ素系の界面活性剤である。かかるフッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステルなどのアニオン型、パーフルオロアルキルベタインなどの両性型、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩などのカチオン型およびパーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキル基および親水性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基および親油性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基、親水性基および親油性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基および親油性基含有ウレタンなどの非イオン型が挙げられる。
【0039】
上記の界面活性剤は、単独もしくは2種以上を組み合わせて使用することができ、現像液中に0.001質量%〜10質量%、より好ましくは0.01質量%〜5質量%の範囲で添加される。
【0040】
界面活性剤は多すぎると蒸留工程で発泡して濃縮作業の安定性が損なわれ、また設備が広く処理廃液で汚染されるため手間がかかる。少なすぎると現像性が低下したり、現像液中に画像形成層由来の現像カスが発生したりするなどして、現像液の寿命に影響を与える。
【0041】
[現像安定化剤]
本発明の現像液には、種々の現像安定化剤が用いられる。それらの好ましい例として、特開平6−282079号公報記載の糖アルコールのポリエチレングリコール付加物、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどのテトラアルキルアンモニウム塩、テトラブチルホスホニウムブロマイドなどのホスホニウム塩およびジフェニルヨードニウムクロライドなどのヨードニウム塩が好ましい例として挙げられる。
【0042】
[有機溶剤]
現像液には現像性を確保するため、更に必要により有機溶剤が加えられる。かかる有機溶剤としては、水に対する溶解度が約10質量%以下のものが適しており、好ましくは5質量%以下のものから選ばれる。例えば、1−フェニルエタノール、2−フェニルエタノール、3−フェニル−1−プロパノール、2−フェノキシエタノール、2−ベンジルオキシエタノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、N−フェニルエタノールアミンなどを挙げることができる。有機溶剤の含有量は使用液の総重量に対して5質量%以下である。より好ましくは1質量%以下である。含有量が多すぎると、可溶化剤としての界面活性剤の量を増やす必要が生じ、好ましくない。また、処理廃液の濃縮過程で有機溶媒が蒸発することで、有機溶媒の存在により現像液に対しての溶解性を確保していた画像形成層の成分が析出し、スラッジを発生させる懸念があるため、濃縮装置のメンテナンス性が著しく低下する。
【0043】
[還元剤]
本発明の現像液には更に還元剤を加えることができる。これは印刷版の汚れを防止するものである。好ましい有機還元剤としては、ハイドロキノン、レゾルシンなどのフェノール化合物、フェニレンジアミン、フェニルヒドラジンなどのアミン化合物が挙げられる。更に好ましい無機の還元剤としては、亜硫酸、亜硫酸水素酸、亜リン酸、亜リン酸水素酸、亜リン酸二水素酸、チオ硫酸および亜ジチオン酸などの無機酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などを挙げることができる。これらの還元剤のうち、汚れ防止効果が特に優れているのは亜硫酸塩である。これらの還元剤を用いる場合には使用時の現像液に対して好ましくは、0.05質量%〜5質量%の範囲で含有される。
【0044】
[その他の添加剤]
本発明の現像液には更に必要に応じて、更に公知の添加剤を加えてもよい。例えば、有機カルボン酸、防腐剤、着色剤、増粘剤、消泡剤および硬水軟化剤などを含有させることもできる。
