説明

感温ペレット型温度ヒューズ

【課題】 感温ペレット型温度ヒューズの動作温度が高精度を維持しつつ応答速度を速めることのできる感温材を提示し、50〜180℃の動作温度を有する感温ペレット型温度ヒューズを提供する。
【解決手段】 金属ケース外囲器12には一端開口側で固着した第1リード導出部14と他端開口側でかしめ固定した第2リード導出部16の一対のリード部材が取付けられ、この金属ケース外囲器12内に感温ペレット10と可動導電体20と強弱圧縮ばね24,26を含むスイッチング部材を収容して感温ペレット型温度ヒューズが構成される。ここで、感温ペレット10はポリオレフィン系ワックスを含み、必要に応じて熱可塑性樹脂を混合して使用され、動作温度を高精度に維持しつつ応答速度を速めた感温ペレット型温度ヒューズを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は熱可塑性ワックスのポリエチレン、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン系ワックスを感温物質として選定使用した温度ヒューズに関する。
【背景技術】
【0002】
非導電体感温材(以下、単に感温材ということがある。)を使用する感温ペレット型温度ヒューズは、通常、ペレット状に成形加工した感温材の軟化溶融する所定の温度で作動して機器や装置の電流通電路を遮断して機器類を保護する、いわゆる非復帰型温度スイッチである。作動する温度(動作温度)は使用する感温材の組成物でほぼ決められ、これにスプリング等のスイッチング部品の選定や調整により動作温度を設定している。たとえば、感温ペレット型温度ヒューズでは、両端にリードを取付けた金属外囲器内に非導電体感温材をペレット成型して使用され、これに圧縮ばね等のスプリング体やスライド可動する接点用導電体を含むスイッチング部材を金属ケースの所定位置に配置収容して構成される。ペレット成型する感温材は、純粋な化学物質単体のほかに熱可塑性樹脂材を単体または複合体として使用される。この場合、感温ペレットが所定の動作温度で軟化または溶融し、圧縮ばねの押圧作用で可動導電体の接点を移動させて一対の導出リード間を遮断する。感温ペレットの感温材は、造粒および打錠を含む所定の成形加工によりペレット化されるが、最近は感温材として動作温度の調整に関する改良から特性的に有利な熱可塑性樹脂材が使用されている。
【0003】
特許文献1ないし特許文献3は、感温材に非導電体の熱可塑性樹脂材を使用した感温ペレット型温度ヒューズとして本発明者の提案にかかる改良された構造を開示している。これらは、熱可塑性樹脂を感温材として使用する際の良好な加工性や動作特性のいくつかの問題を解決する方法を提示する。たとえば、樹脂材選定や、動作温度の調整手段および経時的変化に伴う特性劣化の適切な対応策を示している。
【0004】
【特許文献1】特開2003−317589号公報
【特許文献2】特開2005−158681号公報
【特許文献3】特開2006−260926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
感温ペレット型温度ヒューズは、両端にリード線を取付けた金属外囲器内に非導電性の感温ペレットを圧縮ばねと可動導電体と共に収容して構成され、所定の動作温度に達すると感温ペレットが軟化または溶融し、圧縮ばねの押圧作用で可動導電体の接点を移動させる。しかし、熱可塑性樹脂を感温ペレットに使用した上述の感温ペレット型温度ヒューズは、比較的低温領域の動作温度の設定が難しいとか、所定の動作温度で作動に要する時間が長いといった問題点があった。低温領域の感温材として、天然のワックスである動物系のシェラックワックス、植物系のカルナバワックスあるいは鉱物系のパラフィンワックス等のワックスの使用が考えられるが、これらの天然のワックスは融解ピークが複雑でかつ、融解する温度域が広いため動作温度が安定しないという欠点があった。また、これら天然のワックスは、ペレット状に加工する際、離型性が悪く、また、作業中に人の手に触れるとべとつく等の取り扱いの面に問題がある。
