説明

慢性炎症性腸疾患の際の鉄分布障害の処置におけるエリスロポエチンの使用

本発明は、慢性炎症性腸疾患の際の鉄分布障害の処置におけるエリスロポエチンの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エリスロポエチンの新規な使用、特に慢性炎症性腸疾患の際の鉄分布障害の処置に関するものである。
【0002】
鉄の代謝が正常でない、様々な疾患が知られている。貧血症では、体内の鉄の全体的な欠如のために、形成できる血液が不充分である。鉄に関係するもう一つの代謝状態は、血色素症であって、体内の鉄の全体的な濃度が正常より高く、それは、たとえば器官の破壊のような、様々な状態へと導く。
【0003】
鉄分布の障害は、体内の鉄の全体的濃度は正常であるため、上記の貧血症および血色素症とは異なる。一方では、鉄は、様々な器官に蓄積され、これらの器官の損傷および破壊へとさえ導きかねない。他方では、正常な量で存在する鉄を血液の形成に用いることが損なわれて、貧血症に関連するものに匹敵し得る副次的影響へと導く。
【0004】
現在まで、慢性炎症性腸疾患に罹患した患者は、鉄分布障害に冒されている可能性が高いということは、公知ではなかった。鉄分布障害は、鉄の状態の診断に一般的に用いられる、様々なパラメーターによって診断することができる。フェリチンおよび可溶性トランスフェリンレセプターの測定に基づいて、慢性炎症性腸疾患に罹患した患者における鉄の全体的濃度が正常であるか否かを査定することが可能である。これが事実ならば、網状赤血球内のヘモグロビン濃度の低下は、鉄分布障害に関する指標となる。もう一つの指標は、慢性炎症性腸疾患に罹患した、正常な全体的鉄濃度を示す患者における、C反応性タンパク質(CRP)の濃度の連続的または遅延性の上昇である。鉄分布障害を診断する方法は、P. Lehmann、M. Volkmann、J. Lotz、A. Baldauf、R. RoeddigerがAACC/CSCC, Annual Meeting(July 29-August 2, 2001, Chicago, IL)でポスター提示して記載している。
【0005】
これまで、鉄分布の障害を有する慢性炎症性腸疾患の患者に対する処置は、何ら示唆されていない。したがって、本発明の基調となる課題は、慢性炎症性腸疾患の際の鉄分布障害に対する、上に列挙された短所を最小化または克服するための処置を提供することである。驚異的なことに、エリスロポエチンは、慢性炎症性腸疾患の際の鉄分布障害に対して有益な効果を有することが見出された。したがって、この課題は、本発明によれば、慢性炎症性腸疾患の際の鉄分布障害の処置に用いるためにエリスロポエチンを提供することによって解決される。
【0006】
別途指示されない限り、本明細書における発明を説明するのに用いられる、様々な用語の意味および範囲を例示かつ規定するために、下記の定義を解説する。
【0007】
用語「低級アルキル」は、本明細書に用いられる限りで、1〜6個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルキル基を意味する。低級アルキル基の例には、メチル、エチルおよびイソプロピル、好ましくはメチルが挙げられる。
【0008】
用語「低級アルコキシ」は、本明細書に用いられる限りで、R’が上記のとおりの低級アルキルである、基R’−O−を意味する。
【0009】
用語「慢性炎症性腸疾患の際の鉄分布障害」は、慢性炎症性腸疾患に罹患した患者に発生する、鉄分布の障害を意味する。鉄分布障害は、たとえば、上記のように特徴付けることができる。特に、鉄分布障害は、次のパラメーター:log(フェリチンの濃度[μg/L])で除した可溶性トランスフェリチンレセプターの濃度[mg/L]が3.5より少なく、同時にC反応性タンパク質の濃度が5mg/Lを上回ることによって特徴付けられる。
【0010】
用語「エリスロポエチン」または「エリスロポエチンタンパク質」は、骨髄細胞に網状赤血球および赤血球の産生を増大させるin vivoでの生物学的活性を有し、かつヒトエリスロポエチン、および以下に定義される類似体からなる群から選ばれるタンパク質を意味する。
【0011】
用語「PEG付加されたエリスロポエチン(Peg−EPOまたはPEG−EPO)」は、以下に記載されるような1〜3個のポリエチレン誘導体に共有結合で結合された、エリスロポエチンタンパク質を意味する。
【0012】
より詳しくは、本発明は、慢性炎症性腸疾患の際の鉄分布障害の処置のための医薬の製造における、エリスロポエチンの使用に関するものである。慢性炎症性腸疾患の例は、たとえば、クローン病とも呼ばれるモルブス・クローン、および潰瘍性大腸炎である。好適実施態様では、本発明は、慢性炎症性腸疾患がクローン病である、上記に定義されたとおりの使用に関するものである。もう一つの好適実施態様では、本発明は、慢性炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎である、上記に定義されたとおりの使用に関するものである。
【0013】
本発明は、エリスロポエチンを薬学的活性成分として含む医薬組成物の製造に特に役立つ。用語「エリスロポエチン」または「エリスロポエチンタンパク質」もしくは「EPO」は、下記のとおりである:特に、この用語は、その生物学的特性が赤血球産生の刺激、ならびに骨髄中の決定された赤血球前駆細胞の分裂および分化の刺激に関連する、糖タンパク質、たとえば、(配列番号:1)もしくは(配列番号:2)で示されるアミノ酸配列をたとえば有するヒトエリスロポエチン、またはそれに実質的に相同なアミノ酸配列を意味する。本明細書に用いられる限りで、これらの用語は、たとえば部位特異的突然変異誘発によって、意図的にか、または突然変異を通じて偶発的に修飾されたようなタンパク質を包含する。これらの用語は、糖鎖付加のための1〜6個の追加の部位を更に有する類似体、糖タンパク質のカルボキシル末端に少なくとも一つのアミノ酸を更に有する類似体(追加のアミノ酸は、少なくとも一つの糖鎖付加部位を含む)、および糖鎖付加のための少なくとも一つの部位の転位を含むアミノ酸配列を有する類似体も包含する。これらの用語は、天然のヒトエリスロポエチンと、組換えによって生成されたヒトエリスロポエチンとの双方を包含する。本発明の好適実施態様では、エリスロポエチンタンパク質は、ヒトエリスロポエチンである。