【0045】
[水]
現像液の残余の成分は水である。本発明の現像液は、使用時よりも水の含有量を少なくした濃縮液としておき、使用時に水で希釈するようにしておくことが運搬上有利である。この場合の濃縮度は各成分が分離や析出を起こさない程度が適当である。
【0046】
本発明のリサイクル方法では、自動現像機を用いて長期間現像処理を継続する目的で、現像補充液は、現像液よりもアルカリ強度の低い、前記再生水により標準濃度の1.2倍〜2倍に希釈した水溶液(現像補充液)を現像浴に加えるが、活性度を一定にするために、希釈された現像補充液は、標準使用量の1.3倍〜2倍量補充されることによって、現像浴中での所望されない析出物の発生が抑制され、長時間現像タンク中の現像液を交換する事なく、多量の平版印刷版を処理できる。
本発明にリサイクル方法では、製版処理廃液の濃縮分離により得られた再生水は、再蒸発再生水再利用装置内に供給されるが、この装置内において、現像浴内での現像液の状態に応じて、再生水に、現像性の促進や抑制、現像カスの分散および印刷版画像部の親インキ性を高める目的で、必要に応じて種々の界面活性剤や有機溶剤を添加したり、再生水の供給量を制御したり、再生水の量が供給すべき量に満たない場合には、親水を供給したり、などの操作を行ってもよい。
なお、現像補充液に用いうる好ましい界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系および両性界面活性剤が挙げられる。更に現像補充液には必要に応じて、ハイドロキノン、レゾルシン、亜硫酸、亜硫酸水素酸などの無機酸のナトリウム塩、カリウム塩等の還元剤、更に有機カルボン酸、消泡剤、硬水軟化剤を加えることもできる。
供給する現像補充液の希釈に際しては、既述のように、現像浴中に供給された際の濃度を勘案して、現像液(補充原液)と再生水(希釈水)をそれぞれの量を制御しながら現像補充液タンク70及び補充水タンク80より別々に供給してもよく、予め現像補充液を標準濃度の1.2倍〜2倍に再生水によって希釈したものを調製し、それを供給してもよい。
【0047】
<平版印刷版原版>
以下、本発明のリサイクル方法が好ましく適用できる平版印刷版原版について詳しく説明する。
[ポジ型平版印刷版原版]
本発明の製版方法に使用するポジ型平版印刷版原版(以下、単に、平版印刷版原版とも称する)は、支持体上に、アルカリ可溶性樹脂及び赤外線吸収染料を含み、さらに所望により溶解抑制剤などを含有する画像記録層を設けたものである。
以下に、その画像記録層の構成について説明する。
【0048】
[赤外線吸収染料]
本発明において、画像記録層に用いられる赤外線吸収染料は、赤外線を吸収し熱を発生する染料であれば特に制限はなく、赤外線吸収染料として知られる種々の染料を用いることができる。
【0049】
赤外線吸収染料としては、市販の染料及び文献(例えば「染料便覧」有機合成化学協会編集、昭和45年刊)に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料などの染料が挙げられる。本発明において、これらの染料のうち赤外光、もしくは近赤外光を吸収するものが、赤外光もしくは近赤外光を発光するレーザーでの利用に適する点で特に好ましい。
【0050】
本発明に使用可能な赤外線吸収染料としては、記録に使用する光エネルギー照射線を吸収し、熱を発生する物質であれば特に吸収波長域の制限はなく用いることができる。入手容易な高出力レーザーへの適合性の観点から波長800nmから1200nmに吸収極大を有する赤外線吸収性染料又は顔料が好ましく挙げられる。
【0051】
染料としては、市販の染料及び例えば「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、例えば、特開平10−39509号公報の段落番号[0050]〜[0051]に記載のものを挙げることができる。
【0052】