【0006】
したがって、本発明の目的は天然由来のワックスではなく、化学合成により得られた合成ワックスを用いた感温ペレットによる感温ペレット型温度ヒューズの提供である。ここで合成ワックスとは熱可塑性ワックスとして熱可塑性樹脂とは区別される。本発明において合成ワックスとはゲルパーミエイションクロマトグラフ(GPC)法により測定した重量平均分子量が100,000(Mw)以下であるものを意味し、上述する問題点を解消し、作動が早く機敏に動作可能でかつ感温材が機械的物性面での保持力、硬度および靭性のバランス、および加工性および取扱い性に優れた特性を有する。なお、上記GPC法により測定した重量平均分子量はポリスチレン換算値であり、本発明において特に断らない限り同様の値を意味する。
【0007】
本発明の他の目的は、感温物質に熱可塑性ワックスであるポリオレフィン系ワックスを選定し、必要に応じて熱可塑性樹脂、酸化防止剤、可塑剤、充填材等の補助材を混合または添加して使用することである。ここで、ワックスの重量平均分子量は硬度面から規制して所定の動作温度を有する感温ペレット型温度ヒューズを提供する。なお、熱可塑性樹脂は、同系のポリオレフィン系樹脂と混合して使用して動作温度の微調整やペレット成型を容易にすることができる。たとえば、従来の射出成型や押出成型といった方法でペレット状に加工することができると共に特性上の変動が生じ難くて安定かつ作動時間を短縮し得る感温ペレット型温度ヒューズが提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、スイッチング可動部材およびポリオレフィン系ワックスを含む感温ペレット部材を一対の導出リードを装着した筒状外囲器に収容し、前記感温ペレット部材の軟化溶融に伴う形状変形で前記スイッチング可動部材を作動させ、前記導出リード間をカットオフ状態に切替える感温ペレット型温度ヒューズが提供される。ここで、前記感温ペレット部材は酸化防止剤等が添加され、動作温度が50〜180℃、好ましくは50〜90℃の動作温度範囲内に設定されるものを提供する。さらに、前記ポリオレフィン系ワックスがポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリアルファオレフィンの1種または2種以上から選定される。
【0009】
本発明の別の観点において、主成分にポリオレフィン系ワックスを含む感温ペレット部材を使用して動作温度範囲を50〜180℃の範囲内に設定した感温ペレット型温度ヒューズにおいて、結晶性高級アルファオレフィン重合体および炭化水素系ワックス組成物が好ましい。また、ポリオレフィン系ワックスがメタロセン触媒を利用して製造されたものやゲルパーミエイションクロマトグラフ(GPC)法により測定した重量平均分子量が1,000〜100,000(Mw)の範囲内であり、具体的には硬度としてJIS K 2207の測定法による針入度が10以下とすることを開示する。このように、動作温度が50〜180℃の範囲内で設定可能にして低温領域の動作温度を有する感温ペレット型温度ヒューズを提供することで新規用途面も開拓され、その実用的効果は高く評価されることになる。また、ペレットの成型方法として射出成型や押出成型を適用する場合の成形性を改良するために、ポリオレフィン系ワックスにポリオレフィン系樹脂を任意に混合することでワックスのみの成形性悪化を防止できる。その場合の混合する樹脂材料は、ポリオレフィン系ワックスと融点が近い材料から選ぶのが望ましくそれにより動作温度の微調整が可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、感温ペレット部材はポリオレフィン系ワックスを含有しているので動作温度の設定が50℃程度の低温領域でも作業上のトラブルもなく製作できかつ所定の動作温度で確実容易に作動する感温ペレット型温度ヒューズを提供する。特に、ポリオレフィン系ワックスの機械的物性面で諸特性のバランスがよく、適度な硬度を選定することで従来のパラフィンワックスの欠点を排除でき、所定の動作温度で迅速で機敏な作動を実現する。たとえば、結晶性高級アルファオレフィン重合体、またはこれと炭化水素系ワックスを含むワックス組成物を使用することで感温ペレット部材は、低融点ワックスとしてシャープな融解特性に加えて保持力および硬度等のバランスに優れ、感温ペレット型温度ヒューズとしての製造工程における作業性向上と共に製品使用過程における信頼性の改善が図れる。