【0014】
以下に詳述するように、EPOの製造および精製は、当技術に周知である。エリスロポエチンとは、組織、タンパク質合成、天然または組換え細胞での細胞培養のような、慣用のいかなる入手源からも得られるような、天然または組換えタンパク質、好ましくはヒトのそれ、たとえばエポエチンαまたはエポエチンβを意味する。エリスロポエチンの活性を有するいかなるタンパク質、たとえばムテイン(mutein)または別途修飾されたタンパク質も包含される。本発明の好適実施態様では、エリスロポエチンタンパク質は、エポエチンαまたはエポエチンβである。組換えEPOは、組換えDNA技術または内在性遺伝子活性化によって、CHO−、BHK−もしくはHeLa細胞系での発現を通じて調製し得る。内在性遺伝子活性化によるのをはじめとする、タンパク質の発現は、当技術に周知であり、たとえば米国特許第5,733,761号、第5,641,670号および第5,733,746号明細書、ならびに国際公開第93/09222号、第94/12650号、第95/31560号、第90/11354号、第91/06667号および第91/09955号公報(WO93/09222、WO94/12650、WO95/31560、WO90/11354、WO91/06667およびWO91/09955)に開示されていて、そのそれぞれの内容は、引用により本明細書に援用される。エリスロポエチンタンパク質を内在性遺伝子の活性化によって発現させる、上記に定義されたとおりの使用が好ましい。エリスロポエチン糖タンパク質生成物の製造に好適なEPO種は、ヒトEPO種である。より好ましくは、このEPO種は、配列番号:1または配列番号:2に示されるアミノ酸配列、より好ましくは配列番号:1のアミノ酸配列を有するヒトEPOである。したがって、本発明の好適実施態様は、エリスロポエチンタンパク質が配列番号:1または配列番号:2のアミノ酸配列を有する、上記に記載されたような使用に関するものである。
【0015】
更に、エリスロポエチンは、糖鎖付加のための1〜6個の追加の部位を有する糖タンパク質類似体であってもよい。したがって、本発明は、エリスロポエチンタンパク質が1〜6個の糖鎖付加部位の追加によって修飾されたヒトエリスロポエチンの配列を有する、上記に記載されたとおりの使用にも関するものである。一つまたはそれ以上のオリゴ糖の基によるタンパク質の糖鎖付加は、ポリペプチド骨格沿いの特定の位置で発生し、タンパク質の安定性、分泌、細胞下レベルでの局在、および生物学的活性のような、タンパク質の物理学的特性に多大な影響を及ぼす。糖鎖付加には、通常、二つの形式がある。O結合オリゴ糖は、セリンまたはトレオニン残基に結合し、N結合オリゴ糖は、アスパラギン残基に結合する。N結合およびO結合双方のオリゴ糖で見出される一形式のオリゴ糖は、N−アセチルノイラミン酸(シアル酸)であって、これは9個またはそれ以上の炭素原子を有するアミノ糖の一群である。シアル酸は、通常、N結合およびO結合双方のオリゴ糖の末端残基であり、負の電荷を有するために、糖タンパク質に酸性の特性を付与する。165個のアミノ酸を有するヒトエリスロポエチンは、3本のN結合オリゴ糖鎖および1本のO結合オリゴ糖鎖を有して、それらは、この糖タンパク質の総分子量の約40%を構成する。N結合糖鎖付加は、第24、38および83位に位置するアスパラギン残基で生じ、O結合糖鎖付加は、第126位に位置するセリン残基で生じる。このオリゴ糖鎖は、末端シアル酸残基によって修飾される。糖鎖付加されたエリスロポエチンからのすべてのシアル酸残基の酵素による除去は、エリスロポエチンのシアリル化が、その結合、及びその後の肝臓の結合タンパク質によるクリアランスを阻害するため、in vivo活性の低下を招くが、in vitro活性の低下は招かない。
【0016】
用語「エリスロポエチン」は、ヒトエリスロポエチンのアミノ酸配列の一つまたはそれ以上の変化(これはシアル酸の結合部位の数の増加を招く)を有する、ヒトエリスロポエチンの類似体も包含する。これらの糖タンパク質類似体は、アミノ酸残基の付加、欠失または置換を有する部位特異的突然変異誘発(糖鎖付加に利用できる部位を増加または変化させる)によって生成し得る。ヒトエリスロポエチンに見出されるものよりも高いシアル酸レベルを有する糖タンパク質類似体は、生物学的活性に必要とされる二次または三次立体構造を乱さない、糖鎖付加部位の追加によって生成される。本発明の糖タンパク質は、通常は、N結合またはO結合部位のごく近傍での一つまたはそれ以上のアミノ酸の置換を要する、糖鎖付加部位での炭水化物の結合レベルが上昇した類似体も包含する。本発明の糖タンパク質は、エリスロポエチンのカルボキシル末端から一つまたはそれ以上のアミノ酸が延伸して、少なくとも一つの炭水化物部位を更に与えている類似体も包含する。本組成物のエリスロポエチンタンパク質は、糖鎖付加のための少なくとも一つの部位の転位が含まれる、アミノ酸配列を有する類似体も包含する。糖鎖付加部位のそのような転位は、ヒトエリスロポエチンにおける一つまたはそれ以上の糖鎖付加部位の欠失、および天然には産しない一つまたはそれ以上の糖鎖付加部位の付加を包含する。エリスロポエチンの炭水化物鎖の数の増加、したがってまたエリスロポエチン1分子あたりのシアル酸の数の増加は、可溶性の上昇、タンパク質分解に対する耐性の上昇、免疫原性の低下、血清半減期の延長、および生物学的活性の増大のような、好都合な特性を付与し得る。追加の糖鎖付加部位を有するエリスロポエチン類似体は、1995年3月1日に刊行された、Elliotに対する欧州特許出願公開第640 619号公報に更に詳しく開示されている。
【0017】
好適実施態様では、本発明の医薬組成物は、糖鎖付加のための少なくとも一つの追加の部位が含まれるアミノ酸配列を有する、エリスロポエチンタンパク質、例えば、非限定的には、下記のものから選ばれる修飾によって修飾されたヒトエリスロポエチンの配列を含むエリスロポエチンを含む:
【0018】
【表1】