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、有機金属錯体(例えば、ジチオレート系錯体など)が挙げられる。アルカリ可溶性樹脂との相互作用形成性の観点から、特開2001−305722号公報の一般式(I)で示されたシアニン染料が好ましい。
【0053】
画像記録層の赤外線吸収染料の添加量は画像記録層の質量に対し、感度及び画像記録層の均一性の観点から、0.01質量%〜50質量%、好ましくは0.1質量%〜50質量%、特に好ましくは0.1質量%〜30質量%である。
【0054】
[アルカリ可溶性樹脂]
画像記録層に使用されるアルカリ可溶性樹脂は、水不溶性且つアルカリ水可溶性の樹脂(以下、適宜、アルカリ可溶性高分子と称する)であって、高分子中の主鎖および/または側鎖に酸性基を含有する単独重合体、これらの共重合体またはこれらの混合物を包含する。したがって、平版印刷版原版の画像記録層は、アルカリ性現像液に接触すると溶解する特性を有するものである。
【0055】
画像記録層に使用されるアルカリ可溶性高分子は、従来公知のものであれば特に制限はないが、(1)フェノール性水酸基、(2)スルホンアミド基、(3)活性イミド基のいずれかの官能基を分子中に有する高分子化合物であることが好ましい。なかでも(1)フェノール性水酸基を分子中に有する高分子化合物が好ましい。
【0056】
さらに詳しくは特開2001−305722号公報の[0023]〜[0042]で示されている高分子が好ましく用いられる。
【0057】
(1)フェノール性水酸基を有する高分子化合物としては、例えば、フェノールホルムアルデヒド樹脂、m−クレゾールホルムアルデヒド樹脂、p−クレゾールホルムアルデヒド樹脂、m−/p−混合クレゾールホルムアルデヒド樹脂、フェノール/クレゾール(m−,p−,又はm−/p−混合のいずれでもよい)混合ホルムアルデヒド樹脂等のノボラック樹脂やピロガロールアセトン樹脂が挙げられる。フェノール性水酸基を有する高分子化合物としてはこの他に、側鎖にフェノール性水酸基を有する高分子化合物を用いることが好ましい。側鎖にフェノール性水酸基を有する高分子化合物としては、フェノール性水酸基と重合可能な不飽和結合をそれぞれ1つ以上有する低分子化合物からなる重合性モノマーを単独重合、或いは該モノマーに他の重合性モノマーを共重合させて得られる高分子化合物が挙げられる。
【0058】
(2)スルホンアミド基を有するアルカリ可溶性高分子化合物としては、スルホンアミド基を有する重合性モノマーを単独重合、或いは該モノマーに他の重合性モノマーを共重合させて得られる高分子化合物が挙げられる。スルホンアミド基を有する重合性モノマーとしては、1分子中に、窒素原子上に少なくとも1つの水素原子が結合したスルホンアミド基−NH−SO2−と、重合可能な不飽和結合をそれぞれ1つ以上有する低分子化合物からなる重合性モノマーが挙げられる。その中でも、アクリロイル基、アリル基、又はビニロキシ基と、置換或いはモノ置換アミノスルホニル基又は置換スルホニルイミノ基とを有する低分子化合物が好ましい。
【0059】
(3)活性イミド基を有するアルカリ可溶性高分子化合物は、活性イミド基を分子内に有するものが好ましく、この高分子化合物としては、1分子中に活性イミド基と重合可能な不飽和結合をそれぞれ1つ以上有する低分子化合物からなる重合性モノマーを単独重合、或いは該モノマーに他の重合性モノマーを共重合させて得られる高分子化合物が挙げられる。
【0060】
アルカリ可溶性高分子が前記フェノール性水酸基を有する重合性モノマー、スルホンアミド基を有する重合性モノマー、又は活性イミド基を有する重合性モノマーと、他の重合性モノマーとの共重合体である場合には、アルカリ可溶性が充分となり現像ラチチュードの向上効果が充分に達成されるように、アルカリ可溶性を付与するモノマーは10モル%以上含むことが好ましく、20モル%以上含むものがより好ましい。
【0061】
本発明においてアルカリ可溶性高分子が、前記フェノール性水酸基を有する重合性モノマー、スルホンアミド基を有する重合性モノマー、又は活性イミド基を有する重合性モノマーの単独重合体或いは共重合体の場合、重量平均分子量が2,000以上、数平均分子量が500以上のものが好ましい。更に好ましくは、重量平均分量が5,000〜300,000で、数平均分子量が800〜250,000であり、分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が1.1〜10のものである。