【0011】
本発明に係るポリオレフィン系ワックスを主成分とする感温材の着目は、必要に応じて、他の熱可塑性樹脂材や酸化防止剤、可塑剤または充填材の補助材を添加して感温ペレット自体の諸特性の改善を実現する。特に、低温領域の50〜90℃の範囲内で動作温度を設定できることと、特性上の変動が生じにくいことを重視し、安定かつ迅速な応答で作動時間を短縮できることは感温ペレット型温度ヒューズの実用価値を高め信頼性を向上させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施形態は、金属ケース外囲器と、この金属ケース外囲器に一端でかしめ固定した第1リード導出部と他端で絶縁ブッシングを介して固着した第2リード導出部を含む一対のリード部材と、金属外囲器に収容されたスプリング体、可動導電体および感温ペレットを含むスイッチング部材を具備し、感温ペレットの感温材の軟化溶融により所定の動作温度で一対のリード部材間の電気回路をカットオフする非復帰形温度ヒューズにおいて、感温材にはポリオレフィン系ワックスが主成分として使用され、特に、ワックスの融点が所望する動作温度に近い材料のワックスを選択することで、動作温度が50〜180℃の範囲内で設定され、感温ペレットの熱変形によりスイッチング部材を作動して回路遮断させる感温ペレット型温度ヒューズである。従来、パラフィンワックスを主成分に用いた低温領域用感温材はブロードな融解温度特性と取り扱いの困難さが欠点となり、約90℃より低い領域での実用化が困難であった。この点、本発明の感温材の使用は、50〜90℃の動作温度を有する感温ペレット型温度ヒューズであっても作動が機敏で精度が高く信頼性の高いものが得られる。
【0013】
具体的には、図1に示すように、金属外囲器12には一端開口側で固着した第1リード導出部14と他端開口側でかしめ固定した第2リード導出部16の一対のリード部材が取付けられ、この金属外囲器12内に感温ペレット部材10と可動導電体20と、強圧縮ばね24および弱圧縮ばね26を含むスプリング体とを含むスイッチング機能部材(スイッチング可動部材)を収容して感温ペレット型温度ヒューズが構成される。ここで、感温ペレット部材10はポリオレフィン系ワックスが感温材の主材料に使用され、50〜180℃、実施例は具体的に融点が90〜152℃のもので、所定の動作温度を設定する感温ペレット型温度ヒューズを提供する。
【0014】
ここで、感温ペレット部材を構成する組成物はポリオレフィン系ワックスに他の熱可塑性樹脂材、好ましくは同系の樹脂が混合されたり、可塑剤、ゴム材、充填材、酸化防止材等の添加物が添加されたりして使用され、動作温度の調整がなされる。また、ポリオレフィン系ワックスはチーグラー系触媒使用とメタロセン触媒使用の異なる方法で製造されるが、チーグラー系触媒に比べてメタロセン触媒のポリオレフィン系ワックスを使用することが好ましいことが判明した。なお、メタロセンはメタロセン触媒を使用して重合したポリマー(例えば、メタロセン触媒を用いて製造された、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)やポリプロピレンのことである。メタロセン触媒を使用して重合したポリマーは、分子量分布や結晶性が均一である。低分子量成分が少ないためべたつき成分が少ない、また、融解範囲が狭いという特徴を持っている。具体的には、融点が100〜140℃のポリエチレンと融点が120〜175℃のポリプロピレンである。ここでポリプロピレンには、低融点をもったランダム共重合体も含まれる。さらにポリオレフィン系ワックスはポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリアルファオレフィンを1種または2種以上を使用することが好ましいことが判明した。