【0019】
アミノ酸配列の修飾に関して本明細書に用いられる表記法は、対応する非修飾タンパク質(たとえば配列番号:1または配列番号:2のhEPO)の添字の数が示す位置が、それぞれの添字の数の直前のアミノ酸に変更されていることを意味する。
【0020】
エリスロポエチンタンパク質は、糖タンパク質のカルボキシル末端に少なくとも一つのアミノ酸を更に有する類似体であってもよく、この追加のアミノ酸は、少なくとも一つの糖鎖付加部位を有する。追加のアミノ酸は、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモンのカルボキシル末端に由来するペプチドフラグメントを包含し得る。好ましくは、この糖タンパク質は、(a)カルボキシル末端から延伸する、Ser−Ser−Ser−Ser−Lys−Ala−Pro−Pro−Pro−Ser−Leu−Pro−Ser−Pro−Ser−Arg−Leu−Pro−Gly−Pro−Ser−Asp−Thr−Pro−Ile−Leu−Pro−Glnなるアミノ酸配列を有するヒトエリスロポエチン;(b)Ser87 Asn88 Thr90 EPOを更に含む(a)の類似体;および(c)Asn30 Thr32 Val87 Asn88 Thr90 EPOを更に含む(a)の類似体からなる群から選ばれる類似体である。
【0021】
該エリスロポエチンタンパク質は、糖鎖付加のための少なくとも一つの部位の転位を含むアミノ酸配列を有する類似体であってもよい。この転位は、ヒトエリスロポエチンのN結合炭水化物部位のいずれかの欠失、およびヒトエリスロポエチンのアミノ酸配列の第88位でのN結合炭水化物部位の付加を包含し得る。好ましくは、該糖タンパク質は、Gln24 Ser87 Asn88 Thr90 EPO;Gln38 Ser87 Asn88 Thr90 EPO;およびGln83 Ser87 Asn88 Thr90 EPOからなる群から選ばれる類似体である。更なる類似体は、ダーベポエチンαである。前記の使用に好適なエリスロポエチンタンパク質は、ダーベポエチンαである。
【0022】
より詳しくは、上記のとおりの本医薬組成物のエリスロポエチンタンパク質は、そのPEG付加された誘導体も包含し得る。エリスロポエチンのPEG付加された誘導体およびその製造は、当技術に公知であり、たとえば、国際公開第01/02017号公報(WO 01/02017)、欧州特許出願公開第1064951号(EP-A-1064951)、第539,167号(EP-A-539,167)、第605,963号公報(EP-A-605,963)、国際公開第93/25212号(WO 93/25212)、第94/20069号(WO 94/20069)、第95/11924号公報(WO 95/11924)、米国特許第5,56号明細書、欧州特許出願公開第584,876号公報(EP-A-584,876)、国際公開第92/16555号(WO 92/16555)、第94/28024号公報(WO 94/28024)、米国特許第5,359,030号および第5,681,811号、第4,179,337号明細書、日本国特許、国際公開第98/32466号公報(WO 98/32466)、米国特許第3,324,650号明細書に記載されている。好ましくは、上記の使用においては、エリスロポエチンタンパク質は、PEG付加されている。PEG付加されたエリスロポエチン種の好適実施態様は、以下に記載されるような誘導体を意味する。
【0023】
上記により、本発明は、エリスロポエチンタンパク質が結合体であって、該結合体は、少なくとも一つの遊離アミノ基を有し、骨髄細胞に網状赤血球および赤血球の産生を増大させるin vivoでの生物学的活性を有し、かつヒトエリスロポエチン、および1〜6個の糖鎖付加部位の付加、または少なくとも一つの糖鎖付加部位の転位によって修飾されたヒトエリスロポエチンの配列を有するその類似体からなる群から選ばれる、上記のようなエリスロポエチンタンパク質を含み;該エリスロポエチンは、式−CO−(CH2x−(OCH2CH2m−ORで示されるn個のポリ(エチレングリコール)基(ここで、Rは低級アルキルであり;xは2または3であり;mは約450〜約900であり;nは1〜3であり;nおよびmは、エリスロポエチンタンパク質を除いた該結合体の分子量が20〜100キロダルトンになるよう選ばれる)に共有結合で結合されていて、各ポリ(エチレングリコール)基の−CO(すなわちカルボニル)は、該アミノ基の一つとアミド結合を形成している、上記のような使用も意味する。本発明は、更に、本明細書に記載された結合体を含有する医薬組成物であって、nが1である結合体の百分率が、該組成物のすべての結合体の少なくとも90%、好ましくは少なくとも92%、より好ましくは96%である医薬組成物を提供する。
【0024】
より具体的には、上記の結合体は、式(I):
【0025】
【化3】