【0062】
また、本発明においてアルカリ可溶性高分子がフェノールホルムアルデヒド樹脂、クレゾールアルデヒド樹脂等の樹脂である場合には、重量平均分子量が500〜20.000であり、数平均分子量が200〜10,000のものが好ましい。
【0063】
これらアルカリ可溶性高分子化合物は、それぞれ1種類或いは2種類以上を組み合わせて使用してよく、前記画像形成層全固形分中、30質量%〜99質量%、好ましくは40質量%〜95質量%、特に好ましくは50質量%〜90質量%の添加量で用いられる。画像形成層の耐久性と感度の両面から上記の含有量の範囲が適当である。
【0064】
なお、画像記録層には、溶解抑制剤を含むことが感度の観点から好ましい。溶解抑制剤としては特に限定されないが、4級アンモニウム塩、ポリエチレングリコール系化合物等が挙げられる。
【0065】
また、上記インヒビション(溶解性阻害)改善の施策を行った場合、感度の低下が生じるが、この場合、ラクトン化合物を添加物することが有効である。このラクトン化合物は、露光部に現像液が浸透した際、現像液とラクトン化合物が反応し、これにより新たにカルボン酸化合物が発生し、露光部の溶解に寄与して感度が向上するものと考えられる。
【0066】
また、オニウム塩、o−キノンジアジド化合物、芳香族スルホン化合物、芳香族スルホン酸エステル化合物等の熱分解性であり、分解しない状態ではアルカリ水可溶性高分子化合物の溶解性を実質的に低下させる物質を併用することは、画像部の現像液への溶解阻止性の向上を図る点では、好ましい。オニウム塩としてはジアゾニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、セレノニウム塩、アルソニウム塩等を挙げることができる。
【0067】
他の添加剤としては、例えば、特開平7-92660号公報の[0024]〜[0027]で示されている感度調節剤、焼出剤、染料等の化合物や同公報[0031]に記載されているような塗布性を良化するための界面活性剤を加えることが好ましい。他の好ましい界面活性剤としては、特開2001−305722号公報の[0053]〜[0059]で示されている化合物が好ましく挙げられる。
【0068】
[塗布量]
画像記録層の塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、皮膜特性及び耐刷性の観点から0.3g/m〜3.0g/mの塗布量で設けることができる。好ましくは0.5g/m〜2.5g/mであり、さらに好ましくは0.8g/m〜1.6g/mである。
【0069】
平版印刷版原版が有する画像記録層は、単層構造であってもよく、また、複数の記録層が積層されてなる重層構造を有していてもよい。重層構造の画像記録層としては、例えば、特開平11−218914号公報に記載されているような記録層が挙げられる。
【0070】
重層構造の画像記録層について説明する。重層構造の画像記録層は、少なくとも2層以上の重層構成であってもよい(以下便宜上、上側層と下側層とからなる2層の場合を説明する)。
【0071】
上側層と下側層を構成するアルカリ可溶性樹脂は、上記に説明したアルカリ可溶性樹脂を適用することができる。上側層は、下側層よりもアルカリに対する溶解性が低いものであるのが好ましい。
【0072】
また、赤外線吸収染料は、いずれかの層に含まれていればよく、また、双方に含まれていてもよい。これら赤外線吸収染料は各層において異なる赤外線吸収染料であってもよく、また各層に複数の化合物からなる赤外線吸収染料を用いてもよい。含有させる量としては、いずれの層に用いる場合にも、上記した通り、添加する層の全固形分に対して0.01質量%〜50質量%、好ましくは0.1質量%〜50質量%、特に好ましくは0.1質量%〜30質量%の割合で添加することができる。複数の層に添加する場合は、添加量の合計が上記範囲になるように添加することが好ましい。