【0015】
また、ポリオレフィン系ワックスは、ゲルパーミエイションクロマトグラフ(GPC)法により測定した重量平均分子量が1,000〜100,000(Mw)の範囲内にあることが望ましい。具体的には、測定装置としてWaters社製アライアンスGPC2000、溶出温度は140℃、使用カラムはWaters社製styragel GPC column 4.6mm×300mm(HT−3,HT−4,HT−6Eの3本を直列)、分子量標準物質サンプルとしてポリスチレン(Shodex社製、分子量5030、55100、696000、3740000、1990、13900、197000、2210000)を用いたGPC法により測定した値をいう。また、本発明は、このようなポリオレフィン系ワックスであって、JIS K 2207の測定法による針入度が10以下の硬度のものを選択した感温ペレット型温度ヒューズを提供する。ここでJISに規定された針入度試験方法の概要は、試料を加熱溶融して試料容器に採り、放冷した後、恒温水浴中で一定温度に保ち、質量の合計を100gにした規定の針を試料中に垂直に5秒間進入させる。針の進入度は、針の進入深さを0.1mm単位まで測定し、これを10倍した数値(無名数)で表している。
【0016】
本発明の着眼点は感温材としてポリオレフィン系ワックスが低温領域の動作温度で安定し迅速に作動するなど顕著な差異的特長を見出したことにある。感温ペレット部材が結晶性熱可塑性樹脂を感温材として使用する従来のものであっても、樹脂材は千差万別であり、この中から特定物質を選択するにはそれぞれの特性を認識して感温ペレットとしての工業的利用性を考慮しなければならない。選定には多くの試行錯誤を経て決定されたが、本発明は低温領域の感温材の選択のなかで特に注目したものである。感温ペレット型温度ヒューズの動作温度は、スイッチング可動部材のスプリング体のばねによる押圧力で微調整できるので、使用する感温材の有する融点が選択されれば、所定の動作温度は容易に設定できる。たとえば、ポリオレフィン系ワックスの場合は、その融点、補外融解開始温度(Tim)と補外融解終了温度(Tem)から任意に決められるように、本発明の場合温度ヒューズ用感温材としての適否は選択したポリオレフィン系ワックスの作動の機敏性、機械的物性を考慮して実験的に明らかにされる。
【0017】
所定の動作温度の設定は熱変形温度の選択であり、ポリオレフィン系ワックスの融点の範囲内、すなわち上記TimとTemの範囲内で調整できる。また、熱変形温度の調整手段として重量平均分子量を任意に変えることによって実現可能である。本発明によると、好ましくは重量平均分子量1,000〜100,000(Mw)の範囲から選ぶことができ、より好ましくは重量平均分子量が1,000〜50,000の範囲から選ぶことができることを見出した。また、これに可塑剤や充填材を添加することで熱変形温度を上げる、あるいは下げることでもできる。また、補助材としての添加剤、強化材および充填材の3つに分類される樹脂用副資材があるが、添加剤には一般的に酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、結晶核剤、相溶化剤、着色剤、抗菌剤、抗カビ剤、滑剤、発泡剤がある。注目の添加剤は酸化防止剤、熱安定剤、結晶化度をあげる結晶核剤および温度帯を識別する着色剤がある。強化材には、マイカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維、ゴム材、炭素繊維、アラミド繊維等があり、これらは共重合やエラストマーで感温ペレットが必要以上に軟化した場合や高温での感温ペレットの物理的な寸法安定性を維持する必要がある際に添加する。