【0026】
[式中、Pは、骨髄細胞に網状赤血球および赤血球の産生を増大させるin vivoでの生物学的活性を有する、本明細書に記載されたような(すなわち、アミノ基、または式Iで示されたカルボニルとのアミド結合を形成するアミノ基を含まない)エリスロポエチンタンパク質の残基であり;Rは低級アルキルであり;xは2または3であり;mは約450〜約900であり;nは1〜3であり;nおよびmは、エリスロポエチンタンパク質を除いた該結合体の分子量が20〜100キロダルトンになるよう選ばれる]
で表され得る。本発明によれば、Rは、いかなる低級アルキルでもある。Rがメチルである結合体が好ましい。
【0027】
記号「m」は、ポリエチレンオキサイドの基中の酸化エチレン残基(OCH2CH2)の数を表す。酸化エチレンの一つのPEG(ポリ(エチレングリコール))サブユニットは、約44ダルトンの分子量を有する。したがって、結合体の(EPOの分子量を除いた)分子量は、数「m」に依存する。本発明の結合体では、「m」は、約450〜約900(約20〜約40kDaの分子量に相当)、好ましくは約650〜約750(約30kDaの分子量に相当)である。数「m」は、得られる本発明の結合体が、修飾されていないEPOに匹敵する生理学的活性を有し、その活性が非修飾EPOの対応する活性と同じか、もしくはより強い活性、またはその一部を表すように選ばれる。「約」がついたある数の分子量は、それが、慣用の分析手法によって決定される限りで、その数の合理的な範囲内にあることを意味する。数「m」は、エリスロポエチン糖タンパク質に共有結合で結合された各ポリ(エチレングリコール)の基の分子量が、約20〜約40kDa、好ましくは約30kDaになるように選ばれる。
【0028】
本発明の結合体では、数「n」は、エリスロポエチンタンパク質の遊離アミノ基(リシンアミノ酸のε−アミノ基および/またはアミノ末端のアミノ基を包含する)にアミド結合を介して共有結合で結合したポリ(エチレングリコール)基の数である。本発明の結合体は、EPO1分子あたり1、2、または3個のPEG基を有してもよい。「n」は、1〜3にわたる整数であり、好ましくは「n」は、1または2であり、より好ましくは「n」は、1である。上記の結合体の好適な結合体は、xが2であり、mが650〜750であり、nが1であり、Rがメチルである化合物を含む。
【0029】
式(I)の化合物は、公知の重合体材料(II):
【0030】
【化4】

【0031】
[式中、Rおよびmは上記のとおりである]
から、式(II)の化合物をエリスロポエチン糖タンパク質と縮合させることによって製造することができる。xが3である式(II)の化合物は、ポリ(エチレングリコール)のα−低級アルコキシ、酪酸スクシンイミジルエステル(低級アルコキシ−PEG−SBA)である。xが2である式(II)の化合物は、ポリ(エチレングリコール)のα−低級アルコキシ、プロピオン酸スクシンイミジルエステル(低級アルコキシ−PEG−SPA)である。活性化されたエステルをアミンと反応させてアミドを形成する、慣用のいかなる方法も、利用することができる。上記の反応中、例示されたスクシンイミジルエステルは、アミド形成を引き起こす離脱基である。タンパク質との結合体を生成するための式(II)の化合物などのスクシンイミジルエステルの使用は、1997年9月30日に発行された米国特許第5,672,662号明細書(Harrisら)に開示されている。
【0032】
ヒトEPOは、9個の遊離アミノ基、すなわちアミノ末端アミノ基に加えて8個のリシン残基のε−アミノ基を含む。PEG付加試薬を式(II)のSBA化合物と組み合わせたときは、pH7.5で、1:3のタンパク質:PEG比、および20〜25℃の反応温度で、モノ−、ジ−、および痕跡量のトリ−PEG付加された種の混合物が生成されることが見出された。PEG付加試薬が式(II)のSPA化合物であるときは、タンパク質:PEG比が1:2であること以外は同じ条件で、もっぱらモノ−PEG付加された種が生成された。PEG付加されたEPOは、混合物としてか、または陽イオン交換クロマトグラフィーで分離される、異なるPEG付加種として投与することができる。反応条件(たとえば試薬の比率、pH、温度、タンパク質濃度、反応時間等々)を操作することによって、異なるPEG付加種の相対量を変動させることができる。
【0033】
本発明の更なる好適実施態様は、上記に定義されたとおりの使用であって、エリスロポエチンタンパク質が結合体であって、該結合体は、少なくとも一つの遊離アミノ基を有し、骨髄細胞に網状赤血球および赤血球の産生を増大させるin vivoでの生物学的活性を有し、かつヒトエリスロポエチンタンパク質、および1〜6個の糖鎖付加部位の付加によって修飾されたヒトエリスロポエチンタンパク質の一次構造を有するその類似体からなる群から選ばれる、上記に定着されたエリスロポエチンタンパク質を含み;該エリスロポエチンタンパク質は、1〜3個の低級アルコキシ−ポリ(エチレングリコール)基に共有結合で結合されていて、各ポリ(エチレングリコール)基は、エリスロポエチンタンパク質に、式−C(O)−X−S−Y−で示されるリンカーを介して共有結合で結合されていて、該リンカーのC(O)は、該アミノ基の一つとアミド結合を形成して、Xは−(CH2k−または−CH2(O−CH2−CH2kであり、kは1〜10であり、Yは:
【0034】
【化5】

【0035】
であり、各ポリ(エチレングリコール)部分の平均分子量は、約20〜約40キロダルトンであり、該結合体の分子量は、約51〜約175キロダルトンである、
【0036】
このエリスロポエチンの種は、式(III):
【0037】
【化6】

【0038】
で表してもよくて、ここで、Rは、いかなる低級アルキルであってもよい。好適な低級アルキルは、メチルである。Xは、−(CH2k−または−CH2(O−CH2−CH2k−であってもよく、ここで、kは1〜10である。好ましくは、kは、1〜約4、より好ましくは、kは1または2である。最も好ましくは、Xは−(CH2)である。
【0039】
式1で、Yは、
【0040】
【化7】