【0073】
サーマルポジタイプの画像記録層と支持体との間には、下塗層を設けることが好ましい。下塗層に含有される成分としては特開2001−305722号公報の[0068]に記載される種々の有機化合物が挙げられる。
【0074】
[支持体]
平版印刷版原版に使用される親水性支持体としては、必要な強度と耐久性を備えた寸度的に安定な板状物が挙げられ、例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)、上記の如き金属がラミネート、もしくは蒸着された紙、もしくはプラスチックフィルム等が挙げられる。中でも、ポリエステルフィルム又はアルミニウム板が好ましく、その中でも寸法安定性がよく、比較的安価であるアルミニウム板は特に好ましい。
【0075】
支持体に用いられるアルミニウム板の厚みはおよそ0.1mm〜0.6mm程度、好ましくは0.15mm〜0.4mm、特に好ましくは0.2mm〜0.3mmである。
【0076】
アルミニウム板は各種の表面処理を施されて支持体が形成される。表面処理は、表面親水性の向上、画像記録層との密着性向上等の目的で行われ、表面粗面化処理、例えば、機械的粗面化、電気化学的粗面化、化学的粗面化処理がある。
【0077】
このように粗面化されたアルミニウム板は、必要に応じてアルカリエッチング処理及び中和処理された後、所望により表面の保水性や耐摩耗性を高めるために陽極酸化処理が施される。
【0078】
さらに、必要により親水化処理が施される。親水化処理としては、米国特許第2,714,066号、同第3,181,461号、第3,280,734号及び第3,902,734号に開示されているようなアルカリ金属シリケート(例えばケイ酸ナトリウム水溶液)法、米国特許第3,276,868号、同第4,153,461号、同第4,689,272号に開示されているようなポリビニルホスホン酸で処理する方法などが用いられる。
【0079】
本発明で使用する平版印刷版原版は、支持体上に少なくとも前記した画像記録層を設けたものであるが、必要に応じて支持体と画像記録層との間に下塗層を設けることができる。
【0080】
下塗層成分としては種々の有機化合物が用いられ、例えば、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、アラビアガム、2−アミノエチルホスホン酸などのアミノ基を有するホスホン酸類、置換基を有してもよいフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アルキルホスホン酸などの有機ホスホン酸、置換基を有してもよいフェニルホスフィン酸、アルキルホスフィン酸などの有機ホスフィン酸、グリシンやβ−アラニンなどのアミノ酸類、及びトリエタノールアミンの塩酸塩などのヒドロキシ基を有するアミンの塩酸塩等が挙げられ、これらは2種以上混合して用いてもよい。
【0081】
下塗層の被覆量は耐刷性能の観点から、2mg/m〜200mg/mが適当であり、好ましくは5mg/m〜100mg/mである。
【0082】
上記のようにして作成された平版印刷版原版は、画像様に露光され、その後、上記に詳述したアルカリ現像処理液を用いて現像処理を施される。
【0083】
像露光に用いられる活性光線の光源としては、例えば、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、カーボンアーク灯等がある。放射線としては、電子線、X線、イオンビーム、遠赤外線などがある。また、g線、i線、Deep−UV光、高密度エネルギービーム(レーザービーム)も使用される。レーザービームとしてはヘリウム・ネオンレーザー、アルゴンレーザー、クリプトンレーザー、ヘリウム・カドミウムレーザー、KrFエキシマレーザー等が挙げられる。本発明においては、近赤外線から赤外領域において発光波長を持つ光源が好ましく、固体レーザー、半導体レーザーが特に好ましい。
【0084】