充填材にはタルク、クレー、炭酸カルシウム等の増量剤があり、増量剤は樹脂原料のコストを抑えるために樹脂中に加える。他に樹脂が燃え難くするための難燃剤、樹脂が電気を蓄えないように混入する帯電防止剤がある。また、動作温度の微調整はスイッチング可動部材のうちスプリングの調整でも可能である。また、酸化防止剤としては、フェノール系、リン系、硫黄系などを例示することができ、本発明における酸化防止剤として、ラクトン系、ヒドロキシルアミン系、ビタミンE、金属不活性剤等の耐熱安定剤を含むことができる。なかでも、フェノール系と硫黄系の酸化防止剤を添加した場合、オレフィン系ワックスを含む感温ペレット型温度ヒューズの性能を向上させることができる。
【実施例】
【0018】
図1および図2は本発明に係る実施例の感温ペレット型温度ヒューズを示し、それぞれ図1が常温の平常時の感温ペレット型温度ヒューズの部分断面図であり、図2が異常温度上昇後の感温ペレット型温度ヒューズの部分断面図である。図1に示すように、本発明に係る感温ペレット型温度ヒューズは、この感温ペレット部材10を円筒形の金属外囲器12に後述するスイッチング機能部材を収容して構成される。金属外囲器12は一対のリード部材が取付けられる。すなわち、その一端開口側に第1リード導出部14が固着され、他端開口側に第2リード導出部16が、かしめ固定される。第1リード導出部14は絶縁ブッシング17を貫通して金属外囲器12と絶縁され金属外囲器12の内部に伸び、その先端15が第1電極として形成される。第1リード導出部14の外部導出には保護用の絶縁碍管18が配置され金属外囲器12開口を封着する封止樹脂19により固着封止される。一方、第2リード導出部16は金属外囲器12と直接かしめにより密着固定され、金属外囲器12自体の内面が第2電極として形成される。金属外囲器12に収容されるスイッチング機能部材には、前述する感温ペレット部材10、中央接点部と星形周辺接点部を有する可動導電体20および強圧縮ばね24と弱圧縮ばね26を含むスプリング体がある。ここで、強弱圧縮ばねのスプリング体は、常温時は図1(A)に示すように、強圧縮ばね24が弱圧縮ばね26の弾性力に抗して可動導電体20を第1電極に押圧接触させている。特に、強圧縮ばね24はその両側に押圧板28および29を介在して感温ペレット部材10および可動導電体20の間に配置され、組立の容易化と共にばね動作の安定化が図られる。加温に伴う異常時は、図2(B)に示すように、軟化または溶融した感温ペレット(溶融後の感温ペレット部材11)が変形して弱圧縮ばね26の押圧力が作用して可動導電体20を移動させる。このとき強圧縮ばね24はそのストローク範囲からばねが解放され、弱圧縮ばね26のストローク範囲内で押圧力が可動導電体20を押して金属外囲器12内面の第2電極上を摺動する。この可動導電体20の移動は可動導電体20と第1電極の先端部15とが離反して電気回路をOFF状態にスイッチングする。なお、図1および図2に図示される感温ペレット型温度ヒューズは常時ON−異常時OFFの非復帰タイプの感温ペレット型温度ヒューズを構成する。
【0019】
本発明の感温ペレット型温度ヒューズは、一対の導出リードを装着した金属製の筒状の外囲器(金属外囲器)に、可動導電体を含むスイッチング可動部材および主成分にポリオレフィン系ワックスを含む感温ペレット部材を収容して構成され、感温ペレット部材の軟化溶融に伴う形状変形で可動導電体をスライドさせ、予め設定した動作温度範囲を50〜180℃の範囲内で、導出リード間をカットオフ状態に切替えるものである。ここで、感温ペレット部材はゲルパーミエイションクロマトグラフ(GPC)法により測定した重量平均分子量が1,000〜100,000(Mw)である化学的に合成された合成ワックスである。好ましくは、周知の結晶性高級アルファオレフィン重合体、またはこれと炭化水素系ワックスを含むワックス組成物が利用可能であり、それにより保持力および硬度、靭性等のバランスに優れ機械的物性の改善した感温ペレット型温度ヒューズを得ることができる。なお、ポリオレフィン系ワックスを主成分とする感温ペレットに異なる熱可塑性樹脂、熱可塑性ワックスを混合して使用でき、これに酸化防止剤などを添加した感温ペレット型温度ヒューズの提供も可能である。このうち実施例においては、6種類のポリオレフィン系ワックスを使用した試作実施品1〜6について、従来のパラフィンワックスとポリエチレン樹脂を用いた比較品1および比較品2と対比検討した。すなわち、それぞれに感温ペレットを作製し、これを用いて更に温度ヒューズを作製して比較検討した。