【0041】
である。
【0042】
式(III)で、数「m」は、得られる式(III)の結合体が、非修飾EPOに匹敵する生理学的活性を有して、その活性が、非修飾EPOの対応する活性と同じか、もしくはより強い活性、またはその一部を表すように選ばれる。mは、PEG単位中の酸化エチレン残基の数を表す。−(OCH2CH2)−という一つのPEGサブユニットは、分子量が約44ダルトンである。したがって、結合体の(EPOの分子量を除く)分子量は、数「m」に依存する。「約」がついたある数の分子量は、それが、慣用の分析手法によって決定される限りで、その数の合理的な範囲内にあることを意味する。mは、約450〜約900(20〜40kDaの分子量に相当)にわたる整数であり、好ましくは、mは、約550〜約800(約24〜35kDa)であり、最も好ましくは、mは、約650〜約700(約29〜約31kDa)である。
【0043】
式(III)で、数「n」は、アミド結合を介してPEG単位に共有結合で結合されたエリスロポエチンタンパク質中の、リシンアミノ酸のε−アミノ基の数である。本発明の結合体は、EPO1分子あたり1、2または3個のPEG単位を有してもよい。nは、1〜3にわたる整数であり、好ましくは、nは1または2であり、より好ましくは、nは1である。
【0044】
式(III)の好適なエリスロポエチンタンパク質は、下式で表される:
【0045】
【化8】

【0046】
本発明の最も好適な実施態様では、エリスロポエチン結合体は、下式:
【0047】
【化9】

【0048】
[上式中、nは1〜3の整数であり;mは450〜900の整数であり;Rは低級アルキルであり;Xは−(CH2k−または−CH2(O−CH2−CH2k−であり、Pは、エリスロポエチンタンパク質の、Xとアミド結合を形成する一つまたは複数のアミノ基を含まない残基である]
で表される。
【0049】
その他の好適なエリスロポエチン糖タンパク質生成物は、下式で表される:
【0050】
【化10】

【0051】
より好適なエリスロポエチン糖タンパク質生成物は、下式で表される:
【0052】
【化11】

【0053】
これらのエリスロポエチンタンパク質は、
(a)式P−[NH2nで示されるエリスロポエチンタンパク質のリシンアミノ酸のε−アミノ基を、式Z−CO−X−S−Qで示される二官能性試薬と共有結合反応させて、式:
【0054】
【化12】

【0055】
[式中、Pは、アミド結合を形成するアミノ基を含まないエリスロポエチンタンパク質であり;nは、1〜3にわたる整数であり;Zは、反応性に富む基、たとえばカルボン酸NHSエステルであり;Xは、−(CH2k−または−CH2(O−CH2−CH2k−であって、kは1〜約10であり;Qは、アルカノイル、たとえばアセチルのような保護基である]
で示される、アミド結合を有する中間体を形成し:
(b)工程(a)からのアミド結合を有する中間体を、式W−[OCH2CH2m−ORで示される、活性化されたポリ(エチレングリコール)誘導体と共有結合反応させて、式:
【0056】
【化13】

【0057】
[式中、Wは、Yのスルフヒドリル反応性形態であり;mは、約450〜約900にわたる整数であり;Rは、低級アルキルであり;Yは、上記に定義されたとおりである]
で示されるエリスロポエチン糖タンパク質生成物を形成する
ことによって製造してもよい。
【0058】
この実施態様では、二官能性試薬は、好ましくは、N−スクシンイミジル−S−アセチルチオプロピオナートまたはN−スクシンイミジル−S−アセチルチオアセタートであり、Zは、好ましくは、N−ヒドロキシスクシンイミドであり、活性化されたポリ(エチレングリコール)誘導体であるW−[OCH2CH2m−ORは、好ましくは、ヨードアセチルメトキシPEG、メトキシPEGビニルスルホンおよびメトキシPEGマレイミドからなる群から選ばれる。
【0059】
より詳しくは、式(III)のエリスロポエチンタンパク質は、チオール基をEPOに共有結合させ(「活性化」)、得られた活性化EPOを、ポリ(エチレングリコール)(PEG)誘導体とカップリングさせることによって製造してもよい。本発明によるPEG付加EPOを製造するための第一段階は、EPOのNH2基を介してチオール基を共有結合させることを含む。EPOのこの活性化は、保護されたチオール基と反応性に富む追加の基、たとえば活性エステル(たとえばスクシンイミジルエステル)、無水物、スルホン酸のエステル、カルボン酸およびスルホン酸のハロゲン化物をそれぞれ有する二官能性試薬を用いて実施する。チオール基は、当技術に公知の基、たとえばアセチル基によって保護する。これらの二官能性試薬は、アミド結合を形成することによって、リシンアミノ酸のξ−アミノ基と反応することができる。反応の第一段階を下記に述べる:
【0060】
【化14】

【0061】
EPO、nおよびXは、上記に定義されたとおりであり、Zは、当技術に公知の反応性に富む基、たとえば下式のN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)置換基である:
【0062】
【化15】

【0063】
好適実施態様では、ε−アミノリシン基の活性化を、スクシンイミジル部分を有する二官能性試薬との反応によって実施する。この二官能性試薬は、異なるスペーサー種、たとえば−(CH2k−または−CH2−(O−CH2−CH2−)k−部分(ここで、kは、1〜約10、好ましくは1〜約4、より好ましくは1または2、最も好ましくは1である)を有してもよい。これらの試薬の例は、N−スクシンイミジル−S−アセチルチオプロピオナート(SATP)およびN−スクシンイミジル−S−アセチルチオアセタート(SATA)であって:
【0064】
【化16】