露光後の平版印刷版原版は、既述の自動現像機10に供給され、現像浴内を搬送され、連続的に露光領域の画像形成層が現像除去されて製版され、印刷に供する平版印刷版が得られる。
この製版処理により、アルカリ現像液中には、溶出した平版印刷版原版の画像形成層の各成分が含まれることになり、溶出成分が多く含まれるようになったり、現像液の活性が低下したりすると、所望されない成分の析出が生じる、或いは、現像が充分に行えないなどの不具合を生じる。このため、現像浴から製版処理廃液を除去し、現像補充液を供給することが行われる。
【0085】
本発明においては、自動現像機10から排出された製版処理廃液は、濃縮度が、廃液濃縮装置30において、容量基準で、1/5倍〜1/8倍(=濃縮後の製版処理廃液/濃縮後の製版処理廃液)の範囲に濃縮されるが、1/6倍〜1/8倍の範囲に濃縮されることが好ましい。この範囲であると、廃液濃縮装置の蒸発釜における汚れが少なく、連続運転が長期にわたって可能であり、且つ、廃棄すべき廃液量を低減することができる。
また、得られた再生水は再利用が可能であり、製版処理廃液として廃却する廃液が極めて少ない。本発明においては、濃縮度とは容量基準で、濃縮前の製版処理廃液の総量を分母とし、濃縮後の製版処理廃液の総量を分子にし、濃縮後の製版処理廃液を1として標準化して表す。
【0086】
本発明に好適に使用可能な製版処理廃液のリサイクル方法に係る装置の具体例としては、例えば、特許第4774124号公報に記載の平版印刷版製版処理廃液削減装置等、特開2011−90282号公報等に記載の廃液処理装置が挙げられる。
このようにして濃縮され、濃縮廃液と分離された再生水は、既述のように、再生水タンク50に一時保存され、蒸留再生水再利用装置60にて、供給量や所望によっては処方などが調製され、希釈水やリンス水として自動現像機10における現像浴、リンス浴などに供給される。
【0087】
本発明のリサイクル方法によれば、多数枚を連続的に製版した場合でも、現像浴中における所望されない析出物の発生が抑制され、また、製版処理廃液において分離された再生水が再利用されるために、排出物の量が飛躍的に低減される。
<その他>
以上、本発明の実施例について記述したが、本発明は上記の実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【0088】
例えば上記実施形態では廃液加熱手段および水蒸気冷却手段にヒートポンプ回路を用いる構成を例に挙げたが、これに限定せず例えば加熱手段に電熱器、冷却手段に水冷クーラー等を用いる構成に本発明を適用することも可能である。
【0089】
さらに感光性平版印刷版の製版処理廃液以外でも、本発明に係る廃液と同様の物性をもつ濃縮物を生成する廃液であれば、その処理方法として本発明を応用することができる。
【0090】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格を、ここの文献、特許出願、および技術規格を援用することが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に援用される。
【実施例】
【0091】
以下、実施例に基づいて、本発明を説明する。本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。なお、「部」、「%」は質量基準である。
〔対照例1〕
富士フイルム(株)製のサーマルポジ型平版印刷版原版であるCTP版XP−Fを画像様に露光し、富士フイルム(株)製の現像液XP−D(二酸化珪素を含有せず、非還元糖D−ソルビットを含有)、及び現像補充液XP−DR(二酸化珪素を含有せず、非還元糖D−ソルビットを含有)との組合せで、富士フイルム(株)製の自動現像機LP−1310HIIの標準設定にて、菊全サイズの版換算で15000版を3ヶ月間で処理した。
このとき製版処理廃液及びリンス水廃液と、を合わせて、1900Lが製版処理廃液として発生した。
この廃液を、図2にしめす従来の廃液処理方法にて処理した。
図2に示す従来の現像処理廃液の処理方法に係る装置のフローによれば、自動現像機10から排出された製版処理廃液は、中間タンク20に集められ、廃液濃縮装置30で水蒸気を冷却した水(再生水)と濃縮廃液とに分離される。