【0020】
【表1】

【0021】
表1は、本発明の実施品として検討の対象とした異なる6種類のポリオレフィン系ワックスと、比較品となる従来品のパラフィンワックスおよびポリエチレン樹脂に関する感温材料名およびその物理的諸特性値を示している。なお、ポリオレフィン系ワックスとしてはチーグラー系触媒およびメタロセン触媒の異なる製法による物質をとり上げて使用しており、表1の主な組成の項に括弧内にそれぞれ用いた触媒を記す。
【0022】
【表2】

【0023】
表2は表1に示すポリオレフィン系ワックスの実施品の感温ペレットで作製した温度ヒューズ、および比較品のパラフィンワックスおよびポリエチレン樹脂の従来品を感温ペレットに用いて作製した温度ヒューズについて、それぞれ5個の動作温度を示している。これによると、比較例のパラフィンワックスの動作温度のばらつきが最高動作温度と最低動作温度の差である△Tで10.1℃と大きい。これに比べ本発明のポリオレフィン系ワックスは、いずれの実施品も△Tで2℃以下であり、動作的に精度が優れていることが判明する。
【0024】
【表3】

【0025】
表3は、表2に示されたものと同様に、本発明の実施例であるポリオレフィン系ワックスを用いて作製した温度ヒューズの試作品と従来の感温ペレット部材を用いて作製した温度ヒューズの比較品について、オイルバスに入れた際、温度ヒューズが動作するまでに要する時間の測定値を示している。オイルバスの試験条件は、それぞれ所定の動作温度に対して20℃高いオイルバス中に温度ヒューズを浸漬させた場合、投入から動作に至る時間(動作するまでに要した時間、応答時間ともいう)を測定して行った。この表3の結果から明らかなように、応答時間は、本発明のポリオレフィン系ワックスを感温ペレットに組込んだ実施品1〜6では、比較品1のパラフィンワックスの応答速度には劣るものの従来技術の比較品2の分子量100,000以上のポリエチレン樹脂を感温ペレット部材に用いた場合に比べ格段に応答時間が改善されていることが判明した。ここで、感温ペレット部材としてのポリオレフィン系ワックスは、ポリオレフィン樹脂とは材料として明らかに異なる。さらに、好ましくは、ポリオレフィン系ワックスの重量平均分子量は1,000〜100,000(Mw)の範囲内から選定され、重量平均分子量が100,000(Mw)を超えるものでは応答時間が悪くなることが考えられ、100,000(Mw)が上限となる。
【0026】
【表4】

【0027】
表4は、表1に記載した材料を用いて感温ペレット型温度ヒューズを作製し、これを感温ペレット部材の融点に対してそれぞれ10℃低い温度に3000時間と5000時間保管した後の断線の有無を調べた結果である。試験数は、それぞれ10個ずつで実施している。この試験の結果、3000時間後に断線していたものは比較品1のパラフィンワックスが10個のうち10個が断線し、硬度25の実施品2において10個のうち2個断線していた。同様に、5000時間後では、硬度25の実施品2において10個のうち10個が断線し、硬度10の実施品3についても10個のうち1個が断線していた。このことから高温での使用条件が求められる温度ヒューズ用の感温ペレット部材に求められる特性としては硬度が10は実用上限界値であり、硬度10以下のものが好ましいことが分かる。
【0028】
また、上記実施例のポリオレフィン系ワックス中に例えば、フェノール系、りん系及び硫黄系の酸化防止剤を添加し、高温使用下での劣化を防止してもよく、また、充填材や可塑剤を添加して動作温度を調整しても良い。
【0029】