【0065】
ここで、kは上記に定義されたとおりである。
【0066】
二官能性試薬の製造は、当技術に公知である。2−(アセチルチオ)−(エトキシ)k−酢酸−NHS−エステルの前駆体は、ドイツ国特許公開第3924705号公報(DE-3924705)に記載されており、一方、アセチルチオ化合物の誘導体化は、J. March[Advanced Organic Chemistry, McGraw-Hill, 1977, 375-376]が記載している。SATAは、商業的に入手可能である(Molecular Probes, Eugene, OR、米国、およびPierce, Rockford, IL)。
【0067】
EPO分子に付加すべきチオール基の数は、反応パラメーター、すなわち、タンパク質(EPO)の濃度、およびタンパク質/二官能性試薬の比率を調整することによって選ぶことができる。好ましくは、EPOは、EPO1分子あたり1〜5個のチオール基、より好ましくはEPO1分子あたり1.5〜3個のチオール基を共有結合させることによって活性化する。これらの範囲は、EPO分子の集団全体でのチオール基の統計的分布を意味する。
【0068】
反応は、たとえば、緩衝水溶液(pH6.5〜8.0)中で、たとえば10mMリン酸カリウム、50mMNaCl(pH7.3)中で実施する。二官能性試薬をDMSO中に加えてもよい。反応の完了後、好ましくは30分後に、リシンの添加によって、反応を停止する。過剰な二官能性試薬は、当技術に公知の方法、たとえば透析またはカラム濾過によって分離してもよい。EPOに添加されるチオール基の平均数は、たとえば、Grasetti, D.R. & Murray, J.F.のJ. Appl. Biochem. Biotechnol. 119, 41-49 (1967)に記載された比色分析の方法によって決定することができる。
【0069】
上記の反応の後、活性化されたポリ(エチレングリコール)(PEG)誘導体の共有結合によるカップリングを実施する。適切なPEG誘導体は、平均分子量が約20〜約40kDa、より好ましくは約24〜約35kDa、最も好ましくは約30kDaの活性化されたPEG分子である。
【0070】
活性化されたPEG誘導体は、当技術に公知であり、たとえば、Morpurgo, M. et al., J. Bioconj. Chem. (1996) 7, 363ffにPEG−ビニルスルホンについて記載されている。式Iの化合物の製造には、直鎖および分枝鎖鎖PEG種が適切である。反応性PEG試薬の例は、ヨード−アセチル−メトキシPEGおよびメトキシ−PEG−ビニルスルホンである:
【0071】
【化17】

【0072】
これらのヨード活性化物質の使用は、当技術に公知であり、たとえば、G.T. HermansonがBioconjugate Techniques, Academic Press, San Diego (1996) p.147-148に記載している。
【0073】
最も好ましくは、(低級アルコキシ−PEG−マレイミド)、たとえばメトキシ−PEG−マレイミド(MW:30,000;Shearwater Polymers, Inc.)を用いる、マレイミドによってPEG種を活性化する。低級アルコキシ−PEG−マレイミドの構造は、下記:
【0074】
【化18】