廃液濃縮装置30における蒸発釜はヒートポンプ式を採用し、加熱温度は30℃、減圧条件は30mHgであり、冷却温度は5℃であった。ここで製版処理廃液は、容量基準で1/7.6倍となるように濃縮された。
この方法により、250Lの濃縮廃液と、1650Lの再生水を生じた。この再生水は、BOD値が200mg/Lであり、一般排水に流すことができた。なお、ここで得られた再生水は、リサイクル可能であり、廃液濃縮装置における蒸発釜の洗浄や希釈水に使用することで、250Lの濃縮廃液のみが生じただけであった。
対照例1の方法によれば、3ヶ月使用後の自動現像機の現像浴、水洗浴には、画像形成層の成分が濃縮された凝集物が残存し、洗浄が必要であった。
【0092】
〔実施例1〕
前記対照例1と同様の方法において、現像補充液XP−DRを対照例1で使用した濃度の1.3倍に希釈したうえで、対照例1における補充量の約2倍の補充を行って、現像浴の活性が維持され、pHが12.5〜14.5の範囲内となるように設定し、かつリンス用の水の補充量を2倍に設定した自動現像機(LP−1310HII)にて、図1のリサイクル方法を適用して処理を行った。なお、製版処理廃液は対照例1と同様に、1/7.6倍濃縮された。
対照例1と同様、菊全サイズの版換算で15000版を3ヶ月間で処理した。このとき、再生水は、その全てが現像補充液を1.3倍に希釈するための希釈水、或いは、リンス水として使用され、濃縮廃液量は270Lであった。この濃縮廃液量は、対照例1とほぼ同等であった。
対照例1と同様にして、3ヶ月使用後、一旦、現像液、リンス水を自動現像機から抜いて、自動現像機の現像浴、水洗浴を観察したが、凝集物の残存はほとんど認められなかった。
その後、現像液、リンス水をそのまま、自動現像機10の現像浴、リンス浴にそれぞれ戻し、さらに追加で10000版を処理したが、問題なく処理することができた。25000版処理後の自動現像機の現像浴、水洗浴への残存状況を観察したが、析出物に起因すると汚れは殆ど見られず、対照例1の15000版処理後の状態よりも明らかにきれいであった。
実施例1のリサイクル方法では、対照例1に比較して、長期間にわたり、問題なく連続した製版処理が可能であり、現像浴内の汚れ発生が抑制され、メンテナンス性に優れるものであった。
【0093】
〔比較例1〕
前記実施例1の方法において、製版処理廃液の濃縮を容量比で1/2倍とした以外は、実施例1と同様の処理を行った。この方法によれば、廃棄すべき濃縮廃液量は870Lとなり、廃液量が実施例1に比較して増加した。実施例1と同様にして、3ヶ月使用後、一旦、現像液、リンス水を自動現像機から抜いて、自動現像機の現像浴、水洗浴を観察したが、凝集物の残存はほとんど認められなかった。
【0094】
〔比較例2〕
前記実施例1の方法において、製版処理廃液の濃縮を容量比で1/10倍とした以外は、実施例1と同様の処理を行った。実施例1と同様にして、15000版を3ヶ月で処理しようとしたところ、廃液濃縮装置の蒸発釜に析出物が発生し、停止してしまい、処理が継続できなかった。
【0095】
〔比較例3〕
現像補充液XP−DRの希釈比率および補充量を対照例1と同じ標準設定にした以外は、実施例1と同様のテストを行った。このとき、再生水は、希釈水、或いは、リンス水として使用され、濃縮廃液量は250Lであった。
対照例1と同様にして、3ヶ月で15000版を処理後、一旦、現像液、リンス水を自動現像機から抜いて、自動現像機の現像浴、水洗浴を観察したところ、析出物の残存が確認された。
その後、現像液、リンス水をそのまま、自動現像機10の現像浴、リンス浴にそれぞれ戻し、さらに追加で10000版を処理したが、問題なく処理することができた。25000版処理後の自動現像機の現像浴、水洗浴への残存状況を観察したところ、現像浴に析出物が存在し、一部現像浴に固着して洗浄に手間がかかった。
【0096】
〔比較例4〕