また、別の視点では、ワックスでも重量平均分子量が1,000(Mw)未満では、成形性、加工性及びその後の取り扱い時にべとつき等の問題がある。一方、分子量100,000(Mw)を超えるものは樹脂であり、本発明の課題である応答時間の改善と言う点において不利になる。したがって、ワックスの使用による応答時間の改善と同時に成形性の改善を図るために、ワックスと樹脂とを混合して使用することが好ましい。
【0030】
また、動作温度が50〜180℃の範囲内で比較的低温度領域の50℃〜90℃である場合には、ポリオレフィン系ワックスとして結晶性高級アルファオレフィン重合体及び炭化水素系ワックス組成物を感温ペレット部材に使用することができる。
【0031】
本発明のポリオレフィン系ワックスの重合方法においてチーグラー系触媒とメタロセン触媒を使用する方法があり、分子量分布の狭いことで知られるメタロセン触媒によるポリオレフィン系ワックスを使用することが感温ペレット型温度ヒューズ用の感温ペレット材料として好ましい。
なお、融点の選択によるポリオレフィン系ワックスを使用する場合、従来のパラフィンワックス等の天然品由来のワックスでは困難であった50〜90℃の領域をカバーすることができるのでポリオレフィン系ワックスの実用的効果は大である。
【0032】
本発明において、感温ペレット部材(10)の成形性を改善する方法として、熱可塑性樹脂、好ましくは、ポリオレフィン系ワックスと同系のポリオレフィン系樹脂を混合することができる。この時のポリオレフィン系樹脂には、ポリエチレン、ポリプロピレン等を用いることができ、混合割合は押出成型や射出成型が可能となる範囲で混合するそれぞれの材料により調整することができる。
【0033】
次に、樹脂とワックスとの混合する実施例についてポリエチレンワックスとポリエチレン樹脂を選定した場合の異なる配合割合の6種類の具体例を詳述する。表5は混合組成物の使用材料と6種類の異なる配合割合を示す。ここで、従来の比較品Aに対して、本発明の実施例は実施品B〜Fの5種類である。すなわち、ポリエチレン樹脂のみを感温材料とする比較品Aに対して、ワックスの組成割合が異なる感温材料を5種類用意して温度ヒューズを所定の方法で作製した。作製した温度ヒューズは各グループとも5個について初期動作温度が測定され、その測定結果を表6に示した。表5では個別の測定値と平均値、最大値max、最小値minおよびばらつきRを求めて示されている。この表から明らかなことは、ワックスの含有率に拘わらず初期動作温度は略一定のばらつきRの範囲内であり、温度ヒューズの動作温度に関してばらつきRを大きくすることはなく、高い動作精度を確保することが分かった。また、異なる融点を有する樹脂とワックスの混合は、配合割合に応じて動作温度が異なっている。それゆえ、異なる融点を有する樹脂とワックスをその配合割合を変更使用することにより、動作温度の微調整手段として有効であることが判明した。
【0034】
【表5】

【0035】
【表6】

【0036】
上述する5種類の実施品B〜Fおよび比較品Aに関し、温度ヒューズの応答特性について調査した測定結果が表7に示される。この調査は、試験条件として140℃のシリコーンオイル中に温度ヒューズの試験品を浸漬させた場合にそれぞれの温度ヒューズが動作するに至るまでの時間を測定して応答速度とした。試験品は配合割合の異なる各グループ毎3個について、動作に至るまでの時間を測定しており、これら3個の平均値で比較した。この調査結果から、応答速度はワックスの配合割合が大きい程応答速度が速くなることが判明した。また、100%樹脂の従来品に対して100%ワックスの本発明品では10秒差があることが確認された。したがって、これらの検討結果によって、ポリエチレンワックスを含む感温ペレット部材の温度ヒューズは、動作温度の精度を高く維持しつつ、応答速度を速めることに役立つことが明らかにされる。
【0037】
【表7】

【0038】