【0075】
[Rおよびmは、上記に定義されたとおりである]のとおり、好ましくは下記のとおりである:
【0076】
【化19】

【0077】
低級アルコキシ−PEG−マレイミドとのカップリング反応は、緩衝水溶液、たとえば10mMのリン酸カリウム、50mMのNaCl、2mMのEDTA(pH6.2)中で、チオール保護基をin situで切断した後に実施する。保護基の切断は、たとえば、25℃のDMSO(pH6.2)中のヒドロキシアミンにより約90分間実施してもよい。PEG修飾のためには、活性化EPO/低級アルコキシ−PEG−マレイミドのモル比は、約1:3〜約1:6、好ましくは1:4であった方がよい。この反応は、システインを添加して、残存するチオール(−SH)基をN−メチルマレイミド、またはジスルフィド結合を形成できるその他の適切な化合物と反応させることによって停止し得る。残存するいかなる活性チオール基もN−メチルマレイミドのような保護基、または他の適切な保護基と反応するため、本発明の結合体中のEPO糖タンパク質は、そのような保護基を有していてよい。一般に、本明細書に記載された手順は、PEG−マレイミドに結合されなかった糖タンパク質上の活性化されたチオール基の数に応じて、異なる数の保護基によって保護された、種々の数のチオールを有する分子の混合物を生成することになる。
【0078】
N−メチルマレイミドは、PEG付加されたタンパク質に残存するチオール基を遮断するのに用いたとき、同じ種類の共有結合を形成するのに対し、ジスルフィド化合物は、分子内スルフィド/ジスルフィド交換反応で、遮断試薬のジスルフィド架橋を有するカップリングをもたらすことになる。この種の遮断反応に好適な遮断試薬は、酸化されたグルタチオン(GSSG)、システインおよびシスタミンである。システインでは、PEG付加タンパク質に導入される追加の正味電荷は皆無であるのに対し、遮断試薬のGSSGまたはシスタミンの使用は、追加の負または正の電荷を招く。
【0079】
モノ−、ジ−およびトリ−PEG付加種の分離を包含する、式(III)の化合物の更なる精製は、当技術に公知の方法、たとえばカラムクロマトグラフィーによって実施し得る。
【0080】
PEG付加されたエリスロポエチン誘導体は、好ましくは、少なくとも90%のモノ−PEG結合体を含む。通常、ジ−PEG結合体より高い活性を有する傾向にあることから、エリスロポエチン糖タンパク質のモノ−PEG結合体が望ましい。モノ−PEG結合体の百分率はもとより、モノ−およびジ−PEG種の比率も、組成物中のモノ−PEGの百分率を下げるためには、溶出ピークの周囲の比較的幅広い画分を、またモノ−PEGの百分率を上げるためには、より狭い画分をプールすることによって制御することができる。約90%のモノPEG結合体は、収率と活性との充分に均衡である。たとえば少なくとも92%、または少なくとも96%の結合体がモノ−PEG種である(nが1に等しい)組成物が、望ましいことがある。本発明の一実施態様では、nが1である結合体の百分率は、90%〜96%である。
【0081】
PEG付加エリスロポエチンを含む医薬組成物は、当技術に公知であり、たとえば、国際公開出願第01/87329号公報(WO 01/87329)に記載されている。組成物は、1mlあたり10〜10,000μgの上記に定義されたとおりのエリスロポエチンタンパク質を含んでいてよい。好ましくは、この組成物は、1mlあたり10〜1,000μg、たとえば10、50、100、400、800または2,500μgを含む。更に、該組成物は、1mlあたり10〜10,000μgのエリスロポエチンタンパク質、10〜200mmol/Lの硫酸塩、10〜50mmol/Lのリン酸塩(pH6.0〜6.5)を含んでよい。この組成物は、20mM以下のメチオニン、1〜5%(w/v)のポリオール、0.1%(w/v)以下のPluronic F68、および場合により1mM以下のCaCl2も含んでよい。この組成物の一例は、1mlあたり10〜10,000μgのエリスロポエチンタンパク質、40mmol/Lの硫酸塩、10mmol/Lのリン酸塩、3%(w/v)のマンニトール、10mMのメチオニン、0.01%(w/v)のPluronic F68(pH6.2)を含む。あるいは、該組成物は、1mlあたり10〜10,000μgのエリスロポエチンタンパク質、10〜100mmol/LのNaCl、10〜50mmol/Lのリン酸塩(pH6.0〜7.0)、場合により1〜5%(w/v)のポリオールを含んでもよい。更に、この組成物は、20mM以下のメチオニン、0.1%(w/v)以下のPluronic F68、および場合により7.5μmol/LのCaCl2を含んでもよい。具体的には、この組成物は、1mlあたり10〜10,000μgのエリスロポエチンタンパク質、100mmol/LのNaCl、10mMのメチオニン、0.01%(w/v)のPluronic F68、および10mmol/Lのリン酸塩(pH7.0)を含んでもよい。
【0082】
本発明は、1mlあたり10〜10,000μgのエリスロポエチンタンパク質、10〜50mmol/Lのアルギニン(pH6〜6.5)、10〜100mmol/Lの硫酸ナトリウムを含む、上記組成物も意味する。加えて、この組成物は、20mM以下のメチオニン、0.1%(w/v)以下のPluronic F68、場合により1mmol/L以下のCaCl2、および場合により1〜5%(w/v)のポリオールを含んでもよい。具体的には、この組成物は、1mlあたり10〜10,000μgのエリスロポエチンタンパク質、40mmol/Lのアルギニン(pH6.2)、30mmol/Lの硫酸ナトリウム、3%(w/v)のマンニトール、10mMのメチオニン、0.01%(w/v)のPluronic F68、および場合により1mmol/LのCaCl2を含んでもよい。
【0083】
本発明の好適実施態様は、10〜10,000μg/mlのエリスロポエチン、好ましくは25〜2,500μg/mlのエリスロポエチン、および
(a)10mMのリン酸ナトリウム/カリウム、100mMのNaCl(pH7.0)、または
(b)10mMのリン酸ナトリウム、120mMの硫酸ナトリウム(pH6.2)、または
(c)10mMのリン酸ナトリウム、40mMの硫酸ナトリウム、3%(w/v)のマンニトール(pH6.2)、または
(d)10mMのリン酸ナトリウム、40mMの硫酸ナトリウム、3%(w/v)のマンニトール、10mMのメチオニン、0.01%(w/v)のPluronic F68(pH6.2)、または
(e)40mMのアルギニン、30mMの硫酸ナトリウム、3%(w/v)のマンニトール(pH6.2)、または
(f)40mMのアルギニン、30mMの硫酸ナトリウム、3%(w/v)のマンニトール、10mMのメチオニン、0.01%(w/v)のPluronic F68(pH6.2)
を含む組成物を意味する。
【0084】
最も好適な実施態様では、該組成物は、50、100、400、800または2,500μg/mlの量のエリスロポエチンタンパク質を含む。最も好適な組成物は、10mMのリン酸ナトリウム、40mMの硫酸ナトリウム、3%(w/v)のマンニトール、10mMのメチオニン、0.01%(w/v)のPluronic F68(pH6.2)、または40mMのアルギニン、30mMの硫酸ナトリウム、3%(w/v)のマンニトール、10mMのメチオニン、0.01%(w/v)のPluronic F68(pH6.2)のいずれかを含む。そのような組成物の更なる詳細は、国際公開第01/87329号公報(WO 01/87329)から公知である。
【0085】
本発明は、慢性炎症性腸疾患の際の鉄分布障害を処置する方法であって、上記に定義されたとおりの有効量のエリスロポエチンタンパク質を投与することを含む方法にも関する。更に、本発明は、慢性炎症性腸疾患の際の鉄分布障害を処置するための医薬であって、有効量のエリスロポエチンタンパク質を含有することを特徴とする医薬にも関する。慢性炎症性腸疾患の例は、たとえば、クローン病とも呼ばれるモルブス・クローン、および潰瘍性大腸炎である。上に列挙された方法および医薬との関係では、クローン病は、慢性炎症性腸疾患の好適な形態である。潰瘍性大腸炎は、慢性炎症性腸疾患のもう一つの好適な形態である。上記のような好適な方法および医薬は、エリスロポエチンタンパク質が上記に定義されたとおりのものである。
【0086】