現像補充液XP−DRの希釈比率を標準の1.3倍希釈とし、補充量を対照例1と同じ標準設定量とにした以外は、実施例1と同様のテストを行った。このとき、製版処理廃液より得られた再生水は、現像補充液の希釈水、及びリンス水の少なくとも一方として使用され、濃縮廃液量は240Lであった。
対照例1と同様にして評価しところ、製版1500版目で、現像液の活性が低下して印刷物の非画像部が現像不良となった。
このように、本発明のリサイクル方法によれば、設備のメンテナンス性に優れ、長時間連続的に製版処理した場合においても、析出物の発生が抑制され、且つ、排出される製版処理廃液の量が極めて少ないところ、製版処理廃液の濃縮率、現像補充液の希釈倍率、供給量のいずれかが本発明の範囲外である比較例1〜比較例4では、本発明の優れた効果は得られないことがわかる。
【符号の説明】
【0097】
10 自動現像機
20 中間タンク
30 廃液濃縮装置
40 廃液回収タンク
50 再生水タンク
60 蒸留再生水再利用装置
70 補充水タンク
80 現像補充液タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動現像機において、感光性平版印刷版用現像液を用いて感光性平版印刷版の製版処理を行った際に排出される製版処理廃液を、廃液濃縮装置で蒸発濃縮して水蒸気と溶解成分とに分離することを含む製版処理廃液のリサイクル方法であって、
前記自動現像機から排出される前記製版処理廃液を、蒸発釜と冷却手段とを備える廃液濃縮装置における蒸発釜中で加熱手段により加熱して容量基準で1/5〜1/8量となるように蒸発濃縮すること、
前記製版処理廃液より蒸発濃縮された際に分離された前記水蒸気を前記蒸発釜より導出し、冷却手段中で凝縮して再生水とすること、
前記再生水を前記自動現像機における希釈水及びリンス水の少なくとも一方として前記自動現像機に供給すること、及び、
前記自動現像機に供給する現像補充液として、現像浴中での現像液の標準活性度を満たす条件に適合するように、少なくとも前記希釈水を用いて、標準濃度より1.2倍から2倍に希釈した現像補充液を標準供給量の1.3倍〜2倍量補充すること、を含む
感光性平版印刷版の製版処理廃液のリサイクル方法。
【請求項2】
前記前記自動現像機に供給する希釈された現像補充液とともに、リンス水を標準供給量の1.5倍〜5倍量供給する請求項1に記載の感光性平版印刷版の製版処理廃液の処理方法。
【請求項3】
前記自動現像機に用いられる現像液が、緩衝作用を有する有機化合物と塩基とを主成分とし、二酸化ケイ素を含有しないアルカリ現像液である請求項1又は請求項2に記載の感光性平版印刷版の製版処理廃液の処理方法。
【請求項4】
前記自動現像機に用いられる、標準濃度より1.2倍から2倍に希釈した現像補充液のpHが12.5〜13.5の範囲である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の感光性平版印刷版の製版処理廃液のリサイクル方法。
【請求項5】
前記蒸発釜内部を減圧手段で減圧して前記現像廃液を加熱濃縮する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の現像処理廃液のリサイクル方法。
【請求項6】
前記再生水を前記自動現像機における希釈水及びリンス水の少なくとも一方として前記自動現像機に供給する手段が、再生水を自動現像機に供給する配管と、配管内の圧力を測定する圧力計と、ポンプとを備える蒸留再生水再利用装置である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の感光性平版印刷版の製版処理廃液のリサイクル方法。
【請求項7】
前記蒸留再生水再利用装置が備える圧力計で測定された圧力値に応じて、前記ポンプの駆動を制御し、前記蒸留再生水再利用装置から前記自動現像機への前記再生水供給量を制御する請求項6に記載の感光性平版印刷版の製版処理廃液のリサイクル方法。

【図1】
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【図2】
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