この発明を詳細に示してきたが、これは例示のためのみであって、限定となってはならず、発明の範囲は添付の請求の範囲によって解釈されることが明らかに理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る実施例の感温ペレット型温度ヒューズであって、正常常温時の感温ペレット型温度ヒューズの部分断面図である。
【図2】本発明に係る実施例の感温ペレット型温度ヒューズであって、異常温度上昇後の感温ペレット型温度ヒューズの部分断面図である。
【符号の説明】
【0040】
10;感温ペレット部材、 11;溶融後の感温ペレット部材、
12;金属外囲器、 14;第1リード導出部、 15;先端部、
16;第2リード導出部、 17;絶縁ブッシング、 18;絶縁碍管、
19;封止樹脂、 20;可動導電体、 24;強圧縮ばね、
26;弱圧縮ばね、 28、29;押圧板
A…正常常温時の感温ペレット型温度ヒューズ
B…異常温度上昇後の感温ペレット型温度ヒューズ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング可動部材と感温ペレット部材(10)と、第1リード導出部(14)および第2リード導出部(16)とからなる一対の導出リードと、金属外囲器(12)とを少なくとも含み、前記感温ペレット部材(10)は、ポリオレフィン系ワックスを含み、前記感温ペレット部材(10)を前記感温ペレット部材(10)の軟化または溶融に伴う形状変形により前記スイッチング可動部材を作動させ、前記一対の導出リード間をカットオフ状態に切り替える感温ペレット型温度ヒューズ。
【請求項2】
前記感温ペレット部材は前記ポリオレフィン系ワックスに熱可塑性樹脂を混合させたことを特徴とする請求項1に記載の感温ペレット型温度ヒューズ。
【請求項3】
前記感温ペレット部材(10)は酸化防止剤が添加された部材である請求項1または2に記載の感温ペレット型温度ヒューズ。
【請求項4】
前記感温ペレット部材(10)は動作温度が50〜180℃の動作温度範囲内に設定される溶融温度を有し、前記ポリオレフィン系ワックスは、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリアルファオレフィンからなる群より選択される1種または2種以上のポリマーからなる請求項1に記載の感温ペレット型温度ヒューズ。
【請求項5】
前記ポリオレフィン系ワックスは、結晶性高級アルファオレフィン重合体と炭化水素系ワックスとの組成物からなる請求項1に記載の感温ペレット型温度ヒューズ。
【請求項6】
前記ポリオレフィン系ワックスがメタロセン触媒を利用して製造されたことを特徴とする請求項1に記載の感温ペレット型温度ヒューズ。
【請求項7】
前記ポリオレフィン系ワックスがゲルパーミエイションクロマトグラフ(GPC)法により測定した重量平均分子量が1,000〜100,000(Mw)であることを特徴とする請求項1に記載の感温ペレット型温度ヒューズ。
【請求項8】
前記ポリオレフィン系ワックスはJIS K 2207の測定法による針入度が10以下の硬度を有することを特徴とする請求項7に記載の感温ペレット型温度ヒューズ。
【請求項9】
前記感温ペレット部材は前記ポリオレフィン系ワックスにポリオレフィン系樹脂を混合させたことを特徴とする請求項1に記載の感温ペレット型温度ヒューズ。
【請求項10】
前記ポリオレフィン系ワックスおよび前記ポリオレフィン系樹脂は、互いに異なる融点を有し、その配合割合を動作温度の調整手段としたことを特徴とする請求項9に記載の感温ペレット型温度ヒューズ。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−105038(P2009−105038A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245614(P2008−245614)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(300078431)エヌイーシー ショット コンポーネンツ株式会社 (75)
【Fターム(参考)】