本発明によるEPOまたはEPO結合体の特有の活性は、当技術に公知の様々なアッセイによって決定することができる。本発明の精製されたEPOタンパク質の生物学的活性は、ヒト患者への注射によるEPOタンパク質の投与が、骨髄細胞における網状赤血球および赤血球の産生の、被験者の非注射または対照群に比しての増加を招くことなどである。本発明に従って得られかつ精製されたEPOタンパク質またはそのフラグメントの生物学的活性は、Annableら[Bull. W.H.O. (1972) 47:99-112]およびPharm. Europa Spec. Issue Erythropoietin BRP Bio 1997 (2)による方法によって試験することができる。EPOタンパク質の活性を決定するためのもう一つの生物学的アッセイ、すなわち正赤血球血症マウスアッセイが、当技術に記載されている(たとえば、Pharm. Europa Spec. Issue Erythropoietin BRP Bio 1997 (2)およびPh. Eur. BRPのエリスロポエチンのモノグラフ)。
【0087】
本発明は、本明細書に記載された発明を例示するが限定はしない、下記の実施例に対する参照によって、より充分に理解されると思われる。
【0088】
実施例
実施例1
潰瘍性大腸炎の中年女性を、鉄分布障害について、P. Lehmann、M. Volkmann、J. Lotz、A. Baldauf、R. Roeddiger, poster presented at the AACC/CSCC, Annual Meeting(July 29-August 2, 2001, Chicago, IL)に記載したように、次のパラメーター:CRP(C反応性タンパク質)、フェリチンおよび可溶性トランスフェリンレセプターを測定することによって検査した。結果は鉄分布障害を示した。その患者に、150U/kgのRecormon(商標:商業的に入手できるエリスロポエチンタンパク質)を週2回、最長12週間皮下投与した。その後、上記のようなパラメーターの測定は、鉄欠乏症という障害の改善を示した。
【0089】
実施例2
クローン病の中年女性を、鉄分布障害について、P. Lehmann、M. Volkmann、J. Lotz、A. Baldauf、R. Roeddiger, poster presented at the AACC/CSCC, Annual Meeting(July 29-August 2, 2001, Chicago, IL)に記載したように、次のパラメーター:CRP(C反応性タンパク質)、フェリチンおよび可溶性トランスフェリンレセプターを測定することによって検査した。結果は鉄分布障害を示した。患者に、150U/kgのRecormon(商標:商業的に入手できるエリスロポエチンタンパク質)を週2回、最長12週間皮下投与した。その後、上記のようなパラメーターの測定は、鉄欠乏症という障害の改善を示した。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】ヒトEPO(165個のアミノ酸)の一次構造を示す図である(配列番号:1)。
【図2】ヒトEPO(166個のアミノ酸)の一次構造を示す図である(配列番号:2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性炎症性腸疾患の際の鉄分布障害を処置するための医薬の製造におけるエリスロポエチンタンパク質の使用。
【請求項2】
慢性炎症性腸疾患がクローン病である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
慢性炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎である、請求項1記載の使用。
【請求項4】
エリスロポエチンタンパク質がヒトエリスロポエチンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
エリスロポエチンタンパク質がエポエチンαまたはエポエチンβである、請求項4記載の使用。
【請求項6】
エリスロポエチンタンパク質を内在性遺伝子の活性化によって発現させる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
エリスロポエチンタンパク質が配列番号:1または配列番号:2のアミノ酸配列を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
エリスロポエチンタンパク質が、1〜6個の糖鎖付加部位の付加によって修飾されたヒトエリスロポエチンの配列を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
エリスロポエチンタンパク質がダーベポエチンαである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
請求項4〜8のいずれか一項に定義されたとおりのエリスロポエチンタンパク質をPEG付加される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
エリスロポエチンタンパク質が結合体であって、該結合体は、少なくとも一つの遊離アミノ基を有し、骨髄細胞に網状赤血球および赤血球の産生を増大させるin vivoでの生物学的活性を有し、かつヒトエリスロポエチン、および1〜6個の糖鎖付加部位の付加、または少なくとも一つの糖鎖付加部位の転位によって修飾されたヒトエリスロポエチンの配列を有するその類似体からなる群から選ばれる、エリスロポエチンタンパク質を含み;該エリスロポエチンタンパク質は、式−CO−(CH2x−(OCH2CH2m−ORで示されるn個のポリ(エチレングリコール)基(ここで、Rは低級アルキルであり;xは2または3であり;mは約450〜約900であり;nは1〜3であり;nおよびmは、エリスロポエチンタンパク質を除いた該結合体の分子量が20〜100キロダルトンになるよう選ばれる)に共有結合で結合されていて、各ポリ(エチレングリコール)基の−COは、該アミノ基の一つとアミド結合を形成している、請求項10記載の使用。
【請求項12】
xが2であり、mが650〜750であり、nが1であり、そしてRがメチルである、請求項11記載の使用。
【請求項13】
エリスロポエチンタンパク質が結合体であって、該結合体は、少なくとも一つの遊離アミノ基を有し、骨髄細胞に網状赤血球および赤血球の産生を増大させるin vivoでの生物学的活性を有し、かつヒトエリスロポエチンタンパク質、および1〜6個の糖鎖付加部位の付加によって修飾されたヒトエリスロポエチンタンパク質の一次構造を有するその類似体からなる群から選ばれる、エリスロポエチンタンパク質を含み;該エリスロポエチンタンパク質は、1〜3個の低級アルコキシ−ポリ(エチレングリコール)基に共有結合で結合されていて、各ポリ(エチレングリコール)基は、エリスロポエチンタンパク質に、式−C(O)−X−S−Y−で示されるリンカーを介して共有結合で結合されていて、該リンカーのC(O)は、該アミノ基の一つとアミド結合を形成して、Xは−(CH2k−または−CH2(O−CH2−CH2k−であり、kは1〜10であり、Yは:
【化1】


であり、各ポリ(エチレングリコール)部分の平均分子量は、約20〜約40キロダルトンであり、該結合体の分子量は、約51〜約175キロダルトンである、請求項10記載の使用。
【請求項14】
式:
【化2】


[式中、nは1〜3の整数であり;mは450〜900の整数であり;Rは低級アルキルであり;Xは−(CH2k−または−CH2(O−CH2−CH2k−であり、kは1〜10であり、Pは、エリスロポエチンタンパク質の、Xとアミド結合を形成するn個のアミノ基を含まない残基である]
で示されるエリスロポエチン結合体を用いる、請求項13記載の使用。
【請求項15】
慢性炎症性腸疾患の際の鉄分布障害を処置する方法であって、有効量のエリスロポエチンタンパク質の投与を含む方法。
【請求項16】
慢性炎症性腸疾患の際の鉄分布障害を処置するための医薬であって、有効量のエリスロポエチンタンパク質を含有することを特徴とする医薬。
【請求項17】
上記に定義された限りでの発明。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−514673(P2007−514673A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544291(P2006−544291)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【国際出願番号】PCT/EP2004/014105
【国際公開番号】WO2005/058347
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】